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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】判定装置および姿勢制御装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20231020BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20231020BHJP
   B25J 5/00 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
A61B5/16 200
A61B5/11 200
A61B5/11 210
B25J5/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021575200
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004615
(87)【国際公開番号】W WO2021157026
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000150110
【氏名又は名称】株式会社竹中土木
(73)【特許権者】
【識別番号】510023218
【氏名又は名称】渡邉 豊
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 豊
(72)【発明者】
【氏名】濱名 正泰
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-160640(JP,A)
【文献】特開2005-028157(JP,A)
【文献】特開2004-081745(JP,A)
【文献】特開2005-342254(JP,A)
【文献】国際公開第02/094091(WO,A1)
【文献】特開2005-111654(JP,A)
【文献】米国特許第09990333(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
B25J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の動作時の揺れを検知する揺動検知器と、制御器と、を備え、
前記揺動検知器から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析が行われ、前記スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、前記人に存在する重心の揺れに由来する第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが現れており、
前記制御器は、前記第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークに基づいて、前記人の姿勢の保持状態を判定する判定装置であって、
前記揺動検知器は、重力が作用する方向に対して直交する水平方向における、前記人の動作時の揺れの角速度を検知する角速度センサを備え、
第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークはそれぞれ、第1角速度ピーク、第2角速度ピークおよび第3角速度ピークをそれぞれ含み、
前記第1角速度ピークは、前記人の下肢上部に存在する重心の水平方向の揺れに由来するピークであり、前記第2角速度ピークは、前記人の胸部上部に存在する重心の水平方向の揺れに由来するピークであり、前記第3角速度ピークは、前記人の頭部に存在する重心の水平方向の揺れに由来するピークであり、
前記制御器は、前記第1角速度ピークに対応する第1振幅と、前記第2角速度ピークに対応する第2振幅と、前記第3角速度ピークに対応する第3振幅との間の大小関係に基づいて、人の疲労度を判定する判定装置
【請求項2】
前記制御器は、前記第1振幅、前記第2振幅および前記第3振幅がこの順に大きい場合、人の疲労度が正常レベルであると判定する請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記第1振幅が、前記第2振幅以下であって前記第3振幅よりも大きく、かつ、前記第1振幅が、前記第2振幅および前記第3振幅の平均値よりも大きい場合、人の疲労度が警戒レベルであると判定する請求項に記載の判定装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記第1振幅が、前記第2振幅以下であって前記第3振幅よりも大きく、かつ、前記第1振幅が、前記第2振幅および前記第3振幅の平均値以下である場合、人の疲労度が異常レベルであると判定する請求項に記載の判定装置。
【請求項5】
直立二足歩行が可能なヒューマノイドの姿勢を制御する姿勢制御装置であって、
ヒューマノイドの動作時の揺れを検知する揺動検知器と、制御器と、を備え、
前記揺動検知器から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析が行われ、前記スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが現れており、
前記揺動検知器は、重力が作用する方向(以下、垂直方向)に対して直交する水平方向における、前記ヒューマノイドの動作時の揺れの角速度を検知する角速度センサと、垂直方向における前記ヒューマノイドの動作時の揺れの加速度を検知する加速度センサと、を備え、
前記第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークはそれぞれ、第1角速度ピークおよび第1加速度ピーク、第2角速度ピークおよび第2加速度ピーク、および、第3角速度ピークおよび第3加速度ピークをそれぞれ含み、
前記第1角速度ピークは、前記ヒューマノイドの下肢上部に存在する第1重心の水平方向の揺れに由来するピークであり、第2角速度ピークは、前記ヒューマノイドの胸部上部に存在する第2重心の水平方向の揺れに由来するピークであり、第3角速度ピークは、前記ヒューマノイドの頭部に存在する第3重心の水平方向の揺れに由来するピークであり、
前記第1加速度ピークは、前記第1重心の垂直方向の揺れに由来するピークであり、第2加速度ピークは、前記第2重心の垂直方向の揺れに由来するピークであり、第3加速度ピークは、前記第3重心の垂直方向の揺れに由来するピークであり、
前記制御器は、前記第1重心、前記第2重心および前記第3重心のそれぞれの水平方向の揺れが互いに奇数倍の周波数比率の下で共鳴するとともに、前記第1重心、前記第2重心および前記第3重心のそれぞれの垂直方向の揺れが互いに整数倍の周波数比率の下で共鳴するように、前記ヒューマノイドの姿勢を制御する姿勢制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は判定装置および姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人の身体の状態、姿勢などをリアルタイムに精度良く知ることができると、様々な分野において有益な情報が得られる。例えば、特許文献1には、人の体に取り付けられた加速度センサからの信号に基づいて、人の歩行状態、姿勢などを推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2016-41155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、一例として、人の身体の状態を従来よりも簡易かつ高精度に判定し得る判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様(aspect)の判定装置は、人の動作時の揺れを検知する揺動検知器と、制御器と、を備え、揺動検知器から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析が行われ、前記スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが現れており、前記制御器は、前記第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークに基づいて、人の身体の状態を判定する。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様の判定装置は、人の身体の状態を従来よりも簡易かつ高精度に判定し得る、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、人が歩行する際の身体のモデル化の一例を示す図である。
図2A図2Aは、被験者[1]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図2B図2Bは、被験者[1]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図3A図3Aは、被験者[2]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図3B図3Bは、被験者[2]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図4A図4Aは、被験者[3]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図4B図4Bは、被験者[3]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図5図5は、人に存在する重心の位置の一例を示す図である。
図6図6は、第1実施形態の判定装置の一例を示す図である。
図7図7は、図6の揺動検知器の取り付けの一例を示す図である。
図8図8は、第1実施形態の判定装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図9A図9Aは、被験者[3]の歩行開始から20分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図9B図9Bは、被験者[3]の歩行開始から20分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図10A図10Aは、被験者[3]の歩行開始から40分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図10B図10Bは、被験者[3]の歩行開始から40分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図11A図11Aは、被験者[3]の歩行開始から60分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図11B図11Bは、被験者[3]の歩行開始から60分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図12A図12Aは、被験者[3]の歩行開始から60分の経過した後であって、被験者[3]が休憩および水分を取った直後における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図12B図12Bは、被験者[3]の歩行開始から60分の経過した後であって、被験者[3]が休憩および水分を取った直後における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
図13図13は、第2実施形態の姿勢制御装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の一態様の判定装置を得るに至った経緯]
本開示者は、従来から、物流業界における走行体(例えば、コンテナ貨物車両)上の3次元重心(以下、重心と略す場合がある)の位置を、走行体に取り付けた揺動検知器を用いて理論的に導くための研究および開発に携わっており、その成果の一部は、先行特許(例えば、特許第4517107号公報)に開示されている。
【0009】
ところで、このような研究および開発の過程において、本開示者は、以上の成果が、人の身体の状態判定において有益であることに気が付いた。
【0010】
具体的には、万物には、必ず重さの3次元上の中心(重心)が存在する。そして、物体の重心が外乱に対して安定していれば、物体は姿勢を維持することができる。これは、人も例外ではない。つまり、人の身体の状態は、重心が、外乱に対して安定しているかどうかという物理現象に密接に関係すると考えられる。
【0011】
例えば、人の重心は、筋肉と骨格により支えられており、身体は、左右対称の体形であるから、人の身体を左右対称のばね構造体であると見做して、総合的にモデル化することが可能であると仮定した。この仮定が妥当であれば、人の重心の位置は、上記先行特許で開示した理論に基づいて知ることができる。
【0012】
そこで、まず、人が歩行する際の人の身体のモデル化を行うとともに、人の歩行時の揺動データを計測することで、人の歩行時における揺動データのスペクトル解析を行った。そして、上記先行特許で開示した理論に基づいて人の重心の位置を導出した。
【0013】
<人が歩行する際の身体のモデル化(ばね構造体)>
図1は、人が歩行する際の身体のモデル化の一例を示す図である。
【0014】
以下の文献1によれば、
文献1:ナースフル疾患別シリーズ,整形外科,第1章 骨・神経・骨格筋の解剖と働き,RECRUIT (C) Recruit Medical Career Co.,Ltd.
https://nurseful.jp/nursefulshikkanbetsu/orthopedics/section_0_00/
人は、下肢が大腿上部の全体を支えている。下肢は左右への回転運動を許容する構造であるので、下肢はばね構造体となっている。下肢上部にある脊柱は胸部から上部を支えている。脊柱は24個の椎からできており、腹筋などの筋肉で支えられているので、左右への回転運動を許容する構造である。鎖骨から上部は筋肉が頭部を支え、頸椎(脊柱の上部)が頭部の左右への回転運動を許容する構造である。
【0015】
従って、本開示者は、図1に示すように、人が歩行する際、人の身体は、下肢部ばね台座Lが支える身体全体の重心GLと、脊柱部ばね台座Mが支える胸部上部の重心GMと、鎖骨部ばね台座Tが支える頭部の重心GTとによって姿勢が保持されると考え、人が歩行する際の身体を、同図の如く、モデル化することが理に適っていると判断した。
【0016】
<揺動データのスペクトル解析>
以下の被験者[1]、被験者[2]および被験者[3](以下、被験者達と略す場合がある)がそれぞれ、揺動検知器が固定された工事用のヘルメットを被り、平たん路を歩行することで、揺動検知器から出力された揺動データを得た。具体的には、被験者達の歩行方向に対して直交する横方向(つまり、被験者達の身体の幅方向)における、被験者達の歩行時の揺れの角速度データと、重力が作用する縦方向(以下、垂直方向と略す場合がある)における、被験者達の歩行時の揺れの加速度データと、を測定した。
【0017】
被験者[1]:20歳代前半の女性(小柄で細身)
被験者[2]:20歳代前半の男性(長身で細身)
被験者[3]:50歳代後半の男性(中長身で中肉中背)
図2Aおよび図2Bは、被験者[1]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
【0018】
図3Aおよび図3Bは、被験者[2]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
【0019】
図4Aおよび図4Bは、被験者[3]の歩行時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
【0020】
ここで、図2A図3Aおよび図4Aには、横軸に周波数(Hz)が取られ、縦軸に角速度(deg/s)が取られ、上記の角速度データを周波数成分に分解することで角速度のスペクトル解析の結果が示されている。つまり、図2A図3Aおよび図4Aでは、揺動検知器で計測された時系列の角速度データをフーリエ変換して、被験者達が歩行する際に生じる被験者達の重心における横方向の揺れに由来する、角速度のピーク周波数が特定されている。
【0021】
図2B図3Bおよび図4Bには、横軸に周波数(Hz)が取られ、縦軸に加速度(G)が取られ、上記の加速度データを周波数成分に分解することで加速度のスペクトル解析の結果が示されている。つまり、図2B図3Bおよび図4Bでは、揺動検知器で計測された時系列の加速度データをフーリエ変換して、被験者達が歩行する際に生じる被験者達の重心における垂直方向の揺れに由来する、加速度のピーク周波数が特定されている。
【0022】
なお、揺動検知器は、感度軸の相互干渉を完全には排除できないので、図2A図3Aおよび図4Aで示された角速度のスペクトルには、被験者達の重心における垂直方向の揺れに由来する、加速度の干渉が生じ、その逆も然りである。よって、図2Aおよび図2B図3Aおよび図3B、および、図4Aおよび図4Bには、上記の相互干渉に起因する波形が若干観察されている。
【0023】
図2A図3Aおよび図4Aに示すように、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1角速度ピークPD1、第2角速度ピークPD2および第3角速度ピークPD3が現れている。そして、第1角速度ピークPD1、第2角速度ピークPD2および第3角速度ピークPD3のそれぞれに対応する振幅(図中の縦軸の角速度の数値)は、これらの順に小さくなっている。
【0024】
また、図2B図3Bおよび図4Bに示すように、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1加速度ピークPG1、第2加速度ピークPG2および第3加速度ピークPG3が現れている。そして、第1加速度ピークPG1、第2加速度ピークPG2および第3加速度ピークPG3のそれぞれに対応する振幅(図中の縦軸の加速度の数値)は、これらの順に小さくなっている。
【0025】
ここで、人が歩行するとき、胸部および頭部でほとんど揺れを感じないのに対して、下肢部は、揺れの程度(振幅)が大きいことが経験的に知られている。
【0026】
また、外力によって振動する物体は、理論的に、質量が大きい程、物体の重心の振動動作はゆっくりとなる。つまり、かかる物体は、質量が大きい程、物体の重心の揺れの周波数は小さい。
【0027】
以上により、図1の人の身体のモデルを考慮するとき、下肢部ばね台座Lが支える被験者達の身体全体の重量が最も大きいので、第1角速度ピークPD1および第1加速度ピークPG1は、人が歩行する際の人の下肢上部に存在する重心GLの揺れに由来するピークではないかと考えられる。
【0028】
また、鎖骨部ばね台座Tが支える頭部の重量が最も小さいので、第3角速度ピークPD3および第3加速度ピークPG3は、人が歩行する際の人の頭部に存在する重心GTの揺れに由来するピークではないかと考えられる。
【0029】
さらに、脊柱部ばね台座Mが支える胸部の重量は、上記の両重量の間の値であるので、第2角速度ピークPD2および第2加速度ピークPG2は、人が歩行する際の人の胸部上部に存在する重心GMの揺れに由来するピークではないかと考えられる。
【0030】
表1(下記)は、以上の仮定に基づいて、被験者[1]、被験者[2]および被験者[3]のそれぞれが歩行したとき、重心の揺れに由来するピーク周波数を表している。
【0031】
【表1】
<人の重心の位置の導出>
次に、上記先行特許(特許第4517107号公報)の開示内容に基づいて、人が歩行する場合における上記の3つの重心GL、重心GMおよび重心GTの位置を導出した。
【0032】
上記先行特許によれば、左右に対をなす、ばね構造体上の重心の高さは、以下の式(1)により表される。なお、下肢に障害のない健常者の場合、人の歩行方向に対して直交する横方向の重心変位は無いことが多いので、上記先行特許で開示された重心変位を表す演算式は考慮に入れないこととする。
【0033】
【数1】
式(1)において、l: 重心高さ、α: 揺動中心角、b: ばね台座の幅、v′: 加速度の周波数、v: 角速度の周波数、g: 重力加速度、π: 円周率である。なお、式(1)の導出法などは、上記先行特許を参酌することで容易に理解できるので説明を省略する。
【0034】
ここで、一般的に、下肢に障害のない健常者の場合、上記の横方向の重心変位は無いことが多いので、揺動中心角αはゼロ(α=0)と見做すことができる。よって、式(1)を、以下の式(2)に如く簡略化することができる。
【0035】
【数2】
そこで、上記表1に記載の周波数を上記式(2)に代入することで、被験者達のそれぞれについて、下肢部ばね台座Lからの重心GLの高さL1(図5参照)、脊柱部ばね台座Mからの重心GMの高さL2(図5参照)、および、鎖骨部ばね台座Tからの重心GTの高さL3(図5参照)を導出することができる。
【0036】
ただし、式(2)において、重心高さを得るには、ばね台座の幅bを知ることが必要である。
【0037】
上記文献1によれば、人は、股関節の幅が肩幅(鎖骨と肩甲骨が交差する位置)に等しく、この位置は、左右片側の筋肉集合の中心に相当する。したがって、下肢部ばね台座L、脊柱部ばね台座Mおよび鎖骨部ばね台座Tのうち、下肢部ばね台座Lの幅B1(図5参照)と鎖骨部ばね台座Tの幅B3(図5参照)とはほぼ同じである。
【0038】
これに対して、脊柱部ばね台座Mの部位は、腹筋肉の集合体そのものであり、脊柱に向かって引き締まるので、脊柱部ばね台座Mの幅B2(図5参照)は、上記幅B1および幅B3よりも若干小さい。文献1の記載から類推すれば、脊柱部ばね台座Mの幅B2は、上記幅B1および幅B3の95%程度であると考えられる。
【0039】
以上により、被験者達のそれぞれについて、例えば、鎖骨部ばね台座Tの幅B3を実測することで、式(2)におけるばね台座の幅bを知ることができる。
【0040】
このようにして、被験者達のそれぞれについて、下肢部ばね台座Lからの重心GLの高さL1、脊柱部ばね台座Mからの重心GMの高さL2、および、鎖骨部ばね台座Tからの重心GTの高さL3がそれぞれ得られ、これらの数値は、以下の通りである。
【0041】
被験者[1]:L1=0.141m、L2=0.133m、L3=0.134m
被験者[2]:L1=0.150m、L2=0.150m、L3=0.150m
被験者[3]:L1=0.146m、L2=0.144m、L3=0.144m
以上の重心高さは、大人の一般的な体格を考慮するとき、上記スペクトル解析で得られたスペクトル中に現れた3つのピークが、周波数が低い順に、人が歩行する場合における、脊柱部ばね台座Mの部位より下方の人の下肢上部に存在する重心GLの揺れに由来するピーク、鎖骨部ばね台座Tの部位より下方の人の胸部上部に存在する重心GMの揺れに由来するピーク、人の頭部に存在する重心GTの揺れに由来するピークであることを裏付けるデータである。
【0042】
このため、上記スペクトル解析で得られたスペクトル中に現れた3つのピークは、人の身体の状態の判定において有益な情報であると考えられる。
【0043】
すなわち、本開示の第1態様の判定装置は、人の動作時の揺れを検知する揺動検知器と、制御器と、を備え、揺動検知器から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析が行われ、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが現れており、制御器は、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークに基づいて、人の身体の状態を判定する。
【0044】
以上の構成によると、本態様の判定装置は、人の身体の状態を従来よりも簡易かつ高精度に判定し得る。
【0045】
例えば、近年、土木建設業界の現場で、夏場の高温、高湿度環境下における作業者の疲労蓄積に伴って生じる作業者の体調悪化、作業効率の低下、作業ミス発生などが問題視されている。なお、人の疲労度を判定する一般的な方法として、人の血糖値、心拍数などを測定する方法が知られている。しかし、これらのデータはいずれも、個人の生活習慣などの影響が大きく、統一的な数値、指標などにより人の疲労度を明確に示すことは困難である。また、病院の精密検査を行うことで判断する既往医学的な判定では、リアルタイムに人の疲労の蓄積を測ることができないので、土木建設業界の現場、物流業界の現場などにおける、人の疲労度の判定には不向きである。
【0046】
ここで、人は、疲れまたは睡眠不足などの要因でふらつきを感じることが多い。例えば、何等かの作業において疲れ始めると、歩行する際にふらつきやすくなる。そして、疲労が蓄積するに連れて、ふらつきが顕著になるとともに、歩行が困難な状況に陥る場合がある。
【0047】
本開示者は、鋭意検討した結果、人の疲労が溜まっていない正常時と疲労が蓄積した異常時とでは、人のふらつきに明確な相違が発生すると判断して、上記スペクトル中に現れた水平方向の揺れに由来するピークに対応する振幅の大小関係に基づいて、人の疲労度をリアルタイムかつ高精度に判定し得ることを見出して、以下の本開示の一態様に想到した。
【0048】
すなわち、本開示の第2態様の判定装置は、第1態様の判定装置において、揺動検知器は、重力が作用する方向に対して直交する水平方向における、人の動作時の揺れの角速度を検知する角速度センサを備え、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークはそれぞれ、第1角速度ピーク、第2角速度ピークおよび第3角速度ピークをそれぞれ含み、制御器は、第1角速度ピークに対応する第1振幅と、第2角速度ピークに対応する第2振幅と、第3角速度ピークに対応する第3振幅との間の大小関係に基づいて、人の疲労度を判定する。
【0049】
ここで、本開示の第3態様の判定装置は、第3態様の判定装置において、第1角速度ピークは、人の下肢上部に存在する重心の水平方向の揺れに由来するピークであり、第2角速度ピークは、人の胸部上部に存在する重心の水平方向の揺れに由来するピークであり、第3角速度ピークは、人の頭部に存在する重心の水平方向の揺れに由来するピークである。
【0050】
以上の構成によると、本態様の判定装置は、個人の生活習慣などに影響されにくい、人に存在する重心の揺れに関する普遍的な基準によって、人の疲労度を適切に判定することができる。また、本態様の判定装置は、例えば、土木建設業界の現場、物流業界の現場などにおいて、作業者が揺動検知器を装着するだけで、作業者の疲労度を簡易かつリアルタイムに判定することができる。
【0051】
ここで、上記のとおり、人の身体の状態は、重心が、外乱に対して安定しているかどうかという物理現象に密接に関係すると考えられるので、本開示者は、上記スペクトル解析で得られたスペクトル中に現れた3つのピーク周波数について更に検討した。
【0052】
<重心の揺れの共鳴現象>
まず、本明細書において、物体の振動現象を以下の如く、定義する。振動現象は、以下の二つに大別される。
【0053】
一つは、異なる強制振動が固有周期を同じにして重なる場合であり、振幅が不安定に増幅する。この場合は、振動系は安定せずに破壊に至る可能性がある。この現象を共振(unstable resonation)と呼ぶ。
【0054】
これに対して、一つの強制振動が、当初は静止していた別の物体を加振したときに、その物体は自身の持つ固有周期に合わせて揺れだすが、自身には運動要素(強制振動)を有しないので、振動の程度は安定し、発散することなく穏やかである。この現象を、共鳴(stable resonation)と呼ぶ。
【0055】
ここで、上記表1には、重心GLの揺れに由来するピーク周波数に対する他のピーク周波数の倍率が併記されている。
【0056】
表1から容易に理解できるとおり、被験者達の重心GL、重心GMおよび重心GTの揺れに由来する各ピーク周波数の間には、以下の2つの明確な相関(1)および相関(2)が成り立っている。
(1)加速度のピーク周波数比は、整数倍の比率になっている。つまり、重心GMの揺れに由来する加速度のピーク周波数は、重心GLの揺れに由来する加速度のピーク周波数の約2倍であり、重心GTの揺れに由来する加速度のピーク周波数は、重心GLの揺れに由来する加速度のピーク周波数の約3倍であるように、加速度のピーク周波数が、それぞれ連携している。
(2)角速度のピーク周波数比は、奇数倍の比率になっている。つまり、重心GMの揺れに由来する角速度のピーク周波数は、重心GLの揺れに由来する角速度のピーク周波数の約3倍であり、重心GTの揺れに由来する角速度のピーク周波数は、重心GLの揺れに由来する角速度のピーク周波数の約5倍であるように、角速度のピーク周波数が、それぞれ連携している。
【0057】
以上の事実は、重心GLの揺れと、重心GMの揺れと、重心GTの揺れとが共鳴していることを意味している。理由は以下のとおりである。
【0058】
文献2「和建三樹,物理学のための数学,6-4 強制振動,岩波書店,pp168」によれば、揺れの根源となる根源周波数をfとしたとき、根源周波数fとは異なる他の周波数の揺れに対して復元力が作用するとき、以下の式(3)を成立させる整数nが存在すれば、他の周波数においても揺れが顕著となるが、根源周波数fの揺れの方がより大きい。
【0059】
上記のとおり、以上の現象を共鳴と呼ぶ。つまり、共鳴による揺動が生じるとは、根源周波数に整数倍で呼応する受動的であって有限の大きさの揺れが生じる、ということである。なお、共鳴による揺動のエネルギー源はあくまで根源揺動であるから、共鳴による揺動の大きさは有限かつ発散はしない。
【0060】
【数3】
そして、相関(1)および相関(2)から理解できるとおり、被験者達の重心GL、重心GMおよび重心GTの揺れに由来する各ピーク周波数は、式(3)の関係性が明確に表れている。
【0061】
また、上記で説明したとおり、重心GLは、脊柱部ばね台座Mの部位よりも下方に位置しており、重心GMは、鎖骨部ばね台座Tの部位よりも下方に位置している。よって、脊柱部ばね台座Mおよび鎖骨部ばね台座Tは、これらの下方の他のばね台座に対応する重心の揺れには影響を与えない。
【0062】
また、質量が軽い程、重心の揺れは機敏に小さくなるので、重心GLの揺動に、重心GMの揺れと、重心GTの揺れとが、これらのピーク周波数が整数倍で共鳴することで、重心GMは、重心GLに比べて機敏に小さく揺動するとともに、重心GTは、重心GMに比べて機敏に小さく揺動する。これにより、人の動作において、身体のバランスが自律的に維持されていることが分かる。
【0063】
さらに、表1に示すとおり、重心GLの角速度のピーク周波数は、重心GLの加速度のピーク周波数の約1/2程度の値であるので、相関(1)および相関(2)で説明した、整数倍および奇数倍の周波数比率の条件下においては、3つの重心のそれぞれの揺れは、少なくとも数Hzから数十Hz程度の低周波数領域においては、互いに共振が起こりにくい。このことは、図2Aおよび図2B図3Aおよび図3B、および、図4Aおよび図4Bでも明確に示されている。なお、上記のとおり、共振とは、周波数が異なる揺動の発生源の合成振幅が、特定の周波数において、数学的に無限大または不定となる現象をいう。共振下においては、揺れの振幅が、無限大または不定になるので、共振が起これば振動系は遂には破壊に至るおそれがあるので極力回避する必要がある。このように、共振は、一つの揺動の発生源に対して受動的に有限振幅で呼応する共鳴とは、異なる現象である。
【0064】
実際に、被験者達のいずれのデータにおいても、スペクトル中に現れた角速度のピーク周波数とスペクトル中に現れた加速度のピーク周波数とは一切重なりが生じていない。これは、人が動作において共振を避けて共鳴を活用している証である。
【0065】
このように、人に存在する重心GL、重心GMおよび重心GTが、相互に独立性を保ちながら共鳴することで、人の姿勢が適切な維持されていると考えられる。つまり、人の動作(例えば、歩行、作業など)による下肢の激しい運動が、下肢部ばね台座Lが支える身体全体の重心GLを揺動させた場合でも、脊柱部ばね台座Mが支える胸部上部の重心GMの揺動は、上記共鳴現象により重心GLの揺動に比べて安定化する。さらに、鎖骨部ばね台座Tが支える頭部の重心GTを揺動は、上記共鳴現象により重心GMの揺動に比べて安定化する。現実に、人は、歩行する際に胸部および頭部でほとんど揺れを感じない。
【0066】
本開示者は、鋭意検討した結果、上記で説明した人に存在する重心の揺れの共鳴を知ることで人の疲労度に関する適切な判定基準を見出して、以下の本開示の一態様に想到した。
【0067】
すなわち、本開示の第4態様の判定装置は、第3態様の判定装置において、制御器は、第1振幅、第2振幅および第3振幅がこの順に大きい場合、人の疲労度が正常レベルであると判定してもよい。
【0068】
つまり、以上の場合、人に存在する重心GL、重心GMおよび重心GTが、相互に独立性を保ちながら共鳴することで人の姿勢が適切に維持されている正常レベルの状態であると考えられる。
【0069】
また、本開示の第5態様の判定装置は、第3態様の判定装置において、制御器は、第1振幅が、第2振幅以下であって第3振幅よりも大きく、かつ、第1振幅が、第2振幅および第3振幅の平均値よりも大きい場合、人の疲労度が警戒レベルであると判定してもよい。
【0070】
つまり、以上の場合、人の動作(例えば、歩行、作業など)による下肢の運動で生じる身体全体の重心GLの揺れに対応する第1振幅と、人の動作による胸部上部に存在する重心GMの揺れに対応する第2振幅とを比較すると、人のふらつきなどに起因して、後者の第2振幅が、前者の第1振幅以上になっている。しかし、この段階では、第1振幅が、第2振幅および第3振幅の平均値よりも大きいので、人に存在する重心GL、重心GMおよび重心GTが、相互に独立性を保ちながら共鳴することで人の姿勢が維持されている警戒レベルの状態であると考えられる。なお、第2振幅および第3振幅の平均値は、重心GMおよび重心GTの揺れの方向が一致した場合の最大振幅に相当する。
【0071】
また、本開示の第6態様の判定装置は、第3態様の判定装置において、制御器は、第1振幅が、第2振幅以下であって第3振幅よりも大きく、かつ、第1振幅が、第2振幅および第3振幅の平均値以下である場合、人の疲労度が異常レベルであると判定してもよい。
【0072】
つまり、以上の場合、人の動作(例えば、歩行時、作業時など)による下肢の運動で生じる身体全体の重心GLの揺れに対応する第1振幅と、人の動作による胸部上部に存在する重心GMの揺れに対応する第2振幅とを比較すると、人のふらつきなどに起因して、後者の第2振幅が、前者の第1振幅以上になっている。また、第1振幅が第2振幅および第3振幅の平均値以下に至っている。この状態では、人に存在する重心GMおよび重心GTが、下肢の運動に対して共鳴せずに、人の動作において、身体のバランスの自律的維持が困難な異常レベルであると考えられる。
【0073】
[本開示の一態様の姿勢制御装置を得るに至った経緯]
図5に示された重心GL、重心GMおよび重心GTと同様に、直立二足歩行が可能なヒューマノイドにおいても、3つの重心が存在することを容易に類推することができる。
【0074】
そこで、本開示者は、鋭意検討した結果、上記で説明した重心の揺れの共鳴現象を活用することで、ヒューマノイドの動作時の姿勢制御を適切に行い得ることを見出して、以下の本開示の一態様に想到した。
【0075】
すなわち、本開示の第7態様の姿勢制御装置は、直立二足歩行が可能なヒューマノイドの姿勢を制御する装置であって、ヒューマノイドの動作時の揺れを検知する揺動検知器と、制御器と、を備え、
揺動検知器から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析が行われ、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが現れており、
第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークはそれぞれ、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの揺れに由来するピークであり、
制御器は、3つの重心のそれぞれの揺れが互いに共鳴するように、ヒューマノイドの姿勢を制御する。
【0076】
本開示の第8態様の姿勢制御装置は、第7態様の姿勢制御装置において、揺動検知器は、重力が作用する方向(以下、垂直方向)に対して直交する水平方向における、ヒューマノイドの動作時の揺れの角速度を検知する角速度センサと、垂直方向におけるヒューマノイドの動作時の揺れの加速度を検知する加速度センサと、を備え、
第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークはそれぞれ、第1角速度ピークおよび第1加速度ピーク、第2角速度ピークおよび第2加速度ピーク、および、第3角速度ピークおよび第3加速度ピークをそれぞれ含み、
第1角速度ピーク、第2角速度ピークおよび第3角速度ピークはそれぞれ、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの水平方向の揺れに由来するピークであり、
第1加速度ピーク、第2加速度ピークおよび第3加速度ピークはそれぞれ、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの垂直方向の揺れに由来するピークであり、
制御器は、3つの重心のそれぞれの水平方向の揺れが互いに奇数倍で共鳴するとともに、3つの重心のそれぞれの垂直方向の揺れが互いに整数倍で共鳴するように、ヒューマノイドの姿勢を制御してもよい。
【0077】
以上の構成によると、本態様の姿勢制御装置は、ヒューマノイドに存在する3つの重心の揺れの共鳴現象を利用ことで、ヒューマノイドの姿勢制御を適切に行い得る。つまり、人と同様の自然なバランスでヒューマノイドの姿勢を維持することが可能になる。
【0078】
また、本態様の姿勢制御装置は、従来に比べて、ヒューマノイドの姿勢維持に必要なセンサ数を削減し得るとともに、ヒューマノイドの制御構造を簡素化し得ると考えられる。
【0079】
以下、添付図面を参照しつつ、本開示の各態様の具体例について説明する。以下で説明する具体例は、いずれも上記の各態様の一例を示すものである。よって、以下で示される形状、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態などは、請求項に記載されていない限り、上記の各態様を限定するものではない。また、以下の構成要素のうち、本態様の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面において、同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合がある。また、図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を模式的に示したもので、形状および寸法比などについては正確な表示ではない場合がある。また、以下で説明する動作においては、必要に応じて、各ステップの順序などを変更できる。また、必要に応じて、他の公知のステップを追加できる。
【0080】
(第1実施形態)
[装置構成]
図6は、第1実施形態の判定装置の一例を示す図である。
【0081】
図6に示すように、判定装置100は、揺動検知器10と、送信機15と、制御器20と、を備える。
【0082】
揺動検知器10は、人の動作時の揺れを検知するセンサである。なお、揺動検知器10には、例えば、アナログ信号をデジタル信号にデータ変換する機能、不要な信号を除去するフィルタリング機能、信号を増幅する機能などが内蔵されているが、これらの機能はいずれも、公知であるので説明を省略する。また、揺動検知器10には、上記機能を制御するマイクロプロセッサが設けられていてもよい。
【0083】
ここで、本実施形態の判定装置100では、揺動検知器10は、重力が作用する方向(以下、垂直方向)に対して直交する水平方向における、人の動作時の揺れの角速度を検知する角速度センサを備える。角速度センサは、このような人の動作時の揺れの角速度を検知することができれば、どのような構成であってもよい。
【0084】
例えば、角速度センサは、振動式または静電容量式のジャイロセンサであってもよい。ジャイロセンサは、1軸センサであってもよいし、2軸センサであってもよいし、3軸センサであってもよい。
【0085】
なお、揺動検知器10は、これを人に取り付けることで、角速度センサが人の動作時の水平方向の揺れの角速度を検知するように構成されているが、かかる取り付け位置は、特に限定されない。例えば、土木建築業界の現場で作業する作業者に、揺動検知器10を取り付ける場合、図7に示す如く、作業者が装着する工事用ヘルメットの頭部に容易に固定することができる。
【0086】
また、揺動検知器10は、上記の角速度センサの他、加速度センサを備える。加速度センサは、垂直方向における人の動作時の揺れの加速度を検知することができれば、どのような構成であってもよい。
【0087】
送信機15は、揺動検知器10から出力された揺動データを無線で制御器20の受信機に送信する。送信機15は、このような揺動揺動データを無線で制御器20の受信機に送信することができれば、どのような構成であってもよい。例えば、送信機15は、Bluetooth(登録商標)送信機であってもよい。
【0088】
ここで、上記のとおり、人の身体の状態は、重心が、外乱に対して安定しているかどうかという物理現象に密接に関係すると考えられる。
【0089】
そこで、本実施形態の判定装置100では、揺動検知器10から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析(フーリエ変換)が行われ、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが現れており、制御器20は、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークに基づいて、人の身体の状態を判定する。
【0090】
具体的には、例えば、人が歩行する際には、図2A図3Aおよび図4Aに示す如く、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークはそれぞれ、第1角速度ピークPD1、第2角速度ピークPD2および第3角速度ピークPD3をそれぞれ含む。そして、第1角速度ピークPD1は、人の下肢上部に存在する重心GL(図5参照)の水平方向の揺れに由来するピークであり、第2角速度ピークPD2は、人の胸部上部に存在する重心GM(図5参照)の水平方向の揺れに由来するピークであり、第3角速度ピークPD3は、人の頭部に存在する重心GT(図5参照)の水平方向の揺れに由来するピークである。
【0091】
このとき、制御器20は、第1角速度ピークPD1に対応する第1振幅Aと、第2角速度ピークPD2に対応する第2振幅Aと、第3角速度ピークPD3に対応する第3振幅Aとの間の大小関係に基づいて、人の疲労度を判定する。
【0092】
一例として、制御器20は、第1振幅Al、第2振幅Amおよび第3振幅Atがこの順に大きい場合(つまり、第1判定基準として、Al>Am>Atの場合)、人の疲労度が正常レベルであると判定してもよい。
【0093】
つまり、以上の場合、上記のとおり、人に存在する重心GL、重心GMおよび重心GTが、相互に独立性を保ちながら共鳴することで人の姿勢が適切に維持されている正常レベルの状態であると考えられる。
【0094】
また、一例として、制御器20は、第1振幅Aが、第2振幅A以下であって第3振幅Aよりも大きく、かつ、第1振幅Aが、第2振幅Aおよび第3振幅Aの平均値よりも大きい場合(つまり、第2判定基準として、A≧A>A、かつA>(A+A)/2の場合)、人の疲労度が警戒レベルであると判定する。
【0095】
ここで、第2振幅Aおよび第3振幅Aの平均値は、重心GMおよび重心GTの揺れの方向が一致した場合の最大振幅に相当する。
【0096】
つまり、以上の場合、人の動作(例えば、歩行、作業など)による下肢の運動で生じる身体全体の重心GLの揺れに対応する第1振幅Aと、人の動作による胸部上部に存在する重心GMの揺れに対応する第2振幅Aとを比較すると、人のふらつきなどに起因して、後者の第2振幅Aが、前者の第1振幅A以上になっている。しかし、この段階では、第1振幅Aが、第2振幅Aおよび第3振幅Aの平均値よりも大きいので、人に存在する重心GL、重心GMおよび重心GTが、相互に独立性を保ちながら共鳴することで人の姿勢が維持されている警戒レベルの状態であると考えられる。
【0097】
また、一例として、制御器20は、第1振幅Aが、第2振幅A以下であって第3振幅Aよりも大きく、かつ、第1振幅Aが、第2振幅Aおよび第3振幅Aの平均値以下の場合(つまり、第3判定基準として、A≧A>A、かつA≦(A+A)/2の場合)、人の疲労度が異常レベルであると判定する。
【0098】
つまり、以上の場合、人の動作(例えば、歩行時、作業時など)による下肢の運動で生じる身体全体の重心GLの揺れに対応する第1振幅Aと、人の動作による胸部上部に存在する重心GMの揺れに対応する第2振幅Aとを比較すると、人のふらつきなどに起因して、後者の第2振幅Aが、前者の第1振幅A以上になっている。また、第1振幅Aが第2振幅Aおよび第3振幅Aの平均値以下に至っている。この状態では、人に存在する重心GMおよび重心GTが、下肢の運動に対して共鳴せずに、人の動作において、身体のバランスの自律的維持が困難な異常レベルであると考えられる。
【0099】
なお、以上の人の疲労度に関する第1判定基準、第2判定基準および第3判定基準は一例であって、本例に限定されない。例えば、制御器20は、第1振幅Aが第2振幅A以下であって、かつ、第2振幅Aが第3振幅A以下である場合(つまり、第4判定基準として、A≦A≦Aの場合)、人の疲労度が、緊急対応レベルであると判定してもよい。
【0100】
制御器20は、例えば、演算回路(図示せず)と、上記判定を行うためのプログラムを記憶する記憶回路(図示せず)と、を備える。演算回路として、例えば、MPU、CPUなどを挙げることができる。記憶回路として、例えば、メモリなどを挙げることができる。制御器20は、集中制御を行う単独の制御器で構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御を行う複数の制御器で構成されていてもよい。なお、上記のプログラムは、制御器20による判定基準を実行する機能の他、揺動検知器10から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析(フーリエ変換)を行う機能を備えてもよい。
【0101】
また、制御器20は、図示しない操作設定装置および報知装置を備えてもよい。操作設定装置として、例えば、キーボードなどを挙げることができる。報知装置として、例えば、作業者が、制御器20による判定内容を認識するための表示報知器、音声報知器などを挙げることができる。表示報知器として、表示パネル画面、ランプなどを用いることができるが、これらに限定されない。音声報知器として、例えば、スピーカなどを用いることができるが、これに限定されない。このような制御器20として、人が携帯できる情報携帯端末(例えば、パーソナルコンピュータ)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0102】
[動作]
次に、第1実施形態の判定装置の動作の一例について図面を参照しながら説明する。
【0103】
図8は、第1実施形態の判定装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【0104】
なお、以下の動作は、例えば、制御器20の演算回路が、制御器20の記憶回路からプログラムを読み出すことにより行われてもよい。ただし、以下の動作を制御器20で行うことは、必ずしも必須ではない。作業者が、その一部の動作を行ってもよい。
【0105】
作業者が、例えば、土木建築業界の現場で作業する場合、揺動検知器10が固定された工事用のヘルメットを被ることで、作業が開始される。
【0106】
まず。ステップS1では、適時に、揺動検知器10の角速度センサから出力された角速度データのサンプリングが行われる。
【0107】
次に、ステップS2では、角速度データを周波数成分に分解することでスペクトル解析(角速度データのFFT処理)が行われる。すると、図2A図3Aおよび図4Aに示す如く、スペクトル解析で得られたスペクトル中に、周波数が低い順に、第1角速度ピークPD1、第2角速度ピークPD2および第3角速度ピークPD3が現れるので、第1角速度ピークPD1に対応する第1振幅Aと、第2角速度ピークPD2に対応する第2振幅Aと、第3角速度ピークPD3に対応する第3振幅Aと、が特定される(ステップS3)。
【0108】
次に、ステップS4では、ステップS3で得られた、第1振幅Aと第2振幅Aと第3振幅Aとの間の大小関係が、第1判定基準(A>A>A)を満たすか否かが判定される。
【0109】
上記の大小関係が、第1判定基準を満たす場合(ステップS4で「Yes」の場合)、ステップS5で、作業者の疲労度が正常レベルであると判定される。このとき、制御器20の報知装置を用いて、作業者の疲労度が正常レベルであることを作業者に報知するとよい。上記の報知の後、ステップS1において、適時に、ステップS1以降の動作を再開してもよい。
【0110】
上記の大小関係が、第1判定基準を満たさない場合(ステップS4で「No」の場合)、次のステップ6に進む。
【0111】
ステップS6では、ステップS3で得られた、第1振幅Aと第2振幅Aと第3振幅Aとの間の大小関係が、第2判定基準(A≧A>A、かつA>(A+A)/2)を満たすか否かが判定される。
【0112】
上記の大小関係が、第2判定基準を満たす場合(ステップS6で「Yes」の場合)、ステップS7で、作業者の疲労度が警戒レベルであると判定される。このとき、制御器20の報知装置を用いて、作業者の疲労度が警戒レベルであることを作業者に報知するとよい。上記の報知の後、ステップS1において、適時に、ステップS1以降の動作を再開してもよい。
【0113】
上記の大小関係が、第2判定基準を満たさない場合(ステップS6で「No」の場合)、次のステップ8に進む。
【0114】
ステップS8では、ステップS3で得られた、第1振幅Aと第2振幅Aと第3振幅Aとの間の大小関係が、第3判定基準(A≧A>A、かつA≦(A+A)/2)を満たすか否かが判定される。
【0115】
上記の大小関係が、第3判定基準を満たす場合(ステップS8で「Yes」の場合)、ステップS7で、作業者の疲労度が異常レベルであると判定される。このとき、制御器20の報知装置を用いて、作業者の疲労度が異常レベルであることを作業者に報知するとよい。
【0116】
上記の報知の後、および、上記の大小関係が、第3判定基準を満たさない場合(ステップS8で「No」の場合)、ステップS1において、適時に、ステップS1以降の動作を再開してもよい。
【0117】
[実験]
上記の第1判定基準、第2判定基準および第3判定基準を、被験者[3]が歩行する際の疲労度の判定に適用した事例について説明する。具体的には、高温および高湿度の夏場に、被験者[3]は、揺動検知器10が固定された工事用のヘルメットを被り、制御器20を入れたリュックを背負って歩行することで揺動検知器10から出力された揺動データを測定した。
【0118】
図9Aおよび図9Bは、被験者[3]の歩行開始から20分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
【0119】
図10Aおよび図10Bは、被験者[3]の歩行開始から40分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
【0120】
図11Aおよび図11Bは、被験者[3]の歩行開始から60分の経過時における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
【0121】
図12Aおよび図12Bは、被験者[3]の歩行開始から60分の経過した後であって、被験者[3]が休憩および水分を取った直後における、揺動検知器から出力された揺動データを解析した結果の一例を示す図である。
【0122】
なお、図9A図10A図11Aおよび図12Aの横軸、縦軸およびピーク周波数は、図4Aと同様であるので説明を省略する。また、図9B図10B図11Bおよび図12Bの横軸、縦軸およびピーク周波数は、図4Bと同様であるので説明を省略する。
【0123】
ここで、図9A図10A図11Aおよび図12Aに示すように、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1角速度ピークPD1、第2角速度ピークPD2および第3角速度ピークPD3が現れている。そこで、以下の表2には、被験者[3]の歩行開始からの経過時間毎に、第1角速度ピークPD1に対応する第1振幅A、第2角速度ピークPD2に対応する第2振幅Aおよび第3角速度ピークPD3に対応する第3振幅Aが示されている。
【0124】
【表2】
まず、図9Aおよび表2に示すように、被験者[3]の歩行開始から20分の経過時において、第1振幅A、第2振幅Aおよび第3振幅Aはそれぞれ、「2.131」、「1、652」および「0.958」であり、これらの数値は、第1判定基準(A>A>A)を満たしている。
【0125】
この結果は、被験者[3]が歩行する際、被験者[3]に存在する重心GL、重心GMおよび重心GTが、相互に独立性を保ちながら共鳴することで人の姿勢が適切に維持されていることを意味する。
【0126】
よって、この段階では、被験者[3]の歩行による疲労度は正常レベルであると判定される。
【0127】
なお、図9Bで示す如く、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1加速度ピークPG1、第2加速度ピークPG2および第3加速度ピークPG3が現れている。
【0128】
次に、図10Aおよび表2に示すように、被験者[3]の歩行開始から40分の経過時において、第1振幅A、第2振幅Aおよび第3振幅Aはそれぞれ、「2.132」、「2.141」および「1.136」であり、これらの数値は、第2判定基準(A≧A>A、かつA>(A+A)/2)を満たしている。
【0129】
この結果は、被験者[3]が歩行する際、被験者[3]のふらつきなどに起因して、第2振幅Aが、第1振幅A以上になっていることを意味する。しかし、この結果は、第1振幅Aが、第2振幅Aおよび第3振幅Aの平均値よりも大きいので、被験者[3]に存在する重心GL、重心GMおよび重心GTが、相互に独立性を保ちながら共鳴することで人の姿勢が維持されていることも意味する。
【0130】
よって、この段階では、被験者[3]の歩行による疲労度は警戒レベルであると判定される。
【0131】
なお、図10Bで示す如く、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1加速度ピークPG1、第2加速度ピークPG2および第3加速度ピークPG3が現れているが、これらは、図9Bで示されるピークに対して変化が認められない。
【0132】
次に、図11Aおよび表2に示すように、被験者[3]の歩行開始から60分の経過時において、第1振幅A、第2振幅Aおよび第3振幅Aはそれぞれ、「1.653」、「2.154」および「1.280」であり、これらの数値は、第3判定基準(A≧A>A、かつA≦(A+A)/2)を満たしている。
【0133】
この結果は、被験者[3]が歩行する際、被験者[3]のふらつきなどに起因して、第2振幅Aが、第1振幅A以上になっていることを意味する。また、この結果は、第1振幅Aが、第2振幅Aおよび第3振幅Aの平均値以下に至っているので、被験者[3]に存在する重心GMおよび重心GTが、下肢の運動に対して共鳴せずに、被験者[3]の歩行において、身体のバランスの自律的維持が困難であることを意味する。
【0134】
よって、この段階では、被験者[3]の歩行による疲労度は異常レベルであると判定される。
【0135】
なお、図11Bで示す如く、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1加速度ピークPG1、第2加速度ピークPG2および第3加速度ピークPG3が現れているが、これらは、図9Bで示されるピークに対して変化が認められない。
【0136】
次に、図12Aおよび表2に示すように、被験者[3]の歩行開始から60分の経過した後であって、被験者[3]が休憩および水分を取った直後において、第1振幅A、第2振幅Aおよび第3振幅Aはそれぞれ、「1.742」、「1.353」および「0.568」であり、これらの数値は、第1判定基準(A>A>A)を満たしている。
【0137】
この結果は、被験者[3]が歩行する際、被験者[3]に存在する重心GL、重心GMおよび重心GTが、相互に独立性を保ちながら共鳴することで人の姿勢が適切に維持されていることを意味する。
【0138】
よって、この段階では、被験者[3]の歩行による疲労が十分な休憩によって回復することで、被験者[3]の疲労が正常レベルに復帰した判定される。
【0139】
なお、図12Bで示す如く、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1加速度ピークPG1、第2加速度ピークPG2および第3加速度ピークPG3が現れているが、これらは、図9Bで示されるピークに対して変化が認められない。
【0140】
以上のとおり、本実施形態の判定装置100は、人の身体の状態を従来よりも簡易かつ高精度に判定し得る。
【0141】
例えば、近年、土木建設業界の現場で、夏場の高温、高湿度環境下における作業者の疲労蓄積に伴って生じる作業者の体調悪化、作業効率の低下、作業ミス発生などが問題視されている。なお、人の疲労度を判定する一般的な方法として、人の血糖値、心拍数などを測定する方法が知られている。しかし、これらのデータはいずれも、個人の生活習慣などの影響が大きく、統一的な数値、指標などにより人の疲労度を明確に示すことは困難である。また、病院の精密検査を行うことで判断する既往医学的な判定では、リアルタイムに人の疲労の蓄積を測ることができないので、土木建設業界の現場、物流業界の現場などにおける、人の疲労度の判定には不向きである。
【0142】
これに対して、本実施形態の判定装置100は、個人の生活習慣などに影響されにくい、人に存在する重心の揺れに関する普遍的な基準によって、人の疲労度を適切に判定することができる。また、本実施形態の判定装置100は、例えば、土木建設業界の現場、物流業界の現場などにおいて、作業者が揺動検知器10を装着するだけで、作業者の疲労度を簡易かつリアルタイムに判定することができる。
【0143】
(変形例)
本実施形態では、制御器20が、揺動検知器10を用いて、人の動作(例えば、歩行時、作業時など)による人に存在する重心の揺れを検知することで、人の疲労度を判定する場合について説明した。
【0144】
しかし、制御器20は、揺動検知器10を用いて、人の動作(例えば、歩行時、作業時など)による人に存在する重心の揺れを検知することで、例えば、人の健康状態を判定することも可能である。
【0145】
具体的には、例えば、不健康な肥満の人は、健常者に比べて、下肢部ばね台座Lが支える身体全体の重心GLの位置と、脊柱部ばね台座Mが支える胸部上部の重心GMの位置と、が近接していることが多い。また、不健康な肥満の人は、健常者に比べて、下肢部ばね台座Lの位置と、重心GLの位置と、が近接していることも多い。すると、揺動検知器10から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析(フーリエ変換)が行われ、スペクトル解析で得られたスペクトル中には、周波数が低い順に、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが現れるとき、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークが、不健康な肥満の人と、健常者とでは、異なると考えられる。
【0146】
これにより、制御器20は、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークに基づいて、人の健康状態を判定することができる。
【0147】
本変形例の判定装置100は、上記の特徴以外は、第1実施形態の判定装置100と同様であってもよい。
【0148】
(第2実施形態)
図13は、第2実施形態の姿勢制御装置の一例を示す図である。
【0149】
図13に示すように、姿勢制御装置200は、揺動検知器10と、送信機15と、制御器20Aと、を備える。
【0150】
ここで、揺動検知器10および送信機15については、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0151】
上記のとおり、図5に示された重心GL、重心GMおよび重心GTと同様に、直立二足歩行が可能なヒューマノイドにおいても、3つの重心が存在することを容易に類推することができる。
【0152】
そこで、本実施形態の姿勢制御装置200では、ヒューマノイドが動作するとき、ヒューマノイドに装着した揺動検知器10から出力された揺動データを周波数成分に分解することでスペクトル解析(フーリエ変換)が行われる。すると、スペクトル解析で得られたスペクトル中において、周波数が低い順に現れた、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークはそれぞれ、ヒューマノイド(図示せず)に存在する3つの重心のそれぞれの揺れに由来するピークであり、制御器20Aは、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの揺れが互いに共鳴するように、ヒューマノイドの姿勢を制御する。
【0153】
具体的には、第1ピーク、第2ピークおよび第3ピークはそれぞれ、第1角速度ピークPD1および第1加速度ピークPG1、第2角速度ピークPD2および第2加速度ピークPG2、および、第3角速度ピークPD3および第3加速度ピークPG3をそれぞれ含む。そして、第1角速度ピークPD1、第2角速度ピークPD2および第3角速度ピークPD3はそれぞれ、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの水平方向の揺れに由来するピークであり、第1加速度ピークPG1、第2加速度ピークPG2および第3加速度ピークPG3はそれぞれ、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの垂直方向の揺れに由来するピークである。
【0154】
このとき、制御器20Aは、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの水平方向の揺れが互いに奇数倍で共鳴するとともに、3つの重心のそれぞれの垂直方向の揺れが互いに整数倍で共鳴するように、ヒューマノイドの姿勢を制御する。なお、この場合、制御器20Aは、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの水平方向の揺れと、ヒューマノイドに存在する3つの重心のそれぞれの垂直方向の揺れとが、共振しにくくなるように、ヒューマノイドの姿勢を制御する。これは、例えば、上記の水平方向の揺れのうち、周波数が最も低い揺れに対応する周波数と、上記の垂直方向の揺れのうち、周波数が最も低い揺れに対応する周波数とを所定の周波数分、ずらすことで実現される。一例として、前者の周波数が、後者の周波数の約1/2程度であってもよい。
【0155】
制御器20Aは、例えば、演算回路(図示せず)と、上記姿勢制御を行うためのプログラムを記憶する記憶回路(図示せず)と、を備える。演算回路として、例えば、MPU、CPUなどを挙げることができる。記憶回路として、例えば、メモリなどを挙げることができる。制御器20Aは、集中制御を行う単独の制御器で構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御を行う複数の制御器で構成されていてもよい。
【0156】
以上により、本実施形態の姿勢制御装置200は、ヒューマノイドに存在する3つの重心の揺れの共鳴現象を利用ことで、ヒューマノイドの姿勢制御を適切に行い得る。つまり、人と同様の自然なバランスでヒューマノイドの姿勢を維持することが可能になる。
【0157】
また、本実施形態の姿勢制御装置200は、従来に比べて、ヒューマノイドの姿勢維持に必要なセンサ数を削減し得るとともに、ヒューマノイドの制御構造を簡素化し得ると考えられる。
【0158】
なお、第1実施形態、第1実施形態の変形例および第2実施形態は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせても構わない。
【0159】
また、上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良および他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本開示の一態様は、人の身体の状態を従来よりも簡易かつ高精度に判定し得る判定装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0161】
10 :揺動検知器
15 :送信機
20 :制御器
20A :制御器
100 :判定装置
200 :姿勢制御装置
GL :重心
GM :重心
GT :重心
L :下肢部ばね台座
M :脊柱部ばね台座
T :鎖骨部ばね台座
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13