(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4709 20060101AFI20231020BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231020BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231020BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231020BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
A61K31/4709
A61P17/00
A61P31/00
A61P29/00
A61P17/10
(21)【出願番号】P 2019562193
(86)(22)【出願日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2018048297
(87)【国際公開番号】W WO2019131929
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017253485
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113908
【氏名又は名称】マルホ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(72)【発明者】
【氏名】田原 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】池田 文昭
(72)【発明者】
【氏名】北野 高道
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129657(WO,A1)
【文献】特開2002-201130(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017631(WO,A2)
【文献】森本宏 ほか,日薬理誌,2016年,Vol. 148,pp. 39-45
【文献】川島眞 ほか,臨床医薬,2015年,Vol. 31, No. 2,pp. 155-171
【文献】川島眞 ほか,臨床医薬,2015年,Vol. 31, No. 3,pp. 279-287
【文献】GROPPER, S. et al.,Future Microbiol.,2014年,Vol. 9, No. 9,pp. 1013-1023
【文献】田原圭祐 ほか,日本皮膚科学会雑誌,2018年05月15日,Vol. 128, No. 5, 臨時増刊号,p. 1244,P-432
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-シクロプロピル-8-メチル-7-[5-メチル-6-(メチルアミノ)-3-ピリジル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロ-3-キノリンカルボン酸及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、炎症性サイトカイン産生抑制剤であって、
プロピオニバクテリウム・アクネスによって産生が亢進された、IL-6、IL-8及びTNF-αからなる群から選択される少なくとも1つの炎症性サイトカインの産生を抑制するための、
炎症性サイトカイン産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-シクロプロピル-8-メチル-7-[5-メチル-6-(メチルアミノ)-3-ピリジル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロ-3-キノリンカルボン酸(以下、「化合物A」という)及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、微生物により生じる皮膚炎症に対して抗炎症作用を有することを特徴とする医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒト皮膚には細菌や真菌等の様々な微生物が存在することが知られている。
細菌のうち、グラム陽性菌としては、例えば、プロピオニバクテリウム・アクネス、スタフィロコッカス・エピデルミデス、スタフィロコッカス・アウレウス又はストレプトコッカス・ピオゲネス等が挙げられ、グラム陰性菌としては、エッシェリヒア・コリ、クレブジエラ・ニューモニエ、プロテウス・ミラビリス、セラチア・マルセッセンス又はシュードモーナス・エルギノーザ等が挙げられる。
これらの細菌は、ざ瘡や皮膚感染症等の原因菌として知られ、主な治療法として、軽度から中等度ではナジフロキサシン、クリンダマイシン等の外用抗菌剤、中等度から重度ではミノサイクリン、ロキシスロマイシン等の経口抗菌剤が繁用されている。
真菌としては、例えば、カンジダ・アルビカンス、トリコフィトン・メンタグロファイテス、トリコフィトン・ルブルム、トリコフィトン・トンシュランス、ミクロスポリウム・カニス、ミクロスポリウム・ジプセウム、エピデルモフィトン・フロコッサム、マラセチア・レストリクタ、マラセチア・グロボーサ、マラセチア・フルフル等が挙げられる。
真菌が引き起こす皮膚疾患に対しては、例えば、アモロルフィン塩酸塩、ケトコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール、エフィナコナゾール、ルリコナゾール又はテルビナフィン塩酸塩等の抗真菌薬もよく使われる。
また、外用抗菌剤に関しては、新たな抗菌剤として、化合物Aを有効成分として含有する外用剤が開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0003】
化合物Aは優れた抗菌作用を有することが知られており(例えば、非特許文献1)、化合物Aを有効成分とする外用抗菌剤は、表在性皮膚感染症患者や化膿性炎症を伴うざ瘡患者に対して高い治療効果を発揮することが知られている(例えば、非特許文献2、非特許文献3)。しかしながら、これまで、化合物Aが抗炎症作用を有することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO99/51588
【文献】WO2007/015453
【非特許文献】
【0005】
【文献】Yamakawa T,et al.J Antimicrob Chemother. 2002 Mar;49(3):455-465
【文献】川島 眞ほか:臨床医薬31(3)279(2015)
【文献】川島 眞ほか:臨床医薬31(2)155(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、主として、化合物Aを含有する医薬組成物であって、微生物により生じるヒトの皮膚炎症に対して抗炎症作用を有することを特徴とする医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、化合物Aを有効成分として用いることにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)1-シクロプロピル-8-メチル-7-[5-メチル-6-(メチルアミノ)-3-ピリジル]-4-オキソ-1,4-ジヒドロ-3-キノリンカルボン酸及び/又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、微生物によって生じる皮膚炎症に対して抗炎症作用を有することを特徴とする医薬組成物。
(2)微生物によって生じる皮膚炎症が、表在性皮膚感染症及び/又は化膿性炎症を伴うざ瘡において生じるものである、上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)表在性皮膚感染症が、毛包炎、毛瘡、化膿性汗孔周囲炎及び/又は伝染性膿痂疹である、上記(2)に記載の医薬組成物。
(4)化膿性炎症を伴うざ瘡が、尋常性ざ瘡、新生児ざ瘡及び/又は集簇性ざ瘡である、上記(2)に記載の医薬組成物。
(5)微生物によって生じる皮膚炎症が、グラム陽性菌及び/又はグラム陰性菌によって生じるものである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、正常ヒト表皮角化細胞のIL-6産生に対する各種抗菌薬の抑制効果を表す。 縦軸はコントロール群に対するIL-6濃度(% of control)を、横軸は各種抗菌薬の濃度(μg/mL)を表す。●は化合物A処置群を、△はナジフロキサシン処置群を、□はクリンダマイシン処置群を、それぞれ表す。
【
図2】
図2は、正常ヒト表皮角化細胞のIL-8産生に対する各種抗菌薬の抑制効果を表す。 縦軸はコントロール群に対するIL-8濃度(% of control)を、横軸は各種抗菌薬の濃度(μg/mL)を表す。●は化合物A処置群を、△はナジフロキサシン処置群を、□はクリンダマイシン処置群を、それぞれ表す。
【
図3】
図3は、ヒト単球株化細胞のIL-1β産生に対する各種抗菌薬の抑制効果を表す。 縦軸はコントロール群に対するIL-1β濃度(% of control)を、横軸は各種抗菌薬の濃度(μg/mL)を表す。●は化合物A処置群を、△はナジフロキサシン処置群を、□はクリンダマイシン処置群を、それぞれ表す。
【
図4】
図4は、ヒト単球株化細胞のIL-6産生に対する各種抗菌薬の抑制効果を表す。 縦軸はコントロール群に対するIL-6濃度(% of control)を、横軸は各種抗菌薬の濃度(μg/mL)を表す。●は化合物A処置群を、△はナジフロキサシン処置群を、□はクリンダマイシン処置群を、それぞれ表す。
【
図5】
図5は、ヒト単球株化細胞のIL-8産生に対する各種抗菌薬の抑制効果を表す。 縦軸はコントロール群に対するIL-8濃度(% of control)を、横軸は各種抗菌薬の濃度(μg/mL)を表す。●は化合物A処置群を、△はナジフロキサシン処置群を、□はクリンダマイシン処置群を、それぞれ表す。
【
図6】
図6は、ヒト単球株化細胞のTNF-α産生に対する各種抗菌薬の抑制効果を表す。 縦軸はコントロール群に対するTNF-α濃度(% of control)を、横軸は各種抗菌薬の濃度(μg/mL)を表す。●は化合物A処置群を、△はナジフロキサシン処置群を、□はクリンダマイシン処置群を、それぞれ表す。
【
図7】
図7は、各種試験薬液のラット耳介炎症抑制効果を表す。 縦軸はラットの耳介の厚さ(mm)を、横軸は試験薬液の濃度(μg/μL)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
化合物Aは、キノロン系合成抗菌化合物に分類され、細菌のDNA複製に関与するDNAジャイレース及びトポイソメラーゼIVを阻害して抗菌作用を発揮する。
また、化合物Aは、グラム陽性菌、グラム陰性菌、嫌気性菌、クラミジア及び薬剤耐性グラム陽性菌に対して幅広い抗菌スペクトルと強い抗菌活性を有している。
【0011】
化合物Aは、例えば、WO99/51588に記載の方法により合成することができる。
【0012】
化合物Aの医薬上許容される塩としては、通常知られているアミノ基等の塩基性基又はヒドロキシル基若しくはカルボキシル基等の酸性基における塩を挙げることができる。
【0013】
塩基性基における塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸等の鉱酸との塩;酒石酸、ギ酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機カルボン酸との塩;並びにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸等のスルホン酸との塩を挙げることができる。
【0014】
酸性基における塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;並びにリジン、アルギニン、オルニチン等のアミノ酸、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン並びにN,N'-ジベンジルエチレンジアミン等の含窒素有機塩基との塩を挙げることができる。
【0015】
本発明組成物は、微生物によって生じる皮膚炎症に対して抗炎症作用を有するものであり、微生物によって生じる皮膚炎症を伴う疾患であれば特に限定されないが、例えば、表在性皮膚感染症、ざ瘡、皮膚糸状菌症(水虫)、皮膚カンジダ症又は癜風等を挙げることができる。
【0016】
微生物とは、肉眼では観察できない微小な生物の総称であり、細菌や真菌、ウィルス等が含まれると定義されるが、ここでは細菌及び真菌のことを言う。
【0017】
細菌によって引き起こされる皮膚疾患の原因菌には様々なものが知られており、これらの菌は、例えば、グラム染色法によって分類することができる。グラム染色で紫色に染まる細菌はグラム陽性菌、紫色に染まらず赤く見える細菌はグラム陰性菌と分類される。
【0018】
グラム陽性菌としては、例えば、スタフィロコッカス属、プロピオニバクテリウム属、エンテロコッカス属、バチラス属、コリネバクテリウム属、マイクロコッカス属、ペプトストレプトコッカス属、フィネゴルディア属、ビフィドバクテリウム属、クロストリジウム属等が挙げられる。
【0019】
グラム陰性菌としては、例えば、サルモネラ属、ナイセリア属、モラクセラ属、ヘモフィルス属、エシェリヒア属、サイトロバクター属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、プロテウス属、モーガネラ属、プロビデンシア属、セラチア属、シュードモナス属、ステノトロホモナス属、アシネトバクター属、アルカリゲネス属、ガードネレラ属、ポルフィロモナス属、プレボテーラ属、バクテロイデス属、フソバクテリウム属等が挙げられる。
【0020】
表在性皮膚感染症の原因菌には様々なものが知られているが、例えば、スタフィロコッカス属やストレプトコッカス属、エッシェリヒア属を挙げることができる。
【0021】
スタフィロコッカス属としては、例えば、スタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミデス、スタフィロコッカス・ヘモリティカス、スタフィロコッカス・ホミニス、スタフィロコッカス・サプロフィティカス、スタフィロコッカス・ラグジュネシス、スタフィロコッカス・キャピティス、又はスタフィロコッカス・ワーネリ等を挙げることができる。それらの中で、特にスタフィロコッカス・アウレウスが好ましい。
【0022】
ざ瘡の原因菌には様々なものが知られているが、例えば、プロピオニバクテリウム属を挙げることができる。
【0023】
プロピオニバクテリウム属としては、例えば、プロピオニバクテリウム・アクネス、プロピオニバクテリウム・アビダム、プロピオニバクテリウム・リンフォフィラム、プロピオニバクテリウム・グラヌローサム、プロピオニバクテリウム・ソエニイ又はプロピオニバクテリウム・プロピオニカムを挙げることができる。それらの中で、特にプロピオニバクテリウム・アクネスが好ましい。
【0024】
表在性皮膚感染症は、附属器関連感染症と非附属器関連感染症に分けることができる。
附属器関連感染症としては、例えば、毛包炎、毛瘡、化膿性汗孔周囲炎を挙げることができる。
非附属器関連感染症としては、例えば、伝染性膿痂疹を挙げることができる。
【0025】
化膿性炎症を伴うざ瘡としては、例えば、尋常性ざ瘡、新生児ざ瘡、集簇性ざ瘡を挙げることができる。それらの中で、特に尋常性ざ瘡が好ましい。
【0026】
真菌によって引き起こされる皮膚疾患には様々なものが知られているが、例えば、皮膚糸状菌症(水虫)、皮膚カンジダ症又は癜風等を挙げることができる。
【0027】
皮膚糸状菌症の原因菌としては、例えば、トリコフィトン・メンタグロファイテス、トリコフィトン・ルブルム、トリコフィトン・トンシュランス、ミクロスポリウム・カニス、ミクロスポリウム・ジプセウム又はエピデルモフィトン・フロコッサムが挙げられる。
【0028】
皮膚カンジダ症の原因菌としては、例えば、カンジダ・アルビカンスが挙げられる。
【0029】
癜風の原因菌としては、例えば、マラセチア・フルフルが挙げられる。
【0030】
炎症とは、微生物感染、化学的作用、又は物理的作用等による組織の傷害に反応して、身体の一部に発赤、腫脹、疼痛及び/又は発熱等を起こすこと及びその症状のことであり、異物の侵入又は異物化した組織を排除しようとする生体の防御反応と定義される。
本発明に係る「抗炎症作用」とは、この炎症を抑える作用を意味し、化合物Aは微生物によって引き起こされる皮膚疾患の炎症を特に抑えることができる。
【0031】
皮膚で生じた炎症は、紅斑(赤み)や丘疹(皮膚面から隆起する針頭大から米粒大ぐらいの局限性の発疹)、膿疱(膿のある水ぶくれ)といった症状として表れる。
【0032】
このような微生物により生じる炎症性皮疹の形成には、微生物に対する自然免疫反応が関わっている。微生物が自然免疫を誘導するメカニズムは、ペプチドグリカンやリポテイコ酸等の細胞壁成分が、免疫担当細胞に発現するトール様受容体(TLR)を活性化することによると考えられている。TLRは、病原体の持つ共通した分子構造を認識し、病原体排除に必要な生体防御機構を誘導するパターン認識受容体の1つとして知られる。
【0033】
微生物は、皮膚の単球や角化細胞のTLRの活性化を介して、IL-1、IL-6、IL-8をはじめとするサイトカインやマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)と呼ばれるタンパク分解酵素の産生を亢進し、さらに好中球の遊走やリソソームの放出、T細胞の活性化を誘導することで、さらなる炎症を引き起こすことが知られている。
そのため、微生物によって引き起こされる皮膚炎症に対しては、抗菌作用だけでなく、抗炎症作用が重要である。
【0034】
本発明組成物の剤型は、特に限定されないが、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、乳剤、粘着テープ剤、ローション剤を挙げることができる。
【0035】
本発明組成物は、当業者に自明な方法により、構成成分を適宜混合し調製することができる。
【0036】
本発明組成物における、化合物A及び/又はその医薬上許容される塩の含有量は、治療効果を発揮する量であれば特に限定されないが、例えば、製剤中に0.01~20重量%の範囲内が適当であり、0.1~5重量%の範囲内が好ましい。
【0037】
本発明組成物の投与量は、患者の年齢、体重及び症状に応じて適宜選択されるが、通常、薬効を発揮し得る量として、外用剤として投与される場合には、1日30~2000mgを経皮投与すればよい。
【実施例】
【0038】
以下に、試験例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に示される範囲に限定されるものではない。
【0039】
[試験例1]正常ヒト表皮角化細胞のIL-6及びIL-8産生に対する各種抗菌薬の抑制効果
1)試験物質
本試験では、以下の抗菌薬を試験物質として用いた。
・化合物A(力価:99.7%)
・ナジフロキサシン(力価:99.9%)
・クリンダマイシン(力価:99.0%)
2)使用菌株
2013年に尋常性ざ瘡患者より分離したプロピオニバクテリウム・アクネスを用いた。
3)正常ヒト表皮角化細胞
正常ヒト表皮角化細胞(サーモフィッシャー・サイエンティフィック株式会社製)はHumedia-KB2(倉敷紡績株式会社製)を使用して培養した。試験時は正常ヒト表皮角化細胞の培養液に上記試験物質(いずれも終濃度1~30μg/mL)を添加し、続けて、加熱処理したプロピオニバクテリウム・アクネス(109CFU/mL)懸濁液を添加した。薬効評価に必要なサイトカイン産生量が認められることから、正常ヒト角化細胞の刺激に用いるプロピオニバクテリウム・アクネスは109CFU/mLとした。
4)試験薬液の調製
各試験物質を適量の0.1N・水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた後、Humedia-KB2で希釈した。
5)各種炎症性メディエーター抑制効果の評価指標
上記正常ヒト角化細胞を24時間培養後、上清を回収し、上清中のIL-6及びIL-8濃度をELISA法にて測定した。測定には市販のELISAキット(アールアンドディーシステムズ株式会社製)を使用した。IL-6及びIL-8の阻害率は、コントロール(試験薬液非添加)群の産生量を100%とした時の変化率で算出した。
6)結果
化合物A及びナジフロキサシンのみが、IL-6及びIL-8の産生を抑制した。さらに、ナジフロキサシンがIL-6に対しては3μg/mL、IL-8に対しては10μg/mL以上で産生抑制効果を示したのに対し、化合物Aでは1μg/mLから濃度依存的にIL-6及びIL-8に対する産生抑制効果を示し、化合物Aが極めて優れた抗炎症効果を有することが明らかとなった。
【0040】
[試験例2]ヒト単球株化細胞のIL-1β、IL-6、IL-8及びTNF-α産生に対する各種抗菌薬の分泌抑制効果
1)試験物質、使用菌株、試験薬液
本試験で用いた試験物質、使用菌株及び試験薬液は、試験1に準ずる方法で得た。
2)ヒト単球株化細胞
ヒト単球株化細胞THP-1(以下、THP-1)(ECACC細胞株)はRPMI1640(サーモフィッシャー・サイエンティフィック株式会社製)を使用して培養した。試験時はヒト単球株化細胞の培養液に上記試験物質(いずれも終濃度1~30μg/mL)を添加し、続けて加熱処理したプロピオニバクテリウム・アクネス(108CFU/mL)懸濁液を添加した。薬効評価に必要なサイトカイン産生量が認められることから、ヒト単球株化細胞の刺激に用いるプロピニバクテリウム・アクネスは108CFU/mLとした。
3)各種炎症性メディエーター抑制効果の評価指標
上記正常ヒト角化細胞を24時間培養後、上清を回収し、上清中のIL-1β、IL-6、IL-8、TNF-α濃度をELISA法にて測定した。測定にはELISAキット(アールアンドディーシステムズ株式会社製)を使用した。また、IL-1β、IL-6、IL-8及びTNF-αの阻害率は、コントロール(試験薬液非添加)群の産生量を100%とした時の変化率で算出した。
4)結果
化合物Aは1μg/mLから濃度依存的にIL-6、IL-8及びTNF-αの産生抑制作用を示し、化合物Aが極めて優れた抗炎症効果を有することが明らかとなった。
【0041】
[試験例3]各種試験薬液のラットの耳介炎症抑制効果
1)試験物質、使用菌株
本試験で用いた試験物質、使用菌株は、試験1に準ずる方法で得た。
2)ラットの耳介炎症モデル
雄性SD(Sprague Dawley)ラット(7週齢、日本チャールス・リバー株式会社製)の右耳介内側に、プロピオニバクテリウム・アクネスの死菌25mg含有懸濁液を50 μL皮内投与し、炎症を惹起した。
3)プロピオニバクテリウム・アクネスの死菌含有懸濁液
プロピオニバクテリウム・アクネスの死菌25mgを生理食塩水に加え、プロピオニバクテリウム・アクネスの死菌含有懸濁液(50μL)とした。
4)試験薬液の調製
以下の組成の試験薬液を調製した。
・コントロール群:アセトン(和光純薬工業株式会社)。
・アセトン群:アセトン(和光純薬工業株式会社)。
・ステロイド群:0.1%ベタメタゾン(シグマ アルドリッチ社製)をアセトンに溶解。
・基剤群:化合物A2%含有ローションの基剤。基剤は、ヒドロキシエチルセルロース、1,3-ブチレングリコール、エタノール、エデト酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、pH調節剤から成る。
・化合物A2%含有ローション群:化合物A及び上記基剤から成る。)
5)炎症抑制効果の評価
上記試験薬液を30μL塗布した直後のラットの右耳介内側に、コントロール群には生理食塩水を、それ以外の群にはプロピオニバクテリウム・アクネスの死菌含有懸濁液50μLを皮内投与した。皮内投与2時間後に、ラット耳介の厚さをデジタルシックネスゲージ(株式会社ミツトヨ製)で測定した。
6)結果
コントロール群と比較して、アセトン群では有意に耳介厚が増加した(P<0.001 vs コントロール群,Student’s t-test)。アセトン群と基剤群では同程度の耳介肥厚が認められた。この耳介肥厚は化合物A2%含有ローション又はステロイド群で有意に抑制された(化合物A2%含有ローション群:P<0.001 vs 基剤群,Aspirin-Welch t-test,ステロイド群:P<0.001 vs アセトン群,Student’s t-test)。