(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】耐腐食疲労特性に優れたばね用線材、鋼線及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231020BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20231020BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20231020BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20231020BHJP
C21D 9/02 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C21D8/06 A
C22C38/34
C22C38/50
C21D9/02 A
(21)【出願番号】P 2020517317
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 KR2018010764
(87)【国際公開番号】W WO2019066328
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2017-0127263
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,クァン ホ
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-194496(JP,A)
【文献】特開2009-046763(JP,A)
【文献】特開2006-291291(JP,A)
【文献】特開2006-183137(JP,A)
【文献】特開2013-213238(JP,A)
【文献】特開平07-173577(JP,A)
【文献】特表2010-506052(JP,A)
【文献】特開2014-101569(JP,A)
【文献】特開2001-254145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00-8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.40~0.70%、Si:1.20~2.30%、Mn:0.20~0.80%、Cr:0.20~0.80%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.010%以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、
V:0.01~0.20%及びNb:0.01~0.10%のうち1種又は2種、Ti:0.01~0.15%及びMo:0.01~0.40%のうち1種又は2種、及び、Cu:0.01~0.40%、及び、Ni:0.10~0.60%のうち1種又は2種をさらに含み、
前記V及びNbは下記関係式1を満たし、
組織は、面積分率で、10%以下の残留オーステナイト及び残部焼戻しマルテンサイトで構成され、
旧オーステナイトの平均結晶粒サイズは20μm以下であり、かつ、
表面脱炭深さは0.1mm以下であり、かつ、
前記V又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物を3.17×10
4個/mm
2以上含み、かつ、
拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合が2.67以上であり、
前記拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合は、四重極型質量分析計(Quadruple mass spectrometry装備)を用いて100℃/hrの昇温速度で800℃まで加熱して測定され、前記拡散性水素量は300℃まで放出される水素を意味し、前記非拡散性水素量は300~800℃まで放出される水素を意味することを特徴とする耐腐食疲労特性に優れたばね用鋼線。
[関係式1][V]+[Nb]≧0.08
(式中、前記V及びNbの含有量は重量%を意味する。)
【請求項2】
重量%で、C:0.40~0.70%、Si:1.20~2.30%、Mn:0.20~0.80%、Cr:0.20~0.80%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.010%以下、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、さらに、V:0.01~0.20%及びNb:0.01~0.10%のうち1種又は2種、Ti:0.01~0.15%及びMo:0.01~0.40%のうち1種又は2種、及びCu:0.01~0.40%及びNi:0.10~0.60%のうち1種又は2種を含み、
前記V及びNbは下記関係式1を満たすビレットを900~1050℃で加熱する段階と、
前記加熱されたビレットを800~1000℃で仕上げ圧延及び巻取りして巻取りコイルを得る段階と、
前記巻取りコイルをAr1-40℃まで2.0~10℃/sの冷却速度で1次冷却し、(Ar1-40℃)~(Ar1-140℃)の温度区間を0.3~1.8℃/sの冷却速度で2次冷却する段階と、
前記1次及び2次冷却された線材を伸線して鋼線を得る段階と、
前記鋼線を850~1000℃で加熱した後、1~300秒維持する段階と、
前記加熱及び維持された鋼線を25~80℃まで油冷する段階と、
前記油冷された鋼線を350~500℃で焼戻しする段階とを、順次実施することを特徴とする請求項
1に記載の耐腐食疲労特性に優れたばね用鋼線の製造方法。
[関係式1][V]+[Nb]≧0.08
(式中、前記V及びNbの含有量は重量%を意味する。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食疲労特性に優れたばね用線材、鋼線及びこれらの製造方法に関し、より詳細には、自動車用懸架ばね、トーションバー、スタビライザーなどに適用可能な耐腐食疲労特性に優れたばね用線材、鋼線及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車の燃費向上を目的に、自動車用素材の軽量化が大きく求められている。特に、懸架ばねの場合には、軽量化の要求に対応するために、焼入れ焼戻し後の強度が1800MPa以上である高強度素材を用いたばねの設計が適用されている。
ばね用鋼は、熱間圧延で所定の線材を製造し、熱間成形ばねの場合には、加熱してから成形した後、焼入れ焼戻し処理を行い、冷間成形ばねの場合には、引抜加工してから焼入れ焼戻し処理を行った後、ばねに成形する。
【0003】
一般に、素材の高強度化が行われると、粒界脆化などによる靭性低下とともに亀裂感受性も増加するようになる。そのため、高強度は達成したが、素材の耐腐食性が劣化すると、自動車懸架ばねのように外部に露出する部品は、塗装が剥がれた部分に腐食ピットが形成され、この腐食ピットを起点とする疲労亀裂の伝播が原因となって部品が早期破損するおそれがある。
特に最近では、冬場の路面凍結防止のための融雪剤散布が多いため、懸架ばねの腐食環境は益々過酷化している。そこで、高強度でありながら、耐腐食疲労特性に優れたばね用鋼に対する要求は日増しに強まっている。
【0004】
懸架ばねの腐食疲労とは、路面の小石や他の異物によってばね表面の塗装が剥がれた際に、この部分の素材が外部に露出して孔食(pitting)腐食反応が起こり、生成された腐食ピットが次第に成長してピットを起点にクラックが発生且つ伝播する過程において、ある瞬間に外部から流入した水素がクラック部に集中し、水素脆性によってばねが折損する現象である。
ばねの腐食疲労抵抗性を向上させる従来技術として、合金元素の種類及び添加量を増加させる方法を挙げることができる。特許文献1では、Niの含有量を0.55重量%に増加させて耐腐食性を向上させることで腐食疲労寿命を増加させる効果を得た。特許文献2では、Siの含有量を増加させて焼戻し時に析出する炭化物を微細化することにより腐食疲労強度を向上させた。また、特許文献3では、強い水素トラップサイト(trapping site)であるTi析出物と弱いサイト(V、Nb、Zr、Hf)析出物の適切な組み合わせで水素遅延破壊抵抗性を向上させることで、ばねの腐食疲労寿命を向上させることができた。
【0005】
しかし、Niは非常に高価な元素であって、多量添加した場合には素材コストの上昇という問題をもたらす。また、Siは脱炭を助長する代表的な元素であるため、添加量の増加に相当なリスクを生じさせる可能性があり、Ti、V、Nbなどの析出物形成元素は素材凝固時に液相から粗大な炭窒化物を晶出させて、腐食疲労寿命を逆に低下させるおそれがある。
一方、ばねの高強度化のための従来技術としては、合金元素を添加させる方法及び焼戻し温度を下げる方法が挙げられる。合金元素を添加して高強度化する方法には、基本的にC、Si、Mn、Crなどを用いて焼入硬度を向上させる方法があり、高価な合金元素であるMo、Ni、V、Ti、Nbなどを用いて急冷及び焼戻し熱処理により鋼材の強度を高めている。しかし、かかる技術には、コスト費用が上昇するという問題がある。
【0006】
また、合金成分を変化させることなく、従来の成分系で熱処理条件を変更させて鋼材の強度を増加させる方法がある。すなわち、焼戻し温度を低温で行うと素材の強度が上昇するようになる。しかし、焼戻し温度が低くなると、素材の断面減少率が低くなるため、靭性が低下するという問題が発生し、ばねの成形及び使用中に早期破断などの問題が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-190042号公報
【文献】特開2011-074431号公報
【文献】特開2005-023404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐腐食疲労特性に優れたばね用線材、鋼線及びこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、重量%で、C:0.40~0.70%、Si:1.20~2.30%、Mn:0.20~0.80%、Cr:0.20~0.80%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.010%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、さらに、V:0.01~0.20%及びNb:0.01~0.10%のうち1種又は2種を含み、上記V及びNbは下記関係式1を満たし、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズは20μm以下、表面脱炭深さは0.1mm以下である耐腐食疲労特性に優れたばね用線材を提供する。
[関係式1][V]+[Nb]≧0.08
(但し、上記V及びNbの含有量は重量%を意味する。)
【0010】
本発明の他の実施形態は、重量%で、C:0.40~0.70%、Si:1.20~2.30%、Mn:0.20~0.80%、Cr:0.20~0.80%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.010%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、さらに、V:0.01~0.20%及びNb:0.01~0.10%のうち1種又は2種を含み、上記V及びNbは下記関係式1を満たすビレットを設ける段階と、上記ビレットを900~1050℃で加熱する段階と、上記加熱されたビレットを800~1000℃で仕上げ圧延及び巻取りして巻取りコイルを得る段階と、上記巻取りコイルをAr1-40℃まで2.0~10℃/sの冷却速度で1次冷却し、(Ar1-40℃)~(Ar1-140℃)の温度区間を0.3~1.8℃/sの冷却速度で2次冷却する段階と、を含む耐腐食疲労特性に優れたばね用線材の製造方法を提供する。
[関係式1][V]+[Nb]≧0.08
(但し、上記V及びNbの含有量は重量%を意味する。)
【0011】
本発明のさらに他の実施形態は、重量%で、C:0.40~0.70%、Si:1.20~2.30%、Mn:0.20~0.80%、Cr:0.20~0.80%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.010%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、さらに、V:0.01~0.20%及びNb:0.01~0.10%のうち1種又は2種を含み、上記V及びNbは下記関係式1を満たし、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズは20μm以下、表面脱炭深さは0.1mm以下である耐腐食疲労特性に優れたばね用鋼線を提供する。
[関係式1][V]+[Nb]≧0.08
(但し、上記V及びNbの含有量は重量%を意味する。)
【0012】
本発明のさらに他の実施形態は、重量%で、C:0.40~0.70%、Si:1.20~2.30%、Mn:0.20~0.80%、Cr:0.20~0.80%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.010%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、さらに、V:0.01~0.20%及びNb:0.01~0.10%のうち1種又は2種を含み、上記V及びNbは下記関係式1を満たすビレットを900~1050℃で加熱する段階と、上記加熱されたビレットを800~1000℃で仕上げ圧延及び巻取りして巻取りコイルを得る段階と、上記巻取りコイルをAr1-40℃まで2.0~10℃/sの冷却速度で1次冷却し、(Ar1-40℃)~(Ar1-140℃)の温度区間を0.3~1.8℃/sの冷却速度で2次冷却する段階と、上記1次及び2次冷却された線材を伸線して鋼線を得る段階と、上記鋼線を850~1000℃で加熱した後、1~300秒維持する段階と、上記加熱及び維持された鋼線を25~80℃まで油冷する段階と、上記油冷された鋼線を350~500℃で焼戻しする段階と、を含む耐腐食疲労特性に優れたばね用鋼線の製造方法を提供する。
[関係式1][V]+[Nb≧0.08
(但し、上記V及びNbの含有量は重量%を意味する。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によると、拡散性水素量に対する非拡散性水素量を増加させることにより、耐腐食疲労特性に優れたばね用線材、鋼線及びこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態による発明例1~5及び比較例1~5のV又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物の数と相対的腐食疲労寿命の相関関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の一実施形態による発明例1~5及び比較例1~5の拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合と相対的腐食疲労寿命の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、ばね用鋼の耐腐食性に及ぼす様々な影響因子を検討したところ、ばねの腐食疲労は、ばね表面の塗装が剥がれて腐食ピットが発生し、この腐食ピットを起点にクラックが発生及び伝播する途中、外部から流入した水素がクラック部に集中し、ばねが折損する現象であるという点に着目した。結果、微細組織と水素トラップのためのVCやNbC炭化物などを制御することにより、耐腐食疲労特性に優れたばね用鋼を提供することができるという点を認識し、本発明を提案するようになった。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明の合金組成について説明する。下記説明される合金組成の含有量は、重量%を意味する。
【0017】
C:0.40~0.70%
Cは、ばねの強度を確保するために添加される必須の元素である。その効果を有効に発揮させるためには、0.40%以上含有されることが好ましい。これに対し、Cの含有量が0.70%を超えると、焼入れ焼戻し熱処理時に双相(twin)型マルテンサイト組織が形成されて素材亀裂が発生するため、疲労寿命が著しく低下するだけでなく、欠陥感受性が高くなり、腐食ピットが起こる際に疲労寿命や破壊応力が著しく低下するため、その上限は0.70%であることが好ましい。したがって、上記Cの含有量は0.40~0.70%であることが好ましい。上記Cの下限は、0.45%であることがより好ましく、0.50%であることがさらに好ましい。また、上記Cの上限は、0.65%であることがより好ましく、0.60%であることがさらに好ましい。
【0018】
Si:1.20~2.30%
Siは、フェライト内に固溶されて母材強度を強化させ、変形抵抗性を改善させるという効果を有する。しかし、上記Siの含有量が1.20%未満の場合には、Siがフェライト内に固溶されて母材強度を強化させ、変形抵抗性を改善させるという効果が十分でないため、Siの下限は1.20%に制限される必要があり、より好ましくは1.40%以上含有されることが有利である。これに対し、Siの含有量が2.30%を超えると、変形抵抗性の改善効果が飽和し、追加的に添加される効果を得ることができないだけでなく、熱処理時の表面脱炭を助長するため、Siの含有量は1.20~2.30%に制限することが好ましい。したがって、上記Siの含有量は1.20~2.30%であることが好ましい。上記Siの下限は1.40%であることがより好ましい。また、上記Siの上限は、2.20%であることがより好ましく、2.00%であることがさらに好ましい。
【0019】
Mn:0.20~0.80%
Mnは、鋼材内に存在する場合には、鋼材の焼入性を向上させ、強度を確保するのに有効な元素である。上記Mnの含有量が0.20%未満の場合には、高強度ばね用素材として要求される十分な強度及び焼入性を得ることが難しい。これに対し、0.80%を超えると、焼入性が過度に増加して熱間圧延後の冷却時に硬組織が発生しやすくなるだけでなく、MnS介在物の生成が増加して耐腐食疲労特性が逆に低下するおそれがある。したがって、上記Mnの含有量は0.20~0.80%であることが好ましい。上記Mnの下限は、0.30%であることがより好ましく、0.35%であることがさらに好ましい。また、上記Mnの上限は0.75%であることがより好ましい。
【0020】
Cr:0.20~0.80%
Crは、耐酸化性、焼戻し軟化性、表面脱炭防止、及び焼入性を確保するのに有効な元素である。しかし、Crの含有量が0.20%未満の場合には、十分な耐酸化性、焼戻し軟化性、表面脱炭、及び焼入性の効果などを確保することが難しい。これに対し、その含有量が0.80%を超えると、変形抵抗性の低下を招き、逆に強度低下につながるおそれがある。したがって、上記Crの含有量は0.20~0.80%であることが好ましい。上記Crの下限は、0.25%であることがより好ましく、0.30%であることがさらに好ましい。また、上記Crの上限は、0.75%であることがより好ましく、0.70%であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の線材及び鋼線は、上述した合金組成の他に、V:0.01~0.20%及びNb:0.01~0.10%のうち1種又は2種をさらに含むことが好ましい。
V:0.01~0.20%
Vは、強度向上及び結晶粒微細化に寄与する元素であるだけでなく、炭素Cや窒素Nと炭窒化物を形成して鋼鉄中に侵入した水素のトラップサイトとして作用するようになり、鋼材内部における水素侵入を抑制し、腐食の発生を減少させる役割も果たす。したがって、その効果を有効に発揮させるためには、0.01%以上とすることが好ましい。しかし、過多に添加すると、製造コストが上昇するため、V添加量の上限は0.20%以下に制御することが好ましい。したがって、上記Vの含有量は0.01~0.20%であることが好ましい。上記Vの下限は、0.03%であることがより好ましく、0.05%であることがさらに好ましい。また、上記Vの上限は、0.15%であることがより好ましく、0.13%であることがさらに好ましい。
【0022】
Nb:0.01~0.10%
Nbは、炭素や窒素と炭窒化物を形成し、主に組織の微細化に寄与し、水素のトラップサイトとして作用する元素であるため、その効果を有効に発揮させるためには、添加量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Nbの添加量が過多になると、粗大な炭窒化物が形成されて、鋼材の延性が低下するため、添加量の上限は0.10%以下に制御することが好ましい。したがって、上記Nbの含有量は0.01~0.10%であることが好ましい。上記Nbの上限は、0.05%であることがより好ましく、0.03%であることがさらに好ましい。
【0023】
P:0.015%以下
Pは、結晶粒界に偏析して靭性を低下させるため、その上限を0.015%に制御することが好ましい。上記Pの含有量は、0.012%以下であることがより好ましく、0.010%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
S:0.015%以下
Sは、低融点元素であって、粒界偏析して靭性を低下させるだけでなく、MnSを多く形成させてばねの耐腐食特性に有害な影響を及ぼすため、その上限を0.015%に制御することが好ましい。したがって、Sの含有量は、0.012%以下であることが好ましく、0.010%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
N:0.010%以下
Nが過多になると、基地内に固溶されたNが多くなり、伸線加工性及び疲労特性、ばね成形性などが低下する。しかし、過度に少なくするためには、コストの面において問題があるため、Nの上限は0.010%に制御することが好ましい。上記Nの含有量は、0.008%以下であることがより好ましく、0.006%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の合金組成の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があり、これを排除することはできない。かかる不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を本明細書に具体的に記載しない。
但し、本発明の線材及び鋼線は、Ti:0.01~0.15%及びMo:0.01~0.40%のうち1種又は2種をさらに含むことができる。
【0027】
Ti:0.01~0.15%
Tiは、炭窒化物を形成して析出硬化作用を行うことでばね特性を改善させる元素であり、粒子微細化及び析出強化を介して強度及び靭性を向上させる。また、Tiは、鋼鉄中に侵入した水素のトラップサイトとして作用するようになって鋼材内部における水素侵入を抑制し、腐食発生を減少させる役割も果たす。Tiの含有量が0.01%未満の場合には、析出強化及び水素トラップサイトとして作用した析出物の数が小さいため効果的ではなく、0.15%を超えると、製造コストが急激に上昇し、析出物によるばね特性の改善効果が飽和し、オーステナイト熱処理時の母材に溶解されない粗大な合金炭化物の量が増加して非金属介在物のような作用をするため、疲労特性及び析出強化の効果が低下するようになる。したがって、上記Tiの含有量は0.01~0.15%であることが好ましい。上記Tiの上限は、0.10%であることがより好ましく、0.15%であることがさらに好ましい。
【0028】
Mo:0.01~0.40%
Moは、炭素や窒素と炭窒化物を形成して組織微細化に寄与し、水素のトラップサイトとして作用する元素であるため、上記の効果を有効に発揮させるためには、0.01%以上含有することが好ましい。しかし、Moの含有量が過多になると、熱間圧延後の冷却時に硬組織が発生する可能性が大きいだけでなく、粗大な炭窒化物が形成されて鋼材の延性が低下するため、Moの含有量の上限は0.40%以下に制御することが好ましい。したがって、上記Moの含有量は0.01~0.40%であることが好ましい。上記Moの下限は0.05%であることがより好ましい。また、上記Moの上限は、0.30%であることがより好ましく、0.20%であることがさらに好ましい。
【0029】
また、本発明の線材及び鋼線は、Cu:0.01~0.40%及びNi:0.10~0.60%のうち1種又は2種をさらに含むことができる。
Cu:0.01~0.40%
銅(Cu)は、耐食性を向上させるために添加される元素であって、その含有量が0.01%未満では、上記の効果を十分に期待できない。これに対し、0.40%を超えると、熱間圧延中に脆性低下を誘発して亀裂発生などの問題を起こすため好ましくない。そのため、本発明において、Cuは0.01~0.40%に制限することが好ましい。したがって、上記Cuの含有量は0.01~0.40%であることが好ましい。上記Cuの下限は、0.05%であることがより好ましく、0.10%であることがさらに好ましい。また、上記Cuの上限は、0.35%であることがより好ましく、0.30%であることがさらに好ましい。
【0030】
Ni:0.10~0.60%
ニッケル(Ni)は、焼入性及び靭性を改善させるために添加される元素であって、かかるNiの含有量が0.10%未満の場合には、焼入性及び靭性の改善効果が十分ではない。これに対し、0.60%を超えると、残留オーステナイト量が増加して疲労寿命を低下させ、高価なNiの特性により、急激な製造コストの上昇を誘発するため好ましくない。したがって、上記Niの含有量は0.10~0.60%であることが好ましい。上記Niの上限は、0.35%であることがより好ましく、0.30%であることがさらに好ましい。
また、本発明の線材及び鋼線は、上記V及びNbが下記関係式1を満たすことが好ましい。
[関係式1][V]+[Nb]≧0.08
(但し、上記V及びNbの含有量は重量%を意味する。)
【0031】
水素をトラップすることができる微細炭化物としては、それぞれV、Nb、Ti、Moを主成分とするVC、NbC、TiC、MoC炭化物などが挙げられる。このうちTiは、TiCを生成させる前に、液相からTiNを晶出させるため、このTiNが粗大化すると、水素のトラップ効果が低下するだけでなく、逆にばねの耐腐食性に悪影響を及ぼす可能性が大きくなる。したがって、Ti系炭化物を水素トラップの主な炭化物として活用するには大きなリスクを伴うようになる。また、Mo系炭化物は、その生成温度が主に700℃以下であるため、線材の製造時に制御することが難しい。かかる理由から、ばね用線材及び鋼線において水素をトラップすることができる主な炭化物はVやNbを主成分とするVC又はNbC炭化物である。したがって、本発明では、上記V及びNbの含有量が上記関係式1を満たすようにすることにより、耐腐食疲労特性を向上させることができるようにした。
【0032】
より好ましくは、上記V又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物を3.17×104個/mm2以上含ませることである。外部から流入した水素がクラック部に集中することを防ぐために、微細炭化物で水素をトラップ(trap)する必要がある。この際、活用できる微細炭化物は、セメンタイトやTiC、又はMoCではなく、VやNbを主成分とするVCやNbC炭化物である。しかし、VC又はNbC炭化物が存在しても、一定数以下に存在すると、鋼中に存在する水素量に対してこれら炭化物にトラップされる水素量が少なく、水素のトラップ効果が低下するため、これら炭化物が一定数以上存在するようにすることが重要である。本発明では、上記V又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物を3.17×104個/mm2以上含ませることにより、水素のトラップ効果を最大限にすることができる。
【0033】
また、鋼材内部の水素は大きく拡散性水素と非拡散性水素に区分されることができる。ここで、拡散性水素は、外部の応力による機械的駆動力又は化学的駆動力によって拡散して水素脆性を誘発する水素であり、非拡散性水素は、駆動力によっても拡散しない水素を意味する。かかる拡散性水素及び非拡散性水素は、熱放出試験(Thermal Desorption Analysis)を介して区分することができる。熱放出試験とは、材料を昇温しながら材料内から抜け出る水素放出量を測定するものであって、一般に、300℃までに放出される水素を拡散性水素、300℃以上の温度で放出される水素を非拡散性水素と定義する。そして、水素トラップ部から活性化エネルギー以上の温度を受けると、特定の温度で水素放出量のピーク(peak)が現れるようになるが、これを介して材料内の水素トラップ部を間接的に類推する。熱放出試験時の水素放出ピークが300℃以上で現れる理由は、微細炭化物によって水素がトラップされて、材料内で非拡散性水素になることを意味する。もし、300℃以上でピークが2個以上現れるのであれば、界面特性が互いに異なる炭化物が2個以上存在することを意味する。したがって、鋼材内に水素が侵入しても、脆性を誘発する拡散性水素に対する、微細炭化物にトラップされる非拡散性水素量の割合が高いほど、水素脆性抵抗に優れるようになる。
一方、本発明の線材及び鋼線は、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが20μm以下であることが好ましい。上記旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが20μmを超えると、結晶粒が過度に粗大化し、靭性が不足する可能性がある。また、耐腐食特性が低下し、若干の腐食でもばねが急に破断するおそれがあるという欠点がある。本発明では、上記旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが小さいほど物性の確保に有利であるため、その下限については特に限定しない。
【0034】
また、表面脱炭深さは0.1mm以下であることが好ましい。上記表面脱炭深さが0.1mmを超えると、表面部の硬度が低くなり、ばねの耐腐食疲労特性が低下するようになる。
一方、本発明の線材の微細組織は、フェライトとパーライトの複合組織であることが好ましい。このように微細組織を制御することにより、熱間圧延後の優れた伸線性を確保するという効果を得ることができる。また、上記フェライトの分率は5~35面積%であることが好ましい。上記フェライトの分率が5面積%未満の場合には、伸線性が低下するという欠点がありうる。これに対し、35面積%を超えると、軟化しすぎて鋼線やばね製品で強度が基準に達しないという欠点がありうる。
【0035】
一方、本発明の鋼線の微細組織は、面積分率で、10%以下の残留オーステナイト及び残部焼戻しマルテンサイトで構成されることが好ましい。上記残留オーステナイトの分率が10面積%を超えると、鋼線の強度が大きく低下し、ばねが装着されて用いられる際に、残留オーステナイトがマルテンサイトに変態して、ばねが急激に破断するという欠点がありうる。
上記のように提供される本発明の線材及び鋼線は、拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合が2.67以上であることができる。これにより、優れた耐腐食疲労特性を実現することができる。
【0036】
以下、本発明の製造方法の一実施形態について説明する。
先ず、上述した合金組成を有するビレットを900~1050℃で加熱することが好ましい。上記ビレットの加熱温度を900℃以上に制御する理由は、鋳造時に生成される可能性がある粗大炭化物をすべて溶解して合金元素がオーステナイト内に均一に分布されるようにするためである。但し、上記ビレット加熱温度が1050℃を超えると、オーステナイト結晶粒サイズが急激に粗大化するという問題が発生する可能性がある。
次に、上記加熱されたビレットを800~1000℃で仕上げ圧延及び巻取りして巻取りコイルを得ることが好ましい。上記仕上げ圧延温度を800℃以上にする理由は、微細炭化物の析出を促進させるためである。上記仕上げ圧延温度が800℃未満の場合には、圧延ロールの負荷が大きくなるという問題がありうる。これに対し、1000℃を超えると、冷却に要する時間が長くなり、冷却速度を制御しても脱炭が激しくなるという問題が発生する可能性がある。
【0037】
続いて、上記巻取りコイルをAr1-40℃まで2.0~10℃/sの冷却速度で1次冷却し、(Ar1-40℃)~(Ar1-140℃)の温度区間を0.3~1.8℃/sの冷却速度で2次冷却することが好ましい。上記のように冷却条件を制御する理由は、フェライト生成後パーライト変態が完了しないままベイナイトやマルテンサイトのような硬組織が生成される可能性があり、脱炭が激しく発生するおそれがあるためである。また、冷却時に硬組織が生成されると、適切な線径のばね用鋼線を得るために線材を引抜又は伸線する過程で、素材が断線したり、引抜又は伸線が不可能になるためである。尚、脱炭が激しく発生した場合には、表面部の硬度が低くなり、ばねの耐腐食疲労特性が低下するようになる。
脱炭が最も活発に発生する温度区間がオーステナイト+フェライトの2相域区間(Ar3~Ar1温度区間)であるため、かかる温度領域の通過時間を最小限に減らすために、上記巻取温度からAr1-40℃までの温度区間を速い冷却速度で1次冷却することが好ましい。上記1次冷却速度は2.0℃/s以上であることが好ましい。これにより、脱炭深さを減らすことができる。一方、上記1次冷却速度が10℃/sを超えると、マルテンサイトやベイナイトのような硬組織が生成されるという問題が発生しうるため、上記1次冷却速度は2.0~10℃/sの範囲で制御することが好ましい。
【0038】
また、1次冷却後、(Ar1-40℃)~(Ar1-140℃)の温度区間では、比較的遅い冷却速度で2次冷却することが好ましい。上記2次冷却速度は0.3~1.8℃/sであることが好ましい。これにより、パーライト変態に必要な十分な時間を確保することができ、ベイナイトやマルテンサイトが生成されず、フェライトとパーライトのみからなる組織を得ることができる。上記2次冷却速度が1.8℃/sを超えると、ベイナイトやマルテンサイトのような硬組織が生成される可能性がある。これに対し、0.3℃/s未満の場合には、冷却に要する時間が長くなり脱炭が激しくなるという問題が発生するおそれがある。
上記のような製造条件を用いることで、本発明が提供する優れた耐腐食疲労特性を有する線材を得ることができる。但し、鋼線を得るために、下記説明される製造条件をさらに行うことが好ましい。
【0039】
上記のように得られる線材を伸線して鋼線を得た後、上記鋼線を850~1000℃で加熱した後、1~300秒維持することが好ましい。上記加熱温度が850℃未満の場合には、未固溶パーライトが残存して鋼線の強度が基準に達しないという欠点がありうる。これに対し、1000℃を超えると、鋼線のオーステナイト結晶粒サイズが粗大化するという問題が発生しうる。
一方、最近では、ばね用鋼線の製造に誘導加熱熱処理(Induction heat treatment)設備を活用する場合が多い。上記加熱維持時間が1秒未満の場合には、炭化物、フェライト及びパーライトが十分に加熱されず、オーステナイトに変態しないおそれがある。これに対し、上記加熱維持時間が300秒を超えると、脱炭が激しくなったり、オーステナイト結晶粒が粗大化するという欠点があるため、上記加熱維持時間は1~300秒の範囲を有することが好ましい。
【0040】
その後、上記加熱及び維持された鋼線を25~80℃まで油冷することが好ましい。上記油冷静止温度が25℃未満の場合には、常温よりも低い温度に下げる必要があるため、冷却機能や設備を補完しなければならないという短所がありうる。これに対し、80℃を超えると、残留オーステナイトの量が過度に多くなって10面積%を超える欠点を有する可能性がある。
続いて、上記油冷された鋼線を350~500℃で焼戻しすることが好ましい。上記焼戻し温度が350℃未満の場合には、靭性が確保されないため、成形及び製品状態で破損する可能性があり、500℃を超えると、強度が低下するおそれがある。上記のような条件で製造されたばね用鋼線は、本発明が目的とする機械的物性を確保することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。
【0042】
(実施例)
下記表1の合金組成を有するビレットを設けた後、上記ビレットを980℃で加熱し、上記加熱されたビレットを850℃で仕上げ圧延及び巻取りした後、下記表2の条件で冷却して線材を得た。上記線材に対して微細組織及び脱炭深さを測定した後、その結果を下記表2に記載した。また、上記のように得られた線材に対して伸線を介して鋼線を製造し、975℃で加熱してから15分間維持し、70℃の油に入れて急冷させた後、390℃で30分間焼戻しした。このように製造された鋼線に対して析出物の分率、熱放出試験による拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合、相対的腐食疲労寿命(比較例1と比較)、及び引張強度を測定した後、下記表2に記載した。
V又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物の単位面積当たりの数は、上記製造された鋼線の横断面を切断した後、レプリカ法を介して微細炭化物を抽出し、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)及びエネルギー分散型分光分析法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて測定した。
【0043】
拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合は、熱処理されたばね用鋼線を四重極型質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometry)で100℃/hrの昇温速度で800℃まで加熱しながら放出される水素量を測定した。
腐食疲労寿命は、上記鋼線を塩水噴霧試験機に入れて35℃の雰囲気で5%塩水を4時間噴霧し、温度:25℃、湿度:50%の雰囲気で4時間乾燥し、40℃の雰囲気で、湿度100%になるように16時間にわたって湿潤サイクルを14回繰り返し、回転曲げ疲労試験を行って測定した。疲労試験速度は3,000rpm、試験片に加わる荷重は引張強度の40%であり、試験片をそれぞれ10個ずつ試験を行い、疲労寿命が最も大きいものと最も小さいものを除いた残りの8個の疲労寿命の平均値を計算して、その試験片を腐食疲労寿命として決定した。
【0044】
【0045】
【0046】
上記表1及び2を介して分かるように、本発明の合金組成及び製造条件を満たす発明例1~5の場合には、本発明が提供する微細組織、表面脱炭深さ、V又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物の割合などをすべて満たすことから、優れた拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合及び腐食疲労寿命を有することを確認することができる。
しかし、本発明の合金組成及び製造条件を満たさない比較例1~5の場合には、微細組織の分率や表面脱炭深さなどの条件を満たさないだけでなく、V又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物の分率が3.05×104個/mm2以下で現れ、それに応じて、拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合が0.38~0.43であることから、発明例1~5に対して低いレベルであることが分かる。また、相対的腐食疲労寿命は、1.00~1.14のレベルであることから、発明例1~5の3.45~12.05に比べてかなり低いレベルであることが分かる。
【0047】
比較例6及び7は、本発明の合金組成を満たすものの、本発明の製造条件は満たさない場合であって、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが本発明が提供する範囲を超えるだけでなく、ベイナイトやマルテンサイトのような硬組織が生成され、脱炭も激しく起こり、拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合が小さいことから、相対的腐食疲労寿命が大幅に不足することが分かる。
比較例8及び9は、本発明の製造条件を満たすものの、本発明の合金組成は満たさない場合であって、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが本発明が提供する範囲を超えるだけでなく、フェライト分率も満たさない上に、硬組織が生成され、脱炭も深く起こることを確認することができる。また、V又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物の分率も満たさない上に、拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合が小さいことから、相対的腐食疲労寿命が大幅に不足することが分かる。
【0048】
図1は発明例1~5及び比較例1~5のV又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物の数と相対的腐食疲労寿命の相関関係を示すグラフである。
図1を介して分かるように、本発明の条件であるV又はNbのうち1種又は2種を50重量%以上含有する炭化物の分率が3.17×10
4個/mm
2以上の場合には、優れた相対的腐食疲労寿命を有することが分かる。
【0049】
図2は発明例1~5及び比較例1~5の拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合と相対的腐食疲労寿命の相関関係を示すグラフである。
図2を介して分かるように、本発明の条件である拡散性水素量に対する非拡散性水素量の割合が2.67以上の場合には、優れた相対的腐食疲労寿命を有することが分かる。