(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】糖鎖の製造方法、糖鎖合成用のビルディングブロックおよび化合物
(51)【国際特許分類】
C07H 3/06 20060101AFI20231020BHJP
【FI】
C07H3/06
(21)【出願番号】P 2019035709
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000145611
【氏名又は名称】株式会社コガネイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】野上 敏材
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 啓
(72)【発明者】
【氏名】濱多 智昭
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165725(JP,A)
【文献】ZHANG, P. et al.,Total synthesis of LeA-LacNAc pentasaccharide as a ligand for Clostridium difficile toxin A,Organic & Biomolecular Chemistry,2010年,8(1),pp. 128-136,DOI :10.1039/b914193f
【文献】野上敏材ら,特集:有機電解合成の最先端 3.電解グリコシル化反応を利用したオリゴ糖自動合成システムの開発,Electrochemistry,2015年,83(6),pp. 472-476
【文献】NOKAMI, T. et al.,Automated Electrochemical Assembly of the Protected Potential TMG-chitotriomycin Precursor Based on,Organic Letters,2015年,17(6),pp. 1525-1528,DOI : 10.1021/acs.orglett.5b00406
【文献】NOKAMI, T. et al.,Automated Solution-Phase Synthesis of Oligosaccharides via Iterative Electrochemical Assembly of Thi,Organic Letters,2013年,15(17),pp. 4520-4523,DOI : 10.1021/ol402034g
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるビルディングブロック、および、下記式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基と下記式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基とを含むビルディングブロックのうち、少なくとも1種のビルディングブロックであるビルディングブロックAを、電解質を含む非プロトン性有機溶媒中で電解酸化し、
下記式(2)で表されるビルディングブロック、および、下記式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を複数含むビルディングブロックのうち、少なくとも1種のビルディングブロックであるビルディングブロックBと、電解酸化した前記ビルディングブロックAとをグリコシル化することを含み、
さらに電解酸化とグリコシル化のシーケンスを繰り返し、
三糖類以上の
直鎖の糖鎖を得る、糖鎖の製造方法;
式(1)
【化1】
式(1)において、
A
1は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z
1~Z
5は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
1は、単結合または2価の連結基を表し、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して1価の有機基を表し、
m個のR
1およびn個のR
2は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、
m+nは、環構造A
1の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す;
式(2)
【化2】
式(2)において、
A
2は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z
6~Z
10は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
2は、単結合または2価の連結基を表し、
R
3は、1価の有機基を表し、
R
4は、水素原子または1価の有機基を表し、q個のR
4のうち少なくとも1つは水素原子であり、
p個のR
3およびq個のR
4は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
pは0以上の整数を表し、qは1以上の整数を表し、
p+qは、環構造A
2の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表し、
Z
1~Z
5のうち少なくとも1つが塩素原子を表し、
Z
6~Z
10のうち少なくとも1つが塩素原子を表す。
【請求項2】
Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が0.2以上であり、かつ、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が0.2以上である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が1.5以下であり、かつ、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が1.5以下である、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
Z
1~Z
5のうち、2つが塩素原子であって、それ以外が水素原子であり、
Z
6~Z
10のうち、2つが塩素原子であって、それ以外が水素原子である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
Z
1~Z
5のうち、1つが塩素原子であって、それ以外が水素原子であり、
Z
6~Z
10のうち、1つが塩素原子であって、それ以外が水素原子である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
式(1)で表されるビルディングブロックとして、下記式(1-2)で表されるビルディングブロックが使用される、
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法;
式(1-2)
【化3】
式(1-2)において、
Z
1~Z
5は、それぞれ独立してハロゲン原子または1価の電子求引性基を表し、Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
1は、それぞれ独立して単結合または2価の連結基を表し、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して1価の有機基を表し、
R
5およびR
6は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
tは、0~4の整数を表し、
rは、それぞれ独立して0または1を表し、
波線は、それぞれ独立に、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表し、
Z
1~Z
5のうち少なくとも1つが塩素原子を表し、
Z
6~Z
10のうち少なくとも1つが塩素原子を表す。
【請求項7】
tが0または1である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
式(2)で表されるビルディングブロックとして、下記式(2-2)で表されるビルディングブロックが使用される、
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法;
式(2-2)
【化4】
式(2-2)において、
Z
6~Z
10は、それぞれ独立して水素原子または1価の電子求引性基を表し、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
R
7は、1価の有機基を表し、
R
8は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を表し、
R
7およびR
8は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
uは、0~4の整数を表し、
rは、それぞれ独立して0または1を表し、
R
8(O)
rのうち少なくとも1つは水酸基であり、
波線は、それぞれ独立に、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表し、
Z
1~Z
5のうち少なくとも1つが塩素原子を表し、
Z
6~Z
10のうち少なくとも1つが塩素原子を表す。
【請求項9】
uが0または1である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
R
2が一価の水酸基の保護基であり、水素原子以外のR
4がR
2と同じ保護基である、
請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
Z
3およびZ
8が塩素原子である、
請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
ビルディングブロックAおよびBが単糖である、
請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
Z
1~Z
5のうち、1つが塩素原子であって、それ以外が水素原子であり、
Z
6~Z
10のうち、1つが塩素原子であって、それ以外が水素原子であり、
Z
3およびZ
8が塩素原子である、
請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記電解酸化とグリコシル化のシーケンスを繰り返しは、電解酸化とグリコシル化を含む同じシーケンスを複数回繰り返すことである、請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖の製造方法、糖鎖合成用のビルディングブロックおよび化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養補助食品(サプリメント)、医薬および農薬等に関する分野において、オリゴ糖(2~十数個の単糖がグリコシド結合によって結合した糖類)の機能性が注目されている。例えば、栄養補助食品の分野では、オリゴ糖の整腸作用(腸内菌叢改善作用)、ミネラル吸収促進作用、抗う蝕作用、抗アレルギー作用および免疫賦活作用等の生理活性作用の利用が期待されている。また、医薬および農薬の分野では、オリゴ糖は、有効成分そのもの、あるいは創薬におけるリード化合物として期待されている。このような機能性化合物としてオリゴ糖を利用する際には、オリゴ糖合成における立体選択の制御、つまり、所望の部位でグリコシド結合を形成することが重要である。立体選択の制御が可能になれば、異性体の分離および精製が不要となるかあるいは簡略化できる。
【0003】
一方、オリゴ糖の合成法は、固相法と液相法に大きく分けられるところ、液相法には、スケールアップが容易であること、および、担体からの切り出しが不要であること等、工業的な利点が多い。
【0004】
そこで、オリゴ糖の合成において、液相法による立体選択性の高い合成方法が望まれている。
【0005】
例えば、特許文献1、非特許文献1および非特許文献2には、電解液中で、電気化学的に糖供与体を酸化してグリコシル化反応を行うことを含む、オリゴ糖の製造方法が記載されている。具体的には、これらの文献に記載の方法は、テトラブチルアンモニウムトリフラート(Bu4NOTf)の存在下で、糖供与体を低温電解酸化することにより、グリコシル化反応の重要な中間体としてグリコシルトリフラートを生成および蓄積すること、その後、その中間体と糖受容体をグリコシル化すること、および、グリコシル化して得たオリゴ糖の前駆体を脱保護することを含む。そして、このような方法によれば、高い立体選択性で効率よくオリゴ糖を製造でき、さらに、自動合成にも有用である旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Toshiki Nokami, et al., Organic Letters, 2015, Vol. 17, No. 6, pp. 1525-1528
【文献】Toshiki Nokami, et al., Organic Letters, 2013, Vol. 15, No. 17, pp. 4520-4523
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、非特許文献1および非特許文献2に記載の方法により、液相法によるオリゴ糖の合成において、立体選択されたオリゴ糖の収率が向上した。そして、さらなる収率の向上が望まれている。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、立体選択された糖鎖の収率に優れた糖鎖の製造方法の提供を目的とする。
【0010】
また、本発明は、上記製造方法に使用される糖鎖合成用のビルディングブロックの提供を目的とする。さらに、本発明は、新規な化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、糖供与体および糖受容体内のグリコシド結合における電子密度を調整して副反応を抑制することにより、解決できた。具体的には、以下の<1>の手段により、好ましくは<2>以降の手段により、上記課題は解決された。
<1>
下記式(1)で表されるビルディングブロック、および、下記式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基と下記式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基とを含むビルディングブロックのうち、少なくとも1種のビルディングブロックであるビルディングブロックAを、電解質を含む非プロトン性有機溶媒中で電解酸化し、
下記式(2)で表されるビルディングブロック、および、下記式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を複数含むビルディングブロックのうち、少なくとも1種のビルディングブロックであるビルディングブロックBと、電解酸化したビルディングブロックAとをグリコシル化することを含む、糖鎖の製造方法;
式(1)
【化1】
式(1)において、
A
1は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z
1~Z
5は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
1は、単結合または2価の連結基を表し、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して1価の有機基を表し、
m個のR
1およびn個のR
2は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、
m+nは、環構造A
1の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す;
式(2)
【化2】
式(2)において、
A
2は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z
6~Z
10は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
2は、単結合または2価の連結基を表し、
R
3は、1価の有機基を表し、
R
4は、水素原子または1価の有機基を表し、q個のR
4のうち少なくとも1つは水素原子であり、
p個のR
3およびq個のR
4は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
pは0以上の整数を表し、qは1以上の整数を表し、
p+qは、環構造A
2の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
<2>
Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が0.2以上であり、かつ、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が0.2以上である、
<1>に記載の製造方法。
<3>
Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が1.5以下であり、かつ、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が1.5以下である、
<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>
Z
1~Z
10のうち少なくとも1つがハロゲン原子である、
<1>~<3>のいずれか1つに記載の製造方法。
<5>
Z
1~Z
5のうち少なくとも1つがハロゲン原子であり、Z
6~Z
10のうち少なくとも1つがハロゲン原子である、
<4>に記載の製造方法。
<6>
Z
1~Z
5のうち、2つがハロゲン原子であって、それ以外が水素原子であり、
Z
6~Z
10のうち、2つがハロゲン原子であって、それ以外が水素原子である、
<5>に記載の製造方法。
<7>
Z
1~Z
5のうち、1つがハロゲン原子であって、それ以外が水素原子であり、
Z
6~Z
10のうち、1つがハロゲン原子であって、それ以外が水素原子である、
<5>に記載の製造方法。
<8>
ハロゲン原子が、塩素原子および臭素原子の少なくとも1種である、
<4>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
<9>
式(1)で表されるビルディングブロックとして、下記式(1-2)で表されるビルディングブロックが使用される、
<1>~<8>のいずれか1つに記載の製造方法;
式(1-2)
【化3】
式(1-2)において、
L
1は、それぞれ独立して単結合または2価の連結基を表し、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して1価の有機基を表し、
R
5およびR
6は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
tは、0~4の整数を表し、
rは、それぞれ独立して0または1を表し、
波線は、それぞれ独立に、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
<10>
tが0または1である<9>に記載の製造方法。
<11>
式(2)で表されるビルディングブロックとして、下記式(2-2)で表されるビルディングブロックが使用される、
<1>~<10>のいずれか1つに記載の製造方法;
式(2-2)
【化4】
式(2-2)において、
R
7は、1価の有機基を表し、
R
8は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を表し、
R
7およびR
8は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
uは、0~4の整数を表し、
rは、それぞれ独立して0または1を表し、
R
8(O)
rのうち少なくとも1つは水酸基であり、
波線は、それぞれ独立に、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
<12>
uが0または1である<11>に記載の製造方法。
<13>
ビルディングブロックAおよびビルディングブロックBのうち少なくとも1種が二糖類であり、成果物として三糖類以上の多糖類を得る、
<1>~<12>のいずれか1つに記載の製造方法。
<14>
下記式(1)で表される、または、下記式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を含む、糖鎖合成におけるビルディングブロック;
式(1)
【化5】
式(1)において、
A
1は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z
1~Z
5は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
1は、単結合または2価の連結基を表し、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して1価の有機基を表し、
m個のR
1およびn個のR
2は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、
m+nは、環構造A
1の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
<15>
下記式(2)で表される、または、下記式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を含む、糖鎖合成におけるビルディングブロック;
式(2)
【化6】
式(2)において、
A
2は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z
6~Z
10は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
2は、単結合または2価の連結基を表し、
R
3は、1価の有機基を表し、
R
4は、水素原子または1価の有機基を表し、q個のR
4のうち少なくとも1つは水素原子であり、
p個のR
3およびq個のR
4は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
pは0以上の整数を表し、qは1以上の整数を表し、
p+qは、環構造A
2の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
<16>
下記式(3)で表される化合物;
式(3)
【化7】
式(3)において、
A
1は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z
1~Z
5は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z
1~Z
5それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
1は、単結合または2価の連結基を表し、
R
1は、フタルイミド基、アジド基、アミド基、アルキル基、-[O(CH
2)
i]
j-OC
kH
2k+1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは1~10の整数を表す。)、-[O(CH
2)
i]
j-OC
kH
2k-1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは2~10の整数を表す。)、-O-C(=O)-C
kH
2k+1(ここで、kは1~10の整数を表す。)、-O(CH
2)
i-Ar(ここで、iは1~10の整数を表し、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)、-O-C(=O)-Ar(ここで、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)またはアルキルシロキシ基を表し、
R
2は、アルキル基、-[(CH
2)
iO]
j-C
kH
2k+1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは1~5の整数を表し、kは1~10の整数を表す。)、-C(=O)-C
kH
2k+1(ここで、kは1~10の整数を表す。)、-(CH
2)
i-Ar(ここで、iは1~10の整数を表し、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)、-C(=O)-Ar(ここで、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)を表し、
m個のR
1およびn個のR
2は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、
m+nは、環構造A
1の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表し、
A
1およびSの間の結合は、エクアトリアル配置である。
<17>
下記式(4)で表される化合物;
式(4)
【化8】
式(4)において、
A
2は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z
6~Z
10は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z
6~Z
10それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L
2は、単結合または2価の連結基を表し、
R
3は、フタルイミド基、アジド基、アミド基、アルキル基、-[O(CH
2)
i]
j-OC
kH
2k+1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは1~10の整数を表す。)、-[O(CH
2)
i]
j-OC
kH
2k-1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは2~10の整数を表す。)、-O-C(=O)-C
kH
2k+1(ここで、kは1~10の整数を表す。)、-O(CH
2)
i-Ar(ここで、iは1~10の整数を表し、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)、-O-C(=O)-Ar(ここで、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)またはアルキルシロキシ基を表し、
R
4は、水素原子、アルキル基、-[(CH
2)
iO]
j-C
kH
2k+1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは1~5の整数を表し、kは1~10の整数を表す。)、-C(=O)-C
kH
2k+1(ここで、kは1~10の整数を表す。)、-(CH
2)
i-Ar(ここで、iは1~10の整数を表し、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)、-C(=O)-Ar(ここで、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)を表し、q個のR
4のうち少なくとも1つは水素原子であり、
p個のR
3およびq個のR
4は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
pは0以上の整数を表し、qは1以上の整数を表し、
p+qは、環構造A
2の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表し、
A
2およびSの間の結合は、エクアトリアル配置である。
<18>
下記式(5)で表される化合物;
式(5)
【化9】
式(5)において、
L
31およびL
32は、それぞれ独立して、単結合、メチレン基またはエチレン基を表し、
R
9は、それぞれ独立して、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基またはベンゾイルオキシ基を表し、
R
10は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基、トリメチルアセチル基、ベンジル基またはベンゾイル基を表し、
xは、0~10の整数を表し、
y1およびy2は、それぞれ独立して、0~2の整数を表し、
z1は、それぞれ独立して、2または3の整数を表し、
z2は、2~4の整数を表し、
y1+z1=3、かつ、y2+z2=4であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
【発明の効果】
【0012】
本発明の糖鎖の製造方法により、液相法によるオリゴ糖の合成において、従来法よりも、立体選択された糖鎖の収率が向上する。本発明のビルディングブロックにより、本発明の上記製造方法が実施できる。さらに、本発明の化合物により、新規材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例における合成シーケンスの一部を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の主要な実施形態について説明する。しかしながら、本発明は、明示した実施形態に限られるものではない。
【0015】
本明細書において「~」という記号を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、その工程の所期の作用が達成できる限りにおいて、他の工程と明確に区別できない工程も含む意味である。
【0017】
本明細書における基(原子団)の表記について、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有しないものと共に、置換基を有するものをも包含する意味である。例えば、単に「アルキル基」と記載した場合には、これは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)、および、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)の両方を包含する意味である。また、単に「アルキル基」と記載した場合には、これは、鎖状でも環状でもよく、鎖状の場合には、直鎖でも分岐でもよい意味である。これらのことは、「アルケニル基」、「アルキレン基」および「アルケニレン基」についても同義とする。
【0018】
本明細書において、Arはアリール基を、Buはブチル基を、Phはフェニル基を、Meはメチル基を、Etはエチル基を、TfOまたはOTfはトリフラート基を、Bnはベンジル基を、Acはアセチル基を、Phthはフタロイル基を、MOMはメトキシメチル基をそれぞれ示している。
【0019】
本明細書において、「C1~10」等の記載における数値範囲は、炭化水素鎖中の炭素数が取りうる数を表す。例えば、「C1~10アルキル基」との記載は、炭素数が1~10のアルキル基を意味する。他の炭化水素基についても同様である。
【0020】
<糖鎖の製造方法>
本発明の糖鎖の製造方法は、
下記式(1)で表されるビルディングブロック、および、下記式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基と下記式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基とを含むビルディングブロックのうち、少なくとも1種のビルディングブロックであるビルディングブロックAを、電解質を含む非プロトン性有機溶媒中で電解酸化し、
下記式(2)で表されるビルディングブロック、および、下記式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を複数含むビルディングブロックのうち、少なくとも1種のビルディングブロックであるビルディングブロックBと、電解酸化したビルディングブロックAとをグリコシル化することを含む。
【0021】
【0022】
式(1)において、
A1は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z1~Z5は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z1~Z5それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L1は、単結合または2価の連結基を表し、
R1およびR2は、それぞれ独立して1価の有機基を表し、
m個のR1およびn個のR2は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、
m+nは、環構造A1の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。なお、環構造A1の構成原子の結合手のうち、環を形成せずかつ硫黄原子S、R1およびL1のいずれにも結合してない結合手には、水素原子が結合しているものとする。
【0023】
【0024】
式(2)において、
A2は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z6~Z10は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z6~Z10それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L2は、単結合または2価の連結基を表し、
R3は、1価の有機基を表し、
R4は、水素原子または1価の有機基を表し、q個のR4のうち少なくとも1つは水素原子であり、
p個のR3およびq個のR4は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
pは0以上の整数を表し、qは1以上の整数を表し、
p+qは、環構造A2の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。なお、環構造A2の構成原子の結合手のうち、環を形成せずかつ硫黄原子S、R3およびL2のいずれにも結合してない結合手には、水素原子が結合しているものとする。
【0025】
本発明に係る糖鎖は、本発明に係るビルディングブロックAおよびビルディングブロックBをグリコシル化することにより得られる。なお、本明細書において、便宜上、ビルディングブロックAを糖鎖合成における「糖供与体」とも称し、ビルディングブロックBを糖鎖合成における「糖受容体」とも称する。本明細書において、「糖鎖」は、水酸基の数については広義の意味に解する。つまり、本明細書において、「糖鎖」は、2つ以上の水酸基(-OH)を含む糖の鎖状化合物の他、脱保護処理により、そのような糖の鎖状化合物となり得る化合物も含む意味である。したがって、本発明の製造方法で直接的に得られる鎖状化合物自体は、下記に示す化合物のように水酸基を有していなくてもよい。水酸基を有していない鎖状化合物は、別途、脱保護処理が実施されて、2つ以上の水酸基(-OH)を含む糖の鎖状化合物となる。脱保護反応の条件は、保護基の種類に応じて適宜決められ、公知の方法を採用することができる。
【0026】
【0027】
本発明では、グリコシド末端の硫黄原子Sに、従来よりも強い電子求引性をもつ官能基が存在することにより、液相法によるオリゴ糖の合成において、従来法よりも、立体選択された糖鎖の収率が向上する。これは、次のとおりと推定される。
【0028】
グリコシドを使用した液相法によるオリゴ糖の合成においては、下記反応式(S1)で表される活性化した状態のグリコシド(例えば、反応式(S1)中のグリコシルトリフラート)が、重要な反応中間体として認識されている。例えば、トリフラートアニオンCF3SO3
-の存在下で、糖供与体1tを低温電解酸化した場合には、まず、グリコシル化反応の中間体としてグリコシルトリフラートが生成および蓄積される。その後、その中間体の活性部位(例えば、トリフラート部位)と糖受容体2tの水酸基とが反応して、糖供与体および糖受容体がグリコシル化することで、立体選択的に糖鎖3tが得られる。以下、反応式(S1)の反応を主反応ともいう。
【0029】
【0030】
しかしながら、従来の液相法によるオリゴ糖の合成においては、上記主反応以外の副反応の発生も比較的多く、結果的に、主反応の効率を下げる要因となっていることが、今回見出された。そのような副反応は、主として下記反応式(S2)で表される反応であると推定される。具体的には、反応中間体の生成後、中間体の活性部位(例えばトリフラート部位)と糖受容体2tの硫黄原子とが反応して、反応中間体が、見かけ上糖供与体1tに戻ることで、糖供与体1tと糖受容体2tのグリコシル化が阻害されていると推定される。
【0031】
【0032】
そこで、本発明のビルディングブロックでは、硫黄原子に、従来よりも強い電子求引性をもつ官能基を連結している。これにより、硫黄原子の電子密度が相対的に減少し、硫黄原子の反応性が低下することで、副反応が抑制されると考えられる。そして、主反応の効率が向上し、立体選択性の高い(つまり、所望の部位でグリコシド結合を形成している)糖鎖の収率が向上する。
【0033】
<<ビルディングブロックA>>
ビルディングブロックAは、式(1)で表されるビルディングブロック単体でもよく、式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基と式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基とを含むビルディングブロックでもよく、これらの混合物でもよい。なお、式(2)で表されるビルディングブロックの詳細な説明については、ビルディングブロックBの説明とともに行う。
【0034】
式(1)において、環構造A1の構成は、生成する目的の糖鎖の構成に応じて適宜設計され、本発明の製造方法を実施する上で、特段制限はない。環構造A1中の炭素数は、7以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。環構造A1において、環構造に含まれる酸素原子の数は、特に制限されないが、通常は1である。環構造A1は、ビルディングブロックAを糖鎖合成に使用する場合には、環構造中の酸素原子は1つのみであることが有用である。さらに、環構造A1は、5つの炭素原子と1つの酸素原子を頂点として六員環を構成しているピラノース環、または、4つの炭素原子と1つの酸素原子を頂点として五員環を構成しているフラノース環を有することが好ましい。
【0035】
R1について、1価の有機基は、グリコシル化反応が可能である範囲で、特に制限されない。この1価の有機基の構成原子数は、グリコシル化反応において、所望の特定の部位でグリコシド結合を形成させる観点から、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることが更に好ましい。構成原子数が30以下であることにより、隣接するビルディングブロックとのグリコシル化反応が阻害されにくくなる。また、所望の部位でグリコシド結合を形成する観点から、上記構成原子数は、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましい。構成原子数が3以上であることにより、グリコシド結合の結合形式をβ結合に制限しやすくなる。また、所望の部位でグリコシド結合を形成する観点から、R1は、アノマー(C1)位に隣接するC2位に結合していることが好ましい。
【0036】
R1は、例えば、フタルイミド基、アジド基、アミド基、アルキル基、-[O(CH2)i]j-OCkH2k+1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは1~10の整数を表す。)、-[O(CH2)i]j-OCkH2k-1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは2~10の整数を表す。)、-O-C(=O)-CkH2k+1(ここで、kは1~10の整数を表す。)、-O(CH2)i-Ar(ここで、iは1~10の整数を表し、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)、-O-C(=O)-Ar(ここで、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)またはアルキルシロキシ基であることが好ましい。
【0037】
R1がアミド基であるとき、アミド基は、置換基として、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル基またはアリール基を有することができる。置換基としてのアルキル基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~3であることが更に好ましい。置換基としてのアリール基の炭素数は、6~10であることが好ましい。置換基を有する場合、具体的には、アミド基は、例えば、メチルアミド基(アセチルアミノ基)、エチルアミド基、n-プロピルアミド基、イソプロピルアミド基、n-ブチルアミド基もしくはt-ブチルアミド基、または、フェニルアミド基(ベンゾイルアミノ基)もしくはナフチルアミド基であることが好ましく、アセチルアミノ基、エチルアミド基またはベンゾイルアミノ基であることがより好ましく、アセチルアミノ基またはベンゾイルアミノ基であることが更に好ましい。
【0038】
アルキル基は、直鎖、分岐もしくは環状の構造を有することができ、炭素数は、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~3であることが更に好ましい。アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基またはt-ブチル基であることが好ましく、メチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
【0039】
-[O(CH2)i]j-OCkH2k+1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは1~10の整数を表す。)は、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位CkH2k+1を有し、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位(CH2)iを有することができる。これらのアルキル部位における整数iおよびkは、それぞれ1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。整数jは、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましく、0でもよい。つまり、この基は、-OCkH2k+1(kは1または2の整数を表す。)または-O(CH2)i-OCkH2k+1(iは1または2の整数を表し、kは1または2の整数を表す。)であることが特に好ましい。具体的には、この基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、-OCH2OCH3(メトキシメチルオキシ基)、-OC2H4OCH3、-OCH2OC2H5、-OC2H4OC2H5、-(OCH2)2OCH3または-(OCH2)2OC2H5であることが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、メトキシメチルオキシ基、-OC2H4OCH3、-OCH2OC2H5または-OC2H4OC2H5であることがより好ましく、メトキシ基またはメトキシメチルオキシ基であることが更に好ましい。
【0040】
-O-[(CH2)i]j-OCkH2k-1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは2~10の整数を表す。)は、直鎖、分岐もしくは環状のアルケニル部位CkH2k-1を有し、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位(CH2)iを有することができる。アルケニル部位における整数kは、3~8であることが好ましく、3~6であることがより好ましく、3または4であることが更に好ましい。アルキル部位における整数iは、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。整数jは、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましく、0でもよい。つまり、この基は、-OC3H5または-O(CH2)i-OC3H5(整数iは1または2を表す。)であることが特に好ましい。具体的には、この基は、例えば、エテニルオキシ基、2-プロペニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、-OCH2OCH=CH2、-OCH2OCH2CH=CH2、-OCH2OC2H4CH=CH2、-OC2H4OCH=CH2、-OC2H4OCH2CH=CH2または-OC2H4OCH2CH=CH2であることが好ましく、2-プロペニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、-OCH2OCH2CH=CH2または-OCH2OC2H4CH=CH2であることがより好ましく、2-プロペニルオキシ基または-OCH2OCH2CH=CH2であることが更に好ましい。
【0041】
-O-C(=O)-CkH2k+1(ここで、kは1~10の整数を表す。)は、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位を有し、アルキル部位における整数kは、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。具体的には、この基は、例えば、メチルカルボニルオキシ基(アセチルオキシ基)、エチルカルボニルオキシ基またはn-プロピルカルボニルオキシ基であることが好ましく、アセチルオキシ基であることがより好ましい。
【0042】
-O(CH2)i-Ar(ここで、iは1~10の整数を表し、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)は、フェニル基またはナフチル基を有することができ、フェニル基を有することが好ましい。また、この基は、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位(CH2)iを有する。アルキル部位における整数iは、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。具体的には、この基は、例えば、-OCH2-Ph(ベンジルオキシ基)、-OC2H4-Phまたは-OC3H6-Phであることが好ましく、ベンジルオキシ基であることがより好ましい。
【0043】
さらに、この-O(CH2)i-Arは、アリール部位に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数1~10アルキルオキシ基を置換基として有することも好ましい。これらの置換基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。具体的には、この置換基は、メチル基、エチル基、メトキシ基またはエトキシ基であることが好ましく、メチル基またはメトキシ基であることがより好ましい。置換基の数は、2つまたは1つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。置換基の位置は、オルト(o)位、メタ(m)位およびパラ(p)位のいずれでもよいが、パラ位であることが好ましい。したがって、置換基を有する場合、-O(CH2)i-Arは、o-、m-もしくはp-メチルベンジルオキシ基またはo-、m-もしくはp-メトキシベンジルオキシ基であることが好ましく、p-メチルベンジルオキシ基またはp-メトキシベンジルオキシ基であることがより好ましい。
【0044】
-O-C(=O)-Ar(ここで、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)は、フェニル基またはナフチル基を有することができ、フェニル基を有することが好ましい。つまり、この基は、フェニルカルボニルオキシ基(ベンゾイルオキシ基)であることが好ましい。
【0045】
さらに、この-O-C(=O)-Arは、アリール部位に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数1~10のアルキルオキシ基を置換基として有することも好ましい。これらの置換基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。具体的には、この置換基は、メチル基、エチル基、メトキシ基またはエトキシ基であることが好ましく、メチル基またはメトキシ基であることがより好ましい。置換基の数は、2つまたは1つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。置換基の位置は、オルト(o)位、メタ(m)位およびパラ(p)位のいずれでもよいが、パラ位であることが好ましい。したがって、置換基を有する場合、-O-C(=O)-Arは、o-、m-もしくはp-メチルベンゾイルオキシ基またはo-、m-もしくはp-メトキシベンゾイルオキシ基であることが好ましく、p-メチルベンゾイルオキシ基またはp-メトキシベンゾイルオキシ基であることがより好ましい。
【0046】
アルキルシロキシ基は、モノアルキルシロキシ基、ジアルキルシロキシ基またはトリアルキルシロキシ基のいずれであってもよく、トリアルキルシロキシ基であることが好ましい。アルキルシロキシ基中のアルキル基は、直鎖、分岐もしくは環状の構造をとることができ、直鎖構造であることが好ましい。このアルキル基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。具体的には、アルキルシロキシ基は、例えば、トリメチルシロキシ基、ジメチルシロキシ基、エチルジメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、プロピルジメチルシロキシ基またはt-ブチルジメチルシロキシ基であり、トリメチルシロキシ基であることがより好ましい。
【0047】
本発明において、R1の有機基は、上記で説明した置換基以外にも、置換基を有することができる。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭化水素基、複素環基、-ORt1、-CORt1、-COORt1、-OCORt1、-NRt1Rt2、-NHCORt1、-CONRt1Rt2、-NHCONRt1Rt2、-NHCOORt1、-SRt1、-SO2Rt1、-SO2ORt1、-NHSO2Rt1または-SO2NRt1Rt2が挙げられる。Rt1およびRt2は、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基または複素環基を表す。Rt1とRt2が炭化水素基である場合には、これらが互いに結合して環を形成してもよい。
【0048】
置換基について、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~2がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、直鎖または分岐が好ましく、分岐がより好ましい。アルケニル基の炭素数は、2~10が好ましく、2~5がより好ましく、2または3が特に好ましい。アルケニル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、直鎖または分岐が好ましい。アルキニル基の炭素数は、2~10が好ましく、2~5がより好ましい。アルキニル基は直鎖および分岐のいずれでもよく、直鎖または分岐が好ましい。アリール基の炭素数は、6~10が好ましく、6~8がより好ましく、6~7がさらに好ましい。複素環基は、単環であってもよく、縮合環であってもよい。複素環基は、単環または縮合数が2~4の縮合環が好ましい。複素環基の環を構成するヘテロ原子の数は1~3が好ましい。複素環基の環を構成するヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましい。複素環基の環を構成する炭素原子の数は3~10が好ましく、3~8がより好ましく、3~5がより好ましい。
【0049】
炭化水素基および複素環基は、さらに置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。ここでの置換基としては、上述した置換基が挙げられる。
【0050】
R1は、所望の部位でのグリコシド結合形成やコストの観点から、置換基を有しないことが好ましく、特に、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基、p-メチルベンジルオキシ基、p-メトキシベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p-メチルベンゾイルオキシ基、p-メトキシベベンゾイルオキシ基、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチルオキシ基またはトリメチルシロキシ基であることが好ましく、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基またはベンゾイルオキシ基であることがより好ましく、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基またはベンジルオキシ基であることが更に好ましい。mは、所望の部位でのグリコシド結合を形成する観点から、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。m個のR1は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、mが2以上である場合には、互いに同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。
【0051】
R2は、水酸基の保護基であることが好ましく、糖化合物の水酸基の保護基として一般的に使用されるものであれば、本発明の製造方法において充分に水酸基を保護できるため、特に制限されない。R2は、例えばProtective Group in Organic Synthesis, Chapter 2, pp. 10-142, Theodora W. Greene and Peter G. M. Wuts, 2nded.に記載される水酸基の保護基等であることが好ましい。より具体的には、R2は、例えば、それぞれ独立に、アルキル基、-[(CH2)iO]j-CkH2k+1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは1~5の整数を表し、kは1~10の整数を表す。)、-C(=O)-CkH2k+1(ここで、kは1~10の整数を表す。)、-(CH2)i-Ar(ここで、iは1~10の整数を表し、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)、-C(=O)-Ar(ここで、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)であることが好ましい。
【0052】
アルキル基は、直鎖、分岐もしくは環状の構造を有することができ、炭素数は、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~3であることが更に好ましい。アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基またはt-ブチル基であることが好ましく、メチル基またはエチル基であることが好ましく、メチル基であることが更に好ましい。
【0053】
-[(CH2)iO]j-CkH2k+1(ここで、iは1~10の整数を表し、jは0~5の整数を表し、kは1~10の整数を表す。)は、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位CkH2k+1を有し、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位(CH2)iを有することができる。これらのアルキル部位における整数iおよびkは、それぞれ1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。整数jは、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましく、0でもよい。つまり、この基は、-CkH2k+1(kは1または2の整数を表す。)または-(CH2)i-OCkH2k+1(iは1または2の整数を表し、kは1または2の整数を表す。)であることが特に好ましい。具体的には、この基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、-CH2OCH3(メトキシメチル基MOM)、-C2H4OCH3、-CH2OC2H5、-C2H4OC2H5、-(CH2O)2CH3または-(CH2O)2C2H5であることが好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、メトキシメチル基、-C2H4OCH3、-CH2OC2H5または-C2H4OC2H5であることがより好ましく、メチル基またはメトキシメチル基であることが更に好ましい。
【0054】
-C(=O)-CkH2k+1(ここで、kは1~10の整数を表す。)は、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位を有し、アルキル部位における整数kは、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。具体的には、この基は、例えば、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基またはn-プロピルカルボニル基であることが好ましく、アセチル基であることがより好ましい。
【0055】
-(CH2)i-Ar(ここで、iは1~10の整数を表し、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)は、フェニル基またはナフチル基を有することができ、フェニル基を有することが好ましい。また、この基は、直鎖、分岐もしくは環状のアルキル部位(CH2)iを有する。アルキル部位における整数iは、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。具体的には、この基は、例えば、-CH2-Ph(ベンジル基)、-C2H4-Phまたは-C3H6-Phであることが好ましく、ベンジル基であることがより好ましい。
【0056】
さらに、この-(CH2)i-Arは、アリール部位に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数1~10アルキルオキシ基を置換基として有することも好ましい。好ましい置換基の内容は、R1の-O(CH2)i-Arの場合と同様である。したがって、置換基を有する場合、-(CH2)i-Arは、o-、m-もしくはp-メチルベンジル基またはo-、m-もしくはp-メトキシベンジル基であることが好ましく、p-メチルベンジル基またはp-メトキシベンジル基であることがより好ましい。
【0057】
-C(=O)-Ar(ここで、Arは炭素数6~10のアリール基を表す。)は、フェニル基またはナフチル基を有することができ、フェニル基を有することが好ましい。つまり、この基は、フェニルカルボニル基(ベンゾイル基)であることが好ましい。
【0058】
さらに、この-C(=O)-Arは、アリール部位に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数1~10のアルキルオキシ基を置換基として有することも好ましい。好ましい置換基の内容は、R1の-O-C(=O)-Arの場合と同様である。したがって、置換基を有する場合、-C(=O)-Arは、o-、m-もしくはp-メチルベンゾイル基またはo-、m-もしくはp-メトキシベンゾイル基であることが好ましく、p-メチルベンゾイル基またはp-メトキシベンゾイル基であることがより好ましい。
【0059】
アルキルシリル基は、モノアルキルシリル基、ジアルキルシリル基またはトリアルキルシリル基のいずれであってもよく、トリアルキルシリル基であることが好ましい。アルキルシリル基中のアルキル基は、直鎖、分岐もしくは環状の構造をとることができ、直鎖構造であることが好ましい。このアルキル基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1または2であることが更に好ましい。具体的には、アルキルシリル基は、例えば、トリメチルシリル基、ジメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、トリエチルシリル基、プロピルジメチルシリル基またはt-ブチルジメチルシリル基であり、トリメチルシリル基であることがより好ましい。
【0060】
R2は、所望の部位でのグリコシド結合形成やコストの観点から、置換基を有しないことが好ましく、特に、メチル基、エチル基、アセチル基、トリメチルアセチル基、ベンジル基、p-メチルベンジル基、p-メトキシベンジル基、ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、p-メトキシベンゾイル基、トリメチルシリル基またはt-ブチルジメチルシリル基であることが好ましく、アセチル基、トリメチルアセチル基、アセチルアミド基、ベンジル基またはベンゾイル基であることが更に好ましい。
【0061】
本発明において、R2の有機基は、上記で説明した置換基以外にも、置換基を有することができる。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭化水素基、複素環基、-ORt1、-CORt1、-COORt1、-OCORt1、-NRt1Rt2、-NHCORt1、-CONRt1Rt2、-NHCONRt1Rt2、-NHCOORt1、-SRt1、-SO2Rt1、-SO2ORt1、-NHSO2Rt1または-SO2NRt1Rt2が挙げられる。Rt1およびRt2は、それぞれ独立して水素原子、炭化水素基または複素環基を表す。Rt1とRt2が炭化水素基である場合には、これらが互いに結合して環を形成してもよい。その他の内容は、R1の置換基の場合と同様である。
【0062】
L1において、2価の連結基は、置換基を有してもよい直鎖または分岐のアルキレン基、置換基を有してもよい直鎖または分岐のアルケニレン基、-O-、-C(=O)-、-NR-および-S-から選択される1種または2種以上の組み合わせからなる基であることが好ましい。ここで、Rは水素原子または置換基を表す。置換基については、上述したとおりであり、Rは水素原子であることが好ましい。置換基を有してもよいアルキレン基の炭素数は1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、置換基を有してもよいアルキレン基は、メチレン基またはエチレン基であることがさらに好ましい。置換基を有してもよいアルケニレン基の炭素数は2~5であることが好ましく、2または3であることがより好ましく、置換基を有してもよいアルケニレン基は、ビニル基またはプロぺニル基であることがさらに好ましい。特に、L1は、単結合、または、置換基を有してもよいC1~5アルキレン基であることが好ましく、単結合、メチレン基またはエチレン基であることがより好ましい。
【0063】
nは、m+nが環構造A1の炭素数以下である範囲で、適宜設定される。nの数によって、糖鎖あるいは脱保護処理後の糖鎖における水酸基の数を調整できる。nは、2から「環構造A1の炭素数-2」までの整数であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。n個のR2O-L1は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、nが2以上である場合には、同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。
【0064】
本発明では、特に、式(1)において、A1が、ピラノース環またはフラノース環であり、R1が、それぞれ独立して、置換基を有しない、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基、p-メチルベンジルオキシ基、p-メトキシベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p-メチルベンゾイルオキシ基、p-メトキシベベンゾイルオキシ基、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチルオキシ基またはトリメチルシロキシ基であり、R2が、それぞれ独立して、置換基を有しない、メチル基、エチル基、アセチル基、トリメチルアセチル基、ベンジル基、p-メチルベンジル基、p-メトキシベンジル基、ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、p-メトキシベンゾイル基、トリメチルシリル基またはt-ブチルジメチルシリル基であり、L1が、それぞれ独立して、単結合または置換基を有しないメチレン基もしくはエチレン基であることが好ましい。そして、式(1)において、より好ましくは、A1が、フラノース環であり、R1が、それぞれ独立して、置換基を有しない、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基であり、R2が、それぞれ独立して、置換基を有しない、メチル基、アセチル基、ベンジル基、ベンゾイル基であり、L1が、それぞれ独立して、単結合または置換基を有しないメチレン基である。
【0065】
式(1)で表されるビルディングブロックとしては、さらに、下記式(1-2)で表されるビルディングブロックが使用されることが好ましい。
【0066】
【0067】
式(1-2)において、
L1は、それぞれ独立して単結合または2価の連結基を表し、
R5およびR6は、それぞれ独立して1価の有機基を表し、
R5およびR6は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
tは、0~4の整数を表し、
rは、それぞれ独立して0または1を表し、
波線は、それぞれ独立に、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
【0068】
式(1-2)中のR5、R6およびL1は、それぞれ式(1)中のR1、R2およびL1と同義である。式(1-2)において、t=0または1、つまり環構造A1はフラノース環またはピラノース環であることが好ましい。また、rは、すべて1であることが好ましい。酸素原子に隣接するC5位の炭素に結合するL1は、メチレン基であり、他のL1は単結合であることが好ましい。
【0069】
式(1)または式(1-2)で表されるビルディングブロックの分子量は、350~900であることが好ましく、400~800であることがより好ましく、450~750であることが更に好ましく、500~700であることが特に好ましい。
【0070】
式(1)の環構造A1およびその周囲の好ましい態様は、例えば下記のとおりである。
【0071】
【0072】
【0073】
硫黄原子Sは、環構造A1のどの部位に結合していてもよく、酸素原子に隣接する炭素(いわゆるアノマー位)に結合していることが好ましい。また、硫黄原子は、環構造A1に対して、エクアトリアルおよびアキシアルのどちらの立体配置にあってもよく、エクアトリアル配置であることがより好ましい。
【0074】
Z1~Z5における電子求引性基の種類および数は、それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であれば、特に限定されない。本明細書において、「電子求引性基」は、X原子に対するフェニル基上のオルト位、メタ位およびパラ位の位置ごとに、ハメットの置換基定数σが正の値をとる置換基を意味し、ハメットの「σ値」は、ハメットの置換基定数σを意味する。また、ハメットの置換基定数σは、安息香酸およびその誘導体の25℃の水溶液中における解離反応に基づく値とする。なお、ハメットの置換基定数σが負の値をとることは、その置換基が電子供与性を有することを示している。
【0075】
メタ位およびパラ位のσ値は、多くの置換基について、Chem. Rev. 1991, vol. 91, pp. 165-195に記載されており、この文献に記載されているσ値については、その値を採用する。一方、σ値が未知の置換基については、上記文献に記載されている方法で算出することができる。オルト位のσ値は、一般に、パラ位のσ値に類似しているため、パラ位のσ値を代用する。
【0076】
電子求引性基は、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アジド基、ハロゲン化アルキル基およびアシル基の少なくとも1つであることが好ましく、ハロゲン原子の少なくとも1つであることがより好ましく、塩素原子および臭素原子の少なくとも1つであることが更に好ましい。
【0077】
代表的な置換基のσ値を下記表1に示す。
【0078】
【0079】
Z1~Z5それぞれのハメットのσ値の合計は、0.15以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.22以上であることが更に好ましい。σ値の合計が大きいほど、硫黄原子の電子密度を減少させ、反応性を低下させることができる。また、このσ値の合計は、2以下であることが好ましい。このσ値の合計が2以下である場合には、電解酸化工程において、糖供与体の活性化(反応中間体の生成)が容易となる。そして、このσ値の合計は、1.5以下であることがより好ましく、1.0以下であることが更に好ましい。
【0080】
Z1~Z5の好ましい組み合わせは、下記のとおりである。
【0081】
【0082】
式(1)で表されるビルディングブロックの好ましい具体例は、下記のとおりである。表中、「Sa」は、式(1)における環構造A1側の部分構造(硫黄原子を含む。)を表し、「Sb」は、式(1)におけるフェニル基側の部分構造(硫黄原子を含まない。)を表す。また、「Sa」の欄に記載の記号は、環構造A1およびその周囲の好ましい態様として示した具体例の各記号を示し、「Sb」の欄に記載の記号は、Z1~Z5の好ましい組み合わせとして示した具体例の各記号を示す。表中の化合物はそれぞれ、「Sa」欄に記載の部分構造と、「Sb」欄に記載の部分構造とが、アスタリスク「*」の部分において結合した構造を有する。
【0083】
【0084】
【0085】
ビルディングブロックAが、式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基と、式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基とを含むビルディングブロックである場合には、例えば、下記のような態様が考えられる。このようなビルディングブロックAは、例えば、式(1)で表されるビルディングブロックと、式(2)で表されるビルディングブロックとをグリコシル化することで得られる。さらに、そのようなグリコシル化を複数回行えば、三糖類や四糖類のビルディングブロックAも調製可能である。また、糖鎖の結合は、β結合(硫黄原子がエクアトリアル配置にある結合)でもよく、α結合(硫黄原子がアキシアル配置にある結合)でもよく、C1-C3結合、C1-C4結合、C1-C5結合およびC1-C6結合のいずれの結合でもよい。
【0086】
【0087】
式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基の好ましい態様は、例えば下記のとおりである。
【0088】
【0089】
ビルディングブロックAが、式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基と、式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基とを含むビルディングブロックの好ましい具体例は、下記のとおりである。表中、「Sf」は、式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を表し、「Sg」は、式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を表す。また、「Sf」の欄に記載の記号は、式(1)で表されるビルディングブロック由来の糖残基の好ましい態様として示した具体例の各記号を示し、「Sg」の欄に記載の記号は、式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基の好ましい態様として下記で別途説明する具体例の各記号を示す。表中の化合物はそれぞれ、「Sf」欄に記載の部分構造と、「Sg」欄に記載の部分構造と、硫黄原子(*-S-*)と、「Sb」欄に記載の部分構造とが、順番にアスタリスク「*」の部分において結合した構造「Sf-Sg-S-Sb」を有する。なお、「Sg」欄に記載の部分構造と「Sb」欄に記載の部分構造との間には、上記のとおり、硫黄原子を補うものとする。
【0090】
【0091】
<<ビルディングブロックB>>
ビルディングブロックBは、式(2)で表されるビルディングブロック単体でもよく、式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を複数含むビルディングブロックでもよく、これらの混合物でもよい。
【0092】
式(2)において、環構造A2の構成は、生成する目的の糖鎖の構成に応じて適宜設計され、本発明の製造方法を実施する上で、特段制限はない。環構造A2中の炭素数は、7以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。環構造A2において、式(1)で表されるビルディングブロックと同様に、環構造に含まれる酸素原子の数も、特に制限されない。酸素原子は1つのみ頂点に含まれることが好ましい。さらに、環構造A2は、用途の観点から、環構造中の酸素原子は1つのみであることが有用であり、5つの炭素原子と1つの酸素原子を頂点として六員環を構成しているピラノース環、または、4つの炭素原子と1つの酸素原子を頂点として五員環を構成しているフラノース環を有することが好ましい。
【0093】
R3について、1価の有機基は、式(1)中のR1と同様に、グリコシル化反応が可能である範囲で、特に制限されない。この1価の有機基の構成原子数は、グリコシル化反応において所望の部位でグリコシド結合を形成する観点から、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることが更に好ましい。構成原子数が30以下であることにより、隣接するビルディングブロックとのグリコシル化反応が阻害されにくくなる。また、所望の部位でグリコシド結合を形成する観点から、上記構成原子数は、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましい。構成原子数が3以上であることにより、グリコシド結合の結合形式をβ結合に制限しやすくなる。
【0094】
R3は、式(1)中のR1と同様に、例えば、フタルイミド基、アジド基、(C1~10アルキルオキシ)n基(nは1~5の整数である。)、C1~10アルキルカルボニル基、C1~10アルキルカルボニルオキシ基、C1~10アルキルアミド基またはトリC1~5アルキルシロキシ基であることが好ましい。これらの有機基は、置換基を有することができ、具体的な態様については、式(1)中のR1と同様である。R3は、所望の部位でグリコシド結合を形成する観点から、置換基を有しないことが好ましく、特に、無置換のフタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチルオキシ基またはトリメチルシロキシ基であることが好ましく、無置換のフタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基またはベンゾイルオキシ基であることがより好ましく、無置換のフタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基またはベンジルオキシ基であることが更に好ましい。pは、所望の部位でグリコシド結合を形成する観点から、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。p個のR3は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、pが2以上である場合には、互いに同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。
【0095】
R4が1価の有機基である場合には、R4は、水酸基の保護基であることが好ましく、糖化合物の水酸基の保護基として一般的に使用されるものであれば特に制限されない。水酸基の保護基については、式(1)におけるR2と同様である。R4中の水素原子の数は、所望の部位でのグリコシド結合形成の観点から、3つ以下であることが好ましく、2つ以下であることがより好ましく、1つであることが更に好ましい。R4は、所望の部位でグリコシド結合を形成する観点から、置換基を有しないことが好ましく、特に、メチル基、エチル基、アセチル基、トリメチルアセチル基、ベンジル基(例えば、p-メトキシベンジル基、p-メチルベンジル基)、ベンゾイル基、トリメチルシリル基またはt-ブチルジメチルシリル基であることが好ましく、アセチル基、トリメチルアセチル基、アセチルアミド基、ベンジル基またはベンゾイル基であることが更に好ましい。
【0096】
L2において、2価の連結基は、置換基を有してもよいC1~5アルキレン基、-O-、-C(=O)-、-NR-および-S-から選択される1種または2種以上の組み合わせからなる基であることが好ましい。置換基を有してもよいアルキレン基の炭素数は1~3であることが好ましく、置換基を有してもよいアルキレン基は、メチレン基またはエチレン基であることがより好ましい。ここで、Rは置換基を表す。置換基については、上述したとおりである。特に、L2は、単結合、または、置換基を有してもよいC1~5アルキレン基であることが好ましく、単結合、メチレン基またはエチレン基であることがより好ましい。
【0097】
qは、p+qが環構造A2の炭素数以下である範囲で、適宜設定される。qの数によって、糖鎖あるいは脱保護処理後の糖鎖における水酸基の数を調整できる。qは、2から「環構造A2の炭素数-2」までの整数であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。q個のR4O-L2は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、qが2以上である場合には、同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。
【0098】
式(2)で表されるビルディングブロックとしては、さらに、下記式(2-2)で表されるビルディングブロックが使用されることが好ましい。
【0099】
式(2-2)
【化26】
式(2-2)において、
R
7は、1価の有機基を表し、
R
8は、それぞれ独立して水素原子または1価の有機基を表し、
R
7およびR
8は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
uは、0~4の整数を表し、
rは、それぞれ独立して0または1を表し、
R
8(O)
rのうち少なくとも1つは水酸基であり、
波線は、それぞれ独立に、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
【0100】
式(2-2)中のR7、R8およびL2は、それぞれ式(2)中のR3、R4およびL2と同義である。式(2-2)において、u=0または1、つまり環構造A1はフラノース環またはピラノース環であることが好ましい。また、rは、すべて1であることが好ましい。
【0101】
式(2)または式(2-2)で表されるビルディングブロックの分子量は、200~600であることが好ましく、250~550であることがより好ましく、300~500であることが更に好ましい。
【0102】
式(2)の環構造A2およびその周囲の好ましい態様は、例えば下記のとおりである。
【0103】
【0104】
【0105】
硫黄原子は、環構造A2のどの部位に結合していてもよく、酸素原子に隣接する炭素(いわゆるアノマー位)に結合していることが好ましい。また、硫黄原子は、環構造A2に対して、エクアトリアルおよびアキシアルのどちらの立体配置にあってもよく、エクアトリアル配置であることがより好ましい。
【0106】
Z6~Z10における電子求引性基の種類および数は、それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であれば、特に限定されない。ハメットのσ値の合計は、式(1)のZ1~Z5の場合と同様の方法により算出する。式(1)のZ1~Z5の組み合わせと、式(2)のZ6~Z10の組み合わせは、同じであっても異なっていてもよい。
【0107】
Z6~Z10それぞれのハメットのσ値の合計は、0.15以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.22以上であることが更に好ましい。σ値の合計が大きいほど、硫黄原子の電子密度を減少させ、反応性を低下させることができる。また、このσ値の合計は、2以下であることが好ましい。このσ値の合計が2以下である場合には、電解酸化工程において、糖供与体の活性化(反応中間体の生成)が容易となる。そして、このσ値の合計は、1.5以下であることがより好ましく、1.0以下であることが更に好ましい。式(1)のZ1~Z5についてのσ値の合計と、式(2)のZ6~Z10についてのσ値の合計は、同じであっても異なっていてもよい。
【0108】
Z6~Z10の好ましい組み合わせは、例えばZ1~Z5について例示した組み合わせと同様である。特に、Z1~Z10のうち少なくとも1つがハロゲン原子であることが好ましい。さらに、Z1~Z5のうち少なくとも1つがハロゲン原子であり、Z6~Z10のうち少なくとも1つがハロゲン原子であることがより好ましく、例えば、Z1~Z5のうち、2つがハロゲン原子であって、それ以外が水素原子であり、Z6~Z10のうち、2つがハロゲン原子であって、それ以外が水素原子である態様、あるいは、Z1~Z5のうち、1つがハロゲン原子であって、それ以外が水素原子であり、Z6~Z10のうち、1つがハロゲン原子であって、それ以外が水素原子である態様が考えられる。
【0109】
式(2)で表されるビルディングブロックの好ましい具体例は、下記のとおりである。表中、「Sc」は、式(2)における環構造A2側の部分構造(硫黄原子を含む。)を表す。また、「Sc」の欄に記載の記号は、環構造A2およびその周囲の好ましい態様として示した具体例を示す。「Sb」は、式(1)の場合と同様に、フェニル基側の部分構造(硫黄原子を含まない。)を表す。表中の化合物はそれぞれ、「Sc」欄に記載の部分構造と、「Sb」欄に記載の部分構造とが、アスタリスク「*」の部分において結合した構造を有する。
【0110】
【0111】
【0112】
ビルディングブロックBが、式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を複数含むビルディングブロックである場合には、例えば、下記のような態様が考えられる。このようなビルディングブロックBは、例えば、式(2)で表されるビルディングブロック同士をグリコシル化することで得られる。さらに、そのようなグリコシル化を複数回行えば、三糖類や四糖類のビルディングブロックBも調製可能である。また、このようなビルディングブロックBは、ビルディングブロックAとして生成した糖鎖を部分的に脱保護することでも調製可能である。糖鎖の結合は、β結合でもよく、α結合でもよく、C1-C3結合、C1-C4結合、C1-C5結合およびC1-C6結合のいずれの結合でもよい。
【0113】
【0114】
式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基の好ましい態様は、例えば下記のとおりである。
【化31】
【化32】
【0115】
ビルディングブロックBが、式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基を複数含むビルディングブロックの好ましい具体例は、下記のとおりである。表中、「Sg1」は、式(2)で表されるビルディングブロック由来の1つ目の糖残基を表し、「Sg2」は、式(2)で表されるビルディングブロック由来の2つ目の糖残基を表す。また、「Sg1」および「Sg2」の欄に記載の記号は、式(2)で表されるビルディングブロック由来の糖残基の好ましい態様として示した具体例を示す。表中の化合物はそれぞれ、「Sg1」欄に記載の部分構造と、「Sg2」欄に記載の部分構造と、硫黄原子(*-S-*)と、「Sb」欄に記載の部分構造とが、順番にアスタリスク「*」の部分において結合した構造「Sg1-Sg2-S-Sb」を有する。なお、「Sg1」欄に記載の部分構造において、結合に関与しないアスタリスクは水素原子に置き換え、「Sg2」欄に記載の部分構造と「Sb」欄に記載の部分構造との間には、上記のとおり、硫黄原子を補うものとする。
【0116】
【0117】
<<電解質>>
本発明の製造方法において使用する電解質は、ビルディングブロックAを反応中間体として活性化させることができれば、特に限定されないが、硫黄系アニオン(硫黄原子を含むアニオンを意味する。以下同じ。)、リン系アニオン、ホウ素系アニオンおよび塩素酸化物系アニオンの少なくとも1種を含む電解質であることが好ましく、硫黄系アニオンまたは塩素酸化物系アニオンを含む電解質であることがより好ましく、硫黄系アニオンを含む電解質であることがさらに好ましい。硫黄系アニオンは、例えば、スルファート系アニオン(XSO4
-:Xは任意の基)、スルホナート系アニオン(XSO3
-)およびフルオロスルホン酸系アニオン(フッ素を含有する硫黄酸化物のアニオン)などである。リン系アニオンは、例えば、ホスファート系アニオン(XPO4
-)、ホスホナート系アニオン(XPO3
-)、ホスフィナート系アニオン(XPO2
-)およびフルオロリン酸系アニオン(フッ素を含有するリン酸化物のアニオン)などである。ホウ素系アニオンは、例えば、ホウ酸系アニオン(XBO3
-)、ボロン酸系アニオン(XBO2
-)およびフルオロホウ酸系アニオン(フッ素を含有するホウ素酸化物のアニオン)などである。また、塩素酸化物系アニオンは、例えば、過塩素酸アニオン(パークロレートアニオン)(ClO4
-)、塩素酸アニオン(ClO3
-)および亜塩素酸アニオン(ClO2
-)などである。
【0118】
上記電解質が硫黄系アニオンまたはリン系アニオンを含む電解質である場合には、これらのアニオンは、硫黄原子またはリン原子に結合するアルキル基(直鎖、分岐もしくは環状のいずれの構造でもよい。)、アリール基、フッ素原子または塩素原子を有することが好ましく、硫黄原子またはリン原子に結合する直鎖もしくは分岐のアルキル基またはフッ素原子を有することがより好ましい。上記アルキル基は、フッ素化されていることも好ましい。また、上記アルキル基の炭素数は、1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましく、1または2であることがさらに好ましい。
【0119】
特に、上記電解質は、下記式(E1)で表されるアニオンを含むことが好ましい。
式(E1)
X1S(=O)2(-O)-
【0120】
式(E1)において、X1は、フッ素原子、塩素原子または直鎖もしくは分岐のアルキル基を表し、フッ素原子または直鎖もしくは分岐のフッ化アルキル基であることが好ましい。ここで、上記アルキル基の炭素数は、1~4であることが好ましく、1または2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましく、上記フッ化アルキル基は、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。特に、X1は、フッ素原子、または、直鎖で炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であることがより好ましく、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であることがさらに好ましく、トリフルオロメチル基であることが特に好ましい。
【0121】
式(E1)で表されるアニオンは、具体的には、トリフラートアニオン(CF3SO3
-)、フルオロスルホネートアニオン(FSO3-)およびノナフラートアニオン(C4F9SO3
-)などであり、トリフラートアニオンまたはフルオロスルホネートアニオンであることが好ましく、トリフラートアニオンであることがより好ましい。
【0122】
一方、式(E1)で表されるアニオン以外のアニオンとしては、例えば、パークロレートアニオン(ClO4
-)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4
-)、および、テトラフェニル(Ph)ボレートアニオン(BPh4
-)などであり、パークロレートアニオン(ClO4
-)が好ましい。
【0123】
また、本発明の製造方法において使用する電解質は、例えば、アンモニウム系、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、ホスホニウム系などのカチオンを含むことができ、アンモニウム系またはホスホニウム系のカチオンを含むことが好ましく、特に、下記式(E2)で表される4級アンモニウム系または4級ホスホニウム系のカチオンを含むことが好ましい。
式(E2)
(RE)4(X2)+
【0124】
式(E2)において、X2は、窒素原子またはリン原子であり、窒素原子であることが好ましい。
【0125】
REは、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭化水素基を表す。REは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよく、すべて同一であることが好ましい。各REは、互いに結合して環を形成してもよい。さらに、REは、C1~10の炭化水素基またはC1~10のパーフルオロ炭化水素基であることが好ましい。
【0126】
特に、REは、アルキル基(直鎖、分枝もしくは環状のいずれの構造でもよい。)、フェニル基、ベンジル基、または、独立したアルキル鎖の数が1以上のアルキレンオキシ基であることが好ましい。上記アルキル基は、直鎖もしくは分枝のアルキル基であることが好ましく、上記アルキル基の炭素数は、1~8であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることがさらに好ましい。また、上記アルキレンオキシ基について、「独立したアルキル鎖」は、酸素原子によって隔てられた個々のアルキル鎖を意味し、例えば「CH3OCH2」の場合には、独立したアルキル鎖の数は2である。独立したアルキル鎖の数は、1~10であることが好ましく、2~8であることがより好ましい。個々のアルキル鎖の炭素数は、1~5であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。REは、上記炭化水素基のパーフルオロ化した基であることや、繰り返し数が2以上のポリアルキレングリコール基であることも好ましい。
【0127】
REは、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、メトキシメチル基、2-メトキシエトキシメチル基またはノナフルオロブチル基であることが好ましく、ブチル基であることがより好ましい。
【0128】
式(E2)で表されるカチオンは、具体的には、テトラメチルアンモニウムカチオン((CH3)4N+)、テトラブチルアンモニウムカチオン((C4H9)4N+)、ジメチル(ジメトキシメチル)アンモニウムカチオン((CH3)2(CH3OCH2)2N+)、テトラメチルホスホニウムカチオン((CH3)4P+)、テトラブチルホスホニウムカチオン((C4H9)4P+)、および、テトラフェニルホスホニウムカチオン(Ph4P+)などであり、テトラメチルアンモニウムカチオンまたはテトラブチルアンモニウムカチオンであることが好ましく、テトラブチルアンモニウムカチオンであることが特に好ましい。
【0129】
そして、本発明の製造方法において使用する電解質は、好ましい態様としてそれぞれ例示した上記アニオンおよび上記カチオンを含むことが好ましい。上記アニオンおよび上記カチオンの好ましい組み合わせは、例えば、トリフラートアニオンおよびテトラブチルアンモニウムカチオンの組み合わせ、フルオロスルホネートアニオンおよびテトラブチルアンモニウムカチオンの組み合わせ、ならびに、パークロレートアニオンおよびテトラブチルアンモニウムカチオンの組み合わせなどであり、トリフラートアニオンおよびテトラブチルアンモニウムカチオンの組み合わせが好ましい。上記電解質は、1種単独でまたは2種以上の組み合わせでアニオンを含むことができ、1種単独でまたは2種以上の組み合わせでカチオンを含むこともできる。
【0130】
本発明では、反応系において、糖供与体に対する糖受容体のモル比率は、1~3の範囲内であることが好ましく、1~1.2の範囲内であることがより好ましい。また、製造に際し反応液中に投与する、糖供与体に対する電解質のモル比率は、1.1~10の範囲内であることが好ましく、2~5であることがより好ましい。
【0131】
<<非プロトン性有機溶媒>>
非プロトン性有機溶媒は、プロトン(H+)を供与しにくく、電解質を溶解できる有機溶媒であれば、特段制限されないが、水酸基(-OH)、アミノ基(-NH2、-NHR。ここで、Rは有機基である。)およびニトロ基(-NO2)を有しないことが好ましい。非プロトン性有機溶媒は、極性が比較的小さい非極性溶媒でも、極性が比較的大きい極性溶媒でもよい。非プロトン性有機溶媒のうち、非極性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ベンゼンおよびトルエンのような炭化水素、対称性の高い構造を有するエーテル類(例えば、点対称構造を有するジエチルエーテルなど)、クロロホルムおよび塩化メチレンなどを使用でき、極性溶媒としては、例えば、アセトン、N-メチルピロリドン、酢酸エチル、アセトニトリル、上記以外のエーテル類(例えば、テトラヒドロフランなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミド(DMF)などを使用できる。非プロトン性有機溶媒は、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレンおよびアセトニトリルの少なくとも1種を含むことが好ましく、塩化メチレンを含むことがより好ましい。非プロトン性有機溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0132】
なお、非プロトン性有機溶媒は、反応液のpHや電解酸化時の電流密度の調整等を目的として、非プロトン性有機溶媒以外の溶媒を含んでもよい。このような溶媒としては、例えばプロトン性有機溶媒が挙げられる。プロトン性有機溶媒としては、アルコールおよびニトロメタンなどを使用でき、アルコールを使用することが好ましい。アルコールは、ヘキサフルオロイソプロパノールおよびトリフルオロエタノールの少なくとも1つであることが好ましい。非プロトン性有機溶媒以外の溶媒の含有量は、全溶媒量に対し0~50質量%であることが好ましく、0~30質量%であることがより好ましく、0~10質量%であることがさらに好ましい。
【0133】
<<電解酸化とグリコシル化>>
電解酸化とグリコシル化を実施する工程は、ビルディングブロックAと電解液と非プロトン性有機溶媒を含む組成物(以下、「反応液」ともいう。)への通電工程a、ビルディングブロックBと非プロトン性有機溶媒を含む組成物(以下、「添加液」ともいう。)の添加工程b、および、これらビルディングブロックのグリコシル化の促進工程cを含み、これらの3工程を含むシーケンスを1サイクルとして、これを複数回実施することで、糖鎖をスケールアップすることができる。サイクルシーケンスの繰り返し回数は、特に限定されず、目的とする糖鎖の長さに応じて適宜決められる。例えば、単糖のビルディングブロックAおよびBを原料にして、三糖類の糖鎖を製造する場合には、サイクルを2回繰り返し、四糖類の糖鎖を製造する場合にはサイクルを3回繰り返せばよい。また、サイクルを繰り返す際に、添加するビルディングブロックBの種類を変更してもよい。例えば、水酸基の保護基の種類を変更したり、水酸基が結合する炭素位置を変更したりできる。水酸基が結合する炭素位置の変更は、糖鎖の途中で結合方式を変更したい場合有用である。糖鎖の収率が向上する本発明の製造方法の有用性は、糖鎖伸長する際に顕著に表れ、成果物として三糖類以上の多糖類を得る場合であっても、従来に比して顕著に優れた収率を確保できる。
【0134】
本発明において、糖鎖を伸長する際にはサイクルシーケンスを繰り返すという簡易的な操作で済むため、目的の糖鎖を構成する糖残基の個数は、特に限定されない。収率の低下や用途の観点からいえば、糖鎖を構成する糖残基の個数は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることが更に好ましく、5以下であることが特に好ましい。
【0135】
さらに、これらの工程は、時間的に分離するように実施してもよく、一部重複するように実施してもよい。例えば、必要に応じて、反応液に通電しながらビルディングブロックBを添加してもよく、ビルディングブロックBを添加しながら昇温してもよい。収率向上の観点から、これらの工程は、時間的に分離して実施することが好ましい。
【0136】
通電工程aでは、糖供与体であるビルディングブロックAが電解酸化により活性化し、反応中間体が生成しおよび蓄積される。通電強度は、特に限定されないが、概ね1~100mAであることが好ましく、2~20mAであることがより好ましく、4~12mAであることが更に好ましい。電気量は、原料のモル数や酸化電位等に応じて適宜決められるが、概ね、下限は0.7F/mol以上であることが好ましく、1.0F/mol以上であることがより好ましく、上限は3.0F/mol以下であることが好ましく、1.5F/mol以下であることがより好ましい。通電を行う際の反応液の温度は、-50℃以下であることが好ましく、-60℃以下であることがより好ましく、-70℃以下であることが更に好ましい。この温度の下限は、例えば-100℃以上であることが好ましく、-90℃以上でもよい。
【0137】
添加工程bでは、糖受容体であるビルディングブロックBが反応液に添加される。反応液中のビルディングブロックBの濃度は、0.1~2.0mol/Lであることが好ましく、0.2~0.5mol/Lであることがより好ましい。糖受容体の添加は、反応の均一性の観点から、所定の時間をかけてゆっくりと添加することが好ましい。添加液の添加速度は、例えば、0.1~2.0mL/minであることが好ましく、0.5~1.0mL/minであることがより好ましい。有機溶媒は、反応液に使用できる非プロトン性有機溶媒を使用することができ、反応液に実際に使用している溶媒と同種であることが好ましい。
【0138】
促進工程cでは、反応液の温度が上げられた状態で一定時間保持することにより、電解酸化により活性化したビルディングブロックAの活性部位とビルディングブロックBの水酸基とが反応してグリコシル化が進行する。反応液を高温保持する際の温度は、例えば、-70~-40℃であることが好ましく、-65~-45℃であることがより好ましい。昇温速度および降温速度の大きさは、特に限定されないが、0.5~5℃/minであることが好ましく、1~3℃/minであることがより好ましい。
【0139】
<<本発明の製造方法を実施するシステム等>>
【0140】
本発明の製造方法は、電気化学的にグリコシル化反応を行うことから、作業時の安全性が確保される、金属酸化剤残渣等の有害廃棄物の発生がほとんどないなどの安全面・環境面で好ましい方法である。また、これと同時に、本発明の製造方法は、工業的生産方法として重要視されるコスト面においても有利な方法である。そして、本発明の製造方法は、液相電解自動合成システムを用いた立体選択的な糖鎖のワンポット合成に最適である。なお、糖鎖伸長における各段階で、生成物を単離したり精製したりするなどの一部の工程を、手動により実行することを妨げるものではない。また、糖鎖合成におけるすべての工程を手動で実行することも可能である。液相電解自動合成システムを用いて、糖鎖合成を実施する際には、事前に、ビルディングブロックAと電解液と非プロトン性有機溶媒を含む組成物と、ビルディングブロックBと非プロトン性有機溶媒を含む組成物とをキットとして、準備しておくことで、速やかに合成作業に取り掛かれる。
【0141】
<化合物>
本発明の第1の化合物は、下記式(3)で表される化合物である。
式(3)
【化33】
【0142】
式(3)において、
A1は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z1~Z5は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z1~Z5それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L1は、単結合または2価の連結基を表し、
R1は、フタルイミド基、アジド基、(C1~10アルキルオキシ)n基(nは1~5の整数である。)、C1~10アルキルカルボニル基、C1~10アルキルカルボニルオキシ基、C1~10アルキルアミド基またはトリC1~5アルキルシロキシ基を表し、
R2は、C1~10アルキル基、C1~10アルキルカルボニル基、(C1~10アルキルオキシ)n-C1~10アルキル基(nは1~4の整数である。)またはトリC1~5アルキルシリル基を表し、
m個のR1およびn個のR2は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
mは0以上の整数を表し、nは1以上の整数を表し、
m+nは、環構造A1の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表し、
A1および硫黄原子の間の結合は、エクアトリアル配置である。
【0143】
本発明の第2の化合物は、下記式(4)で表される化合物である。
式(4)
【化34】
【0144】
式(4)において、
A2は、炭素数4~8の環構造を表し、
Z6~Z10は、それぞれ独立して、水素原子又は電子求引性基であり、Z6~Z10それぞれのハメットのσ値の合計が0.12超であり、
L2は、単結合または2価の連結基を表し、
R3は、フタルイミド基、アジド基、(C1~10アルキルオキシ)n基(nは1~5の整数である。)、C1~10アルキルカルボニル基、C1~10アルキルカルボニルオキシ基、C1~10アルキルアミド基またはトリC1~5アルキルシロキシ基を表し、
R4は、水素原子、C1~10アルキル基、C1~10アルキルカルボニル基、(C1~10アルキルオキシ)n-C1~10アルキル基(nは1~4の整数である。)またはトリC1~5アルキルシリル基を表し、q個のR4のうち少なくとも1つは水素原子であり、
p個のR3およびq個のR4は、それぞれ互いに結合して環を形成してもよく、
pは0以上の整数を表し、qは1以上の整数を表し、
p+qは、環構造A2の炭素数以下であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表し、
A2および硫黄原子の間の結合は、エクアトリアル配置である。
【0145】
式(3)において、環構造A1は、所望の部位でのグリコシド結合形成や用途等の観点から、環構造中の酸素原子は1つのみであることが有用であり、5つの炭素原子と1つの酸素原子を頂点として六員環を構成しているピラノース環、または、4つの炭素原子と1つの酸素原子を頂点として五員環を構成しているフラノース環を有することが好ましい。R1について、好ましい態様については、式(1)におけるR1と同様である。R1は、置換基を有しないことが好ましく、特に、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチルオキシ基またはトリメチルシロキシ基であることが好ましい。
【0146】
L1は、単結合、または、置換基を有してもよいC1~5アルキレン基であることが好ましく、単結合、メチレン基またはエチレン基であることがより好ましい。mは、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。m個のR1は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、mが2以上である場合には、互いに同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。R2は、式(1)におけるR2と同様に、置換基を有しないことが好ましく、特に、メチル基、エチル基、アセチル基、トリメチルアセチル基、ベンジル基(例えば、p-メトキシベンジル基、p-メチルベンジル基)、ベンゾイル基、トリメチルシリル基またはt-ブチルジメチルシリル基であることが好ましい。nは、2から「環構造A1の炭素数-2」までの整数であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。n個のR2O-L1は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、nが2以上である場合には、同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。
【0147】
Z1~Z5の好ましい組み合わせは、例えば、式(1)におけるZ1~Z5と同様に、上記Sb-1~Sb-18に表されている。また、式(3)で表されるビルディングブロックの好ましい具体例も、式(1)で表されるビルディングブロックの好ましい具体例(化合物No.Ca-1~Ca-80)と同様であり、上記表に示されている。
【0148】
式(4)において、環構造A2は、所望の部位でのグリコシド結合形成や用途等の観点から、環構造中の酸素原子は1つのみであることが有用であり、5つの炭素原子と1つの酸素原子を頂点として六員環を構成しているピラノース環、または、4つの炭素原子と1つの酸素原子を頂点として五員環を構成しているフラノース環を有することが好ましい。R3について、好ましい態様については、式(1)におけるR1と同様である。R3は、置換基を有しないことが好ましく、特に、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチルオキシ基またはトリメチルシロキシ基であることが好ましい。
【0149】
L2は、単結合、または、置換基を有してもよいC1~5アルキレン基であることが好ましく、単結合、メチレン基またはエチレン基であることがより好ましい。pは、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。p個のR3は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、pが2以上である場合には、互いに同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。R4は、式(1)におけるR2と同様に、置換基を有しないことが好ましく、特に、メチル基、エチル基、アセチル基、トリメチルアセチル基、ベンジル基(例えば、p-メトキシベンジル基、p-メチルベンジル基)、ベンゾイル基、トリメチルシリル基またはt-ブチルジメチルシリル基であることが好ましい。qは、2から「環構造A2の炭素数-2」までの整数であることが好ましく、2または3であることがより好ましい。q個のR4O-L2は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、qが2以上である場合には、同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。
【0150】
Z6~Z10の好ましい組み合わせは、例えば、式(1)におけるZ1~Z5と同様に、上記Sb-1~Sb-18に表されている。また、式(4)で表されるビルディングブロックの好ましい具体例も、式(2)で表されるビルディングブロックの好ましい具体例(化合物No.Cb-1~Cb-80)と同様であり、上記表に示されている。
【0151】
本発明の第3の化合物は、下記式(5)で表される化合物である。
【0152】
【0153】
式(5)において、
L31およびL32は、それぞれ独立して、単結合、メチレン基またはエチレン基を表し、
R9は、それぞれ独立して、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基またはベンゾイルオキシ基を表し、
R10は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基、トリメチルアセチル基、ベンジル基またはベンゾイル基を表し、
xは、0~10の整数を表し、
y1およびy2は、それぞれ独立して、0~2の整数を表し、
z1は、それぞれ独立して、2または3の整数を表し、
z2は、2~4の整数を表し、
y1+z1=3、かつ、y2+z2=4であり、
波線は、それぞれ独立して、エクアトリアルまたはアキシアルの立体配置にある結合を表す。
【0154】
本発明の第3の化合物は、本発明の第1の化合物と第2の化合物をグリコシド反応させることにより生成できる。xは、上記したように、ビルディングブロックのグリコシル化の回数を増減することにより調整できる。オリゴ糖を生成する場合には、xは、概ね0~10であり、0~7にすることもでき、さらに下限を1以上または2以上にすることもでき、上限を5以下、4以下または3以下にすることもできる。
【0155】
R9は、式(1)におけるR1などと同様に、置換基を有しないことが好ましく、特に、フタルイミド基、アジド基、アセチルオキシ基、アセトアミド基、ベンジルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチルオキシ基またはトリメチルシロキシ基であることが好ましい。y1およびy2はそれぞれ、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。R9は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、y1およびy2がそれぞれ2以上である場合には、互いに同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。R10は、式(1)におけるR2などと同様に、置換基を有しないことが好ましく、特に、メチル基、エチル基、アセチル基、トリメチルアセチル基、ベンジル基(例えば、p-メトキシベンジル基、p-メチルベンジル基)、ベンゾイル基、トリメチルシリル基またはt-ブチルジメチルシリル基であることが好ましい。z1は、2または3までの整数であることが好ましく、2であることがより好ましい。z2は、2~4までの整数であることが好ましく、3~4であることがより好ましく、3であることが更に好ましい。R10O-L31は、それぞれ独立に上記有機基になることができ、z1およびz2がそれぞれ2以上である場合には、同種の有機基になってもよく、異種の有機基になってもよい。
【0156】
硫黄原子および炭素原子の間の結合は、エクアトリアル配置であることが好ましい。
【0157】
<<化合物の合成方法>>
本発明の第1の化合物は、「1位炭素-硫黄」の結合を有するチオグリコシドであり、例えば、グルコース等の所望の環構造を有する単糖と、所望のフェニル基を有するチオフェノールとを使用して、チオール基が単糖の1位炭素と結合するよう反応させることにより合成できる。このような単糖とチオフェノールは、所望の環構造と所望のフェニル基をそれぞれ有する化合物であれば、特段限定されず、そのような単糖とチオフェノールとしては市販の化合物をそれぞれ使用できる。単糖とチオフェノールとの反応は、単糖の水酸基をアセチル基等の保護基で保護してから、実施することが好ましい。あるいは、予め水酸基が保護された市販の単糖(例えば、ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノース、東京化成工業社製)を使用してもよい。本発明において、単糖とチオフェノールとを反応させる具体的な方法は、特段限定されず、公知の方法から適宜選択される。このような方法としては、例えば、非プロトン性有機溶媒中、トリフルオロボランエーテル錯体等のルイス酸の存在下で、単糖およびチオフェノールを反応させる方法がある。この反応の際の温度は、特段限定されないが、例えば、0~50度に設定することが好ましい。このような方法により、1位炭素にチオフェノール残基が結合し、かつ水酸基のすべてまたはその一部が保護された単糖が得られる。また、このようにして得られた単糖のα体(硫黄原子がアキシアル配置にあるもの)とβ体(硫黄原子がエクアトリアル配置にあるもの)の分離方法も、特段限定されず、公知の方法から適宜選択される。
【0158】
そして、本発明の第2の化合物は、上述した本発明の第1の化合物を出発原料として使用し、全てまたは選択的に一部の水酸基を脱保護することにより得られる。
【0159】
本発明の第1の化合物および第2の化合物において、水酸基を保護する方法および脱保護する方法は、特段制限されず、脱水縮合反応、加水分解反応、酸化反応および還元反応等を利用した公知の方法(例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス第4版に記載されている方法)またはこれに準ずる方法から適宜選択することができる。特に、選択的に一部の水酸基を保護する方法および脱保護する方法は、かさ高い保護基を利用したり、異なる酸/塩基条件で付加または脱離する保護基の組み合わせを利用したり、ジオール等の多価の保護基で複数の水酸基を保護した後、一部のみ脱保護したりする方法等によって実施できる。選択的保護および脱保護の具体的な方法は、糖や保護基の種類に応じて異なるが、公知の方法から適宜選択すればよい。
【0160】
以下に、単糖としてグルコピラノースを使用して合成された上記第1の化合物から、上記本発明の第2の化合物を得る場合について、選択的な無保護化処理の一例を説明する。まず、グルコピラノースの保護基を脱保護する。脱保護処理は、保護基の種類に応じて、公知の方法の中から適宜選択できる。例えば、保護基がアセチル基である場合には、適当な有機溶媒(例えば、メタノールなど)中において、酸性条件でのエステルの加水分解反応により、アセチル基を脱保護することができる。次いで、有機溶媒を留去した後、脱保護した単糖のアセトニトリル溶液を調製し、アセトニトリル溶液にベンズアルデヒドジメチルアセタールを室温(23℃)で撹拌しながら添加する。これにより、単糖の4位と6位の水酸基がベンジリデンアセタール基により選択的に保護される。そして、アセトニトリルを留去して上記単糖の固形物を得て、塩化メチレンおよびピリジンの混合溶媒に上記固形物を溶かし、さらに、この溶液に、無水酢酸とDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)を添加し、これを室温で充分に撹拌する。これにより、3位の水酸基に保護基としてアセチル基が導入される。その後、上記溶液に、シアノ化ホウ素ナトリウム存在下にて、塩化水素を添加することにより、4,6-O-ベンジリデンアセタールが選択的に開環して、6位の水酸基が無保護の本発明の第2の化合物が得られる。
【0161】
<<化合物の用途>>
本発明の上記化合物は、前述したように、糖鎖合成のビルディングブロックとして使用することができる。
【実施例】
【0162】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。「部」および「%」は、特に述べない限り、質量基準である。
また、
【0163】
<実施例1>
<<糖鎖合成の原料>>
使用した原料は下記のとおりである。
【0164】
・糖供与体:下記に示すビルディングブロック1a(σ値の合計は0.23である。)
【化36】
【0165】
・糖受容体:下記に示すビルディングブロック2a(σ値の合計は0.23である。)
【化37】
【0166】
・電解質:テトラブチルアンモニウムトリフラート(Bu4NOTf)
・非プロトン性有機溶媒:塩化メチレン(CH2Cl2)
【0167】
<<各ビルディングブロックの合成>>
実施例に係るビルディングブロック1aおよび2aそれぞれの合成方法を、下記反応式(S3)を用いながら説明する。
3,4,6-トリ-O-アセチル-2-デオキシ-2-フタルイミド-β-D-グルコピラノシド(23.9g)と、4-クロロチオフェノール(8.7g)と、トリフルオロボランエーテル錯体(10.6g)とを塩化メチレン(74mL)に導入し、この反応溶液を50℃に維持しながら48時間撹拌することで、上記グルコピラノシドおよび上記チオフェノールを反応させた。その反応終了後、塩基(本実施例では飽和重曹水を使用した。)にて反応溶液を中和し、固体をセライトろ過にて除去し、酢酸エチルを用いた分液抽出を行うことにより、粗生成物を得た。その後、酢酸エチルを用いて単糖を再結晶させることで、ビルディングブロック1aを無色の結晶として得た(反応式(S3)の第1段階、収率98%、収量27.5g)。
【0168】
次いで、このビルディングブロック1aを出発原料として使用し、下記反応式(S3)に示した第2~第4段階を経て、ビルディングブロック2aを合成した。まず、ビルディングブロック1a(22.4g)をメタノール(130mL)に溶かし、このメタノール溶液に、2.0M塩化水素ジエチルエーテル溶液(40mL)を加え、室温にて18時間撹拌した。この溶液から溶媒を減圧留去した後、残留物に対して真空乾燥処理を実施した。得られた白色固体をアセトニトリル溶媒(215mL)に加え、さらに、ベンズアルデヒドジメチルアセタール(22mL)をこのアセトニトリル溶液に加え、これを室温にて4日間撹拌した。その後、溶媒留去後の固体をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=2:1)にて精製し、中間体1(18.6g)を得た(第2段階、収率89%)。次に、中間体1(52.9g)を塩化メチレンおよびピリジンの混合溶媒(450mL、体積比で塩化メチレン:ピリジン=3:1)に溶かし、これに無水酢酸(Ac2O、61mL)とDMAP(1.3g)を添加して、3位の水酸基をアセチル化した。その後、酢酸エチルを用いて単糖を再結晶させることで、中間体2(52.3g、収率91%)を得た(第3段階)。得られた中間体2(3.0g)を、トリメチルシリルトリフラート(1.4mL)とボラン-THF(テトラヒドロフラン)錯体(14mL)の混合溶媒に加え、氷浴中にて混合溶媒を7時間撹拌した。その後、メタノールとトリエチルアミンを適量加えて反応を停止させ、固体をセライトろ過にて除去し、酢酸エチルを用いた分液抽出を行うことにより、粗生成物を得た。そして、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒は、体積比でヘキサン:酢酸エチル=2:1の混合溶媒である。)にて精製することにより、ビルディングブロック2aを得た(第4段階、収率64%、収量1.9g)。
【0169】
【0170】
<<電解酸化とグリコシル化>>
図1は、実施例1における合成シーケンスの一部を示すグラフである。まず、H型ガラス分離膜付電解セル(片側16mL)を加熱し、減圧乾燥し、その後、電解セル内をアルゴンで置換した。次いで、陽極と陰極にテトラブチルアンモニウムトリフラート(1.6mmol、626mg)と塩化メチレン(16mL)を電解セル内にそれぞれ加えた。そして、陽極にビルディングブロック1a(0.40mmol、225mg)を、陰極にトリフルオロメタンスルホン酸(0.80mmol、120mg)を加え、-80℃に設定した低温バスを用いて電解セルを冷却し、反応液を撹拌した。
【0171】
その約10分後、電解セル内の通電(6.0mA)を開始し、電気量が1.0F/molとなるように1時間47分の間通電を行った(
図1の工程a)。通電終了後、シリンジポンプを用いて、ビルディングブロック2a(0.40mmol、227mg)の塩化メチレン溶液(1.0mL)の全量を1.0mL/minの速さで反応液に添加した(
図1の工程b)。添加作業が終了した後、低温バスの温度を2℃/minの速さで-50℃へと昇温し、-50℃を30分間保持した後、2℃/minの速さで再度-80℃へと降温した(
図1の工程c)。
【0172】
そして、上記工程a~cを1サイクルとするシーケンスをもう1度繰り返した。サイクルシーケンスの終了後、トリエチルアミン(0.20mL)を反応液に加えて反応を停止させ、約10分間はそのままの温度で反応液を撹拌した。次いで、低温バスから電解セルを引き上げ、室温に戻ったことを確認した上で、両極の反応液をナスフラスコに移し、エバポレータと真空ポンプで反応液中の溶媒を留去した。そして、溶媒を用いてその留去後の残留物をシリカゲルカラムに通して1回目の精製を行った。このときの溶媒は、ヘキサン(Hexane)/酢酸エチル(EtOAc)の混合物であり、これらの体積比は、初めに2:1であり、目的物の溶出が確認できたタイミングで途中から1:1に切り替えた。1回目の精製の後、エバポレータで溶液中の溶媒を留去し、真空乾燥を実施することで、粗生成物450mgが得られた。さらに、再度、溶媒を用いてその粗生成物をシリカゲルカラムに通して2回目の精製を行った。このときの溶媒も、ヘキサン(Hexane)/酢酸エチル(EtOAc)の混合物であり、これらの体積比は終始1:1とした。2回目の精製の後、エバポレータで溶液中の溶媒を留去し、真空乾燥を実施することで、目的の三糖(下記に示す化合物3a、0.28mmol、390mg)が得られた。このときの三糖3aの収率は69%であった。上記の反応を反応式(S4)に示した。
【0173】
【0174】
【0175】
以下に、上記三糖3aについて実施したNMR測定の結果を示す。
【0176】
<比較例1>
糖供与体および糖受容体として下記のビルディングブロックを使用した点以外は、実施例1と同様のシーケンスにより糖鎖合成を行った。その結果、下記に示す三糖3r(0.094mmol、131mg)が得られた。このときの三糖3rの収率は24%であった。なお、ビルディングブロック1rおよび2rの合成は、4-クロロチオフェノールに替えて、4-フルオロチオフェノールを使用することにより、実施例1と同様の手順で実施した。
【0177】
・糖供与体:下記に示すビルディングブロック1r(σ値の合計は0.06である。)
【化41】
【0178】
・糖受容体:下記に示すビルディングブロック2r(σ値の合計は0.06である。)
【化42】
【0179】
【0180】
上記のとおり、本発明の糖鎖の製造方法により、液相法によるオリゴ糖の合成において、従来法よりも、立体選択された糖鎖の収率が向上することがわかる。特に、糖鎖合成においては、糖の付加するグリコシル化を繰り返すことで長い糖鎖が合成されるため、1サイクル当たりの収率は、糖鎖のスケールアップを図る際の収率に大きく影響する。したがって、本発明は、そのようなスケールアップを図る際に特に有用である。