(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】磁石ホルダ、磁石ユニット
(51)【国際特許分類】
B22F 3/24 20060101AFI20231020BHJP
H02K 15/14 20060101ALI20231020BHJP
G01D 5/245 20060101ALI20231020BHJP
H02K 11/215 20160101ALN20231020BHJP
【FI】
B22F3/24 101Z
H02K15/14 A
G01D5/245 110L
H02K11/215
(21)【出願番号】P 2019179401
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2019028339
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼楠 利啓
(72)【発明者】
【氏名】竹田 大輔
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-173035(JP,A)
【文献】特開平07-332363(JP,A)
【文献】特開2014-057431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 8/00
G01D 5/245
H02K 15/14
H02K 11/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸が圧入固定される軸取付部と、前記軸取付部の軸方向一方側に設けられ、磁石の周囲を保持する磁石保持部とを備え、前記磁石保持部の前記磁石と対向する内側面に、前記磁石と軸方向で係合するアンダーカット部を設けた磁石ホルダにおいて、
前記磁石保持部と前記軸取付部が焼結金属で一体に形成され、
前記磁石保持部の外周面および端面、並びに、前記軸取付部の内周面がそれぞれサイジングされており、
前記アンダーカット部が、前記磁石保持部の塑性変形で形成され
、
前記軸取付部における軸方向の磁石側の端面に、前記磁石と円周方向で係合する凹部を設けたことを特徴とする磁石ホルダ。
【請求項2】
前記サイジングに伴って前記磁石保持部に作用する内径方向の圧迫力で、当該磁石保持部を塑性変形させた請求項1に記載の磁石ホルダ。
【請求項3】
前記軸取付部の内周面に、軸方向に延び、前記軸取付部の磁石を設けた側とは反対側の端面に開口する溝部を設けた請求項1
または2記載の磁石ホルダ。
【請求項4】
前記アンダーカット部をテーパ面で形成した請求項1から
3何れか1項に記載の磁石ホルダ。
【請求項5】
前記アンダーカット部を突出部で形成した請求項1から
3何れか1項に記載の磁石ホルダ。
【請求項6】
オーステナイト系のステンレス材により形成された請求項1から
5いずれか1項に記載の磁石ホルダ。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれかに記載された磁石ホルダと、前記磁石ホルダの磁石保持部に保持された磁石とを有する磁石ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石ホルダ、磁石ホルダを備えた磁石ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
回転体の回転角度を検知するための回転角検知装置には、回転体と一体的に回転する磁石の形成する磁界の変化を、磁気センサによって検知することで回転角度を検知するものが存在しており、例えば、この種の回転角検知装置が、自動車のパワーステアリング装置に搭載された電動モータの、回転角度を検知するために設けられる。
【0003】
上記の回転角検知装置には、磁石や磁石を保持するための磁石ホルダが設けられる。例えば特許文献1では、回転体の軸方向の一端側に取り付けられたホルダ部材が、回転軸に取り付けられた側と軸方向の反対側に磁石を保持した構成の回転角検知装置が記載されている。この装置では、回転軸の回転により、ホルダ部材および磁石がこれと一体的に回転した際に、磁石に対向して設けられた磁気センサが磁界の変化を検知し、回転軸の回転角度を検知することができる。
【0004】
上記のような装置では、磁石がホルダ部材から抜け落ちることを防止するために、抜け止め機構を設けることが一般的になされている。例えば特許文献2では、
図10に示すように、円筒状のホルダ部材101が設けられ、このホルダ部材101の内周面側に設けられた、軸方向の一端側に開口する凹部101aにマグネット部材102が一体成形される。凹部101aを形成するホルダ部材101の内周壁は、軸方向一方側から他方側へ向けて拡径するアンダーカット部101bである。このアンダーカット部101bによってマグネット部材102が係止され、マグネット部材102が、ホルダ部材101の軸方向一方側の開口部からの抜け落ちを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5141780号公報
【文献】特開2016-205977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のようなアンダーカット形状は、型成形によってホルダ部材を成形する際に一体的に成形することが困難である。このため、例えば特許文献2では、旋盤加工等の機械加工により、アンダーカット部101bを形成することが示されている。しかし、このように後加工を施す方法では、工程数が増え、製造コストの増加を招いてしまうという問題があった。
【0007】
このような事情から、本発明では、磁石の抜け止め機構を有する磁石ホルダを安価に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、軸が圧入固定される軸取付部と、前記軸取付部の軸方向一方側に設けられ、磁石の周囲を保持する磁石保持部とを備え、前記磁石保持部の前記磁石と対向する内側面に、前記磁石と軸方向で係合するアンダーカット部を設けた磁石ホルダにおいて、前記磁石保持部と前記軸取付部が焼結金属で一体に形成され、前記磁石保持部の外周面および端面、並びに、前記軸取付部の内周面がそれぞれサイジングされており、前記アンダーカット部が、前記磁石保持部の塑性変形で形成され、前記軸取付部における軸方向の磁石側の端面に、前記磁石と円周方向で係合する凹部を設けたことを特徴とする。
【0009】
焼結金属は、塑性流動性に富むため、サイジングにより高い面精度を得ることができる。従って、本発明の上記構成のように、磁石保持部と軸取付部を焼結金属で一体に形成し、軸取付部の内周面をサイジングすることで、高精度の内周面を、複数の工程を要することなく、1ショットで成形することができる。また、アンダーカット部を塑性変形で形成することにより、機械加工する場合に比べて、加工コストの低廉化を図ることができる。以上から、磁石ホルダの低コスト化を図ることができる。さらに、軸取付部の内周面を高精度化することで、軸を軸取付部に圧入する際の圧入代の制御が容易となり、磁石ホルダに対する軸の取り付け精度(同軸度等)を向上させることができる。
【0010】
上記の磁石ホルダとして、サイジングに伴って磁石保持部に作用する内径方向の圧迫力で、当該磁石保持部を塑性変形させることができる。サイジングに伴う圧迫力で磁石保持部を塑性変形させることにより、軸取付部の内周面のサイジングとアンダーカット部の形成とを同時に行うことができる。このため、磁石ホルダの生産性を高めることができる。
【0011】
上記の磁石ホルダとして、軸取付部の磁石側の端面に、磁石と円周方向で係合する凹部を設けることができる。これにより、磁石の磁石ホルダに対する相対回転を防止することができる。
【0012】
上記の磁石ホルダとして、軸取付部の内周面に、軸方向に延び、軸取付部の磁石を設けた側とは反対側の端面に開口する溝部を設けることができる。これにより、軸圧入時に、磁石ホルダ内部の空気を、溝部を介して外部へ逃がすことができ、磁石ホルダの破損や磁石の磁石ホルダからの抜け落ちを防止できる。
【0013】
上記の磁石ホルダとして、アンダーカット部をテーパ面で形成することができる。
【0014】
上記の磁石ホルダとして、アンダーカット部を突出部で形成することができる。
【0015】
上記の磁石ホルダをオーステナイト系のステンレス材により形成することができる。これにより、磁石の磁界に影響を与えないような磁石ホルダとすることができる。
【0016】
上記の磁石ホルダと、磁石ホルダの磁石保持部に保持された磁石とを有する磁石ユニットとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、磁石ホルダの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁石ユニットを備えた回転角検知装置の断面図である。
【
図2】上記実施形態に係る磁石ホルダを示す図で、(a)図が平面図、(b)図が(a)図のA-A線断面図である。
【
図3】上記実施形態と異なる構成の凹部を示す断面図である。
【
図4】
図2の磁石ホルダの中間成形品である焼結体を示す断面図である。
【
図6】異なる実施形態に係る磁石ホルダを示す図で、(a)図が平面図、(b)図が(a)図のB-B線断面図である。
【
図7】
図6の磁石ホルダの中間成形品である焼結体を示す断面図である。
【
図9】異なる実施形態に係る磁石ユニットを示す断面図である。
【
図10】従来の回転角検知装置を示す断面図である。
【
図11】さらに異なる実施形態に係る磁石ホルダを示す図で、(a)図が平面図、(b)図が(a)図のC-C線断面図である。
【
図12】
図11の磁石ホルダの中間成形品である焼結体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、回転角検知装置1は、磁石ユニット3と、磁気センサ6とを備える。磁石ユニット3は、磁石ホルダ4と、磁石5とによって構成され、軸としての回転軸2の軸方向一端に取り付けられる。
【0021】
磁石ホルダ4は、粉末冶金による焼結金属にて形成され、特に、磁石5の磁界に影響を与えないように非磁性の材料により形成される。例えば、後述するサイジング工程で塑性変形可能なオーステナイト系のステンレス材を選定することが好ましい。磁石5は、磁性材料を磁石ホルダ4に射出して着磁することにより成形される、ボンド磁石である。
【0022】
磁石ホルダ4は略円筒状をなし(
図2a参照)、軸方向一端側(
図1の上側)の方が軸方向他端側よりも、その径が大きく設けられている。磁石ホルダ4は、その内周面側の軸方向一端側に磁石5を保持する。
【0023】
磁石5は、周方向に対してN極とS極が交互に配置される構成となっており、回転軸2と一体的に回転することにより、形成する磁界を変化させる。
【0024】
磁気センサ6は、磁石5に対向して配置され、磁石5の形成する磁界の大きさまたは方向の変化を検知することができる。磁気センサ6には、公知の磁気センサを適宜用いることができる。
【0025】
回転軸2は、軸心Zを中心に回転可能に設けられる。回転軸2が回転すると、回転軸2の一端側に取り付けられた磁石ユニット3が、回転軸2と一体的に回転する。これにより、磁石5の形成する磁界の大きさまたは方向が変化する。そして、磁気センサ6が、この変化を検知することにより、回転軸2の回転角度を検知することができる。以下、軸心Zの延在方向を単に軸方向とも呼ぶ。
【0026】
図2(b)に示すように、磁石ホルダ4は、回転軸2を圧入固定する中空円筒状の軸取付部41と、軸取付部41の軸方向一方側に設けられ、磁石5の周囲を保持する中空円筒状の磁石保持部42とを一体化した構成を有する。軸取付部41の内周空間と磁石保持部42の内周空間とは軸方向で連続している。磁石保持部42の内周面(内側面)43は磁石5の周囲と対向しており、内周面43の内径寸法は、軸取付部41の内周面の内径寸法よりも大きい。磁石5の端面と対向する、軸取付部41の磁石側の端面44と、磁石保持部42の内周面43とで、磁石5を収容する空間である磁石収容部4aが形成されている。
【0027】
図2(b)の部分拡大図に示すように、磁石保持部42の内周面43には、その軸方向一方側から、テーパ部43aと、逆テーパ部43bとが連続して設けられる。テーパ部43aは、軸方向一方側から他方側へ向けて縮径する部分である。また、逆テーパ部43bは、軸方向一方側から他方側へ向けて拡径する部分であり、テーパ部43aと、逆テーパ部43bとによりアンダーカット部50が形成されている。
【0028】
軸取付部41の端面44には、磁石5の磁石ホルダ4に対する回転を防止するための凹部44aが設けられる。凹部44aは、少なくとも一つ設けられればよく、本実施形態では、周方向に等間隔に4つの凹部44aが設けられる。ただし、磁石5の回転防止のための凹部を設ける位置は、端面44に限らない。例えば
図3に示すように、逆テーパ部43に凹部431を設けることもできる。凹部431は、少なくとも一つ設けられればよく、例えば、周方向に等間隔に4つの凹部431を設けることができる。
【0029】
軸取付部41の内周面には、軸方向に延在する溝部45が設けられる。溝部45は、周方向の一部領域に設けられ、軸取付部41の軸方向他方側に開口している。磁石ホルダ4は、磁石保持部42に磁石5を保持した状態で、軸取付部41に回転軸2が圧入されるため、磁石ホルダ4内に密閉空間が形成される。これに対して、軸方向他方側に開口する溝部45を設けることにより、溝部45を介して、磁石ホルダ4内部と外部とが連通するため、圧入に伴って磁石ホルダ4内の空気を外部へ逃がすことができる。これにより、回転軸2の圧入中に、磁石ホルダ4の内圧が高まって磁石5が外れたり、磁石ユニット3が破損することを防止できる。
【0030】
次に、上記の磁石ユニット3を製造する方法について説明する。
【0031】
本実施形態では、粉末冶金によって磁石ホルダ4を成形する。つまり、成形型で金属粉末を圧縮成形した後、これにより得られた圧粉体を加熱して焼結することで、焼結体を得る。そして、焼結体をサイジングにより寸法を矯正することで磁石ホルダ4が完成する。
【0032】
上記過程で得られる本実施形態の焼結体4’を
図4に示す。
焼結体4’には、軸取付部41(凹部44aおよび溝部45も含む)に相当する部分41’、および磁石保持部42に相当する部分42’が形成されている。軸取付部41に相当する部分(以下、「軸取付部相当部分」と称する)41’の外径寸法および磁石保持部42に相当する部分(以下、「磁石保持部相当部分」と称する)42’の外径寸法は、軸取付部41および磁石保持部42の各外径寸法よりもサイジング代分だけ大きい。磁石保持部相当部分42’の形状は、磁石保持部42の形状とは異なる。すなわち、磁石保持部相当部分42’の内周面43’は均一径の円筒面状に形成され、当該内周面43’には、
図2(b)に示すアンダーカット部50が存在しない。また、磁石保持部相当部分42’の外周面のうち、軸方向一方側の領域には、環状の凸部81が形成される。凸部81の外周面のサイジング代は、磁石ホルダ4の他の領域の外周面のサイジング代よりも大きい。
【0033】
次に、焼結体4’をサイジングすることにより、各部の寸法精度を高めると共に、上記のアンダーカット部50を形成し、磁石ホルダ4を得る。
【0034】
具体的には、まず、
図5(a)に示すように、環状のコア71とダイス72との間に形成された環状のキャビティX1に、焼結体4’を挿入する。なお、
図5(a)~(c)では、焼結体4’の周方向の一断面のみを示しているが、焼結体4’全体が環状のキャビティX1に挿入されている。
【0035】
コア71は、軸方向にその外径が等しく、その外周面71aは円筒面状に形成される。一方、ダイス72の内周面72aは、その径が図の上側から下側へ向けて段階的に小さくなっており、複数の段差面を有する。つまり、キャビティX1は、その幅が図の上側から下側へ向けて小さくなっており、その上端では、焼結体4’を挿入するだけの十分な幅が設けられている。
【0036】
キャビティX1に挿入された焼結体4’は、上パンチ73によって押し下げられ(
図5a),上下のパンチ73,74で加圧された後(
図5b)、上パンチ73および下パンチ74を上昇させることで、金型から離型される(
図5c)。
【0037】
図5(a)から
図5(b)に至る過程で、焼結体4’は、ダイス72から内径方向の圧迫力を受けて絞られる。この圧迫力により焼結体4’の内周面が縮径してコア71に押し付けられる。そのため、焼結体4’の外周面がダイス72の内周面72aによって成形され、焼結体4’の軸取付部相当部41’の内周面がコア71の外周面71aによって成形される。また、焼結体4’の両端面が上パンチ73および下パンチ74によって成形される。
【0038】
既に述べたように、焼結体4’の外周面におけるサイジング代は、凸部81が最も大きい。また、
図4(a)(b)に示すように、焼結体4’の磁石保持部相当部分42’とコア71の間には空間があり、ダイス72から内径側への圧迫力を受けた磁石保持部相当部分42’は内径側にフリーに変形可能な状態にある。そのため、凸部81を絞り込んだ際には、内径方向への塑性流動によって凸部81の内周面が内径側に張り出す。これにより、
図4(b)の拡大図に示すように、磁石保持部42の内周面43に、テーパ部43aおよび逆テーパ部43bからなるアンダーカット部50が形成される。
【0039】
これにより、軸取付部41の内周面のサイジングと、アンダーカット部50の形成とを1ショットで同時に行うことができる。
【0040】
なお、このサイジング中は、軸取付部41および磁石保持部42の各外周面がダイス72と摺動しつつ圧縮作用を受けるため、各外周面で空孔潰しが行われる。一方、磁石保持部42の内周面43は、金型と摺動せず、圧縮作用も受けないため、当該内周面43での空孔潰しは殆ど行われない。そのため、軸取付部41および磁石保持部42の各外周面の空孔率に比べ、磁石保持部42の内周面の空孔率が大きくなる。空孔率は、表面の顕微鏡写真を画像解析した時の空孔が占める面積比で表される。
【0041】
そして、取り出した磁石ホルダ4を成形型の一部として、磁石収容部4a(
図2参照)に磁性材料を充填し、磁石素材を射出成形する。この時、磁石素材の軸方向一方側の表面をテーパ部43aの領域中に存在させる。その後、磁石素材に対して、適宜の手段で着磁を行うことで、磁石5を得ることができる。また、射出成形の際に、凹部44a(
図2b参照)に磁性材料が充填されることで、磁石5に凹部44aと密着し、凹部44aに円周方向で係合する凸部が形成される。このように、磁石ホルダ4に凹部44aを設けることで、その後の射出成形で磁石5に凸部を形成することができ、簡易な構成により、磁石5の回り止め機構を設けることができる。
【0042】
以上のようにして、
図1に示すように、磁石5と磁石ホルダ4とを一体的にした、磁石ユニット3が完成する。
【0043】
磁石5は、焼結金属により成形される磁石ホルダ4と比較すると、その線膨張係数が大きい。従って、射出成形された磁石5が冷却されて収縮すると、磁石5と磁石ホルダ4との間にガタが生じてしまったり、磁石5が磁石ホルダ4から抜け落ちるおそれがある。しかし、本実施形態では、磁石保持部42の内周面43にアンダーカット部50が設けられ、このアンダーカット部50が、アンダーカット部50およびアンダーカット部50の上方に亘って形成されたが磁石5に密着するため、磁石5が磁石ホルダ4に拘束され、磁石5の磁石ホルダ4に対する軸方向の移動が規制される。従って、磁石5が磁石ホルダ4から抜け落ちることを防止できる。また、磁石ホルダ4内における磁石5の、主に軸方向のガタを抑制することができ、回転角検知装置1による回転角度の検知精度を向上させることができる。
【0044】
本実施形態では、磁石保持部42と軸取付部41を焼結金属で一体に形成している。焼結金属は塑性流動性に富み、サイジングにより高い面精度が得られるため、焼結金属からなる軸取付部41の内周面をサイジングすることにより、高精度の内周面を、複数の機械加工工程を要することなく、1ショットで成形することができる。また、アンダーカット部50を塑性変形で形成することにより、加工コストの低廉化を図ることができる。以上から、磁石ホルダ4の低コスト化を図ることができる。軸取付部41の内周面をサイジングにより高精度化することで、回転軸2を軸取付部41に圧入する際の圧入代の制御が容易となり、磁石ホルダ4に対する回転軸2の取付精度(同軸度等)を向上させることができる。また、サイジングに伴って磁石保持部42に作用する内径方向の圧迫力で、磁石保持部42を塑性変形させてアンダーカット部50を形成しているので、軸取付部41の内周面に対する寸法精度の矯正と、アンダーカット部50の形成とを同時に行うことができ、磁石ホルダ4の生産性を高めることができる。
【0045】
また、本実施形態では、磁石ホルダ4の周方向に複数設けられた凹部44aに磁石5の凸部が嵌合することで、磁石5の磁石ホルダ4に対する周方向の回転を防止できる。これにより、回転角検知装置1による回転角度の検知精度を向上させることができる。
【0046】
次に、異なる実施形態の磁石ホルダを有する磁石ユニットについて、
図6(a)および
図6(b)を用いて説明する。以下、上記実施形態と同様の構成については、その説明を適宜省略する。
【0047】
図6(b)の拡大図に示すように、本実施形態の磁石ホルダ4では、磁石保持部42を形成する内周面43は、その軸方向一方側に設けられた、内径方向へ突出する突出部43cと、突出部43cに連続してその軸方向他方側に設けられた、その径が均一の平坦面43dとによって構成される。この突出部43cにより、磁石保持部42の内周面43にアンダーカット部50が形成される。
【0048】
磁石保持部42の端面46は、段付きの平坦面状に形成される。端面46は、その外径側の端面よりも一段低く設けられており(
図6bの右方向へ後退しており)、これらの端面がテーパ面46aによってつながっている。
【0049】
図6(a)に示すように、磁石保持部42の外周面から軸取付部41の外周面に至る領域で、磁石ホルダ4の周方向の一部領域に、軸方向に延在する溝部47が設けられる。溝部47は、磁石ホルダ4の周方向位置を特定するもので、着磁方向の判別に利用される。ただし、溝部47は、この部分の形状が外部から判別できればよく、例えば、特定の形状の切り欠き部や凹部とすることもできる。
【0050】
次に、本実施形態の磁石ホルダ4を製造する過程について説明する。
【0051】
前述した実施形態と同様に、成形型で金属粉末を圧縮成形した後、これにより得られた圧粉体を加熱して焼結することで、焼結体4’を得る。
【0052】
図7に示すように、本実施形態の焼結体4’では、磁石保持部相当部分42’の内周面は径一定の円筒面状に形成される。磁石保持部相当部分42’の端面の内径側には、拡大図に示すように、軸方向一方側に突出する凸部82が形成される。凸部82の内径端の端面は平坦面82bであり、その外径側には45°以下の傾斜角(半径方向に対する傾斜角)を有する斜面82aが設けられる。また、斜面82aの外径側に平坦面83が形成され、平坦面83の外径側に、傾斜角(同上)90°以下のテーパ面84が設けられる。斜面82aの傾斜角が45°を超えると、サイジング時に凸部82を塑性変形させ難くなる。また、テーパ面84の傾斜角が90°を超えると、当該テーパ面84がアンダーカットとなるため、成形が困難となる。このため、上記のように角度を設定することで、磁石ホルダ4の成形性を確保している。
【0053】
次に、上記の焼結体4’をサイジングして、磁石ホルダ4を成形する過程について説明する。
【0054】
図8(a)に示すように、焼結体4’は環状のコア75とダイス76との間に形成される環状のキャビティX2に挿入される。
【0055】
キャビティX2に挿入された焼結体4’は、上パンチ77によって押し下げられ(
図8a),上下のパンチ77,78で加圧された後(
図8b)、上パンチ77および下パンチ78を上昇させることで、金型から離型される(
図8c)。
【0056】
図8(a)~(c)に示すサイジング工程は、
図5(a)~(c)に示すサイジング工程と基本的に共通する。従って、共通部分の説明は省略し、以下では、異なる部分を説明する。
【0057】
このサイジング工程では、
図8(a)の拡大図に示すように、磁石保持部42の端面を成形する上パンチ77の端面77aの内径側が、外径側よりも図の下側に突出した形状になっている。従って、焼結体4’の磁石保持部相当部42’の端面では、凸部82が最大のサイジング代を有する。凸部82の内径側は金型のない隙間になっており、そのため、磁石保持部相当部42’の内周面43’はフリー変形可能となる。この凸部82を上パンチ77の端面の内径側領域で軸方向に加圧することで、凸部82の肉が内径側に塑性流動し、
図7(b)の拡大図に示すように、磁石保持部42の内周面43に突出部43cが形成される。また、凸部82が存在していた領域は平坦面となり、磁石保持部42の端面46が成形される。
【0058】
本実施形態でも、軸取付部41および磁石保持部42の各外周面がダイス76と摺動して圧縮されるのに対し、磁石保持部42の内周面は金型と非接触であるため、磁石保持部42の内周面43の空孔率は、軸取付部41および磁石保持部42の各外周面の空孔率よりも大きくなる。
【0059】
その後、取り出した磁石ホルダ4を成形型として、前述した実施形態と同様の工程により、磁石収容部4aに磁石5が形成される。これにより、
図9に示すように、磁石ホルダ4と磁石5とを一体化した磁石ユニット3が形成される。なお、磁石5の軸方向一方側の表面は、テーパ面46aの領域中に存在させる。
【0060】
本実施形態においては、アンダーカット部となる突出部43cに磁石5が密着するため、磁石5が収縮した際に、磁石5の磁石ホルダ4に対するガタを抑制すると共に、磁石5が磁石ホルダ4から抜け落ちることを防止できる。
【0061】
次に、さらに異なる実施形態の磁石ホルダを有する磁石ユニットについて、
図11(a)および
図11(b)を用いて説明する。以下、上記実施形態と同様の構成については、その説明を適宜省略する。
【0062】
図11(b)の拡大図に示すように、本実施形態の磁石ホルダ4では、磁石保持部42を形成する内周面43は、その軸方向一方側に設けられた、その径が略一定の平坦面43eと、平坦面43eに連続してその軸方向他方側に設けられた、逆テーパ部43fとによって構成される。逆テーパ部43fは、軸方向一方側から他方側へ向けて縮径する傾斜面である。この逆テーパ部43fにより、磁石保持部42の内周面43にアンダーカット部50が形成される。
【0063】
軸取付部41の端面44には段差部44bが設けられる。段差部44bにより、端面44はその径方向内側が径方向外側よりも一段低くなっている。
【0064】
図11(a)に示すように、軸取付部41の端面44には周方向に沿って延在する凹部44cが設けられる。凹部44cは、周方向に等間隔に3つ設けられる。凹部44cに磁石の凸部が嵌合することで、磁石の磁石ホルダに対する周方向の回転を防止できる。周方向に複数の凹部44cが形成されることで、磁石の回転を防止する際に各凹部44cにかかる圧力が分散することができる。特に各凹部44cを等間隔に配置することで、各凹部44cにかかる圧力を均等に分散することができる。
【0065】
次に、本実施形態の磁石ホルダ4を製造する過程について説明する。
【0066】
前述した実施形態と同様に、成形型で金属粉末を圧縮成形した後、これにより得られた圧粉体を加熱して焼結することで、焼結体4’を得る。
【0067】
図12に示すように、本実施形態の焼結体4’では、磁石保持部相当部分42’の内周面は径一定の円筒面状に形成される。また、磁石保持部相当部分42’の外周面側には外径側へ突出した凸部85が設けられており、磁石保持部相当部分42’の外形寸法はサイジング代の分だけ大きくなっている。凸部85は、軸方向一方側から他方側へ向けて縮径する傾斜面をその外周面側に有する。さらに軸取付部相当部41’の端面44には段差部が設けられておらず、平坦面状をなしている。
【0068】
次に、上記の焼結体4’をサイジングして、磁石ホルダ4を成形する過程について説明する。
【0069】
図13(a)に示すように、焼結体4’は環状のコア91とダイス92との間に形成される環状のキャビティX3に挿入される。
【0070】
キャビティX3に挿入された焼結体4’は、上パンチ93によって押し下げられ(
図13a),上下のパンチ93,94で加圧された後(
図13b)、上パンチ93および下パンチ94を上昇させることで、金型から離型される(
図13c)。
【0071】
図13(a)~(c)に示すサイジング工程は、
図5(a)~(c)に示すサイジング工程と基本的に共通する。従って、共通部分の説明は省略し、以下では、異なる部分を説明する。
【0072】
図13(a)から
図13(b)に至る過程で、ダイス92の内周面92aによって磁石保持部相当部分42’の外周面側である凸部85に内周面側への圧迫力が生じる。この圧迫力により内径側への塑性流動が生じ、
図13(b)の拡大図に示すように、磁石保持部相当部分42’の外周面側はダイス92の内周面92aに沿った平坦面に成形されると共に、凸部85側の材料が内径側へ張り出す。この際、厚みの大きい軸方向一方側(図の上側)は上パンチ93の外周面に当接する位置まで張り出し、軸方向他方側へ向かうに従って、その張り出し量は小さくなる。従って、磁石保持部相当部分42’の内周面側に平坦面43eと逆テーパ部43fとが形成される。
【0073】
また
図13(a)から
図13(b)に至る過程で、軸取付部相当部41’の端面44の内径側の一部が上パンチ93によって加圧されることで凹み、端面44に段差部44bが形成される。また、このように端面44が上パンチ93によって押圧されることで、押圧部分を平坦化することができる。
【0074】
本実施形態でも、軸取付部41および磁石保持部42の各外周面がダイス92と摺動して圧縮されるのに対し、磁石保持部42の内周面は金型と非接触であるため、磁石保持部42の内周面43の空孔率は、軸取付部41および磁石保持部42の各外周面の空孔率よりも大きくなる。
【0075】
本実施形態においても、アンダーカット部となる逆テーパ部43fに磁石5が密着するため、磁石5が収縮した際に、磁石5の磁石ホルダ4に対するガタを抑制すると共に、磁石5が磁石ホルダ4から抜け落ちることを防止できる。
【0076】
なお、それぞれのアンダーカット部50(逆テーパ部43b、43fおよび突出部43c)は、前述のように、磁石ホルダ4の抜け止めのために形成するものであり、厳密な寸法精度を必要とするものではない。このため、上記のようなサイジング工程により形成することができる。このため、
図5(a)、
図8(a)、および、
図13(a)に示すように、磁石保持部相当部分42’の内径側を金型で拘束せず、自由に塑性変形可能とした場合でも要求機能を満たすアンダーカット部50を形成することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0078】
1 回転角検知装置
2 回転軸(軸)
3 磁石ユニット
4 磁石ホルダ
4a 磁石収容部
41 軸取付部
42 磁石保持部
43 内周面(内側面)
43a テーパ部
43b 逆テーパ部
43c 突出部
43f 逆テーパ部
44 端面
44a、44b 凹部
45 溝部
50 アンダーカット部
4’ 焼結体
81,82,85 凸部
5 磁石
6 磁気センサ
X1、X2、X3 キャビティ