(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】黒色エラストマー成形体
(51)【国際特許分類】
G02B 1/111 20150101AFI20231020BHJP
【FI】
G02B1/111
(21)【出願番号】P 2020033190
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲野 真也
(72)【発明者】
【氏名】古田 健
(72)【発明者】
【氏名】田村 丈
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-21103(JP,A)
【文献】特開2004-44068(JP,A)
【文献】特開2011-190287(JP,A)
【文献】特開2012-26863(JP,A)
【文献】特開2012-52826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/06
C08L 1/00 -101/14
G02B 1/10 - 1/18
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する被着体が剥離可能な状態で貼り付けられる貼付面を備える黒色エラストマー成形体であって、
熱可塑性エラストマーと、黒色物質と、軟化剤とを含有し、かつ
FP硬度が85以下であり、
前記貼付面の反射率(Ym値)が5.0%以下であり、
前記貼付面の表面粗さ(Ra)が1.0μm以下であり、
前記貼付面の粘着力(対SUS)が1.0N/mm以上8.0N/mm以下である黒色エラストマー成形体。
【請求項2】
前記被着体の屈折率d1と前記軟化剤の屈折率d2との差(d1-d2)が、0.115以下である請求項1に記載の黒色エラストマー成形体。
【請求項3】
前記軟化剤の屈折率d2と前記熱可塑性エラストマーの屈折率d3との差(d2-d3)が、0.115以下である請求項1又は請求項2に記載の黒色エラストマー成形体。
【請求項4】
前記黒色物質以外に、充填フィラーを含む請求項1~請求項3の何れか一項に記載の黒色エラストマー成形体。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレン系熱可塑性エラストマーからなる請求項1~請求項4の何れか一項に記載の黒色エラストマー成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色エラストマー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルム等の光学部材の製造過程において、品質管理等の目的で、反射率等の光学特性の測定が行われている。例えば、光学部材の光学特性として、表裏一対の面のうち、表側に配される一方の面のみの光学特性(反射率等)を測定したい場合がある。このような場合、裏側に配される他方の面における光学作用(反射等)を抑制するために、他方の面に、黒色部材を貼り付けることが行われている(特許文献1,2)。
【0003】
黒色部材は、例えば、黒色のウレタンゲルからなり、粘着力を備えている(特許文献2参照)。このような黒色部材は、その粘着力を利用して、光学部材に剥離可能な状態で貼り付けられる。なお、黒色部材の貼り付け時に、黒色部材と光学部材との間に気泡等の空気層が形成されると、その空気層の影響で、黒色部材が貼り付けられた光学部材の面における反射等の光学作用の影響が大きくなってしまう。そのため、黒色部材の貼り付け時に、光学部材との間に気泡が極力、形成されないように注意する必要があった。
【0004】
なお、従来、この種の光学特性の測定は、主に、最終的にロール状に巻き取られる長尺かつフィルム状の光学部材に対して行われるものであった。そのため、従来の黒色部材は、ロール形状や、シート形状に加工されたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-26863号公報
【文献】特開2012-52826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の黒色部材は、光学部材の大規模な生産設備で使用されるものであり、大きな光学部材に対して、継続的に使用される必要があった。そのため、従来の黒色部材には、継続的な使用に耐え得るように、ある程度の硬さ(強度)を備える必要があった。例えば、特許文献2には、アスカーC硬度が50~70の黒色部材が開示されている。
【0007】
このような従来の黒色部材を、光学部材の精密な光学特性の測定に使用すると、光学部材と黒色部材との間に気泡等の空気層が形成され易い等の問題があった。
【0008】
また、従来の黒色部材を、例えば、曲面を含む光学部材(例えば、光学レンズ)に使用すると、曲面に対する密着性(追従性)が悪く、それらの間に空気層が形成され易い等の問題もあった。
【0009】
本発明の目的は、低硬度であり、被着体との間に空気層が形成されることが抑制された黒色エラストマー成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 光透過性を有する被着体が剥離可能な状態で貼り付けられる貼付面を備える黒色エラストマー成形体であって、熱可塑性エラストマーと、黒色物質と、軟化剤とを含有し、かつFP硬度が85以下であり、前記貼付面の反射率(Ym値)が5.0%以下であり、前記貼付面の表面粗さ(Ra)が1.0μm以下であり、前記貼付面の粘着力(対SUS)が1.0N/mm以上8.0N/mm以下である黒色エラストマー成形体。
【0011】
<2> 前記被着体の屈折率d1と前記軟化剤の屈折率d2との差(d1-d2)が、0.115以下である前記<1>に記載の黒色エラストマー成形体。
【0012】
<3> 前記軟化剤の屈折率d2と前記熱可塑性エラストマーの屈折率d3との差(d2-d3)が、0.115以下である前記<1>又は<2>に記載の黒色エラストマー成形体。
【0013】
<4> 前記黒色物質以外に、充填フィラーを含む前記<1>~<3>の何れか1つに記載の黒色エラストマー成形体。
【0014】
<5> 前記熱可塑性エラストマーが、スチレン系熱可塑性エラストマーからなる前記<1>~<4>の何れか1つに記載の黒色エラストマー成形体。
【0015】
<6> 前記軟化剤が、プロセスオイルからなる前記<1>~<5>の何れか1つに記載の黒色エラストマー成形体。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によれば、低硬度であり、被着体との間に空気層が形成されることが抑制された黒色エラストマー成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態1に係る黒色エラストマー成形体の斜視図
【
図2】黒色エラストマー成形体の貼付面に、光学部材の裏面が貼り付けられている状態を表した側面図
【
図3】実施形態2に係る黒色エラストマー成形体の断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態1〕
(黒色エラストマー成形体10)
図1は、実施形態1に係る黒色エラストマー成形体10の斜視図である。黒色エラストマー成形体10は、光透過性を有する被着体(例えば、光学レンズ、光学フィルム等の光学部材)の光学特性(反射率等)を評価する際に、被着体に貼り付けて使用される治具である。
図2は、黒色エラストマー成形体10の貼付面10aに、光学部材20の裏面20bが貼り付けられている状態を表した側面図である。
【0019】
黒色エラストマー成形体10は、
図1及び
図2に示されるように、所定の厚みを有するシート状であり、表側(
図1及び
図2の上側)を向く一方の面が、貼付面10aとなっている。例えば、
図2に示されるように、シート状の光学部材(被着体の一例)20において、表側(
図2の上側)に配される一方の面20aの反射率を測定する場合、裏側(
図2の下側)に配される他方の面20bを貼付面10aで覆うように、黒色エラストマー成形体10が光学部材20に貼り付けられる。そして、光源からの光Lが、光学部材20の表側の面20aに向かって照射される。黒色エラストマー成形体10が光学部材20の裏側の面20bに貼り付けられることで、その面20bから、光学部材20の外側へ出射した光が黒色エラストマー成形体10によって吸収等される。このようにして、一方の面20aにおける反射率(反射光)の測定時に、黒色エラストマー成形体10によって他方の面20bにおける反射等の光学作用の影響が抑制される。
【0020】
なお、貼付面10aの反対側にある他方の面10bには、必要に応じて、プラスチックフィルム等からなる保護フィルム(不図示)が貼り付けられてもよい。
【0021】
黒色エラストマー成形体10は、主として、熱可塑性エラストマーと、黒色物質と、軟化剤とを含有する。なお、後述するように、黒色エラストマー成形体10は、「FP硬度」、「貼付面10aの反射率(Ym値)」、「貼付面10aの表面粗さ(Ra)」及び「貼付面10aの粘着力(対SUS)」の各特性が、それぞれ所定の値となるように設定されている。黒色エラストマー成形体10は、各特性がそれぞれ所定の値となるように、熱可塑性エラストマー、黒色物質、軟化剤等の各成分の種類や配合量等が設定される。
【0022】
(熱可塑性エラストマー)
熱可塑性エラストマーは、黒色エラストマー成形体10の主成分であり、好ましくは15質量%以上の割合で、黒色エラストマー成形体10中に含まれる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。本発明の目的を損なわない限り、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
熱可塑性エラストマーとしては、適度な硬度、弾性を備える等の観点より、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0024】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。本発明の目的を損なわない限り、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、特に、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)が好ましい。
【0025】
上市されているスチレン系熱可塑性エラストマー(例えば、SEEPS)としては、例えば、商品名「セプトン4055」(株式会社クラレ製)、商品名「セプトン4077」(株式会社クラレ製)、商品名「セプトン4099」(株式会社クラレ製)等が挙げられる。
【0026】
(黒色物質)
黒色物質は、黒色エラストマー成形体を黒色に着色等するための物質であり、本発明の目的を損なわない限り、公知の黒色顔料、黒色染料等を使用することができる。黒色物質としては、例えば、カーボンブラック(CB)、カーボンナノチューブ(CNT)、黒鉛、アニリンブラック、シアニンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、黒色物質としては、少量で目的とする黒色を付与し易く、光反射率が低い等の理由により、カーボンブラック(CB)、カーボンナノチューブ(CNT)等のカーボン材料が好ましい。特に、カーボンナノチューブは、光反射性が低く好ましい。
【0027】
黒色エラストマー成形体10における黒色物質の含有割合は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。なお、黒色エラストマー成形体10における黒色物質の含有割合の上限値は、所定のFP硬度を確保できる等の理由により、6質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0028】
(軟化剤)
軟化剤は、黒色エラストマー成形体10の硬度を調整等するために使用される。軟化剤は、常温(20℃)で液状(オイル状)あり、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル等のプロセスオイル、ポリαオレフィン(PAO)、液状ポリブテン、液状ポリイソブチレン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。軟化剤としては、熱可塑性エラストマーとの相溶性に優れる等の観点より、プロセスオイルが好ましく、特に、パラフィン系プロセスオイルが好ましい。
【0029】
(その他の成分)
黒色エラストマー成形体10は、硬度等を調整する目的で、充填フィラーを含んでもよい。本明細書において、充填フィラーには、上記黒色物質は含まれない。充填フィラーとしては、高級脂肪酸によって表面処理された粒子状物(表面処理済み粒子状物)が挙げられる。本明細書において、「表面処理」とは、粒子の核となる物質を高級脂肪酸によってコーティング(被覆)する処理のことである。
【0030】
高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、カプリル酸、ベヘニン酸、及びモンタン酸等が挙げられる。これらの中でも、オレイン酸が好ましい。粒子の核となる物質としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、水酸化マグネシウムを用いることができる。表面処理済み粒子状物としては、例えば、粒子状の水酸化マグネシウムを、オレイン酸によってコーティングした表面処理済み水酸化マグネシウムが挙げられる。
【0031】
充填フィラーの平均粒径は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、0.1μm~5μmが好ましい。
【0032】
黒色エラストマー成形体10は、充填フィラー以外に、必要に応じて、紫外線吸収剤、防腐剤、溶剤、難燃剤、合成樹脂、架橋剤、架橋助剤等の他の成分を含んでもよい。
【0033】
(FP硬度)
黒色エラストマー成形体10は、アスカーFP硬度が85以下となるように設定される。アスカーFP硬度がこのような値であると、被着体の表面に対して隙間なく密着し、かつ追従し易い。しかも、被着体と貼付面10aとの間に気泡等の空気層が形成されても、作業者が黒色エラストマー成形体10を指先等で押圧等することにより、そのような空気層を被着体と貼付面10aの間から排除し易い。なお、黒色エラストマー成形体10のアスカーFP硬度の上限値は、好ましくは84以下であり、より好ましくは83以下である。また、黒色エラストマー成形体10のアスカーFP硬度の下限値は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、80以上となるように設定される。黒色エラストマー成形体10におけるアスカーFP硬度の測定方法は、後述する。
【0034】
FP硬度は、例えば、軟化剤の配合量、充填フィラーの配合量、熱可塑性エラストマーの種類等を適宜、設定することにより、調整することができる。
【0035】
(貼付面の反射率(Ym値))
黒色エラストマー成形体10は、貼付面10aの反射率(Ym値)が5.0%以下となるように設定される。本明細書において、貼付面10aの反射率(Ym値)は、黒色エラストマー成形体10の「黒さ」を表す指標となる。貼付面10aの反射率(Ym値)が5.0%以下であると、貼付面10aは十分な「黒さ」を備えていると言え、光吸収性に優れている。なお、貼付面10aの反射率(Ym値)は、好ましくは4.7%以下であり、より好ましくは4.6%以下であり、更に好ましくは4.5%以下である。貼付面10aの反射率(Ym値)の測定方法は、後述する。
【0036】
貼付面の反射率(Ym値)は、例えば、黒色物質の種類、黒色物質の配合量等を適宜、設定することにより、調整することができる。
【0037】
(貼付面の表面粗さ(Ra))
黒色エラストマー成形体10は、貼付面10aの表面粗さ(Ra)が1.0μm以下となるように設定される。貼付面10aの表面粗さ(Ra)の上限値は、好ましくは0.8μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下である。なお、貼付面10aの表面粗さ(Ra)の下限値は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。貼付面10aの表面粗さ(Ra)がこのような値であると、貼付面10aの反射率を抑制しつつ、貼付面10aと被着体との間に気泡等の空気層が形成されることが抑制される。貼付面10aの表面粗さ(Ra)の測定方法は、後述する。
【0038】
貼付面の表面粗さ(Ra)は、例えば、黒色エラストマー成形体10の成形時に、使用する金型の表面粗さや、充填フィラーの大きさや配合量等を適宜、設定することにより、調整することができる。表面粗さ(Ra)の具体的な測定方法は、後述する。
【0039】
(貼付面の粘着力(対SUS))
黒色エラストマー成形体10は、貼付面10aの粘着力(対SUS)が1.0N/mm以上8.0N/mm以下となるように設定される。貼付面10aの粘着力(対SUS)がこのような値であると、黒色エラストマー成形体10の貼付面10aが、被着体に対して剥離可能な状態で密着することができる。なお、貼付面10aの粘着力(対SUS)は、好ましくは1.5N/mm以上5.0N/mm以下である。貼付面10aの粘着力(対SUS)の測定方法は、後述する。また、本明細書における「SUS」とは、JISに規定されるステンレス鋼材料を指す。
【0040】
貼付面の粘着力(対SUS)は、例えば、熱可塑性エラストマーの種類、充填フィラーの配合量、軟化剤の配合量等を適宜、設定することにより、調整することができる。
【0041】
(被着体の屈折率d1と軟化剤の屈折率d2との関係)
黒色エラストマー成形体10は、被着体の屈折率d1と軟化剤の屈折率d2との差(d1-d2)が、0.115以下となるように設定されることが好ましい。被着体を構成する材料としては、例えば、ガラス、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン等の合成樹脂等の光透過性材料が挙げられる。黒色エラストマー成形体10の貼付面10aを、被着体に貼り付けると、被着体の表面には、軟化剤からなる薄い膜(軟化剤膜)が吸着した状態となる。そのため、被着体の屈折率d1と、軟化剤(軟化剤膜)の屈折率d2との差(d1-d2)が、0.115以下に設定されると、両者の屈折率の差が小さいため、界面での光の反射を抑制することができる。
【0042】
(軟化剤の屈折率d2と熱可塑性エラストマーの屈折率d3との関係)
また、黒色エラストマー成形体10は、軟化剤の屈折率d2と熱可塑性エラストマーの屈折率d3との差(d2-d3)が、0.115以下(好ましくは0.050以下)となるように設定されることが好ましい。上述したように、黒色エラストマー成形体10の貼付面10aを、被着体に貼り付けると、被着体の表面には、軟化剤からなる薄い膜(軟化剤膜)が形成される。そのため、そのような軟化剤膜の屈折率d2と、黒色エラストマー成形体10の主成分である熱可塑性エラストマーの屈折率d3との差を小さく設定することにより、界面での光の反射を抑制することができる。
【0043】
(黒色エラストマー成形体10の製造方法)
黒色エラストマー成形体10の製造方法は、特に制限はなく、例えば、熱可塑性エラストマー、黒色物質、軟化剤等を含む混合組成物を、公知の混練装置を用いて加熱しながら混練し、得られた混練物(混合組成物)を、所定の金型を備えた成形装置を用いて成形(例えば、ホットプレス成形)することにより、製造することができる。
【0044】
(被着体)
黒色エラストマー成形体10に貼り付けられる被着体は、光透過性を備える材質(例えば、ガラス、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン等の合成樹脂等の光透過性材料)からなる。本実施形態の黒色エラストマー成形体10に貼り付けられる被着体20は、
図2に示されるようにシート状であるが、他の実施形態においては、シート状以外の形状であってもよい。
【0045】
(用途等)
本実施形態の黒色エラストマー成形体10は、光(可視光等)を吸収するのに十分な黒さを備えている。また、黒色エラストマー成形体10は、所定の硬さ(FP硬度)、所定の粘着力、所定の表面粗さ(Ra)を備えている。このような黒色エラストマー成形体10は、光学部材(被着体)20の光学特性(反射率、透過率)を測定する際や、光学部材(被着体)20の外観検査等に使用することができる。
【0046】
黒色エラストマー成形体10は、上述したように、光学部材(被着体)20の測定対象となる面10aの反対側にある面10bを、覆うように貼付面10aが密着する形で貼り付けられる。本実施形態の黒色エラストマー成形体10は、被着体との間に、気泡等が形成され難く、仮に小さな気泡が形成されても、黒色エラストマー成形体10を被着体側へ押圧等することにより、その気泡を黒色エラストマー成形体10と被着体との間から排除することができる。
【0047】
また、黒色エラストマー成形体10は、被着体の材質(ガラス、プラスチック等)に合わせて、使用する軟化剤の種類等が設定されることが好ましい。
【0048】
〔実施形態2〕
(黒色エラストマー成形体10A)
次いで、
図3を参照しつつ、実施形態2に係る黒色エラストマー成形体10Aについて説明する。
図3は、実施形態2に係る黒色エラストマー成形体10Aの断面図である。本実施形態の黒色エラストマー成形体10Aは、曲面(半球面)を含む光学部材(例えば、凸型の光学レンズ)の光学特性の測定時に使用される治具である。黒色エラストマー成形体10Aは、表側に、半球面状に凹んだ窪み11Aを備えており、その窪みの表面が、被着体(光学部材)に貼り付けられる貼付面10Aaとなっている。本実施形態のように、貼付面10Aaを、被着体の表面形状に倣った形に形成してもよい。なお、本実施形態の黒色エラストマー成形体10Aの組成や、FP硬度等の特性等は、上記実施形態1と同様である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
〔ガラス製の被着体に使用する成形体の作製〕
(実施例1)
熱可塑性エラストマー、黒色物質、プロセスオイル、充填フィラー等の各成分を所定の配合量で含む混合物を、ラボプラストミル(製品名「4C150型ラボプラストミル」、東洋精機株式会社製)を用いて、30rpm、180℃の条件で3分間混練することで、実施例1の混合組成物を得た。得られた混合組成物を、100℃以下まで放冷した後、ラボプラストミルから取り出し、180℃、50MPa、1分の条件で、ホットプレス成形して、実施例1のシート状の成形体を得た(厚み:3mm)。
【0051】
熱可塑性エラストマーとして、スチレン系熱可塑性エラストマーであるポリスチレンポリ(エチレンエチレン/プロピレン)ブロックポリスチレン(SEEPE)、商品名「セプトン(登録商標) 4055」(株式会社クラレ製)を使用した。このスチレン系熱可塑性エラストマーの屈折率d1は1.51である。
【0052】
黒色物質として、カーボンブラック(CB)、商品名「#900B」(三菱化学株式会社製)を使用した。カーボンブラックの平均粒子径は、16nmである。なお、表1には、混合物(混合組成物)におけるカーボンブラックの配合割合(質量%)を示した。
【0053】
プロセスオイルとして、商品名「PW-32」(出光興産株式会社製)を使用した。このプロセスオイル(PW-32)の屈折率d2は1.47である。
【0054】
充填フィラーとして、表面処理済み水酸化マグネシウム(平均粒子径約1μmの水酸化マグネシウムの表面を、オレイン酸で処理したもの)、商品名「N-4」(神島化学工業株式会社製)を使用した。なお、表1には、混合物(混合組成物)における充填フィラーの配合割合(質量%)を示した。
【0055】
混合組成物を作製する際の各成分の選択、及び各成分の配合量は、後述する成形体の「反射率(Ym値)」、「粘着力(対SUS)」、「FP硬度」、及び「表面粗さRa」が、表1に示される値となるように適宜、設定した。
【0056】
(実施例2~7及び比較例1~3)
実施例1と同様、熱可塑性エラストマー、黒色物質、プロセスオイル、充填フィラー等の各成分を、所定の配合量で含む混合物を混練して混合組成物を作製した。得られた混合組成物を、実施例1と同様、ホットプレス成形して、実施例2~7及び比較例1~3のシート状の成形体を得た。なお、実施例2~7及び比較例1~3において混合組成物を作製する際の各成分の選択、及び各成分の配合量は、後述する成形体の「反射率(Ym値)」、「粘着力(対SUS)」、「FP硬度」、及び「表面粗さRa」が、表1に示される値となるように適宜、設定した。
【0057】
実施例4では、黒色物質として、カーボンナノチューブ(CNT)、商品名「PPM0K13784BLK」(東洋インキ株式会社製)を使用した。
【0058】
実施例2では、プロセスオイルとして、商品名「PW-90」(出光興産株式会社製)を使用した。このプロセスオイル(PW-90)の屈折率d2は1.48である。
【0059】
実施例5等では、プロセスオイルとして、商品名「PW-380」(出光興産株式会社製)を使用した。このプロセスオイル(PW-380)の屈折率d2は1.48である。
【0060】
〔反射率(Ym値)の測定〕
各実施例及び各比較例の成形体から、20mm×20mm×3mmの大きさの試験サンプルを切り出した。その試験サンプルについて、JIS Z 8722:2009(色の測定方法-反射及び透過物体色)に準拠して表面の反射率(%)(Ym値)を測定した。
【0061】
〔粘着力(対SUS)の測定〕
各実施例及び各比較例の成形体について、上記反射率の測定で使用したシート状の試験サンプル(20mm×20mm×3mm)を用意した。シート状の試験サンプルを、水平な載置台上に載せ、そのような状態の試験サンプルに対して、ロードセルにプランジャーを介して接続された圧子を、開始位置である試験サンプルの厚みの位置から5mm/minの速度で押し付け、4.9Nの荷重が加えられた時点から10秒間保持した。10秒後、圧子を5mm/minの速度で引き上げ、前記開始位置まで上がった時点から圧子を引き剥がすのに要する力の大きさを測定した。なお、圧子は、直径15mmの円柱状であり、材質は、SUSである。結果は、表1に示した。
【0062】
〔FP硬度の測定〕
各実施例及び各比較例の成形体について、上記反射率等の測定で使用したシート状の試験サンプルを用意した。その試験サンプルについて、23±3℃の条件下で、アスカーゴム硬度計FP型を使用して、アスカーFP硬度を測定した。結果は、表1に示した。
【0063】
〔表面粗さ(Ra)の測定〕
各実施例及び各比較例の成形体について、上記反射率等の測定で使用したシート状の試験サンプルを用意した。その試験サンプルについて、表面粗さRa(μm)を測定した、なお、表面粗さRaは、JIS B 0601-1994に準拠して求められる算術平均値である。表面粗さRaの測定には、表面粗さ測定器(製品名「サーフテストSJ-402」(株式会社ミツトヨ製)を使用した。結果は、表1に示した。
【0064】
〔ガラスの屈折率d1とプロセスオイルの屈折率d2との関係〕
各実施例及び各比較例において、被着体であるガラスの屈折率d1と、プロセスオイルの屈折率d2との差(d1-d2)が、0.115以下となるように、プロセスオイルを選定した。
【0065】
〔プロセスオイルの屈折率d2と熱可塑性エラストマーの屈折率d3との関係〕
各実施例及び各比較例において、プロセスオイルの屈折率d2と、熱可塑性エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマー)の屈折率d3との差(d2-d3)が、0.115以下となるように、プロセスオイル及び熱可塑性エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマー)を選定した。
【0066】
〔評価1:反射率(Y値)の測定〕
各実施例及び各比較例の成形体(試験サンプル)に、ガラス製の被着体(50mm×50mm×5mm)を貼り付け、その状態の被着体の表面(成形体が貼り付けられていない方の面)の反射率(%)(Y値)を、JIS Z 8722:2009(色の測定方法-反射及び透過物体色)に準拠して測定した。結果は、表1に示した。
【0067】
〔評価2:気泡の有無〕
各実施例及び各比較例について、上記反射率(Y値)の測定時に、試験サンプルと被着体との間に気泡が形成されたか否かを目視で観察した。結果は、表1に示した。
【0068】
【0069】
実施例1~7は、ガラス製の被着体に貼り付けて使用される成形体(黒色エラストマー成形体)である。実施例1~7の成形体では、被着体に貼り付けた際に、成形体と被着体との間に空気層(気泡)は見られなかった。また、実施例1~7の成形体は、被着体が貼り付けられた状態において、反射率(%)(Y値)が6.2%以下であり、成形体と密着する被着体の表面における光学作用(反射等)が抑制されていることが確かめられた。なお、実施例1~4は、反射率(%)(Y値)が5.4%以下であり、特に好ましい結果が得られた。
【0070】
比較例1の成形体は、成形体の表面粗さRaの値が大き過ぎる場合である。成形体の表面粗さRaの値が大きいと、一般的には、成形体の表面(貼付面)が粗いと反射率を低く抑えることができる。しかしながら、比較例1では、成形体の表面(貼付面)が粗いため、被着体と成形体との間に気泡が入り込み易くなってしまった。なお、比較例1では、成形体を被着体側へ押圧して、気泡を除去しようとしたものの、成形体の表面が粗いため気泡が表面に留まり易く、気泡を取り除くことはできなかった。比較例1では、気泡の影響等により、反射率(%)(Y値)が8.4%となり、高い値となってしまった。
【0071】
比較例2の成形体は、成形体のFP硬度が高すぎる場合である。比較例2でも、被着体と成形体との間に気泡が入り込んでしまった。比較例2でも、比較例1と同様、気泡を除去しようとしたものの、成形体が十分な柔らかさを備えていないため、成形体と被着体との間の気泡を外部へ押し出すことができなかった。
【0072】
比較例3の成形体は、反射率(Ym値)が5.1%であり、「黒さ」が不十分な場合である。そのため、成形体と被着体との間に、気泡は形成されなかったものの、「黒さ」が不十分なため、被着体が貼り付けられた状態の反射率(%)(Y値)が6.8%と高い値となってしまった。
【0073】
〔PC製の被着体に使用する成形体の作製〕
(実施例8)
実施例1と同様、熱可塑性エラストマー、黒色物質、プロセスオイル、充填フィラー等の各成分を、所定の配合量で含む混合物を混練して混合組成物を作製した。得られた混合組成物を、実施例1と同様、ホットプレス成形して、実施例8のシート状の成形体を得た。
【0074】
なお、実施例8において混合組成物を作製する際の各成分の選択、及び各成分の配合量は、後述する成形体の「反射率(Ym値)」、「粘着力(対SUS)」、「FP硬度」、及び「表面粗さRa(μm)」が、表2に示される値となるように適宜、設定した。
【0075】
〔PCの屈折率d1とプロセスオイルの屈折率d2との関係〕
実施例8において、被着体であるPC(ポリカーボネート)の屈折率d1と、プロセスオイルの屈折率d2との差(d1-d2)が、0.115以下となるように、プロセスオイルを選定した。
【0076】
〔プロセスオイルの屈折率d2と熱可塑性エラストマーの屈折率d3との関係〕
実施例8において、プロセスオイルの屈折率d2と、熱可塑性エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマー)の屈折率d3との差(d2-d3)が、0.115以下となるように、プロセスオイル及び熱可塑性エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマー)を選定した。
【0077】
〔評価1:反射率(Y値)の測定〕
実施例8の成形体(試験サンプル)について、ポリカーボネート(PC)製の被着体(50mm×50mm×3mm)を貼り付け、その状態の被着体の表面(成形体が貼り付けられていない方の面)の反射率(%)(Y値)をJIS Z 8722:2009(色の測定方法-反射及び透過物体色)に準拠して測定した。結果は、表2に示した。
【0078】
〔評価2:気泡の有無〕
実施例8について、上記反射率(Y値)の測定時に、試験サンプルと被着体との間に気泡が形成されたか否かを目視で観察した。結果は、表2に示した。
【0079】
〔参考例〕
ガラス製の被着体に貼り付けて使用した上記実施例1の成形体を、ポリカーボネート製の被着体に貼り付けて、実施例8と同様の評価を行った。結果は、表2に示した。
【0080】
【0081】
実施例8は、ポリカーボネート製の被着体に貼り付けて使用される成形体(黒色エラストマー成形体)である。実施例8の成形体では、被着体に貼り付けた際に、成形体と被着体との間に空気層(気泡)は見られなかった。また、実施例8成形体は、被着体が貼り付けられた状態において、反射率(%)(Y値)が5.8%であり、成形体と密着する被着体の表面における光学作用(反射等)が抑制されていることが確かめられた。
【0082】
なお、参考例として評価を行った実施例1の成形体は、ガラス製の被着体の場合と同様、PC製の被着体でも、被着体と成形体との間に、気泡は見られなかった。ただし、実施例1の場合、被着体がPC製であると、被着体の屈折率d1と、軟化剤(プロセスオイル)の屈折率d2との差(d1-d2)が0.117となり、その差が大きいため、被着体が貼り付けられた状態の反射率(%)(Y値)が、6.8%となった。したがって、ポリカーボネート製の被着体の場合は、実施例1よりも、実施例8の方が好ましいと言える。なお、実施例1の成形体は、ガラス製の被着体に用いることが好ましいと言える。このように、被着体の屈折率d1と軟化剤(プロセスオイル)の屈折率d2との関係を考慮して、黒色エラストマー成形体を設計することが好ましい。
【符号の説明】
【0083】
10,10A…黒色エラストマー成形体、10a,10Aa…貼付面、20…光学部材(被着体)