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特許7370577鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具及び補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具及び補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/06 20060101AFI20231023BHJP
   E04C 3/20 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
E04C5/06
E04C3/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019203029
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021075893
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】596117821
【氏名又は名称】コーリョー建販株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100118692
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 菜穂恵
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大田 真司
(72)【発明者】
【氏名】丸田 誠
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特公平08-003236(JP,B2)
【文献】特開2015-190103(JP,A)
【文献】特開平01-178646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00 - 5/20
E04C 3/20
E04B 1/16
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状の外側補強筋と、前記外側補強筋の内側に前記外側補強筋と一体的に設けられた枠状の内側補強筋と、前記外側補強筋の上部に溶接により接合された第1定着筋と、前記外側補強筋の下部に溶接により接合された第2定着筋と、を含み、
前記外側補強筋は、上下方向に延びると共に左右方向に間隔をあけて設けられた第1縦筋部及び第2縦筋部と、前記第1縦筋部の上端から前記第2縦筋部側に傾斜して斜め上方に延びる第1斜め筋部と、前記第1縦筋部の下端から前記第2縦筋部側に傾斜して斜め下方に延びる第2斜め筋部と、前記第2縦筋部の上端から前記第1縦筋部側に傾斜して斜め上方に延びる第3斜め筋部と、前記第2縦筋部の下端から前記第1縦筋部側に傾斜して斜め下方に延びる第4斜め筋部と、を有すると共に、前記第1縦筋部と前記第1斜め筋部がなす角度、前記第1縦筋部と前記第2斜め筋部がなす角度、前記第2縦筋部と前記第3斜め筋部がなす角度及び前記第2縦筋部と前記第4斜め筋部がなす角度のそれぞれが略135度であり、
前記内側補強筋は、それぞれが前記外側補強筋の第1~第4斜め筋部のいずれかに略平行な四つの内側斜め筋部を有し、
前記第1定着筋は、左右方向に棒状に延びると共に両端に180度フックを有し、中間部が溶接により前記外側補強筋の上部に接合され、
前記第2定着筋は、左右方向に棒状に延びると共に両端に180度フックを有し、中間部が溶接により前記外側補強筋の下部に接合されている、
鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具。
【請求項2】
前記第1定着筋の左右方向の寸法及び前記第2定着筋の左右方向の寸法が前記外側補強筋の左右方向の寸法より大きい、請求項1に記載の鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具。
【請求項3】
前記外側補強筋は、八角形状に形成されて、前記第1斜め筋部と前記第3斜め筋部との間に位置すると共に左右方向に延びる第1横筋部と、前記第2斜め筋部と前記第4斜め筋部との間に位置すると共に左右方向に延びる第2横筋部と、をさらに有し、
前記内側補強筋は、四角形状に形成されている、
請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具。
【請求項4】
前記第1定着筋は、前記外側補強筋の前記第1横筋部の上側に配置されて前記第1横筋部に溶接されており、
前記第2定着筋は、前記外側補強筋の前記第2横筋部の下側に配置されて前記第2横筋部に溶接されている、
請求項3に記載の鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具。
【請求項5】
記第1定着筋の180度フックの先端が前記外側補強筋の前記第1横筋部よりも下側に位置しており、前記第2定着筋の180度フックの先端が前記外側補強筋の前記第2横筋部よりも上側に位置している、請求項4に記載の鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具。
【請求項6】
前記内側補強筋は、前記外側補強筋に略内接するように設けられ、四つの角部のうちの少なくとも対向する二つの角部が前記外側補強筋に溶接されることによって前記外側補強筋と一体化されている、請求項3~5のいずれか一つに記載の鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具。
【請求項7】
前記内側補強筋の内側に配置されるスリーブを支持するためのスリーブ支持筋をさらに含む、請求項1~6のいずれか一つの記載の鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具。
【請求項8】
前記内側補強筋の内側に配置されるスリーブを支持するためのスリーブ支持筋をさらに含み、前記スリーブ支持筋が前記外側補強筋及び前記内側補強筋に溶接されることによって前記外側補強筋と前記内側補強筋とが一体化されている、請求項1~5のいずれか一つに記載の鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一つに記載の鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具を含み、
前記補強金具は、前記外側補強筋及び前記内側補強筋が鉄筋コンクリート有孔梁の貫通孔を囲繞すると共に前記外側補強筋の前記第1縦筋部及び前記第2縦筋部が前記鉄筋コンクリート有孔梁の長さ方向に直交するように配置されている、
鉄筋コンクリート有孔梁の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具及び補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート有孔梁、すなわち、管材などを挿通可能な貫通孔を有する鉄筋コンクリート造の梁においては、強度上の問題から前記貫通孔の周囲を補強する必要がある。このような補強に用いられる補強金具の一例として、特許文献1に記載された補強金具が知られている。特許文献1に記載された補強金具は、交互に配されてそれぞれ略135度の内角を形成する長辺と短辺とを四つずつ有した八角形の主補強筋と、四辺が前記主補強筋の長辺に対して平行となる状態で前記主補強筋に内接し且つ少なくとも向かい合う一対の頂点が前記主補強筋の短辺に溶接された四角形の補助補強筋と、で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平8-3236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄筋コンクリート有孔梁に大きなせん断力が作用すると、図8に示されるように、まず前記貫通孔の中心から斜め45度の方向にせん断ひび割れ(以下「45度ひび割れ」という)が発生し、その後に前記貫通孔の縁から接線方向にせん断ひび割れ(以下「接線ひび割れ」という)が発生する。そして、「接線ひび割れ」が大きくなって鉄筋コンクリート有孔梁が最終破壊に至ることが知られている。
【0005】
特許文献1に記載された補強金具は、前記貫通孔の周囲において、前記主補強筋の各長辺と前記補助補強筋の各辺とが梁の長さ方向に対して略45度傾斜して配置され得る。このため、特許文献1に記載された補強金具は、前記貫通孔の周囲において高いせん断補強効果を発揮し得るものではあるが、近年の鉄筋コンクリート構造による高層建築物の増加などに伴い、より高いせん断補強効果を発揮できる補強金具が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、貫通孔の周囲においてより高いせん断補強効果を発揮することのできる鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具が提供される。この補強金具は、枠状の外側補強筋と、前記外側補強筋の内側に前記外側補強筋と一体的に設けられた枠状の内側補強筋と、前記外側補強筋の上部に溶接により接合された第1定着筋と、前記外側補強筋の下部に溶接により接合された第2定着筋と、を含む。前記外側補強筋は、上下方向に延びると共に左右方向に間隔をあけて設けられた第1縦筋部及び第2縦筋部と、前記第1縦筋部の上端から前記第2縦筋部側に傾斜して斜め上方に延びる第1斜め筋部と、前記第1縦筋部の下端から前記第2縦筋部側に傾斜して斜め下方に延びる第2斜め筋部と、前記第2縦筋部の上端から前記第1縦筋部側に傾斜して斜め上方に延びる第3斜め筋部と、前記第2縦筋部の下端から前記第1縦筋部側に傾斜して斜め下方に延びる第4斜め筋部と、を有すると共に、前記第1縦筋部と前記第1斜め筋部がなす角度、前記第1縦筋部と前記第2斜め筋部がなす角度、前記第2縦筋部と前記第3斜め筋部がなす角度及び前記第2縦筋部と前記第4斜め筋部がなす角度のそれぞれが略135度である。前記内側補強筋は、それぞれが前記外側補強筋の第1~第4斜め筋部のいずれかに平行な四つの内側斜め筋部を有している。前記第1定着筋は、左右方向に棒状に延びると共に両端に180度フックを有し、中間部が前記外側補強筋の上部に接合されている。前記第2定着筋は、左右方向に棒状に延びると共に両端に180度フックを有し、中間部が前記外側補強筋の下部に接合されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来に比べて、鉄筋コンクリート有孔梁の貫通孔の周囲においてより高いせん断補強効果を発揮することのできる鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る補強金具の正面図である。
図2】前記補強金具の右側面図である。
図3】前記補強金具の平面図である。
図4】前記補強金具の背面図である。
図5】前記補強金具が用いられた鉄筋コンクリート有孔梁の補強構造の一例を示す概略正面図である。
図6】他の実施形態に係る補強金具の正面図である。
図7】さらに他の実施形態に係る補強金具を示す図であり、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は平面図である。
図8】鉄筋コンクリート有孔梁に発生するせん断ひび割れ(「45度ひび割れ」及び「接線ひび割れ」)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による鉄筋コンクリート有孔梁の補強金具の実施形態について図面を参照して説明する。なお、既述のように、「鉄筋コンクリート有孔梁」とは、管材などを挿通可能な貫通孔を有する鉄筋コンクリート構造の梁をいう。また、「鉄筋コンクリート」には、鉄筋鉄骨コンクリートが含まれるものとする。
【0011】
図1図4は実施形態に係る補強金具10を示している。図1は補強金具10の正面図であり、図2は補強金具10の右側面図であり、図3は補強金具10の平面図であり、図4は補強金具10の背面図である。
【0012】
図1図4に示されるように、実施形態に係る補強金具10は、枠状の外側補強筋11と、外側補強筋11の内側に配置された枠状の内側補強筋12と、第1定着筋13と、第2定着筋14と、を含む。内側補強筋12は外側補強筋11と一体的に設けられており、第1定着筋13は外側補強筋11の上部に接合されており、第2定着筋14は外側補強筋11の下部に接合されている。また、補強金具10は、後述するスリーブSを支持するスリーブ支持部15をさらに含む。
【0013】
外側補強筋11は、短辺部と長辺部とが交互に配置された八角形状に形成されている。すなわち、外側補強筋11は、四つの短辺部(左短辺部111a、上短辺部111b、右短辺部111c及び下短辺部111d)と、四つの長辺部(左上長辺部112a、右上長辺部112b、右下長辺部112c及び左下長辺部112d)と、を有する。また、外側補強筋11の内角の大きさ、すなわち、隣り合う短辺部と長辺部とがなす角度は、全て略135度である。例えば、左短辺部111aと左上長辺部112aとがなす角度、上短辺部111bと右上長辺部112bとがなす角度、右短辺部111cと右下長辺部112cとがなす角度、及び、下短辺部111dと左下長辺部112dとがなす角度は、それぞれ略135度である。
【0014】
外側補強筋11は、例えば、所定の長さに切断された鋼棒(異形鋼棒を含む。以下同じ)を八角形状に折り曲げ、その後、前記鋼棒の両端部を突き合わせ溶接などによって接合することによって形成され得る。なお、図中のW1は溶接部を示している。
【0015】
ここで、「略135度」とは、ほぼ135度であることをいい、135度に対して少しの誤差が許容されることを意味する。特に制限されないが、「略135度」は、例えば130度~140度(135±5度)、好ましくは132度~138度(135±3度)、さらに好ましくは134度~136度(135±1度)であり得る。
【0016】
外側補強筋11において、左短辺部111a及び右短辺部111cは、上下方向(すなわち、縦方向)に延びると共に、互いに左右方向(すなわち、横方向)に間隔をあけて設けられている。左上長辺部112aは、左短辺部111aの上端から右短辺部111c側に傾斜して斜め上方に延びており、左下長辺部112dは、左短辺部111aの下端から右短辺部111c側に傾斜して斜め下方に延びている。右上長辺部112bは、右短辺部111cの上端から左短辺部111a側に傾斜して斜め上方に延びており、右下長辺部112cは、右短辺部111cの下端から左短辺部111a側に傾斜して斜め下方に延びている。そして、上述のように、隣り合う短辺部と長辺部とがなす角度は、全て略135度である。
【0017】
したがって、本実施形態においては、左短辺部111a、右短辺部111c、左上長辺部112a、左下長辺部112d、右上長辺部112b及び右下長辺部112cが、それぞれ本発明の「第1縦筋部」、「第2縦筋部」、「第1斜め筋部」、「第2斜め筋部」、「第3斜め筋部」及び「第4斜め筋部」に相当する。
【0018】
また、上短辺部111bは、左上長辺部112aと右上長辺部112bとの間に位置すると共に左右方向に延びており、下短辺部111dは、左下長辺部112dと右下長辺部112cとの間に位置すると共に左右方向に延びている。したがって、本実施形態においては、上短辺部111bが本発明の「第1横筋部」に相当し、下短辺部111dが本発明の「第2横筋部」に相当する。
【0019】
内側補強筋12は、四角形状に形成されており、四つの辺部(第1辺部121a、第2辺部121b、第3辺部121c及び第4辺部121d)を有する。また、内側補強筋12の内角の大きさ、すなわち、隣り合う二つの辺部がなす角度は、全て略90度である。
【0020】
外側補強筋11と同様、内側補強筋12は、例えば、所定の長さに切断された鋼棒を四角形状に折り曲げ、その後、前記鋼棒の両端部を突き合わせ溶接などによって接合することによって形成され得る。なお、図中のW2は溶接部を示している。
【0021】
そして、内側補強筋12は、外側補強筋11の内側に配置されると共に溶接によって外側補強筋11と一体化されている。具体的には、内側補強筋12は、外側補強筋11の四つの短辺部111a~111dに略内接するように設けられ、四つの角部(第1角部122a、第2角部122b、第3角部122c及び第4角部122d)のうちの少なくとも対向する二つの角部が、外側補強筋11の四つの短辺部のうちの対向する二つの短辺部にフレア溶接などによって接合されている。ここでは、上下方向に対向する第2角部122bと第4角部122dとがそれぞれ外側補強筋11の上短辺部111bと下短辺部111dとに接合されている。但し、これに限られるものではない。左右方向に対向する第1角部122aと第3角部122cとが外側補強筋11の左短辺部111aと右短辺部111cとに接合されてもよいし、第1角部122a、第2角部122b、第3角部122c及び第4角部122dが、それぞれ外側補強筋11の左短辺部111a、上短辺部111b、右短辺部111c及び下短辺部111dに接合されてもよい。
【0022】
上記のように内側補強筋12が外側補強筋11に溶接されて外側補強筋11と一体化されることにより、内側補強筋12の第1辺部121a、第2辺部121b、第3辺部121c及び第4辺部121dは、それぞれ外側補強筋11の左上長辺部112a、右上長辺部112b、右下長辺部112c及び左下長辺部112dに略平行になる。したがって、本実施形態においては、第1~第4辺部121a~121dが本発明の「四つの内側斜め筋部」に相当する。
【0023】
ここで、「略90度」とは、ほぼ90度であることをいい、90度に対して少しの誤差が許容されることを意味する。特に制限されないが、「略90度」は、90±5度、好ましくは90±3度、さらに好ましくは90±1度であり得る。また、「略内接する」とは、ほぼ内接することをいい、ここでは、内側補強筋12の角部が対応する外側補強筋11の短辺部に接する場合はもちろん、内側補強筋12の角部が対応する外側補強筋11の短辺部に対して少しの隙間を有して近接する場合も「略内接する」に含まれる。さらに、「略平行」とは、ほぼ平行であるこことをいい、平行又は平行に近い状態を意味する。
【0024】
第1定着筋13は、左右方向に棒状に延びると共に両端にフック部Hを有している。また、第1定着筋13の横方向の寸法Lbは、外側補強筋11の左右方向の寸法(左短辺部111aと右短辺部111cの外側寸法)Laよりも大きい(図4参照)。第1定着筋13は、所定の長さに切断された直線状の鋼棒の両端に曲げ加工を施すことによって形成され得る。
【0025】
第1定着筋13は、両端のフック部Hの先端Haが下側となるように外側補強筋11の上短辺部111bの上側(外側)に配置され、その中間部が外側補強筋11の上短辺部111bにフレア溶接などによって接合されている。つまり、補強金具10において、第1定着筋13は、外側補強筋11の上短辺部111bに平行に延びており、第1定着筋13の両端のフック部Hの先端Haは、外側補強筋11の上短辺部111bよりも下側に位置している。
【0026】
第2定着筋14は、第1定着筋13と同様の形状を有している。すなわち、第2定着筋14は、左右方向に棒状に延びると共に両端にフック部Hを有している。第2定着筋14は、両端のフック部Hの先端Haが上側となるように外側補強筋11の下短辺部111dの下側(外側)に配置され、その中間部が外側補強筋11の下短辺部111dにフレア溶接などによって接合されている。つまり、補強金具10において、第2定着筋14は、外側補強筋11の下短辺部111dに平行に延びており、第2定着筋14の両端のフック部Hの先端Haは、外側補強筋11の下短辺部111dよりも上側に位置している。
【0027】
ここで、本実施形態においては、外側補強筋11の径、内側補強筋12の径、第1定着筋13の径及び第2定着筋14の径が等しくなっている。すなわち、外側補強筋11、内側補強筋12、第1定着筋13及び第2定着筋14は、同径の鋼棒から形成されている。しかし、これに限られるものではない。例えば、第1定着筋13の径及び第2定着筋14の径が、外側補強筋11の径及び内側補強筋12の径よりも大きくてもよい。あるいは、第1定着筋13の径及び第2定着筋14の径が、外側補強筋11の径及び内側補強筋12の径よりも小さくてもよい。また、本実施形態においては、第1定着筋13のフック部H及び第2定着筋14のフック部Hが「180度フック」として形成されている。しかし、これに限られるものではない。第1定着筋13のフック部H及び第2定着筋14のフック部Hが「135度フック」や「90度フック」として形成されてもよい。
【0028】
スリーブ支持部15は、左右方向に間隔をあけて設けられた一対のスリーブ支持筋151,151で構成されている。一対のスリーブ支持筋151,151は、所定の長さに切断された鋼棒からなり、内側補強筋12の内側に配置されるスリーブS(図中、二点鎖線で示す)を下側から支持可能なように、外側補強筋11及び内側補強筋12にフレア溶接などによって接合されている。具体的には、一対のスリーブ支持筋151,151は、補強金具10の中心又はその近傍に向かって互いに近づくようにそれぞれ斜めに配置され、一方のスリーブ支持筋151は外側補強筋11の左下長辺部112d及び内側補強筋12の第4辺部121dに接合されており、他方のスリーブ支持筋151は外側補強筋11の右下長辺部112c及び内側補強筋12の第3辺部121cに接合されている。また、一対のスリーブ支持筋151,151の内側補強筋12の内側に位置する端部には、それぞれ合成樹脂製のキャップ152が装着されており、スリーブ支持部15は、一対のスリーブ支持筋151,151がキャップ152を介してスリーブSを支持するように構成されている。
【0029】
図5は、補強金具10が用いられた鉄筋コンクリート有孔梁の補強構造の一例を示す概略正面図であり、コンクリート打設前の状態を示している。
【0030】
図5に示されるように、補強金具10は、外側補強筋11の上短辺部111b及び下短辺部111dが主筋1に平行となり且つ外側補強筋11の左短辺部111a及び右短辺部111cがあばら筋3に平行となるように、あばら筋3の内側(図5における紙面奥側)に配置される。そして、補強金具10は、主にあばら筋3に複数箇所で結束されて固定される。したがって、外側補強筋11の左上長辺部112a、右上長辺部112b、右下長辺部112c及び左下長辺部112d、並びに、内側補強筋12の第1辺部121a、第2辺部121b、第3辺部121c及び第4辺部121dは、主筋1及びあばら筋3に対して略45度傾斜するようになる。
【0031】
なお、図5には、梁の正面側の補強金具10のみが示されているが、梁の背面側にも同様にして補強金具10が配置される。また、必要に応じて、梁の正面側の補強金具10と梁の背面側の補強金具10との間に追加の補強金具10が配置され得る。
【0032】
そして、スリーブSが各補強金具10のスリーブ支持部15にセットされ、その後にコンクリートが打設される。ここで、セットされたスリーブSは、各補強金具10のスリーブ支持部15によって、すなわち、キャップ152を介して一対のスリーブ支持筋151,151によって下側から支持されていると共に図示省略のスリーブ固定金具によって上側から押さえられており、これによって、コンクリート打設時のスリーブSの浮き上がりや位置ずれが防止される。なお、前記スリーブ固定金具は、例えば、外側補強筋11の左上長辺部112a及び右上長辺部112b、又は、内側補強筋12の第1辺部121a及び第2辺部121bに結束されて固定され得る。また、スリーブSは、コンクリート打設後に取り外されるタイプのものでもよいし、取り外されずに残されるタイプのものであってもよい。スリーブSが取り外されるタイプの場合にはスリーブSによって形成された貫通孔に管材などが挿通され、スリーブSが残されるタイプの場合にはスリーブSがそのまま貫通孔に挿通された管材となる。
【0033】
その結果、鉄筋コンクリート有孔梁において、補強金具10は、外側補強筋11及び内側補強筋12が当該鉄筋コンクリート有孔梁の貫通孔(スリーブS)を囲繞し、外側補強筋11の左短辺部111a及び右短辺部111cが当該鉄筋コンクリート有孔梁の長さ方向に直交する方向(梁せい方向)に平行となり、且つ、外側補強筋11の上短辺部111b及び下短辺部111dが当該鉄筋コンクリート有孔梁の長さ方向に平行となるように、配置される。また、外側補強筋11の各長辺部(左上長辺部112a、右上長辺部112b、右下長辺部112c及び左下長辺部112d)と、内側補強筋12の各辺部(第1辺部121a、第2辺部121b、第3辺部121c及び第4辺部121d)とが、当該鉄筋コンクリート有孔梁の長さ方向に対して略45度傾斜して配置される。
【0034】
本実施形態に係る補強金具10及びこれを用いた鉄筋コンクリート有孔梁の補強構造によれば、以下のような効果が得られる。
【0035】
鉄筋コンクリート有孔梁の貫通孔(スリーブS)の周囲において、外側補強筋11の各長辺部と内側補強筋12の各辺部は、前記鉄筋コンクリート有孔梁の長さ方向に対して略45度傾斜しており、前記「45度ひび割れ」の発生方向の略直交することはもちろん、前記「接線ひび割れ」の発生方向にも略直交するように配置される。また、両端にフック部Hを有する第1定着筋13及び第2定着筋14によってコンクリートに対する補強金具10の定着強度が高められ、しかも、第1定着筋13及び第2定着筋14は、前記「接線ひび割れ」の発生方向に交差するように配置される。このため、せん断力によって前記貫通孔(スリーブS)の周囲に生じる斜め引張力に対する抵抗力が増大し、前記「45度ひび割れ」及び前記「接線ひび割れ」の発生が抑制され、及び、ひび割れ発生後のひび割れ幅も抑制される。
【0036】
また、第1定着筋13及び第2定着筋14の左右方向の寸法Lbが外側補強筋11の左右方向の寸法Laよりも大きいため、第1定着筋13及び第2定着筋14がひび割れの影響の少ない領域まで延在する。特に、第1定着筋13は、両端のフック部Hの先端Haが下側となるように配置され、第2定着筋14は、両端のフック部Hの先端Haが上側となるように配置されており、フック部Hの全部又は大部分がひび割れの影響の少ない領域に位置する。このため、ひび割れ発生後においても補強金具10による補強効果が維持されることになり、最終破壊に対する抵抗性が向上する。
【0037】
したがって、補強金具10及びこれを用いた鉄筋コンクリート有孔梁の補強構造によれば、従来に比べて、鉄筋コンクリート有孔梁の貫通孔の周囲においてより高いせん断補強効果が得られる。
【0038】
なお、上述の実施形態においては、外側補強筋11が八角形状に形成されている。しかし、これに限られるものではない。外側補強筋11は、左短辺部111a、右短辺部111c、左上長辺部112a、右上長辺部112b、右下長辺部112c及び左下長辺部112dに相当する要素を有していればよく、必ずしも八角形状に形成される必要はない。この点は、内側補強筋12についても同様である。
【0039】
また、上述の実施形態において、外側補強筋11と内側補強筋12とは、内側補強筋12の四つの角部122a~122dのうちの少なくとも対向する二つの角部が外側補強筋11に溶接されることによって、一体化されている。しかし、これに限られるものではない。外側補強筋11と内側補強筋12とが一体化されていればよく、例えば、外側補強筋11と内側補強筋12とが一対のスリーブ支持筋151,151を介して一体化されてもよい。換言すれば、外側補強筋11と内側補強筋12とは、一対のスリーブ支持筋151,151が外側補強筋11及び内側補強筋12に溶接されることによって、一体化されてもよい。この場合、外側補強筋11と内側補強筋12とが直接溶接(接合)される必要はない。
【0040】
また、上述の実施形態において、第1定着筋13及び第2定着筋14は、その両端にフック部Hを有している。しかし、これに限られるものではない。第1定着筋13及び第2定着筋14は、両方のフック部Hに代えて又は一方のフック部Hに代えて、フック部Hと同様に定着性能を有する部材(定着板など)や部位(拡径部など)を有してもよい。すなわち、第1定着筋13及び第2定着筋14は、定着性能を有する定着部をその両端に有していればよく、また、定着部の種類が両端で異なってもよい。例えば、第1定着筋13及び第2定着筋14は、その両端に定着板又は拡径部を有してもよいし、一端にフック部Hを有すると共に他端に定着板又は拡径部を有してもよいし、一端に定着板を有すると共に他端に拡径部を有してもよい。
【0041】
また、上述の実施形態において、スリーブ支持部15は、一対のスリーブ支持筋151,151で構成されている。しかし、これに限られるものではない。図6に示されるように、スリーブ支持部15は、一対のスリーブ支持筋151,151に代えて、一つの鋼棒を折り曲げて形成された一つのスリーブ支持筋153によって構成されてもよい。この場合、スリーブ支持筋153は、内側補強筋12に接合され、左右方向に延びる横筋部154の両端のそれぞれから斜め上方に延びる一対のスリーブ受け部155,155がキャップ156を介してスリーブSを下側から支持するように構成され得る。
【0042】
さらに、上述の実施形態において、外側補強筋11、内側補強筋12及びスリーブ支持部15は別体で形成されて溶接によって一体化されている。しかし、これに限られるものではない。図7(a)~(c)に示されるように、外側補強筋11、内側補強筋12及びスリーブ支持部15が一つの鋼棒を折り曲げて形成されてもよい。
【0043】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は上述の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…主筋、3…あばら筋、10…補強金具、11…外側補強筋、12…内側補強筋、13…第1定着筋、14…第2定着筋、15…スリーブ支持部、111a…左短辺部(第1縦筋部)、111b…上短辺部(第1横筋部)、111c…右短辺部(第2縦筋部)、111d…下短辺部(第2横筋部)、112a…左上長辺部(第1斜め筋部)、112b…右上長辺部(第3斜め筋部)、112c…右下長辺部(第4斜め筋部)、112d…左下長辺部(第2斜め筋部)、121a…第1辺部(内側斜め筋部)、121b…第2辺部(内側斜め筋部)、121c…第3辺部(内側斜め筋部)、121d…第4辺部(内側斜め筋部)、122a…第1角部、122b…第2角部、122c…第3角部、122d…第4角部、151…スリーブ支持筋、H…フック部、Ha…フック部の先端、S…スリーブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8