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特許7370579傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/522 20060101AFI20231023BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20231023BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20231023BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20231023BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20231023BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20231023BHJP
【FI】
A61K31/522
A61P25/28 ZNA
A61P35/00
A61P29/00
A61P3/00
A61P43/00 101
A61P43/00 105
A61K47/54
A61K47/64
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12Q1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019529720
(86)(22)【出願日】2018-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2018025941
(87)【国際公開番号】W WO2019013181
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2017135086
(32)【優先日】2017-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有本 博一
(72)【発明者】
【氏名】一刀 かおり
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大輝
(72)【発明者】
【氏名】森山 純
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535213(JP,A)
【文献】国際公開第2009/063235(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143403(WO,A1)
【文献】Mol Cell,2013年,Vol.52, No.6,p.794-804
【文献】AGE,2013年,Vol.35, No.2,p.261-270
【文献】Angew Chem Int Ed,2011年,Vol.50,p.5478-5481
【文献】J Braz Chem Soc,2011年,Vol.22, No.9,p.1718-1726
【文献】日本農芸化学会大会講演要旨集,2018年03月05日,講演番号4SY24-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドがリンカーを介して結合された下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩を含み、
前記ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドがリンカーを介して結合された下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物が下記一般式(2)で表される化合物である、傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解剤:
【化1】
[式中、Rは水素原子又は炭化水素基を示す。Rは水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよいアミノ基、又は置換されていてもよいカルバモイル基を示す。Rは置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【化2】
であってはならない。]
【化3】
[式中、R 、R 及びR は前述の通り。
は、ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドを示す。
及びL は、同一又は異なって結合又はリンカーを示す。
nは、1~10の自然数を示す。]
【請求項2】
ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドがリンカーを介して結合された下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩を含み、
前記ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドがリンカーを介して結合された下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物が下記一般式(2)で表される化合物である、傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解により処置され得る疾患を予防又は治療するための医薬:
【化4】
[式中、Rは水素原子又は炭化水素基を示す。Rは水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよいアミノ基、又は置換されていてもよいカルバモイル基を示す。Rは置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【化5】
であってはならない。]
【化6】
[式中、R 、R 及びR は前述の通り。
は、ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドを示す。
及びL は、同一又は異なって結合又はリンカーを示す。
nは、1~10の自然数を示す。]。
【請求項3】
傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解により処置され得る疾患が、神経変性疾患、癌、炎症性疾患、加齢性疾患、代謝性疾患、ミトコンドリア病又はダウン症である、請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドがリンカーを介して結合された下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩であって、前記ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドがリンカーを介して結合された下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物が下記一般式(2)で表される化合物である
【化7】
[式中、Rは水素原子又は炭化水素基を示す。Rは水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよいアミノ基、又は置換されていてもよいカルバモイル基を示す。Rは置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。(ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【化8】
であってはならない。)]
【化9】
[式中、R 、R 及びR は前述の通り。
は、ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドを示す。
及びL は、同一又は異なって結合又はリンカーを示す。
nは、1~10の自然数を示す。]
傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解を誘導する化合物又はその塩。
【請求項5】
傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解により処置され得る疾患を予防又は治療するための請求項4に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
前記リガンドが、下記に示す化合物のいずれかから水素を1個取り除いた一価の置換基である、請求項1に記載の分解剤、請求項2に記載の医薬、又は請求項4に記載の化合物若しくはその塩:
【化10】
【化11】
【請求項7】
前記リガンドが、タグ分子に結合する置換基と、当該置換基に結合するタグ分子で修飾されたミトコンドリアに集積するタンパク質とが結合してなるものである、請求項1に記載の分解剤、請求項2に記載の医薬、又は請求項4に記載の化合物若しくはその塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートファジー機構を利用した、細胞小器官の分解に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、細胞の生存に必須の細胞小器官であり、ATP産生機能に加えて、カルシウム恒常性の維持、炎症や細胞増殖の制御、アポトーシスなどに関わっている。
【0003】
ミトコンドリアの機能が損なわれると、単にエネルギー産生が低下するのみならず、上に例示した機能に傷害をもたらす。また、傷害を受けたミトコンドリアは活性酸素(ROS)を過剰産生し、細胞にダメージを与えることによって細胞死を誘導する。例えば、染色体異常症であるダウン症や、ミトコンドリア病と総称される遺伝子疾患においては、ミトコンドリア膜電位低下などの機能不全が見られる。
【0004】
一方、細胞は傷害を受けたミトコンドリアを選択し、オートファジー機構(ミトファジーとも呼ばれる)によって分解排除している。しかし、オートファジーの活性は加齢等によって低下するため、傷害ミトコンドリアの蓄積にもとづく加齢関連疾患が存在する。たとえば、パーキンソン病や癌などが例示される。
【0005】
これらの背景から、医薬などの化合物をもちいてミトファジーを制御する試みがなされている。Sirolimus(ラパマイシン)はmTORC1複合体の阻害によってオートファジーを誘導し、ミトコンドリア分解を促進する。しかしながら、sirolimusによるオートファジーには分解対象の選択性が乏しく、ミトコンドリアは数ある分解対象のひとつに過ぎないため効率が悪い。また、ミトコンドリア以外の広範な細胞内分子が同時に分解されるため、正常な生理機能に影響を与えるという問題を抱えている。
【0006】
一方、脱共役剤と呼ばれる化合物群も、人工的なミトファジー促進に広く用いられている。脱共役剤は、ミトコンドリア膜に傷害を与える分子であり、人為的にミトコンドリア機能不全状態を作成できる。生じた機能不全ミトコンドリアを除去する必要性から、細胞内ではミトファジーが活性化する。つまり脱共役剤は、疾患によるミトコンドリア傷害をさらに悪化させる働きを持つことから、治療用途には適さないという課題を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】"Importing Mitochondrial Proteins: Machineries and Mechanisms", A. Chacinska, C. M. Koehler, D. Milenkovic, T. Lithgow, N. Pfanne, Cell, 138, 628-644 (2009)
【文献】Y. Kawazoe, H. Shimogawa, A. Sato, M. Uesugi, Angew. Chem. Int. Ed. 50, 5478-5481 (2011)
【文献】Kaizuka et al., Molecular Cell, 64, 835 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、オートファジー機構を利用した新規のミトコンドリア分解剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる状況の下、本発明者らは、鋭意研究した結果、ミトコンドリアに結合又は集積するリガンド及び特定の1,9-ジヒドロ-6H-プリン-6-オン環構造を有する特定の置換基を有する化合物又はその塩を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
従って、本発明は、下記の項に示す、分解剤、医薬、及び化合物若しくはその塩を提供する:
項1.ミトコンドリアに結合又は集積するリガンド及び下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩を含む、傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解剤:
【0011】
【化1】
【0012】
[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【0013】
【化2】
【0014】
であってはならない。]。
【0015】
項2.ミトコンドリアに結合又は集積するリガンド及び下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩を含む、傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解により処置され得る疾患を予防又は治療するための医薬:
【0016】
【化3】
【0017】
[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【0018】
【化4】
【0019】
であってはならない。]
項3.傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解により処置され得る疾患が、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン舞踏病、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症、黒質線状体変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、脊髄小脳変性症、ピック病等の神経変性疾患、癌、炎症性疾患、加齢性疾患、ミトコンドリア病(例えば、MELAS、MERRF、慢性進行性外眼筋麻痺症、リー脳症等)、代謝性疾患又はダウン症である、項2に記載の医薬。
【0020】
項4.ミトコンドリア表面に結合又は集積するリガンド及び下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩であって:
【0021】
【化5】
【0022】
[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。(ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【0023】
【化6】
【0024】
であってはならない。)]
傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解を誘導する化合物又はその塩。
【0025】
項5.傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解により処置され得る疾患を予防又は治療するための項4に記載の化合物又はその塩。
【0026】
項6.哺乳動物に、ミトコンドリアに結合又は集積するリガンド及び下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩の有効量を投与することを含む、傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解により処置され得る疾患を予防又は治療する方法:
【0027】
【化7】
【0028】
[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【0029】
【化8】
【0030】
であってはならない。]。
【0031】
項7.傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解により処置され得る疾患の予防又は治療剤を製造するための、ミトコンドリアに結合又は集積するリガンド及び下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩の使用。
【0032】
【化9】
【0033】
[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【0034】
【化10】
【0035】
であってはならない。]。
【0036】
項8.前記リガンドが、下記に示す化合物のいずれかから水素を1個取り除いた一価の置換基である、項1に記載の分解剤、項2若しくは3に記載の医薬、項4若しくは5に記載の化合物若しくはその塩、項6に記載の方法又は項7に記載の使用:
【0037】
【化11】
【0038】
【化12】
【0039】
項9.前記リガンドが、タグ分子に結合する置換基と、当該置換基に結合するタグ分子で修飾されたミトコンドリアに集積するタンパク質とが結合してなる、項1に記載の分解剤、項2若しくは3に記載の医薬、項4若しくは5に記載の化合物若しくはその塩、項6に記載の方法、項7に記載の使用、あるいは項8に記載の分解剤、医薬、化合物若しくはその塩、方法又は使用。
【0040】
項10.前記ミトコンドリアに結合又は集積するリガンド及び下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物が下記一般式(2)で表される化合物である、項1に記載の分解剤、項2若しくは3に記載の医薬、項4若しくは5に記載の化合物若しくはその塩、、項6に記載の方法、項7に記載の使用、あるいは項8若しくは9に記載の分解剤、医薬、化合物若しくはその塩、方法又は使用:
【0041】
【化13】
【0042】
[式中、R、R及びRは前述の通り。
は、ミトコンドリア表面に結合又は集積するリガンドを示す。
及びLは、同一又は異なって結合又はリンカーを示す。
nは、1~10の自然数を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【0043】
【化14】
【0044】
であってはならない。]。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、オートファジー機構による新規のミトコンドリア分解剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】pEmGFP-HaloTag-Omp25の配列情報を示す。
図2】pEmGFP-HaloTag-Omp25の配列情報を示す。
図3】実施例6の試験結果を示す。
図4】実施例7の試験結果を示す。
図5】実施例8の試験結果を示す。
図6】実施例13の試験結果を示す。
図7】実施例13の試験結果を示す。
図8】実施例14の試験結果を示す。
図9】実施例15の試験結果を示す。
図10】実施例16の試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解を誘導する化合物又はその塩
本発明は、ミトコンドリア表面に結合又は集積するリガンド及び下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物又はその塩:
【0048】
【化15】
【0049】
[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【0050】
【化16】
【0051】
であってはならない。]
を提供する。本発明において、ミトコンドリアに結合又は集積するリガンド及び上記一般式(1)で表される置換基を有する化合物を単に化合物Aと示すこともある。
【0052】
以下、本明細書中、そうでないことを明記しない限り、各置換基は以下を意味する。
【0053】
本発明において、「置換基」としては、例えば、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよいアミノ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよい複素環基、アシル基、置換されていてもよいカルバモイル基、置換されていてもよいチオカルバモイル基、置換されていてもよいスルファモイル基、置換されていてもよいヒドロキシ基、置換されていてもよいスルファニル基、置換されていてもよいシリル基等が挙げられる。
【0054】
「炭化水素基」としては、例えば、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C3-10シクロアルケニル基、C6-14アリール基、C7-16アラルキル基等が挙げられる。
【0055】
「C1-6アルキル基」とは、炭素数1~6の直鎖又は分枝鎖状の飽和炭化水素基を示し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルフロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルプチル等が挙げられる。
【0056】
「C2-6アルケニル基」とは、2重結合を有する炭素数2~6の直鎖又は分枝鎖状の炭化水素基を示し、例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-プテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、2-ぺンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、5-ヘキセニル等が挙げられる。
【0057】
「C2-6アルキニル基」とは、3重結合を有する炭素数2~6の直鎖又は分枝鎖状の炭化水素基を示し、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-プチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、4-ヘキシニル、5-ヘキシニル、4-メチル-2-ペンチニル等が挙げられる。
【0058】
「C3-10シクロアルキル基」とは、炭素数3~10の環状のアルキル基を示し、例えば、シクロプロピル、シクロブプチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル、アダマンチル等が挙げられる。
【0059】
「C3-10シクロアルケニル基」とは、2重結合を有する炭素数3~10の環状炭化水素基を示し、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル等が挙げられる。
【0060】
「C6-14アリール基」としては、例えば、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、1-アントリル、2-アントリル、9-アントリル等が挙げられる。
【0061】
「C7-16アラルキル基」としては、例えば、ベンジル、フエネチル、ナフチルメチル、フェニルプロピル等が挙げられる。
【0062】
「置換されていてもよい炭化水素基」、「置換されていてもよいアミノ基」、「置換されていてもよい複素環基」、「置換されていてもよいカルバモイル基」、「置換されていてもよいチオカルバモイル基」、「置換されていてもよいスルファモイル基」、「置換されていてもよいヒドロキシ基」、「置換されていてもよいスルファニル基」、「置換されていてもよいシリル基」における、置換基としては、例えば、炭化水素基で置換されていてもよいアミノ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、炭化水素基で置換されていてもよい複素環基、アシル基、炭化水素基で置換されていてもよいカルバモイル基、炭化水素基で置換されていてもよいチオカルバモイル基、スルファモイル基、炭化水素基で置換されていてもよいヒドロキシ基、炭化水素基で置換されていてもよいスルファニル基、炭化水素基で置換されていてもよい置換されていてもよいシリル基等が挙げられる。「置換されていてもよい炭化水素基」、「置換されていてもよいアミノ基」、「置換されていてもよい複素環基」、「置換されていてもよいカルバモイル基」、「置換されていてもよいチオカルバモイル基」、「置換されていてもよいスルファモイル基」、「置換されていてもよいヒドロキシ基」、「置換されていてもよいスルファニル基」、「置換されていてもよいシリル基」が置換基を有する場合、置換基の数は特に限定されないが、例えば、1~5個、1~3個、1個等適宜設定できる。
【0063】
「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0064】
「複素環基」としては、例えば、窒素原子、硫黄原子および酸素原子からなる群より選択される1~4個のヘテロ原子を含む、7~10員環の飽和又は不飽和の複素環基等が挙げられる。より具体的には、例えば、チエニル基、チアゾリル基、フリル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、ピリジニル基、ピロリニル基、モルホリニル基、イミダゾリル基、インドリル基、ピリミジニル基、オキサゾリル基、ピロリジニル基、インドリジニル基、ベンゾフラニル基等が挙げられる。
【0065】
「アシル基」としては、例えば、ホルミル基、アルキル部分が前述したC1-6アルキル基であるアルキルカルボニル基等が挙げられる。
【0066】
本発明において、Rとしては、水素原子、炭化水素基等が好ましく、水素原子、C1-6(好ましくはC1-3)アルキル基等がより好ましく、水素原子がより好ましい。
【0067】
本発明において、Rとしては、水素原子、置換されていてもよい炭化水素(好ましくは、アミノ基及びカルバモイル基からなる群より選択される少なくとも一種で置換されていてもよい炭化水素基であり、より好ましくはアミノ基及びカルバモイル基からなる群より選択される少なくとも一種で置換されていてもよいC1-6アルキル基)基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいカルバモイル基等が好ましく;置換された炭化水素(好ましくは、アミノ基及びカルバモイル基からなる群より選択される少なくとも一種で置換された炭化水素基、より好ましくはアミノ基及びカルバモイル基からなる群より選択される少なくとも一種で置換されたC1-6アルキル基)基、アミノ基、カルバモイル基等がより好ましく;アミノ基で置換された炭化水素基(好ましくはアミノ基で置換されたC1-6アルキル基)基、アミノ基等がより好ましい。
【0068】
本発明において、Rとしては、特に限定されないが、例えば、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基等が好ましく;水素原子、ハロゲンで置換されていてもよい炭化水素(C6-14アリール基、C7-16アラルキル基等)がより好ましく;ハロゲン(好ましくはフッ素)で置換された炭化水素(C6-14アリール基(フェニル、ナフチルが好ましく、フェニルがより好ましい)、C7-16アラルキル基(C7-12フェニルアルキル、C11-17ナフチルアルキルが好ましく、C7-12フェニルアルキルがより好ましい)がより好ましい。
【0069】
ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドとは、ミトコンドリアに共有結合、水素結合等により結合するか又はミトコンドリア(ミトコンドリアの内部又は表面)に集積するリガンドを意味する。かかるリガンドとしては、本発明が属する技術分野において知られているものを広く使用することができる。例えば、ミトコンドリアに集積する化合物は多く知られており、例えば、ミトコンドリア外膜上のタンパク質8 kDa translocator protein (TSPO)やVoltage-dependent anion channel (VDAC)などに結合する低分子リガンド群がある。また、ローダミン色素、トリフェニルホスホニウム塩に代表されるように、正電荷を有する化合物がミトコンドリアに集積することも知られている。Y. Kawazoe, H. Shimogawa, A. Sato, M. Uesugi, Angew. Chem. Int. Ed. 50, 5478-5481 (2011)にも、ミトコンドリア表面に集積する分子について記載されている。
【0070】
リガンドとしては、例えば、下記に示す化合物のいずれかから水素を1個取り除いた一価の置換基が挙げられる:
【0071】
【化17】
【0072】
【化18】
【0073】
また、本発明の好ましい実施形態において、リガンドとしては、上記に加えて、下記式で示される化合物から水素を1個取り除いてなる一価の基において、当該式中のフェニル基における1~5個(例えば、1~3個、1~2個、1個等)の水素原子が、置換基(例えば、直鎖又は分枝鎖状のC1~C6アルキル基、ハロゲン及び直鎖又は分枝鎖状のC1~C6アルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基)により置換された構造を有する基も挙げられる:
【0074】
【化19】
【0075】
本発明において、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。また、本発明の好ましい実施形態において、リガンドとして上記に挙げた化合物から1個の水素を取り除いた一価の基としては、例えば、以下のもの等を挙げることができる:
【0076】
【化20】
【0077】
【化21】
【0078】
また、リガンドとしては、上記に加えて、下記式において、当該式中のフェニル基における1~5個(例えば、1~3個、1~2個、1個等)の水素原子が、置換基(例えば、直鎖又は分枝鎖状のC1~C6アルキル基、ハロゲン及び直鎖又は分枝鎖状のC1~C6アルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1個の基)により置換された構造を有する置換基も挙げられる
【0079】
【化22】
【0080】
また、リガンドとしては、ミトコンドリア内部又は表面に集積するタンパク質を利用してもよい。かかるタンパク質としては、シグナル配列(ミトコンドリア移行配列)が付加されたタンパク質等が挙げられる。ミトコンドリア移行シグナル配列としては、本発明が属する技術分野において知られているものを広く使用することができる(例えば、"Importing Mitochondrial Proteins: Machineries and Mechanisms", A. Chacinska, C. M. Koehler, D. Milenkovic, T. Lithgow, N. Pfanne, Cell, 138, 628-644 (2009))。リガンドとしてかかるタンパク質を用いる場合、一般式(1)で表される置換基に当該リガンドを結合させるため、タグ技術を使用してもよい。具体的には、ミトコンドリア内部又は表面に集積するタンパク質として、タグタンパク質とミトコンドリア移行シグナル配列とを組み合わせた融合タンパク質を使用してもよい。タグタンパク質としては、例えば、ハロタグ(HT)、SNAPタグ、CLIPタグ、Ashタグ(assembly helper tag)等が挙げられる。かかる融合タンパク質としては、例えば、さらに蛍光タンパク質(EmGFP等)を融合したものであってもよい。
【0081】
かかる実施形態においては、リガンドとしては、タグ分子に結合する置換基(例えば、ハロタグを用いる場合、ハロゲン原子、又はハロゲン原子で置換された炭化水素基)と、置換基に結合するタグ分子で修飾されたミトコンドリアに集積するタンパク質とが結合してなるもの等を挙げることができる。
【0082】
また、本発明の典型的な実施形態においては、前記ミトコンドリアに結合又は集積するリガンド及び下記一般式(1)で表される置換基を有する化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物又はその塩を挙げることができる:
【0083】
【化23】
【0084】
[式中、R、R及びRは前述の通り。
は、ミトコンドリア表面に結合又は集積するリガンドを示す。
及びLは、同一又は異なって結合又はリンカーを示す。
nは、1~10の自然数を示す。ただし、Rが水素であり、Rがアミノ基である場合、Rは、
【0085】
【化24】
【0086】
であってはならない。]。
【0087】
本明細書において、上記一般式(2)で示される化合物を単に化合物A’と示すこともある。
【0088】
当該実施形態において、-L-O-(-CH-CH-O-)-L-部分は、ミトコンドリアに結合又は集積するリガンドと前記一般式(1)で表される置換基とを連結するリンカーの役割を果たす。
【0089】
がリンカーである場合、かかるリンカーとしては、例えば、主鎖が1~15原子、好ましくは1~10原子からなる鎖状リンカー等が挙げられる。かかる鎖状リンカーとしては、-CH-、-CH=CH-、-C≡C-、-C(=O)-、-NH-、-O-、-S-、-CH=N-、-N=CH-、-C(=S)-、-C(=NH)-からなる群より選択される少なくとも1種から構成されるもの等を挙げることができる(従って、例えば、上記群より選択される1個をリンカーとしてもよいし、上記群より選択される2個以上(1種類でも2種類以上でもよい)組み合わせたものをリンカーとしてもよい。)。また、かかるリンカーとしては、アミド結合[-C(=O)-NH-又は-NH-C(=O)-]、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合[-C(=O)-O-又は-O-C(=O)-]及びウレタン結合[-NH-C(=O)-又は-C(=O=)-NH-]からなる群より選択される少なくとも一種の構造を含むものが好ましい。
【0090】
また、かかるリンカーは、主鎖に二価の環状構造(例えば、5員又は6員の不飽和炭化水素環基;窒素、酸素及び硫黄からなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を(好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個)有する5員又は6員の複素環基等)を、1~2個(好ましくは1個)含んでいてもよい。
【0091】
5員又は6員の二価不飽和炭化水素環基としては、例えば、
【0092】
【化25】
【0093】
等が挙げられ、好ましくはフェニレン基等が挙げられる。
【0094】
窒素、酸素及び硫黄からなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を(好ましくは1~4個、より好ましくは2~3個)有する5員又は6員の二価複素環としては、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、フラン、ピラン、チオフェン、モルホリン等から水素を2個取り除いた二価の基が挙げられる。これらの複素環のうち、ヘテロ原子として窒素を1~3個(好ましくは2~3個)有する5員又は6員の二価複素環基(例えば、ピラゾール環、トリアゾール環から水素を2個取り除いた二価の基、より具体的には、例えば、
【0095】
【化26】
【0096】
等)が挙げられる。
【0097】
これらの二価の環状構造のうち、好ましいものとしては、二価の芳香族環(芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基を含む)等が挙げられる。かかる二価の芳香族環としては、フラン、ピロール、ベンゼン等の5~6員環から水素を2個取り除いた二価の基等を挙げることができ、より具体的には、例えば、
【0098】
【化27】
【0099】
等が挙げられる。
【0100】
かかる鎖状リンカーは、置換基により置換されていてもよく、好ましくは、例えば、ハロゲン、水酸基及びC1-6アルキル基からなる群より選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。かかる鎖状リンカーが置換されている場合、置換基の数は特に限定されないが、例えば、1~3個、1~2個、1個等の範囲で適宜設計できる。
【0101】
本発明において、「主鎖が1~10原子からなる」とは、主鎖を構成する原子のうち水素原子を除いたものの数が1~0であることを意味する。
【0102】
従って、Lが下記構造を示す場合、
-CH-CH-CH-CH-CH-CH-CH
主鎖が7原子からなる鎖状リンカーと表すことができる。
【0103】
また、Lが下記構造を示す場合も、
【0104】
【化28】
【0105】
主鎖が7原子からなる鎖状リンカーと表すことができる。
【0106】
また、Lが下記構造を示す場合、
【0107】
【化29】
【0108】
主鎖が9原子からなる鎖状リンカーと表すことができる。
【0109】
がリンカーである場合、かかるリンカーとしては、例えば、主鎖が1~15原子、好ましくは1~10原子からなる鎖状リンカー等が挙げられる。かかる鎖状リンカーとしては、-CH-、-CH=CH-、-C≡C-、-C(=O)-、-NH-、-O-、-S-、-CH=N-、-N=CH-、-C(=S)-、-C(=NH)-からなる群より選択される少なくとも1種から構成されるもの等を挙げることができる(従って、例えば、上記群より選択される1個をリンカーとしてもよいし、上記群より選択される2個以上(1種類でも2種類以上でもよい)組み合わせたものをリンカーとしてもよい。)。かかるリンカーとしては、アミド結合[-C(=O)-NH-又は-NH-C(=O)-]、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合[-C(=O)-O-又は-O-C(=O)-]及びウレタン結合[-NH-C(=O)-又は-C(=O=)-NH-]からなる群より選択される少なくとも一種の構造を含むものが好ましい。これらのリンカーは、置換基により置換されていてもよく、好ましくは、例えば、ハロゲン、水酸基、C1-6アルキル基、ならびに置換基としてアルキル基及び/又はアシル基を有してもよいアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種で置換されていてもよい。かかる鎖状リンカーが置換されている場合、置換基の数は特に限定されないが、例えば、1~3個、1~2個、1個等の範囲で適宜設計できる。
【0110】
がリンカーである場合も、当該リンカーは、主鎖に二価の環状構造(例えば、5員又は6員の不飽和炭化水素環基;窒素、酸素及び硫黄からなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を(好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個)有する5員又は6員の複素環基等)を、1~2個(好ましくは1個)含んでいてもよい。当該5員又は6員の不飽和炭化水素環基;窒素、酸素及び硫黄からなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を有する5員又は6員の複素環基等の例としては、Lについて前述したもの等が挙げられる。また、Lにおいても、二価の環状構造の好ましい例として、二価の芳香族環(芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基を含む)等が挙げられ、より具体的には、フラン、ピロール、ベンゼン等の5~6員環から水素を2個取り除いた二価の基等を挙げることができ、さらに具体的には、例えば、
【0111】
【化30】
【0112】
等が挙げられる。
【0113】
nは、1~10の自然数を示し、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~5がより好ましい。
【0114】
本発明にかかる化合物は、例えば、下記反応式-1に示すようにして製造される:
反応式-1
【0115】
【化31】
【0116】
[式中R、R、R、R、L、L及びnは前記に同じ。R及びRは、これらが反応して結合し、-L-を形成するような基を示す。R及びRは、これらが反応して結合し、-L-を形成するような基を示す。]
工程1において、化合物A-1と水とを反応させることにより、化合物A-2を得ることができる。
【0117】
当該置換反応は、適当な溶媒中又は無溶媒下で、自体公知の方法、又はそれに準じる方法により行うことができる。反応時間は、0.1~100時間であり、好ましくは0.1~24時間である。反応温度は、例えば、0℃~溶媒の沸点、好ましくは0℃~100℃で適宜設定できる。
【0118】
工程2において、化合物A-2をN-アルキル化することにより、化合物A-3を得ることができる。当該N-アルキル化反応は、適当な溶媒中又は無溶媒下で、自体公知の方法、又はそれに準じる方法により行うことができる。反応時間は、0.1~100時間であり、好ましくは0.1~24時間である。反応温度は、例えば、0℃~溶媒の沸点、好ましくは0℃~100℃で適宜設定できる。
【0119】
工程3において、化合物A-3を臭素化することにより、化合物A-4を得ることができる。当該反応は、適当な溶媒中又は無溶媒下で、自体公知の方法、又はそれに準じる方法により行うことができる。反応時間は、0.1~100時間であり、好ましくは0.1~24時間である。反応温度は、例えば、0℃~溶媒の沸点、好ましくは0℃~100℃で適宜設定できる。
【0120】
工程4において、化合物A-4と化合物A-5とを反応させることにより、化合物A-6を得ることができる。当該反応は、適当な溶媒中又は無溶媒下で、自体公知の方法、又はそれに準じる方法により行うことができる。反応時間は、0.1~100時間であり、好ましくは0.1~24時間である。反応温度は、例えば、0℃~溶媒の沸点、好ましくは0℃~100℃で適宜設定できる。化合物A-5の使用割合は、化合物A-4 1モルに対し、例えば、0.1~10モルの範囲で適宜設定し得る。
【0121】
工程5において、化合物A-6と化合物A-7とを反応させることにより、化合物A-8を得ることができる。当該反応は、適当な溶媒中又は無溶媒下で、自体公知の方法、又はそれに準じる方法により行うことができる。反応時間は、0.1~100時間であり、好ましくは0.1~24時間である。反応温度は、例えば、0℃~溶媒の沸点、好ましくは0℃~100℃で適宜設定できる。化合物A-7の使用割合は、化合物A-6 1モルに対し、例えば、0.1~10モルの範囲で適宜設定し得る。
【0122】
工程6において、化合物A-8と化合物A-9とを反応させることにより、化合物A’を得ることができる。当該反応は、適当な溶媒中又は無溶媒下で、自体公知の方法、又はそれに準じる方法により行うことができる。反応時間は、0.1~100時間であり、好ましくは0.1~24時間である。反応温度は、例えば、0℃~溶媒の沸点、好ましくは0℃~100℃で適宜設定できる。化合物A-9の使用割合は、化合物A-8 1モルに対し、例えば、0.1~10モルの範囲で適宜設定し得る。
【0123】
また、本発明にかかる化合物は、下記反応式IIに示すようにして製造することもできる:
反応式-2
【0124】
【化32】
【0125】
[式中R、R、R、R、R、R、R、R、L、L及びnは前記に同じ。]
工程7において、化合物A-9と化合物A-7とを反応させることにより、化合物A-10を得ることができる。当該反応は、適当な溶媒中又は無溶媒下で、自体公知の方法、又はそれに準じる方法により行うことができる。反応時間は、0.1~100時間であり、好ましくは0.1~24時間である。反応温度は、例えば、0℃~溶媒の沸点、好ましくは0℃~100℃で適宜設定できる。化合物A-7の使用割合は、化合物A-9 1モルに対し、例えば、0.1~10モルの範囲で適宜設定し得る。
【0126】
工程8において、化合物A-10と化合物A-6とを反応させることにより、化合物A’を得ることができる。当該反応は、適当な溶媒中又は無溶媒下で、自体公知の方法、又はそれに準じる方法により行うことができる。反応時間は、0.1~100時間であり、好ましくは0.1~24時間である。反応温度は、例えば、0℃~溶媒の沸点、好ましくは0℃~100℃で適宜設定できる。化合物A-6の使用割合は、化合物A-10 1モルに対し、例えば、0.1~10モルの範囲で適宜設定し得る。
【0127】
上記製造法の各工程で得られる各々の化合物は、公知の分離精製手段、例えば、濃縮、減圧濃縮、結晶化、溶媒抽出、再沈殿、クロマトグラフィー等により単離精製するか又は単離精製することなく、次工程に付すことができる。
【0128】
本発明において、化合物Aの塩は、酸付加塩と塩基との塩を包含する。酸付加塩の具体例として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、及びグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の酸性アミノ酸塩が挙げられる。塩基との塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、ピリジン塩、トリエチルアミン塩のような有機塩基との塩、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。また、化合物Aがカチオンである場合、化合物Aの塩には、ハロゲン化物(塩化物等)等も包含される。
【0129】
また、本発明において、化合物A又はその塩が、光学異性体、立体異性体、位置異性体等の異性体を有する場合には、いずれの異性体であるか明記がない限り、いずれの異性体を用いた発明も、種々の異性体の混合物を用いた発明も本発明に包含され得る。
【0130】
本発明において、化合物Aは、水和物又は溶媒和物の形で存在することもあるので、これらの水和物及び溶媒和物もまた本発明の化合物に包含される。
【0131】
溶媒和物を形成する溶媒としては、エタノール、プロパノール等のアルコール、酢酸等の有機酸、酢酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトン等のケトン類、DMSO等が例示される。
【0132】
医薬
本発明の化合物A又はその塩は、オートファジー機構によって、傷害を受けたミトコンドリアの分解を誘導することができる。従って、本発明は、化合物A又はその塩を含む、傷害を受けたミトコンドリアの分解により処置され得る疾患を予防又は治療するための医薬を提供する。
【0133】
傷害を受けたミトコンドリアの分解により処置され得る疾患としては、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン舞踏病、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症、黒質線状体変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、脊髄小脳変性症、ピック病等の神経変性疾患、癌、炎症性疾患、加齢性疾患、代謝性疾患、ミトコンドリア病(例えば、MELAS、MERRF、慢性進行性外眼筋麻痺症、リー脳症等)、ダウン症等が挙げられる。
【0134】
本発明においては、本発明の有効成分である化合物A又はその塩そのものを医薬として用いても、薬学的に許容される各種担体(例えば、例えば等張化剤、キレート剤、安定化剤、pH調節剤、防腐剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤等)と組み合わせた医薬組成物として用いてもよい。
【0135】
等張化剤としては、例えば、グルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩類等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0136】
キレート剤としては、例えば、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム等のエデト酸塩類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、ヘキサメタリン酸ソーダ、クエン酸等が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0137】
安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0138】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモール等の塩基等が挙げられる。これらのpH調節剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0139】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられる。これらの防腐剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0140】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられる。これらの抗酸化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0141】
溶解補助剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、グリセリン、D-ソルビトール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、D-マンニトール等が挙げられる。これらの溶解補助剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0142】
粘稠化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの粘稠化剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
また、上記医薬組成物は、化合物A又はその塩以外に、傷害を受けたミトコンドリアの分解により処置され得る疾患の予防又は治療作用を有するとされている化合物をさらに含んでいてもよい。また、上記医薬組成物は、化合物A又はその塩以外に、オートファジー誘導作用が知られているか、もしくは示唆されている化合物をさらに含んでいてもよい。かかる化合物としては、sirolimus(ラパマイシン)等が挙げられる。また、Kaizuka et al., Molecular Cell, 64, 835 (2016)に記載の化合物等も挙げられる。これらの化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0144】
医薬組成物の実施形態において、組成物中の化合物A又はその塩の含有量は特に限定されず、化合物Aの含有量換算で、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。
【0145】
製剤形態は、特に限定されず、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤(静脈注射、筋肉注射、局所注射等)、含嗽剤、点滴剤、外用剤(軟膏、クリーム、貼付薬、吸入薬)、座剤等の非経口投与剤等の各種製剤形態を挙げることができる。上記製剤形態のうち、好ましいものとしては、例えば、経口投与剤(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等)、外用剤(軟膏、クリーム、貼付薬、吸入薬)等が挙げられる。
【0146】
本発明において、化合物A又はその塩の投与量は、投与経路、患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、化合物Aの投与量として、成人に対する1日投与量が通常、約5000mg以下、好ましくは約1000mg以下、より好ましくは500mg以下になる量とすればよい。化合物A又はその塩の投与量の下限も特に限定されず、例えば、化合物Aの投与量として、成人に対する1日投与量が通常、1mg以上、好ましくは10mg以上、より好ましくは100mg以上の範囲で適宜設定できる。1日1回投与する場合は、1製剤中にこの量が含まれていればよく、1日3回投与する場合は、1製剤中にこの3分の1量が含まれていればよい。
【0147】
本発明の医薬は、哺乳動物等の患者に投与される。哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ等が挙げられる。
【0148】
傷害を受けたミトコンドリアの分解剤
本発明は、また、化合物A又はその塩を含む、傷害を受けたミトコンドリアのオートファジー機構による分解剤も提供する。当該分解剤の有効成分、製剤形態、投与量等は、本発明の医薬について前述したと同様である。
【実施例
【0149】
本発明は、更に以下の実施例、試験例および製剤例によって詳しく説明されるが、これらは本発明を限定するものではない。
【0150】
以下の実施例において室温は約10°Cから35°Cを示す。終夜とは通常10時間から15時間を示す。水、或いは、酸素に不安定な試薬や化合物を用いる反応においては、予め加熱乾燥したフラスコ、注射器、カニュラ等を用い、窒素雰囲気下、もしくは、アルゴン雰囲気下で反応を行った。減圧濃縮は、ダイアフラム真空ポンプとロータリーエバポレーターを用いて行った。高速液体クロマトグラフィーには、ポンプとして日本分光JASCO PU-980、UV検出器として日本分光JASCO UV-4075、インテグレーダーとして日本分光JASCO 807-IT、分析用カラムとしてナカライテスクCOSMOCIL 5C18-AR-II[Φ5μm, 4.6mm I.D.x150 mm]、分取用カラムとしてナカライテスクCOSMOCIL 5C18-AR-IIPacked column [Φ5μm, 20 mm I.D.x250 mm]を用いた。核磁気共鳴スペクトルは、日本電子製JNM-ECA600 (600MHz) を用いて測定した。1H NMRスペクトルは、ジメチルスルホキシド(2.50 ppm)、メタノール(3.30 ppm)を内部標準とした。多重度はs (単一線), d (二重線), t (三重線),q (四重線), quin(五重線),m (多重線)と略記し、また幅の広いシグナルはbrs と付記した。カップリング定数(J) は、Hz で記載した。アルコール、アミノ基、カルボン酸などのプロトンピークは非常に幅広く検出できない場合は記載していないことがある。高分解能質量スペクトル(HRMS)はBruker製 micro Tof focus(ESI-TOF)を用いた。通常はプロトン化された分子イオンが検出されるが、塩の場合は陽イオン部のみが検出される。
【0151】
以下の実施例においては、以下の略号を使用する。
methanol-d4:重メタノール
DIPEA: N,N-ジイソプロピルエチルアミン
Indole-FBnPYR:N-(3-{2-[2-(3-{4-[2-アミノ-9-(4-フルオロ-ベンジル)-6-オキソ-6,9-ジヒドロ-1H-プリン-8-イル]-ピラゾール-1-イル}-プロポキシ)-エトキシ]-エトキシ}-プロピル)-2-オキソ-2-(2-フェニル-1H-インドール-3-イル)-アセトアミド
CCCP: カルボニルシアニド m-クロロフェニルヒドラゾン
DMF: N,N-ジメチルホルムアミド
DMSO-d6: 重ジメチルスルホキシド
ESI: electrospray ionization、エレクトロスプレーイオン化Et3N: トリエチルアミン
FBnNAC: (R) -2-アミノ-3-(2-アミノ-9-(4-フルオロベンジル)-6-オキソ-6,9-ジヒドロ-1H-プリン-8-イルチオ)プロパン酸
FBnNAC-linker: (R)-2-アセトアミド-3-(2-アミノ-9-(4-フルオロベンジル)-6-オキソ-6,9-ジヒドロ-1H-プリン-8-イルチオ)-N-(3-(2-(2-(3-アミノプロポキシ)エトキシ)エトキシ)プロピル)プロパンアミド
Indole-FBn:(R)-2-アセトアミド-3-[2-アミノ-9-(4-フルオロベンジル)-6-オキソ-6,9-ジヒドロ-1H-プリン-8-イルスルファンニル]-N-{3-[2-(2-{3-[2-オキソ-2-(2-フェニル-1H-インドール-3-イル)-アセチルアミノ]-プロポキシ}-エトキシ)-エトキシ]-プロピル}プロパンアミド
MS: マススペクトル
N.S.: 有意差なし(not significant)
HRMS: 高分解能質量スペクトル
1H NMR: プロトン核磁気共鳴
PBS: リン酸緩衝生理食塩水
PyBOP: ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム
TFA: トリフルオロ酢酸。
【0152】
実施例1
4-(4-(3-(2-(2-(3-aminopropoxy)ethoxy)ethoxy)propylcarbamoyl)phenyl)-1-methylpyridinium trifluoroacetateの合成
フラスコに4-(4-carboxy-phenyl)-1-methyl-pyridinium iodide (4.8 mg)を入れ、40℃、アルゴン雰囲気下でDMF (95 μL)、PyBOP (15.1 mg)、TEA (4.1 μL)、diethylene glycol bis(3-aminopropyl) ether (6.4 μL)を加えて終夜撹拌した。反応混合物をHPLC(5C18-AR-II, 移動相:水/アセトニトリル(0.1%TFA含有))で精製し、標題化合物(1.6 mg)を得た。
【0153】
【化33】
【0154】
HRMS:
Calcd for C23H34N3O4[M]+:416.2544, found 416.25181H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ1.16 (1H, t, J = 7.3 Hz), 1.23-1.25 (1H, m), 1.73-1.79 (4H, m), 2.84 (2H, quin, J = 5.5 Hz), 3.44-3.53 (12H, m), 4.33 (3H, s), 7.65 (2H, brs), 8.05 (2H, d, J = 8.7 Hz), 8.16 (2H, d, J = 8.7 Hz), 8.54 (2H, d, J = 6.8 Hz), 8.70 (1H, t, 5.5 Hz), 9.04 (2H, d, J = 6.8 Hz)。
【0155】
実施例2
(R)-4-[4-(3-{2-[2-(3-{2-acetylamino-3-[2-amino-9-(4-fluoro-benzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-ylsulfanyl]-propionylamino}-propoxy)-ethoxy]-ethoxy}-propylcarbamoyl)-phenyl]-1-methyl-pyridinium trifluoroacetateの合成 フラスコに4-(4-(3-(2-(2-(3-aminopropoxy)ethoxy)ethoxy)propylcarbamoyl)phenyl)-1-methylpyridinium trifluoroacetate (1.6 mg)を入れ、アルゴン雰囲気下でDMF (20 μL)、PyBOP (3.1 mg)、TEA (0.84 μL)、 (R)-2-amino-3-(2-amino-9-(4-fluorobenzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-ylthio)propanoic acid (FBnNAC) (2.6 mg)を加え、室温で7時間撹拌した。反応混合物をHPLC(5C18-AR-II, 移動相:水/アセトニトリル(0.1%TFA含有))で精製し、標題化合物(1.89 mg)を得た。
【0156】
【化34】
【0157】
HRMS:
Calcd for C40H49FN9O7S [M]+: 818.3454, found 818.34871H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ1.83 (3H, s), 3.3-3.5 (12H, m), 1.58 (2H, quin, J = 6.8 Hz), 1.74-1.77 (2H, m), 3.06-3.08 (6H, m), 4.32 (3H, s), 4.41-4.45 (1H, m), 5.06 (2H, s), 6.54 (2H, brs), 7.12-7.15 (4H, m), 8.02 (1H, t, J = 5.5 Hz), 8.05 (2H, d, J = 8.3 Hz), 8.15 (2H, d, J = 8.3 Hz), 8.41 (1H, d, J = 8.3 Hz), 8.53 (2H, d, J = 6.4 Hz), 8.67 (1H, t, J = 5.5 Hz), 9.03 (2H, d, J = 6.4 Hz), 10.7 (1H, s)。
【0158】
実施例3
(R)-2-Acetylamino-3-[2-amino-9-(4-fluoro-benzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-ylsulfanyl]-N-{3-[2-(2-{3-[2-oxo-2-(2-phenyl-1H-indol-3-yl)-acetylamino]-propoxy}-ethoxy)-ethoxy]-propyl}-propionamide (Indole-FBn)の合成 フラスコにoxo-(2-phenyl-1H-indol-3-yl)-acetyl chloride (0.57 mg)を入れ、0℃、アルゴン雰囲気下にてDMF (6.8 μL)、TEA (0.45 μL)、 FBnNAC-linker (1.7 mg)を加えた。室温に昇温し7時間撹拌した。反応混合物をHPLC(5C18-AR-II, 移動相:水/アセトニトリル(0.1%TFA含有))で精製し、標題化合物(1.9 mg)を得た。
【0159】
【化35】
【0160】
HRMS:
Calcd for C43H48FN9O8S [M+H]+: 870.3409, found 870.33961H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 1.42 (2H, quin, J = 6.9 Hz), 1.59 (2H, quin, J = 6.9 Hz), 1.83 (3H, s), 2.37-2.38 (2H, m), 2.52-2.60 (2H, m), 3.3-3.5 (16H, m), 4.42-4.44 (1H, m), 5.06 (2H, s), 7.13-7.16 (2H, m), 7.19 (2H, m), 7.21-7.27 (2H, m), 7.46-7.48 (4H, m), 7.54-7.55 (2H, m), 8.02 (1H, t, J = 5.5 Hz), 8.06 (1H, d, J = 7.8 Hz), 8.40 (1H, d, J = 8.2 Hz), 8.43 (1H, t, J = 5.5 Hz), 10.6 (1H, s), 12.4 (1H, s)。
【0161】
実施例4
(R)-N-(9-(4-(4-((2-amino-9-(4-fluorobenzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-ylthio)methyl)-2,5-dioxo-10,13,16-trioxa-3,6-diazanonadecan-19-ylcarbamoyl)-2-carboxyphenyl)-6-(dimethylamino)-3H-xanthen-3-ylidene)-N-methylmethanaminium trifluoroacetate
フラスコに3-carboxy-4-(6-(dimethylamino)-3-(dimethyliminio)-3H-xanthen-9-yl)benzoate (2.0 mg)を入れ、アルゴン雰囲気下でDMF (35.2 μL)、PyBOP (1.9 mg)、TEA (1.0 μL)、 FBnNAC-linker (2.3 mg)を加え、室温で6時間撹拌した。つづいて40℃に昇温し、さらに4時間撹拌した。反応混合物をHPLC(5C18-AR-II, 移動相:水/アセトニトリル(0.1%TFA含有))で精製し、標題化合物(2.1 mg)を得た。
【0162】
【化36】
【0163】
HRMS:
Calcd for C52H60FN10O10S [M]+: 1035.4193, found 1035.41861H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 1.59 (2H, quin, J = 7.1 Hz) 1.80-1.82 (5H, m), 2.89-2.90 (4H, m), 3.06-3.09 (14H, m), 3.27-3.50 (12H, m), 4.41-4.45 (1H, m), 5.06 (2H, s), 6.54 (2H, brs), 7.12-7.17 (4H, m), 7.58-7.60 (4H, m), 7.97-7.98 (1H, m), 8.02 (1H, t, J = 5.5 Hz), 8.29 (1H, d, J = 1.8 Hz) 8.35 (1H, dd, J = 1.8, 8.2 Hz), 8.42 (1H, d, J = 8.2 Hz), 8.71 (2H, s), 8.87(1H, t, J = 5.5 Hz), 10.66 (1H, s)
【0164】
実施例5
ミトコンドリアに集積するタンパク質リガンドとFBnNACを結合した分子(下図)の合成法
【0165】
【化37】
【0166】
Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)で培養したHeLa細胞に、EmGFP-HaloTag-Omp25をコードするプラスミドpEmGFP-HaloTag-Omp25をトランスフェクションし、タンパク質を安定発現させた。ここに終濃度15 μMになるよう(R)-2-acetamido-3-(2-amino-9-(4-fluorobenzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-ylthio)-N-(21-chloro-3,6,9,12,15-pentaoxahenicosyl)propanamideを添加し,37°C / 5%CO2条件でEmGFP-HaloTag-Omp25と4時間反応させて標記化合物を合成した。
pEmGFP-HaloTag-Omp25 配列情報(配列番号1)を図1~2に示す。
【0167】
実施例6
実施例5で合成した化合物によるミトコンドリア分解効果(ミトファジー促進効果)の評価法
EmGFP-HaloTag-Omp25安定発現HeLa細胞をDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)に播種し24時間培養した。細胞を2群にわけ、実験群に終濃度15 μMになるように(R)-2-acetamido-3-(2-amino-9-(4-fluorobenzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-ylthio)-N-(21-chloro-3,6,9,12,15-pentaoxahenicosyl)propanamideを添加し,37°C / 5%CO2条件で4時間インキュベートして実施例5の分子を合成した。このときコントロール群には薬剤を添加せず、実施例5の分子を含まない細胞群とした。次にコントロール群、実験群の双方に対して終濃度10 μMで脱共役剤CCCPを加え4時間インキュベートしてミトコンドリア傷害を誘導した。細胞をPBSで洗浄し,タンパク質分解酵素阻害剤を含む細胞溶解溶液で処理して細胞抽出液を得た。細胞抽出液をSDS-PAGEに供し,ミトコンドリアのマトリックスに存在するタンパク質UQCRC1のレベルをウェスタンブロットによって検出した。コントロール群に対して,実験群の細胞におけるUQCRC1レベルの相対値を活性値とした。内部標準としてアクチンのレベルを用いた。結果を図3に示す。値が1以下となる場合はミトコンドリアタンパク質の分解が促進したことを表す。なお、棒グラフに示すデータは3回の独立した実験における平均±SEM,また,スチューデントt検定におけるP値に関して,p<0.05を*,p<0.01を**,p<0.001を***と示した。
【0168】
実施例7
ミトコンドリア傷害を発生させるため、ここでは代表的な実験条件として脱共役剤CCCPを用いた。CCCPは、ミトコンドリア膜電位の異常を誘導する。
ミトコンドリア傷害に対する実施例5で合成した化合物の細胞保護効果評価法
EmGFP-HaloTag-Omp25安定発現HeLa細胞をDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)に播種し24時間培養した。細胞を2群にわけ、実験群に終濃度15 μMになるように(R)-2-acetamido-3-(2-amino-9-(4-fluorobenzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-ylthio)-N-(21-chloro-3,6,9,12,15-pentaoxahenicosyl)propanamideを添加し,37°C / 5%CO2条件で4時間インキュベートして実施例5の分子を合成した。このときコントロール群には薬剤を添加せず、実施例5の分子を含まない細胞群とした。次にコントロール群、実験群の双方に対して終濃度10 μMで脱共役剤CCCPを加え4時間インキュベートしてミトコンドリア傷害を誘導した。各群の細胞をPBSで洗浄し,4%パラホルムアルデヒドで固定処理をしたのち,市販のTUNELアポトーシス解析キット(AAT Bioquest, Inc.) を使用して細胞生存率を算出した。コントロール群の細胞生存率を100 (%)としたときの各条件での生存率(%)を図4に棒グラフで示した。グラフのレジェンドにおいては、簡便のため実施例5の分子をリガンドと表記した。
【0169】
実施例8
ミトコンドリア傷害に対する実施例3の化合物(R)-2-Acetylamino-3-[2-amino-9-(4-fluoro-benzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-ylsulfanyl]-N-{3-[2-(2-{3-[2-oxo-2-(2-phenyl-1H-indol-3-yl)-acetylamino]-propoxy}-ethoxy)-ethoxy]-propyl}-propionamide(Indole-FBn)の細胞保護効果評価法、およびオートファジー阻害剤(バフィロマイシン A1: Baf A1)による細胞保護効果の阻害確認
【0170】
Indole-FBnとCCCPで細胞を処理する条件(試験群)の細胞生存率
96ウェルプレート内のDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)に30000細胞ずつ播種したHeLa細胞を一晩37oC / 5%CO2条件でインキュベートした。最終濃度1 μMとなるようにIndole-FBnを培地に添加し、さらに10時間インキュベートした。この際、Indole-FBn添加後9時間30分~10時間の30分間にHoechst33342染色による核染色を行った。
【0171】
続いて、終濃度10 μMとなるように脱共役剤CCCPを添加し、さらに2時間インキュベートしてミトコンドリア傷害を誘導した。核にDNA断片化が認められる細胞を死細胞と判定し、次の式により細胞生存率を算出した。
【0172】
細胞生存率(%)=100×(DNA断片化が観察される細胞数)/(全細胞数)
CCCP処理直前の細胞生存率とCCCP処理2時間の細胞生存率を比較できるように棒グラフとして示した。
【0173】
Indole-FBnで細胞を処理しない条件(コントロール群)の細胞生存率
96ウェルプレート内のDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)に30000細胞ずつ播種したHeLa細胞を37oC / 5%CO2条件で1日インキュベートしたのちHoechst33342染色による核染色を行った。続いて、半分のウェルに終濃度10 μMとなるように脱共役剤CCCPを添加し、さらに2時間インキュベートしてミトコンドリア傷害を誘導した(Indole-FBn未処理, CCCP処理条件)。核にDNA断片化が認められる細胞を死細胞と判定し、細胞生存率を算出した。また、CCCP未処理のウェルについても細胞生存率を算出した(Indole-FBn, CCCPともに未処理の条件)。結果を図5に示す。
【0174】
以上の実験結果より、Indole-FBn添加は、ミトコンドリア傷害による細胞死を有意に抑制することが明らかになった。
【0175】
バフィロマイシンA1 (Baf A1)は、リソソーム機能阻害を介してオートファジーを阻害することが知られている。そこで、上述の実験操作においてBaf A1を共存させ、以下のようにオートファジー機構の関与を確認した。DMEM培地中で一晩インキュベートしたHeLa細胞に、Indole-FBn処理の2時間前に、Baf A1を最終濃度200 nMとなるようにあらかじめ添加した。Baf A1を洗浄除去することなくIndole-FBnを培地に添加し、以降は上述の操作にならって実験を行った(Indole-FBn, CCCP, Baf A1の全てで処理する条件)。その結果、CCCP処理条件下においてIndole-FBnが示す細胞保護効果を、オートファジー阻害剤Baf A1が有意に阻害することが明らかになった。
【0176】
棒グラフのデータは3回の独立施行から得られた平均±SEMであり,スチューデントt検定におけるP値に関して,p<0.01を**,p<0.001を***と示した。
【0177】
実施例9
4-[4-(3-{2-[2-(3-{4-[2-Amino-9-(4-fluoro-benzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-yl]-pyrazol-1-yl}-propoxy)-ethoxy]-ethoxy}-propylcarbamoyl)-phenyl]-1-methyl-pyridinium trifluoroactateの合成
【0178】
【化38】
【0179】
フラスコに4-(1-methylpyridinium-4-yl)benzoate(2.00 mg)を入れ、アルゴン雰囲気下でDMF(0.95 mL)、PyBOP(9.84 mg)、DIPEA(4.90 μL)、2-amino-8-[1-(3-{2-[2-(3-amino-propoxy)-ethoxy]-ethoxy}-propyl)-1H-pyrazol-4-yl]-9-(4-fluoro-benzyl)-1,9-dihydro-purin-6-one(4.95 mg)を加え、室温で8時間攪拌した。反応混合物をHPLC(5C18-AR-II, 移動相:水/アセトニトリル(0.1% TFA含有系))で精製し、標題化合物 (1.75 mg)を得た。
HRMS:
Calcd for C38H43FN9O5 [M-CF3COO-]+: 724.3366, found 724.3366
1H NMR (600 MHz, methanol-d4) δ 1.89-1.85 (2H, quin, J = 6.42 Hz), 2.07-2.03 (2H, quin, J = 6.42 Hz), 3.35-3.33 (2H, t, J = 5.52 Hz), 3.50-3.47 (4H, m), 3.64-3.57 (8H, m), 4.29-4.26 (2H, t, J = 6.9 Hz), 4.42 (3H, s), 5.50 (2H, s), 7.09-7.04 (2H, t, J = 8.7 Hz), 7.18-7.16 (2H, d, J = 5.52 Hz), 7.84 (1H, s), 8.01-8.00 (2H, d, J = 6.9 Hz), 8.05-8.03 (2H, d, J = 6.9 Hz), 8.08 (1H, s), 8.40 (2H, d, J = 6.72 Hz), 8.90 (2H, d, J = 6.9 Hz)。
【0180】
実施例10
N-(3-{2-[2-(3-{4-[2-Amino-9-(4-fluoro-benzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-yl]-pyrazol-1-yl}-propoxy)-ethoxy]-ethoxy}-propyl)-2-oxo-2-(2-phenyl-1H-indol-3-yl)-acetamideの合成
【0181】
【化39】
【0182】
HRMS:
フラスコにoxo-(2-phenyl-1H-indol-3-yl)-acetic acid (7.5 mg)、2-amino-8-[1-(3-{2-[2-(3-amino-propoxy)-ethoxy]-ethoxy}-propyl)-1H-pyrazol-4-yl]-9-(4-fluoro-benzyl)-1,9-dihydro-purin-6-one (15 mg)を入れ、アルゴン雰囲気下でDMF (2.8 mL)、PyBOP (22 mg)、DIPEA (15 μL)を加え、室温で13時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮して得られた残渣をHPLC (5C18-AR-II, 移動相:水/アセトニトリル (0.1%TFA含有))で精製し、標題化合物 (9.5 mg)を得た。
Calcd for C41H42FN9O6 [M+H]+: 776.3315, found 776.3315
1H NMR (600 MHz, methanol-d4) δ 1.51 (2H, quin, J = 6.4 Hz), 2.05 (2H, quin, J = 6.4 Hz), 2.92 (2H, t, J = 6.8 Hz), 3.32 (2H, t, J = 5.9 Hz), 3.41 (2H, t, J = 5.9 Hz), 3.44-3.46 (2H, m), 3.52-3.54 (4H, m), 3.55-3.57 (2H, m), 4.27 (2H, t, J = 6.8 Hz), 5.47 (2H, s), 7.02-7.07 (2H, m), 7.17-7.21 (3H, m), 7.23- 7.25 (1H, m), 7.42-7.49 (4H, m), 7.54-7.56 (2H, m), 7.88 (1H, s), 8.08-8.10 (1H, m), 8.19 (1H, s)。
【0183】
実施例11
{9-[4-(3-{2-[2-(3-{4-[2-amino-9-(4-fluoro-benzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-yl]-pyrazol-1-yl}-propoxy)-ethoxy]-ethoxy}-propylcarbamoyl)-2-carboxy-phenyl]-6-dimethylamino-xanthen-3-ylidene}-dimethyl-ammonium trifluoroacetateの合成
【0184】
【化40】
【0185】
フラスコに [9-(2,4-dicarboxy-phenyl)-6-dimethylamino-xanthen-3-ylidene]-dimethyl-ammonium trifluoroacetate (4.4 mg)、2-amino-8-[1-(3-{2-[2-(3-amino-propoxy)-ethoxy]-ethoxy}-propyl)-1H-pyrazol-4-yl]-9-(4-fluoro-benzyl)-1,9-dihydro-purin-6-one (4.2 mg)を入れ、アルゴン雰囲気下でDMF (0.8 mL)、PyBOP (9.4 mg)、DIPEA (6.3 μL)を加え、室温で5時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮して得られた残渣をHPLC (5C18-AR-II, 移動相:水/アセトニトリル (0.1%TFA含有))で精製し、標題化合物 (1.6 mg)を得た。
HRMS:
Calcd for C50H54FN10O8 [M-CF3COO-]+: 941.4105, found 941.4105
1H NMR (600 MHz, methanol-d4) δ 1.92 (2H, quin, J = 6.4 Hz), 2.06 (2H, quin, J = 6.4 Hz), 3.30-3.32 (12H, m), 3.34-3.36 (2H, m), 3.50-3.55 (4H, m), 3.60-3.66 (8H, m), 4.30 (2H, t, J = 6.4 Hz), 5.52 (2H, s), 6.97 (2H, d, J = 2.3 Hz), 7.02-7.12 (6H, m), 7.19-7.22 (2H, m), 7.52 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.88 (1H, s), 8.18 (1H, s), 8.23 (1H, dd, J = 1.8, 5.9 Hz), 8.73 (1H, d, J = 1.8 Hz)。
【0186】
実施例12
(R)-N1-(4-(3-amino-6-(thiophen-2-yl)-4-(trifluoromethyl)thieno[2,3-b]pyridine-2-carbonyl)phenyl)-N2-(4-(((2-amino-9-(4-fluorobenzyl)-6-oxo-6,9-dihydro-1H-purin-8-yl)thio)methyl)-2,5-dioxo-10,13,16-trioxa-3,6-diazanonadecan-19-yl)oxalamide の合成
【0187】
【化41】
【0188】
フラスコに3-(3-{2-[2-(3-amino-propoxy)-ethoxy]-ethoxy}-propylamino)-N-[4-(3-amino-6-thiophen-2-yl-4-trifluoromethyl-thieno[2,3-b]pyridine-2-carbonyl)-phenyl]-2-oxo-propionamide(1.6 mg)を入れ、アルゴン雰囲気下にてDMF(45 μL)、TEA(0.7 μL)、FBnNAC(1.0 mg)を加えた。室温で5時間撹拌した後、PyBOP(2.9 mg)、TEA(0.7 μL)を追加し、終夜撹拌した。反応混合物をHPLC(5C18-AR-II, 移動相:水/アセトニトリル(0.1 %TFA含有))で精製し、表題化合物(1.1 mg)を得た。
HRMS:
Calcd for C48H49FN11O9S3 [M+H]+ : 1096.2891, found 1096.2892
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ1.57-1.62 (2H, quin, J = 6.9 Hz), 1.72-1.76 (2H, quin, J = 7.2 Hz), 1.82 (3H, s), 3.26-3.45 (18H, m), 4.42-4.46 (1H, m), 5.06 (2H, s), 6.52 (2H, brs), 7.12-7.15 (2H, m), 7.18-7.20 (2H, m), 7.26-7.27 (1H, dd, J = 3.67, 5.04 Hz), 7.73 (2H, brs), 7.86-7.87 (1H, dd, 0.92, 5.04 Hz), 7.82-7.84 (2H, d, J = 8.71 Hz), 8.00-8.01 (2H, d, J = 8.71 Hz), 8.03 (1H, t, J = 5.61 Hz), 8.26-8.27 (1H, dd, J = 0.91, 3.66 Hz), 8.33 (1H, s), 8.40-8.41 (1H, d, J = 8.25 Hz), 9.03 (1H, t, J = 6.00 Hz), 10.64 (1H, s), 10.94 (1H, s)。
【0189】
実施例13
Indole-FBnは傷害を受けたミトコンドリアの分解を促進する(生細胞イメージング法)
Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM)で培養したHeLa細胞に,ミトコンドリア外膜上に局在するEmGFP-HaloTag-Omp25融合タンパク質をコードする遺伝子配列を含んだプラスミドpEmGFP-HaloTag-Omp25をトランスフェクションし,タンパク質を安定発現させた。この結果、細胞内のミトコンドリアは緑色蛍光を指標に観察できた。
【0190】
ここに,赤色蛍光色素MitoTracker Red CMXRos (Thermo Fisher Scientific, M7513)を添加し, 30分間インキュベートしてミトコンドリアを染色した。この段階で細胞内のミトコンドリアはEmGFP-HaloTag-Omp25とMitoTracker Red CMXRosにより2色で染色された。続いて培地中のMitoTracker Red CMXRosを培地交換によって除去した。この操作以降に生合成されるミトコンドリアは、緑色蛍光でのみ検出でき、赤色蛍光では検出されないことになる。この違いを利用して、ミトコンドリアの分解過程を生細胞イメージングによって観察した。
【0191】
細胞を2群に分け,実験群に終濃度10 μMとなるようにIndole-FBnを添加した。コントロール群には、Indole-FBn を添加しなかった。長時間定点を生細胞観察するため,培養容器は,蛍光顕微鏡 (KEYENCE, BX9000) に設置したステージトップインキュベーター(37℃,5%CO2)に固定し,以後の操作はすべて顕微鏡上で行った。Indole-FBnを添加してから10時間後,実験群とコントロール群に同時に10 μMのCCCPを添加し,インキュベートを続けた。
【0192】
Indole-FBnを添加した時刻 (-10 h),CCCPを添加した時刻 (0 h),CCCP添加後2時間 (+2 h),4時間 (+8 h),16時間 (+16 h) におけるEmGFP-HaloTag-Omp25とMitoTracker Red CMXRosのシグナルを図に示した。グラフは,図に示した写真におけるEmGFP-HaloTag-Omp25(緑色蛍光)とMitoTracker Red CMXRos(赤色蛍光)のシグナルの強度を,それぞれ-10 hの時点の強度を1として相対値で示したものである。画像解析はImageJ (National Institutes of Health) により行った。結果を図6及び図7に示す。
【0193】
グラフよりIndole-FBn処理群の細胞において、CCCP添加後(2 h, 8 h)に緑色、赤色のシグナル強度が低下した。これはCCCP添加時に傷害を受けたミトコンドリアが分解されたことを示している。また、CCCP添加後8時間後と16時間後のグラフを比較すると、Indole-FBn処理群においてのみ、緑色蛍光強度が増加し、ミトコンドリアが新生していることが示された。
【0194】
以上の生細胞イメージング実験より、Indole-FBnは傷害を受けたミトコンドリアの除去と、ミトコンドリア新生をともに促進することが示された。
【0195】
実施例14
JC-1染色
ダウン症患者包皮由来線維芽細胞であるDetroit532細胞をEagle’s Minimum Essential Mediumで培養した。細胞を2群に分け,実験群には終濃度10 μMの化合物(Indole-FBn)を添加し,コントロール群には添加せずに3日間インキュベートした (37℃,5%CO2) 。各群の細胞をJC-1 (abcam, 113850) でそれぞれ染色した。
【0196】
JC-1色素は,正常な膜電位を有するミトコンドリアに集積して、赤色の蛍光を発する。一方,異常な膜電位ミトコンドリアからは局在が失われるとともに緑色蛍光を発する。すなわち,JC-1染色像において、「緑色/赤色の蛍光強度比」が小さいほど、ミトコンドリアの膜電位がより正常に保たれている。染色像をImageJ (National Institute of Health) により解析し,「緑色/赤色の蛍光強度比」を図示した。結果を図8に示す。エラーバーは3回の独立した実験データから得られた標準偏差を示した。
この結果は、ダウン症由来細胞など疾患により低下したミトコンドリア品質が、化合物の添加により有意に改善することを示す。
【0197】
実施例15
ダウン症患者由来Detroit532細胞における、Indole-FBnのミトファジー誘導評価
実施例14におけるIndole-FBn化合物処理が、ミトコンドリアの分解(ミトファジー)を誘導することを確認するため、Mitophagy detection kitであるMtphagy dye (Dojindo, MD01)を用いて解析した。この試薬を用いると、蛍光顕微鏡下において、ミトファジー分解を受けているミトコンドリアを選択的に輝点として検出できる。細胞当たりの輝点数が多いほど、ミトファジーが活発に起きていることを示す。
【0198】
Detroit532細胞にMtphagy dyeを添加した。添加30分後にMtphagy dyeを洗浄除去し,新しい培地に交換するとともに終濃度10 μMのIndole-FBnGを添加した。一方,DMSOを処理した細胞群をコントール群とした。Indole-FBn添加24時間後にMtphagy Dyeの輝点を蛍光顕微鏡で観察した(図9)。写真は,Indole-FBn処理直後(0時間)と24時間後にコントロール群と薬剤投与群の細胞を撮影したものである。両群の25細胞をそれぞれ観察し、細胞あたりのMtphagy Dye輝点(Mitophagy dot)の数を縦軸として白丸でプロットした。コントロール群と薬剤投与群について Wilcoxon検定を行いp<0.01を**と表記した。
【0199】
実施例16
ミトコンドリア傷害に対するIndole-FBnPYR(実施例10)の細胞保護効果評価
HeLa細胞をDulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)に播種し24時間培養した。細胞を2 群に分け、実験群に終濃度0.1 μMになるようにIndole-FBnPYRを添加し、37°C/ 5% CO2条件で4時間インキュベートした。このとき、コントロール群にはIndole-FBnPYRを添加せず、薬剤を含まない細胞群とした。次にコントロール群、実験群の双方に対して、終濃度10μMの脱共役剤CCCPを加え10時間インキュベートしてミトコンドリア傷害を誘導した。各群の細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定処理したのち、TUNELアポトーシス解析キット(Promega, DeadEnd Fluorometric TUNEL System)を使用して細胞生存率(Cell viability)を算出した。結果を図10に示す。
エラーバーは、標準誤差(n=3)を表す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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