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  • 特許-添接板の接合面の発錆促進方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】添接板の接合面の発錆促進方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/10 20060101AFI20231023BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20231023BHJP
   E01D 2/02 20060101ALI20231023BHJP
   E01D 2/04 20060101ALI20231023BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C23C8/10
E01D1/00 E
E01D2/02
E01D2/04
E04B1/24 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019202024
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2021075747
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】518279886
【氏名又は名称】株式会社永井製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】591175985
【氏名又は名称】株式会社スノウチ
(74)【代理人】
【識別番号】100074734
【弁理士】
【氏名又は名称】中里 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100086265
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100076451
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 景治
(72)【発明者】
【氏名】板谷 俊臣
(72)【発明者】
【氏名】原 章
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-302478(JP,A)
【文献】特開平11-037122(JP,A)
【文献】特開平10-298778(JP,A)
【文献】特開2009-058119(JP,A)
【文献】特開平02-182884(JP,A)
【文献】特開昭61-227182(JP,A)
【文献】特開平03-014903(JP,A)
【文献】特開平09-003656(JP,A)
【文献】特表2002-533598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/10
E01D 1/00
E01D 2/02
E01D 2/04
E04B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築鉄骨の現場架設において使用する鉄骨柱のブラケット、梁などの母材、または鋼製橋梁の現場架設において使用する板桁および箱桁などの母材に取り付けられる添接板の前記母材との接合面に発錆させ、これを摩擦面とする際の発錆促進方法において、
前記発錆促進剤塗布時の前記添接板の接合面温度を、25~55℃とするように、前記添接板の接合面の温度を調温する接合面調温工程、
この接合面調温工程において25~55℃に調温された前記添接板の接合面に、20~40℃に調温された液状の発錆促進剤を、塗布量が2~15mg/cmとなるように噴霧により塗布する塗布工程、および
この発錆促進剤の塗布後、添接板の接合面温度を45~55℃に加熱して乾燥させ、促進した発錆を行う発錆工程
を備えていることを特徴とする添接板の接合面の発錆促進方法。
【請求項2】
前記接合面調温工程における前記接合面温度が、25~40℃である請求項1の発錆促進方法。
【請求項3】
前記塗布工程における塗布量が、2~10mg/cm である請求項1の発錆促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添接板の接合面の発錆促進方法に関し、更に詳細には、建築鉄骨の現場架設において使用する鉄骨柱のブラケット、梁などの母材、または鋼製橋梁の現場仮設において使用する板桁および箱桁等の母材に取り付けられる添接板の前記母材との接合面に発錆させ、これを摩擦面とする際の発錆促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼を主体とした骨組みの鋼構造物として、鋼橋、鉄塔、建築構造物等が知られている。これらの鋼構造物の継手部分は、応力の伝達に関して様々な工夫がこらされている。
【0003】
ところで、工場建屋やビル等の多くの鉄骨建築構造物において、柱の梁の接合、大梁と小梁の接合等は、主に溶接接合法とボルト接合法の2つの接合法によってなされている。
【0004】
これらの接合法のうちボルト接合法を適用する場合は、継手部分で正常な応力伝達がなされるように、ボルト締付け部分の一定面積は、すべり摩擦係数が0.45以上確保できるような摩擦面を維持しなければならないとされている。しかし、鋼材メーカーから鉄骨加工業者に納入される鋼材は、そのままの状態では平滑であってすべり摩擦係数が低いので、ボルト接合部分の継手部を、何らかの方法ですべり摩擦係数を高めるように処理(摩擦面処理)する必要がある。
【0005】
そのために従来から、ブラスト処理、グラインダー研削処理、薬剤処理等により鋼材表面の黒皮(ミルスケール)を除去し、鉄錆を発生させる方法が広く採用されており、それにより鋼材表面は赤錆状態あるいは表面粗さが50μmRy以上の状態とされる。
【0006】
上に挙げた摩擦面処理のうち薬剤処理はブラスト処理やグラインダー研削処理と比較すると、危険性が低い、金属粉塵を発生して作業環境を悪化させることがない、騒音公害を引き起こすことがない、といった利点を有している。
【0007】
従来、この種の薬剤処理用の鉄骨表面発錆促進液としては、塩酸(HCI)や硝酸(HNO)、あるいはそれらの混合液が多く用いられてきた。
【0008】
また、特公平4-50355号に示されるように、塩化第2鉄(FeCl3)、硝酸および界面活性剤を含有する水溶液からなる鉄骨表面発錆促進液も公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特公平4-50355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記公告公報に記載された鉄骨表面発錆促進液によれば、極く短時間に所望適量の赤色発錆させることができるとされているが、このように、従来は、赤色発錆の短時間化を図るには、発錆促進剤の組成に着目するものが殆どであった。
また、一般的な発錆作業方法は、作業場所に添接板を複数枚置いて、発錆促進液を塗布して1時間程度放置する事で、赤色発錆が得られる。しかし、この方法では、温度環境により発錆時間や発錆状況が変動する課題がある。 そこで本発明は、発錆促進剤の組成によらず、発錆時の温度環境に着目して、短時間で良好な錆を安定的に発生させることができる発錆促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、本発明の下記の構成の発錆促進方法により解決される。
即ち、本発明による添接板の接合面の発錆促進方法は、建築鉄骨の現場架設において使用する鉄骨柱のブラケット、梁などの母材、または鋼製橋梁の現場架設において使用する板桁および箱桁等の母材に取り付けられる添接板の前記母材との接合面に発錆させ、これを摩擦面とする際の発錆促進方法において、
前記添接板の接合面に、液状の発錆促進剤を噴霧により塗布する塗布工程、および
この発錆促進剤の塗布後、添接板の接合面温度を45~55℃に加熱して乾燥させ、促進した発錆を行う発錆工程
を備えている。
本発明の発錆促進方法は、更に、前記発錆促進剤塗布時の前記添接板の接合面温度を、25~55℃、特に25~40℃とするように、前記添接板の接合面の温度を調温する接合面調温工程を備えている。
前記塗布工程においては、前記発錆促進剤を20~40℃に調温し、塗布量は、2~15mg/cm、特に2~10mg/cmとする。
前記発錆促進剤の調温温度は、特に好ましくは、30~40℃である
【発明の効果】
【0012】
本発明の発錆促進方法よれば、特に、添接板の接合面への発錆促進剤を塗布した後に、この塗布面を、前記したように、45~55℃に加熱するようにしたことにより、良好な錆を得るための発錆時間を、数分間と短縮することができ、生産性を飛躍的に向上させることができる。

【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の添接板の接合面の発錆促進方法を実施するための工程を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施の形態による添接板の接合面の発錆促進方法を説明する。
【0015】
本発錆促進方法は、図1に示したように、添接板準備工程10、添接板接合面調温工程12、発錆促進剤塗布工程14、および発錆工程16を備え、これらの工程を経て、添接板の接合面に良好な錆が発生した製品完成18となる。なお、これらの工程のラインから外れるが、発錆促進剤塗布工程14で使用される発錆促進剤は、発錆促進剤調温工程20で、所定温度に調温される。
以下、個々の工程について説明する。なお、以下の工程は、添接板を連続搬送するコンベアに載置した状態で、連続的に行うことが好ましい。この意味で、オンライン工程と呼ぶこともある。
【0016】
添接板準備工程
先ず、所定形状・所定仕様の鋼板で形成された添接板を準備し、この添接板を前記コンベアに載置する。
【0017】
添接板接合面調温工程
この工程においては、発錆促進剤の塗布前に、添接板、特にその接合面を、25~55℃、特に25~40℃とするように調温する。添接板の接合面の温度がこの範囲外であるときには、ともに当初の発錆促進の効果を発揮できないか、あるいは所定時間内に発錆自体が起こらないことがある。
準備した添接板の接合面すなわち発錆促進剤塗布面が、上記温度未満であるときには、加熱し、越える場合には、冷却を行う。
この調温は、加熱器(例えば、ヒーター)や冷却器(例えば、冷風送風)により行い、添接板の接合面が、発錆促進剤の塗布直前に、前記の温度範囲になればよく、その温度を維持する必要はない。
【0018】
発錆促進剤塗布工程
この発錆促進剤塗布工程は、噴霧器による噴霧により行うことが好ましい。塗布の方法としては、刷毛塗り等があるが、噴霧に比べて塗布量が平均的に多く、塗布ムラが生じ易い。
この塗布工程における塗布量は、2~15mg/cm、特に2~10mg/cmとすることが好ましい。発明者らの実験によれば、均一発錆には、塗布残し部分が無いことを前提として、上記範囲内であれば量が少なければ少ないほど好ましい。
【0019】
発錆促進剤調温工程
前記塗布工程で塗布される発錆促進剤の温度は、20~40℃とするように、前記発錆促進剤の温度を調温する。発錆促進剤の温度がこの範囲外であるときには、ともに当初の発錆促進の効果を発揮できないか、あるいは所定時間内に発錆自体が起こらないことがある。
この発錆促進剤の調温は、塗布器である噴霧器のタンクや供給管に加熱器あるいは冷却器を設置して行う。
【0020】
発錆工程
この発錆工程は、上記発錆促進剤の塗布後、添接板の接合面温度をオンラインで45~55℃に加熱して乾燥させ、発錆を促進する。
この工程における温度が、上記の範囲外であると当初の発錆促進の効果を発揮できないか、あるいは所定時間内に発錆自体が起こらないことがある。
この工程における上記加熱は、コンベア上に載置され、発錆促進剤が塗布された添接板を、上方からヒーターにより行うことが好ましい。
この発錆工程における加熱は、前記温度範囲の所定温度に達した後は、加熱を停止する。上記したように、加熱をコンベア上で行う場合には、添接板をヒータの加熱の及ぶ範囲から外れるようにして、加熱を停止する。
【実施例
【0021】
添接板用鋼板(JIS G 3136 SN490B))の接合面の圧延スケールを除去し、サンプル用鋼板を準備した。
このサンプル用鋼板に、表1に示す条件で、実施例1~3、比較例1~9のサンプルを作成した。なお、実施例、比較例における発錆促進剤塗布後の添接板用鋼板の加熱は、所定の温度に達した後停止して行った(具体的には、サンプル用鋼板が、コンベアにおいて加熱領域から外れるようにした)。なお、錆には、大きく分けると、赤錆と黒錆があり、両者摩擦面としての機能はほぼ同等と考えられているが、黒錆は、摩擦面として機能しない圧延スケールとの識別が困難であるため、実用上不可である。
また、以下の理由のように、黒色発錆は反復可能性が低い。黒色の酸化錆は、3つのパタ-ンがある。その1は、熱間圧延時に高温で生成する圧延スケールである。その2は、一度赤色発錆したが、その後の保存環境により黒色に変色する錆である。その3は、水酸化鉄があまり生成せずに、不働態錆が生成され黒色に変色する錆である。そのため、黒色の錆は生成工程が特定でないため、実用不可と判断した。
以上の理由により、黒錆を本発明の目的外とした。
表1

評価
〇 2分30秒以内に良好な赤色発錆が得られた。
オンライン工程による発錆時間は、2分30秒以下である事が望ましい。この発生時間であれば、コンベアの作動を停止すること無く、作業を連続的に行うことができ、効率的である。
△ 赤色発錆したが、2分30秒以上かかった。
▲ 2分30秒以内に発錆したが、黒錆であった。
x 30分以内に発錆なし
以上により本発明の効果が明らかである。
【符号の説明】
【0022】
10 添接板準備工程
12 添接板接合面調温工程
14 発錆促進剤塗布工程
16 発錆促進工程
18 製品完成
図1