(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】トンネルのエントランス止水装置及びエントランス止水方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20231023BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
E21D9/06 301E
E21D11/00 B
(21)【出願番号】P 2019043160
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2022-02-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390027661
【氏名又は名称】株式会社金澤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(72)【発明者】
【氏名】細田 優介
(72)【発明者】
【氏名】扇畑 邦史
(72)【発明者】
【氏名】金澤 光雄
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-119381(JP,A)
【文献】特開平07-102877(JP,A)
【文献】特開平08-284584(JP,A)
【文献】特開平06-229197(JP,A)
【文献】特開平08-042708(JP,A)
【文献】特開昭61-237796(JP,A)
【文献】特開2016-003552(JP,A)
【文献】特開2018-076752(JP,A)
【文献】特開平01-102200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡側流入流体の圧力が0.5MPa~数MPaとなる深度においてトンネル掘削機が出入りするエントランスに設けられるエントランス止水装置であって、
前記エントランスの内周に沿う環状の弾性止水シート及び前記弾性止水シートに添えられたフラップをそれぞれ有して、前記エントランスの軸方向に間隔を置いて設けられた複数段の止水隔壁と、
前記トンネル掘削機が前記エントランス内を通るとき、隣接する止水隔壁どうしの間の隔壁間空間部に流体圧を導入する流体圧導入手段と、
を備え、前記トンネル掘削機の推進方向
の最も前方側の止水隔壁より前方側に前記鏡側流入流体が流入される鏡側空間部が形成され、前記流体圧導入手段が、各隔壁間空間部ごとに設けられて前記流入に応じてそれぞれ作動される複数の加圧ポンプを含み、前記推進方向における、より後方側に配置された隔壁間空間部であるほど前記流体圧が低圧に設定されていることを特徴とするトンネルのエントランス止水装置。
【請求項2】
前記鏡側空間部の圧力を検出する圧力計を更に備え、前記流体圧導入手段による前記流体圧が前記圧力計の検出圧力に応じて調整されることを特徴とする請求項1に記載のエントランス止水装置。
【請求項3】
1の止水隔壁における、前記トンネル掘削機の推進方向前方側の面に付与される流体圧と推進方向後方側の面に付与される流体圧との差が、前記1の止水隔壁の耐圧強度を下回るように、前記推進方向後方側の面が面する隔壁間空間部の流体圧が設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエントランス止水装置。
【請求項4】
鏡側流入流体の圧力が0.5MPa~数MPaとなる深度においてトンネル掘削機が出入りするエントランスの内周と前記トンネル掘削機又はトンネル躯体の外周との間をシールするエントランス止水方法であって、
前記エントランスの内周に沿う環状の弾性止水シート及び前記弾性止水シートに添えられたフラップをそれぞれ有する止水隔壁を、前記エントランスの軸方向に間隔を置いて複数段設け、
前記トンネル掘削機の推進方向の最も前方側の止水隔壁より前方側に前記鏡側流入流体が流入される鏡側空間部を形成し、
前記トンネル掘削機が前記エントランス内を通るとき、隣接する止水隔壁どうしの間の隔壁間空間部
ごとに
設けられた加圧ポンプを、前記流入に応じて、それぞれ作動させることによって、各隔壁間空間部に流体圧を導入し、前記トンネル掘削機の推進方向のより後方側に配置された隔壁間空間部であるほど前記流体圧を低圧にすることを特徴とするトンネルのエントランス止水方法。
【請求項5】
前記鏡側空間部の圧力を検出し、該検出圧力に応じて前記
加圧ポンプを含む流体圧導入手段による前記流体圧を調整することを特徴とする請求項4に記載のエントランス止水方法。
【請求項6】
1の止水隔壁における、前記トンネル掘削機の推進方向前方側の面に付与される流体圧と推進方向後方側の面に付与される流体圧との差が、前記1の止水隔壁の耐圧強度を下回るように、前記推進方向後方側の面が面する隔壁間空間部の流体圧を設定することを特徴とする請求項4又は5に記載のエントランス止水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工中のトンネルにおけるトンネル掘削機の発進や到達のエントランスに設けられる止水装置及び止水方法に関し、特に大深度のトンネルに適したエントランス止水装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばシールドトンネルを構築する際は、発進立坑に発進エントランスを形成し、トンネル掘削機によって該発進エントランスから地中へ掘削を開始する。トンネルの到達側には到達立坑に到達エントランスを形成し、地中から該到達エントランスにトンネル掘削機を導出する。
通常シールドトンネルは地下水位より深い地中に構築される。したがって、発進時や到達時にはエントランスの内周とトンネル掘削機の外周との間を止水する必要がある。
一般にこの種のエントランス止水構造は、ゴムシートからなる環状の弾性止水シートと、該弾性止水シートに添えられた複数の鋼製のフラップを含む止水隔壁によって構成されている(特許文献1~3等参照)。各フラップは、エントランスの縁部にヒンジを介して回転可能に支持されている。複数のフラップが、弾性止水シートひいてはエントランスの周方向に沿って環状に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2518772号公報
【文献】特開平11-173071号公報
【文献】特許6386715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地下例えば100メートル超の深さに構築される大深度トンネルが増えている。深度が大きくなればなるほど、地下水圧が高くなる。このため、エントランス止水構造における所要の耐水圧強度ひいては止水性を確保しようとすると大掛かりになってしまう。
本発明は、かかる事情に鑑み、大深度トンネルであっても大掛かりになることなく止水性を確保し得るエントランス止水装置及び止水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決するため、本発明装置は、トンネル掘削機が出入りするエントランスに設けられるエントランス止水装置であって、
前記エントランスの内周に沿う環状の弾性止水シート及び前記弾性止水シートに添えられたフラップをそれぞれ有して、前記エントランスの軸方向に間隔を置いて設けられた複数段の止水隔壁と、
隣接する止水隔壁どうしの間の隔壁間空間部に流体圧を導入する流体圧導入手段と、
を備えたことを特徴とする。
本発明方法は、トンネル掘削機が出入りするエントランスの内周と前記トンネル掘削機又はトンネル躯体の外周との間をシールするエントランス止水方法であって、
前記エントランスの内周に沿う環状の弾性止水シート及び前記弾性止水シートに添えられたフラップをそれぞれ有する止水隔壁を、前記エントランスの軸方向に間隔を置いて複数段設け、
隣接する止水隔壁どうしの間の隔壁間空間部に流体圧を導入することを特徴とする。
【0006】
前記トンネル掘削機の推進方向の最も前方側の止水隔壁より前方側の鏡側空間部の圧力を検出する圧力計を更に備え、前記流体圧導入手段による前記流体圧が前記圧力計の検出圧力に応じて調整されることが好ましい。
【0007】
1の止水隔壁における、前記トンネル掘削機の推進方向前方側の面に付与される流体圧と推進方向後方側の面に付与される流体圧との差が、前記1の止水隔壁の耐圧強度を下回るように、前記推進方向後方側の面が面する隔壁間空間部の流体圧が設定されていることが好ましい。
【0008】
前記トンネル掘削機の推進方向における、より後方側に配置された隔壁間空間部であるほど前記流体圧が低圧に設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大深度トンネルであってもエントランス止水装置の構造が大掛かりになることなく止水性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態を示し、シールドトンネルの発進立坑の断面図である。
【
図2】
図2は、前記発進立坑のエントランスを、トンネル掘進の開始状態で示す断面図である。
【
図3】
図3は、前記エントランスの止水装置の複数段の止水隔壁の拡大断面図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、トンネル掘進が進む際の前記止水装置の状態変化を順追って示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示すように、シールドトンネル1用の発進立坑2が地上から地中の発進深さまで構築されている。発進深さは、地下水位より十分に深く、例えば100メートル近くないしはそれ以上である。発進立坑2の下端近くの鏡部2aのまわりの周壁にエントランス3が設けられている。
【0012】
エントランス3には、鋼製のエントランスフレーム4が設けられている。エントランスフレーム4は、シールドマシン9(トンネル掘削機)が出入り可能な環状(筒状)に形成されている。該エントランスフレーム4が発進立坑2の周壁から発進立坑2内へ突出されている。
【0013】
図2に示すように、エントランスフレーム4にエントランス止水装置5が設けられている。エントランス止水装置5は、複数段の止水隔壁10と、流体圧導入手段20とを備えている。ここでは、例えば3段の止水隔壁10が設けられている。3段の止水隔壁10が、環状のエントランス装置3の軸方向ひいてはシールドマシン9の推進方向に互いに間隔を置いて配置されている。
図3に示すように、以下、これら止水隔壁10を互いに区別するときは、シールドマシン9の推進方向の前方側(右側)のものを「止水隔壁10A」と称し、中間のものを「止水隔壁10B]と称し、推進方向の後方側(左側)のものを「止水隔壁10C」と称す。
なお、止水隔壁10の段数は3段に限らず、2段でもよく、4段以上でもよい。
【0014】
図3に示すように、各止水隔壁10は、弾性止水シート11と、複数のフラップ12と、シート押えリング13を有している。弾性止水シート11は、環状のゴムシートによって構成されている。該弾性止水シート11の外周部11bが、エントランスフレーム4の内周面に沿わされている。該シート外周部11bに沿って環状の帯鋼板からなるシート押えリング13が設けられている。
弾性止水シート11の内周部11aは、エントランスフレーム4の内周面から径方向内側へ延び出ている。
【0015】
図4に示すように、複数のフラップ12が、弾性止水シート11の周方向に沿って環状に並べられている。
図3に示すように、各フラップ12は、鋼製のフラップ部12aと、鋼製のベース板12bと、ヒンジ12cを含む。フラップ部12aが、シート内周部11aにおける前記推進方向後方側(
図3において左側)を向く面に添えられている。
【0016】
フラップ部12aの径方向外側の端部(
図3において上端部)が、ヒンジ12cを介して、ベース板12bに回転可能に連結されている。ヒンジ12cの回転軸線は、環状のエントランスフレーム4の接線方向へ向けられている。ベース板12bは、シート押えリング13に添えられている。
【0017】
図2に示すように、エントランスフレーム4の内周面にシート外周部11b、シート押えリング13、ベース板12bの順に重ねられている。これらがボルト15によってエントランスフレーム4に固定されている。
【0018】
図2に示すように、エントランス装置3の軸方向(
図2において左右)に隣接する止水隔壁10どうし間に隔壁間空間部19が形成されている。詳しくは、
図3に示すように、一段目の止水隔壁10Aと二段目の止水隔壁10Bとの間に前段隔壁間空間部19Bが形成されている。二段目の止水隔壁10Bと三段目の止水隔壁10Cとの間に後段隔壁間空間部19Cが形成されている。
【0019】
一段目の止水隔壁10Aにおける、前記推進方向の前方側(
図3において右側)の面10Afと鏡部2aとの間には、鏡側空間部18が形成されている。エントランスフレーム4の内周面には、鏡側空間部18に面するように圧力計24が設置されている。圧力計24は、鏡側空間部18の内圧を検出する。
一段目の止水隔壁10Aにおける、前記推進方向の後方側(
図3において左側)の面10Arは、前段隔壁間空間部19Bに面している。
二段目の止水隔壁10Bにおける、推進方向前方側の面10Bfは、前段隔壁間空間部19Bに面している。二段目の止水隔壁10Bにおける、推進方向後方側の面10Brは、後段隔壁間空間部19Cに面している。
三段目の止水隔壁10Cにおける、推進方向前方側の面10Cfは、前段隔壁間空間部19Bに面している。
三段目(推進方向の最後尾)の止水隔壁10Cにおける、推進方向後方側の面10Crは、発進立坑2の坑内空間に面している。
【0020】
図2に示すように、流体圧導入手段20は、隔壁間空間部19と一対一に対応する複数の流体圧導入路21を含む。流体圧導入路21の上流端は、流体源29に接続されている。流体源29からの供給流体としては、好ましくは泥水、水、油などの液体が用いられており、より好ましくは泥水や水が用いられている。各流体圧導入路21には、加圧ポンプ22及び圧力調整バルブ23が設けられている。
各流体圧導入路21は、対応する隔壁間空間部19に連通されている。詳しくは、
図3に示すように、流体圧導入路21Bの下流端が、前段隔壁間空間部19Bに連通されている。流体圧導入路21Cの下流端が、後段隔壁間空間部19Cに連通されている。
【0021】
シールドトンネル1の構築施工において、エントランス止水装置5は次のように作動及び使用される。
発進立坑2にシールドマシン9を設置する。該シールドマシン9をジャッキ(図示せず)によって前方(
図1において右側)へ推進させてエントランス装置3内に通す。シールドマシン9が進むにつれて、止水隔壁10が順次シールドマシン9に突き当たる。これによって、弾性止水シート11の内周部11a及びフラップ部12aが推進方向前方側へ傾けられ、フラップ部12aの先端部がシールドマシン9の外周面に当たるとともに、該フラップ部12aより延び出たシート内周部11aがシールドマシン9の外周面に密着される。これによって、隔壁間空間部19が閉塞され、エントランスフレーム4の内周とシールドマシン9の外周との間がシールされる。
【0022】
図2に示すように、やがてシールドマシン9が鏡部2aに達して掘削を開始する。
図3に示すように、鏡部2aが破れることによって地下水や掘削による泥水などを含む鏡側流入流体w
0が鏡側空間部18に流入され得る。発進深さは例えば100メートル近くないしはそれ以上の大深度であるため、鏡側流入流体w
0は例えば0.5MPa~数MPaの高圧である。
【0023】
前記鏡側流入流体w0の流体圧P0が圧力計24によって検出される。
検出した流体圧P0に応じて、流体圧導入手段20によって各隔壁間空間部19に流体圧を導入する。すなわち、流体圧導入路21Bの加圧ポンプ22を駆動することによって前段隔壁間空間部19Bに高圧水w19Bによる流体圧P19Bを印加する。かつ流体圧導入路21Cの加圧ポンプ22を駆動することによって後段隔壁間空間部19Cに高圧水w19cによる流体圧P19Cを印加する。好ましくは、前記圧力計24の検出圧力に応じて、各流体圧導入路21の圧力調整バルブ23によって流体圧P19B,P19Cを調整する。
【0024】
好ましくは、下式が満たされるように、流体圧P19B,P19Cを調整する。
P0 -P19B≦P10A (式1)
P19B-P19C≦P10B (式2)
P19C≦P10C (式3)
ここで、P10Aは一段目(推進方向の最も前方)の止水隔壁10Aの耐圧強度(Pa)である。P10Bは二段目の段止水隔壁10Bの耐圧強度(Pa)である。P10Cは三段目(最後段)の止水隔壁10Cの耐圧強度(Pa)である。
要するに、最後段以外の止水隔壁10A,10Bについては、推進方向前方側の面に付与される流体圧と推進方向後方側の面に付与される流体圧との差が該止水隔壁10A,10Bの耐圧強度を下回るように、推進方向後方側の面が面する隔壁間空間部19の流体圧P19B,P19Cを設定する(式1及び式2)。
【0025】
耐圧強度について説明すると、止水隔壁10の推進方向前方側の隔壁間空間部の圧力が過大になると、該止水隔壁10の弾性止水シート11が破れたり、フラップ部12aが曲がったり、ヒンジ12cが折れたり、ボルト15が壊れたり、ベース板12bが浮いたり、シート押えリング13が破断したりして、漏水が発生する。このような止水隔壁10の変形、破壊等による漏水が起きない最大許容圧力を止水隔壁10の耐圧強度としてもよい。前記最大許容圧力は、止水隔壁10の各部品の公称強度等を用いた強度計算、CAE解析、実験等によって求めることができる。前記最大許容圧力に安全率(例えば70%~95%程度)を乗じた値を耐圧強度としてもよい。
【0026】
より好ましくは、下式が満たされるように、流体圧P
19B,P
19Cを調整する。
P
19C<P
19B<P
0 (式4)
要するに、推進方向のより後方側(
図2において左側)に配置された隔壁間空間部19であるほど流体圧を低圧に設定することが、より好ましい(式4)。
【0027】
これによって、一段目の止水隔壁10Aにおいては、鏡側流入流体圧P0に対して、当該止水隔壁10A自体の耐圧強度P10Aに加えて、後方側からの流体圧P19Bによっても対抗できる。したがって、大深度であるために鏡側流入流体圧P0が高圧であっても、止水隔壁10Aが変形、破壊を来すのを防止でき、高圧地下水や泥水を含む鏡側流入流体w0の漏れを阻止することができる。また、止水隔壁10Aの耐圧強度P10Aを大深度に対応するよう過度に高くする必要が無く、止水隔壁10Aの構造を簡素化できる。
【0028】
二段目(中間)の止水隔壁10Bにおいては、前方側から受ける流体圧P19Bが鏡側流入流体圧P0よりも小さい(式4)。しかも、前記前方側からの流体圧P19Bに対して、当該止水隔壁10B自体の耐圧強度P10Bに加えて、後方側からの流体圧P19Cによっても対抗できる。したがって、止水隔壁10Bにかかる水圧負荷は止水隔壁10Aよりも小さく、止水隔壁10Bの耐圧強度P10Bを過度に高くする必要が無い。
【0029】
三段目(最後段)の止水隔壁10Cにおいては、前方側から受ける流体圧P19Cが、前記二段目(中間)の止水隔壁10Bが受ける流体圧P19Bよりも更に小さく、鏡側流入流体圧P0と比べると十分に小さい(式4)。したがって、止水隔壁10Aの耐圧強度P10Cを過度に高くしなくても、当該止水隔壁10Cだけで流体圧P19Cに十分に対抗できる。
このように、エントランス止水装置5によれば、複数段の止水隔壁10にかかる水圧負荷を推進方向後方側の段になるほど小さくすることによって、最後段の止水隔壁10Cにかかる水圧負荷を十分に低減できる。したがって、止水隔壁10Cが変形、破壊を来すのを確実に防止でき、ひいては高圧地下水や泥水を含む鏡側流入流体w0が発進立坑2内に流入するのを阻止することができる。エントランス止水装置5を大掛かりな構造にする必要がなく、施工コストの増大を抑制できる。
なお、三段の止水隔壁10だけでは最後段の止水隔壁10Cにかかる水圧負荷が十分低減できないときは、止水隔壁10の段数を増やすことが好ましい。
【0030】
図2に示すように、シールドマシン9の後方(
図2において左側)には、セグメント1sを組んでシールドトンネル1の躯体1aを順次構築していく。該トンネル躯体1aの外径はシールドマシン9の外径より少し小さい。
図5に示すように、推進に伴って、推進方向の後方側の止水隔壁10から順次シールドマシン9が抜け出る。例えば、
図5(a)に示すように、最後尾の止水隔壁10Cからシールドマシン9が抜け出たときは、止水隔壁10Cの傾斜角度が緩む。すなわち、止水隔壁10Cにおける弾性止水シート11の内周部11a及びフラップ部12aが鉛直側へ向けてある角度だけ回転され、フラップ部12aの先端部がトンネル躯体1aの外周面に当たるとともに、シート内周面11aがトンネル躯体1aの外周面に密着される。これによって、エントランスフレーム4の内周とトンネル躯体1aの外周との間がシールされる。
【0031】
止水隔壁10Cの傾斜角度変化によって、隔壁間空間部19Cの体積が増大し、隔壁間空間部19C内の圧力が低下する。該圧力低下に応じて圧力調整バルブ23が作動することによって、流体導入路21Cから高圧水w
19Cが隔壁間空間部19Cに補充される。これによって、隔壁間空間部19Cの内圧が設定流体圧P
19Cに復帰される。
図5(b)に示すように、さらにシールドマシン9が二段目(中間)の止水隔壁10Bから抜け出たときは、止水隔壁10Bの傾斜角度が変化して隔壁間空間部19Bの体積が増大するから、同様の内圧復帰操作を行う。
流体圧源として水などの流動性の高い流体を用いることで、隔壁間空間部19の体積変化及び内圧変化にすばやく対応できる。
図5(c)に示すように、シールドマシン9が一段目の止水隔壁10Aを通過したときは、止水隔壁10Aの傾斜角度が変化し、鏡側空間部18の体積が増大し、その分、高圧地下水や泥水を含む鏡側流入流体w
0が鏡側空間部18に流入する。
【0032】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、シールドマシン9の全体がエントランス装置3を通過した後は、隔壁間空間部19内の流体を発泡ウレタン等の発泡樹脂に置換してもよい。エントランス止水装置5が、隔壁間空間部19への発泡樹脂注入手段を有していてもよい。流体圧導入手段20が、流体圧源の高圧流体と発泡樹脂とを選択的に隔壁間空間部19へ供給可能であってもよい。
1又は複数の止水隔壁10が例えばシールドマシン9との衝突等で壊れたときのために、予め止水隔壁10の段数を必要数より多くしておいてもよい。つまり、予備の止水隔壁10を追加して設置しておいてもよい。好ましくは、推進方向の前方側から数えて必要数の止水隔壁10よりも推進方向後方側の止水隔壁10を予備の止水隔壁10として扱い、通常時は予備の止水隔壁10には流体圧導入手段20からの流体圧を付与せずにおく。
トンネルの発進エントランスに限らず到達エントランスに本発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、例えばシールドトンネルの構築施工に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 シールドトンネル(トンネル)
1a トンネル躯体
2 発進立坑
3 エントランス
5 エントランス止水装置
9 シールドマシン(トンネル掘削機)
10 止水隔壁
10A 一段目(最も前方側)の止水隔壁
11 弾性止水シート
12 フラップ
12a フラップ部
12c ヒンジ
13 シート押えリング
18 鏡側空間部
19 隔壁間空間部
20 流体圧導入手段
22 加圧ポンプ
23 圧力調整バルブ
24 圧力計