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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】ガス乾燥システムおよびガス乾燥器
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/26 20060101AFI20231020BHJP
   B01D 53/28 20060101ALN20231020BHJP
【FI】
H02K9/26 Z
B01D53/28
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022570900
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048521
(87)【国際公開番号】W WO2022137451
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】宮下 雅大
(72)【発明者】
【氏名】西川 有俊
(72)【発明者】
【氏名】長田 恒己
(72)【発明者】
【氏名】名定 亮一
(72)【発明者】
【氏名】池嶋 秀聡
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/199274(WO,A1)
【文献】特開2015-177560(JP,A)
【文献】特開2013-252474(JP,A)
【文献】特開2013-162647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/26
B01D 53/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含み油が混ざったガスが流れる流入管と、
乾燥剤が充填され、前記流入管から流入するガスを前記乾燥剤によって乾燥させる乾燥塔と、
前記乾燥塔で乾燥したガスが流れる流出管と、
を備え、
前記乾燥剤が、前記油の分子の大きさ以上の細孔径を有して前記油が浸入する複数の孔を持つ
ガス乾燥システム。
【請求項2】
前記乾燥剤が、水分に反応して変色する指標剤と複合化され、
前記乾燥剤の前記細孔径が、可視光の波長以下である
請求項1に記載のガス乾燥システム。
【請求項3】
前記乾燥剤の前記細孔径として前記乾燥剤の細孔分布における細孔径の極大値が5.1ナノメートル以上360ナノメートル以下である
請求項1または請求項2に記載のガス乾燥システム。
【請求項4】
充填された乾燥剤の1立方センチメートルあたりの細孔体積が0.2立方センチメートル以上0.7立方センチメートル以下である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガス乾燥システム。
【請求項5】
前記乾燥剤が、シリカゲルと活性アルミナとゼオライトとマイクロポーラスシリカとのいずれかである
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガス乾燥システム。
【請求項6】
前記ガスが、前記油である潤滑油が使用される回転電機で冷却媒体として使用され前記回転電機から流れる水素ガスである
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガス乾燥システム。
【請求項7】
前記乾燥塔が、前記乾燥剤が充填される収納箱を備え、
前記収納箱が、前記流入管から前記ガスが流入する部分が狭まった形状を有する
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガス乾燥システム。
【請求項8】
前記乾燥塔が、前記乾燥剤が充填される収納箱を備え、
前記収納箱が、前記流入管から前記ガスが流入する部分にパンチングメタルを備える
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガス乾燥システム。
【請求項9】
前記乾燥剤が、細孔径と材料との少なくともいずれかが異なる複数種類の乾燥剤のうちの一つであり、
前記複数種類の乾燥剤が、種類ごとに層を成して前記乾燥塔に充填される
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のガス乾燥システム。
【請求項10】
前記ガス乾燥システムは、
前記流入管と前記乾燥塔である第1乾燥塔と前記流出管とを備えるガス乾燥器と、
前記流出管の出口側に接続され、前記第1乾燥塔の前記乾燥剤とは細孔径と材料との少なくともいずれかが異なる乾燥剤が充填され、前記流出管から流入するガスを乾燥させる第2乾燥塔と、
を備える
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のガス乾燥システム。
【請求項11】
前記ガス乾燥システムは、
前記流入管と前記乾燥塔と前記流出管とを備えるガス乾燥器と、
前記流入管の途中に接続され、前記流入管を流れるガスから前記油をサイクロン式で除去する油除去装置と、
を備える
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のガス乾燥システム。
【請求項12】
前記油除去装置は、円錐形状の内面を有し、前記ガスが前記内面に沿って渦巻き状に流れる容器を備え、
前記内面の傾斜角度θと前記内面の静止摩擦係数μが、tanθ<1/μを満たす
請求項11に記載のガス乾燥システム。
【請求項13】
コーティングが前記内面に施された請求項12に記載のガス乾燥システム。
【請求項14】
前記コーティングが、フッ素樹脂コーティングとセラミックコーティングとガラスコーティングとのいずれかである
請求項13に記載のガス乾燥システム。
【請求項15】
水分を含み油が混ざったガスが流れる流入管と、
乾燥剤が充填され、前記流入管から流入するガスを前記乾燥剤によって乾燥させる乾燥塔と、
前記乾燥塔で乾燥したガスが流れる流出管と、
を備え、
前記乾燥剤が、前記油の分子の大きさ以上の細孔径を有して前記油が浸入する複数の孔を持つ
ガス乾燥器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水分を含んだガスを乾燥させるガス乾燥システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機(ROTATING ELECTRIC MACHINE)のような大容量な機器では、冷却効果および電力損失の観点から、水素ガスを用いて内部を冷却している。絶縁の劣化と内部の結露とを防止するため、水素ガスを乾燥させた状態に保つ必要がある。そこで、水素ガスの中の水分を取り除くため、乾燥剤を用いた水素ガス乾燥器が設置される。
一般的に乾燥剤として、活性アルミナが用いられる。活性アルミナは、色標が変化する指標剤(Drying indicating agent whose color phase changes)として用いられる塩化コバルトと複合化される。そのため、水分が存在しない場合、塩化コバルトと複合化された活性アルミナは青色である。また、水分が存在する場合、活性アルミナが吸湿するとともに塩化コバルトが赤色に変化する。これにより、活性アルミナの寿命と水素ガス中の水分を目視で判断できる。
乾燥剤が吸湿によって寿命を迎えた場合、加温等で乾燥剤の中の水分を取り除いて乾燥剤を再利用する運用が行われる。
【0003】
特許文献1には、水素ガス乾燥器において、塩化コバルトを指標剤にしてシリカゲルを乾燥剤として用いる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭61-156461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成では、水素ガス乾燥器の中の潤滑油由来の油ミストが乾燥剤の表面に付着する。付着した油ミストは劣化して茶褐色に変色し、その影響で乾燥剤も茶褐色に変色する。そのため、指標剤の色の変化を観察できなくなる。
高い湿度を扱う分野において、乾燥剤を用いて湿度をコントロールする手法はよく知られた技術である。そのため、水素ガス乾燥器にも乾燥剤が用いられている。しかし、一般的に、高い湿度を扱う分野では、湿度と油ミストが共存することはない。そのため、油ミストが乾燥剤の表面に付着して変色する現象は知られていない。この現象は、ガス乾燥器に特有な現象である。そして、この現象は、乾燥剤を用いて湿度をコントロールする手法において改善されていない。
【0006】
本開示は、油がガスに混ざる場合であっても乾燥剤と複合化される指標剤の色の変化を観察できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のガス乾燥システムは、
水分を含み油が混ざったガスが流れる流入管と、
乾燥剤が充填され、前記流入管から流入するガスを前記乾燥剤によって乾燥させる乾燥塔と、
前記乾燥塔で乾燥したガスが流れる流出管と、
を備える。
前記乾燥剤が、前記油の分子の大きさ以上の細孔径を有して前記油が浸入する複数の孔を持つ。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、油がガスに混ざる場合であっても乾燥剤と複合化される指標剤の色の変化を観察することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1におけるガス乾燥システム100の構成図。
図2】実施の形態1における乾燥塔120の構成図。
図3】実施の形態1における乾燥剤130の構成図。
図4】実施の形態1におけるガス乾燥システム100(再活性時)を示す図。
図5】実施の形態1における乾燥剤130に付着した潤滑油132を示す図。
図6】実施の形態1における乾燥剤130に浸入した潤滑油132を示す図。
図7】比較例における乾燥剤139の表面に留まる潤滑油132を示す図。
図8】実施の形態1における潤滑油132の分子構造を示す図。
図9】実施の形態1における細孔径と変色の関係グラフ。
図10】実施例1における乾燥塔120Aの構成図。
図11】実施例2における乾燥塔120Bの構成図。
図12】実施例3におけるガス乾燥システム100の構成図。
図13】実施の形態2におけるガス乾燥システム100の構成図。
図14】実施の形態2における油除去装置140の構成図。
図15】実施の形態における変色レベルについての試験結果を示す図。
図16】実施の形態における変色レベルについての試験結果を示す図。
図17】比較例における変色レベルについての試験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態および図面において、同じ要素または対応する要素には同じ符号を付している。説明した要素と同じ符号が付された要素の説明は適宜に省略または簡略化する。
【0011】
実施の形態1.
ガス乾燥システム100について、図1から図12に基づいて説明する。
【0012】
***構成の説明***
図1に基づいて、ガス乾燥システム100の構成を説明する。
ガス乾燥システム100は、回転電機101と、ガス乾燥器110と、を備える。
回転電機101は、配管バルブ102と、配管バルブ103と、を備える。
ガス乾燥器110は、乾燥塔120を備える。また、ガス乾燥器110は、流入管111と、流出管112と、配管切替機113と、戻り管114と、排水管115と、を備える。
【0013】
配管バルブ102、配管バルブ103および配管切替機113において、白三角は開いているバルブを表し、黒三角は閉じたバルブを表す。
【0014】
回転電機101では、内部を冷却するための冷却媒体として水素ガスが使用される。
流入管111は、回転電機101と乾燥塔120を繋げる配管である。配管バルブ102が開いている場合、水素ガスは、流入管111を流れて乾燥塔120に流入する。
流出管112は、乾燥塔120と配管切替機113とを繋げる配管である。水素ガスは、乾燥塔120から流出して流出管112を流れる。
配管切替機113は、流路を切り替えるための機器であり、流出管112が連結されるバルブと、戻り管114が連結されるバルブと、排水管115が連結されるバルブとを備える。
戻り管114は、回転電機101と配管切替機113とを繋げる配管である。配管バルブ103と配管切替機113のバルブのうち排水管115のためのバルブ以外が開いている場合、水素ガスは、戻り管114を流れて回転電機101に戻る。
排水管115は、ドレイン水を排出するための配管である。
【0015】
乾燥塔120は、流入管111から流入する水素ガスを乾燥させるための機器である。
【0016】
図2に基づいて、乾燥塔120の構成を説明する。
乾燥塔120は、収納箱121と、蓋123と、ヒーター124と、を備える。
【0017】
収納箱121には、水素ガスを乾燥させるための乾燥剤130が充填される。収納箱121を乾燥塔120から取り出すことにより、乾燥剤130の交換を容易に行うことができる。
乾燥剤130は、多孔質セラミックである。例えば、乾燥剤130は、活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライトまたはマイクロポーラスシリカ等である。入手性の観点から、乾燥剤130は活性アルミナまたはシリカゲルが望ましい。
【0018】
収納箱121は、乾燥剤130の色を外部から確認するためののぞき窓122を有する。のぞき窓122を設ける箇所は、運用に応じて移動または増減するとよい。
【0019】
収納箱121の下方から、水素ガスが収納箱121の中に流入する。
収納箱121の上部は、円筒形状を成す。収納箱121の下部は、下側が狭まった円錐形状、ロート形状またはテーパー形状を成す。つまり、収納箱121の入口付近の径が細く、上部に向かうにつれて径が太くなる。これにより、水素ガスが乾燥剤130にふれやすくなり、乾燥効果を高めることができる。
【0020】
蓋123は、乾燥塔120に対して自在に取り付け及び取り外しされる。
【0021】
ヒーター124は、乾燥剤130を温める。これにより、乾燥剤130に吸着した水分が除去される。
【0022】
図3に基づいて、乾燥剤130の構成を説明する。図3は、一粒の乾燥剤130の断面を示している。
乾燥剤130の表面には、色相が変化する指標剤131が付けられる。
指標剤131は、水分に反応して可逆的に変色する。具体的には、指標剤131は塩化コバルトである。但し、テトラフェニルポルフィリン塩化物または鉄ミョウバンなどの塩化コバルトフリーの材料が指標剤131として用いられてもよい。指標剤131は、材料の耐熱性、変色の可逆性および変色の判別容易性などについてのガス乾燥システム100の仕様に応じて決めるとよい。塩化コバルトフリーの材料であれば、規制物質の観点からテトラフェニルポルフィリン塩化物が望ましい。
指標剤131は乾燥剤130と複合化され、乾燥剤130が吸湿すると指標剤131の色が変わる。指標剤131の色を目視で確認することにより、乾燥剤130の寿命を確認することができる。目視の確認は、収納箱121に設けられたのぞき窓122から行うことができる。
【0023】
乾燥剤130は、球形状と非球形状とのどちらでもよい。また、乾燥剤130は破砕形状であってもよい。
ただし、乾燥剤130が球形状を成す方が、収納箱121における乾燥剤130の充填率が高まり、乾燥効率が高まる。
【0024】
***機能の説明***
図1に基づいて、回転電機101の運転中におけるガス乾燥システム100について説明する。
回転電機101では、内部を冷却するための冷却媒体として水素ガスが使用される。
水素ガスは、回転電機101から流入管111を流れて乾燥塔120に流入する。
この水素ガスは、回転電機101で吸湿して水分を含んでいる。
【0025】
乾燥塔120は、流入した水素ガスを乾燥剤130によって乾燥させる。
乾燥した水素ガスは、乾燥塔120から流出管112を流れ、配管切替機113を経由し、戻り管114を流れ、回転電機101に戻る。
【0026】
図4に基づいて、乾燥剤130を再活性化させるときのガス乾燥システム100について説明する。
回転電機101の運転は停止される。
配管バルブ102および配管バルブ103は閉じられる。
配管切替機113において、戻り管114が連結したバルブは閉じられる。また、流出管112が連結したバルブと排水管115が連結したバルブが開かれる。
乾燥塔120のヒーター124は、熱を発して乾燥剤130を温める。これにより、乾燥剤130に吸着している水分が取り除かれる。乾燥剤130を温める温度は、水分の沸点以上である。ただし、ガス乾燥器110の部品の耐熱温度を考慮する必要がある。例えば、乾燥剤130は120度程度で温めるとよい。
この状態で一定時間が経過すると、乾燥剤130に吸着していた水分から生じた水蒸気が流出管112を流れ、配管切替機113を経由し、排水管115を流れる。そして、水蒸気は、ドレイン水129として排水管115から外部に放出される。
【0027】
***特徴の説明***
ガス乾燥システム100は、上記の構成および機能の他に、以下のような特徴を有する。
回転電機101では、様々なところに潤滑油132が使用されている。そのため、潤滑油132が運転時の水素ガスに混ざってミスト状態で流れることがある。そして、水素ガスが乾燥塔120で乾燥される際に、水素ガスに混ざった潤滑油132が乾燥剤130に付着する。
図5に、潤滑油132が付着した直後の乾燥剤130を示す。
【0028】
乾燥剤130は複数の孔を持つ。乾燥剤130の各孔は潤滑油132の分子の大きさ以上の細孔径を有する。そのため、乾燥剤130に付着した潤滑油132は、毛細管現象によって乾燥剤130の各孔の内部に浸入する。
図6に、潤滑油132が内部に浸入した乾燥剤130を示す。潤滑油132は乾燥剤130の内部に浸入するので、潤滑油132は空気にさらされない。つまり、潤滑油132は劣化しにくく変色しにくい。そのため、指標剤131の色変化を観察することができる。
【0029】
図7に、乾燥剤130に対する比較例である乾燥剤139を示す。
乾燥剤139は複数の孔を持つ。ただし、乾燥剤139の各孔は潤滑油132の分子の大きさ未満の細孔径を有する。
潤滑油132は、乾燥剤139の各孔に浸入できないため、乾燥剤139の表面に留まる。そして、潤滑油132は劣化して茶褐色に変色する。
この場合、指標剤131の色変化を観察しにくくなる。例えば、乾燥剤139の全面に潤滑油132が付着し、潤滑油132が茶褐色に変色した場合、乾燥剤139の全面が茶褐色に見えるため、指標剤131の色変化を観察できない。
【0030】
図8に、潤滑油132の分子構造の具体例を示す。
潤滑油132の分子の長さは、5.1ナノメートルである。この長さは、分子量と原子間距離とに基づいて求まる。
乾燥剤130の細孔径が5.1ナノメートル未満である場合、潤滑油132が細孔内に入ることができないため、毛細管現象は起こらない。
乾燥剤130の細孔径は5.1ナノメートル以上である。そのため、潤滑油132が細孔内に入ることができ、毛細管現象が起こる。その結果、潤滑油132の変色が起こらなくなる。
【0031】
乾燥剤139の各孔は可視光の波長以下の細孔径を有する。
可視光の波長の下限は360ナノメートルである。
乾燥剤130の細孔径が360ナノメートルを超える場合、各細孔の内部に浸入した潤滑油132の影響により、乾燥剤130の色が違って見えることがある。この場合、潤滑油132が劣化によって変色しなくても、指標剤131の色の識別がしにくくなる。そのため、乾燥剤130の細孔径は360ナノメートル以下が望ましい。
【0032】
1立方センチメートルあたりの乾燥剤139の細孔体積は、0.2立方センチメートル以上0.7立方センチメートル以下である。
乾燥剤139は細孔内部に潤滑油132を取り込む。そのため、細孔の空間体積が小さいと、潤滑油132が乾燥剤130の表面に溢れて変色することがある。一方で、細孔の空間体積が大きすぎると、乾燥剤130の強度不足が生じてしまう。
そのため、乾燥剤139が充填された状態において、1立方センチメートルあたりの細細孔体積は0.2立方センチメートル以上0.7立方センチメートル以下が望ましい。この数値は、かさ密度[g/cm]と細孔体積[cm/g]とに基づいて求められる。細孔体積は、窒素を用いたガス吸着法による1点法全細孔容積測定によって測定される。
【0033】
図9は、図8の潤滑油132が使用される場合について、細孔径と変色の関係を示す。
図9を見ると、細孔径が潤滑油132の分子サイズ以上である場合に変色が抑制されることが分かる。
変色の現象は、乾燥剤130の細孔径と潤滑油132の分子サイズとをパラメータとする毛細管現象によって決まる。そのため、乾燥剤130の細孔径の極大値が潤滑油132の分子サイズ以上であればよい。
細孔径の極大値は、ガス吸着法によって細孔分布を測定し、細孔分布において極大となる細孔径を特定することによって求められる。
【0034】
***実施例1の説明***
図10に基づいて、乾燥塔120Aについて主に乾燥塔120と異なる点を説明する。乾燥塔120Aは乾燥塔120の実施例である。
乾燥塔120Aは、収納箱121Aを備える。
収納箱121Aは、円筒形状のパンチングメタル125Aを下部に備える。水素ガスは、パンチングメタル125Aの各穴から収納箱121Aの中に流入する。
水素ガスがパンチングメタル125Aの側面から360度の各方向に流れるため、乾燥効果が高まる。
【0035】
***実施例2の説明***
図11に基づいて、乾燥塔120Bについて主に乾燥塔120と異なる点を説明する。乾燥塔120Bは乾燥塔120の実施例である。
乾燥塔120Bは、収納箱121Bを備える。
収納箱121Bには、乾燥剤130と乾燥剤130Bが上下二段に分けて充填される。つまり、乾燥剤130と乾燥剤130Bは、互いに層を成して充填される。
乾燥剤130と乾燥剤130Bは、細孔径と材料との少なくともいずれかが異なる。これにより、2種類の乾燥特性が得られる。
ただし、収納箱121Bには、3種類以上の乾燥剤が充填されてもよい。3種類以上の乾燥剤は、種類ごとに層を成して乾燥塔に充填される。また、収納箱121Bは、層ごとに別々に設けてもよい。
【0036】
収納箱121Bは、乾燥剤130を確認するためののぞき窓122と、乾燥剤130Bを確認するためののぞき窓122Bと、を有する。つまり、収納箱121Bは、乾燥剤別にのぞき窓を有する。
ただし、収納箱121Bは、1つののぞき窓を有してもよい。
【0037】
収納箱121Bは、乾燥剤130を温めるためのヒーター124と、乾燥剤130Bを温めるためのヒーター124Bと、を備える。
ただし、収納箱121Bは、ヒーター124のみを備えてもよい。この場合、ヒーター124の熱は、乾燥剤130を再活性化させる。また、ヒーター124の熱は、水素ガスを乾燥させる。そして、乾燥した水素ガスが流れることにより、乾燥剤130Bを再活性化することができる。
【0038】
***実施例3の説明***
図12に基づいて、ガス乾燥システム100Cについて主にガス乾燥システム100と異なる点を説明する。ガス乾燥システム100Cはガス乾燥システム100の実施例である。
ガス乾燥システム100Cは、ガス乾燥器110の外部に乾燥塔120Cを備える。
乾燥塔120Cは、流出管112の出口側に接続される。
乾燥塔120Cには、乾燥塔120の乾燥剤130とは細孔径と材料との少なくともいずれかが異なる乾燥剤が充填される。これにより、2種類の乾燥特性が得られる。
乾燥塔120Cは、流出管112から流入する水素ガスを乾燥剤で乾燥させる。
乾燥塔120と乾燥塔120Cとのそれぞれがヒーターを備えてもよいし、乾燥塔120のみがヒーター124を備えてもよい。ヒーター124の熱は、乾燥塔120の乾燥剤130を再活性化することができる。また、ヒーター124の熱は、水素ガスを乾燥させる。そして、乾燥した水素ガスが流れることにより、乾燥塔120Cの乾燥剤を再活性化することができる。
ガス乾燥システム100Cは、さらに別の乾燥塔を備えてもよい。
【0039】
***実施の形態1の効果***
ガス乾燥システム100は、指標剤131を用いた乾燥剤130によって水素ガスを乾燥させる。乾燥剤130の細孔分布を測定した際に得られる極大の細孔径が、潤滑油132が毛細管現象により細孔内に浸入できるサイズである。
変色の要因となる潤滑油132が乾燥剤130の表面に留まらないため、潤滑油132の変色が防止され、乾燥剤130の色変化の識別が可能になる。これにより、水素ガスの純度維持に貢献し、製品の性能安定化という効果を奏することができる。
【0040】
実施の形態2.
水素ガスに混ざった潤滑油132を回収する形態について、主に実施の形態1と異なる点を図13から図17に基づいて説明する。
【0041】
***構成の説明***
図13に基づいて、ガス乾燥システム100の構成を説明する。
ガス乾燥システム100は、さらに、油除去装置140を備える。
油除去装置140は、流入管111の途中に接続され、流入管111を流れる水素ガスから潤滑油132をサイクロン式で除去する。
サイクロン式は、圧力損失が生じないという観点で有利である。例えば、油除去フィルターが用いられる方式では、フィルターの目詰まりによって圧力損失が生じ、油除去装置の機能が低下してしまう。
【0042】
図14に基づいて、油除去装置140の構成を説明する。
油除去装置140は、容器141を備える。
容器141は、円錐形状の内面を有する。水素ガスは、容器141の内面に沿って渦巻き状に流れる。
容器141において、内面の傾斜角度θと内面の静止摩擦係数μは、tanθ<1/μを満たす。
容器141の内面には、コーティングが施されている。例えば、フッ素樹脂コーティングとセラミックコーティングとガラスコーティングとのいずれかが用いられる。
【0043】
***機能の説明***
図14に基づいて、油除去装置140の機能を説明する。
油除去装置140には、微量の潤滑油132を含有する水素ガスが流入する。
水素ガスは、油除去装置140に流入すると、容器141の内面に沿って渦巻き状に流れながら下方に落下する。このとき、液状の潤滑油132が容器141の内面に残る。これにより、水素ガスから潤滑油132が取り除かれる。
そして、水素ガスは、容器141の下方に到達すると、上昇気流によって容器141の上方から外部に排出される。
一方、潤滑油132は、容器141の内面を下方に流れる。そして、潤滑油132は、容器141の下方に設けられるドレインから回収される。なお、ドレインが接続されるバルブ142は、回転電機101の運転時には閉じられ、潤滑油132の回収時に開けられる。
【0044】
***特徴の説明***
油除去装置140は、上記の構成および機能の他に、以下のような特徴を有する。
潤滑油132が容器141の内面を伝って落下を開始する場合、潤滑油132が落下する力に比較して最大静止摩擦力が小さいので、式(1)および式(2)が成り立つ。
「m」は、一粒の潤滑油132の重量[kg]を意味する。
「g」は、重力加速度[m/s]を意味する。
「θ」は、容器141の内面の傾斜角度を意味する。
「μ」は、容器141の内面の静止摩擦係数を意味する。
「N」は、容器141の内面の垂直抗力[N]を意味する。
【0045】
mgcosθ>μN ・・・式(1)
N=mgsinθ ・・・式(2)
【0046】
式(1)と式(2)に基づき、式(3)が成り立つ。
【0047】
tanθ<1/μ ・・・式(3)
【0048】
容器141の内面が式(3)を満たすと、潤滑油132は、容器141の内面を下方に流れる。そして、潤滑油132の回収が可能となる。
【0049】
サイクロン式の構造では、一般的に、鉄またはアルミニウムなどの金属が使用される。しかし、容器141の内面が金属であると、静止摩擦係数が大きいため、tanθの範囲が狭くなり、容器141の設計の自由度が下がってしまう。そのため、容器141の内面には、コーティングが施される。
コーティング材料として、例えば、フッ素樹脂コーティング、セラミックコーティングまたはガラスコーティングを用いることができる。
これにより、静止摩擦係数が下がり、容器141の設計の自由度が上がる。
【0050】
油除去装置140が潤滑油132を取り除くため、潤滑油132の劣化に伴う乾燥剤130の変色を防止することが可能となる。
【0051】
***実施の形態2の効果***
ガス乾燥システム100はサイクロン式の油除去装置140を備える。これにより、変色の要因となる潤滑油132を極力除去することができる。そして、乾燥剤130の色変化の識別性がより向上する。
【0052】
***試験結果の説明***
図15図16および図17に、乾燥剤の変色レベルについての試験結果を示す。図15および図16は実施の形態の実施例における試験結果を示し、図17は実施の形態に対する比較例における試験結果を示す。
乾燥剤の細孔径の範囲は、5.1ナノメートル以上420ナノメートル以下である。
潤滑油の分子サイズの範囲は、2.8ナノメートル以上8.6ナノメートル以下である。
乾燥剤の変色レベルは、5段階で示される。数字が小さいほど変色が少ない。3以下の変色レベルは実用可能レベルである。
【0053】
潤滑油が毛細管現象によって乾燥剤の内部に浸入するか、潤滑油が乾燥剤の表面に留まるかについては、乾燥剤の使用前後における重量変化に基づいて、次に示す方法で調べることができる。
まず、乾燥剤を一定量用意する。具体的には、50グラム程度の乾燥剤を用意することが望ましい。ここでは、乾燥剤として活性アルミナを使用し、指標剤として塩化コバルトを使用した。
次に、乾燥剤を十分に乾燥させて、乾燥剤から水分を取り除く。例えば、乾燥剤を100度で2時間乾燥させる。
次に、乾燥剤の重量を測定して記録する。このときの重量を重量Aと称する。重量Aは、乾燥剤の重量である。
次に、潤滑油が含まれる水素ガスの中で乾燥剤を使用する。
次に、界面活性剤を含む溶液で乾燥剤を洗浄する。
次に、乾燥剤を十分に乾燥させて、乾燥剤から水分を取り除く。例えば、乾燥剤を100度で2時間乾燥させる。
そして、乾燥剤の重量を測定して記録する。このときの重量を重量Bと称する。重量Bは、乾燥剤の重量と潤滑油の重量との合計である。
【0054】
毛細管現象が起こらず、潤滑油が乾燥剤の表面に留まった場合、潤滑油が洗浄によって除去される。そして、完全には除去されない潤滑油の影響により、重量Bは重量Aに比較してやや大きい値となる。この場合、重量の変化率は10ppm未満になる。
一方、毛細管現象が起こった場合、潤滑油が乾燥剤の内部に含まれるため、潤滑油が洗浄によって除去されない。そのため、重量Bは重量Aに比較して大きい値となる。この場合、重量の変化率は10ppm以上になる。
【0055】
乾燥剤の細孔体積が小さいと、潤滑油を取り込むための体積が小さい。一方、乾燥剤の細孔体積が大きすぎる場合、乾燥剤の強度不足が生じてしまう。そのため、1立方センチメートルあたりの細孔体積は、0.2立方センチメートル以上0.7立方センチメートル以下が望ましい。
【0056】
図15および図16は、実施例(1~17)の試験結果を示している。乾燥剤の細孔径の範囲は5.1ナノメートル以上360ナノメートル以下である。変色レベルは3以下であった。つまり、実施例(1~17)は実用可能レベルを満たした。
図17は、比較例(A~D)の試験結果を示している。乾燥剤の細孔径は、420ナノメートルであり、360ナノメートルを超えている。変色レベルは4または5であった。つまり、比較例(A~D)は実用可能レベルを満たさなかった。
【0057】
実施例(1~17)では、乾燥剤の細孔径が潤滑油の分子サイズよりも大きい。上記の方法によって測定した結果、乾燥剤の重量変化率は10ppm以上であった。つまり、潤滑油が毛細管現象によって乾燥剤の細孔内部に浸入していることが分かった。
【0058】
図17は、比較例(E、F)の試験結果を示している。比較例(E、F)では、乾燥剤の細孔径が潤滑油の分子サイズよりも小さい。変色レベルは4または5であった。つまり、比較例(E、F)は実用可能レベルを満たさなかった。
また、上記の方法によって測定した結果、乾燥剤の重量変化率は10ppm未満であった。つまり、潤滑油が毛細管現象によって乾燥剤の細孔内部に浸入していないことが分かった。
【0059】
実施例(1、16、17)は、0.2立方センチメートル以上0.7立方センチメートル以下の範囲内で1立方センチメートルあたりの細孔体積が異なる。しかし、変化レベルの差は見られなかった。
【0060】
指標剤には、塩化コバルト、テトラフェニルポルフィリン塩化物または鉄ミョウバンなどの各種の材料を使用した。しかし、乾燥剤に占める指標剤の重量割合が微小であるため、どの材料を使用した場合にも同様な結果が確認された。
【0061】
容器の内面について、傾斜角度(tanθ)と静止摩擦係数との様々な組み合わせで実験を行った。静止摩擦係数は、容器の内面に塗工されるコーティング剤によって変わる。tanθの範囲は0.6以上5.7以下である。静止摩擦係数の範囲は0.2以上0.5以下である。
【0062】
実施例(1、5、6、7、11、12、16、17)および比較例(A、E)は、油除去装置を備えない。この場合、変色レベルに変化は見られなかった。
実施例(2、3、8、9、13、14)は、油除去装置を備える。油除去装置は、上記の式(3)を満たす容器141を備える。この場合、変色レベルがさらに下がることが確認された。
比較例(B、C、D、F)では、乾燥剤の細孔径が5.1ナノメートル以上360ナノメートル以下の範囲外である。この場合、油除去装置を導入しても乾燥剤の変色レベルを実用可能レベルにできないことが分かった。
【0063】
***実施の形態の補足***
ガス乾燥システム100は、回転電機101ではない機器の水素ガスを乾燥させるシステムであってもよい。
ガス乾燥システム100は、水素ガスではないガスを乾燥させるシステムであってもよい。
水素ガスに混ざる油は、潤滑油132として使用される油以外の油であってもよい。
【0064】
各実施の形態は、好ましい形態の例示であり、本開示の技術的範囲を制限することを意図するものではない。各実施の形態は、部分的に実施してもよいし、他の形態と組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0065】
100 ガス乾燥システム、101 回転電機、102 配管バルブ、103 配管バルブ、110 ガス乾燥器、111 流入管、112 流出管、113 配管切替機、114 戻り管、115 排水管、120 乾燥塔、120A 乾燥塔、120B 乾燥塔、120C 乾燥塔、121 収納箱、121A 収納箱、121B 収納箱、122 のぞき窓、122B のぞき窓、123 蓋、124 ヒーター、124B ヒーター、125A パンチングメタル、130 乾燥剤、130B 乾燥剤、131 指標剤、132 潤滑油、139 乾燥剤、140 油除去装置、141 容器、142 バルブ。
図1
図2
図3
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図5
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図10
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