(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】内燃機関の点火制御装置および内燃機関の制御システム
(51)【国際特許分類】
F02P 1/08 20060101AFI20231020BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20231020BHJP
F02P 5/145 20060101ALI20231020BHJP
F02P 11/02 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
F02P1/08 301Z
F02D45/00 362
F02P5/145 C
F02P11/02 303B
(21)【出願番号】P 2019216924
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】関田 智昭
(72)【発明者】
【氏名】若月 裕貴
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-144915(JP,A)
【文献】特開2001-200776(JP,A)
【文献】特開2004-176625(JP,A)
【文献】特開2005-155375(JP,A)
【文献】特開2005-171769(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207344(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0056755(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/06
F02D 45/00
F02P 1/00-5/15
F02P 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンの往復動と同期してロータが回転駆動された交流発電機の回転速度を算出する回転速度算出部と、
回転速度算出部によって算出された回転速度に基づいて前記内燃機関の点火時期を決定する点火時期決定部と、
前記点火時期決定部によって決定された時期に前記内燃機関に点火されるようにイグニッションコイルに電力供給する点火制御部と、
を備えた内燃機関の点火制御装置であって、
前記回転速度算出部は、前記内燃機関の始動に際しては、前記交流発電機の少なくとも一相の交流出力電圧の極性を示す極性信号と、前記交流発電機の前記ロータが所定の回転位置を通過したことを示す回転信号とに基づいて、前記ロータの回転速度を算出することを特徴とする内燃機関の点火制御装置。
【請求項2】
前記極性信号は、前記ロータの回転速度によって周期が変動する交流出力電圧の極性の変化に基づいて前記ロータの1回転あたりに所定数生成される2値の連続パルスを含み、
前記回転信号は、前記ロータが所定の回転位置を通過するごとに生成される正と負の単発パルスのセットを含み、
前記回転速度算出部は、前記回転信号において最初に識別可能な前記単発パルスの検出時刻から、当該単発パルスを識別した直前に前記極性信号において識別した連続パルスの検出時刻を差し引いた時間Δtを算出し、当該時間Δtで所定の回転位相ωとを用いて前記
ロータの回転速
度を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項3】
前記回転速度算出部は、前記内燃機関の始動後では、前記回転信号のみに基づいて前記ロータの回転速度を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の点火制御装置。
【請求項4】
ロータが回転駆動されることにより交流出力電圧を生成する交流発電機と、
前記交流発電機の交流出力電圧を受け取り、該交流出力電圧を直流出力電圧に変換するレギュレータと、
前記ロータの回転を識別可能な所定の回転位置に設けられたパルサと、
請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関の点火制御装置と、
を備えた内燃機関の制御システムであって、
前記レギュレータは、各値が少なくとも一相の前記交流出力電圧の極性に対応した2値の連続パルスを含む極性信号を生成する極性信号生成部を有することを特徴とする内燃機関の制御システム。
【請求項5】
前記ロータは、円周上に設けられた
突起部を有し、
前記パルサは、前記ロータの前記突起部が前記所定の回転位置を通過したときに起電力を生ずるピックアップコイルを有することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関の無接点点火装置において、三相発電機のうち一相分だけの出力とタイミングセンサ信号とで確実に位相検出し、逆転失火する内燃機関用無接点点火装置が提案されている。
【0003】
この内燃機関用無接点点火装置では、点火信号Vfに従って点火動作を行っている。三相発電機の一相の出力端子aの交流出力Vaによって充電されたコンデンサ18の電圧Vbを所定電圧の設定値Vrと比較した比較出力VcがHレベルのときだけ点火動作が許可される。この構成により、エンジンの逆転時には点火信号Vfに基づいた点火動作がなされない(失火させる)ようになっている。また、交流出力波形Vaに応じて設定値Vrを補正することにより、この比較出力Vcを適切に調整して、エンジン逆転時には確実に失火させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の内燃機関の点火制御装置としては、ECUに搭載されたマイコンで点火時期(点火を実行するタイミング)を制御しているものが普及している。マイコンで点火時期を制御するためには、内燃機関のピストンの往復速度(ここではエンジンの回転速度ともいう)を正しく知る必要がある。通常のエンジンは、バッテリを搭載しているので、スタータによってエンジン回転がなされる前の、メインスイッチやキースイッチがONとなった時点からマイコンが起動され、即座にエンジンの回転速度を算出することができ、点火制御を実行することも可能となる。
【0006】
一方、農業用機械や発電機などでは、エンジンにバッテリを搭載していない、いわゆるバッテリーレスのエンジンも普及している。このバッテリーレスのエンジンでは、通常はスタータによってなされるエンジンの始動を人力で行わなければならない。たとえば、リコイルスタートやキックスタートなどが人力によるエンジン始動手段として知られている。
【0007】
しかしながら、こうしたバッテリーレスのエンジンでは、マイコンが起動するのは、エンジンのクランキングを開始してからエンジンがいくらか回転した後となる。マイコンが起動していないと、内燃機関の点火時期は制御できないので、適切な点火時期に内燃機関の点火がなされてエンジンが回転することが難しいといえる。点火タイミングが適切な点火時期よりもすこし早いと、エンジンが逆回転(ケッチン)してしまうこともある。このように、バッテリーレスのエンジンでは、エンジンの始動直後には、エンジンの逆回転が発生しやすいといえる。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、バッテリからの電力供給なく駆動制御される内燃機関の点火制御装置において、エンジンが回転し始めてからできるだけ早い段階でエンジン回転速度を得ることにより、内燃機関の点火時期を適切に制御してエンジンの逆回転の発生を防止することできる内燃機関の点火制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の点火制御装置は、内燃機関のピストンの往復動と同期してロータが回転駆動された交流発電機の回転速度を算出する回転速度算出部と、回転速度算出部によって算出された回転速度に基づいて前記内燃機関の点火時期を決定する点火時期決定部と、前記点火時期決定部によって決定された時期に前記内燃機関に点火されるようにイグニッションコイルに電力供給する点火制御部と、を備えた内燃機関の点火制御装置であって、前記回転速度算出部は、前記内燃機関の始動に際しては、前記交流発電機の少なくとも一相の交流出力電圧の極性を示す極性信号と、前記交流発電機の前記ロータが所定の回転位置を通過したことを示す回転信号とに基づいて、前記ロータの回転速度を算出することを特徴とする。
【0010】
この態様によれば、内燃機関の点火制御装置において、エンジンが回転し始めてからできるだけ早い段階でエンジン回転速度を得ることができる。このため、バッテリからの電力供給なく駆動制御される内燃機関においてもより早期の回転段階で正確な回転速度を把握することによって、適切な進角タイミングでの点火動作を行えるようになる。点火動作が適切な進角タイミングにうまく制御できれば逆回転は発生しないので、結果、始動性の向上を実現しつつエンジンの逆回転の発生も防止することができる。また、バッテリからの電力供給がある内燃機関においても最初の回転信号を検出した時点から、適切な進角タイミングでの点火動作を行えるようになるため同様の効果を奏する。
【0011】
前記内燃機関の点火制御装置において、前記極性信号は、前記ロータの回転速度によって周期が変動する交流出力電圧の極性の変化に基づいて前記ロータの1回転あたりに所定数生成される2値の連続パルスを含み、前記回転信号は、前記ロータが所定の回転位置を通過するごとに生成される正と負の単発パルスのセットを含み、前記回転速度算出部は、前記回転信号において最初に識別可能な前記単発パルスの検出時刻から、当該単発パルスを識別した直前に前記極性信号において識別した連続パルスの検出時刻を差し引いた時間Δtを算出し、当該時間Δtと所定の回転位相ωとを用いて前記ロータの回転速度vを算出することができる。
【0012】
この態様によれば、所定の角度(回転位相)だけ回転するために要した時間と、その回転位相とに基づいてロータの回転速度を算出できる。所定の回転位相ωは、その単発パルスを識別した直前に前記極性信号において識別した連続パルスが検出される回転位置から、回転信号において最初に識別可能な単発パルスが検出される回転位置に回転するまでに要した時間でその回転位相を除算することによってロータの回転速度を算出することができる。
【0013】
前記内燃機関の点火制御装置において、前記回転速度算出部は、前記内燃機関の始動後では、前記回転信号のみに基づいて前記ロータの回転速度を算出する。
【0014】
この態様によれば、内燃機関の始動後は、通常の点火時期制御に切り替えられるので、簡単な構成でエンジンの逆回転の発生を防止することができる。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の制御システムは、ロータが回転駆動されることにより交流出力電圧を生成する交流発電機と、前記交流発電機の交流出力電圧を受け取り、該交流出力電圧を直流出力電圧に変換するレギュレータと、前記ロータの回転を識別可能な所定の回転位置に設けられたパルサと、上記のいずれかに記載の内燃機関の点火制御装置と、を備えた内燃機関の制御システムであって、前記レギュレータは、各値が少なくとも一相の前記交流出力電圧の極性に対応した2値の連続パルスを含む極性信号を生成する極性信号生成部を有することを特徴とする。
【0016】
この態様によれば、レギュレータに極性信号を生成する手段が設けられているので、内燃機関の点火制御装置に交流発電機の交流出力電圧を入力する必要がない。
【0017】
前記内燃機関の制御システムにおいて、前記ロータは、円周上に設けられた突出部を有し、前記パルサは、前記ロータの前記突起部がすれ違うときに起電力を生ずるピックアップコイルを有することを特徴とする。
【0018】
この態様によれば、通常の点火時期制御に用いられる構成を用いて回転信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態の内燃機関の点火制御装置を含む制御システムの概略構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態の内燃機関の制御装置の各構成の動作状態を示す信号波形である。
【
図3】第1の実施形態の極性信号生成部の動作を示す処理フロー図である。
【
図4】第1の実施形態の内燃機関の点火制御装置における点火時期決定部の動作を示す処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
内燃機関の駆動は、シリンダ内に吸入した圧縮した混合気に点火プラグで点火して爆発を生じさせることにより行われている。通常は、ピストンが上死点のわずかに手前となった時点で点火プラグの点火が行われるようにその点火時期を内燃機関の点火制御装置により制御している。このタイミングで点火プラグの点火が行われることによりエンジンの逆回転の発生が防止される。
【0021】
本明細書で説明する内燃機関の点火制御装置40(
図1参照)は、バッテリからの電力供給なく駆動制御される内燃機関の回転速度を算出する回転速度算出部41と、回転速度算出部41で算出された回転速度に基づいて点火時期を決定する点火時期決定部42と、点火時期決定部42によって決定された時期に内燃機関に点火されるようにイグニッションコイル50に電力供給する点火制御部43とを備えている。回転速度算出部41は、内燃機関の始動に際しては、内燃機関のピストンの往復動と同期してロータが回転駆動された交流発電機(ACG:Alternating Current Generator)10の少なくとも一相の交流出力電圧の極性を示す極性信号と、交流発電機10のロータが所定の回転位置を通過したことを示す回転信号とに基づいて、ロータの回転速度を算出し、算出した回転速度に基づいて内燃機関の点火時期を決定する。
【0022】
上記極性信号は、ロータの回転速度によって周期が変動する交流出力電圧の極性に対応した値を有する2値の連続パルスを含んでいる。極性信号に含まれる2値の連続パルスは、ロータの1回転あたりに所定数が生成される。上記回転信号は、ロータが所定の回転位置を通過するごとに生成される正と負の単発パルスのセットを含んでいる。
【0023】
回転速度算出部41は、内燃機関の始動に際しては、回転信号において最初に識別可能な単発パルスの検出時刻から、その単発パルスを識別した直前に極性信号において識別した連続パルスの検出時刻を差し引いた時間Δtを算出し、その時間Δtと所定の回転位相ωとを用いてロータの回転速度vを算出する。
【0024】
回転速度算出部41は、マイコンが立ち上がった後の初回より後の内燃機関の単発パルスのタイミングにおいては、回転信号のみに基づいて内燃機関の点火時期を決定することができる。
【0025】
また、本明細書で説明する内燃機関の制御システム(
図1参照)は、交流発電機10と、レギュレータ20と、パルサ30と、点火制御装置40とを備えている。交流発電機10は、ロータが回転駆動されることにより交流出力電圧を生成する。レギュレータ20は、交流発電機10の交流出力電圧を受け取り、その交流出力電圧を直流出力電圧に変換する。パルサ30は、ロータの回転を識別可能な所定の回転位置に設けられている。また、レギュレータ20は、極性信号生成部21を有している。極性信号生成部21は、各値が少なくとも一相の交流出力電圧の極性に対応した2値の連続パルスを含む極性信号を生成する。
【0026】
交流発電機10のロータは、円周上に設けられた突出部を有し、パルサ30は、交流発電機10のロータの突起部が所定の回転位置を通過したときに起電力を生ずるピックアップコイルを有する。
【0027】
上記内燃機関の点火制御装置の実施形態について、以下詳細に説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態にかかる内燃機関の点火制御装置40を含む制御システム1の概略構成を示す図である。内燃機関の制御システム1は、
図1に示すように、交流発電機10と、レギュレータ(REG)20と、パルサ30と、点火制御装置(ECU)40と、イグニッションコイル(IGコイル)50とを備えている。
【0029】
交流発電機10としては、ロータとステータとを有する単相または三相の交流発電機を用いることができる。
図1では三相の交流発電機10を用いた例が示されている。ロータには、クランクシャフトを介して内燃機関のピストンが接続されている。内燃機関のピストンの往復運動がクランクシャフトによって回転運動に変換されてロータに伝達されることにより、ロータの回転がピストンの往復動と同期している。ステータは、鉄心にコイルが巻回されて構成され、ロータは極性の異なる磁石が交互に配置されて構成されている。交流発電機10は、ステータに対してロータが回転することによって、ステータのコイルに発生する交流出力電圧を出力している。
【0030】
ここで、交流出力電圧は、各相において正弦波形(交流波形ともいう)を示す。この交流波形は、ロータとステータの配置によって決まる周期を有する。ロータが1回転につき生じる交流波形の数はこのロータとステータの配置によってあらかじめ決まっている。言い換えると、交流波形を観察することによってロータの回転位置を推定できるといえる。
【0031】
交流発電機10は、ロータが所定の回転位置を通過したことを識別できるように、ロータの円周上に突起部(リラクタともいう)が設けられている。ここでロータの円周上とはロータの内周と外周を含む概念であり、突起部は、ロータの内周に設けられていてもよいし、ロータの外周に設けられていてもよい。
【0032】
レギュレータ20は、交流発電機10から出力された交流出力電圧が入力され、入力された交流出力電圧を直流出力電圧に変換して出力する。三相交流発電機の場合、各相から入力される交流出力電圧は交流波形を示し、その位相が1周期の1/3位相ずつずれている。レギュレータ20は、たとえば、三相の交流出力電圧のうち最も高い相電圧を出力することにより、交流出力電圧を直流出力電圧に変換して出力することができる。
【0033】
レギュレータ20は、各値が少なくとも一相の交流出力電圧の極性に対応した値となる2値の連続パルスを含む極性信号を生成する極性信号生成部21を有する。極性信号生成部21としては三相のうちの少なくとも一相の交流出力電圧の値が入力されるマイコンを用いることができる。極性信号生成部21は、たとえば、三相のうちの所定の1つの相の相電圧が、正の値のときに第1の値を出力し、負の値のときに第2の値を出力することによって、2値の連続パルスを生成することができる。極性信号生成部21は、所定の1つの相の相電圧だけでなく、所定の2つの相の相電圧や3つの相の相電圧の値が所定の条件を満たすときに、第1の値を出力し、所定の条件を満たさないときに第2の値を出力するようにしてもよい。
【0034】
ここで、2値の連続パルスを含む極性信号について説明する。2値の連続パルスの各値は交流出力電圧の極性に対応している。2値の連続パルスを構成する各パルスの立ち上がりエッジと立ち下がりエッジは、交流出力電圧において極性が変化するタイミングに対応する。交流出力電圧は、その波形を観察することによってロータの回転位置を推定できるといえるので、交流出力電圧において極性が変化するタイミングに対応する2値の連続パルスを含む極性信号もロータの回転位置をある程度推定できるといえる。このように、極性信号において2値の連続パルスが発生するときのロータの回転位置(複数)は物理的に決まっているといえる。
【0035】
パルサ30は、交流発電機10のロータが所定の回転位置を通過したときに起電力を生ずるように配置されたピックアップコイルを有し、ピックアップコイルに生じた起電力による電圧が回転信号として点火制御装置40に出力されるように、ピックアップコイルの両端が点火制御装置40に接続されている。交流発電機10のロータの円周上に設けられた突起部がパルサ30のピックアップコイルとすれ違ったときにピックアップコイルに起電力が生じ、その結果生成された電圧が点火制御装置40に入力されることによって、交流発電機10のロータが所定の回転位置を通過したことを検出することができる。たとえば、突起部の円周方向の先端部分がピックアップコイルと対向する位置に到達したときに、点火制御装置40に入力される電圧に正の単発パルス波形を生じ、突起部の円周方向の終端部分がピックアップコイルと対向する位置から外れたときに、点火制御装置40に入力される電圧に負の単発パルス波形を生じる。このように、回転信号において単発パルスが発生するときのロータの回転位置は物理的に決まっているといえる。
【0036】
点火制御装置40は、イグニッションコイル50に供給する電力を制御することにより内燃機関での点火を制御する装置であり、回転速度算出部41と、点火時期決定部42と、点火制御部43とを有している。また、点火制御装置40は、図示しないマイコンカウンタにより経過時間を計時している。マイコンカウンタは、点火制御装置40が起動してから所定時間ごとにカウント値を1単位づつインクリメントする(カウントする)カウンタであり、所定のカウント値に到達すると再び最初からカウントを開始する。
【0037】
回転速度算出部41は、パルサ30からの出力される回転信号に含まれる単発パルスを検出し、ロータの回転速度を算出して、点火時期決定部42に渡す。回転速度算出部41は、内燃機関の始動に際しては、極性信号生成部21から出力された2値の連続パルスを含む極性信号と、パルサ30から出力された単発パルスを含む回転信号とに基づいてロータの回転速度を算出する。回転速度算出部41は、内燃機関の始動後は、パルサ30から出力された単発パルスを含む回転信号のみに基づいてロータの回転速度を算出する。
【0038】
回転速度算出部41は、内燃機関の始動に際しては、回転信号において最初に識別可能な単発パルスの検出時刻から、その単発パルスを識別した直前に極性信号において識別した連続パルスの検出時刻を差し引いた時間Δtを算出し、その時間Δtと所定の回転位相ωとを用いてロータの回転速度vを算出する。
【0039】
ロータが1回転する間に生成される極性信号に含まれる連続パルスの数は、あらかじめ決まっているので、極性信号における連続パルスの立ち上がりと立ち下がりのタイミングは、ロータにおけるいくつかの回転位置に対応しているといえる。また、回転信号の単発パルスの検出タイミングは、ロータにおける特定の回転位置に対応しているといえる。すなわち、極性信号における連続パルスの立ち上がりを検出してから回転信号の単発パルスの検出をするまでにロータが回転する位相(角度)は決まっている。この決まっている値を所定の回転位相ωとする。所定の回転位相ωとその回転に要する時間Δtとを用いてロータの回転速度vを算出することができる。所定の回転位相ωは、交流発電機10の構成やパルサ30の配置位置によって決まる値である。
【0040】
内燃機関の制御においては、回転速度は、1分間の回転数を表すr/minを単位として表されている。1分は60sec=60000msecなので、所定の回転位相ωの回転に要する時間がΔtであるときの回転速度vは、v=60000/(Δt×360/ω)により算出することができる。
【0041】
点火時期決定部42は、回転速度算出部41において算出したロータの回転速度に基づいて内燃機関の点火時期を決定する。点火時期決定部42は、たとえば、点火時期を決定するための3Dテーブルを参照して、算出された回転速度とスロットル開度に対応する点火時期を決定することができる。点火時期決定部42は、決定した点火時期に点火を行うように、点火制御部43に点火許可を行う。
【0042】
点火制御部43には、レギュレータ20から出力される直流出力電圧が入力される。点火制御部43は、点火時期決定部42において決定された点火時期でイグニッションコイルにおいて点火が行われるように、点火時期決定部42からの点火許可に基づいて、イグニッションコイルの一次コイル側に所定タイミングで電力供給を行う。
【0043】
図2は、第1の実施形態の内燃機関の制御装置の各構成の動作状態を示す信号波形である。ここで、内燃機関の始動に際して、点火時期決定部42における回転速度の算出について説明する。
【0044】
図2には、パルサ30から出力される回転信号(Pulser)と、レギュレータ20から出力される極性信号(Reg)と、交流発電機10におけるロータの回転スピード(ACG回転スピード)と、点火制御装置40の電圧(ECU電圧)と、点火制御装置40のマイコンカウンタのカウント値(マイコンカウンタ)とが示されている。
【0045】
図2に示すように、内燃機関の制御システム1では、リコイルスタートなどの手動のエンジン始動手段によって、交流発電機10のロータに回転力が与えられ、交流発電機10のロータの回転スピードが上昇する。交流発電機10のロータの回転スピードが上昇すると交流発電機10から出力される交流出力電圧が大きくなり、レギュレータ20によって各部に供給される電力が上昇する。レギュレータ20によって各部に供給される電力が上昇することにより、レギュレータ20の極性信号生成部21が起動し、さらに点火制御装置40が起動される。
【0046】
図2では、ロータの回転スピードがある値まで上昇するとレギュレータ20の極性信号生成部21が立ち上がって極性信号(Reg)が生成されはじめ、さらにロータの回転スピードが上昇すると点火制御装置40の電圧(ECU電圧)がマイコンの起動する値まで上昇してマイコンがカウントし始める(マイコンカウンタ)ことが示されている。
【0047】
回転速度算出部41は、パルサ30から出力される回転信号において最初に識別可能な単発パルスの検出時刻から、当該単発パルスを識別した直前に極性信号において識別した連続パルスの検出時刻を差し引いた時間Δtを算出し、その時間Δtと所定の回転位相ωとを用いて前記内燃機関の回転速度vを算出する。
【0048】
具体的には、たとえば、
図2に示すように、マイコンカウンタでカウントを開始してから回転信号(Pulser)において最初の単発パルスが山の頂点となる時刻と、その単発パルスの直前に、極性信号(Reg)において生成された連続パルスの立ち上がりエッジの時刻との差分時間Δtを算出し、差分時間Δtとその間におけるロータの所定の回転位相ωを用いて、回転速度v=60000/(Δt×360/ω)を用いて回転速度vを算出する。
【0049】
ここで、回転信号において単発パルスが発生するときのロータの回転位置は物理的に決まっているといえる。また、極性信号は、ロータの回転位置に対応した2値の連続パルスを含んでいる。極性信号はロータが1回転する間に生成される複数の連続パルス含んでいるので、各パルスがロータの複数の回転位置に対応するため、それだけでは、ロータの回転位置は推定できない。
【0050】
しかしながら、リラクタがパルサ30のピックアップコイルを通過する直前のロータ回転位置であれば、ロータの回転位置を推定できる。よって、単発パルスを検出するときのロータの回転位置からその直前の連続パルスに対応する回転位置までの回転位相を所定の回転位相ωとして回転速度の算出に用いることができる。これは、パルサ30の回転信号を認識するタイミングとレギュレータのパルスのエッジとの関係(それぞれの原因となる構成の物理的関係)が機知であるからといえる。
【0051】
次に、第1の実施形態の内燃機関の制御装置においてエンジン始動時の点火時期の決定処理ついて説明する。
図3は、第1の実施形態のレギュレータ20の極性信号生成部21の動作を示す処理フロー図であり、
図4は第1の実施形態の内燃機関の点火制御装置内の回転速度算出部41および点火時期決定部42の動作を示す処理フロー図である。
【0052】
まず、エンジン始動動作により交流発電機10に回転力が与えられ発電電力が所定値以上となると、極性信号生成部21を構成するマイコンが起動する。極性信号生成部21を構成するマイコンが起動すると、極性信号生成部21によって
図3に示す処理フローが実行される。すなわち、極性信号生成部21は、交流発電機10で生成された少なくとも一相の交流出力電圧を取得し(S31)、取得した交流出力電圧が正の値である場合に5Vの信号を生成し、正の値でない(負の値である)場合に、0Vの信号を生成することにより極性信号を生成する(S32)。極性信号生成部21は、生成した極性信号を点火制御装置40の回転速度算出部41へと出力する(S33)。
【0053】
エンジン始動動作により交流発電機10に回転力が与えられ発電電力が所定値以上となると、点火制御装置40を構成するマイコンも起動し、
図4に示す処理フローも実行される。点回転速度算出部41は、レギュレータ20の極性信号生成部21で生成された極性信号とパルサ30で生成された回転信号とを取得する(S41)。
【0054】
回転速度算出部41は、回転信号においてリラクタの前端を通過した時に発生する正の単発パルスを検出したことを判断すると(S42:Yes)、単発パルスを検出した時刻と、その直前に検出した極性信号の連続パルスの立ち上がり時刻との差分時間Δtを算出し(S43)、差分時間Δtを用いて回転速度vを算出する(S44)。算出した回転速度は点火時期決定部42に出力される。
【0055】
点火時期決定部42は、所定の点火時期に内燃機関の点火を行うために、適切なタイミングであるかを判定することにより、点火許可をするか否かを判定する(S45)。点火を許可すると判定した場合(S45:Yes)に、点火制御部43に点火許可信号を出力する(S46)。点火制御部43は、点火時期決定部42からの点火許可信号を受けると、イグニッションコイル50における点火制御を行い、内燃機関が点火され、エンジンが始動する。
【0056】
回転速度算出部41は、エンジン始動後は、回転信号のみに基づいて回転速度を算出する。すなわち、回転速度算出部41は、回転信号を取得し(S47)、取得した回転信号と前回取得した回転信号に基づいて回転速度を算出する(S48)。ここでいう回転信号は、たとえば、1回転につき2回生じる正の単発パルスの頂点を基準に回転速度を算出する場合は、正の単発パルスの頂点を検出した時刻と、その直前の正の単発パルスの頂点を検出した時刻との時間Δtを算出し、2π/Δt(rpm)と算出することができる。
【0057】
回転速度算出部41において回転速度を算出(S48)した後の処理は、エンジン始動時と同様に、点火時期決定部42は、点火許可の判定(S45)と点火許可信号の出力(S46)を行う。
【0058】
このように本実施形態の内燃機関の点火制御装置によれば、エンジン始動時のできるだけ早い段階でエンジン回転速度を得ることにより、点火時期を適切に制御してエンジンの逆回転の発生を防止することできる。
【0059】
なお、上記の実施形態では、回転速度算出部41は、内燃機関の始動に際しては、回転信号において最初に識別可能な単発パルスの検出時刻から、その単発パルスを識別した直前に極性信号において識別した連続パルスの検出時刻を差し引いた時間Δtを算出し、その時間Δtと所定の回転位相ωとを用いてロータの回転速度vを算出している。しかしながら、この態様に限定されず、回転信号において最初に識別可能な単発パルスの検出時刻から、その単発パルスを識別した「直前よりも前に」極性信号において識別した連続パルスの検出時刻を差し引いた時間Δtを算出してもよい。この場合、所定の回転位相ωはこの極性信号の検出位置に対応して変化させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 内燃機関の制御システム、10 交流発電機、20 レギュレータ(REG)、30 パルサ、40 点火制御装置(ECU)、41 回転速度算出部、42 点火時期決定部、43 点火制御部、50 イグニッションコイル(IGコイル)