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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】水電解装置の運転方法及び水電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20231020BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231020BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231020BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20231020BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20231020BHJP
   C25B 9/67 20210101ALI20231020BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20231020BHJP
【FI】
C25B15/00 303
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/075
C25B11/052
C25B9/67
C25B15/023
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023541296
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2022042984
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2021199459
(32)【優先日】2021-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】朝澤 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 英昭
(72)【発明者】
【氏名】澤田 光一
(72)【発明者】
【氏名】林 隆夫
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-121146(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147434(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3100571(JP,U)
【文献】国際公開第2017/069083(WO,A1)
【文献】特開2020-084259(JP,A)
【文献】国際公開第2020/208991(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/00
C25B 1/04
C25B 9/00
C25B 11/075
C25B 11/052
C25B 9/67
C25B 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標電流値の電流が水電解セルに流れるように前記水電解セルに電圧を印加し、
水電解反応を進行させているときに前記水電解セルに印加される電圧が所定の閾値以上に上昇すると、前記水電解セルに流れる電流を停止させ、
前記水電解セルに前記電流が流れていないとき、前記水電解セルを冷却する冷却器を用いて前記水電解セルの温度を低下させる、
水電解装置の運転方法。
【請求項2】
前記冷却器で冷却された電解液を前記水電解セルに供給することによって前記水電解セルの温度を低下させる、
請求項1に記載の水電解装置の運転方法。
【請求項3】
前記冷却器は、前記水電解セルに前記電解液を循環させるための循環回路上に配置された熱交換器を含み、
前記水電解セルに前記電流が流れていないときに、前記冷却器で前記電解液を冷却しながら前記循環回路に前記電解液を循環させる、
請求項2に記載の水電解装置の運転方法。
【請求項4】
前記水電解セルに流れる前記電流を停止させた後、前記水電解セルに再度電流を流させる、
請求項1に記載の水電解装置の運転方法。
【請求項5】
前記水電解セルは、アニオン交換膜型水電解セルである、
請求項1から4のいずれか1項に記載の水電解装置の運転方法。
【請求項6】
前記水電解セルは、アノード及びカソードを含み、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方に、Ni及びFeの少なくとも一方を含む、
請求項1からのいずれか1項に記載の水電解装置の運転方法。
【請求項7】
水電解セルと、
前記水電解セルに電圧を印加する電圧印加器と、
前記水電解セルに印加された前記電圧を検出する電圧センサと、
目標電流値の電流が前記水電解セルに流れるように、前記電圧印加器が前記水電解セルに印加する前記電圧を制御し、前記水電解セルにおいて水電解反応を進行させているときに、前記電圧センサにより検出された前記電圧の値が所定の閾値以上に上昇すると、前記電圧印加器を制御して、前記水電解セルに流れる電流を停止させる制御器と、
前記水電解セルを冷却する冷却器と、
を備え、
前記制御器は、前記水電解セルに前記電流が流れていないとき、前記冷却器を用いて前記水電解セルの温度を低下させる、
水電解装置。
【請求項8】
前記水電解セルに電解液を供給する供給器をさらに備え、
前記制御器は、前記供給器に、前記冷却器で冷却された前記電解液を前記水電解セルに供給させることによって前記水電解セルの温度を低下させる、
請求項7に記載の水電解装置。
【請求項9】
前記水電解セルに前記電解液を循環させるための循環回路をさらに備え、
前記冷却器は、前記循環回路上に配置された熱交換器を含み、
前記制御器は、前記水電解セルに前記電流が流れていないときに、前記冷却器に前記電解液を冷却させながら、前記循環回路に前記電解液を循環させる、
請求項8に記載の水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水電解装置の運転方法及び水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、太陽光及び風力等の再生可能エネルギーの利用が注目を浴びている。しかし、再生可能エネルギーによる発電では、出力変動が大きいという問題を有する。加えて、再生可能エネルギーによる発電では、余剰電力が無駄になるという問題が発生する。このため、再生可能エネルギーの利用効率は、必ずしも十分ではない。そこで、余剰電力から水素を製造して貯蔵することによって、余剰電力を有効活用する方法が検討されている。
【0003】
特許文献1及び2に記載されているように、余剰電力から水素を製造する方法として、水の電気分解が用いられる。水の電気分解は、水電解とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-70849号公報
【文献】国際公開第2020/208991号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水電解装置の効率を向上させるには、セルの最適な運転方法が求められる。加えて、水電解装置の効率を向上させるには、少ない電力で水素を生成できることが求められる。水電解装置を連続運転すると、水電解セルへの印加電圧が徐々に上昇する。これにより、単位体積の水素を生成するために必要な電力が増加する。その結果、水電解装置を用いた水素の製造における効率が低下する。
【0006】
本開示は、水電解の効率の低下を抑制するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
目標電流値の電流が水電解セルに流れるように前記水電解セルに電圧を印加し、
水電解反応を進行させているときに前記水電解セルに印加される電圧が所定の閾値以上に上昇すると、前記水電解セルに流れる電流を停止させる、
水電解装置の運転方法、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、水電解の効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、アニオン交換膜型水電解セルの一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、アニオン交換膜型水電解装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、アルカリ隔膜型水電解セルの一例を模式的に示す断面図である。
図4図4は、アルカリ隔膜型水電解装置の一例を模式的に示す断面図である。
図5図5は、layered double hydride(LDH)の結晶構造の一例を模式的に示す図である。
図6図6は、水電解装置の運転方法を示すフローチャートである。
図7図7は、水電解装置の別の運転方法を示すフローチャートである。
図8図8は、水電解装置のさらに別の運転方法を示すフローチャートである。
図9図9は、実施例1に係る水電解セルの運転において、電圧値及び電流値の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例2に係る水電解セルの運転において、電圧値、電流値、及び水電解セルの温度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
特許文献1には、水電解装置に印加される電圧を定期的に遮断する構成が開示されている。しかし、特許文献1に記載された水電解装置の制御方法では、不必要なタイミングで印加電圧が遮断される。
【0011】
特許文献2には、水電解装置が低温運転の状態であるときにアノード及びカソードの間に通電させることで水電解槽内の汚染物質を取り除く方法が開示されている。しかし、特許文献2に記載された水電解装置の運転方法では、多大なエネルギーを必要とする。
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、水電解装置の運転を適切に制御することにより、水素の製造において、効率を維持できることを新たに見出し、本開示を完成するに至った。
【0013】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様に係る水電解装置の運転方法は、
目標電流値の電流が水電解セルに流れるように前記水電解セルに電圧を印加し、
水電解反応を進行させているときに前記水電解セルに印加される電圧が所定の閾値以上に上昇すると、前記水電解セルに流れる電流を停止させる。
【0014】
第1態様によれば、水電解の効率の低下を抑制できる技術を提供できる。水電解装置を連続運転している場合であっても、適切なタイミングで水電解セルに流れる電流を停止させて、水電解セルに印加される電圧の上昇を抑制できる。その結果、水素の製造効率が高く維持されやすい。
【0015】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係る水電解装置の運転方法は、前記水電解セルに前記電流が流れていないとき、前記水電解セルを冷却する冷却器を用いて前記水電解セルの温度を低下させてもよい。第2態様によれば、水電解の効率の低下をより抑制できる技術を提供できる。
【0016】
本開示の第3態様において、例えば、第2態様に係る水電解装置の運転方法では、前記冷却器で冷却された電解液を前記水電解セルに供給することによって前記水電解セルの温度を低下させてもよい。第3態様によれば、水電解の効率の低下をより抑制できる技術を提供できる。
【0017】
本開示の第4態様において、例えば、第3態様に係る水電解装置の運転方法では、前記冷却器は、前記水電解セルに前記電解液を循環させるための循環回路上に配置された熱交換器を含んでいてもよい。加えて、前記水電解セルに前記電流が流れていないときに、前記冷却器で前記電解液を冷却しながら前記循環回路に前記電解液を循環させてもよい。第4態様によれば、水電解セルに電流が流れていないときに電解液を冷却できる。
【0018】
本開示の第5態様において、例えば、第1から第4態様のいずれか1つに係る水電解装置の運転方法は、前記水電解セルに流れる前記電流を停止させた後、前記水電解セルに再度電流を流させてもよい。第5態様によれば、水電解の効率の低下が改善された後、水電解セルの水電解反応を再開できる。
【0019】
本開示の第6態様において、例えば、第1から第5態様のいずれか1つに係る水電解装置の運転方法では、前記水電解セルは、アニオン交換膜型水電解セルであってもよい。
【0020】
本開示の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つに係る水電解装置の運転方法では、前記水電解セルは、アノード及びカソードを含み、前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方に、Ni及びFeの少なくとも一方を含んでいてもよい。第7態様によれば、Ni及びFeの少なくとも一方を含む電極触媒は、触媒活性の低下を抑制できる。
【0021】
本開示の第8態様に係る水電解装置の運転方法は、
水電解セルに電流を流して、水電解反応を進行させているときに、前記水電解セルに流れる電流を停止させるとともに、前記水電解セルを冷却する冷却器を用いて前記水電解セルの温度を低下させてもよい。
【0022】
第8態様によれば、水電解の効率の低下が抑制できる水電解装置の運転方法を提供できる。
【0023】
本開示の第9態様において、例えば、第8態様に係る水電解装置の運転方法では、前記水電解セルに流れる電流を停止させた後、前記水電解セルに再度電流を流させてもよい。第9態様によれば、水電解の効率の低下が改善された後、水電解セルの水電解反応を再開できる。
【0024】
本開示の第10態様に係る水電解装置は、
水電解セルと、
前記水電解セルに電圧を印加する電圧印加器と、
前記水電解セルに印加された前記電圧を検出する電圧センサと、
目標電流値の電流が前記水電解セルに流れるように、前記電圧印加器が前記水電解セルに印加する前記電圧を制御し、前記水電解セルにおいて水電解反応を進行させているときに、前記電圧センサにより検出された前記電圧の値が所定の閾値以上に上昇すると、前記電圧印加器を制御して、前記水電解セルに流れる電流を停止させる制御器と、
を備える。
【0025】
第10態様によれば、優れた効率を維持する水電解装置を提供できる。
【0026】
本開示の第11態様に係る水電解装置は、
水電解セルと、
前記水電解セルを冷却する冷却器と、
前記水電解セルに電圧を印加する電圧印加器と、
前記電圧印加器により前記水電解セルに前記電圧を印加し、前記水電解セルにおいて水電解反応を進行させているときに、前記電圧印加器を制御して、前記水電解セルに流れる電流を停止させるとともに、前記冷却器を制御して前記水電解セルの温度を低下させる制御器と、
を備える。
【0027】
第11態様によれば、水電解の効率の低下を抑制できる水電解装置を提供できる。
【0028】
本開示の第12態様において、例えば、第10態様に係る水電解装置では、前記水電解セルに電解液を供給する供給器をさらに備え、前記制御器は、前記供給器に、前記冷却器で冷却された電解液を前記水電解セルに供給させることによって前記水電解セルの温度を低下させてもよい。第12態様によれば、より優れた効率を維持する水電解装置を提供できる。
【0029】
本開示の第13態様において、例えば、第11態様に係る水電解装置は、前記水電解セルに前記電解液を循環させるための循環回路をさらに備えていてもよい。加えて、前記冷却器は、前記循環回路上に配置された熱交換器を含んでいてもよい。前記制御器は、前記水電解セルに前記電流が流れていないときに、前記冷却器に前記電解液を冷却させながら、前記循環回路に前記電解液を循環させてもよい。第13態様によれば、水電解セルに電流が流れていないときに電解液を冷却できる。
【0030】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0031】
[水電解装置]
図1は、アニオン交換膜型水電解セルの一例を模式的に示す断面図である。図1に示す水電解セル3は、電解質膜31、アノード100及びカソード200を備える。電解質膜31は、アノード100とカソード200との間に配置されている。
【0032】
アノード100は、触媒層30及びアノードガス拡散層33を含む。触媒層30は、電解質膜31の一方の主面上に配置されている。アノードガス拡散層33は、触媒層30上に配置されている。
【0033】
カソード200は、触媒層32及びカソードガス拡散層34を含む。触媒層32は、電解質膜31の他方の主面上に配置されている。カソードガス拡散層34は、触媒層32上に配置されている。
【0034】
触媒層30は、アノード触媒層と称されうる。触媒層32は、カソード触媒層と称されうる。アノード触媒層30とカソード触媒層32との間に電解質膜31が配置されている。また、それら3つの要素を挟むようにアノードガス拡散層33及びカソードガス拡散層34が配置されている。
【0035】
図2は、アニオン交換膜型水電解装置の一例を模式的に示す断面図である。図2に示す水電解装置4は、水電解セル3、電圧印加器40、電圧センサ61、及び制御器83を備える。図2に示す水電解セル3は、図1に示す水電解セル3と同一であるので、その説明を省略する。
【0036】
電圧印加器40は、水電解セル3のアノード100及びカソード200に接続されている。電圧印加器40は、水電解セル3に電圧を印加する装置である。詳細には、電圧印加器40は、アノード100及びカソード200に電圧を印加する装置である。電圧印加器40によって、アノード100の電位が相対的に高くなり、カソード200の電位が相対的に低くなる。具体的には、電圧印加器40は、アノード100及びカソード200に直流電圧を印加する。
【0037】
電圧印加器40は、アノード100及びカソード200の間に電圧を印加できる限り、特定の種類に限定されない。
【0038】
電圧印加器40は、電源を備えていてもよく、電源を備えていなくてもよい。電圧印加器40は、電力変換器を備えていてもよく、電力変換器を備えていなくてもよい。ここで、電力変換器は、DC/DCコンバータ及びAC/DCコンバータを包含する概念である。
【0039】
第1の具体例では、直流電源が用いられる。その直流電源に、電圧印加器40が接続されている。電圧印加器40は、DC/DCコンバータを備える。直流電源としては、バッテリ、太陽電池、燃料電池等が例示される。
【0040】
第2の具体例では、交流電源が用いられる。その交流電源に、電圧印加器40が接続されている。電圧印加器40は、AC/DCコンバータを備える。交流電源としては、商用電源等が例示される。
【0041】
第3の具体例では、電圧印加器40は、電力型電源である。電圧印加器40は、アノード100及びカソード200の間に印加される電圧と、アノード100及びカソード200の間に流れる電流と、を調整する。電圧印加器40は、これらの調整を通じて、水電解装置4に供給される電力を、所定の設定値に調整する。
【0042】
水電解セル3には、水を含む電解液81が外部から供給される。水電解セル3によって水が分解され、水素と酸素とが生成する。アノード100に供給される電解液81の組成は、カソード200に供給される電解液81の組成と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0043】
水電解装置4は、電圧センサ61を備えている。電圧センサ61は、水電解セル3に印加された電圧を検出する。詳細には、電圧センサ61は、アノード100及びカソード200に接続されている。アノード100とカソード200との間に印加された電圧が電圧センサ61によって検出される。
【0044】
水電解装置4は、電流センサ62を備えていてもよい。電流センサ62は、アノード100と電圧印加器40との間に配置されている。電流センサ62は、カソード200と電圧印加器40との間に配置されていてもよい。アノード100とカソード200との間に流れる電流が電流センサ62によって検出される。
【0045】
水電解装置4は、第一循環回路110、ポンプ114、及び冷却器82をさらに備えている。第一循環回路110は、水電解セル3に電解液81を循環させるための回路である。第一循環回路110は、第一収容部111、第一供給路112、及び第二供給路113を備えている。ポンプ114は、第二供給路113に配置されている。ポンプ114は、第一供給路112に配置されていてもよい。第一供給路112及び第二供給路113は、例えば、配管である。
【0046】
水電解装置4は、冷却器82によって、水電解セルの温度を低下させる。詳細には、水電解装置4は、冷却器82で冷却された電解液81を水電解セル3に供給することによって水電解セル3の温度を低下させる。冷却器82は、第一供給路112に配置されている。冷却器82は、第二供給路113に配置されていてもよい。
【0047】
冷却器82は、例えば、熱交換器を含む。熱交換器は、第一循環回路110上に配置されている。冷却器82において、冷却媒体と電解液81とが熱交換することにより、電解液81が冷却される。冷却された電解液81は、ポンプ114によって、第一循環回路110を循環する。これにより、水電解セル3に電流が流れていないときに、冷却器82で電解液81を冷却しながら第一循環回路110に電解液81を循環させることができる。冷却媒体は、水等の液体であってもよく、空気等の気体であってもよい。冷却媒体が液体である場合、プレート式熱交換器、二重管式熱交換器等の熱交換器を冷却器82として使用できる。冷却器82において、送液ポンプにより冷却媒体の流れが形成される。冷却媒体が気体である場合、フィンアンドチューブ式熱交換器等の熱交換器を冷却器82として使用できる。冷却器82において、ファンにより冷却媒体の流れが形成される。ただし、冷却器82の構造は特に限定されない。冷却器82の他の例は、チラーである。
【0048】
冷却器82は、水電解装置4において、水電解運転中及び停止中に、電解液を冷却する。
【0049】
第一収容部111は、電解液81を収容している。第一供給路112及び第二供給路113は、第一収容部111及び水電解セル3を接続している。詳細には、第一供給路112及び第二供給路113は、第一収容部111及びアノード100を接続している。第一循環回路110は、第一収容部111及び水電解セル3の間で電解液81を循環させる。詳細には、第一循環回路110は、第一収容部111及びアノード100の間で電解液を循環させる。第一収容部111は、例えば、タンクである。
【0050】
水電解装置4は、第二循環回路120、ポンプ124、及び冷却器82を備えている。第二循環回路120は、第二収容部121、第三供給路122、及び第四供給路123を備えている。ポンプ124は、第四供給路123に配置されている。ポンプ124は、第三供給路122に配置されていてもよい。第三供給路122及び第四供給路123は、例えば、配管である。ポンプ124は、本開示の水電解セルに電解液を供給する供給器の一例である。
【0051】
冷却器82は、第三供給路122に配置されている。冷却器82は、第四供給路123に配置されていてもよい。
【0052】
水電解装置4において、第二収容部121は、電解液81を収容している。第三供給路122及び第四供給路123は、第二収容部121及び水電解セル3を接続している。詳細には、第三供給路122及び第四供給路123は、第二収容部121及びカソード200を接続している。第二循環回路120は、第二収容部121及び水電解セル3の間で電解液81を循環させる。詳細には、第二循環回路120は、第二収容部121及びカソード200の間で電解液81を循環させる。第二収容部121は、例えば、タンクである。
【0053】
図2の水電解装置4は、制御器83を有する。典型例では、制御器83は、演算処理部及び記憶部を有する。記憶部には、制御を実行するためのプログラムが記憶されている。具体的には、プログラムは、冷却器82を制御するプログラム及び電圧印加器40を制御するプログラムを含む。演算処理部は、プログラムを実行する。プログラムの実行により、冷却器82及び電圧印加器40が制御される。制御器83は、例えば、マイクロコンピュータである。
【0054】
図2の水電解装置4は、温度センサ95を備える。温度センサ95は、制御器83による制御に利用される。温度センサ95は、例えば、熱電対である。
【0055】
図2の例では、温度センサ95は、第一循環回路110に配置されている。詳細には、温度センサ95は、第一循環回路110における、冷却器82よりもアノード100側の位置に配置されている。ただし、温度センサ95の位置は、特定の位置に限定されない。温度センサ95は、第一収容部111に収容されている電解液81の温度を直接測定できる位置に配置されていてもよい。
【0056】
温度センサ95は、第二循環回路120に配置されていてもよい。詳細には、温度センサ95は、第二循環回路120における、冷却器82よりもカソード200側の位置に配置されていてもよい。ただし、温度センサ95の位置は、特定の位置に限定されない。温度センサ95は、第二収容部121に収容されている電解液81の温度を直接測定できる位置に配置されていてもよい。
【0057】
例えば、図2の水電解装置4は、電解液81の温度を調整する温度調整機能を有する。温度調整機能によれば、アニオン交換膜型水電解装置で要求される温度条件での運転が可能となる。温度調整機能は、温度センサ95を用いて実現される。一具体例では、制御器83が、温度センサ95により得られる電解液81の検出温度が目標温度に追従するように、冷却器82による冷却量を制御する。冷却量の制御は、冷却器82の冷却能力を制御すること、もしくは、ポンプ114又はポンプ124の操作量を制御することで実行される。また、水電解装置4の起動時等において電解液81の温度が目標温度になるまで昇温することが必要な場合は、図示しない加熱器により電解液81に対する加熱量を制御する。このようにして、温度調整機能が実現されうる。加熱器は、例えば、電気加熱器である。加熱器は、冷却器82と同じ位置に配置される。
【0058】
図3は、アルカリ隔膜型水電解セルの一例を模式的に示す断面図である。図3に示す水電解セル5は、アノード300及びカソード400を備える。水電解セル5は、電解槽70、第一空間50、及び第二空間60をさらに備える。アノード300は、第一空間50に配置されている。カソード400は、第二空間60に配置されている。水電解セル5は、隔膜41を有する。第一空間50及び第二空間60は、隔膜41により隔てられている。隔膜41は、電解槽70の内部に配置されている。
【0059】
アノード300及びカソード400は、それぞれ、触媒層を含む。アノード300の触媒層は、アノード触媒層と称される。カソード400の触媒層は、カソード触媒層と称される。アノード触媒層とカソード触媒層との間に、隔膜41が配置されている。隔膜41は、特に限定されず、電解質膜であってもよい。隔膜41は、多孔質であってもよく、多孔質でなくてもよい。
【0060】
図4は、アルカリ隔膜型水電解装置の一例を模式的に示す断面図である。図4に示す水電解装置6は、水電解セル5及び電圧印加器40を備えている。図4に示す水電解装置6は、電圧センサ61及び電流センサ62をさらに備えている。電圧印加器40は、水電解セル5のアノード300及びカソード400に接続されている。電圧センサ61は、水電解セル5のアノード300及びカソード400の間に接続されている。電流センサ62は、水電解セル5のアノード300及び電圧印加器40に接続されている。電流センサ62は、水電解セル5のカソード400及び電圧印加器40に接続されていてもよい。図4に示す水電解セル5は、図3に示す要素と同一であるため、その説明を省略する。
【0061】
水電解装置6は、第一循環回路110及び第二循環回路120をさらに備えている。図4に示す第一循環回路110及び第二循環回路120は、それぞれ、図2に示す第一循環回路110及び第二循環回路120と同一であるので、その説明を省略する。
【0062】
冷却器82は、水電解装置6において、水電解運転中及び停止中に、電解液を冷却する。
【0063】
水電解装置4及び水電解装置6において、第一循環回路110は存在し、第二循環回路120は存在しなくてもよい。この場合、第一循環回路110によって、電解液81は、アノード100又は300に供給されるとともに、カソード200又は400に供給される。第一循環回路110からカソード200又は400への電解液の供給は、アノード100又は300を介して行われる。第一循環回路110に冷却器82が配置される。
【0064】
図4の水電解装置6は、制御器83を有する。図4に示す制御器83は、図2に示す要素と同一であるため、その説明を省略する。
【0065】
図4の水電解装置6は、温度センサ95を備える。温度センサ95は、制御器83による制御に利用される。温度センサ95は、例えば、熱電対である。図4に示す温度センサ95は、図2に示す要素と同一であるため、その説明を省略する。温度センサ95が配置される位置も、上記したとおりである。ただし、図4の例において、温度センサ95は、第一空間50及び第二空間60に収容されている電解液81の温度を直接測定できる位置に配置されていてもよい。
【0066】
アルカリ隔膜型水電解セルは、図3及び図4に示す形態に限定されない。変形例に係るアルカリ隔膜型水電解セルは、図1及び図2に示すアニオン交換膜型水電解セルと同様、アノードが触媒層及びアノードガス拡散層を含み、カソードが触媒層及びカソードガス拡散層を含む。特に矛盾のない限り、変形例のアルカリ隔膜型水電解セル及び当該セルを有する水電解装置にも、図1図2図3及び図4のセル又は装置に適用可能な特徴を適用できる。変形例のアルカリ隔膜型水電解セルとして、ゼロギャップ構造のアルカリ隔膜型水電解セルが例示される。
【0067】
[電極触媒層]
以下、電極触媒層について説明する。図1及び図2を参照して説明したアノード触媒層30は、以下の説明に係る電極触媒層の構成を有しうる。図1及び図2を参照して説明したカソード触媒層32、図3及び図4を参照して説明したアノード300の触媒層及びカソード400の触媒層についても、以下の説明に係る電極触媒層の構成を有しうる。変形例に係るアルカリ隔膜型水電解セルのアノードの触媒層及びカソードの触媒層についても、以下の説明に係る電極触媒層の構成を有しうる。
【0068】
水電解において、水素ガス及び酸素ガスが生成される。電極触媒層は、これらのガスの発生反応に活性のある材料を含む。そのような材料として、層状複水酸化物(LDH)、イリジウムの酸化物(IrOx)、白金(Pt)等が例示される。
【0069】
LDHは、2種以上の遷移金属を含む。遷移金属は、例えば、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、W、及びRuからなる群より選ばれる少なくとも2つを含む。
【0070】
LDHは、例えば、下記の組成式(1)で表される組成を有する。
[M12+ 1-xM23+ x(OH)2][yAn-・mH2O] ・・・組成式(1)
【0071】
組成式(1)において、M12+は、二価の遷移金属イオンである。M23+は、三価の遷移金属イオンである。An-は、層間の陰イオンである。xは、0<x<1の条件を満たす有理数である。yは、電荷バランスの必要量に相当する数である。nは、整数である。mは、適当な有理数である。
【0072】
LDHは、Ni及びFeを含んでいてもよい。組成式(1)において、M1は、Niであり、かつ、M2は、Feであってもよい。すなわち、LDHに含まれる遷移金属元素は、Ni及びFeであってもよい。このような構成によれば、電極触媒は、例えば、M1がCoであるLDHより高い触媒活性を有しうる。
【0073】
水電解セルは、アノード及びカソードの少なくとも一方に、Ni及びFeの少なくとも一方を含んでいてもよい。詳細には、水電解セルは、アノード触媒層及びカソード触媒層の少なくとも一方に、LDHを含んでいてもよい。このとき、LDHは、Ni及びFeの少なくとも一方を含んでいてもよい。水電解セルのアノード及びカソードの少なくとも一方にLDHが含まれることで、電極触媒は、高い触媒活性を有しうる。
【0074】
LDHは、キレート剤を含んでいてもよい。この場合、LDHにおける遷移金属イオンにキレート剤が配位していてもよい。これにより、LDHの分散安定性をより向上させることができる。また、LDHがキレート剤を含んでいるので、小さい粒子径を有するLDHが合成されうる。その結果、LDHの表面積を向上させることができるので、触媒活性を向上させることができる。LDHの平均粒径は、100nm以下であってもよく、例えば50nm以下であってもよい。LDHの平均粒径は、小角X線散乱法(SAXS)により得られた粒度分布を、粒径と分布との関係を示す2次元分布図で表したとき、2次元分布図の面積を総粒子数で割った値である。分布とは、当該粒径の粒子数が占める総体積に比例した数値を意味する。2次元分布図の面積は、例えば、粒径と当該粒径に対応する粒子数との積である。
【0075】
キレート剤は、特定のキレート剤に限定されない。キレート剤は、例えば、LDHにおいて遷移金属に配位する有機化合物である。キレート剤は、2座の有機配位子及び3座の有機配位子から選ばれる少なくとも1つであってもよい。キレート剤の例は、β-ジケトン、β-ケトエステル、及びヒドロキシカルボン酸である。β-ジケトンの例は、アセチルアセトン(ACAC)、トリフルオロアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、テノイルトリフルオロアセトン、ジピロバイルメタン、ジベンゾイルメタン、及びアスコルビン酸である。β-ケトエステルの例は、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸アリル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸-n-プロピル、アセト酢酸-iso-プロピル、アセト酢酸-n-ブチル、アセト酢酸-iso-ブチル、アセト酢酸-tert-ブチル、アセト酢酸-2-メトキシエチル、及び3-オキソペンタン酸メチルである。ヒドロキシカルボン酸及びその塩の例は、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、フェルラ酸、乳酸、グルクロン酸、及びそれらの塩である。キレート剤は、アセチルアセトン及びクエン酸三ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。キレート剤は、アセチルアセトン及びトリソジウムシトレートから選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0076】
n-は、層間イオンである。An-は、無機イオン又は有機イオンである。無機イオンの例は、CO3 2-、NO3 -、Cl-、SO4 2-、Br-、OH-、F-、I-、Si25 2-、B45(OH)4 2-、及びPO4 3-である。有機イオンの例は、CH3(CH2nSO4 -、CH3(CH2nCOO-、CH3(CH2nPO4 -、及びCH3(CH2nNO3 -である。An-は、水分子とともに金属水酸化物の層の間に挿入される陰イオンである。An-の電荷及びイオンの大きさは、特定の値に制限されない。LDHは、1種類のAn-を含んでいてもよいし、複数種類のAn-を含んでいてもよい。
【0077】
図5は、LDHの結晶構造の一例を模式的に示す図である。具体的には、図5は、組成式(1)で表されるLDHの結晶構造の一例を模式的に示す。図5に示すように、LDH20は、M12+又はM23+を中心とする8面体の各頂点にOH-イオンを有する。金属水酸化物は、[M12+ 1-xM23+ x(OH)2x+で表される。金属水酸化物は、水酸化物八面体が稜を共有して二次元に連なった層状構造を有している。金属水酸化物の層の間には、アニオン及び水分子が位置している。金属水酸化物の層は、ホスト層21として機能し、アニオン及び水分子がゲスト層22として挿入されている。つまり、全体としてLDH20は、金属水酸化物のホスト層21とアニオン及び水分子のゲスト層22とが交互に積層されたシート状構造を有している。LDH20は、金属水酸化物の層に含まれているM12+の一部をM23+に置換した構造を有する。そのため、LDH20の表面は、通常、正に帯電している。
【0078】
電極触媒層は、担体をさらに含んでいてもよい。担体は、典型的には導電性を有するため、このような構成によれば電極触媒の触媒活性が高く保たれやすい。担体は、特定の材料に限定されない。担体の例は、遷移金属及び炭素材料である。遷移金属の例は、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、W、及びRuである。炭素材料の例は、アセチレンブラック及びケッチェンブラック(KB)である。
【0079】
担体の形状は、特定の形状に限定されない。担体の形状は、フォーム状であってもよく、粒子状であってもよい。また担体のサイズは、特定のサイズに限定されない。
【0080】
電極触媒層は、有機高分子をさらに含んでいてもよい。有機高分子は、典型的には触媒剥離を目的に使用され、このような構成によれば電極触媒層の耐久性が高く保たれやすい。有機高分子は、特定の材料に限定されない。有機高分子の例は、パーフルオロポリマー及びパーフルオロスルホン酸系ポリマー、主鎖にポリスチレン骨格を含む高分子である。有機高分子の形状、サイズ及び重合度は、特に限定されない。
【0081】
[電解質膜]
以下、電解質膜について説明する。図1及び図2を参照して説明した電解質膜31は、以下の説明に係る電解質膜の構成を有しうる。アルカリ隔膜型水電解セルが電解質膜を有する場合においては、その電解質膜についても、以下の説明に係る電解質膜の構成を有しうる。
【0082】
電解質膜は、特定の種類に限定されない。電解質膜は、多孔質であってもイオン伝導性を有していてもよい。電解質膜は、アニオン交換膜であってもよい。電解質膜は、アノードで発生した酸素ガスとカソードで発生した水素ガスとが混合しにくいように構成されている。以上の構成によれば、水電解セルの過電圧の増加を低減しうる。ここで、過電圧とは、電気化学反応において、熱力学的に求められる反応の理論電位(平衡電極電位)と、実際に反応が進行するときの電極の電位との差のことである。電解質膜は、多孔性及び電子伝導性を有していてもよい。電解質膜は、抵抗性を有していてもよい。
【0083】
[拡散層]
以下、拡散層について説明する。図1及び図2を参照して説明したアノードガス拡散層33及びカソードガス拡散層34は、以下の説明に係る拡散層の構成を有しうる。アルカリ隔膜型水電解セルがアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を有する場合、そのアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層についても、以下の説明に係る拡散層の構成を有しうる。
【0084】
拡散層は特定の種類に限定されない。拡散層は、例えば、ニッケル、チタン、プラチナ、カーボン等を含む。この構成によれば、水電解セルの過電圧の増加が低減されうる。なお、この文脈において、ニッケル等は、単体であってもよく、化合物であってもよい。
【0085】
[電解液]
以下、電解液について説明する。図2を参照して説明した水電解装置4及び図4を参照して説明した水電解装置6は、以下の説明に係る電解液を有しうる。変形例に係るアルカリ隔膜型水電解セルを有する水電解装置についても、以下の説明に係る電解液を有しうる。
【0086】
水電解装置がアニオン交換膜型水電解装置又はアルカリ隔膜型水電解装置である場合、電解液として、中性水溶液又はアルカリ性水溶液が使用されうる。アルカリ性水溶液は、特定の種類に限定されない。アルカリ性水溶液は、例えば、KOH水溶液、NaOH水溶液、K2CO3水溶液、KHCO3水溶液、Na2CO3水溶液、NaHCO3水溶液等である。
【0087】
[水電解装置の運転方法]
水電解装置4の運転方法では、目標電流値の電流が水電解セル3に流れるように水電解セル3に電圧を印加し、水電解反応を進行させる。水電解セル3に印加される電圧が所定の閾値以上に上昇すると、水電解セル3に流れる電流を停止させる。これにより、水電解装置4を連続運転している場合であっても、適切なタイミングで水電解セルに流れる電流を停止させて、水電解セル3の電圧の上昇を抑制できる。その結果、水電解の効率の抑制を低下でき、水素の製造効率が高く維持されやすい。
【0088】
水電解装置4の別の運転方法では、水電解セル3に電流を流して、水電解反応を進行させているときに、水電解セル3に流れる電流を停止させるとともに、水電解セル3を冷却する冷却器82を用いて水電解セル3の温度を低下させる。このような運転方法であっても、水電解セル3の電圧の上昇を抑制できる。その結果、水電解の効率の抑制を低下でき、水素の製造効率が高く維持されやすい。
【0089】
上記の説明は、図3及び図4を参照して説明した水電解セル5及び水電解装置6にも適用される。
【0090】
図6は、図2に示す水電解装置4の運転方法を示すフローチャートである。このフローチャートに係る運転方法は、図4の水電解装置6にも適用されうる。このフローチャートに係る制御の各工程は、制御器83によって実行されうる。これらは、図7及び図8に示すフローチャートついてもあてはまる。
【0091】
ステップS1において、水電解装置4を使用して水電解反応を進行させる。具体的に、水電解反応は、目標電流値の電流が水電解セル3に流れるように、電圧印加器40を用いて水電解セル3に電圧を印加することによりなされる。目標電流値の電流が流れるように電圧印加器40を制御する。電圧印加器40の制御は、PID制御等のフィードバック制御であり、フィードフォワード制御であってもよい。目標電流値は、水電解装置4の定格運転での電流値である。電圧の印加を開始した後、水電解セル3に流れる電流が徐々に増加し、目標電流値に達する。
【0092】
ステップS2において、水電解セル3に印加される電圧が所定の閾値以上か否かが判断される。詳細には、ステップS2では、電圧センサ61における電圧の検出値が所定の閾値以上か否かが判断される。閾値は、例えば、所定の電圧値以上の電圧値である。所定の電圧値は、アノード100及びカソード200に使用される電極材料、電解液の種類、及び運転条件等の条件により適宜設定される。あるいは、所定の電圧値は、目標電流値に応じて適宜設定されうる。
【0093】
電圧センサ61における電圧の検出値が所定の閾値以上である場合、ステップS3において、水電解セル3に流れる電流を低下させる。詳細には、ステップS3において、水電解セル3に流れる電流を停止させる。電流の停止は、例えば、電圧印加器40による、水電解セル3への電圧の印加を停止することによりなされるが、これに限定されない。具体的には、水電解セル3において水電解反応が起こる電圧の下限値より小さい値の電圧を印加しても構わない。
【0094】
図7は、水電解装置4の別の運転方法を示すフローチャートである。
【0095】
図7において、ステップS1からステップS3は、ぞれぞれ、図6に示すステップS1からステップS3に対応する。
【0096】
水電解装置4の運転方法は、ステップS4を含む。ステップS4において、冷却器82を用いて水電解セル3の温度を低下させる。詳細には、ステップS4において、冷却器82を用いて電解液81の温度を低下させる。電解液81の温度の調節は、例えば、電解液81の温度が目標の温度になるように、冷却器82を制御して水電解セル3に供給される電解液81を冷却することによりなされる。これにより、水電解セル3の温度を低下させる。
【0097】
水電解装置4が第一循環回路110及び/又は第二循環回路120を備えている場合、電解液81の冷却は、第一循環回路110及び/又は第二循環回路120を循環する電解液81を冷却器82が冷却することによってなされる。ステップS4において、水電解運転は停止している。すなわち、水電解セル3に流れる電流が停止している。一方、電解液81は、ポンプ114又は124によって、第一循環回路110及び/又は第二循環回路120を循環している。このとき、電解液81が冷却器82によって冷却される。これにより、電解液81の温度を低下させる。
【0098】
アノード100に接する電解液81及びカソード200に接する電解液81の両方を冷却してもよく、アノード100に接する電解液81のみを冷却してもよい。
【0099】
水電解セル3に流れる電流を停止させた後、水電解セル3に再度電流を流す。例えば、水電解セル3に流れる電流を停止させた後、所定の時間経過後に、水電解セル3に再度電流を流す。水電解セル3に電流を流すことは、例えば、水電解セル3に電圧を印加することによりなされる。詳細には、制御器83が電圧印加器40に電圧の印加を開始させる。電圧は、水電解セル3に印加される。詳細には、電圧は、アノード100及びカソード200の間に印加される。なお、上記所定の時間は、換言すると、水電解セル3に電流を流すことを中断する休止時間である。従って、制御器83は、所定時間経過後に、外部から水電解セル3に電流を流すための指示を受けなくても、自動的に、電圧印加器40を制御して水電解セル3に再度電流を流させてもよい。
【0100】
水電解セル3に流れる電流を停止させてから、水電解セル3に再度電流を流すまでの時間、すなわち、所定の時間は、水電解セル3に所定の値(例えば、目標電流値)の電流を流すときの印加電圧を電流停止前よりも低下させるのに必要な時間であり、特定の時間に限定されない。換言すると、所定の時間は、後述する回復電圧を0よりも大きく(回復率>0%)するのに必要な時間であり、特に限定されない。所定の時間は、例えば、5秒以上であってもよく、15秒以上であってもよく、30秒以上であってもよく、1分以上であってもよい。所定の時間の上限は、特に限定されず、例えば、10分である。
【0101】
図8は、水電解装置4のさらに別の運転方法を示すフローチャートである。
【0102】
上記別の運転方法では、水電解セルに電流を流して、水電解反応を進行させているときに、前記水電解セルに流れる電流を停止させるとともに、前記水電解セルを冷却する冷却器を用いて前記水電解セルの温度を低下させる。具体的には、以下の通りである。
【0103】
ステップS5において、水電解装置4を使用して水電解反応を進行させる。ステップS5、ステップS7及びステップS8は、それぞれ、図6に示すステップS1、図6に示すステップS3及び図7に示すステップS4に対応する。
【0104】
ステップS6において、水電解装置4の運転時間が所定の運転時間以上か否かが判断される。所定の運転時間は、予め設定された時間でありうる。ステップS6において、タイマを用いて、ステップS7に進むタイミングを決定してもよい。なお、水電解装置4の運転時間は、水電解セル3に電流を流している時間であってもよい。
【0105】
水電解装置4の運転時間が所定の運転時間以上である場合、ステップS7において、水電解セル3に流れる電流を停止させる。
【0106】
ステップS8において、水電解セル3の温度を低下させる。詳細には、ステップS8において、水電解セル3に電流が流れていないとき、冷却器82を用いて電解液81の温度を低下させる。
【0107】
図8に示すフローチャートによれば、水電解セル3に流れる電流を停止させるとともに、水電解セル3の温度を低下させることができる。
【0108】
図8に示す水電解装置4の運転方法は、所定の時間経過後に、水電解セルに再度電流を流してもよい。上記所定の時間は、換言すると、水電解セル3に電流を流すことを中断する休止時間である。また、上記所定の時間は、水電解セル3に所定の値(例えば、目標電流値)の電流を流すときの印加電圧を電流停止前よりも低下させるのに必要な時間であり、特定の時間に限定されない。
【0109】
図7に示す水電解装置4の運転方法及び図8に示す水電解装置4の運転方法は、水電解装置4の起動をさらに含んでいてもよい。水電解装置4の起動は、例えば、第1の構成及び第2の構成を含む。
【0110】
第1の構成は、起動時に、制御器83は、図示しない加熱器の加熱により電解液81を昇温させるという構成である。
【0111】
第2の構成は、起動時に、水電解セル3に電流を流すという構成である。水電解セル3に電流を流すことは、例えば、水電解セル3に電圧を印加することによりなされる。詳細には、第2の構成では、制御器83が電圧印加器40に電圧の印加を開始させる。電圧は、水電解セル3に印加される。詳細には、電圧は、アノード100及びカソード200の間に印加される。
【0112】
第1の例に係る第2の構成は、制御器83は、温度センサ95による電解液81の検出温度が開始温度に達したときに、電圧印加器40に電圧の印加を開始させるという構成である。ここで、開始温度は、所定の閾値未満の温度である。所定の閾値は、加熱器の加熱による電解液81の昇温の目標温度よりも低い。
【0113】
第2の例に係る第2の構成は、制御器83は、電解液81の温度が所定の閾値未満であるときに電圧印加器40に電圧の印加を開始させるように、予め定められた所定のタイミングで電圧印加器40に電圧の印加を開始させるという構成である。第2の例の所定のタイミングは、第1の構成に係る電解液81の昇温の態様を考慮して設定されうる。第2の例の一具体例では、制御器83は、タイマを用いて電解液81の昇温開始又は加熱器の加熱開始からの時間をカウントし、カウントした時間が所定の時間に達したときに、電圧印加器40に電圧の印加を開始させる。タイマは、マイクロコンピュータに内蔵のソフトウェアタイマであってもよく、ハードウェアタイマであってもよい。
【0114】
第1の例によれば、温度センサ95を用いることによって電解液81の昇温の程度を直接的に把握した上で、電圧印加器40に電圧の印加を開始するタイミングを決定できる。第2の例によれば、電解液81の昇温の程度を間接的に把握した上で、電圧印加器40に電圧の印加を開始するタイミングを決定できる。なお、第1の例及び第2の例から理解されるように、「閾値」は、制御の切り替えをもたらす値に限定解釈されるべきではない。
【0115】
第2の構成に関し、さらに説明する。
【0116】
電圧の印加を開始するタイミングは、電解液81の温度が所定の閾値未満であるときであれば、任意でよい。例えば、このタイミングは、加熱器による電解液81の加熱の開始前であってもよく、加熱器による電解液81の加熱の開始と同時であってもよく、加熱器による電解液81の加熱の開始後であってもよい。いずれの場合であっても、第2の構成は満たされうる。
【実施例
【0117】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は本開示の一例であり、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0118】
[水電解セルの作製]
本実施例及び比較例の水電解のセル評価において、電解セル材料は以下の如く構成することで、水電解セルを作製した。
【0119】
(Ni-Fe LDHの作製)
Ni-Fe LDHを以下のようにして作製した。まず、水及びエタノールの混合溶媒を作製した。水及びエタノールの体積比率は、2:3であった。使用したエタノールは、富士フィルム和光純薬社製の試薬特級品であった。この混合溶媒に、塩化ニッケル六水和物及び塩化鉄六水和物を、Niイオン及びFeイオンの合計濃度が1.0mol/リットルになるように、かつ、Niイオン及びFeイオンの総物質量に対するFeイオンの物質量の比率が0.33になるように溶解させた。使用した塩化ニッケル六水和物及び塩化鉄六水和物は、富士フィルム和光純薬社製であった。さらに、得られた溶液に、キレート剤としてアセチルアセトン(ACAC)を、Niイオン及びFeイオンの総物質量の3分の1の物質量になるように添加し、添加後に溶液を撹拌した。次に、この溶液に対して、pH上昇剤としてプロピレンオキサイド(POX)を、溶液中の塩化物イオンの物質量の2倍量となるように添加し、撹拌した。このとき、POXは、溶液中の水素イオンを徐々に捕捉するので、溶液のpHは徐々に上昇する。その後、24時間反応させた後、Ni-Fe LDHを回収した。
【0120】
(アノードの作製)
アノードは以下のようにして作製した。まず、アノード触媒、バインダー、及び溶媒を含むインクを調製した。アノード触媒として、Ni及びFeを含む層状複水酸化物(LDH)であるNi-Fe LDHを用いた。バインダーとして、アルドリッチ社製のNafion溶液DE2020を用いた。溶媒として、水及びエタノールの混合溶媒を用いた。スプレー塗布によって、アニオン交換膜上にインクを塗布することによって、アニオン交換膜上にアノード触媒層を形成した。アニオン交換膜は、タカハタプレシジョン社製のQPAF-4であった。このアノード触媒層上に、アノードガス拡散層として、ニッケルを積層させた。ニッケルは、ベカルト社製のNPF17332-000を用いた。これにより、アノード付きアニオン交換膜を作製した。
【0121】
(カソードの作製)
カソードガス拡散層として、東レ社製のカーボンペーパーTGP-H-120を使用した。このカーボンペーパー上に、スプレー塗布によって、Pt担持カーボンを塗布して、カソードを形成した。Pt担持カーボンには田中貴金属社製のPt担持カーボンTEC10E50Eを使用した。これにより、カソードガス拡散層上にカソード触媒層が形成されたカソードを得た。
【0122】
(水電解セルの作製)
アノード付きアニオン交換膜及びカソードを、カソード触媒層とアニオン交換膜とが接するように積層させて、膜電極接合体(MEA)を作製した。アノードガス拡散層上に白金メッキチタンセパレータを配置した。カソードガス拡散層上にカーボンセパレータを配置した。白金メッキチタンセパレータとカーボンセパレータとによって膜電極接合体を挟むことによって、水電解セルを作製した。
【0123】
(実施例1)
[セル電圧の測定]
上記で作製した水電解セルを使用して、水電解セルのセル電圧を測定した。測定には、熱電工業社製の水電解セル評価装置を用いて、以下の測定条件で、水電解セルのガス発生由来の電圧の時間変化を測定した。結果を図9及び表1に示す。なお、「水電解セルの温度」は、水電解セルに配置されたセパレータに接触している熱電対によって検出された温度である。
(測定条件)
・供給液:1mol/リットル KOH水溶液
・アノード及びカソードのそれぞれへの液供給速度:20cc/min
・水電解セルの温度:80℃
・圧力:常圧
・定格電流:1A/cm2
・電極有効表面積:25cm2
【0124】
図9は、実施例1に係る水電解セルの運転において、電圧値及び電流値の時間変化を測定した結果を示すグラフである。図9において、横軸は、水電解装置の運転時間を示す。左側の縦軸は水電解セルに印加される電圧値であるセル電圧を示し、右側の縦軸は水電解セルに流れる電流値であるセル電流を示す。図9のグラフにおいて、実線はセル電圧を示し、点線はセル電流を示している。表1において、「停止時間」は、水電解セルに流れる電流を停止させた後、水電解セルに再度電流を流すまでの時間を表す。「回復前電圧」は、水電解セルに電圧を印加して水電解反応を進行させているときに、水電解セルに流れる電流を停止させたときの電圧値を表す。「回復後電圧」は、水電解セルに流れる電流を停止させてから、所定の時間、すなわち所定の停止時間の経過後に、水電解セルに再度電流を流させ、水電解セルに流れる電流が目標電流値に達したときの電圧値を表す。ただし、図9に示すとおり、実施例1では、所定の停止時間の経過後に水電解セルに再度電流を流させたときに、電流値が一度50A付近まで上昇し、その後電流値が0A付近まで低下する。その後、目標電流値の電流が水電解セルに流れるように電流値が上昇し、目標電流値で水電解反応が進行する。「回復後電圧」は、この目標電流値における電圧値を表す。「回復電圧」は、回復前電圧と回復後電圧との差を表す。回復電圧の値を回復後電圧の値で除することによって、回復率を算出した。実施例1において、閾値は、1.78Vに設定した。
【0125】
【表1】
【0126】
(比較例1)
比較例1では、水電解セルに電圧を印加して水電解反応を進行させているときに、水電解セルに流れる電流を停止させなかった。このとき、回復率は0%であった。
【0127】
図9において、a及びbは、それぞれ、停止時間が1分のときにおける、回復前電圧及び回復後電圧を読み取った位置を示す。c及びdは、それぞれ、停止時間が30秒のときにおける、回復前電圧及び回復後電圧を読み取った位置を示す。e及びfは、それぞれ、停止時間が15秒のときにおける、回復前電圧及び回復後電圧を読み取った位置を示す。g及びhは、それぞれ、停止時間が5秒のときにおける、回復前電圧及び回復後電圧を読み取った位置を示す。
【0128】
表1によれば、水電解セルに流れる電流を停止させた後、水電解セルに再度電流を流させることで、水電解セルの電圧の上昇を抑制できた。特に、停止時間が15秒以上のとき、水電解セルの電圧の上昇をより抑制できた。
【0129】
(実施例2)
[セル電圧の測定]
実施例2では、水電解セルに電流が流れていないときに、冷却器を用いて電解液の温度を低下させたときの効果について調べた。上記で作製した水電解セルを使用して、水電解セルのセル電圧を測定した。測定には、熱電工業社製の水電解セル評価装置を用いて、実施例1と同じ測定条件で、水電解セルのガス発生由来の電圧の時間変化を測定した。結果を図10及び表2に示す。
【0130】
図10は、実施例2に係る水電解セルの運転において、電圧値、電流値、及び水電解セルの温度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。図10において、横軸は、水電解装置の運転時間を示す。左側の縦軸は水電解セルに印加される電圧値であるセル電圧を示し、右側の縦軸は、水電解セルに流れる電流値であるセル電流又は水電解セルの温度を示す。水電解セルの温度は、水電解セル内の電解液の温度を表す。本実施例における、「休止時間」は、水電解セルに流れる電流を停止させてから、電解液の加熱を開始するまでの間の時間を表す。休止時間では、水電解セルに流れる電流を停止させるとともに、冷却器を用いて電解液の温度を低下させた。実施例2では、休止時間は450分であった。
【0131】
まず、休止時間の前に、水電解セルに印加される電圧が所定の閾値以上に上昇したとき、水電解セルに流れる電流を停止させた。所定の閾値は、1.81Vに設定した。水電解セルに流れる電流を停止させてから60秒経過後に、再度水電解セルに電流を流させ、水電解セルに流れる電流が目標電流値に達したときの電圧値を「回復後電圧」と定義する。ただし、図10に示すとおり、実施例2では、水電解セルに流れる電流を停止させてから60秒経過後に再度水電解セルに電流を流させたときに、電流値が一度50A付近まで上昇し、その後電流値が0A付近まで低下する。その後、目標電流値の電流が水電解セルに流れるように電流値が上昇し、目標電流値で水電解反応が進行する。「回復後電圧」は、この目標電流値における電圧値を表す。図10において、aは回復後電圧を読み取った位置を示す。「電圧上昇後電圧」は、水電解セルに電圧を印加して水電解反応を進行させている状態で水電解セルに印加される電圧が所定の閾値以上に上昇したとき、水電解セルに流れる電流を停止させるとともに、電解液の温度の低下を開始したときの電圧値を表す。所定の閾値は、1.81Vに設定した。これにより、休止時間が開始する。図10において、bは電圧上昇後電圧を読み取った位置を示す。
【0132】
休止時間を開始してから450分経過後に、電解液の加熱を開始し、さらに50分経過後に水電解セルに再度電流を流させ、目標電流値の電流が水電解セルに流れるようになったときの電圧値を「低温化後電圧」と定義する。ただし、図10に示すとおり、水電解セルに再度電流を流させたときに、電流値が一度50A付近まで上昇し、その後電流値が0A付近まで低下する。その後、目標電流値の電流が水電解セルに流れるように電流値が上昇し、目標電流値で水電解反応が進行する。「低温化後電圧」は、この目標電流値における電圧値を表す。図10において、cは低温化後電圧を読み取った位置を示す。「回復電圧A」は、回復後電圧の値と低温化後電圧の値との差を表す。回復電圧Aの値を低温化後電圧の値で除することによって、回復率Aを算出した。「回復電圧B」は、電圧上昇後電圧の値と低温化後電圧の値との差を表す。回復電圧Bの値を低温化後電圧の値で除することによって、回復率Bを算出した。
【0133】
【表2】
【0134】
表2において、回復率Aは、2.6%であった。回復率Aは、休止時間における水電解セルの冷却による、水電解セルの電圧の上昇の抑制効果を表す。一方、回復率Bは、6.4%であった。回復率Bは、水電解セルに流れる電流を停止させたこと及び水電解セルを冷却させたことによる、水電解セルの電圧の上昇の抑制効果を表す。また、水電解セルに流れる電流を停止させ、かつ水電解セルの冷却を実行しないときの、水電解セルの電圧の上昇の抑制効果は、実施例1に記載されているとおりである。この結果から、水電解セルに流れる電流を停止させたときに水電解セルの冷却を実行した実施例2の回復率Bの方が、水電解セルの冷却を実行していない実施例1の回復率よりも大きいことがわかる。つまり、水電解セルを冷却することで、水電解セルの電圧の上昇の抑制効果が得られた。加えて、水電解セルに流れる電流を停止させたことと、水電解セルを冷却させたことと、を組み合わせることで、水電解セルの電圧の上昇の抑制効果をより向上させることができた。
【0135】
(考察)
水電解装置の運転方法によれば、水電解セルの電圧値を低下させることができた。すなわち、水電解装置の運転方法によれば、水電解セルの性能が回復した。この性能の回復のメカニズムとしては、(1)水電解反応の進行において、電極上で発生する気泡が除去されることによる効果、及び、(2)アノード触媒の還元による、触媒の性能回復による効果、が考えられる。
【0136】
(1)のメカニズムについて、以下のように考えられる。水電解反応の進行中に、アノードで酸素が発生し、カソードで水素が発生する。これにより、アノード及びカソードでガスの滞留が起こる。その結果、アノード及びカソードにおいて、水電解反応に寄与しうる電極上の反応面積が低下する。このとき、目標電流値の電流が水電解セルに流れるように印加電圧を制御すると、印加電圧が上昇する。そこで、水電解セルに流れる電流を低下させることにより電極上の気泡の量を低下させることができる。これにより、水電解反応に寄与しうる電極上の反応面積が増加するので、水電解セルの性能が回復する。このようにアノード及びカソードで発生した気泡の除去は、水電解セルに流れる電流値を低下させることにより実施できる。あるいは、気泡の除去は、水電解セルの温度を低下させる、詳細には、電解液の温度を低下させることによっても実施できる。水電解セルの温度を低下させることで、アノード及びカソードで発生したガスの体積が縮小する。そのため、水電解セルに流れる電流値を低下させ、かつ、水電解セルの温度を低下させることで、更に相乗的な効果が発揮されたと考えられる。
【0137】
(2)のメカニズムについて、以下のように考えられる。水電解反応の進行中において、通常、アノード触媒は、酸化還元される。このとき、アノード触媒は高酸化状態にさらされる。これにより、水電解反応の進行において、アノードでは、酸素を生成する反応よりも自己酸化反応が進行することが優位になる。その結果、水電解反応の進行に伴って、印加電圧が上昇すると考えられる。本開示に係る水電解装置の運転方法によれば、水電解セルに流れる電流を低下させて、アノード電圧を低下させる。これにより、水電解反応の進行中に高酸化状態にさらされていたアノード触媒が還元され、触媒の性能が回復すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本開示の一態様は、水電解の反応において、水電解の効率の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0139】
3、5 水電解セル
4、6 水電解装置
20 LDH
21 ホスト層
22 ゲスト層
30、32 触媒層
31 電解質膜
33、34 拡散層
40 電圧印加器
41 隔膜
50、60 空間
61 電圧センサ
62 電流センサ
70 電解槽
81 電解液
82 冷却器
83 制御器
95 温度センサ
100、300 アノード
112、113、122、123 供給路
111、121 収容部
114、124 ポンプ
110、120 循環回路
200、400 カソード
【要約】
水電解装置の運転方法は、目標電流値の電流が水電解セルに流れるように水電解セルに電圧を印加し、水電解反応を進行させているときに水電解セルに印加される電圧が所定の閾値以上に上昇すると、水電解セルに流れる電流を停止させる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10