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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】VOC除去触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/34 20060101AFI20231023BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20231023BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231023BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20231023BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
B01J23/34 A
B01J37/04 102
B01J37/08 ZAB
B01J37/03 B
B01D53/86 150
B01D53/86 280
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020021327
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021126599
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 佩芬
(72)【発明者】
【氏名】王 ジン
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-314759(JP,A)
【文献】特開平10-080621(JP,A)
【文献】INORGANIC CHEMISTRY FRONTIERS,2019年,vol.6,p.1158-1169
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOC除去触媒であって、
アモルファス酸化マンガンを含み、
前記アモルファス酸化マンガンには希土類元素がドープされており、
前記希土類元素がHoを含有する、VOC除去触媒。
【請求項2】
前記希土類元素がLa,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,DyEr,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載のVOC除去触媒。
【請求項3】
前記希土類元素は、前記アモルファス酸化マンガンの全質量に対して0.1~5質量%含まれる、請求項1又は2に記載のVOC除去触媒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のVOC除去触媒を製造する方法であって、
マンガン源を含む原料液Aと、希土類元素源を含む原料液Bとを混合することで生成物を得る工程1と、
前記工程1で得られた生成物を焼成する工程2と、
を備える、VOC除去触媒の製造方法。
【請求項5】
前記工程2の焼成の温度が300~400℃である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のVOC除去触媒、若しくは、請求項4又は5に記載の製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC除去触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称であり、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、メタノール及びジクロロメタン等が知られている。このようなVOCは、溶剤、接着剤、化学品原料等に広く利用されている反面、VOCは、光化学オキシダント、あるいは、浮遊粒子状物質(SPM)の原因になると指摘されていることから、大気汚染防止法によりその排出量が厳しく規制されている。このため、VOC排出量をさらなる低減すべく、VOCをより効率良く除去する技術の確立が望まれている。
【0003】
VOCを除去する技術としては、触媒酸化による方法が知られている。この方法では、比較的低温でVOC除去が行われる点で最も有望であると考えられている。触媒酸化による方法では、主に遷移金属酸化物が使用されることから、貴金属触媒と比較してコスト面でも有利であり、この観点から遷移金属酸化物の触媒性能を向上させる研究が広く行われている。例えば、非特許文献1には、Cu(NOとCe(NOと、M(NO(M=Y,Eu,Ho,Sm等)とを含む水溶液に尿素及び臭化セチルトリメチルアンモニウムを加えることで、銅と第二のランタノイド種を複合した触媒CuMCeOを合成する技術が提案されている。斯かる触媒により、純粋な酸化セリウムに比べてVOCを効率的に除去できるものとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Catalysis Science & Technology, 2018, 8(22). DOI:10.1039/C8CY01849A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載の触媒であっても、低温環境化においてはVOCの除去性能が未だ十分ではなく、また、製造にも時間を要するという問題点もあり、実用化を考えると総合的には依然として課題を有するものであった。このような観点から、容易に製造でき、低温であっても効率よくVOCを除去することができる触媒の開発が望まれているのが現状である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、製造が容易であり、低温であっても効率よくVOCを除去することができるVOC除去触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、マンガンベースの酸化物触媒に着目した。具体的には、酸化マンガンは表面酸素種が豊富であることから、高い触媒活性を備える可能性を秘めていることに着目し、この観点から、鋭意研究を重ねた。その結果、希土類元素がドープされたアモルファス酸化マンガンを用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
VOC除去触媒であって、
アモルファス酸化マンガンを含み、
前記アモルファス酸化マンガンには希土類元素がドープされている、VOC除去触媒。
項2
前記希土類元素がLa,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のVOC除去触媒。
項3
前記希土類元素は、前記アモルファス酸化マンガンの全質量に対して0.1~5質量%含まれる、項1又は2に記載のVOC除去触媒。
項4
請求項1~3のいずれか1項に記載のVOC除去触媒を製造する方法であって、
マンガン源を含む原料液Aと、希土類元素源を含む原料液Bとを混合することで生成物を得る工程1と、
前記工程1で得られた生成物を焼成する工程2と、
を備える、VOC除去触媒の製造方法。
項5
前記工程2の焼成の温度が300~400℃である、項4に記載の製造方法。
項6
項1~3のいずれか1項に記載のVOC除去触媒、若しくは、項4又は5に記載の製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のVOC除去触媒は、製造が容易であり、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のVOC除去触媒の製造方法の一例を示す概略図である。
図2】VOC除去触媒の評価試験方法のフローを示す概略図である。
図3】実施例1~3及び比較例1、2で得たVOC除去触媒のSEM画像を示す。
図4】実施例1~3及び比較例1、2で得たVOC除去触媒のXRDスペクトルを示す。
図5】実施例及び比較例で得られたVOC除去触媒によるVOC除去試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
1.VOC除去触媒
本発明のVOC除去触媒は、アモルファス酸化マンガンを含み、前記アモルファス酸化マンガンには希土類元素がドープされている。本発明のVOC除去触媒は、VOCを酸化等によって分解することができる性質を有する。特に、本発明のVOC除去触媒は、製造が容易であり、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。以下、本発明のVOC除去触媒の具体的態様を説明する。
【0013】
VOC除去触媒は、酸化マンガンを含む。この酸化マンガンは、本発明のVOC除去触媒の主な構成成分である。酸化マンガンは、例えば、MnOである。
【0014】
VOC除去触媒に含まれる酸化マンガンはアモルファス(非晶質)、つまり、結晶構造を有さない。VOC除去触媒がこのようなアモルファス酸化マンガンを含むことで、低温であってもVOCの除去効率に優れるものとなる。限定的な解釈を望むものではないが、酸化マンガンがアモルファス構造であることで、酸化マンガンの表面積が大きくなり、酸素空孔から生成される活性部位の数が多くなる結果、優れた触媒性能を有すると推察される。
【0015】
VOC除去触媒に含まれる酸化マンガンがアモルファス構造を有しているかどうかは、例えば、VOC除去触媒のXRDスペクトルから判断することができる。
【0016】
本発明のVOC除去触媒では、アモルファス酸化マンガンには希土類元素がドープされている。言い換えれば、本発明のVOC除去触媒は、アモルファス酸化マンガンと希土類元素とを含む材料である。
【0017】
希土類元素の種類は特に限定されず、例えば、La,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらの希土類元素はいずれも酸化マンガン中の4価のマンガンイオンの一部を置換することが可能である。しかし、これらの希土類元素は3価の状態が安定であるため、これらの元素を含んだ酸化マンガンでは、電気的中性を保つために酸化物イオンの数が酸化マンガン中の本来の比率であるMn:O=1:2よりも減少する。この作用により、多くの酸素欠陥が形成され、酸素貯蔵能力を高めることができるので、結果としてVOCの低温酸化に有利となる。前記作用は、マンガンとイオン半径が大きく異ならないランタノイド元素である限り発現し得る。この観点から、本発明のVOC除去触媒に含まれる希土類元素は、VOC除去効率が高まりやすいという点で、Sm及びHoからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特に、少なくともHoを含むことがさらに好ましい。
【0018】
VOC除去触媒に含まれる希土類元素は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0019】
希土類元素は、例えば、金属酸化物としてVOC除去触媒中に存在することができる。
【0020】
本発明のVOC触媒において、アモルファス酸化マンガンと、希土類元素との存在状態は特に限定されない。例えば、希土類元素は、アモルファス酸化マンガン中に存在していてもよいし、アモルファス酸化マンガンの内部ではなく、あるいは、内部と共に表面にも存在していてもよい。希土類元素は、アモルファス酸化マンガンに対して全体に均一に存在していてもよいし、偏在して存在していてもよい。希土類元素は、アモルファス酸化マンガンとは独立して単独でVOC触媒中に存在することもできる。
【0021】
本発明のVOC触媒において、アモルファス酸化マンガンの形状は特に限定されず、アモルファス酸化マンガンが希土類元素を含む場合及び含まない場合いずれにおいても、例えば、粒子状、ロッド状、針状、繊維状、リン片状等の種々の形状をとることができる。中でも、アモルファス酸化マンガンは、粒子状であることが好ましく、これにより、VOC除去効率が高まりやすい。アモルファス酸化マンガンは、その形状が粒子状である場合、一つの粒子(一次粒子)が多数集まって形成される粒子の集合体であってもよい。
【0022】
本発明のVOC触媒において、アモルファス酸化マンガンの大きさは特に限定されない。例えば、アモルファス酸化マンガンが粒子状である場合、アモルファス酸化マンガンの大きさは、粒子を球状と見立てて一次粒子の平均粒子径が1~500nmであることが好ましく、5~300nmであることがさらに好ましい。ここでいう一次粒子の平均粒子径は、アモルファス酸化マンガンの走査型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0023】
本発明のVOC触媒において、アモルファス酸化マンガンと希土類元素との含有割合は特に限定されない。例えば、本発明のVOC触媒において、希土類元素は、アモルファス酸化マンガンの全質量に対して0.1~5質量%含まれることが好ましい。この場合、VOC触媒のVOC除去効率がさらに高まりやすい。希土類元素は、アモルファス酸化マンガンの全質量に対して0.2~3質量%含まれることがより好ましく、0.3~2質量%含まれることがさらに好ましい。なお、アモルファス酸化マンガンに対する希土類元素の含有量は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX分析)で分析することができる。希土類元素の含有量の調整は、VOC触媒の製造時に使用する後記Mn源と、希土類元素源との仕込み比を調節することができる。
【0024】
本発明のVOC触媒の比表面積は特に限定されないが、例えば、BET法による比表面積が100~400m/g、好ましくは200~400m/g、より好ましくは250~400m/gである。
【0025】
本発明のVOC触媒は、本発明の効果が阻害されない程度である限り、アモルファス酸化マンガンと希土類元素以外の他の元素、化合物、添加剤等を含有することもできる。また、本発明のVOC触媒は、アモルファス酸化マンガンと希土類元素のみで形成されていてもよい。この場合、VOC触媒に含まれ得る不可避的な元素、成分等を含むことは許容される。
【0026】
本発明のVOC触媒がアモルファス酸化マンガンと希土類元素以外に他の元素や成分を含有する場合、その含有量の総量は、例えば、VOC触媒の全質量に対して5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは、1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下又は0.5質量%とすることができる。
【0027】
本発明のVOC触媒は、製造が容易であり、低温であっても効率よくVOCを除去することができ、VOC除去用の触媒として好適に使用することができる。
【0028】
本発明のVOC除去触媒の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の種々の方法により製造することができる。具体的には、後記する工程1及び工程2を備える製造方法により、本発明のVOC除去触媒を製造することができる。
【0029】
2.VOC除去触媒の製造方法
本発明のVOC除去触媒の製造方法は特に限定されないが、好ましくは下記の工程1及び工程2を備える製造方法が挙げられる。
工程1;マンガン源を含む原料液Aと、希土類元素源を含む原料液Bとを混合することで生成物を得る工程。
工程2;前記工程1で得られた生成物を焼成する工程2。
【0030】
(工程1)
工程1では、マンガン源を含む原料液Aと、希土類元素源を含む原料液Bとの混合処理を行う。
【0031】
工程1において使用するマンガン源を含む原料液Aは、マンガン源が溶媒に溶解又は分散している。マンガン源としては、マンガン単体であってもよいし、マンガンを含む化合物であってもよい。
【0032】
マンガンを含む化合物の種類は特に限定されず、例えば、マンガンを含む各種無機化合物を挙げることができる。マンガンを含む無機化合物としては、例えば、マンガンの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができる。
【0033】
また、マンガンを含む化合物は、マンガンを含む各種有機化合物を挙げることもでき、例えば、マンガンの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0034】
なお、マンガンを含む化合物は、異なる2種以上のアニオンを含むこともできる(例えば、硫酸アンモニウムマンガン等)。
【0035】
VOC触媒の製造が容易になりやいという点で、マンガン源は、マンガンの酢酸塩を使用することが特に好ましい。
【0036】
工程1において使用する希土類元素源を含む原料液Bは、希土類元素源が溶媒に溶解又は分散している。希土類元素源としては、希土類元素単体であってもよいし、希土類元素を含む化合物であってもよい。
【0037】
希土類元素を含む化合物の種類は特に限定されず、例えば、希土類元素を含む各種無機化合物を挙げることができる。希土類元素を含む無機化合物としては、例えば、希土類元素の硝酸塩、硫酸塩、酸化物、塩化物、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができる。
【0038】
また、希土類元素を含む化合物は、希土類元素を含む各種有機化合物を挙げることもでき、例えば、希土類元素の酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩、二塩化シクロ二ペンタジエニル塩等を挙げることができる。
【0039】
なお、希土類元素を含む化合物は、異なる2種以上のアニオンを含むこともできる(例えば、硫酸アンモニウム塩等)。
【0040】
VOC触媒の製造が容易になりやいという点で、希土類元素源は、希土類元素を含む無機化合物であることが好ましく、反応性が優れる点で、希土類元素の硝酸塩を使用することが特に好ましい。
【0041】
原料液A及び原料液Bは、いずれも溶媒を含むことができる。溶媒の種類は特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール等の炭素数1~4のアルコール;及びこれらの混合溶媒;その他、セリウム源、希土類元素源及び有機配位子が溶解可能な各種有機溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒,N-メチルピロリドン等のピロリドン系溶媒等が使用できる)。工程1での反応が進行しやすいという点で、原料液A及び原料液Bに含まれる溶媒は、水及び前記アルコール、又はこれらの混合溶媒であることが好ましく、水であることがさらに好ましい。原料液A及び原料液Bに含まれる溶媒は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、いずれも水であることがさらに好ましい。
【0042】
原料液Aにおいて、マンガン源の濃度は特に限定されない。例えば、原料液A中のマンガンの濃度は、1×10-4~1M、好ましくは1×10-3~0.5M、さらに好ましくは1×10-2~0.1Mとすることができる。
【0043】
原料液Bにおいて、希土類元素源の濃度は特に限定されない。例えば、原料液B中の希土類元素の濃度は、1×10-4~10M、好ましくは1×10-3~1M、さらに好ましくは1×10-2~0.5Mとすることができる。
【0044】
工程1では、原料液Aと原料液Bとの混合処理を行うにあたって、酸化剤を使用することが好ましい。これにより、マンガンの酸化反応が生じやすく、最終的に得られる酸化マンガンがアモルファス構造を形成しやすい。
【0045】
酸化剤の種類は特に限定されず、例えば、酸化還元反応で使用される酸化剤を広く使用することができ、例えば、過マンガン酸カリウム(KMnO)を挙げることができる。
【0046】
工程1で酸化剤を使用する場合、酸化剤は、原料液A及び原料液Bとは別に独立して準備することができ、あるいは、原料液A及び原料液Bのいずれに含有させてもよく、また、原料液Aと原料液Bとを混合処理して得られた混合物に含ませることもできる。酸化剤は、溶液として調製することもできる。この場合、溶媒は、溶液A及びBに使用できる溶媒と同様の溶媒を使用することができる。反応が進行しやすいという点で、酸化剤は原料液Bに含ませることが好ましい。
【0047】
酸化剤の使用量も特に限定されず、例えば、一般的な酸化反応と同様の使用量とすることができる。例えば、酸化剤が溶液として調製される場合、酸化剤溶液中の酸化剤の濃度は、1×10-4~10M、好ましくは1×10-3~1M、さらに好ましくは1×10-2~0.5Mとすることができる。
【0048】
原料液Aと原料液Bとを混合処理する方法は特に限定されない。例えば、原料液Aと原料液Bとを準備し、一方に他方を一括投入して混合する方法、原料液A及び原料液Bの一方に他方の溶液を滴下して混合する方法を挙げることができる。滴下する方法の場合、原料液Aに、酸化剤を含有する原料液Bを滴下して混合することが好ましく、この場合、マンガンの酸化反応が進行しやすい。この場合の滴下速度等は特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、滴下速度を0.1~50mL/minの範囲とすることができる。
【0049】
原料液Aと原料液Bとを混合処理することで、マンガン源と希土類元素源との反応が進行し、反応物を得ることができる。斯かる反応物は、例えば、沈殿物として生成する。マンガン源と希土類元素源との反応により、例えば、マンガン源のマンガンが2価である場合は、4価にマンガンとなり得る。
【0050】
原料液Aと原料液Bとを混合処理するにあたり、混合時の温度は特に限定されず、例えば、0~50℃、好ましくは10~35℃(つまり室温付近)とすることができる。
【0051】
原料液Aと原料液Bとの混合後、例えば、市販の撹拌機等で撹拌することができる。混合後の撹拌時間も特に限定されず、反応性を考慮して適宜選択することができ、例えば、1時間以上30時間以下とすることができる。
【0052】
工程1での混合処理により、例えば、黒色の沈殿物が生じ得る。この沈殿物は、酸化マンガンと希土類元素イオンが含まれる。得られた沈殿物は、ろ過等の適宜の方法で、沈殿物を分離し、必要に応じて洗浄、乾燥等を行うことができる。混合処理で得られる沈殿物は、後記工程2で焼成されて目的物であるVOC除去触媒となる。したがって、混合処理で得られる沈殿物は、いわばVOC除去触媒の前駆体である。
【0053】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた生成物を焼成処理するための工程である。斯かる焼成処理により、目的のVOC除去触媒が得られる。
【0054】
工程2において、焼成処理の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、100℃以上とすることができる。また、焼成で得られるVOC触媒中の酸化マンガンがアモルファスになりやすいという点で、焼成処理の温度は、500℃未満とすることが好ましい。好ましい焼成温度は250~480℃、より好ましい焼成温度は290~450℃、さらに好ましい焼成温度は300~400℃である。
【0055】
焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。工程2において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、適宜設定することができる。
【0056】
焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成処理を行うことである。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0057】
工程2での焼成処理によって、前記生成物の焼結体が形成され、これを目的のVOC除去触媒として得ることができる。工程2では、工程1で得られた生成物が酸化されて、希土類元素が含まれた(ドープされた)アモルファス酸化マンガンが得られる。この焼成処理によって得られるVOC除去触媒は、酸化マンガンにおけるMnの一部が希土類元素に置き換えられた化合物(複合酸化物)である。
【0058】
本発明のVOC除去触媒は、工程2の焼成を経ることで、希土類元素がアモルファス酸化マンガン中に高度に分散した状態で存在することができる。これにより、本発明のVOC除去触媒は、より低温でのVOC除去が可能となる。
【0059】
上記工程1及び工程2を備える製造方法によれば、簡便な工程で容易に本発明のVOC触媒を得ることができ、しかも得られたVOC触媒は、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。
【0060】
3.VOC除去方法
本発明のVOC除去方法は、前述のVOC除去触媒、又は、前記工程1及び前記工程2を備える製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを燃焼する工程を備える。
【0061】
例えば、VOC除去触媒を容器内に収容し、該容器にトルエン等のVOCを導入し、所定の温度で処理することで、VOCを燃焼する。これにより、VOCを除去することができる。必要に応じて、容器内には窒素及び酸素の一方又は両方を流入させることができ、窒素及び酸素の一方又は両方の存在下でVOCを燃焼させることができる。
【0062】
VOCの除去にあたり、使用する容器の種類は特に限定されず、例えば、VOCの触媒燃焼で使用される公知の容器を広く使用することができる。容器内でのVOCの処理温度は特に限定されず、公知のVOCの除去のために設定される処理温度と同様とすることができる。特に本発明では、上記VOC除去触媒を使用することで、低温であってもVOC除去効率に優れる。
【実施例
【0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
図1の概略図に示す手順でVOC除去触媒を合成した。水250mL中に3.0625gのMn(CHCOO)・4HOを溶解させて原料液Aを調製した。また、水250mL中に1.475gのKMnOと0.0735gのHo(NO・6HOとを溶解させて原料液Bを調製した。原料液Aを激しく撹拌しながら、液体供給ポンプにより10mL/minの供給速度で原料液Bを原料液Aに滴下し、これにより黒色の沈殿物が得られた。得られた黒色懸濁液を室温(25℃)で6時間さらに撹拌し、その後、遠心分離により分離し、数回洗浄することで黒色固体を生成物として得た(工程1)。この生成物を60℃で6時間乾燥させた後、マッフル炉中、空気雰囲気下にて5℃/minの加熱速度で350℃まで昇温した。この温度を焼成温度とし、3時間にわたって前記生成物の焼成処理を行い、これによりVOC除去触媒を得た(工程2)。このVOC触媒において、酸化マンガンに対するHoの割合は0.5質量%であった。VOC触媒のBET法による比表面積は260m/gであった。得られたVOC除去触媒を「0.5%Ho-MnOx-350」と表記した。
【0065】
(実施例2)
原料液A及び原料液BにおいてMn(酸化マンガン換算)に対するHoの割合が1質量%とすべく、Ho(NO・6HOの使用量を0.147gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法でVOC除去触媒を得た。このVOC触媒において、酸化マンガンに対するHoの割合は1質量%であった。得られたVOC除去触媒を「1%Ho-MnOx-350」と表記した。
【0066】
(実施例3)
原料液A及び原料液BにおいてMn(酸化マンガン換算)に対するHoの割合を1.5質量%とすべく、Ho(NO・6HOの使用量を0.2213gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法でVOC除去触媒を得た。このVOC触媒において、酸化マンガンに対するHoの割合は1.5質量%であった。得られたVOC除去触媒を「1.5%Ho-MnOx-350」と表記した。
【0067】
(比較例1)
Ho(NO・6HOを使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法でVOC除去触媒を得た。得られたVOC除去触媒を「MnOx-350」と表記した。
【0068】
(比較例2)
焼成温度を500℃に変更したこと以外は実施例2と同様の方法でVOC除去触媒を得た。得られたVOC除去触媒を「1%Ho-MnOx-500」と表記した。
【0069】
(比較例3)
非特許文献(Inorganic Chemistry Frontiers.DOI:10.1039/c9qi00039a)を参照し、二元酸化物触媒を直接焼成法により調製した。具体的に、硝酸サマリウム(III)六水和物(Sm(NO・6HO)、酢酸マンガン四水和物およびクエン酸を混合した後、空気中で2℃/minの速度で380℃まで昇温し、この温度で3時間維持することで、Smを2質量%、3質量%、4質量%及び5質量%含む酸化マンガンを得た。得られたVOC触媒のBET法による比表面積は98m/gであった。
【0070】
<評価方法>
(VOC除去試験)
図2に示す概略フローにより、各実施例で得たVOC除去触媒のトルエン除去試験を行った。この試験では、容器内にVOC除去触媒を石英ウールで挟み込むように充填し、そこへトルエンを所定の流速で流入させて反応させることで、トルエンを除去するようにした。図2に示すように、容器は、酸素ボンベ及び窒素ボンベと連結しており、容器内に酸素及び窒素を流入できるようにしている。トルエン除去試験の条件として、内径8mmのガラス反応器を使用し、そこへVOC除去触媒の充填量を50mgとし、容器内のトルエン濃度を1000体積ppmとなるようにした。また、容器内へのキャリアー用窒素ガス流量を40cm/min、トルエン導入用窒素ガス流量を40mL/min、酸素ガス流量を10cm/minとした。容器内での反応温度を130~300℃の範囲の種々の温度に調節して、トルエン除去特性を評価した。なお、130~200℃の範囲では、10℃毎に3回サンプリングをし、200~250℃の範囲では、5℃毎に3回サンプリングをし、260~300℃の範囲では、10℃毎に3回サンプリングをした。VOC濃度の測定は、島津製作所社製「GC-2014ガスクロマトグラフ」を使用した。また、容器出口から排出される二酸化炭素濃度をHORIBA社製FT-IRガス分析装置「FG-120」を使用して計測した。
【0071】
図3は、実施例1~3及び比較例1~2で得たVOC除去触媒のSEM画像を示している(図3(a)は実施例1で得たVOC除去触媒、(b)は実施例2で得たVOC除去触媒、(c)は実施例3で得たVOC除去触媒、(d)は比較例1で得たVOC除去触媒、(e)は比較例2で得たVOC除去触媒)。
【0072】
図3から、各実施例で得られたVOC除去触媒では、不規則な形状のナノサイズの粒子の集合体が形成されていることがわかった。比較例1で得られたVOC除去触媒では、ロッド/シートのような竹の葉の集合体で構成されていることがわかった。
【0073】
図4は、実施例1~3及び比較例1、2で得たVOC除去触媒のXRDスペクトルを示している。
【0074】
図4から、比較例1で得られた「MnOx-350」は、公知のMnO-PDF44-0141を参照すれば、結晶構造を有していることがわかった。これに対し、実施例1~3で得られたVOC除去触媒は、アモルファス構造であることがわかる。これは、実施例1~3で生成する酸化マンガンは、Hoドーピングにより、アモルファス構造に変化したことを示している。比較例2で得られたVOC触媒は、酸化マンガンに結晶相の形成がもたらされたことがわかる。これは、高温(500℃)で焼成されたためであると推察される。「MnOx-350」と「1%Ho-MnOx-350」との比較から、見かけのピークシフトは、Ho種がMn格子に正常に挿入されたことがわかる。
【0075】
図5は、実施例1~3及び比較例1~2で得られたVOC除去触媒によるVOC除去試験の結果を示している。具体的に図5は、温度(X軸)とトルエン除去率(Y軸)との関係を示すプロットである。
【0076】
また、表1には、実施例1~3及び比較例1,2で得られたVOC除去触媒による、トルエンの90%分解温度(T90%)及び100%分解温度(T100%)を示している。
【0077】
【表1】
【0078】
図5及び表1の結果から、各実施例で得られたVOC除去触媒は、結晶構造を有するMnO(比較例1)よりも優れたVOC除去性能を有していることがわかり、特に低温であっても優れたVOC除去性能(燃焼効率)を有していた。また、実施例で得られたVOC除去触媒は、直接焼成法を使用して報告された比較例3の二元酸化物触媒よりもトルエン燃焼に対して優れた活性を示した。この差は、実施例で得られたVOC触媒では希土類元素がドープされたアモルファス酸化マンガン(一部のマンガンが希土類元素で置き換えられたアモルファス酸化マンガン)であるのに対し、比較例3の二元酸化物触媒では酸化マンガンがアモルファスではないことであることに起因すると推察される。
【0079】
以上より、各実施例で得られたVOC除去触媒は、代表的なVOC物質の一種であるトルエンの触媒燃焼の触媒として好適に使用できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5