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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20231020BHJP
   B24B 31/00 20060101ALI20231020BHJP
   B24C 1/10 20060101ALI20231020BHJP
   F16H 55/08 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
F16H1/32 B
B24B31/00 Z
B24C1/10 D
F16H55/08 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019230019
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021099113
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019944(JP,A)
【文献】特開2002-328180(JP,A)
【文献】特開2019-078292(JP,A)
【文献】特開2019-138343(JP,A)
【文献】特開2015-187298(JP,A)
【文献】特開2000-002315(JP,A)
【文献】特開平11-048036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
B24B 31/00
B24C 1/10
F16H 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記外歯歯車及び前記内歯歯車の少なくとも一方は、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さく、
前記外歯歯車は、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さく、
前記内歯歯車は、前記外歯歯車よりも歯先部と歯底部の表面粗さの差が小さい、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記外歯歯車及び前記内歯歯車の各々は、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さい、
請求項1に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記内歯歯車として第1内歯歯車及び第2内歯歯車を有する筒型の撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1内歯歯車は前記外歯歯車と歯数が異なり、前記第2内歯歯車は前記外歯歯車と歯数が同じであり、
前記第1内歯歯車は、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さく、
前記第2内歯歯車は、前記第1内歯歯車よりも歯先部と歯底部の表面粗さの差が小さい、
請求項1又は請求項2に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
表面粗さが小さい前記歯先部の範囲は、歯先から歯丈の10%以上の歯丈方向長さの範囲である、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置の製造方法であって、
前記外歯歯車及び前記内歯歯車の少なくとも一方の歯車に対し、歯先部を含む所定範囲には接触するが歯底には接触しない大きさを有するメディアを用い、バレル研磨を施し、歯先部の表面粗さを歯底部の表面粗さよりも小さくする研磨工程を有する、
撓み噛合い式歯車装置の製造方法。
【請求項6】
前記研磨工程の前に、
前記少なくとも一方の歯車の歯面にショットピーニングを施す工程を有する、
請求項5に記載の撓み噛合い式歯車装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撓み変形する外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う内歯歯車とを備える撓み噛合い式歯車装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
外歯歯車と内歯歯車との噛合い部では、摩耗やピッチングが発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-112214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、歯車での摩耗やピッチングの発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る撓み噛合い式歯車装置は、
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記外歯歯車及び前記内歯歯車の少なくとも一方は、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さく、
前記外歯歯車は、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さく、
前記内歯歯車は、前記外歯歯車よりも歯先部と歯底部の表面粗さの差が小さい構成とした。
【0006】
また、本発明に係る撓み噛合い式歯車装置の製造方法は、
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置の製造方法であって、
前記外歯歯車及び前記内歯歯車の少なくとも一方の歯車に対し、歯先部を含む所定範囲には接触するが歯底には接触しない大きさを有するメディアを用い、バレル研磨を施し、歯先部の表面粗さを歯底部の表面粗さよりも小さくする研磨工程を有するものとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、歯車での摩耗やピッチングの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
図2】外歯歯車の歯面の仕上げ状態を説明するための図であり、(a)が歯面の斜視図、(b)が歯面の断面図である。
図3】内歯歯車の歯面の仕上げ状態を説明するための図であり、(a)が歯面の斜視図、(b)が歯面の断面図である。
図4】歯車部材の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
[撓み噛合い式歯車装置の全体構成]
図1は、本発明に係る撓み噛合い式歯車装置1を示す断面図である。
この図に示すように、撓み噛合い式歯車装置1は、筒型の撓み噛合い式歯車装置であり、起振体軸10、外歯歯車21、第1内歯歯車311及び第2内歯歯車321、起振体軸受12、ケーシング33、第1カバー34、第2カバー35を備える。
【0011】
起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体10Aと、起振体10Aの軸方向の両側に設けられた軸部10B、10Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。軸部10B、10Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。
なお、以下の説明では、回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1に垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」という。また、軸方向のうち、外部の被駆動部材と連結されて減速された運動を当該被駆動部材に出力する側(図中の左側)を「出力側」といい、出力側とは反対側(図中の右側)を「反出力側」という。
【0012】
外歯歯車21は、外歯歯車部材20の外周面に設けられている。外歯歯車部材20は、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする薄肉の円筒状部材である。
【0013】
第1内歯歯車311と第2内歯歯車321は、回転軸O1を中心として起振体軸10の周囲で回転を行う。このうち、第1内歯歯車311は、第1内歯歯車部材31の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。第2内歯歯車321は、第2内歯歯車部材32の内周部の該当箇所に内歯が設けられて構成される。
第1内歯歯車311と第2内歯歯車321は、軸方向に並んで設けられ、外歯歯車21と噛合している。このうち、第1内歯歯車311は、外歯歯車21のうち軸方向中央より反出力側の歯部と噛合している。一方、第2内歯歯車321は、外歯歯車21のうち軸方向中央より出力側の歯部と噛合している。
また、第1内歯歯車311は外歯歯車21と歯数が異なり、第2内歯歯車321は外歯歯車21と歯数が同じとなっている。
【0014】
起振体軸受12は、例えばコロ軸受であり、起振体10Aと外歯歯車21との間に配置される。起振体10Aと外歯歯車21とは、起振体軸受12を介して相対回転可能となっている。
起振体軸受12は、外歯歯車21の内側に嵌入される外輪12aと、複数の転動体(コロ)12bと、複数の転動体12bを保持する保持器12cとを有する。
複数の転動体12bは、第1内歯歯車311の径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第1群の転動体12bと、第2内歯歯車321の径方向内方に配置され、周方向に並ぶ第2群の転動体12bとを有する。これらの転動体12bは、起振体10Aの外周面と外輪12aの内周面とを転走面として転動する。外輪12aは、複数の転動体12bの配列に対応して同形状のものが軸方向に二つ並んで設けられている。なお、起振体軸受12は、起振体10Aとは別体の内輪を有してもよい。
【0015】
起振体軸受12及び外歯歯車21の軸方向の両側には、これらに当接して、これらの軸方向の移動を規制する規制部材としてのスペーサリング41、42が設けられている。
【0016】
ケーシング33は、第1内歯歯車部材31と連結され、第2内歯歯車321の外径側を覆う。ケーシング33は、内周部に形成された主軸受38(例えばクロスローラ軸受)の外輪部を有しており、当該主軸受38を介して第2内歯歯車部材32を回転自在に支持している。また、撓み噛合い式歯車装置1が外部の相手装置と接続される際、ケーシング33と第1内歯歯車部材31は相手装置(被駆動部材とは異なる固定部材)に共締めにより連結される。
【0017】
第1カバー34は、第1内歯歯車部材31と連結され、外歯歯車21と第1内歯歯車311との噛合い箇所を軸方向の反出力側から覆う。第1カバー34と起振体軸10の軸部10Bとの間には第1軸受36(例えば玉軸受)が配置され、第1カバー34は、当該第1軸受36を介して起振体軸10を回転自在に支持している。
【0018】
第2カバー35は、第2内歯歯車部材32と連結され、外歯歯車21と第2内歯歯車321との噛合い箇所を軸方向の出力側から覆う。第2カバー35及び第2内歯歯車部材32は、減速された運動を出力する相手装置の被駆動部材に連結される。第2カバー35と起振体軸10の軸部10Cとの間には第2軸受37(例えば玉軸受)が配置され、第2カバー35は、当該第2軸受37を介して起振体軸10を回転自在に支持している。
【0019】
さらに、撓み噛合い式歯車装置1は、シール用のオイルシール43,44,45及びOリング46,47,48を備える。
オイルシール43は、軸方向の反出力側の端部で、起振体軸10の軸部10Bと第1カバー34との間に配置され、反出力側への潤滑剤の流出を抑制する。オイルシール44は、軸方向の出力側の端部で、起振体軸10の軸部10Cと第2カバー35との間に配置され、出力側への潤滑剤の流出を抑制する。オイルシール45は、ケーシング33と第2内歯歯車部材32との間に配置され、この部分からの潤滑剤の流出を抑制する。
Oリング46,47,48は、第1内歯歯車部材31と第1カバー34との間、第1内歯歯車部材31とケーシング33との間、第2内歯歯車部材32と第2カバー35との間にそれぞれ設けられ、これらの間で潤滑剤が移動することを抑制する。
つまり、潤滑剤(例えばグリース)は、オイルシール43~45とOリング46~48とでシールされた撓み噛合い式歯車装置1内部のシール空間S内に封入される。
【0020】
[外歯歯車と内歯歯車の仕上げ状態]
続いて、外歯歯車21と内歯歯車(第1内歯歯車311及び第2内歯歯車321)の歯面の仕上げ状態について説明する。
図2及び図3は、外歯歯車21及び内歯歯車の歯面の仕上げ状態を説明するための図であり、それぞれ(a)が歯面の斜視図、(b)が歯面の断面図である。なお、図3では、第1内歯歯車311と第2内歯歯車321の歯車形状を同じものとして示したが、実際にはこれらの歯車形状は異なる。
【0021】
図2(a)、(b)に示すように、外歯歯車21は、その歯先部Taの表面粗さが歯底部Baの表面粗さよりも小さい。表面粗さが小さい範囲、すなわち歯先部Taの歯先からの高さ(歯丈方向の長さ)d1は、外歯歯車21の歯丈h1に対し、少なくとも10%以上あるのが好ましく、20%以上あるのがより好ましい。これは、様々な大きさ、様々な減速比の撓み噛合い式歯車装置1について、外歯歯車21の噛合い時の歯面の面圧状態および潤滑状態を検証したところ、面圧状態および潤滑状態が厳しい範囲が歯先から10%以内の歯車装置が多く、ほとんどの歯車装置が歯先から20%以内であったためである。また、歯先から50%の範囲に設定すれば、全ての歯車装置が含まれたことから、50%以下に設定するのが好ましい。
このように、噛み合い時の面圧が高く潤滑状態も厳しい、より摩耗しやすい歯先部Taの表面粗さを歯底部Baの表面粗さよりも小さくすることにより、外歯歯車21の耐ピッチング特性及び耐摩耗性を好適に向上できる。
【0022】
図3(a)、(b)に示すように、第1内歯歯車311及び第2内歯歯車321の各々は、その歯先部Tbの表面粗さが歯底部Bbの表面粗さよりも小さい。表面粗さが小さい範囲、すなわち歯先部Tbの歯先からの高さ(歯丈方向の長さ)d2は、内歯歯車の歯丈h2に対し、少なくとも10%以上あるのが好ましく、20%以上あるのがより好ましい。これは、様々な大きさ、様々な減速比の撓み噛合い式歯車装置1について、第1内歯歯車311及び第2内歯歯車321の噛合い時の歯面の面圧状態および潤滑状態を検証したところ、面圧状態および潤滑状態が厳しい範囲が歯先から10%以内の歯車装置が多く、ほとんどの歯車装置が歯先から20%以内であったためである。また、歯先から50%の範囲に設定すれば、全ての歯車装置が含まれたことから、50%以下に設定するのが好ましい。
このように、噛み合い時の面圧が高く潤滑状態も厳しい、より摩耗しやすい歯先部Tbの表面粗さを歯底部Bbの表面粗さよりも小さくすることにより、内歯歯車(第1内歯歯車311及び第2内歯歯車321)の耐ピッチング特性及び耐摩耗性を好適に向上できる。
【0023】
なお、第1内歯歯車311、第2内歯歯車321及び外歯歯車21の全てにおいて、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さくなくともよく、これらの歯車のうち少なくとも1つにおいて歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さければよい。
【0024】
ただし、外歯歯車21と内歯歯車(第1内歯歯車311、第2内歯歯車321)とを比較した場合、内歯歯車よりも外歯歯車21において歯先部の表面粗さが小さいことが好ましい。より正確には、外歯歯車21における歯先部と歯底部の表面粗さの差(歯先部の方が歯底部よりも小さい)が、内歯歯車における歯先部と歯底部の表面粗さの差よりも大きいことが好ましい。すなわち、このときの内歯歯車は、外歯歯車21よりも歯先部と歯底部の表面粗さの差が小さい。
これは、外歯歯車21(外歯歯車部材20)が薄肉で弾性変形する部材であるため、ピッチングが起きるとそこを起点にき裂が進展しやすく、内歯歯車よりも破損の進行が早いためである。つまり、外歯歯車21の歯先部の表面粗さを内歯歯車よりも優先して小さくした方が、撓み噛合い式歯車装置1全体としてピッチングによる破損の進行を好適に抑制できる。
【0025】
また、相手装置の固定部材に連結される側(以下、「固定側」という。)の第1内歯歯車311と、出力先の被駆動部材に連結される側(以下、「出力側」という。)の第2内歯歯車321とを比較した場合、出力側の第2内歯歯車321よりも固定側の第1内歯歯車311において歯先部の表面粗さが小さいことが好ましい。より正確には、第1内歯歯車311における歯先部と歯底部の表面粗さの差(歯先部の方が歯底部よりも小さい)が、第2内歯歯車321における歯先部と歯底部の表面粗さの差よりも大きいことが好ましい。すなわち、このときの第2内歯歯車321は、第1内歯歯車311よりも歯先部と歯底部の表面粗さの差が小さい。
これは、外歯歯車21と歯数が異なる固定側の第1内歯歯車311の方が、外歯歯車21と歯数が等しい出力側の第2内歯歯車321よりも、ピッチングが発生しやすいためである。つまり、出力側の第2内歯歯車321よりも固定側の第1内歯歯車311において歯先部の表面粗さを小さくした方が、ピッチングの発生を好適に抑制できる。
なお、第2内歯歯車部材32を外歯歯車21と歯数が異なる固定側とし、第1内歯歯車部材31を外歯歯車21と歯数が等しい出力側として、固定側と出力側を入れ替えた場合には、固定側の第2内歯歯車321において歯先部の表面粗さを小さくする必要がある。
また、外歯歯車21(外歯歯車部材20)が固定側と出力側とで別体に分割されていた場合には、内歯歯車の場合と同様の理由により、出力側の外歯歯車よりも固定側の外歯歯車において歯先部の表面粗さを小さくした方がよい。より正確には、異なる歯数で第1内歯歯車311と噛み合う固定側の外歯歯車における歯先部と歯底部の表面粗さの差(歯先部の方が歯底部よりも小さい)が、同じ歯数で第2内歯歯車321と噛み合う出力側の外歯歯車における歯先部と歯底部の表面粗さの差よりも大きいことが好ましい。
【0026】
[歯車部材の製造方法]
続いて、外歯歯車部材20と内歯歯車部材(第1内歯歯車部材31、第2内歯歯車部材32)の製造方法について説明する。
図4は、この製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0027】
外歯歯車部材20と内歯歯車部材は、大まかには同様の工程を経て製造される。
図4に示すように、この歯車部材(外歯歯車部材20、内歯歯車部材)の製造では、まず、歯車部以外の機械加工が行われる(ステップS1)。
ただし、この機械加工の一部又は全部は、以降のステップS2~S4の途中やその後に実施してもよい。
【0028】
次に、歯切り加工が行われる(ステップS2)。
歯切り加工の種類は特に限定されず、例えば、ホブ盤、ギヤシェーパー、スカイビング盤などを用いることができる。
【0029】
次に、歯面のショットピーニングが行われる(ステップS3)。
このショットピーニングは、主に歯面の加工目を除去して表面粗さを一定程度にまで小さくするために行われる。ただし、ギヤシェーパーやスカイビング盤などによる歯切り加工では、加工面の仕上げ状態が比較的に良好なため、ショットピーニングを省いてもよい。
【0030】
次に、歯車部材のバレル研磨が行われる(ステップS4)。
このバレル研磨は、歯車部材の歯先部の表面粗さを歯底部の表面粗さよりも小さくするために行われる。バレル研磨で用いるメディア(研磨材)は、歯車部材の歯面のうち、歯先部を含む所定範囲には接触するが歯底には接触しない大きさ(径D)を有する(図2(b)、図3(b)参照)。本実施形態のメディアは球形であるが、このような大きさを有するメディアであれば、その形状等は特に限定されない。メディアの径Dは、内歯歯車用と外歯歯車用とで同じでも異なっていてもよい。
このようなバレル研磨により、メディアが歯底に接触することなく歯先部に接触し、歯先部だけを好適に研磨できる。また、歯底を含む歯面全面を研磨する場合に比べ、歯形の崩れを抑制し、加工時間を短縮できる。
バレル研磨処理後には、歯面の表面粗さを計測し、所望の値が得られていることを確認する。この場合の表面粗さは、特に限定はされないが、歯形方向に測定した粗さに基づいて算出した二乗平均平方根高さ(Rq)又は最大高さ(Ry)で評価するのが好ましい。
【0031】
以上の工程により、外歯歯車部材20と内歯歯車部材(第1内歯歯車部材31、第2内歯歯車部材32)を個別に加工することで、これらの歯車部材が完成する。
ただし、ステップS4のバレル研磨は、歯面の仕上げ状態の説明において述べた理由により、外歯歯車21及び内歯歯車の全てに対して実施しなくともよい。例えば、このバレル研磨は、外歯歯車21だけに実施して内歯歯車には実施しなくてもよい。内歯歯車に実施する場合には、固定側の第1内歯歯車311だけに実施して出力側の第2内歯歯車321には実施しなくてもよい。また、外歯歯車21(外歯歯車部材20)が固定側と出力側とで別体に分割されていた場合には、異なる歯数で第1内歯歯車311と噛み合う固定側の外歯歯車だけに実施し、同じ歯数で第2内歯歯車321と噛み合う出力側の外歯歯車には実施しなくてもよい。
【0032】
[撓み噛合い式歯車装置の減速動作]
続いて、撓み噛合い式歯車装置1の減速動作について説明する。
モータ等の駆動源により起振体軸10の回転駆動が行われると、起振体10Aの運動が外歯歯車21に伝わる。このとき、外歯歯車21は、起振体10Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車21は、固定された第1内歯歯車311と長軸部分で噛合っている。このため、外歯歯車21は起振体10Aと同じ回転速度で回転することはなく、外歯歯車21の内側で起振体10Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯歯車21は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸10の回転周期に比例する。
【0033】
外歯歯車21が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、外歯歯車21と第1内歯歯車311との噛合う位置が回転方向に変化する。ここで、例えば、外歯歯車21の歯数が100で、第1内歯歯車311の歯数が102だとすると、噛合う位置が一周するごとに、外歯歯車21と第1内歯歯車311との噛合う歯がずれていき、これにより外歯歯車21が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車21に伝達される。
【0034】
一方、外歯歯車21は第2内歯歯車321とも噛合っているため、起振体軸10の回転によって外歯歯車21と第2内歯歯車321との噛合う位置も回転方向に変化する。ここで、第2内歯歯車321の歯数と外歯歯車21の歯数とが同数であるため、外歯歯車21と第2内歯歯車321とは相対的に回転せず、外歯歯車21の回転運動が減速比1:1で第2内歯歯車321へ伝達される。これらによって、起振体軸10の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯歯車部材32及び第2カバー35へ伝達され、この回転運動が被駆動部材に出力される。
【0035】
ここで、撓み噛合い式歯車装置1では、外歯歯車21及び内歯歯車の少なくとも一方の歯車において、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さく形成されている。
そのため、噛み合い時の面圧が高く、より摩耗しやすい歯先部の表面粗さを歯底部の表面粗さよりも小さくすることにより、当該歯車の耐ピッチング特性及び耐摩耗性を好適に向上できる。
また、歯先部がバレル研磨された表面粗さの小さい面であり、これと接触する相手歯車の歯面がショットピーニングされた相対的に表面粗さの大きい面であった場合、これらが噛み合うことでショットピーニングの歯面が均され、噛み合いが馴染む効果が期待できる。その結果、ショットピーニングの歯面が鏡面化されて潤滑が促進され、耐摩耗性及び耐ピッチング特性が向上する。
【0036】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、内歯歯車及び外歯歯車21の少なくとも一方は、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さい。
このように、噛み合い時の面圧が高く潤滑状態も厳しい、より摩耗しやすい歯先部の表面粗さを歯底部の表面粗さよりも小さくすることにより、当該歯車の耐ピッチング特性及び耐摩耗性を好適に向上できる。
したがって、従来に比べ、歯車での摩耗やピッチングの発生を抑制できる。
【0037】
また、本実施形態によれば、外歯歯車21及び内歯歯車の各々において、歯先部の表面粗さが歯底部の表面粗さよりも小さい。
これにより、外歯歯車21及び内歯歯車の全ての噛合い部において、摩耗やピッチングの発生を好適に抑制できる。
【0038】
また、外歯歯車21において歯先部の表面粗さを歯底部の表面粗さよりも小さくすることにより、ピッチングが起きるとそこを起点にき裂が進展しやすく内歯歯車よりも破損の進行が早い当該外歯歯車21において、ピッチングの進行を好適に抑制できる。
【0039】
また、外歯歯車21と歯数が異なる第1内歯歯車311において歯先部の表面粗さを歯底部の表面粗さよりも小さくすることにより、外歯歯車21と歯数が等しい第2内歯歯車321よりもピッチングが発生しやすい当該第1内歯歯車311において、ピッチングの発生を好適に抑制できる。
【0040】
また、本実施形態では、歯車の歯先部を含む所定範囲には接触するが歯底には接触しない大きさを有するメディアを用いてバレル研磨を実施している。
これにより、歯先部の表面粗さを好適に歯底部の表面粗さよりも小さくできる。また、歯底を含む歯面全面を研磨する場合に比べ、歯形の崩れを抑制し、加工時間を短縮できる。
【0041】
また、本実施形態では、バレル研磨を行うステップS4の前に、歯面にショットピーニングを施すステップS3を行っている。
これにより、歯先部がバレル研磨された表面粗さの小さい面となり、歯底部がショットピーニングされた相対的に表面粗さの大きい面となる。したがって、このような歯車同士が噛み合った場合には、より表面粗さの小さい歯先部によって、ショットピーニングの歯面が均され、噛み合いが馴染む効果が期待できる。その結果、ショットピーニングの歯面が鏡面化されて潤滑が促進され、耐摩耗性及び耐ピッチング特性が向上する。
【0042】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、バレル研磨により歯面の研磨を行うこととしたが、歯底部よりも歯先部の表面粗さを小さく研磨できるものであれば、バレル研磨以外の研磨手法を用いてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、所謂筒型の撓み噛合い式歯車装置を例に挙げて説明した。しかし、本発明は、これに限定されず、例えば所謂カップ型又はシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置にも適用可能である。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 撓み噛合い式歯車装置
10 起振体軸
10A 起振体
20 外歯歯車部材
21 外歯歯車
31 第1内歯歯車部材
311 第1内歯歯車(内歯歯車)
32 第2内歯歯車部材
321 第2内歯歯車(内歯歯車)
Ta 外歯歯車の歯先部
Tb 内歯歯車の歯先部
Ba 外歯歯車の歯底部
Bb 内歯歯車の歯底部
h1 外歯歯車の歯丈
h2 内歯歯車の歯丈
D メディア径
O1 回転軸
図1
図2
図3
図4