IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-硫化物固体電解質材料を用いた電池 図1
  • 特許-硫化物固体電解質材料を用いた電池 図2
  • 特許-硫化物固体電解質材料を用いた電池 図3
  • 特許-硫化物固体電解質材料を用いた電池 図4
  • 特許-硫化物固体電解質材料を用いた電池 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質材料を用いた電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/10 20060101AFI20231020BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231020BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231020BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231020BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231020BHJP
【FI】
H01B1/10
H01B1/06 A
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018018000
(22)【出願日】2018-02-05
(65)【公開番号】P2019003927
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-01-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2017116623
(32)【優先日】2017-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】松永 稔
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-239296(JP,A)
【文献】特開2010-199033(JP,A)
【文献】特開2008-103203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記電解質層は、第1電解質層と、前記第1電解質層によって包まれた第2電解質層とを含み、
前記第1電解質層は、第1の硫化物固体電解質材料を含み、
前記第2電解質層は、前記第1の硫化物固体電解質材料と異なる組成を有する第2の硫化物固体電解質材料を含み、
前記第1電解質層は、質量基準で、前記第2電解質層よりも多くの前記第1の硫化物固体電解質材料を含み、
前記第1の硫化物固体電解質材料は、リチウム、りん及び硫黄からなる化合物であり、
31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、87.5ppm以上88.5ppm以下の範囲内に現れるピークを第1ピークと定義し、前記スペクトルにおいて、84.2ppm以上85.2ppm以下の範囲内に現れるピークを第2ピークと定義し、前記第1ピークの積分強度と前記第2ピークの積分強度との比率がx:1-xで表されるとき、0.00926≦x≦0.37を満たす、
電池。
【請求項2】
前記化合物の組成がLi3PS4である、
請求項1に記載の電池。
【請求項3】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記電解質層は、第1電解質層と、前記第1電解質層によって包まれた第2電解質層とを含み、
前記第1電解質層は、第1の硫化物固体電解質材料を含み、
前記第2電解質層は、前記第1の硫化物固体電解質材料と異なる組成を有する第2の硫化物固体電解質材料を含み、
前記第1電解質層は、質量基準で、前記第2電解質層よりも多くの前記第1の硫化物固体電解質材料を含み、
前記第1の硫化物固体電解質材料は、Li3PS4を含み、
31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、87.5ppm以上88.5ppm以下の範囲内に現れるピークを第1ピークと定義し、前記スペクトルにおいて、84.2ppm以上85.2ppm以下の範囲内に現れるピークを第2ピークと定義し、前記第1ピークの積分強度と前記第2ピークの積分強度との比率がx:1-xで表されるとき、0.00926≦x≦0.37を満たす、
電池。
【請求項4】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記電解質層は、第1電解質層と、前記第1電解質層によって包まれた第2電解質層とを含み、
前記第1電解質層及び前記第2電解質層の少なくとも一方は、硫化物固体電解質材料を含み、
前記第1電解質層は、質量基準で、前記第2電解質層よりも多くの前記硫化物固体電解質材料を含み、
前記硫化物固体電解質材料は、リチウム、りん及び硫黄からなる化合物であり、
31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、87.5ppm以上88.5ppm以下の範囲内に現れるピークを第1ピークと定義し、前記スペクトルにおいて、84.2ppm以上85.2ppm以下の範囲内に現れるピークを第2ピークと定義し、前記第1ピークの積分強度と前記第2ピークの積分強度との比率がx:1-xで表されるとき、0.00926≦x≦0.37を満たす、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫化物固体電解質材料を用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、正極、負極及びこれらの間に配置された電解質層を備えている。電解質層には、非水電解液又は固体電解質が含まれている。広く使用されている電解液は可燃性であるため、電解液を用いたリチウム二次電池には、安全性を確保するためのシステムが必要である。固体電解質は不燃性であるため、上記システムを簡素化できる。固体電解質を用いた電池は、全固体電池と呼ばれる。
【0003】
固体電解質には、大きく分けて、有機固体電解質と無機固体電解質とがある。前者は高分子固体電解質とも呼ばれる。室温における有機固体電解質のイオン伝導度は10-6S/cm程度であるため、有機固体電解質を用いた全固体電池を室温で動作させることは困難である。後者には、酸化物固体電解質と硫化物固体電解質とがある。
【0004】
特許文献1には、硫化物固体電解質の結晶率が20%以上99%以下であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-27554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硫化物固体電解質には、有害な硫化水素が発生しやすいという課題がある。本開示の一態様は、イオン導電率が高く、且つ硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る硫化物固体電解質材料は、りん及び硫黄を含む。当該硫化物固体電解質材料の 31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、87.5ppm以上88.5ppm以下の範囲内に現れるピークを第1ピークと定義し、前記スペクトルにおいて、84.2ppm以上85.2ppmに現れるピークを第2ピークと定義し、前記第1ピークの積分強度と前記第2ピークの積分強度との比率がx:1-xで表されるとき、0.00926≦x≦0.37を満たす。なお、本開示の包括的または具体的な態様は、材料、電池、装置、システム、方法、およびこれらの任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様に係る硫化物固体電解質材料によれば、イオン導電率を高めつつ、硫化水素の発生量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態2に係る電池の概略断面図である。
図2図2は、変形例に係る電解質層の概略断面図である。
図3図3は、比較例3及び4の硫化物固体電解質材料におけるP27結晶、PS4結晶及びPS4ガラスのそれぞれの含有比率を示すグラフである。
図4図4は、PS4結晶の含有比率x、イオン導電率及び硫化水素の発生量の関係を示すグラフである。
図5図5は、実施例1及び2、並びに比較例1、2、及び3のNMRスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
りん(P)及び硫黄(S)を構成元素として含む硫化物固体電解質材料は、PS4結晶、PS4ガラス、P26結晶、P26ガラス、P27結晶、P27ガラスなどの様々な形態を有する。したがって、りん及び硫黄は、硫化物固体電解質材料において、複数のP-S結合を形成する。31P-NMR測定によって、これらのP-S結合の結合状態を同定することができる。例えば、PS4ガラスは、84.7ppm付近にピークを有する。PS4結晶は、88.0ppm付近にピークを有する。P27結晶は、90.5ppm付近にピークを有する。P26ガラスは、108ppm付近にピークを有する。結晶の比率が高ければ高いほど硫化物固体電解質材料のイオン導電率が高い。なお、本明細書においてピーク位置を示す「付近」の語句は、中心とするピークから±0.5ppmまでの範囲を意味する。例えば、PS4ガラスは84.7ppm付近にピークを有するが、これは、84.2ppm以上85.2ppm以下の範囲内にピークを有することを意味する。また、PS4結晶は、88.0ppm付近にピークを有するが、これは、87.5ppm以上88.5ppm以下の範囲内にピークを有することを意味する。
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、PS4結晶とPS4ガラスとの比率が硫化水素の発生に密接に関連していることを突き止め、PS4結晶とPS4ガラスとの比率を調整することによって、イオン導電率が高く、硫化水素の発生量の少ない硫化物固体電解質材料を見出した。
【0012】
本開示の第1態様にかかる硫化物固体電解質材料は、りん及び硫黄を含む。当該硫化物固体電解質材料の31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、88.0ppm付近に現れるピークを第1ピークと定義し、前記スペクトルにおいて、84.7ppm付近に現れるピークを第2ピークと定義し、前記第1ピークの積分強度と前記第2ピークの積分強度との比率がx:1-xで表されるとき、0.00926≦x≦0.37を満たす。
【0013】
xが0.00926より小さい場合、イオン導電率が低い。xが0.37より大きい場合、硫化水素の発生量が多い。0.00926≦x≦0.37の要件を満たすことによって、イオン導電率が高く、硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質を実現できる。
【0014】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様にかかる前記硫化物固体電解質材料は、実質的に、リチウム、りん及び硫黄からなる化合物である。リチウムを含む硫化物固体電解質材料は、リチウムイオン電池の電解質として有用である。
【0015】
本開示の第3態様において、例えば、第2態様にかかる前記硫化物固体電解質材料の化合物の組成がLi3PS4である。また、本開示の第4態様において、例えば、第1態様にかかる前記硫化物固体電解質材料がLi3PS4を含む。Li3PS4は、高いイオン導電率を有するので、電池の高出力化を可能にする。また、Li3PS4は、還元安定性に優れるため、黒鉛及び金属リチウムのように低い電位を有する材料を負極として用いることを可能にする。この場合、高いエネルギー密度を有する電池を得やすい。
【0016】
本開示の第5態様にかかる電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、を備えている。前記正極、前記負極及び前記電解質層からなる群より選ばれる少なくとも1つは、第1~第3態様のいずれか1つにかかる硫化物固体電解質材料を含む。
【0017】
第5態様によれば、イオン導電率が高く、硫化水素の発生量の少ない硫化物固体電解質材料を含むため、電池の出力特性を向上し、硫化水素の発生量を低減できる。
【0018】
本開示の第6態様において、例えば、第4態様にかかる電池の前記電解質層は、第1電解質層と、前記第1電解質層によって覆われた第2電解質層とを含む。前記第1電解質層は、質量基準で、前記第2電解質層よりも多くの前記硫化物固体電解質材料を含む。第5態様によれば、第1電解質層に含まれた硫化物固体電解質材料によって第2電解質層への水分の浸入が抑制される。これにより、第2電解質層に水分が浸入することに起因する硫化水素の発生が抑制される。
【0019】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0020】
(実施形態1)
本実施形態の硫化物固体電解質材料は、りん及び硫黄を含む。当該硫化物固体電解質材料の31P-NMR測定によって得られたスペクトルにおいて、88.0ppm付近に現れるピークを第1ピークと定義し、そのスペクトルにおいて、84.7ppm付近に現れるピークを第2ピークと定義し、第1ピークの積分強度と第2ピークの積分強度との比率がx:(1-x)で表されるとき、0.00926≦x≦0.37を満たす。第1ピークは、PS4結晶に帰属されるピークである。第2ピークは、PS4ガラスに帰属されるピークである。第2ピークの積分強度に対する第1ピークの積分強度の比率x/(1-x)は、PS4ガラスに対するPS4結晶のモル比を表す。
【0021】
31P-NMR測定においては、りん酸アンモニウムが0ppmの化学シフトを示す基準物質として使用されうる。NMR測定では、測定ごとに磁場の状態が厳密には異なるため、出力としての化学シフトに測定誤差が生じる。測定誤差は、例えば、±0.5ppmである。本明細書において「88.0ppm付近」及び「84.7ppm付近」の語句は、それぞれ、「88.0±0.5ppm」及び「84.7±0.5ppm」を意味する。
【0022】
本実施形態の硫化物固体電解質材料の他の構成元素及び組成は特に限定されない。硫化物固体電解質材料としては、Li2S-P25、Li-P-S化合物などが使用されうる。これらに、SiS2、B23、GeS2、Al23などの硫化物化合物が添加されてもよく、LiX(X:F、Cl、Br、I)などのリチウムハロゲン化物が添加されてもよく、Li2O、MOq、LipMOq(M:P、Si、Ge、B、Al、Ga、In、Fe、Znのいずれか)(p、q:自然数)などの酸化物又はリチウム酸化物が添加されてもよい。例えば、Li2S-P25にLiXを添加する場合、Li2S、P25及びLiXを熱処理、メカニカルミリングなどの方法によって反応させ、化合物を形成する。これにより、導電率の向上、化学安定性の向上、界面抵抗の低減などの種々の効果が得られる。
【0023】
本実施形態の硫化物固体電解質材料は、Li3PS4、Li426、Li7311、Li3.25Ge0.250.754、Li10GeP212、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3、Li6PS5X(X:F、Cl、Br、I)などの特定の結晶構造を有していてもよく、結晶とガラスとが混在したガラスセラミックスであってもよい。
【0024】
PS4結晶とPS4ガラスとの比率を導出するには、31P-NMR測定が最も簡便である。しかし、測定方法は31P-NMR測定に限定されない。例えば、ラマン分光法、X線回折法又はこれらの組み合わせによって、PS4結晶とPS4ガラスとの比率を導出することができる。PS4結晶とPS4ガラスとの比率は、測定方法に依存する値ではない。同一の組成及び同一の構造を有する硫化物固体電解質材料であれば、異なる測定方法を用いた場合であっても、同一のPS4結晶とPS4ガラスとの比率を導出することができる。
【0025】
本明細書において「PS4結晶とPS4ガラスとの比率」は、PS4結晶を形成しているP-S結合の数(すなわち、PS4結晶のモル数)とPS4ガラスを形成しているP-S結合の数(すなわち、PS4ガラスのモル数)との比率を意味し、「x:1-x」で表される。
【0026】
硫化物固体電解質材料に含まれたPS4結晶は、数ナノメートルのサイズの微結晶として存在してもよく、数百ナノメートルから数マイクロメートルのサイズのドメイン状結晶として存在してもよい。PS4結晶及びPS4ガラスのそれぞれは、硫化物固体電解質材料の内部(例えば、硫化物固体電解質材料の粒子中)に均一に分散していてもよく、偏って分布していてもよい。
【0027】
本実施形態において、硫化物固体電解質材料は、実質的に、リチウム、りん及び硫黄からなる化合物でありうる。リチウムを含む硫化物固体電解質材料は、リチウムイオン電池の電解質として有用である。硫化物固体電解質材料の組成は、Li3PS4であってもよい。Li3PS4は、高いイオン導電率を有するので、電池の高出力化を可能にする。また、Li3PS4は、還元安定性に優れるため、黒鉛及び金属リチウムのように低い電位を有する材料を負極として用いることを可能にする。この場合、高いエネルギー密度を有する電池を得やすい。
【0028】
本明細書において「実質的に~からなる」の語句は、言及された化合物の本質的特徴を変更する他の成分を排除することを意味する。
【0029】
以上の構成によれば、イオン導電率が高く、硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質材料を実現できる。
【0030】
本実施形態の硫化物固体電解質材料は、下記の方法によって製造されうる。
【0031】
Li2S、P25、Li、P、Sなどを含む前駆体原料を、溶融急冷法、メカノケミカルミリング法などの方法によって反応させる。これにより、PS4ガラスを含む硫化物固体電解質材料が得られる。得られたガラス状の硫化物固体電解質材料を熱処理すると、PS4の結晶化が進行し、PS4結晶とPS4ガラスとを含む硫化物固体電解質材料が得られる。任意の温度及び任意の時間で熱処理を実施することによって、PS4結晶とPS4ガラスとの比率を制御できる。
【0032】
熱処理温度は、PS4の結晶化温度以上であれば特に限定されず、例えば200℃以上である。熱処理温度が高ければ高いほど、短時間で結晶化が進行する。熱処理温度の上限値も特に限定されず、例えば400℃である。熱処理時間も特に限定されない。熱処理時間の増加にともなって結晶化が進行する。結晶化が進行すると、イオン導電率が増加する。熱処理時間は、例えば5時間以下であり、30分以下であってもよい。熱処理時間の下限値も特に限定されず、例えば1分間である。
【0033】
ただし、事後的な熱処理は必須ではない。例えば、溶融急冷法における熱処理温度及び急冷速度を適切に制御すれば、その後の熱処理工程を経ることなく、PS4結晶とPS4ガラスとの比率が所望の比率に調整された硫化物固体電解質材料を製造することができる。同様に、メカノケミカルミリング法における回転数及び処理時間を適切に制御すれば、その後の熱処理工程を経ることなく、PS4結晶とPS4ガラスとの比率が所望の比率に調整された硫化物固体電解質材料を製造することができる。
【0034】
本実施形態における硫化物固体電解質材料は、有機溶媒を用いる下記の方法によっても製造されうる。
【0035】
Li2S、P25、Li、P、Sなどを含む前駆体原料を有機溶媒中で反応させる。有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、N-メチルホルムアミド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、これらの混合物が挙げられる。前駆体原料を反応させるとき、反応液を加温してもよく、粉砕用のメディアを反応液に加えて振動させてもよく、超音波などで反応液にエネルギーを加えてもよい。加熱乾燥、減圧乾燥などの乾燥方法によって有機溶媒を除去する。有機溶媒が除去されるにつれて結晶化が進行し、PS4結晶及びPS4ガラスを含む硫化物固体電解質材料が得られる。前駆体原料の種類、有機溶媒の種類、反応時間、反応温度、有機溶媒を除去する際の乾燥条件などを適切に選択すれば、PS4結晶とPS4ガラスとの比率が所望の比率に調整された硫化物固体電解質材料を製造することができる。
【0036】
(実施形態2)
以下の実施形態2において、実施形態1と重複する説明は適宜省略される。実施形態2にかかる電池には、実施形態1で説明した硫化物固体電解質材料が使用されている。
【0037】
図1に示すように、本実施形態に係る電池20は、正極21、負極23及び電解質層22を備えている。正極21は、正極活物質粒子24を含む。正極21は、さらに、実施形態1で説明した硫化物固体電解質材料10を含んでもよい。電解質層22は、正極21と負極23との間に配置されている。正極21及び負極23の両者に電解質層22が接している。電解質層22は、硫化物固体電解質材料10を含んでもよい。負極23は、負極活物質粒子25を含む。負極23は、硫化物固体電解質材料10を含んでもよい。電池20は、例えば、全固体リチウム二次電池である。本実施形態の電池20は、実施形態1で説明した硫化物固体電解質材料10を含むことにより、優れた出力特性を発揮し、硫化水素の発生量も低減できる。
【0038】
本実施形態において、正極21、負極23及び電解質層22のそれぞれが硫化物固体電解質材料10を含んでもよい。少なくとも電解質層22に本開示の硫化物固体電解質材料10が含まれていることが望ましい。正極21、負極23及び電解質層22の中で、電解質層22が最も多量に電解質材料を含むので、本開示の硫化物固体電解質材料10を電解質層22に用いることによって、電池20における硫化水素の発生量を最も効率的に低減できる。ただし、正極21、負極23及び電解質層22からなる群より選ばれる少なくとも1つに硫化物固体電解質材料10が含まれている限り、硫化水素の発生を抑制する効果が得られる。正極21、負極23及び電解質層22のそれぞれは、本開示の硫化物固体電解質材料10以外の硫化物固体電解質材料を含んでいてもよい。
【0039】
硫化物固体電解質材料10の形状は特に限定されない。硫化物固体電解質材料10の形状は、例えば、針状、鱗片状、球状又は楕円球状である。硫化物固体電解質材料10は、粒子であってもよい。硫化物固体電解質材料10の形状が粒子状(例えば、球状)である場合、硫化物固体電解質材料10のメジアン径(d50)は、100μm以下であってもよい。硫化物固体電解質材料10が適切な大きさを有していると、正極21又は負極23において、活物質、導電助剤などの他の材料と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。硫化物固体電解質材料10が適切な大きさを有していると、硫化物固体電解質材料10を用いた電解質層22の厚さを十分に薄くすることができる。これらは、電池20の放電特性の向上に寄与する。
【0040】
硫化物固体電解質材料10のメジアン径は、10μm以下であってもよい。このような構成によれば、活物質、導電助剤などの他の材料と硫化物固体電解質材料10とがより良好な分散状態を形成できる。
【0041】
硫化物固体電解質材料10のメジアン径は、正極活物質粒子又は負極活物質粒子のメジアン径より小さくてもよい。このような構成によれば、硫化物固体電解質材料10と活物質粒子とがより良好な分散状態を形成できる。硫化物固体電解質材料10のメジアン径の下限値は特に限定されず、例えば0.01μmである。
【0042】
本明細書において、粒子のメジアン径は、レーザー回折式粒度計などによって測定される粒度分布において、体積累積50%に相当する粒径(d50)を意味する。
【0043】
正極21は、金属イオンを吸蔵及び放出する特性を有する材料を含む。金属イオンの例は、リチウムイオンである。正極21は、例えば、正極活物質(例えば、正極活物質粒子24)を含む。正極21は、硫化物固体電解質材料10を含んでいてもよい。
【0044】
正極活物質としては、リチウムを含有する遷移金属酸化物、リチウムを含有しない遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物などが使用されうる。特に、正極活物質として、リチウム含有遷移金属酸化物を用いた場合には、電池20の製造コストを下げることができるとともに、電池20の平均放電電圧を高めることができる。
【0045】
正極活物質として、Li(NiCoAl)O2及びLiCoO2から選ばれる少なくとも1つが正極21に含まれていてもよい。これらの遷移金属酸化物は、電池20に高いエネルギー密度を付与しうる。
【0046】
正極活物質粒子24のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。正極活物質粒子24が適切な大きさを有していると、正極21において、正極活物質粒子24と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。また、正極活物質粒子24の内部にリチウムイオンが素早く拡散できるので、電池20を高出力で動作させるのに有利である。正極活物質粒子24のメジアン径は、硫化物固体電解質材料10の粒子のメジアン径よりも大きくてもよい。これにより、正極活物質粒子24と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。
【0047】
正極21において、正極活物質粒子24の体積と硫化物固体電解質材料10の体積との合計に対する正極活物質粒子24の体積vの比率は、例えば、30%以上95%以下である。正極活物質粒子24の体積と硫化物固体電解質材料10の体積との合計に対する硫化物固体電解質材料10の体積(100-v)の比率は、例えば、5%以上70%以下である。正極活物質粒子24の量及び硫化物固体電解質材料10の量が適切に調整されている場合、電池20のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0048】
正極21の厚さは、10μm以上500μm以下であってもよい。正極21の厚さが適切に調整されている場合、電池20のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0049】
電解質層22は、本開示の硫化物固体電解質材料10を含む層である。電解質層22は、硫化物固体電解質材料10に加え、硫化物固体電解質材料10とは異なる第2の硫化物固体電解質材料を含んでいてもよい。このとき、硫化物固体電解質材料10と第2の硫化物固体電解質材料とが電解質層22に均一に分散していてもよい。第2の硫化物固体電解質材料は、例えば、硫化物固体電解質材料10の組成と異なる組成を有する。第2の硫化物固体電解質材料は、硫化物固体電解質材料10の構造と異なる構造を有していてもよい。例えば、PS4結晶とPS4ガラスとの比率が硫化物固体電解質材料10と第2の硫化物固体電解質材料とで異なっていてもよい。
【0050】
電解質層22の厚さは、1μm以上500μm以下であってもよい。電解質層22の厚さが適切に調整されている場合、正極21と負極23との短絡を確実に防止できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0051】
電池20は、電解質層22に代えて、図2に示す電解質層28を備えていてもよい。電解質層28は、第1電解質層26及び第2電解質層27を有する。第2電解質層27は、第1電解質層26によって覆われている。詳細には、第2電解質層27は、第1電解質層26によって包まれている。電解質層28の2つの主面は、第1電解質層26によって形成されている。ただし、第2電解質層27の一部が電解質層28の表面に現れていてもよい。「主面」は、最も広い面積を有する面を意味する。
【0052】
第1電解質層26は、本開示の硫化物固体電解質材料10を含む層である。第2電解質層27は、硫化物固体電解質材料10を含んでいてもよく、第2の硫化物固体電解質材料を含んでいてもよく、それらの両方を含んでいてもよい。第1電解質層26は、質量基準で、第2電解質層27よりも多くの硫化物固体電解質材料10を含んでいてもよい。
【0053】
図2に示す電解質層28によれば、第2電解質層27の周りに第1電解質層26が位置しており、第2電解質層27が第1電解質層26によって保護されている。第1電解質層26に含まれた硫化物固体電解質材料10によって第2電解質層27への水分の浸入が抑制される。これにより、第2電解質層27に水分が浸入することに起因する硫化水素の発生が抑制される。第2電解質層27には、硫化水素を発生しやすいがイオン伝導率のより高い電解質材料を用いることができる。これにより、電池20のイオン伝導率をより高めることができる。
【0054】
負極23は、金属イオンを吸蔵及び放出する特性を有する材料を含む。金属イオンの例は、リチウムイオンである。負極23は、例えば、負極活物質(例えば、負極活物質粒子25)を含む。負極23は、硫化物固体電解質材料10を含んでいてもよい。
【0055】
負極活物質としては、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物などが使用されうる。金属材料は、単体の金属であってもよく、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属、リチウム合金などが挙げられる。炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素などが挙げられる。容量密度の観点から、珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物及び錫化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つが負極活物質として好適に使用されうる。
【0056】
負極活物質粒子25のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質粒子25が適切な大きさを有していると、負極活物質粒子25と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。また、負極活物質粒子25の内部にリチウムイオンが素早く拡散できるので、電池20を高出力で動作させるのに有利である。負極活物質粒子25のメジアン径は、硫化物固体電解質材料10の粒子のメジアン径よりも大きくてもよい。これにより、負極活物質粒子25と硫化物固体電解質材料10とが良好な分散状態を形成できる。
【0057】
負極23において、負極活物質粒子25の体積と硫化物固体電解質材料10の体積との合計に対する負極活物質粒子25の体積Vの比率は、例えば、30%以上95%以下である。負極活物質粒子25の体積と硫化物固体電解質材料10の体積との合計に対する硫化物固体電解質材料10の体積(100-V)の比率は、例えば、5%以上70%以下である。負極活物質粒子25の量及び硫化物固体電解質材料10の量が適切に調整されている場合、電池20のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0058】
負極23の厚さは、10μm以上500μm以下であってもよい。負極23の厚さが適切に調整されている場合、電池20のエネルギー密度を十分に確保できるとともに、電池20を高出力で動作させることが可能である。
【0059】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、硫化物固体電解質材料10とは異なる第2の硫化物固体電解質材料が含まれていてもよい。第2の硫化物固体電解質材料として、Li2S-P25、Li2S-SiS2、Li2S-B23、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.250.754、Li10GeP212などが使用されうる。これらの硫化物材料にLiX(X:F、Cl、Br、I)、Li2O、MOq、LipMOq(M:P、Si、Ge、B、Al、Ga、In、Fe又はZn)(p、q:自然数)などが添加されてもよい。
【0060】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、酸化物固体電解質が含まれていてもよい。酸化物固体電解質として、LiTi2(PO43及びその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質、Li14ZnGe416、Li4SiO4、LiGeO4及びそれらの元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li7La3Zr212及びその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、Li3N及びそのH置換体、Li3PO4及びそのN置換体などが使用されうる。
【0061】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、ハロゲン化物固体電解質が含まれていてもよい。ハロゲン化物固体電解質としては、Li3InBr6、Li3InCl6、Li2FeCl4、Li2CrCl4、Li3OClなどが使用されうる。
【0062】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、錯体水素化物固体電解質が含まれていてもよい。錯体水素化物固体電解質としては、LiBH4-LiI、LiBH4-P25などが使用されうる。
【0063】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、イオン伝導性を高める目的で、有機ポリマー固体電解質が含まれていてもよい。有機ポリマー固体電解質として、高分子化合物とリチウム塩との化合物が使用されうる。高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有することで、高分子化合物はリチウム塩を多く含有することができるので、イオン導電率をより高めることができる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などが使用されうる。リチウム塩として、これらから選ばれる1種のリチウム塩が単独で使用されてもよいし、これらから選ばれる2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0064】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解液、ゲル電解質又はイオン液体が含まれていてもよい。
【0065】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩とを含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、フッ素溶媒などが使用されうる。環状炭酸エステル溶媒の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられる。鎖状炭酸エステル溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。環状エーテル溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソランなどが挙げられる。鎖状エーテル溶媒の例としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンなどが挙げられる。環状エステル溶媒の例としては、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。鎖状エステル溶媒の例としては、酢酸メチルなどが挙げられる。フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネートなどが挙げられる。非水溶媒として、これらから選ばれる1種の非水溶媒が単独で使用されてもよいし、これらから選ばれる2種以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0066】
非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート及びフルオロジメチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素溶媒が含まれていてもよい。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などが使用されうる。リチウム塩として、これらから選ばれる1種のリチウム塩が単独で使用されてもよいし、これらから選ばれる2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/リットルの範囲にある。
【0067】
ゲル電解質として、非水電解液を含浸しているポリマー材料が使用されうる。ポリマー材料として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、エチレンオキシド結合を有するポリマーなどが使用されうる。
【0068】
イオン液体を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどの脂肪族鎖状4級塩類、ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、ピペリジニウム類などの脂肪族環状アンモニウム、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの含窒素ヘテロ環芳香族カチオンなどであってもよい。イオン液体を構成するアニオンは、PF6 -、BF4 -、SbF6 -、AsF6 -、SO3CF3 -、N(SO2CF32 -、N(SO2252 -、N(SO2CF3)(SO249-、C(SO2CF33 -などであってもよい。イオン液体はリチウム塩を含有していてもよい。
【0069】
正極21、負極23、電解質層22、第1電解質層26及び第2電解質層27から選ばれる少なくとも1つには、粒子同士の密着性を向上させる目的で、結着剤が含まれてもよい。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸及びヘキサジエンから選ばれる2種以上の材料の共重合体も結着剤として使用されうる。上記の材料から選ばれる2種以上の混合物を結着剤として使用してもよい。
【0070】
正極21及び負極23から選ばれる少なくとも1つには、電子導電性を高める目的で、導電助剤が含まれていてもよい。
【0071】
導電助剤として、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウム粉末などの金属粉末、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物などが使用されうる。
【0072】
導電助剤の形状は特に限定されない。導電助剤の形状は、例えば、針状、鱗片状、球状又は楕円球状である。導電助剤は、粒子であってもよい。
【0073】
正極活物質粒子24及び負極活物質粒子25は、界面抵抗を低減する目的で、被覆材料によって被覆されていてもよい。正極活物質粒子24の表面の一部のみが被覆材料によって被覆されていてもよく、正極活物質粒子24の表面の全部が被覆材料によって被覆されていてもよい。同様に、負極活物質粒子25の表面の一部のみが被覆材料によって被覆されていてもよく、負極活物質粒子25の表面の全部が被覆材料によって被覆されていてもよい。
【0074】
被覆材料としては、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、高分子固体電解質、錯体水素化物固体電解質などの固体電解質が使用されうる。被覆材料は、酸化物固体電解質であってもよい。酸化物固体電解質は、優れた高電位安定性を有する。酸化物固体電解質を被覆材料に用いることによって、電池20の充放電効率が向上する。
【0075】
被覆材料として使用できる酸化物固体電解質としては、LiNbO3などのLi-Nb-O化合物、LiBO2、Li3BO3などのLi-B-O化合物、LiAlO2などのLi-Al-O化合物、Li4SiO4などのLi-Si-O化合物、Li2SO4、Li4Ti512などのLi-Ti-O化合物、Li2ZrO3などのLi-Zr-O化合物、Li2MoO3などのLi-Mo-O化合物、LiV25などのLi-V-O化合物、Li2WO4などのLi-W-O化合物が挙げられる。
【実施例
【0076】
<実施例1>
露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内において、モル比でLi2S:P25=75:25となるように、Li2S粉末とP25粉末とを秤量した。これらを乳鉢に入れて粉砕及び混合した。遊星型ボールミルを用い、510rpmの回転数で10時間にわたって混合物をミリング処理し、ガラス状の固体電解質を得た。ガラス状の固体電解質を不活性雰囲気下、270℃、15分間の条件で熱処理した。これにより、ガラスセラミックス状の硫化物固体電解質材料であるLi2S-P25粉末を得た。実施例1の硫化物固体電解質材料の組成はLi3PS4である。
【0077】
<実施例2>
熱処理の時間を30分間に変更したことを除き、実施例1と同じ方法によって実施例2の硫化物固体電解質材料を得た。
【0078】
<比較例1>
熱処理を実施しなかったことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例1の硫化物固体電解質材料を得た。
【0079】
<比較例2>
熱処理の時間を5分間に変更したことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例2の硫化物固体電解質材料を得た。
【0080】
<比較例3>
熱処理の時間を120分間に変更したことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例3の硫化物固体電解質材料を得た。
【0081】
<比較例4>
比較例3の硫化物固体電解質材料を、約23℃、相対湿度約50%の大気中に60分間暴露させた。これにより、比較例4の硫化物固体電解質材料を得た。暴露後の硫化物固体電解質材料は、露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内で保管した。
【0082】
31P-NMR測定]
実施例1、実施例2及び比較例1~4の硫化物固体電解質材料を用いて、31P-NMR測定を実施した。試料回転数は20kHz、測定積算回数は32回、緩和時間は30秒であった。0ppmの化学シフトを示す基準物質としてりん酸アンモニウムを採用した。得られたスペクトル図において、各ピークの積分強度をフィッティングにより導出した。各ピークの積分強度から、硫化物固体電解質材料の全体を100mol%と仮定したときの各結晶及び各ガラスの存在比(単位:mol%)を特定した。さらに、PS4結晶に帰属されるピークの積分強度とPS4ガラスに帰属されるピークの積分強度との比率をx:(1-x)と定義し、PS4結晶の含有比率x(PS4結晶比率)を導出した。「PS4結晶の含有比率x」は、PS4結晶の含有量とPS4ガラスの含有量との合計を「1」と仮定したときのPS4結晶の含有量をモル数にて表している。
【0083】
[イオン導電率の測定]
実施例1、実施例2及び比較例1~3の硫化物固体電解質材料のイオン導電率を下記の方法で測定した。
【0084】
絶縁性外筒に80mgの硫化物固体電解質材料を入れ、360MPaの圧力で硫化物固体電解質材料を加圧成形し、電解質層を得た。電解質層の厚さをノギスにて測定した。次に、電解質層の上面及び下面のそれぞれに金属In箔(厚さ200μm)を配置した。金属In箔及び電解質層を80MPaの圧力で加圧成形し、金属In箔、電解質層及び金属In箔からなる積層体を作製した。次に、積層体の上面及び下面のそれぞれにステンレス鋼集電体を配置した。各集電体に集電リードを取り付けた。最後に、絶縁性フェルールで絶縁性外筒を密閉し、絶縁性外筒の内部を外気から遮断した。このようにして、イオン導電率測定用の電気化学セルを作製した。
【0085】
上記の電気化学セルを25℃の恒温槽に配置した。交流インピーダンス法によって、電圧振幅±10mV、測定周波数0.01Hz~1MHzの条件で抵抗測定を実施した。測定された抵抗値、電極の面積、及び、電解質層の厚さを用い、イオン導電率を算出した。
【0086】
[硫化水素の発生量の測定]
実施例1、実施例2及び比較例1~3の硫化物固体電解質材料の硫化水素の発生量を下記の方法で測定した。
【0087】
露点-60℃以下のAr雰囲気のアルゴングローブボックス内で、硫化物固体電解質材料を80mg秤量した。内径9.5mmの粉末成形金型に秤量した硫化物固体電解質材料を入れ、360MPaの圧力で加圧成形した。成形後、粉末成形金型から硫化物固体電解質材料のペレットを取り出し、密閉可能なガラス容器の中にペレットを配置した。温度25℃、相対湿度50%の加湿雰囲気の恒温槽内にガラス容器を配置し、ガラス容器の内部を加湿雰囲気に置換した。その後、ガラス容器を密閉し、10分間にわたってペレットを加湿雰囲気に暴露させた。ガラス容器を密閉した時点から10分後のガラス容器の内部の硫化水素量をポータブルガスモニター(理研計機社製、GX-2012)を用いて測定した。硫化水素量をペレットの重量(80mg)で割り、単位重量あたりの硫化水素の発生量(cm3/g)を導出した。
【0088】
比較例3及び4の硫化物固体電解質材料についての31P-NMR測定結果を表1に示す。図3のグラフは、表1の値を示している。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、硫化物固体電解質材料を大気に暴露させることによって、PS4結晶の含有比率が減少した。PS4結晶の含有比率の減少は、PS4結晶が大気中の水分と反応し、P-S結合が切断され、硫化水素が発生したことを意味する。一方、P27結晶及びPS4ガラスの含有比率は減少しなかった。これらの結果は、PS4結晶が硫化水素を発生させる主要因であることを意味する。P27結晶の含有比率が減少しなかったことから理解できるように、硫化水素の発生は、硫化物固体電解質材料の全体に占める結晶の割合に依存するのではなく、結晶の中でも特にPS4結晶の割合に依存する。
【0091】
実施例1、実施例2及び比較例1~3の硫化物固体電解質材料について、31P-NMR測定によって得られた第1ピーク(すなわち、PS4結晶)のピーク位置、第2ピーク(すなわち、PS4ガラス)のピーク位置、PS4結晶の含有比率x、イオン導電率及び硫化水素発生量の測定結果を表2に示す。なお、第1、および第2ピークのピーク位置は、31P-NMR測定によって得られたスペクトルをガウス関数によって波形分離することで求めた。図4のグラフは、表2の値を示している。また、図5に実施例1及び2、並びに比較例1、2及び3のNMRスペクトルを示す。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例1及び2、並びに比較例1、2及び3の結果から理解できるように、第1及び第2ピークは、それぞれ88.0ppm付近(87.5ppm以上88.5ppm以下)、84.7ppm付近(84.2ppm以上85.2ppm以下)に位置した。実施例1、実施例2及び比較例3の結果から理解できるように、PS4結晶の含有比率xの増加に伴い、イオン導電率及び硫化水素の発生量が増加した。比較例1及び比較例2の結果から理解できるように、PS4結晶の含有比率xが0.00926よりも小さい場合、硫化水素の発生量は10-2cm3/g以下と十分少なかったが、イオン導電率は4×10-4S/cm以下と低かった。イオン導電率が4×10-4S/cmに満たない硫化物固体電解質材料を用いて電池を作製した場合、その電池を高出力で動作させることが困難となる可能性がある。比較例3の結果から理解できるように、PS4結晶の含有比率xが0.37より大きい場合、イオン導電率は4×10-4S/cmより高かったが、硫化水素の発生量は10-2cm3/gより多かった。硫化水素発生量が10-2cm3/gより多い硫化物固体電解質材料を用いる場合、電池の製造工程において、硫化物固体電解質材料と雰囲気中の微量水分とが反応し、硫化物固体電解質材料の品質劣化に伴う電池の性能低下が懸念される。PS4結晶の含有比率xが0.00926≦x≦0.37を満たす場合、イオン導電率が高く、硫化水素の発生量が少ない硫化物固体電解質材料を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本明細書に開示された技術は、例えば、全固体リチウム二次電池に有用である。
【符号の説明】
【0095】
10 硫化物固体電解質材料
20 電池
21 正極
22 電解質層
23 負極
24 正極活物質粒子
25 負極活物質粒子
26 第1電解質層
27 第2電解質層
図1
図2
図3
図4
図5