IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】エルロチニブを有効成分とする医薬錠剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/517 20060101AFI20231020BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231020BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231020BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231020BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20231020BHJP
【FI】
A61K31/517
A61K9/20
A61P35/00
A61K47/38
A61K47/58
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019202202
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2020075923
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2018211104
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇則
(72)【発明者】
【氏名】岩井 隆暁
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/086441(WO,A1)
【文献】特開2018-145095(JP,A)
【文献】特開昭62-000009(JP,A)
【文献】特表2009-530367(JP,A)
【文献】特表2013-523804(JP,A)
【文献】薬剤学,2004年,64(3),第172~173頁
【文献】薬剤学,2003年,63(4),第238~248頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルロチニブ塩酸塩、並びにカルボキシメチルセルロース、結晶セルロースを含有し、
カルボキシメチルセルロースが1質量部に対し、結晶セルロースが1質量部以上5質量部以下の含有比率であり、
pH5.5以上で溶解性を有する(メタ)アクリル酸共重合体を含有する、
医薬錠剤。
【請求項2】
カルボキシメチルセルロースを医薬錠剤全量に対して5~20質量%で含有する請求項1に記載の医薬錠剤。
【請求項3】
錠剤1錠あたりエルロチニブとして50mg以上200mg以下で含有する請求項1または2に記載の医薬錠剤。
【請求項4】
エルロチニブ塩酸塩がA型結晶多形である請求項1~3の何れか一項に記載の医薬錠剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、エルロチニブ塩酸塩を有効成分として含有する医薬錠剤であって、優れた溶出性を有する医薬錠剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
エルロチニブは、上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor:EGFR)を標的とした選択的チロシンキナーゼ阻害剤であり、EGFR細胞内チロシンキナーゼ領域のATP結合部位においてATPと競合的に拮抗することにより、癌細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導に基づいて抗腫瘍効果を示すと考えられているキナゾリン誘導体である。医薬品としてはエルロチニブ塩酸塩として用いられ、切除不能な再発・進行性で、がん化学療法施行後に増悪した非小細胞肺癌、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な再発・進行性で、がん化学療法未治療の非小細胞肺癌、治癒切除不能な膵癌の治療剤として承認されており、タルセバ(登録商標)の商品名で癌治療に提供されている。
【0003】
エルロチニブ塩酸塩は、化学名がN-(3-エチニルフェニル)-6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)キナゾリン-4-アミン 塩酸塩であり、下記一般式(1)の化学構造を有する。
【化1】
【0004】
エルロチニブ塩酸塩は難水溶性の白色~微黄色の、主として結晶体で得られる固体であり、複数の結晶多型が知られている。例えば、特許文献1には、粉末X線結晶回折(XRD)にて、2θ(°)が略5.58、9.84、11.25、18.86、22.70、23.50、24.18、24.59、25.40及び29.24のピークで特徴付けられるエルロチニブ塩酸塩のA型多形が開示されている。併せてXRDにて2θ(°)が略6.26、12.48、13.39、16.96、20.20、21.10、22.98、24.46、25.14及び26.91のピークで特徴付けられるB型多形も記載している。
また特許文献2には、XRDにて2θ(°)が5.7、9.7、10.1、11.3、17.0、17.4、18.9、19.6、21.3、22.8、23.6、24.2、24.7、25.4、26.2、26.7及び29.3のピークで特徴付けられるエルロチニブ塩酸塩E型多形を開示している。
なお、特許文献2によると、B型多形は熱力学的に安定な形態であり、A型多形は溶解度及び溶解速度に優れる形態であることが記載され、E型多形はA型多形より熱力学的安定性に優れるとともに、B型多形より溶解性に優れる物性であることが記載されている。
【0005】
エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬製剤としては、主として錠剤が報告されている。特許文献2は微結晶セルロース、乳糖水和物、ポビドンK30、デンプングリコール酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを添加剤として用いたエルロチニブ塩酸塩を有効成分とするフィルムコーティング錠剤を記載している。なお、タルセバ(登録商標)錠は、その添付文書によると、乳糖水和物、結晶セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ヒプロメロース、ヒロドキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール400及び酸化チタンを含有するフィルムコーティング錠であることが知られている。
【0006】
エルロチニブ塩酸塩は難溶性薬物であり、経口摂取した場合のバイオアベイラビリティを向上させるためには、水に対する溶解特性に優れたA型結晶多形を有効成分として選択して医薬錠剤を調製することが望ましい。
エルロチニブ塩酸塩のA型結晶多形を含む医薬錠剤について、特許が報告されている。例えば、特許文献3は、崩壊剤としてクロスポビドンを用いたエルロチニブ塩酸塩A型結晶多形を有効成分とする錠剤が記載されている。特許文献4には、エルロチニブ塩酸塩のA型結晶多形を有効成分として、結晶セルロースを用いた錠剤が、酸性媒体において速い溶出性を示すことを開示している。また、特許文献5には、エルロチニブ塩酸塩のA型結晶多形とカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む混合物を湿式造粒した錠剤が、酸性媒体による溶出性において、エルロチニブ塩酸塩の上市製剤であるタルセバ(登録商標)錠と類似の溶出性を示すことを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2003-523949号公報
【文献】特表2006-521288号公報
【文献】インド国特許出願3278/CHE/2012号
【文献】国際公開2010/086441号
【文献】国際公開2016/082879号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
医薬錠剤において有効成分の溶出性を向上させることは、有効成分の吸収を速めて効果を十分に発揮するために重要なことである。従来のエルロチニブ塩酸塩の錠剤は崩壊剤としてデンプングリコール酸ナトリウムやクロスポビドンといった強い崩壊性を有する、いわゆるスーパー崩壊剤を用いた処方である。しかしながら、これらの崩壊剤を用いた場合、有効成分の結晶多形や製剤用添加剤の種類、添加量を変更すると、著しく溶出性が低下することが見出された。したがって、これらの処方変更においても、溶出性が高められる崩壊剤が求められている。
すなわち、エルロチニブ塩酸塩の有効性を充分に発揮させるために、優れた溶出性を示す医薬錠剤を提供することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために検討を行なった結果、エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤において、崩壊剤としてカルボキシメチルセルロース及び/又はそのカルシウム塩を用いることにより極めて優れた溶出性をもたらすことを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本願は以下の[1]乃至[7]の発明を要旨とする。
[1] エルロチニブ塩酸塩、並びにカルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを含有する医薬錠剤。
本願発明によりカルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを崩壊剤として用いることで、デンプングリコール酸ナトリウムを用いた錠剤よりも高い溶出性を有する医薬錠剤を提供することができ、薬剤の速やかな溶解と吸収をもたらし、確実な薬効発揮に寄与し得る。
[2] カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを医薬錠剤全量に対して5~20質量%で含有する前記[1]に記載の医薬錠剤。
[3] 結晶セルロースを含有する前記[1]又は[2]に記載の医薬錠剤。
当該医薬錠剤において結晶セルロースを組み合わせて用いることで、崩壊性と結合性を調節することができる。
[4] 錠剤1錠あたりエルロチニブとして50mg以上200mg以下で含有する前記[1]~[3]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
当該医薬錠剤は、エルロチニブ塩酸塩の高含量錠剤において好適である。
[5] pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含有する前記[1]~[4]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
[6] pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーが(メタ)アクリル酸共重合体である前記[5]に記載の医薬錠剤。
当該医薬錠剤において、更にpH5.5以上で溶解性を示す、いわゆる腸溶性ポリマーを用いることで、低pH領域での溶出性の制御を可能とする。
[7] エルロチニブ塩酸塩がA型結晶多形である前記[1]~[6]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤において、カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを崩壊剤として適用することで、高い溶出性を有する医薬錠剤を提供することができ、確実な薬効発揮に寄与し得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の有効成分は、エルロチニブ塩酸塩である。エルロチニブは、化学名がN-(3-エチニルフェニル)-6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)キナゾリン-4-アミンであり、特許第3088018号において開示されている。エルロチニブは弱塩基性化合物であり、適当な酸類との塩を形成することが知られているが、本発明ではエルロチニブ塩酸塩を用いる。
エルロチニブ塩酸塩には、複数の結晶多形が存在する。代表的なものとして、A型結晶多形及びB型結晶多形が挙げられ、特表2003-523949号公報において開示されている。A型結晶多形は、粉末X線結晶回折(XRD)にて、2θ(°)が略5.6、9.8、11.3、18.9、22.7、23.5、24.2、24.6、25.4及び29.2にピークで特徴付けられる。また、融点(示差走査熱量測定;DSC)が205~208℃で特徴付けられるエルロチニブ塩酸塩結晶多形である。また、B型結晶多形は、XRDにて2θ(°)が略6.3、12.5、13.4、17.0、20.2、21.1、23.0、24.5、25.1及び26.9のピークで特徴付けられる。また、DSCが227~231℃で特徴付けられるエルロチニブ塩酸塩結晶多形である。
本発明において、有効成分であるエルロチニブ塩酸塩は医薬品原薬として用いられる品質であれば特に問題なく用いることができる。また結晶多形においても特に限定されることなく適用することができる。好ましくは、溶解特性に優れたA型結晶多形が適用される。
【0012】
本発明の医薬錠剤において、有効成分であるエルロチニブ塩酸塩の含有量は、10質量%以上70質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは該医薬錠剤中において20質量%以上50質量%以下で用いる。
また本発明の医薬錠剤において、エルロチニブ塩酸塩はエルロチニブ(遊離塩基)として50mg以上200mg以下で含有する製剤であることが好ましい。すなわち、既存のエルロチニブ製剤であるタルセバ(登録商標)錠は、25mg錠、100mg錠、150mg錠の3つの製剤規格が存在するが、100mg錠及び150mg錠を包含する高用量錠に適用することが好ましい。
【0013】
本発明の医薬錠剤は、カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを含有することを特徴とする。すなわち、カルボキシメチルセルロース及び/又はそのカルシウム塩を崩壊剤として含有する医薬錠剤である。
カルボキシメチルセルロースはカルメロースとも称され、医薬品添加物として使用し得る品質であれば特に制限されることなく適用することができる。本発明は、カルボキシメチルセルロース、又はそのカルシウム塩の単独使用、若しくはこれらの組み合せ使用であっても良い。好ましくは、カルボキシメチルセルロースを使用する態様である。
【0014】
カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムは、医薬錠剤全量に対して5質量%以上20質量%以下で含有することでエルロチニブ塩酸塩の溶出性を促進させ得る適切な崩壊性を付与することができる。好ましくは、7質量%以上15質量%以下の含有量で適応される。
【0015】
本発明において、カルボキシメチルセルロース又はそのカルシウム塩以外に、有効成分の溶出性を調整する目的で他の崩壊剤を併用しても良い。他の崩壊剤としては、医薬錠剤を調製するために通常用いられる添加剤において錠剤の崩壊性機能を付与できる添加剤であれば適宜使用することができる。例えば、「医薬品添加物事典 日本医薬品添加剤協会 編集」(薬事日報社)や、「医薬品添加物ハンドブック 日本薬学会 訳編」(丸善株式会社)に記載される添加剤であって、崩壊剤として使用され得る添加剤を挙げることができる。
本発明で用いられる好ましい崩壊剤としては、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム等が挙げられる。本願発明において、崩壊剤としてクロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等の強力な崩壊剤を含まない方が好ましい。
他の崩壊剤を併用で用いる場合は、カルボキシメチルセルロース及び/又はそのカルシウム塩と併せて、医薬錠剤全量に対して7質量%以上20質量%以下となるように添加量を調整して用いることが好ましい。
【0016】
本発明は、医薬錠剤中に結晶セルロースを含有する態様が好ましい。この結晶セルロースは錠剤組成物において主として結合剤として機能し、当該医薬錠剤の成型性向上作用と崩壊性の調整機能をもたらすことができることから、適用することが好ましい。
結晶セルロースは、医薬錠剤の含有率として5質量%以上40質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に10質量%以上30質量%以下で用いること。
【0017】
本発明において、結晶セルロースは、崩壊剤であるカルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを組み合せて用いることで有効成分の溶出性を調整することができる。この目的のために、カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムが1質量部に対し、結晶セルロースを1質量部以上5質量部以下の含量比率で適用することが好ましい。より好ましくは結晶セルロースを1.5質量部以上2.5質量部以下で用いる。
【0018】
本発明において、結晶セルロース以外に他の結合剤を用いても良い。他の結合剤としては、医薬錠剤を調製するために通常用いられる添加剤において錠剤の結合性機能を付与できる添加剤であれば適宜使用することができる。例えば、「医薬品添加物事典 日本医薬品添加剤協会 編集」(薬事日報社)や、「医薬品添加物ハンドブック 日本薬学会 訳編」(丸善株式会社)に記載される添加剤であって、結合剤として使用され得る添加剤を挙げることができる。
本発明で用いられる好ましい他の結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。より好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
前記他の結合剤を用いる場合は、その使用量は、前記結晶セルロースと併せた含有量として、当該医薬錠剤において8質量%以上60質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に10質量%以上40質量%以下で用いる。
【0019】
本発明は、医薬錠剤中にpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含有する態様が好ましい。この腸溶性ポリマーは、錠剤組成物においてpH応答性の結合剤として機能し、当該医薬錠剤の崩壊性の調整機能をもたらすことができることから好ましい。腸溶性ポリマーを適用することで、pH1~5の酸性領域での溶出性を抑制傾向に制御することができ、至適溶出速度に調整することができる。溶出性を調整するために該腸溶性ポリマーを用いる場合において、崩壊剤として従来用いられているデンプングリコール酸ナトリウムを用いた製剤の場合、腸溶性ポリマーの添加により著しい溶出性の低下が現れることがある。一方、崩壊剤としてカルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを用いた場合は、腸溶性ポリマーによる溶出性調整効果の用量依存性が緩やかであり、適宜、所望の溶出性を奏する錠剤を調製することができる。
pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーとは、分子構造中にカルボキシ基を有する高分子誘導体であり、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸の共重合体等の(メタ)アクリル酸共重合体、カルボキシメチルエチルセルロース等のカルボキシメチルセルロース誘導体、ヒプロメロース酢酸コハク酸エステル等のヒプロメロース誘導体、等が挙げられる。これらは分子鎖中に遊離カルボキシ基(-COOH)を具備し、pH5.5以上で水溶性を示す機能性ポリマーである。
該腸溶性ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸共重合体を用いることが好ましい。腸溶性の(メタ)アクリル酸ポリマーとしては、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体(メタクリル酸含量38.0~52.0% pH6.0以上で水溶性)のメタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸とアクリル酸エチルの共重合体(メタクリル酸含量11.5~15.5% pH5.5以上で水溶性)のメタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体(メタクリル酸含量25.0~34.5% pH7.0以上で水溶性)のメタクリル酸コポリマーSが挙げられる。これらは、オイドラギット(登録商標)L100、オイドラギット(登録商標)L30D-55、オイドラギット(登録商標)L100-55、オイドラギット(登録商標)S100等として市販されており、これらを用いることができる。
pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーの適用量は、エルロチニブ塩酸塩の溶出速度やそのpH依存性を調整する目的で任意に添加することができるが、例えば、医薬錠剤の含有率として1質量%以上30質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に5質量%以上20質量%以下で用いる。
【0020】
本発明は、医薬錠剤中にpH5.0以下で溶解性を有するアミノ基修飾高分子誘導体を含有させても良い。このアミノ基修飾高分子誘導体は錠剤組成物においてpH応答性の結合剤として機能し、当該医薬錠剤の崩壊性の調整機能をもたらすことができることから好ましい。アミノ基修飾高分子誘導体を適用することで、pH6~8の中性領域での溶出性を抑制傾向に制御することができ、至適溶出速度に調整することができる。
pH5.0以下で溶解性を有するアミノ基修飾高分子誘導体とは、分子構造中にアミノ基を有してpH5.0以下で水溶性を示す高分子誘導体であり、例えば、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー等が挙げられる。アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを用いることがより好ましい。
アミノアルキルメタクリレートコポリマーEは、メタクリル酸メチル-メタクリル酸ブチル-メタクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体である。これは市販品を用いても良く、例えば商品名オイドラギット(登録商標)E100、オイドラギット(登録商標)EPO等のアミノアルキルメタクリレートコポリマー等が挙げられる。オイドラギット(登録商標)EPOを用いることが好ましい。
pH5.0以下で溶解性を有するアミノ基修飾高分子誘導体の適用量は、エルロチニブ塩酸塩の溶出速度やそのpH依存性を調整する目的で任意に添加することができるが、例えば、医薬錠剤の含有率として0.1質量%以上10質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に0.1質量%以上5質量%以下で用いる。
【0021】
pH5.0以下で溶解性を有するアミノ基修飾高分子誘導体は、前記のpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーと併存させて用いることが好ましい。すなわち、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーとpH5.0以下で溶解性を有するアミノ基修飾高分子誘導体との組み合わることにより、pH1.2~6.8や水媒体中といった広範なpH範囲に亘り、エルロチニブの溶出性を促進又は抑制することができる。その目的において、各添加量を適宜調整して処方することが望ましい。
【0022】
本発明は、医薬錠剤中にアルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩を含有させても良い。このアルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩は錠剤組成物において賦形剤として機能し、当該医薬錠剤の成型性向上作用と崩壊性の調整機能をもたらすことができることから好ましい。アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩を適用することで、有効成分の溶出性を促進傾向に制御することができ、至適溶出速度に調整することができる。
前記アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩は、好ましくは経口投与用医薬品に用いることができるアルミニウム、マグネシウム又はカルシウム塩であって、水に溶解させるとpH7より大きいアルカリ性を呈する無機塩であれば、特に制限されることなく適用することができる。好ましくは、前記金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、リン酸塩である。これらは、1種を用いても良く、その混合物を用いても良い。
当該塩基性無機塩としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。またこれらの混合物として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル等が挙げられる。
塩基性無機塩としては、リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムが好ましい。より好ましくは、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムである。
【0023】
アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩の適用量は、エルロチニブの溶出速度やそのpH依存性を調整する目的で任意に添加することができるが、例えば、医薬錠剤の含有率として0.25質量%以上10質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に0.25質量%以上8質量%以下で用いる。
また、エルロチニブ塩酸塩に対して適当量の当該塩基性無機塩を用いることが好ましく、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、該塩基性無機塩が0.005質量部以上0.3質量部以下で用いることが好ましい。より好ましくは、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、該塩基性無機塩が0.01質量部以上0.2質量部以下で用いる態様である。
当該塩基性無機塩は、エルロチニブ塩酸塩と共に混合して造粒物を調製する態様で用いることができる。その場合、当該塩基性無機塩は、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、該塩基性無機塩が0.005質量部以上0.1質量部以下で用いることが好ましい。
【0024】
本発明の医薬錠剤は、その効果を妨げない範囲において当該医薬製剤を調製するために通常用いられる他の添加剤を含んでいても良い。例えば、賦形剤、可溶化剤、滑沢剤、隠蔽剤や着色剤等の医薬錠剤を調製するための通常の医薬錠剤用添加剤を用いても良い。これらの添加剤は1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。当該医薬錠剤を調製する際に、任意に使用される。
【0025】
賦形剤としては、乳糖、マルトース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール等が挙げられる。本発明の医薬錠剤において、賦形剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し5質量%以上50質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0026】
可溶化剤としては界面活性剤が用いられ、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、精製大豆レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウロマクロゴール等が挙げられる。可溶化剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上5質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。
【0027】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、カルナウバロウ等が挙げられる。滑沢剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上8質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0028】
隠蔽剤や着色剤としては、酸化チタン、黄酸化鉄、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、タルク、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられる。隠蔽剤や着色剤を用いる場合は、その含有率は0.1質量%以上で4質量%以下である。好ましくは0.1質量%以上であり2質量%以下である。
【0029】
本発明の医薬錠剤は前記の成分を混合して成型した錠剤のままであっても良く、適当なコーティング材料によるフィルムコート錠剤であっても良い。
フィルムコート錠剤の場合、フィルムコート部分にはコーティング基剤、隠蔽剤や着色剤等の医薬製剤のコーティング剤に用いられる任意の添加剤が含まれていても良い。コーティング剤に用いる隠蔽剤や着色剤は、前述と同義である。
本発明においてコーティング基剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー等が挙げられる。これらフィルムコーティング基材とグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の可塑剤を共に用いても良い。
【0030】
本発明における医薬錠剤は、エルロチニブ塩酸塩を10~70質量%、カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを5~20質量%で崩壊剤総量として5~20質量%、結晶セルロースを5~40質量%で結合剤総量として5~60質量%、賦形剤を5~50質量%、可溶化剤を0.1~5質量%、滑沢剤を0.1~8質量%で含有する錠剤とすることが好ましい。
また前記製剤組成による医薬錠剤において、pH1~5の酸性域のエルロチニブの溶出速度を制御する場合は、前記組成に腸溶性ポリマーを1~30質量%で用いることが好ましい。更に、pH6~8の中性域の溶出性を制御したい場合は、前記製剤組成または、腸溶性ポリマーを更に加えた製剤組成に対し、アミノ基修飾高分子誘導体を0.1~10質量%の範囲で添加することが好ましい。
医薬錠剤の形状は、経口的な服用に適する通常の形状及び大きさに成型されたものであれば、特に限定されるものではない。
【0031】
次に本発明の医薬錠剤の製造方法について説明する。
当該医薬錠剤は、前記の処方の医薬組成物を混合し、任意に造粒体を調製し、これを圧縮成型することで医薬錠剤を調製することができる。その後、更にフィルムコーティングを施したフィルムコーティング錠剤としてもよい。
すなわち、本発明の医薬錠剤の製造方法は、(1)エルロチニブ塩酸塩、カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウム、並びに任意の崩壊剤、結晶セルロース等の結合剤、賦形剤、可溶化剤、その他の添加剤を混合する工程、(2)前記混合物を造粒する任意の工程、(3)滑沢剤等の添加剤を加えて、圧縮成型し錠剤にする工程、を含む製造方法とすることが好ましい。
【0032】
また、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを用いて、pH1~5の酸性領域での溶出速度を抑制する方向に制御したい場合は、(1)エルロチニブ塩酸塩、腸溶性ポリマー、並びに任意の賦形剤を混合し、任意に造粒する工程、(2)この造粒物に、カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウム、並びに任意の崩壊剤、結晶セルロース等の結合剤、賦形剤、可溶化剤、その他の添加剤を混合する工程、(3)滑沢剤等の添加剤を加えて、圧縮成型し錠剤にする工程、を含む製造方法とすることが好ましい。
更に、pH5.0以下で溶解性を有するアミノ基修飾高分子誘導体を用いて、pH6~8の中性域での溶出速度を抑制する方向に制御したい場合は、(1)エルロチニブ塩酸塩、アミノ基修飾高分子誘導体、並びに任意の賦形剤を混合し、任意に造粒する工程、(2)この造粒物に、カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウム、並びに任意の崩壊剤、結晶セルロース等の結合剤、賦形剤、可溶化剤、その他の添加剤を混合する工程、(3)滑沢剤等の添加剤を加えて、圧縮成型し錠剤にする工程、を含む製造方法とすることが好ましい。
すなわち、特定pHでの溶出速度を制御するための腸溶性ポリマー又はアミノ基修飾高分子誘導体は、エルロチニブ塩酸塩に直接作用させる工程を経て、その後、カルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の製剤用添加剤と混合して、錠剤調製する製造方法とすることが好ましい。
pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーとpH5.0以下で溶解性を有するアミノ基修飾高分子誘導体の両方を用いる場合は、何れか一方とエルロチニブ塩酸塩を混合して任意に造粒し、その後、もう一方の添加剤、並びにカルボキシメチルセルロース及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウムを含む製剤用添加剤と混合して、錠剤調製する製造方法とすることが好ましい。
【0033】
エルロチニブ塩酸塩と製剤用添加剤の混合物は、錠剤成型する前に造粒しても良い。造粒工程は、有効成分と種々の添加剤を含有する混合物同士が付着して成形された一定の粒子径を有する顆粒状物であり、後の工程において圧縮成型能を向上させるために調製する粒状物である。該造粒体を調製する造粒化操作は、乾式造粒でも湿式造粒でもよい。乾式造粒とは、造粒時に水を添加しない造粒方法であり、湿式造粒とは前記混合物に水及び/又はエタノール、メタノール等の有機溶媒等を含む水性媒体を適当量添加して、混合操作等の機械的圧力を付加して該混合物同士を付着させ、顆粒状物として造粒する操作である。
造粒化操作としては、転動造粒法、流動層造粒法、攪拌造粒法、圧縮造粒法等が挙げられる。本発明に係る造粒化操作としては、これらの操作方法から、適宜選択して当該造粒体を調製することができる。
【0034】
製剤成型は、前記製剤処方組成物の混合物又は造粒物を、打錠成型等の圧縮成型により錠剤形に成型することにより、医薬錠剤を調製することができる。この際、混合物又は造粒物に対して滑沢剤を添加して、打錠成型に供しても良い。打錠成型の条件は適宜任意に設定することにより調製できる。
【0035】
本発明の医薬錠剤の製造方法において、圧縮成型後に得られた錠剤をフィルムコーティングする工程を経てもよい。フィルムコーティングを行う場合、前記医薬錠剤外部であるフィルムコート部分は、水又は水と任意の割合で混合し得る有機溶剤を含む水溶性溶剤に前記コーティング剤に用いられる任意の添加剤を溶解し、錠剤内部である素錠が入ったコーティングパンの中へ注入またはスプレーし、錠剤表面に熱風を送り錠剤表面から溶媒を除去乾燥させる方法により、フィルムコーティングを行うことができる。乾燥工程は、室温~80℃程度で行うことが好ましい。減圧下で行うことで水性溶剤を揮発させて乾燥しても良い。
【0036】
本発明の医薬錠剤は、エルロチニブの溶出性を高めた医薬錠剤であることを特徴とする。本発明の医薬錠剤は、pH1.2で可溶化剤として1%ポリソルベート80を含有する溶出液において、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)に従う条件で、30分での溶出が26%以上であることを特徴とする。また、併せて60分での溶出が35%以上であることを特徴とする。すなわち、優れた溶出性を示すことが可能である。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)30g、4%水酸化ナトリウム溶液10gを水60gに添加し、分散液を調製した。エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)5gに分散液を2.5mL添加し、混合し減圧乾燥した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物188.5mg、乳糖一水和物75.7mg、結晶セルロース83.7mg、カルメロース40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例1に係る錠剤を調製した。
【0038】
[実施例2]
オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)30g、4%水酸化ナトリウム溶液10gを水60gに添加し、分散液を調製した。エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)5gに分散液を5mL添加し、混合し減圧乾燥した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物213.1mg、乳糖一水和物63.4mg、結晶セルロース71.4mg、カルメロース40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例2に係る錠剤を調製した。
【0039】
[実施例3]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)3g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)0.3gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物180.3mg、乳糖一水和物79.8mg、結晶セルロース87.8mg、カルメロース40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例3に係る錠剤を調製した。
【0040】
[実施例4]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)3g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)0.45gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物188.5mg、乳糖一水和物75.7mg、結晶セルロース83.7mg、カルメロース40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例4に係る錠剤を調製した。
【0041】
[実施例5]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)3g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)0.6gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物196.7mg、乳糖一水和物71.6mg、結晶セルロース79.6mg、カルメロース40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例5に係る錠剤を調製した。
【0042】
[実施例6]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)8.2g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)2g、乳糖一水和物2.5gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物253.2mg、乳糖一水和物18.5mg、結晶セルロース77.1mg、カルメロース39.2mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例6に係る錠剤を調製した。
【0043】
[実施例7]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)8.2g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)2g、乳糖一水和物2.5gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物253.2mg、乳糖一水和物18.5mg、結晶セルロース74.7mg、カルメロース39.2mg、オイドラギット(登録商標)EPO(アミノアルキルメタクリレートコポリマーE エボニック社製)2.4mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例7に係る錠剤を調製した。
【0044】
[実施例8]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)163.9mg、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)39.3mg、乳糖一水和物50.0mg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム2.1mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物255.3mg、乳糖一水和物21.0mg、結晶セルロース70.5mg、カルメロース39.0mg、オイドラギット(登録商標)EPO(アミノアルキルメタクリレートコポリマーE エボニック社製)2.4mg、ラウリル硫酸ナトリウム4.2mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物392.4mgに、ステアリン酸マグネシウム8.1mgの比率となるように混合して打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例8に係る錠剤を調製した。
【0045】
[実施例9]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)163.9mg、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)34.1mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物198.0mg、乳糖一水和物63.0mg、結晶セルロース61.5mg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム9.0mg、カルメロース30.0mg、ラウリル硫酸ナトリウム4.5mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物366.0mgに、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15.0mg、ステアリン酸マグネシウム6.0mgの比率となるように混合して打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例9に係る錠剤を調製した。
【0046】
[実施例10]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)163.9mg、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)38.6mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物202.5mg、乳糖一水和物61.5mg、結晶セルロース60.0mg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム9.0mg、カルメロース27.0mg、ラウリル硫酸ナトリウム4.5mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物364.5mgに、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15.0mg、デンプングリコール酸ナトリウム4.5mg、ステアリン酸マグネシウム6.0mgの比率となるように混合して打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する錠剤を調製した。
この錠剤に、1錠あたりの含量として、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー8.1mg、酸化チタン2.4mgとなるようにフィルムコーティングすることで、実施例10に係るフィルムコーティング錠剤を調製した。
【0047】
[実施例11]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)163.9mg、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)38.6mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物202.5mg、乳糖一水和物63.0mg、結晶セルロース63.0mg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム9.0mg、カルメロース27.0mg、ラウリル硫酸ナトリウム4.5mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物369.0mgに、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15.0mg、ステアリン酸マグネシウム6.0mgの比率となるように混合して打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する錠剤を調製した。
この錠剤に、1錠あたりの含量として、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー8.1mg、酸化チタン2.4mgとなるようにフィルムコーティングすることで、実施例11に係るフィルムコーティング錠剤を調製した。
【0048】
[比較例1]
オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)30g、4%水酸化ナトリウム溶液10gを水60gに添加し、分散液を調製した。エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)5gに分散液を5mL添加し、混合し減圧乾燥した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物213.1mg、乳糖一水和物63.4mg、結晶セルロース71.4mg、デンプングリコール酸ナトリウム40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する比較例1に係る錠剤を調製した。
【0049】
[比較例2]
オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)30g、4%水酸化ナトリウム溶液10gを水60gに添加し、分散液を調製した。エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)5gに分散液を10mL添加し、混合し減圧乾燥した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物262.2mg、乳糖一水和物38.9mg、結晶セルロース46.9mg、デンプングリコール酸ナトリウム40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する比較例2に係る錠剤を調製した。
【0050】
実施例1~5、6~7及び8~11、並びに比較例1~2の錠剤組成を表1~4にまとめた。
【表1】
【0051】
【表2】
(*1);2回分割添加の総量
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
(*1),(*2);2回分割添加の総量
【0054】
[試験例1]
実施例1~7並びに比較例1、2の錠剤を、1%のポリソルベート80(日本薬局方 ポリソルベート80、純正化学株式会社製)を添加した日本薬局方に記載されている方法で調製したpH1.2の試験溶液を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。また、実施例8~11の錠剤も、1%のポリソルベート80(日本薬局方 ポリソルベート80、純正化学株式会社製)を添加した日本薬局方に記載されている方法で調製したpH1.2の試験溶液を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。
溶出試験器(NTR-6200A、富山産業株式会社製)及び紫外可視分光時計(UV-1700、島津製作所製)を用い、試験液量を900mL、試験液温を37±0.5℃、パドル回転数を50rpm、測定波長を254nmとして溶出率を評価した。
溶出試験の結果を表5-1及び5-2にまとめた。
【0055】
【表5-1】
【0056】
【表5-2】
【0057】
[試験例2]
実施例7、8の錠剤を、日本薬局方に記載されている方法で調製した水の試験溶液を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。
溶出試験器(NTR-6200A、富山産業株式会社製)及び紫外可視分光時計(UV-1700、島津製作所製)を用い、試験液量を900mL、試験液温を37±0.5℃、パドル回転数を50rpm、測定波長を254nmとして溶出率を評価した。
溶出試験の結果を表6にまとめた。
【0058】
【表6】
【0059】
実施例1~7の錠剤は、1%のポリソルベート80を添加した日本薬局方に記載されている方法で調製したpH1.2の試験溶液において、エルロチニブ塩酸塩の溶出率が20分後に23%以上、30分後に26%以上、60分後に35%以上、90分後に42%以上、120分後に46%以上であることが確認された。また、実施例8~11の錠剤も、1%のポリソルベート80を添加した日本薬局方に記載されている方法で調製したpH1.2の試験溶液において、エルロチニブ塩酸塩の溶出率が20分後に23%以上、30分後に26%以上、60分後に35%以上、90分後に42%以上、120分後に46%以上であることが確認された。特に、比較例1と比べ終盤における溶出が速く、比較例2と比べ初期における溶出の立ち上がりが速いことが認められた。本発明の医薬錠剤は、エルロチニブ塩酸塩の溶出が優れたエルロチニブ塩酸塩製剤であることが示された。
また、アミノ基修飾高分子誘導体を適用することで、pH6~8の中性領域での溶出性を抑制傾向に制御することができ、至適溶出速度に調整できることも示された。