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特許7370569アミロイドβタンパク質オリゴマーと結合するヒト化抗体
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  • 特許-アミロイドβタンパク質オリゴマーと結合するヒト化抗体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】アミロイドβタンパク質オリゴマーと結合するヒト化抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20231023BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231023BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231023BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20231023BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/18
A61K39/395 N
A61P25/28
A61P43/00 105
G01N33/53 D
C12N15/13
C12P21/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019145696
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021024831
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「脳科学研究戦略推進プログラム」「抗Αβオリゴマー抗体作成とアルツハイマー病メカニズムの研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 悦朗
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/099176(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/117448(WO,A2)
【文献】国際公開第2014/160098(WO,A2)
【文献】国際公開第2008/076487(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0362488(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイドβタンパク質(Aβ)オリゴマーと特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体であって、
CDR1として配列番号1に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号2に記載のアミノ酸配列、及びCDR3として配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する重鎖と、 CDR1として配列番号4に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号5に記載のアミノ酸配列、及びCDR3として配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含み、
(A) 配列番号11に記載のアミノ酸配列を有する重鎖と、
配列番号16に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖と
を含む、又は
(B) 配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する重鎖と、
配列番号15に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖と
を含む、
ヒト化モノクローナル抗体。
【請求項2】
Aβオリゴマーに選択的結合を示す、請求項1に記載のヒト化モノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヒト化モノクローナル抗体を有効成分として含有する、抗認知機能障害剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のヒト化モノクローナル抗体を有効成分として含有する、アルツハイマー病治療剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のヒト化モノクローナル抗体を有効成分として含有する、老人班形成抑制剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のヒト化モノクローナル抗体を有効成分として含有する、Aβアミロイド線維形成阻害剤。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のヒト化モノクローナル抗体を用いて、被験者から採取された試料に含まれるAβオリゴマーを検出する工程を含み、
Aβオリゴマーの検出量を、基準値より多い場合にはアルツハイマー型認知症(AD)であり、基準値より少ない場合にはアルツハイマー型認知症(AD)ではない、という基準と比較することにより、前記被検者がADを発症しているか否かを試験する方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法のために用いられる、請求項1又は2に記載のヒト化モノクローナル抗体を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミロイドβタンパク質オリゴマーと結合するヒト化抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー型認知症(AD)は、認知症の最も頻繁な病態であり、今日では、世界中で4700万人の認知症患者が存在すると推測されており、このうち約70%をADが占めている。AD患者脳の病理学的な主な特徴は、線維化した不溶性アミロイドβ(Aβ)ペプチドからなる老人斑又はアミロイド斑と過剰にリン酸化したタウタンパク質からなる神経原線維変化沈着の形成である。ADでは、神経細胞膜を貫通して局在する前駆体膜タンパク質である「アミロイド前駆体タンパク質」(APP)からプロテアーゼ切断によって生理的にモノマーの形態で産生されたAβペプチドが重合し、可溶性Aβオリゴマーを形成し、シナプス機能障害から致死的なタウカスケードへの引き金となり、認知機能障害が発症すると考えられている。最近、脳内Aβオリゴマーやタウタンパク質の直接的なPETイメージング解析が可能となり、それぞれ脳内蓄積はAβオリゴマーが先行する形で、認知症発症の約15年前から始まっていることが明らかとった。
【0003】
可溶性Aβオリゴマーは、嗅内野皮質にプレクリニカルADの段階から蓄積を開始し(非特許文献1)、脳内では神経細胞内に局在するが、AD患者脳では神経細胞外にもびまん性老人斑様の局在を認める(非特許文献1;非特許文献2)。細胞外の可溶性Aβオリゴマーを制御すると、神経細胞内Aβオリゴマーの蓄積阻止、ひいては神経細胞変性やシナプス変性阻止と記憶障害発症予防効果(非特許文献1)や記憶障害回復効果(非特許文献2)が達成されることが証明されている。
【0004】
Aβモノマーには結合せず、Aβオリゴマーにのみに特異的に結合するヒト化抗体が報告されている(特許文献1及び2)。このヒト化抗体は、抗認知機能障害剤、アルツハイマー病治療剤、老人班形成抑制剤、及びアミロイドβアミロイド線維形成阻害剤の有効成分として使用できる。また、このヒト化抗体を用いて、被験者から採取された試料におけるAβオリゴマーを検出することにより、被験者がAD候補であるか否かの診断に役立つデータの取得が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/016567号
【文献】国際公開第2011/016568号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Takamura A.et al.,Mol.Neurodegener.,2011,6:20
【文献】Takamura A.et al.,Life Sci.,2012,91:1177-1186
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、Aβモノマーには結合せず、Aβオリゴマーにのみに特異的に結合する新たなヒト化抗体を提供することを課題とする。また、本発明は、かかる抗体を有効成分として用いて、抗認知機能障害剤、アルツハイマー病治療剤、老人班形成抑制剤、及びアミロイドβアミロイド線維形成阻害剤を提供することも課題とする。さらに、本発明は、このヒト化抗体を用いて、被験者から採取された試料におけるAβオリゴマーを検出することにより、被験者のAD診断を行う方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、Aβモノマーには結合せず、Aβオリゴマーにのみに特異的に結合するマウス抗体6H4をヒト化することにより、Aβオリゴマーへの結合特異性が顕著に高いヒト化モノクローナル抗体が得られることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてさらに検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
【0009】
項1.
アミロイドβタンパク質(Aβ)オリゴマーと結合するヒト化モノクローナル抗体であって、
CDR1として配列番号1に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号2に記載のアミノ酸配列、及びCDR3として配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する重鎖と、
CDR1として配列番号4に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号5に記載のアミノ酸配列、及びCDR3として配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖と
を含むヒト化モノクローナル抗体。
項2.
配列番号7に記載のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖と、
配列番号8に記載のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖と
を含む、項1に記載のヒト化モノクローナル抗体。
項3.
配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列を有する重鎖と、
配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列を有する軽鎖と
を含む、請求項1に記載のヒト化モノクローナル抗体。
項4.
Aβオリゴマーに選択的結合を示す、項1~3のいずれ一項に記載のヒト化モノクローナル抗体。
項5.
項1~4のいずれか一項に記載のヒト化モノクローナル抗体を含有する、抗認知機能障害剤。
項6.
項1~4のいずれか一項に記載のヒト化モノクローナル抗体を含有する、アルツハイマー病治療剤。
項7.
項1~4のいずれか一項に記載のヒト化モノクローナル抗体を含有する、老人班形成抑制剤。
項8.
項1~4のいずれか一項に記載のヒト化モノクローナル抗体を含有する、Aβアミロイド線維形成阻害剤。
項9.
項1~4のいずれか一項に記載のヒト化モノクローナル抗体を用いて、被験者から採取された試料に含まれるAβオリゴマーを検出する工程を含み、
Aβオリゴマーの検出量を、基準値より多い場合にはアルツハイマー型認知症(AD)であり、基準値より少ない場合にはアルツハイマー型認知症(AD)ではない、という基準と比較することにより、前記被検者がADを発症しているか否かを試験する方法。
項10.
項9に記載の方法のために用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載のヒト化モノクローナル抗体を含むキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Aβオリゴマーへの結合特異性が顕著に高いヒト化モノクローナル抗体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】H鎖可変領域VH0のアミノ酸配列、およびVH1、VH2、VH3,VH4において配列番号7で示されるアミノ酸配列から改変されたアミノ酸残基を示している。図中第1行および第2行はH鎖可変領域のアミノ酸番号を表し、各行におけるアルファベットは改変されたアミノ酸(1文字表記)を表している。
図2】L鎖可変領域VL0のアミノ酸配列、およびVL1、VL2、VL3、VL4において配列番号8で示されるアミノ酸配列から改変されたアミノ酸残基を示している。図中第1行および第2行はL鎖可変領域のアミノ酸番号を表し、各行におけるアルファベットは改変されたアミノ酸(1文字表記)を表している。
図3】5種類の抗体(6H4, 市販6E10, VH0VL0, VH3VL4, VH4VL3)のAβオリゴマー選択的結合能を示したグラフである。縦軸は450nm波長の吸光度、横軸はインヒビター(inhibitor)として用いたAβオリゴマーあるいはAβモノマーの濃度を示している。各グラフの実線がAβオリゴマーで、破線がAβモノマーをインヒビターとして用いた抗体結合活性を示し、Prizm6.0(GraphPad社)でIC50値を求めAβオリゴマー選択的結合能を提示している。
図4】左半分はAβオリゴマーが惹起する細胞死の6H4抗体及びそのヒト化抗体による中和活性を示したグラフである。縦軸に、培地中に放出された死細胞由来のLDHの量(Triton-X添加時との%比較)を、横軸は添加抗体を示す。右半分はAβオリゴマーが惹起する細胞毒性による細胞ダメージを、Live/Dead二色蛍光アッセイで検討した結果を示す(左縦列は生細胞、中縦列は視細胞、右縦列は重ね画像)。横最上段はAβオリゴマー添加なし、横第二段はAβオリゴマー添加時、横第三段はAβオリゴマー+6H4、横第四段はAβオリゴマー+VH0VL0、横第四段はAβオリゴマー+VH4V。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1. 本発明のヒト化モノクローナル抗体
本発明のヒト化モノクローナル抗体は、アミロイドβタンパク質(Aβ)オリゴマーと結合するヒト化抗体であって、CDR1として配列番号1に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号2に記載のアミノ酸配列、及びCDR3として配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する重鎖と、CDR1として配列番号4に記載のアミノ酸配列、CDR2として配列番号5に記載のアミノ酸配列、及びCDR3として配列番号6に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖とを含むヒト化モノクローナル抗体である。
【0013】
本発明において、Aβオリゴマーとはヒト由来Aβオリゴマーを指す。
【0014】
アミロイドの主要構成成分であるAβタンパク質とは、40~42アミノ酸からなるペプチドで、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein; APP)という前駆体タンパク質から、プロテアーゼの作用によって産生されることが知られている。APPから生成されるアミロイド分子には、超遠心沈査画分に回収されるアミロイド線維とは別に、可溶性のモノマーに加えオリゴマーの非線維性重合体がある。本発明における「Aβオリゴマー」とは、非線維性重合体を指すものである。
【0015】
本発明における「Aβオリゴマー」には、例えばAβ40(Aβ1-40)オリゴマー、Aβ42(Aβ1-42)オリゴマー、またN末端に蛍光色素6-Carboxytetramethylrhodamine(6-TAMRA)標識したAβ40(Aβ1-40) Aβ40(Aβ1-40)をAβ40(Aβ1-40)もしくはAβ42(Aβ1-42)とともに重合反応させることにより、オリゴマーを多く含む標品(Aβ1-40もしくはAβ1-42オリゴマー)を調製した。電子顕微鏡で観察すると粒状から非定形分子が混在した形態が見られる。Blue Native-PAGEでは分子量13.5~720kDa(Aβ1-42オリゴマー), 分子量13.5~1,000kDaをそれぞれ示す分子であり、Native-PAGE後のイムノブロット解析では6H4は3-merと5-merを選択的に認識する。
【0016】
配列番号1~6のアミノ酸配列をそれぞれ表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
配列番号1~3は、Aβオリゴマーに対するマウスモノクローナル抗体6H4(特許第5113853号)の重鎖のCDR1~3である。また、配列番号4~6は、Aβオリゴマーに対するマウスモノクローナル抗体6H4の軽鎖のCDR1~3である。
【0019】
本発明のヒト化モノクローナル抗体は、重鎖が、配列番号7に記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。また、本発明のヒト化抗体は、重鎖が、配列番号7に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有することがより好ましい。本発明のヒト化抗体は、重鎖が、配列番号7に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有することがさらに好ましい。本発明のヒト化抗体は、重鎖が、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有することがもっとも好ましい。
【0020】
本発明のヒト化モノクローナル抗体は、軽鎖が、配列番号8に記載のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。また、本発明のヒト化抗体は、軽鎖が、配列番号8に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有することがより好ましい。発明のヒト化抗体は、軽鎖が、配列番号8に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有することがさらに好ましい。本発明のヒト化抗体は、軽鎖が、配列番号8に記載のアミノ酸配列を有することがもっとも好ましい。
【0021】
本明細書において、2つのアミノ酸配列の同一性%は、コンピュータープログラムを用いて決定する。そのようなコンピュータープログラムとしては、本発明においてはBLASTを用いる。BLASTプログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は適宜設定できる。
【0022】
あるポリペプチドと同等の活性を有するポリペプチドを調製するための、当業者によく知られた方法としては、ポリペプチドに変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法等を用いて、配列番号7及び配列番号8に記載のアミノ酸配列にそれぞれ適宜変異を導入することにより、該アミノ酸配列と同等の活性を有する重鎖及び軽鎖をそれぞれ調製することができる。
【0023】
変異が導入されるアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、並びに芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる。アミノ酸変異が、上記の同じ群に属するアミノ酸同士の置換であれば、当該部位においては変異導入前後でアミノ酸側鎖の性質が保存されることになる。
【0024】
変異が導入される好ましいアミノ酸部位は、重鎖について、配列番号7に記載のアミノ酸配列における、2、5、10~13、15、19、23、43、45、46、72、77、81、83、84、86、87、89、90及び117番目のアミノ酸部位が挙げられる。
【0025】
変異が導入される好ましいアミノ酸部位は、軽鎖について、配列番号8に記載のアミノ酸配列における、2、3、7、4、5、7、8、41、44、50、51、79、86、88、90、105、109及び111番目のアミノ酸部位が挙げられる。
【0026】
上述の修飾に加え、本発明のヒト化モノクローナル抗体は、活性を保持している限り、他の物質にさらに連結されていてもよい。他の物質としては、例えばペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマー等が挙げられる。これらの修飾は、付加的な機能を付与するか、または抗体を安定化するために実施され得る。
【0027】
2. 本発明のヒト化モノクローナル抗体を含む医薬
本発明のヒト化モノクローナル抗体は、Aβオリゴマーに特異的に結合する性質を有する。この性質を利用して、本発明のヒト化モノクローナル抗体を有効成分として含む医薬を提供できる。
【0028】
そのような医薬としては、抗認知機能障害剤、抗認知機能障害剤、老人班形成抑制剤及びAβアミロイド線維形成阻害剤等が挙げられる。
【0029】
本発明のヒト化モノクローナル抗体を医薬の有効成分として用いる場合には、当業者に公知の方法で製剤化することができる。例えば必要に応じて、水または他の任意の薬学的に許容される液体で無菌性溶液もしくは懸濁液にすることによって、非経口的に投与されうる注射可能な形態へと調製することができる。例えば、本発明のヒト化モノクローナル抗体を、許容される担体または溶媒、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと混合して、医薬としての使用に必要な一般に許容される単位用量にすることができる。「薬学的に許容される」という用語は、その物質が不活性であり、かつ薬物用の希釈剤またはビヒクルとして使用される従来物質を含むことを示す。
【0030】
生理食塩水、グルコース、およびアジュバント(D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムなど)を含む他の等張性溶液を、注射用水溶液として使用することができる。これらは、アルコール、具体的にはエタノールおよびポリアルコール(例えばプロピレングリコール及びポリエチレングリコール)、ならびに非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(商標)またはHCO-50)などの適切な可溶化剤とともに使用することができる。
【0031】
ゴマ油又はダイズ油を油性液体として用いることができ、これらと共に可溶化剤として安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを用いてもよい。緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、鎮痛薬(塩酸プロカインなど)、安定剤(ベンジルアルコール、フェノールなど)、及び抗酸化剤を製剤に用いることができる。調製した注射液は適切なアンプルに充填することができる。
【0032】
投与は好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身又は局部的に投与することができる。
【0033】
3. 本発明の試験方法
本発明の試験方法は、
本発明のヒト化モノクローナル抗体を用いて、被験者から採取された試料に含まれるAβオリゴマーを検出する工程を含み、
Aβオリゴマーの検出量を、基準値より多い場合にはアルツハイマー型認知症(AD)であり、基準値より少ない場合にはアルツハイマー型認知症(AD)ではない、という基準と比較することにより、前記被検者がADを発症しているか否かを試験する方法である。
【0034】
試料中のAβオリゴマーの測定は、本発明のヒト化モノクローナル抗体を用いて行うことができ、具体的な手法としては、例えば、化学発光を利用するサンドイッチ固相酵素免疫アッセイ(化学発光-ELISA)、免疫沈降法、イムノブロット、フローサイトメトリー、質量分析法、免疫組織化学法等の方法を用いることができる。
【0035】
本方法においては、被験者から採取した試料と、本発明のヒト化モノクローナル抗体とを接触させる。ここで「接触」とは、例えば、試験管内における被験者から採取した試料に、上記各抗体を添加することにより行われうる。この場合において、添加される抗体の形状としては、溶液又は凍結乾燥等により得られる固体等の形状が適宜使用できる。水溶液として添加される場合にあっては本発明のヒト化モノクローナル抗体のみを含有する水溶液であってもよいし、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤及び矯味剤からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤をさらに含む溶液であってもよい。抗体の添加する濃度は特に限定されない。例えば、ヒト免疫グロブリン製剤と同様に凍結乾燥状態で、500mg、1000mg、2500mg製剤などが好適に使用されうる。
【0036】
本発明の試験方法において用いる「基準値」は、ADを発症しているヒト個体と、ADを発症していないヒト個体とからそれぞれ十分量ずつの試料を用意し、これらの試料それぞれに含まれるAβオリゴマー量を検出することにより設定することができる。この際、Aβオリゴマー量は、本発明のヒト化モノクローナル抗体を用いて検出することができる。
【0037】
本発明の試験方法はin vitro又はin vivoのどちらでも行なうことが可能であるが、患者の負担がより軽減できるという点で、in vitroで行なわれることが好ましい。
【0038】
本発明の試験方法における「試料」とは、被験者由来の組織であれば特に制限されない。例えば被験者の脳(脳実質等)、臓器、体液(血液、脳脊髄液等)を挙げることができる。本発明において好ましくは血液(より好ましくは血漿)または脳脊髄液である。
【0039】
4. 本発明のキット
本発明のキットは、本発明の試験方法のために用いられる、本発明のヒト化モノクローナル抗体を含むキットである。
【0040】
本発明のキットは、本発明のヒト化モノクローナル抗体の他、本発明の試験についての手順書を含み、さらに、本発明の試験に必要な試薬及び/又は器具を含んでいてもよい。
【0041】
上記手順書には、本発明の試験方法において必要な「基準値」についての記述が含まれていてもよい。そのような記述は、「基準値」を直接的に記載したものであってもよいし、「基準値」の設定方法についての説明であってもよい。
【0042】
上記に加え、本発明のキットは、任意で、さらに本発明の試験方法に必要な試薬を含んでいてもよい。そのような試薬としては、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定化剤、保存剤、ブロッキング溶液、反応溶液及び反応停止液等が挙げられる。本発明のキットは、これらの試薬を単独で含んでいてもよいし、複数種を含んでいてもよい。
【実施例
【0043】
<実施例1>
抗Aβオリゴマー抗体ヒト化抗体の作製
(1)抗Aβオリゴマー6H4ヒト化抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列の設計
始めに、IMGTとKabat [Sequences of Proteins of Immunological Internet, US Dept. Health and Human Services (1991)]の報告に基づいて、以前に作製した抗Aβオリゴマーマウスモノクローナル抗体6H4のVHのアミノ酸配列(配列番号7)のCDR配列を決定した。その結果、VHのCDR1~3を配列番号1~3とした。
【0044】
まず、抗Aβオリゴマー6H4マウス抗体のVHのアミノ酸配列6H4HV0およびこれと最も相同性の高いhuman germline gene(IGVH2-5)を参考に、抗Aβオリゴマー6H4ヒト化抗体のVHのアミノ酸配列を以下のようにして設計した。 6H4VHのCDR1~3のアミノ酸配列(配列番号1~3)を移植するためのヒト抗体のVHのフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列をBLAST search algorithmsで得たTop 200候補から、key FRアミノ酸配列と正準ループ構造を維持できる相同性の組み合わせを考慮することで、4 acceptor frameworksを選択した。軽鎖に見合うcharge pairsへと可変領域のC末端配列に修復もしくは除去操作を加え、ヒト抗体のVHの共通配列のFRのアミノ酸配列の適切な位置に、murine 6H4 VHのCDRのアミノ酸配列(配列番号1~3)を移植し、抗Aβオリゴマー6H4ヒト化抗体のVHのアミノ酸配列6H4VH1~VH4(配列番号9~12)を設計した。
【0045】
その結果、VH0VL0のFRのアミノ酸残基の中で抗原結合部位の三次元構造を変化させ、抗体の結合活性に影響を与えると考えられるアミノ酸残基として、6H4VH0では配列番号7で示されるアミノ酸配列の2番目のVal、5番目のLys、10番目のGly、11番目のIle、12番目のLeu、13番目のGln、15番目のSer、19番目のSer、23番目のSer、43番目のSer、45番目のGlu、46番目のGly、72番目のSer、77番目のArg、81番目のPhe、83番目のLys、84番目のIle、86番目のSer、87番目のVal、89番目のThr、90番目のAla、117番目のAlaをそれぞれ選択した。
【0046】
これらの選択したアミノ酸残基のうち、少なくとも1つ以上のアミノ酸配列を6H4の同じ部位に存在するアミノ酸残基へ改変し、様々な改変を有するアミノ酸配列を含むヒト化抗体のVHを設計した。
【0047】
具体的には、VHについては、配列番号7で示されるアミノ酸配列の2番目のValをIleに、5番目のLysをArgに、10番目のGlyをThrもしくはAlaに、11番目のIleをLeuに、12番目のLeuをValに、13番目のGlnをLysに、15番目のSerをThrに、19番目のSerをThrに、23番目のSerをThrに、43番目のSerをProに、45番目のGluをGlnに、46番目のGlyをAlaに、および72番目のSerをThrに、77番目のArgをLysに、81番目のPheをValに、83番目のLysをThrに、84番目のIleをMetもしくはLeuに、86番目のSer->Asn, Asp、87番目のVal->Pro、89番目のThrをProに、90番目のAla->Val、117番目のAlaをSerに置換するアミノ酸改変の少なくとも1つの改変を導入した。
【0048】
次に、H鎖と同様にして、VLのアミノ酸配列(配列番号8)のCDR1~3の配列を配列番号4~6と決定し、抗Aβオリゴマー6H4ヒト化抗体のVLのアミノ酸配列を以下のようにして設計した。
【0049】
抗Aβオリゴマー6H4マウス抗体のVLのアミノ酸配列6H4HL0およびこれと最も相同性の高いhuman germline gene(IGKV2-29)を参考に、6H4 VLのCDR1~3のアミノ酸配列(配列番号4~6)を移植するためのヒト抗体のVLのFRのアミノ酸配列をBLAST search algorithmsで得たTop 200候補から、key FRアミノ酸配列と正準ループ構造を維持できる相同性の組み合わせを考慮することで、4 acceptor frameworksを選択した。ヒト抗体のVLの共通配列のFRのアミノ酸配列の適切な位置に、murine 6H4 VLのCDRのアミノ酸配列(配列番号4~6)を移植し、配列番号Xで表される抗Aβオリゴマー6H4ヒト化抗体のVLのアミノ酸配列6H4VL1~VL4(配列番号13~16)を設計した。
【0050】
その結果、VH0VL0のFRのアミノ酸残基の中で抗原結合部位の三次元構造を変化させ、抗体の結合活性に影響を与えると考えられるアミノ酸残基として、6H4VL0では2番目のVal、3番目のLeu、7番目のThr、14番目のSer、15番目のLeu、17番目のAsp、18番目のGlu、41番目のThr、44番目のLys、50番目のLys、51番目のLeu、79番目のLys、86番目のGlu、88番目のLeu、90番目のVal、105番目のAla、109番目のLeu、111番目のLeuをそれぞれ選択した。
【0051】
これらの選択したアミノ酸残基のうち、少なくとも1つ以上のアミノ酸配列を6H4の同じ部位に存在するアミノ酸残基へ改変し、様々な改変を有するアミノ酸配列を含むヒト化抗体のVLを設計した。
【0052】
具体的には、6H4VL0では2番目のValをIleに、3番目のLeuをValに、7番目のThrをSerに、14番目のSerをThrに、15番目のLeuをProに、17番目のAspをGlnもしくはGluもしくはAlaに、18番目のGluをProに、41番目のThrをPheに、44番目のLysをArgに、50番目のLysをArgもしくはGlnもしくはLysに、51番目のLeuをArgに、79番目のLysをArgに、86番目のGluをAspに、88番目のLeuをValに、90番目のValをIleに、105番目のAlaをGlnもしくはProに、109番目のLeuをValに、111番目のLeuをIleに置換するアミノ酸改変の少なくとも1つの改変を導入した。
【0053】
HV0LV0のFRに存在する、少なくとも1つのアミノ酸残基を改変した抗Aβオリゴマー6H4ヒト化抗体の抗体V領域として、VH0VL0、VH1VL1、VH1VL2、VH1VL3,VH1VL4、VH2VL1,VH2VL2,VH2VL3,VH2VL4, VH3VL1,VH3VL2,]VH3VL3,VH3VL4, VH4VL1,VH4VL2、VH4VL3,VH4VL4をそれぞれ設計した。
【0054】
H鎖可変領域VH0、VH1、VH2、VH3、VH4およびL鎖可変領域VL0、VL1、VL2、VL3、VL4のアミノ酸配列をそれぞれ図1および図2に示した。
【0055】
(2)抗Aβオリゴマーヒト化抗体の作製
抗Aβオリゴマーヒト化抗体の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAは、6H4VHおよび6H4VLのアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号17、18)で用いられているコドンを利用し、アミノ酸改変を行う場合は、哺乳動物細胞において高頻度で使用されるコドンを用いて、作製した。
【0056】
抗Aβオリゴマー6H4ヒト化抗体の6H4VH0および6H4VL0のアミノ酸配列をコードするDNA配列を配列番号17、18にそれぞれ示す。また、アミノ酸改変を行った可変領域の作製には、6H4VHおよび6H4VLのアミノ酸配列をコードするDNAで用いられているコドンを利用し、作製した。
【0057】
これらDNA配列を用いて、ヒト化抗体の発現ベクターの構築およびヒト化抗体の発現をそれぞれ行った。
【0058】
(3)抗Aβオリゴマーヒト化抗体のVHをコードするcDNAの構築
上記(1)で設計した配列番号7に表される抗Aβオリゴマーヒト化抗体のVHのアミノ酸配列6H4VH0、および上記(2)の方法により設計した図1に示されるVH1、VH2、VH3、VH4をコードするcDNAを全合成にて作成した。
【0059】
(4)抗Aβオリゴマーヒト化抗体のVLをコードするcDNAの構築
上記(1)で設計した配列番号8に表される抗Aβオリゴマーヒト化抗体のVLのアミノ酸配列6H4VL0、および上記(2)の方法により設計した図2に示されるVL1、VL2、VL3、VL4をコードするcDNAを全合成にて作成した。
【0060】
(5)抗Aβオリゴマーヒト化抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗体発現用ベクターpVITRO-DHFR3の適当な位置に上記(3)および(4)で得られた6H4VH0またはVH1、VH2、VH3、VH4をコードするcDNA、並びに6H4VL0、VL1、VL2、VL3、VL4のいずれか1つをコードするcDNAを挿入し、各種抗Aβオリゴマーヒト化抗体発現ベクターを構築した。
【0061】
(6)動物細胞を用いた抗Aβオリゴマーヒト化抗体の発現
上記(5)で得られた抗Aβオリゴマーヒト化抗体発現ベクターを用いて抗Aβオリゴマーヒト化抗体の動物細胞での発現を、常法[Antibody Engineering, A Practical Guide, W.H. Freeman and Company(1992)]により行い、抗Aβオリゴマーキメラ抗体(VH0VL0)と抗Aβオリゴマーヒト化抗体(VH1VL1、VH1VL2、VH1VL3,VH1VL4、VH2VL1,VH2VL2,VH2VL3,VH2VL4, VH3VL1,VH3VL2,]VH3VL3,VH3VL4, VH4VL1,VH4VL2、VH4VL3,VH4VL4)を産生する形質転換株を取得した。
【0062】
(7)精製抗Aβオリゴマーヒト化抗体取得
本実施例(6)で得られた形質転換株を、CHO-S細胞を用いて通常の培養法で培養した後、培養上清を回収し、Protein A精製でIgG1抗Aβオリゴマーヒト化抗体画分を取得し、透析後蛋白濃度を測定した。
【0063】
その結果、抗体のVHが6H4VH0、VLが6H4VL0からなる抗Aβオリゴマーヒト化抗体HV0LV0、抗体のVHが6H4HV0、VLがLV2aからなるHV0LV2a、抗体のVHが6H4VH0、VLがVL4からなるVH0VL4、および抗体のVHがVH12、VLがVL4からなるVH12VL4の17種類を作製した。
【0064】
<実施例2> Inhibition ELISA
このアッセイ法に用いたAβオリゴマーは合成Aβ1-40(HCl form)をPBSにより0.1mg/mlの濃度に希釈し37℃で1時間保温することで調整した。Aβモノマーは合成Aβ1-40(TFA form)をPBSにより0.1mg/mlの濃度に希釈し37℃で1時間保温することで調整した。まず、96well-immunoplateにAβオリゴマー400ng/wellを固相化し、続いてBSAを用いてブロッキングを行った。ヒト化抗体及び6H4抗体及びコントロールとして抗Aβ抗体(6E10)を100pg/ml~100μg/mlの範囲で段階希釈したAβモノマーあるいはAβオリゴマーをそれぞれ混合し2時間保温後、上記96well-immunoplateにそれぞれ添加し室温にて10分間保温した。固相化Aβオリゴマーと各抗体の結合力は、HRP標識抗マウスもしくは抗ヒトIgG抗体とTMB溶液を用いた発色反応を450nmの吸光度を測定することで検出した。
【0065】
この方法を用いて、6H4抗体と17種類の抗Aβオリゴマーヒト化抗体(VH0VL0、VH1VL1、VH1VL2、VH1VL3,VH1VL4、VH2VL1、VH2VL2、VH2VL3、VH2VL4、VH3VL1、VH3VL2、VH3VL3、VH3VL4、VH4VL1、VH4VL2、VH4VL3、VH4VL4)のAβオリゴマー選択的結合能を調べるために、各抗体と段階希釈したAβオリゴマーあるいはAβモノマー(inhibitor)を事前に混合した溶液をAβオリゴマー固相済み96-well-immunoplateに加えて反応させた。またAβオリゴマー及びAβモノマーと区別なく結合するコントロール抗体として市販の6E10抗体を用いた。抗体がAβオリゴマーと選択的に結合する場合、Aβモノマーと事前に混合した抗体は溶液中のAβモノマーには吸収されないため固相化Aβオリゴマーと結合できる。逆にAβオリゴマーと事前に混合した抗体は溶液中のAβオリゴマーに吸収されるため濃度が高くなるにしたがって固相化Aβオリゴマーへの結合力が低下する。結果、すべてのヒト化抗体においてAβオリゴマーで濃度依存的な抗体結合力の低下が検出されたのに対し、AβモノマーではAβオリゴマーほどの大きな結合力の低下は検出されなかった(図3左グラフ参照)。一方で一般に、ヒト化抗体を作製する場合には、単なるヒト抗体のFRへのマウス抗体のCDRのアミノ酸配列の移植のみでは結合活性が低下してしまうことが多いが本ケースも同様でVHOLVOのIC50は6H4に比し低下が認められた。VH3VL4とVH4VL3では結合活性が著明に改善できていた(図3右表参照)。これらの結果は、VH0VL同様に、2種類の抗体(VH3VL4, VH4VL3) はAβオリゴマーに選択的に結合する抗体であることを示唆しており、市販コントロール6E10とは異なり、抗Aβオリゴマーマウス抗体6H4と同様にAβオリゴマーへの特異的選択的結合能を示すことが明らかとなった (図3参照) 。
【0066】
<実施例3> Aβオリゴマー誘発性神経毒性中和活性
また、6H4抗体及びそのヒト化抗体(VH0VL0と、そのキメラ抗体に劣るKd値の一つであるヒト化抗体VH1VL4、ほぼ同等のKd値である5種類のVH2VL3、VH2VL4、VH3VL1、VH3VL2とVH4VL1、一方で勝るKd値である2種類のVH3VL4とVH4VL3のAβオリゴマー誘発性神経毒性中和活性は以下の方法を用いて評価した。まず、ヒト神経芽種細胞(SH-SY5Y) を24well plateに15,000個/wellの密度で10%FBSを含むDMEM中で24時間培養した。次に、培地を抗体添加または無添加のAβ1-42(37.5μg 12.5μM)+Tamura標識Aβ1-40(12.5μg 12.5μM) を含む血清不含培地に置き換えてさらに24時間培養した。Aβオリゴマーが惹起する細胞死は、培地中に放出された死細胞由来のLDHの量をCytoTox96キット(Promega社製) により測定した(図4左半参照)。Aβオリゴマーが惹起する細胞毒性は、Live/Dead二色蛍光アッセイを製造元の指示(Molecular Probes, Eugene, Oregon) に従って評価した(図4右半参照:代表例として6H4, VH0VL, VH4VL3を提示)。
【0067】
配列番号1;HCDR1のアミノ酸配列
配列番号2;HCDR2のアミノ酸配列
配列番号3;HCDR3のアミノ酸配列
配列番号4;LCDR1のアミノ酸配列
配列番号5;LCDR2のアミノ酸配列
配列番号6;LCDR3のアミノ酸配列
配列番号7;6H4VH0のアミノ酸配列
配列番号8;6H4VL0のアミノ酸配列
配列番号9;6H4VH1のアミノ酸配列
配列番号10;6H4VH2のアミノ酸配列
配列番号11;6H4VH3のアミノ酸配列
配列番号12;6H4VH4のアミノ酸配列
配列番号13;6H4VL1のアミノ酸配列
配列番号14;6H4VL2のアミノ酸配列
配列番号15;6H4VL3のアミノ酸配列
配列番号16;6H4VL4のアミノ酸配列
配列番号17;6H4VH0をコードするDNA配列
配列番号18;6H4VL0をコードするDNA配列
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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