(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】環境制御システム、及び、環境制御方法
(51)【国際特許分類】
A61M 21/02 20060101AFI20231020BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20231020BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20231020BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20231020BHJP
A61B 5/022 20060101ALI20231020BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20231020BHJP
F24F 11/63 20180101ALI20231020BHJP
【FI】
A61M21/02 J
A61B5/02 H
A61B5/08
A61B5/16 110
A61B5/02 310A
A61B5/022 400A
A61B5/0245 A
F24F11/63
(21)【出願番号】P 2022512559
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013593
(87)【国際公開番号】W WO2021200981
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2020066727
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】鈴鹿 裕子
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/045042(WO,A1)
【文献】特開2005-128976(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0053068(US,A1)
【文献】国際公開第2019/025763(WO,A1)
【文献】特開2007-151933(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221364(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 21/02
A61B 5/02
A61B 5/08
A61B 5/16
A61B 5/022
A61B 5/0245
F24F 11/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境制御システムであって、
対象者の自律神経の状態を示す生体情報を取得する取得部と、
前記対象者が滞在する空間における複数の環境パラメータそれぞれが当該環境パラメータに対応する目標設定となるように前記空間に設置された複数の機器を制御する環境制御を行う制御部とを備え、
前記複数の環境パラメータには、
初期の目標設定が、
前記環境制御システムの設計者によって定められて前記環境制御が行われる前から前記環境制御システムが備える記憶部にあらかじめ記憶された、前記対象者の視覚を刺激する環境パラメータが含まれる第一種別の環境パラメータと、
初期の目標設定が、前記環境制御が行われる前に前記対象者によって定められ、前記対象者の色覚を刺激する環境パラメータ、及び、前記対象者の聴覚を刺激する環境パラメータの少なくとも一つが含まれる第二種別の環境パラメータと、
初期の目標設定が、前記環境制御の結果に基づいて定められ、前記対象者の温覚を刺激する環境パラメータ、前記対象者の嗅覚を刺激する環境パラメータ、及び、前記対象者の触覚を刺激する環境パラメータの少なくとも一つが含まれる第三種別の環境パラメータとが含まれており、
各々の前記初期の目標設定は、交感神経の働きを副交感神経の働きよりも優位にするときに適した第一初期設定と、副交感神経の働きを交感神経の働きよりも優位にするときに適した第二初期設定とからなり、
前記制御部は、前記複数の環境パラメータの中から第一環境パラメータを選択し、前記環境制御中に、選択した前記第一環境パラメータに対応する第一目標設定であって前記第一初期設定及び前記第二初期設定のいずれかを初期の目標設定とする第一目標設定を前記生体情報に基づいて変更する
環境制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記生体情報の値が所定範囲外であると判定される場合に、前記第一目標設定を前記生体情報に基づいて変更し、
前記生体情報の値が前記所定範囲内であると判定される場合には、現在の前記第一目標設定を維持する
請求項1に記載の環境制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第一目標設定を、前記生体情報の値が所定範囲内になるまで複数回変更する
請求項2に記載の環境制御システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記第一目標設定を複数回変更した後も前記生体情報の値が前記所定範囲内にならないと判定した場合に、前記複数の環境パラメータの中から前記第一環境パラメータと異なる第二環境パラメータを選択し、選択した前記第二環境パラメータに対応する第二目標設定を前記生体情報に基づいて変更する
請求項3に記載の環境制御システム。
【請求項5】
前記制御部は、機械学習モデルを用いて前記複数の環境パラメータの中から前記第一環境パラメータを選択し、
前記機械学習モデルは、前記生体情報の値、及び、前記所定範囲を入力情報として、入力情報が示す状況で前記生体情報の値を最短で前記所定範囲内にすることができると推定される環境パラメータの識別情報を出力する
請求項2~4のいずれか1項に記載の環境制御システム。
【請求項6】
前記複数の環境パラメータには、優先順位が定められ、
前記制御部は、前記優先順位に基づいて、前記複数の環境パラメータの中から前記第一環境パラメータを選択する
請求項1~4のいずれか1項に記載の環境制御システム。
【請求項7】
前記制御部は、
前記複数の環境パラメータのそれぞれが、当該環境パラメータの目標設定を変更したときの前記生体情報の値の変動量と対応付けられた履歴情報を記憶部に記憶し、
前記履歴情報に基づいて前記優先順位を決定する
請求項6に記載の環境制御システム。
【請求項8】
さらに、前記対象者の前記第一目標設定の指定を受け付ける受付部を備え、
前記制御部は、指定された第一目標設定を前記初期の目標設定とすることもできる
請求項1~7のいずれか1項に記載の環境制御システム。
【請求項9】
環境制御システムによって実行される環境制御方法であって、
対象者の自律神経の状態を示す生体情報を取得し、
前記対象者が滞在する空間における複数の環境パラメータそれぞれが当該環境パラメータに対応する目標設定となるように前記空間に設置された複数の機器を制御する環境制御を行い、
前記複数の環境パラメータのうち第一環境パラメータを選択し、
前記環境制御中に、選択した前記第一環境パラメータに対応する第一目標設定を前記生体情報に基づいて変更し、
前記複数の環境パラメータには、
初期の目標設定が、
前記環境制御システムの設計者によって定められて前記環境制御が行われる前から記憶部にあらかじめ記憶された、前記対象者の視覚を刺激する環境パラメータが含まれる第一種別の環境パラメータと、
初期の目標設定が、前記環境制御が行われる前に前記対象者によって定められ、前記対象者の色覚を刺激する環境パラメータ、及び、前記対象者の聴覚を刺激する環境パラメータの少なくとも一つが含まれる第二種別の環境パラメータと、
初期の目標設定が、前記環境制御の結果に基づいて定められ、前記対象者の温覚を刺激する環境パラメータ、前記対象者の嗅覚を刺激する環境パラメータ、及び、前記対象者の触覚を刺激する環境パラメータの少なくとも一つが含まれる第三種別の環境パラメータとが含まれており、
各々の前記初期の目標設定は、交感神経の働きを副交感神経の働きよりも優位にするときに適した第一初期設定と、副交感神経の働きを交感神経の働きよりも優位にするときに適した第二初期設定とからなり、
前記第一目標設定の変更において、前記第一目標設定は、前記第一初期設定または前記第二初期設定のいずれか一方を初期の目標設定として、前記生体情報に基づいて変更される
環境制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境制御システム、及び、環境制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康への関心が高まっている。人の健康状態を把握するための技術として、特許文献1には、簡易な方式で被測定者の状態を早期に判断することが可能な生体情報測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人の自律神経には、対照的に働く交感神経及び副交感神経の2種類の神経が含まれ、人が有する器官の機能は、この2種類の神経がバランスよく働くことで維持される。現代では、不規則な生活や習慣などによって、自律神経のバランスが乱れるために起こる体の不調を訴える人が増えている。
【0005】
本発明は、対象者の自律神経の乱れを抑制することができる環境制御システム及び環境制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る環境制御システムは、対象者の自律神経の状態を示す生体情報を取得する取得部と、前記対象者が滞在する空間における複数の環境パラメータそれぞれが当該環境パラメータに対応する目標設定となるように前記空間に設置された複数の機器を制御する環境制御を行う制御部とを備え、前記制御部は、前記複数の環境パラメータの中から第一環境パラメータを選択し、前記環境制御中に、選択した前記第一環境パラメータに対応する第一目標設定を前記生体情報に基づいて変更する。
【0007】
本発明の一態様に係る環境制御方法は、対象者の自律神経の状態を示す生体情報を取得し、前記対象者が滞在する空間における複数の環境パラメータそれぞれが当該環境パラメータに対応する目標設定となるように前記空間に設置された複数の機器を制御する環境制御を行い、前記複数の環境パラメータのうち第一環境パラメータを選択し、前記環境制御中に、選択した前記第一環境パラメータに対応する第一目標設定を前記生体情報に基づいて変更する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対象者の自律神経の乱れを抑制することができる環境制御システム及び環境制御方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る環境制御システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、複数の環境パラメータの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、間接照明装置の発光色の設定画面の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る環境制御システムの動作のフローチャートである。
【
図6】
図6は、LF/HFの値の所定範囲の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る環境制御システムの動作の変形例1のフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る環境制御システムの動作の変形例2のフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る環境制御システムの動作の変形例3のフローチャートである。
【
図10】
図10は、自律神経(交感神経及び副交感神経)の働きと生体情報の変化の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略または簡略化される場合がある。
【0012】
(実施の形態)
[環境制御システムの構成]
まず、実施の形態に係る環境制御システムの構成について説明する。
図1は、実施の形態に係る環境制御システムの構成を示す図である。
【0013】
図1に示される環境制御システム10は、部屋などの閉空間である空間300内の環境に関連する複数の機器を制御することにより、対象者200の自律神経の働きを調整する制御を行う。
【0014】
自律神経には、対照的に働く交感神経及び副交感神経の2種類の神経が含まれ、人が有する器官の機能は、この2種類の神経がバランスよく働くことで維持される。環境制御システム10は、複数の機器を制御することにより空間300内の環境を対象者200に適した環境に近づけ、対象者200の自律神経の乱れを抑制することができる。
【0015】
環境制御システム10は、具体的には、送風装置20と、空調装置30と、照明装置40と、外光調整装置50と、間接照明装置60と、スピーカ80と、香り発生装置90と、環境計測装置100と、生体情報計測装置110と、制御装置120と、設定装置130とを備える。送風装置20、空調装置30、照明装置40、外光調整装置50、間接照明装置60、スピーカ80、及び、香り発生装置90は、複数の機器の一例である。
【0016】
送風装置20は、対象者200に向けて風を送出する装置である。送風装置20は、具体的には、サーキュレータなどの比較的指向性の高い送風装置であるが、扇風機などであってもよい。
【0017】
空調装置30は、対象者200が位置する空間300の温度を調整するための装置である。空調装置30は、空間300の湿度を調整することもできる。空調装置30は、空間300の温度及び湿度を、制御装置120によって指示された温度及び湿度に近づける。
【0018】
照明装置40は、対象者200が位置する空間300を照らす直接照明用の装置である。照明装置40は、例えば、LEDなどの発光素子を光源として有するシーリングライトであるが、ベースライトまたはダウンライトなどのその他の照明装置であってもよい。照明装置40は、制御装置120によって調光及び調色が可能である。
【0019】
外光調整装置50は、対象者200が位置する空間300へ取り入れられる外光の量を調整する装置である。外光調整装置50は、例えば、調光フィルムなどによって実現される電子ブラインドであるが、電動式ブラインド(電動式シャッター)などであってもよい。
【0020】
間接照明装置60は、対象者200が位置する空間300に配置された間接照明用の装置である。つまり、間接照明装置60は、空間300を規定する壁または天井などの構造物を照らす。間接照明装置60は、例えば、発光色が異なる複数の光源を有することにより発光色を変更可能である。間接照明装置60は、光源及び光学フィルタの組み合わせによって任意の発光色を実現してもよい。間接照明装置60の発光色は、例えば、赤の単色光、緑の単色光、及び、青の単色光のいずれかに変更可能である。なお、間接照明装置60が発する光の色は、特に限定されず、例えば、ユーザの好みに応じた任意の色であればよい。
【0021】
スピーカ80は、対象者200が位置する空間300に配置され、音声または音楽などを出力する装置である。
【0022】
香り発生装置90は、対象者200が位置する空間に配置された、香りを発する装置である。香り発生装置90は、例えば、アロマディフューザであるが、その他の香り発生装置であってもよい。香り発生装置90は送風装置20やスピーカ80と統合された機器であってもよい。
【0023】
環境計測装置100は、対象者200が位置する空間300における環境情報を計測する装置である。環境計測装置100は、例えば、空間300における温度を計測する温度センサ、空間300における照度を計測する照度センサなどである。
【0024】
生体情報計測装置110は、対象者200の生体情報を計測する装置である。生体情報計測装置110は、対象者200の体温、血圧、心拍数、脈波、発汗量、瞳孔径、表皮温度、または、表情などを生体情報として計測する。生体情報計測装置110は、心拍、脈波、及び、呼吸変動波形から算出されるVLF(Very Low Frequency)、HF(High Frequency)、LF(Low Frequency)、LF/HF、吸気時間、呼気時間、ポーズ時間などを計測し、これらが自律神経の状態を把握する指標として用いられてもよい。生体情報計測装置110は、例えば、対象者200の体に装着されるウェアラブル型のセンサ(言い換えれば、接触型のセンサ)であるが、非接触型のセンサであってもよい。非接触型のセンサとしては、心拍数、呼吸数、脈波などを計測できる電波センサ、瞳孔径または表情を計測できるカメラなどが例示される。
【0025】
制御装置120は、送風装置20、空調装置30、照明装置40、外光調整装置50、間接照明装置60、スピーカ80、及び、香り発生装置90などの機器を制御する装置である。
図2は、制御装置120の機能構成を示すブロック図である。
【0026】
図2に示されるように、制御装置120は、情報処理部121と、通信部122と、計時部123と、記憶部124とを備える。
【0027】
情報処理部121は、通信部122に制御信号を送信させることにより、対象装置を制御する。情報処理部121は、例えば、マイクロコンピュータによって実現されるが、プロセッサによって実現されてもよい。情報処理部121は、具体的には、取得部121a、及び、制御部121bを含む。
【0028】
通信部122は、制御装置120が、対象装置と通信するための通信回路(言い換えれば、通信モジュール)である。通信部122は、例えば、制御部121bの制御に基づいて複数の機器に制御信号を送信する。また、通信部122は、環境計測装置100から空間300の環境情報を受信し、生体情報計測装置110から対象者200の生体情報を受信し、設定装置130から設定情報を受信する。通信部122は、例えば、無線通信を行うが、有線通信を行ってもよい。通信部122によって行われる通信の通信規格は特に限定されない。
【0029】
計時部123は、現在時刻を計測する。計時部123は、例えば、リアルタイムクロックなどによって実現される。
【0030】
記憶部124は、制御部121bが機器を制御するために実行する制御プログラムなどが記憶される記憶装置である。記憶部124は、例えば、半導体メモリによって実現される。
【0031】
設定装置130は、対象者200などのユーザの操作(例えば、初期設定を行うための操作)を受け付けるユーザインターフェース装置であり、受付部の一例である。設定装置130が受け付けた設定の内容は、設定情報として制御装置120に送信される。設定装置130は、例えば、スマートフォンまたはタブレット端末などの携帯端末であるが、壁などに設置される操作パネルなどであってもよい。なお、設定装置130は、他の装置の一部として実現されてもよい。例えば、設定装置130は、制御装置120が備える受付部として実現されてもよい。受付部は、具体的には、タッチパネルまたはハードウェアボタンなどによって実現される。
【0032】
[初期設定]
環境制御システム10において、制御装置120(具体的には、制御部121b)は、空間300における複数の環境パラメータ(例えば、温度)のそれぞれを、当該環境パラメータに対応する目標設定(環境パラメータの目標。例えば、設定温度など)に調整する環境制御を行う。
図3は、複数の環境パラメータの一例を示す図であり、複数の環境パラメー
タは、例えば、空間300の温度(室温)、送風装置20の風速、空間300における照度、空間300における照度変化、照明装置40が発する白色光の色温度、間接照明装置60の発光色、香り発生装置90が発する香り(香りの種類)、及び、スピーカ80から出力される音(音量、音源の種類)などである。
【0033】
これらの複数の環境パラメータは、上述の複数の機器(送風装置20、空調装置30、照明装置40、外光調整装置50、間接照明装置60、スピーカ80、及び、香り発生装置90)を制御することで調整可能である。
図3においては、複数の環境パラメータのそれぞれについて、当該環境パラメータを調整するための対応機器が示されている。なお、環境制御においては、環境パラメータの現在の状態を把握するために環境計測装置100が適宜使用される。
【0034】
ここで、環境制御の開始当初は、目標設定として初期設定(初期の目標設定とも記載される)が用いられるが、環境制御システム10においては、環境パラメータごとに初期設定の方法が異なる。発明者らの知見によれば、複数の環境パラメータは、人の自律神経への影響度が異なることから、各環境パラメータの人の自律神経への影響度を考慮して初期設定の方法が変更されている。
【0035】
例えば、空間300における照度、空間300における照度変化、及び、照明装置40が発する白色光の色温度の3つの環境パラメータは、人への依存性(個人差)は、小さい。そこで、これらの3つの環境パラメータの初期設定は、環境制御システム10の設計者等によって経験的または実験的に定められ、環境制御システム10の出荷時点であらかじめ記憶部124に記憶されている。もしくは、これら3つの環境パラメータは、環境制御システム10の初期設定時の一番最初にクラウドから自動でダウンロードされる。言い換えれば、初期設定がデフォルトで定められている。以下では、これら3つの環境パラメータは、第一種別の環境パラメータとも記載される。つまり、第一種別のパラメータには、対象者200の視覚を刺激する環境パラメータが含まれる。なお、第一種別の環境パラメータの初期設定は、対象者200によって微調整が可能である。具体的には、設定装置130が対象者200の操作を受け付けることで(つまり、手動で)微調整される。
【0036】
また、間接照明装置60の発光色、及び、スピーカ80から出力される音の2つの環境パラメータは、人への依存性(個人差)が大きいが、人の好みによるところが大きく、対象者200に選択してもらうことで実際に環境制御を行う前にスクリーニングが可能である。そこで、これらの2つの環境パラメータの初期設定は、環境制御が行われる前に対象者200によって手動で定められる。具体的には、設定装置130が対象者200の操作を受け付けることで記憶部124に記憶される。以下では、これら2つの環境パラメータは、第二種別の環境パラメータとも記載される。つまり、第二種別のパラメータには、対象者200の色覚を刺激するパラメータ、及び、対象者200の聴覚を刺激するパラメータの少なくとも1つが含まれる。
【0037】
そして、空間300の温度、香り発生装置90が発する香り、及び、送風装置20の風速の3つの環境パラメータは、人への依存性(個人差)が大きく、かつ、実際に環境制御を行ってみなければ対象者200に適した目標設定を決定することが難しい。そこで、これら3つの環境パラメータの初期設定は、実際に環境制御(あるいは試験的な環境制御)を行い、その結果に基づいて定められる。以下では、これら3つの環境パラメータは、第三種別の環境パラメータとも記載される。つまり、第三種別の環境パラメータには、対象者200の温覚を刺激する環境パラメータ、対象者200の嗅覚を刺激するパラメータ、及び、対象者200の触覚を刺激する環境パラメータの少なくとも1つが含まれる。なお、環境制御(あるいは試験的な環境制御)を行う前の、第三種別の環境パラメータの仮の初期設定は、設定装置130が対象者200の操作を受け付けることで(つまり、手動で)記憶部124に記憶される。
【0038】
このように、各環境パラメータの人の自律神経への影響度を考慮して初期設定の方法が変更されれば、環境制御システム10は、空間300を対象者200に適した環境にするためにかかる時間の短縮(後述の目標設定の変更回数の低減)を図ることができる。
【0039】
なお、初期設定は、複数の環境パラメータのそれぞれに対して少なくとも1つ定められればよい。しかしながら、実施の形態では、複数の環境パラメータのそれぞれに対して、交感神経の働きを副交感神経の働きよりも優位にするときに適した第一初期設定と、副交感神経の働きを交感神経の働きよりも優位にするときに適した第二初期設定との2つの初期設定が定められる。例えば、間接照明装置60の発光色の設定画面としては、
図4の設定画面が例示される。
図4は、間接照明装置60の発光色の設定画面の一例を示す図である。
図4において、集中したいときに設定される発光色は、第一初期設定に相当し、リラックスしたいときに設定される発光色は、第二初期設定に相当する。
【0040】
間接照明装置60の発光色の設定時には、実際に間接照明装置60が選択中の発光色で発光してもよい。これにより、対象者200は、実際の状況を考慮して発光色の設定を行うことができる。
【0041】
また、上記説明では、第一種別の環境パラメータの初期設定、及び、第三種別の環境パラメータの仮の初期設定のみが記憶部124にあらかじめ記憶されると説明したが、エラーの発生の抑制などを目的として、第二種別の環境パラメータの初期設定も記憶部124にあらかじめ記憶されてもよい。また、環境制御システム10は、対象者200などのユーザが手動で第二種別の環境パラメータの初期設定を行わない限り、対象者200が使用開始できないような構成であってもよい。
【0042】
[動作]
次に、上記のように初期設定が行われた後の、環境制御システム10の動作について説明する。
図5は、環境制御システム10の動作のフローチャートである。
【0043】
まず、取得部121aは、複数の環境パラメータそれぞれの初期設定であって記憶部124に記憶された初期設定を取得する(S11)。取得部121aは、例えば、計時部123によって計測される現在時刻に基づいて、現在時刻が日中に属すると判定される場合には、第一初期設定を取得し、現在時刻が夜間に属すると判定される場合には、第二初期設定を取得する。
【0044】
次に、制御部121bは、所定の優先順位にしたがって複数の環境パラメータのうち優先順位が最も高い環境パラメータを選択する(S12)。優先順位を示す情報は、あらかじめ記憶部124に記憶される。優先順位は、経験的または実験的に定められる。
【0045】
次に、制御部121bは、環境制御を実行する(S13)。制御部121bは、具体的には、対象者200が滞在する空間300における複数の環境パラメータそれぞれが、取得された初期設定(つまり、初期の目標設定)となるように空間300に設置された複数の機器を制御する。複数の機器の制御は、制御部121bが通信部122に複数の機器のそれぞれへ制御信号を送信させることによって行われる。なお、環境制御においては、環境パラメータの現在の状態を把握するために環境計測装置100が適宜使用される。
【0046】
次に、取得部121aは、環境制御中(例えば、複数の環境パラメータが初期設定に到達した後)に対象者200のLF/HFを生体情報計測装置110から取得する(S14)。LF/HFは、心拍変動の時系列データなどによって定まるパラメータであり、自律神経の状態を示す生体情報の一例である。LF/HFは、副交感神経の働きが交感神経の働きよりも優位になる状態(リラックス状態)において小さくなり、交感神経の働きが副交感神経の働きよりも優位になる状態(ストレス状態)において大きくなる。
【0047】
次に、制御部121bは、取得されたLF/HFの値が所定範囲内であるか否かを判定する(S15)。
図6は、LF/HFの値の所定範囲の一例を示す図である。所定範囲は、言い換えれば、適切な自律神経の状態を示す範囲である。所定範囲は、例えば、健康な人のLF/HFの範囲(LF/HFの適切な範囲)を示しており、経験的または実験的に定められる。
図6に示されるように、所定範囲は、例えば、経時的に変化する。制御部121bは、計時部123によって計測される現在時刻に基づいて、現時点における所定範囲を特定することができる。なお、所定範囲を示す情報は、記憶部124にあらかじめ記憶される。
【0048】
制御部121bは、取得されたLF/HFの値が所定範囲内であると判定した場合には(S15でYes)、初期設定を維持したまま、環境制御を継続する(S13)。一方、制御部121bは、取得されたLF/HFの値が所定範囲外であると判定した場合には(S15でNo)、目標設定の変更回数が上限回数に到達したか否かを判定する(S16)。上限回数は、例えば、4回などである。上限回数はあらかじめ定められ、上限回数を示す情報は、あらかじめ記憶部124に記憶される。
【0049】
制御部121bは、目標設定の変更回数が上限回数に到達していないと判定した場合(S16でNo)、ステップS12において選択された環境パラメータの目標設定を現在の目標設定(初回は初期設定)から他の目標設定に変更する(S17)。目標設定の変更は、LF/HFの値に基づいて、LF/HFの値が所定範囲よりも大きいか小さいかを考慮して行われる。なお、選択された環境パラメータ以外の環境パラメータの目標設定は変更されない。
【0050】
例えば、選択された環境パラメータが温度であり、初期設定が25℃であり、LF/HFの値が所定範囲よりも小さい値である場合には(
図6の(a))、温度を下げることでLF/HFの値の上昇(所定範囲に近づける)を図ることができる。そこで、制御部121bは、温度の目標設定(目標値)を初期設定(25℃)から25-α(α>0)℃に変更する。なお、制御部121bは、LF/HFの値が所定範囲よりも大きい値である場合には(
図6の(b))、温度の目標設定を初期設定(25℃)から25+α(α>0)℃に変更する。また、環境パラメータが間接照明装置60の発光色、香り発生装置90が発する香り、または、スピーカ80が出力する音楽である場合、ステップS17においては、間接照明装置60の発光色の変更、香り発生装置90が発する香りの種類の変更、または、スピーカ80が出力する音楽の種類の変更が行われる場合がある。つまり、目標設定の変更として、目標値の変更が行われることは必須ではない。
【0051】
ステップS13、ステップS14、ステップS17の処理は、LF/HFの値が所定範囲内になるか、あるいは、目標設定の変更回数が上限回数に達するまで繰り返される。つまり、LF/HFの値が所定範囲内にならない限り、複数の環境パラメータに対応する複数の目標設定のうち温度の目標設定のみが25℃(初期設定)、25-α℃(1回目の変更後)、25-2α℃(2回目の変更後)・・と徐々に変更されつつ、環境制御が継続される。
【0052】
そして、温度の目標設定が上限回数だけ変更されてもLF/HFの値が所定範囲内に到達しなかった場合には(S16でYes)、目標設定が変更される環境パラメータが温度から他の環境パラメータに変更される(S18)。言い換えれば、制御部121bは、別の環境パラメータを選択する。環境パラメータの変更(言い換えれば、選択)は、上述の優先順位にしたがって行われる。そのうえで、変更後の環境パラメータの目標設定が初期の目標設定から変更される(S17)。なお、環境パラメータが変更されると、目標設定の変更回数は0にリセットされる。
【0053】
その後、ステップS13、ステップS14、ステップS17の処理が、LF/HFの値が所定範囲内になるか、あるいは、目標設定の変更回数が上限回数に達するまで繰り返される。なお、環境パラメータが変更される直前に、変更前の環境パラメータの目標設定を初期設定に戻す処理が行われてもよい。
【0054】
以上説明したように、環境制御システム10は、複数の環境パラメータのうち第一環境パラメータを選択し、環境制御中に、選択した第一環境パラメータに対応する第一目標設定をLF/HF(生体情報)に基づいて変更する。このような環境制御システム10は、対象者200の自律神経の乱れを抑制することができる。また、環境制御システム10は、環境パラメータの目標設定を1つずつ変更することで、対象者200の自律神経の調整に効果的な環境パラメータを特定することができる。
【0055】
また、環境制御システム10は、第一目標設定を複数回変更した後もLF/HFの値が所定範囲内にならないと判定した場合に、複数の環境パラメータのうち第一環境パラメータと異なる第二環境パラメータを選択し、選択した第二環境パラメータに対応する第二目標設定をLF/HFの値に基づいて変更する。環境パラメータの選択は、所定の優先順位にしたがって行われる。このような環境制御システム10は、第一環境パラメータの目標設定の変更が対象者200の自律神経の調整に効果的でないと考えられる場合に、第二環境パラメータの目標設定の変更によって、対象者200の自律神経の調整を図ることができる。
【0056】
なお、ステップS17では、目標設定の変更回数が上限回数に達したか否かが判定されたが、目標設定が値で示される場合には、値が上限値(または下限値)に達したか否かが判定されてもよい。
【0057】
[動作の変形例1]
対象者200は、設定装置130に対して操作を行うことにより、環境パラメータの目標設定を手動で変更することもできる。以下、
図5のフローチャートの動作が行われているときに目標設定が手動で変更されたときの動作例(動作の変形例1)について説明する。
図7は、環境制御システム10の動作の変形例1のフローチャートである。
【0058】
制御部121bは、
図5のフローチャートの動作中に目標設定が手動で変更されたか否かを判定する(S21)。制御部121bは、具体的には、設定装置130によって送信される設定情報であって目標設定が手動で変更されたことを示す設定情報が通信部122によって受信されたか否かを判定する。言い換えれば、制御部121bは、設定装置130によって目標設定の指定が受け付けられたか否かを判定する。
【0059】
制御部121bは、
図5のフローチャートの動作中に目標設定が手動で変更されたと判定すると(S21でYes)、手動で変更された目標設定(言い換えれば、指定された目標設定)を初期の目標設定として、
図5のフローチャートの動作を行う(S22)。つまり、初期の目標設定が、
図5のステップS11で取得されたものから手動で設定されたものに変更された上で、
図5のフローチャートの動作が行われる。例えば、変更中の環境パラメータの目標設定が手動で変更された場合には、変更回数が0にリセットされた上でステップS13、ステップS14、ステップS17の処理が、LF/HFの値が所定範囲内になるか、あるいは、目標設定の変更回数が上限回数に達するまで繰り返される。
【0060】
一方、
図5のフローチャートの動作中に目標設定が手動で変更されたと判定されなかった場合には(S21でNo)、
図5のフローチャートの動作がそのまま継続される。
【0061】
以上のように、環境制御システム10は、設定装置130によって目標設定の指定が受け付けられた場合、指定された目標設定を初期の目標設定とする。これにより、環境制御システム10は、対象者200の意向を踏まえて環境制御を行うことができる。
【0062】
[動作の変形例2]
複数の環境パラメータの優先順位は、環境制御の結果に基づいて制御部121bによって変更されてもよい。
図8は、このような環境制御システム10の動作の変形例2のフローチャートである。
【0063】
制御部121bは、
図5のフローチャートの動作と並行して、目標設定が変更されたときに、当該目標設定が変更されたことに応じたLF/HFの値の変動量を算出し、環境パラメータと、環境パラメータの目標設定の変更量と、LF/HFの値の変動量とを対応付けた履歴情報を記憶部124に記憶する(S31)。
【0064】
次に、制御部121bは、
図5のフローチャートの動作が開始されてから所定期間が経過したか否かを判定する(S32)。制御部121bは、具体的には、計時部123によって計測される現在時刻に基づいて、
図5のフローチャートの動作が開始されてから所定期間が経過したか否かを判定することができる。所定期間が経過するまでは、履歴情報の記憶(蓄積)が継続される(S32でNo)。所定期間は、例えば、20日間であるが、履歴情報が十分に蓄積できる期間であればよく、特に限定されない。
【0065】
制御部121bは、
図5のフローチャートの動作が開始されてから所定期間が経過したと判定すると(S32でYes)、これ以降は、履歴情報に基づいて複数の環境パラメータの優先順位を決定する(S33)。上述のように、履歴情報には、目標設定が変更されたときに当該目標設定が変更されたことに応じたLF/HFの値の変動量が含まれている。変動量としては、ある一定期間中の平均値、最大値、最小値などが用いられてもよい。つまり、制御部121bは、例えば、履歴情報を統計的に分析することなどにより、環境パラメータの変更が対象者200のLF/HF
の値にどの程度影響を与えるかを算出することができる。
【0066】
例えば、
図5のフローチャートの動作中に、LF/HFの値が所定範囲よりも小さい値である場合には、制御部121bは、履歴情報を参照することで、どの環境パラメータを変更すればLF/HFの値を所定範囲内に上昇させることができるかを特定することができる。そこで、制御部121bは、履歴情報に基づいてLF/HFの値を早く所定範囲内に上昇させると推定される環境パラメータほど、高い優先順位に設定する。
【0067】
同様に、例えば、
図5のフローチャートの動作中に、LF/HFの値が所定範囲よりも大きい値である場合、制御部121bは、履歴情報を参照することで、どの環境パラメータを変更すればLF/HFの値を所定範囲内に低下させることができるかを特定することができる。そこで、この場合、制御部121bは、履歴情報に基づいてLF/HFの値を早く所定範囲内に低下させると推定される環境パラメータほど、高い優先順位に設定する。
【0068】
以上説明したように、環境制御システム10は、複数の環境パラメータのそれぞれが、当該環境パラメータの目標設定を変更したときのLF/HFの値の変動量と対応付けられた履歴情報を記憶部124に記憶し、履歴情報に基づいて優先順位を決定する。このような環境制御システム10は、対象者200に適した環境を比較的短期間で実現することができる。
【0069】
[動作の変形例3]
制御部121bは、機械学習モデルを用いて目標設定の変更の対象となる環境パラメータを決定してもよい。
図9は、このような環境制御システム10の動作の変形例3のフローチャートである。
【0070】
制御部121bは、
図5のフローチャートの動作と並行して、機械学習モデルにデータを学習させる(S41)。例えば、機械学習モデルは、目標設定の対象となる環境パラメータの識別情報、目標設定を変更する前のLF/HFの値、このときの所定範囲(つまり、所定範囲の上限値及び下限値)、LF/HFの値を所定範囲内にするまでにかかった時間(目標設定の変更回数等)などが対応付けられたデータを学習する。LF/HFの値を所定範囲内にするまでにかかった時間(目標設定の変更回数等)は、報酬(スコア)として使用される。
【0071】
このような機械学習モデルは、例えば、現在のLF/HFの値、及び、所定範囲を入力情報として、入力情報が示す状況でLF/HFの値を最短で所定範囲内にすることができると推定される環境パラメータ(スコアが最小となる環境パラメータ)の識別情報を出力する。
【0072】
次に、制御部121bは、
図5のフローチャートの動作が開始されてから所定期間が経過したか否かを判定する(S42)。所定期間が経過するまでは、機械学習モデルのデータの学習が継続される(S42でNo)。所定期間は、例えば、20日間であるが、十分な量のデータが得られる期間であればよく、特に限定されない。
【0073】
制御部121bは、
図5のフローチャートの動作が開始されてから所定期間が経過したと判定すると(S42でYes)、これ以降は、機械学習モデルを用いて複数の環境パラメータの中から目標設定を変更する環境パラメータを選択する(S43)。
【0074】
以上説明したように、環境制御システム10は、機械学習モデルを用いて複数の環境パラメータの中から環境パラメータを選択する。機械学習モデルは、LF/HFの値、及び、所定範囲を入力情報として、入力情報が示す状況でLF/HFの値を最短で所定範囲内にすることができると推定される環境パラメータの識別情報を出力する。このような環境制御システム10は、対象者200に適した環境を比較的短期間で実現することができる。
【0075】
[生体情報の変形例]
上記実施の形態では、環境制御システム10は、対象者200の自律神経の状態を示す指標としてLF/HFを使用したが、その他の生体情報が指標として使用されてもよい。
図10は、自律神経(交感神経及び副交感神経)の働きと生体情報の変化の関係を示す図である。
図10に示されるように、対象者200の体温、血圧、心拍数、脈拍数、呼吸数、発汗量、瞳孔径、表皮温度、及び、表情などの生体情報は、交感神経の働き及び副交感神経の働きと関連している。つまり、これらの生体情報は、対象者200の自律神経の状態を示す指標として利用できる。上記実施の形態において
、LF/HFは、適宜これらの生体情報のいずれかに読み替えられてよい。
【0076】
[補足]
以下、上述のように、対象者200の周囲の温度が低下すると対象者の交感神経の働きは副交感神経の働きよりも優位になり、対象者200の周囲の温度が上昇すると対象者の副交感神経の働きは交感神経の働きよりも優位になる。
【0077】
その他の環境パラメータについて補足すると、例えば、送風装置20の風速については、風速が強くなると対象者の交感神経の働きは副交感神経の働きよりも優位になり、風速が弱くなると対象者の副交感神経の働きは交感神経の働きよりも優位になる。
【0078】
また、空間300の照度については、照度が高くなると対象者の交感神経の働きは副交感神経の働きよりも優位になり、照度が低くなると対象者の副交感神経の働きは交感神経の働きよりも優位になる。
【0079】
空間300の照度変化については、照度変化が急になると対象者の交感神経の働きは副交感神経の働きよりも優位になり、照度変化が緩くなると対象者の副交感神経の働きは交感神経の働きよりも優位になる。
【0080】
照明装置40の色温度については、色温度が高いと対象者の交感神経の働きは副交感神経の働きよりも優位になり、色温度が低いと対象者の副交感神経の働きは交感神経の働きよりも優位になる。
【0081】
なお、これらの傾向は一般的なものである。対象者200には個人差があり、対象者200によってはこの通りに自律神経の働きが調整されない場合がある。
【0082】
[効果等]
以上説明したように、環境制御システム10は、対象者200の自律神経の状態を示す生体情報を取得する取得部121aと、対象者200が滞在する空間300における複数の環境パラメータそれぞれが当該環境パラメータに対応する目標設定となるように空間300に設置された複数の機器を制御する環境制御を行う制御部121bとを備える。制御部121bは、複数の環境パラメータの中から第一環境パラメータを選択し、環境制御中に、選択した第一環境パラメータに対応する第一目標設定を生体情報に基づいて変更する。
【0083】
このような環境制御システム10は、対象者200の自律神経の乱れを抑制することができる。また、環境制御システム10は、環境パラメータの目標設定を1つずつ変更することで、対象者200の自律神経の調整に効果的な環境パラメータを特定することができる。
【0084】
また、例えば、制御部121bは、生体情報の値が所定範囲外であると判定される場合に、第一目標設定を生体情報に基づいて変更し、生体情報の値が所定範囲内であると判定される場合には、現在の第一目標設定を維持する。
【0085】
このような環境制御システム10は、空間300が対象者200に適した環境でないとき(対象者200の自律神経の状態が所定の状態でないとき)にのみ、環境パラメータの目標設定を変更することができる。したがって、目標設定の変更に際しての情報処理量が削減される。
【0086】
また、例えば、制御部121bは、第一目標設定を、生体情報の値が所定範囲内になるまで複数回変更する。
【0087】
このような環境制御システム10は、環境パラメータの目標設定を複数回に分けて徐々に変更することで、空間300を対象者200に適した環境に近づけることができる。
【0088】
また、例えば、制御部121bは、第一目標設定を複数回変更した後も生体情報の値が所定範囲内にならないと判定した場合に、複数の環境パラメータの中から第一環境パラメータと異なる第二環境パラメータを選択し、選択した第二環境パラメータに対応する第二目標設定を生体情報に基づいて変更する。
【0089】
このような環境制御システム10は、第一環境パラメータの目標設定の変更が対象者200の自律神経の調整に効果的でないと考えられる場合に、第二環境パラメータの目標設定の変更によって、対象者200の自律神経の調整を図ることができる。
【0090】
また、例えば、制御部121bは、機械学習モデルを用いて複数の環境パラメータの中から第一環境パラメータを選択する。機械学習モデルは、生体情報の値、及び、所定範囲を入力情報として、入力情報が示す状況で生体情報の値を最短で所定範囲内にすることができると推定される環境パラメータの識別情報を出力する。
【0091】
このような環境制御システム10は、比較的短時間で空間300を対象者200に適した環境に近づけることができる。
【0092】
また、例えば、複数の環境パラメータには、優先順位が定められる。制御部121bは、優先順位に基づいて、複数の環境パラメータの中から第一環境パラメータを選択する。
【0093】
このような環境制御システム10は、優先順位が適切に定められることで、比較的短時間で空間300を対象者200に適した環境に近づけることができる。
【0094】
また、例えば、制御部121bは、複数の環境パラメータのそれぞれが、当該環境パラメータの目標設定を変更したときの生体情報の値の変動量と対応付けられた履歴情報を記憶部124に記憶し、履歴情報に基づいて優先順位を決定する。
【0095】
このような環境制御システム10は、履歴情報に基づいて優先順位が適切に定められることで、比較的短時間で空間300を対象者200に適した環境に近づけることができる。
【0096】
また、例えば、制御部121bは、第一目標設定を生体情報に基づいて初期の目標設定から変更する。
【0097】
このような環境制御システム10は、第一目標設定を生体情報に基づいて初期の目標設定から変更することで、空間300を対象者200に適した環境に近づけることができる。
【0098】
また、例えば、環境制御システム10は、さらに、対象者200の第一目標設定の指定を受け付ける設定装置130を備える。制御部121bは、指定された第一目標設定を初期の目標設定とする。設定装置130は、受付部の一例である。
【0099】
このような環境制御システム10は、対象者200の意向を踏まえて環境制御を行うことができる。
【0100】
また、例えば、複数の環境パラメータには、初期の目標設定が、環境制御が行われる前から環境制御システム10が備える記憶部124にあらかじめ記憶された第一種別の環境パラメータと、初期の目標設定が、環境制御が行われる前に対象者200によって定められる第二種別の環境パラメータと、初期の目標設定が、環境制御の結果に基づいて定められる第三種別の環境パラメータとが含まれる。
【0101】
このような環境制御システム10は、環境パラメータの種別ごとに初期の目標設定の方法を変更することで、空間300が対象者200に適した環境になるまでの目標設定の変更回数の減少を図ることができる。つまり、環境制御システム10は、比較的短時間で空間300を対象者200に適した環境にすることができる。
【0102】
また、例えば、第一種別の環境パラメータには、対象者200の視覚を刺激する環境パラメータが含まれる。
【0103】
このような環境制御システム10は、対象者200の視覚を刺激する環境パラメータの、初期の目標設定があらかじめ記憶部124に記憶されることで、空間300を対象者200に適した環境にするためにかかる時間の短縮(目標設定の変更回数の低減)を図ることができる。
【0104】
また、例えば、第二種別の環境パラメータには、対象者200の色覚を刺激する環境パラメータ、及び、対象者200の聴覚を刺激する環境パラメータの少なくとも一つが含まれる。
【0105】
このような環境制御システム10は、対象者200の色覚を刺激する環境パラメータの初期の目標設定、及び、対象者200の聴覚を刺激する環境パラメータの初期の目標設定の少なくとも一つが対象者によって定められることで、空間300を対象者200に適した環境にするためにかかる時間の短縮を図ることができる。
【0106】
また、例えば、第三種別の環境パラメータには、対象者200の温覚を刺激する環境パラメータ、対象者200の嗅覚を刺激する環境パラメータ、及び、対象者200の触覚を刺激する環境パラメータの少なくとも一つが含まれる。
【0107】
このような環境制御システム10は、対象者200の温覚を刺激する環境パラメータの初期の目標設定、対象者200の嗅覚を刺激する環境パラメータの初期の目標設定、及び、対象者200の触覚を刺激する環境パラメータの初期の目標設定の少なくとも一つが環境制御の結果に基づいて定められることで、空間300を対象者200に適した環境にするためにかかる時間の短縮を図ることができる。
【0108】
また、環境制御システム10などのコンピュータが実行する環境制御方法は、対象者200の自律神経の状態を示す生体情報を取得し、対象者200が滞在する空間300における複数の環境パラメータそれぞれが当該環境パラメータに対応する目標設定となるように空間300に設置された複数の機器を制御する環境制御を行い、複数の環境パラメータのうち第一環境パラメータを選択し、環境制御中に、選択した第一環境パラメータに対応する第一目標設定を生体情報に基づいて変更する。
【0109】
このような環境制御方法は、対象者200の自律神経の乱れを抑制することができる。また、環境制御方法は、環境パラメータの目標設定を1つずつ変更することで、対象者200の自律神経の調整に効果的な環境パラメータを特定することができる。
【0110】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0111】
例えば、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよいし、複数の処理が並行して実行されてもよい。
【0112】
また、上記実施の形態において、各構成要素は、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0113】
また、各構成要素は、ハードウェアによって実現されてもよい。各構成要素は、回路(または集積回路)でもよい。これらの回路は、全体として1つの回路を構成してもよいし、それぞれ別々の回路でもよい。また、これらの回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0114】
また、本発明の全般的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0115】
例えば、本発明は、環境制御方法として実現されてもよいし、環境制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現されてもよいし、このようなプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体として実現されてもよい。
【0116】
また、本発明は、上記実施の形態の制御装置として実現されてもよいし、コンピュータをこのような制御装置として動作させるための当該コンピュータによって実行されるプログラムとして実現されてもよい。また、本発明は、このようなプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体として実現されてもよい。
【0117】
また、上記実施の形態では、環境制御システムは、複数の装置によって実現されたが。単一の装置として実現されてもよい。環境制御システムが複数の装置によって実現される場合、上記実施の形態で説明された環境制御システムが備える構成要素は、複数の装置にどのように振り分けられてもよい。
【0118】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、または、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0119】
10 環境制御システム
20 送風装置(機器)
30 空調装置(機器)
40 照明装置(機器)
50 外光調整装置(機器)
60 間接照明装置(機器)
80 スピーカ(機器)
90 香り発生装置(機器)
121a 取得部
121b 制御部
124 記憶部
130 設定装置(受付部)
200 対象者
300 空間