(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極活物質、負極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20231020BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231020BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231020BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231020BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20231020BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231020BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2020553274
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040800
(87)【国際公開番号】W WO2020080452
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2018196954
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 敬太
(72)【発明者】
【氏名】山本 格久
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107581(WO,A1)
【文献】特開2015-149221(JP,A)
【文献】特開2015-111547(JP,A)
【文献】特開2015-156328(JP,A)
【文献】特開2017-97952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリケートと、シリコンと、を含む複合粒子と、
前記複合粒子を覆う表面層と、を備え、
前記表面層はフッ素樹脂を含
み、
前記フッ素樹脂は、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)のうちの少なくともいずれか1種を含む、非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項2】
前記シリケートは、Li
xSiO
y(0<x≦4、0<y≦4)で表されるリチウムシリケートを含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記シリコンは、1nm~1000nmの範囲の平均粒子径を有する、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項4】
前記表面層は、1~3000nmの範囲の厚みを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項5】
前記表面層の量は、前記複合粒子に対して0.01質量%~10質量%の範囲である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質を含む、負極。
【請求項7】
結着材を含み、
前記結着材は、フッ素を含まない結着材である、請求項
6に記載の負極。
【請求項8】
請求項
6又は
7に記載の負極と、正極と、非水電解質と、を備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用負極活物質、負極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)、SiOxで表されるシリコン酸化物などのシリコン材料は、黒鉛などの炭素材料と比べて単位体積当りに多くのリチウムイオンを吸蔵できることが知られており、リチウムイオン電池等の負極への適用が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、シリコンと、リチウムシリケートとを含む複合粒子を負極活物質として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/051500号
【文献】国際公開第2016/121320号
【文献】国際公開第2016/136180号
【発明の概要】
【0005】
ところで、シリケートとシリコン粒子とを含む複合粒子を非水電解質二次電池用負極活物質として用いた場合、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性の低下が問題となる。
【0006】
そこで、本開示は、シリコン及びシリケートを含む複合粒子を有する非水電解質二次電池用負極活物質において、充放電サイクル特性の低下を抑えることができる非水電解質二次電池用負極活物質を提供することを目的とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極活物質は、シリケートと、シリコンと、を含む複合粒子と、前記複合粒子を覆う表面層と、を備え、前記表面層はフッ素樹脂を含む。
【0008】
本開示の一態様である負極は、上記非水電解質二次電池用負極活物質を含む。
【0009】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記負極と、正極と、非水電解質と、を備える。
【0010】
本開示の一態様によれば、充放電サイクル特性の低下を抑えることができる非水電解質二次電池用負極活物質を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の一例である負極活物質粒子を示す模式断面図である。
【
図2】実施形態の他の一例である負極活物質粒子を示す模式断面図である。
【
図3】(A)は、実施例1の負極活物質表面のSEM像を示す図であり、(B)は、実施例1の負極活物質表面に存在するフッ素成分を表示したSEM像を示す図である。
【
図4】(A)は、比較例1の負極活物質表面のSEM像を示す図であり、(B)は、比較例1の負極活物質表面に存在するフッ素成分を表示したSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極活物質は、シリケートと、シリコンと、を含む複合粒子と、前記複合粒子を覆う表面層と、を備え、前記表面層はフッ素樹脂を含む。そして、本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極活物質を用いることにより、充放電サイクル特性の低下が抑えられる。充放電サイクル特性が低下するメカニズムは十分に明らかでないが、以下のことが推察される。
【0013】
通常、非水電解質二次電池に用いられる負極を作製する際には、シリケートとシリコンとを含む複合粒子と、水等の水系溶媒とを混合して、負極スラリーを調製するが、この場合、複合粒子中のシリケートが水と反応し、水酸化物イオンが溶出して、アルカリ性を示す。シリケートがリチウムシリケートの場合には、例えば、以下の式(1)で示される反応が生じる。
【0014】
Li2SiO3+H2O→SiO2+2Li++OH- (1)
上記の式(1)の反応が生じると、アルカリ性下で、複合粒子中のシリコンが酸化される。具体的には、上記の式(1)で生じた水酸化物イオンを含む水(OH-+H2O)と、複合粒子中のシリコン(Si)とが反応し、シリコンが酸化されてしまう。水酸化物イオンを含む水とシリコンとの反応は、例えば、以下の式(2)で示される。
【0015】
Si+2OH-+2H2O→SiO2(OH)2-+2H2 (2)
上記の式(2)のように、シリコンが酸化されることにより、シリコンの表面形態が変質して、非水電解質との反応性が高いシリコンになると考えられる。したがって、酸化されたシリコンを含む複合粒子を負極活物質として用いた非水電解質二次電池では、充放電過程における非水電解質の分解反応が促進されるため、充放電サイクル特性の低下が引き起されると考えられる。また、上記の式(1)及び(2)の反応は、電池内に混入した水分によっても生じるため、負極作製の際に、水系媒体を用いなくても、電池内で上記の式(1)及び(2)の反応が起こり、充放電サイクル特性の低下が引き起こされる。
【0016】
これに対し、本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極活物質は、シリケートと、シリコンとを含む複合粒子が、フッ素樹脂を含む表面層により覆われているため、複合粒子と水との接触が抑制される。これにより、上記の式(1)のように、シリケートと水との反応が抑えられ、ひいては上記の式(1)で生じた水酸化物イオンを含む水(OH-+H2O)とシリコンとの反応が抑えられるため、シリコンの酸化が抑制される。したがって、本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極活物質を用いた非水電解質二次電池では、充放電過程における非水電解質の分解が抑えられるため、充放電サイクル特性の低下が抑制されると考えられる。
【0017】
また、通常、負極は、複合粒子同士の結着性を高めるため、カルボキシメチルセルロース等の増粘材を含むが、上記の式(1)で生じた水酸化物イオンを含む水によって、増粘材が分解される場合がある。増粘材の分解による複合粒子同士の結着性の低下は、充放電サイクル特性の低下に繋がる虞がある。しかし、本開示の一態様である非水電解質二次電池用負極活物質を含む負極によれば、前述したように、上記の式(1)の反応が抑制されるため、増粘剤の分解も抑制される。したがって、複合粒子同士の結着性の低下が抑えられる。
【0018】
以下に、本開示の一態様である負極活物質を用いた非水電解質二次電池について説明する。
【0019】
実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率などは、現物と異なる場合がある。具体的な寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0020】
実施形態の一例である非水電解質二次電池は、負極と、正極と、非水電解質とを備える。正極と負極との間には、セパレータを設けることが好適である。非水電解質二次電池の構造の一例としては、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる電極体と、非水電解質とが外装体に収容された構造が挙げられる。或いは、巻回型の電極体の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。非水電解質二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型など、いずれの形態であってもよい。
【0021】
[正極]
正極は、例えば金属箔等からなる正極集電体と、当該集電体上に形成された正極合材層とで構成されることが好適である。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質の他に、導電材及び結着材等を含むことが好適である。また、正極活物質の粒子表面は、酸化アルミニウム(Al2O3)等の酸化物、リン酸化合物、ホウ酸化合物等の無機化合物の微粒子で覆われていてもよい。
【0022】
正極は、例えば、正極活物質、導電材、結着材及び適当な溶媒等を含む正極スラリーを正極集電体に塗布、乾燥、圧延することにより得られる。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機系溶媒が好ましい。
【0023】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が例示できる。リチウム遷移金属酸化物は、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)である。これらは、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0024】
導電材は、例えば正極合材層の電気伝導性を高めるために用いられる。導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
結着材は、例えば正極活物質及び導電材間の良好な接触状態を維持し、且つ正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高めるために用いられる。結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等が例示できる。また、結着材は、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩(CMC-Na、CMC-K、CMC-NH4等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘材と併用されてもよい。
【0026】
[負極]
負極は、例えば金属箔等からなる負極集電体と、当該集電体上に形成された負極合材層とで構成されることが好適である。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質の他に、結着材等を含むことが好適である。
【0027】
負極は、例えば、負極活物質、結着材及び適当な溶媒等を含む負極スラリーを負極集電体に塗布した後、乾燥、圧延することにより得られる。溶媒としては、例えば、水等の水系溶媒が好ましい。
【0028】
結着材としては、正極の場合と同様にフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等が例示できる。結着材は、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性の低下を効果的に抑制する点で、フッ素を含まない結着材であることが好ましく、上記例示した中では、特に、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)が好ましい。また、結着材は、CMC又はその塩(CMC-Na、CMC-K、CMC-NH4等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘材と併用されてもよい。
【0029】
負極活物質は、シリケートと、シリコンとを含む複合粒子と、複合粒子を覆う表面層と、を備え、表面層はフッ素樹脂を含む。ここで、複合粒子とは、シリケート成分と、シリコン成分とが、複合粒子表面及びバルク内に分散している状態にあるものを意味している。例えば、シリケート相と、当該シリケート相に分散したシリコン粒子と、を含む複合粒子が挙げられる。シリケート相は、シリケート粒子の集合体である。また、例えば、シリコン相と、シリコン相に分散したシリケート粒子とを含む複合粒子等でもよい。シリコン相は、シリコン粒子の集合体である。
【0030】
以下に、図面を用いて本開示の負極活物質をより具体的に説明するが、複合粒子は、シリケート相と、当該シリケート相に分散したシリコン粒子と、を含む複合粒子を例に説明する。但し、本開示における複合粒子は、シリケート相と、当該シリケート相に分散したシリコン粒子と、を含む複合粒子に限定されるものではなく、前述したように、シリコン相と、シリコン相に分散したシリケート粒子とを含む複合粒子であってもよいし、これらの複合粒子が混合されたもの等であってもよい。
【0031】
図1に実施形態の一例である負極活物質粒子の模式断面図を示す。
図1で例示する負極活物質粒子10は、シリケート相11と、当該相中に分散したシリコン粒子12とを有する複合粒子13を備える。すなわち、
図1に示す複合粒子13は、シリケート相11中に微細なシリコン粒子12が分散した海島構造を有している。シリコン粒子12は、複合粒子13の任意の断面において一部の領域に偏在することなく略均一に点在していることが好ましい。
図1に示す複合粒子13は、シリケート相11中に小粒径のシリコン粒子12が分散した粒子構造となるため、充放電に伴うシリコン粒子12の体積変化が低減され、粒子構造の崩壊が抑制される点で好ましい。
【0032】
また、
図1で例示する負極活物質粒子10は、シリケート相11及びシリコン粒子12で構成される複合粒子13を覆う表面層14を備え、当該表面層14はフッ素樹脂を含む。
図1で例示する負極活物質粒子10では、複合粒子13の表面全体に表面層14が形成されているが、複合粒子13の表面の一部に表面層14が形成されていてもよい。フッ素樹脂を含む表面層14が、複合粒子13の表面に形成されているか否かは、例えば、複合粒子13の表面をSEMで観察し、そのSEMの観察画像をEDS(エネルギー分散分光分析)により評価することにより行われる。
【0033】
表面層14を構成するフッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)等が挙げられる。これらの中では、表面層14の形成のし易さ等の点で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)が好ましい。これらは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
このような表面層14により、複合粒子13と水との接触が抑制されるため、シリケート相11と水との反応、シリケート相11と水との反応により生じた水酸化物イオンを含む水(OH-+H2O)とシリコン粒子12との反応が抑制され、シリコン粒子12の酸化が抑制される。その結果、充放電過程における非水電解質の分解が抑えられるため、充放電サイクル特性の低下が抑制される。なお、水酸化物イオンを含む水(OH-+H2O)による増粘材の分解も抑制されると考えられるため、負極活物質粒子10同士(複合粒子13同士)の結着性の低下も抑制される。この負極活物質粒子10同士(複合粒子13同士)の結着性の低下抑制も、充放電サイクル特性の低下抑制効果に寄与していると考えられる。
【0035】
表面層14の量は、複合粒子13に対して0.01質量%~10質量%の範囲が好ましく、0.5質量%~2質量%の範囲がより好ましい。表面層14の量が0.01質量%未満であると、例えば複合粒子13を表面層14で十分に覆うことができず、充放電サイクル特性の低下を効果的に抑制することができない場合がある。また、表面層14の量が10質量%を超えると、例えば表面層14が厚くなり過ぎて、負極活物質粒子10の導電性が低下し、電池の容量低下が引き起こされる場合がある。表面層14の厚みは、例えば、1nm~3000nmの範囲が好ましく、1~200nmがより好ましい。表面層14の厚みが1nm未満であると、例えば、充放電サイクル特性の低下を効果的に抑制することができない場合があり、3000nmを超えると、例えば、電池の容量低下が引き起こされる場合がある。
【0036】
シリケート相11は、例えば、水との反応性が低い点、リチウムイオン伝導性が良い点等から、LixSiOy(0<x≦4、0<y≦4)で表されるリチウムシリケートを含むことが好ましく、Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるリチウムシリケートを含むことがより好ましく、特に、Li2SiO3(Z=1)又はLi2Si2O5(Z=1/2)を主成分とすることが好ましい。Li2SiO3又はLi2Si2O5を主成分(最も質量が多い成分)とする場合、当該主成分の含有量はシリケート相11の総質量に対して50質量%超であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0037】
シリケート相11は、リチウムシリケートに限定されるものではなく、負極活物質として使用可能なあらゆるシリケートが適用可能であり、例えば、ナトリウムシリケート等が挙げられる。ナトリウムシリケートは、例えば、リチウムイオン伝導性が良い点等から、Na2O・XSiO2(1≦X≦9)で表されるナトリウムシリケートを含むことが好ましい。
【0038】
シリケート相11は、充放電に伴うシリコン粒子12の体積変化を低減する観点等から、例えばシリコン粒子12よりもさらに微細な粒子から構成されることが好ましい。負極活物質粒子10のXRDパターンでは、例えばSiの(111)面の回析ピークの強度が、シリケートの(111)面の回析ピークの強度よりも大きい。
【0039】
シリコン粒子12は、黒鉛等の炭素材料と比べてより多くのリチウムイオンを吸蔵できることから、電池の高容量化に寄与すると考えらえる。複合粒子13におけるシリコン粒子12の含有量は、高容量化及び充放電サイクル特性の向上等の観点から、複合粒子13の総質量に対して20質量%~95質量%であることが好ましく、35質量%~75質量%がより好ましい。
【0040】
シリコン粒子12の平均粒子径は、充放電時の体積変化を抑え、電極構造の崩壊を抑制する観点等から、例えば1nm~1000nmの範囲が好ましく、1nm~100nmの範囲がより好ましい。一方、複合粒子13の製造の容易性等の点を考慮すれば、200nm~500nmの範囲が好ましい。シリコン粒子12の平均粒子径は、負極活物質粒子10の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより測定され、具体的には100個のシリコン粒子12の最長径を平均することで求められる。
【0041】
複合粒子13は、XRD測定により得られるXRDパターンにおいて、シリケートの(111)面の回析ピークの半値幅が0.05°以上であることが好ましい。当該半値幅を0.05°以上に調整することで、シリケート相11の結晶性が低くなり、粒子内のリチウムイオン導電性が向上し、充放電に伴うシリコン粒子12の体積変化がより緩和されると考えられる。好適なシリケートの(111)面の回析ピークの半値幅は、シリケート相11の成分によっても多少異なるが、より好ましくは0.09°以上、例えば0.09°~0.55°である。
【0042】
上記シリケートの(111)面の回析ピークの半値幅の測定は、下記の条件で行う。複数のシリケートを含む場合は、全てのシリケートの(111)面のピークの半値幅(°(2θ))を測定する。また、シリケートの(111)面の回析ピークが、他の面指数の回析ピーク又は他の物質の回析ピークと重なる場合は、シリケートの(111)面の回析ピークを単離して半値幅を測定する。
【0043】
測定装置:株式会社リガク社製、X線回折測定装置(型式RINT-TTRII)
対陰極:Cu
管電圧:50kv
管電流:300mA
光学系:平行ビーム法
[入射側:多層膜ミラー(発散角0.05°、ビーム幅1mm)、ソーラスリット(5°)、受光側:長尺スリットPSA200(分解能:0.057°)、ソーラスリット(5°)]
走査ステップ:0.01°又は0.02°
計数時間:1~6秒
シリケート相11がLi2Si2O5を主成分とする場合、負極活物質粒子10のXRDパターンにおけるLi2Si2O5の(111)面の回析ピークの半値幅は0.09°以上であることが好ましい。例えば、Li2Si2O5がシリケート相11の総質量に対して80質量%以上である場合、好適な当該回析ピークの半値幅の一例は0.09°~0.55°である。また、シリケート相11がLi2SiO3を主成分とする場合、負極活物質粒子10のXRDパターンにおけるLi2SiO3の(111)の回析ピークの半値幅は0.10°以上であることが好ましい。例えば、Li2SiO3がシリケート相11の総質量に対して80質量%以上である場合、好適な当該回析ピークの半値幅の一例は0.10°~0.55°である。
【0044】
負極活物質粒子10の平均粒子径は、高容量化及びサイクル特性の向上等の観点から、1~15μmが好ましく、4~10μmがより好ましい。ここで、負極活物質粒子10の平均粒子径とは、一次粒子の粒径であって、レーザー回折散乱法(例えば、HORIBA製「LA-750」を用いて)で測定される粒度分布において体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。負極活物質粒子10の平均粒子径が小さくなり過ぎると、表面積が大きくなるため、電解質との反応量が増大して容量が低下する傾向にある。一方、平均粒子径が大きくなり過ぎると、充放電による体積変化量が大きくなるため、サイクル特性が低下する傾向にある。
【0045】
図2に実施形態の他の一例である負極活物質粒子の模式断面図を示す。
図2に示す負極活物質粒子10は、シリケート相11と、シリケート相11中に分散したシリコン粒子12とを含む複合粒子13と、複合粒子13の表面上に形成された導電層15と、複合粒子13及び導電層15を覆う表面層14を備える。
図2に示す負極活物質粒子10では、複合粒子13の表面の一部に導電層15が形成されているが、複合粒子13の表面全体に導電層15が形成されていてもよい。複合粒子13の表面全体に導電層15が形成されている場合には、導電層15の表面全体又は表面の一部に表面層14が形成されている。
【0046】
導電層15を構成する材料としては、電気化学的に安定なものが好ましく、炭素材料、金属、及び金属化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。当該炭素材料には、正極合材層の導電材と同様に、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、及びこれらの2種以上の混合物などを用いることができる。当該金属には、負極の電位範囲で安定な銅、ニッケル、及びこれらの合金などを用いることができる。当該金属化合物としては、銅化合物、ニッケル化合物等が例示できる。中でも、炭素材料を用いることが特に好ましい。
【0047】
導電層15の厚みは、複合粒子13へのリチウムイオンの拡散性を考慮して、1~200nmが好ましく、5~100nmがより好ましい。導電層15の厚みは、SEM又はTEM等を用いた粒子の断面観察により計測できる。
【0048】
負極活物質としては、負極活物質粒子10のみを単独で用いてもよいし、従来から知られている他の活物質を併用してもよい。他の活物質としては、シリコンより充放電に伴う体積変化が小さい点等から、黒鉛等の炭素材料が好ましい。炭素材料は、例えば鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛等が挙げられる。負極活物質粒子10と炭素材料との割合は、質量比で1:99~30:70が好ましい。負極活物質粒子10と炭素材料の質量比が当該範囲内であれば、高容量化とサイクル特性向上を両立し易くなる。
【0049】
複合粒子13は、例えば下記の工程1~3を経て作製される。以下の工程は、いずれも不活性雰囲気中で行われる。
(1)平均粒子径が数μm~数十μm程度に粉砕されたSi粉末及びシリケート粉末を、例えば20:80~95:5の質量比で混合して混合物を作製する。
(2)次に、ボールミルを用いて上記混合物を粉砕し微粒子化する。なお、それぞれの原料粉末を微粒子化してから、混合物を作製してもよい。
(3)粉砕された混合物を、例えば600~1000℃で熱処理する。当該熱処理では、ホットプレスのように圧力を印加して上記混合物の燒結体を作製してもよい。また、ボールミルを使用せず、Si粒子及びリチウムシリケート粒子を混合して熱処理を行ってもよい。
【0050】
複合粒子13の表面にフッ素樹脂を含む表面層14を形成する方法としては、例えば、フッ素樹脂を溶媒に分散させた表面層用スラリーを、複合粒子13に噴霧した後、乾燥する方法が挙げられる。フッ素樹脂を分散させる溶媒は、例えば、アルコール溶媒等が好ましい。また、乾燥温度は、例えば50℃~150℃の範囲とすることが好適である。
【0051】
複合粒子13の表面に導電層15を形成する方法としては、導電層15が炭素材料から構成される場合、例えば、アセチレン、メタン等を用いたCVD法、石炭ピッチ、石油ピッチ、フェノール樹脂等を複合粒子13と混合し、熱処理を行う方法などが例示できる。また、カーボンブラック、ケッチェンブラック等を結着材を用いて複合粒子13の表面に固着させてもよい。また、導電層15が金属又は金属化合物から構成される場合、例えば無電解めっきにより複合粒子13の表面に導電層15を形成する方法などが例示できる。
【0052】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0053】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0054】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0055】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0056】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-
x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【0057】
[セパレータ]
セパレータには、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
[負極活物質の作製]
等モル量のSiとLi2SiO3からなる複合粒子(複合粒子の平均一次粒子径:10μm、Siの平均一次粒子径:100nm)を準備した。複合粒子におけるSi量はICP(SIIナノテクノロジー社製、ICP発光分析装置SPS3100)を用いて測定した結果、42wt%であった。粒子の平均一次粒子径は粒度分布計(島津製作所社製、粒度分布測定装置SLAD2000)を用いて測定した値である。当該複合粒子の断面をSEMで観察した結果、Li2SiO3相中にSi粒子が略均一に分散していることが確認された。
【0060】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とイソプロピルアルコール溶媒とを混合した表面層用スラリー(質量比は1:20)を準備した。そして、複合粒子を覆う表面層の量が、複合粒子に対して0.1質量%となるように、上記複合粒子に、上記表面層用スラリーを噴霧した。噴霧後、100℃で3時間程度乾燥させた。これを負極活物質とした。この負極活物質表面をSEMにより観察し、SEM像における負極活物質表面のフッ素成分をEDSにより分析した。
【0061】
図3(A)は、実施例1の負極活物質表面のSEM像であり、
図3(B)は、実施例1の負極活物質表面に存在するフッ素成分を表示したSEM像を示す。
図3(B)は、前述したEDS分析により得られたSEM像であり、白色の領域がフッ素成分を示している。
図3(B)から分かるように、実施例1の負極活物質の表面全体に、白色の領域(フッ素成分)が存在していることが確認された。これにより、複合粒子の表面全体に、PTFEを含む表面層が形成されていると言える。
【0062】
[負極スラリーの作製]
上記得られた負極活物質、グラファイト、CMC、SBRを、質量比92.625:4.875:1.5:1.0となるように混合し、純水で希釈した。これを混合機(プライミクス社製、ロボミックス)で攪拌し、負極スラリーを作製した。作製した負極スラリーのpHは、9.2であった。
【0063】
<実施例2>
複合粒子を覆う表面層の量が、複合粒子に対して1質量%となるように、複合粒子に、表面層用スラリーを噴霧したこと以外は実施例1と同様に負極活物質を作製した。実施例1と同様に、負極活物質の表面をEDSにより分析した結果、複合粒子の表面全体に、PTFEを含む表面層が形成されていることを確認した。また、実施例2で得た負極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に負極スラリーを作製した。実施例2の負極スラリーのpHは8.5であった。
【0064】
<実施例3>
複合粒子を覆う表面層の量が、複合粒子に対して2質量%となるように、複合粒子に、表面層用スラリーを噴霧したこと以外は実施例1と同様に負極活物質を作製した。実施例1と同様に、負極活物質の表面をEDSにより分析した結果、複合粒子の表面全体に、PTFEを含む表面層が形成されていることを確認した。また、実施例3で得た負極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に負極スラリーを作製した。実施例3の負極スラリーのpHは8.2であった。
【0065】
<実施例4>
複合粒子を覆う表面層の量が、複合粒子に対して5質量%となるように、複合粒子に、表面層用スラリーを噴霧したこと以外は実施例1と同様に負極活物質を作製した。実施例1と同様に、負極活物質の表面をEDSにより分析した結果、複合粒子の表面全体に、PTFEを含む表面層が形成されていることを確認した。また、実施例4で得た負極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に負極スラリーを作製した。実施例4の負極スラリーのpHは8.1であった。
【0066】
<実施例5>
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とイソプロピルアルコール溶媒とを混合した表面層用スラリー(質量比は1:20)を準備したこと、複合粒子を覆う表面層の量が、複合粒子に対して1質量%となるように、複合粒子に、表面層用スラリーを噴霧したこと以外は実施例1と同様に負極活物質を作製した。実施例1と同様に、負極活物質の表面をEDSにより分析した結果、複合粒子の表面全体に、PVdFを含む表面層が形成されていることを確認した。また、実施例5で得た負極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に負極スラリーを作製した。実施例5の負極スラリーのpHは9.1であった。
【0067】
<実施例6>
パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)とイソプロピルアルコール溶媒とを混合した表面層用スラリー(質量比は1:20)を準備したこと、複合粒子を覆う表面層の量が、複合粒子に対して1質量%となるように、複合粒子に、表面層用スラリーを噴霧したこと以外は実施例1と同様に負極活物質を作製した。実施例1と同様に、負極活物質の表面をEDSにより分析した結果、複合粒子の表面全体に、PFAを含む表面層が形成されていることを確認した。また、実施例6で得た負極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に負極スラリーを作製した。実施例6の負極スラリーのpHは8.7であった。
【0068】
<実施例7>
エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)とイソプロピルアルコール溶媒とを混合した表面層用スラリー(質量比は1:20)を準備したこと、複合粒子を覆う表面層の量が、複合粒子に対して1質量%となるように、複合粒子に、表面層用スラリーを噴霧したこと以外は実施例1と同様に負極活物質を作製した。実施例1と同様に、負極活物質の表面をEDSにより分析した結果、複合粒子の表面全体に、ETFEを含む表面層が形成されていることを確認した。また、実施例7で得た負極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に負極スラリーを作製した。実施例7の負極スラリーのpHは9.3であった。
【0069】
<比較例1>
実施例1で用いた複合粒子を負極活物質とした。
図4(A)は、比較例1の負極活物質表面のSEM像であり、
図4(B)は、比較例1の負極活物質表面に存在するフッ素成分を表示したSEM像を示す。
図4(B)は、前述したEDS分析により得られたSEM像であり、白色の領域がフッ素成分を示している。
図4(B)から分かるように、実施例1の負極活物質(複合粒子)の表面には、ほとんど白色の領域(フッ素成分)が存在していないことを確認した。なお、
図4(B)に示される白色の領域は、負極活物質の不純物として存在する鉄の分布を検知していると考えられる(フッ素と鉄とは特性X線エネルギーが近い)。すなわち、複合粒子の表面には、フッ素を含む表面層が形成されていないと言える。そして、比較例1の負極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様に負極スラリーを作製した。比較例1の負極スラリーのpHは11.2であった。
【0070】
実施例1~7及び比較例1の負極スラリーを用いて、以下のように非水電解質二次電池を作製した。
【0071】
[負極の作製]
銅箔の両面上に負極合材層のlm2当りの質量が、20g/m2となるように、上記作製した負極スラリーを塗布した。次に、これを大気中105℃で乾燥し、圧延することにより負極を作製した。なお、負極合材層の充填密度は、1.60g/mlとした。
【0072】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを体積比が3:6:1の割合となるように混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を、1.0モル/リットル添加して非水電解液を調製した。
【0073】
[正極の作製]
コバルト酸リチウムと、アセチレンブラック(電気化学工業社製、HS100)と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、95:2.5:2.5の重量比で混合した。当該混合物に分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に正極スラリーを塗布し、乾燥させた後、圧延ローラにより圧延して、正極集電体の両面に密度が3.60g/cm3の正極合材層が形成された正極を作製した。
【0074】
[非水電解質二次電池の作製]
上記各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介してタブが取り付けられた正極及び負極を渦巻き状に巻回することにより巻回電極体を作製した。当該電極体を高さ62mm×幅35mmのアルミニウムラミネートシートで構成される外装体に挿入して、105℃で2時間真空乾燥した後、上記非水電解液を注入し、外装体の開口部を封止して非水電解質二次電池を作製した。この電池の設計容量は800mAhである。
【0075】
(充放電サイクル特性)
上記非水電解質二次電池において、以下の充放電条件での充放電サイクルを、温度25℃で200回繰り返した。
【0076】
[充放電条件]
1.0It(800mA)電流で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行った後、4.2Vの電圧で電流値が0.05It(40mA)となるまで定電圧充電を行った。10分間休止した後、1.0It(800mA)電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流放電を行った。
【0077】
[200サイクル後の容量維持率]
上記充放電条件における1サイクル目の放電容量と、200サイクル目の放電容量を測定し、下記式(1)により200サイクル後の容量維持率を求めた。その結果を表1に示す。
【0078】
200サイクル後の容量維持率(%)=(200サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100・・・(1)
【0079】
【0080】
複合粒子の表面にフッ素樹脂を含む表面層が形成された負極活物質を用いた実施例1~7の非水電解質二次電池は、複合粒子の表面にフッ素樹脂を含む表面層が形成されていない負極活物質を用いた比較例1の非水電解質二次電池と比較して、200サイクル後の容量維持率が高い値を示し、充放電サイクル特性の低下が抑制された。
【符号の説明】
【0081】
10 負極活物質粒子
11 シリケート相
12 シリコン粒子
13 複合粒子
14 表面層
15 導電層