IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-インパクト工具 図1
  • 特許-インパクト工具 図2
  • 特許-インパクト工具 図3
  • 特許-インパクト工具 図4
  • 特許-インパクト工具 図5
  • 特許-インパクト工具 図6
  • 特許-インパクト工具 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】インパクト工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20231020BHJP
   B25B 21/00 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
B25B21/02 Z
B25B21/00 510C
B25B21/02 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019122445
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021007998
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-01-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 雅之
(72)【発明者】
【氏名】草川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】植田 尊大
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-140930(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159274(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230141(WO,A1)
【文献】特開2013-230060(JP,A)
【文献】国際公開第2014/064836(WO,A1)
【文献】特開平11-138459(JP,A)
【文献】特開2017-042839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00 - 21/02
B25D 16/00 - 17/32
B23B 45/16
H02P 6/00 - 6/34
H02P 21/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石及びコイルを有する電動機と、
前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行うインパクト機構と、
前記コイルに供給され前記永久磁石の磁束を変化させる磁束を前記コイルに発生させる励磁電流の値を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記励磁電流の値である励磁電流取得値に基づいて前記インパクト機構の不安定挙動の発生状況を検出する検出部と、を備え、
前記電動機の動作を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記コイルに供給される前記励磁電流を目標値に近づけるように前記電動機の動作を制御し、
前記検出部は、前記目標値と、前記励磁電流の実測値との差に基づいて、前記インパクト機構の前記不安定挙動の発生状況を検出する、
インパクト工具。
【請求項2】
永久磁石及びコイルを有する電動機と、
前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行うインパクト機構と、
前記コイルに供給され前記永久磁石の磁束を変化させる磁束を前記コイルに発生させる励磁電流の値を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記励磁電流の値である励磁電流取得値に基づいて前記インパクト機構の不安定挙動の発生状況を検出する検出部と、を備え、
前記励磁電流について、前記永久磁石の磁束を弱める磁束を前記コイルに発生させる向きに流れる電流を負の電流とし、
前記検出部は、負の前記励磁電流取得値の大きさに基づいて、前記インパクト機構の前記不安定挙動の発生状況を検出する、
インパクト工具。
【請求項3】
前記電動機の動作を制御する制御部を備える、
請求項2に記載のインパクト工具。
【請求項4】
前記制御部は、少なくとも前記検出部の検出結果が前記インパクト機構の前記不安定挙動の発生を示していない場合に、前記電動機の回転数を一定の目標値に近づけるように前記電動機の動作を制御する、
請求項1又は3に記載のインパクト工具。
【請求項5】
前記制御部は、前記検出部が前記インパクト機構の前記不安定挙動の発生を検出すると、前記電動機の回転数を低下させる、
請求項1、3又は4に記載のインパクト工具。
【請求項6】
前記取得部は、前記コイルに供給されるトルク電流の値を更に取得し、
前記検出部は、前記取得部で取得された前記励磁電流取得値及び、前記取得部で取得された前記トルク電流の値であるトルク電流取得値に基づいて、前記インパクト機構の前記不安定挙動の発生状況を検出する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のインパクト工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般にインパクト工具に関し、より詳細には、電動機を備えるインパクト工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のインパクト回転工具は、インパクト機構と、打撃検出部と、制御部と、電圧検出部とを備える。インパクト機構は、ハンマを有し、モータ出力によって出力軸に打撃衝撃を加える。打撃検出部は、インパクト機構による打撃を検出する。制御部は、打撃検出部の検出結果に基づいてモータの回転を停止させる。電圧検出部は、打撃検出部の電圧を検出する。制御部は、モータが回転していないときに電圧検出部が検出した電圧に基づいて、打撃検出部が異常であるか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-132021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、インパクト機構の不安定挙動の発生状況を検出可能なインパクト工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るインパクト工具は、電動機と、インパクト機構と、取得部と、検出部と、を備える。前記電動機は、永久磁石及びコイルを有する。前記インパクト機構は、前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。前記取得部は、前記コイルに供給される励磁電流の値を取得する。前記励磁電流は、前記永久磁石の磁束を変化させる磁束を前記コイルに発生させる。前記検出部は、前記取得部で取得された前記励磁電流の値である励磁電流取得値に基づいて前記インパクト機構の不安定挙動の発生状況を検出する。前記インパクト工具は、前記電動機の動作を制御する制御部を更に備える。前記制御部は、前記コイルに供給される前記励磁電流を目標値に近づけるように前記電動機の動作を制御する。前記検出部は、前記目標値と、前記励磁電流の実測値との差に基づいて、前記インパクト機構の前記不安定挙動の発生状況を検出する。
本開示の別の一態様に係るインパクト工具は、電動機と、インパクト機構と、取得部と、検出部と、を備える。前記電動機は、永久磁石及びコイルを有する。前記インパクト機構は、前記電動機から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。前記取得部は、前記コイルに供給される励磁電流の値を取得する。前記励磁電流は、前記永久磁石の磁束を変化させる磁束を前記コイルに発生させる。前記検出部は、前記取得部で取得された前記励磁電流の値である励磁電流取得値に基づいて前記インパクト機構の不安定挙動の発生状況を検出する。前記励磁電流について、前記永久磁石の磁束を弱める磁束を前記コイルに発生させる向きに流れる電流を負の電流とする。前記検出部は、負の前記励磁電流取得値の大きさに基づいて、前記インパクト機構の前記不安定挙動の発生状況を検出する。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、インパクト機構の不安定挙動の発生状況を検出可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係るインパクト工具のブロック図である。
図2図2は、同上のインパクト工具の斜視図である。
図3図3は、同上のインパクト工具の側断面図である。
図4図4は、同上のインパクト工具の要部の斜視図である。
図5図5は、同上のインパクト工具の駆動軸及び2つの鋼球の側面図である。
図6図6は、同上のインパクト工具の駆動軸及び2つの鋼球の上から見た図である。
図7図7は、同上のインパクト工具の動作例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態に係るインパクト工具1について、図面を用いて説明する。ただし、下記の各実施形態は、本開示の様々な実施形態の一部に過ぎない。下記の各実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の各実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0009】
(1)概要
本実施形態のインパクト工具1は、図1に示すように、電動機3(交流電動機)と、インパクト機構40と、取得部90と、検出部(後退検出部79)と、を備えている。電動機3は、永久磁石312及びコイル321を有している。インパクト機構40は、電動機3から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。取得部90は、コイル321に供給される励磁電流の値を取得する。励磁電流は、永久磁石312の磁束を変化させる磁束をコイル321に発生させる。検出部(後退検出部79)は、取得部90で取得された励磁電流の値である励磁電流取得値に基づいてインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する。
【0010】
「永久磁石312の磁束を変化させる磁束をコイル321に発生させる」とは、言い換えると、コイル321で発生する磁束により、永久磁石312の周囲の磁束密度を変化させることである。
【0011】
このように、インパクト工具1では、励磁電流取得値を用いることにより、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出することが可能となる。これにより、インパクト機構40の不安定挙動に対する対策を実施することが可能となる。また、インパクト工具1の電源である電池パックの電池電圧及び電池電流に基づいてインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する場合よりも、検出精度を向上させることができる。さらに、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する際に、電池電圧及び電池電流の測定が不要となる。
【0012】
(2)構成
インパクト工具1の構成について、まずは図2図4を参照してより詳細に説明する。以下の説明では、後述する駆動軸41と出力軸61とが並んでいる方向を前後方向と規定し、駆動軸41から見て出力軸61側を前とし、出力軸61から見て駆動軸41側を後とする。また、以下の説明では、後述する胴体部21とグリップ部22とが並んでいる方向を上下方向と規定し、グリップ部22から見て胴体部21側を上とし、胴体部21から見てグリップ部22側を下とする。
【0013】
本実施形態のインパクト工具1は、電動機3と、伝達機構4と、出力軸61(ソケット装着部)と、ハウジング2と、トリガボリューム23と、制御部7(図1図3参照)と、を備えている。
【0014】
ハウジング2は、電動機3、伝達機構4及び制御部7と、出力軸61の一部と、を収容している。ハウジング2は、胴体部21と、グリップ部22と、を有している。胴体部21の形状は、円筒状である。グリップ部22は、胴体部21から突出している。
【0015】
トリガボリューム23は、グリップ部22から突出している。トリガボリューム23は、電動機3の回転を制御するための操作を受け付ける操作部である。トリガボリューム23を引く操作により、電動機3のオンオフを切替可能である。また、トリガボリューム23を引く操作の引込み量で、電動機3の回転速度を調整可能である。上記引込み量が大きいほど、電動機3の回転速度が速くなる。制御部7(図1参照)は、トリガボリューム23を引く操作の引込み量に応じて、電動機3を回転又は停止させ、また、電動機3の回転速度を制御する。本実施形態のインパクト工具1では、先端工具としてのソケット62が、出力軸61に装着される。出力軸61は、電動機3の回転力を受けてソケット62と共に回転する。そして、トリガボリューム23への操作によって電動機3の回転速度が制御されることで、ソケット62の回転速度が制御される。
【0016】
インパクト工具1には、充電式の電池パックが着脱可能に取り付けられる。インパクト工具1は、電池パックを電源として動作する。すなわち、電池パックは、電動機3を駆動する電流を供給する電源である。電池パックは、インパクト工具1の構成要素ではない。ただし、インパクト工具1は、電池パックを備えていてもよい。電池パックは、複数の二次電池(例えば、リチウムイオン電池)を直列接続して構成された組電池と、組電池を収容したケースと、を備えている。
【0017】
電動機3は、例えばブラシレスモータである。特に、本実施形態の電動機3は、同期電動機であり、より詳細には、永久磁石同期電動機(PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor))である。電動機3は、回転軸311及び永久磁石312を有する回転子31と、コイル321を有する固定子32と、を含んでいる。永久磁石312とコイル321との電磁的相互作用により、回転子31は、固定子32に対して回転する。
【0018】
出力軸61には、先端工具としてのソケット62が装着される。伝達機構4は、電動機3の回転軸311の回転を、出力軸61を介してソケット62に伝達する。これにより、ソケット62が回転する。ソケット62が締結部材(ボルト、ビス(木ねじ等)又はナット等)に当てられた状態でソケット62が回転することにより、締結部材を締め付ける又は緩めるといった作業が可能となる。伝達機構4は、インパクト機構40を有している。本実施形態のインパクト工具1は、インパクト機構40による打撃動作を行いながらねじ締めを行う、電動式のインパクトドライバである。打撃動作では、出力軸61を介してねじ等の締結部材に打撃力が加えられる。
【0019】
なお、ソケット62は、出力軸61に着脱可能である。出力軸61には、ソケット62の代わりにソケットアンビルを装着可能である。出力軸61には、ソケットアンビルを介して、先端工具としてのビット(例えばドライバビット又はドリルビット)を装着することができる。
【0020】
このように、出力軸61は、先端工具(ソケット62又はビット)を保持するための構成である。本実施形態では、先端工具は、インパクト工具1の構成に含まれていない。ただし、先端工具は、インパクト工具1の構成に含まれていてもよい。
【0021】
伝達機構4は、インパクト機構40に加えて、遊星歯車機構48を有している。インパクト機構40は、駆動軸41と、ハンマ42と、復帰ばね43と、アンビル45と、2つの鋼球49と、を含んでいる。電動機3の回転軸311の回転は、遊星歯車機構48を介して、駆動軸41に伝達される。駆動軸41は、電動機3と出力軸61との間に配置されている。
【0022】
ハンマ42は、アンビル45に対して移動し、電動機3から動力を得てアンビル45に回転打撃を加える。ハンマ42は、ハンマ本体420と、2つの突起425と、を含んでいる。2つの突起425は、ハンマ本体420のうち出力軸61側の面から突出している。ハンマ本体420は、駆動軸41が通される貫通孔421を有している。また、ハンマ本体420は、貫通孔421の内周面に、2つの溝部423を有している。駆動軸41は、その外周面に、2つの溝部413(図5参照)を有している。2つの溝部413は、つながっている。2つの溝部423と2つの溝部413との間には、2つの鋼球49が挟まれている。2つの溝部423と2つの溝部413と2つの鋼球49とは、カム機構を構成している。2つの鋼球49が移動しながら、ハンマ42は、駆動軸41に対して、駆動軸41の軸方向に移動可能であり、かつ、駆動軸41に対して回転可能である。ハンマ42が駆動軸41の軸方向に沿って出力軸61に近づく向き又は出力軸61から遠ざかる向きに移動するのに伴って、ハンマ42が駆動軸41に対して回転する。
【0023】
アンビル45は、出力軸61と一体に形成されている。アンビル45は、出力軸61を介して先端工具(ソケット62又はビット)を保持する。アンビル45は、アンビル本体450と、2つの爪部455と、を含んでいる。アンビル本体450の形状は、円環状である。2つの爪部455は、アンビル本体450からアンビル本体450の径方向に突出している。アンビル45は、駆動軸41の軸方向においてハンマ本体420と対向している。また、インパクト機構40が打撃動作を行っていない場合には、駆動軸41の回転方向においてハンマ42の2つの突起425とアンビル45の2つの爪部455とが接しながら、ハンマ42とアンビル45とが一体に回転する。そのため、このとき、駆動軸41と、ハンマ42と、アンビル45と、出力軸61とが一体に回転する。
【0024】
復帰ばね43は、ハンマ42と遊星歯車機構48との間に挟まれている。本実施形態の復帰ばね43は、円錐コイルばねである。インパクト機構40は、ハンマ42と復帰ばね43との間に挟まれた複数(図3では2つ)の鋼球50と、リング51と、を更に含んでいる。これにより、ハンマ42は、復帰ばね43に対して回転可能となっている。ハンマ42は、駆動軸41の軸方向に沿った方向において、出力軸61に向かう向きの力を復帰ばね43から受けている。
【0025】
以下では、駆動軸41の軸方向においてハンマ42が出力軸61に向かう向きに移動することを、「ハンマ42が前進する」と称する。また、以下では、駆動軸41の軸方向においてハンマ42が出力軸61から遠ざかる向きに移動することを、「ハンマ42が後退する」と称す。
【0026】
インパクト機構40では、負荷トルクが所定値以上となると、打撃動作が開始される。すなわち、負荷トルクが大きくなってくると、ハンマ42とアンビル45との間で発生する力のうち、ハンマ42を後退させる向きの分力も大きくなってくる。負荷トルクが所定値以上となると、ハンマ42は、復帰ばね43を圧縮させながら後退する。そして、ハンマ42が後退することにより、ハンマ42の2つの突起425がアンビル45の2つの爪部455を乗り越えつつ、ハンマ42が回転する。その後、ハンマ42が復帰ばね43からの復帰力を受けて前進する。そして、駆動軸41が略半回転すると、ハンマ42の2つの突起425がアンビル45の2つの爪部455の側面4550に衝突する。インパクト機構40では、駆動軸41が略半回転するごとにハンマ42の2つの突起425がアンビル45の2つの爪部455に衝突する。つまり、駆動軸41が略半回転するごとにハンマ42がアンビル45に回転打撃を加える。
【0027】
このように、インパクト機構40では、ハンマ42とアンビル45との衝突が繰り返し発生する。この衝突によるトルクにより、衝突が無い場合と比較して、ボルト、ビス又はナット等の締結部材を強力に締め付けることができる。
【0028】
ここで、図6に示すように、駆動軸41の2つ(図5参照)の溝部413はそれぞれ、上下方向から見てV字状に形成されている。V字の中央に相当する位置に鋼球49が位置するとき(図5図6に実線で示す状態)、ハンマ42は移動可能な範囲における前端まで前進している。インパクト機構40が打撃動作を行っていない場合には、V字の中央に相当する位置に鋼球49が留まる。V字の両端のうち任意のいずれか一方に相当する位置に鋼球49が位置するとき(図5図6に2点鎖線で示す状態)、ハンマ42は移動可能な範囲における後端まで後退している。本明細書では、ハンマ42が移動可能な範囲における後端まで後退することを、「最大後退」と称す。つまり、本明細書では、ハンマ42の移動可能な範囲においてハンマ42がアンビル45から最も離れた位置に移動することを、「最大後退」と称す。ハンマ42の最大後退は、インパクト機構40が打撃動作を行っている場合であって、例えば、電動機3の回転数が比較的大きい場合、又は、インパクト工具1の出力軸61に加わる負荷の大きさが急増した場合等に発生し得る。また、ハンマ42の最大後退は、ハンマ42を前進させる復帰ばね43のばね力が不足している場合に発生することがある。また、ハンマ42の最大後退は、電動機3の回転数が、先端工具の種類、形状及び剛性等に応じて適切に調整されていない場合にも発生し得る。
【0029】
ハンマ42が最大後退しているときは、ハンマ42の後退する距離が適正な場合と比較して、ハンマ42の挙動が不安定となる。すなわち、このときは、ハンマ42に後退する向きの力が作用した場合に、ハンマ42が後退することができない。また、後退する向きの力は、ハンマ42に吸収されることになる。このようなことは、ハンマ42の寿命を低下させる可能性がある。
【0030】
そこで、後退検出部79は、ハンマ42の最大後退の発生状況を、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況として検出する。一態様において、制御部7は、後退検出部79がインパクト機構40(ハンマ42)の不安定挙動(最大後退)の発生を検出すると、電動機3の回転数を低下させる。具体的には、制御部7は、後退検出部79がインパクト機構40(ハンマ42)の不安定挙動(最大後退)の発生を検出すると、電動機3の回転の角速度の指令値cω1(図1参照)を低下させる。これにより、最大後退の解消を図ることができる。つまり、電動機3の回転数を低下させることが、インパクト機構40の不安定挙動に対する対策に相当する。
【0031】
(3)制御部
制御部7は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部7の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0032】
図1に示すように、制御部7は、指令値生成部71と、速度制御部72と、電流制御部73と、第1の座標変換器74と、第2の座標変換器75と、磁束制御部76と、推定部77と、脱調検出部78と、後退検出部79と、を有している。また、インパクト工具1は、制御部7と、インバータ回路部81と、モータ回転測定部82と、複数(図1では2つ)の電流センサ91、92と、を備えている。
【0033】
制御部7は、電動機3の動作を制御する。より詳細には、制御部7は、電動機3に電流を供給するインバータ回路部81と共に用いられ、フィードバック制御により電動機3の動作を制御する。制御部7は、電動機3に供給される励磁電流(d軸電流)とトルク電流(q軸電流)とを独立に制御するベクトル制御を行う。
【0034】
本実施形態の後退検出部79は、制御部7に含まれている。ただし、後退検出部79は、制御部7に含まれていなくてもよい。
【0035】
2つの電流センサ91、92は、上述の取得部90に含まれている。取得部90は、2つの電流センサ91、92と、第2の座標変換器75と、を有している。取得部90は、電動機3に供給される励磁電流(d軸電流の電流測定値id1)及びトルク電流(q軸電流の電流測定値iq1)を取得する。取得部90は、取得部90自身により電流測定値id1、iq1を算出することで、電流測定値id1、iq1を取得する。すなわち、2つの電流センサ91、92で測定された2相の電流が第2の座標変換器75で変換されることで、電流測定値id1、iq1が得られる。
【0036】
複数の電流センサ91、92はそれぞれ、例えば、ホール素子電流センサ又はシャント抵抗素子を含んでいる。複数の電流センサ91、92は、電池パックからインバータ回路部81を介して電動機3に供給される電流を測定する。ここで、電動機3には、3相電流(U相電流、V相電流及びW相電流)が供給されており、複数の電流センサ91、92は、少なくとも2相の電流を測定する。図1では、電流センサ91がU相電流を測定して電流測定値i1を出力し、電流センサ92がV相電流を測定して電流測定値i1を出力する。
【0037】
モータ回転測定部82は、電動機3の回転角を測定する。モータ回転測定部82としては、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを採用することができる。
【0038】
推定部77は、モータ回転測定部82で測定された電動機3の回転角θ1を時間微分して、電動機3の角速度ω1(回転軸311の角速度)を算出する。
【0039】
第2の座標変換器75は、複数の電流センサ91、92で測定された電流測定値i1、i1を、モータ回転測定部82で測定された電動機3の回転角θ1に基づいて座標変換し、電流測定値id1、iq1を算出する。すなわち、第2の座標変換器75は、3相電流に対応する電流測定値i1、i1を、磁界成分(d軸電流)に対応する電流測定値id1と、トルク成分(q軸電流)に対応する電流測定値iq1とに変換する。
【0040】
指令値生成部71は、電動機3の角速度の指令値cω1を生成する。指令値生成部71は、例えば、トリガボリューム23(図2参照)を引く操作の引込み量に応じた指令値cω1を生成する。すなわち、指令値生成部71は、上記引込み量が大きいほど、角速度の指令値cω1を大きくする。
【0041】
速度制御部72は、指令値生成部71で生成された指令値cω1と推定部77で算出された角速度ω1との差分に基づいて、指令値ciq1を生成する。指令値ciq1は、電動機3のトルク電流(q軸電流)の大きさを指定する指令値である。すなわち、制御部7は、電動機3のコイル321に供給されるトルク電流(q軸電流)を指令値ciq1(目標値)に近づけるように電動機3の動作を制御する。速度制御部72は、指令値cω1と角速度ω1との差分を小さくするように指令値ciq1を決定する。
【0042】
磁束制御部76は、推定部77で算出された角速度ω1と、電流測定値iq1(q軸電流)と、に基づいて、指令値cid1を生成する。指令値cid1は、電動機3の励磁電流(d軸電流)の大きさを指定する指令値である。すなわち、制御部7は、電動機3のコイル321に供給される励磁電流(d軸電流)を指令値cid1(目標値)に近づけるように電動機3の動作を制御する。
【0043】
磁束制御部76で生成される指令値cid1は、例えば、励磁電流の大きさを0にするための指令値である。磁束制御部76は、常時励磁電流の大きさを0にするための指令値cid1を生成してもよいし、必要に応じて、励磁電流の大きさを0よりも大きく又は小さくするための指令値cid1を生成してもよい。励磁電流の指令値cid1が0より小さくなると、電動機3にマイナスの励磁電流(弱め磁束電流)が流れ、弱め磁束により、永久磁石312の磁束が弱まる。
【0044】
電流制御部73は、磁束制御部76で生成された指令値cid1と第2の座標変換器75で算出された電流測定値id1との差分に基づいて、指令値cvd1を生成する。指令値cvd1は、電動機3の励磁電圧(d軸電圧)の大きさを指定する指令値である。電流制御部73は、指令値cid1と電流測定値id1との差分を小さくするように指令値cvd1を決定する。
【0045】
また、電流制御部73は、速度制御部72で生成された指令値ciq1と第2の座標変換器75で算出された電流測定値iq1との差分に基づいて、指令値cvq1を生成する。指令値cvq1は、電動機3のトルク電圧(q軸電圧)の大きさを指定する指令値である。電流制御部73は、指令値ciq1と電流測定値iq1との差分を小さくするように指令値cvq1を生成する。
【0046】
第1の座標変換器74は、指令値cvd1、cvq1を、モータ回転測定部82で測定された電動機3の回転角θ1に基づいて座標変換し、指令値cv1、cv1、cv1を算出する。すなわち、第1の座標変換器74は、磁界成分(d軸電圧)に対応する指令値cvd1と、トルク成分(q軸電圧)に対応する指令値cvq1とを、3相電圧に対応する指令値cv1、cv1、cv1に変換する。指令値cv1はU相電圧に、指令値cv1はV相電圧に、指令値cv1はW相電圧に対応する。
【0047】
インバータ回路部81は、指令値cv1、cv1、cv1に応じた3相電圧を電動機3に供給する。制御部7は、インバータ回路部81をPWM(Pulse Width Modulation)制御することにより、電動機3に供給される電力を制御する。
【0048】
電動機3は、インバータ回路部81から供給された電力(3相電圧)により駆動され、回転動力を発生させる。
【0049】
この結果、制御部7は、電動機3のコイル321に流れる励磁電流(d軸電流)が、磁束制御部76で生成された指令値cid1に対応した大きさとなるように励磁電流を制御する。また、制御部7は、電動機3の角速度が、指令値生成部71で生成された指令値cω1に対応した角速度となるように電動機3の角速度を制御する。
【0050】
脱調検出部78は、第2の座標変換器75から取得した電流測定値id1、iq1と、電流制御部73から取得した指令値cvd1、cvq1と、に基づいて、電動機3の脱調を検出する。脱調が検出された場合は、脱調検出部78は、インバータ回路部81に停止信号cs1を送信して、インバータ回路部81から電動機3への電力供給を停止させる。
【0051】
(4)動作例
次に、図7を参照して、インパクト工具1の動作例を説明する。
【0052】
図7において、「電池電圧」は、電動機3の電源である電池パックの電池電圧を指す。図7において、「電池電流」は、電池パックの電池電流を指す。また、図7では図示していないが、図7の動作例では、励磁電流の指令値cid1は常に0である。
【0053】
上述の通り、一態様において、制御部7は、後退検出部79がインパクト機構40の不安定挙動(最大後退)の発生を検出すると、電動機3の回転数を低下させる。このような態様における角速度ω1の指令値cω1の時間推移を、図7では破線で示している。すなわち、後退検出部79がインパクト機構40の不安定挙動の発生を検出すると(時点T1)、制御部7は、指令値cω1を低下させる。
【0054】
ただし、制御部7がこのような制御を行うことは必須ではない。図7の動作例では、制御部7は、電動機3の角速度ω1の指令値cω1を常に一定に保つ(指令値cω1の1点鎖線部を参照)。言い換えると、図7の動作例では、制御部7は、電動機3の回転数の指令値を常に一定に保つ。そのため、図7の動作例では、制御部7は、後退検出部79がインパクト機構40の不安定挙動(最大後退)の発生を検出した場合であっても、電動機3の回転数を低下させる制御を行わない。
【0055】
このように、制御部7は、少なくとも後退検出部79の検出結果がインパクト機構40の不安定挙動の発生を示していない場合に、電動機3の回転数(角速度ω1)を一定の目標値(指令値cω1)に近づけるように電動機3の動作を制御する。後退検出部79がインパクト機構40の不安定挙動の発生を検出した場合に制御部7が電動機3の回転数を低下させる制御を行う場合であっても、後退検出部79がインパクト機構40の不安定挙動の発生を検出していないときは、指令値cω1を一定に保つことが好ましい。このような制御を行うインパクト工具1に後退検出部79を採用すれば、後退検出部79は、電動機3の回転数の変動に伴うインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出しやすい。
【0056】
取得部90は、コイル321に供給される励磁電流(d軸電流)の実測値(電流測定値id1)を、励磁電流取得値として取得する。後退検出部79は、取得部90で取得された負の励磁電流取得値(電流測定値id1)の大きさに基づいて、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)の発生状況を検出する。ここで、励磁電流について、永久磁石312の磁束を弱める磁束(弱め磁束)をコイル321に発生させる向きに流れる電流を負の電流とした。言い換えると、負の励磁電流の向きを、弱め磁束電流の向きとした。励磁電流取得値(電流測定値id1)の正負は、励磁電流の正負と一致する。
【0057】
後退検出部79は、より詳細には、取得部90で取得された負の励磁電流取得値(電流測定値id1)が閾値Th1を下回ることをもって、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)が発生していることを検出する。つまり、後退検出部79は、ハンマ42の最大後退が発生する際の電流測定値id1の変動を検出する。閾値Th1は、負の値である。閾値Th1は、例えば、制御部7を構成するコンピュータシステムのメモリに記憶されている。
【0058】
最大後退が発生していない場合には、ハンマ42が駆動軸41に対して後退しつつ回転可能であるが、最大後退の発生時にはハンマ42が駆動軸41に対して後退しつつ回転することが制限される。これにより、最大後退の発生の前後で電動機3の回転数が変動する。電動機3の回転数が急激に変動すると、電動機3の回転角θ1のモータ回転測定部82による測定が、回転数の変動に追従しきれず、回転角θ1の測定値が実際の値からずれた値となる。より詳細には、モータ回転測定部82で求められる回転角θ1の測定値は、最大後退が発生していないときはリアルタイムの値であるが、最大後退が発生すると少し前の時点の値となる。その結果、モータ回転測定部82で測定された回転角θ1に基づいて第2の座標変換器75により算出される電流測定値id1は、実際の値とは異なる値となる。具体的には、最大後退の発生時には、電流測定値id1が実際の値よりも小さい値となる。後退検出部79は、このような電流測定値id1の減少を検出する。
【0059】
図7では、インパクト工具1は、インパクトドライバとして、ねじ(ボルト)締めのために用いられるとする。作業者は、時点T0よりも前の時点に、ソケット62にねじを挿しこむ。その後、作業者は、時点T0よりも前の時点に、インパクト工具1のトリガボリューム23を引く操作をする。これにより電動機3にq軸電流(トルク電流)が流れ始め、電動機3が回転を開始する。その後、トリガボリューム23に対する引込み量に応じて、電動機3の回転速度(角速度ω1)は徐々に増加する。時点T0以降では、インパクト工具1のインパクト機構40は、打撃動作を行っている。
【0060】
時点T1において、励磁電流の電流測定値id1は、閾値Th1を下回る。そのため、後退検出部79は、最大後退が発生していることを検出する。また、時点T2、T3、T4、T5、T6においても、励磁電流の電流測定値id1は、閾値Th1を下回る。そのため、時点T2、T3、T4、T5、T6の各々において、後退検出部79は、最大後退が発生していることを検出する。
【0061】
以上説明したように、本実施形態のインパクト工具1では、後退検出部79は、励磁電流取得値(電流測定値id1)を用いることにより、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)の発生状況を検出することができる。これにより、インパクト機構40の不安定挙動に対する対策を実施することが可能となる。例えば、インパクト機構40の不安定挙動に対する対策として、不安定挙動の発生時に電動機3の回転数を低下させるという対策を実施可能である。
【0062】
また、インパクト工具1の電源である電池パックの電池電圧及び電池電流に基づいてインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する場合よりも、検出精度を向上させることができる。つまり、インパクト機構40の不安定挙動の発生時に、電池電圧及び電池電流の変動よりも、励磁電流取得値の変動の方が顕著に現れやすい。そのため、電池電圧及び電池電流ではなく励磁電流取得値を用いることで、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況の検出精度を向上させることができる。
【0063】
さらに、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する際に、電池電圧及び電池電流の測定が不要となる。特に、本実施形態のインパクト工具1では、d軸電流及びq軸電流の電流測定値id1、iq1に基づいて電動機3に供給される電流を制御するベクトル制御を採用している。ベクトル制御では、電池電圧及び電池電流を測定しなくても電動機3の制御が可能である。したがって、本実施形態のインパクト工具1は、電池電圧及び電池電流を測定するための回路を備えていなくても、電動機3の制御とインパクト機構40の不安定挙動の発生状況の検出とが可能であるという利点がある。これにより、インパクト工具1に備えられる回路の面積及び寸法の低減、並びに、回路に要するコストの低減を図ることができる。ただし、インパクト工具1は、電池電圧及び電池電流を測定する回路を備えていてもよい。また、後退検出部79は、励磁電流取得値(電流測定値id1)に加えて、電池電圧及び電池電流のうち少なくとも一方に基づいて、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出してもよい。
【0064】
また、出力軸61には、種類、形状及び剛性等が異なる複数の先端工具の中から1つを装着できる。後退検出部79は、先端工具の種類、形状及び剛性等の違いに起因したインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出することができる。さらに、後退検出部79の検出結果に基づいて制御部7が電動機3の動作を制御するので、先端工具の種類、形状及び剛性等を変更しても、インパクト機構40が安定動作するように電動機3を制御することができる。
【0065】
(変形例1)
以下、変形例1に係るインパクト工具1について、図7を用いて説明する。実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0066】
実施形態と同様に、制御部7は、励磁電流の実測値(電流測定値id1)を指令値cid1(目標値)に近づけるように電動機3の動作を制御する。そして、本変形例1の後退検出部79は、励磁電流の指令値cid1(目標値)と、励磁電流の実測値(電流測定値id1)との差に基づいて、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)の発生状況を検出する。
【0067】
図7では、励磁電流の指令値cid1は常に0である。そのため、励磁電流の指令値cid1と電流測定値id1との差は、電流測定値id1に等しい。図7では、時点T1における励磁電流の指令値cid1と電流測定値id1との差Δi1を図示している。
【0068】
励磁電流の指令値cid1は、0に限定されず、0よりも大きい値又は小さい値であってもよく、また、時間的に変化する値であってもよい。
【0069】
後退検出部79は、励磁電流の指令値cid1と電流測定値id1との差の絶対値が所定の閾値を上回ることをもって、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)が発生していることを検出する。ここで、所定の閾値の大きさは、例えば、実施形態の閾値Th1の絶対値に等しい。図7では、時点T1、T2、T3、T4、T5、T6の各々において、後退検出部79は、最大後退が発生していることを検出する。
【0070】
本変形例1では、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況の検出において、励磁電流の指令値cid1が用いられる。そのため、励磁電流の指令値cid1が0よりも大きい値又は小さい値となる場合であっても、指令値cid1の大きさを加味してインパクト機構40の不安定挙動の発生状況が検出される。よって、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況の検出精度が低下する可能性を低減できる。
【0071】
(変形例2)
以下、変形例2に係るインパクト工具1について、図7を用いて説明する。実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
実施形態と同様に、取得部90は、コイル321に供給される励磁電流の電流測定値id1及びトルク電流の電流測定値iq1値を取得する。後退検出部79は、取得部90で取得された励磁電流取得値(電流測定値id1)及び、取得部90で取得されたトルク電流取得値(電流測定値iq1)に基づいて、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)の発生状況を検出する。
【0073】
具体的には、後退検出部79は、次の第1条件及び第2条件の両方が所定の時間内に満たされたことをもって、ハンマ42の最大後退が発生したことを検出する。第1条件は、励磁電流の電流測定値id1が閾値Th1を下回ることである。第2条件は、トルク電流の電流測定値iq1の絶対値が閾値Th2を超えることである。閾値Th1、Th2は、例えば、制御部7を構成するコンピュータシステムのメモリに記憶されている。
【0074】
所定の時間は、例えば、10ミリ秒である。すなわち、第1条件と第2条件とのうち一方が満たされてから他方が満たされるまでに要した時間が10ミリ秒以内であれば、後退検出部79は、ハンマ42の最大後退が発生したことを検出する。
【0075】
図7では、時点T1、T2において、後退検出部79は、ハンマ42の最大後退が発生したことを検出する。
【0076】
本変形例2によれば、後退検出部79が励磁電流取得値(電流測定値id1)のみに基づいてインパクト機構40(ハンマ42)の不安定挙動の発生状況を検出する場合と比較して、検出精度の向上を図ることができる。例えば、インパクト機構40の不安定挙動が発生していないときに、後退検出部79は、不安定挙動が発生していると誤検出する可能性を低減できる。
【0077】
別の一例として、所定の時間は、電流測定値id1又はiq1のサンプリング周期に一致していてもよい。電流測定値id1、iq1の各々のサンプリングのタイミングが同期している場合に、後退検出部79は、電流測定値id1、iq1のあるサンプリングのタイミングで第1条件と第2条件とが共に満たされたことをもって、最大後退が発生したことを検出してもよい。
【0078】
また、後退検出部79は、第1条件と第2条件とのうち少なくとも一方が満たされたことをもって、最大後退が発生したことを検出してもよい。
【0079】
なお、取得部90は、トルク電流取得値としての電流測定値iq1を取得する構成に限定されない。取得部90は、トルク電流取得値としてのトルク電流の指令値ciq1を取得する構成であってもよい。この場合、取得部90は、少なくとも速度制御部72を含む。
【0080】
また、取得部90は、励磁電流取得値としての電流測定値id1を取得する構成に限定されない。取得部90は、励磁電流取得値としての励磁電流の指令値cid1を取得する構成であってもよい。この場合、取得部90は、少なくとも磁束制御部76を含む。実施形態及び変形例1でも同様に、取得部90は、励磁電流取得値としての励磁電流の指令値cid1を取得する構成であってもよい。
【0081】
また、取得部90は、取得部90自身により電流測定値id1、iq1を算出することで、電流測定値id1、iq1を取得する構成に限定されない。取得部90は、取得部90以外の構成から電流測定値id1、iq1を取得してもよい。実施形態及び変形例1でも同様に、取得部90は、取得部90以外の構成から電流測定値id1、iq1を取得してもよい。
【0082】
(実施形態のその他の変形例)
以下、実施形態のその他の変形例を列挙する。以下の変形例は、適宜組み合わせて実現されてもよい。また、以下の変形例は、上述の各変形例と適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0083】
検出部(後退検出部79)は、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出すればよく、ハンマ42の最大後退の発生状況を検出する構成に限定されない。検出部は、例えば、電動機3の回転数が目標値からずれるようにして不安定化することに起因した、ハンマ42の速度の不安定化の発生状況を、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況として検出してもよい。また、検出部は、ハンマ42の位置に関する不安定挙動の発生状況を検出してもよい。ハンマ42の位置に関する不安定挙動は、例えば、ハンマ42が所定位置を超えて前進又は後退することである。また、検出部は、インパクト機構40の不安定挙動の発生の予兆を、不安定挙動の発生状況として検出してもよい。
【0084】
実施形態の後退検出部79は、取得部90で取得された負の励磁電流取得値(電流測定値id1)の大きさに基づいて、ハンマ42の最大後退の発生を検出する。これは、最大後退の発生時には電流測定値id1が減少するためである。ただし、不安定挙動の種類及び発生状況等によっては、電流測定値id1が増加することもある。すなわち、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退に限らない)の発生に前後して電流測定値id1が増加することがある。そのため、後退検出部79は、励磁電流取得値(電流測定値id1)の値が正であるか負であるかに関係なく、励磁電流取得値の大きさに基づいてインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出してもよい。
【0085】
後退検出部79は、励磁電流の電流測定値id1が閾値Th1を下回るという事象が2回以上の所定の回数発生することをもって、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)が発生していることを検出してもよい。ここで、電流測定値id1が閾値Th1を下回った時点から、所定の長さの不感期間を設けて、後退検出部79は、不感期間以外の期間に電流測定値id1が閾値Th1を下回ったか否かを判定してもよい。あるいは、電流測定値id1の高調波成分をローパスフィルタにより除去し、後退検出部79は、電流測定値id1の波形の谷ごとに、ボトム値が閾値Th1を下回るか否かを判定してもよい。あるいは、後退検出部79は、励磁電流の電流測定値id1が閾値Th1を下回る頻度が所定頻度以上となることをもって、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)が発生していることを検出してもよい。
【0086】
また、後退検出部79は、励磁電流の電流測定値id1が閾値Th1以上の状態から閾値Th1を下回る値に変化する事象が2回以上の所定の回数発生することをもって、インパクト機構40の不安定挙動(最大後退)が発生していることを検出してもよい。
【0087】
実施形態の一態様において、制御部7は、後退検出部79がインパクト機構40の不安定挙動(最大後退)の発生を検出すると、電動機3の回転数を低下させる。ここで、制御部7には、最大下げ幅が設定されていてもよい。制御部7は、後退検出部79がインパクト機構40の不安定挙動の発生を検出する度に、最大下げ幅よりも小さい大きさだけ電動機3の回転数を低下させてもよい。そして、制御部7は、電動機3の回転数の低下量が最大下げ幅に達すると、それ以上は電動機3の回転数を低下させないように構成されていてもよい。あるいは、制御部7は、電動機3の回転数の低下量が最大下げ幅に達するまで所定の時間ごとに電動機3の回転数を低下させてもよい。また、制御部7は、後退検出部79がインパクト機構40の不安定挙動の発生を検出すると、直ちに、電動機3の回転数を最大下げ幅だけ低下させてもよい。
【0088】
閾値Th1は、先端工具の種類、重量及び寸法、並びに、作業対象である負荷の種類等に応じて変更されてもよい。負荷の種類としては、例えば、ボルト、ビス及びナットが挙げられる。
【0089】
インパクト工具1は、インパクトドライバに限定されず、例えば、インパクトレンチ、インパクトドリル又はインパクトドリルドライバ等であってもよい。
【0090】
本実施形態のインパクト工具1は、先端工具を用途に応じて交換可能であるが、先端工具が交換可能であることは必須ではない。例えば、インパクト工具1は、特定の先端工具のみ用いることができる電動工具であってもよい。
【0091】
アンビル45は、アンビル45に連結された出力軸61等を介して先端工具を保持していてもよいし、先端工具を直接保持していてもよい。
【0092】
出力軸61は、先端工具と一体に形成されていてもよい。
【0093】
インパクト工具1は、ハンマ42の最大後退時にハンマ42に加えられる衝撃を緩和するための緩衝部材を備えていてもよい。緩衝部材は、例えば、ゴムを材料として形成される。ハンマ42が最大後退するとき、ハンマ42が緩衝部材に当たることで、ハンマ42に加えられる衝撃が緩和される。
【0094】
インパクト工具1は、後退検出部79の検知結果を報知する報知部を備えていてもよい。報知部は、例えば、ブザー又は光源を有し、後退検出部79が最大後退を検知すると、音又は光を発することにより最大後退を報知する。
【0095】
インパクト工具1は、トルク測定部を備えていてもよい。トルク測定部は、電動機3の動作トルクを測定する。トルク測定部は、例えば、ねじり歪みの検出が可能な磁歪式歪センサである。磁歪式歪センサは、電動機3の出力軸61にトルクが加わることにより発生する歪みに応じた透磁率の変化を、電動機3の非回転部分に設置したコイルで検出し、歪みに比例した電圧信号を出力する。
【0096】
インパクト工具1は、ビット回転測定部を備えていてもよい。ビット回転測定部は、出力軸61の回転角を測定する。ここでは、出力軸61の回転角は、先端工具(ソケット62)の回転角に等しい。ビット回転測定部としては、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを採用することができる。
【0097】
(まとめ)
以上説明した実施形態等から、以下の態様が開示されている。
【0098】
第1の態様に係るインパクト工具1は、電動機3と、インパクト機構40と、取得部90と、検出部(後退検出部79)と、を備える。電動機3は、永久磁石312及びコイル321を有する。インパクト機構40は、電動機3から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。取得部90は、コイル321に供給される励磁電流の値を取得する。励磁電流は、永久磁石312の磁束を変化させる磁束をコイル321に発生させる。検出部は、取得部90で取得された励磁電流の値である励磁電流取得値(電流測定値id1)に基づいてインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する。
【0099】
上記の構成によれば、励磁電流取得値(電流測定値id1)を用いることにより、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出することが可能となる。
【0100】
また、第2の態様に係るインパクト工具1は、第1の態様において、制御部7を備える。制御部7は、電動機3の動作を制御する。
【0101】
上記の構成によれば、インパクト工具1は、電動機3の動作の自律的な制御が可能となる。
【0102】
また、第3の態様に係るインパクト工具1では、第2の態様において、制御部7は、少なくとも検出部(後退検出部79)の検出結果がインパクト機構40の不安定挙動の発生を示していない場合に、電動機3の回転数を一定の目標値に近づけるように電動機3の動作を制御する。
【0103】
上記の構成によれば、電動機3の回転数の変動に伴うインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出しやすい。
【0104】
また、第4の態様に係るインパクト工具1では、第2又は3の態様において、制御部7は、検出部(後退検出部79)がインパクト機構40の不安定挙動の発生を検出すると、電動機3の回転数を低下させる。
【0105】
上記の構成によれば、インパクト機構40の不安定挙動によりインパクト工具1の寿命が低下する可能性を低減できる。
【0106】
また、第5の態様に係るインパクト工具1では、第2~4の態様のいずれか1つにおいて、制御部7は、コイル321に供給される励磁電流を目標値(指令値cid1)に近づけるように電動機3の動作を制御する。検出部(後退検出部79)は、励磁電流の目標値(指令値cid1)と、励磁電流の実測値(電流測定値id1)との差に基づいて、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する。
【0107】
上記の構成によれば、簡素な処理によりインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出できる。
【0108】
また、第6の態様に係るインパクト工具1では、第1~4の態様のいずれか1つにおいて、励磁電流について、永久磁石312の磁束を弱める磁束をコイル321に発生させる向きに流れる電流を負の電流とする。検出部(後退検出部79)は、負の励磁電流取得値(電流測定値id1)の大きさに基づいて、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する。
【0109】
上記の構成によれば、簡素な処理によりインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出できる。
【0110】
また、第7の態様に係るインパクト工具1では、第1~6の態様のいずれか1つにおいて、取得部90は、コイル321に供給されるトルク電流の値を更に取得する。検出部(後退検出部79)は、取得部90で取得された励磁電流取得値(電流測定値id1)及び、取得部90で取得されたトルク電流の値であるトルク電流取得値(電流測定値iq1)に基づいて、インパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する。
【0111】
上記の構成によれば、検出部(後退検出部79)が励磁電流取得値(電流測定値id1)のみに基づいてインパクト機構40の不安定挙動の発生状況を検出する場合と比較して、検出精度の向上を図ることができる。
【0112】
また、第8の態様に係るインパクト工具1では、第1~7の態様のいずれか1つにおいて、インパクト機構40は、アンビル45と、ハンマ42と、を有する。アンビル45は、先端工具を保持する。ハンマ42は、アンビル45に対して移動し、電動機3から動力を得てアンビル45に回転打撃を加える。不安定挙動は、ハンマ42の移動可能な範囲においてハンマ42がアンビル45から最も離れた位置に移動する最大後退である。
【0113】
上記の構成によれば、最大後退の発生状況を検出し、これに応じた処置を取ることができる。
【0114】
第1の態様以外の構成については、インパクト工具1に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 インパクト工具
3 電動機
40 インパクト機構
42 ハンマ
45 アンビル
7 制御部
79 後退検出部(検出部)
90 取得部
312 永久磁石
321 コイル
cid1 指令値(目標値)
id1 電流測定値(励磁電流取得値)
iq1 電流測定値(トルク電流取得値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7