(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】蒸気タービンのロータのターニング方法およびターニング治具
(51)【国際特許分類】
F01D 25/34 20060101AFI20231020BHJP
F01D 25/28 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
F01D25/34
F01D25/28 Z
(21)【出願番号】P 2020033152
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】518131296
【氏名又は名称】三菱重工マリンマシナリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕章
(72)【発明者】
【氏名】杉下 悟史
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-229814(JP,A)
【文献】特開昭61-160698(JP,A)
【文献】特開昭61-152904(JP,A)
【文献】特開2017-082690(JP,A)
【文献】特開昭54-042503(JP,A)
【文献】特許第5984910(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/34
F01D 25/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービン
の停止時に行われる、前記蒸気タービンのスラスト軸受に摺動可能に配置されたスラストカラーを含むロータのターニング方法であって、
前記蒸気タービンの停止時における前記ロータの軸方向における前記スラストカラーにかかる負荷の方向
である第1方向とは逆方向に
、前記ロータをターニング治具により移動させ
、前記スラストカラーを前記第1方向に隣接する前記スラスト軸受から離隔させる移動ステップと、
前記移動ステップの後に、前記ロータの前記軸方向における位置を固定する軸方向位置固定ステップと、
前記軸方向位置固定ステップの後に、前記ロータのターニングを行うターニングステップと、を備える、
蒸気タービンのロータのターニング方法。
【請求項2】
蒸気タービンのスラスト軸受に摺動可能に配置されたスラストカラーを含むロータをターニング装置により回転させるためのターニング治具であって、
前記ロータの一端部に着脱可能に構成されたスピンドル部材と、
前記スピンドル部材を前記ロータの回転方向に回転可能に収容する筒状部材であって、静止部材に前記ロータの軸方向に移動可能に支持されるように構成されるとともに、前記ロータの前記軸方向における位置に応じて、前記軸方向の少なくとも前記スラストカラーにかかる負荷の方向とは逆方向に前記スピンドル部材とともに移動可能に構成された筒状部材と、
前記スピンドル部材と前記筒状部材との前記軸方向における位置を固定するように構成された固定部材と、を備える、
ターニング治具。
【請求項3】
前記スピンドル部材は、
前記軸方向における一端部が、前記ロータの前記一端部に着脱可能に構成され、
前記軸方向における他端部が、前記軸方向に交差する方向に突出する突出部であって、前記スピンドル部材の前記一端部が位置する側に前記軸方向に交差する方向に沿って延在する係止面を有する突出部を含み、
前記筒状部材は、前記突出部を収容可能な段差凹部であって、前記軸方向に交差する方向に沿って延在する段差面を有する段差凹部を含み、
前記ターニング治具は、前記段差凹部に収容されるとともに、前記軸方向における前記段差面と前記係止面との間に配置される治具側スラスト軸受をさらに備える、
請求項2に記載のターニング治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蒸気タービンのロータのターニング方法および該ターニング方法に用いられるターニング治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸気タービンなどのロータ(回転軸)を有する回転機械には、ロータのスラスト荷重(軸方向に働く力)を受け止めるスラスト軸受が設けられる(例えば、特許文献1参照)。或るロータは、その長さ方向における一端側にロータの外周からロータの軸線に直交する方向に沿って突出するスラストカラーが一体的に設けられ、このスラストカラーがスラスト軸受に摺動可能に支持されている。蒸気タービンの運転中には、スラストカラーとスラスト軸受の間に潤滑油が供給され、この潤滑油によりこれらの間に油膜が形成されるため、スラストカラーは、スラスト軸受に対して非接触で支持される。
【0003】
また、ロータの長さ方向におけるスラストカラーが設けられる側とは反対側には、蒸気タービンで発生したトルクを伝達するための伝達機構が設けられることがある。伝達機構として、ロータと従動シャフトとを直接連結するカップリングが広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、スラストカラーとスラスト軸受の間に形成される隙間は、蒸気タービンの運転時に最適な位置となるように設計されている。蒸気タービンの運転時には、蒸気タービンに蒸気を供給して駆動することで、ロータが熱膨張して軸方向に延びる。蒸気タービンの停止時には、蒸気タービンの運転時に比べてロータが縮み、ロータがカップリング側に引っ張られるので、スラストカラーとスラスト軸受とが密着する。
【0006】
蒸気タービンの停止時には、蒸気タービンのロータをロータの回転方向に回転させるターニングを行うことがある。本発明者らは、スラスト軸受が潤滑不足の場合には、蒸気タービンのロータのターニングを行うと、スラストカラーとスラスト軸受の摩擦によりスラスト軸受が損傷することを発見した。例えば、蒸気タービンを搭載した船舶のドック入り時のメンテナンスや艤装の際などの、スラスト軸受に潤滑油を供給できない場合には、スラスト軸受が潤滑不足になり易い。
【0007】
なお、特許文献1に記載の発明は、蒸気タービンの起動時に関する発明であり、特許文献1には、蒸気タービンの停止時におけるロータのターニングに関する記載はない。
【0008】
上述した事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態の目的は、スラスト軸受が潤滑不足の場合であっても、蒸気タービンのロータのターニングによりスラスト軸受が損傷することを抑制できる蒸気タービンのロータのターニング方法、およびターニング治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示にかかる蒸気タービンのロータのターニング方法は、
蒸気タービンのスラスト軸受に摺動可能に配置されたスラストカラーを含むロータのターニング方法であって、
前記ロータの軸方向における前記スラストカラーにかかる負荷の方向とは逆方向に前記ロータをターニング治具により移動させる移動ステップと、
前記移動ステップの後に、前記ロータの前記軸方向における位置を固定する軸方向位置固定ステップと、
前記軸方向位置固定ステップの後に、前記ロータのターニングを行うターニングステップと、を備える。
【0010】
本開示にかかるターニング治具は、
蒸気タービンのスラスト軸受に摺動可能に配置されたスラストカラーを含むロータをターニング装置により回転させるためのターニング治具であって、
前記ロータの一端部に着脱可能に構成されたスピンドル部材と、
前記スピンドル部材を前記ロータの回転方向に回転可能に収容する筒状部材であって、静止部材に前記ロータの軸方向に移動可能に支持されるように構成されるとともに、前記ロータの前記軸方向における位置に応じて、前記軸方向の少なくとも前記スラストカラーにかかる負荷の方向とは逆方向に前記スピンドル部材とともに移動可能に構成された筒状部材と、
前記スピンドル部材と前記筒状部材との前記軸方向における位置を固定するように構成された固定部材と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、スラスト軸受が潤滑不足の場合であっても、蒸気タービンのロータのターニングによりスラスト軸受が損傷することを抑制できる蒸気タービンのロータのターニング方法、およびターニング治具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態にかかるターニング方法のターニング対象であるロータを備える蒸気タービンを説明するための説明図である。
【
図2】本開示の一実施形態にかかるターニング方法の一例を示すフロー図である。
【
図3】本開示の一実施形態にかかるターニング治具を蒸気タービンのロータに取り付けた状態を示す概略断面図である。
【
図4】本開示の一実施形態にかかるターニング治具の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0014】
(蒸気タービンを備える動力プラント)
図1は、本開示の一実施形態にかかるターニング方法のターニング対象であるロータを備える蒸気タービンを説明するための説明図である。
幾つかの実施形態にかかる蒸気タービン1は、
図1に示されるように、動力を発生させる動力プラント11に搭載される。動力プラント11は、ボイラ12と、ロータ3を含む蒸気タービン1と、ロータ3のスラスト荷重を受け止めるように構成されたスラスト軸受4と、を少なくとも備える。
【0015】
図示される実施形態では、蒸気タービン1は、推進用の再熱タービンであり、前進用低圧タービン1Aと、前進用中圧タービン1Bと、前進用高圧タービン1Cと、後進用タービン1Dと、を含む。前進用低圧タービン1A、前進用中圧タービン1B、前進用高圧タービン1Cおよび後進用タービン1Dは、一機の主機を構成している。つまり、図示される実施形態における蒸気タービン1は、主機タービンからなる。また、ボイラ12は、主ボイラからなる。
【0016】
蒸気タービン1のロータ3は、第1の回転シャフト31(高圧タービン側回転シャフト)と、第2の回転シャフト32(低圧タービン側回転シャフト)と、を含む。第2の回転シャフト32は、第1の回転シャフト31の延在する方向に沿って延在するとともに、第1の回転シャフト31に並列配置されている。第1の回転シャフト31には、前進用中圧タービン1Bおよび前進用高圧タービン1Cの夫々が機械的に連結されている。第2の回転シャフト32には、前進用低圧タービン1Aおよび後進用タービン1Dの夫々が機械的に連結されている。
【0017】
図示される実施形態では、動力プラント11は、船舶に搭載されて船舶を推進させるように構成された推進プラントからなる。動力プラント11は、ボイラ12で発生させた蒸気を蒸気タービン1に送るための蒸気供給ライン13と、減速機15を含む推進機構部14と、減速機15に機械的に連結された従動シャフト16と、ロータ3と従動シャフト16とを直接連結するカップリング17と、をさらに備える。
【0018】
従動シャフト16は、第1の回転シャフト31の延在する方向に沿って延在するとともに、第1の回転シャフト31に直列配置されている第1の従動シャフト161(高圧タービン側従動シャフト)と、第2の回転シャフト32の延在する方向に沿って延在するとともに、第2の回転シャフト32に直列配置されている第2の従動シャフト162(低圧タービン側従動シャフト)と、を含む。
【0019】
カップリング17は、第1の回転シャフト31の一端と第1の従動シャフト161の一端とを直接機械的に連結する第1のカップリング171と、第2の回転シャフト32の一端と第2の従動シャフト162の一端とを直接機械的に連結する第2のカップリング172と、を含む。
【0020】
減速機15は、第1の従動シャフト161の他端に機械的に接続された第1の減速機151と、第2の従動シャフト162の他端に機械的に接続された第2の減速機152と、第1の減速機151および第2の減速機の夫々から回転が伝達されるように構成された第3の減速機153と、を含む。
【0021】
推進機構部14は、第3の減速機153に一端が機械的に接続された中間シャフト18と、プロペラ20に一端が機械的に接続されたプロペラシャフト19と、中間シャフト18の他端とプロペラシャフト19の他端とを直接機械的に連結するプロペラ側カップリング21と、をさらに含む。
【0022】
ロータ3は、第1の回転シャフト31の第1のカップリング171に連結される一端とは反対側に位置する他端から径方向外側に突出するスラストカラー33をさらに含む。図示される実施形態では、スラストカラー33は、第1の回転シャフト31に一体的に設けられているが、他の幾つかの実施形態では、スラストカラー33は、第1の回転シャフト31とは別体であり、第1の回転シャフト31に装着されるようにしてもよい。
【0023】
第1の回転シャフト31(ロータ3)の軸線CAが延在する方向を軸方向とし、軸方向において第1のカップリング171に対してスラストカラー33が位置する側を前側FSとし、軸方向においてスラストカラー33に対して第1のカップリング171が位置する側を後側RSと定義する。
【0024】
スラストカラー33は、後側RSに形成される一面331と、該一面331とは反対側(前側FS)に形成される他面332と、を有する。一面331および他面332の夫々は、軸線CAに交差(例えば、直交)する方向に沿って延在している。
【0025】
蒸気タービン1は、スラストカラー33のスラスト荷重を受け止めるように構成されたスラスト軸受4を含む。スラスト軸受4は、スラストカラー33の一面331に摺動可能に配置された後側スラスト軸受41と、スラストカラー33の他面332に摺動可能に配置された前側スラスト軸受42と、を含む。
【0026】
以下に、定常運転時における動力プラント11について説明する。
ボイラ12で発生した蒸気は、蒸気供給ライン13を通じて、前進用高圧タービン1Cに供給される。前進用高圧タービン1Cに供給された蒸気は、不図示のタービン翼に作用して、前進用高圧タービン1Cに接続された第1の回転シャフト31を回転駆動させる。
【0027】
前進用高圧タービン1Cを通過した蒸気は、前進用高圧タービン1Cから再熱器23に蒸気を送るための第1の蒸気送出ライン22を通じて、再熱器23に導かれる。再熱器23に導かれた蒸気は、飽和温度以上に再加熱されて過熱蒸気となる。過熱蒸気は、再熱器23から前進用中圧タービン1Bに過熱蒸気を送るための過熱蒸気供給ライン24を通じて、前進用中圧タービン1Bに供給される。前進用中圧タービン1Bに供給された過熱蒸気は、不図示のタービン翼に作用して、前進用中圧タービン1Bに接続された第1の回転シャフト31をさらに回転駆動させる。
【0028】
前進用中圧タービン1Bを通過した蒸気は、前進用中圧タービン1Bから前進用低圧タービン1Aに蒸気を送るための第2の蒸気送出ライン25を通じて、前進用低圧タービン1Aに導かれる。前進用低圧タービン1Aに導かれた蒸気は、不図示のタービン翼に作用して、前進用低圧タービン1Aに接続された第2の回転シャフト32を回転駆動させる。
【0029】
第1の回転シャフト31および第1の回転シャフト31に連結された第1の従動シャフト161の回転速度は、第1の減速機151により減速される。第2の回転シャフト32および第2の回転シャフト32に連結された第2の従動シャフト162の回転速度は、第2の減速機152により減速される。
【0030】
第1の減速機151および第2の減速機152に伝達された第1の回転シャフト31および第2の回転シャフト32の出力は、第3の減速機153に伝達される。第3の減速機153では、第1の回転シャフト31および第2の回転シャフト32の夫々の回転速度や出力が合成されて、一つの回転速度および一つの出力となる。該一つの回転速度は、第3の減速機153により減速される。第3の減速機153により一つの合成された出力は、中間シャフト18、プロペラ側カップリング21およびプロペラシャフト19を介してプロペラ20に伝達される。第3の減速機153から出力が伝達されたプロペラ20は、回転駆動して船舶が推進するための推力を発生させる。
【0031】
スラストカラー33を含むロータ3(第1の回転シャフト31)は、スラスト軸受4に摺動可能に支持されている。蒸気タービン1の運転時には、スラストカラー33とスラスト軸受4との間に潤滑油が供給され、潤滑油によりこれらの間に油膜が形成されるため、スラストカラー33は、スラスト軸受4に対して非接触で支持される。
【0032】
蒸気タービン1の運転時には、蒸気タービン1に蒸気を供給して駆動することで、ロータ3が熱膨張して軸方向に延びる。蒸気タービン1の停止時には、蒸気タービン1の運転時に比べてロータ3が縮み、ロータ3がカップリング17(図示例では第1のカップリング171)により後側RSに引っ張られるので、蒸気タービン1の運転時に比べて、スラストカラー33とスラスト軸受4(図示例では後側スラスト軸受41)との間の間隔が狭くなる。プロペラシャフト19は、船体に対してプロペラ20が接続された側が反対側よりも下方に傾斜した状態で配置されている。プロペラシャフト19に繋がる蒸気タービン1のロータ3もまた、船体に対してカップリング17に連結される側である後側RSが、前側FSよりも下方に傾斜した状態で配置されている。このため、蒸気タービン1の停止時には、ロータ3の自重によっても、ロータ3が後側RSに移動する。つまり、蒸気タービン1の停止時には、ロータ3に後側RSに向かって負荷がかかり、この負荷によりスラストカラー33と後側スラスト軸受41との間の間隔が狭くなる。
【0033】
蒸気タービン1の停止時には、ロータ3をロータ3の回転方向に回転させるターニングを行うことがある。動力プラント11は、ロータ3をターニングさせるためのターニング装置26をさらに備える。図示される実施形態では、ターニング装置26は、第1の従動シャフト161の他端に駆動軸が機械的に接続された電動モータ261からなる。ターニング装置26を駆動させることで、ロータ3を回転方向に回転させることができる。ロータ3のターニング時には、通常、スラスト軸受4に潤滑油を供給することが行なわれる。しかしながら、スラスト軸受4に潤滑油を供給することができない場合もある。
【0034】
本発明者らは、スラスト軸受4が潤滑不足の場合には、蒸気タービン1のロータ3のターニングを行うと、スラストカラー33とスラスト軸受4の摩擦によりスラスト軸受4が損傷することを発見した。例えば、蒸気タービン1を搭載した船舶のドック入り時のメンテナンスや艤装の際などの、スラスト軸受4に潤滑油を供給できない場合には、スラスト軸受4が潤滑不足になり易い。スラスト軸受4が潤滑不足になると、その摺動性が低下し、スラスト軸受4が損傷する可能性がある。また、スラスト軸受4が損傷すると、動力プラント11の運転時に、蒸気タービン1の振動やトリップに繋がる虞がある。
【0035】
(ターニング治具、ターニング方法)
図2は、本開示の一実施形態にかかるターニング方法の一例を示すフロー図である。
図3は、本開示の一実施形態にかかるターニング治具を蒸気タービンのロータに取り付けた状態を示す概略断面図である。
図4は、本開示の一実施形態にかかるターニング治具の概略断面図である。
幾つかの実施形態にかかる蒸気タービン1のロータ3のターニング方法100は、
図2に示されるように、蒸気タービン1のスラスト軸受4に摺動可能に配置されたスラストカラー33を含むロータ3のターニング方法100であって、ロータ3の軸方向におけるスラストカラー33にかかる負荷の方向(後側RSに向かう後ろ方向RD、
図1参照)とは逆方向(前側FSに向かう前方向FD、
図1参照)に、ロータ3をターニング治具2により移動させる移動ステップS101と、移動ステップS101の後に、ロータ3の軸方向における位置を固定する軸方向位置固定ステップS102と、軸方向位置固定ステップS102の後に、ロータ3のターニングを行うターニングステップS103と、を備える。各ステップの詳細については後述する。
【0036】
図示される実施形態では、蒸気タービン1は、
図3に示されるように、スラストカラー33を含むロータ3と、一対のスラスト軸受4(後側スラスト軸受41および前側スラスト軸受42)と、一対のスラスト軸受4を収容するように構成された軸受ケーシング5をさらに含む。
【0037】
軸受ケーシング5は、アウターケーシング51と、アウターケーシング51の内部に収容されたインナーケーシング52と、を含む。軸受ケーシング5には、アウターケーシング51とインナーケーシング52との間に画定される第1の内部空間53と、インナーケーシング52の内部に形成される第2の内部空間54と、が形成されている。アウターケーシング51には、その外部と内部(第1の内部空間53)とを連通させる第1給油口511が形成されている。また、インナーケーシング52には、その外部(第1の内部空間53)と内部(第2の内部空間54)とを連通させる第2給油口521が形成されている。これにより、アウターケーシング51の外部から第2の内部空間54に潤滑油を供給可能となっている。
【0038】
第2の内部空間54には、スラストカラー33と一対のスラスト軸受4が配置されている。後側スラスト軸受41は、スラストカラー33の一面331よりも後側RSに該一面331に対向して配置される第1パッド面411を有するパッド部412と、パッド部412を軸線CA周りに回転摺動可能に支持するパッド支持部413と、を含む。前側スラスト軸受42は、スラストカラー33の他面332よりも前側FSに該他面332に対向して配置される第2パッド面421を有するパッド部422と、パッド部422を軸線CA周りに回転摺動可能に支持するパッド支持部423と、を含む。インナーケーシング52は、第2の内部空間54を画定する内壁面522から径方向内側に向かって突出して後側スラスト軸受41のパッド支持部413を外周側から支持する第1の軸受支持部55Aと、第2の内部空間54を画定する内壁面522から径方向内側に向かって突出して前側スラスト軸受42のパッド支持部423を外周側から支持する第2の軸受支持部55Bと、を有する。
【0039】
ロータ3の軸方向における一面331と第1パッド面411との間の最小隙間をD1とし、ロータ3の軸方向における他面332と第2パッド面421との間の最小隙間をD2と定義する。蒸気タービン1の停止時には、ロータ3がカップリング17により後側RS(
図3中左側)に引っ張られるので、最小隙間D1が最小隙間D2に比べて著しく小さくなっている。
【0040】
幾つかの実施形態にかかるターニング治具2は、
図3、4に示されるように、蒸気タービン1のスラスト軸受4に摺動可能に配置されたスラストカラー33を含むロータ3をターニング装置26により回転させるためのものである。このターニング治具2は、ロータ3の一端部311に着脱可能に構成されたスピンドル部材7と、スピンドル部材7をロータ3の回転方向に回転可能に収容する筒状部材8であって、静止部材6にロータ3の軸方向に移動可能に支持されるように構成されるとともに、ロータ3の軸方向における位置に応じて、軸方向の少なくとも前方向FD(スラストカラー33にかかる負荷の方向である後ろ方向RDとは逆方向)にスピンドル部材7とともに移動可能に構成された筒状部材8と、スピンドル部材7と筒状部材8との軸方向における位置を固定するように構成された固定部材96と、を備える。
【0041】
上記の構成によれば、
図3に示されるように、スピンドル部材7をロータ3の一端部311に装着した状態で、筒状部材8とともにロータ3の軸方向の少なくとも前方向FD(スラストカラー33にかかる負荷の方向とは逆方向)に移動させる(移動ステップS101)ことで、スラストカラー33にかかる負荷によりスラスト軸受4に密着したスラストカラー33を、スラスト軸受4から離隔させることができる。つまり、最小隙間D1を大きくすることができる。その後に固定部材96によりスピンドル部材7と筒状部材8との軸方向における位置を固定する(軸方向位置固定ステップS102)ことで、スラストカラー33をスラスト軸受4から離隔させた状態を維持したまま、スラストカラー33を含むロータ3を回転させることができる(ターニングステップS103)。スピンドル部材7と筒状部材8との軸方向における位置は、最小隙間D1および最小隙間D2の両方が所定間隔以上となる位置で固定することが好ましい。これにより、仮にスラスト軸受4が潤滑不足の場合であっても、ロータ3のターニングによりスラスト軸受4が損傷することを抑制できる。
【0042】
上述したように、幾つかの実施形態にかかる蒸気タービン1のロータ3のターニング方法100は、
図2に示されるように、上述した移動ステップS101と、上述した軸方向位置固定ステップS102と、上述したターニングステップS103と、を備える。
【0043】
上記の方法によれば、ターニング治具2により蒸気タービン1のロータ3を、ロータ3の軸方向における前方向FD(スラストカラー33にかかる負荷の方向とは逆方向)に移動させることで(移動ステップS101)、スラストカラー33にかかる負荷によりスラスト軸受4に密着したスラストカラー33をスラスト軸受4から離隔させることができる。その後にロータ3の軸方向における位置を固定し(軸方向位置固定ステップS102)、ロータ3のターニングを行う(ターニングステップS103)ことで、スラストカラー33をスラスト軸受4から離隔させた状態を維持したまま、スラストカラー33を含むロータ3を回転させることができる。これにより、仮にスラスト軸受4が潤滑不足の場合であっても、ロータ3のターニングによりスラスト軸受4が損傷することを抑制できる。
【0044】
図示される実施形態では、スピンドル部材7は、
図4に示されるように、ターニング治具2の軸線CBが延在する方向に沿って延在する延在部71と、延在部71よりも後側RSに設けられる一端部72と、延在部71よりも前側FSに設けられる他端部73と、を一体的に含む。
【0045】
スピンドル部材7の一端部72は、ロータ3の一端部311(軸方向におけるカップリング17から離隔する前側FSの端部)に着脱可能に構成されている。
図3、4に示される実施形態では、ロータ3の一端部311は、その端面312の中央に凹んで形成される雌ネジ孔313が形成されている。スピンドル部材7の一端部72は、延在部71よりも径寸法が小さく形成された外周面の軸方向における少なくとも一部に形成される雄ネジ部721を有する。雄ネジ部721は、雌ネジ孔313に螺合可能に構成されている。
【0046】
図示される実施形態では、ターニング治具2は、
図3、4に示されるように、雄ネジ部721を挿通させる貫通孔911を有するワッシャ部材91と、雄ネジ部721に螺合する雌ネジ孔921を有するナット部材92と、をさらに備える。雄ネジ部721にワッシャ部材91およびナット部材92を装着した状態で、雄ネジ部721をロータ3の雌ネジ孔313に螺合させ、ロータ3の一端部311とナット部材92との間にワッシャ部材91を挟持させることで、スピンドル部材7の一端部72がロータ3の一端部311に締結される。スピンドル部材7の一端部72がロータ3の一端部311に締結されると、ターニング治具2の軸線CBは、ロータ3の軸線CAに沿って延在する。
【0047】
アウターケーシング51の前側FSの端部56には、アウターケーシング51の外部と第1の内部空間53とを連通させる開口561が形成されている。該開口561から第1の内部空間53内にターニング治具2が挿入される。
【0048】
図示される実施形態では、筒状部材8は、
図4に示されるように、筒状部材8は、後側RSに設けられる一端部81と、前側FSに設けられる他端部82と、を一体的に含む。筒状部材8は、一端部81の外周面の軸方向における少なくとも一部に雄ネジ部811が形成されている。また、筒状部材8は、スピンドル部材7の延在部71を軸方向に沿って収容する内周面812を有する。
【0049】
図示される実施形態では、静止部材6は、その内周面の軸方向における少なくとも一部に筒状部材8の雄ネジ部811に螺合する雌ネジ部612が形成された筒体61と、筒体61の外周面611から軸線CBに交差する方向に沿って突出して軸受ケーシング5に支持される被支持部62と、筒体61と被支持部62とに接続されるリブ63と、を一体的に含む。前側FSの端部56の鉛直方向における下方側の端面562に雌ネジ孔563が形成されている。被支持部62には、雌ネジ孔563に対応する位置に貫通孔621が形成されている。ボルト部材93の軸部931が貫通孔621を挿通し、雌ネジ孔563に螺合することで、静止部材6が軸受ケーシング5に着脱可能に固定される。静止部材6を軸受ケーシング5に固定することで、静止部材6の位置が固定される。
【0050】
図示される実施形態では、
図3に示されるように、前側FSの端部56の鉛直方向における上方側の端面564に、ボルト部材95により開口カバー94が着脱可能に固定される。開口カバー94および静止部材6により、開口561が覆われる。
【0051】
図示される実施形態では、固定部材96は、筒状部材8の雄ネジ部811に螺合する雌ネジ孔961を有するナット部材からなる。固定部材96は、静止部材6よりも前側FSにおいて筒状部材8の雄ネジ部811に螺合している。
図3に示されるように、固定部材96の後側RSの端面962が、静止部材6の前側FSの端面614に当接するように静止部材6に対して締め付けることで、筒状部材8および固定部材96が静止部材6に対して固定される。これにより、筒状部材8の軸方向位置が固定される。
図4に示されるように、固定部材96と静止部材6との締結を緩めることで、筒状部材8が静止部材6に対して軸方向に移動可能となる。
【0052】
幾つかの実施形態では、上述したように、スピンドル部材7は、軸方向における一端部72(後側RSの端部)が、ロータ3の一端部311に着脱可能に構成されている。
図4に示されるように、上述したスピンドル部材7は、軸方向における他端部73(前側FSの端部)が、軸方向に交差する方向に突出する突出部74を含む。この突出部74は、スピンドル部材7の一端部72が位置する後側RSに軸方向に交差する方向に沿って延在する係止面741を有する。また、上述した筒状部材8は、突出部74を収容可能な段差凹部85を含む。この段差凹部85は、軸方向に交差する方向に沿って延在する段差面852を有する。段差面852は、係止面741よりも後側RSに位置している。上述したターニング治具2は、段差凹部85に収容されるとともに、軸方向における段差面852と係止面741との間に配置される治具側スラスト軸受97をさらに備える。
【0053】
図示される実施形態では、段差凹部85は、他端部82に形成されており、他端部82の端面821と段差面852との間に形成される段差凹部85の内周面851は、内周面812よりも大径に形成されている。突出部84は、複数の平面を含む多角形状の外側面841を有する。この外側面841には、スパナなどの締結治具をかけることが容易であるため、ターニング治具2における締結作業を容易に行うことができる。
【0054】
図4に示されるように、段差面852および係止面741の夫々が治具側スラスト軸受97に密着する前は、筒状部材8を前側FS(軸方向におけるロータ3から離隔する側)に移動させても、スピンドル部材7は移動しない。段差面852と係止面741とを近付けて、段差面852および係止面741の夫々に、治具側スラスト軸受97を密着させた後は、筒状部材8を前側FSに移動させると、段差面852に治具側スラスト軸受97を間に挟んで係止された係止面741が、段差面852により上記離隔側に押される。これにより、スピンドル部材7が筒状部材8とともに前側FSに移動する。スピンドル部材7の一端部72をロータ3の一端部311に装着した状態では、スピンドル部材7および筒状部材8とともにロータ3も前側FSに移動する。
【0055】
上記の構成によれば、筒状部材8の段差面852に、治具側スラスト軸受97を介して間接的にスピンドル部材7の係止面741が係止した状態で、筒状部材8を軸方向におけるロータ3から離隔する側(前側FS)に移動させることで、スピンドル部材7を筒状部材8とともに前側FSに移動させることができる。また、上記の構成によれば、筒状部材8の段差面852に、治具側スラスト軸受97を介して間接的にスピンドル部材7の係止面741が係止しているので、スピンドル部材7がロータ3から負荷が伝達されて後側RS(前側FSとは反対側)に付勢された状態であっても、スピンドル部材7を筒状部材8に対して容易に回転させることができる。
【0056】
上述した移動ステップS101では、第1に、静止部材6に筒状部材8および固定部材96を装着し、筒状部材8にスピンドル部材7を挿入することが行なわれる。第2に、スピンドル部材7の一端部72をロータ3の一端部311にねじ込み、ナット部材92を締めることで、スピンドル部材7をロータ3に固定することが行なわれる。なお、静止部材6は、予め軸受ケーシング5に固定していてもよいし、筒状部材8や固定部材96を静止部材6に装着した後に、軸受ケーシング5に固定してもよい。
【0057】
静止部材6を軸受ケーシング5に固定した状態で、筒状部材8を、静止部材6に対して回転させながら、前側FSに移動させることで、スピンドル部材7およびロータ3を前側FSに移動させることができる。
【0058】
幾つかの実施形態では、上述した筒状部材8の雄ネジ部811は、スピンドル部材7の雄ネジ部721に対して逆ネジになっている。つまり、雄ネジ部811は、雄ネジ部721に対して回転方向において逆方向にネジが切られている。仮に、雄ネジ部721および雄ネジ部811が回転方向における同じ方向にネジが切られている場合(例えば、両方が右ねじ)には、ロータ3を後側RSに移動させるために、筒状部材8を静止部材6に対して回転させて後側RSに移動させると、雄ネジ部721が雌ネジ孔313に締め付けられる。このときに雄ネジ部721と雌ネジ孔313との間に隙間があると、雄ネジ部721が締まり、ロータ3が意図しない前側FSに移動する可能性がある。これに対して、雄ネジ部811が雄ネジ部721に対して逆ネジになっていると、筒状部材8を静止部材6に対して回転させて後側RSに移動させた際に、雄ネジ部721には、ネジを緩める方向に力が加わる。しかし、雄ネジ部721には、ナット部材92が締結しているため、ネジが緩むことはない。よって、上記の構成によれば、ロータ3を移動させる際に、ロータ3が意図しない方向に移動することを抑制できる。
【0059】
上述した軸方向位置固定ステップS102では、静止部材6に固定部材96を締結することで、筒状部材8、スピンドル部材7およびロータ3の軸方向位置が固定される。
【0060】
なお、他の幾つかの実施形態では、ターニング治具2は、治具側スラスト軸受97を備えずに、段差面852と係止面741とが直接当接するような構成にしてもよい。
【0061】
図示される実施形態では、スピンドル部材7の他端部73は、突出部74から前側FSに突出する締結治具係止部75を含む。締結治具係止部75は、複数の平面を含む多角形状の外側面751を有する。この外側面751には、スパナなどの締結治具をかけることが容易であるため、ターニング治具2における締結作業を容易に行うことができる。
【0062】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0063】
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0064】
1)本開示の少なくとも一実施形態にかかる蒸気タービン(1)のロータ(3)のターニング方法(100)は、
蒸気タービン(1)のスラスト軸受(4)に摺動可能に配置されたスラストカラー(33)を含むロータ(3)のターニング方法(100)であって、
前記ロータ(3)の軸方向における前記スラストカラー(33)にかかる負荷の方向とは逆方向(前方向FD)に前記ロータ(3)をターニング治具(2)により移動させる移動ステップ(S101)と、
前記移動ステップ(S101)の後に、前記ロータ(3)の前記軸方向における位置を固定する軸方向位置固定ステップ(S102)と、
前記軸方向位置固定ステップ(S102)の後に、前記ロータ(3)のターニングを行うターニングステップ(S103)と、を備える。
【0065】
上記1)の方法によれば、ターニング治具(2)により蒸気タービン(1)のロータ(3)を、ロータ(3)の軸方向におけるスラストカラー(33)にかかる負荷の方向とは逆方向(前方向FD)に移動させることで(移動ステップS101)、スラストカラー(33)にかかる負荷によりスラスト軸受(4)に密着したスラストカラー(33)をスラスト軸受(4)から離隔させることができる。その後にロータ(3)の軸方向における位置を固定し(軸方向位置固定ステップS102)、ロータ(3)のターニングを行う(ターニングステップS103)ことで、スラストカラー(33)をスラスト軸受(4)から離隔させた状態を維持したまま、スラストカラー(33)を含むロータ(3)を回転させることができる。これにより、仮にスラスト軸受(4)が潤滑不足の場合であっても、ロータ(3)のターニングによりスラスト軸受(4)が損傷することを抑制できる。
【0066】
2)本開示の少なくとも一実施形態にかかるターニング治具(2)は、
蒸気タービン(1)のスラスト軸受(4)に摺動可能に配置されたスラストカラー(33)を含むロータ(3)をターニング装置(26)により回転させるためのターニング治具(2)であって、
前記ロータ(3)の一端部(311)に着脱可能に構成されたスピンドル部材(7)と、
前記スピンドル部材(7)を前記ロータ(3)の回転方向に回転可能に収容する筒状部材(8)であって、静止部材(6)に前記ロータ(3)の軸方向に移動可能に支持されるように構成されるとともに、前記ロータ(3)の前記軸方向における位置に応じて、前記軸方向の少なくとも前記スラストカラー(33)にかかる負荷の方向とは逆方向(前方向FD)に前記スピンドル部材(7)とともに移動可能に構成された筒状部材(8)と、
前記スピンドル部材(7)と前記筒状部材(8)との前記軸方向における位置を固定するように構成された固定部材(96)と、を備える。
【0067】
上記2)の構成によれば、スピンドル部材(7)をロータ(3)の一端部(311)に装着した状態で、筒状部材(8)とともにロータ(3)の軸方向の少なくともスラストカラー(33)にかかる負荷の方向とは逆方向(前方向FD)に移動させることで、スラストカラー(33)にかかる負荷によりスラスト軸受(4)に密着したスラストカラー(33)を、スラスト軸受(4)から離隔させることができる。その後に固定部材(96)によりスピンドル部材(7)と筒状部材(8)との軸方向における位置を固定することで、スラストカラー(33)をスラスト軸受(4)から離隔させた状態を維持したまま、スラストカラー(33)を含むロータ(3)を回転させることができる。これにより、仮にスラスト軸受(4)が潤滑不足の場合であっても、ロータ(3)のターニングによりスラスト軸受(4)が損傷することを抑制できる。
【0068】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載のターニング治具(2)であって、
前記スピンドル部材(7)は、
前記軸方向における一端部(72、後側RSの端部)が、前記ロータ(3)の前記一端部(311)に着脱可能に構成され、
前記軸方向における他端部(73、前側FSの端部)が、前記軸方向に交差する方向に突出する突出部(74)であって、前記スピンドル部材(7)の前記一端部(72)が位置する側(後側RS)に前記軸方向に交差する方向に沿って延在する係止面(741)を有する突出部(74)を含み、
前記筒状部材(8)は、前記突出部(74)を収容可能な段差凹部(85)であって、前記軸方向に交差する方向に沿って延在する段差面(852)を有する段差凹部(85)を含み、
前記ターニング治具(2)は、前記段差凹部(85)に収容されるとともに、前記軸方向における前記段差面(852)と前記係止面(741)との間に配置される治具側スラスト軸受(97)をさらに備える。
【0069】
上記3)の構成によれば、筒状部材(8)の段差面(852)に治具側スラスト軸受(97)を介して間接的にスピンドル部材(7)の係止面(741)が係止した状態で、筒状部材(8)を軸方向におけるロータ(3)から離隔する側(前側FS)に移動させることで、スピンドル部材(7)を筒状部材(8)とともに軸方向における離隔側(前側FS)に移動させることができる。また、上記3)の構成によれば、筒状部材(8)の段差面(852)に、治具側スラスト軸受(97)を介して間接的にスピンドル部材(7)の係止面(741)が係止しているので、スピンドル部材(7)がロータ(3)から負荷が伝達されて、軸方向におけるスピンドル部材(7)の一端部(72)が位置する側(後側RS)に付勢された状態であっても、スピンドル部材(7)を筒状部材(8)に対して容易に回転させることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 蒸気タービン
1A 前進用低圧タービン
1B 前進用中圧タービン
1C 前進用高圧タービン
1D 後進用タービン
2 ターニング治具
3 ロータ
31 第1の回転シャフト
32 第2の回転シャフト
33 スラストカラー
4 スラスト軸受
41 後側スラスト軸受
42 前側スラスト軸受
5 軸受ケーシング
51 アウターケーシング
52 インナーケーシング
53 第1の内部空間
54 第2の内部空間
55A,55B 軸受支持部
56 端部
6 静止部材
61 筒体
62 被支持部
63 リブ
7 スピンドル部材
71 延在部
72 一端部
73 他端部
74 突出部
75 締結治具係止部
8 筒状部材
81 一端部
82 他端部
84 突出部
85 段差凹部
11 動力プラント
12 ボイラ
13 蒸気供給ライン
14 推進機構部
15 減速機
16 従動シャフト
17 カップリング
18 中間シャフト
19 プロペラシャフト
20 プロペラ
21 プロペラ側カップリング
22 第1の蒸気送出ライン
23 再熱器
24 過熱蒸気供給ライン
25 第2の蒸気送出ライン
26 ターニング装置
91 ワッシャ部材
92 ナット部材
93,95 ボルト部材
94 開口カバー
96 固定部材
97 治具側スラスト軸受
100 ターニング方法