(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】脳計測装置及び脳計測方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/245 20210101AFI20231020BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20231020BHJP
G01R 33/26 20060101ALI20231020BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20231020BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
A61B5/245
A61B5/055 390
A61B5/055 331
G01R33/26
G01R33/02 W
G01R33/02 R
G01R33/02 X
G01R35/00 M
(21)【出願番号】P 2020103967
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】笈田 武範
(72)【発明者】
【氏名】森谷 隆広
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 右典
(72)【発明者】
【氏名】須山 本比呂
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲生
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-523201(JP,A)
【文献】国際公開第2012/120732(WO,A1)
【文献】特開2011-146621(JP,A)
【文献】特開2009-125396(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0072916(US,A1)
【文献】特開2016-109665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05 - 5/0538
A61B 5/055
A61B 5/24 - 5/398
G01R 11/00 -11/66
G01R 21/00 -22/10
G01R 33/00 -33/26
G01R 35/00 -35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳磁場を計測する複数の光励起磁気センサと、
前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における静磁場を計測する複数の静磁場補正用磁気センサと、
前記静磁場を補正するための静磁場補正コイルと、を有する脳磁計と、
静磁場を印加するための永久磁石と、
傾斜磁場を印加するための傾斜磁場コイルと、
所定の周波数の送信パルスを送信するための送信コイルと、
前記送信パルスの送信によって生じた核磁気共鳴信号を検出する受信コイルと、を有するMRI装置と、
脳磁場の計測時には、前記複数の静磁場補正用磁気センサの計測値に基づいて、前記静磁場補正コイルに供給する電流を制御して、前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における、地磁気に係る静磁場、及び、前記永久磁石による静磁場を打ち消すように動作し、
MR画像の計測時には、前記傾斜磁場コイルに供給する電流を制御して前記傾斜磁場を制御し、前記受信コイルの出力を基にMR画像を生成する制御装置と、
を備える脳計測装置。
【請求項2】
前記静磁場補正コイルは、前記複数の光励起磁気センサごとに、それぞれが直交し、且つ周回して配置される三つの直交した向きに磁場を印加できるコイルシステムを含み、
前記制御装置は、前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における磁場がゼロに近似するように前記コイルシステムに対する電流を決定する、
請求項1記載の脳計測装置。
【請求項3】
前記脳磁計は、
前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における変動磁場を計測する複数のアクティブシールド用磁気センサと、
前記変動磁場を補正するためのアクティブシールドコイルと、をさらに有し、
前記制御装置は、脳磁場の計測時には、前記複数のアクティブシールド用磁気センサの計測値に基づいて、前記アクティブシールドコイルに供給する電流を制御して、前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における前記変動磁場を打ち消す磁場を発生させるように前記アクティブシールドコイルに供給する電流を決定する、
請求項1又は2に記載の脳計測装置。
【請求項4】
前記アクティブシールドコイルは、前記複数の光励起磁気センサを挟んで配置される一対のコイルである、請求項3に記載の脳計測装置。
【請求項5】
前記受信コイルに電気的に接続され、前記受信コイルを流れる電流を基に磁気信号を出力する出力コイルと、
前記出力コイルによって出力された前記磁気信号を検出する別の光励起磁気センサと、をさらに備え、
前記制御装置は、前記別の光励起磁気センサによって検出された前記磁気信号を基に前記MR画像を生成する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の脳計測装置。
【請求項6】
前記複数の光励起磁気センサは、被験者の頭皮に対し垂直な方向且つ同軸上に計測領域及び参照領域を有する軸型グラジオメータである、
請求項1~5のいずれか1項に記載の脳計測装置。
【請求項7】
前記複数の光励起磁気センサ、前記複数の静磁場補正用磁気センサ、及び前記受信コイルは、被験者の頭部に装着されるヘルメット型の非磁性フレームに固定されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の脳計測装置。
【請求項8】
高周波数の電磁ノイズを遮蔽するための電磁シールドをさらに備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の脳計測装置。
【請求項9】
前記静磁場補正コイルは、前記複数の光励起磁気センサに対して、0~200Hzの範囲に含まれる周波数に感度を有するようにバイアス磁場を印加するように構成される、
請求項1~8のいずれか1項に記載の脳計測装置。
【請求項10】
前記別の光励起磁気センサは、20kHz~500kHzの範囲に含まれる周波数に感度を有するようにバイアス磁場が印加されるように構成される、
請求項5に記載の脳計測装置。
【請求項11】
脳磁場を計測する複数の光励起磁気センサと、
前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における静磁場を計測する複数の静磁場補正用磁気センサと、
前記静磁場を補正するための静磁場補正コイルと、を有する脳磁計と、
静磁場を印加するための永久磁石と、
傾斜磁場を印加するための傾斜磁場コイルと、
所定の周波数の送信パルスを送信するための送信コイルと、
前記送信パルスの送信によって生じた核磁気共鳴信号を検出する受信コイルと、を有するMRI装置と、を用いた脳計測方法であって、
脳磁場の計測時には、前記複数の静磁場補正用磁気センサの計測値に基づいて、前記静磁場補正コイルに供給する電流を制御して、前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における、地磁気に係る静磁場、及び、前記永久磁石による静磁場を打ち消すように動作し、
MR画像の計測時には、前記傾斜磁場コイルに供給する電流を制御して前記傾斜磁場を制御し、前記受信コイルの出力を基にMR画像を生成する、
脳計測方法。
【請求項12】
前記静磁場補正コイルは、前記複数の光励起磁気センサごとに、それぞれが直交し、且つ周回して配置される三つの直交した向きに磁場を印加できるコイルシステムを含み、
前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における磁場がゼロに近似するように前記コイルシステムに対する電流を決定する、
請求項11記載の脳計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳計測装置及び脳計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳磁計として、微小な脳磁場を計測するために超伝導量子干渉計(superconducting quantum interference device, SQUID)が用いられている。近年では、SQUIDに代わり光励起磁気センサを用いた脳磁計が研究されている。光励起磁気センサは、光ポンピングによって励起されたアルカリ金属の原子のスピン偏極を用いることで微小な磁気を計測する。例えば、特許文献1は光ポンピング磁力計を利用した脳磁計を開示している。また、最近では、脳磁計とMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置とを、SQUIDを用いて融合しようとする研究もおこなわれている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】“SQUIDs in biomagnetism: a roadmap towards improved healthcare”,Supercond. Sci. Technol. 29 (2016) 113001 (30pp)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、脳磁計による計測は、脳磁場よりも強い磁場の影響を避けるために、地磁気を含む環境磁場を低減した状態で行う必要がある。一方で、MRIによる計測は、静磁場及び傾斜磁場等を発生させた状態で行う必要がある。脳磁計及びMRI装置を一体化させた装置を実現しようとする場合には、環境磁場の低減と静磁場及び傾斜磁場等の印加とを効率よく実現することが求められる。
【0006】
本実施形態は上記実情に鑑みてなされたものであり、脳磁計測およびMRI計測を効率よく実現できる脳計測装置及び脳計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係る脳計測装置は、脳磁場を計測する複数の光励起磁気センサと、複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における静磁場を計測する複数の静磁場補正用磁気センサと、静磁場を補正するための静磁場補正コイルと、を有する脳磁計と、静磁場を印加するための永久磁石と、傾斜磁場を印加するための傾斜磁場コイルと、所定の周波数の送信パルスを送信するための送信コイルと、送信パルスの送信によって生じた核磁気共鳴信号を検出する受信コイルと、を有するMRI装置と、脳磁場の計測時には、複数の静磁場補正用磁気センサの計測値に基づいて、静磁場補正コイルに供給する電流を制御して、複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における、地磁気に係る静磁場、及び、永久磁石による静磁場を打ち消すように動作し、MR画像の計測時には、傾斜磁場コイルに供給する電流を制御して傾斜磁場を制御し、受信コイルの出力を基にMR画像を生成する制御装置と、を備える。
【0008】
或いは、実施形態の他の態様に係る脳計測方法は、脳磁場を計測する複数の光励起磁気センサと、複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における静磁場を計測する複数の静磁場補正用磁気センサと、静磁場を補正するための静磁場補正コイルと、を有する脳磁計と、静磁場を印加するための永久磁石と、傾斜磁場を印加するための傾斜磁場コイルと、所定の周波数の送信パルスを送信するための送信コイルと、送信パルスの送信によって生じた核磁気共鳴信号を検出する受信コイルと、を有するMRI装置と、を用いた脳計測方法であって、脳磁場の計測時には、複数の静磁場補正用磁気センサの計測値に基づいて、静磁場補正コイルに供給する電流を制御して、複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における、地磁気に係る静磁場、及び、永久磁石による静磁場を打ち消すように動作し、MR画像の計測時には、傾斜磁場コイルに供給する電流を制御して傾斜磁場を制御し、受信コイルの出力を基にMR画像を生成する。
【0009】
上記一態様あるいは他の態様によれば、脳磁場を計測する複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における静磁場が計測される。そして、脳磁場の計測時には、静磁場の複数の計測値に基づいて静磁場補正コイルを流れる電流が制御され、それぞれのコイルにおいて磁場が発生し、複数の光励起磁気センサの位置において、静磁場補正コイルにおいて発生した磁場によって、地磁気に係る静磁場及び永久磁石による静磁場が打ち消される。その結果、複数の光励起磁気センサの位置における静磁場が補正されることにより、複数の光励起磁気センサが、環境磁場の影響を避けた状態において脳磁場を計測することができる。このとき、地磁気に係る静磁場と永久磁石による静磁場を静磁場補正コイルによってまとめて補正することができる。
【0010】
一方で、上記一態様あるいは他の態様によれば、MR画像の計測時には、永久磁石によって静磁場が印加されるとともに、傾斜磁場コイルを流れる電流が制御されることにより傾斜磁場が印加され、受信コイルによって送信パルスの送信によって生じた核磁気共鳴信号が検出される。その結果、受信コイルの出力を基にMR画像を計測することができる。特に、永久磁石を用いて静磁場を発生させているので、電磁石で静磁場を生成する構成に比較して、装置の小型化を図れるとともに、消費電力の低減を図ることができる。
【0011】
このような脳計測装置及び脳計測方法によれば、同一の装置を用いて脳磁計測およびMRI計測を効率よく実現できる。特に、MRI計測において、超電導コイルが不要となり、脳磁場計測時の磁気ノイズの低減のための磁気シールドルームも不要となり、SQUIDを使用する場合に必要となる液体ヘリウム等の冷却剤も不要となり、小型化及び低コスト化が可能となる。さらには、同一の被験者を対象に同一の装置を用いて脳磁場計測およびMRI計測を順次実施できるので、両計測結果のレジストレーションエラーを低減することができる。
【0012】
ここで、静磁場補正コイルは、複数の光励起磁気センサごとに、それぞれが直交し、且つ周回して配置される三つの直交した向きに磁場を印加できるコイルシステムを含み、制御装置は、複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における磁場がゼロに近似するようにコイルシステムに対する電流を決定する、ことが好適である。このような構成によれば、コイルシステムは、複数の光励起磁気センサごとに、静磁場の三方向(x軸、y軸、及びz軸)の成分のそれぞれに対応して配置される。そして、コイルシステムのそれぞれに対し電流を制御することによって、複数の光励起磁気センサごとに、静磁場のx軸方向の成分、y軸方向の成分、及びz軸方向の成分のそれぞれを打ち消す磁場が発生し、三方向から静磁場が補正される。これにより、複数の光励起磁気センサごとに細かく電流を制御することができ、静磁場の補正精度が向上する。また、複数の光励起磁気センサの動作に関係する領域の静磁場のみを補正するため、不要な補正に係る消費電力の増加を抑制できる。さらには、静磁場補正コイルによって、複数の光励起磁気センサごとに、環境磁場の勾配をも補正することができる。
【0013】
また、脳磁計は、複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における変動磁場を計測する複数のアクティブシールド用磁気センサと、変動磁場を補正するためのアクティブシールドコイルと、をさらに有し、制御装置は、脳磁場の計測時には、複数のアクティブシールド用磁気センサの計測値に基づいて、アクティブシールドコイルに供給する電流を制御して、複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における変動磁場を打ち消す磁場を発生させるようにアクティブシールドコイルに供給する電流を決定する、ことも好適である。このような構成によれば、複数の光励起磁気センサの位置における変動磁場が打ち消されることにより、複数の光励起磁気センサは、変動磁場の影響を確実に避けた状態において脳磁場を計測することができる。その結果、磁気シールドルームを使用せずに高精度に脳磁場を計測することができる。
【0014】
さらに、アクティブシールドコイルは、複数の光励起磁気センサを挟んで配置される一対のコイルである、ことも好適である。このような構成によれば、一対のアクティブシールドコイルに挟まれた複数の光励起磁気センサの位置における変動磁場が効果的に補正される。これにより、簡易な構成によって変動磁場を適切に補正することができる。
【0015】
またさらに、受信コイルに電気的に接続され、受信コイルを流れる電流を基に磁気信号を出力する出力コイルと、出力コイルによって出力された磁気信号を検出する別の光励起磁気センサと、をさらに備え、制御装置は、別の光励起磁気センサによって検出された磁気信号を基にMR画像を生成する、ことも好適である。このような構成によれば、fT以上の高い感度を有した別の光励起磁気センサによって信号を受信できるので、MR画像計測の精度を高めることができる。また、mTほどの静磁場が印加された受信コイルとは離れた位置に別の光励起磁気センサを配置するので、静磁場の影響を受けることなく、センサの感度帯域を調整することが可能である。
【0016】
さらにまた、複数の光励起磁気センサは、被験者の頭皮に対し垂直な方向且つ同軸上に計測領域及び参照領域を有する軸型グラジオメータである、ことも好適である。このような構成によれば、コモンモードノイズの影響が計測領域の出力結果及び参照領域の出力結果のそれぞれに示されるため、両者の出力結果の差分を取得することによってコモンモードノイズを除去することができる。これにより、脳磁場の計測精度が向上する。
【0017】
また、複数の光励起磁気センサ、複数の静磁場補正用磁気センサ、及び受信コイルは、被験者の頭部に装着されるヘルメット型の非磁性フレームに固定されている、ことも好適である。このような構成によれば、被験者の頭部の動きに応じて、頭部に装着された非磁性フレーム及び非磁性フレームに固定された各センサ及び受信コイルが動くため、被験者の頭部が動いた場合においても、複数の光励起磁気センサの位置における静磁場の補正、脳磁場の計測、及びMRI計測を適切に行うことができる。その結果、両計測のレジストレーションエラーを抑えることができる。
【0018】
さらに、高周波数の電磁ノイズを遮蔽するための電磁シールドをさらに備えてもよい。このような構成によれば、脳磁計では計測の対象とならない高周波数の電磁ノイズが複数の光励起磁気センサに侵入することを防止できる。これにより、複数の光励起磁気センサによる脳磁場の計測を安定的に動作させることができる。一方、MRI計測では、信号領域である20kHz~500kHz帯のノイズの侵入を防ぐことができる。
【0019】
またさらに、静磁場補正コイルは、複数の光励起磁気センサに対して、0~200Hzの範囲に含まれる周波数に感度を有するようにバイアス磁場を印加するように構成される、ことも好適である。このような構成により、脳磁場の計測の感度を高めることができる。
【0020】
さらにまた、別の光励起磁気センサは、20kHz~500kHzの範囲に含まれる周波数に感度を有するようにバイアス磁場が印加されるように構成されることも好適である。この場合、MRI計測の精度も高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、脳磁計測およびMRI計測を効率よく実現可能な脳計測装置及び脳計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る脳計測装置の構成を示す概略図である。
【
図2】実施形態に係る静磁場補正コイルの構成を示す概略図である。
【
図3】実施形態に係るOPMモジュール23の構成を示す概略図である。
【
図4】実施形態に係る脳計測装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る脳計測装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
図1は、実施形態に係る脳計測装置M1の構成を示す概略図、
図2は、脳計測装置M1に含まれる静磁場補正コイル16の構成を示す概略図である。脳計測装置M1は、被験者を対象に脳磁場の計測およびMR(Magnetic Resonance)画像の計測を行う装置である。脳計測装置M1は、複数のOPM(optically pumped magnetometer)モジュール1、複数の静磁場補正用磁気センサ2、複数のアクティブシールド用磁気センサ3、非磁性フレーム4、静磁場補正コイル16、及び一対のアクティブシールドコイル9、を有する脳磁計モジュールと、一対の永久磁石7、一対の傾斜磁場コイル8、送信コイル21、受信コイル22、OPMモジュール23、及び出力コイル24、を有するMRIモジュールとを備える。さらに、脳計測装置M1は、制御装置5と、コイル電源6と、ポンプレーザ10と、プローブレーザ11と、アンプ12A,12Bと、ヒータコントローラ13と、電磁シールド14と、送信コイルコントローラ15と、を備える。
【0025】
以下の説明においては、被験者の頭部の中心軸におおよそ平行な向きをZ軸方向とし、Z軸に垂直な方向であって、互いに垂直な方向をX軸方向及びY軸方向とする。
【0026】
OPMモジュール1は、光励起磁気センサ1Aと、断熱材1Bと、読み出し回路1Cと、を有する。複数のOPMモジュール1は、例えば頭皮に沿って所定の間隔で配置される。
【0027】
光励起磁気センサ1Aは、光ポンピングを利用して脳磁場を計測するセンサであり、例えば10fT~10pT程度の感度を有する。断熱材1Bは、光励起磁気センサ1Aの熱移動及び熱伝達を防止する。読み出し回路1Cは、光励起磁気センサ1Aの検出結果を取得する回路である。光励起磁気センサ1Aは、アルカリ金属蒸気を封入したセルにポンプ光を照射することによって、アルカリ金属を励起状態とする。励起状態のアルカリ金属はスピン偏極状態にあり、磁気を受けると、磁気に応じてアルカリ金属原子のスピン偏極軸の傾きが変化する。このスピン偏極軸の傾きは、ポンプ光とは別に照射されるプローブ光によって検出される。なお、光励起磁気センサ1Aは、0~200Hzの範囲に含まれる周波数の磁場に感度を有るように、OPMモジュール1毎に設けられた静磁場補正コイル16によってポンプ光の照射方向に所定のバイアス磁場が印加されるように構成される。読み出し回路1Cは、アルカリ金属蒸気を通過したプローブ光をフォトダイオードによって受光し、検出結果を取得する。読み出し回路1Cは、検出結果をアンプ12Aに出力する。
【0028】
光励起磁気センサ1Aは、例えば軸型グラジオメータ(Gradiometer)としてもよい。軸型グラジオメータは、被験者の頭皮(計測箇所)に対し垂直な方向且つ同軸上に計測領域及び参照領域を有する。計測領域とは、例えば、軸型グラジオメータが脳磁場を計測する箇所のうち、被験者の頭皮に最も近接する箇所である。参照領域とは、例えば、軸型グラジオメータが脳磁場を計測する箇所のうち、被験者の頭皮から離れた方向に対し、計測領域から所定の距離(例えば3cm)の箇所である。軸型グラジオメータは、計測領域及び参照領域において計測したそれぞれの結果をアンプ12Aに出力する。ここで、コモンモードノイズが含まれる場合には、その影響が計測領域の出力結果及び参照領域の出力結果のそれぞれに示される。コモンモードノイズは、計測領域の出力結果及び参照領域の出力結果の差分を取得することによって除去される。コモンモードノイズを除去することにより、例えば1pTの磁気ノイズ環境下で計測した場合、光励起磁気センサ1Aは10fT/√Hz程度の感度を得ることができる。
【0029】
静磁場補正用磁気センサ2は、光励起磁気センサ1Aに対応する位置において、地磁気に係る静磁場と永久磁石7による静磁場とを含む合成の静磁場を計測するセンサであり、例えば1nT~10mT程度の感度を有するフラックスゲートセンサにより構成される。光励起磁気センサ1Aに対応する位置とは、光励起磁気センサ1Aが配置された領域の周辺(近傍)の位置である。静磁場補正用磁気センサ2は、光励起磁気センサ1Aに一対一で対応して設けられていてもよいし、一対多(複数の光励起磁気センサ1Aに対して1台の静磁場補正用磁気センサ2)で対応して設けられていてもよい。静磁場補正用磁気センサ2は、静磁場に加えて地磁気の勾配磁場(以下、単に「勾配磁場」という。)をも計測し、それらの計測値を制御装置5に出力する。静磁場補正用磁気センサ2の計測値は、向き及び大きさを有するベクトルにより表され得る。静磁場補正用磁気センサ2は、計測及び出力を、所定の時間間隔で継続して行ってもよい。
【0030】
アクティブシールド用磁気センサ3は、光励起磁気センサ1Aに対応する位置において、変動磁場を計測するセンサであり、例えば100fT~10nT程度の感度を有し、光励起磁気センサ1Aとは異なる光励起磁気センサにより構成される。光励起磁気センサ1Aに対応する位置とは、光励起磁気センサ1Aが配置された領域の周辺(近傍)の位置である。アクティブシールド用磁気センサ3は、光励起磁気センサ1Aに一対一で対応して設けられていてもよいし、一対多(複数の光励起磁気センサ1Aに対して1台のアクティブシールド用磁気センサ3)で対応して設けられていてもよい。アクティブシールド用磁気センサ3は、変動磁場として例えば200Hz以下のノイズ(交流)成分の磁場を計測し、計測値を制御装置5に出力する。アクティブシールド用磁気センサ3の計測値は、向き及び大きさを有するベクトルにより表され得る。アクティブシールド用磁気センサ3は、計測及び出力を、所定の時間間隔で継続して行ってもよい。
【0031】
非磁性フレーム4は、脳磁場の計測対象である被験者の頭皮の全域を覆うフレームであり、グラファイト等の比透磁率が1に近く磁場分布を乱さない非磁性体材料により構成される。非磁性フレーム4は、例えば被験者の頭皮の全域を囲み、被験者の頭部に装着されるヘルメット型のフレームとすることができる。非磁性フレーム4には、被験者の頭皮に近接するように複数の光励起磁気センサ1Aが固定されている。さらに、非磁性フレーム4には、複数の光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置における静磁場を計測可能なように静磁場補正用磁気センサ2が固定され、複数の光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置における変動磁場を計測可能なようにアクティブシールド用磁気センサ3が固定されている。変動磁場は位置による磁場強度のばらつきが静磁場よりも少ないため、非磁性フレーム4には静磁場補正用磁気センサ2の数よりもアクティブシールド用磁気センサ3の数が少なくなるように固定されていてもよい。
【0032】
加えて、非磁性フレーム4内の複数の光励起磁気センサ1Aの被験者の頭皮側には、MR画像計測のために核磁気共鳴信号を検出するための受信コイル22が固定されている。この受信コイル22は、後述するプロトンの核磁気共鳴信号を検出して電流に変換する。磁気共鳴信号の検出感度を向上させるためには、受信コイル22は、光励起磁気センサ1Aの被験者の頭部の頭皮に近い側に設けられることが好ましい。
【0033】
さらに、非磁性フレーム4内の複数の光励起磁気センサ1Aを含むOPMモジュール1の周囲には、脳磁場計測時に、静磁場を補正するとともに光励起磁気センサ1Aに所定のバイアス磁場を印加するための静磁場補正コイル16が設けられている。静磁場補正コイル16は、それぞれが直交し、且つ周回して配置される三つの直交した向きに磁場を印加できるコイルシステム(例えば3軸ヘルムホルツコイル又は平面型のコイルシステム)である。
図2に示すように、静磁場補正コイル16は、具体的にはコイルシステム16X、16Y、及び16Zを有している。コイルシステム16X、16Y、及び16Zは、OPMモジュール1に対してそれぞれ点線で示すように配置されている。このように、コイルシステム16X、16Y、及び16Zは、OPMモジュール1(光励起磁気センサ1A)ごとに、それぞれが直交し、且つ周回して配置される。コイルシステム16Xは、静磁場のx軸方向の成分を補正するためのコイルである。同様に、コイルシステム16Y及び16Zは、静磁場のy軸方向及びz軸方向の成分をそれぞれ補正するためのコイルである。
【0034】
静磁場補正コイル16は、光励起磁気センサ1Aの位置における、静磁場を補正すると同時に、光励起磁気センサ1Aに対して所定のバイアス磁場を印加する。静磁場補正コイル16は、コイル電源6から供給される電流に応じて磁場を発生させて、静磁場のキャンセリングを行う。静磁場補正コイル16に含まれるコイルシステム16X、16Y、及び16Zは、コイル電源6から供給される電流に応じて、光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させる。磁場の方向は、例えば、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向である。さらに、静磁場補正コイル16は、コイル電源6から供給される電流に応じて、光励起磁気センサ1Aに対してポンプ光の照射方向に沿った所定のバイアス磁場を発生させる。光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場は、静磁場補正コイル16により発生する逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。
【0035】
送信コイル21は、MR画像計測時に、被験者の頭部に、所定周波数(例えば、約300kHz)のRFパルス(送信パルス)を照射するコイルである。この送信コイル21は、例えば、非磁性フレーム4の外部の被験者の頭部の上方に配置される。
【0036】
出力コイル24は、受信コイル22の両端にケーブルを介して電気的に接続され、受信コイル22の両端を流れる電流を受けて、その電流を再び磁気信号に変換して出力する。
【0037】
OPMモジュール23は、OPMモジュール1と同様に、光励起磁気センサ23Aと、断熱材23Bと、読み出し回路23Cと、を有する。OPMモジュール23は、例えば、非磁性フレーム4の外部において、出力コイル24と共に、後述する静磁場を遮蔽する磁気シールド25内に収納されて配置される。磁気シールド25は、比透磁率が1より大きな、例えばミューメタル等により構成される。
【0038】
光励起磁気センサ23Aは、光ポンピングを利用して磁気信号を計測するセンサである。なお、光励起磁気センサ23Aは、20kHz~500kHzの範囲に含まれる周波数の磁場に感度を有るようにポンプ光の照射方向に所定のバイアス磁場が印加されるように構成される。例えば、プロトンが発する電磁波の300kHzの周波数に感度を有するように約40μTのバイアス磁場が印加される。読み出し回路23Cは、光励起磁気センサ23Aによる検出結果をアンプ12Bに出力する。
【0039】
図3には、OPMモジュール23の構成の具体例を示している。光励起磁気センサ23Aは、計測する磁場によって偏極の方向が変化するアルカリ金属を含むガスが封入された長手状のセル26と、セル26の全体を所定温度(例えば、180度)に加熱するヒータ27と、偏光ビームスプリッタ28と、光検出器29とを含む。このセル26には、その内部の長手方向に沿って、外部からポンプ光L1が導入されるとともに、長手方向に垂直な方向に沿って、その長手方向において複数に分割(例えば、四分割)された交差領域26Aのそれぞれに対して、外部からのプローブ光L2が分岐されて照射される。これらの交差領域26Aを透過したプローブ光L2は、それぞれの交差領域26Aに対応して設けられた偏光ビームスプリッタ28及び光検出器29によって、その磁気旋光角度が検出される。すなわち、偏光ビームスプリッタ28は、プローブ光L2を互いに直交する2つの直線偏光成分に分離し、光検出器29は、内蔵する2つのPD(フォトダイオード)を用いて2つの直線偏光成分の強度を検出し、検出した強度の比を基にプローブ光L2の磁気旋光角度を検出する。OPMモジュール23には、回路ボード30がさらに設けられており、この回路ボード30内の読み出し回路23Cを経由して、それぞれの交差領域26Aごとに検出したプローブ光L2の磁気旋光角度を出力する。
【0040】
出力コイル24は、磁気シールド25内において、上記のような構成のOPMモジュール23のセル26の各交差領域26Aに対向するように固定される。このような構成により、受信コイル22によって検出される電磁場B
OUTを基に出力コイル24によって生成される磁気信号B
OUTが、アルカリ金属原子のスピン偏極軸の傾きに応じて変化するプローブ光L2の磁気旋光角度を基に検出される。ここで、
図3の例では、交差領域26Aの分割数が4つとされているが、任意の数に変更されてよい。また、セル26が並列に複数個設けられて、交差領域26Aが2次元的に配列されて(例えば、4×4=16個で)設けられてもよい。
【0041】
制御装置5は、脳磁場の計測時には、静磁場補正用磁気センサ2及びアクティブシールド用磁気センサ3から出力された計測値に基づいて、各種コイルに対する電流を決定し、電流を出力するための制御信号をコイル電源6に出力する。制御装置5は、複数の静磁場補正用磁気センサ2の計測値に基づいて、静磁場を打ち消す磁場を発生させるように、静磁場補正コイル16に対する電流を決定する。また、制御装置5は、複数のアクティブシールド用磁気センサ3の計測値に基づいて、変動磁場を打ち消す磁場を発生させるようにアクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。制御装置5は、決定した電流に応じた制御信号をコイル電源6に出力する。
【0042】
具体的には、複数の静磁場補正用磁気センサ2の計測値を元に光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場が発生するように、静磁場補正コイル16に対する電流を決定する。これは静磁場補正用磁気センサ2の計測値と光励起磁気センサ1Aでの磁場強度を事前に計測しておくことで実現できる。制御装置5は、決定した静磁場補正コイル16の電流に応じた制御信号(静磁場補正用制御信号)をコイル電源6に出力する。
【0043】
さらに、制御装置5は、複数のアクティブシールド用磁気センサ3の計測値の平均値が0に近似するように(結果として、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場が発生するように)、アクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。制御装置5は、決定したアクティブシールドコイル9の電流に応じた制御信号(変動磁場補正用制御信号)をコイル電源6に出力する。
【0044】
また、制御装置5は、アンプ12Aから出力された信号を利用して、光励起磁気センサ1Aが検出した磁気に関する情報を得る。光励起磁気センサ1Aが軸型グラジオメータである場合、制御装置5は、計測領域の出力結果及び参照領域の出力結果の差分を取得することによって、コモンモードノイズを除去してもよい。なお、制御装置5は、ポンプレーザ10及びプローブレーザ11の照射タイミング、照射時間等の動作を制御してもよい。
【0045】
また、制御装置5は、MR画像の計測時には、傾斜磁場の印加用の傾斜磁場コイル8に供給する電流を決定し、電流を出力するための制御信号をコイル電源6に出力する。すなわち、制御装置5は、傾斜磁場として、X軸方向磁場勾配(dBX/dX)、Y軸方向磁場勾配(dBX/dY)、及びZ軸方向磁場勾配(dBX/dZ)を選択的に決定し、傾斜磁場コイル8に流す電流を決定する。これによって、MR画像においてスライスする位置を決定し、位相エンコードおよび周波数エンコードによりスライス面内の位置をエンコードすることができる。なお、制御装置5は、MR画像の計測時には、低周波のノイズを除去するアクティブシールドコイル9には電流を供給しないように、制御信号を出力する。
【0046】
さらに、制御装置5は、MR画像の計測時には、送信コイルコントローラ15に対して、送信コイル21に供給する電力を制御する制御信号を出力することによって、所定の周波数(例えば、静磁場の強度が7mTの場合は約300kHz)のRFパルスを被験者の頭部に照射するように制御する。その結果、スライス面(静磁場および傾斜磁場によって選択された面)のプロトンが共鳴してスピンが傾く。その後、制御装置5は、送信コイル21の電力をオフに制御する。これにより、OPMモジュール23の出力を基に、スピンが戻る様子を計測することでMR画像を取得することができる。より具体的には、より具体的には、制御装置5は、公知のスピンエコーシーケンスあるいはグラディエントエコーシーケンスなどを用いて、周波数と位相で位置をエンコードしてプロトンからの核磁気共鳴信号を計測し、その計測結果をFFTを用いてMR画像に変換する。
【0047】
制御装置5は、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、CPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部を備えて構成されている。かかる制御装置5としては、例えばパーソナルコンピュータ、クラウドサーバ、スマートフォン、タブレット端末などが挙げられる。制御装置5は、メモリに格納されるプログラムをコンピュータシステムのCPUで実行することにより機能する。
【0048】
コイル電源6は、制御装置5から出力された制御信号に応じて、所定の電流を静磁場補正コイル16、傾斜磁場コイル8、及びアクティブシールドコイル9のそれぞれに出力する。具体的には、コイル電源6は、静磁場補正コイル16に係る制御信号に応じて、静磁場補正コイル16に電流を出力する。コイル電源6は、傾斜磁場コイル8に係る制御信号に応じて、傾斜磁場コイル8に電流を出力する。コイル電源6は、アクティブシールドコイル9に係る制御信号に応じて、アクティブシールドコイル9に電流を出力する。
【0049】
送信コイルコントローラ15は、送信コイル21に電気的に接続され、制御装置5から出力された制御信号に応じて、所定周波数の電磁波を照射するように送信コイル21に電力を供給する。
【0050】
永久磁石7は、静磁場として、被験者の頭部に所定の強度(例えば、7mT)の所定の方向の磁場を印加するように構成される。永久磁石7は、例えば、一対の永久磁石7A及び7Bを有する。一対の永久磁石7A及び7Bは、光励起磁気センサ1Aを挟むように(例えば被験者の左右に)配置される。一対の永久磁石7A及び7Bは、被験者の頭部に、例えば、X軸方向の静磁場を発生させる。
【0051】
傾斜磁場コイル8は、MR画像計測時に被験者の頭部に傾斜磁場を印加するためのコイルである。傾斜磁場コイル8は、コイル電源6から供給される電流に応じて傾斜磁場を発生させる。傾斜磁場コイル8は、例えば、一対の傾斜磁場コイル8A及び8Bを有する。一対の傾斜磁場コイル8A及び8Bは、光励起磁気センサ1Aを挟むように(例えば被験者の左右に)配置される。傾斜磁場コイル8は、コイル電源6から供給される電流に応じて、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に選択的な勾配を有する傾斜磁場を発生させる。
【0052】
アクティブシールドコイル9は、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場を補正するためのコイルである。アクティブシールドコイル9は、コイル電源6から供給される電流に応じて磁場を発生させて、変動磁場のキャンセリングを行う。アクティブシールドコイル9は、例えば、一対のアクティブシールドコイル9A及び9Bを有する。一対のアクティブシールドコイル9A及び9Bは、光励起磁気センサ1Aを挟むように(例えば被験者の左右に)配置される。一対のアクティブシールドコイル9A及び9Bは、コイル電源6から供給される電流に応じて、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させる。磁場の方向は、例えば、例えば、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向である。光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場は、アクティブシールドコイル9により発生する逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。このようにして、アクティブシールドコイル9は、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場を補正する。
【0053】
ポンプレーザ10は、ポンプ光を生成するレーザ装置である。ポンプレーザ10から出射されたポンプ光は、ファイバ分岐により、複数の光励起磁気センサ1A、及び光励起磁気センサ23Aのそれぞれに入射する。
【0054】
プローブレーザ11は、プローブ光を生成するレーザ装置である。プローブレーザ11から出射されたプローブ光は、ファイバ分岐により、複数の光励起磁気センサ1A、及び光励起磁気センサ23Aのそれぞれに入射する。
【0055】
アンプ12Aは、OPMモジュール1(具体的には、読み出し回路1C)からの出力結果の信号を増幅して、制御装置5に出力する機器又は回路である。
【0056】
アンプ12Bは、OPMモジュール23(具体的には、読み出し回路23C)からの出力結果の信号を増幅して、制御装置5に出力する機器又は回路である。
【0057】
ヒータコントローラ13は、光励起磁気センサ1Aのセル及び光励起磁気センサ23Aのセルを加熱するためのヒータ、及びそれぞれのセルの温度を計測する熱電対(不図示)と接続される調温装置である。ヒータコントローラ13は、熱電対からセルの温度情報を受信し、当該温度情報に基づいてヒータの加熱を調整することにより、セルの温度を調整する。
【0058】
電磁シールド14は、高周波数(例えば、10kHz以上)の電磁ノイズを遮蔽するシールド部材であり、例えば金属糸を編み込んだメッシュ、又はアルミニウム等の非磁性金属板等により構成される。電磁シールド14は、OPMモジュール1,23、送信コイル21、受信コイル22、出力コイル24、静磁場補正用磁気センサ2、アクティブシールド用磁気センサ3、非磁性フレーム4、永久磁石7、傾斜磁場コイル8、アクティブシールドコイル9、及び静磁場補正コイル16を囲むように配置される。この電磁シールド14により、MR画像計測時に、計測周波数である300kHz帯のノイズが受信コイル22に入射しノイズが上昇することを防ぐことができる。また、脳磁場計測時に、高周波ノイズが光励起磁気センサ1Aに入射して動作が不安定になることを防ぐことができる。
【0059】
次に、
図4及び
図5を参照しながら、実施形態に係る脳計測装置M1を用いた脳計測方法について説明する。
図4及び
図5は、脳計測装置M1の動作を示すフローチャートである。
【0060】
まず、
図4を参照して、非磁性フレーム4を被験者に装着させた状態で脳磁場の計測が開始されると、静磁場補正用磁気センサ2は、静磁場及びその勾配磁場を計測する(ステップS11)。静磁場補正用磁気センサ2は、光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置において、静磁場及び勾配磁場を計測し、計測値を制御装置5に出力する。
【0061】
制御装置5及びコイル電源6は、光励起磁気センサ1Aごとに、静磁場補正コイル16に対する電流を制御する(ステップS12)。制御装置5は、静磁場補正用磁気センサ2の計測値に基づいて、光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場の三方向(x軸、y軸、及びz軸)の成分に対し、それぞれ逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させるように、静磁場補正コイル16に対する電流を決定する。これは静磁場補正用磁気センサ2の計測値と光励起磁気センサ1Aでの磁場強度を事前に計測しておくことで実現できる。制御装置5は、コイルシステム16X、16Y、及び16Zのそれぞれに係る決定した電流に応じた制御信号をコイル電源6に出力する。コイル電源6は、制御装置5により出力された制御信号に応じて、所定の電流をコイルシステム16X、16Y、及び16Zのそれぞれに出力する。コイルシステム16X、16Y、及び16Zは、それぞれコイル電源6から供給される電流に応じて磁場を発生させる。光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場の三方向の成分は、コイルシステム16X、16Y、及び16Zのそれぞれにより発生する逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。
【0062】
次に、光励起磁気センサ1Aのテスト動作を行う(ステップS13)。光励起磁気センサ1Aはテスト動作によって、残留した磁場の計測値を取得し、制御装置5に出力する。磁場の計測値とは、静磁場補正コイル16によって静磁場及び勾配磁場が補正された後、光励起磁気センサ1Aにより計測された値である。
【0063】
制御装置5は、補正後の静磁場及び勾配磁場の計測値が基準値以下であるかどうかを判定する(ステップS14)。補正後の静磁場及び勾配磁場の計測値とは、静磁場補正コイル16によって静磁場及び勾配磁場が補正された後、光励起磁気センサ1Aにより計測された値である。基準値は、光励起磁気センサ1Aが正常に動作する磁場の大きさであり、例えば1nTとすることができる。静磁場及び勾配磁場の計測値が基準値以下ではない場合(ステップS14において「NO」)、ステップS11に戻る。静磁場の計測値が基準値以下である場合(ステップS14において「YES」)、ステップS15に進む。
【0064】
アクティブシールド用磁気センサ3は、変動磁場を計測する(ステップS15)。アクティブシールド用磁気センサ3は、光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置において、変動磁場を計測し、計測値を制御装置5に出力する。
【0065】
制御装置5及びコイル電源6は、アクティブシールドコイル9に対する電流を制御する(ステップS16)。制御装置5は、アクティブシールド用磁気センサ3の計測値に基づいて、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させるように、アクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。より具体的には、制御装置5は、例えば複数のアクティブシールド用磁気センサ3の計測値の平均値がゼロに近似するように、アクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。制御装置5は、決定した電流に応じた制御信号をコイル電源6に出力する。コイル電源6は、制御装置5により出力された制御信号に応じて、所定の電流をアクティブシールドコイル9に出力する。アクティブシールドコイル9は、コイル電源6から供給される電流に応じて磁場を発生させる。光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場は、アクティブシールドコイル9により発生する逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。
【0066】
制御装置5は、補正後の変動磁場の計測値が基準値以下であるかどうかを判定する(ステップS17)。補正後の変動磁場の計測値とは、アクティブシールドコイル9によって変動磁場が補正された後、アクティブシールド用磁気センサ3によって計測された値である。基準値は、脳磁場を計測できるノイズレベルであり、例えば1pTとすることができる。変動磁場の計測値が基準値以下ではない場合(ステップS17において「NO」)、ステップS15に戻る。変動磁場の計測値が基準値以下である場合(ステップS17において「YES」)、ステップS18に進む。
【0067】
光励起磁気センサ1Aは、脳磁場を計測する(ステップS18)。制御装置5は、取得した計測結果を所定の出力先に出力する。所定の出力先とは、制御装置5のメモリ、ハードディスク等の格納装置、ディスプレイ等の出力装置のほか、通信インターフェイスを介して接続された端末装置等の外部装置であってもよい。ここまでに光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場及び変動磁場が所定の基準値以下になるように打ち消されているため、光励起磁気センサ1Aは、静磁場の影響及び変動磁場の影響を避けた状態で脳磁場を計測することができる。
【0068】
図5に移って、非磁性フレーム4を被験者に装着させたままの状態で引き続きMR画像の計測が開始されると、制御装置5は、静磁場補正コイル16に対する電流を0とするとともに、永久磁石7によって被験者の頭部にX軸方向の静磁場が印加された状態で、傾斜磁場の生成用の傾斜磁場コイル8に供給する電流を決定し、制御信号をコイル電源6に出力することにより、例えばX軸方向磁場勾配(dB
X/dX)の生成を制御する(ステップS19)。同時に、制御装置5は、送信コイルコントローラ15に対して送信コイル21に供給する電力を制御する制御信号を出力して、送信パルスを被験者の頭部に照射させるように制御する(ステップS20)。これにより、所定のスライス面のプロトンが励起される。
【0069】
さらに、制御装置5は、傾斜磁場の生成用の傾斜磁場コイル8に供給する電流を決定し、制御信号をコイル電源6に出力することにより、スライス面上における傾斜磁場、例えば、Y軸方向磁場勾配(dBX/dY)の生成を制御する(ステップS21)。これにより、位相エンコードが行われる。そして、制御装置5は、傾斜磁場の生成用の傾斜磁場コイル8に供給する電流を決定し、制御信号をコイル電源6に出力することにより、スライス面上における傾斜磁場、例えば、Z軸方向磁場勾配(dBX/dZ)の生成を制御する(ステップS22)。これにより、周波数エンコードが行われる。
【0070】
それと同時に、OPMモジュール23から、受信コイル22及び出力コイル24を介して、プロトンからの核磁気共鳴信号が出力され、それに伴って、制御装置5は、核磁気共鳴信号のデータを取得する(ステップS23)。その後、制御装置5は、他のスライス面に関する核磁気共鳴信号データを取得するかを判定する(ステップS24)。判定の結果、他のスライス面に関する核磁気共鳴信号データを取得する場合(ステップS24において「YES」)、ステップS19に処理を戻す。一方で、他のスライス面に関する核磁気共鳴信号データを取得しない場合(ステップS24において「NO」)、それまで取得した核磁気共鳴信号データをフーリエ変換することによりMR画像を取得する(ステップS25)。制御装置5は、取得したMR画像を所定の出力先に出力する。所定の出力先とは、制御装置5のメモリ、ハードディスク等の格納装置、ディスプレイ等の出力装置のほか、通信インターフェイスを介して接続された端末装置等の外部装置であってもよい。
【0071】
[作用効果]
次に、上述した実施形態に係る脳計測装置の作用効果について説明する。
【0072】
本実施形態に係る脳計測装置M1によれば、脳磁場を計測する複数の光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置における静磁場が計測される。そして、脳磁場の計測時には、静磁場の複数の計測値に基づいて静磁場補正コイル16を流れる電流が制御され、静磁場補正コイル16において磁場が発生し、複数の光励起磁気センサ1Aの位置において、静磁場補正コイル16において発生した磁場によって、地磁気に係る静磁場及び永久磁石7による静磁場が打ち消される。その結果、複数の光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場が補正されることにより、複数の光励起磁気センサ1Aが、環境磁場の影響を避けた状態において脳磁場を計測することができる。このとき、地磁気に係る静磁場と永久磁石7による静磁場を静磁場補正コイル16によってまとめて補正することができる。
【0073】
一方で、上記一態様あるいは他の態様によれば、MR画像の計測時には、永久磁石7によって静磁場が印加されるとともに、傾斜磁場コイル8を流れる電流が制御されることにより傾斜磁場が印加され、受信コイル22によって送信パルスの送信によって生じた核磁気共鳴信号が検出される。その結果、受信コイル22の出力を基にMR画像を計測することができる。特に、永久磁石7を用いて静磁場を発生させているので、電磁石で静磁場を生成する構成に比較して、装置の小型化を図れるとともに、消費電力の低減を図ることができる。
【0074】
このような脳計測装置M1及び脳計測方法によれば、同一の装置を用いて脳磁計測およびMRI計測を効率よく実現できる。特に、MRI計測において、光励起磁気センサを用いるためにSQUIDに比較して感度の高い周波数帯を広く調整できるので、印加する静磁場の強度、即ちプロトンの共鳴周波数の制限が少ない。SQUIDが低い共鳴周波数、即ち低い静磁場でしか動作しないために必要となるプリポーラライズコイルが不要となり、SQUIDを使用する場合に必要となる液体ヘリウム等の冷却剤も不要となる。さらには、MRIにおいて計測する信号の周波数も比較的高いので、MRI計測時及び脳磁場計測時の磁気ノイズの低減のための磁気シールドルームも不要となる。その結果、装置の小型化及び低コスト化が可能となる。加えて、プリポーラライズに必要な時間は計測時間と同程度なので、本実施形態では計測時間も1/2に短くすることができる。
【0075】
さらには、本実施形態では、静磁場補正コイル16に流す電流の制御によって容易にOPMモジュール上での静磁場をオン/オフできるので、脳磁場計測とMRI計測とを短時間で切り替えることができる。これにより、同一の被験者を対象に同一の装置を用いて脳磁場計測およびMRI計測を順次実施できるので、両計測結果のレジストレーションエラーを低減することができる。
【0076】
また、本実施形態では、脳磁場の計測時には、変動磁場の計測値に基づいてアクティブシールドコイル9に供給する電流が制御されることにより、複数の光励起磁気センサ1A上における変動磁場が打ち消される。このような構成によれば、変動磁場の影響を確実に避けた状態において脳磁場を計測することができる。その結果、磁気シールドルームを使用せずに高精度に脳磁場を計測することができる。
【0077】
このように、本実施形態によれば、MRI計測を低磁場で行えるのでの特別な部屋を必要としないし、高いT1コントラストを有する断層像を容易に取得することができる。また、アクティブシールドコイル9を用いることで、脳磁計測を磁気シールドルームで行う必要はない。そのため、同一の装置で脳磁計測とMRI計測を実現することができ、被験者が椅子等に座った状態で両計測を順次行うことができる。また、装置の低コスト化が可能であり、被験者を車両等に乗せた状態での計測も可能となる。その結果、うつ病、統合失調症などの精神疾患、認知症なでの神経変性疾患の診断に寄与できる。
【0078】
ここで、脳計測装置M1は、静磁場の補正用として、複数の光励起磁気センサ1A毎に設けられた3つのコイルシステム16X、16Y、及び16Zを用いている。これにより、複数の光励起磁気センサ1Aごとに局所的に細かく電流を制御することができ、静磁場の補正精度が向上する。また、複数の光励起磁気センサ1Aの動作に関係する領域の静磁場のみを補正するため、不要な補正に係る消費電力の増加を抑制できる。さらには、静磁場補正コイル16によって、複数の光励起磁気センサ1Aごとに、環境磁場の勾配をも補正することができる。
【0079】
さらに、アクティブシールドコイル9は、複数の光励起磁気センサ1Aを挟んで配置される一対のコイルによって構成されている。このような構成によれば、一対のコイルに挟まれた複数の光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場が効果的に補正される。これにより、簡易な構成によって変動磁場を適切に補正することができる。
【0080】
またさらに、脳計測装置M1は、受信コイル22にケーブルを介して電気的に接続された出力コイル24と、出力コイル24によって出力された磁気信号を検出する別の光励起磁気センサ23Aとをさらに備えている。このような構成によれば、MRI計測時に印加される静磁場による別の光励起磁気センサ23Aにおける検出信号への影響を避けることができるので、MR画像計測の精度を高めることができる。すなわち、例えば7mTの静磁場の印加によりプロトンが発する核磁気共鳴信号の周波数は約300kHzであり、光励起磁気センサ23Aにおいてこの周波数に感度を持たせるためには約40μTのバイアス磁場をかける必要がある。光励起磁気センサ23Aを被験者の頭部近くに配置した場合には、このようなバイアス磁場と静磁場との両立は困難である。本実施形態では、静磁場に感度を有さない受信コイル22を頭部近くに配置し、光励起磁気センサ23Aを頭部から離して配置することができ、高感度に核磁気共鳴信号を検出することができる。
【0081】
さらにまた、複数の光励起磁気センサ1Aは、被験者の頭皮に対し垂直な方向且つ同軸上に計測領域及び参照領域を有する軸型グラジオメータである。このような構成によれば、コモンモードノイズの影響が計測領域の出力結果及び参照領域の出力結果のそれぞれに示されるため、両者の出力結果の差分を取得することによってコモンモードノイズを除去することができる。これにより、脳磁場の計測精度が向上する。
【0082】
また、複数の光励起磁気センサ1A、複数の静磁場補正用磁気センサ2、複数のアクティブシールド用磁気センサ3、及び受信コイル22は、被験者の頭部に装着されるヘルメット型の非磁性フレーム4に固定されている。このような構成によれば、被験者の頭部の動きに応じて、頭部に装着された非磁性フレーム4及び非磁性フレーム4に固定された各センサ2,3及び受信コイル22が動くため、被験者の頭部が動いた場合においても、複数の光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場の補正、脳磁場の計測、及びMRI計測を適切に行うことができる。その結果、両計測のレジストレーションエラーを抑えることができる。
【0083】
さらに、高周波数の電磁ノイズを遮蔽するための電磁シールド14をさらに備えてもよい。このような構成によれば、脳磁計では計測の対象とならない高周波数の電磁ノイズが複数の光励起磁気センサ1Aに侵入することを防止できる。これにより、複数の光励起磁気センサ1Aによる脳磁場の計測を安定的に動作させることができる。それとともに、MRIの計測周波数である300kHz帯のノイズが受信コイル22に入射しMRI計測におけるノイズが上昇することも防止できる。
【0084】
またさらに、複数の光励起磁気センサ1Aは、0~200Hzの範囲に含まれる周波数に感度を有するようにバイアス磁場が印加されるように構成され、別の光励起磁気センサ23Aは、20kHz~500kHzの範囲に含まれる周波数に感度を有するようにバイアス磁場が印加されるように構成されている。このような構成により、脳磁場の計測の感度を高めると同時に、MRI計測の精度も高めることができる。
【0085】
[変形例]
以上、本開示の実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示はその要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0086】
アクティブシールドコイル9は、一対のアクティブシールドコイル9A及び9Bを有するものとして説明したが、OPMモジュール1(光励起磁気センサ1A)ごとに三対のコイルよりなるコイルシステムとして配置してもよい。この場合、制御装置5は、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場の三方向(x軸、y軸、及びz軸)の成分に対し逆向きで且つ同程度の大きさの磁場を発生させるように、アクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。制御装置5は、コイルシステムとして配置されたアクティブシールドコイル9のそれぞれに係る決定した電流に応じた制御信号をコイル電源6に出力する。このような構成によれば、変動磁場の補正のための消費電力を比較的小さくすることができる。
【0087】
また、制御装置5は、MR画像の計測時には、地磁気に係る勾配磁場の補正を行うように静磁場補正コイル16を流れる電流を設定してもよいし、地磁気に係る勾配磁場の補正を行わないように設定してもよい。勾配磁場の大きさは計測領域で数μT/m程度であり静磁場に比較して2桁程度低いため、MR画像の取得時には補正を行わなくても精度を高く維持することができる。
【0088】
また、上記実施形態の脳計測装置M1は、光励起磁気センサ23Aは省かれていてもよく、受信コイル22からの出力を制御装置5がアンプを介して直接検出するような構成であってもよい。
【0089】
また、光励起磁気センサ1Aは、ポンプ光及びプローブ光を用いるポンプ&プローブ型には限定されず、ポンプ光及びプローブ光を兼ねる円偏光の光を用いるゼロフィールド型の光励起磁気センサであってもよい。このゼロフィールド型では、セルに光を照射するとともに周期的なバイアス磁場を印加して磁場をロックイン検出し、ゼロ磁場からのずれを脳磁場として計測することができる。
【0090】
また、上記実施形態の脳計測装置M1では、非磁性フレーム4の位置が光学的に計測可能にされていてもよい。例えば、非磁性フレーム4の下端部に周囲に120度間隔で取り付けられたマーカと、非磁性フレーム4に対向するカメラとを設け、カメラを用いてヘルメットの位置変動を計測可能としてもよい。この計測結果をMRI計測時に利用することができる。例えば、制御装置5が、計測結果を用いて、傾斜磁場コイル8と受信コイル22との相対位置を計算して、MR画像を較正することができる。その結果、被験者の頭部が変動しても解像度の高いMR画像を取得することができる。これは、幼児などの頭部を固定することが困難な被験者のMRI計測に有用な構成である。なお、脳磁計測の際には、頭部の位置がずれてもずれた状態での光励起磁気センサ1Aの位置での磁場がゼロになるように補正されるので、非磁性フレーム4の位置を計測する必要性は低いが、非磁性フレーム4の位置情報をゼロ磁場生成に利用してもよい。
【0091】
また、上記実施形態の脳計測装置M1では、磁気シールド25は必ずしも必要ではない。磁気シールド25が省かれた場合には、光励起磁気センサ23A上の静磁場をキャンセルするために逆方向の磁場を印加可能なコイルを、OPMモジュール23に設けてもよい。
【符号の説明】
【0092】
M1…脳計測装置、1A,23A…光励起磁気センサ、2…静磁場補正用磁気センサ、3…アクティブシールド用磁気センサ、4…非磁性フレーム、5…制御装置、6…コイル電源、7…永久磁石、8…傾斜磁場コイル、9…アクティブシールドコイル、14…電磁シールド、16…静磁場補正コイル、16X,16Y,16Z…コイルシステム、22…受信コイル、24…出力コイル。