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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】複合体を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20231020BHJP
   G01N 33/564 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/564
G01N33/53 D
G01N33/53 L
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020523089
(86)(22)【出願日】2019-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2019021972
(87)【国際公開番号】W WO2019235420
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018106741
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】直井 壯太朗
(72)【発明者】
【氏名】川添 明里
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-526848(JP,A)
【文献】特表2017-532570(JP,A)
【文献】特表2015-522171(JP,A)
【文献】特表2010-517529(JP,A)
【文献】特開2017-106925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の複合体を検出する方法であって、
(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、
(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および
(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、
を含み、前記複合体は以上の成分を含み、前記成分の少なくとも3つは、二重特異性抗体および前記抗体が認識する2つの抗原であり、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法。
【請求項2】
複合体の成分は、標識化あるいは固相に固定化されていない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第二の結合体が標識されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
試料は血液試料であり、さらに好ましくは全血、血清または血漿である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第一の結合体は固相に結合している、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
固相は、チップ、マイクロ流体チップ、ディスクまたはビーズである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
KinExAまたはGyrolabにより測定される、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
二重特異性抗体は下記の(a)、2つの抗原は下記の(b)および(c)である、請求項のいずれかに記載の方法。
(a)血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、ならびに、血液凝固第X因子を認識する二重特異性抗体
(b)血液凝固第IX因子または活性化血液凝固第IX因子
(c)血液凝固第X因子
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の方法にさらに以下の工程を行う、試料中の複合体の濃度および/または量を決定する方法。
(4)回帰式作成用の複合体を準備する工程、
(5)前記工程(4)の複合体を前記工程(1)~(3)の工程を含む工程により検出する工程、
(6)前記工程(4)の複合体濃度をシミュレーションする工程、
(7)前記工程(5)で検出したシグナル値とシミュレーション濃度より回帰式を算出する工程、及び、
(8)前記工程(3)により検出したシグナル値を前記回帰式に当てはめる工程。
【請求項10】
前記試料中の複合体を構成する成分の少なくとも一が薬剤である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法により決定した複合体の濃度および/または量を基に、薬剤を用いた治療法を決定する方法。
【請求項12】
請求項11のいずれかに記載の方法により決定した複合体の濃度および/または量を基に、複合体の動態を評価する方法。
【請求項13】
試料中の複合体の濃度および/または量を決定する方法であって、
前記複合体は以上の成分を含み、前記成分の少なくとも3つは、二重特異性抗体および前記抗体が認識する2つの抗原であり、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、前記複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われ、
(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、
(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、
(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、
(4)回帰式作成用の複合体を準備する工程、
(5)前記工程(4)の複合体を前記工程(1)~(3)の工程を含む工程により検出する工程、
(6)前記工程(4)の複合体濃度をシミュレーションする工程、
(7)前記工程(5)で検出したシグナル値とシミュレーション濃度より回帰式を算出する工程、および、
(8)前記工程(3)により検出したシグナル値を前記回帰式に当てはめる工程、
を含む、前記方法。
【請求項14】
試料中の複合体を検出する方法であって、
前記複合体は成分として二重特異性抗体及びそれが認識する2つの抗原を含む3者複合体であり、
(1)前記抗原を認識する第一の結合体と前記複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、
(2)第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原を認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、
(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合体を検出する方法に関する。さらには当該方法を用いた複合体の量および/または濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の抗体や、リコンビナントタンパク質を用いた医薬品開発において、開発する医薬品が標的とする抗原と医薬品との複合体を定量的に分析することは、その医薬品の薬効、および毒性を予測する上で重要である。そのため、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)や、超遠心分析法(AUC)といった手法を用いて、抗原抗体複合体のサイズや量が評価されてきている(非特許文献1、2、3)。これらの方法は、これまで、標的抗原の中和を作用機序とする抗体とその標的抗原とが形成する複合体を評価対象に実施されているため、概して高い親和性を持つ抗原・抗体反応(一桁nMより低い解離定数(KD値))で形成される複合体を対象としている。したがって、評価する複合体濃度は、比較的高く、定性的な評価に限っては、比較的容易に実施可能であるが、結合平衡の移動の影響があり、定量的な評価は難しい。
【0003】
最近では、中和以外の作用機序を持つことから、高い親和性(一桁nMより低いKD値)が必要とされない抗体の開発もされており、このような抗体は、抗原に対して結合する割合が低くても薬効が期待されている。このような抗体が、薬効が期待される抗体濃度で、生理学的な濃度の抗原と形成する複合体は、濃度が低く、結合平衡の移動の影響も大きいことから、評価が極めて困難である。二重特異性抗体であるEmicizumabはその例であり、FIXaとFXという2つの抗原と結合し、両者を近接させることでFXをFXaへ変換するという、Factor VIII代替活性を持つ。FIXa、FXおよびEmicizumabが形成する液相中における3者複合体量のKD値を用いたシミュレーションと、in vitroの薬効試験であるトロンビン生成試験のデータと相関があることから、3者複合体量は薬効強度を反映していると考えられている(非特許文献4、5)。一方で、中和を作用機序とする二重特異性抗体について、当該抗体や当該抗体が認識する遊離抗原を抗イディオタイプ抗体を用いて測定する方法が報告されているが、二重特異性抗体の測定に関し、2種の抗イディオタイプ抗体を用いて複合体を形成させて行う測定に比べ、二種の抗原を用いて3者複合体を形成させて行う測定は、他の物質の干渉を受け、試料の希釈の程度が高くなり、測定時間が長くなるなどの理由から差異が大きくなり難しいことが報告されている(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2013/092611
【文献】WO2013/113663
【文献】WO2014/009474
【非特許文献】
【0005】
【文献】MAbs, 9(4), 664-679, 2017
【文献】Biochemistry, 51(3), 795-806, 2012.
【文献】Biosci Rep, 33(4), 2013.
【文献】Nat Med, 18(10), 1570-4, 2012.
【文献】Thromb Haemost, 117(7), 1348-1357, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、3者複合体の量または濃度を定量的に評価することにより、Emicizumabの薬効強度の予測ができると考えられるが、両抗原に対する親和性はKD値として1μM程度で、中和作用を持つ一般的な抗体よりも、1000倍以上弱い。そのため、形成される複合体濃度は低く、また解離もしやすい。したがって、SECやAUCなどの既存の手法では、感度の不足や、結合平衡の移動の影響が大きい点から、その存在を検出することさえ困難であった。
【0007】
また、高感度のタンパク質の検出法としては、抗原抗体反応を利用したLigand binding assay法が用いられるが、複合体を特異的に認識する抗体を選択できたとしても、一般的に必要とされる長いインキュベーション時間による複合体の結合平衡の移動や、洗浄操作による複合体の解離により、溶液中の複合体の状態を反映させることは非常に困難である。また、遊離抗原または遊離抗体を、結合平衡の移動が起こりにくい条件で測定することにより高感度にタンパク質間の親和性を測定する方法、例えばKinExA(登録商標)は知られているが、このような方法が親和性の非常に弱い複合体の検出、さらには濃度および/または量を測定することに使用できることは知られていなかった。
【0008】
よって本発明は、Ligand binding assay法による高い感度を活かした上で、結合平衡の移動や、複合体の解離の影響を最小化できる方法を用い、溶液中の親和性の低い抗体に対して抗原抗体複合体形成の定量的評価を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件下で親和性の低い複合体の検出および当該複合体の濃度および/または量の測定を行う方法を見出すことに成功した。
また、本発明者らは、前記測定方法により決定した複合体の濃度および/または量を基に、複合体の動態を評価する方法、および薬剤を用いた治療法を決定する方法を見出すことに成功した。
本発明は、具体的には下記〔1〕~〔33〕を提供するものである。
〔1〕試料中の複合体を検出する方法であって、
(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、
(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および
(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、
を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法。
〔2〕複合体の成分は、標識化あるいは固相に固定化されていない、〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記成分はペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質からなる群から少なくとも一つ選択される、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記成分の少なくとも2つは、抗体および当該抗体が認識する抗原である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕前記成分の少なくとも3つは、二重特異性抗体および前記抗体が認識する2つの抗原である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕第二の結合体が標識されている、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕試料は血液試料であり、さらに好ましくは全血、血清または血漿である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕第一の結合体は固相に結合している、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕固相は、チップ、マイクロ流体チップ、ディスクまたはビーズである、〔8〕に記載の方法。
〔10〕KinExAまたはGyrolabにより測定される、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕二重特異性抗体は下記の(a)、2つの抗原は下記の(b)および(c)である、〔5〕~〔10〕のいずれかに記載の方法。
(a)血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、ならびに、血液凝固第X因子を認識する二重特異性抗体
(b)血液凝固第IX因子または活性化血液凝固第IX因子
(c)血液凝固第X因子
〔12〕〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の方法にさらに以下の工程を行う、試料中の複合体の濃度および/または量を決定する方法。
(4)回帰式作成用の複合体を準備する工程、
(5)前記工程(4)の複合体を前記工程(1)~(3)の工程を含む工程により検出する工程、
(6)前記工程(4)の複合体濃度をシミュレーションする工程、
(7)前記工程(5)で検出したシグナル値とシミュレーション濃度より回帰式を算出する工程、及び、(8)前記工程(3)により検出したシグナル値を前記回帰式に当てはめる工程。
〔13〕少なくとも一つの成分が薬剤である、〔12〕に記載の方法。
〔14〕〔13〕に記載の方法により決定した複合体の濃度および/または量を基に、薬剤を用いた治療法を決定する方法。
〔15〕〔12〕~〔14〕のいずれかに記載の方法により決定した複合体の濃度および/または量を基に、複合体の動態を評価する方法。
〔16〕試料中の複合体の濃度および/または量を決定する方法であって、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、前記複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われ、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、(4)回帰式作成用の複合体を準備する工程、(5)前記工程(4)の複合体を前記工程(1)~(3)の工程を含む工程により検出する工程、(6)前記工程(4)の複合体濃度をシミュレーションする工程、(7)前記工程(5)で検出したシグナル値とシミュレーション濃度より回帰式を算出する工程、および、(8)前記工程(3)により検出したシグナル値を前記回帰式に当てはめる工程、を含む、前記方法。
〔17〕試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として二重特異性抗体及びそれが認識する2つの抗原を含む3者複合体であり、(1)前記抗原を認識する第一の結合体と前記複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原を認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含む、前記方法。
〔18〕第一の結合体は固相に結合している、〔1〕~〔17〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕前記方法を、固相上で新たな複合体を実質的に生じず、かつ/または、複合体の解離が実質的に生じない条件で行う、〔18〕に記載の方法。
〔20〕前記方法を、理論的に結合平衡が移動しないほど短い時間である条件で行う、〔1〕~〔19〕のいずれかに記載の方法。
〔21〕前記方法を、試料と固相との接触時間が10秒以下の条件で行う、〔18〕~〔20〕のいずれかに記載の方法。
〔22〕固相に結合した第一の結合体に複合体を結合させる工程から、第二の結合体を検出する工程の直前までの工程が、10分以内で行われる、〔18〕~〔21〕のいずれかに記載の方法。
〔23〕標識は発光標識、化学発光標識、電気化学発光標識、蛍光標識、または放射性標識である、〔2〕または〔6〕に記載の方法。
〔24〕治療法の決定は、薬剤の用量の決定または投与頻度の決定である、〔14〕に記載の方法。
〔25〕〔13〕に記載の方法により検出したシグナル値を基に、薬剤を用いた治療法を決定する方法。
〔26〕〔13〕に記載の方法により検出したシグナル値を基に算出する標準化シグナル値を基に、薬剤を用いた治療法を決定する方法。
〔27〕〔13〕に記載の方法により検出したシグナル値を基に算出する任意の単位を基に、薬剤を用いた治療法を決定する方法。
〔28〕洗浄工程をさらに含む、〔1〕~〔26〕のいずれかに記載の方法。
〔29〕血液試料、さらに好ましくは全血、血清または血漿は、100分の1当量~2分の1当量の1M HEPES溶液の添加により調製される、〔7〕に記載の方法。
〔30〕試料の調製方法あるいは製造方法であって、試料の100分の1当量~2分の1当量の1M HEPES溶液を添加する、方法。
〔31〕試料は血液試料であり、さらに好ましくは全血、血清または血漿である〔30〕に記載の方法。
〔32〕〔13〕に記載の方法により決定した複合体の濃度および/または量を基に、薬剤の効果を評価する方法。
〔33〕〔13〕に記載の方法により決定した複合体の濃度および/または量を基に、薬剤の安全性を評価する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法は、親和性が弱い複合体、例えば二重特異性抗体が形成する3者複合体を、KD値としてnMオーダーからμMオーダー程度の低い親和性の抗体を含め、幅広いレンジの親和性を持つ抗体について、3者複合体自体を非標識のまま、生体試料などにおいて検出し、さらに3者複合体の濃度及び/または量を定量的に決定することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】FIX、FX及び抗FIX/FX二重特異性抗体が形成する複合体を示す図である。
図2】(A)抗FIX/FX二重特異性抗体が捕捉したFIXを抗FIX抗体により検出する方法を示す図である。(B)抗FIX/FX二重特異性抗体が捕捉したFXを抗FX抗体により検出する方法を示す図である。
図3】(A)FIXの濃度依存的な検出結果を示す図である。(B)FXの濃度依存的な検出結果を示す図である。
図4】(A)抗FIX抗体(XB12)をビーズに固相化し、蛍光標識した抗FX抗体(SB04)を検出に使用する3者複合体測定フォーマットを示す図である。(B)抗FX抗体(SB04)をビーズに固相化し、蛍光標識した抗FIX抗体(XB12)を検出に使用する3者複合体測定フォーマットを示す図である。
図5】(A)FIX、FX、二重特異性抗体を添加したサンプルを図4の(A)に示すフォーマットでKinExAにより測定した結果を示す図である。(B)FIX、FX、二重特異性抗体を添加したサンプルを図4の(B)に示すフォーマットでKinExAにより検出した結果を示す図である。
図6】(A)抗FIX/FX二重特異性抗体のFIXとFXに対する解離定数が同じで、それぞれ2倍ずつ変化した時の、抗体濃度と計算上の3者複合体濃度の関係を示した図である。(B)抗FIX/FX二重特異性抗体のFIXとFXに対する解離定数のうち、FIX側がFX側より2倍大きい場合で、それぞれ2倍ずつ変化した時の、抗体濃度と計算上の3者複合体濃度の関係を示した図である。
図7】(A)抗FIX/FX二重特異性抗体Q4//J3抗体濃度とKinExAにより検出した3者複合体シグナル値、及び計算上の3者複合体濃度との関係を示した図である。(B)Q4//J3抗体による3者複合体シグナル値と計算上の3者複合体濃度との相関を示した図である。
図8-1】(A)抗FIX/FX二重特異性抗体Q4//J3抗体、Q3//J1抗体、及びEmicizumab濃度と、それぞれが形成する3者複合体をKinExAで検出したシグナル値との関係を示した図である。(B)Q4//J3抗体による3者複合体シグナル値と計算上の3者複合体濃度との回帰を示した図である。
図8-2】(C)図8(A)の3者複合体シグナル値を図8(B)の回帰式より濃度に換算した図である。
図9-1】(A)抗FIX/FX二重特異性抗体Q4//J3抗体、及びQ3//J1抗体が形成する3者複合体をそれぞれKinExAで検出した時の測定中のシグナル値推移を比較した図である。(B)抗FIX/FX二重特異性抗体Q3//J1抗体、及びEmicizumabが形成する3者複合体をそれぞれKinExAで検出した時の測定中のシグナル値推移を比較した図である。
図9-2】(C)抗FIX/FX二重特異性抗体Q4//J3抗体、及びEmicizumabが形成する3者複合体をそれぞれKinExAで検出した時の測定中のシグナル値推移を比較した図である。
図10】抗FIX/FX二重特異性抗体Q3//J1抗体、及びEmicizumabについて、hFIX、及びhFXが含まれるサンプルと混和してから、時間を追って3者複合体をKinExAにより検出した結果を示す図である。
図11】(A)抗FIX/FX二重特異性抗体Q4//J3抗体濃度と、それぞれが形成する3者複合体をGyrolabで検出したレスポンスとの関係を示した図である。(B)Q4//J3抗体による3者複合体シグナル値と計算上の3者複合体濃度との回帰を示した図である。
図12-1】(A)抗FIX/FX二重特異性抗体Q4//J3抗体、Q3//J1抗体、及びEmicizumab濃度と、それぞれが先天的FVIII欠損ヒト血漿中において形成する3者複合体をKinExAで検出したシグナル値との関係を示した図である。(B)Q4//J3抗体による3者複合体シグナル値と計算上の3者複合体濃度との回帰を示した図である。
図12-2】(C)図12(A)の3者複合体シグナル値を図12(B)の回帰式より濃度に換算した図である。
図13】Tocilizumabと可溶型hIL-6Rが形成する2者複合体を、Tocilizumabが認識するものとは別のエピトープを認識する抗IL-6R抗体、および、抗hIgG Fc抗体を用いて検出する方法を示す図である。
図14】TocilizumabとhIL-6Rを添加したサンプルを図13に示す方法でKinExAにより検出した結果を示す図である。
図15】(A)Tocilizumab濃度と、Tocilizumab及びhIL-6Rが形成する2者複合体をKinExAにより検出したシグナル値、ならびに計算上の2者複合体濃度との関係を示した図である。(B)Tocilizumab及びhIL-6Rが形成する2者複合体のシグナル値と、計算上の2者複合体濃度との相関を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1つの局面において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法である。別の局面において、本発明は、試料中の複合体の濃度及び/または量を決定する方法である。
【0013】
1つの局面において、本発明は、イムノアッセイであるLigand binding assay法を用いて、試料中の複合体の存在及び/又は複合体の量を測定する方法に関する。
Ligand binding assay法としては、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA法)表面プラズモン共鳴(SPR)、電気化学発光(ECL)法、結合平衡除外法(KinExA(登録商標):Kinetic Exclusion Assay)(Drakeら、2004、Analytical Biochemistry 328:35~43頁)などを用いることができる。
【0014】
1つの態様において、マイクロタイタープレートを用いる方法より反応場の空間サイズが小さく、固相表面の比表面積が大きく、アッセイ時間が短い方法、例えばマイクロ流体チップ、ディスク、ビーズを用いる方法、より具体的には例えばKinExA(登録商標)又はGyrolab(登録商標) イムノアッセイシステム(Fraleyら、2013、Bioanalysis 5: 1765~74頁)を用いる方法を用いることができるが、これらに限定されない。他の局面において、本発明は、Single Molecule Array法、Alpha(Amplified Luminescence Proximity Homogeneous Assay) 法または時間分解蛍光法を用いて、試料中の複合体の存在及び/又は複合体の量を測定する方法に関する。
【0015】
1つの局面において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0016】
1つの局面において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくとも一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われ、複合体の成分はいずれも標識化あるいは固相に固定化されていない、前記方法に関する。
【0017】
別の1つの局面において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくとも一つのKD値が1nM以上である、前記方法に関する。
【0018】
別の1つの局面において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、複合体の成分はいずれも標識化あるいは固定化されていない、前記方法に関する。
【0019】
別の1つの局面において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0020】
別の1つの局面において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の成分はいずれも標識化あるいは固定化されていない、前記方法に関する。
【0021】
別の1つの局面において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われ、複合体の成分はいずれも標識化あるいは固定化されていない、前記方法に関する。
【0022】
1つの局面において、本発明の第一の結合体は固相に結合している。
【0023】
1つの態様において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)固相に結合した第一の結合体と、複合体を含む試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0024】
別の1つの態様において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)(a)第一の結合体と、複合体を含む試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(1)(b)複合体と結合した第一の結合体を固相に結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0025】
別の1つの態様において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、(1)+(2)(a)第一の結合体、第二の結合体および複合体を含む試料を接触させ、第一の結合体及び第二の結合体をそれぞれ複合体に結合させる工程、(b)第二の結合体と結合した複合体に結合した第一の結合体を固相に結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。ここで(1)+(2)(a)の工程は、第一の結合体、第二の結合体および複合体を含む試料を同時に接触させてもよい。また第一の結合体と複合体を含む試料を接触させた後に、第二の結合体を接触させてもよい。また第二の結合体と複合体を含む試料を接触させた後に、第一の結合体を接触させてもよい。
【0026】
別の局面において、本発明は1つ以上の洗浄する工程を有していてもよい。
【0027】
別の局面において、本発明はさらに以下の工程を行う、試料中の複合体の濃度および/または量を決定する方法に関する。
(4)回帰式作成用の複合体を準備する工程、
(5)前記工程(4)の複合体を前記工程(1)~(3)の工程を含む工程により検出する工程、
(6)前記工程(4)の複合体濃度をシミュレーションする工程、
(7)前記工程(5)で検出したシグナル値とシミュレーション濃度より回帰式を算出する工程、および、
(8)前記工程(3)により検出したシグナル値を前記回帰式に当てはめる工程。
【0028】
1つの態様において、本発明は、試料中の複合体の濃度および/または量を決定する方法であって、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われ、(1)第一の結合体と複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、(4)回帰式作成用の複合体を準備する工程、(5)前記工程(4)の複合体を前記工程(1)~(3)の工程を含む工程により検出する工程、(6)前記工程(4)の複合体濃度をシミュレーションする工程、(7)前記工程(5)で検出したシグナル値とシミュレーション濃度より回帰式を算出する工程、および、(8)前記工程(3)により検出したシグナル値を前記回帰式に当てはめる工程、を含む、前記方法に関する。
【0029】
特定の一つの態様において、本発明の第一の結合体は固相に結合しており、本発明は、試料中の複合体の濃度および/または量を決定する方法であって、前記複合体は2以上の成分を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われ、(1)固相に結合した第一の結合体と、複合体を含む試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、(4)回帰式作成用の複合体を準備する工程、(5)前記工程(4)の複合体を前記工程(1)~(3)の工程を含む工程により検出する工程、(6)前記工程(4)の複合体濃度をシミュレーションする工程、(7)前記工程(5)で検出したシグナル値とシミュレーション濃度より回帰式を算出する工程、および、(8)前記工程(3)により検出したシグナル値を前記回帰式に当てはめる工程、を含む、前記方法に関する。
【0030】
特定の一つの態様において、(4)の工程では、複合体の成分間のKD値が既知である複合体を、複数の濃度で準備することが好ましい。
【0031】
特定の一つの態様において、(6)の工程では、前記複合体の成分濃度および複合体の成分間のKD値から前記複合体濃度をシミュレーションする。
【0032】
複合体は、本明細書において、2つ以上の成分で形成されている複合体のことをいう。ここで成分とは、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、有機化合物、核酸などである。ここで複合体は2つ以上の成分で形成されていればよく、同じ種類の成分で形成されていてもよく、異なる種類の成分、例えばタンパク質と核酸、タンパク質と有機化合物で形成されていてもよい。また複合体には同じ成分が含まれていてもよい。
【0033】
ポリペプチドは、本明細書において、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、及びタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。さらに、上記のポリペプチドの断片もまた、本発明のポリペプチドに含まれる。また、ポリペプチドには抗体、分子量500~2000の中分子ペプチド(例えば環状部位を有するポリペプチド)なども含まれる(WO2013100132参照)。
【0034】
有機化合物は、本明細書において、例えば低分子化合物であり、好ましくは分子量が1000以下である。
【0035】
核酸は、本明細書において、例えば、アンチセンス分子、siRNA分子、RNAアプタマーまたはリボザイムである。
【0036】
第一の結合体は、複合体に結合すればよく、例えばポリペプチド、抗体、抗体断片、抗体もしくは抗体断片及び非抗体ポリペプチドを含む融合ポリペプチド、抗体もしくは抗体断片及び可溶性受容体を含む融合ポリペプチド、または抗体もしくは抗体断片及びペプチド性結合分子を含む融合ポリペプチドから選択される。第一の結合体は、複合体を解離させることなく複合体に結合することが好ましい。
【0037】
第二の結合体は、複合体に結合すればよく、例えばポリペプチド、抗体、抗体もしくは抗体断片及び非抗体ポリペプチドを含む融合ポリペプチド、抗体もしくは抗体断片及び可溶性受容体を含む融合ポリペプチド、または抗体もしくは抗体断片及びペプチド性結合分子を含む融合ポリペプチドから選択される。第二の結合体は、複合体を解離させることなく複合体に結合することが好ましく、及び/または第一の結合体と複合体との結合を阻害することなく複合体に結合することが好ましい。
【0038】
第一の結合体及び第二の結合体は、それぞれ複合体を形成する異なる成分に結合することが好ましい。1つの態様として、複合体が成分A及び成分Bを含む場合、第一の結合体は成分Aに、第二の結合体は成分Bに結合することが好ましい。また、別の1つの態様として、複合体が成分A、成分B及び成分Cを含み、成分Aは成分Bとのみ結合し、成分Bは成分Cとのみ結合する場合、第一の結合体は成分Aに第二の結合体は成分Cに、あるいは、第一の結合体は成分Cに第二の結合体は成分Aに結合することが好ましい。
【0039】
特定の一つの態様において、二重特異性抗体と当該抗体が認識する二種類の抗原を含む複合体が挙げられ、その場合、第一の結合体は一方の抗原に結合し、第二の結合体は他方の抗原に結合する。
【0040】
また、別の1つの態様として、複合体が成分A、成分B、成分C及び成分Dを含み、成分Aは成分Bとのみ結合し、成分Bは成分Aと成分Cとのみ結合し、成分Cは成分Bと成分Dとのみ結合し、成分Dは成分Cとのみ結合する場合、第一の結合体は成分Aに第二の結合体は成分Dに、あるいは第一の結合体は成分Dに第二の結合体は成分Aに結合することが好ましい。
【0041】
1つの態様において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として抗原および当該抗原を認識する抗体を含む複合体であり、(1)前記抗原を認識する第一の結合体と前記複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、前記抗原を認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。特定の態様において、複合体は抗体の抗原結合部位の少なくとも1つは抗原と結合している複合体である。また、特定の態様において、複合体は抗体の抗原結合部位のすべてが抗原と結合している複合体である。
【0042】
特定の一つの態様において、本発明の第一の結合体は固相に結合しており、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として抗原および当該抗原を認識する抗体を含む複合体であり、(1)固相に結合した前記抗原を認識する第一の結合体と、前記複合体を含む試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、前記抗原を認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。特定の態様において、複合体は抗体の抗原結合部位の少なくとも1つは抗原と結合している複合体である。また、特定の態様において、複合体は抗体の抗原結合部位のすべてが抗原と結合している複合体である。
【0043】
1つの態様において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として二重特異性抗体及びそれが認識する2つの抗原を含む3者複合体であり、(1)前記抗原を認識する第一の結合体と前記複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原を認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含む、前記方法に関する。
【0044】
特定の一つの態様において、本発明の第一の結合体は固相に結合しており、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として二重特異性抗体及びそれが認識する2つの抗原を含む3者複合体であり、(1)固相に結合した前記抗原を認識する第一の結合体と、前記複合体を含む試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原を認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した前記第二の結合体を検出する工程、を含む、前記方法に関する。
【0045】
1つの態様において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として二重特異性抗体及びそれが認識する2つの抗原を含む3者複合体であり、(1)前記抗原を認識する第一の結合体と前記複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原を認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0046】
特定の一つの態様において、本発明の第一の結合体は固相に結合しており、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として二重特異性抗体及びそれが認識する2つの抗原を含む3者複合体であり、(1)固相に結合した前記抗原を認識する第一の結合体と、前記複合体を含む試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原を認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0047】
すなわち、1つの態様として、複合体は二重特異性抗体と当該抗体が認識する2つの抗原いずれもが当該抗体に結合した複合体である。たとえば二重特異性抗体が抗原A及び抗原Bと結合する場合、複合体とは当該二重特異性抗体が抗原A及び抗原Bと結合した3者複合体を意味する。ここで抗原Aと抗原Bは同じ抗原でもよく、異なる抗原であってもよい。
【0048】
特定の一つの態様として、特許文献(WO 2012/067176)に記載の以下に挙げる二重特異性抗体(ACE910:Emicizumab、Q499-z121/J327-z119/L404-k)の場合、複合体は血液凝固第IX因子(FIX)または活性化血液凝固第IX因子(FIXa)、及び血液凝固第X因子(FX)または活性化血液凝固第X因子(FXa)が結合したEmicizumabを含む複合体である。なお、本明細書では、特別な場合を除き、FIXとFIXaは同義で用いられることがあり、FIXおよびFIXaを含む概念として、FIX(a)と表記することもある。また本明細書では、特別な場合を除き、FXとFXaは同義で用いられることがあり、FXおよびFXaを含む概念として、FX(a)と表記することもある。
【0049】
本発明の特定の態様は、当該Emicizumabを含む複合体を検出する方法を提供する。第一の結合体としてのFIX(a)に結合する抗体を選択した場合、第二の結合体としてはFX(a)に結合する抗体を選択することができる。また、第一の結合体としてのFX(a)に結合する抗体を選択した場合、第二の結合体としてはFIX(a)に結合する抗体を選択することができる。
【0050】
FIX(a)に結合する抗体は、特に限定されるものではないが、EmicizumabのFIX(a)内のエピトープとは異なるエピトープに結合することが好ましい。このような抗体としては、例えば特許文献(WO 2006/109592)に記載のA19、A25、A31、A38、A39、A40、A41、A44、A50、A69、XB12から適宜選択することができる。FX(a)に結合する抗体は、特に限定されるものではないが、EmicizumabのFX(a)内のエピトープとは異なるエピトープに結合することが好ましい。このような抗体としては、例えば特許文献(WO 2006/109592)に記載のB2、B5、B9、B10、B11、B12、B13、B14、B15、B16、B18、B19、B20、B21、B23、B25、B26、B27、B31、B34-1、B34-2、B35、B36、B38、B42、SB04、SB15、SB27から適宜選択することができる。
【0051】
1つの態様において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分としてEmicizumab、FIX(a)及びFXを含む3者複合体であり、(1)FIX(a)又はFXを認識する第一の結合体と前記複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原であるFIX(a)又はFXを認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含む、前記方法に関する。
【0052】
特定の一つの態様において、本発明の第一の結合体は固相に結合しており、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分としてEmicizumab、FIX(a)及びFXを含む3者複合体であり、(1)固相に結合したFIX(a)又はFXを認識する第一の結合体と、前記複合体を含む試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原であるFIX(a)又はFXを認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含む、前記方法に関する。
【0053】
1つの態様において、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分としてEmicizumab、FIX(a)及びFXを含む3者複合体であり、(1)FIX(a)又はFXを認識する第一の結合体と前記複合体を含む試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原であるFIX(a)又はFXを認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0054】
特定の一つの態様において、本発明の第一の結合体は固相に結合しており、本発明は、試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分としてEmicizumab、FIX(a)及びFXを含む3者複合体であり、(1)固相に結合したFIX(a)又はFXを認識する第一の結合体と、前記複合体を含む試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、第一の結合体が認識する抗原とは異なる抗原であるFIX(a)又はFXを認識する第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0055】
特定の態様において、複合体が二重特異性抗体、当該抗体が認識する抗原Aおよび当該抗体が認識する抗原Bからなり、当該抗体が抗原A及び抗原Bと結合している複合体の場合、第一の結合体は抗原Aに結合し、第二の結合体は抗原Bに結合することが好ましい。さらに特定の態様において、FIX(a)およびFX(a)に結合した二重特異性抗体であるEmicizumabを含む複合体の場合、第一の結合体はFIX(a)に結合し、第二の結合体はFX(a)に結合することが好ましく、または、第一の結合体はFX(a)に結合し、第二の結合体はFIX(a)に結合することが好ましい。
【0056】
1つの態様において、本発明の方法は、検出対象である複合体の成分を標識化あるいは固定化することなく行う。
標識化とは、発光標識、化学発光標識、電気化学発光標識、蛍光標識、ジゴキシゲニン、ビオチン、アビジン又は放射性標識で修飾することをいうが、これらに限定されない。
固定化とは、直接または間接を問わず、ビーズ、ディスク、マイクロ流体チップ、磁性粒子、またはマイクロタイタープレートなどの固相に結合させる、あるいは固定することをいうが、これらに限定されるものではない。
【0057】
1つの態様において、本発明の方法は、回帰線作成用のサンプルを除き、測定対象の試料に対して、複合体を形成する成分を過剰に加えるなどして複合体を新たに生成する工程を含まない。
【0058】
1つの態様において、複合体を形成する複数の成分間の親和性(解離定数 (KD))は特に限定されないが、1nM以上であり、好ましくは10nM以上であり、100nM以上であり、特に好ましくは1μM以上である。特定の態様において、本発明の方法は親和性が弱い(KD値が高い)複合体の存在及び/又は量を測定する方法である。
【0059】
複合体が3以上の成分から構成され複数の結合部位が存在する場合、最も親和性が低い結合部位がその複合体の維持に重要であると考えられることから、最も親和性が低い結合部位の親和性をその複合体の親和性と同義で用いることができる。
【0060】
1つの態様において、複合体が、二重特異性抗体が認識する抗原A及び抗原Bいずれもが当該抗体に結合した複合体である場合、当該抗体と抗原A及び/又は抗原Bとの親和性を示すKD値が1nM以上であり、好ましくは10nM以上であり、100nM以上であり、特に好ましくは1μM以上である。治療薬として用いられる中和抗体は、その親和性が強いものが多く、例えばKD値が0.1nM~数十nMである(Carter, Nat Rev Immunol. 6(5):2006 343-57(2006))。治療薬として用いられる抗体であっても中和を主目的としないような抗体の場合、抗原との親和性は必ずしも中和抗体ほど強い親和性は必要なく、場合によっては弱い親和性が好適である。たとえば、上記記載の二重特異性抗体であるEmicizumabはその抗原であるFIXまたはFIXaとの親和性、およびFXまたはFXaとの親和性は、いずれも約1μMであり、一般的な中和抗体に比べ抗原との親和性は非常に弱い(Kitazawa, Thromb Haemost 117(7):1348-1357(2017))。
【0061】
特定の一つの態様として、本発明は、 例えば以下の二重特異性抗体とその抗原らとの複合体の検出に使用することができる
Ozoralizumab(抗原はTNFおよびアルブミン)
RG7716(抗原はVEGF-Aおよびangiopoietin-2)
RG-7990(抗原はIL-13およびIL-17)
Lutikizumab(抗原はIL-1αおよびIL-1β)
【0062】
1つの態様において、本発明の方法は、抗原との親和性が弱い抗体とその抗体に結合した抗原とを含む複合体を検出することができる。
1つの態様において、本発明の方法は、少なくとも一つの抗原との親和性が弱い二重特異性抗体とその抗体に結合した抗原とを含む複合体を検出する方法である。
1つの態様において、本発明の方法は、二つの抗原との親和性がいずれも弱い二重特異性抗体とその抗体に結合した抗原とを含む複合体を検出する方法である。
【0063】
抗原との親和性が弱い抗体とは、本明細書においては、抗体の抗原との親和性を示すKD値が1nM以上であり、好ましくは10nM以上であり、100nM以上であり、特に好ましくは1μM以上である。
【0064】
複合体を形成する複数の成分間の親和性が弱い成分を含む複合体(例えばKD値として数nM以上)は、親和性が弱いために、成分が解離しやすく目的とする複合体の維持が難しく、また形成される複合体濃度は低い。このような複合体を検出し、より具体的に複合体の量および/または濃度を定量的に測定するには、一般的に必要とされる長いインキュベーション時間による複合体の結合平衡の移動や、洗浄操作による複合体の解離を最小限にする必要がある。
【0065】
したがって、一局面において、本発明は、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で試料中の複合体を検出する方法である。複合体の結合平衡が実質的に維持される条件とは、例えば、固相上で新たな複合体を実質的に生じず、及び/または、複合体の解離が実質的に生じない条件である。
【0066】
当該条件は、マイクロタイタープレートを用いる方法より反応場の空間サイズが小さく、固相表面の比表面積が大きく、アッセイ時間が短い方法、例えばマイクロ流体チップ、ディスク、ビーズを用いる方法、より具体的には例えばKinExA(登録商標)又はGyrolab(登録商標) イムノアッセイシステム(Fraleyら、2013、Bioanalysis 5: 1765~74頁)を用いる方法により実現することができる。ここでアッセイ時間が短いとは、試料と固相とが接触する時間、例えば抗原を含有する試料を、抗原を捕捉可能な抗体が固定されているビーズで充填されたカラムに加え、試料中の抗体を捕捉する場合、試料中の任意の特定の抗原がカラム内の任意の特定点と接触している時間が、10秒以下であることが好ましく、9秒以下、8秒以下、7秒以下、6秒以下、5秒以下、4秒以下、3秒以下、2秒以下、1秒以下、0.5秒以下、0.1秒以下、0.05秒以下、0.01秒以下であることがさらに好ましいが、少なくとも0.001秒以上、0.01秒以上であることが好ましい。
【0067】
1つの態様において、本発明は、血液試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として血液試料中に含まれる二重特異性抗体とそれが認識する2つの抗原を含む3者複合体であり、(1)第一の結合体と前記複合体を含む血液試料とを接触させ、第一の結合体と複合体とを結合させる工程、(2)第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0068】
特定の1つの態様において、本発明の第一の結合体は固相に結合しており、本発明は、血液試料中の複合体を検出する方法であって、前記複合体は成分として血液試料中に含まれる二重特異性抗体とそれが認識する2つの抗原を含む3者複合体であり、(1)固相に結合した第一の結合体と、前記複合体を含む血液試料とを接触させ、複合体と第一の結合体とを結合させる工程、(2)固相に結合した第一の結合体に結合した複合体と、第二の結合体とを結合させる工程、および、(3)複合体と結合した第二の結合体を検出する工程、を含み、前記成分間の少なくともいずれか一つのKD値が1nM以上であり、複合体の結合平衡が実質的に維持される条件で行われる、前記方法に関する。
【0069】
1つの態様において、結合平衡が実質的に維持される条件とは、アッセイ中に固相上で新たな複合体を実質的に生じず、および/または、複合体の解離が実質的に生じない条件である。
別の1つの態様において、結合平衡が実質的に維持される条件とは、理論的に結合平衡が移動しないほど短い時間をいう。
結合平衡が実質的に維持されるとは、例えば測定値を指標にした場合、複数回測定した際の測定値の相違が50%以下であることが好ましく、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.1%以下であることがさらに好ましい。理論的に結合平衡が移動しないほど短い時間とは、試料と固相とが接触する時間、例えば抗原を含有する試料を、抗原を捕捉可能な抗体が固定されているビーズで充填されたカラムに加え、試料中の抗体を捕捉する場合、試料中の任意の特定の抗原がカラム内の任意の特定点と接触している時間が、10秒以下であることが好ましく、9秒以下、8秒以下、7秒以下、6秒以下、5秒以下、4秒以下、3秒以下、2秒以下、1秒以下、0.5秒以下、0.1秒以下、0.05秒以下、0.01秒以下であることがさらに好ましいが、少なくとも0.001秒以上、0.01秒以上であることが好ましい。
【0070】
1つの態様において、第二の結合体は標識されていてもよい。標識は発光標識、化学発光標識、電気化学発光標識、蛍光標識、ジゴキシゲニン、ビオチン又は放射性標識であってもよく、これらに限定されない。
【0071】
固相は、本明細書において、ビーズ、ディスク、マイクロ流体チップ、磁性粒子、またはマイクロタイタープレートであってもよく、本発明の目的を達成できる限り、これらに限定されるものではない。
【0072】
固相に第一の結合体を結合させる方法は、当業者に周知の方法を用いることができる。
1つの態様において、固相への第一の結合体の結合は、第一の結合体がポリペプチドの場合、ポリペプチドのアミノ酸骨格のN末端基および/もしくはε-アミノ基(リジン)、異なるリジンのε-アミノ基、カルボキシ官能基、スルフヒドリル官能基、ヒドロキシル官能基、および/もしくはフェノール官能基、ならびに/またはポリペプチドの炭水化物構造の糖アルコール基を介した化学的結合によって実施される。
【0073】
1つの態様において、第一の結合体は、受動的吸着によって固相に結合されている。受動的吸着は、例えば、Butler, J.E., in "Solid Phases in Immunoassay" (1996) 205-225およびDiamandis, E.P., and Christopoulos, T.K. (Editors), in "Immunoassay" (1996) Academic Press (San Diego)によって説明されている。
【0074】
1つの態様において、第1の結合体は、特異的結合対によって固相に結合されている。1つの態様において、このような結合対(第1の構成要素/第2の構成要素)は、ストレプトアビジンまたはアビジン/ビオチン、抗体/抗原(例えば、Hermanson, G.T., et al., Bioconjugate Techniques, Academic Press (1996)を参照されたい)、レクチン/多糖、ステロイド/ステロイド結合タンパク質、ホルモン/ホルモン受容体、酵素/基質、IgG/プロテインAおよび/またはプロテインGなどより選択される。1つの態様において、第一の結合体はビオチンに連結され、固相に固定されたアビジンまたはストレプトアビジンを介して結合が行われる。
【0075】
「試料」は、本明細書において、例えばヒトから得られる生物学的試料を指すが、これに限定されず、ヒト以外から得られる生物学的試料であってもよい。生物学的試料はヒトから得られる液体試料などを用いることができる。また「試料」はin vitroで作成された試料であってもよい。液体試料は例えば血液試料であり、血清、血漿、または全血が含まれるが、本発明においては、血漿サンプルを使用することが好ましい。ヒトからの血液試料の取得方法は当業者に周知である。また、液体試料はは組織間液や、組織をすりつぶした液、組織を可溶化した液などであってもよく、組織は新鮮な組織、凍結組織であってもよい。ヒトからの組織の取得方法が当業者に周知である。尚、何らかの処理がされた血液試料も本発明における血液試料に含まれうる。
【0076】
「検出」は、本明細書において、定量的または定性的な検出を含み、例えば、定性的な検出としては、単に複合体が存在するか否かの測定、複合体が一定の量以上存在するか否かの測定、複合体の量を他の試料(例えば、コントロール試料など)と比較する測定などを挙げることができる。一方、定量的な検出とは、複合体の濃度の測定、複合体の量の測定などを挙げることができる。
【0077】
「親和性」は、分子(例えば、抗体)の結合部位1個と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度のことをいう。別段示さない限り、本明細書で用いられる「親和性」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合親和性のことをいう。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般的に、解離定数 (KD) により表すことができる。親和性は、本明細書に記載のものを含む、当該技術分野において知られた通常の方法によって測定され得る。結合親和性を測定するための具体的な実例となるおよび例示的な態様については、下で述べる。
【0078】
一態様において、KD値は、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によって測定される。一態様において、RIAは、目的の抗体のFabバージョンおよびその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液中結合親和性は、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原によりFabを平衡化させ、次いで結合した抗原を抗Fab抗体でコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される。(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。測定条件を構築するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート (Thermo Scientific) を50mM炭酸ナトリウム (pH9.6) 中5μg/mlの捕捉用抗Fab抗体 (Cappel Labs) で一晩コーティングし、その後に室温(およそ23℃)で2~5時間、PBS中2% (w/v) ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート (Nunc #269620) において、100 pMまたは26 pMの [125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997) における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)目的のFabの段階希釈物と混合する。次いで、目的のFabを一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるよう、より長時間(例えば、約65時間)継続され得る。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標)、Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター (Packard) においてプレートを10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選択する。
【0079】
別の態様によれば、KD値は、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000 (BIAcore, Inc., Piscataway, NJ) を用いる測定法が、およそ10反応単位 (response unit: RU) の抗原が固定されたCM5チップを用いて25℃で実施される。一態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ (CM5、BIACORE, Inc.) は、供給元の指示にしたがいN-エチル-N’- (3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド (EDC) およびN-ヒドロキシスクシンイミド (NHS) を用いて活性化される。抗原は、およそ10反応単位 (RU) のタンパク質の結合を達成するよう、5μl/分の流速で注入される前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて5μg/ml(およそ0.2μM)に希釈される。抗原の注入後、未反応基をブロックするために1Mエタノールアミンが注入される。キネティクスの測定のために、25℃、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤含有PBS (PBST) 中のFabの2倍段階希釈物 (0.78nM~500nM) が注入される。結合速度 (kon) および解離速度 (koff) は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、結合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算される。平衡解離定数 (KD) は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999) を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、分光計(例えばストップフロー式分光光度計 (Aviv Instruments) または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計 (ThermoSpectronic))において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS、pH7.2中20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、バンドパス16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって決定され得る。
エピトープが異なるか否かは、例えば競合アッセイによって確認することができ、比較する一方の抗体が他方の抗体の抗原への結合を50%以上阻止することをいう。
【0080】
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、キメラ、ヒト化、またはヒト抗体を含む、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
一定の態様において、抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。一定の態様において、結合特異性の内の一方は、第1の抗原に対するものであり、他方は、異なる第2の抗原に対するものである。一定の態様において、二重特異性抗体は、同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合してよい。二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製することができる。1つの態様において、抗体は、第1の抗原および第2の抗原に特異的に結合する二重特異性抗体である。1つの態様において、二重特異性抗体は、i)第1の抗原にまたは抗原上の第1のエピトープに特異的に結合する第1の結合特異性を有し、かつii)第2の抗原にまたは同じ抗原上の第2のエピトープに特異的に結合する第2の結合特異性を有する。1つの態様において、同じ抗原上の第2のエピトープは、第一のエピトープとは異なるエピトープである。
【0081】
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab’-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および、抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0082】
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体のことをいう。
【0083】
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
1つの態様において、抗体は抗体変異体を含み、例えば、1つまたは複数のアミノ酸の置換、挿入、または欠失を有する抗体変異体、糖鎖が改変された抗体変異体、PEGなどの水溶性ポリマーが結合した抗体誘導体である。
【0084】
抗体としては、遺伝子組換え技術を用いて産生した組換え型抗体を用いることができる。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、ベクターに組み込んで、これを宿主(宿主細胞)に導入し産生させることにより得ることができる。
【0085】
IgGタイプ二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al. Nature 1983, 305: 537-540)。また目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計4種の遺伝子を細胞に導入することによって共発現させることによって分泌させることが出来る。L鎖に関しては、H鎖可変領域に比べてL鎖可変領域の多様性が低いことから、両H鎖に結合能を与え得る共通のL鎖が得られることが期待され、本明細書における二重特異性抗体は、共通のL鎖を有する抗体であってよい。
【0086】
Fab’を化学的に架橋することによっても二重特異性抗体を作製し得る。また化学架橋の代わりにFos, Junなどに由来するロイシンジッパーを用いることも出来る。
【0087】
また、IgG-scFv(Protein Eng Des Sel. 2010 Apr;23(4):221-8)やBiTEなどのsc(Fv)2(Drug Discov Today. 2005 Sep 15;10(18):1237-44.)、DVD-Ig(Nat Biotechnol. 2007 Nov;25(11):1290-7. Epub 2007 Oct 14.、MAbs. 2009 Jul;1(4):339-47. Epub 2009 Jul 10.)などの他(IDrugs 2010, 13:698-700)、two-in-one抗体(Science. 2009 Mar 20;323(5921):1610-4.、Immunotherapy. 2009 Sep;1(5):749-51.)、Tri-FabやタンデムscFv、ダイアボディなどの二重特異性抗体も知られている(MAbs. 2009 November ; 1(6): 539-547.)。さらにscFv-Fc、scaffold-Fcなどの分子形を用いても、ヘテロな組合せのFcを優先的に分泌させることで(Ridgway JB et al. Protein Engineering 1996, 9: 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681、WO2006/106905、Davis JH et al. Protein Eng Des Sel. 2010, 4: 195-202.)、二重特異性抗体を効率的に作製し得る。
【0088】
ダイアボディにおいても二重特異性抗体を作製し得る。二重特異性ダイアボディは二つのcross-over scFv断片のヘテロダイマーである。
【0089】
本発明の特定の一つの態様において、三者複合体の検出は以下のように行うことが可能である。ここではFIX(a)およびFX(a)を認識する二重特異性抗体Emicizumabの例を示す。測定対象の三者複合体はFIX(a)、FX(a)およびEmicizumabから構成される。Emicizumabとは別に回帰式作成用のFIX(a)およびFX(a)を認識する二重特異性抗体を準備する。ここで回帰式作成用の二重特異性抗体の親和性は必ずしも高い(KD値が低い)必要はないが、親和性は高い方が好ましい。回帰式作成用の二重特異性抗体としては、例えば、Q4//J3抗体(hFIXに対するKD値は17.7nM、hFXに対するKD値は11.5nM)、Q3//J1抗体(hFIXに対するKD値は1.20μM、hFXに対するKD値は58.3nM)を用いることができるが、ここではQ4//J3を用いる例を示す。
【0090】
FIX(a)に対するエピトープがEmicizumabとは異なるFIX(a)抗体、およびFX(a)に対するエピトープがEmicizumabとは異なるFX(a)抗体を用意する。抗FIX(a)抗体としてXB12、抗FX抗体としてSB04の例を以下に示すが、抗FIX(a)抗体はXB12に限られず、抗FX抗体はSB04に限られない。
【0091】
三者複合体の検出はイムノアッセイであるLigand binding assay法を用いて行うことができる。Ligand binding assay法としては、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA法)表面プラズモン共鳴(SPR)、電気化学発光(ECL)法、結合平衡除外法(KinExA(登録商標):Kinetic Exclusion Assay)(Drakeら、2004、Analytical Biochemistry 328:35~43頁)などを用いることができる。
【0092】
1つの態様において、マイクロタイタープレートを用いる方法より反応場の空間サイズが小さく、固相表面の比表面積が大きく、アッセイ時間が短い方法、例えばマイクロ流体チップ、ディスク、ビーズを用いる方法、より具体的には例えばKinExA(登録商標)又はGyrolab(登録商標) イムノアッセイシステム(Fraleyら、2013、Bioanalysis 5: 1765~74頁)を用いる方法を用いることができるが、これらに限定されない。例えばKinExA(登録商標)ではKinExA 3200(Sapidyne社)を、Gyrolab(登録商標) イムノアッセイシステムではGyrolab xP(Gyros Protein Technologies社)を、それぞれ測定機器として使用することができる。
【0093】
Gyrolabは全自動リガンドバインディングアッセイシステムであり、専用のBioaffy CDを用いて、測定を行う。CD上の流路にアフィニティビーズカラムがあり、流路を通じて、カラム内にサンプルを短時間で通すことにより、ビーズに固相した抗体により、サンプル中の分析物を特異的に捕捉する。捕捉した分析物はさらに特異的な抗体の蛍光標識体を用いて検出する。これらの測定原理は、特に短時間でサンプル中の分析物を捕捉することと、洗浄工程が自動で制御されているという点において、KinExA (Sapidyne社)と似た性質を持つことから、測定機器として選定できる。実際に、KinExAとGyrolabは測定原理が類似していることから、サンプル中のフリー抗体を測定することによる溶液中の抗原抗体反応の解離定数算出に用いられている(Anal Biochem. 2012 Jul 15;426(2):134-41)。
【0094】
特定の一つの態様として、KinExA 3200(Sapidyne社)を用いる例を以下に示す。
〔ビーズの調製〕
20 μg/mLのXB12溶液またはSB04溶液を、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline pH7.4, Sigma Aldrich社)で調製した。調製した溶液を、PMMAビーズ(Sapidyne社)1本に対して1 mL加え、室温で2時間インキュベートすることで、抗体をビーズに固相化し、低速で数秒遠心して上清を除いた後、ブロッキングバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 1% BSA, pH 7.4)を加え、室温で1時間インキュベートすることでビーズをブロッキングする。XB12を固相化したビーズ、またはSB04を固相化したビーズのいずれも用いることができるが、以下ではXB12を固相化したビーズを用いた例を示す。
〔検出抗体溶液の調製〕
XB12を固相化したビーズを用いるため、以下はSB04の蛍光標識の例を示す。 蛍光標識(Lightning-Link(登録商標) Rapid Dylight(登録商標) 650, Innova Biosciences社を用いて製造元のプロトコル通り調製)したSB04を検出抗体として使用することができる。
蛍光標識した抗体を含む検出抗体溶液は、例えば、蛍光標識(Lightning-Link(登録商標) Rapid Dylight(登録商標) 650, Innova Biosciences社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FX抗体(社内調製品:SB04)を、0.5 μg/mL となるようにアッセイバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製する。調製過程において、蛍光標識体の凝集物を除くために、まず5 μg/mLとなるように調製後、18,000 gで 10分間遠心し、上清をさらに希釈して0.5 μg/mLとしてもよい。なお、蛍光標識はこれに限られない。
〔サンプルの調製〕
ここでは二重特異性抗体Q4//J3抗体、Q3//J1抗体及びEmicizumabを測定する例を示す。hFIXとhFXをそれぞれ5, 8 μg/mL(89.3, 136 nM)一定とし、Q4//J3抗体を0.0488-50 μg/mL (0.326-333 nM)の間で公比4の計6点、Q3//J1抗体を1.38-354 μg/mL(9.20-2360 nM)の間で公比2の計9点、Emicuzumabを6.25-400 μg/mL(41.7-2667 nM)の間で公比2の計7点の濃度でそれぞれスパイクしたサンプルをアッセイバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製する。hFIXとhFX のみスパイクし、抗FIX/FX二重特異性抗体をスパイクしないサンプルをブランクサンプルとする。hFIX、hFXの濃度については、生理学的な濃度(血漿中濃度)として設定する。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで1時間室温でインキュベートする。
【0095】
〔測定〕
測定は、ベンダー推奨のプロトコルに従って行う。例えば以下の方法が挙げられる。調製したビーズの懸濁液一本分を、ランニングバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)を25 mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移す。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットする。測定における全てのプロセスは、KinExA 3200とオートサンプラーによって自動で実施される。機器をコントロールするプロトコルはKinExA Proソフトウェア(Sapidyne社)で作成される。プロトコルは、測定の各プロセスに対して、適切な試薬・サンプル位置を指定することで、適切なタイミングで、適切な試薬がサンプリングされるように作成される。
まずXB12を固相化したビーズをフローセル中のカラムに充填する。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化する。次に、カラムにサンプルを通過させることで、遊離したhFIX、hFIXと二重特異性抗体の2者複合体、また二重特異性抗体がhFIX、hFX両方と結合した3者複合体をビーズに捕捉させる。ランニングバッファー(+)(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2 mM CaCl2, 0.02% NaN3, pH 7.4)による第一次洗浄工程後、蛍光標識SB04溶液を通過させ、蛍光標識SB04抗体を捕捉された3者複合体中のhFXに結合させる。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出される。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)の体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定する。例えば以下のような条件で行うことができる。
サンプル:135 μL, 32.4 s, 0.25 mL/min、
第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、
検出抗体溶液:800 μL, 192 s, 0.25 mL/min、
第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、
第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。
例えばブランクサンプルをn=5、その他のサンプルをn=1で測定する。
【0096】
〔シミュレーション〕
FIX、FXと、抗FIX/FX二重特異性抗体が形成する3者複合体が、二重特異性抗体のFIXおよびFXに対する親和性を変化させた場合にどのように形成されるかを、解離定数KDを用いたシミュレーションする。
3者複合体の濃度のシミュレーションは文献で用いられている方法を使用する(Thromb Haemost, 117(7), 1348-1357, 2017.)。計算にはMicrosoft Excel 2013を用いる。このシミュレーションにおいて、FIX濃度、FX濃度、二重特異性抗体濃度、および二重特異性抗体のFIX、FXに対する各KD値をそれぞれ規定する必要があるため、FIXとFXの濃度は生理学的な濃度(血漿中濃度)として、それぞれ5, 8 μg/mL (89.3, 136 nM)一定と設定し、抗FIX/FX二重特異性抗体濃度を0.0122-1600 μg/mL (0.0814-10667 nM)の範囲で2倍ずつ変化させる。二重特異性抗体のFIXおよびFXに対するKD値については、例えば双方が等しい条件、またはFIXに対するKD値がFXに対するKD値の2倍となる条件で行うことができる。各条件における3者複合体濃度をシミュレーションし、Y軸に3者複合体濃度、X軸に二重特異性抗体濃度をとり、各値をプロットする。以下では二重特異性抗体としてQ4//J抗体の例を示す。
〔解析〕
ブランクサンプルのシグナル値の平均(Mean)、標準偏差(SD)を算出し、例えばMean+3.29×SDを検出限界として設定することができる。シグナル値の平均(Mean)、標準偏差(SD)の計算は例えばMicrosoft Excel 2013を用いて行うことができる。その他のサンプルのシグナル値のうち、検出限界以上のサンプルについて、ブランクサンプルのシグナル値のMeanを差し引くことで、3者複合体シグナル値を算出する。3者複合体シグナル値をY軸に、二重特異性抗体濃度をX軸にとり、測定値をプロットする。
【0097】
Y軸をQ4//J3抗体をスパイクした3者複合体シグナル値、X軸をQ4//J3抗体を含む3者複合体のシミュレーション値として、得られた結果をプロットし、相関解析を行う。この相関解析は例えばMicrosoft Excel 2013を用いて行うことができる。相関解析では、例えば線形近似曲線を引き、回帰式およびR2値を算出する。また、Q4//J3抗体の特定濃度範囲でy=a(x/(x+b))の関係が観察される場合、この範囲でのプロットに対して非線形回帰を行い、回帰式およびR2値を算出する。二重特異性抗体をスパイクしたサンプルの3者複合体シグナル値を前記回帰式より、濃度に換算する。
【0098】
特定の一つの態様として、Gyrolab xP(Gyros Protein Technologies社)を測定機器として、Bioaffy 200 CDを測定用のCDとして用いることができる。
〔捕捉抗体溶液の調製〕
XB12またはSB04を捕捉に使用できるが、ここではXB12を用いる例を示す。GyrolabのCDはストレプトアビジンビーズがセットされているため、捕捉に使用するXB12は、Sulfo-NHS-LC-Biotin(Thermo Scientific社)によりビオチン化する(biotin-XB12)。プロトコルは製品プロトコルを参照する。ビオチン化処理後、フリーのビオチン試薬を除くため、Zeba Spin Desalting Columns(Thermo Scientific社)で処理する。100 μg/mL の溶液となるようにバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)で調製する。凝集物を除くために、18,000 gで10分間遠心し、上清を使用する。
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Alexa Fluor 647 Antibody Labeling Kit, Thermo Scientific社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FX抗体(社内調製品:SB04)を、3 μg/mL の溶液となるようにアッセイバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製する。蛍光標識体の凝集物を除くために、18,000 gで10分間遠心し、上清を使用する。
〔サンプルの調製〕
hFIXとhFXをそれぞれ5, 8 μg/mL(89.3, 136 nM)一定とし、Q4//J3抗体を0.195-50 μg/mL (1.30-333 nM)の間で公比4の計5点の濃度でそれぞれスパイクしたサンプルをアッセイバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製する。hFIXとhFX のみスパイクし、抗FIX/FX二重特異性抗体をスパイクしないサンプルをブランクサンプルとする。hFIX、hFXの濃度については、生理学的な濃度(血漿中濃度)として設定する。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで1時間室温でインキュベートする。
【0099】
〔測定〕
測定は、ベンダー推奨のプロトコルに従って行う。例えば以下の方法が挙げられる。Gyrolab xP workstation(Gyros Protein Technologies社)を測定機器として、Bioaffy 200を測定用のCDとして使用する。測定における全てのプロセスは、Gyrolabによって自動で実施される。機器をコントロールするプロトコルはGyrolab Controlソフトウェア(Gyros Protein Technologies社)内の200-3W-001 Wizard methodを使用し、捕捉抗体、サンプル、検出抗体の順に操作が進行し、各ステップの間で洗浄工程が入るようにする。捕捉抗体、検出抗体濃度は、シグナル値対ノイズ比が高かった条件として設定する。洗浄工程では、アッセイバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)を用いる。作成したプロトコルから生成されるプレートデザインに従って、専用のPCRプレートに捕捉抗体溶液、サンプル、検出抗体溶液、洗浄用のアッセイバッファーを加え、測定前にプレートを機器にセットする。測定の工程において、まず、biotin-XB12溶液が流路を通じて、ストレプトアビジンビーズに捕捉される。洗浄工程後、サンプル中の遊離したhFIX、hFIXと二重特異性抗体の2者複合体、またhFIX、hFXと二重特異性抗体の3者複合体が、ビーズ上のbiotin-XB12により捕捉され、洗浄工程後、蛍光標識SB04溶液を通過させ、蛍光標識SB04抗体を捕捉された3者複合体中のhFXに結合させる。検出は、光電子増倍管(PMT)によるレスポンスの増幅レベルの設定3種類の固定値、例えば1, 5, 25%で実施され、各設定での測定値が記録される。調製したサンプルのうち、ブランクサンプルをn=5、Q4//J3抗体をスパイクしたサンプルをn=3で測定する。
【0100】
〔解析〕
検出されるレスポンスが、十分大きく、検出器の飽和が起きていない値を示すPMTの条件で得られた値を解析に用いるのが好ましい。n=5で測定したブランクサンプルのシグナル値の平均(Mean)、標準偏差(SD)を算出し、例えばMean+3.29×SDを検出限界として設定することができる。シグナル値の平均(Mean)、標準偏差(SD)の計算は例えばMicrosoft Excel 2013を用いて行うことができる。その他のサンプルのシグナル値のうち、検出限界以上のサンプルについて、ブランクサンプルのレスポンスのMeanを差し引くことで、3者複合体レスポンスを算出する。
【0101】
特定の一つの態様として、試料としてヒト血漿を用いる場合、例えば、以下のように行うことができる。ここではKinExA 3200(Sapidyne社)を用いる例を示す。
〔緩衝作用、抗凝固作用を持たせた血漿の調製〕
例えば以下のように調製できるが、これに限られない。
先天的Factor VIII欠損ヒト血漿(George King Bio-Medical社)に、例えば9分の1当量の1M HEPES buffer solution(pH 7.1-7.5, nacalai tesque社)を加え、さらに10000 unit/ 10 mL Heparin Sodium(Mochida Pharmaceutical社)を終濃度10 unit/mLとなるように添加する。ここで加える1M HEPES buffer solutionは例えば100分の1当量~2分の1当量である。より具体的には例えば、99分の1当量、49分の1当量、19分の1当量、9分の1当量、4分の1当量、2分の1当量である。ここで、通常のELISA同様に血漿を希釈して測定すると、希釈による複合体の解離が起きるため、血漿中の複合体を測定する目的を果たすことはできない。しかしながら、血漿をそのまま使用すると、血漿中炭酸イオン濃度変化によるpH変化が起こり、生理的な状況を反映できない。そのため、これを抑える目的で、HEPES buffer solutionによる緩衝作用を用いる。また、凝固反応をより抑えるためにHeparin Sodiumを添加する。このように調製した血漿を、以下ではFVIIId(++)血漿とする。
全血及び血清も上記と同じ方法で調製できる。ビーズの調製、検出抗体溶液の調製はすでに記載した方法により行う。
〔サンプルの調製〕
Q4//J3抗体を0.0488-50 μg/mL (0.326-333 nM)の間で公比4の計6点、Q3//J1抗体を1.38-354 μg/mL(9.20-2360 nM)の間で公比2の計9点、Emicuzumabを6.25-400 μg/mL(41.7-2667 nM)の間で公比2の計7点の濃度でそれぞれスパイクしたFVIIId(++)血漿サンプルを調製する。抗FIX/FX二重特異性抗体をスパイクしないFVIIId(++)血漿をブランクサンプルとする。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで1時間室温でインキュベートする。
測定、シミュレーション及び解析はすでに記載した方法により行う。
【0102】
一つの態様において、試料中に含まれる複合体を構成する成分の少なくとも一つは治療に用いられうる薬剤であり、試料中の複合体の濃度および/または量を基に、治療法を決定する方法が提供される。
特定の態様において、治療法の決定とは、薬剤の用量の決定、投与頻度の決定である。
【0103】
一つの態様において、試料中に含まれる複合体を構成する成分の少なくとも一つは治療に用いられうる薬剤であり、治療法の決定は複合体を検出することで行う。
別の態様において、治療法の決定は複合体を検出して得られたシグナル値を基に行う。
別の態様において、治療法の決定は複合体を検出して得られたシグナル値を基に算出する標準化シグナル値を基に行う。
別の態様において、治療法の決定は複合体を検出して得られたシグナル値を基に算出する任意の単位を基に行う。
【0104】
本発明の特定の態様を、Emicizumabを基に以下に説明する。EmicizumabはFIX(a)およびFXを認識する二重特異性抗体であり、血友病Aの治療に用いられている。Emicizumabを患者に投与した場合、血中ではFIX(a)または/およびFXと結合し、EmicizumabとFIX(a)との二者複合体、EmicizumabとFXとの二者複合体、Emicizumab、FIX(a)およびFXとの三者複合体を形成する。Emicizumabの作用メカニズムは、EmicizumabがFIX(a)およびFXに結合し、FIX(a)とFXを物理的に近接させることにより、FIXaがFXをFXaに変換する反応を促進させることである。したがって、Emicizumabがその薬効を発揮するには前記三者複合体を形成していることが必要であり、前記三者複合体を検出し、また濃度および量を決定することは、治療法の決定、特に用量設定および投薬頻度の決定に重要である。
【0105】
また、ファイバなどのFIX(a)とFXを含む凝固因子製剤と、二重特異性抗体が併用された際に、潜在的に3者複合体の量が増加しうるため、協奏的な薬理作用の増大が起こりうる。その薬理作用の増大を評価するために、3者複合体の測定は有用な可能性が挙げられる。
【0106】
本発明の一つの特定の態様において、治療法の決定は3者複合体の濃度または量を基に行うことができる。まず検量線用のサンプルとして、既知濃度のFIX、FXを含む血漿に、二重特異性抗体を既知濃度スパイクし、三者複合体を測定することで得られたシグナル値と、シミュレーション濃度から回帰式を算出する。二重特異性抗体投与後に採取された血液サンプルから、遠心分離により血漿を調製し、三者複合体を検出して得られたシグナル値より、回帰式より変換された濃度を得る。二重特異性抗体投与後の経時的なサンプル測定により、3者複合体の濃度推移を得ることができる。なお、シミュレーション濃度は抗体濃度、FIX濃度、FX濃度、およびFIX/FXそれぞれに対する解離定数を用いて、それぞれ独立に結合すると仮定して計算した、平衡状態における3者複合体濃度である。また回帰式の算出方法としては、線形回帰方法または非線形回帰方法を挙げることができるが、特にこれらに限定されない。
【0107】
本発明の別の特定の態様において、治療法の決定は、3者複合体量を、複合体の検出により得られたシグナル値を基に評価することにより行うことができる。二重特異性抗体投与後に採取された血液サンプルから、遠心分離により血漿を調製し、三者複合体を測定して得られたシグナル値を得る。二重特異性抗体投与後の経時的なサンプル測定により、3者複合体のシグナル値の時間推移を得ることができる。
【0108】
本発明の別の特定の態様において、治療法の決定は、3者複合体量を、標準化されたシグナル値を基に評価することにより行うことができる。まず標準化用のサンプルとして、例えば、プールされた血漿に、二重特異性抗体を既知濃度スパイクし、三者複合体を測定することで得られたシグナル値を標準化用シグナル値とすることができる。二重特異性抗体投与後に採取された血液サンプルから、遠心分離により血漿を調製し、三者複合体を測定して得られたシグナ値ルを、標準化用シグナル値で除することで、標準化されたシグナル値を得る。二重特異性抗体投与後の経時的なサンプル測定により、3者複合体の標準化されたシグナル値の時間推移を得ることができる。ここでプール血漿とは、例えば、複数人由来のヒト血漿を混合し、分注し凍結した血漿であり、また二重特異性抗体を既知濃度スパイクしたヒト血漿を分注し凍結した血漿である。
【0109】
本発明の別の特定の態様において、治療法の決定は、3者複合体量を、任意の単位を基に評価することにより行うことができる。まず、上記の方法で得られた標準化されたシグナル値と、任意の3者複合体量の単位(A.U.)との対応を定める。二重特異性抗体投与後に採取された血液サンプルから、遠心分離により血漿を調製し、三者複合体を測定して得られたシグナル値を、標準化用シグナル値で除することで、標準化されたシグナル値を得る。その後、標準化されたシグナル値をA.U.へ換算する。二重特異性抗体投与後の経時的なサンプル測定により、3者複合体のA.U.の時間推移を得ることができる。
【0110】
一つの態様において、試料中に含まれる複合体を構成する成分の少なくとも一つは治療に用いられうる薬剤であり、試料中の複合体の濃度及び/又は量を基に、薬剤の動態を評価する方法が提供される。
【0111】
特定の態様において、二重特異性抗体を含む複合体の薬物動態を評価する方法が提供される。二重特異性抗体の薬物動態特性は、抗体単独の場合、1つの抗原と結合し、2者複合体を形成した場合、また2つの抗原と結合し、3者複合体を形成した場合で、抗原自体の性質や、複合体を形成した場合の構造変化、物理化学的な変化等により、潜在的に異なることがありうる。したがって、3者複合体を測定することで、二重特異性抗体の抗原依存的な薬物動態特性を評価すること、さらにモデリング&シミュレーションを用いた、薬物動態予測を精度高く行うことができる。
【0112】
一つの態様において、試料中に含まれる複合体を構成する成分の少なくとも一つは治療に用いられうる薬剤であり、試料中の複合体の濃度および/または量を基に、薬剤の効果や安全性を評価する方法が提供される。
特定の態様において、薬剤の効果や安全性の評価は前記治療法の決定と同様の方法で行う。
【実施例
【0113】
<実施例1>3者複合体検出の検討
抗FIX/FX二重特異性抗体がFIXおよびFXと結合して形成される3者複合体を特異的に検出するためには、抗体とFIX、抗体とFXが形成する2者複合体や、複合体を形成していない(遊離)抗体、遊離FIX、遊離FXとは区別して3者複合体のみを認識する必要がある(図1)。そこで、当該二重特異性抗体とは別のエピトープを認識する抗FIX抗体および抗FX抗体のうち、片方は固相化し、もう片方の抗体は蛍光標識したものを用いて、3者複合体をサンドイッチすることにより、当該3者複合体を特異的に検出する方法を考案した(図4(A, B))。この測定を実現するにあたり、溶液中における3者複合体は、結合・解離の平衡状態にあると考えられるため、通常のELISAのように、サンプルを固相と1時間といった長い時間インキュベーションすると、平衡が移動してしまい、溶液中の複合体の状態を正しく反映できないと考えられた。また、複合体の抗原抗体間の親和性が十分に高くないため、通常のELISAのように、検出抗体溶液との長いインキュベーションや、多量のバッファーで複数回洗浄するような洗浄では、複合体は容易に解離してしまうため、複合体を再現良く十分な感度で検出するのは困難であると考えられた。そこで、サンプルと固相上の抗体との反応時間が十分に短く、洗浄を少量のバッファーで、かつ短時間で実施できるKinExA(Sapidyne社)を測定機器として採用した。実施例11では、同様の条件での測定を達成できると考えられたGyrolabも測定機器として採用した。
<実施例2>抗FIX抗体、抗FX抗体の選定
本実施例においては、測定法の実現に適した抗FIX抗体および抗FX抗体を選定するため、当該二重特異性抗体をビーズに固相化し、候補となる抗FIX抗体、抗FX抗体を蛍光標識して検出抗体として用いるサンドイッチ法でhFIX、hFXが濃度依存的に検出できるかをKinExA 3200(Sapidyne社)を用いて確認した。また、各凝固因子の活性化体であるhFIXa、hFXaについても同様に検出できるかを検討した。
【0114】
〔ビーズの調製〕
20 μg/mLの抗FIX/FX二重特異性抗体(Q4//J3)溶液を、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline pH7.4, Sigma Aldrich社)で調製した。調製した溶液を、PMMAビーズ(Sapidyne社)1本に対して1 mL加え、室温で2時間インキュベートすることで、抗体をビーズに固相化し、低速で数秒遠心して上清を除いた後、ブロッキングバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 1% BSA, pH 7.4)を加え、室温で1時間インキュベートすることでビーズをブロッキングした。
【0115】
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Lightning-Link(登録商標) Rapid Dylight(登録商標) 650, Innova Biosciences社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FIX抗体(社内調製品:XB12)、抗FX抗体(社内調製品:SB04)の溶液それぞれを、0.5 μg/mL となるようにアッセイバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2mM CaCl2, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製した。調製過程において、蛍光標識体の凝集物を除くために、まず5 μg/mLとなるように調製後、18,000 gで10分間遠心し、上清をさらに希釈して0.5 μg/mLとした。
【0116】
〔サンプルの調製〕
次にhFIX、hFIXa、hFX、およびhFXaの希釈系列サンプルをそれぞれ調製した。hFIX(Enzyme Research Laboratories社)は10, 5, 2.5, 1.25, 0 μg/mL(179, 89.3, 44.6, 22.3, 0 nM)、hFIXa(Enzyme Research Laboratories社)は8, 4, 2, 1, 0 μg/mL(178, 88.9, 44.4, 22.2, 0 nM)、hFX(Enzyme Research Laboratories社)は16, 8, 4, 2, 0 μg/mL(272, 136, 68.0, 34.0, 0 nM)、hFXa(Enzyme Research Laboratories社)は12.5, 6.25, 3.13, 1.56, 0 μg/mL(272, 136, 68.0, 34.0, 0 nM)になるようアッセイバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2mM CaCl2, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製した。
【0117】
〔FIX(FIXa)の測定〕
KinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用した。調製したビーズの懸濁液二本分を、ランニングバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)を24mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移した。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットした。
測定における全てのプロセスは、KinExA 3200とオートサンプラーによって自動で実施された。機器をコントロールするプロトコルはKinExA Proソフトウェア(Sapidyne社)で作成された。プロトコルは、測定の各プロセスに対して、適切な試薬・サンプル位置を指定することで、適切なタイミングで、適切な試薬がサンプリングされるように作成された(以降の実施例において同様)。
まずビーズをフローセル中のカラムに充填した。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化した。次に、カラムにhFIX(hFIXa)の希釈系列サンプルを通過させることで、hFIX(hFIXa)をビーズ上の抗体に捕捉させた。ランニングバッファー(+)(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2 mM CaCl2, 0.02% NaN3, pH 7.4)による第一次洗浄工程後、蛍光標識抗FIX抗体溶液を通過させ、蛍光標識抗FIX抗体を捕捉されたhFIX(hFIXa)に結合させた(図2 (A))。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)の体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:20 μL, 4.8 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:800 μL, 192 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。各サンプルをn=1で測定した。
【0118】
〔FX(FXa)の測定〕
KinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用した。調製したビーズの懸濁液二本分を、ランニングバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3)を24mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移した。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットした。
まずビーズをフローセル中のカラムに充填した。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化した。次に、カラムにhFX(hFXa)を含むサンプルを通過させることで、hFX(hFXa)をビーズ上の抗体に捕捉させた。ランニングバッファー(+)(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2 mM CaCl2, 0.02% NaN3, pH 7.4)による第一次洗浄工程後、蛍光標識抗FX抗体溶液を通過させ、蛍光標識抗FX抗体を捕捉されたhFX(hFXa)に結合させた(図2 (B))。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)の体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:10 μL, 2.4 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:400 μL, 96 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。各サンプルをn=1で測定した。
なお、抗FIX抗体(XB12)、抗FX抗体(SB04)は特許文献(WO 2005/35756)を参照して作製した。
【0119】
〔結果と抗体の選択〕
FIX(FIXa)の測定では、hFIX濃度依存的にシグナル値が得られたことから、XB12は抗FIX/FX二重特異性抗体と別エピトープを認識する抗FIX抗体と考えられたため、本発明の複合体測定法用に選択した(図3 (A))。同様にFX(FXa)の測定では、hFX濃度依存的にシグナル値が得られたことから、抗FX抗体としてSB04を選択した(図3 (B))。また、XB12により、hFIXとhFIXaが同程度のシグナル値で検出できたことから、両者への結合性は大きく変わらないことが示唆された。一方で、SB04により、hFXaの濃度依存的なシグナル値は見られなかった。したがって、これらの抗体を使用することにより、検出可能な3者複合体は、FIXもしくはFIXa、抗FIX/FX二重特異性抗体、そしてFXにより形成されるものであると考えられた。
【0120】
<実施例3>抗FIX/FX二重特異性抗体の親和性評価
抗FIX/FX二重特異性抗体であるQ4//J3抗体およびQ3//J1抗体について抗原との結合に関する速度論的解析を、Biacore T200(GE Healthcare)を用いて実施した(バッファーは10 mM HEPES,150 mM NaCl,0.05% Surfactant P20, 2.5 mM CaCl2, pH 7.4)。アミンカップリング法によりsure Protein A(GE Healthcare)を固定化したSeries S Sensor Chip CM4(GE healthcare)上にQ4//J3抗体またはQ3//J1抗体を捕捉させた。捕捉させたQ4//J3抗体に対して、アナライトとして8-128 nMの濃度に調製したヒトFIX(Enzyme Research Laboratories)、または10-160 nMの濃度に調製したヒトFX(Enzyme Research Laboratories)を注入した。Q3//J1抗体に対しては、80-1280 nMのヒトFIX、または10-160 nMのヒトFXを注入した。測定は全て25℃で実施した。Biacore Evaluation Softwareを用い、1:1 binding model fittingを行うことで結合速度定数ka (1/Ms)、解離速度定数kd(1/s)を算出し、その値から解離定数KD (M) を算出した(表1)。
【0121】
【表1】
EmicizumabのFIX、FXに対する親和性は文献値を参照した(Kitazawa, Thromb Haemost 117(7):1348-1357(2017))。尚、Q4//J3抗体、Q3//J1抗体、EmicizumabはWO2005/035756、WO2006/109592、WO2012/067176に記載の方法に従って取得した抗体である。
【0122】
<実施例4>複合体測定の特異性の検証
実施例2で選定した、抗FIX/FX二重特異性抗体とは別のエピトープを認識する抗FIX抗体(XB12)および抗FX抗体(SB04)を、ビーズ上での捕捉(Capture)、蛍光標識体での検出(Detection)に使用する、もしくは、反対にDetection、Captureにそれぞれ使用する、2つの測定Format 1および2において、3者複合体が特異的に検出できるかを検証した(図4(A、B))。
【0123】
〔ビーズの調製〕
実施例2に記載の方法でXB12とSB04をそれぞれPMMAビーズ(Sapidyne社)に固相化し、ブロッキングした。
【0124】
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Lightning-Link(登録商標) Rapid Dylight(登録商標) 650, Innova Biosciences社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FIX抗体(社内調製品:XB12)、抗FX抗体(社内調製品:SB04)の溶液それぞれを実施例2に従って調製した。
【0125】
〔サンプルの調製〕
hFIX、hFXと、二重特異性抗体(Q4//J3)の三者を、それぞれ5, 8, 12.5 μg/mL(89.3, 136, 83.3 nM)の濃度でスパイクしたサンプル、また、三者のうち一者を欠いたサンプル、二者を欠いたサンプルの全ての組み合わせについてアッセイバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製した。三者全てをスパイクしたサンプル(Sample No.1)、二重特異性抗体とhFIXをスパイクしたサンプル(Sample No.2)、二重特異性抗体とhFXをスパイクしたサンプル(Sample No.3)、hFIXとhFXをスパイクしたサンプル(Sample No.4)、二重特異性抗体のみスパイクしたサンプル(Sample No.5)、hFIXのみスパイクしたサンプル(Sample No.6)、hFXのみスパイクしたサンプル(Sample No.7)およびブランクサンプル(Sample No.8)を調製した(表2)。hFIXおよびhFXの濃度については、生理学的な濃度(血漿中濃度)として設定した。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで1時間室温でインキュベートした。
【0126】
【表2】
【0127】
〔測定〕
KinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用した。調製したビーズの懸濁液一本分を、ランニングバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)を25mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移した。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットした。Format 1では、まずXB12を固相化したビーズをフローセル中のカラムに充填した。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化した。次に、カラムに調製したサンプルを通過させることで、遊離したhFIX、hFIXと二重特異性抗体の2者複合体、また二重特異性抗体がhFIX、hFX両方と結合した3者複合体をビーズに捕捉させた。ランニングバッファー(+)(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2 mM CaCl2, 0.02% NaN3, pH 7.4)による第一次洗浄工程後、蛍光標識SB04溶液を通過させ、蛍光標識SB04抗体を捕捉された3者複合体中のhFXに結合させた。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された(図5 (A))。一方、Format 2では、まずSB04を固相化したビーズをフローセル中のカラムに充填した。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化した。次に、カラムにサンプルを通過させることで、遊離したhFX、hFXと二重特異性抗体の2者複合体、また二重特異性抗体がhFIX、hFX両方と結合した3者複合体をビーズに捕捉させた。ランニングバッファー(+)による第一次洗浄工程後、蛍光標識XB12溶液を通過させ、蛍光標識XB12抗体を捕捉された3者複合体中のhFIXに結合させた。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された(図5 (B))。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)の体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:50 μL, 12 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:800 μL, 192 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。各サンプルをn=1で測定した。
【0128】
〔結果〕
二つのFormatにおいて、三者が揃ったサンプル(Sample No.1)のみで高いシグナル値が得られ一者でも欠けたサンプルでは、これに比べて低かった。したがって、両Formatにより、3者複合体が検出されることが示された。一方で、Sample No.1以外のサンプルについて、Format 2では、二重特異性抗体とhFIXをスパイクしたサンプル(Sample No.2)、hFIXとhFXをスパイクしたサンプル(Sample No.4)、およびhFIXのみをスパイクしたサンプル(Sample No.6)で高い傾向があったことから、hFIXにより、シグナルが検出されてしまっている可能性があると考えられた。Format 1では、Sample No.1を除くと、hFIXとhFXをスパイクしたサンプル(Sample No.4)で、ブランクサンプル(Sample No.8)よりもシグナル値が高い傾向があった。(図5 (A, B))。そこで以降の検討においては、Format 1を用いて、三者が含まれるサンプルのシグナル値と、FIXとFXのみを含むサンプルのシグナル値の差分を、3者複合体由来のシグナル値と捉えるのが妥当であると考えられた。
【0129】
<実施例5>3者複合体形成のシミュレーション
FIX、FXと、抗FIX/FX二重特異性抗体が形成する3者複合体が、二重特異性抗体のFIXおよびFXに対する親和性を変化させた場合にどのように形成されるかを、解離定数KDを用いたシミュレーションにより考察した。
【0130】
〔方法〕
3者複合体の濃度のシミュレーションは文献で用いられている方法を使用した(Thromb Haemost, 117(7), 1348-1357, 2017.)。計算にはMicrosoft Excel 2013を用いた。このシミュレーションにおいて、FIX濃度、FX濃度、二重特異性抗体濃度、および二重特異性抗体のFIX、FXに対する各KD値をそれぞれ規定する必要があるため、FIXとFXの濃度は生理学的な濃度(血漿中濃度)として、それぞれ5, 8 μg/mL (89.3, 136 nM)一定と設定し、抗FIX/FX二重特異性抗体濃度を0.0122-1600 μg/mL (0.0814-10667 nM)の範囲で2倍ずつ変化させた。二重特異性抗体のFIXおよびFXに対するKD値については、双方が等しい条件と、FIXに対するKD値がFXに対するKD値の2倍となる条件で、FIXに対するKD値を5-2560 nMの範囲で2倍ずつ変化させた。各条件における3者複合体濃度をシミュレーションし、Y軸に3者複合体濃度、X軸に二重特異性抗体濃度をとり、各値をプロットした。
【0131】
〔結果〕
FIX、FXに対するKD値が等しい場合のシミュレーションにおいて、二重特異性抗体濃度と3者複合体濃度のシミュレーション値の関係性は、ベルシェイプの形態をとり、その形状はKD値に従って変化した。3者複合体濃度がピークとなる二重特異性抗体濃度は、FIX、FXに対するKD値が低くなるほど低濃度側にシフトするが、KD値が5-40 nMの範囲では、ピークとなる二重特異性抗体濃度は83.3-167 nMで変わらなかった。また、二重特異性抗体濃度を一定として、KD値が変化した際の3者複合体濃度は、KD値が小さくなるほど上昇するが、KD値が小さい領域ほど、その上昇の割合は小さくなることが示された(図6(A))。FIXに対するKD値がFXに対するKD値の2倍となる場合のシミュレーションにおいても、上記の傾向は同様に見られた(図6(B))。
【0132】
<実施例6>実測値とシミュレーション値の比較
実施例5のシミュレーション結果より、比較的高い親和性をもつ(KD値が小さい)二重特異性抗体では、KD値の変化による3者複合体濃度への影響は小さかった。したがって、親和性の高い二重特異性抗体では、KD値に測定誤差があったとしても、3者複合体濃度のシミュレーションに大きく影響しないため、測定値とシミュレーション値が合致しやすいと考えられた。そこで、比較的親和性の高いQ4//J3抗体を用いて、測定された3者複合体シグナル値と、シミュレーション値との比較を行った。
【0133】
〔ビーズの調製〕
実施例2に記載の方法でXB12をPMMAビーズ(Sapidyne社)に固相化し、ブロッキングした。
【0134】
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Lightning-Link(登録商標) Rapid Dylight(登録商標) 650, Innova Biosciences社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FX抗体(社内調製品:SB04)を、実施例2に従って調製した。
【0135】
〔サンプルの調製〕
hFIXとhFXをそれぞれ5, 8 μg/mL(89.3, 136 nM)一定とし、Q4//J3抗体を0.195-200 μg/mL(1.30-1333 nM)の間で公比2の計11点の濃度でスパイクしたサンプルをアッセイバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA pH 7.4)で調製した。hFIXとhFXのみスパイクし、Q4//J3抗体をスパイクしないサンプルをブランクサンプルとした。hFIX、hFXの濃度については、生理学的な濃度(血漿中濃度)として設定した。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで1時間室温でインキュベートした。
【0136】
〔測定〕
KinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用した。調製したビーズの懸濁液一本分を、ランニングバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)を25 mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移した。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットした。まずXB12を固相化したビーズをフローセル中のカラムに充填した。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化した。次に、カラムにサンプルを通過させることで、遊離したhFIX、hFIXと二重特異性抗体の2者複合体、また二重特異性抗体がhFIX、hFX両方と結合した3者複合体をビーズに捕捉させた。ランニングバッファー(+)(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2 mM CaCl2, 0.02% NaN3, pH 7.4)による第一次洗浄工程後、蛍光標識SB04溶液を通過させ、蛍光標識SB04抗体を捕捉された3者複合体中のhFXに結合させた。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)の体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:50 μL, 12 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:800 μL, 192 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。ブランクサンプルをn=5、その他のサンプルをn=1で測定した。
【0137】
〔解析〕
n=5で測定したブランクサンプルのシグナル値の平均(Mean)、標準偏差(SD)を算出し(Microsoft Excel 2013)、Mean+3.29×SDを検出限界として設定した。その他のサンプルのシグナル値のうち、検出限界以上のサンプルについて、ブランクサンプルのシグナル値のMeanを差し引くことで、3者複合体シグナル値を算出した。同時に、調製したサンプル中のhFIX, hFX, およびQ4//J3抗体濃度とKD値(実施例3参照)から、各サンプル中の3者複合体濃度をシミュレーションした(実施例5参照)。得られた3者複合体シグナル値と、シミュレーション値を比較するため、これらを左右のY軸(シグナル値は黒丸、シミュレーション値は点線)に、またQ4//J3抗体濃度をX軸にとり、プロットを作成した(図7 (A))。加えて、Y軸を3者複合体シグナル値、X軸をシミュレーション値として、得られた結果をプロットし、Microsoft Excel 2013を用いて相関解析を行った。相関解析では、線形近似曲線を引き、R2値を算出した(図7 (B))。
【0138】
〔結果〕
Q4//J3抗体の添加濃度に従って、3者複合体シグナル値はベルシェイプの形状を取り、これはシミュレーションから推測された形状と一致していた。また、X軸をシミュレーション値、Y軸を3者複合体シグナル値としてプロットした図7 (B)において、直線関係が得られた。これらのことから、Q4//J3抗体が形成する3者複合体の実測値は、シミュレーションによって説明できることが示された。そこで、シミュレーションが正しいという仮定のもと、Q4//J3抗体の濃度を変えて調製した3点以上のサンプルの3者複合体シグナル値とシミュレーション値との対応を得ることにより、未知の濃度の二重特異性抗体を含むサンプルを測定した際に、得られた3者複合体シグナル値から、回帰により3者複合体濃度を算出できると考えられた。
【0139】
<実施例7>親和性の異なる抗体での3者複合体の評価
親和性の異なる3種の抗FIX/FX二重特異性抗体(Q4//J3、Q3//J1、Emicizumab)について、それぞれが形成する3者複合体濃度の比較を行った。
【0140】
〔ビーズの調製〕
実施例6に記載の方法で調製した。
【0141】
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Lightning-Link(登録商標) Rapid Dylight(登録商標) 650, Innova Biosciences社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FX抗体(社内調製品:SB04)を、実施例2に従って調製した。
【0142】
〔サンプルの調製〕
hFIXとhFXをそれぞれ5, 8 μg/mL(89.3, 136 nM)一定とし、Q4//J3抗体を0.0488-50 μg/mL (0.326-333 nM)の間で公比4の計6点、Q3//J1抗体を1.38-354 μg/mL(9.20-2360 nM)の間で公比2の計9点、Emicuzumabを6.25-400 μg/mL(41.7-2667 nM)の間で公比2の計7点の濃度でそれぞれスパイクしたサンプルをアッセイバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製した。hFIXとhFX のみスパイクし、抗FIX/FX二重特異性抗体をスパイクしないサンプルをブランクサンプルとした。hFIX、hFXの濃度については、生理学的な濃度(血漿中濃度)として設定した。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで1時間室温でインキュベートした。
【0143】
〔測定〕
KinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用した。調製したビーズの懸濁液一本分を、ランニングバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)を25 mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移した。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットした。まずXB12を固相化したビーズをフローセル中のカラムに充填した。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化した。次に、カラムにサンプルを通過させることで、遊離したhFIX、hFIXと二重特異性抗体の2者複合体、また二重特異性抗体がhFIX、hFX両方と結合した3者複合体をビーズに捕捉させた。ランニングバッファー(+)(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2 mM CaCl2, 0.02% NaN3, pH 7.4)による第一次洗浄工程後、蛍光標識SB04溶液を通過させ、蛍光標識SB04抗体を捕捉された3者複合体中のhFXに結合させた。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)の体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:135 μL, 32.4 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:800 μL, 192 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。ブランクサンプルをn=5、その他のサンプルをn=1で測定した。
【0144】
〔解析〕
n=5で測定したブランクサンプルのシグナル値の平均(Mean)、標準偏差(SD)を算出し(Microsoft Excel 2013)、Mean+3.29×SDを検出限界として設定した。その他のサンプルのシグナル値うち、検出限界以上のサンプルについて、ブランクサンプルのシグナル値のMeanを差し引くことで、3者複合体シグナル値を算出した。3者複合体シグナル値をY軸に、抗FIX/FX二重特異性抗体濃度をX軸にとり、測定値をプロットした(図8 (A))。同時に、Q4//J3抗体をスパイクしたサンプル中の3者複合体濃度をシミュレーションし(実施例6参照)、Y軸をQ4//J3抗体をスパイクしたサンプルの3者複合体シグナル値、X軸をシミュレーション値として、得られた結果をプロットし、Microsoft Excel 2013を用いて直線に回帰を行い、回帰式およびR2値を算出した(図8 (B))。続いてQ3//J1抗体、Emicizumabをスパイクしたサンプルの3者複合体シグナル値を回帰式より、濃度に換算した。換算した濃度をY軸、抗FIX/FX二重特異性抗体濃度をX軸にとり、プロットした(図8 (C))。
【0145】
〔結果〕
3者複合体シグナル値と抗FIX/FX二重特異性抗体濃度の関係は、親和性の異なる3種類のどの抗体においても、ある濃度でシグナル値が極大を示すベルシェイプ型の形状を示した。また、抗体の親和性に依存して、3者複合体シグナル値の強度が異なっており、親和性が高い(KD値が小さい)ほど低い抗体濃度でシグナル値が観察され、また最大となるシグナル値の強度も高かった。Q3//J1抗体が形成する3者複合体濃度は、抗体濃度が44.3 μg/mL(295 nM)の時、最大となり、20.4 nMであった(図8 (C))。この時サンプル中の抗体、hFIX、hFXのうち、それぞれ6.90%、22.8%、15.0%が3者複合体を形成していることになる。また、Emicizumabが形成する3者複合体濃度は、抗体濃度が100 μg/mL(667 nM)の時、最大となり、10.4 nMであった(図8 (C))。この時サンプル中の抗体、hFIX、hFXのうち、それぞれ1.56%、11.6%、7.65%が3者複合体を形成していることになる。したがって、両抗体において、3者複合体の形成割合は、どの成分に対しても、低いことが確かめられた。
【0146】
<実施例8>アッセイ中の複合体の解離の影響の検討
親和性の異なる抗FIX/FX二重特異性抗体が形成する3者複合体を測定する工程において、複合体がビーズに捕捉された後の洗浄時における3者複合体の解離の程度が、親和性によって異なる可能性が考えられる。そこで、親和性の異なる抗FIX/FX二重特異性抗体間で、洗浄時のシグナル値の挙動が異なるかを検討することにより、3者複合体の解離がシグナル値へ与える影響を評価した。
【0147】
〔解析〕
実施例7で行った測定において、Q4//J3抗体を3.13 μg/mL(20.8 nM)、Q3//J1抗体を11.1 μg/mL(74.0 nM)、Emicizumabを100 μg/mL(667 nM)スパイクした各サンプルにおいて、3者複合体シグナル値が同程度であったことから、これらのサンプル測定において、ビーズ上に親和性の異なる3者複合体が同程度捕捉され、検出されたと考えられる。そこで、これらのサンプル測定における、洗浄時のシグナル値の挙動を比較し、3者複合体の解離の程度を比較した。洗浄時のシグナル値の挙動を比較するために、KinExA Proソフトウェアより、各サンプルの測定工程中のシグナル値を出力し、Y軸にシグナル値、X軸に時間をとった図にプロットした。3種類のサンプルの各サンプル間の差分を同時に求め、同様にプロットした(図9 (A-C))。図9において、測定開始から約250秒間はビーズの充填、サンプルの捕捉と洗浄工程が続くため、KinExAのシグナル値は一定値を取る。その後、蛍光標識された検出抗体がカラムを通過するため、大きくシグナル値は上昇し、その後、洗浄工程に入るため、シグナル値は低下し、最終的に、ベースラインから上昇した部分がシグナル値として得られる。洗浄工程において、3者複合体の解離が存在する場合、検出抗体の洗浄工程において、遊離した検出抗体が洗浄されるのと同時に、ビーズ上に捕捉された複合体の解離がシグナル値の低下として観察される可能性がある。そのため、親和性の異なる複合体間で解離に差があれば、サンプル間のシグナル値の差分の時間依存的な変化として観察されるはずである。
【0148】
〔結果〕
いずれのサンプル間の比較においても、同様のシグナル値推移を示し、検出抗体の洗浄工程におけるサンプル間のシグナル値の差分(Difference)は変動しなかった。これらのことから、親和性が異なる抗FIX/FX二重特異性抗体間において、測定中の3者複合体の解離の程度は、シグナル値に影響を与えるほどの差は無いと考えられた。
【0149】
<実施例9>時間依存的な複合体形成の測定
抗FIX/FX二重特異性抗体が形成する3者複合体を測定する際に、複合体をビーズに捕捉する工程で、サンプル中では複合体を形成していなかったFIX、FX、抗FIX/FX二重特異性抗体が、ビーズ上で新たな複合体を形成する可能性が考えられる。そこで、hFIX、hFXを添加したサンプルに対して、抗FIX/FX二重特異性抗体を添加し、混和した後の複数の時点で経時的に3者複合体シグナル値を検出することで、時間依存的なシグナル値変化を評価した。混和後の時間経過に従ってシグナル値が上昇すれば、溶液中で起きた複合体形成がシグナル値に反映されていることを確かめることができる。また、3者複合体シグナル値が一定となる時点を知ることにより、平衡に達するまでの時間を知ることができる。Q3//J1抗体とEmicizumab(実施例7参照)を使用した。
【0150】
〔ビーズの調製〕
実施例6に記載の方法で調製した。
【0151】
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Lightning-Link(登録商標) Rapid Dylight(登録商標) 650, Innova Biosciences社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FX抗体(社内調製品:SB04)を、実施例2に従って調製した。
【0152】
〔サンプル調製〕
まず、hFIXとhFXをアッセイバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)にそれぞれ5, 8 μg/mL(89.3, 136 nM)添加したサンプルを調製した。ここに、Q3//J1抗体を終濃度5.54 μg/mL(36.9 nM)となるように、測定直前に添加し混和した。同様にEmicizumabを終濃度100 μg/mL(667 nM)となるように、測定直前に添加し混和した。hFIXとhFX のみスパイクし、抗FIX/FX二重特異性抗体をスパイクしないサンプルをブランクサンプルとした。
【0153】
〔測定〕
KinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用した。調製したビーズの懸濁液一本分を、ランニングバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)を25 mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移した。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットした。まずXB12を固相化したビーズをフローセル中のカラムに充填した。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化した。次に、カラムにサンプルを通過させることで、遊離したhFIX、hFIXと二重特異性抗体の2者複合体、また二重特異性抗体がhFIX、hFX両方と結合した3者複合体をビーズに捕捉させた。ランニングバッファー(+)(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2 mM CaCl2, 0.02% NaN3, pH 7.4)による第一次洗浄工程後、蛍光標識SB04溶液を通過させ、蛍光標識SB04抗体を捕捉された3者複合体中のhFXに結合させた。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)の体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:135 μL, 32.4 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:800 μL, 192 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。
調製したサンプルのうち、測定直前にQ3//J1抗体を添加して混和したサンプルを一つのランで測定し、Emicizumabを添加して混和したサンプルは、別のランで測定した。KinExA Proソフトウェア(Sapidyne社)に組み込まれているKineticsモードを使用することで、混和後のサンプルを経時的に繰り返し測定し、各時点について、KinExAシグナルと混和から測定までの経過時間を記録した。繰り返し測定は約12分間隔で行われ、計10点のデータを得た。また、ブランクサンプルをn=5で測定した。
【0154】
〔解析〕
各KinExAシグナル値から、ブランクサンプルのシグナル値の平均値を差し引くことで、3者複合体シグナル値を算出した。Y軸に抗体添加・混和から測定までの経過時間、X軸に3者複合体シグナル値をとり、測定値をプロットした(図10)。
【0155】
〔結果〕
Q3//J1抗体、Emicizumabともに、時間依存的にシグナル値は増大し、混和後60分程度でシグナル値ほぼ一定になることが確認されたため、この時点で平衡状態に達していると考えられた。また、サンプルがビーズを通過する際に、ビーズ上でFIXと二重特異性抗体の結合、二重特異性抗体とFXの結合が新たに生じ、新たに3者複合体が形成される寄与があり得るが、その場合、混和後0分でも複合体シグナル値が得られることが考えられる。測定機器の性質上、混和後0分の時点のシグナル値を得ることはできないため、最初の測定時点である約0.5分におけるシグナル値が平衡達成時の約3割程度であること、シグナル値の上昇は、混和直後が最も大きいことから考察すると、ビーズ上での複合体形成の寄与は低いと考えられる。したがって、測定された3者複合体シグナル値の大部分は、本測定において興味の対象としている、溶液中で形成された複合体由来であると考えられた。
【0156】
<実施例10>Gyrolabを用いた3者複合体の評価
他の実施例でKinExA(Sapidyne社)を用いて実施した3者複合体測定を、同様に、Gyrolab(Gyros Protein Technologies社)を用いて行った。Gyrolabは全自動リガンドバインディングアッセイシステムであり、専用のBioaffy CDを用いて、測定を行う。CD上の流路にアフィニティビーズカラムがあり、流路を通じて、カラム内にサンプルを短時間で通すことにより、ビーズに固相した抗体により、サンプル中の分析物は特異的に捕捉される。捕捉した分析物はさらに特異的な抗体の蛍光標識体を用いて検出される。これらの測定フローにより、特に短時間でサンプル中の分析物を捕捉することと、洗浄工程の洗浄量・時間が自動で制御されているという点において、GyrolabはKinExA と似た性質を持つことから、これを測定機器として選定した。実際に、KinExAとGyrolabの測定原理が類似していることから、これらはサンプル中の遊離抗体を測定することによる溶液中の抗原抗体反応の解離定数算出に用いられている(Anal Biochem. 15;426(2):134-41, 2012)。
【0157】
〔捕捉抗体溶液の調製〕
GyrolabのCDはストレプトアビジンビーズがセットされているため、捕捉に使用するXB12は、Sulfo-NHS-LC-Biotin(Thermo Scientific社)によりビオチン化した(biotin-XB12)。プロトコルは製品プロトコルを参照した。ビオチン化処理後、フリーのビオチン試薬を除くため、Zeba Spin Desalting Columns(Thermo Scientific社)で処理した。100 μg/mL の溶液となるようにバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)で調製した。凝集物を除くために、18,000 gで10分間遠心し、上清を使用した。
【0158】
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Alexa Fluor 647 Antibody Labeling Kit, Thermo Scientific社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FX抗体(社内調製品:SB04)を、3 μg/mL の溶液となるようにアッセイバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製した。蛍光標識体の凝集物を除くために、18,000 gで10分間遠心し、上清を使用した。
【0159】
〔サンプルの調製〕
hFIXとhFXをそれぞれ5, 8 μg/mL(89.3, 136 nM)一定とし、Q4//J3抗体を0.195-50 μg/mL (1.30-333 nM)の間で公比4の計5点の濃度でそれぞれスパイクしたサンプルをアッセイバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製した。hFIXとhFX のみスパイクし、抗FIX/FX二重特異性抗体をスパイクしないサンプルをブランクサンプルとした。hFIX、hFXの濃度については、生理学的な濃度(血漿中濃度)として設定した。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで1時間室温でインキュベートした。
【0160】
〔測定〕
Gyrolab xP workstation(Gyros Protein Technologies社)を測定機器として、Bioaffy 200を測定用のCDとして使用した。測定における全てのプロセスは、Gyrolabによって自動で実施された。機器をコントロールするプロトコルはGyrolab Controlソフトウェア(Gyros Protein Technologies社)内の200-3W-001 Wizard methodを使用し、捕捉抗体、サンプル、検出抗体の順に操作が進行し、各ステップの間で洗浄工程が入るようにした。捕捉抗体、検出抗体濃度は、シグナル値対ノイズ比が高かった条件として設定した。洗浄工程では、アッセイバッファー(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 1.2 mM CaCl2, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)を用いた。作成したプロトコルから生成されるプレートデザインに従って、専用のPCRプレートに捕捉抗体溶液、サンプル、検出抗体溶液、洗浄用のアッセイバッファーを加え、測定前にプレートを機器にセットした。測定の工程において、まず、biotin-XB12溶液が流路を通じて、ストレプトアビジンビーズに捕捉される。洗浄工程後、サンプル中の遊離したhFIX、hFIXと二重特異性抗体の2者複合体、またhFIX、hFXと二重特異性抗体の3者複合体が、ビーズ上のbiotin-XB12により捕捉され、洗浄工程後、蛍光標識SB04溶液を通過させ、蛍光標識SB04抗体を捕捉された3者複合体中のhFXに結合させた。検出は、光電子増倍管(PMT)によるレスポンスの増幅レベルの設定3種類の固定値(1, 5, 25%)で実施され、各設定での測定値が記録された。調製したサンプルのうち、ブランクサンプルをn=5、Q4//J3抗体をスパイクしたサンプルをn=3で測定した。
【0161】
〔解析〕
PMT1%の条件で検出されたレスポンスが、十分大きく、検出器の飽和が起きていない値であったため、これを解析に使用した。n=5で測定したブランクサンプルのレスポンスの平均(Mean)、標準偏差(SD)を算出し(Microsoft Excel 2013)、Mean+3.29×SDを検出限界として設定した。その他のサンプルのレスポンスのうち、検出限界以上のサンプルについて、ブランクサンプルのレスポンスのMeanを差し引くことで、3者複合体レスポンスを算出した。3者複合体レスポンスをY軸に、抗FIX/FX二重特異性抗体濃度をX軸にとり、測定値をプロットした(図11 (A))。同時に、Q4//J3抗体をスパイクしたサンプル中の3者複合体濃度をシミュレーションし(実施例6参照)、Y軸をQ4//J3抗体をスパイクしたサンプルの3者複合体シグナル値、X軸をシミュレーション値として、得られた結果をプロットし、Microsoft Excel 2013を用いて直線に回帰を行い、回帰式およびR2値を算出した(図11 (B))。
【0162】
〔結果〕
3者複合体レスポンスとQ4//J3抗体濃度の関係は、Q4//J3抗体濃度が83.3 nMでレスポンスが極大を示すベルシェイプ型の形状を示した(図11(A))。また、X軸をシミュレーション値、Y軸を3者複合体レスポンスとしてプロットした図において、直線関係が得られた(図11(B))。この結果は、実施例6、7においてKinExAで測定した結果と同等のものであったことから、Gyrolabにおいても、KinExAと同様に3者複合体測定が可能であると考えられた。
【0163】
<実施例11>ヒト血漿中における親和性の異なる抗体での3者複合体の評価
親和性の異なる3種の抗FIX/FX二重特異性抗体(Q4//J3、Q3//J1、Emicizumab)について、先天的Factor VIII欠損ヒト血漿中で、それぞれが形成する3者複合体濃度の比較をKinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として用いて行った。
【0164】
〔ビーズの調製〕
実施例6に記載の方法で調製した
【0165】
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Lightning-Link(登録商標) Rapid Dylight(登録商標) 650, Innova Biosciences社を用いて製造元のプロトコル通り調製)した抗FX抗体(社内調製品:SB04)を、実施例2に従って調製した。
【0166】
〔緩衝作用、抗凝固作用を持たせた血漿の調製〕
先天的Factor VIII欠損ヒト血漿(George King Bio-Medical社)に、9分の1当量の1M HEPES buffer solution(pH 7.1-7.5, nacalai tesque社)を加え、さらに10000 unit/ 10 mL Heparin Sodium(Mochida Pharmaceutical社)を終濃度10 unit/mLとなるように添加した。本実験において、通常のELISA同様に血漿を希釈して測定してしまうと、希釈による複合体の解離が起きるため、血漿中の複合体を測定する目的を果たすことはできない。しかしながら、血漿をそのまま使用すると、血漿中炭酸イオン濃度変化によるpH変化が起こり、生理的な状況を反映できない。そのため、これを抑える目的で、HEPES buffer solutionによる緩衝作用を用いている。また、凝固反応をより抑えるためにHeparin Sodiumを添加している。このように調製した血漿を、以下ではFVIIId(++)血漿とする。
【0167】
〔サンプルの調製〕
Q4//J3抗体を0.0488-50 μg/mL (0.326-333 nM)の間で公比4の計6点、Q3//J1抗体を1.38-354 μg/mL(9.20-2360 nM)の間で公比2の計9点、Emicuzumabを6.25-400 μg/mL(41.7-2667 nM)の間で公比2の計7点の濃度でそれぞれスパイクしたFVIIId(++)血漿サンプルを調製した。抗FIX/FX二重特異性抗体をスパイクしないFVIIId(++)血漿をブランクサンプルとした。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで1時間室温でインキュベートした。
【0168】
〔測定〕
KinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用した。調製したビーズの懸濁液一本分を、ランニングバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 0.02% NaN3, pH 7.4)を25 mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移した。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットした。測定における全てのプロセスは、KinExA 3200とオートサンプラーによって自動で実施された。機器をコントロールするプロトコルはKinExA Proソフトウェア(Sapidyne社)で作成された。プロトコルは、測定の各プロセスに対して、適切な試薬・サンプル位置を指定することで、適切なタイミングで、適切な試薬がサンプリングされるように作成された。まずXB12を固相化したビーズをフローセル中のカラムに充填した。アプライするビーズの懸濁液の量は、ビーズが再現良く適切な高さまで充填されるようカメラでモニターし、最適化した。次に、カラムにサンプルを通過させることで、遊離したhFIX、hFIXと二重特異性抗体の2者複合体、また二重特異性抗体がhFIX、hFX両方と結合した3者複合体をビーズに捕捉させた。ランニングバッファー(+)(0.01 M HEPES, 0.15 M NaCl, 0.05% Surfactant P20, 1.2 mM CaCl2, 0.02% NaN3, pH 7.4)による第一次洗浄工程後、蛍光標識SB04溶液を通過させ、蛍光標識SB04抗体を捕捉された3者複合体中のhFXに結合させた。ランニングバッファー(+)による第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+)の体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:135 μL, 32.4 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:800 μL, 192 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー(+):1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。ブランクサンプルをn=5、その他のサンプルをn=1で測定した。
【0169】
〔解析〕
解析には、Microsoft Excel 2013およびGraphPad Prism(GraphPad Software社)を用いた。n=5で測定したブランクサンプルのシグナル値の平均(Mean)、標準偏差(SD)を算出し、Mean+3.29×SDを検出限界として設定した。その他のサンプルのシグナル値のうち、検出限界以上のサンプルについて、ブランクサンプルのシグナル値のMeanを差し引くことで、3者複合体シグナル値を算出した。3者複合体シグナル値をY軸に、抗FIX/FX二重特異性抗体濃度をX軸にとり、測定値をプロットした(図12(A))。同時に、Q4//J3抗体をスパイクしたサンプル中の3者複合体濃度をシミュレーションした(実施例6参照)。この時、FIXとFXの濃度は生理学的な濃度として、それぞれ5, 8 μg/mL(89.3, 136 nM)と仮定した。続いて、Y軸を3者複合体シグナル値、X軸をシミュレーション値として得られた結果をプロットした。スパイクした抗体濃度として0.0488-12.5 μg/mL (0.326-83.3 nM) の範囲においてy=a(x/(x+b))の関係が観察されたため、この範囲でのプロットに対して非線形回帰を行い、回帰式およびR2値を算出した(図12(B))。Q3//J1抗体、Emicizumabをスパイクしたサンプルの3者複合体シグナル値を図12(B)の回帰式より、濃度に換算した。換算した濃度をY軸、抗FIX/FX二重特異性抗体濃度をX軸にとり、プロットした(図12(C))。
【0170】
〔結果〕
抗FIX/FX二重特異性抗体の親和性に依存して、3者複合体シグナル値の強度が異なっており、親和性が高い(KD値が小さい)ほど低い抗体濃度でシグナル値が観察された。Q4//J3抗体と、Q3//J1抗体においては、調製したサンプルの濃度域でシグナル値の飽和が見られた。Q4//J3抗体においては、抗体濃度が12.5-50 μg/mL(83.3-333 nM)でシグナル値が飽和し、Q3//J1抗体においては、抗体濃度が177-354 μg/mL(1180-2360 nM)でシグナル値が飽和する傾向を示した。Emicizumabにおいては、抗体濃度が400 μg/mL (2667 nM)までシグナル値が飽和しなかった。
【0171】
<実施例12>抗IL-6R抗体と可溶型IL-6Rが形成する複合体測定の特異性の検証
抗IL-6R抗体(Tocilizumab)と可溶型hIL-6Rが形成する2者複合体を検出するために、Tocilizumabが認識するものとは別のエピトープを認識する抗IL-6R抗体、および、抗hIgG Fc抗体を用いて複合体を特異的に認識する方法(図13)を考案し、この特異性を検証した。
【0172】
〔ビーズの調製〕
実施例2に記載の方法と同様に、Tocilizumabが認識するものとは別のエピトープを認識する抗IL-6R抗体(Clone # 17506, R&D Systems社)をPMMAビーズ(Sapidyne社)に固相化し、ブロッキングした。
【0173】
〔検出抗体溶液の調製〕
蛍光標識(Alexa FluorTM 647 Antibody Labeling Kit, Thermo Fisher Scientific社を用いて製造元のプロトコルに沿って調製)した抗hIgG Fc抗体の溶液を実施例2と同様に調製した。
【0174】
〔サンプルの調製〕
TocilizumabとIL-6Rを、それぞれ1, 0.1 μg/mLの濃度でスパイクしたサンプル、また、片方のみスパイクしたサンプル、ブランクサンプルについてアッセイバッファー(0.01 M phosphate buffered saline, 0.138M NaCl, 0.0027M KCl, 0.05% Tween 20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製した(表3)。hIL-6Rの濃度については、生理学的な濃度として設定した。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで3時間室温でインキュベートした。
【0175】
【表3】
【0176】
〔測定〕
2者複合体の結合平衡の移動を最小限にするため、サンプルと固相抗体の接触時間が0.5秒未満と短いKinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用した。調製したビーズの懸濁液一本分を、ランニングバッファー(0.01 M phosphate buffered saline, 0.138M NaCl, 0.0027M KCl, 0.05% Tween 20, 0.02% NaN3, pH 7.4)を25mL充填したビーズボトル(Sapidyne社)に移した。KinExA 3200のオートサンプラーにおける各位置に、ビーズボトル、サンプル、検出抗体溶液をセットした。測定において、まずTocilizumabが認識するものとは別のエピトープを認識する抗IL-6R抗体を固相化したビーズをフローセル中のカラムに充填し、次に、カラムに調製したサンプルを通過させることで、遊離したhIL-6Rと、hIL-6RとTocilizumabの2者複合体をビーズに捕捉させた。ランニングバッファーによる第一次洗浄工程後、蛍光標識抗hIgG Fc抗体溶液を通過させ、ビーズ上に捕捉された2者複合体中のTocilizumabに結合させた。ランニングバッファーによる第二次洗浄、第三次洗浄工程後、測定開始時のベースラインから上昇した蛍光強度としてKinExAシグナルが検出された(図14)。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファーの体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:50 μL, 12 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー:125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:500 μL, 120 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー:125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー:1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。各サンプルをn=1で測定した。
【0177】
〔結果〕
二者が揃ったサンプル(Sample No.1)のみで高いシグナル値が得られ、一者のみスパイクしたサンプル(Sample No.2, 3)では、スパイクしていないブランクサンプル(Sample No.4)と同程度であった。したがって、本測定法により、2者複合体を特異的に検出することができることが確かめられた。また、二者が含まれるサンプルのシグナル値と、ブランクサンプルのシグナル値の差分を、2者複合体由来のシグナル値と捉えるのが妥当であると考えられた。
【0178】
<実施例13>抗IL-6R抗体と可溶型IL-6Rが形成する複合体測定における実測値とシミュレーション値の比較
実施例6と同様に、抗IL-6R抗体と可溶型IL-6Rが形成する複合体の測定においても、測定値とシミュレーション値との比較を行った。これにより、本測定において、KD値にしたがって複合体が形成され、かつ、結合平衡が大きくシフトせずに測定されることを確認した。
【0179】
〔ビーズの調製〕
実施例12と同様に実施した。
【0180】
〔検出抗体溶液の調製〕
実施例12と同様に実施した。
【0181】
〔サンプルの調製〕
IL-6Rを0.103 μg/mL(2 nM)一定とし、Tocilizumabを0, 0.003, 0.009, 0.03, 0.09, 0.3, 0.9, 3 μg/mL(0, 0.04, 0.12, 0.4, 1.2, 4, 12, 40 nM)と振った計8点の濃度でスパイクしたサンプルをアッセイバッファー(0.01 M phosphate buffered saline, 0.138M NaCl, 0.0027M KCl, 0.05% Tween 20, 0.02% NaN3, 0.1% BSA, pH 7.4)で調製した。スパイクしないサンプルをブランクサンプルとした。hIL-6Rの濃度については、生理学的な濃度として設定した。サンプル調製後、複合体の形成が平衡状態に達するように、測定するまで3時間室温でインキュベートした。
【0182】
〔測定〕
KinExA 3200(Sapidyne社)を測定機器として使用し、実施例12と同様の手順で測定を実施した。サンプル、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー、検出抗体溶液、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー、また第三次洗浄工程におけるランニングバッファーの体積、時間、流速をそれぞれ変化させ、シグナル値対ノイズ比が十分な条件で測定した。本測定における各条件を以下に示す。サンプル:150 μL, 36 s, 0.25 mL/min、第一次洗浄工程におけるランニングバッファー:125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、検出抗体溶液:500 μL, 120 s, 0.25 mL/min、第二次洗浄工程におけるランニングバッファー:125 μL, 30 s, 0.25 mL/min、第三次洗浄工程におけるランニングバッファー:1500 μL, 90 s, 1.00 mL/min。各サンプルをn=1、ブランクサンプルはn=5で測定した。
【0183】
〔解析〕
n=5で測定したブランクサンプルのシグナル値の平均(Mean)、標準偏差(SD)を算出し(Microsoft Excel 2013)、Mean+3.29×SDを検出限界として設定した。その他のサンプルのシグナル値のうち、検出限界以上のサンプルについて、ブランクサンプルのシグナル値のMeanを差し引くことで、2者複合体のシグナル値を算出した。同時に、調製したサンプル中のTocilizumab、IL-6R濃度とKD値(0.11 μg/mL、J Pharmacokinet Pharmacodyn. 2012 Feb;39(1):5-16.)から、各サンプル中の2者複合体濃度をシミュレーションした。シミュレーションでは、Tocilizumabが2価で結合することから、Tocilizumab分子の濃度に2を乗じた値を、結合サイトの濃度として扱った。また、一つの結合サイトとhIL-6Rが結合した状態を2者複合体として、濃度を計算した。すなわち、Tocilizumab 1分子と、hIL-6R 2分子が結合した状態と、Tocilizumab 2分子が、それぞれ1分子のhIL-6Rと結合した状態を区別していない。得られた2者複合体シグナル値と、シミュレーション値を比較するため、これらを左右のY軸(シグナル値は黒丸、シミュレーション値は点線)に、またTocilizumabの結合サイト濃度をX軸にとり、プロットを作成した(図15A)。加えて、Y軸を2者複合体シグナル値、X軸をシミュレーション値として、得られた結果をプロットし、Microsoft Excel 2013を用いて相関解析を行った。相関解析では、線形近似曲線を引き、R2値を算出した(図15B)。
【0184】
〔結果〕
TocilizumabとhIL-6をスパイクしたサンプルは、全て検出限界を上回るシグナルを示した。Tocilizumabの添加濃度に従って、2者複合体シグナル値はシグモイドの形状を取り、これはシミュレーションから推測された形状と一致していた。また、X軸をシミュレーション値、Y軸を2者複合体シグナル値としてプロットした図15Bにおいて、直線関係が得られた。これらのことから、得られているKD値にしたがって複合体が形成され、結合平衡が大きくシフトせずに測定されていると考えられた。さらに、このような関係性を得ることで、シミュレーション値が正しいという仮定の元、未知の濃度のTocilizumabとhIL-6Rを含むサンプルを測定した際に、得られた2者複合体シグナル値から、回帰により2者複合体濃度を算出できると考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13
図14
図15