(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】蛍光ポリペプチドの変異体、及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231023BHJP
C07K 14/46 20060101ALI20231023BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/46
G01N33/53 S
(21)【出願番号】P 2019143937
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 敦史
(72)【発明者】
【氏名】楊 正博
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/133158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に変異を有するか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有
しており、
上記変異は、1)上記101番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のQからDへの置換、2)110番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のYからAへの置換、及び、3)123番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のLからMへの置換、からなる群より選択される少なくとも一つであり、
上記変異を有することで、向上したビリルビンとのアフィニティを有する蛍光ポリペプチドであり、
上記変異を維持しており、配列番号1に記載のアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有する、変異体。
【請求項2】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の41番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸
のLからAへの置換を有
しており、
上記変異を有することで、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光の波長シフトが生じる蛍光ポリペプチドであり、
上記変異を維持しており、配列番号1に記載のアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有する、変異体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドとは異なる特性を有する、ポリペプチドの変異体を製造する方法であって、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の41番目、101番目、110番目、123番目、及び132番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を変異させるか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸を変異させる工程を備え
ており、
上記アミノ酸を変異させる工程において、1)上記41番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のLからAへの置換、2)上記101番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のQからDへの置換、3)110番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のYからAへの置換、4)123番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のLからMへの置換、及び、5)132番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のRからKへの置換からなる群より選択される少なくとも一つを行い、
上記のアミノ酸を変異させることで、上記特性としての、ビリルビンとのアフィニティを変更するか、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光の波長シフトを生じさせ、
上記変異体は、上記変異を維持しており、配列番号1に記載のアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有する蛍光ポリペプチドである、製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の製造方法であって、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を変異させるか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸を変異させる工程を備え
ており、
上記アミノ酸を変異させる工程において、1)上記101番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のQからDへの置換、2)110番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のYからAへの置換、3)123番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のLからMへの置換からなる群より選択される少なくとも一つを行い、
向上したビリルビンとのアフィニティを有する、ポリペプチドの変異体を製造するものであり、
上記変異体は、上記変異を維持しており、配列番号1に記載のアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有する蛍光ポリペプチドである、製造方法。
【請求項6】
対象物中のビリルビンを検出する方法であって、
請求項1
又は2記載の変異体と上記対象物とを接触させる接触工程、及び、
上記接触工程後に上記変異体から発される蛍光を検出する検出工程、
を含む、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ポリペプチドの新規な変異体及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光タンパク質は、細胞、組織、又は生物個体などを可視化するツールとして、欠かせないものとなっている。脊椎動物であるニホンウナギ(Anguilla japonica)は、蛍光タンパク質を持つことが報告されており、本願発明者らは、これまでに、ニホンウナギ由来の蛍光タンパク質UnaGが、バイオマーカーの1つであるビリルビンと結合して蛍光を発することを見出し、UnaGを用いた対象物中のビリルビン含量の測定法を開発している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第WO2014/133358号(2014年9月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において示されているように、UnaGは非抱合型ビリルビンに特異的に結合する。アルブミン結合型ビリルビンと接触したUnaGは、アルブミンとビリルビンとの結合を解いて、ビリルビンに結合するため、アルブミン非結合型ビリルビン(アンバウンドビリルビン)とアルブミン結合型ビリルビンとを区別して測定することができないという問題があった。
【0005】
現在、より高性能かつ高感度で、多様な用途に対応できるビリルビンセンサーの開発が望まれている。また、アルブミン非結合型ビリルビンを特異的かつ正確に測定可能な測定系の開発についても必要とされている。かかる要求に応えるために、ビリルビンとの結合性を有し、かつUnaG野生体とは異なる特性を有する蛍光タンパク質の提供が求められている。
【0006】
本発明は、ニホンウナギ由来の蛍光タンパク質UnaGの変異体であってビリルビンの測定に利用する上で有用な性質を示す変異体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本願発明は以下の何れかの一態様を包含する。
<1> 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に変異を有するか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有する、変異体。
<2> 上記変異は、他のアミノ酸への置換である、<1>に記載の変異体。
<3> 上記変異は、1)上記101番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のQからDへの置換、2)110番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のYからAへの置換、及び、3)123番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のLからMへの置換、からなる群より選択される少なくとも一つである、<1>又は<2>に記載の変異体。
<4> 上記の変異を有することで、向上したビリルビンとのアフィニティを有する、<1>から<3>の何れかに記載の変異体。
<5> さらに、配列番号1に記載のアミノ酸配列の41番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有する、<1>から<4>の何れかに記載の変異体。
<6> <1>から<5>の何れかに記載の変異体をコードするポリヌクレオチド。
<7> 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドとは異なる特性を有する、ポリペプチドの変異体を製造する方法であって、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の41番目、101番目、110番目、123番目、及び132番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を変異させるか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸を変異させる工程を備える、製造方法。
<8> <7>に記載の製造方法であって、
上記のアミノ酸を変異させることで、上記特性としての、ビリルビンとのアフィニティを変更するか、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光の波長シフトを生じさせる、製造方法。
<9> <7>又は<8>に記載の製造方法であって、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を変異させるか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸を変異させる工程を備える、製造方法。
<10> <9>に記載の製造方法であって、
向上したビリルビンとのアフィニティを有するポリペプチドの変異体を製造する、製造方法。
<11> 対象物中のビリルビンを検出する方法であって、
<1>から<5>の何れかに記載の変異体と上記対象物とを接触させる接触工程、及び、上記接触工程後に上記変異体から発される蛍光を検出する検出工程、を含む、検出方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、分子生物学などの分野で有用なUnaG変異体とその利用を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】UnaG変異体を用いたアルブミン非結合型ビリルビンの測定方法の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔用語などの定義〕
本明細書において、「ポリヌクレオチド」は、「核酸」又は「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体を意図している。また、「塩基配列」は、「核酸配列」又は「ヌクレオチド配列」とも換言でき、特に言及のない限り、デオキシリボヌクレオチドの配列又はリボヌクレオチドの配列を意図している。また、ポリヌクレオチドは、一本鎖であっても二本鎖構造であってもよく、一本鎖の場合はセンス鎖であってもアンチセンス鎖であってもよい。
【0011】
本明細書において、「ポリペプチド」は、「タンパク質」とも換言できる。
【0012】
本明細書において、「ウナギ」は、ニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギ、及びオオウナギなどの、ウナギ科ウナギ属(Anguilla)に含まれる魚類を意図している。
【0013】
本明細書において、「A及び/又はB」は、A及びBとA又はBとの双方を含む概念であり、「A及びBの少なくとも一方」とも換言できる。
【0014】
本明細書において、「ビリルビン」は、ヘモグロビンの構成物であるヘムの分解産物を指す。「ビリルビン」自体は、黄色色素であり、非抱合型ビリルビン(間接ビリルビン)と、抱合型ビリルビン(直接ビリルビン)とを含んでいる。
【0015】
ビリルビンは水に溶けにくく、主に血液中のアルブミンに結合したアルブミン結合型ビリルビンの状態で肝臓へと運搬される。
本発明においてUnaG変異体の結合するビリルビンの好ましい態様の一つは非抱合型ビリルビンである。
【0016】
直接ビリルビン及び間接ビリルビンの総和を総ビリルビンという。神経毒性を有する成分は非抱合型ビリルビンであるが、その中でも、アルブミン非結合型のビリルビンは「アンバウンドビリルビン」ともいい、神経毒性を発現する重大要因となる。
【0017】
〔1.UnaG変異体〕
本発明に係る配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体は、以下の(1)~(4)の何れかに示す、変異体である。
【0018】
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、
配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に変異を有するか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有する、変異体。以下、アミノ酸の変異とは、アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加を総称するものである。
【0019】
好ましい一実施形態において上記「変異」は、他のアミノ酸への置換である。
【0020】
(2)上記(1)記載の変異体のアミノ酸配列において、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸以外の位置で、1~18個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する、変異体。
【0021】
なお、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸の個数は、1~14個であることが好ましく、1~7個であることがより好ましく、1~5又は6個であることが特に好ましい。
【0022】
(3)上記(1)記載の変異体のアミノ酸配列に対し、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸の変異、又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸の変異を維持しており、85%以上の配列同一性を有する蛍光ポリペプチド。なお、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
【0023】
(4)上記(1)に記載の変異体をコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされる変異体。なお、ストリンジェントな条件については、本発明に係るポリヌクレオチドの欄で後述する。
【0024】
なお、上記の(1)~(4)に示したポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸を有するポリペプチドを基準とした場合に変異体と捉えることができる。
【0025】
なお、上記(1)~(4)に示した変異体は、例えば、Kunkel法(Kunkel et al.(1985):Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.82.p488-)などの部位特異的突然変異誘発法を用いて、配列番号1のアミノ酸を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(配列番号2)に人為的に変異を導入してもよい。また、上記(1)に示した蛍光ポリペプチドのバリアントとして、天然に存在する変異ポリペプチドに由来するポリペプチドに上述の位置のアミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有するものなどであってもよい。この変異体のポリペブチドの一例は、配列番号3に記載のアミノ酸配列において、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有する、ポリペプチドである。なお、配列番号3のアミノ酸を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは配列番号4に記載の塩基配列を有する。
【0026】
なお、「対応するアミノ酸」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列における当該位置に該当するアミノ酸を意味し、UnaGのバリアントにおいて若干変化しているアミノ酸配列を有するポリペプチドなども標的配列に包含されることを意味している。より具体的には、例えば、「配列番号Xに記載のアミノ酸配列のY番目のアミノ酸に対応するアミノ酸」とは、ホモロジー解析により、配列番号Xに記載のアミノ酸配列のY番目に相当すると特定されるアミノ酸を指す。なお、ホモロジー解析の方法としては、例えば、Needleman-Wunsch法やSmith-Waterman法等のPairwise Sequence Alignmentによる方法や、ClustalW法等のMultiple Sequence Alignmentによる方法が挙げられ、当業者であれば、これら方法に基づき、配列番号Xに記載のアミノ酸配列を基準配列として用いて、解析対象のアミノ酸配列中における「対応するアミノ酸」を理解することができる。解析対象のアミノ酸配列は、例えば、上記基準配列の変異体が挙げられる。解析は、デフォルトの設定で行ってもよく、適宜、必要に応じてパラメータをデフォルトから変更して行ってもよい。一実施形態において、上記(1)~(4)に記載の変異体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つ、2つまたは3つのアミノ酸に変異を有するか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有する。
【0027】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、元々はニホンウナギから単離された蛍光ポリペプチドであり、UnaGと呼ばれる。以下、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをUnaG野生体と呼び、その変異体を単にUnaG変異体とも呼ぶ。
【0028】
本明細書に記載のポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合してなるポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含むものであってもよい。ここでいうポリペプチド以外の構造としては、糖鎖やイソプレノイド基などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。また、上記蛍光ポリペプチドはビリルビンとの結合部位となる構造を有しているポリペプチドである。
【0029】
本発明にかかるUnaG変異体は、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。より具体的には、当該ポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、及び原核生物宿主又は真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された翻訳産物をその範疇に含む。本発明に係る配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの一例は、ウナギ由来のものが挙げられ、より具体的にはニホンウナギ由来のものが挙げられる。配列番号1にそのアミノ酸配列を有する蛍光ポリペプチド(UnaG野生体と呼ぶ)は、元々はニホンウナギから単離したものであるが、特にその由来は限定されない。
【0030】
UnaG野生体は、ビリルビン存在下(ビリルビンと結合した状態)では、励起光の照射を受けて所定波長の蛍光を発するが、ビリルビンの非存在下では同じ励起光の照射を受けても蛍光を発しないという特性を有するポリペプチドである。
【0031】
(UnaG野生体の蛍光特性)
UnaG野生体の蛍光特性の主だったものは、以下の通りである。
最大励起波長(nm):498~499
最大蛍光波長(nm):525~530(緑色)
モル吸光係数(M-1cm-1):50000~78000
量子収率(%):50~54
蛍光寿命(ナノ秒):2.2
ビリルビンとのアフィニティ(結合能)(解離定数(Kd)):98pM
(UnaG変異体の特性)
本発明では、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドにおいてビリルビンとのアフィニティ(結合能)に関与するアミノ酸として、101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸が、ビリルビンとのアフィニティに特に重要な役割を果たしているということが新規に見いだされた。
【0032】
従って、本発明の一実施形態では、UnaG変異体は、比較対象(例えばUnaG野生体)とは異なるビリルビンとのアフィニティを有する変異体でありうる。本発明の他の実施形態では、UnaG変異体は、比較対象(例えばUnaG野生体)とは異なる、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光波長領域を有する変異体であり得る。
【0033】
すなわち、本発明に係るUnaG変異体の中には、(i)UnaG野生体とは異なるビリルビンとのアフィニティを有し、かつ、UnaG野生体と同等の蛍光発光波長領域を有する、(ii)UnaG野生体と同等のビリルビンとのアフィニティを有し、かつ、UnaG野生体とは異なる蛍光波長領域を有する、及び(iii)UnaG野生体とは異なるビリルビンとのアフィニティを有し、かつ、UnaG野生体とは異なる蛍光発光波長領域を有する、変異体の何れかに分類される。
【0034】
本発明に係るUnaG変異体には、さらに、蛍光発光波長領域以外の蛍光特性について、UnaG野生体と同等又は異なる蛍光特性を示すものが包含される。ここで、蛍光特性とは、励起波長、蛍光強度、蛍光速度、蛍光の安定性、pH感受性、モル吸光係数、蛍光量子効率、励起スペクトル又は、発光スペクトルの形、励起波長極大、発光波長極大、2つの異なる波長における励起振幅の比、2つの異なる波長における発光振幅の比、ならびに、励起状態寿命などの少なくとも1つ以上を有することを指す。蛍光強度とは蛍光を発する光の強さを指標として数値化したものであり、光の吸収効率(すなわち吸光係数)と励起光と蛍光との変換効率(すなわち量子収率)とに比例する、蛍光の輝度を意味している。また、蛍光速度とは励起光を受けてから一定の蛍光強度に達するまでの速さを数値化した値を意味している。また、蛍光の安定性とは一定の蛍光強度を維持する時間を指標として判定される、蛍光ポリペプチドの有する特性を意味している。すなわち、一定の経過時間における蛍光の減衰の度合が小さいほど、蛍光の安定性が高いことを意味している。
【0035】
なお、UnaG野生体と同等の励起波長を有するとは、例えば、同一条件下で最大励起波長が495nm~500nmの範囲内であることを意味している。UnaG野生体と異なる励起波長を有する場合は、例えば、490nm~495nmの範囲内である。
【0036】
また、UnaG野生体と同等の蛍光発光波長を有するとは、例えば、蛍光発光波長領域が525nm~530nmの範囲内であることを意味している。UnaG野生体と異なる蛍光発光波長を有する場合は、例えば、蛍光発光波長領域が530nm~540nmの範囲内となる場合がある。
【0037】
ビリルビンとのアフィニティは、例えば、ビリルビンがUnaG変異体タンパク質に結合する際の蛍光強度の時間変化を計測することにより結合速度定数(Kon)を、ビリルビンがUnaG変異体タンパク質から解離する際の蛍光強度の時間変化を計測することにより解離速度定数(Koff)をそれぞれ算出し、さらに、Koff/Konにより解離定数(Kd)を算出することによって評価することができる。一例として、UnaG野生体と比較してビリルビンとのアフィニティが低下しているとは、UnaG野生体と比較して、Kdが大きいことを、UnaG野生体と比較してビリルビンとのアフィニティが向上しているとは、UnaG野生体と比較して、Kdが小さいことを、意味している。
【0038】
一例として、UnaG野生体と比較してビリルビンとの結合能が低下した蛍光ポリペプチドとは、KdがUnaGのKdの1000倍以上、好ましくは100倍以上、より好ましくは15~20倍以上の値である。
【0039】
一例として、UnaG野生体と比較してビリルビンとのアフィニティが向上した蛍光ポリペプチドとは、KdがUnaG野生体のKdの1/2以下、好ましくは1/5以下、より好ましくは1/10以下の値である。
【0040】
また、ビリルビンの高感度の検出に用いられるために好適なKdとしては、1nM以上10n以下であることが好ましく、0.1nM以上1n以下であることがより好ましく、0.01nM以上0.1nM以下であることがさらに好ましい。
【0041】
解離定数の算出方法としては公知の方法を挙げることができ、例えば以下の計算式によって計算され得る。
Y=[Kd+Bt+Pt-{(Kd+Bt+Pt)2-4×Bt×Pt}1/2]/(2×Pt)
Yはビリルビンの結合度(蛍光強度)、Kdは解離定数、Btはビリルビン濃度、Ptはアポ体のUnaG変異体タンパク質濃度(5nM)を表す。
【0042】
本発明の一実施形態のUnaG変異体は、配列番号1における、101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に変異を有するか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有し、向上したビリルビンアフィニティを有する変異体である。
【0043】
本発明のある実施形態のUnaG変異体は、配列番号1における、上記(1)~(4)に記載の変異体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つ、2つまたは3つのアミノ酸に変異を有するか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有し、向上したビリルビンアフィニティを有する変異体である。
【0044】
本発明において「向上したアフィニティ(Highアフィニティ)を有する」とは比較対象と比べて、ビリルビンとのアフィニティが向上していることを意味している。当該比較対象は、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むUnaG野生体、あるいは、別のUnaG変異体であり得る。ここで、比較対象となる別のUnaG変異体とは、例えば、配列番号1における、101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸または、当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有していないという点のみでアミノ酸配列が相違するUnaG変異体である。
【0045】
HighアフィニティのUnaG変異体の一実施形態は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、配列番号1に記載のアミノ酸配列における、
(i)上記101番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のグルタミン(Q)からアスパラギン酸(D)への置換(Q101Dと称する)、
(ii)110番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のチロシン(Y)からアラニン(A)への置換(Y110Aと称する)、及び、
(iii)123番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のロイシン(L)からメチオニン(M)への置換(L123Mと称する)、
からなる群より選択される少なくとも一つの変異を有する、変異体である。
【0046】
このような変異体の具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、Q101D、Y110AもしくはL123Mの変異を有する変異体である(各変異体の特性については実施例も参照のこと)。
【0047】
上記の変異体では、上記部位の変異を有することで、UnaG野生体よりも向上したビリルビンとのアフィニティを有している。
【0048】
かかる変異を有する変異体は、非抱合型ビリルビンに対してUnaG野生体よりも高い結合性を有する。
【0049】
また本発明の変異体のさらに別の実施形態は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、配列番号1に記載のアミノ酸配列における、41番目、101番目、110番目、123番目、及び132番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸、又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有する、変異体である。
【0050】
つまり、本発明の変異体の別の実施形態は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、
(iv)132番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のアルギニン(R)からリジン(K)への置換(R132Kと称する)、及び
(v)41番目のアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸のロイシン(L)からアラニン(A)への置換(L41Aと称する)
からなる群より選択される少なくとも一つの変異を有する、変異体である。
【0051】
上記アミノ酸はいずれも、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光波長の波長シフトに特に関与していると推定される。従って、蛍光発光波長の波長シフトしたUnaG変異体を得る場合は、上記アミノ酸領域の少なくとも一つに変異を生じさせることが好ましい。ここで、アミノ酸の変異は、アミノ酸の置換であることがより好ましい。
【0052】
また、特に、本発明に係るUnaG野生体に対し、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光波長の波長シフトが生じており、かつかつビリルビンとのアフィニティをUnaG野生体から変化させた変異体の例は、配列番号1に記載の31番目及び65番目の少なくとも1つに変異を生じさせた変異体が挙げられる。
【0053】
また、その他の部位としては、12番目、80番目、57番目及び61番目の4個のアミノ酸のうちの少なくとも1つに変異を生じさせてもよい。なお、12番目、80番目及び61番目のうちの少なくとも1つに変異を生じさせることがより好ましく、12番目及び80番目に変異を生じさせることがさらに好ましい。上述のアミノ酸は、それぞれビリルビンと水素結合することによって、ビリルビンとの結合性に関与するアミノ酸として知られている。
【0054】
このような変異体の具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体であって、R132K、R132KS31A、R132KT65A、L41A、L41AY110A又はL41AL123Mのいずれかの変異を有する変異体が挙げられる(各変異体の特性については実施例も参照のこと)。
【0055】
上記(iv)及び(v)の変異体は上記部位の変異を有することで、UnaG野生体と比較して、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光の波長シフトが生じている。すなわち、上記の変異を有することにより、本発明の変異体はUnaG野生体とは異なるビリルビンと結合した状態での蛍光発光波長領域を有する。
本発明のUnaG変異体が有するアミノ酸配列の例としては、配列番号5、7、9、11、13、15、17、19及び21に記載のアミノ酸配列が挙げられる。
【0056】
本発明の変異体は、例えば対象物中のビリルビン、好ましくは非抱合型ビリルビン、より好ましくはアルブミン非結合型ビリルビン(アンバウンドビリルビン)の検出において、好適に用いることができる。
【0057】
従来では、特許文献1のUnaG野生体のタンパク質を用いた場合、血中のビリルビン含量の測定を行うためには血清を希釈する必要があるため、血中のアルブミン非結合型ビリルビン含量の正確な測定は困難であった。本発明のHighアフィニティのUnaG変異体のタンパク質を用いることにより、血清を希釈することなくビリルビン含量の測定を行うことができ、血中のアルブミン非結合型ビリルビン含量の正確な測定が可能となる。
【0058】
なお、対象物中のビリルビンの検出方法については、以下の〔7.対象物中のビリルビンの検出〕において詳細に記載する。
【0059】
〔2.UnaG変異体のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド〕
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記UnaG変異体のポリペプチドの何れかをコードするものである。このポリヌクレオチドは、具体的には、以下の(1)~(4)の何れかに記載のポリヌクレオチドである。一実施形態において上記「変異」は、他のアミノ酸への置換である。
【0060】
(1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの変異体をコードするポリヌクレオチドであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に変異を有するか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸に変異を有する、変異体をコードするポリヌクレオチド。
【0061】
(2)上記(1)記載の変異体のアミノ酸配列において、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸以外の位置で、1~18個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する、変異体をコードするポリヌクレオチド。なお、置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸の個数は、1~14個であることが好ましく、1~7個であることがより好ましく、1~5又は6個であることが特に好ましい。
【0062】
(3)上記(1)記載の変異体のアミノ酸配列に対し、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸の変異、又は当該アミノ酸に対応するアミノ酸の変異を維持しており、85%以上の配列同一性を有する変異体をコードするポリヌクレオチド。なお、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上であることが特に好ましい。
【0063】
(4)上記(1)に記載の変異体をコードするポリヌクレオチドと相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対して、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0064】
なお、ストリンジェントな条件下とは、例えば、参考文献[Molecular cloning-a Laboratory manual 2nd edition(Sambrookら、1989)]に記載の条件などが挙げられる。ストリンジェントな条件下とは、より具体的には例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8~16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件、及び当該条件におけるハイブリダイズ後に65℃で約0.1M又はそれより低い塩を含む溶液中、好ましくは0.2×SSC又は同程度のイオン強度を有する任意の他の溶液において洗浄する条件が挙げられる。なお、このポリヌクレオチドは、上記(1)に記載のポリヌクレオチドの塩基配列に対して85%以上の配列同一性を有することが好ましく、90%以上の配列同一性を有することがより好ましく、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、或いは99%以上の配列同一性を有することがさらに好ましい。
【0065】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNAの形態、又はDNAの形態で存在し得る。RNAの形態とは、例えば、mRNAである。DNAの形態とは、例えば、cDNA又はゲノムDNAである。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。
【0066】
本発明に係るポリヌクレオチドの一例である、配列番号6、8、10、12、14、16、18、20及び22に記載の塩基配列は、順に、配列番号5、7、9、11、13、15、17、19及び21に記載のバリアントまたは変異体のポリペプチドをコードするcDNAである。本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列などの付加的な配列を含むものであってもよい。
【0067】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得する(単離する)方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ホスホロアミダイト法などの核酸合成法に従って合成してもよい。
【0068】
また、本発明に係るポリヌクレオチドを取得する方法として、PCRなどの核酸増幅法を用いる方法を挙げることができる。例えば、当該ポリヌクレオチドのcDNAのうち、5’側及び3’側の配列(又はその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA又はcDNAなどを鋳型にしてPCRなどを行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅する。これによって、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得できる。
【0069】
〔3.組み換えベクター〕
本発明に係るポリヌクレオチド(例えばDNA)は、適当なベクター中に挿入された組み換えベクターとして利用に供することもできる。当該ベクターの種類は、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミドなど)でもよいし、或いは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
【0070】
上記ベクターは、好ましくは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明に係るポリヌクレオチドは、転写に必要な要素(例えば、プロモータなど)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜することができる。
【0071】
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillusstearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha-amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosldase gene)のプロモータ、又はファージ・ラムダのPR若しくはPLプロモータ、大腸菌のlac、trp若しくはtacプロモータなどが挙げられる。
【0072】
昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、又はバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータなどがある。酵母細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2-4cプロモータなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータ又はtpiAプロモータなどがある。
【0073】
哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT-1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、又はアデノウイルス2主後期プロモータなどがある。
【0074】
また、本発明に係るポリヌクレオチドは必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネータ又は真菌宿主についてはTPI1ターミネータ若しくはADH3ターミネータのような適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。本発明に係る組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル、転写エンハンサ配列及び翻訳エンハンサ配列のような要素を有していてもよい。
【0075】
本発明に係る組み換えベクターは、さらに、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。
【0076】
本発明に係る組み換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
【0077】
〔4.形質転換体〕
本発明に係るポリヌクレオチド、又は、本発明に係る組み換えベクター(本発明の核酸構築物と総称する)を適当な宿主細胞に導入することによって形質転換体を作製することができる。
【0078】
宿主細胞としては、例えば、細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞、及び高等真核細胞などが挙げられる。なお、宿主細胞の細胞内にビリルビンが含まれる培養条件において培養した場合は、本発明に係るポリペプチドはビリルビンと結合した状態で産生され得るが、細胞内にビリルビンが含まれない培養条件においては(例えばリポタンパク質を含まない培地を使用する培養条件など)、ビリルビンと結合していない状態のポリペプチドが産生され得る。
【0079】
細菌細胞の例としては、バチルス又はストレプトマイセスなどのグラム陽性菌又は大腸菌などのグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌細胞の形質転換は、例えば、プロトプラスト法、又はコンピテント細胞を用いる方法などにより行えばよい。
【0080】
酵母細胞の例としては、サッカロマイセス又はシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又はサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)などが挙げられる。本発明の核酸構築物の酵母宿主への導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法などを挙げることができる。
【0081】
酵母細胞以外の真菌細胞の例は、糸状菌、例えば、アスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、又はトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、本発明の核酸構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。核酸構築物の宿主染色体への組み込みは、例えば、相同組換え又は異種組換えにより行うことができる。
【0082】
昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる。共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法又はリポフェクション法などを挙げることができる。
【0083】
哺乳動物細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞又はCHO細胞などが挙げられる。哺乳動物細胞の形質転換には、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などを用いることができる。
【0084】
上記の形質転換体は、導入された核酸構築物の発現を可能にする条件下で、適切な培養培地中で培養する。次いで、必要に応じて、形質転換体の培養物から、本発明に係る蛍光ポリペプチドを単離精製する。
【0085】
なお、形質転換体は、細胞に限定されない。すなわち、形質転換体は、例えば、本発明に係る核酸構築物で形質転換された組織、器官、及び個体であってもよい。ただし、細胞以外の形質転換体は、非ヒト由来のものであることが好ましい場合があり、特に個体は非ヒト由来のものであることが好ましい。
【0086】
〔5.UnaGポリペプチドの変異体を製造する方法〕
本発明はまた、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドとは異なる特性を有する、ポリペプチドの変異体を製造する方法であって、配列番号1に記載のアミノ酸配列の41番目、101番目、110番目、123番目、及び132番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を変異させるか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸を変異させる工程を備える、製造方法も提供する。変異の導入は、例えば、Kunkel法(Kunkel et al.(1985):Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.82.p488-)などの部位特異的突然変異誘発法を用いて、配列番号1のアミノ酸を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに人為的に変異を導入することなどによって行うことができる。
【0087】
一実施形態における製造方法は、上記のアミノ酸を変異させることで、上記特性としての、ビリルビンとのアフィニティを変更すること、及びビリルビンと結合した状態での蛍光発光の波長シフトを生じさせること、のうちの少なくとも何れか一つを行う、製造方法であり得る。
【0088】
別の実施形態における製造方法は、上記のアミノ酸を変異させることで、上記特性としての、ビリルビンとのアフィニティを変更するか、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光の波長シフトを生じさせる、製造方法であり得る。なお、この実施形態における製造方法は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドに基づいて、ビリルビンとのアフィニティが変更されたポリペプチドや、ビリルビンと結合した状態での蛍光発光の波長シフトが生じるポリペプチドを設計する方法と捉えることもできる。
【0089】
さらに別の実施形態の製造方法では、上述のアミノ酸を変異させる、変異導入工程に加え、アミノ酸を変異させて得られたポリペプチドの変異体に対してアフィニティ測定及び/又は蛍光波長シフトを確認することで所望の変異体をスクリーニングをする工程を行ってもよい。
【0090】
なお、上述の製造方法によって得られたUnaG変異体のポリペプチドも本発明の範疇である。
【0091】
ある実施形態の製造方法では、配列番号1に記載のアミノ酸配列の101番目、110番目、及び123番目のアミノ酸からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を変異させるか、当該アミノ酸に対応するアミノ酸を変異させる工程を備える。当該製造方法は、向上したビリルビンとのアフィニティを有するポリペプチドの変異体を製造するものであり得る。
【0092】
〔6.UnaG変異体のポリペプチドとビリルビンとの複合体など〕
本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドとビリルビンとの複合体(ホロ体)も本発明の範疇である。この複合体は、所定波長の励起光を照射することによって蛍光を発する。また、ビリルビンを安定的に保持する保持担体として、本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドは機能し得る。この複合体は、ビリルビンと結合していないUnaG変異体のポリペプチド(アポ体)を単離精製した後に、ビリルビンと接触させることで再構成した複合体であってもよい。
【0093】
本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドと他のポリペプチドとからなる融合ポリペプチド(以下、本発明に係る融合ポリペプチドと称する)も本発明の範疇である。融合ポリペプチドは、例えば、本発明に係る組み換えベクターの発現によって産生される融合タンパク質;任意のタンパク質を本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドで標識した融合タンパク質;本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドと、蛍光を安定化させるための所定のペプチド配列とが融合してなる融合タンパク質;本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドと他の蛍光ポリペプチドとを備えたFRET用プローブ;などが挙げられる。すなわち、本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドと融合させる他のポリペプチドの種類は特に限定されない。
【0094】
また、本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドに特異的に結合する抗体も本発明の範疇に含まれる。
【0095】
〔7.対象物中のビリルビンの検出〕
本発明に係る、対象物中のビリルビンを検出する方法は、1)本発明に係るUnaG変異体と、ビリルビンの検出の対象物とを接触させる接触工程、及び、2)接触工程後に当該変異体から発される蛍光を検出する検出工程、を含む方法である。
【0096】
(接触工程)
ビリルビンの検出の対象物の種類は、ビリルビン含有の有無、又はその含有量を検出したい対象物であれば特に限定されない。対象物としては、例えば、生物系試料、又は非生物系試料が挙げられる。生物系試料としては、特に限定されないが、例えば、細胞自身、細胞抽出液及び体液由来試料(例えば、血液、唾液、リンパ液、髄液及び尿などに由来する試料)などが挙げられ、中でも体液由来試料が好ましく、血液由来又は尿由来の試料がより好ましい。血液由来の試料としては、生体から採取した血液自身、血清及び血漿などが挙げられる。なお、生体はヒトであっても非ヒト脊椎動物であってもよいが、ヒト又は非ヒト哺乳動物が好ましく、ヒトがより好ましい。さらに例えばアルブミン非結合型ビリルビンの検出対象物の例としては、ヒトの乳児又は新生児から採取した血液自身、血清及び血漿などが挙げられる。
また、細胞自身、又は細胞抽出液としては、例えば、脾臓細胞(特に細網細胞)、肝細胞、及びこれら細胞の抽出液が挙げられる。非生物系試料としては、ビリルビンを所定の濃度で含むビリルビン標準サンプルなどが挙げられる。
【0097】
本発明に係るUnaG変異体と、上記対象物とを接触させる方法は、用いる対象物の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、検出の対象物が細胞自身などのように遺伝子の翻訳系を有する場合は、本発明に係るUnaG変異体をコードするポリペプチドを対象物内に導入することによって、上記接触工程を行えばよい。また、検出の対象物が細胞自身以外である場合は、例えば、単離した本発明に係るUnaG変異体と、対象物とを直接接触させる(両者を混合する)ことによって、上記接触工程を行えばよい。
【0098】
接触工程を行う条件は、本発明に係るUnaG変異体に実質的な変性が生じない条件で行うことができる。これらポリペプチドに実質的な変性が生じない条件とは、例えば、温度条件が4℃以上で65℃以下の範囲内であり、20℃以上で37℃以下の範囲内であることが好ましい。また、接触工程は、必要に応じて、生理的食塩水中、或いは、リン酸系などの緩衝溶液中で行ってもよい。
【0099】
(検出工程)
上記検出工程は、接触工程後に行われ、本発明に係るポリペプチド又は融合ポリペプチドから発される蛍光を検出する工程である。蛍光の検出方法は特に限定されないが、例えば、UVトランスイルミネーターもしくはLEDトランスイルミネーター、蛍光顕微鏡、蛍光検出器又はフローサイトメトリーなどの蛍光検出手段を用いて、蛍光発光の有無又は蛍光強度を測定すればよい。蛍光発光の有無を測定すれば、対象物中にビリルビンが含まれる(蛍光発光有り)か否か(蛍光発光無し)を検出することができる。また、蛍光強度を測定すれば、対象物中のビリルビンの含有量を検出することができる。
【0100】
なお、対象物中のビリルビンの含有量とは、基準となる試料と比較した場合の相対的なビリルビン含有量であってもよく、絶対的なビリルビン含有量(絶対濃度)であってもよい。絶対的なビリルビン含有量を求めるためには、濃度既知のビリルビン標準サンプルを用いた検量線の作成などを予め行ってもよい。
【0101】
(検査工程)
本発明に係るビリルビンの検出方法は、さらに必要に応じて、上記検出工程での検出結果に基づき、肝臓疾患の素因の有無又は発症の有無を検査する検査工程をさらに含んでいてもよい。
【0102】
脊椎動物において、ビリルビンは、ヘムの分解産物の一つである。赤血球が脾臓で分解される際に、ヘムは脾臓の細網細胞で分解されてビリルビン(非抱合型)が生じる。生じたビリルビンは、アルブミンと結合した形で肝臓へと輸送される。
【0103】
血液検査では間接ビリルビン量という項目で非抱合型のビリルビン量を評価しているが、これは総ビリルビン量と直接ビリルビン(抱合型ビリルビン)量とを測定し、総ビリルビン量から直接ビリルビン量を差し引いて求めたものである。
【0104】
血液検査では、間接ビリルビン量は肝機能を表す指標の一つとして確立されている。従って、本発明に係るビリルビンの検出方法を用いて、対象物中(特に血液由来の試料中)のビリルビンの含有量を求めれば、肝臓疾患又は溶血性疾患などの素因の有無又は発症の有無を検査することが可能となる。
【0105】
また、本発明に係る、対象物中のビリルビンを検出する方法の一例は、対象物中のアルブミン非結合型ビリルビン(アンバウンドビリルビン)を検出する方法であって、1)本発明に係るUnaG変異体と、ビリルビンの検出の対象物とを接触させる接触工程、及び、2)接触工程後に当該変異体から発される蛍光を検出する検出工程、を含む方法である。
【0106】
また、本発明に係る、対象物中のビリルビンを検出する方法のさらなる一例は、対象物中のアルブミン非結合型ビリルビン(アンバウンドビリルビン)を検出する方法であって、1)本発明に係るUnaG変異体と、ビリルビンの検出の対象物とを接触させる接触工程、及び、2)接触工程後に当該変異体から発される蛍光を検出する検出工程、を含み、上記接触工程にて対象物に接触させるUnaG変異体として、2種類以上の本発明のUnaG変異体を用いる、方法である。
【0107】
対象物中のアルブミン非結合型ビリルビン含量を算出するためには、少なくとも対象物中の総アルブミン含量、総ビリルビン含量及びアルブミンの解離定数をパラメータとして得る必要がある。
【0108】
検出方法に用いる2種類以上のUnaG変異体の蛍光発光の波長が異なっている場合、これらのUnaGを混合しても波長領域が異なるので同時に蛍光の測定が可能となる。そのため、各変異体についての同一期間及び同条件下での蛍光特性を同時に測定可能となる。総アルブミン含量及びアルブミンのKd値は、2種以上のUnaG変異体の、互いに異なるビリルビンへのアフィニティ及び互いに異なる蛍光発光の波長にもとづいて算出することができる。
【0109】
そこで、一実施形態における、対象物中のアルブミン非結合型ビリルビンを検出する方法では、1)UnaG野生体と、ビリルビンの検出の対象物とを接触させる工程、2)UnaG野生体接触工程後に当該野生体から発される蛍光を検出する検出工程、3)本発明に係るUnaG変異体と、ビリルビンの検出の対象物とを接触させる接触工程、及び、4)UnaG変異体接触工程後に当該変異体から発される蛍光を検出する検出工程と、を含み、上記UnaG変異体接触工程にて対象物に接触させるUnaG変異体として、2種類以上の本発明のUnaG変異体を用いる、方法である。
【0110】
また、上記対象物中のアルブミン非結合型ビリルビンを検出する方法のある実施形態では、上記工程に続いて、さらに、対象物中の総ビリルビン含量、総アルブミン含量、アルブミンのKd値を計算し、得られた値に基づいてアルブミン非結合型ビリルビン値を算出する、計算工程をさらに包含している。
計算工程は例えば下記式に基づいて算出され得る
AB=[Kd+Bt+At-{(Kd+Bt+At)2-4×Bt×At}1/2]/(2×At)
Bu=Bt-AB
ABはアルブミン結合型ビリルビンの量、Kdは解離定数、Atは総アルブミン含量、Btは総ビリルビン含量を表す。Buはアルブミン非結合型ビリルビンの量。
【0111】
なお、本発明のビリルビン検出方法に2種以上のUnaGタンパク質を用いる場合、UnaGタンパク質の蛍光発光波長は、例えば、最大蛍光波長が互いに好ましくは5nm~10nm、より好ましくは10nm~20nm異なっているものが挙げられる。また、本発明のビリルビン検出方法に2種以上のUnaGタンパク質を用いる場合、UnaGタンパク質のビリルビンへのアフィニティは、例えば、Kdが互いに、好ましくは1nM~10nM、より好ましくは10nM~100nM異なっているものが挙げられる。
【0112】
上記の2種以上のUnaG変異体は例えば、R132K、R132KS31A又はR132KT65Aの変異体と、L41A、L41AY110A又はL41AL123Mの変異体との組合せであり得る。
【0113】
なお、検査対象となる肝臓疾患とは、各種の肝機能障害が挙げられる。肝臓疾患又は溶血性疾患として、より具体的には例えば、肝炎、肝硬変、肝がん、胆道系疾患、溶血性貧血及び体質性黄疸(Gilbert 症候群及びCrigler-Najjar 症候群)、などが挙げられ、特に非抱合型ビリルビン量が指標になる疾患としては溶血性黄疸、劇症肝炎、体質性黄疸及び新生児にみられる核黄疸などが挙げられる。
【0114】
肝臓疾患の素因の有無又は発症の有無を検査する場合の基準は、対象物が血液由来の試料の場合には、例えば、従来の血液検査における基準(間接ビリルビン量:0.8mg/dl以下であれば正常範囲)を参照すればよい。
【0115】
本発明に係るビリルビンの検出方法は、非抱合型のビリルビン量を直接測定するものであるが、この直接測定の結果と、抱合型のビリルビン量を直接測定(バナジン酸酸化法、ジアゾカップリング法などで測定可能)した結果とを合わせて、総ビリルビン量を求めることもできる。
【0116】
なお、本明細書中において「診断する」、「診断」とは、医師によってなされる、患者の徴候及び症状に基づく疾患又は病態の同定を指す。一方、本明細書中の「検査する」、「検査」とは、医師による同定(診断)を伴わない、検査対象のヒト又は非ヒト動物(「被験体」と称する場合もある)における、肝臓疾患又は溶血性疾患などの素因の有無又は発症の有無の検査を指す。本発明に係る検出方法によって得られた検査結果は、医師によってなされる診断の一材料になりうる。
【0117】
〔8.ビリルビンの検出キット〕
本発明に係るビリルビンの検出キットは、1)本発明に係るUnaG変異体のポリペプチド、2)本発明に係るUnaG変異体のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、3)本発明に係る組み換えベクター、4)本発明に係る形質転換体、又は5)本発明に係る融合ポリペプチドから選択される少なくとも1種以上を含んでなる。この検出キットは、1)~3)又は5)から選択される少なくとも1種を含んでなることが好ましい。
【0118】
本発明に係る検出キットは、さらに、必要に応じて、ビリルビンの検出に用いる各種試薬及び器具(緩衝溶液、ピペットなど)、試料(検出の対象物)を調製するための各種試薬及び器具(試験管、緩衝溶液など)、検出キットの使用説明書、検出の時に用いられる対照用となる試料、検出結果を解析するときに用いられる対照用のデータ、などの少なくとも1つを備えていてもよい。なお、検出キットの使用説明書には、上記〔6.対象物中のビリルビンの検出〕の欄で説明した、本発明に係る検出方法の内容が記録されている。
【0119】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0120】
〔実施例1.UnaG変異体の作製〕
材料及び方法
<UnaG変異部位のデザイン>
(In silicoの変異部位予測)
まず、スーパーコンピュータ「HOKUSAI」を用いてUnaG野生体のタンパク質の立体構造解析の結果に基づいた、In silicoでアミノ酸置換を行い、構造最適化計算を行い、アミノ酸変異部位を探索し、各種の変異が生じた場合の自由エネルギー計算を実施した。計算結果に基づいて、ビリルビンとの結合能の予測を行い、UnaGのアミノ酸変異部位の候補を決定した。
【0121】
<大腸菌発現用組み換え体(ベクター)の作製>
UnaG遺伝子全長の配列を有するDNA断片を、HISタグ融合タンパク質を大腸菌において発現可能な、HISタグ配列を有する大腸菌発現ベクターpRSET-B(インビトロジェン株式会社)に形質転換することによってサブクローニングし、大腸菌のUnaG(アポ体)発現ベクター(pRSET-B-UnaG)を構築した。
【0122】
<変異導入によるUnaG変異体の作製>
上述の計算結果によって(1)ビリルビンとのアフィニティがUnaG野生体より向上していることが予測された変異体候補について変異体の作製を行った。
【0123】
PrimeSTAR(登録商標) Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ株式会社)を使用し、製品に添付されている手順書に従って、UnaGのアミノ酸配列に対する部位特異的な変異導入を行った。UnaG野生体の大腸菌発現用組み換え体(ベクター)pRSET-B-UnaGを鋳型とし、センスプライマーとアンチセンスプライマーと(配列番号23~40)を用いてPCRによりUnaG野生体変異体タンパク質の目的の位置のアミノ酸を他のアミノ酸に置換した。変異を導入したpRSET-B-UnaG変異体を大腸菌株JM109に形質転換した。それぞれの変異体について、大腸菌発現用ベクターによる大腸菌における発現、培養及びタンパク質の精製を行った。
【0124】
<大腸菌におけるUnaG変異体タンパク質(アポ体)の発現、培養及びタンパク質の精製>
構築した発現ベクター(pRSET-B-UnaG)を大腸菌株JM109に形質転換し、形質転換体をLB固体培地のプレート上で培養してコロニーを得た。得られたコロニーを、LB液体培地40mlに植菌し、37℃において一晩前培養した。ここで、得られた大腸菌液のグリセロールストックを作製し、以下に記載の実験において、大腸菌発現用組み換え体(ベクター)を用いる場合は、上記グリセロールストックを植菌に用いた。前培養液を用いて、LB培地400mlにスケールアップし、37℃において1時間培養した(A600≒1.0)。その後、LB培地に終濃度0.4mMとなるようにIPTG(イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクシド)を加え、17℃において6時間振とうし、UnaG変異体タンパク質の発現を誘導した。8000rpmの回転速度で3分間遠心分離を行い、大腸菌の菌体を回収した。
【0125】
上記の操作によって回収した菌体を20mlのPBS(phosphate buffered saline)で懸濁し、リゾチーム(4mg/ml)を200μl添加し、液体窒素によって菌体を凍結させた後、融解させた。この凍結融解の作業を3回繰り返し、3分間超音波処理を行った後、7000rpmの回転速度で、4℃において20分間遠心分離し、上清を回収し菌体の可溶化液を得た。Ni-NTA アガロース(富士フイルム和光純薬会社)(HISタグの担体)及び可溶化液を4℃で1時間インキュベートし、上記の担体にHISタグ融合UnaG変異体タンパク質を結合させた。その後、Pierce(商標) Disposable Columns, 2 mL(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)のカラムに担体を結合させて、イミダゾール(400mM in PBS)で回収した。回収した可溶化液をVivaspin 6-10K (GEヘルスケア株式会社)でさらに精製することで UnaG変異体タンパク質の精製品とし、10~15mgのUnaG変異体タンパク質の精製品を得た。
【0126】
<タンパク質濃度の測定>
タンパク質濃度は以下のように算出された。
【0127】
まず、280nmにおけるUnaG変異体タンパク質のモル吸光係数(εM)を算出した(C.N.Pace et al., Protein Sci. 4, 2411-2423, 1995)。次に、得られたεM値及びA280の吸光度に基づき、以下に示した計算式によりタンパク質濃度を求めた。
【0128】
εM=Trp(2)×5500+Tyr(5)×1490+Cystine(0)×125=18450(A280/mol/cm)
タンパク質濃度=A280/εM=A280/18450(mol/dm3)
精製後、ビリルビンと再構成させることによりホロ体を調製した。ホロ体の調製は以下の方法に従って行った。
【0129】
<再構成によるホロ体のUnaGの作製>
100%DMSOに溶解させたビリルビン(和光純薬)をPBSによって希釈し、ビリルビンの濃度がアポ体のUnaG溶液に対してモル比において2倍の量となるように、アポ体のUnaGタンパク質溶液にビリルビンを添加し、混合した。混合の際、ビリルビン溶液のDMSOの終濃度と、アポ体のUnaGタンパク質溶液のDMSOの終濃度とが同じになるようにした。混合した溶液を入れた容器を遮光し、室温において10分間静置した。その後、PD-10カラム(GEヘルスケア株式会社)に該混合溶液を供して、混合溶液に含まれるバッファーを、PBSへバッファー交換しつつ余剰のビリルビンを除いた。必要に応じて、Amicon Ultra(3000MWCO、メルクミリポア)を用いて限外濾過することによって、ホロ体のUnaGタンパク質の濃縮を行った。
【0130】
〔実施例2.UnaG変異体タンパク質の蛍光特性の分析〕
<UnaG変異体タンパク質の蛍光スペクトル、吸収スペクトル及び量子収率の測定>
UnaG変異体タンパク質の蛍光特性について分析するため、蛍光スペクトル、吸収スペクトル及び量子収率の測定を行った。励起スペクトル及び蛍光スペクトルは分光蛍光光度計RF-5300PC(株式会社島津製作所)によって測定された(励起波長475nm、蛍光波長550nm)。吸収スペクトルは分光光度計 U-2900(株式会社日立ハイテクノロジーズ)によって測定された。量子収率は絶対PL量子収率測定装置Quantaurus-QY(浜松ホトニクス株式会社)によって測定された(励起波長470nm、480nm)。
【0131】
〔実施例3.UnaG変異体のビリルビン結合性能の評価〕
<解離定数測定>
アポ体の各種UnaG変異体タンパク質にビリルビンを混合し、分光蛍光光度計F-2500(株式会社日立ハイテクノロジーズ)で蛍光強度の時間変化を測定することにより結合速度定数(Kon)を求めた。また、ホロ体の各種UnaG変異体タンパク質に蛍光を失ったUnaG変異体を高濃度で混合し、蛍光強度の時間変化を測定することにより解離速度定数(Koff)を求めた。その結果から解離定数(Kd)を算出した。
【0132】
<アポ体のUnaG変異体タンパク質とビリルビンとの結合>
アポ体のUnaG変異体タンパク質の濃度が100nMのアポ体のUnaG変異体タンパク質溶液1mlに、40nMのビリルビンPBS溶液1mlを一気に混合して、蛍光分光光度計で530nmの蛍光強度の時間変化を10分測定した。また、1時間後の蛍光強度を測定し、ホロ体40nMの蛍光強度とした。その後、下記の式を用いて線形フィットすることにより結合速度定数(Kon)を求めた。
T×Kon=ln{U(B-Y/Z×B)/B(U- Y/Z×B)}/(U-B)
ここで、Tは経過時間、Yは時刻Tの蛍光強度、Zは1時間後の蛍光強度、Konは結合速度定数、Bはビリルビン濃度、Uはアポ体のUnaG変異体タンパク質濃度を表す。
【0133】
アポ体のUnaG変異体タンパク質の濃度が40nMのアポ体のUnaG変異体タンパク質溶液0.5mlに、40nMのビリルビンPBS溶液0.5mlを混合して、1時間後の蛍光強度を測定し、ホロ体40nMの蛍光強度とした。その後、濃度が4uMの蛍光消失変異体UnaGN57Aタンパク質溶液1mlを一気に混合して、蛍光分光光度計で530nmの蛍光強度の時間変化を測定した。その後、下記の式を用いて線形フィットすることにより結合速度定数(Koff)を求めた。
T×Koff ≒-ln{Y/Z}
ここで、Tは経過時間、Yは時刻Tの蛍光強度、Zは1時間後の蛍光強度を表す。UnaG変異体タンパク質よりもUnaGN57Aタンパクの量が100倍多いため、この近似式で問題ない。
【0134】
求めたKon、Koffより解離定数Kdを算出した。
Koff/Kon=Kd
以上で得られた各種変異体の特性データを表1及び表2に示す。
【0135】
【0136】
【0137】
カーブフィッティングの結果、UnaG野生体(WT)のKd=98pMに対し、
以下の親和力でビリルビンに結合し、また、蛍光特性について、UnaG野生体(WT)の最大蛍光波長(nm)=528nm(緑色)に対し、以下の最大蛍光波長を有することが分かった。
L123M変異体:Kd=0.011nM
Q101D変異体:Kd=0.053nM
Y110A変異体:Kd=0.067nM
R132K変異体:Kd=1.44~1.67nM、最大蛍光波長(nm)=524nm
R132KS31A変異体:Kd=2.14nM、最大蛍光波長(nm)=523nm
R132KT65A変異体:Kd=0.69nM、最大蛍光波長(nm)=524nm
L41A変異体:Kd=0.41~0.67nM、最大蛍光波長(nm)=532nm
L41AY110A変異体:Kd=0.14nM、最大蛍光波長(nm)=534nm
L41AL123M変異体:Kd=0.1nM、最大蛍光波長(nm)=536nm
従って、L123M、Q101D、Y110A変異体は、UnaG野生体に対してより向上したビリルビンへのアフィニティを有することがわかった。
【0138】
一方、L41A及びR132K変異体はUnaG野生体に対して低下したビリルビンへのアフィニティを有していたが、蛍光発光の波長がシフトしていた。
【0139】
以上のことから、R132K、R132KS31A又はR132KT65Aの変異体と、L41A、L41AY110A又はL41AL123Mの変異体とは、ビリルビンとのアフィニティと蛍光発光の波長領域が異なるので、これらのUnaG変異体の組合せは、アルブミン非結合型ビリルビン含量の測定に用いられるための好適な候補であると考えられた。
【0140】
〔参考例1アルブミン非結合型ビリルビンの測定原理)
上述の実施例で得られた複数のUnaG変異体を用いたアルブミン非結合型ビリルビンの測定方法について説明する。
【0141】
図1は、UnaG変異体を用いたアルブミン非結合型ビリルビンの測定方法の概略を示す。
【0142】
まず、サンプルをPBSで10~100倍に希釈して、UnaG変異体L123Mを用いて総ビリルビン値を測定する。
【0143】
次に総ビリルビン値から使用するUnaG変異体の組み合わせを決定し、UnaG変異体をGGSリンカーで繋いで、一つのタンパク質として精製する(UnaG-Mix)。
【0144】
サンプルにUnaG-Mixを徐々に加えていき、加える度に蛍光スペクトルを測定する。蛍光スペクトルの変化から、UnaG-Mixに結合しているビリルビンの量を算出する。
【0145】
最初に測定した総ビリルビンの量と、UnaG-Mixに結合できるビリルビンの量の差から、
図1の式(1)~(3)に基づいて、総アルブミン値、及びアルブミンのKdを計算する。
【0146】
得られた総アルブミン値、総ビリルビン値及びアルブミンのKdに基づいてアルブミン非結合型ビリルビンを計算することができる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明によれば、新規なUnaG変異体を提供する。また、本発明のポリペプチドをバイオマーカーとした、新規なビリルビンの検出方法を提供することが出来る。
【配列表】