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  • 特許-蒸気養生製品用セメント組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】蒸気養生製品用セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20231020BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20231020BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20231020BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20231020BHJP
   B28B 11/24 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/08 Z
C04B22/14 B
C04B40/02
B28B11/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019176417
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021054662
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】多田 真人
(72)【発明者】
【氏名】久我 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-124136(JP,A)
【文献】特開2010-006662(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135037(WO,A1)
【文献】特開平09-002848(JP,A)
【文献】特開2012-201527(JP,A)
【文献】特開2010-173896(JP,A)
【文献】特開2015-044717(JP,A)
【文献】特開2020-152619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/02
B28B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強ポルトランドセメントと、フライアッシュを含む蒸気養生製品用セメント組成物であって、
上記セメント組成物中、上記早強ポルトランドセメントの含有率が30~90質量%でかつ上記フライアッシュの含有率が10~30質量%であり、
上記セメント組成物中の石膏(ただし、該石膏は、上記早強ポルトランドセメントに含まれている石膏を含む。)の含有率がSO換算で3.5~6.0質量%であり、
上記フライアッシュの強熱減量が2.0質量%以下であり、
上記フライアッシュ中、マグネタイトの含有率が1.0質量%以下であることを特徴とする蒸気養生製品用セメント組成物。
【請求項2】
請求項に記載の蒸気養生製品用セメント組成物、骨材、及び水を混練して混練物を得る混練工程と、
上記混練物を型枠内に収容した後、1時間以上気中養生する気中養生工程と、
気中養生後の上記混練物を、55~70℃の雰囲気下で2時間以上蒸気養生して、蒸気養生後の硬化体を得る蒸気養生工程と、
上記蒸気養生後の硬化体を上記型枠から脱型して、セメント質硬化体を得る脱型工程を含むことを特徴とするセメント質硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気養生製品用セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの一部をフライアッシュで置換してなるフライアッシュ混合セメントは、水酸化カルシウムとフライアッシュのポゾラン反応により、安定なケイ酸カルシウム水和物等の化合物を生成して緻密な組織を形成する。そのため、フライアッシュ混合セメントは、水密性、化学抵抗性、及び、長期強度発現性に優れている。
また、ポゾラン反応による発熱量は、ポルトランドセメントの水和による発熱量に比べて小さいため、フライアッシュ混合セメントの水和熱は、ポルトランドセメントの水和熱よりも小さくなる。また、フライアッシュは、それ自体、球状の微粒子であるから、ボールベアリング作用により、コンクリート等の流動性を向上させることができ、それゆえ、コンクリート等の製造における単位水量を少なくすることができ、フライアッシュ混合セメントを用いた硬化体の乾燥収縮を小さくすることができる。
さらに、フライアッシュ混合セメントは、セメント製造時のCO排出量や、原料である石灰石や化石燃料などの天然資源の使用量を少なくすることができる点や、副産物であるフライアッシュを有効活用できる点などで、環境負荷の低減効果を有している。
そのため、フライアッシュ混合セメントを、コンクリート製品用のセメントとして活用することが望まれている。
【0003】
フライアッシュを含むセメント組成物として、特許文献1には、鉄率(I.M.)が1.88~2.00である普通ポルトランドセメントクリンカー粉末と、石膏と、ブレーン比表面積が5,000cm/gを超える石灰石粉末と、フライアッシュ、を含むセメント組成物であって、上記普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量と、上記石膏の量(SO換算)の合計100質量%中の、石膏の量(SO換算)の割合が、1.0~3.0質量%であり、上記普通ポルトランドセメントクリンカー粉末の量、上記石膏の量(SO換算)、上記石灰石粉末の量、及び上記フライアッシュの量の合計100質量%中、石灰石粉末の割合が1.0~10.0質量%、フライアッシュの割合が10質量%を超え、40質量%以下であることを特徴とするセメント組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-104215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なモルタル又はコンクリート製品は、モルタル又はコンクリートを混練して成型した後、2時間程度常温(20℃程度)で前養生し、次いで、2~3時間かけて60~65℃に昇温して、60~65℃で3時間程度蒸気養生し、さらに、9~10時間かけて常温(20℃程度)まで降温した後、脱型することによって製造されている。
モルタル又はコンクリートの製造において、脱型までに要する時間を短くすることで、型の回転率を向上させ、製品の製造効率を向上させる観点から、初期強度発現性に優れたセメント組成物が求められている。
また、モルタル又はコンクリート製品の製造において、迅速に作業することができる観点から、流動性に優れたセメント組成物が求められている。
さらに、一般的なモルタル又はコンクリート製品は強度等の品質のみならず、表面の美観(例えば、色むらや表面気泡がなく、白いこと等)が要求される場合が多い。
モルタル又はコンクリート製品の表面の美観を良好にする方法としては、セメント混和剤を使用する方法等があるものの、材料にかかるコストが大きくなったり、工場の設備によっては使用に制限がかかる場合がある。また、フライアッシュを約20質量%以上の割合で含むフライアッシュ混合セメントは、表面気泡を低減する効果があることが知られているが、その一方で、流動性が低下したり、打設面に色むらができる(通常、カーボン浮き)という問題がある。また、フライアッシュ混合セメントは、初期強度発現性が低いという問題がある。
そこで、本発明の目的は、蒸気養生を行う製品を製造するときにフライアッシュ用いても、強度発現性(特に、初期(例えば、材齢1~14日)強度発現性)及び流動性が、普通ポルトランドセメントを使用しかつフライアッシュを含まない場合(従来のもの)と同様に優れ、かつ、表面の美観に優れたセメント質硬化体を得ることができる蒸気養生製品用セメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、早強ポルトランドセメントと、フライアッシュを含む蒸気養生製品用セメント組成物であって、該セメント組成物中、早強ポルトランドセメントの含有率が30~90質量%、フライアッシュの含有率が10~30質量%、石膏の含有率がSO換算で3.5~6.0質量%であり、フライアッシュの強熱減量が2.0質量%以下である蒸気養生製品用セメント組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1] 早強ポルトランドセメントと、フライアッシュを含む蒸気養生製品用セメント組成物であって、上記蒸気養生製品用セメント組成物中、上記早強ポルトランドセメントの含有率が30~90質量%、上記フライアッシュの含有率が10~30質量%、石膏の含有率がSO換算で3.5~6.0質量%であり、上記フライアッシュの強熱減量が2.0質量%以下であることを特徴とする蒸気養生製品用セメント組成物。
[2] 上記フライアッシュ中、マグネタイトの含有率が1.0質量%以下である[1]に記載の蒸気養生製品用セメント組成物。
[3] 前記[1]又は[2]に記載の蒸気養生製品用セメント組成物、骨材、及び水を混練して混練物を得る混練工程と、上記混練物を型枠内に収容した後、1時間以上気中養生する気中養生工程と、気中養生後の上記混練物を、55~70℃の雰囲気下で2時間以上蒸気養生して、蒸気養生後の硬化体を得る蒸気養生工程と、上記蒸気養生後の硬化体を上記型枠から脱型して、セメント質硬化体を得る脱型工程を含むことを特徴とするセメント質硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の蒸気養生製品用セメント組成物は、強度発現性(特に、初期(例えば、材齢1~14日)強度発現性)及び流動性に優れ、かつ、表面の美観に優れたセメント質硬化体を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例における温度履歴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の蒸気養生製品用セメント組成物(以下、単に「セメント組成物」ともいう。)は、早強ポルトランドセメントと、フライアッシュを含むセメント組成物であって、該セメント組成物中、早強ポルトランドセメントの含有率が30~90質量%、フライアッシュの含有率が10~30質量%、石膏の含有率がSO換算で3.5~6.0質量%であり、フライアッシュの強熱減量が2.0質量%以下であるものである。
【0010】
セメント組成物中の早強ポルトランドセメントの含有率は、30~90質量%、好ましくは35~88質量%、より好ましくは40~86質量%、さらに好ましくは50~85質量%、さらに好ましくは60~84質量%、特に好ましくは70~82質量%である。該含有率が30質量%未満であると、セメント組成物の初期強度発現性が低下する。該含有率が90質量%を超えると、フライアッシュの含有率が少なくなるため、フライアッシュを有効利用する観点から好ましくない。
早強ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、好ましくは2,500~6,000cm/g、より好ましくは3,000~5,000cm/gである。該ブレーン比表面積が2,500cm/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が6,000cm/g以下であれば、セメント質硬化体(モルタル又はコンクリート)を製造する際の作業性がより向上する。
【0011】
セメント組成物は、早強ポルトランドセメント以外に、他のセメントを含んでいてもよい。
他のセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、エコセメント、白色セメント、耐硫酸塩セメント等の各種セメントが挙げられる。中でも、汎用性等の観点から普通ポルトランドセメントが好適である。
セメント組成物が普通ポルトランドセメントを含む場合、セメント組成物中の普通ポルトランドセメントの含有率は、養生時間が長くなることを防ぐ観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、特に好ましくは50質量%以下である。
普通ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、好ましくは2,500~6,000cm/g、より好ましくは3,000~5,000cm/gである。該ブレーン比表面積が2,500cm/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が6,000cm/g以下であれば、セメント質硬化体(モルタル又はコンクリート)を製造する際の作業性がより向上する。
【0012】
セメント組成物中のフライアッシュの含有率は、10~30質量%、好ましくは12~25質量%、より好ましくは14~22質量%、特に好ましくは15~20質量%である。該含有率が10質量%未満であると、フライアッシュを有効利用する観点から好ましくない。該含有率が30質量%を超えると、セメント組成物の初期強度発現性が低下する。
フライアッシュのブレーン比表面積は、好ましくは2,500~6,000cm/g、より好ましくは2,700~5,000cm/g、特に好ましくは2900~4,000cm/gである。該比表面積が2,500cm/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該比表面積が6,000cm/g以下であれば、セメント質硬化体(モルタル又はコンクリート)を製造する際の作業性がより向上する。
【0013】
フライアッシュの強熱減量(ig.loss)は、2.0質量%以下、好ましくは0.1~1.5質量%、より好ましくは0.2~1.2質量%、特に好ましくは0.5~1.0質量%である。上記強熱減量が2.0質量%以下であれば、セメント組成物の流動性及び強度発現性が向上し、セメント質硬化体の表面の美観が向上する。
上記強熱減量は、フライアッシュを975±25℃の条件下で、15分間加熱した場合における、フライアッシュの質量減少率{(加熱前のフライアッシュの質量-加熱後のフライアッシュの質量)/加熱前のフライアッシュの質量×100}(単位:質量%)である。
フライアッシュの強熱減量を上記数値範囲内にする目的で、予め、加熱または静電分離してなるフライアッシュを用いてもよい。
【0014】
フライアッシュ中のSiOの含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは51~80質量%、特に好ましくは52~70質量%である。該含有率が50質量%以上であれば、フライアッシュ混合セメントの強度発現性がより向上する。なお、上記SiOの含有率が80質量%を超えるフライアッシュは入手が困難である。
フライアッシュ中のマグネタイトの含有率は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.95質量%以下、特に好ましくは0.9質量%以下である。該含有率が1.0質量%以下であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。
また、フライアッシュ中のFeの含有率は、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.9質量%以下、特に好ましくは3.8質量%以下である。該含有率が4.0質量%以下であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。
【0015】
フライアッシュの91日活性度指数は、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上である。該活性度指数が95%以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。
フライアッシュのフロー値比は、好ましくは100%以上、より好ましくは105%以上である。該フロー値が100%以上であれば、セメント組成物の流動性がより向上する。
【0016】
本発明のセメント組成物中の石膏の含有率は、SO換算で、3.5~6.0質量%、好ましくは3.6~5.0質量%、特に好ましくは3.8~4.5質量%である。該含有率が3.5質量%未満であると、セメント組成物の初期強度発現性及び流動性が低下する。該含有率が6.0質量%を超えると、セメント組成物の長期強度発現性が低下する。
セメント組成物中の石膏の含有率(SO換算)を上記数値範囲内とする目的で、本発明のセメント組成物は、セメントに含まれている石膏以外の追加の石膏を含んでもよい。
【0017】
セメントに含まれている石膏以外に追加で添加される石膏の例としては、無水石膏、半水石膏、及び2水石膏が挙げられる。中でも、強度発現性の観点から無水石膏が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
石膏のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~15,000cm/g、より好ましくは3,500~13,000cm/gである。該ブレーン比表面積が3,000cm/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が15,000cm/gを超えると、粉砕にかかるコストが大きくなる。
【0018】
本発明のセメント組成物は、必要に応じて、石灰石粉末を含んでもよい。
本発明のセメント組成物が石灰石粉末を含む場合、セメント組成物100質量%中の石灰石粉末の含有率は、好ましくは6質量%以下、より好ましくは4質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。石灰石粉末が6質量%以下であれば、石灰石粉末を含んでいても、セメント組成物の強度発現性の低下が起こらない。
石灰石粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~10,000cm/g、より好ましくは4,000~9,000cm/gである。該ブレーン比表面積が3,000cm/g以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。該ブレーン比表面積が10,000cm/gを超えると、粉砕にかかるコストが大きくなる。
【0019】
本発明のセメント組成物は、水、骨材、及び、必要に応じて配合される他の材料(例えば、セメント分散剤、膨張材、収縮低減剤、空気量調整剤等)と混合されることによって、モルタル又はコンクリートとして使用される。
骨材としては、細骨材のみ、または、細骨材と粗骨材の組み合わせが挙げられる。
細骨材としては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、スラグ細骨材、及び軽量細骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、細骨材は天然骨材のほか、再生骨材を用いることができる。
粗骨材としては、砂利、砕石、スラグ粗骨材、及び軽量粗骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、粗骨材は、前記細骨材と同様に、天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
【0020】
骨材の配合量(細骨材と粗骨材を併用する場合はその合計量)は特に限定されず、モルタルやコンクリート等における一般的な配合量であればよい。例えば、骨材の配合量は、骨材とセメント組成物の質量比(骨材/セメント組成物)が、好ましくは1~7、より好ましくは2~5となる量である。
また、粗骨材を用いる場合、細骨材率は特に限定されず、モルタルやコンクリート等における一般的な数値であればよく、例えば、5~60%である。細骨材率が上記数値範囲内であれば、混練後のワーカビリティや成形のし易さが向上する。
【0021】
水としては、特に限定されるものでなく、水道水、下水処理水、生コンクリートの上澄水等が挙げられる。
水の配合量は、特に限定されず、モルタルやコンクリート等における一般的な配合量であればよい。例えば、水の配合量は、水と、セメント組成物の質量比(水/セメント組成物)の値として、好ましくは0.2~0.6となる量である。
【0022】
セメント分散剤の例としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤及び高性能AE減水剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セメント分散剤に含まれる成分(減水成分)の例としては、ポリカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、膨張材および収縮低減剤の少なくともいずれか一方を含むことで、収縮ひび割れを抑制することができる。
【0023】
本発明のセメント組成物を用いた、セメント質硬化体からなる製品(モルタル又はコンクリート製品)を製造する方法の一例としては、上述したセメント組成物、骨材、及び水を混練して混練物を得る混練工程と、上記混練物を型枠内に収容した後、1時間以上気中養生する気中養生工程と、気中養生後の上記混練物を、55~70℃の雰囲気下で2時間以上蒸気養生して、蒸気養生後の硬化体を得る蒸気養生工程と、上記蒸気養生後の硬化体を上記型枠から脱型して、セメント質硬化体を得る脱型工程を含むものが挙げられる。
以下、各工程について、詳しく説明する。
【0024】
[混練工程]
本工程は、上述したセメント組成物、骨材、水、および必要に応じて配合される他の材料(セメント分散剤、膨張材、収縮低減剤、空気量調整剤等)を混練して、混練物を得る工程である。
各材料の混練に用いるミキサとしては、特に限定されるものではなく、パン型ミキサ、二軸ミキサ等の慣用のミキサを用いることができる。混練方法としては、特に限定されるものではなく、全ての材料を一括してミキサに投入して混練してもよく、ポルトランドセメント、フライアッシュ、及び骨材をミキサに投入して空練りを行った後に、水、セメント分散剤等を投入して混練してもよい。
【0025】
[気中養生工程]
本工程は、前工程で得られた混練物を型枠内に収容した後、1時間以上(好ましくは1.5~6時間、より好ましくは2~5時間)気中養生する工程である。気中養生を行う際の温度は、通常、常温(例えば、5℃以上、40℃未満、好ましくは10~30℃)である。気中養生の時間が1時間未満であると、得られる硬化体の強度が低下する。
【0026】
[蒸気養生工程]
本工程は、気中養生後の混練物を、55~70℃の雰囲気下で2時間以上蒸気養生して、蒸気養生後の硬化体を得る工程である。
蒸気養生は、2~5時間(好ましくは2~4時間)かけて所望の最高温度となるまで昇温する。所望の最高温度となるまでの昇温速度(単位時間当たりの上昇する温度)は、好ましくは10~30℃/時間である。
55~70℃の雰囲気下において蒸気養生する時間は、硬化体の強度を大きくする観点から、2時間以上、好ましくは2時間15分間以上、より好ましくは2時間30分間以上である。また、上記時間は、コンクリートまたはモルタルの製造に要する時間を短くする観点から、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間30分間以下である。
【0027】
次いで、2~10時間(好ましくは3~9時間)かけて常温(20℃程度)まで降温する。
本発明のセメント組成物は、初期強度発現性に優れているため、脱型までに要する時間を短くすることができる。
常温(20℃程度)となるまでの降温速度(単位時間当たりの降下する温度)は、好ましくは3~40℃/時間、より好ましくは5~30℃/時間である。
蒸気養生工程に要する時間(昇温の開始から降温の終了までの時間)は、製品の製造にかかる時間を短くする観点から、好ましくは16時間以下、より好ましくは15時間以下である。
【0028】
[脱型工程]
本工程は、蒸気養生後の硬化体を型枠から脱型して、セメント質硬化体(モルタルまたはコンクリート製品)を得る工程である。
【実施例
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)早強ポルトランドセメント;太平洋セメント社製、CS:65.1質量%、CS:8.6質量%、CA:9.5質量%、CAF:8.4質量%、石膏(SO換算):2.3質量%、ブレーン比表面積:4,600cm/g
(2)普通ポルトランドセメント;太平洋セメント社製、CS:60.1質量%、CS:13.1質量%、CA:9.0質量%、CAF:9.8質量%、石膏(SO換算):2.0質量%、ブレーン比表面積:3,250cm/g
(3)フライアッシュ1(表1~3中、「FA1」と示す。);詳細を表1~3に示す。
(4)フライアッシュ2(表1~4中、「FA2」と示す。):フライアッシュ1を静電分離してなるもの、詳細を表1~3に示す。
(5)石膏粉末;無水石膏粉末(ブレーン比表面積:6,000cm/g)
(6)細骨材;「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に定める標準砂
(7)水;水道水
【0030】
なお、早強ポルトランドセメントおよび普通ポルトランドセメントの鉱物組成は、「JIS R 5204:2019(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠してセメントの化学組成を定量した後、ボーグ式を用いて算出した。
また、フライアッシュの鉱物組成は、X線回折装置(ブルカージャパン社製、商品名「D8 ADVANCE」)を使用し、ブルカージャパン社製の解析ソフトウェア(DIFFRAC plus TOPAS(Ver3.0))を使用して、リードベルト法によって解析した。具体的には、ムライト、石英、ライム、及び、マグネタイトの各鉱物の理論プロファイルを、上記フライアッシュにおける粉末X線回折の結果から得られた実測プロファイルにフィッティングすることで各晶質相の含有率を求めた。次いで、得られた各晶質相の含有率と強熱減量の合計を、100質量%から減じて得られた値を、フライアッシュ全体の非晶質相(glass:表2中、「ガラス」と示す。)の含有率とした。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
[実施例1]
早強ポルトランドセメントと普通ポルトランドセメントとフライアッシュ2を、表4に示す配合割合で混合して、石膏の含有率が、SO換算で2.2質量%である混合物を得た。該混合物に混合後のセメント組成物中の石膏の含有率が、SO換算で表4に示す数値(4.0質量%)になる量の無水石膏粉末を混合して、セメント組成物を得た。
次いで、水とセメント組成物の質量比(水/セメント組成物)が0.5であり、細骨材とセメント組成物の質量比(細骨材/セメント組成物)が3.0となる量で、セメント組成物と水と細骨材を、ホバート社製の縦型ミキサを用いて混練してモルタルを得た。
得られたモルタルの15打フロー値を、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定した。結果を表4に示す。
【0035】
得られたモルタルを型枠内に収容した後、20℃の温度下で2時間気中養生を行なった。
気中養生後、2時間15分間かけて65℃まで昇温(昇温速度:20℃/時間)し、65℃を3時間保持し、次いで、9時間かけて20℃まで降温(降温速度:5℃/時間)する温度履歴で蒸気養生(図1参照)を行なった。蒸気養生後、脱型を行い、セメント質硬化体を得た。
得られたセメント質硬化体の、脱型直後及び14日経過後のモルタル圧縮強さを、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定した。
【0036】
また、水とセメント組成物の質量比(水/セメント組成物)が0.35であり、細骨材とセメント組成物の質量比(細骨材/セメント組成物)が2.0となる量で、セメント組成物と水と細骨材を、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」において規定されている機械練り用練混ぜ機を用いて、5分間混練した。また、セメント組成物と水と細骨材を混練する際に、セメント組成物100質量部に対して1.2質量部(固形分換算)となる量のナフタレンスルホン酸系高性能減水剤(花王社製、商品名「MT150」)、及び、0.1質量部となる量の消泡剤(日華化学社製、商品名「フォームレックス747」)を添加した。混練に得られたモルタルについて、「JIS A 1171:2016(ポリマーセメントモルタルの試験方法)」に規定されているミニスランプコーンを用いて、混練直後のモルタルのフロー値を測定した。
さらに、セメント組成物と水と細骨材を混合する際に、セメント組成物100質量部に対して、ナフタレンスルホン酸系高性能減水剤の代わりに、0.65質量部(固形分換算)となる量のポリカルボン酸系高性能AE減水剤(BASFジャパン社製、商品名「マスターグレニウム SP8N」)、及び、0.1質量部となる量の消泡剤(日華化学社製、商品名「フォームレックス747」)を添加する以外は、上記モルタルと同様にして各材料を混練してモルタルを得た後、混練直後のモルタルのフロー値を測定した。
また、材齢1日及び50日におけるセメント質硬化体の表面の美観を目視によって確認したところ、色むら、表面気泡、カーボン浮きがなく、良好であった。また、上記セメント質硬化体と、比較例6(後述)において得られたセメント質硬化体を、目視によって比較すると、実施例1で得られたセメント質硬化体の表面は、より白いものであった。ハンディ色彩色差計を用いて、材齢50日におけるセメント質硬化体の表面の、ハンターLab表色系におけるL値を測定した。
【0037】
[比較例1]
無水石膏粉末を添加しない以外は、実施例1と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値及びモルタル圧縮強さを、実施例1と同様にして測定した。
[比較例2]
無水石膏粉末を、セメント組成物中の石膏の含有率が、SO換算で表4に示す数値(3.0質量%)になる量で混合する以外は、実施例1と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値及びモルタル圧縮強さを、実施例1と同様にして測定した。
【0038】
[実施例2]
早強ポルトランドセメントとフライアッシュ2を、表4に示す配合割合で混合して、石膏の含有率がSO換算で2.6質量%である混合物を得た後、該混合物に混合後のセメント組成物中の石膏の含有率が、SO換算で表4に示す数値(4.0質量%)になる量の無水石膏粉末を混合する以外は、実施例1と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値及びモルタル圧縮強さを、実施例1と同様にして測定した。
また、材齢1日及び50日におけるセメント質硬化体の表面の美観を目視によって確認したところ、色むら、表面気泡、カーボン浮きがなく、良好であった。また、上記セメント質硬化体と、比較例6(後述)において得られたセメント質硬化体を、目視によって比較すると、実施例2で得られたセメント質硬化体の表面は、より白いものであった。ハンディ色彩色差計を用いて、材齢50日におけるセメント質硬化体の表面の、ハンターLab表色系におけるL値を測定した。
[比較例3]
無水石膏粉末を添加しない以外は、実施例2と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値、モルタル圧縮強さ、及びL値を、実施例1と同様にして測定した。
[比較例4]
無水石膏粉末を、セメント組成物中の石膏の含有率が、SO換算で表4に示す数値(3.0質量%)になる量で混合する以外は、実施例2と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値及びモルタル圧縮強さを、実施例1と同様にして測定した。
【0039】
[比較例5]
早強ポルトランドセメントと普通ポルトランドセメントとフライアッシュ2を混合してなる混合物の代わりに、普通ポルトランドセメントのみを使用する以外は、実施例1と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値、モルタル圧縮強さ、及びL値を、実施例1と同様にして測定した。
また、材齢1日及び50日におけるセメント質硬化体の表面の美観を目視によって確認したところ、カーボン浮きが見られた。また、ハンディ色彩色差計を用いて、材齢50日におけるセメント質硬化体の表面の、ハンターLab表色系におけるL値を測定したところ、72.6であった。
[比較例6]
普通ポルトランドセメントの代わりに、普通ポルトランドセメントとフライアッシュ2を、表4に示す配合割合で混合してなる、石膏の含有率が、SO換算で1.9質量%である混合物を使用する以外は、比較例5と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値及びモルタル圧縮強さを、実施例1と同様にして測定した。なお、ポリカルボン酸系減水剤を添加したモルタル、及び、ナフタレンスルホン酸系減水剤を添加したモルタルは調製しなかった。
【0040】
[比較例7]
無水石膏粉末を、セメント組成物中の石膏の含有率が、SO換算で表4に示す数値(3.0質量%)になる量で混合する以外は、比較例6と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値及びモルタル圧縮強さを、実施例1と同様にして測定した。
[比較例8]
無水石膏粉末を、セメント組成物中の石膏の含有率が、SO換算で表4に示す数値(4.0質量%)になる量で混合する以外は、比較例6と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値及びモルタル圧縮強さを、実施例1と同様にして測定した。
[比較例9]
フライアッシュ2の代わりに、フライアッシュ1を使用し、かつ、無水石膏粉末を添加しない以外は、実施例2と同様にしてセメント質硬化体を得た。モルタルの15打フロー値、モルタル圧縮強さ、及びL値を、実施例1と同様にして測定した。
結果を表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
表4から、実施例1~2と比較例5(普通ポルトランドセメントのみからなるセメント組成物を用いたもの)を比較すると、実施例1~2の圧縮強さ(1日:27.3~30.7N/mm、14日:46.8~49.4N/mm)は、比較例5のモルタル圧縮強さ(1日:28.0N/mm、14日:44.0N/mm)と同程度以上であり、実施例1~2の減水剤を使用しない場合の15打フロー値(207~210mm)は、比較例5の減水剤を使用しない場合の15打フロー値(204mm)よりも大きいことがわかる。
このことから、本発明のセメント組成物はフライアッシュを含んでいるにもかかわらず、普通ポルトランドセメントと同等以上の初期(材齢1日~14日)強度発現性及び流動性を有していることがわかる。
【0043】
表4から、実施例1と比較例8(早強ポルトランドセメントを使用せず、普通ポルトランドセメントを82.0質量%含む以外は、実施例1と同様のもの)を比較すると、実施例1のモルタル圧縮強さ(1日:27.3N/mm、14日:49.4N/mm)は、比較例8のモルタル圧縮強さ(1日:27.3N/mm、14日:45.8N/mm)と比較して同程度以上であり、実施例1の減水剤を使用しない場合の15打フロー値(210mm)は、比較例8の減水剤を使用しない場合の15打フロー値(203mm)よりも大きいことがわかる。
同様に、実施例2と比較例8(早強ポルトランドセメントを使用せず、普通ポルトランドセメントを82.0質量%含む以外は、実施例2と同様のもの)を比較すると、実施例2のモルタル圧縮強さ(1日:30.7N/mm、14日:46.8N/mm)は、比較例8のモルタル圧縮強さ(1日:27.3N/mm、14日:45.8N/mm)よりも大きく、実施例2における減水剤を使用しない場合の15打フロー値(207mm)は、比較例8における減水剤を使用しない場合の15打フロー値(203mm)よりも大きいことがわかる。
【0044】
実施例1(石膏の含有率(SO換算):4.0質量%)と比較例1~2(石膏の含有率(SO換算):2.2~3.0質量%)を比較すると、実施例1の材齢1日のモルタル圧縮強さ(27.3N/mm)は、比較例1~2の材齢1日のモルタル圧縮強さ(28.3~29.5N/mm)よりも小さいが、実施例1の材齢14日のモルタル圧縮強さ(49.4N/mm)は、比較例1~2の材齢14日のモルタル圧縮強さ(43.6~44.8N/mm)よりも非常に大きいことがわかる。
また、実施例1における減水剤を使用しない場合の15打フロー値(210mm)は、比較例1~2における減水剤を使用しない場合の15打フロー値(190~198mm)よりも大きいことがわかる。
実施例2(石膏の含有率(SO換算):4.0質量%)と比較例3~4(石膏の含有率(SO換算):2.6~3.0質量%)を比較すると、実施例2のモルタル圧縮強さ(材齢1日:30.7N/mm、材齢14日:46.8N/mm)は、比較例3~4のモルタル圧縮強さ(材齢1日:32.2~32.6N/mm、材齢14日:49.1~49.7N/mm)よりも小さいものの、実施例2における減水剤を使用しない場合の15打フロー値(207mm)は、比較例3~4における減水剤を使用しない場合の15打フロー値(187~188mm)よりも大きいことがわかる。
【0045】
実施例2と比較例9(フライアッシュ1を使用し、かつ、無水石膏粉末を添加しない以外は、実施例2と同様のもの)を比較すると、実施例2の材齢1日のモルタル圧縮強さ(30.7N/mm)は、比較例9の材齢1日のモルタル圧縮強さ(32.5N/mm)よりも小さいが、実施例2の材齢14日のモルタル圧縮強さ(46.8N/mm)は、比較例9の材齢14日のモルタル圧縮強さ(45.8N/mm)よりも大きいことがわかる。また、実施例2における減水剤を使用しない場合の15打フロー値(187mm)は、比較例9における減水剤を使用しない場合の15打フロー値(185mm)よりも大きいことがわかる。また、実施例2のL値(77.2)は、比較例9のL値(69.5)よりも大きく、実施例2のセメント質硬化体の表面は、比較例9のセメント質硬化体の表面よりも美観に優れている(白い)ことがわかる。
また、実施例1~2と比較例5のセメント質硬化体の表面の美観の目視による確認結果から、本発明のセメント組成物(実施例1~2)は、比較例1と比較して、表面の美観に優れたセメント質硬化体を得ることができることがわかる。
図1