(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】エステル樹脂及びエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/32 20060101AFI20231020BHJP
【FI】
C08G59/32
(21)【出願番号】P 2020538287
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031044
(87)【国際公開番号】W WO2020039923
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018157102
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】森田 章裕
(72)【発明者】
【氏名】久田 博之
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-064059(JP,A)
【文献】特開2008-274150(JP,A)
【文献】特表2017-503658(JP,A)
【文献】特開2005-075862(JP,A)
【文献】特開平09-111169(JP,A)
【文献】特開2013-087172(JP,A)
【文献】特開2007-248704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/
C09D 11/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン類と3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)とを反応させて得られる反応物と、多価カルボン酸とを反応させて得られる反応物と、
多官能エポキシ化合物(B)と、
不飽和カルボン酸と、
の反応物であり、
前記3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)は、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルおよびソルビトール系ポリグリシジルエーテルからなる群より選ばれた1種類または2種類以上のエポキシ化合物であり、
前記多価カルボン酸は、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸およびドデセニル無水コハク酸からなる群より選ばれた1種類または2種類以上の
多価カルボン酸であり、
前記多官能エポキシ化合物(B)は、1分子中にエポキシ基を2個有するグリシジルエーテル型エポキシ樹脂であり、
前記不飽和カルボン酸は、3-5個の炭素原子を有する鎖状α,β-不飽和モノカルボン酸である、エステル樹脂。
【請求項2】
前記
エポキシ化合物(A)が、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルである、
請求項
1に記載のエステル樹脂。
【請求項3】
前記多価カルボン酸が、炭素環を含む、
請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項4】
前記多価カルボン酸は、無水マレイン酸、無水フタル酸およびテトラヒドロ無水フタル酸からなる群より選ばれた1種類または2種類以上の多価カルボン酸である、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項5】
前記多官能エポキシ化合物(B)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびネオペンチルグリコール型エポキシ樹脂のいずれか一方または両方のエポキシ化合物である、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項6】
前記不飽和カルボン酸は、アクリル酸である、請求項1に記載のエステル樹脂。
【請求項7】
ロジン類と、3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物とを反応させる第一反応工程と、
前記第一反応工程で得られた反応物と、多価カルボン酸とを反応させる第二反応工程と、
前記第二反応工程で得られた反応物と、多官能エポキシ化合物と、不飽和カルボン酸とを反応させる第三反応工程とを含み、
前記3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物は、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルおよびソルビトール系ポリグリシジルエーテルからなる群より選ばれた1種類または2種類以上のエポキシ化合物であり、
前記多価カルボン酸は、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸およびドデセニル無水コハク酸からなる群より選ばれた1種類または2種類以上の
多価カルボン酸であり、
前記多官能エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を2個有するグリシジルエーテル型エポキシ樹脂であり、
前記不飽和カルボン酸は、3-5個の炭素原子を有する鎖状α,β-不飽和モノカルボン酸である、
エステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル樹脂及びエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷インキは、通常、顔料を均質に分散させ、かつ、紙などの媒体上に顔料を接着させるためのインキ用樹脂を含んでいる。このインキ用樹脂中にロジン構造が存在すると、顔料分散性及び光沢性が向上することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロジン構造を含むインキ用樹脂を含む印刷インキは、従来のエポキシアクリレートをインキ用樹脂として含む印刷インキと比較して、耐摩耗性が劣るという問題点を有していた。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み提案されたものであり、その目的として、一つの側面では、顔料分散性、光沢性及び耐摩耗性を並立するインキ用エステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るエステル樹脂は、ロジン類と、3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物と、の反応物と、多価カルボン酸と、多官能エポキシ化合物と、不飽和カルボン酸と、の反応物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、一つの側面では、顔料分散性、光沢性及び耐摩耗性を並立するインキ用エステル樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(エステル樹脂)
以下、本発明の一実施形態におけるエステル樹脂について説明する。本実施形態に係るエステル樹脂は、ロジン類と、3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物と、の反応物と、多価カルボン酸と、多官能エポキシ化合物と、不飽和カルボン酸と、の反応物である。以下、各々の成分について説明する。
【0009】
<ロジン類>
本実施形態で使用できるロジン類としては、特に限定されないが、例えば、天然ロジンに、各種公知の水素化処理、熱処理及び/又は精製処理等を施すことによって得られるロジンであってもよい。具体的には、天然ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン及び精製ロジン等が挙げられ、これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、上記ロジンとα,β不飽和カルボン酸類とのディールスアルダー反応物(マレイン化ロジン、マレイン化ロジン水素化物、アクリル化ロジン、アクリル化ロジン水素化物等)を使用しても良い。なお、上記天然ロジンとしては、例えば、トール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等が挙げられ、これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0010】
<3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物>
本実施形態で使用できるエポキシ化合物は、顔料分散性、光沢性及び耐摩耗性を並立するインキを得るために、主鎖から3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物を使用する。3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物(以後、エポキシ化合物と呼ぶ)を使用することで、得られるインキ用エステル樹脂を含むインキが硬化する際に、3次元的な架橋を組むことができるためネットワークは強固なものとなり、耐摩耗性を向上させることができる。
【0011】
エポキシ化合物の具体例としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられ、具体的には、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0012】
<多価カルボン酸>
本実施形態で使用できる多価カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の飽和多塩基酸;無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の不飽和多塩基酸;ドデセニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらの中でも、炭素環を含む多価カルボン酸を使用することが、得られるエステル樹脂のガラス転移点や軟化点が上がり、当該エステル樹脂を含むインキ塗膜の引っかき硬度(鉛筆硬度)及び耐摩耗性が増加するため、好ましい。ここで、炭素環とは、炭素のみから構成される環状部分のことをいう。なお、上記多価カルボン酸は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
上記多価カルボン酸のうち、炭素環を含まない(環状部分が炭素のみから構成されていない)構造の無水マレイン酸と炭素環を含む構造のテトラヒドロ無水フタル酸を例にとって説明する。無水マレイン酸は、テトラヒドロ無水フタル酸に比べて構造安定性が劣るため、紫外線に対する反応性が高い。したがって、多価カルボン酸として無水マレイン酸を使用してインキを調整し、紫外線を照射してインキ塗膜とした場合、炭素環を含む構造のテトラヒドロ無水フタル酸と同等の引っかき硬度(鉛筆硬度)及び耐摩耗性を示す場合がある。
【0014】
<多官能エポキシ化合物>
本実施形態で使用できる多官能エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を2個以上有していれば、特に限定されず、具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジβメチルグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラヒドロキシフェニルメタンテトラグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、塩素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAグリシジルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;p-オキシ安息香酸グリシジルエーテル・エステルなどのグリシジルエーテル・エステル型エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステルなどのグリシジルエステル型エポキシ樹脂;グリシジルアニリン、テトラグリシジルジアミノフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレートなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油などの線状脂肪族エポキシ樹脂;3,4-エポキシ-6メチルシクロヘキシルメチル3,4エポキシ-6メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシシクロヘキサン)カルボキシレートなどの脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、2官能エポキシ化合物を使用することが、立体障害が少なくなり、未反応のエポキシ基が残ることを防止できるため、好ましい。なお、上記多官能エポキシ化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
<不飽和カルボン酸>
本実施形態で使用できる不飽和カルボン酸は、特に限定されず、例えば、3~5個の炭素原子を有する鎖状α,β-不飽和モノカルボン酸及び/又はその無水物、3~5個の炭素原子を有する鎖状α,β-不飽和ジカルボン酸及び/又はその無水物、芳香族α,β-不飽和カルボン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、ケイ皮酸等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
(エステル樹脂の製造方法)
本実施形態に係るエステル樹脂を製造する場合、先ず、第一反応工程として、ロジン類と、3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物と、を反応させることで、エポキシ基の開環による開環付加反応を進行させる。その後、第二反応工程として、第一反応工程で得られた反応物と、多価カルボン酸とを反応させることで、エポキシ基の開環によって生じた水酸基と多価カルボン酸のカルボキシル基の縮合による開環付加反応を進行させる。さらに、第三反応工程として、第二反応工程で得られた反応物と、多官能エポキシ化合物と、不飽和カルボン酸とを反応させることで、エポキシ化合物のエポキシ基の開環による開環付加反応を進行させる。
【0017】
第一反応工程において、ロジン類とエポキシ化合物とを反応させる際の温度は、通常、50℃~200℃の範囲内である。なお、第一反応工程において、エポキシ基とカルボキシル基との開環付加反応を促進する公知の触媒、開環付加反応促進剤、安定剤等を使用しても良い。
【0018】
第一反応工程における、ロジン類とエポキシ化合物の使用量は、ロジン類のカルボキシル基とエポキシ基のモル比(COOH/エポキシ基)が0.3~1.5の範囲内であることが、得られるインキの顔料分散性、光沢性及び耐摩耗性を並立するために好ましい。
【0019】
第二反応工程において、第一反応工程で得られた反応物と、多価カルボン酸とを反応させる際の温度は、通常、50℃~200℃の範囲内である。なお、第二反応工程において、エポキシ基の開環によって生じた水酸基と多価カルボン酸のカルボキシル基との開環付加反応を促進する公知の触媒、開環付加反応促進剤、安定剤等を使用しても良い。
【0020】
第二反応工程における、多価カルボン酸の使用量は、エポキシ基に由来する水酸基と多価カルボン酸のカルボキシル基のモル比(OH/COOH)が0.5~2.0の範囲内であることが、得られるインキの顔料分散性、光沢性及び耐摩耗性を並立するために好ましい。
【0021】
第三反応工程において、第二反応工程で得られた反応物と、多官能エポキシ化合物と、不飽和カルボン酸とを反応させる際の温度は、通常、50℃~200℃の範囲内である。なお、第三反応工程において、エポキシ基とカルボキシル基との開環付加反応を促進する公知の触媒、開環付加反応促進剤、安定剤等を使用しても良い。
【0022】
第三反応工程における、第二反応工程で得られた反応物と、多官能エポキシ化合物と、不飽和カルボン酸の使用量は、第二反応工程で得られた反応物及び不飽和カルボン酸由来のカルボキシル基と、多官能エポキシ化合物由来のエポキシ基と、のモル比(COOH/エポキシ基)が0.5~2.0の範囲内であることが、得られるインキの顔料分散性、光沢性及び耐摩耗性を並立するために好ましい。
【0023】
(インキの製造方法)
上記インキ用エステル樹脂は、3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物を原料として用いており、不飽和カルボン酸由来の不飽和結合を有する。そのため、上記インキ用エステル樹脂と、顔料と、光重合開始剤とを用いてインキを製造することで、得られるインキは、耐摩耗性に優れたインキとなる。
【0024】
顔料としては、特に制限されないが、無機顔料及び有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉、ベンガラなどが挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。有機顔料としては、例えば、β-ナフトール系顔料、β-オキシナフトエ酸系顔料、β-オキシナフトエ酸系アニリド系顔料、アセト酢酸アニリド系顔料、ピラゾロン系顔料などの溶性アゾ顔料、β-ナフトール系顔料、β-オキシナフトエ酸系アニリド系顔料、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ顔料、ピラゾロン系顔料などの不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(塩素又は臭素化)銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ系、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系顔料など)、イソインドリノン系顔料、金属錯体系顔料、キノフタロン系顔料などの多環式顔料及び複素環式顔料などが挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-シクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、4-メチルベンゾフェノン、ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オンなどが挙げられる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
本実施形態に係るインキは更に、必要により、活性エネルギー線硬化型モノマーや公知の添加剤を含んでいても良い。活性エネルギー線硬化型モノマーは、活性エネルギー線の照射により上記インキ用エステル樹脂と共重合可能な光重合性基を有するモノマーである。添加剤としては、例えば、硬化促進剤(ナフテン酸コバルトなど)、充填剤、増粘剤、発泡剤、酸化防止剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、難燃剤などが挙げられる。
【0027】
(実施例)
次に、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。例えば、本実施形態に係るインキ用エステル樹脂を合成する際は、モノマー中で反応を進行させることも可能である。なお、以下、「部」及び「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
【0028】
<実施例1>
攪拌機、水分離器付き還流冷却器及び温度計付き4つ口フラスコに、窒素ガスを吹き込みながら、ロジン類として不均化ロジン(ハリマ化成株式会社製:商品名G-100F)34.3部を溶解させ、3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物としてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル14.3部と、トリエチルアミン0.3部とを混合し、160℃で反応させて、第一反応工程を終了した(酸価が7mgKOH/g以下)。
【0029】
第一反応工程で得られた反応生成物と、多価カルボン酸として無水マレイン酸9.6部とを混合し、160℃で反応させて、第二反応工程を終了した(酸価が110mgKOH/g以下)。
【0030】
第二反応工程で得られた反応生成物と、アクリル酸6.9部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三井化学株式会社製:商品名エポミックR140)34.5部及びハイドロキノン0.1部とを混合し、160℃で反応させて、第三反応工程を終了し、本実施形態に係るインキ用エステル樹脂(以下、樹脂1)を得た(酸価16.0mgKOH/g)。
【0031】
得られた樹脂1を60.0部と、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)を39.9部及びハイドロキノン0.1部とを混合し、約110℃で加熱溶解させ、本実施形態に係るインキ用組成物(以下、ワニス1)を得た。
【0032】
得られたワニス1を43.0部と、中性カーボンブラック(顔料、三菱化学株式会社製:商品名RCF#52)20.0部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)20.0部、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)12.0部、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(光重合開始剤、BASF社製:商品名イルガキュア907)5.0部とを配合し、3本ロールミル(井上製作所製、S-4 3/4×11)にて最大粒子径が5.0μm以下となるように分散させた。これにより、本実施形態のインキ(以下、インキ1)を得た。
【0033】
なお、インキにおける各成分の配合割合は、インコメーター(株式会社東洋精機製作所社製:商品名D-2)にてロール温度30℃、400rpmの条件で、1分後のタック値が8.0~10.0となるように調整した。
【0034】
<実施例2~7>
各々の成分を表1に示す配合比率に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法により、樹脂2~7を得た。また、得られた樹脂2~7を使用して、実施例1と同様の方法により、ワニス2~7及びインキ2~7を得た(表2及び表3参照)。なお、表1における、第一反応工程での3官能以上のエポキシ樹脂とは、3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物を指す。また、グリセリン型エポキシ樹脂の主成分は、1,2,3-プロパンポリグリシジルエーテル又はグリセロールポリグリシジルエーテルである。さらに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とは、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの重合で得られるプレポリマーを指す。また、ネオペンチルグリコール型エポキシ樹脂とは、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルを指す。
【0035】
【0036】
【表2】
<比較例1~4>
各々の成分を表1に示す配合比率に変更した以外は、上記実施例1と同様の方法により、樹脂8~11を得た。また、得られた樹脂8~11を使用して、実施例1と同様の方法により、ワニス8~11及びインキ8~11を得た。
【0037】
(インキ評価)
各実施例及び各比較例において得られたインキについて、下記の方法により評価を実施した。
【0038】
<硬化性>
0.4mLの各インキを、RIテスター全面ロールでアート紙に展色した。その後、紫外線照射装置(アイグラフィック株式会社製:商品名ESC-4011GX)を用いて、メタルハライドランプ80W/cm、コンベアスピード24m/minの条件で、紫外線を1パス照射した。
【0039】
得られたインキ塗膜について、指触乾燥状態を以下の基準で判定した。
【0040】
○:指触で、べた付きを全く感じない。良好レベル。
【0041】
△:指触で、僅かにべた付きを感じる。実用性を有するレベル。
【0042】
×:指触で、べた付きを感じる。実用性がないレベル。
【0043】
<光沢値>
上記硬化性の評価時と同条件でインキに紫外線を照射し、硬化後の印刷物の光沢値を60°-60°光沢計(太佑機材株式会社製:商品名マイクロトリグロス)で測定した。
【0044】
得られたインキ塗膜について、上記試験で光沢値60以上であれば、高い光沢値を有していると判断した。
【0045】
<鉛筆硬度>
上記硬化性の評価時と同条件でインキに紫外線を照射し、硬化後の印刷物をJIS K5600(2007年)に準拠する方法により、印刷物皮膜が乖離しない最高硬度を評価した。
【0046】
得られたインキ塗膜については、F以上で使用可能レベルと判断することができる。
【0047】
(硬い)2H > H > F > HB > B > 2B (柔らかい)
【0048】
<耐摩耗性>
上記硬化性の評価時と同条件でインキに紫外線を照射し、硬化後の印刷物をJIS K5701-1(2000)に準拠する方法により、S形摩擦試験機(株式会社安田精機製作所製)を使用して、1816gの加重で40回往復させ、印刷物表面のインキ皮膜の擦れ落ち度合いを5段階で評価した。
【0049】
得られたインキ塗膜については、下記基準の4以上で使用可能レベルと判断することができる。
5:40回往復で擦れ落ちが20%未満であった。
4:40回往復で擦れ落ちが20%以上40%未満であった。
3:40回往復で擦れ落ちが40%以上60%未満であった。
2:40回往復で擦れ落ちが60%以上80%未満であった。
1:40回往復で擦れ落ちが80%以上であった。
【0050】
<流動性>
各実施例及び各比較例において得られたインキをインキカップに1ピペット取り(1ピペット=約1.5mL)、60°に傾斜させたガラス板にのせて10分間放置した時のインキが流れた距離で流動性を評価した。
【0051】
インキが流れた距離については、80mm以上であれば、インキが高い流動性を有していると判断した。
○:80mmを超える。
△:40~80mm
×:40mm以下
インキ評価の結果について、表3に示す。
【0052】
【0053】
表3に示す通り、実施例で得られたインキは、ロジン類と、3以上の分岐構造を有し、前記分岐構造の各々にエポキシ基を有するエポキシ化合物と、の反応物と、多価カルボン酸と、多官能エポキシ化合物と、不飽和カルボン酸と、の反応物である、エステル樹脂を使用して作成したインキであるため、硬化性、光沢値、鉛筆硬度、耐摩耗性及び流動性について、全ての特性について使用可能なレベルを保持していることがわかる。