(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】プラスミドの製造方法及びプラスミド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/52 20060101AFI20231020BHJP
C12N 15/76 20060101ALI20231020BHJP
C12N 15/75 20060101ALI20231020BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231020BHJP
C12N 9/00 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
C12N15/52 Z ZNA
C12N15/76 Z
C12N15/75 Z
C12N1/21
C12N9/00
(21)【出願番号】P 2023523494
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2022021313
(87)【国際公開番号】W WO2022250068
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2021087711
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【氏名又は名称】原田 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】リップス デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ベルクレイ ハイシュ
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0307855(US,A1)
【文献】特表2019-533470(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111248(WO,A1)
【文献】特開2007-135533(JP,A)
【文献】特開2011-217740(JP,A)
【文献】特開平02-273188(JP,A)
【文献】特開2018-011519(JP,A)
【文献】PATRICK, T.-C. et al.,Shuttle vectors containing a multiple cloning site and a lacZα gene for conjugal transfer of DNA fr,GENE,1991年,Vol. 102, No. 1,P. 99-104
【文献】YOKOI, T. et al.,Optimization of RK2-based gene introduction system for Bacillus subtilis,Journal of General and Applied Microbiology,2019年,Vol. 65, No. 5,P. 265-272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチモジュール型生合成酵素をコードする複数の遺伝子を含むプラスミドの製造方法であって、枯草菌を用いたDNAの集積方法により、前記複数の遺伝子を含む第一の遺伝子クラスターの調整と、枯草菌の複製起点、大腸菌の複製起点及び放線菌への接合開始配列を含む第二の遺伝子クラスターと前記第一の遺伝子クラスターとの連結と、を行うことを特徴とするプラスミドの製造方法。
【請求項2】
前記枯草菌を用いたDNAの集積方法がOGAB法である請求項1に記載のプラスミドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法で製造されたプラスミド。
【請求項4】
請求項1又は2の方法で製造されたプラスミドを有する放線菌。
【請求項5】
請求項1の方法で製造されたプラスミドを有する宿主細胞にマルチモジュール型生合成酵素を生産させるマルチモジュール型生合成酵素の製造方法。
【請求項6】
前記宿主細胞が放線菌である請求項5に記載のマルチモジュール型生合成酵素の製造方法。
【請求項7】
前記放線菌が大腸菌との接合伝達によりプラスミドを取得した放線菌である請求項6に記載のマルチモジュール型生合成酵素の製造方法。
【請求項8】
前記マルチモジュール型生合成酵素がI型ポリケチド合成酵素(PKS)である請求項5に記載のマルチモジュール型生合成酵素の製造方法。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか一項に記載の方法で製造されたマルチモジュール型生合成酵素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枯草菌のプラスミド形質転換系を利用したDNAの集積方法を用いたプラスミドの製造方法及びプラスミドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
放線菌や糸状菌などの微生物が生産する天然化合物は、多種多様な構造と生物活性を有する、有用物質として知られている。現在では生産菌ゲノムを解読することにより、生合成遺伝子クラスターの特定は容易となっている。また、人類が未利用の有用物質遺伝子クラスターが多数存在することも明らかになってきている。微生物二次代謝産物のうち、産業上重要なポリケチド系化合物およびペプチド系化合物を重点的に生合成遺伝子クラスターの研究が行われた。例えば、放線菌の生産する二次代謝産物の中で臨床応用されているerythromycin、FK-506(tacrolimus)、rapamycinおよびavermectinなどのマクロライド系化合物の生合成に用いられるマルチモジュール型生合成酵素の一種であるI型ポリケチド合成酵素(PolyKetideSynthase ; PKS)などを挙げることができる。
【0003】
例えば、伝統的な化学的方法によるポリケチド化合物等の生産の困難さ、および野生型細胞におけるポリケチドの通常の低生産を考えると、ポリケチド化合物を生産するための改良または代替手段を見つけることにかなりの関心が集まっている。これらの理由により、元の菌株から生合成に必要な遺伝子クラスターをその他の細胞に導入し、化合物の異種生産が試されている。
【0004】
また遺伝子クラスターの異種発現には例えばゲノムDNAサンプルから既存のクラスターをクローニングする方法、合成DNAフラグメントからのデノボアセンブリする方法などが知られている。一方で異種発現については、複数宿主間にわたり遺伝子(遺伝子クラスター含む)を発現させる必要があるため、宿主細胞を変えるたびに前宿主細胞により構築されたプラスミドを改変する必要があり、その問題を解決するためにシャトルベクターが知られている。
【0005】
しかしながら、構築を求められているプラスミドには、宿主細胞間での相性および合成方法による相性が存在するという問題があり、依然として遺伝子の異種発現においては、新規の方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2010/0291633号明細書
【文献】米国特許第7723077号明細書
【文献】特表2011-512140号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】PLoS One,2009年,4(5),e5553
【文献】化学と生物,2016年,Vol.54,No.10,pp.74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、遺伝子の異種発現における新規のプラスミドの製造方法及びプラスミドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、枯草菌のプラスミド形質転換系を利用したDNAの集積方法を用い、複数の遺伝子を含む第一の遺伝子クラスターの調整と、枯草菌の複製起点、大腸菌の複製起点及び放線菌への接合開始配列を含む第二の遺伝子クラスターと前記第一の遺伝子クラスターとが連結されたプラスミドを用いることにより、宿主細胞ごとにプラスミドを改変することが不要となることを見出した。本発明は、この新規な知見に基づくものである。
【0010】
本発明は、例えば、以下の発明を提供する。
[1]
マルチモジュール型生合成酵素をコードする複数の遺伝子を含むプラスミドの製造方法であって、枯草菌を用いたDNAの集積方法により、前記複数の遺伝子を含む第一の遺伝子クラスターの調整と、枯草菌の複製起点、大腸菌の複製起点及び放線菌への接合開始配列を含む第二の遺伝子クラスターと前記第一の遺伝子クラスターとの連結と、を行うことを特徴とするプラスミドの製造方法。
[2]
前記枯草菌を用いたDNAの集積方法がOGAB法である[1]に記載のプラスミドの製造方法。
[3]
[1]又は[2]の方法で製造されたプラスミド。
[4]
[1]又は[2]の方法で製造されたプラスミドを有する放線菌。
[5]
[1]又は[2]の方法で製造されたプラスミドを有する宿主細胞にマルチモジュール型生合成酵素を生産させるマルチモジュール型生合成酵素の製造方法。
[6]
前記宿主細胞が放線菌である[5]に記載のマルチモジュール型生合成酵素の製造方法。
[7]
前記放線菌が大腸菌との接合伝達によりプラスミドを取得した放線菌である[6]に記載のマルチモジュール型生合成酵素の製造方法。
[8]
前記マルチモジュール型生合成酵素がI型ポリケチド合成酵素(PKS)である[5]~[7]に記載のマルチモジュール型生合成酵素の製造方法。
[9]
[5]~[8]の方法で製造されたマルチモジュール型生合成酵素。
[10]
少なくとも以下の全てを含むプラスミド。
(a)枯草菌の複製起点
(b)大腸菌の複製起点
[11]
配列番号2に記載のPKSをコードするDNA配列と80%以上の相同性を有するPKSをコードするDNA.。
[12]
配列番号23に記載のプラスミドに関するDNA配列と80%以上の相同性を有するプラスミド。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプラスミドの製造方法は、マルチモジュール型生合成酵素をコードする複数の遺伝子を含む第一の遺伝子クラスターと、枯草菌の複製起点、大腸菌の複製起点及び放線菌への接合開始配列を含む第二の遺伝子クラスターとが連結されたプラスミドを用いることにより異種発現宿主細胞で発現を行うために宿主細胞ごとにプラスミドの改変を行うことが不要になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1はプラスミドマップを示した説明図である。
【
図2】
図2はプラスミド製造方法及び異種発現宿主細胞における遺伝子の発現のフローを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
〔マルチモジュール型生合成酵素〕
本明細書において、マルチモジュール型生合成酵素としては、I型ポリケチド合成酵素(PolyKetideSynthase ; PKS)と非リボソームペプチド合成酵素などが挙げられる。
【0015】
本発明のプラスミドに含まれるPKS又は非リボソームペプチド合成酵素をコードするDNAは、天然型であってもよく、コドンユーセージを改変したものであってもよく、1個又は2個以上のアミノ酸を改変したものであってもよい。1つの好ましい実施形態において、Streptomyces PKSでは、3つのオープンリーディングフレーム(ORF1、ORF2、ORF3)の生成物を含む。PKSはケト合成酵素(KS)ドメイン、アシル転移酵素(AT)ドメイン、アシルキャリアープロテイン(ACP)の3種のドメインを含み、これら3つのドメインによりポリケチド鎖を伸長することができる。PKSはさらに、ケト還元酵素(KR)ドメイン、脱水酵素(DH)ドメイン、エノイル還元酵素(ER)ドメインなどの主鎖の修飾に関わるドメインを有していてもよい。PKSによって調製される化合物としては、6-デオキシエリスロノリドB(6-dEB)、フレノリシン、グラナチシン、テトラセノマイシン、6-メチルサリチル酸、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、エリスロマイシン、グリセウシン、ナナオマイシン、メデルマイシン、ダウノルビシン、チロシン、カルボマイシン、スピラマイシン、アベルメクチン、モネンシン、ノナクチン、クラマイシン、リポマイシン、リファマイシン、カンジシジンが挙げられる。
【0016】
(PKS)
I型ポリケチド合成酵素(PolyKetideSynthase ; PKS) のことであり、特に限定されないが、例えば、配列番号2で示されるDNA配列がコードするPKSが挙げられ、配列番号2と相同性が、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上であるものでも良い。
【0017】
非リボソームペプチドは、特に限定されないが、例えば、単純アミノ酸モノマーから構成される複雑な天然産物のファミリーに属するペプチドのクラスを意味する。これは非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)と呼ばれる大型多機能タンパク質によって、多くの細菌または真菌において合成される。NRPS系の特徴は、タンパク新生および非タンパク新生アミノ酸を含むペプチドを合成できることである。
【0018】
非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)は、特に限定されないが、例えば、モジュールと呼ばれる活性部位の協調的なグループに組織される、大型多機能タンパク質を意味し、ここで各モジュールは、ペプチド伸長および官能基の修飾の1サイクルを触媒するために必要である。モジュールの数および順序、並びに各NRPS上のモジュール内に存在するドメインのタイプは、取り込まれるアミノ酸の数、順序、選択、そして特定のタイプの伸長に関連した修飾を指示することによって、得られるペプチド産物の構造バリエーションを決定する。
【0019】
プラスミドは、所望のマルチモジュール型生合成酵素であるPKSなどをコードするDNAに作動可能に連結された制御配列を含む。本発明に使用するための適切な発現系は、真核生物宿主細胞および原核生物宿主細胞において機能する系を含む。しかし、上記で説明したように、原核生物系が好適であり、そして特に、Streptomyces属細菌と適合する系が特に重要である。そのような系で使用するための制御配列は、プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、エンハンサーなどを含む。有用なプロモーターは、Streptomyces属の宿主細胞で機能するものであり、例えばpGapdh、pErmE、pKasOなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0020】
選択マーカーもまた、プラスミド中に含まれ得る。形質転換細胞株の選択において有用であり、そして一般に、細胞が適切な選択培地中で成長するとき、その発現が形質転換細胞上の選択可能な表現型を与える遺伝子を含む種々のマーカーが公知である。そのようなマーカーは、例えば、プラスミドに抗生物質の耐性または感受性を付与する遺伝子を含む。あるいは、いくつかのポリケチドは、本来着色されており、この特徴は、本発明の構築物により首尾良く形質転換された細胞を選択するための生来の(built-in)マーカーを提供する。
【0021】
本発明のプラスミドを適切な宿主中に導入する方法は、当業者に公知であり、そして代表的には、CaCl2または2価のカチオンおよびDMSOのようなその他の薬剤の使用を包含する。DNAはまた、エレクトロポレーションにより細菌細胞中に導入され得る。一旦マルチモジュール型生合成酵素であるPKSが発現されると、ポリケチド産生コロニーが同定され得、そして公知の技術を用いて単離され得る。本発明のプラスミドは細菌間の接合伝達を使用して宿主細胞に導入してもよい。本発明の好ましい1つの実施形態において、PKSをコードする塩基領域を大腸菌のプラスミドに移し、接合(conjugation)により大腸菌から放線菌に転送することで実施する。PKSをコードするDNAは、これにより放線菌のような宿主細胞のゲノムに組み込まれる。宿主細胞が放線菌である場合、Streptomyces属が好ましい。
【0022】
本発明のマルチモジュール型生合成酵素をコードする複数の遺伝子を含むプラスミドは、マルチモジュール型生合成酵素に含まれるドメインをコードするDNAを含み、その種類や大きさは特に限定されない。マルチモジュール型生合成酵素に含まれるドメインをコードするDNAの種類は、微生物などの天然由来配列のみならず、人工設計配列などいずれでもよく、特に制限されない。好ましくは、PKS又はNRPSを構成する遺伝子クラスターが挙げられる。天然由来のDNA配列は、所定の由来生物内には、対応するアミノ酸を発現するために生物によって主に一つのコドンが使用されるが、異種発現させる場合は、宿主のコドン使用頻度に合わせる必要がある。異種発現の結果に影響を与える可能性のあるその他の要因は、GC含有量(配列内のベースグアニンおよびシトシン含有量)、繰り返し配列等を挙げることができる。繰り返し配列は遺伝的安定性を低下させ、誤ったハイブリダイゼーションのリスクが生じ、反復セグメントの合成を阻害する。したがって、合成遺伝子はコドン使用量とGC含量に関連して最適化する必要がある。ただし、これらの要件は通常、同時に最適に満たすことは困難である。例えば、コドンを最適化した結果、非常に反復的なDNA配列、又は高いGC含量につながる可能性がある。本発明において、GC含量は30~70%である。好ましく70%以下、68%以下、65%以下、60%以下である。本発明を用いることによって、GC含量が50%以上、52%以上、55%以上、58%以上、60%以上であっても、高い効率で目的プラスミドを合成することができる。好ましくは20 bp以上の塩基配列の繰り返しが現れないように、コドンを最適化する。遺伝子内のGC含量の極端な違いを避けることが好ましい。例えば、最高と最低の50bpストレッチ間のGC含量の差は52%以下であることが好ましい。ホモポリマーをできるだけ少なくすることが好ましい。DNA配列に散らばっている小さな繰り返しの数/長さを可能な限り最小化することが好ましい。
【0023】
〔枯草菌を用いたDNAの集積方法〕
本明細書において枯草菌を用いたDNAの集積方法とは、枯草菌を用いたDNAの集積方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、特開2004-129654号公報、特開2005-253462号公報、特開2007-135533号公報などに記載されているものが挙げれる。
【0024】
(OGAB法)
本明細書においてOGAB法(Ordered Gene Assembly in Bacillus subtilis法)とは、枯草菌のプラスミド形質転換系を利用した多重DNA断片集積法である。具体的には、集積対象のDNA断片および集積プラスミドベクターを3~4塩基の特異的な突出を持つ様に準備し、この相補性を利用して連結するDNA断片の順序と向きを指定して連結する方法である。
【0025】
また例えば、特開2004-129654号公報に記載されている方法などが挙げられ、Bacillus属細菌等の微生物のDNA取り込み能力と相同組換え能力を用いることにより複数のDNA断片が一定の順序と向きを保って連結集積していて、かつ微生物中で増幅可能なプラスミドDNAを簡便に取得する方法、並びに、複数のDNA断片が一定の順序と向きを保って連結集積したDNA配列をゲノムDNA中に含む微生物を取得する方法である。
DNAの制限酵素SfiIの消化により発生する3塩基の突出末端が任意の配列に指定できることを利用して、集積すべき構成要素のDNA断片と枯草菌菌体内で有効な複製機構を有する線状プラスミドベクター断片の各末端を、各断片が1つのDNA集積単位中で一回ずつ順序良く連結できるような末端を生成することによりSfiI切断部位を設計して調製し、これらのSfiIの断片を等モルとなるように濃度を合わせて混合した後、ポリエチレングリコールと塩存在下でライゲーション反応を行うことにより、このDNA連結単位が多重に繰り返した構造の直鎖の高分子DNAを生成させ、これを枯草菌コンピテント細胞に形質転換することで、枯草菌プラスミド中に望ましい順番と方向にDNAを連結することが可能である。また、該プラスミド中の配列と共通の配列をゲノムDNA中に挿入した枯草菌コンピテント細胞と上記で取得したDNA連結単位が多重に繰り返した構造の直鎖の高分子DNAとを共培養することにより、枯草菌ゲノムDNA中に望ましい順番と方向にDNAを連結することが可能である。
【0026】
(combi-OGAB法)
combi-OGAB法とは、国際公開番号WO2020/203496号公報に記載の方法であり、枯草菌のプラスミド形質転換系を利用した遺伝子集積法(OGAB法)において、コンビナトリアルライブラリーの集積に用いる全てのDNA断片のモル濃度の比率が可能な限り1に近づくようにする方法である。具体的には、コンビナトリアル化の対象となる選択肢遺伝子断片を一通り連結した種プラスミドを構築する。そして、別の選択肢遺伝子断片についても、別途種プラスミドを構築することで、選択肢の最大数に等しい数の種プラスミドを準備する。各種プラスミドを制限酵素で切断することで、一旦遺伝子断片が等モルに混合された溶液を得る。この溶液は、他の種プラスミドと混合しても等モル性が維持される。その後、これらの溶液が含む各種遺伝子断片を直線状に連結することにより、プラスミドベクター部分が周期的に出現する疑似タンデムリピート状態の高分子DNAを得て、これを用いて枯草菌を形質転換する。枯草菌体内でプラスミドベクター部分の相同性を利用して環状化することによりコンビナトリアルライブラリーを効率よく構築する。
この方法によると、コンビナトリアルライブラリーの構築に必要な等モル濃度の遺伝子断片を極めて簡便にかつ確実に準備でき、ライブラリーの構築規模を従来になく大規模にできるという特徴がある。
【0027】
〔第一の遺伝子クラスター〕
本発明の第一の遺伝子クラスターは、マルチモジュール型生合成酵素をコードする複数の遺伝子を含む遺伝子クラスターである。
【0028】
〔第二の遺伝子クラスター〕
本発明の第二の遺伝子クラスターは、枯草菌の複製起点、大腸菌の複製起点及び放線菌への接合開始配列を含む遺伝子クラスターである。
【0029】
〔枯草菌の複製起点〕
本発明の枯草菌の複製起点はその機能を発揮できるものであれば良く、特に限定されない。
【0030】
〔大腸菌の複製起点〕
本発明の大腸菌の複製起点はその機能を発揮できるものであれば良く、特に限定されないが、例えば、RepAなどが挙げられる。
【0031】
〔放線菌への接合(conjugation)開始配列〕
本発明の放線菌への接合開始配列はその機能を発揮できるものであれば良く、特に限定されない。
【0032】
〔プラスミド〕
本発明のプラスミドは、枯草菌の複製起点、大腸菌の複製起点及び放線菌への接合開始配列を含み、大腸菌でのシングルコピーメンテナンスのための原核生物のF因子分配システム、定義された場所でレシピエント宿主のゲノムにベクターを組み込むことを可能にする部位特異的組換えシステム、枯草菌、大腸菌、および放線菌発現宿主で機能する1つまたは複数の選択マーカーなどを含んでいても良い。
【0033】
枯草菌の複製起点としては特に限定されないが、例えば、配列番号3で示されるものが挙げられ、配列番号3と相同性が、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上であるものでも良い。
【0034】
大腸菌の複製起点としては特に限定されないが、例えば大腸菌の複製起点については配列番号4で示されるものが挙げられ、配列番号4と相同性が、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上であるものでも良い。放線菌への接合開始配列としては特に限定されないが、配列番号6で示されるものが挙げられ、配列番号6と相同性が、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上であるものでも良い。
【0035】
大腸菌でのシングルコピーメンテナンスのための原核生物のF因子分配システムとしては特に限定されないが、例えば配列番号5で示されるものが挙げられ、配列番号5と相同性が、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上であるものでも良い。
【0036】
定義された場所でレシピエント宿主のゲノムにベクターを組み込むことを可能にする部位特異的組換えシステムとしては特に限定されないが、例えば配列番号7で示されるものが挙げられ、配列番号7と相同性が、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上であるものでも良い。
【0037】
枯草菌、大腸菌、および放線菌発現宿主で機能する1つまたは複数の選択マーカーとしては特に限定されないが、例えば配列番号8で示されるものが挙げられ、配列番号8と相同性が、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上であるものでも良い。
【0038】
1つの実施形態においてOGABベクター1.0(配列番号22)、OGABベクター2.0(配列番号23)、OGABベクター2.1(配列番号24)、OGABベクター2.2(配列番号25)が挙げられ、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25と相同性が、80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、99%以上であるものでも良い。
【0039】
〔マルチモジュール型生合成酵素の製造方法〕
本発明のマルチモジュール型生合成酵素の製造方法は、マルチモジュール型生合成酵素をコードする複数の遺伝子を含むプラスミドの製造方法であって、枯草菌を用いたDNAの集積方法により、前記複数の遺伝子を含む第一の遺伝子クラスターの調整と、枯草菌の複製起点、大腸菌の複製起点及び放線菌への接合開始配列を含む第二の遺伝子クラスターと前記第一の遺伝子クラスターとの連結と、を行うことを特徴とするプラスミドの製造方法により製造されたプラスミドを用いることができる。
また、前記枯草菌を用いたDNAの集積方法が、OGAB法によるもので製造されたプラスミドを用いることができる。
【0040】
マルチモジュール型生合成酵素は、プラスミドを用いて宿主細胞に生産させる公知の方法で行うことができ、1つの実施形態において、プラスミドを宿主細胞に導入した形質転換体を培養し、その培養物からマルチモジュール型生合成酵素を得ることができる。「培養物」としては、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれかを意味するものである。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0041】
本発明の形質転換体を培養する培地は、宿主が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、スクロース、ラフィノース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物が挙げられる。その他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸等を用いてもよい。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0042】
培養は、通常、振とう培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、28~38℃で行う。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。
【0043】
上記培養条件で培養すると、高収率でマルチモジュール型生合成酵素を生産することができる。
【0044】
培養後、マルチモジュール型生合成酵素が菌体内又は細胞内に生産される場合には、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することにより、当該発現産物を採取することができる。一方、ポリケチドが菌体外又は細胞外に輸送される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、硫安沈澱による抽出等により前記培養物中から当該発現産物を採取し、必要に応じてさらに各種クロマトグラフィー等を用いて単離精製する。
【0045】
マルチモジュール型生合成酵素を生産させる宿主細胞については、特に限定されないが、放線菌を用いることが好ましい。マルチモジュール型生合成酵素がPKSである場合、宿主細胞は放線菌を用いることが好ましく、Streptomyces属であることがより好ましい。Streptomyces属の宿主細胞を用いる最大のメリットは、大腸菌を用いた異種発現生産と比較して、生産力価が高いこと、さらにI型PKSの活性発現に必須な翻訳後修飾系が存在することが挙げられる。具体的には、S. albus、S.ambofaciens、S.avermitilis、S.azureus、S.cinnamonensis、S.coelicolor、S.curacoi、S.erythraeus、S.fradiae、S.galilaeus、S.glaucescens、S.hygroscopicus、S.lividans、S.parvulus、S.peucetius、S.rimosus、S.roseofulvus、S.thermotolerans、S.violaceoruberなどが挙げられ、S. albusが好ましい。
【0046】
マルチモジュール型生合成酵素をコードする複数の遺伝子を含むプラスミドの放線菌への導入方法は、公知の方法で行うことができ、特に限定されないが、大腸菌から接合(conjugation)により放線菌に導入する方法などが挙げられる。
【0047】
マルチモジュール型生合成酵素をコードする複数の遺伝子を含むプラスミドが更に枯草菌の複製起点、大腸菌の複製起点及び放線菌への接合開始配列を含むプラスミドである場合、マルチモジュール型生合成酵素を生産させる宿主細胞を放線菌とすることで、枯草菌を用いたDNAの集積方法により調整したプラスミドを大腸菌及び放線菌に適した構造に改変することなくマルチモジュール型生合成酵素を生産させることができる利点があり、マルチモジュール型生合成酵素の生産に要する工程を削減することができる。また、形質転換を行う宿主細胞ごとにプラスミドの改変を行う必要が無く、プラスミドの増幅を行う際に生じる挿入、欠失などの変異リスクを低減することができる。生産されたマルチモジュール型生合成酵素は、様々な分野において有用に利用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【実施例1】
【0049】
<枯草菌を用いたDNAの集積>
【0050】
MiBig Repository of Known Biosynthetic Gene Clusters( https://mibig.secondarymetabolites.org/repository/BGC0001003/index.html#r1c1)からKitasatospora aureofaciensに関する一部のDNA配列情報を取得して、コドンの最適化などの再設計を行い、外注(Twist Bioscience)により、標的PKSクラスター構築物のすべてのDNAフラグメント(配列番号9~21)で合成し、大腸菌で増幅し、再抽出した。
コドン最適化前のGC含量(%):
LipPKS1: 74.2%
LipPKS2: 72.3%
LipPKS3: 71.3%
LipPKS4: 71.3%
LipNRPS: 75.2%
LipMT: 71.1%
LipTE: 74.5%
コドン最適化後のGC含量(%):
LipPKS1: 63.7%
LipPKS2: 63.7%
LipPKS3: 63.9%
LipPKS4: 63.9%
LipNRPS: 65.3%
LipMT: 59.6%
LipTE: 65.6%
【0051】
すべてのDNAフラグメント(配列番号9~21)の濃度をUV分光光度計(Thermofisher Nanodrop)で測定し、等モルのフラグメント混合物を生成するように調整した。
【0052】
DNAフラグメントを50μlとDNase(Lucigen Corporation(Plasmid-Safe))を2μlと15mM ATPを2.4μlと10×Bufferを6μlと混合処理し、各DNAフラグメントの濃度は、100 ng /μlとなるように調整した。
【0053】
500 ngの各DNAフラグメントをチューブにまとめ、全反応量の5%のBsmbI-HFv2(NEB)で混合処理した。
【0054】
処理されたDNAフラグメントを精製するために、フェノールクロロホルム処理、ブタノール処理、エタノール沈殿を行った。
【0055】
透析チューブを用いたゲル抽出を行い、処理されたプラスミド混合物から標的断片を除去し、処理された標的断片をエタノール沈殿により沈殿し、精製した。
【0056】
標的PKSクラスターをコードするDNAフラグメントのタンデムリピートを含むDNAコンストラクトを取得するために、処理されたDNAフラグメントをOGABベクター2.0(配列番号23)、1μlのT4 DNAリガーゼ(TAKARA BIO)、及びライゲーションバッファーと混合し、37°Cで3時間インキュベートしてライゲーションを完了させた。
【0057】
DNAコンストラクトを含むDNAライゲーション溶液を枯草菌コンピテント細胞と混合し、細胞を37°Cで90分間、混合した。インキュベーション期間後、テトラサイクリン選択プレート上に植菌した。
【0058】
コロニー増殖の時間経過後、形質転換体をプレートから拾い上げ、2mlのLB培地中、37℃で一晩培養した。
【0059】
公知の手順に従ってプラスミド抽出を行い、得られたDNAが期待通りにアセンブルされているか確認した。
【実施例2】
【0060】
<大腸菌から放線菌へのプラスミドの導入>
【0061】
ターゲットPKSクラスターを含む正常に組み立てられたOGABシャトルベクターコンストラクトを大腸菌ET12567 / pUZ8002のコンピテントセルに形質転換し、アプラマイシンを含むプレート上で培養し、選択した。
【0062】
形質転換体を選択し、クロラムフェニコール、カナマイシン、およびアプラマイシンを含む10 mlのLB培地で一晩培養した。
【0063】
培養物を新鮮なLB培地および抗生物質(クロラムフェニコール、カナマイシン、およびアプラマイシン)で1:100に希釈し、OD600が0.4〜0.6になるまで培養した。
【0064】
大腸菌細胞を等量のLB培地で2回洗浄して、放線菌を阻害する可能性のある抗生物質をすべて除去し、0.1容量のLB培地に再懸濁した。
【0065】
S. albus J1074胞子のプレートを個別に調製し、水で抽出して放線菌の胞子溶液を作成しました。 500μLのYT培地を500μlのこの胞子溶液に加えた。 得られた胞子溶液混合物を50℃で10分間熱ショックを与え、放冷した。
【0066】
500uLの大腸菌細胞を500uLの熱ショックを受けた胞子溶液に加えた。 得られた混合物を遠心分離機で11,000rpmで1分間遠心分離した。 上澄みを100μl程度残し、その残液でペレットを残留液体に再懸濁した。
【0067】
得られた混合物をMS寒天プレート+ 10mM MgClにプレーティングし、30℃で16〜20時間インキュベートした。
【0068】
インキュベーション後、プレートを0.5ナラジキシン酸と1mgアプラマイシンを含む1mlの水で覆い、さらにインキュベーションを30℃で約4日間続けた。
【0069】
潜在的な接合体は、ナリジクス酸を含む選択培地に確認された。
【配列表】