(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231020BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2019200919
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019010635
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】西村 宗世
(72)【発明者】
【氏名】居安 誠二
(72)【発明者】
【氏名】梅本 久
(72)【発明者】
【氏名】深谷 淳
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06882061(US,B1)
【文献】特開2013-187919(JP,A)
【文献】特表2012-518875(JP,A)
【文献】特開2002-027763(JP,A)
【文献】特開2007-026700(JP,A)
【文献】特開2010-272395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/08
B60L 58/25
B60L 58/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線(41U,41V,41W,41X,41Y)を有する
多相の回転電機(40)と、
上アームスイッチ(QUH,QVH,QWH,QXH,QYH)及び下アームスイッチ(QUL,QVL,QWL,QXL,QYL)の直列接続体を有する
多相のインバータ(30)と、
前記直列接続体に並列接続されたコンデンサ(31)と、を備える電力変換装置(10)において、
直列接続された第1蓄電池(21)及び第2蓄電池(22)において前記第1蓄電池の負極側及び前記第2蓄電池の正極側と、前記巻線
の中性点(O)とを電気的に接続する接続経路(6
0)と、
前記インバータ、前記巻線及び前記接続経路を介して前記第1蓄電池と前記第2蓄電池との間に電流が流れるように、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチング制御を行う制御部(70)と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記インバータ、前記巻線及び前記接続経路を介して前記第1蓄電池と前記第2蓄電池との間に電流が流れるように、少なくとも2相の前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチング制御を行う請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記インバータ、前記巻線及び前記接続経路を介して前記第1蓄電池と前記第2蓄電池との間に電流が流れるように、全相の
前記上アームスイッチのスイッチング制御を同期させ、また、全相の前記下アームスイッチのスイッチング制御を同期させる請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記接続経路上に設けられ、オン状態となることにより前記第1蓄電池の負極側及び前記第2蓄電池の正極側と前記中性点とを電気的に接続し、オフ状態となることにより前記第1蓄電池の負極側及び前記第2蓄電池の正極側と前記中性点との間を電気的に遮断する接続スイッチ(61)を備える請求項
1~3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
巻線(41U,41V,41W,41X,41Y)を有する
多相の回転電機(40)と、
上アームスイッチ(QUH,QVH,QWH,QXH,QYH)及び下アームスイッチ(QUL,QVL,QWL,QXL,QYL)の直列接続体を有する
多相のインバータ(30)と、
前記直列接続体に並列接続されたコンデンサ(31)と、を備える電力変換装置(10)において、
各相において、前記直列接続体を構成する前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの接続点と、前記巻線の両端のうち中性点(O)とは反対側の端とが電気的に接続されており、
直列接続された第1蓄電池(21)及び第2蓄電池(22)において前記第1蓄電池の負極側及び前記第2蓄電池の正極側と、
複数相のうち一部の相の前記直列接続体を構成する前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの接続点とを電気的に接続する接続経路
(90,90U,90W)と、
前記インバータ、前記巻線及び前記接続経路を介して前記第1蓄電池と前記第2蓄電池との間に電流が流れるように、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチング制御を行う制御部(70)と
、
前記接続経路上に設けられ、オン状態となることにより前記第1蓄電池の負極側及び前記第2蓄電池の正極側と前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの接続点とを電気的に接続し、オフ状態となることにより前記第1蓄電池の負極側及び前記第2蓄電池の正極側と前記接続点とを電気的に遮断する接続スイッチ(91)と、を備え、
複数相のうち前記接続点に前記接続経路が接続されていない相が2相以上あり、
前記制御部は、前記接続経路を介して前記第1蓄電池と前記第2蓄電池との間に電流を流す場合、前記接続スイッチをオン状態にし、複数相のうち前記接続経路が接続された相の前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチをオフ制御し、複数相のうち前記接続経路が接続されていない少なくとも2相の前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチをスイッチング制御する電力変換装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記インバータ、前記巻線及び前記接続経路を介して前記第1蓄電池と前記第2蓄電池との間に電流が流れるように、複数相のうち前記接続経路が接続されていない全相の前記上アームスイッチのスイッチング制御を同期させ、また、複数相のうち前記接続経路が接続されていない全相の前記下アームスイッチのスイッチング制御を同期させる請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1蓄電池及び前記第2蓄電池の昇温要求があると判定した場合、前記接続スイッチをオン状態にし、前記昇温要求がないと判定した場合、前記接続スイッチをオフ状態にする請求項
5又は6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記回転電機の駆動が停止されている場合における前記スイッチング制御のスイッチング周波数を、前記回転電機を駆動する場合における前記上,下アームスイッチのスイッチング周波数よりも高い周波数に設定する請求項1~7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記接続経路に流す電流の指令値の1周期において、正の前記指令値で規定される領域の面積と、負の前記指令値で規定される領域の面積とが等しくなるように前記指令値を設定し、前記接続経路に流れる電流を前記指令値に制御するために前記スイッチング制御を行う請求項1~8のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記指令値の1周期において前記指令値のゼロクロスタイミングに対して正の前記指令値と負の前記指令値とが点対称になるように、前記指令値を設定する請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記第1蓄電池及び前記第2蓄電池の電圧情報を検出する電圧情報検出部(50)を備え、
前記制御部は、検出された前記電圧情報に基づいて、前記第1蓄電池の端子電圧と前記第2蓄電池の端子電圧とが均等化されるように、前記指令値を補正する請求項9又は10に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線を有する回転電機と、上,下アームスイッチの直列接続体を有するインバータと、前記直列接続体に並列接続されたコンデンサと、を備える電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電力変換装置としては、特許文献1に見られるように、蓄電池とコンデンサとの間でインバータを介して無効電力のやりとりを実施することにより、蓄電池の昇温制御を行うものが知られている。詳しくは、蓄電池からコンデンサへと電流を流す場合、インバータ及び巻線を昇圧チョッパ回路として利用し、コンデンサから蓄電池へと電流を流す場合、インバータ及び巻線を昇圧チョッパ回路として利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電力変換装置では、蓄電池とコンデンサとの間で無効電力をやりとりするため、コンデンサの端子電圧が無効電力に比例して変動する。この変動により、コンデンサの端子電圧が、コンデンサの耐圧性能から定まる許容上限値を超え、コンデンサの信頼性が低下する懸念がある。
【0005】
一方、コンデンサの端子電圧の変動により、コンデンサの端子電圧が過度に低くなり得る。蓄電池からインバータを介してコンデンサへと電流を流す場合、蓄電池の端子電圧よりもコンデンサの端子電圧を高くする必要がある。このため、コンデンサの端子電圧が過度に低くなると、蓄電池からコンデンサへと流す電流を所望の指令電流に制御できなくなる懸念がある。
【0006】
以上説明した問題に対処するには、コンデンサの端子電圧の変動量を低減する必要がある。変動量を低減するために、コンデンサの容量を大きくする対策が考えられる。しかしながら、この場合、コンデンサが大型化してしまう。
【0007】
一方、変動量を低減するために、コンデンサの容量を大きくする以外にも、無効電力(リプル電流)の周波数を高くする対策も考えられる。しかしながら、この場合、騒音が増加してしまい、電力変換装置のNVH特性が悪化してしまう。
【0008】
本発明は、蓄電池の昇温制御時に発生する騒音を低減できる電力変換装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、巻線を有する回転電機と、
上アームスイッチ及び下アームスイッチの直列接続体を有するインバータと、
前記直列接続体に並列接続されたコンデンサと、を備える電力変換装置において、
直列接続された第1蓄電池及び第2蓄電池において前記第1蓄電池の負極側及び前記第2蓄電池の正極側と、前記巻線とを電気的に接続する接続経路と、
前記インバータ、前記巻線及び前記接続経路を介して前記第1蓄電池と前記第2蓄電池との間に電流が流れるように、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチング制御を行う制御部と、を備える。
【0010】
蓄電池の容量は、コンデンサの容量に比べて十分大きい。このため、蓄電池の充放電電流に対する端子電圧の増減量は、コンデンサの充放電電流に対する端子電圧の増減量よりも十分小さい。したがって、コンデンサ及び蓄電池の間ではなく、蓄電池同士の間で電力をやりとりできれば、上,下アームスイッチのスイッチング周波数を高くすることなく、昇温制御時におけるコンデンサの端子電圧の変動量を低減できる。
【0011】
そこで、インバータを介して蓄電池同士の間で電力をやりとりするために、本発明は、直列接続された第1蓄電池及び第2蓄電池において第1蓄電池の負極側及び第2蓄電池の正極側と、回転電機の巻線とを電気的に接続する接続経路を備えている。そして、本発明の制御部は、第1,第2蓄電池を昇温させるために、インバータ、巻線及び接続経路を介して第1蓄電池と第2蓄電池との間に電流が流れるように、上アームスイッチ及び下アームスイッチのスイッチング制御を行う。これにより、上,下アームスイッチのスイッチング周波数を高くすることなく、コンデンサの端子電圧の変動量を低減することができる。したがって、以上説明した本発明によれば、第1,第2蓄電池の昇温制御時に発生する騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図6】スイッチの制御態様等の推移を示すタイムチャート。
【
図8】比較例に係るシミュレーション結果を示す図。
【
図9】第1実施形態の変形例1に係るスイッチの制御態様等の推移を示すタイムチャート。
【
図10】第1実施形態の変形例1に係るスイッチの制御態様等の推移を示すタイムチャート。
【
図11】第1実施形態の変形例2に係る制御装置の機能ブロック図。
【
図12】ヒステリシス制御態様を示すタイムチャート。
【
図13】第2実施形態に係る指令電流の補正方法を示す図。
【
図15】第3実施形態に係る制御装置の処理手順を示すフローチャート。
【
図16】第4実施形態に係る電力変換装置の構成図。
【
図17】第5実施形態に係る電力変換装置の構成図。
【
図19】スイッチの制御態様等の推移を示すタイムチャート。
【
図21】第5実施形態の変形例1に係る制御装置の機能ブロック図。
【
図22】第5実施形態の変形例2に係るスイッチの制御態様等の推移を示すタイムチャート。
【
図23】第6実施形態に係る電力変換装置の構成図。
【
図24】第7実施形態に係る電力変換装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る電力変換装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態において、電力変換装置は車両に搭載されている。
【0014】
図1示すように、電力変換装置10は、インバータ30と、回転電機40とを備えている。電力変換装置10は、組電池20を昇温させるために、インバータ30を介して組電池20と回転電機40との間の電力のやりとりを行う機能を有している。
【0015】
回転電機40は、3相の同期機であり、ステータ巻線として星形結線されたU,V,W相巻線41U,41V,41Wを備えている。各相巻線41U,41V,41Wは、電気角で120°ずつずれて配置されている。回転電機40は、例えば永久磁石同期機である。本実施形態において、回転電機40は車載主機であり、車両の走行動力源となる。
【0016】
インバータ30は、上アームスイッチQUH,QVH,QWHと下アームスイッチQUL,QVL,QWLとの直列接続体を3相分備えている。本実施形態では、各スイッチQUH,QVH,QWH,QUL,QVL,QWLとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、具体的にはIGBTが用いられている。このため、各スイッチQUH,QVH,QWH,QUL,QVL,QWLの高電位側端子はコレクタであり、低電位側端子はエミッタである。各スイッチQUH,QVH,QWH,QUL,QVL,QWLには、フリーホイールダイオードとしての各ダイオードDUH,DVH,DWH,DUL,DVL,DWLが逆並列に接続されている。
【0017】
U相上アームスイッチQUHのエミッタと、U相下アームスイッチQULのコレクタとには、バスバー等のU相導電部材32Uを介して、U相巻線41Uの第1端が接続されている。V相上アームスイッチQVHのエミッタと、V相下アームスイッチQVLのコレクタとには、バスバー等のV相導電部材32Vを介して、V相巻線41Vの第1端が接続されている。W相上アームスイッチQWHのエミッタと、W相下アームスイッチQWLのコレクタとには、バスバー等のW相導電部材32Wを介して、W相巻線41Wの第1端が接続されている。U,V,W相巻線41U,41V,41Wの第2端同士は、中性点Oで接続されている。なお、本実施形態において、各相巻線41U,41V,41Wは、ターン数が同じに設定されている。これにより、各相巻線41U,41V,41Wは、例えばインダクタンスが同じに設定されている。
【0018】
各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのコレクタと、組電池20の正極端子とは、バスバー等の正極側母線Lpにより接続されている。各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのエミッタと、組電池20の負極端子とは、バスバー等の負極側母線Lnにより接続されている。
【0019】
電力変換装置10は、正極側母線Lpと負極側母線Lnとを接続するコンデンサ31を備えている。なお、コンデンサ31は、インバータ30に内蔵されていてもよいし、インバータ30の外部に設けられていてもよい。
【0020】
組電池20は、単電池としての電池セルの直列接続体として構成されており、端子電圧が例えば数百Vとなるものである。本実施形態では、組電池20を構成する各電池セルの端子電圧(例えば定格電圧)が互いに同じに設定されている。電池セルとしては、例えば、リチウムイオン電池等の2次電池を用いることができる。
【0021】
本実施形態では、組電池20を構成する電池セルのうち、高電位側の複数の電池セルの直列接続体が第1蓄電池21を構成し、低電位側の複数の電池セルの直列接続体が第2蓄電池22を構成している。つまり、組電池20が2つのブロックに分けられている。本実施形態では、第1蓄電池21を構成する電池セル数と、第2蓄電池22を構成する電池セル数とが同じである。このため、第1蓄電池21の端子電圧(例えば定格電圧)と、第2蓄電池22の端子電圧(例えば定格電圧)とが同じである。
【0022】
組電池20において、第1蓄電池21の負極端子と第2蓄電池22の正極端子とには中間端子Bが接続されている。
【0023】
電力変換装置10は、監視ユニット50(電圧情報検出部に相当)を備えている。監視ユニット50は、組電池20を構成する各電池セルの端子電圧、SOC、SOH及び温度等を監視する。
【0024】
電力変換装置10は、接続経路60と、接続スイッチ61とを備えている。接続経路60は、組電池20の中間端子Bと中性点Oとを電気的に接続する。接続スイッチ61は、接続経路60上に設けられている。本実施形態では、接続スイッチ61としてリレーが用いられている。接続スイッチ61がオン状態とされることにより、中間端子Bと中性点Oとが電気的に接続される。一方、接続スイッチ61がオフ状態とされることにより、中間端子Bと中性点Oとの間が電気的に遮断される。
【0025】
電力変換装置10は、接続経路60に流れる電流を検出する電流センサ62を備えている。電流センサ62の検出値は、電力変換装置10が備える制御装置70(制御部に相当)に入力される。
【0026】
制御装置70は、マイコンを主体として構成され、回転電機40の制御量をその指令値にフィードバック制御すべく、インバータ30を構成する各スイッチのスイッチング制御を行う。制御量は、例えばトルクである。
【0027】
制御装置70は、接続スイッチ61をオンオフ制御し、また、監視ユニット50と通信可能とされている。また、制御装置70は、電力変換装置10の外部に設けられた上位制御装置80と通信可能とされている。上位制御装置80は、車両の制御を統括する。
【0028】
ちなみに、制御装置70は、自身が備える記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種制御機能を実現する。各種機能は、ハードウェアである電子回路によって実現されてもよいし、ハードウェア及びソフトウェアの双方によって実現されてもよい。
【0029】
続いて、制御装置70により実行される組電池20の昇温制御について説明する。
図2は、昇温制御処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、制御装置70により、例えば所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0030】
ステップS10では、組電池20の昇温要求があるか否かを判定する。例えば、上位制御装置80から組電池20の昇温指示があったと判定した場合、又は監視ユニット50により検出された組電池20の温度が閾値温度未満であると判定した場合、昇温要求があると判定すればよい。ここで、閾値温度と比較する温度は、例えば、検出された各電池セルの温度のうち最も低い温度、又は検出された各電池セルの温度に基づいて算出した各電池セルの平均温度としてもよい。
【0031】
なお、本実施形態において、ステップS10で肯定判定される状況は、回転電機40の駆動前における車両の停車中の状況を想定している。
【0032】
ステップS10において昇温要求がないと判定した場合には、ステップS11に進み、回転電機40の駆動要求があるか否かを判定する。本実施形態において、この駆動要求には、回転電機40の回転駆動により車両を走行させる要求が含まれる。
【0033】
ステップS11において駆動要求がないと判定した場合には、ステップS12に進み、待機モードに設定する。このモードを設定することにより、インバータ30の各スイッチQUH~QWLがオフ制御される。そして、ステップS13において、接続スイッチ61をオフ制御する。これにより、中間端子Bと中性点Oとが電気的に遮断される。
【0034】
ステップS11において駆動要求があると判定した場合には、ステップS14に進み、回転電機40の駆動モードに設定する。そして、ステップS16において、接続スイッチ61をオン制御する。これにより、中間端子Bと中性点Oとが接続経路60を介して電気的に接続される。その後、ステップS16において、回転電機40を回転駆動させるべく、インバータ30の各スイッチQUH~QWLのスイッチング制御を行う。これにより、車両の駆動輪が回転し、車両を走行させることができる。なお、ステップS16におけるスイッチング制御は、例えば、各相巻線41U~41Wに印加する指令電圧とキャリア信号(例えば三角波信号)との大小比較に基づくPWM、又はパルスパターンを用いて実施されればよい。
【0035】
ステップS10において昇温要求があると判定した場合には、ステップS17に進み、昇温制御モードに設定する。ステップS18では、接続スイッチ61をオン制御する。
【0036】
ステップS19では、組電池20を昇温させる昇温PWM制御を行う。以下、この制御について説明する。
【0037】
図3(a)に、昇温PWM制御で用いられる電力変換装置10の等価回路を示す。
図3(a)では、各相巻線41U~41Wを巻線41として示し、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHを上アームスイッチQHとして示し、各上アームダイオードDUH,DVH,DWHを上アームダイオードDHとして示している。また、各下アームスイッチQUL,QVL,QWLを下アームスイッチQLとして示し、各下アームダイオードDUL,DVL,DWLを下アームダイオードDLとして示している。
【0038】
図3(a)の等価回路は、
図3(b)の等価回路として示すことができる。
図3(b)の回路は、第1蓄電池21と第2蓄電池22との間で双方向の電力伝達が可能な昇降圧チョッパ回路である。
図3(b)において、VBHは第1蓄電池21の端子電圧を示し、IBHは第1蓄電池21に流れる電流を示し、VBLは第2蓄電池22の端子電圧を示し、IBLは第2蓄電池22に流れる電流を示す。第1,第2蓄電池21,22の充電電流が流れる場合にIBH,IBLは負となり、第1,第2蓄電池21,22の放電電流が流れる場合にIBH,IBLは正となる。また、VRは巻線41の端子電圧を示し、IRは中性点Oに流れる電流を示す。巻線41から中間端子Bへと向かう正方向に中性点Oに電流が流れる場合にIRは負となり、その逆方向に中性点Oに電流が流れる場合にIRは正となる。
【0039】
図3(b)を参照して、上アームスイッチQHがオン状態になると、巻線41の端子電圧VRが「VBH」となる。一方、下アームスイッチQLがオン状態になると、巻線41の端子電圧VRが「-VBL」となる。つまり、上アームスイッチQHがオン状態になることにより、巻線41に正方向に励磁電流を流すことができ、下アームスイッチQLがオン状態になることにより、巻線41に負方向に励磁電流を流すことができる。
【0040】
【0041】
制御装置70において、電流偏差算出部71は、指令電流IM*から、電流センサ62により検出された電流(以下、検出電流IMr)を減算することにより、電流偏差を算出する。本実施形態において、指令電流IM*は、
図5に示すように、正弦波として設定される。詳しくは、指令電流IM*の1周期Tcにおいて、指令電流IM*のゼロクロスタイミングに対して、正の指令電流IM*と負の指令電流IM*とが点対称になるように指令電流IM*を設定する。これにより、指令電流IM*のゼロアップクロスタイミングからゼロダウンクロスタイミングまでの期間と、指令電流IM*のゼロダウンクロスタイミングからゼロアップクロスタイミングまでの期間とが同じになる。また、指令電流IM*の1周期Tcにおいて、第1領域の面積S1と第2領域の面積S2とが等しくなる。第1領域S1は、指令電流IM*の1周期Tcにおいて、指令電流IM*のゼロアップクロスタイミングからゼロダウンクロスタイミングまでの時間軸と、正の指令電流IM*とで囲まれる領域である。第2領域は、1周期Tcにおいて、指令電流IM*のゼロダウンクロスタイミングからゼロアップクロスタイミングまでの時間軸と、負の指令電流IM*とで囲まれる領域である。「S1=S2」に設定されることにより、1周期Tcにおける第1蓄電池21及び第2蓄電池22の充放電電流の収支を合わせることができ、昇温制御に伴って第1蓄電池21の端子電圧と第2蓄電池22の端子電圧との差が大きくなることを抑制できる。
【0042】
なお、指令電流IM*の1周期Tcの逆数である指令電流IM*の周波数fcは、例えば、人の可聴域の下限側の周波数に設定されることが望ましい。具体的には、周波数fcは、A特性において補正値(dB)が0以下となる周波数領域である1kHz以下に設定されることが望ましく、より望ましくは、30Hz~100Hzの間の周波数(例えば50Hz)に設定されることが望ましい。
【0043】
フィードバック制御部72は、算出された電流偏差を0にフィードバック制御するための操作量として、デューティ比Dutyを算出する。デューティ比Dutyは、各スイッチQUH~QWLの1スイッチング周期Tswにおけるオン時間Tonの比率(Ton/Tsw)を定める値である。なお、フィードバック制御部72で用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御とすればよい。
【0044】
PWM生成部73は、算出されたデューティ比Dutyに基づいて、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号を生成する。ゲート信号は、オン制御又はオフ制御を指示する信号である。本実施形態では、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号は同期している。
【0045】
反転器74は、PWM生成部73により生成された各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号の論理を反転させることにより、各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのゲート信号を生成する。本実施形態では、各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのゲート信号は同期している。
【0046】
図6に、昇温PWM制御時のスイッチングパターン等の推移を示す。
図6(a)は、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号の推移を示し、
図6(b)は、各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのゲート信号の推移を示す。
図6(c)は、中性点Oに流れる電流IRの推移と、指令電流IM*の推移とを示す。
図6(d)は、第1蓄電池21に流れる電流IBHの推移を示し、
図6(e)は、第2蓄電池22に流れる電流IBLの推移を示す。
【0047】
図6(a),(b)のように、上アームスイッチQUH,QVH,QWHと下アームスイッチQUL,QVL,QWLとが交互にオン制御される昇温PWM制御が実施される。この制御は、
図2のステップS10の昇温要求がなくなるまで継続される。この制御により、
図6(d),(e)に示すように、第1蓄電池21及び第2蓄電池22にはパルス状の電流が流れる。指令電流IM*が正となる期間においては、第1蓄電池21から放電され、第2蓄電池22に充電される。一方、指令電流IM*が負となる期間においては、第2蓄電池22から放電され、第1蓄電池21に充電される。なお、上記パルス状の電流の平均値IBHave,IBLaveは、指令電流IM*の周波数と同じ周波数の成分を含む正弦波状の電流となる。
【0048】
図7に、本実施形態のシミュレーション結果を示す。
図7(a)~(c)は、先の
図6(c)~(e)に対応しており、
図7(d)は、コンデンサ31の端子電圧の推移を示す。
図7(d)に示すように、コンデンサ31の端子電圧は変動していない。
【0049】
図8に、上記特許文献1に記載の構成である比較例のシミュレーション結果を示す。
図8(a),(b)は、先の
図7(a),(d)に対応している。なお、
図8(b)と
図7(d)とに示すSKは、時間軸のスケールを示すための符号である。
【0050】
図8(b)に示すように、比較例では、中性点Oに流れる電流IRと同じ周期で、コンデンサの端子電圧が大きく変動している。この変動を小さくするには、コンデンサの容量を大きくするか、又は指令電流IM*の振幅、すなわち昇温能力を低下させる必要がある。
【0051】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0052】
中間端子Bと中性点Oとが、インバータ30の各スイッチQUH~QWLを介さずに接続経路60により接続されている。この構成において、制御装置70は、インバータ30、各相巻線41U,41V,41W及び接続経路60を介して第1蓄電池21と第2蓄電池22との間にリプル電流が流れるように、インバータ30のスイッチング制御を行う。これにより、無効電力(リプル電流)の周波数fc(=1/Tc)を高くすることなく、コンデンサ31の端子電圧の変動量を低減することができる。したがって、組電池20の昇温制御時に発生する騒音を低減することができる。
【0053】
また、コンデンサ31の端子電圧の変動量を低減できるため、コンデンサ31の容量と小さくし、コンデンサ31を小型化することもできる。
【0054】
制御装置70は、昇温制御において、全相の上アームスイッチQUH,QVH,QWHのスイッチング制御を同期させ、また、全相の下アームスイッチQUL,QVL,QWLのスイッチング制御を同期させる。これにより、各相巻線41U,41V,41Wは、巻線が並列接続された等価回路とみなすことができる。このため、昇温制御時における巻線のインダクタンスを小さくすることができる。これにより、1スイッチング周期Tswにおいて中性点Oに流れる電流の変化量を大きくすることができ、大きな電流を用いて昇温制御を行うことができる。
【0055】
また、スイッチング制御を同期させることにより、回転電機40のロータが回転駆動することを抑制できる。
【0056】
制御装置70は、組電池20の昇温要求があると判定した場合、接続スイッチ61をオン状態にし、昇温要求がないと判定した場合、接続スイッチ61をオフ状態にする。これにより、車両走行時に中性点Oから中間端子Bに電流が流れることを抑制できる。
【0057】
<第1実施形態の変形例1>
図9に示すように、3相のうち2相分をオンオフ制御して昇温PWM制御を実施してもよい。
図9には、W相上,下アームスイッチQWH,QWLがオフ制御に維持される例を示す。
図9(a)は、U,V相上アームスイッチQUH,QVHのゲート信号の推移を示し、
図9(b)は、U,V相下アームスイッチQUL,QVLのゲート信号の推移を示し、
図9(c)は、W相上,下アームスイッチQWH,QWLのゲート信号の推移を示し、
図9(d)~(f)は、先の
図6(c)~(e)に対応している。
【0058】
また、
図10に示すように、3相のうち1相分をオンオフ制御して昇温PWM制御を実施してもよい。
図10には、U相上,下アームスイッチQUH,QULのみがオンオフ制御される例を示す。
図10(a),(b)は、U相上アームスイッチQUH,QULのゲート信号の推移を示し、
図10(c)は、V相上,下アームスイッチQVH,QVL及びW相上,下アームスイッチQWH,QWLのゲート信号の推移を示し、
図10(d)~(f)は、先の
図9(d)~(f)に対応している。
【0059】
図9や
図10に示すスイッチング制御であっても、リプル電流が小さい場合は、巻線41の等価インダクタンスを大きくして電流リプルを低減し、全相のスイッチング制御を行うよりも鉄損を低減できる場合がある。
【0060】
<第1実施形態の変形例2>
図4の構成に代えて、
図11に示す構成によりスイッチング制御を行ってもよい。制御装置70において、ヒステリシス制御部75は、指令電流IM*と検出電流IMrとに基づいて、
図12(b)に示す各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号を生成する。詳しくは、ヒステリシス制御部75は、指令電流IM*と検出電流IMrとの電流偏差に基づいて、各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号を生成する。反転器74は、ヒステリシス制御部75により生成された各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのゲート信号の論理を反転させることにより、
図12(c)に示す各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのゲート信号を生成する。これにより、
図12(a)に示すように、指令電流IM*に対して±ΔIの幅を持った範囲で検出電流IMrが制御される。
【0061】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0062】
本実施形態では、制御装置70は、第1蓄電池21の端子電圧と第2蓄電池22の端子電圧とが均等化されるように、指令電流IM*を補正する。詳しくは、制御装置70は、監視ユニット50から送信された情報に基づいて、第1蓄電池21の端子電圧VHrと第2蓄電池22の端子電圧VLrとを算出する。そして、制御装置70は、第1蓄電池21の端子電圧VHrが第2蓄電池22の端子電圧VLrよりも高いと判定した場合、
図13に示すように、指令電流IM*に直流成分Idc(>0)を加算することにより、補正後指令電流を算出する。これにより、1周期Tcの補正後指令電流において、第1領域の面積S1が第2領域の面積S2よりも大きくなる。その結果、1周期Tcにおいて、第1蓄電池21の放電電流が、第2蓄電池22の放電電流を上回り、第1蓄電池21の端子電圧と第2蓄電池22の端子電圧とが均等化される。
【0063】
一方、制御装置70は、第1蓄電池21の端子電圧VHrが第2蓄電池22の端子電圧VLrよりも低いと判定した場合、
図14に示すように、指令電流IM*から直流成分Idcを減算することにより、補正後指令電流を算出する。これにより、1周期Tcの補正後指令電流において、第1領域の面積S1が第2領域の面積S2よりも小さくなる。その結果、1周期Tcにおいて、第2蓄電池22の放電電流が、第1蓄電池21の放電電流を上回り、第1蓄電池21の端子電圧と第2蓄電池22の端子電圧とが均等化される。
【0064】
以上説明した本実施形態によれば、昇温制御を行いつつ、第1蓄電池21の端子電圧と第2蓄電池22の端子電圧との均等化を図ることができる。
【0065】
<第2実施形態の変形例>
・第1蓄電池21の端子電圧VHrと第2蓄電池22の端子電圧VLrとの電圧差に基づいて、直流成分Idcを可変設定してもよい。具体的には例えば、第1蓄電池21の端子電圧VHrが第2蓄電池22の端子電圧VLrよりも高い場合において、「VHr-VLr」が大きいほど、直流成分Idcを大きく設定してもよい。また、第1蓄電池21の端子電圧VHrが第2蓄電池22の端子電圧VLrよりも低い場合において、「VLr-VHr」が大きいほど、直流成分Idcを大きく設定してもよい。
【0066】
・指令電流IM*の補正処理において、各蓄電池の端子電圧に代えて、例えば、各蓄電池を構成する各電池セルの端子電圧のうち最も低い電圧、又は各蓄電池を構成する各電池セルの端子電圧の平均値が用いられてもよい。
【0067】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、制御装置70は、回転電機40の駆動が停止されている場合におけるスイッチング周波数fsw(=1/Tsw)を、回転電機40が回転駆動されて車両が走行している場合における上,下アームスイッチQUH~QWLのスイッチング周波数よりも高くて、かつ、人の非可聴域の周波数に設定する。
【0068】
図15に、本実施形態に係る昇温制御処理の手順を示す。この処理は、制御装置70により、例えば所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、
図15において、先の
図2に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0069】
ステップS18の処理の完了後、ステップS20に進み、昇温PWM制御を行う。ここでは、各スイッチQUH~QWLのスイッチング周波数fswを、ステップS16の処理で設定するスイッチング周波数よりも高く設定する。詳しくは、上記スイッチング周波数fswを、16kHz以上の周波数に設定し、例えば人の非可聴域(20kHz以上)の周波数に設定する。
【0070】
昇温制御は停車中において実施される。このような状況は、インバータ30のスイッチング制御に伴う騒音に対する人の聴感の感度が高くなる状況である。したがって、スイッチング周波数fswを、人が聞こえにくくなる16kHz以上の周波数であってかつ非可聴域でない周波数、又は非可聴域の周波数に設定することにより、昇温制御時における電力変換装置10のNVH特性を改善することができる。なお、16kHz以上の周波数は過度に高い周波数のため、スイッチング損失に伴う各スイッチQUH~QWLの発熱が懸念される。しかし、昇温制御時においては、車両の周囲が低温環境であるため、各スイッチQUH~QWLの温度がその許容上限値を超えるおそれは小さい。
【0071】
<第4実施形態>
第1実施形態において、回転電機及びインバータとしては、5相又は7相等、3相以外のものであってもよい。
図16に、5相の場合における電力変換装置を示す。
図16において、先の
図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0072】
図16では、インバータ30において、X相上,下アームスイッチQXH,QXL及び各ダイオードDXH,DXLが追加され、Y相上,下アームスイッチQYH,QYL及び各ダイオードDYH,DYLが追加されている。また、回転電機40において、X相巻線41XとY相巻線41Yとが追加されている。また、電力変換装置10において、X相導電部材32XとY相導電部材32Yとが追加されている。
【0073】
<第5実施形態>
以下、第5実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0074】
図17に、本実施形態における電力変換装置の構成図を示す。
図17において、先の
図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0075】
先の
図1に示す第1実施形態の構成において、電力変換装置10は、接続経路60、接続スイッチ61及び電流センサ62を備えていた。これらの構成の代わりに、本実施形態では、電力変換装置10は、接続経路90、接続スイッチ91及び電流センサ92を備えている。U相上アームスイッチQUHのエミッタと、U相下アームスイッチQULのコレクタとには、接続経路90を介して組電池20の中間端子Bが接続されている。接続スイッチ91及び電流センサ92は、接続経路90上に設けられている。
【0076】
本実施形態においても、制御装置70は、先の
図2に示した手順により昇温制御処理を実行する。ここでは、ステップS13,S15,S18における接続スイッチ61を、接続スイッチ91に読み替える。本実施形態の昇温PWM制御で用いられる電力変換装置10の等価回路は、先の
図3に示した回路と同じである。また、本実施形態の昇温制御処理では、ステップS19の昇温PWM制御におけるスイッチング制御の方法が変更されている。以下、この制御について説明する。
【0077】
図18に、本実施形態における昇温PWM制御のブロック図を示す。なお、
図18において、電流偏差算出部71及びフィードバック制御部72の構成と、指令電流IM*の設定方法とについては、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0078】
PWM生成部73は、フィードバック制御部72によって算出されたデューティ比Dutyに基づいて、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号を生成する。反転器74は、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号の論理を反転させることにより、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのゲート信号を生成する。本実施形態では、U相上,下アームスイッチQUH,QULはオフ制御される。また、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのスイッチング制御は同期され、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのスイッチング制御は同期されている。
【0079】
図19に、本実施形態における電流IR等の推移を示す。
図19(a)は、接続経路90に流れる電流IRの推移を示し、
図19(b)は、第1蓄電池21に流れる電流IBHの推移を示し、
図19(c)は、第2蓄電池22に流れる電流IBLの推移を示す。
図19(d)は、U相上,下アームスイッチQUH,QULのゲート信号の推移を示し、
図19(e)は、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号の推移を示し、
図19(d)は、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのゲート信号の推移を示す。
【0080】
本実施形態では、
図19(d)のように、U相上,下アームスイッチQUH,QULはオフ制御される。また、
図19(e),(f)のように、V,W相上アームスイッチQVH,QWHとV,W相下アームスイッチQVL,QWLとが交互にオン制御される。この制御により、
図19(b),(c)に示すように、第1蓄電池21及び第2蓄電池22にはパルス状の電流が流れ、
図19(a)に示すように、電流IRが指令電流IM*に制御される。
【0081】
図20に、本実施形態のシミュレーション結果を示す。
図20(a)~(c)は、先の
図19(a)~(c)に対応しており、
図20(d)は、コンデンサ31の端子電圧の推移を示す。
図20(d)に示すように、コンデンサ31の端子電圧は変動していない。
図20(d)に示すSKは時間軸のスケールを示すための符号であり、先の
図8(b)に示すSKと対応している。
【0082】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0083】
組電池20の中間端子Bは、接続経路90を介して、U相上アームスイッチQUHのエミッタとU相下アームスイッチQULのコレクタとに接続されている。この構成において、制御装置70は、V,W相上,下アームスイッチQVH,QWH,QVL,QWL、各相巻線41U,41V,41W及び接続経路90を介して第1蓄電池21と第2蓄電池22との間にリプル電流が流れるように、各スイッチQUH~QWLのスイッチング制御を行う。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0084】
制御装置70は、昇温制御において、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのスイッチング制御を同期させ、また、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのスイッチング制御を同期させる。これにより、V,W相巻線41V,41Wは、巻線が並列接続された等価回路とみなすことができる。このため、昇温制御時における巻線のインダクタンスを小さくすることができる。
【0085】
<第5実施形態の変形例1>
図18の構成に代えて、
図21に示す構成によりスイッチング制御を行ってもよい。制御装置70において、ヒステリシス制御部75は、指令電流IM*と検出電流IMrとに基づいて、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号を生成する。反転器74は、ヒステリシス制御部75により生成されたV,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号の論理を反転させることにより、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのゲート信号を生成する。
【0086】
<第5実施形態の変形例2>
制御装置70は、1相のみをオンオフ制御する昇温PWM制御を実施してもよい。
図22には、W相上,下アームスイッチQWH,QWLがオンオフ制御される例を示す。
図22(a)~(c)は、先の
図19(a)~(c)に対応している。
図22(d)は、U,V相上,下アームスイッチQUH,QUL,QVH,QVLのゲート信号の推移を示し、
図22(e)は、W相上アームスイッチQWHのゲート信号の推移を示し、
図22(f)は、W相下アームスイッチQWLのゲート信号の推移を示す。
【0087】
本実施形態では、
図22(d)のように、U,V相上,下アームスイッチQUH,QUL,QVH,QVLがオフされる。また、
図22(e),(f)のように、W相上アームスイッチQWHとW相下アームスイッチQWLとが交互にオン制御される。
【0088】
図22に示すスイッチング制御によれば、リプル電流が小さい場合は、巻線41の等価インダクタンスを大きくして電流リプルを低減し、V,W相のスイッチング制御を行うよりも鉄損を低減できる。
【0089】
<第5実施形態の変形例3>
制御装置70は、先の
図15に示した手順により昇温制御を実行してもよい。この場合、制御装置70は、先の
図15のステップS18の処理の完了後、ステップS20に進み、昇温PWM制御を行う。本実施形態では、V,W相上,下アームスイッチQVH,QWH,QVL,QWLのスイッチング周波数fswを、ステップS16の処理で設定するスイッチング周波数よりも高く設定する。これにより、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0090】
<第5実施形態の変形例4>
第2実施形態で説明したように、制御装置70は、第1蓄電池21の端子電圧と第2蓄電池22の端子電圧とが均等化されるように、指令電流IM*を補正してもよい。これにより、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0091】
<第5実施形態の変形例5>
組電池20の中間端子Bに接続される上、下アームスイッチは、U相上,下アームスイッチQUH,QULに限られず、例えばV相上,下アームスイッチQVH,QVLであってもよい。この場合、昇温制御において、V相上,下アームスイッチQVH,QVLはオフ制御される。また、U,W相上アームスイッチQUH,QWHとU,W相下アームスイッチQUL,QWLとが交互にオン制御される。
【0092】
また、中間端子Bに接続される上、下アームスイッチは、例えばW相上,下アームスイッチQWH,QWLであってもよい。この場合、昇温制御において、W相上,下アームスイッチQWH,QWLはオフ制御される。また、U,V相上アームスイッチQUH,QVHとU,V相下アームスイッチQUL,QVLとが交互にオン制御される。
【0093】
<第6実施形態>
以下、第6実施形態について、第5実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、組電池20の中間端子Bに接続される上、下アームスイッチは、1相に限られない。U,V,W相全ての上,下アームスイッチに中間端子Bが接続されなければよい。
【0094】
図23に、組電池20の中間端子Bに、U相上,下アームスイッチQUH,QUL及びW相上,下アームスイッチQWH,QWLが接続された場合の電力変換装置の構成図を示す。本実施形態では、組電池20の中間端子Bは、U相接続経路90Uを介して、U相上アームスイッチQUHのエミッタ及びU相下アームスイッチQULのコレクタに接続されている。また、組電池20の中間端子Bは、W相接続経路90Wを介して、W相上アームスイッチQWHのエミッタ及びW相下アームスイッチQWLのコレクタに接続されている。
【0095】
本実施形態では、昇温PWM制御を実施する場合、U,W相上,下アームスイッチQUH,QUL,QWH,QWLはオフ制御される。また、V相上アームスイッチQVHとV相下アームスイッチQVLとが交互にオン制御される。
【0096】
以上説明した本実施形態によれば、第5実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0097】
<第7実施形態>
第5実施形態において、回転電機及びインバータとしては、第4実施形態で説明したように、5相又は7相等、3相以外のものであってもよい。
図24に、5相の場合における電力変換装置を示す。
図24において、先の
図17に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0098】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0099】
・中性点Oに流れる電流を検出する電流センサの設置場所は、
図1に例示したものに限らない。例えば、
図1の各導電部材32U,32V,32Wに電流センサが設けられていてもよい。この場合、昇温制御時において、各導電部材32U,32V,32Wに電流センサにより検出された電流の合計値を検出電流IMrとすればよい。
【0100】
・指令電流IM*の設定方法は、
図5に示したものに限らない。1周期Tcにおいて指令電流IM*のゼロクロスタイミングに対して正の指令電流IM*と負の指令電流IM*とが点対称になる関係を満たしつつ、例えば、正の指令電流IM*及び負の指令電流IM*それぞれを台形波又は矩形波に設定してもよい。
【0101】
また、指令電流IM*の設定方法としては、上記点対称の関係を満たすものに限らない。例えば、1周期Tcにおいて、指令電流IM*のゼロアップクロスタイミングからゼロダウンクロスタイミングまでの期間と、指令電流IM*のゼロダウンクロスタイミングからゼロアップクロスタイミングまでの期間とが異なるようにし、かつ、第1領域の面積S1と第2領域の面積S2とが等しくなるように指令電流IM*を設定してもよい。この場合であっても、1周期Tcにおける第1蓄電池21及び第2蓄電池22の充放電電流の収支を合わせることはできる。
【0102】
・第1蓄電池21及び第2蓄電池22それぞれの電池セルの数が異なっていてもよい。この場合、第1蓄電池21の端子電圧と第2蓄電池22の端子電圧とが異なり、また、中間端子Bは、組電池20を構成する各電池セルを等分しない位置に設けられることとなる。
【0103】
・第1実施形態において、制御装置70は、昇温制御において、全相の上アームスイッチQUH,QVH,QWHのスイッチング制御を同期させなくてもよく、また、全相の下アームスイッチQUL,QVL,QWLのスイッチング制御を同期させなくてもよい。
【0104】
・接続スイッチ61としては、リレーに限らない。接続スイッチ61として、例えば、ソース同士が接続された一対のNチャネルMOSFETや、IGBTが用いられてもよい。
【0105】
・第1~第4実施形態において、接続スイッチ61は必須ではない。この場合、中間端子Bと中性点Oが常時電気的に接続されることとなる。
【0106】
・インバータを構成する上,下アームスイッチとしては、IGBTに限らず、例えばNチャネルMOSFETであってもよい。この場合、高電位側端子はドレインとなり、低電位側端子はソースとなる。
【0107】
・第1蓄電池及び第2蓄電池が組電池を構成していなくてもよい。
【0108】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0109】
10…電力変換装置、20…組電池、30…インバータ、31…コンデンサ、40…回転電機、41U,41V,41W…U,V,W相巻線、60,90…接続経路、61…接続スイッチ、90U…U相接続経路、90W…W相接続経路、70…制御装置、QUH,QVH,QWH…U,V,W相上アームスイッチ、QUL,QVL,QWL…U,V,W相下アームスイッチ。