(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】神経炎症性疾患の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20231020BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231020BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20231020BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231020BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20231020BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20231020BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P25/00
A61P21/02
A61P43/00 121
A61K38/19
A61K38/21
A61K31/137
(21)【出願番号】P 2019566288
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(86)【国際出願番号】 US2018035064
(87)【国際公開番号】W WO2018222670
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】アジャミー,バハレ
(72)【発明者】
【氏名】スタインマン,ローレンス
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0026798(KR,A)
【文献】特表2016-512487(JP,A)
【文献】BOROUJERDI, Amin et al.,Extensive vascular remodeling in the spinal cord of pre-symptomatic experimental autoimmune encephalomyelitis mice; increased vessel expression of fibronectin and the [alpha]5[beta]1 integrin,EXPERIMENTAL NEUROLOGY,2013年,vol. 250,pages 43 - 51, DOI: 10.1016/j.expneurol.2013.09.009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の中枢神経系の炎症性脱髄性疾患または病態を治療するための医薬組成物であって、
治療的有効用量のインテグリンα
5またはヘテロ二量体インテグリンα
5 β
1 に特異的に結合する抗体を含み、
前記抗体は中枢神経系のCD49e
+の単球系細胞の活性を低下させる
医薬組成物。
【請求項2】
前記患者はヒトである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記炎症性脱髄性疾患は多発性硬化症である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗体は、インテグリンα
5 のフィブロネクチンへの結合を遮断する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗体は、インテグリンα
5 に対して特異的なキメラ型抗体もしくはヒト化抗体、またはその特異的結合断片である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗体はヒトIgG
4 Fc領域を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
多発性硬化症を治療するための追加の治療剤をさらに含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記追加の治療剤は、スタチン、サイトカイン、フィンゴリモド、及びコパキソンからなる群から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記サイトカインはインターフェロンベータ(IFNβ)である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記患者は、サイトカイン治療に対する反応性について分析され、治療剤の選択は、そのような分析に基づく、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
インテグリンα
5またはヘテロ二量体インテグリンα
5 β
1に特異的に結合する抗体を含み、
前記抗体は中枢神経系のCD49e
+
の単球系細胞の活性を低下させ、中枢神経系の炎症性脱髄性疾患または病態の治療に用いるための、包装体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
多発性硬化症(MS)は、ヨーロッパ及び北アメリカにおいて最もよく見られる脳及び脊髄の炎症性疾患である。世界中で100万人超が罹患しており、そこには米国国内の400,000人が含まれる。症状は若年成人期に始まることが多く、運動麻痺、視覚障害及び失明、腸失禁及び膀胱失禁、感覚消失、ならびに協調運動不能及び運動失調が含まれる。
【0002】
米国で承認されている一次治療法は、グラチラマー酢酸塩(コパキソン)、IFN-β1a(アボネックス及びレビフ)、及びIFN-β1b(ベータセロン及びエクスタビア)であり、承認されている二次治療法は、ミトキサントロン(ノバントロン)及びナタリズマブ(タイサブリ)である。最近、フィンゴリモド、テリフルノミド、及びフマル酸ジメチルがそれぞれ別々に、再発性MS治療のための経口投与一次治療法の新たな選択肢として米国FDAにより承認された。
【0003】
現在承認されているMSに対する治療は有効性が限られているうえ、費用がかかる。したがって、より有効なMS治療の発見は依然として急務とされている。アルファ4インテグリンに対するヒト化抗体であるナタリズマブは最も強力な治療ではあるが、重篤な生命を脅かす副作用という問題を抱えている。ナタリズマブで治療された個人500例中1例超が致命的な脳の日和見感染症、進行性多巣性白質脳症(PML)を発症した。この有害作用は、Tリンパ球及び単球のCNSへのホーミングを遮断するこの薬物の能力によるものである。しかしながら、ジョン・カニンガム(JC)ウイルス感染症の再活性化と戦うためにはT細胞が必要である。JCに対するT細胞免疫は、JCウイルス感染症に起因するPMLの出現を予防する。
【0004】
これらの好ましくない副作用を低減する改善された治療方法を本明細書で提供する。
【発明の概要】
【0005】
神経炎症性疾患、例えば、多発性硬化症(MS)及び視神経脊髄炎(NMO)などの神経炎症性脱髄性自己免疫疾患等などが含まれる炎症性疾患を治療するための治療法を提供し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療も含まれる。本発明の方法では、神経性炎症性疾患に罹患している対象に対し、α5インテグリン(CD49e)に対する、有効用量のアンタゴニスト1種またはアンタゴニスト(複数可)のカクテルを、疾患の臨床症状を安定化または低減させるために有効な用量で投与する。本明細書で示されるように、中枢神経系(CNS)疾患に関連した特定の骨髄細胞集団は、疾患状態にある間及び疾患状態の発症期にCD49eを発現する。細胞集団の概要は表4に記載されている。集団A、集団B、及び集団Cはミクログリア細胞に対応し、ALS疾患においてCD49eを上方制御する。集団D、E、F、G及びHは浸潤性単球であり、これらは神経炎症性疾患に関連しており、MS、EAE等のような神経炎症性脱髄発症の特定の病期の間CD49eを発現する。
【0006】
さまざまな態様及び実施形態では、方法は、神経性炎症性疾患に罹患している対象に対し、CD49eに特異的に結合する抗体を、有効用量にて投与することが含まれ得、その場合、治療により疾患の臨床症状が低減または安定化する。いくつかの実施形態では、抗CD49e剤を、スタチン、サイトカイン、抗体、コパキソン、フィンゴリモド等を含むがこれに限定されない第2の治療剤と組み合わせる。いくつかの実施形態では、抗CD49e剤を、血清コレステロール濃度を調節するために有効な用量でスタチンと組み合わせる。
【0007】
一実施形態では、抗CD49e剤、及び抗α5 剤は、神経性炎症性疾患、例えば、MS、NMO、ALS等の治療のために患者に投与するものであることを示す添付文書またはラベルが含まれている包装体(例えば、箱、瓶または瓶と箱)を提供する。
【0008】
一実施形態では、有効用量の抗α5 剤を、単独で、またはスタチンと組み合わせて、またはサイトカイン、抗体、例えば、タイサブリなど、フィンゴリモド(ジレニア)、コパキソン等を含むがこれに限定されない1つ以上の治療用化合物と組み合わせて患者に投与することが含まれる、神経性炎症性疾患、例えば、MS、NMO等またはALSを治療する方法を提供する。併用療法における各薬物の有効用量は、その同じ薬物の単独療法での有効用量よりも低くてよい。いくつかの実施形態では、併用療法剤を同時に投与する。いくつかの実施形態では、2つの併用療法剤を段階に分け、その場合、例えば、ある化合物を最初に単剤として、例えば維持として与え、第2の化合物を、例えば、再発が始まった時点またはその後などの再発している間、再発ピーク時などに投与する。
【0009】
一実施形態では、脊髄においてCD49e+ 骨髄細胞の含量が高いことが本明細書で示されている筋萎縮性側索硬化症を治療するための方法を提供する。ALSの臨床症状を安定または低減させるために、CD49eに対するアンタゴニスト1種またはアンタゴニスト(複数可)のカクテルを有効用量にて投与する。いくつかの実施形態では、CD49eに対するアンタゴニスト(複数可)を脳脊髄液に、例えば、髄腔内送達等によって送達する。いくつかの実施形態では、送達は全身送達である。
【0010】
別の実施形態では、除去が所望される刺青を除去するために、CD49eに対するアンタゴニスト1種またはアンタゴニスト(複数可)のカクテルを個人に投与することによって刺青を除去する方法を提供し、その場合、CD49eに対するアンタゴニストが、刺青の永続性に寄与するマクロファージの活性を抑制する。いくつかの実施形態では、CD49eに対するアンタゴニストを刺青部位に局所的に送達する。いくつかの実施形態では、CD49eに対するアンタゴニスト(複数可)を徐放性製剤によって刺青部位に送達する。他の実施形態では送達は全身送達である。
【0011】
別の方法では、抗CD49e剤を最初に単剤として、例えば維持として与え、追加の薬剤を、例えば、再発が始まった時点またはその後などの再発している間、再発ピーク時などに投与する。そのような実施形態の特定の実施形態では、抗CD49e剤、及び1つ以上の第2の治療用化合物、及び抗CD49e剤は神経性炎症性疾患の治療のために第2の化合物と組み合わせて患者に投与されるものであることを示す添付文書またはラベルを含む包装体を提供する。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態では、治療に対する反応性について患者を分析し、その場合、治療剤の選択はそのような分析に基づく。中枢神経系の神経性炎症性疾患、例えば、多発性硬化症、視神経脊髄炎、EAE等に対する免疫調節治療の有効性は、患者がTH1優位の型の疾患サブタイプを有するか、またはTH17優位の型の疾患サブタイプを有するかに依存する。患者は、IL-17、内因性β-インターフェロン、IL-23、PDGFBB、sFASリガンド、M-CSF、MIP1α、TNF-β、IFNα、IL-1RA、MCP-1、IL-2、IL-6、IL-8、FGFβ、IL-7、TGF-β、IFNβ、IL-13、IL-17F、EOTAXIN、IL-1a、MCP-3、LIF、NGF、RANTES、IL-5、MIP1b、IL-12p70、及びHGF等などのマーカーのレベルを決定することによって各サブタイプに分類され得る。TH1優位の型の疾患サブタイプを有する個人に対し、β-インターフェロンのようなサイトカインを抗CD49e剤と組み合わせて投与してよい。
【0013】
治療すべき病態が神経炎症性の病態、例えば、MS、EAE、NMO等であるいくつかの実施形態では、患者は、CD49e単球集団がCNSに浸潤した場合に治療され得る。疾患の病期に対応した集団変化の概要は
図5Cに示されている。例えば、頻度が、CSF中に存在する総細胞の約1%より大きい、約2%より大きい、約3%より大きい場合、増加が観察されることがある。増加は、正常対照と比べて、または正常対照でのレベルに相当する基準値と比べて測定することもできる。
図12に示されるように、2種以上のサイトカインを産生する集団中細胞数、例えば、TNFα、GM-CSF、IL-6、IL-10及びTGFβのうち2つ以上を発現している集団中細胞数もまた、疾患においては健常対照群に比べ増加している。いくつかの実施形態では、患者由来試料により、CSFに存在する細胞を、浸潤性骨髄細胞を示すマーカーについて測定し、変化、特に、治療の基礎として用いるCD49e発現細胞の変化の有無について測定する。
【0014】
CNSにおける集団D、G及びHの細胞数増加の存在は発症前を示す。この増加は発症前に対する有用なバイオマーカーとなり、増加が観察された場合に患者は抗CD49e剤で治療され得る。集団D、E、F及びGの細胞数増加の存在は疾患発症時のCNSにおいて顕著であり、そのような増加が観察された場合に患者は抗CD49e剤で治療され得る。疾患ピーク時、他の集団も増加していたが集団Dの増加は特に顕著であり、そのような増加が観察された場合に患者は抗CD49e剤で治療され得る。興味深いことに、回復は、集団FのサイトカインTNFα、IL-6、TGFβを単一で発現しているかまたは無発現の細胞数増加に関連している。
【0015】
本発明は、添付の図面と併せて読んだ場合に以下の詳細な説明から最も良く理解される。通例に従い、図面のさまざまな特徴は縮尺通りではないことが強調される。むしろ、さまざまな特徴の大きさは、分かりやすくするために任意に拡大または縮小されている。図面には、以下の図が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実験戦略の概略図である。健常マウス、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の5つの異なる臨床病期のマウス、及び非常に良く再現されたハンチントン病(HD)マウスモデルであるR6/2トランスジェニックマウスにおいて免疫応答プロファイルを分析した。「材料及び方法」に記載のように、CNS(脳及び脊髄)の単一細胞懸濁液及び病態ごとの全血を調製した。バーコード化戦略(「材料及び方法」)の使用により個々の試料を同時に処理した。バーコード化した試料をプールし、パネルを構成する39抗体を用いて染色し(
図12、
図2及び
図3ならびに「材料及び方法」)、マスサイトメトリー(CyTOF)により解析した。マスサイトメトリー生データを経時的なシグナル変動について正規化してバーコードを解除(debarcod)し、X-シフトアルゴリズムという、多次元マーカー空間内の細胞事象密度の極大を検索することで細胞集団を自動的に識別するノンパラメトリッククラスタリング法を使用して解析した。結果は最小全域木(MST)配置として提示される。各実験を単独で7~10回実施した。各実験において、十分な細胞数を得るためにマウス10匹の組織をプールした。
【
図2】A~Dは、データ駆動型の目的変数なしのクラスタリングによりCNSにおける別個の骨髄系集団3つが定義されることを示す。
図2Aでは、全病態からのCNS試料とそれらの生物学的複製試料とを統合して構築したX-シフトクラスターの合成CNS最小全域木(MST)は、血液試料の合成MSTと比較して、CNSに固有の骨髄系(CD11b+)集団3つ(集団A、集団B及び集団C)を示している。
図2Bでは、X-シフト/DMTアルゴリズムにより定義されたマーカーに基づく手動ゲーティングにより、集団A、集団B及び集団Cの存在を確認した。
図2C、
図2DはMSTであり、
図2Cは、各病態のX-シフトクラスタリング頻度を示し、手動ゲーティングに基づく平均頻度分析を表す
図2Dの棒グラフは、集団A、集団B及び集団CがEAEモデル及びHDモデルの両方でCNSに存在することを示す。エラーバーは複製試料全体における標準偏差を表す。カラーコードスケールは、「材料及び方法」に記載のように、各マーカーの逆正弦(x/5)変換したCyTOFシグナル強度を表す。データは5回または6回の独立した実験によるものである。
【
図3】A~Dは、CNSに常在する骨髄細胞における、免疫活性化経路の重要なシグナル伝達分子の動力学である。折れ線グラフは、集団ごとの未加工CyTOFシグナル強度の平均発現レベルの中央値を示す。エラーバーは、生物学的複製試料全体における標準誤差(SE)を表す(5回または6回の独立した実験によるデータ)。灰色領域は、試料中の全細胞における所与のシグナル伝達分子の四分位範囲を表し、複製試料全体における平均をとっているので、各マーカーの全体的な発現範囲が示される。
【
図4-1】Aは、CNSに常在する骨髄系サブセット3つによる、異なる疾患病態に応答したサイトカイン産生の単一細胞解析である。
図4Aでは、分布プロット(バイオリン図)により、記載の細胞内サイトカインの発現レベルが疾患病態及び細胞集団によってグループ分けして示されている。プロットはMathematicaで作成された。プロットは逆正弦(x/5)変換したCyTOFシグナル強度を示す。
【
図4-2】B~Dは、CNSに常在する骨髄系サブセット3つによる、異なる疾患病態に応答したサイトカイン産生の単一細胞解析である。
図4B~
図4Dは、健常状態及び疾患状態におけるCNS常在骨髄細胞でのサイトカイン共発現分析であり、各亜集団の異種性サブセットを示す。サイトカインを1種または2種発現している単一細胞、または全く発現していない単一細胞の割合を積み上げ棒グラフで表す。データは3回の独立した実験によるものである。
【
図5】A~Dは、血液由来単球のCNSへの遊走動態を炎症性病態と変性病態とで対比している。
図5Aでは、合成MSTにより、CNSにおける5つの別個のLy6C
+ Ly6G
- 骨髄系集団(血液由来単球)が明らかにされている。
図5Bでは、X-シフト/DMTアルゴリズムにより定義されたマーカーに基づく手動ゲーティングによって各集団を確認する。
図5Cでは、手動ゲーティングに基づく平均頻度分析により、健常状態及び神経変性病態における血液由来単球の蓄積は最小であることが示されている。EAE疾患では、異なる血液由来単球サブセットの蓄積は疾患の状態に応じて異なる。エラーバーは複製試料全体における標準偏差を表す。
図5Dでは、血液由来単球がMHC-IIを発現している。データは5回または6回の独立した実験によるものである。
【
図6】A~Cは、細胞表面表現型及びシグナル伝達分子の差次的発現を、炎症性病態における浸潤性骨髄細胞と常在性骨髄細胞とで対比している。
図6Aでは、細胞表面表現型分析により、CD49d(4インテグリン)及びCD49e(5インテグリン)は、CNS常在骨髄細胞と比較すると浸潤性単球でのみ高発現することが明らかにされている。CD49eは単球でのみ発現しているが、CD49dはT細胞でもDCでも発現している。
図6Bは、CD49e(α5インテグリン)に対する抗体で処置したEAEマウスの平均臨床スコアをアイソタイプ・コントロールの場合と比較したものである。CD49e(α5インテグリン)に対する抗体で処置したマウス(n=5)は、アイソタイプ・コントロールの場合と比較すると疾患発症の展開で遅延を示し、処置を受けた動物では全体的な疾患重症度が大幅に低下していた。対照マウスの罹患率が高いため実験を終了した。エラーバーは標準誤差(SE)を表す。
図6Cは、各シグナル伝達分子の未加工CyTOFシグナル強度の平均発現レベル中央値を、単球の全5つのサブセットが存在する場合に発症前時、発症時及びピーク時のCNS常在骨髄細胞と血液由来単球とを比較したものを表すヒートマップである。シグナル伝達分子の発現範囲を表す色は青(検出限界以下)から白(中程度)、赤(最大)に至る。マスサイトメトリーデータは5回または6回の独立した実験によるものである。
【
図7A】血液由来単球の異なるサブセットによる、異なる疾患病態に応答したサイトカイン産生の単一細胞解析である。疾患病態及び細胞集団でグループ分けした、記載の細胞内サイトカインのレベルの分布プロットである。プロットはMathematicaで作成された。値は逆正弦[x/5]によりスケーリングされている。
【
図7B】血液由来単球の異なるサブセットによる、異なる疾患病態に応答したサイトカイン産生の単一細胞解析である。血液由来単球サブセットにおけるサイトカイン共発現のX-シフト解析から、各亜集団には、各疾患病態に応じて異種性サブセットが含有されることが示唆される。サイトカインを1種または2種、3種、または4種発現している単一細胞、または全く発現していない単一細胞の割合を積み上げ棒グラフで表す。データは、3回の独立した実験によるものである。
【
図8】3つのCNS常在骨髄系サブセットにおけるいくつかのマーカーの発現類似性を示す。集団A、集団B及び集団Cは、CD88、MHCクラスI(H2)、TAM受容体チロシンキナーゼMer(MerTK)、ならびに新たに導入したミクログリアマーカー4D4及びfcrlを異なるレベルで発現した。
【
図9】3つのCNS常在骨髄系サブセットにおけるいくつかのマーカーの発現多様性を示す。3つのCNS常在骨髄細胞で多数のマーカーの差次的発現が検出された。集団B及び集団Cは、CD80、TAM受容体Axl、T-細胞免疫グロブリンムチンタンパク質4(TIM4)、CD274(PD-L1)、CD195(CCR5)、CD194(CCR4)を異なるレベルで、またCD206及びTREM2を低レベルで発現した。集団Aではこれらのマーカーのいずれも発現がなかった。
【
図10】CNSに常在する骨髄系サブセットでのYFPの発現である。健康な状態のCx3cr
creER Rosa26-YFPマウスでは、集団A及びB(健康な状態で存在する集団は2つのみ)を手動でゲートし、これらにおいてYFPの発現が確認された。ゲーティング戦略は
図2Bに記載されている。
【
図11】5つの血液由来単球サブセットにおけるいくつかのマーカーの発現多様性を示す。血液由来単球サブセットで多数のマーカーの差次的発現が検出された。集団D及び集団Eは、他の3つのサブセットと比較すると、TAM受容体チロシンキナーゼであるMerとAxl、共刺激分子(CD80、CD86)、プリン作動性シグナル伝達に関与する受容体(CD38、CD39)、及びTREM2ならびにCD206のような食作用受容体の発現が高い。
【
図12-1】神経炎症性疾患罹患中の骨髄系集団D~Fでのサイトカインの発現である。
【
図12-2】神経炎症性疾患罹患中の骨髄系集団G及びHでのサイトカインの発現である。
【
図13】ALSのマウスモデルである、ヒト変異型スーパーオキシドジスムターゼ1(mSOD)を過剰発現しているマウスの疾患末期にミクログリア集団においてCD49e発現が増加している。
【
図14】mSOD1疾患発症中のCSFにおけるミクログリア細胞集団の頻度である。
【
図15】mSOD1疾患発症中のミクログリア細胞におけるサイトカインの発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本方法を記載する前に、本発明は、記載されている特定の方法に限定されるものではなく、そのような方法は当然ながら異なり得ることを理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用する用語は、あくまで個々の実施形態の記載を目的とするものであり、限定することを意図しないということも理解されるべきである。
【0018】
値の範囲が提供されている場合、その範囲の上限及び下限と、その記述された範囲内で他に記述されているか介在している任意の値との間に介在するそれぞれの値(文脈で特に明確な指示がない限り、下限の10分の1の単位まで)は本発明に包含されることが理解される。これらの小範囲の上限及び下限は、その記述された範囲で明確に除外された限界値に従って、その小範囲内に独立して含まれてよい。本明細書及び添付の請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈で特に明確に指示されない限り、複数の指示対象が含まれる。
【0019】
特に明記しない限り、本明細書で使用する技術用語及び科学用語はいずれも、本発明の属する分野の当業者に共通して理解される意味と同一の意味を持つ。本発明の実施または試験に際し、本明細書に記載される方法及び材料と類似または同等の任意の方法及び材料も使用することができるが、ここにその好ましい方法及び材料を記載する。本明細書で言及される刊行物はすべて、方法及び/または材料を、引用されている刊行物と関連させて開示及び記載するために参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0020】
本明細書で論じる刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示のみを目的として提供されている。本明細書のいかなる記載も、本発明が先行発明を理由としてかかる刊行物に先行する権利がないことを承認するものと解釈すべきではない。さらに、記載の刊行日は実際の刊行日と異なる場合があり、個別の確認が必要な場合がある。
【0021】
分子・細胞生化学での一般方法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed.(Sambrook et al.,Harbor Laboratory Press 2001)、Short Protocols in Molecular Biology,4th Ed.(Ausubel et al.eds.,John Wiley & Sons 1999)、Protein Methods(Bollag et al.,John Wiley & Sons 1996)、Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagner et al.eds.,Academic Press 1999)、Viral Vectors(Kaplift & Loewy eds.,Academic Press 1995)、Immunology Methods Manual(I.Lefkovits ed.,Academic Press 1997)、及びCell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology(Doyle & Griffiths,John Wiley & Sons 1998)のような標準的教科書に見出すことができる。本開示で言及する遺伝子操作用の試薬、クローニングベクター、及びキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma-Aldrich、及びClonTechなどの商業販売業者から入手可能である。
【0022】
本発明は、本発明を実施する好ましい様態に含まれる、本願発明者により見出されたかまたは提案される特定の実施形態に関して記載されている。本開示に鑑みて、意図される本発明の範囲から逸脱することなく例示の特定の実施形態に多数の修正及び変更を行うことができることは当業者により理解される。そのような修正はいずれも、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0023】
神経疾患における疾患修飾療法の使用が改善されることは、臨床的に大きな関心対象である。特定の態様及び実施形態では、本方法及び組成物はこの必要性に対処する。
【0024】
かかる該方法は、予防または治療のために使用してよい。本明細書で使用する場合、用語「treating(治療)」は、再発予防及び既往症の治療の両方を指すために使用される。例えば、再発が起きる前に薬剤を投与することによって自己免疫疾患の予防を達成してよい。本明細書で使用する場合、「治療」は、哺乳類、特にヒトの疾患の任意の治療を包含し、それには、(a)疾患または症状にかかりやすい可能性はあるが、まだそのように診断されていない対象において、かかる疾患または症状の発現を予防すること、(b)疾患の症状を阻害すること、すなわち疾患症状の発症を停止させること、または(c)疾患の症状を軽減すること、すなわち疾患もしくは症状を退縮させることが含まれる。現在罹患している疾患の治療で、患者の臨床症状が安定化または改善する治療が特に関心対象である。
【0025】
障害の発症を「阻害すること」は、障害が発症する可能性を少なくすること、または障害の発症を完全に予防することを意味するものとする。再発の重症度を低減するとは、治療存在下の方が未治療疾患の場合よりも再発関連の臨床的兆候の重度が低いことを意味するものとする。本明細書で使用する場合、発症とは、現在、再発寛解型疾患に罹患している患者における再発を指してよい。本発明の方法は、神経性炎症性疾患と診断された患者に対して特異的に適用される。治療は、既往症の増悪である再発の治療または重症度低減を目的とする。
【0026】
本明細書で使用する場合、「診断」には一般に、疾患または障害に対する対象の感受性の決定、対象が現在疾患または障害に罹患しているか否かの決定、疾患または障害に罹患している対象の予後(例えば、疾患の状態、MSの病期、または治療法に対するMSの反応性の同定)、及び治療測定基準(therametrics)の使用(例えば、治療法の効果または有効性に関する情報を得るために対象の病態をモニタリングすること)が含まれる。
【0027】
用語「生体試料」は、生物から得られたさまざまな試料種を包含し、診断アッセイまたはモニタリングアッセイで使用することができる。かかる用語は、血液、脳脊髄液、及び生物起源の他の液体試料、固体組織試料、例えば、生検標本もしくは組織培養、またはそれに由来する細胞及びその子孫などを包含する。かかる用語は、試料入手後に、例えば、試薬での処理、溶解、または特定成分についての濃縮によってなど、何らかの操作が施されている試料を包含する。かかる用語には臨床試料も包含され、細胞培養、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、生体液、及び組織の各試料中の細胞も含まれる。
【0028】
「個体」、「対象」、「宿主」、及び「患者」という用語は本明細書では同じ意味で使用され、診断、処置、または治療が所望される任意の哺乳類対象、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、モルモット、ウサギ等を指す。
【0029】
細胞での遺伝子の発現を「阻害すること」とは、遺伝子が発現する程度を低くすること、またはそのような発現を完全に予防することを意味するものとする。
【0030】
インテグリンは、細胞接着を仲介するヘテロ二量体の膜貫通型受容体である。ほとんどのインテグリンは、細胞外マトリックス(ECM)の糖タンパク質、例えば、基底膜のラミニン及びコラーゲンまたはフィブロネクチンのような結合組織成分などと結合する。インテグリンに結合するECMタンパク質の多くは、共通するインテグリン結合モチーフであるArg-Gly-Asp(RGD)を共有しており、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、及び他の多くのタンパク質に存在する。他のタンパク質は、近接細胞、細菌の多糖類、またはウイルス外被タンパク質上のカウンターレセプターと結合する。インテグリン介在性の接着は、細胞の運動性、生存、増殖、及び分化の制御におけるシグナル伝達カスケードを調節する。
【0031】
多くの生物学的プロセス(最も顕著なものは止血及び免疫)にとって、インテグリン介在性の接着が調節され得ることは重要である。インテグリン-リガンド結合の数は、細胞形状、膜内でのインテグリンの側方拡散、及びインテグリンクラスタリングの変化を介して調節され得、これは、細胞骨格の構造を介して制御され得る側面である。さらに、個々のインテグリンの、それらのリガンドに対する固有の親和性は、細胞内部で「インサイドアウトシグナル伝達」と呼ばれるプロセスにより調節され得る。
【0032】
インテグリンの会合により、ECM表面での細胞伸展、他の細胞のシート内への細胞の遊走、または食細胞による粒子もしくは病原体の貪食にとって必要な膜伸展形成が誘発される。最終的に、インテグリンがECMタンパク質に結合した場合は、リガンド、インテグリン、細胞骨格タンパク質、及びシグナル伝達分子が形質膜の内外両側で局所的に高い濃度で集合して凝集体となり、「細胞-マトリックス接着」を形成する。インテグリンの機能は、インテグリンと細胞骨格との接続に大きく依存する。インテグリンの細胞質側末端は、極めて見事に調節された多タンパク質複合体を介してF-アクチンフィラメントに連結される。
【0033】
インテグリンアルファ5(CD49e、ITGA5)参照タンパク質配列は、Genbankにて受託番号NP_002196でアクセスすることができる。アルファ鎖はインテグリンβ1と対をなす、すなわちα5 β1 となる頻度が高く、この対はフィブロネクチン内のArg-Gly-Asp(RGD)モチーフに結合する。フィブロネクチンのRGDモチーフの外側の残基は、インテグリン-リガンド対に対する特異性及び高親和性を提供する。α5 β1 インテグリンとFnとは原型となるインテグリン-リガンド対を形成し、これがフィブロネクチン原線維形成を仲介して細胞外マトリックスの形成を制御するが、これは生体内での細胞機能にとり不可欠である。α5 β1 またはFnの欠失は初期胚致死をもたらす。Fn III型モジュールの10に存在するRGD配列に加え、Fn III型モジュールの9(相乗効果部位)に存在する1組の残基は、α5 β1 によって高い親和性で認識されることに寄与する。
【0034】
本明細書で使用する場合、「アンタゴニスト」、または「阻害剤」物質は、標的タンパク質と相互作用した場合(例えば、結合した場合)に、標的タンパク質の生物学的活性(例えば、動員及び輸送における白血球と内皮細胞との相互作用)の量または作用持続時間を減少させる分子を指す。アンタゴニストには、タンパク質、核酸、炭水化物、抗体、またはタンパク質の作用を低下させる他の任意の分子が含まれ得る。特に明記しない限り、用語「アンタゴニスト」は、「阻害剤」または「遮断薬」と同じ意味で使用され得る。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「薬剤」には、任意の物質、分子、元素、化合物、実体、またはその組み合わせが含まれる。そのようなものには、例えば、タンパク質、オリゴペプチド、有機小分子、多糖類、ポリヌクレオチド等が挙げられるが、これに限定されるものではない。かかる薬剤は、天然物由来物質、合成化合物、または化学的化合物、または2つ以上の物質の組み合わせであり得る。特に明記しない限り、「薬剤」、「物質」、及び「化合物」という用語は同じ意味で使用され得る。
【0036】
用語「類似体」は、本明細書で使用する場合、関心対象分子に構造的には類似するが、参照分子の特定の置換基を代替置換基で置き換えることによって、目標を定めた、制御された様式で修飾されている分子を指す。出発分子と比較した場合、類似体は、同じ有用性、類似する有用性、または改善された有用性を示してよい。改善された特性を有する既知化合物のバリアント(例えば、特定の受容体型において効力が高い、または標的とした受容体型において選択性が高い、及び他の受容体型において活性レベルが低いなど)の同定を目的とした、類似体の合成及びスクリーニングは、製薬化学で周知の方法である。
【0037】
抗インテグリンアルファ5剤。本明細書で使用する場合、抗インテグリンアルファ5(抗α5 )剤は、インテグリンアルファ5、特にヒトのインテグリンアルファ5の活性を遮断する。いくつかの実施形態では、抗α5 剤は、α5 、β1 、及び/またはα5 β1 インテグリンに特異的に結合する抗体である。いくつかの実施形態では、抗α5 剤は、RGDモチーフを含み得るペプチドまたはペプチド模倣薬である。いくつかの実施形態では、抗α5 剤は小分子である。いくつかの実施形態では、抗α5 剤は、α5及び/またはα5 β1 のフィブロネクチンへの結合を遮断する。いくつかの実施形態では、抗α5 剤は、β1インテグリンに対する抗α5の相互作用を遮断する。
【0038】
関心対象の特定の抗α5 剤には、マウス抗ヒトCD49e抗体のヒト化型またはキメラ型:IIA(BD biosciences、機能遮断マウス抗体)、ヒトα5(CD49e)インテグリン:NKI-SAM-1、マウスIIA1抗体のキメラ型ヒトIgG4であるインテグリンアルファ5ベータ1抗体M200(ボロシキシマブ)、アルファ5ベータ1機能遮断マウス抗体IIA1のキメラ型ヒトIgG4のFab誘導体であるF200、インテグリンの基質への結合を遮断する、インテグリンα5β1指向性完全ヒトFc改変IgG1モノクローナル抗体である抗体PF-04605412が含まれるが、これに限定されない。ヒトβ1インテグリンに対して特異的な抗体もまた当該技術分野で公知であり、例えば、TS2/16、Poly6004等が含まれる。参照により本明細書に明確に組み込まれる米国特許第8,350,010号では、小分子ペプチド阻害剤Ac-PHSCN-NH2を教示している(WO-9822617A1に開示)。ATN-161は、ヒトフィブロネクチンのPHSRN配列の相乗効果領域に由来する、アミノ酸5個のアミド化、アセチル化PHSCNペプチドである。本来の配列内のアミノ酸のアルギニンがシステイン残基で置き換えられている。ATN-161の類似体には、例えば、ATN-453、PHSCN-ポリリジンデンドリマー(Ac-PHSCNGGK-MAP)、PhScN(この場合、ヒスチジン及びシステインをD型異性体で置き換えた)、PHSC(S-OAc)N、PHSC(S-Me)N、PHSC(S-acm)Nが含まれ、これらは、ATN-161よりも強力であることが報告されている。
【0039】
抗体投与についての、例えば、ボロシキシマブなどの抗体の安全性プロファイル、実行可能性、活性、薬物動態学的及び薬力学的な挙動についての投薬及びレジメンは、がん治療で用いられる投薬に従っても、または自己免疫疾患の治療の用量を変更してもよい。例えば、用量は、約0.1~約25mg/kgの範囲で、1日1回、週2回、週1回、2週間に1回、月1回等投与してよい。ボロシキシマブなどの抗体を送達する場合、成人に対する用量は、約0.1mg/kgから、約0.25mg/kgから、約0.5mg/kgから、約0.75mg/kgから、約1mg/kgから、約1.25mg/kgから、約2.5mg/kgから、約5mg/kgから、最高約25mg/kg、最高約15mg/kg、最高約10mg/kgまでであってよい。平均的ヒトに対する1日総用量は、最高約250mgであっても、最高約200mgであっても、最高約100mgであっても、最高約75mgであっても、最高約50mgであってもよい。
【0040】
関心対象のアンタゴニストには上記のような抗体が含まれる。また、可溶性受容体、受容体とFc領域との複合体等も含まれる。一般に、本明細書で使用する場合、用語「抗体」または「抗体部分」には、エピトープに適合し、エピトープを認識する特定の形状を有する任意のポリペプチド鎖含有分子構造が含まれることが意図され、その場合、1つ以上の非共有結合による相互作用が、分子構造とエピトープとの複合体を安定させる。原型抗体分子は免疫グロブリンであり、あらゆる供給源(例えば、ヒト、げっ歯類、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、他の哺乳類、ニワトリ、シチメンチョウ、エミュー、他の鳥類等)に由来する、すべてのタイプの免疫グロブリン(IgG、IgM、IgA、IgE、IgD等)は「抗体」と見なされる。本発明で用いる抗体はポリクローナル抗体であってよいが、細胞培養または組換えによる複製が可能で、かつ、その抗原性が低減するよう修飾可能であることから、モノクローナル抗体が好ましい。
【0041】
抗体融合タンパク質には、1つ以上の定常領域ドメインが含まれてよく、例えば、可溶性受容体-免疫グロブリンキメラとは、可溶性接着分子カウンターレセプターの一部と免疫グロブリン配列とが結合しているキメラ分子を指す。免疫グロブリン配列は、免疫グロブリン定常ドメインであることが好ましいが、必須というわけではない。免疫グロブリン部分は、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4のサブタイプ、IgA、IgE、IgDまたはIgMから得てよいが、IgG1またはIgG3が好ましい。
【0042】
単純なイムノアドヘシンは、「アドヘシン」タンパク質の結合領域(複数可)に、免疫グロブリン重鎖のヒンジ及びFcの両領域を組み合わせたものである。通常、可溶性接着分子をコードする核酸は、C末端にて、免疫グロブリン定常ドメイン配列のN末端をコードする核酸に融合させるが、N末端での融合も可能である。典型的に、そのような融合では、コードされたキメラポリペプチドは、機能的に活性なヒンジ、免疫グロブリン重鎖の定常領域のCH2ドメイン及びCH3ドメインを少なくとも保持する。融合は、定常ドメインのFc部分のC末端に対して、または直接N末端で重鎖のCH1もしくは軽鎖の対応する領域に対してもなされる。融合する正確な部位は重要ではなく、特定の部位が周知なので、それらを、生物学的活性、分泌特性または結合特性を最適化するために選択してよい。
【0043】
ヒトにおける強烈または有害な免疫応答(アナフィラキシーショックなど)を誘導する傾向が弱い抗体であり、かつ、抗体治療薬を反復投与しなくてすむようになるような、免疫応答を刺激する傾向も弱い抗体は、本発明での使用に好ましい。これらの抗体は、髄腔内投与を含む、あらゆる投与経路に好ましい。したがって、ヒトに投与した場合により少ない免疫応答を生じさせるヒト化抗体、キメラ抗体、または異種ヒト抗体は、本発明での使用に好ましい。
【0044】
キメラ抗体は、マウス(または他の動物由来)のハイブリドーマクローンから得たマウスの可変軽鎖領域及び可変重鎖領域(VK及びVH)を、主にヒトドメインを有する抗体を作製するためにヒトの定常軽鎖領域及び定常重鎖領域と結合させることによる組換え手段で作製してよい。そのようなキメラ抗体の作製は当該技術分野において周知であり、標準的手段(例えば、参照により本明細書に完全に組み込まれる米国特許第5,624,659号に記載のような手段)で達成され得る。ヒト化抗体は、より一層ヒト様の免疫グロブリンドメインを含有し、かつ、動物由来抗体の相補性決定領域のみが組み込まれるよう操作されている。これは、モノクローナル抗体の可変領域の超可変ループ配列を慎重に調べ、それらをヒト抗体鎖の構造に適合させることによって達成される。別法として、Abgenix XenoMouseまたはMedarex HuMAb(登録商標)テクノロジーなどの、ヒト免疫グロブリンを産生するよう遺伝子改変されている動物からポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を作製してよい。別法として、ヒト可変領域含有ファージライブラリーから一本鎖抗体(以下に記載するFv)を作製することができる。
【0045】
完全免疫グロブリン(または対応するそれらの組換え型)のほか、エピトープ結合部位を含む免疫グロブリン断片(例えば、Fab’、F(ab’)2 、または他の断片)は本発明における抗体部分として有用である。そのような抗体断片は、全免疫グロブリンから、フィシン、ペプシン、パパイン、または他のプロテアーゼによる切断によって作製され得る。組換え型免疫グロブリン手法を用いて「断片」または最小免疫グロブリンを設計してよい。例えば、本発明で使用するための「Fv」免疫グロブリンは、ペプチドリンカー(例えば、ポリ-グリシン、またはアルファヘリックスモチーフもベータシートモチーフも形成しない別の配列)を介して、可変軽鎖領域を可変重鎖領域に連結することによって作製され得る。
【0046】
小分子薬剤は、化学薬品の種類を多数包含するが、典型的には、有機分子、例えば、分子量が50ダルトン超で約2,500ダルトン未満である小さな有機化合物などである。候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含み、これには典型的に、少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基が含まれ、好ましくは、官能性化学基のうち少なくとも2つが含まれる。候補薬剤は、上記官能基の1つ以上で置換された、炭素環式(cyclical carbon)もしくは複素環式の構造及び/または芳香族構造もしくは多環芳香族構造を含むことが多い。候補薬剤はまた、生体分子にも見られ、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、その誘導体、構造類似体もしくは組み合わせが含まれる。
【0047】
候補薬剤は、合成化合物または天然化合物のライブラリーなど、多種多様な材料から得られる。例えば、多種多様な有機化合物及び生体分子のランダム及び指向性合成では多数の手段が利用可能であり、無作為化オリゴヌクレオチド及びオリゴペプチドの発現が含まれる。別法として、細菌、真菌、植物及び動物の抽出物の形態の天然化合物ライブラリーは利用可能であるかまたは容易に作製される。さらに、天然または合成によって作製されたライブラリー及び化合物は、従来の化学的、物理的及び生化学的手段を介して容易に修飾され、コンビナトリアルライブラリーの作製に使用され得る。薬理作用がある既知の物質を指向性またはランダムな化学修飾、例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等などに供して構造類似体を生成してよい。被験薬剤は、例えば、天然物由来物質ライブラリーまたはコンビナトリアルライブラリーなどのようなライブラリーから得ることができる。
【0048】
候補化合物のライブラリーも合理的設計法により調製することができる。(それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Cho et al.,Pac.Symp.Biocompat.305-16,1998)、Sun et al.,J.Comput.Aided Mol.Des.12:597-604,1998)を参照のこと)。例えば、GABAA阻害剤のライブラリーは、コンビナトリアル化合物ライブラリーの合成により調製することができる(いずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、DeWitt et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 90:6909-13,1993、国際特許公開第WO94/08051号、Baum,Chem. & Eng.News,72:20-25,1994、Burbaum et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 92:6027-31,1995、Baldwin et al.,J.Am.Chem.Soc.117:5588-89,1995、Nestler et al.,J.Org.Chem.59:4723-24,1994、Borehardt et al.,J.Am.Chem.Soc.116:373-74,1994、Ohlmeyer et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 90:10922-26を参照のこと)。
【0049】
候補アンタゴニストは、任意の適切な標準的手段によって活性を試験することができる。最初のスクリーニングとして、抗体を、関心対象の接着分子に対する結合について試験してよい。第2のスクリーニングとして、抗体候補を、適切な細胞株、例えば、白血球または内皮細胞などに対する結合、または原発腫瘍組織試料に対する結合について試験してよい。これらのスクリーニングでは、候補抗体を、検出用に標識してよい(例えば、フルオレセインもしくは別の蛍光部分を用いるか、または西洋わさびペルオキシダーゼなどの酵素を用いる)。標的に対する選択的結合が確立された後、候補抗体、または以下に記載のように作製された抗体複合体を、本明細書に記載のように、インビボモデル、例えば、適切なマウスまたはラットのてんかんモデルなどにおける中枢神経系への白血球動員を遮断する能力など、適切な活性について試験してよい。
【0050】
治療する病態
神経性炎症性疾患。用語「炎症性」応答は、体液性(抗体媒介性)及び/または細胞(抗原特異的T細胞またはその分泌産物により媒介される)応答の進行である。中枢神経系の炎症性脱髄性疾患は特に関心対象であり、これには、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NO)、及び実験的後天性脳炎(EAE)が含まれるが、これに限定されない。末梢神経系の脱髄性炎症性疾患には、ギラン-バレー症候群(GBS)ならびにそのサブタイプである急性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、急性運動性軸索型ニューロパチー、急性運動感覚性軸索型ニューロパチー、ミラーフィッシャー症候群、及び急性汎自律神経異常症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)ならびにそのサブタイプである古典的CIDP、糖尿病を伴うCIDP、CIDP/意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)、感覚性CIDP、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、多巣性後天性脱髄性感覚運動性ニューロパチーまたはルイス・サムナー症候群、多巣性後天性感覚運動性ニューロパチー、及び遠位型後天性脱髄性感覚ニューロパチーが含まれる。従来、炎症性疾患に分類されていないが、ALSは、CD49eマクロファージ数が増加していることがわかっており、本明細書に記載する方法により治療され得る。
【0051】
多発性硬化症は、寛解と増悪とを繰り返す、CNS機能障害のさまざまな症状及び徴候を特徴とする。本発明の方法による分析の関心対象となる分類型には、再発寛解型MS(RRMS)、一次進行型MS(PPMS)及び二次進行型MS(SPMS)が含まれる。最も一般的に見られる症状は、一肢もしくは複数肢、体幹、または一側顔面の感覚異常、下肢や手の筋力低下または巧緻運動障害、または視覚障害、例えば、片眼の部分盲及び痛み(球後視神経炎)、視界の暗さ、もしくは暗点などである。他の一般的初期症状は、複視(double vision)(複視(diplopia))をもたらす眼麻痺、一肢もしくは複数肢の一過性の筋力低下、軽度の肢のこわばりまたは異常な易疲労感、軽い歩行障害、膀胱制御困難、めまい、及び軽度の情緒障害であり、いずれもCNSが散在的に侵されていることを示し、疾患が認識されるまでに数か月または数年かかることが多い。過度の熱が症状及び徴候を強め得る。
【0052】
経過はきわめて多様で予測不能であり、大部分の患者は弛張性である。最初、特に疾患が球後視神経炎で始まった場合、エピソードの間に数か月または数年の寛解があり得る。しかしながら、一部の患者は、頻回の発作を起こし、急速に能力が失われ、少数の患者では、経過は、急速進行性(一次進行型MS、PPMS)、または二次進行型多発性硬化症(SPMS)であり得る。再発寛解型MS(RR MS)は、数か月から数年にわたって生じる再発及び寛解を臨床的特徴とし、発作と発作との間に神経障害が部分的または完全に回復する。そのような患者は、1年に約1回、発作または再発を示す。10~20年にわたり、約50%のRR MS患者は二次進行型MS(SP MS)を発症し、これは、発作と発作との間の回復が不完全であること、及び神経障害が蓄積して身体障害が増すことを特徴とする。
【0053】
診断は通常、臨床的特徴、X線の特徴(磁気共鳴[MR]走査での脳プラーク)、及び程度は低いが臨床検査(CSF分析のオリゴクローナルバンド)の特徴から推論して間接的に行われる。典型的症例は通常、臨床的背景から確実に診断され得る。診断は、初回発作後に疑われ得る。後に、寛解及び増悪の病歴、及び2つ以上の領域に散在するCNS病変の臨床的証拠により強く示唆される。
【0054】
最も高感度な画像診断法であるMRIではプラークを見ることができる。また、ときに一連のさまざまな変動性の運動感覚性の症状を生じてMSを模倣する、脊髄と髄質との接合部の治療可能な非脱髄性病変(例えば、くも膜下嚢胞、大後頭孔腫瘍)を検出することもできる。ガドリニウム造影による増強法により、古い脳プラークと炎症が活発な領域とを区別することができる。MS病変は、造影増強CTスキャンで見ることもでき、ヨウ素用量を2倍にして与え、スキャニングを遅らせる(倍量投与遅延CTスキャン)ことによって感度を上昇させることができる。
【0055】
視神経脊髄炎(NMO)、またはデビック病は、視神経及び脊髄の自己免疫性の炎症性障害である。炎症は脳に影響を及ぼし得るが、この障害は多発性硬化症とは異なり、治療法に対する異なる応答パターン、おそらく異なるパターンの自己抗原を有し、異なるリンパ球サブセットが関与する。
【0056】
デビック病の主な症状は、視力及び脊髄機能の喪失である。視神経炎の他の病因の場合と同様に、視力障害は通常、視力低下として現われるが、視野欠損、または色覚喪失が単独で、または正式な視力喪失前に生じ得る。脊髄機能障害は、筋力低下、感覚低下、または膀胱及び腸の調節機能の消失をもたらし得る。脊髄の損傷は、炎症性脱髄から、白質及び灰白質の壊死性損傷に及び得る。デビック病の炎症性病変はII型病変(補体媒介性脱髄)に分類されてきたが、その病変は、血管周囲に顕著に分布している点においてMSのパターンIIの病変と異なる。したがって、炎症パターンは、MSで見られるパターンとはしばしば極めて異なることが多い。
【0057】
発作は、従来、メチルプレドニゾロンIVのようなコルチコステロイドの高用量静脈内投与を短期間して治療される。発作が進行するか、またはコルチコステロイド治療に応答しない場合、プラスマフェレーシスを使用することができる。一般に使用される免疫抑制治療には、アザチオプリン(イムラン)及びプレドニゾンの併用、ミコフェノール酸モフェチル及びプレドニゾンの併用、リツキシマブ、ミトキサントロン、静注用免疫グロブリン(IVIG)、ならびにシクロホスファミドが含まれる。
【0058】
疾患は単相性であり得る、すなわち、エピソードは1回で寛解が永続的であり得る。しかしながら、少なくとも患者の85%は再発型疾患であり、横断性脊髄炎及び/または視神経炎の発作を繰り返す。単相型の患者では、横断性脊髄炎及び視神経炎が同時に出現するか、またはいずれかの出現から数日以内にもう一方が出現する。再発型の患者は、初回発作と次回発作との間が数週間または数か月ある可能性が高く、初回横断性脊髄炎イベント後、運動能力が良好に回復する可能性が高い。再発は通常、早期に出現し、約患者の55%は1年目に再発し、90%は最初の5年以内に再発する。MSと異なり、デビック病にはまれに二次進行相があり、患者は、発作と発作との間に寛解を伴わずに神経の減衰が大きくなる。代わりに、急性発作から身体障害が起こる。
【0059】
筋萎縮性側索硬化症は、随意筋運動の制御に関与する神経細胞(ニューロン)が主に侵されている一群の希少神経疾患である。これは、皮質脊髄路、前角細胞、延髄運動核、またはその組み合わせが着実に容赦なく進行性に変性することを特徴とする。症状は重症度によって異なり、筋力の低下及び萎縮、線維束性収縮、情緒不安定、呼吸筋減弱が含まれ得る。診断では、神経伝導検査、筋電図、ならびにMRI及び臨床検査による他障害の除外を行う。現在の治療は支持的治療である。大部分のALS症例(90パーセント以上)は散発性であると考えられる。
【0060】
ほとんどのALS患者は、手(最も一般的)または足の痙攣,筋力低下,及び筋萎縮からなるランダムな非対称性の症状を呈する。筋力低下は前腕、肩、及び下肢へと進行する。その後すぐに、線維束性収縮、痙縮、深部腱反射亢進,伸展性足底反射、ぎこちなさ、硬直した動き、体重減少、疲労、ならびに顔の表情及び舌の動きの制御困難が生じる。その他の症状には、嗄声、嚥下困難、不明瞭発語が含まれ、嚥下が困難なため唾液分泌が多くなり、患者は液体にむせやすくなる。障害後期には、制御不能情動が出現し、不適切な場面で意図せずに過度に笑ったり泣いたりし、抑えられなくなる。感覚系、意識、認知、随意眼球運動、性機能、ならびに尿道括約筋及び肛門括約筋は通常免れる。通常、呼吸筋不全により死亡し、患者の50%は発症後3年以内に死亡し、5年生存するのは20%、10年生存するのは10%である。30年超生存することはまれである。
【0061】
薬物リルゾール(リルテック)及びエダラボン(ラジカヴァ)は特定の型のALSの治療に承認されており、α5インテグリンアンタゴニストと組み合わせて提供され得る。リルゾールは、神経細胞及び運動ニューロン間のメッセージを伝達するグルタミン酸塩の量を抑えることにより、運動ニューロンに対する損傷を抑制すると考えられている。ALS患者における臨床試験では、リルゾールは、特に球型の疾患において数か月の生存期間延長を示したが、運動ニューロンにすでに与えられた損傷は回復しない。エダラボンは、ALS患者の日常機能の臨床評価において、低下を遅らせることが示されている。
【0062】
ALSの動物モデルにはSOD1遺伝子の変異が含まれる。常染色体優性FALSの原因として最初に同定されたのは21番染色体上のSOD1遺伝子のミスセンス変異であった。SOD1は、細胞質及びミトコンドリアの普遍的な酵素であり、二量体の状態で機能して有害な活性酸素種(ROS)の分解を触媒し、それにより酸化ストレスを防ぐ。Sod1-/- マウスは運動ニューロンの消失はないが、大幅な遠位運動性軸索障害を有し、正常な神経機能におけるSOD1の重要な役割を示している。変異SOD1を発現しているトランスジェニックマウスにおける運動ニューロンの大幅な消失は、毒性の機能獲得の結果と考えられる。
【0063】
本明細書に開示する方法は、MS、NMO、またはALSの臨床症状を安定または低減させ、例えば、中枢神経系のCD49e+の単球系細胞の活性を低下させることにより行う。
【0064】
一実施形態では、方法は、刺青除去を高めるために提供される。真皮の骨髄細胞は、近傍のメラノサイトからメラノソームを貪食したマクロファージに対応する、DT感受性でメラニンの蓄積した細胞により支配されている。それらの細胞は、ヒトではメラノファージと呼ばれている。これらのメラノファージは、刺青色素粒子の捕捉及び保持に関与し、刺青を消失させずに捕捉-放出-再捕捉という連続サイクルを経ることができる。CD49eに対するアンタゴニストの投与を介してマクロファージ活性を阻害することにより、好ましくない刺青の除去を高められ得る。アンタゴニストは、植込み、皮内注射等により局所的に投与することができ、また全身送達してもよい。
【0065】
追加の薬剤
スタチンは、HMG-CoAレダクターゼ酵素の阻害剤であり、抗α5 剤との併用療法で、例えば、MSまたはNMOの治療のために提供され得る。スタチンには詳しい記載があり、例えば、米国特許第3,983,140号に開示のメバスタチン及び関連化合物、米国特許第4,231,938号に開示のロバスタチン(メビノリン)及び関連化合物、米国特許第4,346,227号に開示のようなプラバスタチン及び関連化合物、米国特許第4,448,784号及び第4,450,171号に開示のシンバスタチン及び関連化合物、米国特許第5,354,772号に開示のフルバスタチン及び関連化合物、米国特許第4,681,893号、第5,273,995号及び第5,969,156号に開示のアトルバスタチン及び関連化合物、ならびに米国特許第5,006,530号及び第5,177,080号に開示のセリバスタチン及び関連化合物がある。さらなる化合物は米国特許第5,208,258号、第5,130,306号、第5,116,870号、第5,049,696号、RE36,481号、及びRE36,520号に開示されている。
【0066】
スタチンの有効用量は、適切な期間、通常少なくとも約1週間、場合により約2週間またはそれ以上、最高約4週間投与した場合に、疾患の重症度軽減を証明する用量、及び/または血清コレステロール濃度をコントロールする用量である。初回用量をそのような期間投与し、その後、場合によっては用量が減量される維持量を投与してよいことを当業者は理解する。
【0067】
スタチンの製剤及び投与は周知であり、一般に、慣例的用法に従う。自己免疫疾患の治療に必要な用量は、抗α5 剤治療を行わない場合のコレステロール管理に使用される濃度と同量であっても、変更してもよい。
【0068】
スタチンは、適切な薬理学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせて、治療的投与用の多種多様な製剤に組み込むことができ、固体、半固体、液体または気体の形態の調製物、例えば、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐剤、注射、吸入剤、ゲル、微粒子、及びエアロゾルなどに製剤化され得る。製剤は、任意選択で、抗α5 剤との単位用量に組み合わせられる。
【0069】
インターフェロンベータは、多発性硬化症(MS)の治療に使用されるインターフェロンファミリーの薬物であり、MS治療用に抗α5 剤との併用療法で提供され得る。IFN-β1aは哺乳類細胞により産生され、インターフェロンベータ-1bは改変E.coliで産生される。インターフェロンは、MS再発率を約18~38%低下させること、及びMS患者の身体障害の進行を遅らせることことが示されている。市販製品には、アボネックス(Biogen Idec)、レビフ(EMD Serono)、及びシンノベクス(CinnoVex)(CinnaGen)が含まれる。密接に関連するものはインターフェロンベータ-1bであり、米国ではベータセロン、またはエクスタビアとして市場に出ている。
【0070】
IFN-βを用いたMS患者の治療でさまざまな製剤及び用量が従来より用いられており、本発明の併用治療でそれらの用量を用いても、またはより低い用量、例えば、従来用量の90%、従来用量の80%、従来用量の70%、従来用量の60%、従来用量の50%、またはそれ以下で用いてもよい。
【0071】
アボネックスは、再構成を要する凍結乾燥粉末及び予混合液体シリンジキットの2種の製剤が販売されており、通常、30μgの用量で筋肉内注射により週1回投与される。レビフは、22μgまたは44μgの用量で週3回皮下注射により投与される。インターフェロンベータ-1bは通常、250μgで2日に1回投与される。
【0072】
「適切な条件」とは、この用語が使用される文脈に応じた意味を持つものとする。すなわち、抗体との関連で使用される場合は、かかる用語は、抗体が、その対応する抗原に結合できる条件を意味するものとする。薬剤と細胞との接触に関連して使用される場合、この用語は、そのような能力がある薬剤が細胞に侵入して、その意図される機能を実行できる条件を意味するものとする。一実施形態では、本明細書で使用する場合、「適切な条件」とは、生理的な条件を意味する。
【0073】
本教示において「対象」または「患者」とは一般に、哺乳類である。ヒト以外の哺乳類を、炎症動物モデルを表す対象として有利に使用することができる。対象は雄であっても雌であってもよい。
【0074】
「分析する」ことには、試料に関連した1セットの値を、試料中のマーカーの測定によって決定すること(例えば、マーカーの有無または構成成分の発現レベルなど)、及び、かかる測定値を、同じ対象または他の対照対象(複数可)から得た試料または試料セットの測定値と比較することが含まれる。本教示のマーカーは、当該技術分野で公知のさまざまな従来方法のいずれによっても分析可能である。「分析する」ことには、例えば、対象が治療(例えば、本明細書に記載のIFN治療)に対するレスポンダーであるのか、またはノン・レスポンダーであるのかなどを決定する統計解析の実施が含まれ得る。
【0075】
「薬理学的に許容される添加剤」、「薬理学的に許容される希釈剤」、「薬理学的に許容される担体」、及び「薬理学的に許容されるアジュバント」とは、一般に安全であり、毒性がなく、生物学的にも他の意味でも好ましくないものではない医薬組成物の調製に有用な添加剤、希釈剤、担体、及びアジュバントを意味し、これには、動物用ならびにヒトの医薬用に許容される添加剤、希釈剤、担体、及びアジュバントが含まれる。本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合、「薬理学的に許容される添加剤、希釈剤、担体及びアジュバント」には、そのような添加剤、希釈剤、担体、及びアジュバントの単数及び複数が含まれる。
【0076】
本明細書で使用する場合、「医薬組成物」は、哺乳類、特にヒトのような対象への投与に好適な組成物を包含することが意図される。一般に、「医薬組成物」は無菌であり、好ましくは、対象体内に好ましくない応答を誘発する能力がある汚染物質を含まない(例えば、医薬組成物中の化合物(複数可)は医薬品グレードである)。医薬組成物は、経口、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、気管内、筋肉内、皮下等といった多数の異なる投与経路による、それを必要とする対象または患者への投与用に設計することができる。
【0077】
「投与単位」とは、治療すべき特定の個人について、単位用量として適切な物理的個別単位を指す。各投与単位は、必要な医薬担体と関連して所望の治療効果(複数可)を生み出すよう計算された所定量の活性化合物(複数可)を含有することができる。単位剤形の仕様は、(a)活性化合物(複数可)の固有の特徴及び達成すべき特定の治療効果(複数可)、ならびに(b)そのような活性化合物(複数可)の配合技術への当技術分野における本質的な制約により決定することができる。
【0078】
「薬理学的に許容される添加剤」とは、一般に、安全で毒性がなく、望ましい、医薬組成物の調製に有用な添加剤を意味し、これには動物用ならびにヒトの医薬用に許容される添加剤が含まれる。そのような添加剤は、固体、液体、半固形であっても、またはエアロゾル用組成物の場合には気体であってもよい。
【0079】
「薬理学的に許容される塩及びエステル」とは、薬理学的に許容され、所望の薬理特性を有する塩及びエステルを意味する。そのような塩には、化合物中にある酸性プロトンが、無機塩基または有機塩基と反応することができる場合に形成され得る塩が含まれる。適切な無機塩には、アルカリ金属、例えば、ナトリウム及びカリウム、マグネシウム、カルシウム、及びアルミニウムで形成される塩が含まれる。適切な有機塩には、アミン塩基、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、Nメチルグルカミン等などの有機塩基で形成される塩が含まれる。そのような塩には、無機酸(例えば、塩酸及び臭化水素酸)及び有機酸(例えば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、ならびにメタンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸などのアルカンスルホン酸及びアレーンスルホン酸)で形成される酸付加塩も含まれる。薬理学的に許容されるエステルには、化合物中に存在するカルボキシ基、スルホニルオキシ基、及びホスホノオキシ基から形成されるエステル、例えば、C1~6アルキルエステルなどが含まれる。酸性基が2つ存在する場合、薬理学的に許容される塩またはエステルは、モノ-酸-モノ-塩もしくはエステルまたはジ-塩もしくはエステルであり得、同様に、酸性基が2つを超えて存在する場合、そのような基の一部またはすべてを塩化またはエステル化することができる。本発明で挙げる化合物は、非塩化形態もしくは非エステル化形態で存在しても、または塩化形態及び/またはエステル化形態で存在してもよく、そのような化合物の列挙により、本来の(非塩化及び非エステル化)化合物も、その薬理学的に許容される塩及びエステルも両方含まれることが意図される。また、本発明で挙げる特定の化合物は、2つ以上の立体異性体形態で存在してよく、そのような化合物の列挙により、すべての単一立体異性体及びそのような立体異性体のあらゆる混合物(ラセミ体であるか否か問わない)が含まれることが意図される。
【0080】
用語「薬理学的に許容される」、「生理学的に忍容性がある」及びその文法上の変形は、それらが組成物、担体、希釈剤及び試薬を指す場合は同じ意味で使用され、その物質が、組成物の投与が禁止される程の好ましくない生理的作用を生じることなくヒトに、またはヒトで投与することができることを表す。
【0081】
「治療的有効量」とは、疾患の治療のために対象に投与した場合に、その疾患の治療に効果を及ぼすために十分な量を意味する。
【0082】
本発明は、本発明を実施する好ましい様態に含まれる、本願発明者により見出されたかまたは提案される特定の実施形態に関して記載されている。本開示に鑑みて、意図される本発明の範囲から逸脱することなく例示の特定の実施形態に多数の修正及び変更を行うことができることは当業者により理解される。機能的な生物学的同等性を考慮して、種類または量においてその生物学的作用に影響を与えることなく、タンパク質の構造に変更を行うことができる。そのような修正はいずれも、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0083】
方法
本開示は、多発性硬化症などの脱髄性自己免疫疾患であり得る神経性炎症性疾患を治療するための方法を提供する。方法は、対象に対し、有効量の、抗α5 剤である薬剤を単剤として、または1つ以上の追加薬剤(複数可)と組み合わせて投与することを含む。
【0084】
ある実施形態では、抗α5 剤を、治療量のスタチンと組み合わせる。活性薬剤は、別々の製剤で投与しても、または組み合わせて、例えば、単位用量にして投与してもよい。製剤は経口投与用であってよい。任意選択で、抗α5 剤を、単剤として、またはスタチンと共に組み合わせて、サイトカイン、抗体(例えば、タイサブリ)、フィンゴリモド(ジレニア)、コパキソン等などの第2の化合物と組み合わせる。いくつかの実施形態では、サイトカインはIFN-βである。
【0085】
他の実施形態では、抗α5 剤を、スタチン非存在下で、サイトカイン、抗体(例えば、タイサブリ)、フィンゴリモド(ジレニア)、コパキソン等などの薬剤と組み合わせてよい。いくつかの実施形態では、サイトカイン治療に対する反応性について患者を分析し、その場合、治療剤の選択はそのような分析に基づく。
【0086】
いくつかの実施形態では、併用療法薬を同時に投与し、その場合、化合物のいずれか1つの投与用量は従来用量であっても従来用量より少なくてもよい。いくつかの実施形態では、2つの治療薬の間に段階を設け、例えば、1つの化合物を最初に単剤として、例えば維持として与え、第2の化合物を、例えば、再発が始まった時点またはその後などの再発している間、再発ピーク時などに投与する。
【0087】
本明細書に記載する方法及び組成物のさまざまな態様及び実施形態では、治療用組成物の投与は、当業者に公知のさまざまな方法及び送達システムのいずれかを使用して達成または実行可能である。投与は、例えば、静脈内、経口、植込み、経粘膜、経皮吸収、筋肉内、髄腔内、及び皮下に実施することができる。送達システムでは、日常的に用いられる多数の医薬担体が使用される。
【0088】
使用方法において、有効用量の本発明の抗α5 剤を単独で投与するか、または上掲の病態を治療するための追加の活性薬剤と組み合わせて投与する。有効用量は、約1ng/kg体重、10ng/kg体重、100ng/kg体重、1μg/kg体重、10μg/kg体重、25μg/kg体重、50μg/kg体重、100μg/kg体重、250μg/kg体重、500μg/kg体重、750μg/kg体重、1mg/kg体重、5mg/kg体重、10mg/kg体重、25mg/kg体重、50mg/kg体重、75mg/kg体重、100mg/kg体重、250mg/kg体重、500mg/kg体重、750mg/kg体重等であってよい。用量を、必要に応じて複数回、例えば、4時間ごと、6時間ごと、8時間ごと、12時間ごと、18時間ごと、連日、2日ごと、3日ごと、1週間ごと等投与してもよい。用量を経口投与してもよい。
【0089】
組成物は、1回量での投与でも複数用量での投与でも可能であり、通常、複数用量は、ある期間にわたって、例えば、1日1回、2日に1回、週1回、週2回、月1回等、炎症性疾患の重症度低減に十分な期間だけ投与することができ、用量は1、2、3、4、6、10、またはそれ以上の用量を含むことができる。
【0090】
本方法による薬剤の治療的または予防的な有効量の決定は、慣例となっているコンピュータによる方法を使用して動物データに基づいて行うことができる。有効用量は、少なくとも一部は投与経路に依存する。
【0091】
医薬組成物
上記で考察した化合物は、任意の好都合な添加剤、試薬及び方法を使用して製剤化することができる。組成物は、薬理学的に許容される添加剤(複数可)との製剤で提供される。多種多様な薬理学的に許容される添加剤が当該技術分野で公知であり、本明細書での詳細な考察を要しない。薬理学的に許容される添加剤はさまざまな刊行物に十分に記載されており、それらには、例えば、A.Gennaro(2000)“Remington:The Science and Practice of Pharmacy,” 20th edition,Lippincott,Williams, & Wilkins、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems(1999) H.C.Ansel et al.,eds.,7th ed.,Lippincott,Williams, & Wilkins、及びHandbook of Pharmaceutical Excipients(2000) A.H.Kibbe et al.,eds.,3rd ed.Amer.Pharmaceutical Assocなどがある。
【0092】
薬理学的に許容される添加剤、例えば、ビヒクル、アジュバント、担体または希釈剤などは公衆が容易に入手可能である。さらに、薬理学的に許容される助剤、例えば、pH調整剤及び緩衝剤、等張化剤、安定化剤、湿潤剤等は公衆が容易に利用可能である。
【0093】
いくつかの実施形態では、対象化合物を水性緩衝液に製剤化する。適切な水性緩衝液には、強度が5mM~100mMで異なる酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、及びリン酸塩の緩衝液が挙げられるが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、水性緩衝液には、等張液が得られる試薬が含まれる。そのような試薬には、塩化ナトリウム、ならびに糖、例えば、マンニトール、デキストロース、ショ糖等が挙げられるが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、水性緩衝液にはさらに、ポリソルベート20またはポリソルベート80などの非イオン性界面活性剤が含まれる。任意選択で、製剤にはさらに保存剤が含まれる。適切な保存剤には、ベンジルアルコール、フェノール、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム等が挙げられるが、これに限定されるものではない。多くの場合、製剤を約4℃で保存する。製剤は凍結乾燥してもよく、その場合は一般に、製剤には、ショ糖、トレハロース、乳糖、マルトース、マンニトール等などの凍結保護剤が含まれる。凍結乾燥製剤は、たとえ雰囲気温度であっても長期間保存可能である。いくつかの実施形態では、対象化合物を徐放性製剤用に製剤化する。
【0094】
いくつかの実施形態では、抗α5 剤を第2の薬剤と共に薬理学的に許容される添加剤(複数可)に製剤化する。
【0095】
対象製剤は、経口投与、皮下投与、筋肉内投与、非経口投与、または他の経路で投与することができ、それらの経路には、例えば、経口、直腸、鼻、局所(経皮吸収、エアロゾル、口腔及び舌下など)、膣、非経口(皮下、筋肉内、静脈内及び皮内など)、膀胱内といった経路または罹患臓器への注射が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0096】
活性薬剤の各々は、約0.1μgから、0.5μg、1μg、5μg、10μg、50μg、100μg、500μg、1mg、5mg、10mg、50mg、100mg、250mg、500mg、750mg、またはそれ以上という単位用量で提供され得る。
【0097】
抗α5 剤を単位剤形で投与してよく、当該技術分野において周知の方法で調製してよい。そのような方法には、対象化合物と、1つ以上の副成分を構成する薬理学的に許容される担体または希釈剤とを組み合わせることが含まれる。薬理学的に許容される担体は、選択投与経路及び標準的薬務に基づいて選択される。各担体は製剤の他の原料との適合性があり、対象に有害ではないという意味で、「薬理学的に許容される」ものでなければならない。この担体は固体または液体であり得、その種類は一般に、使用される投与の種類に基づいて選択される。
【0098】
適切な固体担体の例には、乳糖、ショ糖、ゼラチン、寒天及び原薬粉末が含まれる。適切な液状担体の例には、水、薬理学的に許容される脂肪及び油、アルコールまたは他の有機溶媒が含まれ、それらには、エステル、エマルジョン、シロップまたはエリキシル剤、懸濁液、溶液及び/または懸濁液、ならびに非発泡性顆粒から再構成した溶液及び/または懸濁液、及び発泡性顆粒から再構成した発泡性調製物が含まれる。そのような液状担体は、例えば、適切な溶媒、保存剤、乳化剤、懸濁剤、希釈剤、甘味料、粘稠剤、及び溶融剤を含有してよい。好ましい担体は、食用油、例えば、トウモロコシ油またはカノラ油である。ポリエチレングリコール、例えばPEGも、良好な担体である。
【0099】
本開示の投与レジメンが提供される薬物送達デバイスまたはシステムはいずれも使用可能である。多種多様な送達デバイス及びシステムが当業者に公知である。
【実施例】
【0100】
実施例1
単一細胞解析により、神経炎症対神経変性の対比モデルから骨髄細胞の鑑別的分子シグネチャーが明らかになる。
神経炎症対神経変性という2つの極性は、脳病理において非常に注目する対象である。ここでは、ハンチントン病(HD)、神経変性病態のR6/2マウスモデル、それに対する、脳の典型的炎症性疾患である多発性硬化症(MS)の実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスモデルにおける免疫応答の系全体にわたる分析を実施するため、不偏データ分析を行う単一細胞マスサイトメトリー(CyToF)を使用する。中枢神経系(CNS)に限定され、神経炎症性(EAE)病態及び神経変性(HD)病態のどちらにも存在する3つの骨髄細胞集団を同定した。CNSに常在する骨髄細胞由来の単球の比較対照となる血液由来単球は5つの亜集団からなり、EAEでは検出されたがHDでは検出されなかった。単一細胞分析により、EAEでは、HDと比較して、同様の骨髄系集団内部でのシグナル伝達活性及びサイトカイン産生が非常に不均衡であることが明らかにされた。神経炎症性病態では、しっかりと組織化されたシグナル伝達イベントが段階的に出現するが、神経変性病態ではこれらの同じシグナル伝達イベントが出現しない。さらに、これら2つの神経病理間には、単一細胞レベルでサイトカインプロファイルに顕著な相違があり、多機能性細胞は複数のサイトカインを同時に分泌し、EAEの神経炎症と相関した。これらの知見は、炎症性脳疾患と変性脳疾患との神経病理における相違を強調しており、これらの特定の脳病理についての選択的治療標的を明らかにしている。
【0101】
脳病理の2つの極性は、神経変性とは対照的に神経炎症の概念に穴を開けるものである。神経炎症の場合における細胞性応答は、末梢の適応免疫細胞及び自然免疫細胞の浸潤で構成される。神経変性では、病理は、CNSに常在する免疫細胞、すなわち、ミクログリア及び血管周囲の骨髄細胞の活性を特徴とする。ハンチントン病(HD)、及びアルツハイマー病(AD)またはプリオン病などの障害では、CNS内部に末梢免疫系細胞の侵入の証拠はほとんどないかまったくない。これは、末梢免疫細胞のCNSへの遊走を伴う激しい炎症がある多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、脳卒中及び微生物感染とは対照的である。MSでは、例えば、主要インテグリンに対する抗体を用いた末梢免疫細胞の脳への侵入遮断は、承認されて10年になるが、最も強力な承認されている治療法の機構的根拠となった。しかしながら、アルツハイマー病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、及びハンチントン病など、他の神経性障害では、同様の古典的炎症反応の証拠はない。その上、現代の文献では、これらの神経変性疾患は、しばしば神経炎症性障害または神経免疫障害と呼ばれる。
【0102】
CNSへの任意の傷害について十分に確立された特徴である小膠細胞症(ミクログリアの増殖及び活性化)から、神経炎症と神経変性との定義における混乱が生じ得る。ミクログリアの活性化には、通常は末梢免疫系細胞により産生されるケモカイン及びサイトカインなど、過剰な炎症メディエーターの上方制御及び放出が伴う。
【0103】
神経炎症性病理なのか、神経変性病理なのかという概念を洗練させることをここでは対象にしている。近年、バルク処理された試料の遺伝子転写産物の解析から、CNS疾患に関連付けられているいくつかの経路が同定された。最近のある研究では、末梢内毒素血症モデルの炎症プロセスと、アルツハイマー及びALSのような神経変性疾患のモデルとを比較した。
【0104】
ここで、マスサイトメトリー(CyTOF)を使用して免疫応答を分析することにより、脳疾患において単一細胞レベルで複数のパラメーターを同時に測定することができた。
【0105】
この目的を達成するため、データの不偏バイオインフォマティックス分析を用いたマスサイトメトリー(CyTOF)を使用して、神経炎症及び神経変性という領域が異なる端に位置する実験的自己免疫性脳脊髄炎及びハンチントン病の2つの神経性障害におけるCNS常在細胞集団及び血液由来細胞集団の関与について、系全体にわたる概論を提供する。ここでは、対極にあるこれら2つの脳病理例における、システムレベルでのシグナル伝達及びサイトカイン産生の相違を報告し、神経病理のこれらの2極の病理における大きな相違の解明を促す。
【0106】
結果
異種性CNS常在骨髄系集団。神経炎症性病態及び神経変性病態での免疫応答を調べるため、これら2極の神経病理病態の例における中枢神経系(脳及び脊髄)及び末梢血に由来する単一細胞懸濁液で、細胞表現型、シグナル伝達特性、及びサイトカイン産生を分析した。マウスが振戦、不規則歩行、異常運動及び痙攣を示した時点で、MSに似た神経炎症性疾患のモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の異なる臨床病期と、ハンチントン病(HD)のモデルであるR6/2トランスジェニックマウスとを、単一細胞マスサイトメトリー(CyTOF)を用いて比較した(
図1)。
【0107】
CNS及び血液における免疫細胞集団の表現型の多様性を調べるために、すべての単一細胞データセットを統合し(EAE、HDの全疾患病態及び健常の全マウス)、X-シフトと呼ばれる集団-マッピングアルゴリズムを適用した。このアルゴリズムは、多次元マーカー空間における細胞事象密度のノンパラメトリックマッピングにより、特徴が不明な生物系の希少な細胞集団を発見できるように特別に開発された。X-シフトの最も有用な特徴の一つは、アルゴリズムが自動的に細胞集団数を推定してくれることである。したがって、表現型空間を自動でマッピングすることができ、他の大部分の単一細胞クラスタリングアルゴリズムとは違って、この方法では使用者による入力を必要としない。細胞集団の表現型連続体を視覚化するために、出力は最小全域木(MST)として組織化され、2次元配置が作成される。細胞クラスターはノードとして表され、エッジで結ばれ、表面マーカーの完全パネルに基づく全体的な表現型類似性に従って組織化される。病態全体における各亜集団の細胞頻度の相違は、所与の病態のそれぞれのクラスターの頻度に対して比例的に各ノードのサイズを変えることにより視覚化される。集団全体におけるマーカー発現レベルの相違は、病態特異的マーカーの発現レベルに従ってノードに色付けすることにより視覚化される。ノードサイズ及び発現レベルの目視検査により、MST内の系統特異的な群を同定し、疾患特異的な細胞集団を示すことができた。
【0108】
血液試料すべての合成MSTと、CNS試料すべての合成MSTとの比較により、CNSには存在するが末梢血には存在しないCD11b
+ 骨髄系集団の3つの別個の亜集団が明らかになったため、それらをCNS特異的骨髄系集団として同定した。これらの集団を、ここでは集団A、集団B、及び集団Cと定義する(
図2A)。
【0109】
関心対象のクラスター化した集団を定義する連続するゲートを推定するため、マーカーに基づいて最適なクラスター分類を自動的に構築するDivisive Marker Tree(DMT)アルゴリズムと呼ばれるX-シフトアルゴリズムの特徴を適用した。コンピュータによって定義した閾値に従ってゲートを設定することにより、手動ゲーティングで、CD45、CD11b、CD317(BST2/PDCA-1)、主要組織適合性複合体クラスII(MHCII)、CD39、及びCD86という細胞表面マーカーの発現で区別できる、集団A、集団B、及び集団Cを確認することができた(
図2B)。
【0110】
各集団の分類を明確にする上述の主要マーカーに加え、集団A、集団B、及び集団Cは他のいくつかの細胞表面マーカーも発現した。この分析により、3集団はいずれもCD88、MHCクラスI(H2)、TAM受容体チロシンキナーゼMer(MerTK)、及び最近同定されたミクログリアマーカーの4D4とfcrlとを低レベルから中レベルで発現することが明らかになった。集団A、集団B、及び集団Cは、CD3(T細胞)、CD45R/B220(B細胞)、単球マーカー(Ly6C)、及び顆粒球マーカー(Ly6G)などのリンパ球系マーカーの発現を欠いていた(
図8)。これらの3つのCNS特異的集団も多数のマーカーの差次的発現を特徴とした。集団B及び集団Cは、CD80、TAM受容体Axl、T細胞免疫グロブリンムチンタンパク質4(TIM4)、D274(PD-L1)、CD195(CCR5)、CD194(CCR4)を異なるレベルで発現し、CD206及びTREM2を低レベルで発現したが、集団Aではこれらのマーカーのいずれも発現がなかった(
図9)。これらのマーカーの発現レベルは疾患病態に応じて変化した。
【0111】
末梢血由来マクロファージからのCNSに常在する骨髄細胞、すなわち、ミクログリアを区別する特異的マーカーのコンセンサスの欠如があった。しかしながら、新たな抗体の出現及びトランスジェニックマウスモデルを用い、CNSに常在する骨髄細胞と浸潤骨髄系集団との間の区別を行った。ここでは、これら3つの集団(A、B、及びC)がCNSにのみ存在すること(末梢血には存在しない)、それと合わせて、表現型マーカーが発現すること、従来よりCNSのミクログリアを示すと考えられていたCD45が低発現すること、及びFcrlを発現することに基づいて、これらの集団をCNSに常在する骨髄細胞として定義した。この可能性を、タモキシフェン投与後にYFPを発現する条件付きCx3cr1
CreER Rosa26-YFPマウスを使用して確認した。短命の細胞、例えば、末梢単球などではYFPは消失するが、YFPが持続していることにより、ミクログリア及び他の長命のマクロファージを同定できる可能性が高まる。ここでは、条件付きCx3cr1
CreER Rosa26-YFPマウスでこれら3つの集団を同定し、それらのYFP発現を確認することができた(
図10)。本明細書では、簡潔にするために、それらをミクログリアと呼ぶことを避け、CNS常在骨髄細胞と呼ぶことにし、ミクログリア、髄膜マクロファージ、及び血管周囲マクロファージを含み得ると考えられる。以上をまとめると、この多重パラメーター解析により、CNS常在骨髄系集団内に存在する表現型の不均一性についての高分解能の概要が得られた。
【0112】
神経性炎症性病態及び神経変性病態は、一致するCNS骨髄細胞集団を示す。疾患特異的な手がかりが3つのCNS常在骨髄細胞の存在及び頻度を調節するか否かを調べるため、健常、HDならびに5つの異なるEAE状態、すなわち、発症前、発症、ピーク、慢性、及び回復の生物学的複製試料すべてにおいて、MSTを分析し、手動ゲーティングにより知見を確認した(
図2C、
図2D)。
【0113】
各疾患状態の独立した生物学的複製試料における細胞頻度分析及びMSTの代表的ノードにより、すべての3つの集団が疾患状態と関連して変化することが実証された(
図2C、
図2D)。注目すべきことに、3つのCNS常在骨髄系集団の存在はいずれも、神経変性病態及び神経炎症性病態の両方に存在した。これらのデータは、一見すると類似の集団が実際に観察されることから、神経変性病態及び神経炎症性病態は類似の「免疫応答」を引き起こすことを示唆する先の研究による結論を強化するものである。
【0114】
亜集団Cは、EAE及びHDの両疾患病態で誘発され、健常CNSではかろうじて検出可能であった(0.1%の頻度)。EAEマウスの亜集団Cは、疾患の発症前期(1.8%の頻度)からピーク(9.7%の頻度)まで増殖を続けた。その後、亜集団Cの頻度は、永続性麻痺を伴う慢性EAE動物及びEAE回復マウスで低下した(それぞれ0.9%及び1.7%)(
図2D)。慢性EAEは長い間、MSの神経変性的特徴として分類される進行型MSに似ると考えられてきた。
【0115】
神経炎症性病態及び神経変性病態において対比されるCNS骨髄細胞での異なるシグナル伝達表現型。上記細胞頻度分析では、神経炎症性病態及び神経変性病態の両方における類似性が示唆されたが、以下に考察するシグナル伝達経路の分析では、細胞シグナル伝達及びサイトカイン産生など、さまざまな重要パラメーターにおける相違が明らかにされた。
【0116】
集団A、集団B、及び集団Cでのシグナル伝達における相違を解析するため、EAEの各種病期ならびにハンチントン病で細胞内のシグナル伝達挙動を同時に比較した。このことを調べるため、リン酸化したシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)の1と3と5、cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)、MAPキナーゼ活性化プロテインキナーゼ2(MAPKAPK2)、核内因子-カッパB(NF-κB(p65))、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質α及びベータ(C/EBPα、C/EBPβ)タンパク質の存在量を分析した。これらのシグナル伝達経路の分析から関心対象の3つの領域が明らかになった。
【0117】
第1に、3つの全CNS骨髄系サブセットの全体におけるこれらのシグナル伝達タンパク質の発現パターンには実質的な相違があり、集団B及び集団Cは高レベルのシグナル伝達を示したが、集団Aはこれらの2つのサブセットとは実質的に異なって、シグナル伝達タンパク質の発現レベルが非常に低く(
図3A~
図3D)、これらの集団の各々の別々の機能的役割を強く反映している。
【0118】
第2に、この分析により、EAE発症段階の集団B及び集団CにおけるCNSでの炎症反応の発生及び進行は、重要な炎症性シグナル伝達経路を順次作用させる、しっかりと調整された過程であることが同定された。疾患の臨床徴候がマウスでまだ発症していないEAE発症前期では、pCREB及びpMAPKAPK2の発現レベルの大幅な増加が唯一、集団B及び集団Cでのシグナル伝達のシグネチャーを表している(健常マウスと比較してそれぞれ、3倍以上及び6倍以上の増加)(
図3A、
図3B)。EAE疾患のピークでは、集団B及び集団CにおけるpCREB及びpMAPKAPK2の発現増加の第2の波がシグナル伝達の特徴として出現し(
図3A、
図3B)、発症前期に観察された場合と類似し、先の研究と一致する。興味深いことに、麻痺が回復しない動物である慢性EAEでは、集団B及び集団CにおいてC/EBPβと呼応したNF-κB(p65)のアップレギュレーションがシグナル伝達カスケードの唯一の因子として確認された(
図3C、
図3D)。これらのデータは、EAEでは、一連の炎症性シグナル伝達ステップがあることを示す。
【0119】
最後に、これらの炎症性シグナル伝達の特徴の欠如は、EAEと比較するとHDの集団A、集団B、及び集団Cにおいて著しく(
図3A~
図3D)、このことは、CNS常在骨髄細胞集団において、神経炎症性病態(EAE)に比べて神経変性病態(HD)のシグナル伝達特性がかなり相違することを示唆している。
【0120】
同様のCNS常在骨髄細胞集団が神経炎症性病態及び神経変性病態の両方で同定されたが、これらの病態下のシグナル伝達特性の性質は著しく異なっており、各疾患病態でのこれらの細胞の機能性が異なることを示唆している。
【0121】
神経炎症及び神経変性において対比される複数のサイトカインを産生する骨髄細胞。EAE及びHDで合成されるサイトカインについてより包括的な理解を得るため、これらの定義済み骨髄細胞集団によるインビボでのサイトカイン産生を評価した。エキソビボ刺激は一切避け、タンパク質輸送体阻害剤のみを使用してサイトカイン分泌を回避した(「材料及び方法」を参照のこと)。同定した集団のいずれかにサイトカイン産生能があるか否かを検討するため、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、IFN-β、インターロイキン-10、IL-6、IL-17A、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、及びトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)の8種の合成サイトカインからなるパネルの単一細胞レベルでの定量化にCyTOF技術を適合させた。各亜集団を、上記で定義した基準に従って手動でゲーティングした(
図2B参照)。各クラスターについて健常試料の90パーセンタイルを超える発現値で定義される所与のサイトカインを分泌することが検出された細胞画分を計算した。
【0122】
8種の評価サイトカインのうち、TNF-αは、同定された3つのCNS常在骨髄系集団(A、B、C)で最も顕著に産生されたサイトカインであり、健常細胞に比べて神経炎症性病態下及び神経変性病態下の両方で、TNF-α発現細胞の割合が大幅に増加した(
図4A)。もっとも注目すべきことに、集団B及び集団Cでは、EAE疾患の異なる臨床スコア(発症前、発症、ピーク、及び、集団Cの場合は慢性)の期間、大部分の細胞(最高80%)がTNF-αを産生したが、神経変性モデル(HD)でのTNF-α発現細胞の割合は30%~50%の範囲であった。TNF-αに加え、これら3つの集団のわずかな割合の細胞はGM-CSF、IL-6、IL-10、及びTGF-βを発現した(
図4A)。
【0123】
最近の単一細胞研究は、それぞれの所与の細胞集団の単一細胞サイトカインシグネチャーの間に大幅な異質性があることを示唆している。その後、単一細胞レベルで各集団の多機能性を引き出すため、X-シフトクラスタリングアルゴリズムを適用した。各集団を、サイトカインのみの発現パターンに基づいてクラスター化し、各疾患病態において、各サイトカインを単独または任意の組み合わせで単一細胞レベルで産生する細胞の頻度を評価した。興味深いことに、サイトカインの発現パターンに関して高レベルの機能的不均一性が各集団内で同定されたが、細胞表面マーカーがクラスタリングの唯一の基準である場合は、これは比較的均一であると定義される。
【0124】
集団A、集団B、及び集団Cにおいて、TNF-αを産生するもの、IL-6を産生するもの、TGF-βを産生するもの、及びTNF-αとIL-6との組み合わせを産生するもの、TNF-αとGM-CSFとの組み合わせを産生するもの、TNF-αとIL-10との組み合わせを産生するもの、またはサイトカイン産生を欠くものに基づき、サイトカイン産生細胞の7つの別個のサブセットを単一細胞レベルで描画した(
図4B)。これらの別個のサブセットのサイトカイン産生の頻度及びパターンは、各疾患状態と直接相関して異なった。
【0125】
各集団の異なる疾患病態で同定されたこれら7つのサブセットの各々の画分を定量化したところ、健常状態では、細胞は単一サイトカインを産生するかまたはサイトカインをまったく産生せず、細胞のほとんど(42~44%)はサイトカインを産生しない(
図4B)ことが見出された。神経炎症性病態及び神経変性病態の両方において、健常状態と比較すると単一TNF-α産生陽性細胞の頻度は大幅に増加した、IL-6及びTGF-βの産生細胞の頻度は減少した(
図4B)。
【0126】
疾患病態は、明確に識別可能な3つの多機能性サブセット、すなわち、TNF-α及びGM-CSFの二重産生細胞、TNF-α及びIL-10の二重産生細胞、及びTNF-α及びIL-6の二重産生細胞の出現を促進した(
図4B)。もっとも著しいことには、集団B及び集団CにおいてGM-CSF及びTNF-αを共発現するサブセットの頻度が神経炎症性病態にある時、特に、EAE疾患の発症時及びピーク時に大幅に増加し、このサブセットが、サイトカイン産生細胞の中で2番目に豊富なサブセットとなっていたことである(両集団でそれぞれ最高18%及び29%)(
図4B)。逆に、神経変性病態ではこのサブセットの頻度は全3集団中で非常に低かった(0%~2%)。他の多機能性サブセットに関しては、神経炎症性病態及び神経変性病態はいずれも、TNF-α
+ IL-6
+ 及びTNF-α
+ IL-10
+ の多機能性細胞の低頻度の出現も誘発した(2~3%)。その後、神経炎症性病態及び神経変性病態のサイトカインプロファイルの比較により、GM-CSF、TNF-α二重産生サブセットを神経炎症性病態の決定的シグネチャーの一つとして同定することができる(
図4B)。
【0127】
さらに、3つのCNS常在集団(A、B、及びC)のうち、集団Aでは、他の2集団とは対照的に健常及び疾患病態で大幅な量の細胞がサイトカインを産生せず、サイトカイン産生サブセットは疾患病態期でさえも単一サイトカイン産生細胞が優勢であり、多機能性サブセットは非常に小さな割合の細胞に含まれた(1%のみ)(
図4B)。この結果は、上掲のように、この集団のシグナル伝達特性の分析で、集団Aは、他の2つの集団と比較してシグナル伝達分子の発現レベルが低いことが示されたことから重要である(
図4B)。
【0128】
これと併せて、細胞表面マーカーにより比較的均一であると定義される各集団は、事実、それらのサイトカイン分泌プロファイルに基づく異質性の機能性サブセットを含有することを示すことによって、これらのデータから、同定された3つのCNS常在骨髄細胞集団の基本特性が強調される。炎症または変性に対する応答は、各集団のサイトカインプロファイルを増加方向に偏らせ、2つのサイトカインを同時に産生する多機能性サブセットの発症を誘導する。神経炎症性病態及び神経変性病態のいずれもTNF-α、GM-CSF陽性二重産生細胞の発生を誘発するが、このサブセットの頻度の高さは、2つの集団(B及びC)におけるEAEの神経炎症性病態の高さ(ピーク及び発症)と最も良く相関した。集団B及び集団Cは、顕著な炎症性シグナル伝達特性も示した。ただし、HDのような病理、または炎症性シグナル伝達特性が非常に低い集団A(HDでもEAEでも)ではこれらのサブセットにおける細胞の頻度は極めて低いかまたは観察されなかった。
【0129】
血液由来単球サブセットは炎症性状態と変性状態との対比においてCNSへの異なる遊走動態を示す。古典的炎症の枠組みでは、炎症反応は、防御の第一線としての組織常在マクロファージの活性化、それに続く血液から罹患組織への白血球動員によって定義される。このカスケードで顕著なのは、炎症過程に寄与し、常在組織マクロファージを補充するため、末梢の組織への単球が遊走することである。場合によっては、これらの単球は、組織常在マクロファージのプールに寄与せずに消失する。末梢組織の炎症同様、単球の浸潤は、中枢神経系疾患の炎症反応に結び付けられてきた。例えば、血液由来のマクロファージはEAE病理を悪化させるが、神経変性疾患における炎症には寄与しない。
【0130】
CNSの炎症反応のかなりの部分は、末梢由来の骨髄細胞の侵入によることから、次に、神経炎症性病態(EAE)及び神経変性病態(HD)でのこれらの細胞の特性を明らかにした。単球を、その主要表面マーカーLy6Cの発現及びLy6G発現欠失に基づき他の骨髄細胞(CD11b+細胞)と区別した。全試料を統合した複合最小全域木(MST)から、CNS試料の5つの異なるLy6C
+ Ly6G
- 細胞クラスターが明らかにされた(
図5A)。X-シフトアルゴリズムによりLy6Cコンパートメントを5つの別々のクラスター(D、E、F、G、及びH)に分類し、Divisive Marker Treeでの視覚化により、分類を誘導する主要マーカーは、CD274(PD-L1)、CD88、IL-17R、及びMHCIIであることが明らかになった(
図5B)。CNSにおける免疫細胞の異質性に対する循環単球の相対的寄与を理解するため、健常状態ならびに神経炎症及び神経変性の異なる臨床病期下における、これら5つの単球サブセットの各々の頻度を分析した(
図5C)。健常動物及びEAEの異なる段階及びHDのCNSにおけるこれら5つのサブセットの各々の頻度を分析することにより、異なる疾患病態においてこれらの単球サブセットの各々が選択的に動員されることが示された(
図5C)。神経炎症性病態と神経変性病態との間で最も著しい相違は、先の研究と一致して、神経変性病態のHDのCNSでは単球の寄与が観察されなかったことである(平均0.4%未満)。また、注目すべきことは、先の報告と一致して、健常及び回復したCNSではHD同様、単球頻度は非常に低く(それぞれ0.8%~1.2%)、同定集団の1つである集団Fしか検出されなかった。対照的に、EAEの炎症性病期である発症前、発症、及びピークでは、同定された5つの全単球サブセットの存在が誘発された(
図5C)。慢性EAEでは、同定された5つの単球サブセットのうち3つの低頻度(0.5~0.9%)が観察された(
図5C)。
【0131】
これらのデータから生じる主題は、今回の知見及び他の知見と呼応して、単球の大幅な動員は一過性であり、炎症による事象であるということである。炎症が消失するかまたは大幅に低下した時点で、単球は大部分が消失する。我々の先の研究及び他の研究が提示する概念、すなわち、EAEの麻痺性段階へと疾患進行を誘発する主要因子としての単球のイメージは、この細胞集団がかなり異質性であるという発見により微妙に意味が異なるものとなる。
【0132】
これらのさまざまな単球サブセットが異なる疾患状態の炎症にどのように寄与しているかをより詳細に理解するため、それらの表現型及び機能的プロファイルを比較して、感知されるほどの差があるか否かを決定した。共刺激分子(CD80、CD86)、プリン作動性シグナル伝達に関与する受容体(CD38、CD39)、TAM受容体チロシンキナーゼMerのようなアポトーシス細胞の食作用受容体、Axl及びマンノース受容体CD206ならびにTREM2は、集団D及び集団Eでは上方制御され、集団F及び集団Gはいずれもこれらのマーカーを低レベルで発現し、集団Hは中程度のレベルで発現することが見出された(
図11)。共刺激分子(CD80、CD86)の発現と一致して、集団D及び集団EでMHCクラスIIが発現していることから(
図5D)、Ly6C
+ コンパートメントにおける抗原提示機能がさらに示唆される。さらに、集団D及び集団Eは、EAEの発症前、発症、及びピークの段階でのみ検出され、その数は発症前からピークの段階まで疾患の進行と共に増加した。逆に、これら2つの集団は慢性EAE及びEAE回復ならびに健常動物及びHDでは検出されなかった(
図5C)。出現時期、及びEAEなどのT細胞媒介性の病態でのみ観察され、神経変性病態であるHDでは観察されなかったという事実を考慮すると、これらの2つのサブセットは、EAEにおける抗原特異的T細胞の活性化の原因である可能性が高い。
【0133】
浸潤骨髄細胞及び常在骨髄細胞で対比される細胞表面表現型の差次的発現で治療標的が明らかになる。ミクログリア及び末梢由来の骨髄細胞は、類似した形態及び主要系列の細胞表面マーカーを共有してはいても、発生学的起源、再生機序が異なり、及び病理学的過程で異なる機能を示す。これらの異なる細胞型を、表現型表面タンパク質及び機能的マーカーに関して検討した(シグナル伝達及びサイトカインなど)。
【0134】
同定されたCNS常在骨髄細胞集団(A、B、C)における細胞表面マーカーと、同定された単球集団(D、E、F、G、H)とを比較したところ、接着分子CD49d(α4インテグリン)及びCD49e(α5インテグリン)の発現は血液由来の骨髄系集団にのみ存在し、CNS常在骨髄細胞集団には存在しないことが観察された(
図6A)。CD49d(α4インテグリン)は、T細胞、DC及び顆粒球クラスターなど他の血液由来集団でも発現したが、CD49eはLy6C
+ 亜集団によってしか発現しなかった(
図6A)。CD49eは、フィブロネクチンという、多発性硬化症病変、特に血管周辺に沈着する細胞外マトリックス糖タンパク質と結合する。単球上のCD49eの発現は、CD49eとフィブロネクチンとの相互作用がこれらの細胞のCNS実質への遊走を促進することを示唆する。
【0135】
単球のCNSへの侵入を、それらの侵入の遮断によって妨げることで、EAE疾患の経過に影響を与えるか否かを調べるため、EAEマウスをCD49eに特異的なMFR5抗体または対照としてそのアイソタイプで処置した。抗CD49e抗体で処置したマウスでの疾患発症は対照群と比較して大幅に遅延された。顕著なことに、抗体処置により疾患重症度が低減し、動物は一度も麻痺性段階に達することはなかった(
図6B)。
【0136】
α4インテグリンに対して特異的な抗体を使用してTリンパ球及び単球のCNSへのホーミングを遮断すると、EAEは抑制され、MS患者の再発率は低下した。残念なことに、個体のサブセットでは、この処置により、ウイルス感染及び進行性多巣性白質脳症の再活性化に至る。T細胞でのCD49e(α5インテグリン)の発現を欠き、そのことがEAEの疾患重症度を低減できるということは、単球の侵入を特異的に標的とする治療戦略の根拠を提供する。そのような戦略は既存の治療よりも潜在的に副作用が少ない可能性がある。
【0137】
浸潤骨髄細胞及び常在骨髄細胞で対比するシグナル伝達特性及びサイトカインプロファイルの発現における不一致。先の知見及び他の知見から、CNS炎症時の、血液由来マクロファージとCNS常在骨髄細胞との間の機能的相違の証拠が示唆される。次に、単球集団は、CNS常在骨髄細胞集団と比較して、同じ疾患病態に対する応答においてシグナル伝達状態が異なるかまたは類似しているかを決定し、報告されたそれらの機能的相違の基礎にある機序を同定した。これら2つの細胞型の各種集団全体におけるシグナル伝達分子の相対的発現の比較により、同一疾患病態下でいくつかのシグナル伝達タンパク質が差次的に発現することが確認された(
図6C)。
【0138】
pSTAT3の発現は、3つのCNS常在骨髄細胞集団すべてと比較した場合、いくつかの単球集団においてEAEの発症時(集団D及び集団E)及びピーク時(集団D、集団E、及び集団H)に高かった(
図6C)。転写因子pSTAT3の増加は、MS患者における重要な炎症メディエーターとして認識されている。
【0139】
対照的に、pCREB発現は、単球集団に対しCNS常在骨髄細胞、特に集団B及び集団Cで顕著に高かったが(
図6C)、これは浸潤性の単球と常在性のCNS常在骨髄細胞とを比較した場合に両者の間の基礎にある相違を支持している。EAEの過程で、単球ではなくCNS常在骨髄細胞が増殖すること、及びCNS常在骨髄細胞においてfosなどの増殖関連遺伝子が上方制御されることが、最近報告されている。CREBは、fos遺伝子の主要転写調節因子である。今回の結果から、pCREB発現は、ミクログリアの増殖及びfos発現のパターンと一致することが示され、CREB経路は、EAEの間、CNS常在骨髄細胞の増殖を促進することが示唆される。EAE疾患の間、CNS常在骨髄細胞集団ではNF-κB及びC/EBPβの発現も増加したが、単球集団では増加はなかった(
図6C)。
【0140】
これらの研究は、EAE疾患病理に関与する骨髄細胞のシグナル伝達挙動のモデルを支持するものであり、発症前期では、CNS常在骨髄細胞が主に、それらのシグナル伝達シグネチャーとしてのpCREB及びMAPKAPK2の上方制御に関与する。臨床疾患発症時、シグナル伝達経路は血液由来の骨髄細胞に切り替わり、pSTAT3でその主なシグナル伝達応答を示す。疾患ピーク時、どちらの細胞型もシグナル伝達応答に関与するが表現型は異なり、CNS常在骨髄細胞は主にpCREB及びMAPKAPK2を上方制御し、単球はpSTAT3を上方制御する。慢性疾患では、シグナル伝達は再びCNS常在骨髄細胞に切り替わり、EAEの慢性病期の間、NF-κB及びC/EBPβを発現する。
【0141】
CNS常在骨髄細胞集団と単球集団とを比較した場合の同一疾患病態により誘発されるシグナル伝達応答の相違から、炎症の各病期におけるそれらの異なるエフェクター特性が説明され得る。これらの結果に基づき、CNS常在骨髄細胞及び浸潤性単球の異なる表現型(
図6A)及びシグナル伝達特性(
図6C)は、EAE病理の間、別個のサイトカイン発現プロファイルに反映されるはずであるという仮説を立てた。
【0142】
したがって、次に、単球集団それぞれのサイトカイン産生能を、本明細書のサイトカインアッセイで、各単球集団を手動ゲーティングすることにより、上記のCNS常在骨髄細胞集団についての記載と同じ方法を使用して評価した。単球及びCNS常在骨髄細胞集団は類似のサイトカイン発現プロファイルを有し、TNF-αを主に産生し、他にもIL-6、GM-CSF、IL-10、及びTGF-βを産生した(
図7A)。しかしながら、この全体的な分析では、サイトカインのいずれかの組み合わせに基づく単一細胞レベルでの各集団内部の異質性が隠れてしまうため、次に、単一細胞集団が産生する複数のサイトカインのプロファイルをX-シフトクラスタリングアルゴリズムを使用して分析した。各集団をサイトカインのみの発現パターンに基づいてクラスター化した。5つの単球集団と3つのCNS常在骨髄細胞集団との比較分析により、CNS常在骨髄細胞集団で同定されたサイトカイン産生細胞の7つの別個の集団(
図4B~
図4D)に加え、EAEにおいていくつかの単球集団が、複数サイトカインを産生するさらなる3つのサブセットを有すること(
図7B)が明らかになった。これら3つの新たな多機能性サブセットは、TNF-α
+ GM-CSF
+ IL-6
+ 及びTNF-α
+ IL-6
+ IL-10
+ の三重サイトカイン産生細胞ならびにTNF-α
+ GM-CSF
+ IL-6
+ IL-10
+ の四重サイトカイン産生細胞からなったが(
図7B)、ミクログリア集団の多機能性サブセットは二重陽性のみであった(
図4B~
図4D)。これらの3つのサブセットは、EAEの発症及びピークでのみ同定され、疾患発症時と比較してピーク時の頻度が大幅に高かった(
図7B)。したがって、CNS常在骨髄細胞及び単球集団のいずれも同様のサイトカインを産生したが、同一疾患刺激により誘発されたこれら2つの細胞型のサイトカイン産生プロファイルには、単一細胞レベルで著しい相違があった。
【0143】
ここでは、さまざまな神経病理学的病態の顕微鏡下の概観及び臨床上の現われ方に大きな相違があるにもかかわらず、これらのさまざまな神経病理学的病態全体における細胞及び分子の活性化が日常的に「神経炎症」に分類される一般的見解に対して問題を提起する。CNS病理の2つの別個の極性であるEAE及びハンチントン病をマスサイトメトリーを用いて単一細胞レベルで分析し、いくつかの厳しい観察を行った。第1に、CNS常在骨髄細胞におけるこれらの2つの病理の分子応答の詳細は、活性化される生化学的シグナル伝達経路、及び産生されるサイトカインなど、多くの特徴全体において極めて異なる。したがって、これらの常在骨髄細胞の活性化は、「炎症性」または「免疫」のような包括的名称で言及されるべきではない。第2に、CNS常在骨髄細胞及びその末梢由来の骨髄系細胞は、CNSにおいて、これら2つの病理病態下では異なる分子応答を有する。
【0144】
脳の外側、いわゆる末梢(血液脳関門の外側)での炎症を定義する細胞及び分子のロードマップは、特定のサイトカイン及びケモカインの上昇、組織常在マクロファージの活性化、及び末梢血から、局所組織病理をもたらす脳の傷害部位への白血球動員という3つの特徴で構成される。しかしながら、CNSの疾患における炎症の定義は意見が分かれている。
【0145】
過去20年間、CNS内の炎症を指す神経炎症という用語は、CNSの疾患または傷害で観察される細胞及び分子の反応の任意のカスケードを意味してきた。残念なことに、こうして単純化し過ぎたことにより、同じ細胞病態生理が神経変性病態と神経炎症性疾患とに割当てられることになった。その結果の一つは、広く異なる病理に対して、推定上の治療として同様の治療法が示唆されてきたことである。
【0146】
典型的な最も高頻度に見られる脳の炎症性疾患であるMSはむしろ脳の自然炎症及び適応炎症の態様を伴う「古典的」免疫反応を特徴とするが、神経変性疾患の病理では、完全に異なる病理要素、主に、ミクログリアなどのCNS常在細胞及び血管周囲骨髄細胞の活性化及び増殖、ならびにサイトカイン及びケモカインの放出を含むが、適応体液性または細胞性の免疫応答は関与しない。その上、脳におけるミクログリアの活性化及び高レベルのサイトカインの検出は、末梢免疫細胞の脳への遊走も、また脳の適応免疫も誘導しない。したがって、ミクログリアの活性化それ自体は、ある疾患を、神経炎症反応を有するものに分類するために使用されるべきではない。
【0147】
事実、多数の研究で、いずれも神経発生、シナプス可塑性、及び止血において必要機能を果たすサイトカインならびに活性化CNS常在骨髄細胞が病理不在下で初期発生段階及び成人脳に存在することが述べられている。正常に発達する脳でのそのような知見は免疫応答の指標にはならない。
【0148】
ここで、偏りがないデータ駆動型の方法を用いて、EAEモデル及びHDモデルの両方において3つのCNS特異的骨髄系集団(A、B、C)を同定した。これらの集団は、EAE及びHDいずれの病理下でも総頻度が増加した。この結果から、ミクログリアが関与する異なるCNS疾患には「類似性」があるという論点について少なくともいくつかの根拠が得られる。これらの類似性が、異なる病理を「神経炎症性」と呼ばせるに足るか否かは問題となるところである。いかなる病理でもCNS常在骨髄細胞の活性化を免疫応答の基準にするべきではない。
【0149】
ここで、HDの3つのCNS常在骨髄系集団は、従来の炎症が脳に存在する異なるEAE臨床病期で他の集団と比較した場合に、かなり不一致なシグナル伝達特性を示したことを示す。EAEでは、CNSに常在する骨髄系集団のうち2集団で、密接に連携する一連のシグナル伝達イベントが発生し、疾患発症前期及び臨床的麻痺以前ならびに麻痺がある場合は疾患ピーク時にシグナル伝達シグネチャーとしてpCREB及びMAPKAPK2を伴い、NF-κB及びC/EBPβのシグナル伝達経路はいずれも慢性状態を特徴付けた。対照的に、臨床疾患を伴うHD試料ではこれらの集団は、先の報告とは異なり、これらのシグナル伝達経路の主な発現を何ら示さなかった。特に、HDとEAE慢性期とは両モデルともマウスは永続的機能障害を発症するが、両者間でシグナル伝達活性の類似性に欠けることは注目に値する。慢性EAE、または二次性進行段階のMSは、MSの「神経変性」段階として文献で何度も述べられてきた。
【0150】
慢性EAEにおけるCNS常在骨髄細胞でのNF-κB及びC/EBPβのシグナル伝達、及びHDにおけるかかる細胞での任意のそのようなシグナル伝達活性の欠失を示す今回の結果は、慢性EAE及びHDはどちらも神経変性病態として分類されるが、それらの病理応答の性質は異なっていることを強調するものである。
【0151】
MSモデルと比較したHDモデルにおけるCNS常在骨髄細胞の機能特性における相違は、それらのモデルそれぞれのサイトカイン分泌プロファイルにも反映された。集団全体の分析から、健常及び両疾患病態のこれら3つの集団は、頻度は異なるものの、同様のサイトカインを生み出す能力を示したが、単一細胞レベルでの分析により、各集団には実際に、それらのサイトカイン産生プロファイルに基づく異なるサブセットが含有されることが確認された。さらに、これらのサブセットは、極性疾患病態では異なる様態で変化する。
【0152】
MSモデルとHDモデルとの間の大きな相違は、複数のサイトカイン、例えば、TNF-α及びGM-CSFを分泌する細胞がEAEにおいて急増することである。そのような二重分泌細胞は、疾患の発症及びピークにおけるサイトカイン産生細胞全体のかなりの部分を構成した。これらの知見は、細胞表面マーカーに基づいて精製されたサブセット内の各細胞は、微妙に異なるサイトカインプロファイルを有し得ることを示す。免疫応答マーカーとしてのサイトカインレベルの分析は、細胞がサイトカインを単一で分泌するのか、または複数分泌するのかという観点から解釈され得る。
【0153】
異なる神経学的病態における疾患経過にわたって血液由来骨髄細胞の程度及び役割を明らかにすることは重要である。ここで、多重パラメーターサイトメトリー及び目的変数なしの細胞型マッピングを利用して、骨髄単球系細胞表面表現型の細胞であるLy6C+ 、Ly6G- は5つのサブセットに分化することを示した。先の研究と同様に、神経変性病態を特徴付けるHDでは、脳への骨髄単球系細胞の動員が欠如していることが確認された。対照的に、それらの細胞はEAEの各臨床病期すべてに存在したが、その頻度は異なった。集団D及び集団Eが、臨床疾患の発症及びピークの後半と同様に発症前疾患でも、共刺激分子及び抗原提示に関与する他の分子と共に存在することは注目に値する。集団D及び集団Eは慢性及び回復の段階では存在しなかった。これらの動的変化について一つ推測されるのは、中枢神経系内部の適応免疫応答の開始におけるそのような細胞の役割である。
【0154】
異なるCNS疾患の病因における、CNS常在骨髄細胞と動員された血液由来骨髄細胞との間の機能的相違及び相対的影響を決定することは、病理の理解にとっても治療戦略の開発にとっても重要である。これらの動員された細胞の役割は、特異的識別マーカーがないために十分に解明されていない。
【0155】
先に、血液由来骨髄細胞のCNSへの浸潤を防ぐことにより、EAEが開始し血液由来細胞が侵入に進むためにCNS常在骨髄細胞の活性化が必要であることを提案した。しかしながら、EAEの進行(疾患発症以降)は、血液由来骨髄細胞が侵入することによるものである。ここでは、これら2つの細胞型は、定義された疾患病態下で異なるシグナル伝達表現型を有することを示す。今回のデータから、神経炎症においてCNS常在骨髄細胞と血液由来骨髄細胞とを区別する、シグナル伝達の相違が実証される。事実、血液由来骨髄細胞の炎症性の属性はそれらのサイトカイン発現プロファイルに反映され、三重及び四重サイトカインを含め、複数を産生するサイトカイン細胞は、これらの細胞で疾患の発症及びピーク時に増加した。
【0156】
これらの研究は、CNS骨髄細胞の、これまで明らかにされていなかった集団を理解するためのマスサイトメトリーの検出力を示している。それらの挙動が、炎症が明らかな構成要素である疾患、すなわちEAEと、古典的炎症が見られない疾患、すなわちHDとでは異なっていることにより、神経炎症と神経変性とを分子レベルでさらに区別することが可能になり得る。ここで示されたように、α5インテグリンのような期待されていなかった治療標的が、神経病理を分析するこの先進技術により照らし出される。
【0157】
材料及び方法
マウス。雌C57BL/6JマウスをJackson Laboratory(Sacramento,CA)から7週齢で購入した。動物をStanford Universityの研究動物施設で2週間休ませ、9週齢でEAEを誘導した。雌R6/2マウスをJackson Laboratoryから7~8週齢で購入し、マウスが重度の振戦、不規則歩行、異常運動及び痙攣を発症した13週齢で回収した。動物実験は、Stanford UniversityのInstitutional Animal Care and Use CommitteeのNational Institute of Healthガイドラインにより承認されている実験であり、それらに従って実施された。全動物を12時間の明周期で飼育した。ケージあたりの最大飼育動物数はマウス5匹であった。動物を無作為に選択し、本試験で使用した。
【0158】
マウスのEAE誘導は、MOG及びアジュバントでの免疫化により行った。9週齢の雌C57BL/6Jマウス(Jackson Laboratory)に、200μgのミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質35-55(MOG35-55、MEVGWYRSPFSRVVHLYR NGK)を生理食塩水に含有するエマルジョン、及び4μg/mlのmycobacterium tuberculosis H37RA(Difco Laboratories Inc.,Detroit,MI)を含有する、等容積の完全フロイントアジュバントを側腹部に皮下免疫化することによりEAEを誘導した。免疫化時(0時間)及び免疫化48時間後に、全マウスに400ngの百日咳毒素(List Biological Laboratories,Inc.,Campbell,CA)を腹腔内に投与した。神経障害を、発症前(EAE誘導後10日間臨床疾患を伴わない)、発症(尾の緊張の消失及び後肢筋力低下)、ピーク(後肢の完全麻痺)、回復(後肢麻痺からの回復及び改善の持続)、慢性(3~6か月後に発症した永続的機能障害及び一度も回復なし)というように採点した。
【0159】
抗体。使用抗体の概要は、その主な製造者、クローン、対応する金属複合体、及び最終使用濃度を含め、表1、表2及び表3に見出すことができる。抗体は、MaxPAR抗体コンジュゲーションキット(Fluidigm,Markham,ON,Canada)を製造者の操作手順に従って使用し、1回毎に100~500μgで量を変えて調製した。抗体を、それらの対応する金属複合体で標識した後、それらの280nmでの吸光度をNanodrop 2000分光光度計(Thermo Scientific,Wilmington,DE)を使用して測定し、収率を決定した。Candor PBS Antibody Stabilization溶液(Candor Bioscience GmbH,Wangen,Germany)を使用して抗体を0.3mg/mLに希釈し、その後、4℃で保存した。各抗体は、初代マウス試料及び細胞培養を使用して至適染色濃度について滴定された。
【0160】
単一細胞単離。マウスに深く麻酔し、監視した。侵害反射が消失した時点で、動物に氷冷PBSで経心腔的灌流を行った。脳及び脊髄を切除し、氷上で冷HBSS(Life Technologies,14175-095)中に穏やかに均質化した。単核球を、これまでに報告されている操作手順に従って30%/70%Percoll(GE Healthcare,Marlborough,MA)勾配の遠心分離で分離した。
【0161】
細胞懸濁液を、2%FCSと2mM EDTAとを含むPBS中で2回洗浄し、1:1.4プロテオームスタビライザーを製造者の取扱説明書(Smart Tube Inc.,Palo Alto,CA)に従って使用して室温にて10分間固定し、-80℃で凍結した。
【0162】
動物に灌流を行う前に眼窩後部から末梢血を採取し、ヘパリンナトリウムをコートした真空チューブに移してRMPI 1640に1:1で希釈し、1:1.4プロテオームスタビライザーを製造者の取扱説明書(Smart Tube Inc.,Palo Alto,CA)に従って使用して室温にて10分間固定し、-80℃で凍結した。
【0163】
各実験において、十分な細胞数を得るために10~12匹のマウスをプールした。各実験は、別々の免疫化及びマウスのコホートから7~10回繰り返された。
【0164】
Mass-Tag細胞バーコーディング。各病態の試料をMass-tag細胞バーコード(MCB)処理した。各試料では、前述したように、20個の特異なMass-tagバーコードをコードする、6つのパラジウム同位体の特異的組合わせが使用される。この技術により、一本のチューブ内ですべての試料のプール及び染色をすることができ、抗体染色におけるチューブ間のばらつきが排除され、装置感度のばらつきによる影響が最小限に抑えられる。各試料について、各病態の1.5×106 個の細胞をバーコード化した。メタノールで透過処理した細胞を、細胞染色培地(CSM、0.5%BSAと0.02%NaN3とを含むPBS)で1回洗浄し、その後、PBSで1回洗浄した。その後、異なる組み合わせのパラジウム含有MCB試薬のDMSO混合溶液を、個々の試料に1:100DMSOでボルテックスしながら加え、その後、室温で15分間インキュベートした後、CSMで3回洗浄した。その後、個々の試料を抗体染色及びマスサイトメトリー分析用にプールした。データ収集後、マスサイトメトリーバーコード解除アルゴリズムを使用して各病態のデコンボリューションを行った。
【0165】
抗体染色。その後、バーコード化した細胞を、0.5%BSAと0.02%NaN3とを含むPBSに再懸濁させ、CD16/32に対する抗体を20μg/mlで加えて室温で10分間振盪器に載せ、Fc受容体をブロッキングした。細胞を、金属と複合体化した表面マーカー抗体カクテルで染色し(
図12)、最終反応容量を500uLとし、振盪器に載せて室温で30分間染色した。染色後、0.5%BSAと0.02%NaN3とを含むPBSで細胞を2回洗浄した。次に、4℃のメタノールを用いて細胞の透過処理を4℃で10分間行った。その後、0.5%BSAと0.02%NaN3とを含むPBS中で細胞を2回洗浄し、残存するメタノールを除去した。その後、細胞を細胞内抗体(シグナル伝達実験の表1及びサイトカイン実験の表2)で500μLとして室温にて30分間振盪器上で染色した。その後、0.5%BSAと0.02%NaN3とを含むPBS中で試料を2回洗浄した。細胞を、1mLの1:4000 191/193Ir DNAインターカレーター(DVS Sciences/Fluidigm,Markham,ON)と共に4℃で一晩インキュベートし、1.6%PFAを含むPBS中で一晩希釈した。翌日、細胞を、0.5%BSAと0.02%NaN3とを含むPBSで1回洗浄した後、二段脱イオン(dd)H2Oで2回洗浄した。
【0166】
マスサイトメトリー測定。分析に先立ち、前述したように、ランタン-139、プラセオジム-141、テルビウム-159、ツリウム-169及びルテチウム-175を含有している正規化用ポリスチレンビーズを含有するddH2Oに、染色しインターカレートされた細胞ペレットを再懸濁させた。染色した細胞を、Super Sampler試料導入システム(Victorian Airship & Scientific Apparatus, Alamo, CA)を装備したCyTOF2(Fluidigm,Markham,ON)で、1秒あたり200~300個の細胞のイベントレートで分析した。自由にダウンロードして利用可能なマスサイトメトリーデータ正規化アルゴリズムを使用して、マスサイトメトリー全ファイルを合わせて正規化した。
【0167】
分析。クラスタリング:未加工CyTOFデータをarsinh(x/5)変換に供した。各試料から細胞を選択し、その後、まとめてプールしてクラスタリングし、全体でシグナル伝達データセット用の1,800,183個の細胞、及びサイトカインデータセット用の1,967,893個の細胞を含むデータセットを作成した。これらのデータセットをX-シフトとして知られる新規の密度に基づくクラスタリング法を用いてクラスター化した。X-シフトは、膨大な多次元データセットをコンピュータで計算し、至適クラスター数を自動的に決定するよう開発されたものである。短く言えば、X-シフトは、加重K近傍法密度推定を使用して多次元マーカー空間内のデータポイント(細胞事象)密度の極大を見つける。X-シフトは、各データポイントの密度推定を計算し、その後、クラスター重心となる近傍グラフ内の極大密度を検索する。その後、残りの全データポイントを、グラフの密度が高くなる経路(density-ascending path)により重心と結び、クラスターが形成される。最後に、アルゴリズムは、近隣重心間の直線セグメント上の密度極小の有無をチェックし、必要に応じ、緊密に整列したクラスターをマージする。以上をまとめると、細胞は、マーカー発現空間内の細胞事象密度の局所勾配に基づいて、異なる集団に割り付けた。集団の中心を結ぶ直線上の任意のポイントの細胞密度が、それらの集団の中心における密度よりも低い場合、2つの細胞集団は別々に数えられる。言い換えれば、2つの集団を表す細胞事象密度のそれぞれのピークは、間隙により分割されていなければならない。さらに、2.0未満のマハラノビス距離で分割されたクラスターはまとめてマージした。至適近傍パラメーターであるKは、Kに対するクラスター数のプロットのひじ点を探し出すことにより、データ駆動型で70に選択した。全データ処理は、VorteXクラスタリング環境で実施した。
【0168】
ゲーティングのためのDivisive Marker Tree(DMT):X-シフトでクラスター化した集団のバックゲーティングを容易にするために、クラスターをDivisive Marker Tree(DMT)に組織化した。DMTアルゴリズムは、全クラスターを包含するルートノードで開始する二分決定木を構築し、その後、このセットのクラスターを反復二分分割に供した。このプロセスにより、手動ゲーティング階層に似た細胞型の階層的二項分類がもたらされる。ルートから一連のマーカー分割を追ってトレースすることにより、各細胞集団を他の集団と区別する、簡単なマーカーに基づくシグネチャーを推測することができた。
【0169】
CD49e(α5インテグリン)治療。EAEマウス(n=5/群)を、200μgのCD49e(α5インテグリン)抗体(クローン=5H10~27(MFR5))、またはアイソタイプ・コントロール(低内毒素、アジドフリーの抗体及びアイソタイプ・コントロールを本実験用にBiolegendに依頼し作製した)で1日1回処置した。EAEスコアを、治療を受けているマウスが知らされない盲検法でEAE臨床徴候について毎日評価した。マウスを毎日評価し、以下に従って採点した。0は、臨床疾患なし、1は、尾筋力低下、2は、後肢筋力低下、3は、完全後肢麻痺、4は、後肢麻痺及び前肢の一部の筋力低下、5は、瀕死または死亡である。対照マウスの罹患率が高いため実験を終了した。
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
実施例2
骨髄細胞集団の概要
本明細書で論じる骨髄細胞集団の表現型は表4にまとめられている。集団A、集団B及び集団Cはミクログリア細胞に対応する。これらの集団は、ヒトの脳のCD45中間体、CD11b+細胞と同等である。
【0174】
EAE及びMS疾患及び多くの炎症性病態では、末梢血からの単球浸潤がある。EAEマウスの中枢神経系で5つの単球集団が同定され、本明細書においてD、E、F、H、Gとする。ヒトでは、これらの集団はCD11b+CD14+CD16+単球に対応する。これらの集団におけるサイトカイン発現プロファイルは、EAE疾患の発症、ピーク時において、これらの細胞の割合は、細胞がサイトカインを1つしか発現しない場合の健常状態と比較した複数の炎症性サイトカイン(TNF-α+GMCSF)を表すことを示す。
【0175】
【0176】
実施例3
筋萎縮性側索硬化症
我々の先の試験及び他の試験から、ミクログリアは、ALS疾患のマウスモデルであり末梢血からの骨髄細胞の浸潤がないmSOD1マウスの脳及び脊髄における唯一の骨髄細胞であることが実証された(Ajami et al(2007) Nature Neuroscience 10:1538-1543、Chiu et al.(2013) Cell Reports 4(2):385-401)。さらに、いくつかの研究から、ミクログリアは、ALSの病因に関与し、ミクログリアにおける変異SODの発現を制限することで変性を遅らせ、運動mSOD発現運動ニューロンの生存を延長することが示された(Clement et al(2003) Science 302:113-117、Lino et al(2002) The Journal of Neuroscience 22(12):4825-4832)。
【0177】
図13に示されるように、ALSのマウスモデルである、ヒト変異型スーパーオキシドジスムターゼ1(mSOD)を過剰発現しているマウスの疾患末期にミクログリア集団においてCD49e発現が増加している。疾患発症時(95日、Boillee et al 2006に基づく体重減少の始まり)のCD49e(α5インテグリン)の発現レベルと、疾患末期(140日、マウスは完全に麻痺し、実験終了を要した)の発現レベルとを比較した。CD49eの発現レベルは、疾患末期では疾患発症時と比較して増加している。
【0178】
疾患発症時(95日齢マウス、この時、体重減少が始まる)のこれらの集団の頻度と、疾患末期(140日、マウスは完全麻痺である)のそれとを比較した。疾患発症では、集団AはCNSの総細胞集団の2%、集団Bは5%、及び集団Cは2%を構成していた。疾患末期では、集団AはCNSの総細胞集団の4%、集団Bは12%、及び集団Cは2%を構成していた。これにより、疾患の末期に集団Bが大幅に増加していることが示された。
【0179】
mSOD1マウスにおける疾患発症及び疾患末期の集団A、集団B及び集団Cのサイトカインプロファイルの比較から、集団A、集団B、集団CはIL-10、IL-6、TNF-α、GMCSF及びTGF-βを発現することが実証された。重要なことには、主な炎症性サイトカインであるTNFαを発現している細胞頻度はmSOD1マウスの疾患末期で増加している。
図15に示されるように、集団Aでは、TNF-α発現細胞の頻度は発症時の10%から末期の30%に増加し、集団Bでは、TNF-α発現細胞の頻度は疾患発症時の20%から末期の40%に増加し、集団Cでは、TNF-α発現細胞の頻度は10%から~40%に増加した。
【0180】
このデータ、及びミクログリアはALSのmSOD1モデルでの疾患進行において重要であることを実証した先の研究に基づくと、CD49eを阻害することがALS疾患の治療標的である。
【0181】
治療を評価するため、6週齢mSOD1マウスを疾患前、つまり疾患発症時、100マイクログラムの抗CD49e抗体で週3回処置する。対照群は、同様の用量のアイソタイプ・コントロールで処置する。
【0182】
ヒトでは、抗CD49eは、筋萎縮性側索硬化症の運動活性を改善する治療として用いられる。
【0183】
実施例4
刺青除去
刺青除去を高めるには、100マイクログラムの抗CD49eを週3回、全身、IM、IP、皮内、またはIVで6週間投与することによって達成される。レジメンは、1週間から開始し、その後各6週間ラウンドで、複数のラウンドの治療を継続してよい。
【0184】
本明細書で引用される各刊行物は、あらゆる目的のために参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0185】
本発明は、記載されている特定の方法、プロトコル、細胞株、動物種または属、及び試薬に限定されるものではなく、それゆえ異なり得ることを理解されるべきである。本明細書で使用する用語は、あくまで個々の実施形態の記載を目的とするものであり、本発明の範囲を限定することは意図しておらず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるということも理解されるべきである。
【0186】
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈で特に明確に指示されない限り、複数の指示対象が含まれる。したがって、例えば、「細胞(a cell)」には、複数のそのような細胞が含まれ、「培養(the culture)」には、当業者に公知の1つ以上の培養及びその同等物等が含まれるということになる。本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、特に明確な指示がない限り、本発明が属する技術分野の当業者に共通して理解される意味と同一の意味を持つ。
【0187】
相互参照
本出願は、2017年5月30日に出願された米国仮特許出願第62/512,457号の利益を主張するものであり、その出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
本発明は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
患者の炎症性の疾患または病態を治療するための医薬組成物であって、
治療的有効用量の抗インテグリン-α
5
剤
を含む、医薬組成物。
(項目2)
前記患者はヒトである、項目1に記載の医薬組成物。
(項目3)
前記炎症性の疾患は多発性硬化症である、項目1または2に記載の医薬組成物。
(項目4)
患者の筋萎縮性側索硬化症を治療するための医薬組成物であって、
治療的有効用量の抗インテグリン-α
5
剤
を含む、医薬組成物。
(項目5)
前記抗インテグリン-α
5
剤は、マクロファージ活性を低下させて刺青の除去を高める、項目1に記載の医薬組成物。
(項目6)
前記抗インテグリン-α
5
剤は、インテグリンα
5
のフィブロネクチンへの結合を遮断する、項目1~5のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(項目7)
前記抗インテグリン-α
5
剤は、インテグリンα
5
、インテグリンβ
1
、またはヘテロ二量体インテグリンα
5
β
1
に特異的に結合する抗体である、項目6に記載の医薬組成物。
(項目8)
前記抗体は、インテグリンα
5
に対して特異的なキメラ型抗体もしくはヒト化抗体、またはその特異的結合断片である、項目7に記載の医薬組成物。
(項目9)
前記抗体はヒトIgG
4
Fc領域を含む、項目8に記載の医薬組成物。
(項目10)
多発性硬化症を治療するための追加の治療剤をさらに含む、項目3に記載の医薬組成物。
(項目11)
前記追加の治療剤は、スタチン、サイトカイン、フィンゴリモド、及びコパキソンからなる群から選択される、項目10に記載の医薬組成物。
(項目12)
前記サイトカインはインターフェロンベータ(IFNβ)である、項目11に記載の医薬組成物。
(項目13)
前記患者は、サイトカイン治療に対する反応性について分析され、治療剤の選択は、そのような分析に基づく、項目1に記載の医薬組成物。
(項目14)
抗α
5
剤と、前記抗α
5
剤が神経炎症性疾患または筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療のために患者に投与するものであることを示す添付文書またはラベルとを含む、包装体を有する、組成物。
(項目15)
患者における中枢神経系のCD49e
+
骨髄細胞の活性を低下させることにより筋萎縮性側索硬化症(ALS)の臨床症状を安定化または低減させるための方法に使用するための医薬組成物であって、
前記方法は、ヒトインテグリンα
5
に特異的に結合してCD49e
+
骨髄細胞の活性を低下させる遮断抗体の治療的有効用量を前記患者に投与することを含む、
使用するための医薬組成物。
(項目16)
前記患者はヒトである、項目15に記載の使用するための医薬組成物。
(項目17)
前記遮断抗体は、インテグリンα
5
に対して特異的なキメラ型抗体もしくはヒト化抗体、またはその特異的結合断片である、項目16に記載の使用するための医薬組成物。
(項目18)
前記遮断抗体はヒトIgG
4
Fc領域を含む、項目17に記載の使用するための医薬組成物。
(項目19)
前記方法は、ALSの治療のための追加の治療剤を投与することをさらに含む、項目15に記載の使用するための医薬組成物。
(項目20)
前記追加の治療剤は、リルゾールまたはエダラボンである、項目19に記載の使用するための医薬組成物。