(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】鉄道車両の縦座席
(51)【国際特許分類】
B61D 33/00 20060101AFI20231020BHJP
【FI】
B61D33/00 Z
(21)【出願番号】P 2022064280
(22)【出願日】2022-04-08
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2021067269
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 英盛
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-024417(JP,A)
【文献】特開2009-018806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向に沿って座席定員数の区画が形成された鉄道車両の縦座席であって、
座席定員数で均等に区画された背ずり部と、
周縁部分よりも内側部分の方が薄く形成されており、前記背ずり部の進行方向の端縁に前記周縁部分を接するように配置される袖仕切りと、
前記背ずり部の区画と比較して幅広の拡張区画及び同幅の同幅区画を連ねて構成され、且つ、前記拡張区画が前記袖仕切りに接する位置に配置された座部と
を備えたことを特徴とする鉄道車両の縦座席。
【請求項2】
前記袖仕切りは、
前記背ずり部に接する位置に形成され、周縁を構成する枠材と、
前記枠材よりも厚みが薄くなるように内側に形成され、前記背ずり部に対して進行方向に離隔して配置される壁材と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の縦座席。
【請求項3】
前記座部は、内側に前記同幅区画を少なくとも一つ有し、且つ、両端に前記拡張区画を配置した構成を1ユニットとする混成ユニットを少なくとも一つ有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両の縦座席。
【請求項4】
前記座部は、前記拡張区画を複数連ねて1ユニットとした拡張ユニットを少なくとも一つ有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両の縦座席。
【請求項5】
前記座部は、前記背ずり部の区画と同じ幅の同幅区画を複数連ねて1ユニットとした同幅ユニットを少なくとも一つ有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両の縦座席。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席定員数で区画された鉄道車両に用いられる縦座席に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の進行方向に延びる縦座席の方が、進行方向に直交して配置される横座席よりも通路を広く使うことができる。このため、通勤に使用される車両や車体幅の狭い車両では、縦座席が適している。
【0003】
縦座席の端部には、立客と着席客との接触を防止するための袖仕切りが設けられている。この袖仕切りには、肘掛け程度のものから、着席客の肩が隠れる程の高さの壁を有するものがある。袖仕切りが設けられていることにより、ラッシュ時であっても立客が着席客側に接触することによって生じる不快感を低減することができる。
【0004】
図11は従来の袖仕切り150を示す図である。このような袖仕切り150により、着席客の肩から腰までの範囲をカバーできるので、ラッシュ時の立客から着席客を保護することが可能である。また、立客が寄り掛かることができるので、車両の揺れに対して安定する。このような袖仕切りについては、特許文献1に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では鉄道車両の内装において装飾化が進み、縦座席の袖仕切りにもガラス板やポリカーボネート板などの透明の壁材が多用されている。なお、このようなガラス板等の壁材は、デザイン的にも軽量化の面においても、板厚が比較的薄い状態で使用されることが多い。このため、十分な強度を得るために枠材が用いられる。
【0007】
上述の
図11に示した従来の袖仕切り150も同様に、比較的板厚の薄い壁材152を枠材151で支持するように構成されている。
【0008】
このように、比較的薄い壁材152と枠材151とで袖仕切り150を構成すると、縦座席の座部と袖仕切り150の壁材152との間に隙間が生じる。すなわち、枠材151は縦座席の背ずり部に接するように配置されるが、壁材152は枠材151よりも薄いので、座部との間に隙間が生じてしまう。
【0009】
そして、このような隙間が形成されると、着席客の指が挟まれたり、物が落ちたりする場合がある。また、壁材にガラス板等の透明部材を用いる場合、隙間にゴミなどが溜まると、透けて見えてしまうので美観を著しく損ねることになる。
【0010】
しかしながら、上記のような隙間を埋めるために別途部品を設けると、コストが上がるだけでなく、座部の設置時やメンテナンス時の作業が煩雑になる。
【0011】
そこで、本発明は、追加部品を用いずに、袖仕切りと座部との間の隙間を埋めることができる鉄道車両の縦座席を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の鉄道車両の縦座席は、進行方向に沿って座席定員数の区画が形成された鉄道車両の縦座席であって、座席定員数で均等に区画された背ずり部と、周縁部分よりも内側部分の方が薄く形成されており、前記背ずり部の進行方向の端縁に前記周縁部分を接するように配置される袖仕切りと、前記背ずり部の区画と比較して幅広の拡張区画及び同幅の同幅区画を連ねて構成され、且つ、前記拡張区画が前記袖仕切りに接する位置に配置された座部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の鉄道車両の縦座席は、上記構成に加えて、前記袖仕切りが、前記背ずり部に接する位置に形成され、周縁を構成する枠材と、前記枠材よりも厚みが薄くなるように内側に形成され、前記背ずり部に対して進行方向に離隔して配置される壁材とを備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の鉄道車両の縦座席は、上記構成に加えて、前記座部が、内側に前記同幅区画を少なくとも一つ有し、且つ、両端に前記拡張区画を配置した構成を1ユニットとする混成ユニットを少なくとも一つ有していることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の鉄道車両の縦座席は、上記構成に加えて、前記座部が、前記拡張区画を複数連ねて1ユニットとした拡張ユニットを少なくとも一つ有していることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の鉄道車両の縦座席は、上記構成に加えて、前記座部が、前記背ずり部の区画と同じ幅の同幅区画を複数連ねて1ユニットとした同幅ユニットを少なくとも一つ有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、座部は、背ずり部よりも端部側の拡張区画で幅広に形成されているので、背ずり部よりも座部の方が進行方向へ広がるように構成される。このような構成により、袖仕切りの周縁部分と内側部分との厚みの違いにより生じる寸法差の分だけ背ずり部よりも進行方向へ広がっている空間を、拡張区画によって幅広に形成された部分で埋めることが可能となる。
【0018】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、袖仕切りの内側が周縁の枠材よりも厚みが薄い壁材で構成されているような場合であっても、背ずり部よりも進行方向に長い座部の端を袖仕切りの壁材側に当接させるように配置することができる。よって、別部材を用いることなく、袖仕切りと座部との間に隙間を形成せずに配置することが可能となる。
【0019】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、複数の混成ユニットを組み合わせて座部(ロングシート)を構成する場合、座部は背ずり部よりも幅広に形成されているので、端部の拡張区画同士を突き合わせて配置すると、接合位置から外側に向けて背ずり部の区画との間にずれが生じる。しかし、座部の端部の拡張区画だけが幅広に形成され、内側の同幅区画は背ずり部と同じ幅に形成されているので、両者のずれは累積することなく、等間隔のずれとして現れる。これにより、着座位置に関わらず同じ着座姿勢で違和感なく使用することが可能となる。
【0020】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、長さの異なる縦座席に対して、端部に配置される拡張ユニットだけを汎用的に使い回すことが可能となる。
【0021】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、内側の同幅ユニットの数を増減させることにより、様々な長さの縦座席を構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1の実施の形態に係る3席構成の縦座席を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る袖仕切りの側面図である。
【
図3】
図1の縦座席の部分拡大図であり、(a)はA-A’部分拡大図、(b)はB-B’部分拡大図である。
【
図4】第1の実施の形態に係る6席構成の縦座席を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図5】
図4の縦座席の部分拡大図であり、(a)はC-C’部分拡大図、(b)はD-D’部分拡大図、(c)はE-E’部分拡大図である。
【
図6】使用状態における着座姿勢を平面視により示し、(a)は
図1の縦座席の模式図、(b)は
図4の縦座席の模式図である。
【
図7】第2の実施の形態に係る7席構成の縦座席を示し、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
【
図8】第2の実施の形態に係る8席構成の縦座席を示し、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
【
図9】第3の実施の形態に係る5席構成の縦座席を示し、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
【
図10】第3の実施の形態に係る6席構成の縦座席を示し、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る3席構成の縦座席1を示している。
図1(a)は平面図であり、
図1(b)は正面図である。縦座席1は、鉄道車両の進行方向に沿って配置されており、両端に袖仕切り6を備えている。
【0024】
図1(b)の正面図に示すように、縦座席1の背ずり部2は、定員数3名に対して等間隔の背ずり区画2aが3区画分形成されている。
【0025】
一方、
図1(a)の平面図に示すように、縦座席1の座部は、定員数分に形成されている3区画のうち、内側の区画については、背ずり部2の背ずり区画2aと同じ幅の同幅区画4aで形成されている。しかし、両端の区画は、背ずり区画2aよりも幅広の拡張区画4bで形成されている。このように、縦座席1の座部は、一つの同幅区画4aと、この同幅区画4aを挟むように配置される2つの拡張区画4bとを組み合わせたものを1ユニットとする混成ユニット4で構成されている。
【0026】
図2は、袖仕切り6の側面図である。ここでは、袖仕切り6以外の車内壁面100、床101及び網棚102については、点線で表している。
【0027】
側面視では、袖仕切り6の枠材6bは上下方向に対称な台形に形成されている。そして、この枠材6bの内側に壁材6aが嵌め込まれて支持されている。袖仕切り6の枠材6bのうち、車内壁面100に沿って設けられている部分は、
図1に示したように、背ずり部2の進行方向の端部に接して配置される。
【0028】
図3は、
図1の縦座席1の部分拡大図である。
図3(a)は
図1のA-A’部分拡大図であり、
図3(b)は
図1のB-B’部分拡大図である。尚、
図3(a)では、進行方向の位置関係を説明するために、袖仕切り6は横断面図で表されている。
【0029】
先ず、
図3(a)を参照する。上述のように、背ずり部2の一端に接するように袖仕切り6の枠材6bが配置されているのが見て取れる。混成ユニット4(座部)については、拡張区画4bの一部が表れている。
【0030】
袖仕切り6は、ガラス板等の薄板による壁材6aを枠材6bで支持するように構成されている。よって、進行方向の厚さの差によって段差dが形成されている。枠材6b側は背ずり部2に接しているので、段差dの寸法分だけ壁材6aは、背ずり部2から進行方向へ離隔している。
【0031】
ここで、本実施の形態に係る構成では、混成ユニット4の拡張区画4bの幅は、背ずり部2の背ずり区画2aよりも幅広に設定されている。これにより、背ずり部2の端縁よりも混成ユニット4は進行方向へ突出し、袖仕切り6の壁材6aに接するように配置することができる。壁材6aと混成ユニット4とが密着するように配置すると、不要な隙間が形成されないので、利用者の持ち物が落ちたり、指などが挟まったりすることを防止できる。
【0032】
ところで、壁材6aが、ガラス材やポリカーボネート材のように透明部材で形成されている場合、混成ユニット4との間にゴミが入り込むと透けて見えてしまうので美観が損なわれる。しかし、上述のように、混成ユニット4の拡張区画4bによって隙間が塞がれているので、ゴミの侵入を防いで美観を保つことができる。よって、袖仕切り6に透明部材を多用した装飾性の高い車内設計が可能となる。
【0033】
次に、
図3(b)を参照する。上述したように、本実施の形態に係る構成では、混成ユニット4の同幅区画4aの幅は、背ずり部2の背ずり区画2aと同じ幅に設定されている。よって
図3(b)に表れているように、3席構成の場合、背ずり部2と混成ユニット4のそれぞれの区画の境界線(一点鎖線で表している。)は一致している。
【0034】
図4は、本発明の実施の形態に係る6席構成の縦座席11を示している。
図4(a)は平面図であり、
図4(b)は正面図である。縦座席11は、鉄道車両の進行方向に沿って配置されており、両端には
図1の縦座席1と同じ袖仕切り6を備えている。
【0035】
図4の例では、座部が3区画を1ユニットとする混成ユニット14を用いて構成されている。よって、6席を構成するために、2つの混成ユニット14が進行方向に並べて配置されている。ロングシートを構成する場合は、このように比較的小さいユニットを複数用いると、設置作業の負担を軽減することができる。また、一部に汚れや破損が生じた場合には、その汚れ等を含む1ユニットだけを交換することができるので、メンテナンス作業も容易であり、コストの削減にも繋がる。
【0036】
ここで用いられている混成ユニット14は、
図1に示した縦座席1の混成ユニット4と同様の形状となっている。すなわち、1ユニットに含まれる3つの区画のうち、内側の区画は背ずり部12の背ずり区画12aと同じ幅の同幅区画14aで形成されている。そして、同幅区画14aの両端の区画は、背ずり区画12aよりも幅広の拡張区画14bで形成されている。
【0037】
本実施の形態のように、6席を2分割して2つの混成ユニット14で構成する場合、進行方向に対称に構成されるので、隣接配置される2つの混成ユニット14同士で形成される境界線は、背ずり区画12aの境界線と一致する。そして、上述のように、混成ユニット14は拡張区画14bが同幅区画14aよりも幅広に設定されているので、中央の境界線よりも端側に形成される区画同士の境界は、その寸法差分だけ、背ずり部12に対して
ずれが生じる。背ずり部12と混成ユニット14との間における区画の境界線の位置関係については、次の
図5を用いて説明する。
【0038】
なお、上述の、隣接する混成ユニット14同士で形成される境界線と一致する「背ずり区画12aの境界線」とは、広い意味において、隣接する区画同士の境界線を指すものとする。よって、混成ユニット14と同様に、3人分で一体物となるように形成された背ずり部を2つ組み合わせて6席を構成するような場合は、2つの一体物の背ずり部同士の境界線を指す。
【0039】
図5は、
図4の縦座席11の部分拡大図である。
図5(a)は
図4のC-C’部分拡大図、
図5(b)は
図4のD-D’部分拡大図、
図5(c)は
図4のE-E’部分拡大図を示している。ここでも
図3と同様に、説明の便宜のため、袖仕切り6は横断面図で表わされている。
【0040】
図5(a)に見て取れるように、混成ユニット14の拡張区画14bは背ずり部12よりも進行方向に突出しており、袖仕切り6に形成された枠材6bと壁材6aとの間の段差dを埋めるように密着して配置されている。これは、
図3(a)の構成と同様である。
【0041】
一方、
図5(b)、(c)に示すように、
図4のD-D’部分及びE-E’部分では、背ずり部12側の区画の境界線よりも、混成ユニット14側の区画の境界線の方が、縦座席11の端側(近い方の袖仕切り6側)へシフトしている。縦座席11の中央2席の間に形成される境界線に対して一つ隣の境界線の位置関係を示した
図5(c)に表れている背ずり部12側と混成ユニット14側の境界線のずれは、更に隣の境界線の位置関係を示した
図5(b)に表れているずれと同じ幅である。これは、混成ユニット14の3区画のうち、拡張区画14bだけが背ずり区画12aよりも幅広に形成されているためである。同幅区画14aは背ずり区画12aと同じ幅なので、拡張区画14bと同幅区画14aとの差分だけが、それぞれの境界位置における「ずれ」として現れる。
【0042】
本実施の形態のような構成ではなく、仮に、袖仕切り6の段差dを埋めるために、混成ユニット14の3つの区画をすべて均等に形成し、背ずり部12よりも全体が幅広になるように形成すると、中央から端に行く程、「ずれ」の幅が累積する。よって、中央に近い側では、僅かな差であっても、端では大きな「ずれ」となって現れる。このような場合、6席よりも席数が増えると、中央側と端側の「ずれ」の差が顕著となり、座席によって座り心地に大きな差が生じてしまう。
【0043】
これに対して本実施の形態に係る構成では、拡張区画14bだけを幅広に形成し、同幅区画14aを背ずり区画12aと同じ幅に設定することにより、「ずれ」の累積を防ぐと共に、袖仕切り6の段差dを埋めることが可能となる。
【0044】
図6は、使用状態における着座姿勢を平面視により示している。
図6(a)は
図1の縦座席1における模式図、
図6(b)は
図4の縦座席11における模式図である。ここでは、着席客の胴体及び頭部を点線で楕円形に描いた体幹部B1でまとめて模式的に表し、脚部B2の延びる向きを同様に点線の矢印で模式的に表している。
【0045】
図6(a)を参照すると、3席構成の場合、背ずり部2の区画の境界と座部を構成する混成ユニット4の区画の境界とは一致している。よって、背ずり部2と混成ユニット4との間で進行方向への「ずれ」は形成されない。このため、3人の着席客は、何れも進行方向に対して直交する方向に脚部B2を伸ばして着席する。
【0046】
一方、
図6(b)を参照すると、上述のように、縦座席11の中央から端に向けて混成
ユニット14の各区画は背ずり部12に対してシフトしている。よって、6人の着席客は、体幹部B1を背ずり部12の各区画に合わせて座り、脚部B2を混成ユニット14に合わせて端に傾いて伸ばすように座る。なお、ここでは、説明のためにシフトの程度を強調して示しているが、実際は、背ずり部12と混成ユニット14との間には、袖仕切り6に形成される僅かな段差d分で十分であり(
図5参照)、注意して観察しない限り、利用者は殆ど気付くことはできない。しかし、僅かに形成された「ずれ」によって、着席客は無意識のうちに、
図6(b)のように中央から端に向けて脚部B2を向けるようにして着席する可能性が高くなる。
【0047】
ところで、本実施の形態に示すような袖仕切り6は、従来の板厚が均等に形成された袖仕切りに比べて、壁材6aの強度が低くなる傾向にある。通常の使用では十分な強度が得られるものであっても、状況によって過度の力が集中的に加わるような場合、損傷が生じる可能性がある。特に、ガラス材などの脆性材料を用いる場合は、できるだけ側面から負荷が加わらないような使用が望ましい。これに対して、本実施の形態では、上述のように、座部(混成ユニット14)と袖仕切り6との間に物が落ちることを防ぐために隙間を埋めるように設置できる上、着席客が縦座席11の進行方向の外側に向けて脚部B2を伸ばして着席しやすい構成となっている。すなわち、体幹部B1を袖仕切り6から離すように座るので、袖仕切り6への寄り掛かりを防ぎ、壁材6aに対する不要な負荷の発生を防止することが可能となる。
【0048】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、拡張区画を複数連ねた拡張ユニットと、同幅区画を複数連ねた同幅ユニットを組み合わせて座部を構成する例を示し、特に、両端に袖仕切りを有する構成について説明する。ここでは、第1の実施の形態において示した構成と同一の構成については、同一の符号を用いて説明する。
【0049】
図7は、本実施の形態に係る7席構成の縦座席21を示している。
図7(a)は平面図であり、
図7(b)は正面図である。
図6の場合と同様に、着席客の胴体及び頭部を点線で楕円形に描いた体幹部B1でまとめて模式的に表し、脚部B2の延びる向きを同様に点線の矢印で模式的に表している。
【0050】
図7の縦座席21の背ずり部22は、均等に区画された7つの背ずり区画22aが連なって形成されている。7席のうち中央の3席の座部は、背ずり区画22aと同じ幅の同幅区画24aで構成されている。これら同幅区画24aは3区画が1ユニットとなる同幅ユニット24A(座部)を構成している。
【0051】
この同幅ユニット24Aの両端には、それぞれ拡張ユニット24Bが配置されている。拡張ユニット24Bは、背ずり区画22aよりも幅広に形成された拡張区画24bが2つ連なって1ユニットとして構成されている。
【0052】
図7の縦座席21では、進行方向の両端に袖仕切り6が設けられている。袖仕切り6は第1の実施の形態の構成に用いられる袖仕切り6と同じである(
図3参照)。
図3を示して上述したように、袖仕切り6は、板状の壁材6aと、この壁材6aの周縁に設けられる枠材6bとから構成されている。背ずり部22の進行方向の端縁に接して枠材6bが配置されることにより、壁材6aと背ずり部22との間に形成される空間は、拡張ユニット24Bの拡張分で埋められる。
【0053】
このように構成されているので、中央の同幅ユニット24Aの着席客は、
図7(a)から見て取れるように、体幹部B1と対応する背ずり区画22aとのずれが生じないので、背ずり部22の面に対して無理なく垂直な方向に脚部B2を延ばすことができる。これに
対して、両端の拡張ユニット24Bの着席客は、対応する背ずり区画22aに対して外側(近い方の袖仕切り6側)へ少しずつ体幹部B1がずれる。これにより、着席客は、僅かではあるが、脚部B2を外側へ傾けるのが違和感の少ない姿勢となる。このように、
図7の構成においても、
図6(b)と同様に、着席客が袖仕切り6へ寄り掛かるのを防ぎ、袖仕切り6の壁材6aの損傷を防止することができる。
【0054】
図8は、本実施の形態に係る8席構成の縦座席を示している。
図8(a)は平面図であり、
図8(b)は正面図である。
図6の場合と同様に、着席客の胴体及び頭部を点線で楕円形に描いた体幹部B1でまとめて模式的に表し、脚部B2の延びる向きを同様に点線の矢印で模式的に表している。
【0055】
図8の縦座席31の背ずり部32は、均等に区画された8つの背ずり区画32aが連なって形成されている。8席のうち中央の4席の座部は、背ずり区画32aと同じ幅の同幅区画34aで構成されている。ただし、上述の
図7の構成とは異なり、4区画を2区画ずつに纏めた構成となっている。すなわち、同幅区画34aを2つ連ねて1ユニットとする同幅ユニット34Aを2つ並べて中央の4区画の座部を構成している。これら2つの同幅ユニット34Aで構成される4区画の両端には、
図7の構成と同様に、2つの拡張区画34bを1ユニットとする拡張ユニット34Bが、それぞれ1ユニットずつ配置されている。
【0056】
このように構成されているので、
図7の場合と同様に、同幅ユニット34A及び拡張ユニット34Bからなる座部と袖仕切り6との間の隙間を拡張ユニット34Bの拡張分によって埋めることができる。また、着席客による袖仕切り6への寄り掛かりを防ぎ、袖仕切り6の壁材6a(
図3参照)の損傷を防止できる。
【0057】
なお、袖仕切り6の構造が同じであれば、7席の縦座席21と8席の縦座席31とを併用する場合であっても、
図7の拡張ユニット24Bと
図8の拡張ユニット34Bとは同型であるため、共用することが可能である。
【0058】
また、袖仕切り6の構造に変更が生じた場合は、拡張ユニット24B、34Bだけを交換するだけで対応することが可能であり、設計変更に対して大幅なコスト削減が可能となる。そして、拡張ユニット24B、34Bの区画数を揃えることにより(本実施の形態では2区画分)、袖仕切り6近傍の着席客の着座姿勢も一定に揃えることができる。
【0059】
(第3の実施の形態)
本実施の形態では、拡張ユニットと同幅ユニットとを組み合わせた構成のうち、一方の端部に袖仕切りを備え、他方の端部が妻壁に接する構成を示す。ここでも、上記の実施の形態において示した構成と同一の構成については、同一の符号を用いて説明する。
【0060】
図9は、本実施の形態に係る5席構成の縦座席を示している。
図9(a)は平面図であり、
図9(b)は正面図である。
図6の場合と同様に、着席客の胴体及び頭部を点線で楕円形に描いた体幹部B1でまとめて模式的に表し、脚部B2の延びる向きを同様に点線の矢印で模式的に表している。
【0061】
図9の縦座席41の背ずり部42は、均等に区画された5つの背ずり区画42aが連なって形成されている。5席のうち妻壁103側の3席の区画は、背ずり区画42aと同じ幅の同幅区画44aで構成されている。この3区画は、同幅区画44aが1ユニットとして連なったものであり、実質的に、
図7の同幅ユニット24Aと同一の同幅ユニット44Aで構成されている。
【0062】
一方、袖仕切り6側の2区画は、背ずり区画42aよりも幅広の拡張区画44bである。これら2つの拡張区画44bが連なって1ユニットとなり、拡張ユニット44Bを構成している。
【0063】
このように、妻壁103に対しては、着席客による寄り掛かりが問題とはならないので、袖仕切り6側にだけ拡張ユニット44Bを配置することにより袖仕切り6を保護することができる。
【0064】
また、第1の実施の形態のように、拡張区画4bを両端に配置した混成ユニット4(
図1参照)ではなく、拡張ユニット44Bと同幅ユニット44Aとを組み合わせる構成により、袖仕切り6に接する位置にだけ拡張ユニット44Bを配置することができる。これにより、片側に妻壁103を有する縦座席41のような構成と、第2の実施の形態に示した
図7、8のような構成との間で拡張ユニットを共用することも可能となる。
【0065】
図10は、本実施の形態に係る6席構成の縦座席を示している。
図10(a)は平面図であり、
図10(b)は正面図である。
図6の場合と同様に、着席客の胴体及び頭部を点線で楕円形に描いた体幹部B1でまとめて模式的に表し、脚部B2の延びる向きを同様に点線の矢印で模式的に表している。
【0066】
図10の縦座席51の背ずり部52は、均等に区画された6つの背ずり区画52aが連なって形成されている。6席のうち妻壁103側の4席の区画は、背ずり区画52aと同じ幅の同幅区画54aで構成されている。ただし、
図9の構成とは異なり、4つの同幅区画54aは、2区画ずつがそれぞれ1ユニットとなる2つの同幅ユニット54Aで構成されている。
【0067】
一方、袖仕切り6側の2区画は、
図9の構成と同様に、背ずり区画52aよりも幅広の拡張区画54bが2つ連なって1ユニットとなった拡張ユニット54Bとして構成されている。
【0068】
このように構成されているので、
図10の実施例においても、
図7から
図9までに述べたような、袖仕切り6と座部との間の空間を埋める効果に加えて、袖仕切り6の壁材6aへの寄り掛かりを防止するという効果を奏する。また、
図7から
図10までの何れの実施例においても、拡張ユニット24B、34B、44B、54Bは全て2区画を1ユニットとして構成されているので、席数が異なっていても、共用することが可能となる。これにより、製造コストを抑えると共に、メンテナンスが容易になる。
【0069】
以上に述べてきたような構成は本発明の一例であり、さらに以下のような変形例も含まれる。
【0070】
(1)上記の第1の実施の形態では、3区画を1ユニットとする座部(混成ユニット4、14)を例として示した。しかし、内側の区画を背ずり部の区画と同じ幅に形成し、端部の区画を背ずり部の区画よりも幅広に形成するものであれば、4区画以上を1ユニットとする構成でも構わない。
【0071】
(2)上記の第1の実施の形態では、ロングシートを構成するために2ユニットの座部を組み合わせて用いる例を示した。しかし、3ユニット以上を組み合わせても構わない。
【0072】
(3)上記の第1の実施の形態では、進行方向に対称となるような構成を例として示した。しかし、1ユニットの長さを一種類に統一する必要はない。奇数区画のロングシートであれば、異なる長さを1ユニットとする座部を組み合わせても構わない。この場合、進
行方向に非対称な構成としても構わない。具体的には、7人掛けロングシートであれば、4区画と3区画の2つの異なる長さのユニットを組み合わせた構成でも構わない。
【0073】
(4)上記の実施の形態では、袖仕切り6の一例として、枠材6bが上下方向に対称な台形に形成されている構成を示した。しかし、上下対称形状でなくても構わない。少なくとも、袖仕切り6は、背ずり部2に接触する部分と、座部(混成ユニット4、14)に接触する部分との間に段差dが形成されるような構成であれば、
図2に示した袖仕切り6と同様の効果を得ることができる。また、枠材6bが台形を形成していなくても構わない。枠材6bは、上述のように、背ずり部2と座部(混成ユニット4、14)との間に段差dが形成されるように、ガラス板等を枠体で囲んで形成する構成であれば、湾曲した部材であっても構わない。さらに、この湾曲した部材で構成される枠材は、
図2の例のように上下に分けて配置される構成に限定されず、形材を曲げて形成することにより上下が一体になった構成も含まれる。
【0074】
(5)上記の第2、3の実施の形態では、拡張ユニット24B、34B、44B、54Bが2区画を1ユニットとして形成されている構成を例として示した。しかし、座部の全体を背ずりの区画に対して同幅の区画と拡張された区画とを組み合わせて構成するものであれば、3区画以上を1ユニットとして形成しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の鉄道車両の縦座席は、袖仕切りの段差を埋めるように設置できるので、3区画以上のロングシートを備える鉄道以外の分野にも有用である。
【符号の説明】
【0076】
1 縦座席
2 背ずり部
2a 背ずり区画
4 混成ユニット(座部)
4a 同幅区画
4b 拡張区画
6 袖仕切り
6a 壁材
6b 枠材
11 縦座席
12 背ずり部
12a 背ずり区画
14 混成ユニット(座部)
14a 同幅区画
14b 拡張区画
21、31、41、51 縦座席
22、32、42、52 背ずり部
22a、32a、42a、52a 背ずり区画
24A、34A、44A、54A 同幅ユニット(座部)
24a、34a、44a、54a 同幅区画
24B、34B、44B、54B 拡張ユニット(座部)
24b、34b、44b、54b 拡張区画
100 車内壁面
101 床
102 網棚
103 妻壁
B1 体幹部
B2 脚部
d 段差