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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】エルロチニブを有効成分とする医薬錠剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/517 20060101AFI20231020BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231020BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20231020BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231020BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231020BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231020BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231020BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
A61K31/517
A61K9/20
A61K47/58
A61K47/18
A61P35/00
A61K47/38
A61K47/26
A61K47/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019202203
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2020075924
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2018211105
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇則
(72)【発明者】
【氏名】岩井 隆暁
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/118112(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/082879(WO,A1)
【文献】特開昭62-000009(JP,A)
【文献】特表2009-530367(JP,A)
【文献】特表2013-523804(JP,A)
【文献】特表2016-501231(JP,A)
【文献】特表2016-516698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルロチニブ塩酸塩、並びにpH5.5以上で溶解性を有する(メタ)アクリル酸共重合体を含有する医薬錠剤であって、
エルロチニブ塩酸塩とpH5.5以上で溶解性を有する(メタ)アクリル酸共重合体からなる造粒物を含有し、
賦形剤として、結晶セルロースと、乳糖、マルトース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトールからなる群から選択される糖類を含み、
崩壊剤として、カルボキシメチルセルロースまたはデンプングリコール酸ナトリウムを含む、
医薬錠剤。
【請求項2】
エルロチニブ塩酸塩とpH5.5以上で溶解性を有する(メタ)アクリル酸共重合体の含有量の比率が、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、(メタ)アクリル酸共重合体が0.1質量部以上1.0質量部以下である、請求項1に記載の医薬錠剤。
【請求項3】
エルロチニブ塩酸塩がA型結晶多形である請求項1または2に記載の医薬錠剤。
【請求項4】
アミノアルキルメタクリレートコポリマーEまたはメグルミンから選択されるアミノ基含有添加剤を含有する請求項1~3の何れか一項に記載の医薬錠剤。
【請求項5】
アミノ基含有添加剤を0.1質量%以上5.0質量%以下で含有する請求項4に記載の医薬錠剤。
【請求項6】
エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、
エルロチニブ塩酸塩とpH5.5以上で溶解性を有する(メタ)アクリル酸共重合体を含有する混合物を造粒して造粒物を調製する工程、
その造粒物と崩壊剤、賦形剤、任意の結合剤とを混合して、これを圧縮成型して医薬錠剤を調製する工程、
を含む医薬錠剤の製造方法であり、
崩壊剤が、カルボキシメチルセルロースまたはデンプングリコール酸ナトリウムであり、
賦形剤が、結晶セルロースと、乳糖、マルトース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトールからなる群から選択される糖類である、
医薬錠剤の製造方法。
【請求項7】
エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、
エルロチニブ塩酸塩とpH5.5以上で溶解性を有する(メタ)アクリル酸共重合体を含有する混合物を造粒して造粒物を調製する工程、
その造粒物と崩壊剤、賦形剤、任意の結合剤、並びにアミノ基含有添加剤とを混合して、これを圧縮成型して医薬錠剤を調製する工程、
を含む医薬錠剤の製造方法であり、
崩壊剤が、カルボキシメチルセルロースまたはデンプングリコール酸ナトリウムであり、
賦形剤が、結晶セルロースと、乳糖、マルトース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトールからなる群から選択される糖類であり、
アミノ基含有添加剤が、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEまたはメグルミンである、
医薬錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、エルロチニブ塩酸塩を有効成分として含有する医薬錠剤であって、優れた溶出特性を有する医薬錠剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
エルロチニブは、上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor:EGFR)を標的とした選択的チロシンキナーゼ阻害剤であり、EGFR細胞内チロシンキナーゼ領域のATP結合部位においてATPと競合的に拮抗することにより、癌細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導に基づいて抗腫瘍効果を示すと考えられているキナゾリン誘導体である。医薬品としてはエルロチニブ塩酸塩として用いられ、切除不能な再発・進行性でがん化学療法施行後に増悪した非小細胞肺癌、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な再発・進行性でがん化学療法未治療の非小細胞肺癌、治癒切除不能な膵癌の治療剤として承認されており、タルセバ(登録商標)の商品名で癌治療に提供されている。
【0003】
エルロチニブ塩酸塩は、化学名がN-(3-エチニルフェニル)-6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)キナゾリン-4-アミン 塩酸塩であり、下記一般式(1)の化学構造を有する。
【化1】
【0004】
エルロチニブ塩酸塩は難水溶性の白色~微黄色の、主として結晶体で得られる固体であり、複数の結晶多型が知られている。例えば、特許文献1には粉末X線結晶回折(XRD)にて、2θ(°)が略5.58、9.84、11.25、18.86、22.70、23.50、24.18、24.59、25.40及び29.24のピークで特徴付けられ、融点が205‐208℃であるエルロチニブ塩酸塩のA型多形が開示されている。併せて、XRDにて2θ(°)が略6.26、12.48、13.39、16.96、20.20、21.10、22.98、24.46、25.14及び26.91のピークで特徴付けられ、融点が227-231℃であるB型多形も記載している。
また特許文献2には、XRDにて2θ(°)が5.7、9.7、10.1、11.3、17.0、17.4、18.9、19.6、21.3、22.8、23.6、24.2、24.7、25.4、26.2、26.7及び29.3のピークで特徴付けられるエルロチニブ塩酸塩E型多形を開示している。
なお、特許文献2によると、B型多形は熱力学的に安定な形態であり、A型多形は溶解度及び溶解速度に優れる形態であることが記載され、E型多形はA型多形より熱力学的安定性に優れるとともに、B型多形より溶解性に優れる物性であることが記載されている。
【0005】
エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬製剤としては、主として錠剤が報告されている。特許文献2は微結晶セルロース、乳糖水和物、ポビドンK30、デンプングリコール酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを添加剤として用いたエルロチニブ塩酸塩を有効成分とするフィルムコーティング錠剤を記載している。なお、タルセバ(登録商標)錠は、その添付文書によると、乳糖水和物、結晶セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ヒプロメロース、ヒロドキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール400及び酸化チタンを含有するフィルムコーティング錠であることが知られている。
【0006】
エルロチニブ塩酸塩は難溶性薬物であり、経口摂取した場合のバイオアベイラビリティを向上させるためには、水に対する溶解特性に優れたA型結晶多形を有効成分として選択して医薬錠剤を調製することが望ましい。
エルロチニブ塩酸塩のA型結晶多形を含む医薬錠剤について、特許が報告されている。特許文献3は、崩壊剤としてクロスポビドンを用いたエルロチニブ塩酸塩A型結晶多形を有効成分とする錠剤を記載している。特許文献4は、エルロチニブ塩酸塩のA型結晶多形を有効成分として結晶セルロースを用いた錠剤が、酸性媒体において速い溶出性を示すことを開示している。また特許文献5には、エルロチニブ塩酸塩のA型結晶多形とカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む混合物を湿式造粒した錠剤が、酸性媒体による溶出性において、エルロチニブ塩酸塩の上市製剤であるタルセバ(登録商標)錠と類似の溶出性を示すことを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2003-523949号公報
【文献】特表2006-521288号公報
【文献】インド国特許出願3278/CHE/2012号
【文献】国際公開2010/086441号
【文献】国際公開2016/082879号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
医薬錠剤において有効成分の溶出性を向上させることは、有効成分の吸収を速めて効果を十分に発揮するために重要なことである。エルロチニブ塩酸塩を有効成分とするタルセバ(登録商標)錠は、有効成分の融点が231-232℃とある(タルセバ(登録商標)錠インタビューフォームより)ことからB型結晶多形を用いている。そして、その溶出性は、酸性媒体中(ラウリル硫酸ナトリウム1%含有0.1mol/L塩酸溶液)において30分で93~99%とある。一方、エルロチニブ塩酸塩の水に対する溶解度は0.9mg/mL(25±5℃)程度であり、水での溶解度が低い物性であることが記載されている(タルセバ(登録商標)錠インタビューフォームより)。
エルロチニブ塩酸塩は特に中性領域で難溶性薬物であることから、小腸等の消化管のpH環境を考慮すると、溶解特性に優れたA型結晶多形を有効成分として選択した方が望ましい。しかしながら、その場合には有効成分の過度な溶出とそれに伴う急激な血中濃度上昇からくる副作用が懸念されるため、溶出速度を抑制する方向に制御した医薬錠剤とする必要がある。このため、効率的なバイオアベイラビリティをもたらすエルロチニブ製剤を調製するにあたり、適切な溶出速度を示す錠剤とすることが重要である。特に速い溶出性が示される酸性領域で、溶出性を抑制する技術手段が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために検討を行なった結果、エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤において、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを用いることで、pH1~4における酸性領域での急激なエルロチニブの溶出を抑制して、溶出性を適切に制御した医薬錠剤を提供できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本願は以下の[1]乃至[9]の発明を要旨とする。
[1] エルロチニブ塩酸塩、並びにpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含有する医薬錠剤。
[2] エルロチニブ塩酸塩、並びにpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含有する造粒物を含有する前記[1]に記載の医薬錠剤。
エルロチニブ塩酸塩に対してpH5.5以上で溶解性を示す、いわゆる腸溶性ポリマーを適用する事により溶出性を制御した医薬製剤を調製することができる。特にエルロチニブ塩酸塩と該腸溶性ポリマーを含有する造粒物を調製することで、これらが直接的に接触して作用することができる態様となり、溶出性制御作用を効率的に発揮することができる。
[3] エルロチニブ塩酸塩とpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーの含有量の比率が、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、該腸溶性ポリマー誘導体が0.1質量部以上1.0質量部以下である、前記[1]又は[2]に記載の医薬錠剤。
[4] 腸溶性ポリマーが(メタ)アクリル酸共重合体である前記[1]~[3]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
[5] エルロチニブ塩酸塩がA型結晶多形である前記[1]~[4]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
本発明は、溶解特性に優れたエルロチニブ塩酸塩のA型結晶多形を有効成分とする医薬錠剤において課題解決の要求があり、特に好適に用いることができる。
[6] アミノ基含有添加剤を含有する前記[1]~[5]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
当該医薬錠剤において、更にアミノ基含有添加剤を用いることで、酸性領域の溶出性の制御と共に、中性領域、例えばpH6~8領域における溶出性の制御を可能とする。
[7] アミノ基含有添加剤を0.1質量%以上5.0質量%以下で含有する前記[6]に記載の医薬錠剤。
【0010】
本願は、エルロチニブ塩酸塩と、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含む医薬錠剤の製造方法も包含する。
[8] エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、
エルロチニブ塩酸塩とpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含有する混合物を造粒して造粒物を調製する工程、その造粒物と崩壊剤、結合剤、賦形剤とを混合して、これを圧縮成型して医薬錠剤を調製する工程、を含む医薬錠剤の製造方法。
[9] エルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、
エルロチニブ塩酸塩とpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含有する混合物を造粒して造粒物を調製する工程、その造粒物と崩壊剤、結合剤、賦形剤、並びにアミノ基含有添加剤とを混合して、これを圧縮成型して医薬錠剤を調製する工程、を含む医薬錠剤の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、有効成分の溶出性を制御して適切なバイオアベイラビリティをもたらすエルロチニブ塩酸塩を有効成分とする医薬錠剤を提供することができる。特に、pH1~4の酸性領域における溶出性を制御する錠剤処方として適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の有効成分は、エルロチニブ塩酸塩である。エルロチニブは、化学名がN-(3-エチニルフェニル)-6,7-ビス(2-メトキシエトキシ)キナゾリン-4-アミンであり、特許第3088018号において開示されている。エルロチニブは弱塩基性化合物であり、適当な酸類との塩を形成することが知られているが、本発明ではエルロチニブ塩酸塩を用いる。
エルロチニブ塩酸塩には、複数の結晶多形が存在する。代表的なものとして、A型結晶多形及びB型結晶多形が挙げられ、特表2003-523949号公報において開示されている。A型結晶多形は、粉末X線結晶回折(XRD)にて2θ(°)が略5.6、9.8、11.3、18.9、22.7、23.5、24.2、24.6、25.4及び29.2にピークで特徴付けられ、融点(示差走査熱量測定;DSC)が205~208℃で特徴付けられるエルロチニブ塩酸塩結晶多形である。また、B型結晶多形は、XRDにて、2θ(°)が略6.3、12.5、13.4、17.0、20.2、21.1、23.0、24.5、25.1及び26.9のピークで特徴付けられ、DSCが227~231℃で特徴付けられるエルロチニブ塩酸塩結晶多形である。
本発明において、有効成分であるエルロチニブ塩酸塩は医薬品原薬として用いられる品質であれば特に問題なく用いることができる。また、結晶多形においても特に限定されることなく適用することができる。好ましくは、溶解特性に優れたA型結晶多形が適用される。
【0013】
本発明の医薬錠剤において、有効成分であるエルロチニブ塩酸塩の含有量は、10質量%以上70質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは該医薬錠剤中において20質量%以上50質量%以下で用いる。
また本発明の医薬錠剤において、エルロチニブ塩酸塩はエルロチニブ(遊離塩基)として50mg以上200mg以下で含有する製剤であることが好ましい。すなわち、既存のエルロチニブ製剤であるタルセバ(登録商標)錠は、25mg錠、100mg錠、150mg錠の3つの製剤規格が存在するが、100mg錠及び150mg錠を包含する高用量錠に適用することが好ましい。
【0014】
本発明は、医薬錠剤中にpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含有する。この腸溶性ポリマーは、錠剤組成物においてpH応答性の結合剤として機能する。該腸溶性ポリマーを適用することで、pH1~5の酸性領域での溶出性を抑制傾向に制御することができ、至適溶出速度に調整することができる。
pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーとは、分子構造中にカルボキシ基を有する高分子誘導体であり、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸の共重合体等の(メタ)アクリル酸共重合体、カルボキシメチルエチルセルロース等のカルボキシメチルセルロース誘導体、ヒプロメロース酢酸コハク酸エステル等のヒプロメロース誘導体、等が挙げられる。これらは分子鎖中に遊離カルボキシ基(-COOH)を具備し、pH5.5以上で水溶性を示す機能性ポリマーである。
該腸溶性ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸共重合体を用いることが好ましい。腸溶性の(メタ)アクリル酸ポリマーとしては、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体(メタクリル酸含量38.0~52.0% pH6.0以上で水溶性)のメタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸とアクリル酸エチルの共重合体(メタクリル酸含量11.5~15.5% pH5.5以上で水溶性)のメタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体(メタクリル酸含量25.0~34.5% pH7.0以上で水溶性)のメタクリル酸コポリマーSが挙げられる。これらは、オイドラギット(登録商標)L100、オイドラギット(登録商標)L30D-55、オイドラギット(登録商標)L100-55、オイドラギット(登録商標)S100等として市販されており、これらを用いることができる。
【0015】
pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーの適用量は、エルロチニブ塩酸塩の溶出速度やそのpH依存性を調整する目的で任意に添加することができるが、例えば、医薬錠剤の含有率として1質量%以上30質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に5質量%以上20質量%以下で用いる。
また、エルロチニブ塩酸塩に対して適当量の腸溶性ポリマーを用いることが好ましく、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、該腸溶性ポリマー誘導体が0.1質量部以上1.0質量部以下用いることが好ましい。より好ましくは、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、該腸溶性ポリマー誘導体を0.1質量部以上0.5質量部以下用いる態様である。
【0016】
エルロチニブ塩酸塩と該腸溶性ポリマーは、これらが直接的に接触して作用し得る態様である事が好ましく、エルロチニブ塩酸塩、並びにpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを含有する混合物を造粒して施用することにより、溶出性制御作用を効率的に発揮させることができることから好ましい。造粒方法は、乾式造粒でも湿式造粒でもよい。エルロチニブ塩酸塩の結晶多形の晶転移を抑制するために、乾式造粒により造粒物を調製することが好ましい。
【0017】
本発明は、アミノ基含有添加剤を用いることができる。これを用いることでpH6~8の中性領域の溶出性を抑制することができ、広範なpH領域に亘り溶出性を制御することができる。すなわち、アミノ基含有添加剤を前記pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーと組み合わせて用いることで、pH1~8の媒体や水中といった広範なpH範囲に亘り、エルロチニブの溶出性を制御することができる。その目的において、各添加量を適宜調整して処方することが望ましい。
【0018】
アミノ基含有添加剤とは、分子中にアミノ基を有している有機系添加剤であれば特に限定されるものではないが、医薬品添加剤として通常用いられる添加剤の中から選択して適用することが好ましい。例えば、「医薬品添加物事典 日本医薬品添加剤協会 編集」(薬事日報社)や、「医薬品添加物ハンドブック 日本薬学会 訳編」(丸善株式会社)に記載される添加剤において、アミノ基を有する低分子化合物又は高分子化合物が該当する。
アミノ基を有する低分子化合物としては、トリエタノールアミン、トロメタミン等のアミン類、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ヘキソサミン、メグルミン等のアミノ糖類、リシン、ヒスチジン、アルギニン、トリプトファン等の塩基性アミノ酸類が挙げられる。メグルミンを用いることが好ましい。
アミノ基を有する高分子化合物としては、アミノアルキルメタクリレートコポリマー等の(メタ)アクリレートコポリマー類、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート等のポリビニルアルコールコポリマー類が挙げられる。これらは、pH5.0以下で溶解性を有する速放性ポリマーとして知られており、例えば、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー等が挙げられる。アミノアルキルメタクリレートコポリマーEを用いることがより好ましい。
アミノアルキルメタクリレートコポリマーEは、メタクリル酸メチル-メタクリル酸ブチル-メタクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体である。これは市販品を用いても良く、例えば商品名オイドラギット(登録商標)E100、オイドラギット(登録商標)EPO等のアミノアルキルメタクリレートコポリマー等が挙げられる。オイドラギット(登録商標)EPOを用いることが好ましい。
【0019】
アミノ基含有添加剤の適用量は、エルロチニブ塩酸塩の溶出速度やそのpH依存性を調整する目的で任意に添加することができるが、例えば、医薬錠剤の含有率として0.1質量%以上5.0質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に0.1質量%以上3.0質量%以下で用いる。
【0020】
本発明の医薬錠剤は、崩壊剤、結合剤、賦形剤等の錠剤成型のために通常用いられる製剤用添加剤を用いて調製され得る。
本発明において用いられる崩壊剤としては、医薬錠剤を調製するために通常用いられる添加剤において錠剤の崩壊性機能を付与できる添加剤であれば適宜使用することができる。例えば、「医薬品添加物事典 日本医薬品添加剤協会 編集」(薬事日報社)や、「医薬品添加物ハンドブック 日本薬学会 訳編」(丸善株式会社)に記載される添加剤であって、崩壊剤として使用され得る添加剤を挙げることができる。
本発明で用いられる崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム等が挙げられる。カルボキシメチルセルロース(カルメロースとも称する。)及び/又はカルボキシメチルセルロースカルシウム(カルメロースカルシウムとも称する。)を用いることが好ましい。
崩壊剤は、当該医薬錠剤全量に対して3質量%以上20質量%以下で用いることが好ましい。
【0021】
本発明において用いられる結合剤としては、医薬錠剤を調製するために通常用いられる添加剤において錠剤の結合性機能を付与できる添加剤であれば適宜使用することができる。例えば、「医薬品添加物事典 日本医薬品添加剤協会 編集」(薬事日報社)や、「医薬品添加物ハンドブック 日本薬学会 訳編」(丸善株式会社)に記載される添加剤であって、結合剤として使用され得る添加剤を挙げることができる。
本発明で用いられる好ましい他の結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。より好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
結合剤は、当該医薬錠剤において5質量%以上~40質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に10質量%以上~40質量%以下で用いる。
【0022】
本発明の医薬錠剤は、その効果を妨げない範囲において当該医薬製剤を調製するために通常用いられる他の添加剤を含んでいても良い。例えば、賦形剤、可溶化剤、滑沢剤、隠蔽剤や着色剤等の医薬錠剤を調製するための通常の医薬錠剤用添加剤を用いても良い。これらの添加剤は1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。当該医薬錠剤を調製する際に、任意に使用される。
【0023】
賦形剤としては、結晶セルロース、乳糖、マルトース、マンニトール、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール等が挙げられる。賦形剤は結晶セルロースを含み、更に乳糖等の糖類を併用で用いることが好ましい。
本発明の医薬錠剤において、賦形剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し5質量%以上70質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは10質量%以上50質量%以下である。
【0024】
可溶化剤としては界面活性剤が用いられ、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、精製大豆レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウロマクロゴール等が挙げられる。可溶化剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上5質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。
【0025】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、カルナウバロウ等が挙げられる。滑沢剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上8質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0026】
隠蔽剤や着色剤としては、酸化チタン、黄酸化鉄、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、タルク、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられる。隠蔽剤や着色剤を用いる場合は、その含有率は0.1質量%以上で4質量%以下である。好ましくは0.1質量%以上であり2質量%以下である。
【0027】
本発明は、医薬錠剤中にアルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩を含有させても良い。このアルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩は錠剤組成物において賦形剤として機能し、当該医薬錠剤の成型性向上作用と崩壊性の調整機能をもたらすことができることから好ましい。アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩を適用することで、崩壊剤の添加量を減量しながら有効成分の溶出性を促進傾向に制御することができ、至適溶出速度に調整することができる。
前記アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩は、好ましくは経口投与用医薬品に用いることができるアルミニウム、マグネシウム又はカルシウム塩であって、水に溶解させるとpH7より大きいアルカリ性を呈する無機塩であれば、特に制限されることなく適用することができる。好ましくは、前記金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩、リン酸塩である。これらは、1種を用いても良く、その混合物を用いても良い。
当該塩基性無機塩としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。またこれらの混合物として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル等が挙げられる。
塩基性無機塩としては、リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムが好ましい。より好ましくは、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムである。
【0028】
アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選択される1種以上の金属を含有する塩基性無機塩の適用量はエルロチニブの溶出速度やそのpH依存性を調整する目的で任意に添加することができるが、例えば、医薬錠剤の含有率として0.25質量%以上10質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に0.25質量%以上8質量%以下で用いる。
また、エルロチニブ塩酸塩に対して適当量の当該塩基性無機塩を用いることが好ましく、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、該塩基性無機塩が0.005質量部以上0.3質量部以下で用いることが好ましい。より好ましくは、エルロチニブ塩酸塩が1質量部に対して、該塩基性無機塩が0.01質量部以上0.2質量部以下で用いる態様である。
【0029】
本発明の医薬錠剤は前記の成分を混合して成型した錠剤のままであっても良く、適当なコーティング材料によるフィルムコート錠剤であっても良い。
フィルムコート錠剤の場合、フィルムコート部分にはコーティング基剤、隠蔽剤や着色剤等の医薬製剤のコーティング剤に用いられる任意の添加剤が含まれていても良い。コーティング剤に用いる隠蔽剤や着色剤は、前述と同義である。
本発明においてコーティング基剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー等が挙げられる。これらフィルムコーティング基材とグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の可塑剤を共に用いても良い。
【0030】
本発明は、フィルムコーティング錠剤とすることで、エルロチニブの溶出性を更に抑制する方向に制御することができる。すなわち、本発明のpH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを処方したエルロチニブ錠剤をフィルムコーティング錠剤とすることで、pH1~8の媒体や水中といった広範なpH範囲に亘り、エルロチニブの溶出性を制御することができる。コーティング剤としては、その目的において各添加量を適宜調整して処方することが望ましい。
コーティング基剤の適用量は、エルロチニブ塩酸塩の溶出速度を調整する目的で任意に添加することができるが、例えば、医薬錠剤の含有率として0.5質量%以上5.0質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に1.0質量%以上3.0質量%以下で用いる。
【0031】
本発明において、フィルムコート部分にはコーティング基剤、隠蔽剤や着色剤等の医薬製剤のコーティング剤に用いられる任意の添加剤が含まれていても良い。コーティング剤に用いる隠蔽剤や着色剤は、前述と同義である。酸化チタンを用いることが好ましい。
隠蔽剤や着色剤の適用量は、例えば、医薬錠剤の含有率として0.1質量%以上2.0質量%以下で用いることが好ましい。より好ましくは医薬錠剤中に0.2質量%以上1.0質量%以下で用いる。
【0032】
本発明における医薬錠剤は、エルロチニブ塩酸塩を10~70質量%、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーを1~30質量%、崩壊剤を5~20質量%、賦形剤を5~70質量%、可溶化剤を0.1~5質量%、滑沢剤を0.1~8質量%で含有する錠剤とすることが好ましい。
また前記製剤組成による医薬錠剤において、更にpH6~8の中性域のエルロチニブの溶出速度を制御する場合は、前記組成にアミノ基含有添加剤を0.1~5.0質量%の範囲で添加することが好ましい。
医薬錠剤の形状は、経口的な服用に適する通常の形状及び大きさに成型されたものであれば特に限定されるものではない。
【0033】
次に本発明の医薬錠剤の製造方法について説明する。
当該医薬錠剤は、前記の処方の医薬組成物を混合し、任意に造粒体を調製し、これを圧縮成型することで医薬錠剤を調製することができる。その後、更にフィルムコーティングを施したフィルムコーティング錠剤としてもよい。
すなわち、本発明の医薬錠剤の製造方法は、(1)エルロチニブ塩酸塩、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマー、並びに任意のアミノ基含有添加剤、崩壊剤、結合剤、賦形剤、可溶化剤、その他の添加剤を混合する工程、(2)前記混合物を造粒する任意の工程、(3)滑沢剤等の添加剤を加えて、圧縮成型し錠剤にする工程、を含む製造方法とすることが好ましい。
より好ましくは、(1)エルロチニブ塩酸塩、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマー、並びに任意の賦形剤を混合し、任意に造粒する工程、(2)この造粒物に、崩壊剤、結合剤、賦形剤、可溶化剤、その他の添加剤を混合する工程、(3)滑沢剤等の添加剤を加えて、圧縮成型し錠剤にする工程、を含む製造方法とすることが好ましい。pH6~8での溶出性を制御するためにアミノ基含有添加剤を用いる場合は、工程(2)にて処方することが挙げられる。若しくは、(1)エルロチニブ塩酸塩、アミノ基含有添加剤、並びに任意の賦形剤を混合し、任意に造粒する工程、(2)この造粒物に、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマー、崩壊剤、結合剤、賦形剤、可溶化剤、その他の添加剤を混合する工程、(3)滑沢剤等の添加剤を加えて、圧縮成型し錠剤にする工程、を含む製造方法とすることが好ましい。すなわち、pH5.5以上で溶解性を有する腸溶性ポリマーとアミノ基含有添加剤を併用する場合は、何れか一方とエルロチニブ塩酸塩を混合して任意に造粒し、その後、もう一方の添加剤を、崩壊剤等を含む後添加の成分と混合して、錠剤調製する製造方法とすることが好ましい。
【0034】
エルロチニブ塩酸塩と製剤用添加剤の混合物は、錠剤成型する前に造粒しても良い。造粒工程は、有効成分と種々の添加剤を含有する混合物同士が付着して成形された一定の粒子径を有する顆粒状物であり、後の工程において圧縮成型能を向上させるために調製する粒状物である。該造粒体を調製する造粒化操作は、乾式造粒でも湿式造粒でもよい。乾式造粒とは、造粒時に水を添加しない造粒方法であり、湿式造粒とは前記混合物に水及び/又はエタノール、メタノール等の有機溶媒等の水性媒体を適当量添加して、混合操作等の機械的圧力を付加して該混合物同士を付着させ、顆粒状物として造粒する操作である。本発明において、造粒体を調製する場合は、乾式造粒操作により調製することが好ましい。
造粒化操作としては、転動造粒法、流動層造粒法、攪拌造粒法、圧縮造粒法等が挙げられる。本発明に係る造粒化操作としては、これらの操作方法から、適宜選択して当該造粒体を調製することができる。
【0035】
製剤成型は、前記製剤処方組成物の混合物又は造粒物を、打錠成型等の圧縮成型により錠剤形に成型することにより、医薬錠剤を調製することができる。この際、混合物又は造粒物に対して滑沢剤を添加して、打錠成型に供しても良い。打錠成型の条件は適宜任意に設定することにより調製できる。
【0036】
本発明の医薬錠剤の製造方法において、圧縮成型後に得られた錠剤をフィルムコーティングする工程を経てもよい。フィルムコーティングを行う場合、前記医薬錠剤外部であるフィルムコート部分は、水又は水と任意の割合で混合し得る有機溶剤を含む水溶性溶剤に前記コーティング剤に用いられる任意の添加剤を溶解し、錠剤内部である素錠が入ったコーティングパンの中へ注入またはスプレーし、錠剤表面に熱風を送り錠剤表面から溶媒を除去乾燥させる方法により、フィルムコーティングを行うことができる。乾燥工程は、室温~80℃程度で行うことが好ましい。減圧下で行うことで水性溶剤を揮発させて乾燥しても良い。
【0037】
本発明の医薬錠剤は、エルロチニブの溶出を制御した医薬錠剤であることを特徴とする。本発明の医薬錠剤は、pH1.2の試験溶液において、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)に従う方法で120分までの溶出が65%以下であることを特徴とする。特に好ましくは、pH1.2試験液で55%以下/120分の溶出性の医薬錠剤を提供することができる。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)30g、4%水酸化ナトリウム溶液10gを水60gに添加し、分散液を調製した。エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)5gに分散液を2.5mL添加し、混合し減圧乾燥した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物188.5mg、乳糖一水和物75.7mg、結晶セルロース83.7mg、デンプングリコール酸ナトリウム40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例1に係る錠剤を調製した。
【0039】
[実施例2]
オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)30g、4%水酸化ナトリウム溶液10gを水60gに添加し、分散液を調製した。エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)5gに分散液を5mL添加し、混合し減圧乾燥した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物213.1mg、乳糖一水和物63.4mg、結晶セルロース71.4mg、デンプングリコール酸ナトリウム40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例2に係る錠剤を調製した。
【0040】
[実施例3]
オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)30g、4%水酸化ナトリウム溶液10gを水60gに添加し、分散液を調製した。エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)5gに分散液を10mL添加し、混合し減圧乾燥した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物262.2mg、乳糖一水和物38.9mg、結晶セルロース46.9mg、デンプングリコール酸ナトリウム40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例3に係る錠剤を調製した。
【0041】
[実施例4]
オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)30g、4%水酸化ナトリウム溶液10gを水60gに添加し、分散液を調製した。エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)5gに分散液を2.5mL添加し、混合し減圧乾燥した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物188.5mg、乳糖一水和物75.7mg、結晶セルロース83.7mg、カルメロース40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例4に係る錠剤を調製した。
【0042】
[実施例5]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)3g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)0.45gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物188.5mg、乳糖一水和物75.7mg、結晶セルロース83.7mg、カルメロース40mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例5に係る錠剤を調製した。
【0043】
[実施例6]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)8.2g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)2g、乳糖一水和物2.5gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物253.2mg、乳糖一水和物18.5mg、結晶セルロース77.1mg、カルメロース39.2mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例6に係る錠剤を調製した。
【0044】
[実施例7]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)8.2g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)2g、乳糖一水和物2.5gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物253.2mg、乳糖一水和物18.5mg、結晶セルロース74.7mg、カルメロース39.2mg、オイドラギット(登録商標)EPO(アミノアルキルメタクリレートコポリマーE エボニック社製)2.4mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例7に係る錠剤を調製した。
【0045】
[実施例8]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)8.2g、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)2g、乳糖一水和物2.5gを混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物253.2mg、乳糖一水和物18.5mg、結晶セルロース77.1mg、カルメロース33.2mg、メグルミン6mg、ラウリル硫酸ナトリウム4mgを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム8mgを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例8に係る錠剤を調製した。
【0046】
[実施例9]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)163.9mg、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)38.6mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物202.5mg、乳糖一水和物72.0mg、結晶セルロース66.0mg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム21.0mg、ラウリル硫酸ナトリウム4.5mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物366.0mgに、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム9.0mg、デンプングリコール酸ナトリウム15.0mg、ステアリン酸マグネシウム6.0mgの比率となるように混合して打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する実施例11に係る錠剤を調製した。
【0047】
[実施例10]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)163.9mg、オイドラギット(登録商標)L100-55(乾燥メタクリル酸コポリマーLD エボニック社製)38.6mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物202.5mg、乳糖一水和物63.0mg、結晶セルロース63.0mg、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム9.0mg、カルメロース27.0mg、ラウリル硫酸ナトリウム4.5mgの比率となるように混合した。この混合物を圧縮し粉砕した。この混合物369.0mgに、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15.0mg、ステアリン酸マグネシウム6.0mgの比率となるように混合して打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する錠剤を調製した。
この錠剤に、1錠あたりの含量として、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー8.1mg、酸化チタン2.4mgとなるようにフィルムコーティングすることで、実施例13に係るフィルムコーティング錠剤を調製した。
【0048】
[比較例1]
エルロチニブ塩酸塩(A型結晶多形)3.28g、乳糖一水和物1.72g、結晶セルロース2.08g、デンプングリコール酸ナトリウム0.64g、オイドラギット(登録商標)EPO(アミノアルキルメタクリレートコポリマーE エボニック社製)0.04g、ラウリル硫酸ナトリウム0.08gを混合した。この混合物に、ステアリン酸マグネシウム0.16gを加えて打錠することで、1錠あたりにエルロチニブ塩酸塩を163.9mg(エルロチニブとして150mg)を含有する比較例1に係る錠剤を調製した。
【0049】
実施例1~5、実施例6~8並びに比較例1の錠剤組成を表1、2にまとめた。
【表1】
【0050】
【表2】
(*1)2回分割添加の総量
【0051】
実施例9、10の錠剤組成を表3にまとめた。
【表3】
(*2)回分割添加の総量
【0052】
[試験例1]
実施例1~8並びに比較例1の錠剤を、日本薬局方に記載されている方法で調製したpH1.2の試験溶液を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。また、実施例9、10の錠剤も、日本薬局方に記載されている方法で調製したpH1.2の試験溶液を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。
溶出試験器(NTR-6200A、富山産業株式会社製)及び紫外可視分光時計(UV-1700、島津製作所製)を用い、試験液量を900mL、試験液温を37±0.5℃、パドル回転数を50rpm、測定波長を254nmとして溶出率を評価した。
溶出試験の結果を表4-1及び4-2にまとめた。
【0053】
【表4-1】
【0054】
【表4-2】
【0055】
[試験例2]
実施例6~8の錠剤を、日本薬局方に記載されている方法で調製した水の試験溶液を用いて、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。
溶出試験器(NTR-6200A、富山産業株式会社製)及び紫外可視分光時計(UV-1700、島津製作所製)を用い、試験液量を900mL、試験液温を37±0.5℃、パドル回転数を50rpm、測定波長を254nmとして溶出率を評価した。
溶出試験の結果を表5にまとめた。
【0056】
【表5】
【0057】
実施例1~8の錠剤は、pH1.2の試験液におけるエルロチニブ塩酸塩の溶出率が25分後に25%以下、30分後に30%以下、45分後に40%以下、60分後に45%以下、120分後に65%以下であることが確認された。本発明の医薬錠剤は、エルロチニブ塩酸塩の溶出抑制効果を有するエルロチニブ塩酸塩製剤であることが示された。また、実施例9、10の錠剤も、pH1.2の試験液におけるエルロチニブ塩酸塩の溶出率が25分後に25%以下、30分後に30%以下、45分後に40%以下、60分後に45%以下、120分後に65%以下であることが確認された。本発明の医薬錠剤は、エルロチニブ塩酸塩の溶出抑制効果を有するエルロチニブ塩酸塩製剤であることが示された。
また、アミノ基含有添加剤を適用することで、pH6~8の中性領域での溶出性を抑制傾向に制御することができ、至適溶出速度に調整できることも示された。