(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】分離剤
(51)【国際特許分類】
C07K 17/00 20060101AFI20231023BHJP
C07K 16/42 20060101ALN20231023BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231023BHJP
【FI】
C07K17/00 ZNA
C07K16/42
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2020527708
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2019026134
(87)【国際公開番号】W WO2020004668
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018123978
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】大倉 裕道
(72)【発明者】
【氏名】内村 誠一
【審査官】茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-252368(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082213(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/082214(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/020622(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/133349(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/046278(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 17/00
C07K 16/42
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体とタンパク質とを含む分離剤であって、
該タンパク質が、単鎖抗体(scFv)であり、
該
scFvは、
N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は、
N末端から順に並ぶ、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び配列番号1で表されるアミノ酸配列と、
そのC末端に3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列とを含み、
該配列番号1で表されるアミノ酸配列、該配列番号2で表されるアミノ酸配列、該配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び該配列番号3で表されるアミノ酸配列が含むすべてのリジン残基が
、ヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基、スレオニン残基、アスパラギン残基及びグルタミン酸残基から成る群から選択される少なくとも1種のアミノ酸残基に置換されている
scFvであり、
該担体の表面と該3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基とが化学結合によって結合している、分離剤。
【請求項2】
請求項1に記載の分離剤を用いて、二種以上の水溶性物質の混合液から前記タンパク質が結合する水溶性物質を分離する方法。
【請求項3】
N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は、
N末端から順に並ぶ、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び配列番号1で表されるアミノ酸配列と、
そのC末端に3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列とを含み、
該配列番号1で表されるアミノ酸配列、該配列番号2で表されるアミノ酸配列、該配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び該配列番号3で表されるアミノ酸配列が含むすべてのリジン残基が
、ヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基、スレオニン残基、ア
スパラギン残基及びグルタミン酸残基から成る群から選択される少なくとも1種のアミノ酸残基に置換されている
単鎖抗体(scFv)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アフィニティークロマトグラフィー用カラムの性能を改良するために、これまでに様々な技術開発がなされてきた。例えば、プロテインAに複数存在するリジン残基を全て他のアミノ酸残基に置換し、かつ、末端に新たにリジン残基を付与することで、その側鎖のεアミノ基を介して該プロテインAを担体に固定化できるようになる。このようにして製造されたカラムは、目的物質に対する結合容量・結合効率が最大化されている(特許文献1)。
【0003】
一方で、抗体の可変領域を単鎖抗体(single chain Fv, scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に提示させ、所望の抗原に結合するファージを選択する方法が知られている。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合する単鎖抗体をコードするDNA配列を決定することができる。そして、抗原に結合する単鎖抗体を用いて、該抗原の分離剤を製造することができるようになる。単鎖抗体を用いて抗原の分離剤を製造するには、単鎖抗体を分離剤の担体に結合させて製造するのが一般的である(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-070289号公報
【文献】国際公開第2017/082213号
【文献】国際公開第2017/082214号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、二種以上の水溶性物質の混合液から目的物質を分離する分離剤を製造するために単鎖抗体を担体の表面に結合させる際、単鎖抗体が元来含むリジン残基を介して結合させると、単鎖抗体が含むアミノ酸配列によっては、目的物質に対する分離剤の動的結合量(Dynamic Binding Capacity, DBC)が低下する場合があることを見出した。
本発明は、目的物質に対する動的結合量(DBC)が向上した分離剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記分離剤として下記構成(1)~(3)が採用されることにより前記課題が解決できることを見出した。
(1) 分離剤が含む単鎖抗体が元来含むリジン残基が、リジン残基以外のアミノ酸残基に置換されている。
(2) 分離剤が含むタンパク質のC末端に3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列が含まれている。
(3)担体の表面と該3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基が化学結合により結合している。
具体的には、下記の通りである。
【0007】
担体とタンパク質とを含む分離剤であって、
該タンパク質は、
N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は、
N末端から順に並ぶ、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び配列番号1で表されるアミノ酸配列と、
そのC末端に3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列とを含み、
該配列番号1で表されるアミノ酸配列、該配列番号2で表されるアミノ酸配列、該配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び該配列番号3で表されるアミノ酸配列が含むすべてのリジン残基がリジン残基以外のアミノ酸残基に置換されているタンパク質であり、
該担体の表面と該3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基とが化学結合によって結合している、分離剤である。
【0008】
また、本発明の他の態様は、前記分離剤を用いて、二種以上の水溶性物質の混合液から前記タンパク質が結合する水溶性物質を分離する方法である。
【0009】
また、本発明の他の態様は、
N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は、
N末端から順に並ぶ、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び配列番号1で表されるアミノ酸配列と、
そのC末端に3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列とを含み、
該配列番号1で表されるアミノ酸配列、該配列番号2で表されるアミノ酸配列、該配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び該配列番号3で表されるアミノ酸配列が含むすべてのリジン残基がリジン残基以外のアミノ酸残基に置換されているタンパク質である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、目的物質に対する動的結合量(DBC)が向上した分離剤が提供できる。また、該分離剤を用いて、二種以上の水溶性物質の混合液から目的物質を分離する方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施態様に係る、アフィニティークロマトグラフィー用カラムへ固定したタンパク質の量と10%動的結合量(DBC)との関係を示すグラフである。
【
図2-1】本発明の一実施態様に係る、配列番号1で表されるアミノ酸配列及びそれと実質的に同一のアミノ酸配列を示す図である。
【
図2-2】本発明の一実施態様に係る、配列番号3で表されるアミノ酸配列及びそれと実質的に同一のアミノ酸配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、分離剤に係る発明(第一の発明)、及び、該分離剤を用いた、二種以上の水溶性物質の混合液から前記タンパク質が結合する水溶性物質を分離する方法に係る発明(第二の発明)を含む。
単鎖抗体は、当該技術分野では、低分子抗体の一つとして一本鎖Fv(single chain Fv, scFv)などと称されることがある。また、本明細書に記載される単鎖抗体にはウサギ由来の単鎖抗体もあるが、これは単鎖抗体がウサギ由来である場合の一例に過ぎず、本明細書に記載される単鎖抗体がウサギ由来の単鎖抗体に限定されるものではない。
【0013】
<1.第一の発明>
本発明の第一の発明は、
担体とタンパク質とを含む分離剤であって、
該タンパク質は、
N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は、
N末端から順に並ぶ、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び配列番号1で表されるアミノ酸配列と、
そのC末端に3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列とを含み、
該配列番号1で表されるアミノ酸配列、該配列番号2で表されるアミノ酸配列、該配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び該配列番号3で表されるアミノ酸配列が含むすべてのリジン残基がリジン残基以外のアミノ酸残基に置換されているタンパク質であり、
該担体の表面と該3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基とが化学結合によって結合している、分離剤である。
【0014】
[担体]
本発明の第一の発明に用いる担体は、水不溶性担体であることが好ましい。水不溶性担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機-有機、有機-無機などの複合担体などが挙げられるが、中でも親水性担体は非特異吸着が比較的少なく、本発明の第一の発明に用いるタンパク質の選択性が良好であるため好ましい。ここでいう親水性担体とは、担体を構成する化合物を平板状にしたときの水との接触角が60度以下の担体を示す。この様な担体としてはセルロース、キトサン、デキストラン等の多糖類、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸グラフト化ポリエチレン、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレン、ガラスなどが挙げられる。
【0015】
市販品としては多孔質セルロースゲルであるGCL2000、GC700、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S-1000、アクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharoseCL4B、エポキシ基で活性化されたポリメタクリルアミドであるオイパーギットC250L等を例示することができる。ただし、本発明の第一の発明においてはこれらの担体、活性化担体のみに限定されるものではない。上述の担体はそれぞれ単独で用いてもよいし、任意の2種類以上を混合してもよい。また、本発明の第一の発明に用いる水不溶性担体としては、本分離剤の使用目的および方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する、すなわち、多孔質であることが好ましい。
【0016】
担体の形態としては、ビーズ状、繊維状、膜状(中空糸も含む)など何れも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。特定の排除限界分子量を持つ担体作製の容易さからビーズ状が特に好ましく用いられる。ビーズ状の平均粒径は10~2500μmのものが使いやすく、とりわけ、付加されたリジン残基を介して本発明の第一の発明で用いられるタンパク質を担体表面へ固定化しやすい点から、25~800μmの範囲が好ましい。
さらに担体表面には、本発明の第一の発明で用いられるタンパク質における前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基との化学結合反応に用いうる官能基が存在していると好都合である。これらの官能基の代表例としては、水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、アミド基、エポキシ基、サクシニルイミド基、酸無水物基、ヨードアセチル基などが挙げられる。
【0017】
[付加されたリジンと担体表面との化学結合]
担体表面と本発明の第一の発明で用いられるタンパク質を、該タンパク質における前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基を介して化学結合させる方法(固定化方法)としては、該リジン残基のεアミノ基を介して化学結合させる方法が挙げられ、例えば、従来のカップリング法により担体に共有結合させる方法等が挙げられる。カップリング法としては、一般にタンパク質やペプチドを担体に固定化する場合に採用される方法が挙げられる。例えば、担体を臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジン、過ヨウ素酸ナトリウム等と反応させて活性化し(または、担体表面に反応性官能基を導入し)、リジン残基とカップリング反応を行う方法や、担体とリジン残基とが存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、または、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる方法が挙げられる。ただし、分離剤の滅菌時または利用時に、リジン残基が担体より容易に脱離しない結合方法を用いることがより好ましい。また、リジン残基と担体との間に複数の原子からなるスペーサー分子を導入してもよいし、リジン残基を担体に直接固定化してもよい。
【0018】
担体表面と本発明の第一の発明で用いられるタンパク質とを、該タンパク質における前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基を介して化学結合させる方法の具体例としては、実施例に記載するような、HiTrap NHS-activated HP Columns(GEヘルスケア)を用いた固定化方法が挙げられる。
【0019】
[タンパク質]
本発明の第一の発明に用いるタンパク質は、
N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は、
N末端から順に並ぶ、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び配列番号1で表されるアミノ酸配列と、
そのC末端に3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列とを含み、
該配列番号1で表されるアミノ酸配列、該配列番号2で表されるアミノ酸配列、該配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び該配列番号3で表されるアミノ酸配列が含むすべてのリジン残基がリジン残基以外のアミノ酸残基に置換されているタンパク質である。
【0020】
前記配列番号1で表されるアミノ酸配列は、特許文献2、3に記載された単鎖抗体R3-26における重鎖(H鎖)の可変領域(VHドメイン)のアミノ酸配列である。
前記配列番号3で表されるアミノ酸配列は、特許文献2、3に記載された単鎖抗体R3-26における軽鎖(L鎖)の可変領域(VLドメイン)のアミノ酸配列である。
前記配列番号2で表されるアミノ酸配列、前記配列番号17で表されるアミノ酸配列は、特許文献2、3に記載された単鎖抗体R3-26におけるVHドメインとVLドメインとを繋ぐリンカー配列である。
【0021】
本発明の第一の発明に用いるタンパク質は、前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基を介して担体の表面と化学結合によって結合する。前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列のアミノ酸残基数は、好ましくは3残基以上、より好ましくは4残基以上、さらに好ましくは5残基以上である。一方、他のリンカーアミノ酸配列やタンパク質と結合させる観点から、好ましくは1000残基以下、より好ましくは100残基以下、さらに好ましくは15残基以下である。
また、前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列におけるリジン残基の個数は、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であり、上限は、好ましくは1000以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは10以下である。また、リジン残基が複数付加されている場合には、各々のリジン残基は連続(隣接)している必要はなく、本発明の効果を奏することができれば、間にリジン残基以外のアミノ酸残基を含んでもよいが、連続(隣接)していることが好ましい。
前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列は、好ましくは、連続する3以上のリジン残基のN末端側にAAAGGGGS(配列番号13)、C末端側にIEが存在するアミノ酸配列である。
【0022】
特許文献2、3を参照すれば、単鎖抗体R3-26は、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体を認識して結合することが理解できる。さらに、特許文献2、3を参照すれば、単鎖抗体R3-26は、そのサブタイプである、ヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体、ヒト血清由来IgG2ポリクローナル抗体、ヒト血清由来IgG3ポリクローナル抗体、及びヒト血清由来IgG4ポリクローナル抗体からなる群から選択される一以上の抗体を認識して結合することが理解できる。単鎖抗体R3-26は、ウサギに由来する単鎖抗体であるが、単鎖抗体が由来する動物に特に制限はない。単鎖抗体が由来する動物としては、例えば、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ニワトリ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サルなどが挙げられる。
【0023】
本発明の第一の発明に用いるタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列に含まれるリジン残基のすべてがリジン残基以外のアミノ酸残基に置換されている。該リジン残基以外のアミノ酸残基としては、システイン残基以外のアミノ酸残基が好ましく、その具体例としては、アルギニン残基、セリン残基、スレオニン残基、グルタミン酸残基が挙げられる。
【0024】
配列番号1で表されるアミノ酸配列は、本発明の効果を奏することができる限り、それと実質的に同等のアミノ酸配列であってもよい。
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列とは、配列番号1で表されるアミノ酸配列ではないが、本発明の効果を奏することができるアミノ酸配列であり、VHドメインのCDR領域を除いたアミノ酸配列を比較して、次第に好ましくなる順に、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。
このようなアミノ酸配列としては、例えば、配列番号18(相同性:79.3%)、配列番号19(相同性:79.3%)、配列番号20(相同性:88.6%)、配列番号21(相同性:86.2%)、配列番号22(相同性:81.6%)、配列番号23(相同性:81.8%)、配列番号24(相同性:80.5%)、配列番号25(相同性:81.6%)が挙げられる。また、これらの各アミノ酸配列と、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列も、配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列に含まれる。
【0025】
また、配列番号3で表されるアミノ酸配列は、本発明の効果を奏することができる限り、それと実質的に同等のアミノ酸配列であってもよい。
配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列とは、配列番号3で表されるアミノ酸配列ではないが、本発明の効果を奏することができるアミノ酸配列であり、VLドメインのCDR領域を除いたアミノ酸配列を比較して、次第に好ましくなる順に、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。
このようなアミノ酸配列としては、例えば、配列番号26(相同性:78.0%)、配列番号27(相同性:89.0%)、配列番号28(相同性:86.4%)、配列番号29(相同性:81.3%)、配列番号30(相同性:87.9%)、配列番号31(相同性:85.7%)、配列番号32(相同性:82.4%)、配列番号33(相同性:92.3%)が挙げられる。また、これらの各アミノ酸配列と、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列も、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列に含まれる。
【0026】
また、配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と配列番号3で表されるアミノ酸配列を連結した場合を想定したときに、その連結されて成したアミノ酸配列全体との間で、VHドメインのCDR領域のアミノ酸配列、及びVLドメインのCDR領域のアミノ酸配列を除外して算出した、NCBIのBLOSUM62による相同性スコア値が、次第に好ましくなる順に、500以上、550以上、600以上、650以上、700以上のアミノ酸配列であってもよい。また、その連結されて成したアミノ酸配列全体との間で、VHドメインのCDR領域のアミノ酸配列、及びVLドメインのCDR領域のアミノ酸配列を除外して算出した相同性が、次第に好ましくなる順に、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上のアミノ酸配列であってもよい。
【0027】
このようなアミノ酸配列としては、例えば、
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号18、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号26(相同性スコア値:718、同一性:78.70%)、
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号19、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号27(相同性スコア値:762、同一性:84.30%)、
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号20、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号28(相同性スコア値:807、同一性:87.50%)、
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号21、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号29(相同性スコア値:737、同一性:80.90%)、
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号22、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号30(相同性スコア値:763、同一性:84.80%)、
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号23、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号31(相同性スコア値:766、同一性:83.80%)、
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号24、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号32(相同性スコア値:740、同一性:81.50%)、
配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号25、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列として配列番号33(相同性スコア値:744、同一性:87.10%)である。
また、これらの各アミノ酸配列と、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列も、それぞれ、配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列に含まれる。
【0028】
配列番号2で表されるアミノ酸配列は、本発明の効果を奏することができる限り、それと実質的に同等のアミノ酸配列であってもよい。
配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列とは、配列番号2で表されるアミノ酸配列ではないが、本発明の効果を奏することができるアミノ酸配列であり、配列番号2で表されるアミノ酸配列と、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列である。
このことは、配列番号17で表されるアミノ酸配列、前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列であっても同様である。
【0029】
図2-1に配列番号1で表されるアミノ酸配列及びそれと実質的に同一のアミノ酸配列を、
図2-2に配列番号3で表されるアミノ酸配列及びそれと実質的に同一のアミノ酸配列示した。各図中のクローン番号は、特許文献2、3に記載された各単鎖抗体のクローン番号であり、各配列は該各単鎖抗体におけるV
HドメインとV
Lドメインの配列である。各ドメインにおけるCDR領域とFR領域も分かるように記載した。
【0030】
また、配列番号1で表されるアミノ酸配列においては、本発明の効果を奏することができる限り、その1~複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。1~複数個とは、次第に好ましくなる順に、1~12個、1~10個、1~5個、1~3個である。
また、配列番号3で表されるアミノ酸配列においては、本発明の効果を奏することができる限り、その1~複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。1~複数個とは、次第に好ましくなる順に、1~12個、1~10個、1~5個、1~3個である。
また、配列番号2で表されるアミノ酸配列においては、本発明の効果を奏することができる限り、その1~複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。1~複数個とは、次第に好ましくなる順に、1~3個、1~2個、1個である。
また、配列番号17で表されるアミノ酸配列においては、本発明の効果を奏することができる限り、その1~複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。1~複数個とは、次第に好ましくなる順に、1~3個、1~2個、1個である。
また、前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列においては、本発明の効果を奏することができる限り、その1~複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列であってもよい。1~複数個とは、次第に好ましくなる順に、1~[前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列のアミノ酸残基数の10%]個、1~[前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列のアミノ酸残基数の5%]個、1~[前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列のアミノ酸残基数の2.5%]個、1~[前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列のアミノ酸残基数の1%]個、1個である。尚、端数は繰り上げるものとする。
【0031】
上記の配列番号1で表されるアミノ酸配列における1~複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。
保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。
保存的置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
このことは、配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列、前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列であっても同様である。
【0032】
また、本発明の効果を奏する限り、前記3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列のC末端には、Hisタグ、GSTタグ、FLAGタグなどのタグが付されていてよい。これらのタグはリジン残基を含んでいてもよい。
【0033】
単鎖抗体R3-26は、特許文献2、3に記載された方法により取得することができるし、公知の遺伝子工学的手法やタンパク質工学的手法等により取得することもできる。
また、単鎖抗体R3-26のアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列からなるタンパク質も、特許文献2、3に記載された方法により取得することができるし、単鎖抗体R3-26のアミノ酸配列を、公知の遺伝子工学的手法やタンパク質工学的手法等により改変して取得することもできる。
いずれについても、結果的に、単鎖抗体R3-26、又は単鎖抗体R3-26のアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列からなるタンパク質が得られればよく、その手法は限られない。
さらに、本発明の第一の発明に用いるタンパク質は、単鎖抗体R3-26のアミノ酸配列、又は単鎖抗体R3-26のアミノ酸配列と実質的に同等のアミノ酸配列を、公知の遺伝子工学的手法やタンパク質工学的手法等により改変して取得できるが、結果的に、目的のアミノ酸配列からなるタンパク質が得られればよく、その手法は限られない。
【0034】
[動的結合量(Dynamic Binding Capacity, DBC)]
担体へのタンパク質の固定量や流速等の条件が同一である場合において、本発明の第一の発明に係る分離剤の動的結合量(DBC)は、単鎖抗体R3-26のアミノ酸配列における元来のリジン残基を介して担体の表面に該単鎖抗体を結合させた分離剤の動的結合量(DBC)よりも小さくない、すなわち、大きい又は同一である。
本発明の第一の発明に係る分離剤の動的結合量(DBC)は、例えば、[流速1.0 mL/minにおける10% DBC (mg/mL)] / [カラムへのタンパク質の固定化量(mg)]の値として、単鎖抗体R3-26のアミノ酸配列における元来のリジン残基を介して担体の表面に該単鎖抗体を結合させた分離剤のそれの、好ましくは1.00倍以上、より好ましくは1.20倍以上、さらに好ましくは1.40倍以上、よりさらに好ましくは1.60倍以上である。
本発明の第一の発明に係る分離剤の動的結合量(DBC)は、公知の方法で測定することができ、例えば、実施例に記載される方法で測定することができる。
【0035】
<2.第二の発明>
本発明の第二の発明は、本発明の第一の発明に係る分離剤を用いて、二種以上の水溶性物質の混合液から前記タンパク質が結合する水溶性物質を分離する方法である。
二種以上の水溶性物質のうちの一種は、好ましくはヒト血清由来IgGポリクローナル抗体であり、より好ましくは、そのサブタイプである、ヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体、ヒト血清由来IgG2ポリクローナル抗体、ヒト血清由来IgG3ポリクローナル抗体、及びヒト血清由来IgG4ポリクローナル抗体からなる群から選択される一以上の抗体である。
本発明の第二の発明に係る方法は、水溶性物質を分離するのに適した条件で行う以外は、担体に抗体を固定した通常のアフィニティークロマトグラフィーと同様の操作により、試料の分析や、試料からの前記タンパク質が結合する水溶性物質の分離ができる。
【0036】
<3.第三の発明>
本発明の他の態様は、
N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列、又は、
N末端から順に並ぶ、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び配列番号1で表されるアミノ酸配列と、
そのC末端に3以上のリジン残基を含むアミノ酸配列とを含み、
該配列番号1で表されるアミノ酸配列、該配列番号2で表されるアミノ酸配列、該配列番号17で表されるアミノ酸配列、及び該配列番号3で表されるアミノ酸配列が含むすべてのリジン残基がリジン残基以外のアミノ酸残基に置換されているタンパク質である。
【0037】
本態様に係るタンパク質についての詳細は、本発明の第一の発明の説明における「タンパク質」欄の説明を援用する。
したがって、本態様に係るタンパク質は、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合する活性を有している。さらに、そのサブタイプである、ヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体、ヒト血清由来IgG2ポリクローナル抗体、ヒト血清由来IgG3ポリクローナル抗体、及びヒト血清由来IgG4ポリクローナル抗体からなる群から選択される一以上の抗体に結合する活性を有している。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[製造例1]
特許文献2、3を参考にして、N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(特許文献2、3に記載された単鎖抗体R3-26)と、そのC末端側に配列番号4で表されるリンカーアミノ酸配列とを含むタンパク質をコードしたDNA(配列番号9)から該タンパク質を発現するためのベクターを構築した。
この、N末端から順に並ぶ、配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、そのC末端側の配列番号4で表されるリンカーアミノ酸配列とからなるアミノ酸配列とからなるアミノ酸配列を配列番号5とする。
尚、構築した発現ベクターは、N末端にペリプラズム移行シグナル(pelB Leader signal) 配列、前記配列番号4で表されるリンカーアミノ酸配列のC末端側にヒスチジンタグ(6×His-tag)が融合された形で発現される。発現後、タンパク質はペリプラズムに移行し、pelB Leader signal配列はシグナルペプチダーゼによって切断される。
【0040】
構築した発現ベクターで大腸菌Rosetta (DE3)を形質転換し、該形質転換後の大腸菌をLBアガープレート(50mg/Lアンピシリン)上で培養した。得られたシングルコロニーをLB培地10mL(50mg/Lアンピシリン)中で一晩培養した。得られた培養液を50mL Overnight Express TB培地(メルクミリポア)中に植菌し、37℃、200rpmで24時間培養した。
【0041】
得られた培養液を遠心分離(10000rpm、4℃、15分)し、培養上清を得た。この培養上清を孔径0.45μmの親水性デュラポアメンブレン(メルクミリポア)を通すことでろ過し、そのろ液をHisTrap FF crudeカラム(GE Healthcare)にアプライし、タンパク質をカラムに捕捉させた。捕捉させたタンパク質は0.4Mイミダゾールを用いて溶出させた。また、溶出後のタンパク質濃度をDC Protein assay (Biorad)によって定量した。さらに、SDS-PAGEにより溶離液中のタンパク質の純度を確認した。回収したタンパク質溶液の溶媒をPBSTへと置換し、後述するように、BiacoreX-100で解離定数KDを測定した。
【0042】
[製造例2]
製造例1で用いた配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を次のように改変した。改変タンパク質を「R3-26 repCK+K」と称し、そのアミノ酸配列を配列番号6とする。
【0043】
・配列番号1で表されるアミノ酸配列においては、IMGTナンバリングで指定される14位のリジン残基をスレオニン残基に、IMGTナンバリングで指定される48位のリジン残基をグルタミン酸残基に、IMGTナンバリングで指定される72位と80位と90位のリジン残基をアルギニン残基に置換した。
・配列番号2で表されるアミノ酸配列においては、アミノ酸残基の置換をしなかった。
・配列番号3で表されるアミノ酸配列においては、IMGTナンバリングで指定される22位のリジン残基をアスパラギン残基に、IMGTナンバリングで指定される51位のリジン残基をアルギニン残基に、IMGTナンバリングで指定される77位のリジン残基をセリン残基に、IMGTナンバリングで指定される96位のシステイン残基をセリン残基に置換した。
・配列番号4で表されるアミノ酸配列においては、N末端側からC末端側の順に、AAAGGGGSKIE(配列番号14)とした。
尚、R3-26 repCK+Kのアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を配列番号10とする。
【0044】
[製造例3]
製造例1で用いた配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を次のように改変した。改変タンパク質を「R3-26 repCK+K3」と称し、そのアミノ酸配列を配列番号7とする。
【0045】
・製造例2において、配列番号4で表されるアミノ酸配列をAAAGGGGSKKKIE(配列番号15)としたこと以外は、製造例2と同様にした。
尚、R3-26 repCK+K3のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を配列番号11とする。
【0046】
[製造例4]
製造例1で用いた配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質を次のように改変した。改変タンパク質を「R3-26 repCK+K5」と称し、そのアミノ酸配列を配列番号8とする。
【0047】
・製造例2において、配列番号4で表されるアミノ酸配列をAAAGGGGSKKKKKIE(配列番号16)としたこと以外は、製造例2と同様にした。
尚、R3-26 repCK+K5のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列を配列番号12とする。
【0048】
前記製造例1~4で得たタンパク質を用いた解離定数KDの測定は、以下の測定条件で行った。
Sensor Chip: human IgG1-coupled CM5
Running buffer: PBST
Binding time: 180 sec
Dissociation time: 600-800 sec
Elution: 10mM Glycine, pH1.5
Mode: Single cycle kinetics mode
【0049】
表1に、製造例1~4で得られたタンパク質の調製時の収量と解離定数KDの測定結果をまとめた。製造例1で得られたタンパク質と比較して、製造例2~4で得られたタンパク質のいずれにも生産量の低下はみられず、解離定数KDは同じオーダーであった。
以上の結果より、アミノ酸配列の改変は、その生産性と解離定数KDに示される結合能とに顕著な低下を招かないことが分かった。
【0050】
【0051】
[参考例1-1]
製造例1と同様の手順に従って進め、限外ろ過により回収したタンパク質溶液の溶媒を0.5M NaClを含む0.2M炭酸水素ナトリウムバッファー(pH8.3)に置換した。
【0052】
(担体へのタンパク質の固定化)
HiTrap NHS-activated HPカラム1mL(GE Healthcare)に、精製したタンパク質を供給し、該タンパク質が含むリジン残基のアミノ基を介して固定化した。未反応のNHSエステルはトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えてブロックした。カラムへの前記タンパク質の固定化量は4.0mgとした。
【0053】
(動的結合量の測定)
タンパク質を固定した上記カラムをクロマトグラフィーシステムAKTA Purifier UPC 10 (GH Healthcare)にセットし、PBSで平衡化した。そこへ1mg/mLに調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(WAKO)を1mL/minの流速で供給し続け、破過曲線を得た。得られた破過曲線の10%破過点の溶出容量から10%動的結合量(DBC)を算出した。
【0054】
[参考例1-2]
カラムへのタンパク質の固定化量を5.0mgとしたこと以外は、参考例1-1と同様にした。
【0055】
[比較例1]
タンパク質として、製造例2で製造したタンパク質「R3-26 repCK+K」を用いたこと以外は参考例1-1と同様にした。
【0056】
[実施例1-1]
タンパク質として、製造例3で製造したタンパク質「R3-26 repCK+K3」を用い、その固定化量を5.0mgとしたこと以外は参考例1-1と同様にした。
【0057】
[実施例1-2]
タンパク質として、製造例4で製造したタンパク質「R3-26 repCK+K5」を用い、その固定化量を5.0mgとしたこと以外は参考例1-1と同様にした。
【0058】
[結果]
表2に結果をまとめた。尚、表中の参考例の結果は、参考例1-1と参考例1-2の結果の平均値である。
参考例よりも実施例1-1、実施例1-2の方が固定化タンパク質の量あたりのDBC値が大きかった。一方、参考例よりも比較例1の方が固定化タンパク質の量あたりのDBC値が小さかった。
以上の結果は、担体の表面と化学結合によって結合するリジン残基数が1では、担体上での目的物質の捕捉効率は向上しないが、3以上とすることで、担体上での目的物質の捕捉効率が向上することを示している。
【0059】
【0060】
[参考例2]
カラムへのタンパク質の固定化量を幅広い量としたこと以外は、参考例1-1と同様にした。
【0061】
[実施例2]
製造例4で製造したタンパク質「R3-26 repCK+K5」の、カラムへの固定化量を幅広い量としたこと以外は、参考例1-1と同様にした。
【0062】
[結果]
図1に結果を示す。図中の破線は、得られたプロットの近似直線である。
この結果から、幅広い固定化量範囲で、実施例2の方が参考例2よりも目的物質の捕捉効率が高いことが分かった。
【配列表】