(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】制振補強システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20231020BHJP
E04H 9/14 20060101ALI20231020BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20231020BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
E04H9/14 G
F16F15/02 E
F16F15/023 A
F16F15/02 L
(21)【出願番号】P 2019167217
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2019136799
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593063161
【氏名又は名称】株式会社NTTファシリティーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 明徳
(72)【発明者】
【氏名】北原 進之介
(72)【発明者】
【氏名】林 政輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幹夫
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-053135(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074131(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/097216(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面に支持されていている第1補強部材であって、さらに前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記建造物の層における第2構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記第1補強部材と前記第2補強部材は、
4角形枠状に形成され、前記枠の4辺が互いに
ピンで連結されている
制振補強システム。
【請求項2】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面に支持されていている第1補強部材であって、さらに前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記建造物の層における第2構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記第2補強部材は、
4角形枠状に形成され、前記枠の4辺が互いに
ピンで連結されていて、
前記第1補強部材は、前記
枠とは別体で形成されている
制振補強システム。
【請求項3】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面に設けられた第1結合部材に支持されていている第1補強部材であって、さらに前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記建造物の層における第2構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記第2補強部材は前記第2構面に設けられた第2結合部材に支持されていて、
前記第1補強部材は前記第1構面を有する梁の材軸直交方向の反力が生じないような位置に設けられている、
制振補強システム。
【請求項4】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面に支持されていている第1補強部材であって、さらに前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記建造物の層における第2構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記第1補強部材
と前記第2補強部材は、1つのフレームを構成する辺の構造材であり、
前記第1補強部材と前記辺の構造材同士が互いにピンで支持されている
制振補強システム。
【請求項5】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面または前記第1構面に対向する第2構面に支持されていて前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記第2構面または前記第1構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記制振ダンパーは、前記第2補強部材における前記第1構面側に設けられた第一V字ブレースと前記第2構面側に設けられた第二V字ブレースとの間に設置されている
制振補強システム。
【請求項6】
前記制振ダンパーは前記第2構面に設けられ、前記第1構面に支持された前記第1補強部材に設けられた前記第2補強部材に連結されている請求項4に記載された制振補強システム。
【請求項7】
前記制振ダンパーは前記第1構面に設けられ、前記第2構面に支持された前記第1補強部材に設けられた前記第2補強部材に連結されている請求項4に記載された制振補強システム。
【請求項8】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面または前記第1構面に対向する第2構面に支持されていて前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記第2構面または前記第1構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記第2補強部材は略V字状のブレースであり、前記第1補強部材にピンで支持され、または剛結合されている
制振補強システム。
【請求項9】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面または前記第1構面に対向する第2構面に支持されていて前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記第2構面または前記第1構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記第1補強部材は、前記層間に設けられた前記柱に固定された前記支持部によってピンで支持されている
制振補強システム。
【請求項10】
前記支持部に形成された長穴に前記ピンが挿通されている請求項9に記載された制振補強システム。
【請求項11】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面または前記第1構面に対向する第2構面に支持されていて前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記第2構面または前記第1構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記支持部に設けられたレールの上を前記第1補強部材に設けた回転部材及び走行部材が相対移動可能とした
制振補強システム。
【請求項12】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面または前記第1構面に対向する第2構面に支持されていて前記層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、
前記第2構面または前記第1構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備え、
前記支持部は、前記柱に固定された第一支持部と、前記第1補強部材に固定された第二支持部と、前記第一支持部及び第二支持部に揺動可能に接続された仲介部材と、を有している
制振補強システム。
【請求項13】
層を成す建造物の制振補強システムであって、
前記建造物の層における第1構面に第1ピンを介して支持されていている第1補強部材であって、さらに前記層間に設けられた柱に固定された支持部に第2ピンを介して支持された第1補強部材と、
前記建造物の層における第2構面及び前記第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、
前記第2補強部材に設置されていて前記第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、
を備える制振補強システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば制振ダンパーを用いて建造物を耐震補強する制振補強システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な制振ダンパーは、装置の内部に封入されたオイルや粘性体等の抵抗力を利用して減衰力を得る構造になっており、減衰特性の異なる複数種類の制振ダンパーから好適なものを選択して用いる。
このような制振ダンパーを用いた制振構造として、例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。この制振構造は、建造物において、各一対の柱と梁で囲われた四角形枠状の空間内に壁状摩擦ダンパーとして下側の梁に固定された下側固定部と上側の梁に固定された上側固定部とを相対摺動可能に備えている。また、柱と平行に延びる架台と上側固定部との間にオイルダンパーが固定されており、小地震や風等の小規模な振動は壁状摩擦ダンパーにより最小限に抑えると共に、大地震にはオイルダンパーと壁状摩擦ダンパーの組み合わせによってエネルギー吸収性能が得られるようにしている。
【0003】
また、制振ダンパーを用いて建造物を補強する制振補強システムでは、柱及び梁に内接して補強枠を配置し、あと施工アンカー及びコンクリート打設により既存躯体と一体化する。制振ダンパーの取付部材はその補強枠の隅角部に取り付けられることが多い。例えば、補強枠の隅角部にV字ブレースが固定され、このV字ブレースに制振ダンパーを設置したものが知られている。
【0004】
図15に示す制振補強システムでは、建造物の一対の柱P1、P2と梁Q1、Q2で囲われた四角形枠状の開口部100に内接して設けられた補強枠108にV字ブレース101を配置したものが知られている。しかも、V字ブレースの頂部102と補強枠108の隅角部の間に制振ダンパー103が設置され、水平方向の振動に対して制振ダンパー103の減衰力を建造物に無理なく伝達させることができる。
また、
図16に示す制振補強システムでは、一対の柱P1、P2と梁Q1、Q2を連結した四角形枠状の開口部100の対向する梁Q1,Q2の中央に上部固定部104、下部固定部105がそれぞれ固定されている。上部固定部104及び下部固定部105の間にゴム等の粘弾性体106が設置された壁型の制振ダンパー107が設けられている。そのため、水平方向の振動に対して制振ダンパー107の減衰力を建造物に伝達させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された制振構造では、オイルダンパーとは別に、壁状摩擦ダンパーとして下側固定部と上側固定部、そして下側固定部に対して上側固定部を相対移動させるための締結部と長孔が必要である。そのため、構造が複雑である上に開口部に設置される窓等と干渉する恐れがあるという問題が生じる。
また、上述した制振補強システムの開口部100にV字ブレース101を設ける構造では、制振ダンパーやその取付構造等を設置することで開口部を分断したり開口部に設置される窓と干渉したりする恐れがある。そのため、補強前の建物機能を維持できる補強位置を選定することが困難な場合がある。
【0007】
このような問題を改善する技術として、壁型の制振ダンパー107を用いた制振補強システムが提案されている。しかしながら、壁型の制振ダンパー107を取り付ける場合、梁Q1、Q2を補強する必要がある上に開口部100の上下階で補強工事等が必要であり、煩雑で施工コストの上昇を招くという問題がある。
【0008】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、補強構造をコンパクトに収めて開口部の分断や窓への干渉を抑制でき、梁等の補強が不要で施工コストの上昇を抑制できる制振補強システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による制振補強システムは、層を成す建造物の制振補強システムであって、建造物の層における第1構面または第1構面に対向する第2構面に支持されていて層間に設けられた柱に固定された支持部に支持された第1補強部材と、第2構面または第1構面及び第1補強部材の間に支持された第2補強部材と、第2補強部材に設置されていて第2補強部材に生じる水平方向の振動を減衰させる制振ダンパーと、を備えたことを特徴とする。 本発明によれば、建造物の層における空間に設けた第1構面及び第2構面の間に第1補強部材と第2補強部材を設置し、第2補強部材に作用する水平方向の振動を第2補強部材に設置した制振ダンパーで減衰させるため、柱と梁に内接する補強枠やV字ブレースを設ける必要がない。
【0010】
また、第2補強部材は第1補強部材との組み合わせにより、または第1補強部材とは別個にフレーム状に形成されていることが好ましい。
フレーム状に形成された第2補強部材に制振ダンパーを設置したため、第2補強部材のフレームに伝達される水平方向の振動を制振ダンパーで減衰させることができる。
【0011】
また、第1補強部材は第1構面または第2構面に設けられた第1結合部材に支持され、第2補強部材を第2構面または第1構面に設けられた第2結合部材に支持されていることが好ましい。
第1構面または第2構面に伝達される振動を第1結合部材または第2結合部材を介して第1補強部材または第2補強部材に伝達でき、さらに第2補強部材または第1補強部材から第2結合部材または第1結合部材を介して第2構面まで伝達できる。
なお、第1結合部材及び第2結合部材において梁の材軸直交方向の反力が生じないように第1結合部材及び第2結合部材の位置を設定したうえで、第1結合部材及び第2結合部材において第1補強部材及び第2補強部材を例えばピン支持とし、梁への応力の伝達方向を梁の材軸方向のみとすることで、上下階(層)での補強工事が必要なく補強工事を当該階の空間のみで完結させることができる可能性が高い。
【0012】
また、第1補強部材を含めてフレーム状に形成された第2補強部材は、フレームを構成する辺の構造材同士が互いにピンで支持されていてもよい。
第2補強部材は第1補強部材を含めてフレームを形成しており、しかもフレームの構成材同士がピンで支持されているため、第2補強部材の構成材に曲げモーメントやせん断力が発生せず、構成材の接合部をシンプルなディテールとすることができる。
【0013】
また、制振ダンパーは、第2補強部材における第1構面側に設けられた第一V字ブレースと第2構面側に設けられた第二V字ブレースとの間に設置されていてもよい。
第1構面の水平方向の振動が第2補強部材に伝達されると、第2補強部材における第一V字ブレース及び第二V字ブレースを介して制振ダンパーで減衰させることができる。
【0014】
また、制振ダンパーは第2構面に設けられ、第1構面に支持された第1補強部材に設けられた第2補強部材に連結されていることが好ましい。
第1構面に設けられた第1補強部材と第2補強部材が揺動した場合でも第2構面に設けられた制振ダンパーによって減衰させることができる。
【0015】
また、制振ダンパーは第1構面に設けられ、第2構面に支持された第1補強部材に設けられた第2補強部材に連結されていることが好ましい。
この場合でも、第2構面側に設けられた第1補強部材と第2補強部材が揺動した場合でも第1構面に設けられた制振ダンパーによって減衰させることができる。
【0016】
また、第2補強部材は、第1補強部材にピンで支持され、または剛結合されていてもよい。
第2補強部材は、第1補強部材にピンで支持された場合には、第1補強部材に曲げモーメントを伝達しないため第1補強部材の負担が小さい。一方、第1補強部材に剛結合された場合には、第1補強部材に曲げモーメントを伝達するため第1補強部材の負担が大きくなるが、制振ダンパーに生じる変位(速度)が大きくなり減衰力が発揮されやすい。
【0017】
また、第1補強部材は、層間に設けられた柱に固定された支持部によってピンで支持されていてもよい。
第1補強部材はピンで支持されているため、柱に曲げモーメントを伝達せず、柱の負担を軽減することができる。
【0018】
また、支持部に形成された長穴にピンが挿通されていてもよい。
第1補強部材は支持部に形成された長穴に挿通されたピンをガイドとして水平方向に移動可能であるため、柱への応力の伝達方向も柱の材軸方向のみとなり、柱の補強工事が不要な可能性が高い。
【0019】
また、支持部に設けられたレールの上を第1補強部材に設けた回転部材及び走行部材が相対移動可能としてもよい。
第1補強部材は支持部に設けられたレールの上を水平方向に相対移動可能で回転可能であるため、柱への応力の伝達方向も柱の材軸方向のみとなり、柱の補強工事が不要な可能性が高い。
【0020】
また、支持部は、柱に固定された第一支持部と、第1補強部材に固定された第二支持部と、第一支持部及び第二支持部に揺動可能に接続された仲介部材と、を有していてもよい。
支持部は柱に固定された第一支持部と第1補強部材に固定された第二支持部とを仲介部材で揺動可能に接続したため、柱への応力の伝達方向も柱の材軸方向のみとなり、柱の補強工事が不要な可能性が高い。
【発明の効果】
【0021】
本発明による制振補強システムによれば、建造物の層間に設けられた第1補強部材及び第2補強部材を柱及び梁に内接する補強枠やV字ブレースを設けることなくコンパクトに納めることができて制振ダンパーの減衰力を伝達できる。そのため、第1補強部材及び第2補強部材が層間に形成された開口部の分断や開口部に設置する窓との干渉を生じることなく、建築計画に整合した補強位置を選定することができる。
【0022】
また、層間に設けられた第1補強部材及び第2補強部材によって制振ダンパーの減衰力を柱及び梁の材軸方向の応力として伝達するため、柱及び梁への影響が小さく柱及び梁等の補強が不要であるため、施工コストの上昇を抑制することができる。しかも、補強工事を建造物の当該層間の開口部のみで完結させることができるため、開口部の上下層部分の補強工事が不要であり施工コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一実施形態による制振補強装置を建造物の層間の架構に取り付けた状態の要部説明図である。
【
図2】
図1に示す補強部材の支持部のA-A線断面図である。
【
図3】(a)は
図1に示す上受け部及び補強部材のB-B線断面図、(b)は同図(a)の変形例による同様な断面図である。
【
図4】第二実施形態による制振補強装置を示す要部説明図である。
【
図5】第三実施形態による制振補強装置の要部説明図である。
【
図6】第四実施形態による制振補強装置の要部説明図である。
【
図7】第五実施形態による制振補強装置の要部説明図である。
【
図8】(a)、(b)は補強部材の振動状態を示す図である。
【
図9】第六実施形態による制振補強装置の要部説明図である。
【
図10】(a)、(b)は補強部材の振動状態を示す図である。
【
図11】第七実施形態による制振補強装置の要部説明図である。
【
図12】第七実施形態による制振補強装置の変形例を示す要部説明図である。
【
図13】補強部材を柱に支持させる支持部の別例を示す要部説明図である。
【
図14】(a)、(b)は
図13に示す支持部による補強部材の振動状態を示す図である。
【
図15】従来例によるV字ブレースを用いた制振補強構造を示す要部説明図である。
【
図16】他の従来例による壁型の制振ダンパーを用いた制振補強構造を示す要部説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各実施形態による制振ダンパーを備えた制振補強装置(制振補強システム)について添付図面により説明する。
図1乃至
図3は第一実施形態による制振補強装置1を示すものである。
図1に示す制振補強装置1は、例えば鉄筋コンクリート造の建造物BLの下層部の層間の架構に取り付けられている。なお、制振補強装置1の設置箇所は低層部に限らず高層部等、任意の層(階)に設置してもよい。制振補強装置1は、建造物BLの架構の相対変位可能な任意の二層間の空間(開口部)2に配設されている。この建造物BLは、例えば1フロアの左右の柱P1及び柱P2と上下の梁Q1及び梁Q2とで仕切られた空間2を上下左右に多数有している。
【0025】
例えば空間2内において、対向する柱P1、柱P2の各上端部の内面3には支持部5が締結ボルト(図示せず)等で固定されている。支持部5は、例えば
図2に示すように、柱P1、P2の内面3に締結ボルト等で固定する板状の固定部5aと、後述する補強部材8の各端部を揺動可能に支持するための断面略コの字状の受け部5bと、がそれぞれ一体に構成されている。受け部5bの対向する両側部5cには補強部材8の端部を支持するための締結ボルト等のピン6が締結ナット等で固定されている。ピン6は補強部材8の端部と両側部5cを貫通している。
【0026】
補強部材8は、
図3(a)に示すように、例えば断面略ロの字状をなす棒状の鋼材からなり、その両端部はそれぞれ支持部5の受け部5b内に収められてピン6で回動可能に支持されている。また、空間2の上側の梁Q1における下側の梁Q2に対向する面(下面)は第1構面9とされ、下側の梁Q2の上側の面(上面)は第2構面10とされている。第1構面9の長手方向中央には、
図3(a)に示すように、断面視略コの字状の上受け部11が締結ボルト等で固定されている。上受け部11の内部には補強部材8の長手方向中央部が相対揺動可能に収納されている。
しかも、上受け部11の両側部を貫通して装着された締結ボルト等の上部ピン13は締結ナット等で両端を固定され、補強部材8を貫通して支持している。補強部材8は上部ピン13に対して揺動可能に支持されている。そのため、柱P1、P2が水平方向に揺動した際に上部ピン13に対して補強部材8が揺動可能とされている。
【0027】
補強部材8の下面には空間2内の下方に延びるフレーム15が連結されている。フレーム15は、補強部材8の中央部を上枠として左右の縦枠16、17と下枠18とで例えば四角形枠状に形成されており、下枠18は下側の梁Q2の第2構面10近傍に位置している。縦枠16、17の各上端部は補強部材8に上部連結ピン20でそれぞれ揺動可能に連結され、各下端部は下枠18に下部連結ピン21でそれぞれ揺動可能に連結されている。
【0028】
下側の梁Q2の第2構面10における長手方向中央には断面視略コの字状の下受け部23が締結ボルト等で固定され、下受け部23の内部には下枠18の長手方向中央部が相対揺動可能に収納されている。しかも、下受け部23の両側部間に装着された締結ボルト等の下部ピン22は下枠18を貫通して締結ナット等で支持されている。下受け部23及び下部ピン22は、
図3(a)に示す上受け部11及び上部ピン13と略同一構成を有している。
そのため、下枠18は下部ピン22に対して揺動可能とされている。柱P1、P2が水平方向に揺動した際に下部ピン22に対して下枠18が揺動可能とされている。なお、上受け部11及び上部ピン13と下受け部23及び下部ピン22の取り付け位置は、梁Q1、Q2の材軸に直交する方向の反力が生じないように例えば梁Q1、Q2の長手方向中央部に設置することが好ましい。
【0029】
図1に示す四角形枠状のフレーム15において、補強部材8と縦枠16,17との各接合部から下方に頂部をなす第一V字ブレース24が垂下している。第一V字ブレース24は一方の縦枠17側の辺24aが他方の縦枠16側の辺24bより短い辺とされ、頂部24cが例えば線状または板状に下方に垂下されている。しかも、辺24aの端部は補強部材8と縦枠17との接合部に連結され、辺24bの端部は補強部材8と縦枠16との接合部に連結されている。
【0030】
同様に、下枠18と縦枠16,17との各接合部から延びて上方に頂部をなす第二V字ブレース25が上方に突出している。第二V字ブレース25は一方の縦枠17側の辺25aが他方の縦枠16側の辺25bより長い辺とされ、頂部25cが上方に例えば線状または板状に突出している。そして、第一V字ブレース24と第二V字ブレース25は空間2内で略回転対称に対向配設され、頂部24cと頂部25cが水平方向に対向配置されている。しかも、辺25aの端部は下枠18と縦枠17との接合部に連結され、辺25bの端部は下枠18と縦枠16との接合部に連結されている。
第一V字ブレース24と第二V字ブレース25は柱P1、P2と梁Q1、Q2の接合部に連結されていないため、フレーム15と柱P1の間の空間2a、フレーム15と柱P2の間の空間2bを建築計画上有効に使用することができる。
【0031】
第一V字ブレース24の頂部24cと第二V字ブレース25の頂部25cには制振ダンパー26が連結されている。制振ダンパー26は例えばオイルダンパー、摩擦ダンパーまたは粘弾性体(高減衰ゴム)等の任意のダンパーを採用可能である。制振ダンパー26は例えばオイルや粘性体等を内蔵したシリンダ26aが一方の頂部25cに固定され、シリンダ26a内に進退して振動を減衰させるピストンロッド26bが他方の頂部24cに固定されている。
制振ダンパー26は第一V字ブレース24と第二V字ブレース25の間で水平方向に配設されており、フレーム15に生じる水平方向の振動を制振ダンパー26によって減衰させることができる。
【0032】
また、下側の梁Q2の第2構面10における長手方向中央には断面視略コの字状の下受け部23が締結ボルト等で固定され、下受け部23の内部にはフレーム15の下枠18の長手方向中央部が収納されている。しかも、下受け部23の両側部間に装着された下部ピン22は下枠18を貫通して支持されている。そのため、柱P1、P2、梁Q1、Q2が水平方向に揺動した際に下部ピン22に対して下枠18が揺動可能とされている。
なお、補強部材8は断面ロの字状に限定されるものではなく、例えばH形状で
図3(b)に示すように上受け部11A(または下受け部23A)との取合い部のみ断面略T字状に形成されていてもよい。この場合、断面略T字の中央軸部を上部ピン13(または下部ピン22)が貫通して補強部材8Aを支持している。
【0033】
本第一実施形態による制振補強装置1では、建造物BLの層間の空間2を構成する柱P1、P2、梁Q1、Q2に対して、柱P1、P2間の上部に補強部材8を取り付けた。補強部材8をフレーム15の一辺として縦枠16、17と下枠18とを連結して四角形枠状を構成している。更に、補強部材8を上受け部11の上部ピン13で支持し、下枠18を下受け部23の下部ピン22で支持した。フレーム15の縦枠16、17は補強部材8に上部連結ピン20で支持し、下枠18に下部連結ピン21で支持した。
【0034】
このように上部ピン13、下部ピン22、上部連結ピン20、下部連結ピン21で、補強部材8及びフレーム15を支持するため、第1構面9及び第2構面10に伝達される応力を、各構面に沿った応力(梁Q1,Q2の材軸方向の軸力)のみにすることができる。そのため、上下階での梁Q1、Q2の補強工事が不要で建造物BLの補強工事を空間2内のみで施工できる。
【0035】
本実施形態による制振補強装置1は上述した構成を備えており、次に地震や強風等で生じる振動に対して建造物BLの振動減衰方法について説明する。
地震発生時や強風発生時に地盤等の支持構造物が水平方向に振動すると、支持構造物に支持された建造物BLが応答して水平方向に振動する。建造物BLが地震等で振動して変形すると、架構の各空間(開口部)2の上層と下層とに水平方向の層間変位が生じる。即ち、建造物BLの振動により、空間2を構成する柱P1,P2と梁Q1、Q2がそれぞれ水平方向に往復運動する。
【0036】
これにより、補強部材8が各柱P1、P2の支持部5にピン6で支持されて水平方向に揺動し、水平方向に揺動する上側の梁Q1の第1構面9の上受け部11の上部ピン13を中心に補強部材8が揺動する。これにより、補強部材8はその両端部が上下方向に揺動するが、柱P1、P2で支持された支持部5のピン6によって鉛直方向の揺動を抑制する。そのため、鉛直方向の応力は両端のピン6を介して柱P1、P2に伝達される。
【0037】
また、上側の梁Q1及び下側の梁Q2はそれぞれ水平方向に振動する。空間2の上側では上部ピン13を介して補強部材8に伝達され、更に上部連結ピン20を介して左右の縦枠16、17を有するフレーム15を水平方向に揺動させる。一方、下側では下側の梁Q2から下部ピン22を介して水平方向に揺動するフレーム15の下枠18に伝達され、フレーム15を水平方向に揺動させる。
そして、上側の梁Q1側ではフレーム15の第一V字ブレース24が特定の周期で振動し、下側の梁Q2側では第二V字ブレース25が別個の周期で振動する。そのため、第一及び第二V字ブレース24,25の振動を頂部24c、25cで連結された制振ダンパー26によって減衰させることができる。
【0038】
本実施形態では、補強部材8及びフレーム15をピン6、上部ピン13、下部ピン22、上部連結ピン20、下部連結ピン21によって柱P1、P2、梁Q1、Q2に支持したため、下側の梁Q2の第2構面10に伝達される応力を第2構面10に沿った応力(梁Q2の材軸方向の軸力)のみにすることができる。
これに対し、仮に補強部材8及びフレーム15を柱P1、P2及び梁Q1、Q2に対して剛接合にすると、振動時に柱P1、P2、梁Q1、Q2に大きな曲げモーメントが発生する。そのため、柱P1、P2、梁Q1、Q2の補強工事が必要になる可能性が高い。
【0039】
上述したように本実施形態による制振補強装置1によれば、建造物BLの層間の空間2を構成する柱P1、P2間に補強部材8を取り付け、補強部材8を四角形枠状の一辺としてフレーム15を連結した。更に、補強部材8を上受け部11の上部ピン13で上側の梁Q1に支持し、下枠18を下受け部23の下部ピン22で下側の梁Q2に支持した。しかも、第一V字ブレース24、第二V字ブレース25は柱P1、P2及び梁Q1、Q2に内接する補強枠に取り付ける必要がない。
【0040】
また、本実施形態による制振補強装置1では、地震や強風等が生じると、補強部材8に生じる鉛直方向の振動を柱P1、P2に固定した支持部5のピン6によって伝達できる上に、梁Q1、Q2に生じる水平方向の振動を上部ピン13及び下部ピン22を介してフレーム15に伝達してフレーム15内に設けた制振ダンパー26によって減衰できる。しかも、梁Q1、Q2の中央で応力を伝達するが、その伝達方向は水平方向のみであるため梁Q1、Q2等への影響が小さい。
そのため、上下階での梁Q1、Q2の補強工事が不要で、建造物BLの補強工事を空間2内のみで施工できて補強工事の施工コストを低減できる。
【0041】
また、補強部材8やフレーム15を柱P1、P2間にコンパクトに納めることができるため、空間2を構成する部屋の分断や空間2に設置する窓への干渉を生じることがなく、建築計画に整合した補強を行える。
【0042】
なお、本発明は上述した第一実施形態による制振補強装置1に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能であり、これらはいずれも本発明に含まれる。以下に、本発明の他の実施形態や変形例等について説明するが、上述した実施形態と同一または同様な部分や部材には同一の符号を用いて説明を省略する。
【0043】
次に第二実施形態による制振補強装置1Aについて
図4により説明する。
本実施形態による制振補強装置1Aでは、空間2内に設置されたフレーム15は、補強部材8とは別個に上枠28が設置され、上枠28は左右の縦枠16,17に上部連結ピン20で連結されている。そのため、フレーム15は上枠28、下枠18、縦枠16、17とで四角形枠状に形成されている。そして、補強部材8の下面には、上受け部11と同様な構成を有する断面略コの字状の中間受け部31が上枠28の両端に設けられ、各中間受け部31内には上枠28が収納されている。各中間受け部31の両側部には上部連結ピン20がそれぞれ装着されている。上部連結ピン20に上枠28の両端を貫通させることで揺動可能に支持されている。
【0044】
そして、地震や強風等が生じると、空間2を構成する左右の柱P1、P2、上側の梁Q1及び下側の梁Q2はそれぞれ水平方向に振動する。上側の梁Q1では上部ピン13を介して補強部材8に伝達され、2つの中間受け部31に設けた上部連結ピン20を介してフレーム15の上枠28が水平方向に振動する。フレーム15の縦枠16、17も上部連結ピン20、下部連結ピン21を介して揺動する。
一方、下側の梁Q2が水平方向に揺動すると下受け部23及び下部ピン22を介してフレーム15の下枠18が水平方向に揺動するため、フレーム15が水平方向に揺動する。
【0045】
そして、上側の梁Q1側では第一V字ブレース24が特定の周期で振動し、下側の梁Q2側では第二V字ブレース25が別個の周期で振動する。そのため、第一及び第二V字ブレース24,25を頂部24c、25cで連結する制振ダンパー26によって、振動を減衰させることができる。
【0046】
次に、本発明の第三実施形態による制振補強装置1Bについて、
図5により説明する。 本実施形態による制振補強装置1Bでは、空間2内に設けた補強部材8は上側の梁Q1側に代えて下側の梁Q2側で、柱P1、P2の下部に支持部5を介してピン6で支持されている。しかも、補強部材8はその中央で、下側の梁Q2の第2構面10に固定した下受け部23の下部ピン22で揺動可能に支持されている。フレーム15は上枠28と左右の縦枠16,17と下枠18に代えて設けた補強部材8とで四角形枠状に形成されている。 しかも、上枠28は、上側の梁Q1の第1構面9に固定した上受け部11の上部ピン13が貫通して支持され、揺動可能とされている。縦枠16,17は上枠28に対して上部連結ピン20を介して揺動可能であり、補強部材8に対して下部連結ピン21を介して揺動可能である。
【0047】
従って、建造物BLが地震や強風等で振動した場合、補強部材8が各柱P1、P2の支持部5のピン6に支持されて水平方向に揺動し、水平方向に揺動する下側の梁Q2の第2構面10の下受け部23の下部ピン22を中心に補強部材8が揺動する。これにより、補強部材8はその両端部が上下方向に揺動するが、柱P1、P2で支持された支持部5のピン6によって鉛直方向の揺動を抑制する。そのため、鉛直方向の応力は両端のピン6を介して柱P1、P2に伝達される。
【0048】
また、上側の梁Q1の水平方向の振動により、上部ピン13を介してフレーム15の上枠28が水平方向に揺動する。また、下側の梁Q2の水平方向の振動により下部ピン22を介して補強部材8が水平方向に揺動する。これにより、フレーム15が水平方向に振動するため、上枠28の振動が第一V字ブレース24に伝達され、補強部材8の振動が第二V字ブレース25に伝達する。そして、頂部24cと頂部25cの間に設置された制振ダンパー26によって振動が減衰させられる。
【0049】
次に、本発明の第四実施形態による制振補強装置1Cについて、
図6により説明する。 本実施形態による制振補強装置1Cでは、空間2内に設けた補強部材8の両端部は上側の梁Q1の近傍で左右の柱P1、P2の上部に、支持部5に設けたピン6を介して支持されている。しかも、補強部材8は上側の梁Q1の第1構面9の中央部に固定した上受け部11の上部ピン13を介して揺動可能に支持されている。
また、フレーム15は上枠となる補強部材8と左右の縦枠16、17と下枠18とで四角形枠状に形成され、下枠18は下受け部23の下部ピン22を介して揺動可能に支持されている。下枠18は下側の梁Q2の第2構面10において中央部に固定した下受け部23内で下部ピン22により揺動可能に支持されている。
【0050】
フレーム15の内部において、第一及び第二V字ブレース24、25及び制振ダンパー26に代えて壁型の制振ダンパー35が設置されている。壁型の制振ダンパー35は、補強部材8の下面に連結された上部固定部材36と、下枠18の上面に連結された下部固定部材37と、上部固定部材36及び下部固定部材37の間に連結された粘弾性体38とで構成されている。
上部固定部材36及び下部固定部材37は例えば鋼材等の金属部材からなる剛体であり、例えば断面略台形板状に形成されている。粘弾性体38はゴム等の粘弾性材料からなり、例えば長方形板状に形成されている。壁型の制振ダンパー35は、上部固定部材36及び下部固定部材37の水平方向の振動を、粘弾性体38を水平方向に相対変位させることで減衰させることができる。
【0051】
本実施形態においても、梁Q1、Q2からフレーム15の補強部材8と下枠18に伝達される水平方向の振動を壁型の制振ダンパー35によって減衰させることができる。
【0052】
上述した第一乃至第四実施形態や変形例による制振補強装置1、1A、1B、1Cは、上側の梁Q1に上部ピン13を有する上受け部11を設けたり、下側の梁Q2に下部ピン22を有する下受け部23を設けて、補強部材8または上枠28を支持したり、下枠18または補強部材8を支持している。しかも、補強部材8や上枠28、下枠18や補強部材8を支持する上部ピン13や下部ピン22等はそれぞれ1つのピンで構成されている。しかし、本発明は、補強部材8や上枠28、下枠18や補強部材8を1つのピンで支持する構成に限定されるものではない。
【0053】
次に本発明の第五実施形態による制振補強装置1Dについて
図7及び
図8により説明する。
図7において、補強部材8の両端部を支持する柱P1、P2の支持部5は締結ボルト等のピン6を挿通させる穴が長穴40等のルーズホールとされている(
図7では一方のみを示している)。なお、補強部材8には第一実施形態と同様にフレーム15が配設されているものとする。
【0054】
そのため、強風や地震等が生じた際に、
図8(a)、(b)に示すように、建造物BLが振動して柱P1,P2と梁Q1、Q2がそれぞれ水平方向に往復運動する。すると、補強部材8は柱P1、P2の支持部5に対して材軸方向に相対移動可能とされ、補強部材8が水平方向に往復移動すると、その両端を貫通するピン6が支持部5の長穴40に対して相対移動する。そのため、柱P1、P2への応力の伝達方向も柱P1、P2の材軸方向のみとなり、柱P1、P2の補強工事を不要とすることができる。
【0055】
次に本発明の第六実施形態による制振補強装置1Eについて
図9及び
図10により説明する。
図9において、補強部材8の両端部を支持する柱P1、P2の支持部5は設けられていない。本実施形態では、柱P1、P2の空間2内にはレール保持部材43が固定され、レール保持部材43の上面にレール42が設置されている。レール42は補強部材8の長手方向に向けて設置されている。一方、補強部材8の両端部の下面には、球体41aとその受け部41bとを備えたボールジョイント41が設置され、受け部41bにはレール42上を走行可能な走行部材44が固定されている。なお、
図9、
図10では一方のレール42と走行部材44及びボールジョイント41とを示している。補強部材8は柱P1、P2に設けたレール42に走行部材44を載置させた状態で材軸方向に相対移動可能とされ、しかもボールジョイント41で回転可能とされている。なお、レール保持部材43は支持部に含まれる。
【0056】
そのため、強風や地震等が生じた際に、
図10(a)、(b)に示すように、建造物BLが振動して柱P1,P2と梁Q1、Q2がそれぞれ水平方向に往復運動する。すると、補強部材8は梁Q1の第一構面9の上部受け部11に設けられた上部ピン13に支持された状態で、柱P1、P2のレール保持部材43のレール42上を走行部材44と一体に水平方向に移動する。しかも、補強部材8は両端に設けたボールジョイント41等の回転部材を中心に回転可能である。補強部材8が水平方向に往復移動すると、その両端に設けた走行部材44がレール42上を相対移動するため、柱P1、P2への応力の伝達方向も柱P1、P2の材軸方向のみとなり、柱P1、P2の補強工事を不要とすることができる。
【0057】
次に第七実施形態による制振補強装置1Fについて
図11により説明する。
本実施形態による制振補強装置1Fでは、空間2内で補強部材8が梁Q1の第一構面9の上部受け部11に設けられた上部ピン13に支持されている。この補強部材8は両端部が柱P1、P2に固定された支持部5と共にピン6を貫通させている。補強部材8には例えばV字状のフレーム47が下方に向けて垂下して支持されている。
フレーム47の一方の辺部47aと他方の辺部47bの各一方の端部がそれぞれ上部連結ピン20によって補強部材8に支持され、他方の端部が互いに連結された略三角形枠状に形成されている。一方の辺部47aと他方の辺部47bの連結部は頂部47cとされている。なお、一方の辺部47aは他方の辺部47bより短く形成されているが、同一長さでもよいし、一方の辺部47aを他方の辺部47bより長く形成してもよい。
【0058】
また、梁Q2の第2構面10の中央付近には例えば筒型の制振ダンパー48が連結されている。制振ダンパー48に設けたシリンダ48aの一端部は梁Q2に設けられた下受け部23内に装着され、下部ピン22を貫通させて支持されている。制振ダンパー48の他端部にシリンダ48a内に進退して振動を減衰させるピストンロッド48bが、フレーム47の頂部47cに固定されている。制振ダンパー48は上述の制振ダンパー26と同様にオイルダンパー、摩擦ダンパー、粘弾性体等の任意のダンパーを採用可能である。
【0059】
本実施形態による制振補強装置1Fは上述の構成を備えているから、地震や強風等が生じると、空間2を構成する左右の柱P1、P2、上下の梁Q1、Q2はそれぞれ水平方向に振動する。上側の梁Q1では上部ピン13を介して補強部材8に振動が伝達され、2つの上部連結ピン20を介してフレーム47が水平方向に揺動する。一方、下側の梁Q2が水平方向に揺動すると下受け部23及び下部ピン22を介して制振ダンパー48が水平方向に別の周期で揺動する。
そして、フレーム47の振動は頂部47cに連結された制振ダンパー48によって減衰させることができる。
【0060】
なお、上述の実施形態ではフレーム47の両側の辺部47a、47bの上端部が補強部材8に上部連結ピン20で支持されているとしたが、剛結合されていてもよい。この場合、フレーム47は補強部材8とより一体的に振動することになる。この場合でも、補強部材8及びフレーム47の振動は制振ダンパー48によって減衰させられる。
【0061】
次に、第七実施形態による制振補強装置1Fの変形例を
図12により説明する。
図12に示す制振補強装置1Gにおいて、補強部材8を梁Q2の第2構面10に下受け部23及び下部ピン22によって取り付けて両端を支持部5及びピン6で柱P1、P2に支持させている。この場合、フレーム47は補強部材8から上方の第1構面9側に頂部47cを向けて取り付けられ、第一構面9に上部受け部11及び上部ピン13で支持された制振ダンパー48のピストンロッド48bを頂部47cに固定する構成を採用している。
本変形例においても、補強部材8及びフレーム47の振動は制振ダンパー48によって減衰できる。
【0062】
次に、上述の各実施形態等で説明した補強部材8の両端を支持する支持部5の変形例について、
図13及び
図14により説明する。
この支持部50は第一支持部51がボルト等で柱P1に固定され、第一支持部51にはピン52を介して仲介部材53の一端が揺動可能に支持されている。仲介部材53の他端には補強部材8の一端に連結された第二支持部54がピン55で揺動可能に支持されている。補強部材8の他端も同一の構成を有している。そのため、補強部材8はその両端で支持部50の仲介部材53及びピン52、55を介して揺動可能とされている。
【0063】
従って、地震や強風等が生じると、空間2を構成する左右の柱P1、P2、上下の梁Q1、梁Q2はそれぞれ水平方向に振動する。上側の梁Q1では上部ピン13を介して補強部材8に振動が伝達される。
例えば、
図14(a)において、上側の梁Q1が右方向に揺動すると、一体に移動する補強部材8及び第二支持部54に対して仲介部材53がピン55を介して相対的に時計回りに回動する。また、
図14(b)において、上側の梁Q1が左方向に揺動すると、一体に移動する補強部材8及び第二支持部54に対して仲介部材53がピン55を介して相対的に反時計回りに回動する。そのため、補強部材8から柱P1、P2への応力の伝達方向は柱P1、P2の材軸方向のみとなり、柱P1、P2の補強工事を不要とすることができる。
【0064】
なお、本発明において、補強部材8は第1補強部材、フレーム15、47は第2補強部材に含まれる。
また、補強部材8を上側の梁Q1の第1構面9と下側の梁Q2の第2構面10の両方に設けてもよい。この場合、フレーム15は縦枠16,17の両端を上下の補強部材8に上部連結ピン20、下部連結ピン21で支持するように構成してもよい。
【0065】
また、上述した各実施形態等では、建造物BLの層を仕切る空間2の上下部に上側の梁Q1と下側の梁Q2を設けた。しかし、フラットスラブ構造の建造物BLでは、梁を設置しておらず、天井スラブと床スラブ等のスラブが設置されている。この場合も、天井スラブに設けた第1構面9と床スラブに設けた第2構面10とに上受け部11や下受け部23等を固定することができ、本発明を適用できる。
また、補強部材8を支持する上受け部11及び上部ピン13、または下受け部23及び下部ピン22は第1結合部材であり、フレーム15を支持する下受け部23及び下部ピン22、または上受け部11及び上部ピン13は第2結合部材である。
また、制振補強装置1、1A、1B、1C、1D、1E、1F、1Gは建造物BLの任意の場所に設置することができ、かつ設置数も適宜選択できる。
【符号の説明】
【0066】
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G 制振補強装置
5、50 支持部
6、52、55 ピン
8 補強部材
9 第1構面
10 第2構面
11 上受け部
13 上部ピン
15、47 フレーム
16、17 縦枠
18 下枠
22 下部ピン
23 下受け部
24 第一V字ブレース
25 第二V字ブレース
26、48 制振ダンパー
28 上枠
35 壁型の制振ダンパー
36 上部固定部材
37 下部固定部材
38 粘弾性体
40 長穴
41 ボールジョイント
41a 球体
41b 受け部
42 レール
44 走行部材
51 第一支持部
53 仲介部材
54 第二支持部
P1,P2 柱
Q1、Q2 梁