(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
A61M 39/10 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
A61M39/10 120
(21)【出願番号】P 2019208793
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】飯田 聖一
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-135729(JP,A)
【文献】特表2016-518225(JP,A)
【文献】国際公開第96/33762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ山およびネジ溝からなるネジを備え、前記ネジと螺合する相手側ネジを備える相手側コネクタに接続されるコネクタにおいて、
前記ネジ山の頂は、所定の基準中心軸を中心として円形状の横断面を有する基準仮想柱体の側面に沿うように設けられ、
前記ネジ溝の谷底は、前記ネジ溝の連続する方向において区画された少なくとも2以上の傾斜領域を有し、
一の前記傾斜領域は、前記基準中心軸と斜めに交差する第1傾斜中心軸を中心として円形状、楕円形状またはオーバル形状の横断面を有する第1傾斜仮想柱体の側面に沿うように設けられ、
前記一の傾斜領域と隣り合う前記傾斜領域は、前記基準中心軸および前記第1傾斜中心軸を含む平面とは異なる平面内において前記基準中心軸と斜めに交差する第2傾斜中心軸を中心として円形状、楕円形状またはオーバル形状の横断面を有する第2傾斜仮想柱体の側面に沿うように設けられることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
ネジ山およびネジ溝からなるネジを備え、前記ネジと螺合する相手側ネジを備える相手側コネクタに接続されるコネクタにおいて、
前記ネジ溝の谷底は、所定の基準中心軸を中心として円形状の横断面を有する基準仮想柱体の側面に沿うように設けられ、
前記ネジ山の頂は、前記ネジ山の連続する方向において区画された少なくとも2以上の傾斜領域を有し、
一の前記傾斜領域は、前記基準中心軸と斜めに交差する第1傾斜中心軸を中心として円形状、楕円形状またはオーバル形状の横断面を有する第1傾斜仮想柱体の側面に沿うように設けられ、
前記一の傾斜領域と隣り合う前記傾斜領域は、前記基準中心軸および前記第1傾斜中心軸を含む平面とは異なる平面内において前記基準中心軸と斜めに交差する第2傾斜中心軸を中心として円形状、楕円形状またはオーバル形状の横断面を有する第2傾斜仮想柱体の側面に沿うように設けられることを特徴とするコネクタ。
【請求項3】
請求項1または2のコネクタにおいて、
前記第1傾斜中心軸は、前記基準中心軸を中心に回転させて前記基準中心軸および前記第2傾斜中心軸を含む平面内に置いた場合に、前記基準中心軸に対して前記第2傾斜中心軸と同一の傾斜方向となることを特徴とするコネクタ。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のコネクタにおいて、
前記基準中心軸および前記第1傾斜中心軸を含む平面と前記基準中心軸および前記第2傾斜中心軸を含む平面とは、70度以上110度以下の角度で互いに交差することを特徴とするコネクタ。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のコネクタにおいて、
前記第1傾斜仮想柱体および前記第2傾斜仮想柱体は、横断面が同一形状であることを特徴とするコネクタ。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のコネクタにおいて、
前記第1傾斜中心軸および前記第2傾斜中心軸は、同一角度で前記基準中心軸と交差することを特徴とするコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば輸液チューブや三方活栓等の医療用器具の接続部に用いられるコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三方活栓や輸液チューブ等の輸液管を構成する医療用器具において各部の接続を行うためのコネクタとして、テーパ嵌合式でロック機構を有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなコネクタは、外周面がテーパ状に形成された筒状のオスルアーを備えるオス側コネクタと、内周面がテーパ状に形成された筒状のメスルアーを備えるメス側コネクタから構成され、オスルアーをメスルアー内に挿入して嵌合させることにより接続が行われる。
【0003】
また、ロック機構として、オス側コネクタは内周面に雌ネジが設けられた円筒状のロックリングをオスルアーの外側に備えており、メス側コネクタはこのロックリングの雌ネジと螺合する雄ネジをメスルアーの外周面に備えている。従って、メスルアー内にオスルアーを挿入した後にロックリングを回転させ、ロックリングの雌ネジをメス側コネクタの雄ネジに螺合させることで、オス側コネクタとメス側コネクタが互いに締結され、両者を分離する方向に力が加わった場合にも容易に分離しない、すなわちロックされるようになっている。
【0004】
但し、ロックリングの雌ネジとメス側コネクタの雄ネジの螺合が緩んだ場合には、締結力が失われ、ロック機構による分離防止機能が喪失されることとなる。このため、特許文献1に記載のコネクタでは、メス側コネクタの雄ネジのネジ山の始端部近傍に弾性を有する突起状の係止部が設けられており、雄ネジと雌ネジが螺合する際に雌ネジのネジ山がこの係止部に乗り上げることによって、螺合の緩みが防止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のコネクタでは、雌ネジのネジ山が係止部に乗り上げたときに係止部がこのネジ山によって押し潰されるようになっているため、一旦接続を解除した後に再接続を行う際に、係止部の塑性変形や摩耗によって緩み防止機能が損なわれている場合があった。このため、再接続時にはロックリングの雌ネジとメス側コネクタの雄ネジの螺合が緩みやすく、ロック機構による分離防止機能が適切に発揮されない場合があるという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑み、再接続時にも安定的に分離防止機能を発揮することが可能なコネクタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコネクタは、ネジ山およびネジ溝からなるネジを備え、前記ネジと螺合する相手側ネジを備える相手側コネクタに接続されるコネクタにおいて、前記ネジ山の頂は、所定の基準中心軸を中心として円形状の横断面を有する基準仮想柱体の側面に沿うように設けられ、前記ネジ溝の谷底は、前記ネジ溝の連続する方向において区画された少なくとも2以上の傾斜領域を有し、一の前記傾斜領域は、前記基準中心軸と斜めに交差する第1傾斜中心軸を中心として円形状、楕円形状またはオーバル形状の横断面を有する第1傾斜仮想柱体の側面に沿うように設けられ、前記一の傾斜領域と隣り合う前記傾斜領域は、前記基準中心軸および前記第1傾斜中心軸を含む平面とは異なる平面内において前記基準中心軸と斜めに交差する第2傾斜中心軸を中心として円形状、楕円形状またはオーバル形状の横断面を有する第2傾斜仮想柱体の側面に沿うように設けられることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るコネクタはまた、ネジ山およびネジ溝からなるネジを備え、前記ネジと螺合する相手側ネジを備える相手側コネクタに接続されるコネクタにおいて、前記ネジ溝の谷底は、所定の基準中心軸を中心として円形状の横断面を有する基準仮想柱体の側面に沿うように設けられ、前記ネジ山の頂は、前記ネジ山の連続する方向において区画された少なくとも2以上の傾斜領域を有し、一の前記傾斜領域は、前記基準中心軸と斜めに交差する第1傾斜中心軸を中心として円形状、楕円形状またはオーバル形状の横断面を有する第1傾斜仮想柱体の側面に沿うように設けられ、前記一の傾斜領域と隣り合う前記傾斜領域は、前記基準中心軸および前記第1傾斜中心軸を含む平面とは異なる平面内において前記基準中心軸と斜めに交差する第2傾斜中心軸を中心として円形状、楕円形状またはオーバル形状の横断面を有する第2傾斜仮想柱体の側面に沿うように設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、複数の傾斜領域においてネジ溝の谷底(またはネジ山の頂)を、相手側コネクタのネジ山の頂(またはネジ溝の谷底)に対して傾斜させると共に相手側に向けて膨出させることができる。これにより、複数個所においてそれぞれ異なる方向に相手側コネクタのネジ山(またはネジ溝)に押圧力が加わり、摩擦力が増大するため、螺合を緩みにくくすることができる。
【0011】
また、傾斜仮想柱体の形状および傾斜領域の範囲を適切に設定することで相手側コネクタのネジ山の頂(またはネジ溝の谷底)との接触面積を適切な大きさにすると共に、傾斜領域を複数設けることで押圧力を複数方向に分散させることが可能であるため、接触部における塑性変形や摩耗を低減することができる。これにより、再接続時にも緩み防止機能が適切に発揮されるため、安定的に分離防止機能を発揮させることができる。
【0012】
また、本発明のコネクタにおいて、前記第1傾斜中心軸は、前記基準中心軸を中心に回転させて前記基準中心軸および前記第2傾斜中心軸を含む平面内に置いた場合に、前記基準中心軸に対して前記第2傾斜中心軸と同一の傾斜方向となることが好ましい。
【0013】
これによれば、基準中心軸に対する傾斜により、例えば一の傾斜領域が基準中心軸方向の一側の方が他側よりも膨出している場合に、この一の傾斜領域に隣り合う傾斜領域も基準中心軸方向の一側の方が他側よりも膨出するようにすることができる。このようにすることで、2つの傾斜領域の境界における膨出量の変化を低減し、局所的な接触や螺合の進行時の引っ掛かり等を防ぐことで、接触部における塑性変形や摩耗を低減することができる。
【0014】
また、本発明のコネクタにおいて、前記基準中心軸および前記第1傾斜中心軸を含む平面と前記基準中心軸および前記第2傾斜中心軸を含む平面とは、70度以上110度以下の角度で互いに交差することが好ましい。
【0015】
これによれば、基準中心軸方向から見た場合に、一の傾斜領域による押圧力の方向とこれと隣り合う傾斜領域による押圧力の方向を70度以上110度以下の角度で交差させることができる。従って、一の傾斜領域による押圧力に伴う横方向の弾性変形(横ひずみ)がこれと隣り合う傾斜領域による押圧力を高めるようにすることが可能となるため、複数の傾斜領域による緩み防止機能を相乗的に発揮させることができる。
【0016】
また、本発明のコネクタにおいて、前記第1傾斜仮想柱体および前記第2傾斜仮想柱体は、横断面が同一形状であることが好ましい。
【0017】
これによれば、一の傾斜領域およびこれに隣り合う傾斜領域による押圧力およびこれに伴う変形を適度にバランスさせ、緩み防止機能を高めることができる。
【0018】
また、本発明のコネクタにおいて、前記第1傾斜中心軸および前記第2傾斜中心軸は、同一角度で前記基準中心軸と交差することが好ましい。
【0019】
これによれば、一の傾斜領域およびこれに隣り合う傾斜領域による押圧力およびこれに伴う変形を適度にバランスさせ、緩み防止機能を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るコネクタによれば、再接続時にも安定的に分離防止機能を発揮することが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】Aは本発明の一実施形態に係るコネクタの平面図であり、Bはコネクタの正面図であり、Cはコネクタ1の右側面図である。
【
図2】Aは
図1AにおけるI-I線断面図であり、Bは
図2AにおけるIII-III線断面図である。
【
図3】Aは
図1AにおけるII-II線断面図であり、Bは
図3AにおけるIV-IV線断面図である。
【
図4】AおよびBはコネクタに相手側コネクタを接続した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
図1Aは本発明の一実施形態に係るコネクタ1の平面図であり、
図1Bはコネクタ1の正面図であり、
図1Cはコネクタ1の右側面図である。また、
図2Aは
図1AにおけるI-I線断面図であり、
図2Bは
図2AにおけるIII-III線断面図である。また、
図3Aは
図1AにおけるII-II線断面図であり、
図3Bは
図3AにおけるIV-IV線断面図である。
【0023】
なお、以下の説明では、平面図における左右方向をx軸方向とし、平面図における上下方向をy軸方向とし、正面図における上下方向をz軸方向とする。また、z軸に垂直な平面をx-y平面とし、y軸に垂直な平面をz-x平面とし、x軸に垂直な平面をy-z平面とする。
【0024】
本実施形態のコネクタ1は、三方活栓やTポート(混注ポート)等において混注用の輸液チューブやシリンジ等が接続されるコネクタとして使用されるものである。コネクタ1は、適宜の樹脂からなり、カップ状のベース10と、ベース10から上方に向けて突設された円筒状の本体20と、本体20の外周面に設けられた雄ネジ30と、から構成されている。
【0025】
ベース10は、三方活栓等に固定される部分であり、円盤状の上壁11と、上壁11の外周部を下方に向けて突出させた側壁12と、を備えている。上壁11の中心部には、本体20の内部と連通する連通孔13が設けられている。また、側壁12の端面12aには、周方向に連続する溝14が設けられている。コネクタ1は、三方活栓等の本体部に設けられた突起をこの溝14内に挿入し、突起を超音波溶着等により溶かすことで三方活栓等の本体部に固定されるように構成されている。
【0026】
本体20は、例えば輸液チューブ等の端部に設けられた相手側コネクタ100のオスルアー110(
図4AおよびB参照)が挿入されて嵌合される部分であり、z軸と平行な基準中心軸C0を中心とする円筒状に構成されている。本体20は、先端側(ベース10の反対側)の内部に設けられたメスルアーテーパ部21と、基端側(ベース10側)の内部に設けられた収容部22と、を備えている。
【0027】
メスルアーテーパ部21は、所定の規格に応じたテーパ状に形成され、相手側コネクタ100のオスルアーテーパ部111(
図4AおよびB参照)と液密に嵌合するように構成されている。収容部22は、メスルアーテーパ部21よりも内径が大きく、ベース10の連通孔13と連続するように形成されている。収容部22は、ベース10の内部と共に適宜の弁体を収容するための空間を構成するものである。
【0028】
雄ネジ30は、相手側コネクタ100が備えるロックリング120の雌ネジ130(
図4AおよびB参照)と螺合し、締結されることで、コネクタ同士の分離防止機能を発揮する部分である。換言すれば、雄ネジ30は、相手側コネクタ100の雌ネジ130と共にロック機構を構成するものである。本実施形態の雄ネジ30は、二条の台形ネジであり、2つのネジ山31および2つのネジ溝32を備えている。
【0029】
ネジ山31は、一般的なネジにおけるネジ山と同様に、本体20の中心軸である基準中心軸C0を中心とする第1基準仮想柱体40a(
図2Aまたは3A参照)の側面(外周面)から遠心方向に突出すると共に、基準中心軸C0を中心とする螺旋状に連続するように設けられている。また、ネジ山31の頂31aは、基準中心軸C0を中心とする第2基準仮想柱体40b(
図2Aまたは3A参照)の側面(外周面)に沿うように設けられている。
【0030】
第1基準仮想柱体40aおよび第2基準仮想柱体40bは、
図2Aおよび3Aの下側に示されるように、横断面(基準中心軸C0に直交する断面)の形状が、それぞれ直径a1の円形および直径a2の円形となっている。従って、頂31aは、基準中心軸C0に対して略一定の距離を保つと共に、基準中心軸C0と略平行な面となっている。
【0031】
ネジ溝32は、2つのネジ山31の間に形成されるものである。本実施形態では、ネジ溝32のネジ溝32の連続する方向において3つの領域に区画している。具体的に本実施形態では、第1基準仮想柱体40aの側面(外周面)に沿うように設けられた基準領域33と、第1傾斜仮想柱体41(
図2A参照)の側面(外周面)に沿うように設けられた第1傾斜領域34と、第2傾斜仮想柱体42(
図2B参照)の側面(外周面)に沿うように設けられた第2傾斜領域35と、を谷底32aに設けている。
【0032】
基準領域33は、第1基準仮想柱体40aの側面に沿うように設けられた領域である。従って、基準領域33は、一般的なネジにおけるネジ溝の谷底と同様に形成された領域であり、基準中心軸C0に対して略一定の距離を保つと共に、基準中心軸C0と略平行な面となっている。
【0033】
本実施形態では、本体20の先端側、すなわち螺合の開始端に基準領域33を設けている。本実施形態では、ネジ山31およびネジ溝32を基準中心軸C0周りに約270度の範囲(約3/4周)に亘って設けており、このうち基準領域33は、基準中心軸C0周りに約20度の範囲に亘って設けている。このように先端側に基準領域33を設けることで、螺合の開始をスムーズにすることが可能となる。
【0034】
第1傾斜領域34は、第1基準仮想柱体40aおよび第2基準仮想柱体40bとは姿勢および形状が異なる第1傾斜仮想柱体41の側面に沿うように設けられた領域である。
図2AおよびBに示されるように、第1傾斜仮想柱体41は、y-z平面と平行な第1平面P1内で基準中心軸C0と斜めに交差する第1傾斜中心軸C1を中心とする柱体である。
【0035】
この第1傾斜中心軸C1は、基準中心軸C0と角度θで交差している。また、第1傾斜仮想柱体41は、
図2Aの上側に示されるように、横断面(第1傾斜中心軸C1に直交する断面)の形状が、長軸が第1平面P1内に位置し、短径a1(第1基準仮想柱体40aの直径と同一)、長径bの楕円形となっている。
【0036】
従って、第1傾斜領域34は、基準中心軸C0に対して角度θでy軸方向に傾斜すると共に、第1基準仮想柱体40aの側面に沿う基準領域33よりも外側(基準中心軸C0の遠心方向)に膨出した領域となっている。
【0037】
本実施形態では、第1傾斜領域34を、基準領域33と隣接する位置において基準中心軸C0周りに約125度の範囲に亘って設けている。また、本実施形態の雄ネジ30は二条ネジであるため、2つのネジ溝32の谷底32aに設けられた第1傾斜領域34は、それぞれ本体20におけるx軸方向の両側に位置するようになっている。
【0038】
なお、第1傾斜仮想柱体41の横断面を第1基準仮想柱体40aと同じ直径a1の円形とした場合にも、第1傾斜仮想柱体41を基準中心軸C0に対して傾けることで、第1傾斜領域34を基準領域33よりも膨出させることができるが、本実施形態では、第1傾斜仮想柱体41の横断面を上述のような楕円形とすることで膨出量を増大させるようにしている。
【0039】
第2傾斜領域35は、第1傾斜仮想柱体41と同様に、第1基準仮想柱体40aおよび第2基準仮想柱体40bとは姿勢および形状が異なる第2傾斜仮想柱体42の側面に沿うように設けられた領域である。
図3AおよびBに示されるように、第2傾斜仮想柱体42は、z-x平面と平行な第2平面P2内で基準中心軸C0と斜めに交差する第2傾斜中心軸C2を中心とする柱体である。
【0040】
この第2傾斜中心軸C2は、第1傾斜中心軸C1と同一の角度θで基準中心軸C0と交差している。また、第2傾斜仮想柱体42は、
図3Aの上側に示されるように、横断面(第2傾斜中心軸C2に直交する断面)の形状が、長軸が第2平面P2内に位置し、短径a1(第1基準仮想柱体40aの直径と同一)、長径bの楕円形となっている。すなわち、第2傾斜仮想柱体42は、第1傾斜仮想柱体41とは姿勢が異なるが、同一の形状を有している。
【0041】
従って、第2傾斜領域35は、第1傾斜領域34とは90度異なるx軸方向において、基準中心軸C0に対して角度θで傾斜すると共に、第1基準仮想柱体40aの側面に沿う基準領域33よりも外側(基準中心軸C0の遠心方向)に膨出した領域となっている。本実施形態では、第2傾斜領域35を、基準領域33とは反対側で第1傾斜領域34と隣接する位置において基準中心軸C0周りに約125度の範囲に亘って設けている。
【0042】
本実施形態では、雄ネジ30が二条ネジであることから、2つのネジ溝32の谷底32aに設けられた第2傾斜領域35は、それぞれ本体20におけるy軸方向の両側に位置している。また、第1傾斜仮想柱体41と同様に、第2傾斜仮想柱体42の横断面を上述のような楕円形とすることで、第2傾斜領域35の膨出量を増大させるようにしている。
【0043】
また、本実施形態では、第1傾斜中心軸C1の傾斜を右側面視で左上がりとし、第2傾斜中心軸C2の傾斜を正面視で左上がりとしている。従って、基準中心軸C0を中心に第1傾斜中心軸C1を回転させて第2平面P2内に置いた場合、第1傾斜中心軸C1は、基準中心軸C0に対して第2傾斜中心軸C2と同一の傾斜方向となり、正面視で左上がりとなる。すなわち、第1傾斜中心軸C1および第2傾斜中心軸C2は、基準中心軸C0を中心に回転させて同一平面内に置いた場合に、基準中心軸C0に対して同一の傾斜方向となるように傾斜している。
【0044】
このようにすることで、2つのネジ溝32の一方において先端側が基端側より膨出している第1傾斜領域34に先端側が基端側より膨出している第2傾斜領域35を隣接させ、他方において基端側が先端側より膨出している第1傾斜領域34に基端側が先端側より膨出している第2傾斜領域35を隣接させることが可能となる。これにより、第1傾斜領域34と第2傾斜領域35の境界における膨出量の変化を低減し、極端な段差等が生じないようにすることができる。
【0045】
なお、本実施形態では、第1傾斜領域34よりも本体20の基端側に第2傾斜領域35を設けているため、第2傾斜中心軸C2は、第1傾斜中心軸C1よりも本体20の基端側に位置している。従って、基準中心軸C0と第2傾斜中心軸C2の交点は、基準中心軸C0と第1傾斜中心軸C1の交点よりも本体20の基端側に位置している。
【0046】
図4AおよびBは、コネクタ1に相手側コネクタ100を接続した状態を示した図である。なお、
図4Aは
図1AにおけるI-I線断面図であり、
図4Bは
図1AにおけるII-II線断面図である。また、
図4AおよびBでは、相手側コネクタ100を二点鎖線で示すと共に、変形していない状態を仮想的に示している。
【0047】
相手側コネクタ100は、適宜の樹脂から構成され、
図4AおよびBに示されるように、段付き円筒状のオスルアー110と、オスルアー110の外周に遊嵌された有底円筒状のロックリング120と、を備えている。
【0048】
オスルアー110の先端部にはメスルアーテーパ部21と嵌合するオスルアーテーパ部111が設けられており、基端部には図示を省略した輸液チューブ等が接続されている。また、オスルアーテーパ部111の基端側には、ロックリング120と軸方向に当接するフランジ部112が設けられている。
【0049】
ロックリング120は、雄ネジ30と螺合する雌ネジ130が内周面に設けられている。この雌ネジ130は、雄ネジ30のネジ溝32に対応させたネジ山131、雄ネジ30のネジ山31に対応させたネジ溝132から構成されている。ロックリング120の底部121の中央部には、オスルアー110が挿通される貫通孔122が設けられており、この貫通孔122の縁部がオスルアー110の基端側からフランジ部112に当接するようになっている。なお、ロックリング120は、オスルアー110と一体的に形成されるものであってもよい。
【0050】
コネクタ1に相手側コネクタ100を接続する場合、まずオスルアーテーパ部111を基準中心軸C0に沿ってメスルアーテーパ部21内に挿入して嵌合させ、その後ロックリング120を回転させて雄ネジ30と雌ネジ130を螺合させる。このとき、雄ネジ30と雌ネジ130の螺合の進行に伴い、ロックリング120の底部121がオスルアー110のフランジ部112をコネクタ1側に向けて押圧するため、オスルアーテーパ部111とメスルアーテーパ部21の嵌合が強められると共に、コネクタ1と相手側コネクタ100の間に締結力が発生する。これにより、コネクタ1と相手側コネクタ100の分離を防ぐ分離防止機能が発揮される。
【0051】
さらに、雄ネジ30と雌ネジ130が螺合すると、
図4Aに示されるように、本体20の先端側において雌ネジ130のネジ山131の頂131aが第1傾斜領域34と接触して押圧されることにより、ロックリング120には、主にy軸方向において押し開かれるような力が作用すると共に、x軸と平行な軸周りに回転させるようなモーメントが作用することとなる。
【0052】
同様に、
図4Bに示されるように、本体20の基端側において雌ネジ130のネジ山131の頂131aが第2傾斜領域35と接触して押圧されることにより、ロックリング120には、主にx軸方向において押し開かれるような力が作用すると共に、y軸と平行な軸周りに回転させるようなモーメントが作用することとなる。
【0053】
これにより、ロックリング120および本体20は適宜に弾性変形し、この弾性変形の復元力によって雄ネジ30と雌ネジ130の接触部分には一般的なネジよりも大きな押圧力が加わることとなる。この結果、雄ネジ30と雌ネジ130の間の摩擦力が増大し、螺合が緩み難い状態となる。すなわち、雄ネジ30と雌ネジ130の螺合が緩むのを防ぐ緩み防止機能が発揮される。
【0054】
第1傾斜領域34および第2傾斜領域35は、それぞれ楕円形の横断面を有する第1傾斜仮想柱体41および第2傾斜仮想柱体42の側面に沿って設けられると共に、それぞれ基準中心軸C0周りに約125度と比較的広範囲に亘って設けられているため、雌ネジ130のネジ山131の頂131aとの接触面積は適切な大きさとなっている。
【0055】
すなわち、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35においては、従来のように突起を設けた場合とは異なり、相手側コネクタ100の雌ネジ130との局所的な接触が生じないため、第1傾斜領域34、第2傾斜領域35またはネジ山131の頂131aにおける塑性変形や摩耗を低減することが可能となる。さらに本実施形態では、1つのネジ溝32の第1傾斜領域34および第2傾斜領域35において先端側と基端側のいずれがより膨出しているかを揃えているため、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35の境界においても局所的な接触や引っ掛かり等が生じないようになっている。
【0056】
また、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35の2箇所を膨出させることで押圧力を複数方向に分散させることができるため、接触部分における塑性変形や摩耗をより低減することが可能となる。特に本実施形態では、互いに隣接する第1傾斜領域34および第2傾斜領域35による押圧力の方向が互いに直交するようにしているため、一方の押圧力によるロックリング120の横方向の弾性変形(例えば、y軸方向に押し広げられるように弾性変形した場合、x軸方向には押し縮められるように弾性変形する)が他方の押圧力を高める方向に作用し、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35による緩み防止機能を相乗的に発揮させることが可能となっている。
【0057】
さらに本実施形態では、第1傾斜仮想柱体41および第2傾斜仮想柱体42の横断面の形状を同一にすると共に、第1傾斜中心軸C1および第2傾斜中心軸C2の基準中心軸C0に対する傾斜角度を同一にすることで、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35による押圧力を適度にバランスさせ、緩み防止機能を高めるようにしている。
【0058】
このようにコネクタ1によれば、緩み防止機能を適切に発揮させながらも、接触部における塑性変形や摩耗を低減することができるため、相手側コネクタ100との接続を一旦解除した後に再度接続した場合にも、緩み防止機能を適切に発揮させることが可能となっている。
【0059】
なお、本実施形態では、第1傾斜仮想柱体41および第2傾斜仮想柱体42の横断面の短径を、第1基準仮想柱体40aの直径と同一の寸法(a1)としているが、異なる寸法としてもよい。また、第1傾斜仮想柱体41および第2傾斜仮想柱体42の横断面の形状は、楕円形状に限定されるものではなく、上述のように円形状であってもよいし、例えば長円形状や卵形状等の楕円形に類似した形状であるオーバル形状であってもよい。さらに、第1傾斜仮想柱体41および第2傾斜仮想柱体42は、互いに寸法または形状の異なる横断面を有するものであってもよい。
【0060】
また、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35の基準中心軸C0周りの範囲は、約125度に限定されるものではなく、その他の範囲であってもよい。同様に、基準領域33の基準中心軸C0周りの範囲も約20度以外の範囲であってもよく、基準領域33を設けないようにしてもよい。また、雄ネジ30のネジ山31およびネジ溝32は、基準中心軸周りに約270度以外の範囲に亘って設けられるものであってもよい。
【0061】
また、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35は、1つのネジ溝32内で互いに隣接するものに限定されず、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35の間に基準領域33を設けるようにしてもよい。すなわち、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35は、1つのネジ溝32内で基準領域33を介して互いに隣り合うものであってもよい。
【0062】
また、一方のネジ溝32の第1傾斜領域34と他方のネジ溝32の第1傾斜領域34とを、それぞれ別の(位置、姿勢または横断面形状が異なる)第1傾斜仮想柱体41の側面に沿って設けるようにしてもよい。同様に、一方のネジ溝32の第2傾斜領域35と他方のネジ溝32の第2傾斜領域35とを、それぞれ別の第2傾斜仮想柱体42の側面に沿って設けるようにしてもよい。
【0063】
また、第1傾斜中心軸C1および基準中心軸C2を含む第1平面P1、ならびに第2傾斜中心軸C2および基準中心軸C0を含む第2平面P2は、互いに直交するものに限定されず、その他の角度で互いに交差するものであってもよい。但し、上述のように一方の押圧力によるロックリング120の横方向の弾性変形を有効に活用するためには、第1平面P1および第2平面P2は、70度以上110度以下の角度で互いに交差することが好ましく、80度以上100度以下の角度で互いに交差することがより好ましく、85度以上95度以下の角度で互いに交差することが最も好ましい。
【0064】
また、基準中心軸C0と第1傾斜中心軸C1および第2傾斜中心軸C2が交差する角度θは、特に限定されるものではないが、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35の膨出量がネジ山31の頂31aを超えない角度であることが好ましい。また、第1傾斜中心軸C1および第2傾斜中心軸C2は、互いに異なる角度で基準中心軸C0と交差するものであってもよい。
【0065】
また、第1傾斜中心軸C1および第2傾斜中心軸C2は、基準中心軸C0を中心に回転させて同一平面内に置いた場合に、基準中心軸C0に対して同一の傾斜方向となることが好ましいが、これに限定されるものではない。すなわち、第1傾斜仮想柱体41および第2傾斜仮想柱体42の横断面の形状や姿勢等、ならびに第1傾斜領域34および第2傾斜領域35の範囲等の各種設定によっては、第1傾斜中心軸C1および第2傾斜中心軸C2は、基準中心軸C0を中心に回転させて同一平面内に置いた場合に、基準中心軸C0に対する傾斜方向が反対になるものであってもよい。
【0066】
また、本実施形態では、本体20の中心軸を基準中心軸C0としているが、基準中心軸C0は、本体の中心軸と斜めに交差するものであってもよく、さらにこの場合、第1傾斜中心軸C1または第2傾斜中心軸C2が本体20の中心軸と一致するようにしてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35の2つの傾斜領域を設けた場合を示したが、ネジ山31およびネジ溝32の基準中心軸C0周りの範囲や本体20の軸方向の寸法等によっては、1つのネジ溝32に3つ以上の傾斜領域を設けるようにしてもよい。
【0068】
また、雄ネジ30は、2条ネジに限定されるものではなく、1条ネジであってもよいし、3条以上の多条ネジであってもよい。また、雄ネジ30は、台形ネジに限定されるものではなく、例えば三角ネジ、角ネジ、鋸刃ネジおよび丸ネジ等、その他の形状のネジであってもよい。
【0069】
また、ネジ溝32の谷底32aに代えて、ネジ山31の頂31aに第1傾斜領域34および第2傾斜領域35を設けるようにしてもよい。この場合、例えばネジ溝32の谷底32aを第1基準仮想柱体40aの側面に沿うように設け、第1傾斜仮想柱体41および第2傾斜仮想柱体42の横断面の短径をa2とし、長径をこれより大きくすることで、ネジ山31の頂31aに第2基準仮想柱体40bの側面よりも外側に膨出する第1傾斜領域34および第2傾斜領域35を設けることができる。さらにこの場合、第2基準仮想柱体40bの側面に沿うように設けられた基準領域33をネジ山31の頂31aの先端側に設けてもよい。
【0070】
第1傾斜領域34および第2傾斜領域35をネジ山31の頂31aに設けた場合にも、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35が、相手側コネクタ100の雌ネジ130におけるネジ溝132の谷底132aを押圧するため、ネジ溝32の谷底32aに設けた場合と同様の効果を奏することができる。なお、この場合においても、上述の各変形態様を適用可能であることは言うまでもない。また、第1傾斜領域34および第2傾斜領域35を、ネジ溝32の谷底32aおよびネジ山31の頂31aの両方に設けるようにしてもよい。
【0071】
さらに、図示は省略するが、コネクタ1は、雄ネジ30に代えて雌ネジを備え、雄ネジを備える相手側コネクタに接続されるものであってもよい。すなわち、コネクタ1は、上述の例における相手側コネクタ100と同様の構造を有するものであってもよい。
【0072】
この場合、例えば短軸が第1平面P1内に位置する楕円形状の横断面を有する第1傾斜仮想柱体41の側面に沿うように第1傾斜領域34を設け、短軸が第2平面P2内に位置する楕円形状の横断面を有する第2傾斜仮想柱体42の側面に沿うように第2傾斜領域35を設けることで、雌ネジのネジ溝の谷底またはネジ山の頂を相手側の雄ネジに向けて膨出させることができる。従って、雄ネジ30に代えて雌ネジを備えるコネクタ1においても、上述の雄ネジ30を備える場合と同様の効果を奏することができる。また、この場合においても、上述の各変形態様を適用可能である。
【0073】
また、コネクタ1は、メスルアーテーパ部21に代えてオスルアーテーパ部を備えるものであってもよいし、メスルアーテーパ部21およびオスルアーテーパ部の両方を備えるものであってもよいし、メスルアーテーパ部21およびオスルアーテーパ部のいずれも備えないものであってもよい。
【0074】
また、コネクタ1は、三方活栓やTポート等に設けられるものに限定されず、例えばその他の医療器具や輸液チューブ等に設けられるものであってもよい。また、ベース10の形状および本体20の内部形状として任意の形状を採用可能であることは言うまでもない。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明のコネクタは、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0076】
また、上述の実施形態において示した作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したものに過ぎず、本発明による作用および効果は、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0077】
1 コネクタ
30 雄ネジ
31 ネジ山
31a ネジ山の頂
32 ネジ溝
32a ネジ溝の谷底
34 第1傾斜領域
35 第2傾斜領域
40b 第2基準仮想柱体
41 第1傾斜仮想柱体
42 第2傾斜仮想柱体
100 相手側コネクタ
130 雌ネジ
C0 基準中心軸
C1 第1傾斜中心軸
C2 第2傾斜中心軸
P1 第1平面
P2 第2平面