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  • 特許-堰堤及び堰堤の構築方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】堰堤及び堰堤の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/02 20060101AFI20231020BHJP
【FI】
E02B7/02 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019042908
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020143557
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一雄
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】前川 慎喜
【審判官】西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127880(JP,A)
【文献】特開平08-209704(JP,A)
【文献】特開2008-025219(JP,A)
【文献】特開2017-072020(JP,A)
【文献】特開2018-021303(JP,A)
【文献】特開2007-051518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02C 1/00 - 5/02
E02D 27/00 - 27/52
E02D 17/00 - 17/20
E02B 3/04 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の流水を通すと共に土石や流木を捕捉する捕捉体を備える堰堤であって、
地山の表面に沿って追随して設けられる型枠部と、
前記型枠部内に構築され、施工位置における河川の地山に堆積した土砂にセメントを加えたソイルセメントを用いて作られた基礎部と、を備え、
前記捕捉体は、前記基礎部に一部が埋設された状態で立設されていることを特徴とする堰堤。
【請求項2】
前記型枠部は、布製であることを特徴とする請求項1に記載の堰堤。
【請求項3】
前記基礎部の一部は、プレキャストコンクリートから構築され、前記プレキャストコンクリートに前記捕捉体が立設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の堰堤。
【請求項4】
河川の流水を通すと共に土石や流木を捕捉する捕捉体を備える堰堤の構築方法であって、
施工位置における河川の地山に堆積した土砂を取り除くステップと、
前記地山に堆積した土砂を取り除いた後、前記地山の表面に沿って型枠部を追随させて設置するステップと、
取り除かれた土砂にセメントを加えてソイルセメントを作るステップと、
前記型枠部内に前記ソイルセメントを打設して基礎部を作るステップと、
前記ソイルセメントの固化前に前記捕捉体の一部を埋設して、前記基礎部に前記捕捉体を立設するステップと、
を有することを特徴とする堰堤の構築方法。
【請求項5】
プレキャストコンクリートに前記捕捉体の一部を予め埋設するステップと、
前記ソイルセメントの固化前に前記捕捉体の一部が埋設された前記プレキャストコンクリートを埋設して、前記ソイルセメントと前記プレキャストコンクリートとを一体化させるステップと、
を有することを特徴とする請求項に記載の堰堤の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堰堤及び堰堤の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川の土石流対策工として、上流から流れてくる土砂、岩石及び流木等を捕捉する砂防堰堤が知られている。砂防堰堤の一例として、透過型砂防堰堤が知られている。透過型砂防堰堤は、河川の両岸から中程に向けてそれぞれ突き出た一対の袖部を備えており、一対の袖部の間には水を通す開口が設けられている。この開口には捕捉体が設けられており、捕捉体は、粒径の小さな土砂や水を通過させつつ岩石や流木等を捕捉する(例えば、特許文献1参照。)。
捕捉体は、土石流の衝撃や土圧、水圧に対する安定性を確保するために、コンクリートで構築された基礎に設けられている。基礎としてコンクリートを用いるのは、材料が均一で施工場所での強度の管理が容易であることと、コンクリートの単位体積当たりの重量が大きいため、基礎の重量が捕捉体の安定性の向上に寄与するためである。
図4に示すように、土砂災害が発生した場所に堰堤100を構築する場合、地山Gに堆積した不安定な状態の土砂Sを取り除き、地山Gを掘削して型枠を設置し、両岸から延びる一対の袖部101を構築する。その後、袖部101の間の開口101aに型枠を設置し、コンクリートを打設して基礎102を構築し、基礎102に捕捉体103の下端部を埋設して基礎102の上面に捕捉体103を立設する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-040081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の堰堤の構築においては、コンクリートの根入れを確保した深さまで安定した地山を掘削する必要があるため、作業時間がかかり、効率的ではなかった。したがって、早急な復旧工事が求められる災害現場に適していないという問題があり、改善が求められていた。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、施工に要する作業時間を短縮し、効率的に構築できる堰堤及び堰堤の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、河川の流水を通すと共に土石や流木を捕捉する捕捉体を備える堰堤であって、地山の表面に沿って追随して設けられる型枠部と、前記型枠部内に構築され、ソイルセメントを用いて作られた基礎部と、を備え、前記捕捉体は、前記基礎部に一部が埋設された状態で立設されていることを特徴とする。
【0007】
また、前記型枠部は、布製であることが好ましい。
【0008】
また、前記基礎部の一部は、プレキャストコンクリートから構築され、前記プレキャストコンクリートに前記捕捉体が立設されていることが好ましい。
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、河川の流水を通すと共に土石や流木を捕捉する捕捉体を備える堰堤の構築方法であって、地山の表面に沿って型枠部を追随させて設置するステップと、ソイルセメントを作るステップと、前記型枠部内に前記ソイルセメントを打設して基礎部を作るステップと、前記ソイルセメントの固化前に前記捕捉体の一部を埋設して、前記基礎部に前記捕捉体を立設するステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記型枠部の設置前に、前記地山に堆積した土砂を取り除くステップを有することが好ましい。
【0011】
また、前記ソイルセメントは、取り除かれた土砂を用いて作られることが好ましい。
【0012】
また、プレキャストコンクリートに前記捕捉体の一部を予め埋設するステップと、前記ソイルセメントの固化前に前記捕捉体の一部が埋設された前記プレキャストコンクリートを埋設して、前記ソイルセメントと前記プレキャストコンクリートとを一体化させるステップと、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様によれば、施工に要する作業時間を短縮し、効率的に堰堤を構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】堰堤の正面図である。
図2】堰堤の構築方法を説明する図である。
図3】堰堤の変形例を説明する正面図である。
図4】従来の堰堤の構築方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施の形態は一つの例示であり、本発明の範囲において種々の形態をとりうる。
【0016】
<堰堤の構成>
堰堤は、土石流等の土砂災害による被害を軽減するために、河川を横切るように一方の岸から他方の岸にわたって設けられている。以下で説明する堰堤は、特に、土石流等の土砂災害が発生した際に、早急な復旧工事が求められる災害現場に設けることが適している。緊急性を要さず、十分な工期をもって堰堤を構築する場合には、図4で示したように、それぞれの岸に連なる一対の袖部を構築し、一対の袖部の間の開口に基礎部を構築し、この基礎部に捕捉体を立設することが好ましい。
図1に示すように、堰堤1は、型枠部2と、基礎部3と、捕捉体4と、を備えている。
【0017】
(型枠部)
図1に示すように、型枠部2は、基礎部3を構築するソイルセメントを打設する際の型枠となるものである。型枠部2は、基礎部3を構築する際の型枠であると共に、打設したソイルセメントが地山Gに流出することを防止するものである。ソイルセメントが固化した後、型枠部2は、基礎部3と一体化された状態で、基礎部3と地山Gとの間に存在しており取り外すことなく、残置される。型枠部2は、地山Gの表面に沿って追随して設けられるもの、具体的には、型枠部2は、高強度の合成繊維から形成された布製のマット(いわゆる布製型枠)から構成されている。これは、堰堤1が地山Gを掘削しないで構築されることから、重機(掘削機)によって地山Gを整地することがないため、型枠部2を地山Gの表面に沿って設けることで、地山Gと型枠部2との間に空間を生じさせないようにするためである。型枠部2は、布製に限られず、地山Gの表面に沿って追随して設けることができれば、内部にモルタルや砂等を充填した袋体を河川の地山Gに敷き詰めて型枠部2としてもよい。
【0018】
(基礎部)
図1に示すように、基礎部3は、型枠部2内に構築され、捕捉体4を立設する基礎(下部工)となるものである。基礎部3は、土石流の衝撃や土圧、水圧に対する安定性を確保するために、ソイルセメントを用いて作られている。ソイルセメントは、堰堤1を構築する施工現場の土砂にセメントを加えて混練することにより作成されている。施工現場の土砂としては、土砂災害の発生後に河川の地山Gに堆積した土砂を用いることが好ましい。これは、堆積した土砂は締め固められておらず、不安定な状態のために取り除く必要があり、取り除いた土砂を別の場所に運搬して処分するよりも基礎部3の構築に用いることで資源を有効利用することができるからである。
基礎部3は、地山Gの表面に沿って配置された型枠部2にソイルセメントが打設されて構築されるため、基礎部3の底面側は、地山Gの表面に沿って形成されている。基礎部3の上面側は、捕捉体4を立設するために平坦に均されている。
【0019】
(捕捉体)
図1に示すように、捕捉体4は、流水を通しつつも、土石流に含まれる岩石や流木等の大きな物体を捕捉して下流への流出を防ぐものである。捕捉体4は、例えば、複数の柱部41と複数の梁部42とを備えており、互いに連結されて正面視格子状に形成されている。捕捉体4は、その正面が河川の上流及び下流に対向するように、基礎部3に一部(下端部)が埋設された状態で立設されている。
柱部41は、例えば、横断面が円形状の鋼管から形成されている。柱部41は、堰堤1の延在方向(河川の幅方向)に沿って、互いに所定の間隔をあけて基礎部3に立設されている。
梁部42は、例えば、横断面が円形状の鋼管から形成されている。梁部42は、並んで設けられている柱部41間に架け渡されている。梁部42は、捕捉体42の高さ方向に沿って所定の間隔をあけて柱部41に設けられている。
柱部41と梁部42は、それぞれの端部に設けられたフランジ同士をボルト及びナットの締結具で連結してもよいし、梁部42を柱部41に溶接にて連結してもよい。
なお、基礎部3に設置される捕捉体4は、河川の幅に応じて、その大きさや設置数量を自由に変更することができる。図1においては、基礎部3に捕捉体4を2つ並んで設けた例を図示している。
【0020】
<堰堤の構築方法>
図2を用いて、堰堤1の構築方法について説明する。
土石流等の土砂災害が発生した場合、河川の地山Gには大量の土砂Sが堆積した状態となっている。この土砂Sは、締め固められていないため、不安定な状態となっている。
このような場所に堰堤1を構築する際には、図2(a)に示すように、重機Eを用いて地山Gに堆積した不安定な状態の土砂Sを取り除く(ステップS1)。
次に、図2(b)に示すように、地山Gの表面に沿って型枠部2を追随させて設置する(ステップS2)。型枠部2における河川の上流側及び下流側には通常の木製型枠を設置し、型枠部2と木製型枠とで施工位置に囲まれた空間を形成する。
次に、重機Eにて取り除いた施工現場の土砂Sを用いてソイルセメントを作る(ステップS3)。ソイルセメントは、取り除いた土砂Sに礫とセメントと水を加えて混練した、流動性を有する流動ソイルセメントである。なお、ソイルセメントは、型枠部2の設置作業に並行して作る方が作業効率の観点から好ましいが、作業場所に制約がある場合には、必ずしも型枠部2の設置とソイルセメントの作成を並行して行う必要はない。
次に、図2(c)に示すように、設置された型枠部2の内部に作成したソイルセメントを打設して基礎部3を作る(ステップS4)。ソイルセメントを打設した後、固化する前に、上面を平坦に均しておくことが好ましい。
次に、図2(d)に示すように、ソイルセメントの固化前に捕捉体4の一部を基礎部3に埋設して、基礎部3に捕捉体4を立設する(ステップS5)。
捕捉体4を基礎部3に立設した後、ソイルセメントが固化することにより、堰堤1が完成する。
【0021】
以上のような堰堤1によれば、地山Gの表面に沿って追随して型枠部2を設け、この型枠部2にソイルセメントを打設して基礎部3を構築することができるので、基礎部3の根入れを確保するために地山Gを掘削する必要がなくなる。よって、堰堤1を構築する作業時間を大幅に短縮することができ、効率的に堰堤1を構築することができる。
また、基礎部3は、施工現場の土砂Sを用いたソイルセメントによって構築されるため、土砂を別の場所から施工現場に運搬してくる必要がなくなり、施工コストを低く抑えることができる。
特に、災害発生後の現場に堰堤1を構築する場合には、河川に堆積した、取り除かなければならない不安定な土砂Sを取り除き、この取り除いた土砂Sをソイルセメントの材料として用いることができるので、土砂Sの搬出量も大幅に削減でき、資源を有効に活用することができる。この場合においても、取り除かれるのは堆積した土砂Sだけであり、地山Gが掘削されることはない。
また、型枠部2は、布製であることから、地山Gの表面に沿って的確に追随して設置することができる。
【0022】
<その他>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。また、例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更することができる。
例えば、堰堤1は、災害後の復旧工事にて行われる場合を例に挙げて説明したが、このような場合に限らず、袖部を構築することが困難な河川の幅が狭い場所においても適用することができる。この場合、ソイルセメントは河川の岸にある土砂を利用して作ることができる。
【0023】
また、図3に示すような堰堤1aとしてもよい。具体的には、図3に示すように、基礎部3aの一部は、プレキャストコンクリート31の床板から構築されており、このプレキャストコンクリート31に捕捉体4の一部が埋設されて立設されている。プレキャストコンクリート31は、型枠部2に打設されたソイルセメント32に埋設されており、ソイルセメント32とプレキャストコンクリート31が一体となって基礎部3aを形成している。ここで、プレキャストコンクリート31は、その上面がソイルセメント32の上面とほぼ面一となるようにソイルセメント32に埋設されている。その他の構成については、上記の実施の形態における堰堤1と同じである。
【0024】
堰堤1aを構築する際には、堰堤1aの施工現場での作業とは別に、工場等でプレキャストコンクリート31に捕捉体4の一部を予め埋設して、プレキャストコンクリート31と捕捉体4とを一体化させておく(ステップS0)。プレキャストコンクリート31に一体化された捕捉体4は、工場等から堰堤1aの施工現場に搬送される。
上記の実施の形態のステップS4と同様に、ソイルセメント32を型枠部2に打設した後、上記のステップS5に代えて、ソイルセメント32の固化前に、捕捉体4の一部が埋設されたプレキャストコンクリート31を埋設して、ソイルセメント32とプレキャストコンクリート31とを一体化させる(ステップS5a)。このとき、プレキャストコンクリート31は、その上面がソイルセメント32の上面とほぼ面一となるようにソイルセメント32に埋設する。ソイルセメント32が固化することで、ソイルセメント32とプレキャストコンクリート31とが一体化され、堰堤1aが構築される。
【0025】
以上のような堰堤1aにおいても、地山Gの表面に沿って追随して型枠部2を設け、この型枠部2にソイルセメント32を打設し、捕捉体4を有するプレキャストコンクリート31を打設されたソイルセメント32に埋設するだけで基礎部3aを構築することができるので、基礎部3aの根入れを確保するために地山Gを掘削する必要がなくなる。よって、堰堤1aを構築する作業時間を大幅に短縮することができ、効率的に堰堤1aを構築することができる。特に、堰堤1aの施工現場に堆積した土砂Sの量が少ない等、ソイルセメント32の作成量に制約がある場合には、不足分をプレキャストコンクリート31で補って基礎部3aを構築することができる。
【符号の説明】
【0026】
1,1a 堰堤
2 型枠部
3,3a 基礎部
4 捕捉体
31 プレキャストコンクリート
32 ソイルセメント
41 柱部
42 梁部
E 重機
S 土砂
図1
図2
図3
図4