(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】機械学習装置、絶縁状態診断装置、機械学習方法、機械学習プログラム、絶縁状態診断方法、絶縁状態診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20200101AFI20231020BHJP
G01R 31/72 20200101ALI20231020BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01R31/72
H02K15/02 Q
(21)【出願番号】P 2023126445
(22)【出願日】2023-08-02
【審査請求日】2023-08-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 真右
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110794301(CN,A)
【文献】特開2011-107123(JP,A)
【文献】特開2010-256348(JP,A)
【文献】特開2022-151193(JP,A)
【文献】特開昭52-80048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01R 31/72
H02K 15/02
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ部と、前記モータ部によって駆動されるポンプ部と、を有し、
前記モータ部は、シャフトを中心として回転可能なロータと、前記ロータと隙間を介して対向するステータと、内側に前記ロータを収容するロータ室を形成し、外側にモータハウジングと共に前記ステータを収容するステータ室を形成する筒状のキャンと、を備え、
前記ポンプ部における取扱い液の一部を前記ロータ室に循環させるキャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置に用いる学習モデルを生成する機械学習装置であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを入力データとし、この入力データを少なくとも備える学習用データを複数組取得する学習用データ取得部と、
前記学習モデルに前記学習用データを入力することで、前記入力データと前記巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を前記学習モデルに学習させる機械学習部と、
前記機械学習部により学習させた前記学習モデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、を備える、
機械学習装置。
【請求項2】
前記モータ部は、前記モータハウジングの少なくとも一部に冷却ジャケットを更に備え、
前記入力データは、前記冷却ジャケット内に供給される冷却液の流入温度および流量のデータを更に含む、
請求項1記載の機械学習装置。
【請求項3】
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータは、所定期間において前記モータ部に供給されるデータであり、
前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータは、前記所定期間におけるデータであり、
前記取扱い液の流入温度および流量のデータは、前記所定期間におけるデータである、
請求項1記載の機械学習装置。
【請求項4】
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータは、所定期間において前記モータ部に供給されるデータであり、
前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータは、前記所定期間におけるデータであり、
前記取扱い液の流入温度および流量のデータは、前記所定期間におけるデータであり、
前記冷却ジャケット内に供給される冷却液の流入温度および流量のデータは、前記所定期間におけるデータである、
請求項2記載の機械学習装置。
【請求項5】
前記学習用データは、
前記入力データに対応付けられ、前記巻線の絶縁状態が複数の状態のうちのいずれかであることを表す前記診断情報を出力データとしてさらに含み、
前記機械学習部は、前記入力データと前記出力データとの相関関係を教師あり学習により前記学習モデルに学習させる、
請求項1乃至4のいずれかに記載の機械学習装置。
【請求項6】
前記学習用データは、
前記診断情報が前記巻線の絶縁状態が所定の状態であることを表す時の入力データのみを含み、
前記機械学習部は、前記入力データと前記巻線の絶縁状態が前記所定の状態であることを表す前記診断情報との相関関係を教師なし学習により前記学習モデルに学習させる、
請求項1乃至4のいずれかに記載の機械学習装置。
【請求項7】
請求項1又は3に記載の機械学習装置により生成された学習モデルを用いて、前記キャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを取得する入力データ取得部と、
前記入力データ取得部により取得された前記入力データを前記学習モデルに入力し、前記ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論部と、
を備える、
絶縁状態診断装置。
【請求項8】
請求項2又は4に記載の機械学習装置により生成された学習モデルを用いて、前記キャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、前記取扱い液の流入温度および流量のデータ、及び冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを取得する入力データ取得部と、
前記入力データ取得部により取得された前記入力データを前記学習モデルに入力し、前記ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論部と、
を備える、
絶縁状態診断装置。
【請求項9】
モータ部と、前記モータ部によって駆動されるポンプ部と、を有し、
前記モータ部は、シャフトを中心として回転可能なロータと、前記ロータと隙間を介して対向するステータと、内側に前記ロータを収容するロータ室を形成し、外側にモータハウジングと共に前記ステータを収容するステータ室を形成する筒状のキャンと、を備え、
前記ポンプ部における取扱い液の一部を前記ロータ室に循環させるキャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置に用いる学習モデルを学習する機械学習方法であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを入力データとし、この入力データを少なくとも備える学習用データを複数組取得する学習用データ取得工程と、
前記学習モデルに前記学習用データを入力することで、前記入力データと前記巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を前記学習モデルに学習させる機械学習工程と、
前記機械学習工程により学習させた前記学習モデルを学習済みモデル記憶部に記憶する学習済みモデル記憶工程と、を備える、
機械学習方法。
【請求項10】
前記モータ部は、前記モータハウジングの外周の少なくとも一部に冷却ジャケットを更に備え、
前記入力データは、前記冷却ジャケット内に供給される冷却液の流入温度および流量のデータを更に含む、
請求項9記載の機械学習方法。
【請求項11】
コンピュータに、請求項9又は10に記載の機械学習方法が備える各工程を実行させるための、
機械学習プログラム。
【請求項12】
請求項1又は3に記載の機械学習装置により生成された学習モデルを用いて、前記キャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断する絶縁状態診断方法であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを取得する入力データ取得工程と、
前記入力データ取得工程により取得された前記入力データを前記学習モデルに入力し、前記ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論工程と、
を備える絶縁状態診断方法。
【請求項13】
請求項2又は4に記載の機械学習装置により生成された学習モデルを用いて、前記キャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断する絶縁状態診断方法であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、前記取扱い液の流入温度および流量のデータ、及び前記冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを取得する入力データ取得工程と、
前記入力データ取得工程により取得された前記入力データを前記学習モデルに入力し、前記ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論工程と、
を備える絶縁状態診断方法。
【請求項14】
コンピュータに、請求項12に記載の絶縁状態診断方法が備える各工程を実行させるための、
絶縁状態診断プログラム。
【請求項15】
コンピュータに、請求項13に記載の絶縁状態診断方法が備える各工程を実行させるための、
絶縁状態診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ部とポンプ部とを備えたキャンドモータポンプのモータ部の巻線の絶縁状態を診断するために適した機械学習装置、絶縁状態診断装置、機械学習方法、機械学習プログラム、絶縁状態診断方法、絶縁状態診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
キャンドモータポンプは、ポンプ部を駆動するモータ部のロータが、ポンプ部の取扱い液が満たされているキャン内に収容されている。また、モータ部のステータは、キャンの外周囲に配置され、筐体として機能するモータハウジングに収容されている。
このようなキャンドモータポンプにおいては、モータの出力は、ステータコイルの許容温度を基準に設定されている。すなわち、キャンドモータポンプのロータは、その周囲が取扱い液によって満たされているため、迅速に冷却される。このため、キャンドモータポンプでの発熱の対象は主としてステータ側であり、そのうちコイルエンドが一番高温となる。そこで、従来においては、コイルエンドの温度が許容温度を超えないようにモータの出力や液温が規定されていた。
また、一般的に、キャンドモータポンプは、取扱い液の一部をロータが配設されたキャン内に導き、軸受けを潤滑、冷却すると共に、モータ部(ロータ等)の熱を吸収した後にポンプ部へ戻すようにしている。
【0003】
しかしながら、キャンドモータポンプは、高温の取扱い液を取り扱うプラントで用いられる場合が往々にしてある。よって、高温の取扱い液がキャン内に導入されると、モータ部の巻線は、取扱い液温よりも高い温度となり、耐熱絶縁の許容範囲以上の高温に曝されやすくなる。このため、キャンドモータポンプのモータ部は、高温環境下での長期間の使用により巻線の絶縁劣化が懸念される。
巻線の絶縁劣化が進むと巻線の交換が必要となるが、ステータは、キャンとモータハウジングとの間に密封されているため、ステータの巻線交換には、密封されたモータ部の分解等を伴う。このような分解作業は、多大な費用と工数を要するため、巻線の寿命、即ち、巻線の絶縁状態を適切に判断する必要がある。
【0004】
そこで、従来においては、巻線の劣化診断を行うために、キャンドモータポンプを停止させ、巻線の絶縁抵抗や端子間抵抗を定期的に測定し、正常値や過去の測定値と比較して絶縁状態を傾向管理するようにしていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、巻線の絶縁状態を傾向管理するためには、キャンドモータポンプを停止させて抵抗値(絶縁抵抗、端子間抵抗)を測定する必要があり、プラント稼働中においては、キャンドモータポンプを頻繁に停止させることは難しい。
【0007】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、キャンドモータポンプを停止させることなく巻線の絶縁状態を診断することを可能とする機械学習装置、絶縁状態診断装置、機械学習方法、機械学習プログラム、絶縁状態診断方法、絶縁状態診断プログラムを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一実施形態の機械学習装置は、
モータ部と、このモータ部によって駆動されるポンプ部と、を有し、
前記モータ部は、シャフトを中心として回転可能なロータと、前記ロータと隙間を介して対向するステータと、内側に前記ロータを収容するロータ室を形成し、外側にモータハウジングと共に前記ステータを収容するステータ室を形成する筒状のキャンと、を備え、
前記ポンプ部における取扱い液の一部を前記ロータ室に循環させるキャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置に用いる学習モデルを生成する機械学習装置であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを入力データとし、この入力データを少なくとも備える学習用データを複数組取得する学習用データ取得部と、
前記学習モデルに前記学習用データを入力することで、前記入力データと前記巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を前記学習モデルに学習させる機械学習部と、
前記機械学習部により学習させた前記学習モデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る一実施形態の絶縁状態診断装置は、
上記の機械学習装置により生成された学習モデルを用いて、キャンドモータポンプに用いられるステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを取得する入力データ取得部と、
前記入力データ取得部により取得された前記入力データを前記学習モデルに入力し、前記ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論部と、を備える。
【0010】
また、本発明に係る一実施形態の機械学習方法は、
モータ部と、このモータ部によって駆動されるポンプ部と、を有し、
前記モータ部は、シャフトを中心として回転可能なロータと、前記ロータと隙間を介して対向するステータと、内側に前記ロータを収容するロータ室を形成し、外側にモータハウジングと共に前記ステータを収容するステータ室を形成する筒状のキャンと、を備え、
前記ポンプ部における取扱い液の一部を前記ロータ室に循環させるキャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置に用いる学習モデルを学習する機械学習方法であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを入力データとし、この入力データを少なくとも備える学習用データを複数組取得する学習用データ取得工程と、
前記学習モデルに前記学習用データを入力することで、前記入力データと前記巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を前記学習モデルに学習させる機械学習工程と、
前記機械学習工程により学習させた前記学習モデルを学習済みモデル記憶部に記憶する学習済みモデル記憶工程と、を備える。
【0011】
また、本発明に係る一実施形態の機械学習プログラムは、
コンピュータに、前記機械学習方法が備える各工程を実行させる。
【0012】
また、本発明に係る一実施形態の絶縁状態診断方法は、
前記機械学習装置により生成された学習モデルを用いて、前記キャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断する絶縁状態診断方法であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを取得する入力データ取得工程と、
前記入力データ取得工程により取得された前記入力データを前記学習モデルに入力し、前記ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論工程と、
を備える絶縁状態診断方法。
【0013】
また、本発明に係る一実施形態の絶縁状態診断プログラムは、
コンピュータに、前記絶縁状態診断方法が備える各工程を実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、キャンドモータポンプを停止させることなく巻線の絶縁状態を診断することを可能とする機械学習装置、絶縁状態診断装置、機械学習方法、機械学習プログラム、絶縁状態診断方法、絶縁状態診断プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】キャンドモータポンプに適用される絶縁状態診断装置を示す概略構成図である。
【
図2】キャンドモータポンプの一例を示す断面図である。
【
図3】機械学習装置の一例を示すブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係る機械学習装置による機械学習方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】絶縁状態診断装置の一例を示すブロック図である。
【
図6】第1の実施形態に係る絶縁状態診断装置による絶縁状態診断方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】キャンドモータポンプの他の例を示す断面図である。
【
図8】
図8(a)は、
図7で示すキャンドモータポンプに適用される機械学習装置の一例を示すブロック図であり、
図8(b)は、
図7で示すキャンドモータポンプに適用される絶縁状態診断装置の一例を示すブロック図である。
【
図9】第2の実施形態に係る機械学習装置による機械学習方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】第2の実施形態に係る絶縁状態診断装置による絶縁状態診断方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
図1は、キャンドモータポンプに適用される絶縁状態診断システム1を示す概略構成図である。ここで用いられるキャンドモータポンプ2は、一例として、モータ軸線方向が略水平である横置き型のキャンドモータポンプを挙げるが、本発明は、横置き型に限定されず、モータ軸線方向が略鉛直である縦置き型キャンドモータポンプにも適用可能である。
【0017】
先ず、キャンドモータポンプ2の概要について
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係るキャンドモータポンプ2の構成例を示す断面図である。なお、図中に示されるX方向が、モータ軸線方向であり、図中右側を前方、図中左側を後方としている。
【0018】
図2において、キャンドモータポンプ2は、遠心ポンプの構成を有するポンプ部1 0と、このポンプ部10を駆動するモータ部20とを有し、ポンプ部10とモータ部20は、後述するモータ24のシャフト21によって同軸結合されている。
【0019】
ポンプ部10は、インペラ11と、このインペラ11を収容するポンプ室12を形成するポンプケーシング13とを有する。インペラ11は、モータ24のシャフト21の前端部に結合されている。なお、本実施形態では、ポンプ部10は遠心ポンプで構成される場合について説明しているが、本発明はこれに限定されず、ポンプ部10は、斜流ポンプや軸流ポンプ等のターボポンプとして構成されてもよい。
【0020】
モータ部20は、シャフト21の周囲に固定されてシャフトと一体に回転するロータ22と、ロータ22に対して、所定の間隔を空けて囲むように配置された環状のステータ23とを含むモータ24と、モータ24を収容するモータハウジング25と、を有する。
【0021】
ステータ23は、略円筒形の内周面に周方向に配列されたティースを有するステータコア30と、導線がステータコア30のティースに巻回されて形成された巻線(コイル)31とを有する。巻線31の導線の端は、モータハウジング25の外筒41から径方向外側へ延設された端子箱32内に導かれ、端子箱32内に設けられている図示しない端子に接続されている。
【0022】
ステータコア30の内側であってロータ22の外側となる部分、即ち、ロータ22とステータ23との間には、円筒形状のキャン33が配設されている。このキャン33は、ステータコア30の内周面、すなわちティースの先端面に接触した状態で固定され、また、ロータ22の外周面との間では、一定の間隔を空けて配置されている。
【0023】
また、ステータコア30の外周面に沿ってモータを収容する円筒形状の外筒(ステータバンド)41が設けられている。キャン33と外筒41は、同心に配置され、また軸線方向Xの長さはほぼ等しく形成されている。そして、キャン33と外筒41のそれぞれの両端には、円環板状のエンドベル42,43が配置され、このエンドベル42,43により、キャン33と外筒41との間に形成される円筒形状の空間を塞いでいる。
ポンプ部10側のエンドベル42は、ボルトによりポンプケーシング13に結合されている。また、ポンプ部10と反対側のエンドベル43には、キャン33の内側の空間を閉塞する軸受ホルダ44がボルトにより結合されている。
【0024】
外筒41,両端のエンドベル42.43、及び軸受ホルダ44により、モータ24を収容するモータハウジング25が構成されている。
また、キャン33と、ポンプ部10と、軸受ホルダ44とによって、キャン33の内側にロータ22を収容するロータ室50が形成されている。
さらに、外筒41と、キャン33と、両端のエンドベル42,43とによって区画された円筒形状の空間によって、ステータ23を収容するステータ室45が形成される。このステータ室45は、軸方向の略中央部分にステータコア30を配置し、このステータコア30の軸方向前後にコイルエンド31a,31bを収容する環状のコイルエンド収容部45a,45bを有している。
なお、キャン33のコイルエンド収容部45a,45bに臨む外周面には、キャン33の変形を防ぐ筒状のバックアップスリーブ34(34a,34b)があてがわれている。
【0025】
ロータ22が一体に固装されたシャフト21は、その両端を軸受51,52により支持されている。ポンプ部10側の軸受51は、ポンプ部10のポンプケーシング13の背後においてエンドベル42に固定された軸受ホルダ44から延びる軸受部53に保持されている。また、ポンプ部10とは反対側の軸受52は、エンドベル43に固定された軸受ホルダ46から延びる軸受部54に保持されている。これら軸受け51,52は、軸受部53,54に位置決めされたプレーンベアリングによって構成されている。
【0026】
そして、以上のキャンドモータポンプ2は、エンドベル42,43に固定された脚部55により、支持台56に固定されている。
【0027】
ポンプ部10のポンプケーシング13の背後に固定された前記軸受ホルダ44には、キャン33内に取扱い液を導く導入流路14が形成されている。また、シャフト21には、その軸線に沿って、全長に亘って中心孔15が形成されている。インペラ11により送り出された取扱い液の一部は、
図2の矢印に示されるように、キャン33内を循環する内部循環液となる。すなわち、インペラ11の背後に回り込み、導入流路14を通ってキャン33内(ロータ室50)に導入する。キャン33内(ロータ室50)に導入された取扱い液は、軸受51,52の潤滑や冷却、またモータ部20(ロータ22等)の冷却を行った後に、シャフト21の後端からシャフトに形成された中心孔15に入る。そして、取扱い液は、中心孔15を介してポンプ部10の吸込み側まで戻され、インペラ11により渦室へ送り出される。
【0028】
以上のような構成を有するキャンドモータポンプ2に対して、ステータ23の巻線31の絶縁状態を診断する絶縁状態診断システム1が設けられている。この絶縁状態診断システム1は、
図1に示されるように、測定装置3と、機械学習装置4と、絶縁状態診断装置5と、を備える。
【0029】
測定装置3は、キャンドモータポンプ2やその周辺の適所に設置され、各部分の物理量や状態量を測定する。測定装置3は、学習フェーズでは、機械学習装置4に接続されて学習用のデータを測定するために用いられ、推論フェーズでは、絶縁状態診断装置5に接続されて診断用のデータを測定するために用いられる。
ここで測定装置3は、学習フェーズで用いる測定装置と推論フェーズで用いる測定装置は、同じものであっても、異なるものであってもよく、モータ電圧・電流センサ101と、巻線発熱状態測定センサ102と、取扱い液測定センサ103と、を備える。
【0030】
モータ電圧・電流センサ101は、モータ部20に供給されるモータ電圧値および電流値を測定するもので、例えば、モータ24とモータ制御装置26とを接続する電力線に取付けられ、モータ制御装置26からモータ24に供給される電圧・電流値を測定する。なお、モータ電圧・電流センサ101は、モータ部20の内部やモータ制御装置26の内部に設けられるものであってもよい。
また、モータ電圧・電流センサ101は、三相各相の電圧・電流値を測定するものであってもよい。
【0031】
巻線発熱状態測定センサ102は、モータ24(ステータ23)の巻線31の温度を直接的または間接的に測定する。すなわち、巻線発熱状態測定センサ102は、巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータを測定する。
巻線31の温度を直接的に測定する場合は、巻線31の最も温度が高くなる部位、例えば、コイルエンド31a,31bに熱電対を取り付けて温度を測定する。また、ステータコア30の内部の巻線31に熱電対を取り付けて巻線温度を測定してもよい。
巻線31の温度を間接的に測定する場合は、巻線31からの輻射熱や内部循環液の状態(量、温度)が作用するバックアップスリーブ34a,34bや、エンドベル42,43、軸受ホルダ44,46に熱電対を取り付け、その部位の表面温度を測定してもよい。
ここで、巻線発熱状態測定センサ102は、熱電対を用いて温度を検出する例について説明したが、サーミスタや測温抵抗体等の他の接触型センサを用いても、赤外線センサ等の非接触型センサを用いてもよい。
また、巻線31の温度を間接的に測定するために、ステータ室45の圧力P1を測定してもよい。
【0032】
取扱い液測定センサ103は、例えば、ポンプケーシング13の流入口13aに接続された流入管60に設けられる流入温度センサ103a及び流量センサ103bによって構成される。
流入温度センサ103aは、ポンプ部10に流入される取扱い液の温度を測定するもので、例えば、温度検出素子として測温抵抗体を使用した配管用温度センサにより流入管60内の流体温度を測定する。また、流量センサ103bは、ポンプ部10に流入される取扱い液の流入量を測定するもので、超音波式・電磁式・カルマン渦式・羽根車式・浮き子式・熱式・差圧式などの各種センサが利用可能である。
【0033】
測定装置3は、各部の物理量や状態量を測定し、その測定値を機械学習装置4又は絶縁状態診断装置5に出力するように構成される。この測定装置3で測定される測定値は、所定のタイミングで測定したピンポイントの測定値であっても、所定期間において所定の測定周期毎に測定した離散的な一群の経時的な測定値であっても、所定期間において測定した連続的な測定値であってもよい。
【0034】
機械学習装置4は、学習フェーズの主体として動作し、巻線31の絶縁状態を診断する際に用いられる学習モデル6を機械学習により生成する。機械学習としては、「教師あり学習」及び「教師なし学習」のいずれも採用可能であり、第1の実施形態では「教師あり学習」を採用し、第2の実施形態では「教師なし学習」を採用する。
【0035】
絶縁状態診断装置5は、推論フェーズの主体として動作するもので、機械学習装置4により生成された学習済みの学習モデル6を用いて、測定装置3によって測定された測定値から巻線31の絶縁状態を診断(推論)する。
【0036】
(機械学習装置)
機械学習装置4は、汎用又は専用のコンピュータにより構成される。このコンピュータは、据置型コンピュータでも携帯型コンピュータでもよく、また、クライアント型コンピュータでも、サーバ型コンピュータやクラウド型コンピュータでもよい。
機械学習装置4は、
図3に示されるように、制御部111と、操作部112と、表示部113と、通信部114と、メディア入出力部115と、RAM116と、記憶部117と、バス118等を備える。機械学習装置4の各部は、バス118を介して接続されている。
【0037】
制御部111は、演算処理装置(CPU,MPU,DSP等のプロセッサ)で構成され、RAM116にロードされたプログラムを読み出して実行し、各種演算処理を行うことで、機械学習装置4の各部の動作を制御する。
なお、制御部111は、複数のプロセッサを有していてもよく、本実施形態の各種処理を、複数のプロセッサが実行してもよい。この場合において、複数のプロセッサが共通の処理に関与してもよいし、複数のプロセッサが独立に異なる処理を並列に実行してもよい。
【0038】
操作部112は、例えば、キーボード、マウス、テンキー、電子ペン等で構成され、入力部として機能する。
表示部113は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、プロジェクタ等で構成され、出力部として機能する。
操作部112及び表示部113は、タッチパネルディスプレイのように、一体的に構成されていてもよい。
【0039】
通信部114は、ネットワーク7を介して測定装置3と接続され、各種データ(測定データ等)を送受信する通信インターフェースとして機能する。
【0040】
メディア入出力部115は、例えば、DVDドライブ、CDドライブ、USBポート等で構成され、DVD、CD、USB等のメディア(非一時的な記憶媒体)に対してデータの読み書きを行う。
【0041】
RAM116は、各種のデータ及びプログラムを記憶し、メインメモリとして機能する揮発性メモリ(DRAM、SRAM等)で構成される。
【0042】
記憶部117は、例えば、HDD、SSD等のストレージ装置により構成され、オペレーティングシステムやプログラムの実行に必要な各種データを記憶する。
【0043】
なお、プログラムは、RAM116に代えて、記憶部117に記憶されていてもよい。プログラムは、インストール可能なファイル形式又は実行可能なファイル形式でメディアに記録され、メディア入出力部115を介して機械学習装置4に提供されてもよい。また、プログラムは、通信部114を介してネットワーク7経由でダウンロードすることにより機械学習装置4に提供されてもよい。
【0044】
制御部111は、機械学習プログラム(不図示)を実行することで、学習用データ取得部121、及び、機械学習部122として機能する。
【0045】
記憶部117は、学習用データ取得部121が取得した学習用データを複数組記憶するデータベースとして機能する学習用データ記憶部123と、機械学習させた学習済みの学習モデル6を記憶するデータベースとして機能する学習済みモデル記憶部124と、を備える。
なお、本実施形態では、学習用データ記憶部123と学習済みモデル記憶部124とを単一のストレージ装置に設けた場合を示しているが、これらは、別々のストレージ装置として構成してもよい。
【0046】
学習用データ取得部121は、通信部114及びネットワーク7を介して、又は、メディア入出力部115を介して、入力データを少なくとも含む学習用データを取得するインタフェースユニットとして機能する。また、学習用データ取得部121は、操作部112を介して操作者の入力操作を受け付けることでも、学習用データを取得する。
学習用データに含まれる入力データは、試験機としてのキャンドモータポンプ2の各部に、測定装置3としての各センサ(モータ電圧・電流センサ101、巻線発熱状態測定センサ102、取扱い液測定センサ103)を取り付け、この測定装置3をネットワーク7を介して機械学習装置4に接続することで取得される。また、学習用データに含まれる出力データは、入力データ取得時の巻線の絶縁状態が画像解析等を利用して特定できるのであれば、入力データと対応付けて自動取得することも可能であるが、各入力データと対応付けて操作部112を操作することで取得してもよい。
【0047】
なお、学習用データが別途取得されて外部装置に格納されている場合には、学習用データ取得部121は、メディア入出力部115を介して、又は、通信部114及びネットワーク7を介して学習用データを取得してもよい。
【0048】
また、試験機としてのキャンドモータポンプ2から学習用データを収集するにあたり、試験機としてのキャンドモータポンプ2は、巻線の絶縁状態を診断する実機と同じ構成のポンプを用いることが好ましいが、測定データが機種に依存しないと認められる場合には、類似のキャンドモータポンプを用いても、また、キャンドモータポンプを模擬した試験装置を用いてもよい。
【0049】
学習用データ記憶部123は、学習用データ取得部121で取得した学習用データを、複数組記憶するデータベースである。
したがって、学習用データ記憶部123に記憶される学習用データは、測定装置3で実測された入力データや操作部112から入力された出力データ、又は、予め収集された既存の学習用データをロードしたものである。
【0050】
学習済みモデル記憶部124は、機械学習部122により生成された学習済みの学習モデル6を記憶するデータベースである。学習済みモデル記憶部124に記憶された学習モデル6は、任意の通信網や記憶媒体を介して絶縁状態診断装置5に提供される。
【0051】
機械学習部122は、学習用データ記憶部123に記憶された学習用データを用いて機械学習を実施する。この機械学習部122は、学習モデル6に複数組の学習用データを順次入力することで、学習用データに含まれる入力データと巻線の絶縁情報との相関関係を学習モデル6に学習させ、学習済モデルを生成する。学習済モデルを生成する手法は、いろいろあるが、機械学習部122による教師あり学習の具体的手法として、例えば、ニューラルネットワークを採用するとよい。
【0052】
ここで、学習用データは、入力データとして、モータ部20(モータ24)に供給される電圧値と電流値のデータ、ステータ23の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータを少なくとも含む。入力データは、これ以外の他のデータを含むものでもよいが、その場合には、キャンドモータポンプを停止させることなく収集できるデータであって、巻線の絶縁状態と相関関係があるデータを含めるとよい。
【0053】
また、ここでは、入力データとして、モータ部20(モータ24)に供給される電圧値と電流値のデータ、ステータ23の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータの生データ(未処理データ)を用いる例を示すが、これに限定されるものではなく、少なくとも一部のデータに前処理を施したものを入力データとしてもよい(学習用データ取得部121で取得される入力データや学習用データ記憶部123に記憶される入力データは、少なくとも一部のデータに前処理を施したものであってもよい)。
データの前処理としては、例えば、データ外れ値点の除去、データ標準化を含む。また、型変換、欠損値処理(除去、補間)、スケーリングのような機械学習において一般的に行われる処理が含まれる。また、前処理は、入力データが所定の基準を満たすための少なくとも1つのフィルタリングプロセスを含むものでもよい。
【0054】
また、「教師あり学習」の場合、学習用データは、入力データに対応付けられた出力データ(教師データ)として、入力データの取得時における巻線の絶縁状態を表す診断情報、例えば、絶縁状態が複数の状態のうちのいずれの状態であるかを表す診断情報を更に含む。
【0055】
ここで、診断情報は、巻線31の絶縁状態を評価した情報(絶縁劣化を判定する現象を評価した情報)であり、例えば、
(1) 巻線31の全体に取扱い液の付着が有るか否かを判断した情報(取扱い液として、ケミカル液や導電性のある液が多く使用されるため、キャン33が破れて取扱い液がステータ室45に流入すると、取扱い液が巻線31に付着し、絶縁劣化を誘発するため)、
(2) 巻線31の状態での焼損/変色の有無から診断した情報、すなわち、コイル束が円環状に焼けている現象の有無や、巻線31の入口(リード口)のコイル束が焼損している現象の有無から判断した情報(巻線31に傷が生じると、そのコイル束が発熱して円環状に焼け、また、供給される電圧に大きなサージ電圧が載っている場合には、電源入口(リード線側)で巻線31にダメージを与え、巻線入口のコイル束で焼損が生じるため)、
(3) 電圧不平衡の有無、又は、電圧不平衡に起因する一相焼損の有無から判断した情報(電源異常により生じ得る現象)、
(4) 巻線31全体の変色度合いや加熱された形跡の有無から判断した情報(オーバーヒートにより生じ得る現象)、
などの少なくとも1つを含む。
【0056】
巻線31の絶縁状態として、異常の有無を診断する場合には、診断情報は、絶縁状態が正常か異常かのいずれであるかを表す情報として構成される。この場合の診断情報は、巻線の絶縁状態が正常な状態である場合には「0」とし、巻線の絶縁状態が異常な状態である場合には「1」として定義してもよい。
また、巻線31の絶縁に関する異常は、絶縁の劣化度合い(異常の程度)を複数のレベルで分類したものでもよい。この場合、診断情報は、多値で表され、絶縁状態が正常である場合には、「0」とし、絶縁の劣化度合いが低レベルの異常である場合には、「1」とし、絶縁の劣化度合いが高レベルの異常である場合には、「2」としてもよい。
また、異常は、診断時点で異常の発生が判明したような事後的な異常だけでなく、診断時点では正常と判断される許容範囲であるが、将来的に異常の発生が予見されるような異常の兆候を含むものであってもよい。
【0057】
ここで、学習用データに含まれる入力データ(モータ電圧・電流値のデータ、巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び取扱い液の流入温度と流量のデータ)と、巻線の絶縁状態の診断情報との間の相関関係について説明する。
【0058】
モータ部20に供給される電圧値および電流値は、モータ部20を回転駆動させる場合に、モータ制御装置26からモータ24に印加されるもので、モータ24の出力に応じて変化する。
【0059】
(印加電圧と絶縁状態との相関関係)
印加される電圧値は、各種の要因分析を行うための基本情報として必要なものであり、例えば、電圧の不均衡(三相電圧のアンバランス)が大きくなると、それに伴い電流のアンバランスが大きくなり、一相だけが焼損する現象が生じる。また、電圧波形を計測することで、焼損の一要因となる高調波ノイズやサージ電圧の有無を確認することも可能となる。
このため、印加電圧は、絶縁劣化を監視または予知するために使用可能である
【0060】
(電流値と絶縁状態との相関関係)
モータ電流は、モータを所定の回転速度で駆動させるときにモータ制御装置26からモータ部20の巻線31に供給されるので、巻線31の絶縁状態に応じて変化する。
たとえば、巻線31の絶縁が過度に劣化すると、巻線抵抗値は上層し、モータの発熱が増加する。すなわち、巻線の絶縁劣化により絶縁抵抗が大きくなると、巻線が過熱し、熱損傷するレアショート等の現象が生じる。
また、三相電源の各相間で電圧値にアンバランスがあると、一相だけに集中して多くの電流が流れる現象が発生し、その一相だけが焼損して巻線が黒く変色する現象が生じる。電圧不平衡率と各相電流との関係は、極数や出力によって違いはあるものの、僅かな電圧の不平衡率が生じると、各相の電流は大巾に異なることが確認されている。
このため、モータ電流値は、コイルの焼損と共に絶縁劣化を監視または予知するために使用可能である。
【0061】
(巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータと絶縁状態との相関関係)
巻線の絶縁劣化は、主として熱劣化による。すなわち、巻線が熱を持つことで、絶縁物の劣化および破壊、焼損が生じる。また、巻線のオーバヒートは、巻線全体を焼損させ、変色させる。
モータ24の発熱は、主として巻線31で発生するので、巻線を直接監視することが巻線の絶縁状態を監視する上では最も好ましいと言える。しかも、密閉空間であるコイルエンド収容部は、コイルエンドから発生する熱が籠り易く放熱しにくい部分であるため、コイルエンドは、巻線の中でも最も温度が高くなる。したがって、巻線の温度、特にコイルエンドの温度(T1:ポンプから遠い側のコイルエンドの温度、又は、T2:ポンプ側に配されたコイルエンドの温度)、又は、ステータコア30内でティースに巻回された巻線31の温度(T3)は、巻線の絶縁状態を監視または予知するために利用可能である。
【0062】
また、巻線31はステータコア30に固定されているので、巻線とステータとは熱的影響を相互に直接受ける。また、巻線31で発生した熱は、輻射熱としてバックアップスリーブ34a,34bやエンドベル42,43、軸受ホルダ44,46等に伝達されるので、これらの表面温度は巻線31の温度に応じて変動する。なお、これらの表面温度は、内部循環液がある本実施形態においては(
図2に示されるように、キャン33内に矢印で示す内部循環液の流れがある場合には)、内部循環液の状態(量、温度)によっても変化する。
したがって、巻線の温度と相関のあるこれらの温度(T4,T5:バックアップスリーブ34a,34bの温度、T6,T7:エンドベル42,43の温度、T8,T9:軸受ホルダ44,46の温度)についても、巻線の絶縁状態を監視または予知するために利用可能である。
【0063】
さらに、ステータ室45(コイルエンド収容部45a,45b)の圧力:P1は、巻線31の温度の上昇に伴って上昇する。しかも、巻線31が焼けてくると、有機物がガス化し、ステータ室45(コイルエンド収容部45a,45b)の圧力が上がりやすくなる。このため、巻線31の温度とステータ室45の圧力との相関精度を許容範囲内とすれば、ステータ室45の圧力についても、巻線の絶縁状態を監視または予知するために利用可能である。
なお、ロータ室50の圧力:P2も測定し、ステータ室45の圧力:P1との差(ΔP)を監視することで、キャン33の破れ(P1=P2)を検知でき、引いてはモータの不良を検知可能となる。
【0064】
このように、巻線の絶縁状態を監視または予知するためには、巻線温度、又は、巻線温度と相関する温度(例えば、ステータコアの温度、ステータ室の温度、バックアップスリーブ34a,34bの表面温度や、エンドベル42,43の表面温度)、温度差(例えば、各相の巻線の温度差、巻線の各相の温度と取扱い液の温度の差(Δt)や、前後のバックアップスリーブ34a,34bの温度T4,T5の差(T5―T4))若しくは巻線温度と相関する圧力(例えば、ステータ室45の圧力)のいずれか1つを使用すればよいが、必要に応じて複数を使用するようにしてもよい。本実施形態においては、いずれか1つを使用する場合について説明する。
【0065】
(取扱い液の流入温度と流量のデータと絶縁状態との相関関係)
キャンドモータポンプ2では、キャン33がステータコア30の内周面に接しているため、ステータ23の温度は、取扱い液の温度の影響を支配的に受ける。すなわち、ステータ23と取扱い液との間は、厚さが薄く熱伝導率の高いキャン33を介して熱移動が生じるので、ステータ23の温度は、取扱い液の流入温度および流量によって大きく影響を受ける。例えば、取扱い液の温度が高くなると、ステータコア30の温度も高くなり、巻線31は、さらに自己発熱するため取扱い液よりも高い温度となる。このため、高温の取扱い液を扱うことが多いキャンドモータポンプ2においては、巻線31は、絶縁劣化しやすい高温雰囲気に晒されやすくなっている。
このように、取扱い液の流量と温度は、巻線の絶縁状態を評価する際のベース温度となるため、絶縁状態を監視または予知する上で重要となる。
【0066】
モータ電圧値や電流値のデータ、モータ部20の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータについて、絶縁状態への影響は上述の通りであるが、巻線の絶縁状態は、これらが総合的に影響しあって複雑に変化する。このため、上述したデータを個別に判断するだけでは、絶縁状態の適切な判断は難しく、複雑に変化する巻線の絶縁状態を適切に判断するためには、上述したデータを総合的に加味する必要がある。
【0067】
また、
図2に示されるように、モータ部20に冷却装置を備えていないキャンドモータポンプ2であっても、モータ部20の巻線31で発生した熱は、モータハウジング25(外筒41,両端のエンドベル42.43、及び軸受ホルダ44)を介して大気に放出されると共に、取扱い液よりも温度が高くなれば、キャン33を介して取扱い液にも放出される。
しかし、プラントで用いられるキャンドモータポンプ2の稼働条件に大きな変化がなく、放熱条件も安定している場合には、キャンドモータポンプの熱収支をシンプルに捉えることができ、所定の条件下において所定のタイミングで収集されたデータ(モータ部20に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び取扱い液の流入温度および流量のデータ)を学習用データの入力データとして用いれば、巻線31の絶縁状態の傾向を把握することが可能となる。
【0068】
これに対して、モータ部20に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータ23の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度および流量のデータが頻繁に変動し、また、大気への放熱量も大気温の変動によって少なからず変動し、巻線31の絶縁状態に複雑に影響していると考えられる場合には、ピンポイントでの入力データ(所定のタイミングにおける入力データ)の把握では、相関精度が劣ることになるため、このような場合には、学習用データの各入力データは、所定期間における経時的なデータを用いるようにするとよい。
すなわち、所定期間におけるモータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、所定期間におけるステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び所定期間における取扱い液の流入温度および流量のデータ、を入力データとして用いてもよい。また、「教師あり学習」の場合、入力データに対応付けられた出力データ(教師データ)についても、所定期間における巻線の経時的な絶縁状態を用いるとよい。
【0069】
ここで、所定期間における入力データ及び出力データは、所定期間内の複数の測定時点において各センサにより測定された複数の測定値で構成される。例えば、各測定データは、所定期間内に所定のサンプリング周期にて測定され、測定時刻と関連付けられて、時系列の順に並べた配列データとして構成される。
【0070】
(機械学習方法)
機械学習装置4は、機械学習として「教師あり学習」を行う場合には、例えば、ニューラルネットワークモデルを用いて学習モデルを形成する。このニューラルネットワークモデルは、それ自体公知のモデルであり、学習用データに含まれる入力データを入力層に入力し、その推論結果として出力層から出力された出力データと、学習用データに含まれる出力データ(教師データ)と、を比較することで、入力データと出力データとの相関関係を学習する。
【0071】
まず、機械学習装置4に機械学習を行わせるための事前準備として、学習用データ取得部121は、所望数の学習用データを取得し、その取得した複数組の学習用データを学習用データ記憶部123に記憶する。ここで準備する学習用データの数は、学習モデル6に求められる推論精度を考慮して適宜設定される。
【0072】
学習用データの取得は、いろいろな方法が採用可能である。例えば、巻線31の絶縁状態に異常が発生した場合、又は、異常の兆候を認識した場合に、その時点、又は、その前後の所定期間における測定値を測定装置3によって各センサから取得する。また、取得した測定値に対応付けて、診断結果(ここでは、異常が発生し、又は、異常の兆候を認識している場合であるから、出力データは「1」)を操作部112から入力し、このようにして1組の学習用データ(入力データと出力データ)を準備し、これを繰り返して、複数組の学習用データを準備する。
【0073】
絶縁劣化は、長い時間をかけて生じることもあれば、一気に生じることもあるため、異常の発生、又は、異常の兆候が捉えにくい場合には、絶縁の異常な状態を意図的に発生させて学習用データを取得するようにしてもよい。また、学習用データは、絶縁状態に異常が発生していない正常状態のときの入力データ及び出力データも複数組準備する。
【0074】
また、機械学習を開始すべく、ニューラルネットワークモデルで構成される学習前の学習モデル6を準備する。この学習モデル6の入力層には、学習用データに含まれる入力データとしてのモータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び取扱い液の流入温度と流量のデータのそれぞれが対応付けられ、また、出力層には、学習用データに含まれる出力データとしての診断情報(絶縁状態)が対応付けられる。
以上の事前準備を経て、機械学習部122は、例えば、
図4に示すフローチャートの一連の処理を行い、学習済みモデルを生成する。
機械学習部122は、ステップS100において、学習用データ記憶部123に記憶された複数組の学習用データから、一組の学習用データを取得する。学習用データの取得は、予め決められた順に取得するようにしても、ランダムに取得するようにしてもよい。
【0075】
次に、ステップS110において、機械学習部122は、教師あり機械学習を実施する。すなわち、機械学習部122は、取得した一組の学習用データに含まれる入力データを準備した学習モデルに入力して推論結果を出力させ、この推論結果をステップS100において取得した学習用データに含まれる出力データ(教師データ)と比較し、公知のニューラルネットワークの手法により機械学習を実施する。これにより、機械学習部122は、入力データと出力データ(巻線の絶縁状態の診断情報)との相関関係を学習モデル6に学習させる。
【0076】
その後、この学習中の学習モデルを用いて、上述の作業を用意した残りの学習用データに対して行い、機械学習部122での学習を継続させる。この際、機械学習部122は、出力データと教師データとの誤差や、学習回数、又は学習用データ記憶部123に記憶された未学習の学習用データの残数等に基づいて機械学習の継続の有無を判定する(ステップS120)。
【0077】
すなわち、機械学習部122は、ステップS120において、機械学習を継続する(YES)と判定した場合、学習中の学習モデル6に対してステップS100~S110の工程を未学習の学習用データを用いて実施する。これに対して、機械学習部122は、ステップS120において、機械学習を継続しない(NO)と判定した場合は、ステップS130において、生成された学習済みの学習モデル6を学習済みモデル記憶部124に記憶し、機械学習を終了する。
【0078】
(第1の実施形態に係る機械学習装置及び機械学習方法の作用効果)
以上の第1の実施形態に係る機械学習装置4及び機械学習方法によれば、モータ部20に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータ23の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び取扱い液の流入温度および流量のデータから、巻線31の絶縁状態の診断情報を精度よく推論(診断)することが可能な学習モデル6を提供することが可能となる。
【0079】
(絶縁状態診断装置)
次に、上述した手法を用いて生成された学習済みの学習モデル6を用いて巻線31の絶縁状態を推論(診断)する絶縁状態診断装置5について説明する。
絶縁状態診断装置5は、汎用又は専用のコンピュータにより構成される。このコンピュータは、据置型コンピュータでも携帯型コンピュータでもよく、また、クライアント型コンピュータでも、サーバ型コンピュータやクラウド型コンピュータでもよい。
また、絶縁状態診断装置5は、モータ制御装置26に組み込まれたものであっても、モータ制御装置26の上位の管理装置に組み込まれたものであってもよい。
さらに、絶縁状態診断装置5を構成するコンピュータは、前記機械学習装置4を構成するコンピュータと同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0080】
この絶縁状態診断装置5は、
図5に示されるように、制御部131と、操作部132と、表示部133と、通信部134と、メディア入出力部135と、RAM136と、記憶部137と、バス138等を備える。絶縁状態診断装置5の各部は、バス138を介して接続されている。
【0081】
制御部131は、演算処理装置(CPU,MPU,DSP等のプロセッサ)で構成され、RAM136にロードされたプログラムを読み出して実行し、各種演算処理を行うことで、絶縁状態診断装置5の各部の動作を制御する。
なお、制御部131は、複数のプロセッサを有していてもよく、本実施形態の各種処理を、複数のプロセッサが実行してもよい。この場合において、複数のプロセッサが共通の処理に関与してもよいし、複数のプロセッサが独立に異なる処理を並列に実行してもよい。
【0082】
操作部132は、例えば、キーボード、マウス、テンキー、電子ペン等で構成され、入力部として機能する。
表示部133は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、プロジェクタ等で構成され、出力部として機能する。
操作部132及び表示部133は、タッチパネルディスプレイのように、一体的に構成されていてもよい。
【0083】
通信部134は、ネットワーク7を介して測定装置3と接続され、各種データ(測定データ等)を送受信する通信インターフェースとして機能する。
【0084】
メディア入出力部135は、例えば、DVDドライブ、CDドライブ、USBポート等で構成され、DVD、CD、USB等のメディア(非一時的な記憶媒体)に対してデータの読み書きを行う。
【0085】
RAM136は、各種のデータ及びプログラムを記憶し、メインメモリとして機能する揮発性メモリ(DRAM、SRAM等)で構成される。
【0086】
記憶部137は、例えば、HDD、SSD等のストレージ装置により構成され、オペレーティングシステムやプログラムの実行に必要な各種データを記憶する。
【0087】
なお、プログラムは、RAM136に代えて、記憶部137に記憶されていてもよい。プログラムは、インストール可能なファイル形式又は実行可能なファイル形式でメディアに記録され、メディア入出力部135を介して絶縁状態診断装置5に提供されてもよい。また、プログラムは、通信部134を介してネットワーク7経由でダウンロードすることにより絶縁状態診断装置5に提供されてもよい。
【0088】
制御部131は、絶縁状態診断プログラム(不図示)を実行することで、入力データ取得部141、推論部142,出力処理部143として機能する。
また、記憶部137は、機械学習させた学習済みの学習モデル6を記憶するデータベースとして機能する学習済みモデル記憶部144を備える。
【0089】
入力データ取得部141は、通信部134及びネットワーク7を介して、実機としてのキャンドモータポンプ2に設けられた測定装置3(モータ電圧・電流センサ101、巻線発熱状態測定センサ102、取扱い液測定センサ103)に接続され、測定装置3により測定された測定値に基づく入力データ(所定のタイミングにおけるモータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度と流量のデータ、又は、所定期間におけるモータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度と流量のデータ)を取得するインタフェースユニットである。
【0090】
なお、ここでも、入力データは、モータ部20(モータ24)に供給される電圧値と電流値のデータ、ステータ23の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータの生データ(未処理データ)を用いる例を示すが、学習用データに合わせて、入力データは、モータ部20(モータ24)に供給される電圧値と電流値のデータ、ステータ23の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータの少なくとも一部に前処理を施したものを用いてもよい。
【0091】
推論部142は、入力データ取得部141により取得された入力データを学習モデル6に入力し、巻線31の絶縁状態の診断情報を推論する推論処理を行う。推論処理には、機械学習装置4にて生成された教師あり学習が実施された学習済みの学習モデル6が用いられる。
【0092】
推論部142は、学習モデル6を用いた推論処理を行う機能のみならず、推論処理の前処理として、入力データ取得部141により取得された入力データを所望の形式等に調整して学習モデル6に入力する前処理機能や、推論処理の後処理として、学習モデル6から出力された出力データの値に所定の論理式や計算式を適用することで、巻線31の絶縁状態を最終的に診断する後処理機能を含むものであってもよい。
【0093】
学習済みモデル記憶部144は、推論部142の推論処理に用いられる学習済みの学習モデル6を記憶するデータベースである。なお、学習済みモデル記憶部144に記憶される学習モデル6の数は1つに限定されない。例えば、入力データが異なる場合や入力データの数が異なる場合、又は、機械学習の手法が異なる場合の複数の学習モデル6を記憶し、適宜選択して使用してもよい。
【0094】
入力データが異なる場合の例としては、モータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線の温度、及び前記取扱い液の流入温度と流量のデータを用いた学習モデルに対して、ステータの巻線の温度に代えて、これと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータを用いる場合が相当し、入力データの数が異なる場合としては、モータ部の熱収支のモデルにさらに放熱量を左右するデータを付加する場合などが相当する(これについては後述する)。
【0095】
出力処理部143は、推論部142の推論結果、すなわち、巻線31の絶縁状態の診断情報を出力する出力処理を行う。具体的な出力手段は、種々の手段を採用可能である。出力処理部143は、例えば、診断情報を、表示やメール等によって作業者に報知したり、キャンドモータポンプ2の診断履歴として、モータ制御装置26やその上位の管理装置に送信して記憶したり、モータ部20やポンプ部10の駆動制御に利用してもよい。
【0096】
(絶縁状態診断方法)
図6に絶縁状態診断装置5を用いた絶縁状態診断方法の一例がフローチャートとして示されている。この例では、絶縁状態の診断情報が、正常であれば「0」、異常であれば「1」のいずれかの状態として定義される場合について説明する。
まず、ステップS200において、入力データ取得部141は、測定装置3(モータ電圧・電流センサ101、巻線発熱状態測定センサ102、取扱い液測定センサ103)により測定された測定値に基づく入力データ(所定のタイミングにおけるモータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度と流量のデータ、又は、所定期間におけるモータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度と流量のデータ)を取得する。
【0097】
次に、ステップS210において、推論部142は、入力データを学習済みの学習モデル6の入力層に入力して推論を実施する。
その後、推論部142は、ステップ220において、推論結果に基づき、絶縁状態の異常の有無を判定する。すなわち、推論部142は、教師あり学習の後処理の一例として、出力データの値(0~1の間の数)と、所定の閾値とを比較し、正常か異常かを判別する。例えば、出力データの値が、所定の閾値未満であれば、絶縁状態は「異常なし」(NO)と判断し、所定の閾値以上であれば、絶縁状態は「異常」(YES)であると判断する。
【0098】
次に、出力処理部154は、ステップ220における推論部152の推論結果(巻線の絶縁状態の診断結果)が異常なし(NO)である場合には、ステップS230において、「正常」を表す情報を出力し、異常(YES)である場合には、ステップ240において、「異常」を表す情報を出力する(ステップS240)。
そして、ステップS230又はS240の診断情報を出力した後に、巻線の絶縁状態の診断処理を終了する。
【0099】
(第1の実施形態に係る絶縁状態診断装置及び絶縁状態診断方法の作用効果)
以上の第1の実施形態に係る絶縁状態診断装置5及び絶縁状態診断方法によれば、作業者の経験や勘に依存することなく、また、キャンドモータポンプ2を停止させることなく、巻線31の絶縁状態を高精度に診断することが可能となる。
すなわち、複雑に変化する条件での絶縁状態を適切に判断するためには、個々の入力データを個別に監視していても適切に判断できないため、従来においては、キャンドモータポンプを停止させて絶縁抵抗や端子間抵抗を測定し、傾向管理するようにしており、作業者の経験や勘によるところが大きかった。しかし、本診断装置によれば、モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び取扱い液の流入温度と流量のデータを入力データとして生成された学習モデルを用いることで、巻線の絶縁状態が様々な影響を受けて変化する場合であっても、熟練者の経験や勘に頼らずに、巻線の絶縁状態を精度よく診断することが可能となる。
【0100】
以上の例では、キャンドモータポンプの巻線の絶縁状態に影響を与える熱収支を考える場合に、放熱量の変化を積極的に加味したものではなかったが、モータ部20に冷却装置を備える場合においては、放熱量の変化を無視できなくなる。
【0101】
図7にモータ部20に冷却装置70を備えたキャンドモータポンプの例が示されている。この例では、モータ部20の周囲、即ち、外筒41の外側に、冷却ジャケット71が配置されている。この冷却ジャケット71は、外筒41と、これより外側に配置されたジャケット外周部71aと、ジャケット外周部71aの両端に配置される2つの端部板71bと、により形成され、冷却ジャケット71の内部には、冷却管72が配置され、冷却管以外の空間が伝熱媒体によって満たされている。ここで、伝熱媒体は、例えば、油、シリカ、アルミニウム紛等が用いられる。
【0102】
この冷却ジャケット71内の冷却管72に供給される冷却液は、ポンプ部10の取扱い液とは別系統の冷却液を適宜選定して供給するようにしても、また、ポンプ部10を流れる取扱い液を供給するようにしてもよい。ポンプ部10を流れる取扱い液を供給する場合には、取扱い液は、冷却管72を通過後にロータ室50に送られる。
なお、キャンドモータポンプ2の他の構成は、前記
図2で示す構成と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0103】
このような冷却装置70が設けられる場合には、冷却液の温度や流量によっても巻線31が晒される基準となる条件が変わってくる。そこで、このような冷却装置70が設けられる場合には、冷却ジャケット71に冷却液を供給する管路73に冷却液の流入温度および流量を測定する冷却液測定センサ104を設ける。
冷却液測定センサ104は、例えば、冷却ジャケット71に冷却液を供給する管路に設けられた流入温度センサ104a及び流量センサ104bによって構成される。これら流入温度センサ104a及び流量センサ104bは、取扱い液測定センサ103の流入温度センサ103a及び流量センサ103bと同種のものを用いればよい。
【0104】
そして、機械学習装置4や絶縁状態診断装置5に用いられる測定装置3で測定されるデータとして、
図8に示されるように、冷却液測定センサ104により測定された冷却液の流入温度および流量を追加するとよい。すなわち、学習フェーズでの学習用データに含まれる入力データに冷却液の流入温度および流量を含むようにし、また、推論フェーズでの診断用の入力データに冷却液の流入温度および流量を含むようにするとよい。
なお、この場合においても、入力データとして用いる冷却液の流入温度および流量は、流入温度センサ103a及び流量センサ103bで得られた生データ(未処理データ)に限らず、データに前処理を施したものを用いてもよい。
また、冷却液の温度や流量のデータは、所定のタイミングのデータを用いるようにしても、また、相関精度や推論精度を高めるために、所定期間におけるデータを用いてもよい。
したがって、モータ部20に冷却装置70を備える場合においては、学習フェーズ及び推論フェーズで冷却液の流入温度および流量を更に加味することで、巻線31の絶縁状態をより精度よく推論(診断)することが可能となる。
【0105】
(第2の実施形態)
以上の第1の実施形態では、機械学習として、「教師あり学習」を採用した場合について説明したが、本実施形態では、「教師なし学習」を採用した場合について説明する。なお、第2の実施形態に係るキャンドモータポンプ2や巻線31の絶縁状態診断システム1を構成する測定装置3、機械学習装置4及び絶縁状態診断装置5の基本的な構成や動作は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略し、以下においては第1の実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0106】
機械学習装置4は、第1の実施形態と同様、
図3に示されるように、学習用データ取得部121と、学習用データ記憶部123と、機械学習部122、学習済みモデル記憶部124とを備える。
機械学習として「教師なし学習」を採用する場合、学習データは、診断情報が所定のタイミングにおける巻線の絶縁状態、又は、所定期間における巻線の絶縁状態が所定の状態であることを表すときの入力データのみを用いる。すなわち、学習データは、出力データ(教師データ)を含まない構成とする。
【0107】
巻線31の絶縁状態として、異常の有無を診断する場合には、診断情報は、絶縁状態が正常及び異常のいずれであるかを表す情報として構成される。ここでは、巻線の絶縁状態が正常であるときの入力データ(モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータ、さらに冷却装置がある場合には、冷却液の流入温度と流量)のみで構成される。
【0108】
学習用データ取得部121は、上記の学習用データを取得する場合、試験機としてのキャンドモータポンプ2に設けられた測定装置3にて測定された、所定のタイミング、又は、所定の期間におけるモータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータ、冷却装置がある場合には冷却液の流入温度と流量のデータを入力データとして取得する。それと共に、作業者は、入力データが測定されたタイミング又は所定期間における絶縁状態を診断し、その診断した結果が正常であることを操作部112から入力することで、一組の学習用データを形成し、学習用データ記憶部123に記憶する。このような作業を繰り返して、複数組の学習用データを学習用データ記憶部123に格納する。
【0109】
この場合においても、学習用データ取得部121は、学習用データに含まれる入力データを、試験機としてのキャンドモータポンプ2の各部に測定装置3としての各センサ(モータ電圧・電流センサ101、巻線発熱状態測定センサ102、取扱い液測定センサ103)を取り付け、この測定装置3をネットワーク7を介して機械学習装置4に接続することで収集するようにしても、収集された学習用データ(入力データとしてのモータ電圧・電流値のデータ、巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び取扱い液の流入温度と流量のデータ)が既に存在するのであれば、学習用データ取得部121は、メディア入出力部115や通信部114及びネットワーク7を介して既存の学習用データを学習用データ記憶部123にロードしてもよい。
また、この実施形態においても、入力データは、生データ(未処理データ)に限らず、少なくとも一部のデータに前述と同様の前処理を施したものを用いてもよい。
【0110】
機械学習部122は、学習モデルに学習用データを入力することで学習用データに含まれる入力データと巻線の絶縁状態が正常であることを表す診断情報との相関関係を学習モデルに学習させ、学習済みモデルを生成する。機械学習部による教師なし学習の手法としては、例えば、オートエンコーダモデルを採用するとよい。
【0111】
このオートエンコーダモデルは、それ自体公知のモデルであり、学習用データに含まれる入力データを入力層に入力し、この入力データと、推論結果として出力層から出力される出力データと、を比較することで、入力データが有するパターンや傾向を学習する。このような一連の工程を学習中の学習モデルに対して繰り返し実施し、所定の学習終了条件が満たされた場合に、機械学習を終了し、学習済みのオートエンコーダモデルを生成する。
【0112】
図9に第2の実施形態に係る機械学習装置を用いた機械学習方法の一例がフローチャートとして示されている。
この例においても、機械学習装置4に機械学習を行わせるための事前準備として、学習用データ取得部121は、所望数の学習用データを取得し、その取得した複数組の学習用データを学習用データ記憶部123に記憶する。ここで準備する学習用データの数は、学習モデル6に求められる推論精度を考慮して適宜設定される。
【0113】
学習用データの取得は、種々の方法を採用可能であるが、例えば、試験機としてのキャンドモータポンプ2における巻線31の絶縁状態が正常な状態である場合の所定のタイミング又は所定期間における各種の測定値を測定装置3を用いて取得することで、学習用データを構成する入力データを準備する。そして、このような作業を繰り返すことで、複数組みの学習用データを準備する。
【0114】
また、機械学習を開始すべく、オートエンコーダモデルで構成される学習前の学習モデル6を準備する。この学習モデル6の入力層には、学習用データに含まれる入力データとしてのモータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータが対応付けられ、冷却装置がある場合には、さらに冷却液の流入温度と流量のデータを入力データに対応付けられる。
【0115】
事前準備が終了した後に、機械学習部122は、先ず、ステップS300において、学習用データ記憶部123に記憶された複数組の学習用データから、一組の学習用データを取得する。学習用データの取得は、予め決められた順に取得するようにしても、ランダムに取得するようにしてもよい。
【0116】
次に、ステップS310において、機械学習部122は、教師なし機械学習を実施する。すなわち、機械学習部122は、取得した一組の学習用データに含まれる入力データを準備した学習モデルに入力して推論結果を出力させ、この学習用データに含まれる入力データと出力層から出力される推論結果としての出力データとを比較し、公知のオートエンコーダの手法により機械学習を実施する。
【0117】
その後、この学習中の学習モデルを用いて、上述の作業を用意した残りの学習用データに対して行い、機械学習部122での学習を継続させる。この際、機械学習部122は、学習回数や学習用データ記憶部123に記憶された未学習の学習用データの残数等に基づいて機械学習の継続の有無を判定する(ステップS320)。
すなわち、機械学習部122は、ステップS320において、機械学習を継続する(YES)と判定した場合、学習中の学習モデル6に対してステップS300~S310の工程を未学習の学習用データを用いて実施する。これに対して、ステップS320において、機械学習部122が機械学習を継続しない(NO)と判定した場合は、ステップS330において、機械学習部122は、生成された学習済みの学習モデル6を学習済みモデル記憶部124に記憶し、機械学習を終了する。
【0118】
(第2の実施形態に係る機械学習装置及び機械学習方法の作用効果)
以上の第2の実施形態に係る械学習装置及び機械学習方法を用いれば、所定のタイミングにおけるモータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び取扱い液の流入温度と流量のデータ、又は、所定期間におけるモータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度と流量のデータから、巻線の絶縁状態の診断情報を高精度に推論(推定)することが可能な学習モデル6を提供することができる。
【0119】
この実施形態における絶縁状態診断装置5は、
図5で第1の実施形態と同様の構成を有する。即ち、絶縁状態診断装置5は、入力データ取得部141と、推論部142、出力処理部143と、学習済みモデル記憶部144と、を有する。
推論部152は、第1の実施形態と同様、入力データ取得部141により取得された入力データを学習済みの学習モデル6に入力し、巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論処理を行うが、推論処理には、機械学習装置4にて教師なし学習が実施された学習済みモデルが用いられる。
【0120】
図10は、第2の実施形態に係る絶縁状態診断装置5による巻線31の絶縁状態診断方法の一例を示すフローチャートである。この例では、絶縁状態の診断情報が、正常であれば「0」、異常であれば「1」のいずれかの状態として定義される場合について説明する。
【0121】
まず、ステップS400において、入力データ取得部141は、測定装置3(モータ電圧・電流センサ101、巻線発熱状態測定センサ102、取扱い液測定センサ103、冷却装置70がある場合には、さらに冷却液測定センサ104)により測定された測定値に基づく入力データ(所定のタイミング又は所定期間における、モータ電圧値と電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度と流量のデータ、さらに、冷却装置がある場合には、冷却液の流入温度と流量のデータ)を取得する。
ここでも、入力データは、一部のデータに前処理を施したものを用いてもよい。
【0122】
次に、ステップS410において、推論部142は、学習モデル6の入力層に入力データを入力して推論を実施し、学習モデル6の出力層から出力された出力データを取得する。
【0123】
その後、ステップS420において、推論結果に基づき、絶縁状態の異常の有無を判定する。すなわち、推論部142は、教師なし学習の後処理の一例として、入力データに基づく特徴量と、出力データに基づく特徴量との差を求め、その差が所定の閾値未満であれば、絶縁状態は「異常なし」(NO)と判断し、所定の閾値以上であれば、絶縁状態は「異常」(YES)であると判断する。
【0124】
次に、ステップS430において、出力処理部154は、推論部152の推論結果である巻線の絶縁状態の診断情報が異常なし(NO)と判定した場合には、「正常」を表す情報を出力し(ステップS430)、「異常」(YES)と判定した場合には、「異常」を表す情報を出力する(ステップS440)。
そして、ステップS430又はS440の診断情報を出力した後に、巻線の絶縁状態の診断処理を終了する。
【0125】
(第2の実施形態に係る絶縁状態診断装置及び絶縁状態診断方法の作用効果)
以上の第2の実施形態に係る絶縁状態診断装置5及び絶縁状態診断方法においても、作業者の経験や勘に依存することなく、またキャンドモータポンプ2を停止させることなく、巻線の絶縁状態を高精度に診断することが可能となる。
【0126】
(その他の実施形態)
なお、上述の実施形態では、機械学習部122による機械学習の具体的な手法として、ニューラルネットワーク(第1の実施形態)及びオートエンコーダ(第2の実施形態)をそれぞれ採用した場合について説明したが、機械学習部122は、他の任意の機械学習の手法を採用してもよい。例えば、決定木、回帰木等のツリー型、バギング、ブースティング等のアンサンブル学習、再帰型ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク等のニューラルネット型(ディープラーニングを含む)、階層型クラスタリング、非階層型クラスタリング、k近傍法、k平均法等のクラスタリング型、主成分分析、因子分析、ロジスティク回帰等の多変量解析、サポートベクターマシン等を採用してもよい。
【0127】
また、上述した機械学習装置4や絶縁状態診断装置5は、上述した機械学習方法や絶縁状態診断方法が備える各工程を実行させるためのプログラム(機械学習プログラムや絶縁状態診断プログラム)の態様で提供することも可能である。
【0128】
以上の例では、ステータ23の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータとして、それぞれのセンサの所定のタイミングにおける測定データ、又は、所定期間における測定データを学習用データの入力データとして利用するものであったが、入力データは、巻線31の温度と相関のある温度差のデータを適宜採用してもよい。例えば、モータ部20に供給される電圧値および電流値が一定である場合でも、絶縁劣化に伴い各相の巻線抵抗値がアンバランスになると、各相の巻線の温度にばらつきが生じることから、各相の巻線の温度差のデータを利用してもよい。
さらに、巻線31の温度と相関のある温度差のデータとしては、巻線の各相の温度と取扱い液の温度の差(Δt)や、前後のバックアップスリーブ34a,34bの温度T4,T5の差(T5―T4)を監視しても、モータ(巻線31)の異常発熱を検知可能であるため、これらの温度差のデータを入力データとして利用してもよい。
【0129】
(本発明の実施態様)
次に、以上説明した各実施形態から把握される本発明の実施態様について、各実施形態において記載された用語と符号を援用しつつ、以下に記載する。
【0130】
本発明の第1の実施態様は、モータ部(例えば、モータ部20)と、このモータ部によって駆動されるポンプ部(例えば、ポンプ部10)と、を有し、
前記モータ部は、シャフト(例えば、シャフト21)を中心として回転可能なロータ(例えば、ロータ22)と、前記ロータと隙間を介して対向するステータ(例えば、ステータ23)と、内側に前記ロータを収容するロータ室(例えば、ロータ室50)を形成し、外側にモータハウジング(例えば、モータハウジング25)と共に前記ステータを収容するステータ室(例えば、ステータ室45)を形成する筒状のキャン(例えば、キャン33)と、を備え、
前記ポンプ部における取扱い液の一部を前記ロータ室に循環させるキャンドモータポンプ(例えば、キャンドモータポンプ2)に用いられる前記ステータの巻線(例えば、巻線31)の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置(例えば、絶縁状態診断装置5)に用いる学習モデル(例えば、学習モデル6)を生成する機械学習装置(例えば、機械学習装置4)であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線(例えば、巻線31,コイルエンド31a,31b)の温度又はこれと相関のある温度(例えば、ステータコア30、バックアップスリーブ34a,34b、エンドベル42,43、又は軸受ホルダ44,46の温度)、温度差(例えば、各相の巻線の温度差、巻線の各相の温度と取扱い液の温度の差(Δt)や、前後のバックアップスリーブ34a,34bの温度T4,T5の差(T5―T4))若しくは圧力(例えば、ステータ室45又はコイルエンド収容部45a,45bの圧力)のデータ、及び前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを入力データとし、この入力データを少なくとも備える学習用データを複数組取得する学習用データ取得部(例えば、学習用データ取得部121)と、
前記学習モデルに前記学習用データを入力することで、前記入力データと前記巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を前記学習モデルに学習させる機械学習部(例えば、機械学習部122)と、
前記機械学習部により学習させた前記学習モデルを記憶する学習済みモデル記憶部(例えば、学習済みモデル記憶部124)と、を備える、」
機械学習装置である。
この構成によれば、キャンドモータポンプのモータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、モータ部のステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、ポンプ部の取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータから、モータ部の巻線絶縁の診断情報を高精度に推論(推定)することが可能な学習モデルを提供できる。また、キャンドモータポンプを停止させることなく巻線の絶縁状態を精度よく診断することを可能な学習モデルを提供できる。
【0131】
本発明の第2の実施態様は、第1実施態様において、前記モータ部のモータハウジングの少なくとも一部に冷却ジャケット(例えば、冷却ジャケット71)を更に備え、前記入力データは、前記冷却ジャケット内に供給される冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを更に含む、機械学習装置である。
この構成によれば、学習用データに含まれる入力データとして、第1実施態様の入力データに加えて冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータが更に追加されるので、モータ部の巻線絶縁の診断情報をより高精度に推論(推定)することが可能な学習モデルを提供できる。
【0132】
本発明の第3の実施態様は、第1実施態様において、モータ部に供給される電圧値および電流値のデータは、所定期間において前記モータ部に供給されるデータであり、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータは、前記所定期間におけるデータであり、前記取扱い液の流入温度および流量のデータは、前記所定期間におけるデータである、機械学習装置である。
この構成によれば、第1実施態様で用いる入力データとして、所定期間におけるデータが用いられるので、学習用データの相関関係の精度を高めることができる。
【0133】
本発明の第4の実施態様は、第2実施態様において、前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータは、所定期間において前記モータ部に供給されるデータであり、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータは、前記所定期間におけるデータであり、前記取扱い液の流入温度および流量のデータは、前記所定期間におけるデータであり、前記冷却ジャケット内に供給される冷却液の流入温度および流量のデータは、前記所定期間におけるデータである、機械学習装置である。
この構成によれば、第2実施態様で用いる入力データとして、所定期間におけるデータが用いられるので、学習用データの相関関係の精度を高めることができる。
【0134】
本発明の第5の実施態様は、第1乃至4のいずれかの実施態様において、前記学習用データは、前記入力データに対応付けられ、前記巻線の絶縁状態が複数の状態のうちのいずれかであることを表す前記診断情報を出力データとしてさらに含み、前記機械学習部は、前記入力データと前記出力データとの相関関係を教師あり学習により前記学習モデルに学習させる、機械学習装置である。
この構成によれば、入力データと巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を教師あり学習により学習させた学習モデルを生成できる。
【0135】
本発明の第6の実施態様は、1乃至4のいずれかの実施態様において、前記学習用データは、前記診断情報が前記巻線の絶縁状態が所定の状態であることを表す時の入力データのみを含み、前記機械学習部は、前記入力データと前記巻線の絶縁状態が前記所定の状態であることを表す前記診断情報との相関関係を教師なし学習により前記学習モデルに学習させる、機械学習装置である。
この構成によれば、入力データと巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を教師なし学習により学習させた学習モデルを生成できる。
【0136】
本発明の第7の実施態様は、第1乃至第6のいずれかの実施態様での機械学習装置により生成された学習モデルを用いて、前記キャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置(例えば、絶縁状態診断装置5)であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、前記取扱い液の流入温度および流量のデータ、及び必要により冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを取得する入力データ取得部(例えば、入力データ取得部141)と、
前記入力データ取得部により取得された前記入力データを前記学習モデルに入力し、前記ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論部(例えば、推論部142)と、
を備える、絶縁状態診断装置である。
この構成によれば、モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度および流量のデータ、また必要により冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを用いて、ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論できるので、プラントを停止させることなく、巻線の絶縁状態を高精度に診断することが可能となる。
【0137】
本発明の第8の実施態様は、モータ部と、このモータ部によって駆動されるポンプ部と、を有し、
前記モータ部は、シャフトを中心として回転可能なロータと、前記ロータと隙間を介して対向するステータと、内側に前記ロータを収容するロータ室を形成し、外側にモータハウジングと共に前記ステータを収容するステータ室を形成する筒状のキャンと、を備え、
前記ポンプ部における取扱い液の一部を前記ロータ室に循環させるキャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置に用いる学習モデルを学習する機械学習方法であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、及び前記取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを入力データとし、この入力データを少なくとも備える学習用データを複数組取得する学習用データ取得工程(例えば、処理S100、S300)と、
前記学習モデルに前記学習用データを入力することで、前記入力データと前記巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を前記学習モデルに学習させる機械学習工程(例えば、処理S110,S310)と、
前記機械学習工程により学習させた前記学習モデルを学習済みモデル記憶部に記憶する学習済みモデル記憶工程(例えば、処理S130,S330)と、を備える、機械学習方法である。
この構成によれば、キャンドモータポンプのモータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、モータ部のステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、ポンプ部の取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータから、モータ部の巻線絶縁の診断情報を高精度に推論(推定)することが可能な学習モデルを提供できる。また、キャンドモータポンプを停止させることなく巻線の絶縁状態を精度よく診断することを可能な学習モデルを提供できる。
【0138】
本発明の第9の実施態様は、第8実施態様において、前記モータ部は、前記モータハウジングの外周の少なくとも一部に冷却ジャケットを更に備え、
前記入力データは、前記冷却ジャケット内に供給される冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを更に含む、機械学習方法である。
この構成によれば、学習用データに含まれる入力データとして、第8実施態様の入力データに加えて冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータが更に追加されるので、モータ部の巻線絶縁の診断情報をより高精度に推論(推定)することが可能な学習モデルを提供できる。
【0139】
本発明の第10の実施態様は、コンピュータに、第8又は第9の実施態様に記載の機械学習方法が備える各工程を実行させるための、機械学習プログラムである。
この構成によれば、キャンドモータポンプのモータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、モータ部のステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、ポンプ部の取扱い液の流入温度および流量のデータ、また、必要により冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータから、モータ部の巻線絶縁の診断情報を高精度に推論(推定)することが可能な学習モデルを提供できる。また、キャンドモータポンプを停止させることなく巻線の絶縁状態を精度よく診断することを可能な学習モデルを提供できる。
【0140】
本発明の第11の実施態様は、第1乃至6実施態様のいずれかに記載の機械学習装置により生成された学習モデルを用いて、前記キャンドモータポンプに用いられる前記ステータの巻線の絶縁状態を診断する絶縁状態診断方法であって、
前記モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、前記ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、前記取扱い液の流入温度および流量のデータ、及び必要により前記冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを取得する入力データ取得工程(例えば、処理S200,S400)と、
前記入力データ取得工程により取得された前記入力データを前記学習モデルに入力し、前記ステータの巻線の絶縁状態の診断情報を推論する推論工程(処理S210,S410)と、
を備える絶縁状態診断方法である。
この構成によれば、モータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、取扱い液の流入温度および流量のデータ、また、必要により冷却液の流入温度および流量のデータを含む入力データであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データを用いて、モータ部の巻線絶縁の診断情報を高精度に推論(推定)することができる。また、キャンドモータポンプを停止させることなく巻線の絶縁状態を精度よく診断することができる。
【0141】
本発明の第12の実施態様は、コンピュータに、第11実施態様に記載の絶縁状態診断方法が備える各工程を実行させるための、絶縁状態診断プログラムである。
この構成によれば、キャンドモータポンプのモータ部に供給される電圧値および電流値のデータ、モータ部のステータの巻線の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、ポンプ部の取扱い液の流入温度および流量のデータ、また、必要により冷却液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを含む入力データから、モータ部の巻線絶縁の診断情報を高精度に推論(推定)することができる。また、キャンドモータポンプを停止させることなく巻線の絶縁状態を精度よく診断することができる。
【符号の説明】
【0142】
1 絶縁状態診断システム
2 キャンドモータポンプ
3 測定装置
4 機械学習装置
5 絶縁状態診断装置
6 学習モデル
10 ポンプ部
20 モータ部
21 シャフト
22 ロータ
23 ステータ
25 モータハウジング
31 巻線
33 キャン
45 ステータ室
50 ロータ室
71 冷却ジャケット
101 モータ電圧・電流センサ
102 巻線発熱状態測定センサ
103 取扱い液測定センサ
104 冷却液測定センサ
121 学習用データ取得部
122 機械学習部
123 学習用データ記憶部
124 学習済みモデル記憶部
141 入力データ取得部
142 推論部
143 出力処理部
144 学習済みモデル記憶部
【要約】
【課題】キャンドモータポンプを停止させることなく、巻線の絶縁状態を診断することが可能な機械学習装置を提供する。
【解決手段】機械学習装置4は、キャンドモータポンプ2に用いられるステータ23の巻線31の絶縁状態を診断するための絶縁状態診断装置5に用いる学習モデル6を生成する。機械学習装置4は、モータ部20に供給される電圧値および電流値のデータ、ステータ23の巻線31の温度又はこれと相関のある温度、温度差若しくは圧力のデータ、ポンプ部10における取扱い液の流入温度および流量のデータであって、未処理のデータ、又は、少なくとも一部に前処理を施したデータを入力データとし、この入力データを少なくとも備える学習用データを学習モデル6に入力することで、入力データと巻線の絶縁状態の診断情報との相関関係を学習モデルに学習させる。
【選択図】
図1