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特許7370462燃料電池システムを作動させる方法、制御器
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  • 特許-燃料電池システムを作動させる方法、制御器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】燃料電池システムを作動させる方法、制御器
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04664 20160101AFI20231020BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231020BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20231020BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20231020BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20231020BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20231020BHJP
【FI】
H01M8/04664
H01M8/10 101
H01M8/04 N
H01M8/04 H
H01M8/0444
H01M8/04858
H01M8/04746
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022523164
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2020078353
(87)【国際公開番号】W WO2021083634
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】102019216657.1
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター,フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】ブラウアー,インゴ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ミヒャエル
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-110031(JP,A)
【文献】特開2005-310653(JP,A)
【文献】特開2006-294504(JP,A)
【文献】特開2003-272685(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102009036197(DE,A1)
【文献】国際公開第2008/052578(WO,A1)
【文献】特開2005-141977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システム(1)を作動させる方法であって、少なくとも1つの燃料電池(2)に、アノードガス路(3)を介して、水素を含んだアノードガスを供給し、前記燃料電池(2)から出るアノードガスを、再循環路(4)を介して戻し、その際に前記アノードガスに含まれている窒素成分を低減させるため、前記再循環路(4)内に配置される洗浄弁(5)を開いて前記再循環路(4)を洗浄するようにした前記方法において、
少なくとも1つのセンサ(6)を用いて前記アノードガスの実際組成を検出し、検出した実際組成を目標組成および/またはより早期の時点で検出した実際組成と比較することにより、前記少なくとも1つの燃料電池(2)のエージング状態を決定し、
前記洗浄弁(5)および/または前記センサ(6)の前記エージング状態を考慮し、前記洗浄弁(5)および/または前記センサ(6)の前記エージング状態を決定するため、所定の状態Aで前記洗浄弁(5)を介して排出される前記アノード排ガスの水素含有量を、所定の状態Bでの前記水素含有量と比較することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アノードガスの前記実際組成を検出するため、所定の動作点を近接させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記センサ(6)を用いて、前記再循環路(4)内にある前記アノードガスの前記実際組成を検出することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記センサ(6)を用いて、前記洗浄弁()を介して排出される前記アノードガスの前記実際組成を検出することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの燃料電池(2)の前記エージング状態を規則的な時間間隔で決定することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記状態Aは、前記燃料電池システム(1)の無負荷状態においてアノード側に対するカソード側での圧力を低下させることによって達成されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記状態Bは、前記燃料電池システム(1)の標準作動において所定の負荷点を近接させることによって達成されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法を実施するために設置されている制御器(7)。
【請求項9】
前記燃料電池システム(1)がPEM燃料電池システムであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記燃料電池システム(1)がPEM燃料電池システムであることを特徴とする、請求項8に記載の制御器(7)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムを、特にPEM燃料電池システムを作動させる方法に関するものである。さらに、本発明は、本発明による方法の実施を可能にする制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
前述の種類の燃料電池システムを用いると、水素および酸素を使用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。このため、燃料電池システムは、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配置されている電解質とを備えた少なくとも1つの燃料電池を含んでいる。高分子膜(PEM=“Proton Exchange Membran”)を電解質として使用すれば、PEM燃料電池またはPEM燃料電池システムである。
【0003】
燃料電池システムを用いて得られる電気エネルギーは、たとえば車両を駆動するための駆動エネルギーとして利用することができる。この事例では、必要とする水素は車両搭載の適当なタンク内で携行される。加えて必要とする酸素は、周期空気から取り出される。
【0004】
燃料電池は燃料電池システムの作動時にエージングを蒙り、特に膜が薄くなることおよび/またはプラチナコーティングの有効性の衰退によってエージングを蒙る。その結果、燃料電池の寿命にわたって、カソード側からアノード側へ拡散する窒素の量が上昇する。これに伴い、アノード領域において水素に対する窒素の比率が変化し、水素含有量を圧迫する。対応的に、燃料電池システムの効率が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、燃料電池システムの作動中の効率を上昇させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するため、請求項1の構成を備えた方法が提示される。有利な実施態様は、従属請求項から読み取れる。さらに、請求項10の構成を備えた制御器が提示される。
【0007】
燃料電池システムを、特にPEM燃料電池システムを作動させるために提案される方法では、少なくとも1つの燃料電池に、アノードガス路を介して、水素を含んだアノードガスを供給し、燃料電池から出るアノードガスを、再循環路を介して戻す。アノードガスに含まれている窒素成分を低減させるため、再循環路内に配置される洗浄弁を開いて再循環路を洗浄する。本発明によれば、少なくとも1つのセンサを用いてアノードガスの実際組成を検出し、検出した実際組成を目標組成および/またはより早期の時点で検出した実際組成と比較することにより、少なくとも1つの燃料電池のエージング状態を決定する。
【0008】
本発明は、燃料電池のエージングと、これに伴って発生するアノードガスの窒素濃縮との間の前述の関係を利用する。アノードガスの組成が既知であれば、これを介して燃料電池のエージング状態を推定できる。エージング状態が憂慮すべきものであり、その結果システムの効率的な作動がもはや不可能であることが確認されれば、交換を行うことができる。このようにしてシステムの効率を再び上昇させる。
【0009】
提案する方法の更なる利点は、アノードガスの実際組成を知ることで、必要に応じて再循環路の洗浄を行えることにある。結果的に、洗浄工程の回数が減少し、或いは、洗浄間隔がより長くなる。対応的に、各洗浄に伴って発生する水素の損失が減る。したがって、アノードガスの実際組成を知ることで洗浄工程をも最適化することができ、このことは効率をさらに上昇させる。
【0010】
アノードガスの実際組成を検出するため、好ましくは、所定の動作点を近接させる。このようにして、複数の検出値を比較可能であることが保証される。近接させるべき動作点は、たとえばシステム出力、圧力レベル、および/または、アノード領域および/またはカソード領域でのガス質量流を介して定義されていてよい。
【0011】
このようにして検出した実際組成を、目標組成および/またはより早期の時点で同様に本発明による方法に従って検出した実際組成と比較することができる。それ故、本方法に従って燃料電池システムの作動中に検出した実際組成は、有利には、データメモリにファイルして評価装置に提供することができる。同じことは、検出した実際組成との比較のために考慮されるべき目標組成に関しても適用される。
【0012】
提案する方法では、好ましくは、センサを用いてアノードガスの水素含有量を検出する。水素含有量を用いて窒素含有量を決定でき、窒素含有量からも少なくとも1つの燃料電池のエージング状態を導出することができる。したがって、基本的には、実際組成を検出するために水素含有量のみを検出すれば十分である。それ故、本方法において使用されるセンサは有利には水素センサである。この種のセンサは技術水準から十分に公知である。たとえば、本出願人の先願である独国特許出願公開第102005058830A1号明細書および独国特許出願公開第102005058832A1号明細書を指摘する。
【0013】
さらに、センサを用いて、再循環路内にあるアノードガスの実際組成を検出することを提案する。すなわち、アノードガスの実際組成を検出するために、再循環路内に配置されるセンサを使用する。
【0014】
択一的に、または、補完的に、センサを用いて、洗浄弁を介して排出されるアノードガスの実際組成を検出することを提案する。この事例では、前記センサまたは1つのセンサが洗浄弁の背後に配置され、したがってアノード領域の外側に配置されている。センサはたとえばカソード排ガス路内に配置されていてよく、カソード排ガス路を介して洗浄量がカソード排ガスとともにシステムから除去される。通常はカソード排ガス路内に既にガス組成決定用のセンサがあるので、場合によってはこのセンサを水素含有量の検出のために利用してよく、その結果本方法の実施は付加的なセンサ機構を必要としない。
【0015】
有利な態様によれば、少なくとも1つの燃料電池のエージング状態を規則的な時間間隔で決定する。このようにして、アノードガスの実際組成の変化または少なくとも1つの燃料電池のエージングに早期に反応することができる。
【0016】
本発明の更なる構成では、少なくとも1つの燃料電池のエージング状態を監視する場合、洗浄弁および/またはセンサのエージング状態をも考慮することが提案される。このようにして、少なくとも1つの燃料電池のエージング状態を決定する際の精度を高めることができる。
【0017】
洗浄弁および/またはセンサのエージング状態を決定するため、好ましくは、所定の状態Aで洗浄弁を介して排出されるアノードガスの水素含有量を、所定の状態Bでの水素含有量と比較する。すなわち、作動状態を変化させ、または、2つの異なる動作点を近接させて比較する。このとき、ガス組成の変化は、水素含有量を決定する際に使用した構成要素の機能が変化したことに帰せられる。
【0018】
状態Aは、好ましくは、燃料電池システムの無負荷状態においてアノード側に対するカソード側で圧力を低下させることによって達成される。これによって、窒素がカソード側からアノード側へ拡散するのが阻止される。補完的に、洗浄弁を開いてアノード領域を洗浄してよい。
【0019】
状態Bは、好ましくは、燃料電池システムの標準作動において所定の負荷点を近接させることによって達成される。
【0020】
有利には、状態Aおよび状態Bでの水素含有量をシステムの動作開始時点で検出し、リファレンスとしてバックアップする。この場合、後の時点で両動作点を新たに測定してよい。
【0021】
状態Aは少なくとも1つの燃料電池のエージング状態に関係なく設定できるので、両動作状態で実施した測定の比較を通じて、膜を介してカソード側からアノード側へ拡散する窒素量を推定することができる。
【0022】
さらに、前述した本発明による方法を実施するために設置されている制御器を提案する。この制御器を用いると、特に、本方法で使用するセンサのセンサデータを評価することができる。また、評価の結果および/またはリファレンスを制御器内にバックアップでき、その結果本方法を実施するために必要な比較が可能になる。特に、目標組成および/またはより早期の実際組成を制御器内にファイルすることができる。このため、制御器は有利にはデータメモリを含んでいる。同時に、センサデータの必要な評価を可能にするために、制御器は評価装置を有していてよい。さらに、評価の結果に依存して洗浄弁を起動させ、または、開弁させて、それによって再循環路を洗浄するために、制御器は制御線を介して洗浄弁と結合されていてよい。
【0023】
次に、本発明を、添付の図面を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明による燃料電池システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面に概略を図示した燃料電池システム1は、車両の駆動に用いられる。本発明による方法を実施するための燃料電池システムの1つの可能な実施形態を図示したにすぎない。
【0026】
燃料電池システムは、少なくとも1つの燃料電池2または複数の燃料電池システム2を積層配置で含んでいる。燃料電池ステム1のカソード8には、カソードガス路10を介してカソードガスとしての空気が供給され、他方燃料電池システム1のアノード9には、アノードガス路3を介してアノードガスとしての水素が供給される。
【0027】
カソード8に供給される空気は周囲から取り出す。空気は前もってカソードガス路10内に配置されている圧縮機12を用いて圧縮する。同様にカソードガス路10内に配置されている冷却装置17を介して、圧縮後に空気を再び冷やし、そして下流側に配置されている加湿装置18を用いて追加的に加湿する。圧縮機12、冷却装置17および/または加湿装置18はオプションである。少なくとも1つの燃料電池2から出るカソード排ガスは、カソード排ガス路11を介して排出させる。その際、カソード排ガスをカソード排ガス路11内に配置されている排ガスタービン13に供給し、排ガスタービンは、カソードガス路10内に配置されている圧縮機12を駆動するための電動機14を支援する。排ガスタービン13は同様にオプションである。カソードガス路10とカソード排ガス路11とは、本実施形態では、バイパス弁16の切換え位置に依存して、バイパス路15を介して結合可能である。
【0028】
アノードガスとして用いる水素はタンク19内に貯留し、アノードガス路3内に配置されている吸込用ジェットポンプ20を用いてアノード9に供給する。少なくとも1つの燃料電池2から再び出るアノードガスは、再循環路4を介してアノードガス路3内へ戻し、その結果アノードガスがシステムからなくなることはない。このため、再循環路4内には再循環ファン22が配置されているが、これは必ずしも必要なものではない。
【0029】
アノードガスは、カソード領域からアノード領域内へ拡散する窒素で経時的に濃縮されるので、再循環路4を時折洗浄しなければならない。このため、再循環路4内には、再循環ファン22の上流側に洗浄弁5が配置されている。アノードガス内に含まれている液体の水は、洗浄弁5の上流側に位置するように再循環路4内に配置された水分離器21を用いて予め除去することができる。
【0030】
カソード領域からアノード領域内へ拡散する窒素の量は、少なくとも1つの燃料電池2のエージング状態に依存しており、その結果経時的に、すなわち燃料電池2のエージングが増すにつれて、アノードガスの窒素成分も上昇し、水素含有量を圧迫する。結果的に、燃料電池2の効率が低下する。
【0031】
これを阻止するため、本発明によれば、アノードガスの組成に基づいて燃料電池2のエージング状態を決定する。必要な場合には燃料電池2を交換することができる。加えて、少なくとも1つの燃料電池2のエージング状態に依存して再循環路4を洗浄する。すなわち、(通常のように)モデルに基づいた時間間隔で洗浄するのではなく、必要に応じて洗浄する。これによって洗浄間隔が長くなり、システムの効率が上昇する。
【0032】
少なくとも1つの燃料電池2のエージング状態は、実際組成を、すなわち現時点で検出したアノードガス組成を、目標組成と比較することによって決定する。比較から組成の変化が明らかになれば、これを介して少なくとも1つの燃料電池2のエージングまたはエージング状態を推定することができる。実際組成を検出するため、所定の動作点を近接させ、その結果比較可能性が保証されている。このとき、本実施形態ではカソード排ガス路11内に配置されているセンサ6を用いて、実際組成を検出する。実際組成と目標組成との比較は、目標組成がリファレンスとしてバックアップされている制御器7を用いて実施する。
【0033】
図に図示したセンサ6の配置とは択一的に、これ(センサ6’)を再循環路4内にじかに設置してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
3 アノードガス路
4 再循環路
5 洗浄弁
6 センサ
7 制御器
図1