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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】ペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20231023BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20231023BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 47/66 20170101ALI20231023BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C07K7/08
C07K14/00
C12N15/63 Z
A61K47/66
A61P35/00
A61K45/00
A61K49/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020517061
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017629
(87)【国際公開番号】W WO2019212031
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2018088811
(32)【優先日】2018-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業、「残存病変、転移・再発巣を掃討する腫瘍高度集積性PDC(peptide drug conjugate)の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】近藤 英作
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/086090(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0130249(KR,A)
【文献】国際公開第2014/086835(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/164684(WO,A1)
【文献】特表2015-504073(JP,A)
【文献】特表2017-526742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなり、消化器系の癌細胞又は癌組織への集積性を有するペプチド。
【数1】
(一般式(I)中、X11配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチド残基である;
11はアミノ酸数1以上以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である;
12は、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、そのレトロインバーソ型ペプチド残基である。n11は1以上以下の整数である。)
【請求項2】
以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなり、消化器系の癌細胞又は癌組織への集積性を有するペプチド。
【数2】
(一般式(I)中、X11配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるペプチド残基である;
11はアミノ酸数1以上以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である;
12は、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド残基である。n11は1以上以下の整数である。)
【請求項3】
前記Y11がアミノ酸数1以上以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、システイン残基又はリシン残基である請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号18,19、27、28のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
配列番号21、29、30、31のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる請求項2に記載のペプチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のペプチドをコードする核酸。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のペプチド及び生理活性物質を含むペプチド-ドラッグ-コンジュゲート。
【請求項8】
請求項7に記載のペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む医薬組成物。
【請求項9】
消化器系の癌治療用である請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
膵癌治療用である請求項8又は9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記生理活性物質が抗癌剤である請求項8~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか一項に記載のペプチド及び標識物質を含む標識ペプチド。
【請求項13】
前記標識物質が安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質である請求項12に記載の標識ペプチド。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の標識ペプチドを含むイメージング組成物。
【請求項15】
消化器系の癌用である請求項14に記載のイメージング組成物。
【請求項16】
膵癌診断用である請求項14又は15に記載のイメージング組成物。
【請求項17】
請求項6に記載の核酸を有するベクター。
【請求項18】
請求項6に記載の核酸及び生理活性物質をコードする核酸を有するペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクター。
【請求項19】
請求項6に記載の核酸及び標識物質をコードする核酸を有する標識ペプチド発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド及びその使用に関する。具体的には、本発明は、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を有するペプチド、前記ペプチドをコードする核酸、前記ペプチドを含むペプチド-ドラッグ-コンジュゲート、前記ペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む医薬組成物、前記ペプチドを含む標識ペプチド、前記標識ペプチドを含むイメージング組成物、並びに、前記核酸を有するベクター、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクター、及び標識ペプチド発現ベクターに関する。本願は、2018年5月2日に、日本に出願された特願2018-088811号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
膵癌(浸潤性膵管癌)は、平均生存期間が診断後約6か月前後であり、悪性腫瘍の中でも最も難治である。厚生労働省発表の人口動態統計によると、膵癌による年間死亡者数は年々増加し、平成28年(2016年)統計では33475人である。また、膵癌による死亡は全癌死の9%を占め、肺癌、大腸癌、胃癌についで第4位である。全国膵癌登録調査報告(2007年度)によると、膵癌の切除可能症例は全症例の約40%で、さらに切除症例の3年生存率は23.2%と低い。
【0003】
膵癌の治療が困難な理由として、自覚症状が少ないため早期発見が難しく、大多数の症例において、発見時にはすでに手術適応が無いか又は姑息的手術に限定された進行癌の状態である。また、治療が困難な他の理由として、浸潤性膵管癌の組織構築が背景に強い線維化を伴う硬癌(スキルス癌)であること、膵癌細胞自身が増殖能や薬剤抵抗能の高い生物学的に高悪性度のものであること、さらに膵癌は早期から浸潤又は転移しやすい性質を有すること等が挙げられる。高度の線維化を伴う膵癌に特徴的な間質は抗癌剤の癌細胞への十分な浸透を妨げるバリアとなっており、上記に列挙した問題点と総合して、このような状態を大きく改善する有効な抗癌剤は現在のところ存在せず、将来の開発が期待されるところである。
【0004】
ところで、ペプチドをバイオマテリアルとして活用した医療分野での動向において、Tat、Penetratin、poly-arginin等の細胞膜透過性(細胞吸収性)ペプチドが着目されている。しかしながら、これらのペプチドは、正常細胞又は正常組織と腫瘍細胞又は腫瘍組織との区別なく広汎且つ非選択的に吸収される。そのため、標的選択的な薬剤輸送を要求する、固形癌をはじめとする患者悪性腫瘍の治療DDS(Drug delivery system)ツールに応用することは、重篤な副作用を惹起する点で利用困難である。特に、世界的に実験系で汎用されているTat等の細胞膜透過性(細胞吸収性)ペプチドは、肝臓に集積を引き起こす性質が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
これに対して、cyclic RGDは、唯一医薬化されているペプチドである。cyclic RGDは、新生血管又は既存血管を構成する血管内皮細胞(及び一部の腫瘍細胞)で高発現することが報告されているαvβ3インテグリンを標的としており、血管透過性亢進にその作用点を持っており、EPR(enhanced permeability and retention)効果(血管を介する物質の拡散効果)の増強による薬剤輸送効果を期待できる。そのため、cyclic RGD単独ではなく、他の医薬との同時併用の形でイメージング剤やDDS剤として応用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、cyclic RGDの癌細胞自身への浸透性及び作用は非常に低く、あくまでも血管を介する薬剤の拡散効果を主としており、腫瘍組織の構築(血管の発達及び分布)に大きく依存するシステムである。これらのことから、癌細胞自身の直接的な殺傷による制癌治療を目的とした場合には十分な効果が期待できない。
【0006】
以上のような課題を解決するために、発明者らは、これまで、膵癌細胞又は膵癌組織に直接作用し、高度にシフトした吸収性により直接腫瘍に作用する(取り込まれる)ペプチドを開発している(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
一般に、数個から二十個前後程度のアミノ酸からなるオリゴペプチドは、生体内において、ヒト血漿中や細胞内に存在する多種類のタンパク分解酵素による急速な分解、代謝及び排泄を受けやすく、投与生体内では数分~数十分以内に消失することが知られており、この易分解性がペプチドを実用医薬として生体に応用する場合の大きな課題とされている。実際に、特許文献2に記載のペプチドは、膵癌細胞又は膵癌組織への高度の集積性を有するが、血漿存在下では投与後数分以内に構成アミノ酸の分解が始まり、20分程度で完全に変性を起こすため、実用的視点に基づく生体内での分解耐性の面で、改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5721140号公報
【文献】国際公開第2017/086090号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Vives E., et al., A Truncated HIV-1 Tat Protein Basic Domain Rapidly Translocates through the Plasma Membrane and Accumulates in the Cell Nucleus, J. Biol. Chem., 272, 16010-16017, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の医療上の実用化に対する重大な課題の現状に鑑みてなされたものであって、膵癌を含む消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性、及び、生体内での優れた分解耐性を有する新規のペプチド、前記ペプチドをコードする核酸、前記ペプチドを含むペプチド-ドラッグ-コンジュゲート、前記ペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む医薬組成物、前記ペプチドを含む標識ペプチド、前記標識ペプチドを含むイメージング組成物、並びに、前記核酸を有するベクター、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクター、及び標識ペプチド発現ベクターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アミノ酸配列とそれに基づくペプチドデザインを最適化した新規のペプチドが、膵癌細胞又は膵癌組織のみにとどまらず、消化器系の癌細胞又は癌組織についても、高度の集積性を保ちながら、生体内での卓越した分解耐性及び作用持続性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係るペプチドは、以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなり、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を有する。
【0013】
【数1】
【0014】
(一般式(I)中、X11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基である;
(a)配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含むアミノ酸配列;
11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である;
12は、前記(a)若しくは前記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。n11は1以上9以下の整数である。)
【0015】
上記第1態様に係るペプチドにおいて、前記Y11がアミノ酸数1以上10以下のペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、システイン残基又はリシン残基であるペプチドリンカーであってもよい。
上記第1態様に係るペプチドにおいて、前記n11が1以上4以下の整数であってもよい。
上記第1態様に係るペプチドにおいて、前記X11及び前記X12が同一のアミノ酸配列からなるペプチド残基である、又は、前記X12が前記X11のレトロインバーソ型ペプチド残基であってもよい。
上記第1態様に係るペプチドは、配列番号15~31のいずれかに示されるアミノ酸配列からなってもよい。
【0016】
本発明の第2態様に係る核酸は、上記第1態様に係るペプチドをコードする。
【0017】
本発明の第3態様に係るペプチド-ドラッグ-コンジュゲートは、上記第1態様に係るペプチド及び生理活性物質を含む。
【0018】
本発明の第4態様に係る医薬組成物は、上記第3態様に係るペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む。
上記第4態様に係る医薬組成物は、消化器系の癌治療用であってもよい。
上記第4態様に係る医薬組成物は、膵癌治療用であってもよい。
前記生理活性物質が抗癌剤であってもよい。
【0019】
本発明の第5態様に係る標識ペプチドは、上記第1態様に係るペプチド及び標識物質を含む。
前記標識物質が安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質であってもよい。
【0020】
本発明の第6態様に係るイメージング組成物は、上記第5態様に係る標識ペプチドを含む。
上記第6態様に係るイメージング組成物は、消化器系の癌用であってもよい。
上記第6態様に係るイメージング組成物は、膵癌診断用であってもよい。
【0021】
本発明の第7態様に係るベクターは、上記第2態様に係る核酸を有する。
【0022】
本発明の第8態様に係るペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクターは、上記第2態様に係る核酸及び生理活性物質をコードする核酸を有する。
【0023】
本発明の第9態様に係る標識ペプチド発現ベクターは、上記第2態様に係る核酸及び標識物質をコードする核酸を有する。
【発明の効果】
【0024】
上記態様のペプチドは、消化器系の癌細胞又は癌組織(特に、膵癌細胞又は膵癌組織)への高度の集積性、及び、生体内での優れた分解耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】参考例1におけるPCPP11を用いたヒト血漿による分解試験のMALDI-TOFMS法の分析結果を示すグラフである。
図2】試験例1におけるLLペプチドを用いたヒト血漿による分解試験のMALDI-TOFMS法の分析結果を示すグラフである。
図3】試験例1におけるLLLペプチドを用いたヒト血漿による分解試験のMALDI-TOFMS法の分析結果を示すグラフである。
図4】試験例1におけるFAM-Lペプチドを用いたヒト血漿による分解試験のMALDI-TOFMS法の分析結果を示すグラフである。
図5】試験例1におけるLdペプチドを用いたヒト血漿による分解試験のMALDI-TOFMS法の分析結果を示すグラフである。
図6】試験例1におけるNmLdペプチドを用いたヒト血漿による分解試験のMALDI-TOFMS法の分析結果を示すグラフである。
図7】試験例1における各種ペプチドの分解耐性を比較したグラフである。
図8A】試験例2におけるFAM-PCPP11(FAM-Lペプチド)、FAM-LLペプチド及びFAM-Ldペプチドを添加した各種細胞の蛍光顕微鏡像である。
図8B】試験例2におけるFAM-PCPP11(FAM-Lペプチド)及びFAM-LLペプチドを添加した各種膵癌細胞及びその他癌細胞で検出された蛍光を定量化し、それぞれのペプチドを添加したヒト非小細胞肺癌系の腺癌由来の細胞株であるH2110細胞で検出された蛍光を1.0としたときの各細胞で検出された蛍光強度の割合を示すグラフである。
図8C】試験例2におけるFAM-PCPP11(FAM-Lペプチド)、FAM-LLペプチド及びFAM-NmLLペプチドを添加した各種細胞の蛍光顕微鏡像である。
図9A】試験例3における各蛍光標識型ペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの腫瘍表面、腫瘍切片、肝臓切片及び肺切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図9B】試験例3における各蛍光標識型ペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図10A】試験例3におけるFAM-PCPP11(FAM-Lペプチド)を投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織での蛍光強度を比較したグラフである。
図10B】試験例3におけるFAM-LLペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織での蛍光強度を比較したグラフである。
図10C】試験例3におけるFAM-LLLペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織での蛍光強度を比較したグラフである。
図10D】試験例3におけるFAM-Ldペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織での蛍光強度を比較したグラフである。
図11】試験例3における各蛍光標識型ペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの腫瘍での蛍光強度を比較したグラフである。
図12A】試験例3におけるFAM-Ldペプチド又はNmLd-FAMペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図12B】試験例3におけるFAM-Ldペプチド又はNmLd-FAMペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの腫瘍での蛍光強度を比較したグラフである。
図13A】試験例3におけるFAM-NmLdペプチド又はNmLd-FAMペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの腫瘍表面及び腫瘍切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図13B】試験例3におけるFAM-NmLdペプチド又はNmLd-FAMペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの腫瘍での蛍光強度を比較したグラフである。
図14A】参考例2におけるフルオレセイン27μg又は200μgを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各織切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図14B】参考例2におけるフルオレセイン27μg又は200μgを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織での蛍光強度を比較したグラフである。
図15A】試験例4におけるペプチド(LLペプチド)-ドラッグ(抗腫瘍剤であるドキソルビシン)-コンジュゲート(PDC)の構造の概略構成図である。
図15B】試験例4におけるドキソルビシン単独又はPDCを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの全体像(左)、並びに、腫瘍表面の明視野像(中央)及び蛍光像(右)である。
図15C】試験例4におけるドキソルビシン単独又はPDCを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図16】参考例3におけるPCPP11及びその部分欠失ペプチドを添加した各種細胞の蛍光顕微鏡像である。
図17】試験例5における各種ペプチドを添加した各種細胞の蛍光顕微鏡像である。
図18A】試験例6におけるFAM-LLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウスの腫瘍の明視野像(左及び真ん中)、並びに蛍光像(右)である。
図18B】試験例6におけるFAM-LLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウスから摘出された各組織及び腫瘍組織の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図18C】試験例6におけるFAM-LLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウスから摘出された各種腫瘍組織の明視野像(左)及び暗視野像(右)である。上段は表面の撮像であり、下段は切片の撮像である。
図18D】試験例6におけるヒト浸潤性膵管癌(PDAC)細胞とヒト間葉系幹細胞(hMSC)とから形成された腫瘍組織のヘマトキシリン-エオジン(HE)染色像(左)及び蛍光像(右)である。
図18E】試験例6におけるヒトPDAC細胞とhMSCとから形成された腫瘍組織のHE染色像である。
図18F】試験例6におけるヒトPDAC細胞とhMSCとから形成された腫瘍組織の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図19A】試験例7におけるスキルス膵癌モデルマウス(BxPC3細胞使用)の腫瘍の明視野像である。
図19B】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(BxPC3細胞使用)から摘出された各組織及び腫瘍組織の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図19C】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(BxPC3細胞使用)の主病巣の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図19D】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(BxPC3細胞使用)の肝転移巣の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図19E】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(BxPC3細胞使用)の肝転移巣の切片のHE染色像(左)及び蛍光像(右)である。
図19F】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(BxPC3細胞使用)の腸間膜リンパ節転移巣の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図20A】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(MIA-Paca2細胞使用)から摘出された各組織及び腫瘍組織の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図20B】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(MIA-Paca2細胞使用)の肝転移巣の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図20C】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(MIA-Paca2細胞使用)の肝転移巣の切片のHE染色像(左)及び蛍光像(右)である。
図21】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(AsPC1細胞使用)の肝転移巣及び腸間膜リンパ節転移巣の蛍光像である。肝転移巣の蛍光像において、右側の画像は左側の画像の拡大像である。
図22A】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(Capan-2細胞使用)から摘出された各組織及び腫瘍組織の蛍光像である。
図22B】試験例7におけるFAM-NmLLペプチドを投与したスキルス膵癌モデルマウス(Capan-2細胞使用)の肝転移巣の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図23】試験例8における各種ペプチドを添加した各種細胞の蛍光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
≪消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を有するペプチド≫
本実施形態のペプチドは、以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなり、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を有する。
【0027】
【数2】
【0028】
(一般式(I)中、X11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基である;
(a)配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含むアミノ酸配列;
11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である;
12は、前記(a)若しくは前記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。n11は1以上9以下の整数である。)
【0029】
発明者らがこれまで開発してきたPCPP11ペプチド(例えば、国際公開第2017/086090号参照)(以下、単に「PCPP11」と称する場合がある)は、正常組織及び正常細胞に比較して、膵癌細胞又は膵癌組織へ高度にシフトした集積性を有するが、実用化に際する生体内での安定性(分解耐性)に課題を有していた。この課題を解決するために、後述の実施例に示すように、PCPP11の分解試験により得られた分解産物を解析することで、アミノ酸配列とそれに基づくペプチドデザインを最適化し、膵癌細胞又は膵癌組織を含む消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を保ちながら、生体内での卓越した分解耐性及び作用持続性を有する新規のペプチドを見出し、本発明を完成するに至った。
【0030】
本明細書において、「消化器系の癌」とは、消化器から発生した悪性腫瘍を意味する。
消化器系の癌として具体的には、例えば、食道癌、胆道癌、肝細胞癌、膵癌、胃癌、大腸癌等が挙げられる。
また、「胆道癌」とは、胆管癌、胆嚢癌及び十二指腸乳頭部癌胆管癌からなる癌を意味する。さらに、胆管癌とは、胆管の上皮から発生する悪性腫瘍を意味し、その発生した胆管の部位により、肝外胆管癌である肝門部領域胆管癌及び遠位胆管癌、並びに、肝内胆管癌(胆管細胞癌)に分けることができる。胆嚢癌とは、胆嚢と胆嚢管から発生する悪性腫瘍を意味する。十二指腸乳頭部は、乳頭部胆管、乳頭部膵管、共通管部、大十二指腸乳頭から構成されており、十二指腸乳頭部癌とは、上述の部位に発生した癌を意味する。また、病理組織学的分類では、腺癌、腺扁平上皮癌、肝内胆管細胞癌を指す。
また、「膵癌」とは、膵臓から発生した腫瘍を意味し、膵臓癌とも言う。
膵臓は、膵液を産生する腺房、膵液を運ぶ膵管、及び、内分泌腺であるランゲルハンス島等からなっており、癌はいずれの組織からも発生しうるが、それぞれ全く異なる性質を示す腫瘍となる。膵癌(膵臓癌)の種類としては、例えば、浸潤性膵管癌(Invasive ductal carcinoma)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal papillary mucinous neoplasm;IPMN)、膵管内管状乳頭腫瘍(Intraductal tubulopapillary neoplasm;ITPN)、膵内分泌腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、腺房細胞癌、漿液性嚢胞腺癌、転移性膵癌等が挙げられる。中でも、浸潤性膵管癌は膵臓にできる腫瘍性病変の80~90%を占めている。
また、膵癌のうち、浸潤性膵管癌と、上記胆道癌とは、癌の発生及び進行の仕組みが類似していることが知られている。
【0031】
本実施形態のペプチドは、上述した消化器系の癌のうち、特に、胃癌、膵癌及び胆道癌の細胞又は組織への高度の集積性を有する。また、前立腺癌の細胞又は組織についても、同様の高度の集積性を有することが発明者らにより確認されている。よって、本実施形態のペプチドは、これらの癌の細胞表面に共通して存在する特定の受容体を標的としていると推察される。さらに、本実施形態のペプチドは、後述する実施例に示すように、膵癌、特に、膵内分泌腫瘍と転移性膵癌を除く膵癌細胞又は膵癌組織への適用が最適である。そのため、後述するように、本実施形態のペプチドを送達剤として使用することで、実際の消化系の癌患者(特に、膵癌患者)におけるほとんどの症例の癌細胞又は癌組織を高感度且つ選択的に検出することができる。さらに、消化器系の癌(特に、膵癌)を治療することができる。また、中でも、膵臓にできる腫瘍性病変として最も高頻度のものという観点から、本実施形態のペプチドは、浸潤性膵管癌に対して適用することが最も好ましい。
【0032】
本明細書において、「消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性」とは、生体内の正常組織及び他の系統の悪性腫瘍細胞と比較して、消化器系の癌細胞又は癌組織(特に、膵癌細胞又は膵癌組織)内に高度に吸収され、集積する性質を意味する。
【0033】
<アミノ酸配列(I)>
本実施形態のペプチドは、以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列(以下、「アミノ酸配列(I)」と称する場合がある)からなる。
【0034】
【数3】
【0035】
[X11
一般式(I)中、X11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基である。
(a)配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含むアミノ酸配列
【0036】
上記(a)における配列番号1、2又は3に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
RXPTTWHKP (配列番号1)
AXXYTWIRA (配列番号2)
RXWRQCRWR (配列番号3)
【0037】
なお、配列番号1におけるXは、R(アルギニン残基)又はmR(メチル化アルギニン残基)である。すなわち、配列番号1に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
RRPTTWHKP (配列番号4)
RmRPTTWHKP (配列番号5)
【0038】
また、配列番号2におけるXは、R(アルギニン残基)又はmR(メチル化アルギニン残基)である。すなわち、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
ARRYTWIRA (配列番号6)
AmRRYTWIRA (配列番号7)
ARmRYTWIRA (配列番号8)
AmRmRYTWIRA (配列番号9)
【0039】
また、配列番号3におけるXは、A(アラニン残基)又はmA(メチル化アラニン残基)である。すなわち、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
RAWRQCRWR (配列番号10)
RmAWRQCRWR (配列番号11)
【0040】
一般式(I)中、X11は、上記(a)のアミノ酸配列からなるペプチド残基と機能的に同等なペプチド残基として、下記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基であってもよい。
(b)配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含むアミノ酸配列
【0041】
なお、本明細書中において、「置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本実施形態の製造方法で得られるポリペプチドの属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン及びヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン及びトレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン及びメチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン及びグルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン)等で分類することができる。一般的に起こり得るアミノ酸の置換としては、例えば、アラニン/セリン、バリン/イソロイシン、アスパラギン酸/グルタミン酸、トレオニン/セリン、アラニン/グリシン、アラニン/トレオニン、セリン/アスパラギン、アラニン/バリン、セリン/グリシン、チロシン/フェニルアラニン、アラニン/プロリン、リシン/アルギニン、アスパラギン酸/アスパラギン、ロイシン/イソロイシン、ロイシン/バリン、アラニン/グルタミン酸、アスパラギン酸/グリシン等が挙げられる。
【0042】
より具体的には、例えば、配列番号1又は4に示されるアミノ酸配列において、N末端から1番目のアルギニンがグリシン、アラニン、リシン、セリン、トレオニン又はヒスチジン、C末端から2番目のリシンがグリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、セリン又はトレオニン、C末端から1番目のプロリンをグリシン、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、ロイシン又はイソロイシン等への置換が想定される。
【0043】
上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基として具体的には、例えば、配列番号13又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるペプチド残基等が挙げられる。後述する実施例に示すように、配列番号4で示されるアミノ酸配列において、「R-P-T-T-W-H」(配列番号12)からなるアミノ酸残基が消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性に必須である。そのため、X11が配列番号13又は配列番号14に示されるアミノ酸配列からなるペプチド残基であることで、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を発揮することができる。
RPTTWHKP(配列番号13)
RRPTTWH(配列番号14)
【0044】
また、上記(a)又は上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基は、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又は、これらの組み合わせからなるものであってもよい。中でも、X11はL-アミノ酸からなるペプチド残基であることが好ましい。
L-アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であり、D-アミノ酸は、L-アミノ酸残基のキラリティーが反転しているものである。また、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性を高めるために、又は、他の物性を最適化するために上記(a)又は上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基を構成するアミノ酸残基は、メチル化等の化学的修飾を受けていてもよい。
【0045】
[X12
一般式(I)中、X12は、上記(a)もしくは上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。
本明細書において、「レトロインバーソ型ペプチド残基」とは、アミノ酸配列が逆転し、且つ、鏡像異性体アミノ酸残基によって置換されているペプチド残基を意味する。
【0046】
中でも、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性をより高める観点から、X12は、X11と同一のアミノ酸配列からなるペプチド残基であることが好ましい。又は、生体内でのより優れた分解耐性を発揮する観点から、X12は、X11のレトロインバーソ型ペプチド残基であることが好ましい。
【0047】
[Y11
一般式(I)中、Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーである。Y11を構成する前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である。Y11におけるアミノ酸数は、1以上5以下であり、1以上3以下が好ましく、1がより好ましい。
中でも、Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基はそれぞれ独立して、グリシン残基、システイン残基又はリシン残基であることが好ましく、アミノ酸数1のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基はグリシン残基、システイン残基又はリシン残基であることがより好ましい。Y11を構成する前記アミノ酸残基がシステイン残基又はリシン残基である場合には、システイン残基のチオール基(-SH)又はリシン残基の側鎖を介して、後述する目的物質を共有結合により本実施形態のペプチドに結合させることができる。
【0048】
[n11]
一般式(I)中、n11は1以上9以下の整数であり、1以上8以下の整数が好ましく、1以上6以下の整数がより好ましく、1以上4以下の整数がさらに好ましく、1以上3以下の整数が特に好ましく、1以上2以下の整数が最も好ましい。
【0049】
本実施形態のペプチドにおいて、好ましいアミノ酸配列(I)として具体的には、例えば、以下の表1に示すアミノ酸配列等が挙げられる。なお、これらのアミノ酸配列は、好ましいアミノ酸配列(I)の一例に過ぎず、好ましいアミノ酸配列(I)はこれらに限定されない。なお、表1中の配列番号18、配列番号19、配列番号25、配列番号26、配列番号27及び配列番号28に示されるアミノ酸配列において、N末端から2番目の「mR」とは、メチル化アルギニン残基を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
本実施形態のペプチドは、当該ペプチドに内在的に含まれる又はペプチドと結合した目的物質を体内で安定的に(体内分解抵抗性を約12時間程度保持した状態で)、消化器系の癌細胞又は癌組織まで簡便且つ効率よく持続的に送達するための送達剤として、好適に用いられる。
【0052】
<ペプチドの製造方法>
本実施形態のペプチドは、化学合成法によって製造してもよく、或いは生物学的方法によって製造してもよい。化学合成法としては、例えば、ペプチド固相合成法(Boc固相合成法、Fmoc固相合成法等)等が挙げられる。生物学的方法としては、例えば、上記ペプチドをコードする核酸を有する発現ベクターによる無細胞ペプチド合成系や生細胞ペプチド合成系を用いた方法等が挙げられる。無細胞ペプチド合成系及び生細胞ペプチド合成系についての詳細は後述する。
【0053】
<核酸>
本実施形態の核酸は、上記実施形態に係るペプチドをコードする核酸である。
【0054】
本実施形態の核酸によれば、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性、及び、生体内での優れた分解耐性を有するペプチドを得られる。
【0055】
上記のペプチドをコードする核酸としては、例えば、配列番号32~34のいずれかに示される塩基配列からなる核酸、又は、配列番号32~34のいずれかに示される塩基配列と80%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば95%以上の同一性を有し、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性、及び、生体内での優れた分解耐性を有するペプチドの構成分となる各アミノ酸をコードする組み合わせの塩基配列のいかなるものも含めた核酸等が挙げられる。なお、配列番号32に示される塩基配列は、上記の配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。配列番号33に示される塩基配列は、上記の配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。配列番号34に示される塩基配列は、上記の配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。
【0056】
ここで、基準塩基配列に対する、対照塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の塩基数を算出し、下記式にしたがって、配列同一性を求めることができる。
【0057】
「配列同一性(%)」 = [一致した塩基数]/[対象塩基配列の総塩基数]×100
【0058】
本実施形態の核酸は、ベクターに含まれる形であってもよい。
ベクターとしては、タンパク質発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来プラスミド、バクテリオファージ、ウイルスベクター及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。大腸菌由来のプラスミドとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等が挙げられる。枯草菌由来のプラスミドとしては、例えば、pUB110、pTP5、pC194等が挙げられる。酵母由来プラスミドとしては、例えば、pSH19、pSH15等が挙げられる。バクテリオファージとしては、例えば、λファージ等が挙げられる。ウイルスベクターの由来となるウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等が挙げられる。
【0059】
上記発現ベクターにおいて、上記ペプチド発現用プロモーターとしては特に限定されず、動物細胞を宿主とした発現用のプロモーターであってもよく、植物細胞を宿主とした発現用のプロモーターであってもよく、昆虫細胞を宿主とした発現用のプロモーターであってもよい。動物細胞を宿主とした発現用のプロモーターとしては、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV-tkプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。植物細胞を宿主とした発現用のプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、REF(rubber elongation factor)プロモーター等が挙げられる。昆虫細胞を宿主とした発現用のプロモーターとしては、例えば、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等が挙げられる。これらプロモーターは、上記ペプチドを発現する宿主の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0060】
上記発現ベクターは、さらに、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、複製起点等を有していてもよい。
【0061】
上記発現ベクターにおいて、上記ペプチドをコードする核酸の上流又は下流にgreen fluorescent protein(GFP)やグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)等のスタッファータンパク質(当該タンパク質自身は毒性が低く、また固有の機能を発揮しない)をコードする核酸や個別の目的遺伝子を付加することが好ましい。これにより、上記ペプチドがスタッファータンパク質融合した形の融合タンパク質をより効率的に生成することができる。また、細胞外へのタンパク質分泌型シグナルを持つ発現ベクターに組み込んだ場合には、上記ペプチドのアミノ配列が付加された形の融合タンパクを培養液中で生成させて、回収することができる。また、細胞内発現型ベクターの場合であっても同様のペプチド付加融合タンパク質を生成することができる。
【0062】
本実施形態の核酸を有する発現ベクターと、適当な宿主細胞を用いることにより、上記ペプチドを発現させることができる。
【0063】
<修飾物質>
本実施形態のペプチドは、後述する目的物質とは別に、修飾物質で修飾された形態であってもよい。修飾物質としては、例えば、糖鎖、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。また、修飾物質としては、例えば、リポソーム、ウイルス、デンドリマー、抗体(イムノグロブリン)、エクソソーム、ポリマーミセル等を用いてもよい。すなわち、本実施形態のペプチドは、リポソーム、ウイルス、エクソソーム、ポリマーミセルの表現に結合した形で、或いは、デンドリマーの側鎖部分に上記ペプチドが1個又は2個以上の複数個結合した形で、或いは、抗体(イムノグロブリン)と上記ペプチドとが結合した形で、用いることができる。
【0064】
デンドリマーとしては、例えば、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマー、ポリプロピレンイミンデンドリマー、ポリリシンデンドリマー、ポリフェニルエーテルデンドリマー、ポリフェニレンデンドリマー等が挙げられる。これらのデンドリマーを用いることで、上記ポリペプチドを数十価から百数十価まで一度に消化器系の癌細胞又は癌組織内に送達することができる。
【0065】
また、本実施形態のペプチドは、上記修飾物質で修飾されていることで、目的物質(例えば、生理活性物質や標識物質)が消化器系の癌細胞又は癌組織内に簡便且つ効率よく吸収されやすくなる。修飾物質で修飾された上記ペプチド(以下、「修飾ペプチド」と略記する場合がある)は、例えば、修飾物質と上記ペプチドとを直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合させて調製することができる。具体的な結合方法としては、例えば、配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着等が挙げられ、何れの公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。また、修飾物質の結合位置は、上記ペプチドのN末端又はC末端のいずれでもよい。また、上記ペプチドがリジン残基を含む場合、該リジン残基の側鎖部位に修飾物質を結合させてもよい。
【0066】
<目的物質>
対象となる目的物質としては、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、消化器系の癌細胞又は癌組織のイメージングのために使用する場合においては、後述するとおり、標識物質を目的物質として用いることができる。また、例えば、消化器系の疾患(例えば、癌)の治療用途で使用する場合においては、後述するとおり、生理活性物質(特に、抗癌剤)を目的物質として用いることができる。本実施形態のペプチドは、これら目的物質を1種単独で送達させることもでき、2種以上組み合わせて送達させることもできる。
目的物質は、上記ペプチドと、直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合されていてよい。具体的な結合方法としては、例えば、配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着等が挙げられ、何れの公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。また、目的物質と本実施形態のペプチドとの結合位置は、必要に応じて適宜選択できる。さらに、物理的又は化学的な結合がない場合であっても、立体構造により他方がもう他方の動きを制限し共に動きうる状態にあるものも本実施形態においては結合された状態に含まれる。
【0067】
また、目的物質がタンパク質である場合、目的物質と上記ペプチドとを含む融合タンパク質は、例えば次のような方法により作製することができる。まず、融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを用いて、宿主を形質転換する。続いて、当該宿主を培養して融合タンパク質を発現させる。培地の組成、培養の温度、時間、誘導物質の添加等の条件は、形質転換体が生育し、融合タンパク質が効率よく産生されるよう、公知の方法に従って当業者が決定できる。また、例えば、選択マーカーとして抗生物質抵抗性遺伝子を発現ベクターに組み込んだ場合、培地に抗生物質を加えることにより、形質転換体を選択することができる。続いて、宿主が発現した融合タンパク質を適宜の方法により精製することにより、融合タンパク質が得られる。
【0068】
宿主としては、融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを発現させることができる生細胞であれば特に制限されず、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株や、ウイルス(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等のウイルス等)、細菌(例えば、大腸菌等)等の微生物、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等の生細胞が挙げられる。
【0069】
次いで、本実施形態のペプチドを含むペプチド-ドラッグ-コンジュゲート(PDC)、医薬組成物、標識ペプチド及びイメージング組成物について、以下に詳細を説明する。
【0070】
≪ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート(PDC)≫
本実施形態のPDCは、上記ペプチド及び生理活性物質を含む。
【0071】
本実施形態のPDCによれば、消化器系の癌(特に、浸潤性膵管癌)を選択的に治療することができる。
【0072】
本明細書において、「生理活性物質」としては、ヒト癌の治療に有効なものであれば、特別な限定はなく、例えば、抗癌剤等の薬剤、核酸、細胞増殖抑制又は細胞殺傷効果を有するタンパク質、癌細胞(特に、膵癌細胞)に特異的に結合する抗体又はその抗体断片(特に、膵癌細胞の細胞膜上に存在する抗原を標的とする抗体又はその抗体断片等)、アプタマー等が挙げられる。
【0073】
例えば、上記抗体又はその抗体断片を、リンカー等の介在物質又はアミノ酸配列をスペーサーとして介在させて、上記ペプチドのN末端若しくはC末端に結合させる、又は、上記ペプチドを上記抗体又はその抗体断片のFcドメインのいずれかの部位若しくは複数の部位に結合させることで、抗体-ペプチド複合体を形成させることができる。この抗体-ペプチド複合体は、抗体の認識する細胞膜表面抗原への結合に加えて、上記ペプチドの認識する細胞膜表面受容体への結合を同時に可能とすることによって、目的とする細胞(本実施形態では膵癌細胞)への送達機能を増強することができる。また、上記抗体又はその抗体断片が細胞内抗原に反応可能な短鎖抗体(ScFv;single-chain antibody)である場合は、ScFvをコードする核酸に、上記ペプチドをコードする配列を付加した発現ベクターを作成することで、目的とする細胞(本実施形態では膵癌細胞)への送達機能を有する短鎖抗体の作成を可能とすることができる。
【0074】
「生理活性物質」としては、抗癌剤である細胞障害薬又は分子標的薬が好ましい。上記ペプチドは正常細胞又は正常組織と比較して、消化器系の癌細胞又は癌組織(特に、膵癌細胞又は膵癌組織)に対して高度にシフトして吸収されるため、生理活性物質として、従来の抗癌剤として用いられている細胞障害薬を用いたPDCとした場合、かかる細胞障害薬を効率よく癌細胞又は組織に送達することができる。
【0075】
生理活性物質と上記ペプチドとはコンジュゲートを形成して結合していることが好ましい。ここでいう「コンジュゲート」とは、2つ以上の物質が同時に動きうる状態を表し、その物質間が共有結合により結合しているもの、イオン結合により静電的に結合しているもの、又は、かかる結合が存在しない場合であっても立体構造により他方がもう他方の動きを制限し共に動きうる状態にあるものも含まれる。例えば上記ペプチドを表面に修飾したリポソーム、ウイルス、エクソソーム、ポリマーミセル等の中に生理活性物質が封入されているものも「コンジュゲート」を形成していることに含まれる。中でも、生理活性物質と上記ペプチドとの結合は、その作用部位に到達する前に生理活性物質が解離することを抑制するために、共有結合からなることが好ましい。
【0076】
生理活性物質と上記ペプチドとの共有結合の形成方法として具体的には、例えば、-OH、-SH、-COH、-NH、-SOH又は-POH等の官能基を有する又は導入された上記ペプチドの任意の部位で、生理活性物質と直接又はリンカーを介すことで、カップリング反応させる方法等が挙げられる。より具体的には、例えば、ペプチドには、SH基(チオール基)を導入し、生理活性物質には、マレイミド基(maleimide group)を導入した後、ペプチドのSH基と、生理活性物質のマレイミド基とを結合させることによって、ペプチドと生理活性物質とを結合させることができる。
【0077】
リンカーとしては、生理活性物質と上記ペプチドとの機能を保持し、上記ペプチドとともに細胞膜を透過し得るものであれば特に制限されない。リンカーとしては、具体的には、例えば、その長さが、通常1残基以上5残基以下、好ましくは1残基以上3残基以下程度のペプチド鎖や、同等の長さのポリエチレングリコール(PEG)鎖等が挙げられる。
【0078】
上記ペプチドと生理活性物質とのコンジュゲートに使用されるペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基としては、電荷がなく、小分子のもの、例えばグリシン残基が好ましい。また、リンカー配列の端部、好ましくは両端部には、結合する両ドメイン(生理活性物質と上記ペプチド)に回転の自由度を与えるための配列を設けることが好ましい。具体的には、回転の自由度を与えるためにはグリシン(G)、リンカーとしてはプロリン(P)を含む配列が好ましく、さらに具体的には、グリシン残基とプロリン残基よりなるもの、例えば、グリシン(G)-プロリン(P)-グリシン(G)からなるものが特に好ましい。かかる構成とすることで、両ドメインの機能が発揮可能となる。或いは、共有結合を形成しやすいことから、リンカー配列の端部は、システイン(C)又はリシン(K)を含む配列が好ましい。システイン残基のチオール基(-SH)又はリシン残基の側鎖を介して、生理活性物質を上記ペプチドに結合させることができる。
【0079】
生理活性物質がタンパク質である場合に、当該生理活性物質と上記ペプチドとをコンジュゲートとする場合には、融合タンパク質として作製してもよい。上記ペプチドを付与する位置としては特に場所は限定されないが、上記ペプチドがタンパク質の外側に提示されており、かつ融合させたタンパク質の活性、機能への影響が低いことが好ましく、生理活性物質であるタンパク質のN末端又はC末端に融合させることが好ましい。融合させるタンパク質の種類としては特に限定されるものでは無いが、細胞膜を通過するために分子量が大きすぎる薬物は障害となるため、分子量は例えば500,000以下程度とすることができ、30,000以下程度とすることができる。
【0080】
生理活性物質として用いられるタンパク質は、抗体であってもよい。かかる抗体は、例えば、マウス等のげっ歯類の動物に消化器系の癌由来のペプチド等を抗原として免疫することによって作製することができる。また、例えば、ファージライブラリーのスクリーニングにより作製することができる。抗体は、抗体断片であってもよく、抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。
【0081】
生理活性物質として用いられる核酸としては、例えば、siRNA、miRNA、antisense、又は、それらの機能を代償する人工核酸等が挙げられる。
【0082】
生理活性物質として用いられるアプタマーとは、消化器系の癌細胞又は癌組織に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。消化器系の癌細胞又は癌組織に特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、消化器系の癌細胞又は癌組織に対する特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法等により選別することができる。
【0083】
また、本実施形態のPDCにおいて、上記ペプチドは上述したように修飾物質で修飾されていてもよく、さらに標識物質を備えていてもよい。
【0084】
≪医薬組成物≫
本実施形態の医薬組成物は、上記PDCを含む。
【0085】
本実施形態の医薬組成物は、消化器系の癌の治療、又は、消化器系の癌を伴う疾患の治療のために用いることができる。消化器系の癌を伴う疾患としては、例えば、消化器系の癌を原発巣とする転移性癌(リンパ節転移、腹膜転移(播種))等が挙げられる。
【0086】
<組成成分>
本実施形態の医薬組成物は、治療的に有効量の上記PDC、及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容される担体又は希釈剤は、賦形剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤等が挙げられる。これら担体又は希釈剤の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又は、シロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
【0087】
また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチド又はPDCの生体内安定性を高める効果や、消化器系の癌細胞又は癌組織へ、上記ペプチド又はPDCの移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質を挙げることができ、消化器系の癌細胞又は癌組織へ、上記ペプチド又はPDCを効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。
【0088】
本実施形態の医薬組成物における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。
又は、水若しくはそれ以外の薬学的に許容される液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。
さらには、薬学的に許容される担体又は希釈剤、具体的には、ベヒクル(例えば、滅菌水や生理食塩水、植物油)、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。
【0089】
錠剤又はカプセル剤に混和することができる担体又は希釈剤としては、例えば、結合剤、賦形剤、膨化剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤等が用いられる。結合剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等が挙げられる。賦形剤としては、例えば、結晶性セルロース等が挙げられる。膨化剤としては、例えば、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等が挙げられる。潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。甘味剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、サッカリン等が挙げられる。香味剤としては、例えば、ペパーミント精油、アカモノ油、チェリー香料等が挙げられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。
【0090】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液ベヒクルとしては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が挙げられ、適当な溶解補助剤、非イオン性界面活性剤等と併用してもよい。その他の補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、アルコール等が挙げられる。アルコールとしては、例えば、エタノール、ポリアルコール等が挙げられる。ポリアルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80(登録商標)、HCO-50等が挙げられる。
【0091】
注射用の非水溶液のベヒクルとしてはゴマ油、大豆油等が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、注射用の油性液は、緩衝剤、無痛化剤、安定剤、酸化防止剤等をさらに配合してもよい。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等が挙げられる。無痛化剤としては、例えば、塩酸プロカイン等が挙げられる。安定剤としては、例えば、ベンジルアルコール、フェノール等が挙げられる。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0092】
注射剤である場合、上記のような水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、又は、乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法等によって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他のベヒクルに溶解して使用することができる。
【0093】
<投与量>
本実施形態の医薬組成物は、PDCに含まれる生理活性物質の種類、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
例えば、本実施形態の医薬組成物を注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、例えば0.1mg以上1000mg以下程度の量のPDCを投与することができる。
【0094】
投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、腹腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は、経口的に当業者に公知の方法が挙げられ、静脈内注射又は腹腔内的投与が好ましい。
【0095】
<治療方法>
一実施形態において、本発明は、消化器系の癌(特に、膵癌)の治療又は予防のための上記PDCを含む医薬組成物を提供する。
【0096】
また、一実施形態において、本発明は、治療的に有効量の上記PDC、及び、薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0097】
また、一実施形態において、本発明は、消化器系の癌(特に、膵癌)の治療又は予防のための医薬組成物を製造するための上記PDCの使用を提供する。
【0098】
また、一実施形態において、本発明は、上記PDCの有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、消化器系の癌(特に、膵癌)の治療方法又は予防方法を提供する。
【0099】
≪標識ペプチド≫
本実施形態の標識ペプチドは、上記ペプチド及び標識物質を含む。
【0100】
<標識物質>
標識物質としては、例えば安定同位体、放射性同位体、蛍光物質、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)用核種、単一光子放射断層撮影(Single photon emission computed tomography:SPECT)用核種、核磁気共鳴画像法(Magnetic resonance imaging:MRI)造影剤、コンピューター断層撮影法(Computed Tomography:CT)造影剤、磁性体等が挙げられる。また、標識物質がタンパク質である場合、標識物質と上記ペプチドとの融合タンパク質の形態で用いてもよい。中でも、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質が好ましい。上記標識物質を備えることで、標識ペプチドが消化器系の癌細胞又は癌組織まで送達されたか否かを簡便且つ高感度に確かめることができる。
【0101】
安定同位体としては、例えば13C(炭素13)、15N(窒素15)、H(水素2)、17O(酸素17)、18O(酸素18)等が挙げられる。放射性同位体としては、例えばH(水素3)、14C(炭素14)、13N(窒素13)、18F(フッ素18)、32P(リン32)、33P(リン33)、35S(硫黄35)、67Cu(銅67)、99mTc(テクネチウム99m)、123I(ヨウ素123)、131I(ヨウ素131)、133Xe(キセノン133)、201Tl(タリウム201)、67Ga(ガリウム67)等が挙げられる。
【0102】
標識物質が安定同位体又は放射性同位体である場合、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を用いて、上記標識ペプチドを作製してもよい。すなわち、本実施形態の標識ペプチドにおいて、「上記ペプチド及び標識物質を含む」という表現には、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸から構成された上記ペプチドの形態が包含される。
【0103】
安定同位体又は放射性同位体で標識されるアミノ酸としては、20種類のアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、チロシン、バリン、トリプトファン、システイン、アスパラギン、グルタミン)であって、上記ペプチドに含まれるアミノ酸であれば特に限定されない。また、アミノ酸はL体であってもよく、D体であってもよく、必要に応じて適宜選択することができる。
【0104】
安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を用いた、本実施形態の標識ペプチドの作製方法としては、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターを安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する系で発現させることにより調製することができる。安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する系としては、例えば安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する無細胞ペプチド合成系や生細胞ペプチド合成系等が挙げられる。すなわち、無細胞ペプチド合成系において安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸に加えて安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸を材料としてペプチドを合成させることや、生細胞ペプチド合成系において、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターで形質転換した細胞を安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸存在下で培養することにより、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターから安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドを調製することができる。
【0105】
無細胞ペプチド合成系を用いた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドの発現は、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターや上記の安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の他に、安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドの合成のために必要な安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸、無細胞ペプチド合成用細胞抽出液、エネルギー源(ATP、GTP、クレアチンホスフェート等の高エネルギーリン酸結合含有物)等を用いて行うことができる。温度、時間等の反応条件は、適宜最適な条件を選択して行うことができ、例えば温度は20℃以上40℃以下とすることができ、23℃以上37℃以下が好ましい。また反応時間は1時間以上24時間以下とすることができ、10時間以上20時間以下が好ましい。
【0106】
本明細書において、「無細胞ペプチド合成用細胞抽出液」とは、リボソーム、tRNA等のタンパク質合成に関与する翻訳系、又は、転写系及び翻訳系に必要な成分を含む植物細胞、動物細胞、真菌細胞、細菌細胞からの抽出液を意味する。具体的には、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網赤血球、マウスL-細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞、出芽酵母等の細胞抽出液が挙げられる。かかる細胞抽出液の調製は、例えばPratt,J.M.ら、Transcription and trasnlation-a practical approach(1984)、pp.179-209に記載の方法に従い、上記の細胞をフレンチプレス、グラスビーズ、超音波破砕装置等を用いて破砕処理し、タンパク質成分やリボソームを可溶化するための数種類の塩を含有する緩衝液を加えてホモジナイズし、遠心分離にて不溶成分を沈殿させることによって行うことができる。
【0107】
また、無細胞ペプチド合成系を用いた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドの発現は、例えば、小麦胚芽抽出液を備えたPremium Expression Kit(セルフリーサイエンス社製)、大腸菌抽出液を備えたRTS 100,E.coli HY Kit(Roche Applied Science社製)、無細胞くんQuick(大陽日酸社製)等市販のキットを適宜使用して行ってもよい。発現させた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドが不溶性の場合、グアニジン塩酸塩、尿素等のタンパク質変性剤を用いて適宜可溶化させてもよい。安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドは、さらに分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理や、アフィニティーカラム、イオン交換クロマトグラフィー等を用いた精製処理により調製することもできる。
【0108】
生細胞ペプチド合成系を用いた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドの発現は、生細胞に上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターを導入し、かかる生細胞を栄養分や抗生物質等の他、上記安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸、安定同位体標識ペプチド又は放射性同位体標識ペプチドの合成のために必要な安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸等を含む培養液中で培養することにより行うことができる。ここで生細胞としては、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターを発現させることができる生細胞であれば特に限定されず、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株や、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等の生細胞が挙げられ、簡便性や費用対効果の面から考慮すると、大腸菌が好ましい。上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターの発現は、遺伝子組換え技術により、それぞれの生細胞で発現できるように設計された発現ベクターへ組み込み、かかる発現ベクターを生細胞へ導入することにより行うことができる。また、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターの生細胞への導入は、使用する生細胞に適した方法で行うことができ、例えば、エレクトロポレーション法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、パーティクル・ガン法、ウイルスを用いた方法や、FuGENE(登録商標) 6 Transfection Reagent(ロシュ社製)、Lipofectamine 2000 Reagent(インビトロジェン社製)、Lipofectamine LTX Reagent(インビトロジェン社製)、Lipofectamine 3000 Reagent(インビトロジェン社製)等の市販のトランスフェクション試薬を用いた方法等が挙げられる。
【0109】
生細胞ペプチド合成系により発現させた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドは、安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドを含む生細胞を破砕処理や抽出処理することにより調製することができる。破砕処理としては、例えば凍結融解法、フレンチプレス、グラスビーズ、ホモジナイザー、超音波破砕装置等を用いた物理的破砕処理等が挙げられる。また抽出処理としては、例えばグアニジン塩酸塩、尿素等のタンパク質変性剤を用いた抽出処理等が挙げられる。安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドは、さらに分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理や、アフィニティーカラム、イオン交換クロマトグラフィー等を用いた精製処理等により調製することもできる。
【0110】
蛍光物質としては、例えば公知の量子ドット、インドシアニングリーン、5-アミノレブリン酸(5-ALA;代謝産物プロトポルフィリンIX(PP IX)、近赤外蛍光色素(Near-Infrared (NIR) dyes)(例えば、Cy5.5、Cy7、AlexaFluoro等)、その他公知の蛍光色素(例えば、GFP、FITC(Fluorescein)、FAM、TAMRA等)等が挙げられる。蛍光物質標識された上記ペプチドは、蛍光物質がタンパク質である場合、蛍光物質をコードする核酸及び上記ペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターを、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を使用せずに、上記無細胞ペプチド合成系又は生細胞ペプチド合成系により調製すればよい。
【0111】
PET用核種、SPECT用核種として好ましくは、例えば11C、13N、15O、18F、66Ga、67Ga、68Ga、60Cu、61Cu、62Cu、67Cu、64Cu、48V、Tc-99m、241Am、55Co、57Co、153Gd、111In、133Ba、82Rb、139Ce、Te-123m、137Cs、86Y、90Y、185/187Re、186/188Re、125I、又はそれらの錯体、或いはそれらの組み合わせ等が挙げられる。PET用核種又はSPECT用核種で標識された上記ペプチドは、上記ペプチドと上記PET用核種又はSPECT用核種とを、直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合させて調製すればよい。具体的な結合方法としては、例えば、配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着等が挙げられ、何れの公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。
【0112】
MRI造影剤、CT造影剤及び磁性体としては、例えばガドリニウム、Gd-DTPA、Gd-DTPA-BMA、Gd-HP-DO3A、ヨード、鉄、酸化鉄、クロム、マンガン、又は、その錯体若しくはそのキレート錯体等が挙げられる。MRI造影剤、CT造影剤又は磁性体で標識された上記ペプチドは、MRI造影剤、CT造影剤又は磁性体と上記ペプチドとを、直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合させて調製すればよい。具体的な結合方法としては、例えば、配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着等が挙げられ、何れの公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。
【0113】
<消化器系の癌をイメージングするための方法及びイメージング組成物>
本実施形態の方法は、消化器系の癌細胞又は癌組織をイメージングするための方法であって、上記標識ペプチドを用いる方法である。
【0114】
また、本実施形態のイメージング組成物は、上記標識ペプチドを含む。
【0115】
本実施形態の方法及びイメージング組成物によれば、消化器系の癌細胞又は癌組織を簡便、高感度且つ選択的に検出することができる。
【0116】
<組成成分>
本実施形態のイメージング組成物は、上記標識ペプチドに加えて、必要に応じて、薬学的に許容される担体又は希釈剤を含むことができる。薬学的に許容される担体又は希釈剤としては、上記医薬組成物において例示されたもののうち、イメージング組成物に通常使用される公知の成分が挙げられる、
【0117】
例えば、上記標識ペプチドを消化器系の癌細胞に添加する場合において、上記標識ペプチドの添加量は培養液中1μM以上10μM以下が好ましい。また、添加後、15分以上3時間以下後には消化器系の癌細胞内に吸収及び集積されているか否かについて評価することができる。
【0118】
また、例えば、標識物質として蛍光物質を備える上記標識ペプチドを注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、例えば0.1mg以上1000mg以下程度の量の標識ペプチドを投与することができ、3mg以上の量の標識ペプチドを投与することが好ましく、3mg以上20mg以下の量の標識ペプチドを投与することがより好ましく、5mg以上15mg以下の量の標識ペプチドを投与することがさらに好ましい。
【0119】
また、例えば、標識物質として安定同位体、PET用核種又はSPECT用核種を備える上記標識ペプチドを注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、使用する安定同位体、PET用核種又はSPECT用核種の種類に応じた放射線量から投与量を決定すればよい。
【0120】
本実施形態の方法において、上記標識ペプチドの検出方法としては、例えばPET、SPECT、CT、MRI、内視鏡による検出、蛍光検出器による検出等が挙げられる。
【0121】
本実施形態のイメージング組成物は、消化器系の癌診断、消化器系の癌治療効果診断、病態解析、又は、消化器系の癌を伴う疾患の診断、病態解析、治療効果診断のために用いることができる。
【実施例
【0122】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0123】
[参考例1]PCPP11を用いたヒト血漿による分解試験
国際公開第2017/086090号に記載のペプチドを用いて、ヒト血漿による分解試験を行い、該ペプチドの詳細且つ経時的な変性パターンを分析した。
具体的には、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「PCPP11」と称する場合がある)を50質量%の濃度のヒト血漿に添加し、分解試験開始直後(0分後)、5分後、10分後、20分後、30分後、60分後及び120分後と経時的にサンプリングして、MALDI-TOFMS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time of Flight Mass Spectrometry)法により、試料を分析した。結果を図1及び以下の表2に示す。なお、表2において、「UK」とは、Unknownの略である。また、表2に示すペプチドのNo.は、図1に示すグラフのピークに記載の数値と対応している。
【0124】
【表2】
【0125】
図1及び表2から、PCPP11の持続時間(安定的に存在可能な時間)は、20分未満であった。このことから、PCPP11は、体内に投与後、20分未満には完全に分解されることが推察された。
【0126】
[試験例1]PCPP11の各種分解耐性型デザイン化ペプチドを用いたヒト血漿による分解試験
次いで、参考例1での結果を踏まえて、PCPP11のアミノ酸配列を改変することで、膵癌細胞又は膵癌組織への高度の集積性を維持しながら、生体内での分解耐性に優れるペプチドの開発を試みた。
具体的には、以下の表3に示す6種のペプチドをデザインした。表3において、「FAM-L」は、ペプチドN末端に蛍光物質FAMを標識し、N末端を保護したPCPP11である。「LL」は、グリシンをスペーサーとしてPCPP11のアミノ酸配列を2度反復したペプチドである。「LLL」は、グリシンをスペーサーとしてPCPP11のアミノ酸配列を3度反復したペプチドである。「Ld」は、前半のアミノ酸配列にはL-アミノ酸を用い、後半のアミノ酸配列として光学異性体を用いたレトロインバーソ配列を連結したL体-D体キメラ型ペプチドである。
また、参考例1での分解試験の結果から、N末端から1番目及び2番目の2個のアルギニン間のペプチド結合が分解されやすいことが推察された。よって、「NmLL」は、N末端から1番目及び2番目の2個のアルギニン間のペプチド結合に分解耐性を与えるために、上記LLペプチドにおいて、N末端から2番目のアルギニンをメチル基修飾型アルギニンに置換したペプチドである。また、「NmLd」は、N末端から1番目及び2番目の2個のアルギニン間のペプチド結合に分解耐性を与えるために、上記Ldペプチドにおいて、N末端から2番目のアルギニンをメチル基修飾型アルギニンに置換したL体-D体キメラ型ペプチドである。
【0127】
【表3】
【0128】
上記各種ペプチドを50質量%の濃度のヒト血漿に添加し、分解試験開始直後(0分後)、5分後、10分後、20分後、30分後、60分後及び120分後と経時的にサンプリングして、MALDI-TOFMS法により、試料を分析した。結果を図2~6及び以下の表4~6に示す。また、参考例1でのPCPP11を用いたヒト血漿による分解試験及び上記各種ペプチドを用いたヒト血漿による分解試験をまとめたデータを図7及び表7に示す。なお、FAMで標識されたペプチドの「配列番号」はペプチド部分の配列番号を示す。また、表4~6に示すペプチドのNo.はそれぞれ図2~6のグラフのピークに記載の数値と対応している。なお、各表において、数値が上段及び下段で分かれている記載しているものについては、上段はMALDI-TOFMS法による分析での全ピーク面積に対する2種以上のペプチドを含むピーク面積の割合(%)を示す。一方、下段は当該2種以上のペプチドを含むピーク面積を100%としたときの各ペプチドの割合(%)を示す。さらに、例えば、表4のNo.9のペプチドにおいて、左側の「70.0%」は、No.9~11のペプチドを含むピーク面積を100%としたときのNo.9のペプチドの割合(%)を示し、右側の「65%」は、MALDI-TOFMS法による分析での全ピーク面積に対するNo.9のペプチドの割合(%)を示す。以降の表においても同様である。
また、表5において、No.13とNo.13’、No.14とNo.14’は、それぞれ同じアミノ酸配列からなるペプチドであるが、MALDI-TOFMS法による分析での帰属するピークが異なる。
【0129】
【表4】
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【0132】
【表7】
【0133】
図2及び表4から、LLペプチドの試験開始から120分後における分解耐性は、65%であった。なお、「分解耐性」は、試験開始時におけるペプチドの質量(100%)に対する、試験開始から120分後における分解されずに保持されたペプチドの質量の割合にて表した。
また、図3から、LLLペプチドでは、試験開始から120分以内に分解産物は見られなかった。
また、図4及び表5から、N末端がFAM標識されたPCPP11の試験開始から120分後における分解耐性は、29%であった。
また、図5及び表6から、Ldペプチドの試験開始から120分後における分解耐性は、32%であった。
また、図6から、NmLdペプチドでは、試験開始から120分以内に分解産物は見られなかった。
【0134】
さらに、図7及び表7から、LLペプチド、Ldペプチド、NmLLペプチド、NmLdペプチド及びLLLペプチドは、PCPP11単体及びFAM-PCPP11と比較して、優れた分解耐性を有することが確かめられた。
特に、NmLLペプチド、NmLdペプチド及びLLLペプチドでは、試験を行った120分の間、分解耐性は100%の状態が保たれており、分解耐性に特に優れることが明らかとなった。
【0135】
[試験例2]各ペプチドの膵癌細胞及びその他癌細胞での集積性の確認試験
以下の表8に示す各細胞での各ペプチドの集積性の確認試験を行った。また、ペプチドとしては、下記表9に示すもののうち、試験例1で用いたFAM-PCPP11と、N末端がFAM標識されたLLペプチド(FAM-LL)及びN末端がFAM標識されたLdペプチド(FAM-Ld)とを用いた。
【0136】
【表8】
【0137】
【表9】
【0138】
表8に示した各細胞に、FAM-PCPP11、FAM-LL及びFAM-Ldをそれぞれ培地中に終濃度2μMとなるように添加した、それらの細胞を37℃で2時間培養した、続いて、培地中のペプチドを取り除くために、ペプチド不含の培地で3回洗浄した。次いで、倒立型蛍光顕微鏡で各細胞における各ペプチドの取り込みを視覚的に評価した。なお、検鏡の前にペプチドを添加した培養上清を除去し1×PBS(-)で3回洗浄後、トリプシン処理し接着細胞を剥離してただちに新しい96穴プレートに移入して新しい培養液に再懸濁後、検鏡を行った。結果を図8Aに示す。図8Aにおいて、「L」は、FAM-PCPP11を添加した細胞であり、「LL」は、FAM-LLを添加した細胞であり、「Ld」は、FAM-Ldを添加した細胞である。また、膵癌細胞のうち代表的な例として、BxPC3細胞での蛍光像を示した。
【0139】
図8Aから、いずれのペプチドも膵癌細胞及び胃癌細胞の消化器系の癌細胞において強い蛍光が検出され、一方、その他癌細胞ではほとんど蛍光が検出されなかった。その他癌細胞の中でも、ヒト非小細胞肺癌系の腺癌細胞株である、H2110細胞は、BxPC3細胞、PK-8細胞及びMIA-Paca2細胞と同じ腺癌系細胞であるが、膵原発ではなく肺原発であり、発生母地の異なる腺癌系統の細胞である。H2110細胞では、ほとんど蛍光が検出されず、BxPC3細胞、PK-8細胞、MIA-Paca2細胞及びSCH細胞において強い蛍光が検出されたことから、いずれのペプチドも特定の腺癌、すなわち、膵癌細胞及び胃癌細胞の消化器系の癌細胞への高い選択的吸収性を有することが確かめられた。また、膵癌細胞及び胃癌細胞の消化器系の癌細胞において、FAM-LL及びFAM-Ldを添加したものでは、FAM-PCPP11を添加したものよりも、より強く蛍光が検出された。
【0140】
また、図8Bは、上記図8Aにおける各細胞で検出された蛍光を定量化し、FAM-PCPP11及びFAM-LLのそれぞれのペプチドを添加したヒト非小細胞肺癌系統の腺癌由来の細胞株であるH2110細胞で検出された蛍光を1.0としたときの各細胞で検出された蛍光強度の割合を示すグラフである。
図8Bから、FAM-LLを添加した膵癌細胞及び胃癌細胞では、FAM-PCPP11を添加した膵癌細胞及び胃癌細胞と比較して、蛍光の定量値がそれぞれ2.9倍以上と顕著に上昇していた。
【0141】
また、表8に示した各細胞に、FAM-PCPP11、FAM-LL及びFAM-NmLLをそれぞれ培地中に終濃度2μMとなるように添加した、それらの細胞を37℃で2時間培養した、続いて、培地中のペプチドを取り除くために、ペプチド不含の培地で3回洗浄した。次いで、倒立型蛍光顕微鏡で各細胞における各ペプチドの取り込みを視覚的に評価した。なお、検鏡の前にペプチドを添加した培養上清を除去し1×PBS(-)で3回洗浄後、トリプシン処理し接着細胞を剥離してただちに新しい96穴プレートに移入して新しい培養液に再懸濁後、検鏡を行った。結果を図8Cに示す。図8Cにおいて、「L」は、FAM-PCPP11を添加した細胞であり、「LL」は、FAM-LLを添加した細胞であり、「NmLL」は、FAM-NmLLを添加した細胞である。また、膵癌細胞のうち代表的な例として、BxPC3細胞及びPK-8細胞での蛍光像を示した。
【0142】
図8Cから、いずれのペプチドも膵癌細胞において強い蛍光が検出され、一方、その他癌細胞ではほとんど蛍光が検出されなかった。また、膵癌細胞において、FAM-LL及びFAM-NmLLを添加したものでは、FAM-PCPP11を添加したものよりも、より強い蛍光が検出された。
【0143】
これらのことから、本実施形態のペプチドは、その他癌細胞と比較して、膵癌細胞及び胃癌細胞の消化器系の癌細胞へ高度にシフトした集積性を有することが明らかとなった。
【0144】
[試験例3]ヒト膵癌細胞移植マウスの各種組織での各ペプチドの選択的吸収性の評価試験
1.蛍光標識型ペプチドの調製
上記の表9に示すように、試験例1で用いたFAM-PCPP11と、N末端がFAM標識されたLLペプチド、LLLペプチド及びLdペプチド、並びに、C末端がエチレン基を介してFAM標識されたNmLdペプチドを準備した。また、以下の試験及び図等において、これらのFAM標識された各ペプチドを単に「PCPP11」、「LL」、「LLL」、「Ld」及び「NmLd」と称する場合がある。
【0145】
2.ヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルへの各ペプチドの投与
次いで、ヒト膵癌増殖及び進展マウスモデル(Balb/c nu/nuマウス、皮下及び腹腔内ヒト膵癌細胞移植モデル)に対し、上記「1.」で調製した各蛍光標識型ペプチド200μgを静脈注射した。次いで、静脈注射から30分後のペプチドの体内動態を、投与マウス新鮮解剖検体で組織解析し、吸収性を蛍光シグナルの検出により定量化した。各蛍光標識型ペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの組織別の表面及び切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)を図9Aに、蛍光標識型ペプチドの種類別の組織切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)を図9Bに示す。図9Aにおいて、「sc tumor」は、subcutaneous tumorの略であり、皮下腫瘍である。図9Bにおいて、「abd tumor」はabdominal tumorの略であり、腹腔内に形成された腫瘍である。「br」は脳、「hr」は心臓、「kd」は腎臓、「liv」は肝臓である。「liv. meta」はliver metastatic tumorの略であり、肝臓に転移した腫瘍である。「panc」は膵臓、「sp」は脾臓である。以降の図においても、同様の略称を使用する。また、図9Aにおいて「untreated」とは、蛍光標識型ペプチドを投与していないマウスから摘出された組織である。各組織における蛍光シグナルの検出結果を定量化したグラフを図10A(FAM-PCPP11)、図10B(FAM-LLペプチド)、図10C(FAM-LLLペプチド)及び図10D(FAM-Ldペプチド)に示す。また、各蛍光標識型ペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの腫瘍での蛍光強度を比較したグラフを図11に示す。
【0146】
図11から、膵悪性腫瘍への吸収性は、従来の9アミノ酸残基からなるPCPP11に対して、FAM-LLペプチドで3倍、FAM-LLLペプチドで約6倍、FAM-Ldペプチドで約4倍に増強された。
一方、図10A図10Dから、従来のPCPP11がその長所として有していた標的外正常臓器への非特異的吸収の抑制性能は、FAM-LLペプチド、FAM-LLLペプチド及びFAM-Ldペプチドのいずれも十分に維持しており、特にFAM-LLペプチド及びFAM-Ldペプチドは非特異的吸収をさらに抑制及び改善していることが明らかとなった。
【0147】
また、NmLdペプチド-FAM又はFAM-Ldペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの組織別の表面及び切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)を図12Aに示す。また、NmLdペプチド-FAM又はFAM-Ldペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの腫瘍での蛍光強度を比較したグラフを図12Bに示す。
【0148】
図12Bから、膵悪性腫瘍への吸収性は、Ldペプチドに対して、NmLdペプチドでは約1.4倍であった。一方、図12Aから、標的外正常臓器への非特異的吸収の抑制性能は、NmLdペプチドにおいても、Ldペプチドと同様に十分に維持していることが明らかとなった。
【0149】
また、蛍光物質の標識部位がしばしばペプチドの性能に影響を与えるため、NmLdペプチド-FAM及びFAM-NmLdペプチドの比較投与試験を行った。NmLdペプチド-FAM又はFAM-NmLdペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの組織別の表面及び切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)を図13Aに示す。また、NmLdペプチド-FAM又はFAM-NmLdペプチドを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの腫瘍での蛍光強度を比較したグラフを図13Bに示す。
【0150】
図13A及び図13Bから、FAMの標識位置の違いがペプチドの性能に明らかな障害を与えないことが確かめられた。この試験結果は、抗癌剤のペプチドに対する結合部位を決定する際の重要な情報となり得る。
【0151】
[参考例2]蛍光物質単独の体内分布の解析試験
次いで、試験例2における結果は、蛍光物質(FAM)にペプチドが結合している場合におけるペプチド独自の作用を証明するものであると考えられる。このことを確認するために、フルオレセイン(Fluorescein:FLC)単独をヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルへ投与した場合について解析した。なお、FLCは、医療上人体投与が認められている蛍光物質で、FAMとほぼ同様の構造及び特性を有する。
具体的には、まず、ヒト膵癌増殖及び進展マウスモデル(Balb/c nu/nuマウス、皮下及び腹腔内ヒト膵癌細胞移植モデル)に対し、フルオレセイン27μg又は200μgを静脈注射した。次いで、静脈注射から30分後のFLCの体内動態を、投与マウス新鮮解剖検体で組織解析し、吸収性を蛍光シグナルの検出により定量化した。フルオレセイン27μg(上)又は200μg(下)を投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)を図14Aに示す。また、フルオレセイン27μg(上)又は200μg(下)を投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織における蛍光シグナルの検出結果を定量化したグラフを図14Bに示す。
【0152】
図14A及び図14Bから、試験例2でのペプチド投与時と同様の蛍光分子モル比(フルオレセイン27μg)で投与した場合、及び、ペプチド総量に合わせてFLCを投与した場合(フルオレセイン200μg)のいずれの場合においても、正常肺では標的腫瘍組織への吸収とほぼ同程度(90%~120%)の高度吸収を示した。これに対し、試験例2のペプチド投与では、正常肺の吸収量は腫瘍の約20%~30%であった。
また、正常肝では腫瘍への吸収量の約50%~60%であった。これに対し、試験例2のペプチド投与では、正常肺の吸収量は腫瘍の約2%~10%であった。
また、正常腎では、腫瘍吸収量を上回り(180%~250%)、高度の非特異的全身性吸収を示した。
【0153】
以上のことから、LLペプチド、Ldペプチド、NmLdペプチド等の各ペプチドの特異的な腫瘍選択的吸収性能が証明された。
【0154】
[試験例4]抗癌剤送達用組成物としてのLLペプチドの腫瘍集積性能の実証試験
次いで、LLペプチドを用いて、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート(PDC)を作製し、ヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルへの投与試験を行った。
図15Aは、試験例3で用いたPDCの概略構成図である。LLペプチドを、リンカーを介して、抗腫瘍剤であるドキソルビシンと結合して、PDCとした。
具体的なPDCの合成方法としては、以下に示すとおりである。
まず、15mL遠心管中にてドキソルビシンリンカー[化合物A](2mg、2.8μmol)、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(3μL、19μmol)のジメチルスルホキシド溶液(2mL)にN末端に「C-G-G-G」からなるペプチドリンカーを付加したLLペプチド(化合物B、4mg、1.9μmol、配列番号42)を加え、室温にて一晩振とうさせた。反応混合物をジエチルエーテル(10mL)で懸濁し、遠心分離後、上澄みを捨てた。沈殿物を酢酸アンモニウム水溶液(10mM、pH7、1mL)に溶解し、サイズ排除クロマトグラフィー[(Sephadex LH-20、φ1.5cmx43cm、溶離液:酢酸アンモニウム水溶液(10mM、pH7)]により分画した。各画分を質量分析装置(ESI-MS)で分析後、化合物Cが含まれる画分を集め、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥粉を脱イオン水に溶解し、再度凍結乾燥した後、化合物C(すなわち、PDC)を得た(2.3mg)。
【0155】
ESI-MS m/z C1512174741S[3378.69]計算値:[M+4H]4+ 845.7、[M+5H]5+ 676.8、観測値:845.4、676.5。
【0156】
【化1】
【0157】
次いで、ヒト膵癌増殖及び進展マウスモデル(Balb/c nu/nuマウス、皮下及び腹腔内ヒト膵癌細胞移植モデル)に対し、PDCをペプチド用量が200μgとなるように静脈注射した。次いで、静脈注射から30分後のPDCの体内動態を、投与マウス新鮮解剖検体で組織解析し、吸収性を蛍光シグナルの検出により定量化した。また、対照として、ペプチド修飾のないドキソルビシンを単独で投与したマウスも準備した。なお、ドキソルビシン単独投与では、ドキソルビシンの投与量をPDC中のドキソルビシンのモル量と合わせて投与した。ドキソルビシン単独又はPDCを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの全体像(左)、並びに、腫瘍表面の明視野像(中央)及び蛍光像(右)を図15Bに示す。また、ドキソルビシン単独又はPDCを投与したヒト膵癌増殖及び進展マウスモデルの各組織切片の明視野像(左)及び蛍光像(右)を図15Cに示す。
【0158】
図15Bから、ドキソルビシン単独投与群(対照群)及びPDC投与群のいずれにおいても、標的膵癌腫瘍組織への吸収性はほぼ同様であった。一方、図15Cから、他の正常臓器への非特異的吸収については、肝、脳、心、肺、腎でいずれにおいても、ドキソルビシン単独投与群(対照群)と比較して、PDC投与群では、抑制を示した。
具体的な他の正常臓器での蛍光強度の定量解析(図示せず)したところ、PDC投与群では、ドキソルビシン単独投与群(対照群)と比較して、肝吸収75%抑制、脳吸収32%抑制、肺吸収33%抑制、心吸収94%抑制、腎吸収60%抑制であった。
【0159】
以上のことから、本実施形態のペプチドを送達剤として組み込んだPDC制癌剤の有用性(腫瘍への薬剤集積性を高め、全身の副作用を大きく軽減する薬剤の創成)についてのProof of Concept (POC)が取得できた。
【0160】
[参考例3]PCPP11及びその部分欠失ペプチドの膵癌細胞及びその他癌細胞での集積性の確認試験
BxPC3細胞、PK-8細胞、AsPC1細胞及びMIA-Paca2細胞(いずれもヒト浸潤性膵管癌(pancreatic ductal adenocarcinoma;PDAC)由来の細胞株)、並びにH2110細胞(肺腺癌細胞)でのPCPP11及びその部分欠失ペプチドの集積性の確認試験を行った。また、ペプチドとしては、下記表10に示すものを用いた。
【0161】
【表10】
【0162】
試験例2と同様の方法を用いて、各細胞に各ペプチドを添加して、検鏡を行った。結果を図16に示す。図16において、「full-length」は、FAM-PCPP11を添加した細胞であり、「trunc-ver1」は、trunc-ver1-PCPP11を添加した細胞であり、「trunc-ver2」は、trunc-ver2-PCPP11を添加した細胞であり、「trunc-ver3」は、trunc-ver3-PCPP11を添加した細胞である。また、FAM-trunc-ver2-PCPP11では著しい吸収蛍光の減弱が見られた。さらに、FAM-trunc-ver4-PCPP11及びFAM-trunc-ver5-PCPP11を添加した細胞では、膵癌細胞での蛍光がほとんど観察されなかったことから、図を省略した。
【0163】
図16から、いずれのペプチドもPDAC由来の細胞株において強い蛍光が検出され、一方、PDAC由来の細胞株と同じ腺癌系でも発生母地が異なるH2110細胞(肺腺癌細胞)ではほとんど蛍光が検出されなかった。また、膵癌細胞において、以下に示す順番で強く蛍光が検出された。
【0164】
full-length ≧ trunc-ver3 > trunc-ver1 >> trunc-ver2
【0165】
これらのことから、膵癌細胞へ高度にシフトした集積性を有するPCPP11ペプチドにおいて、「R-P-T-T-W-H」(配列番号12)からなるアミノ酸残基が必須であり、C末端の「K-P」からなるアミノ残基は必ずしも必須ではないことが明らかとなった。
【0166】
[試験例5]各種ペプチドの膵癌細胞での集積性の確認試験
以下の表11に示す各細胞での各ペプチドの集積性の確認試験を行った。また、ペプチドとしては、下記表12に示すものを用いた。
【0167】
【表11】
【0168】
【表12】
【0169】
表11に示した各細胞に、各ペプチドをそれぞれ培地中に終濃度2μMとなるように添加した、それらの細胞を37℃で2時間培養した、続いて、培地中のペプチドを取り除くために、ペプチド不含の培地で3回洗浄した。次いで、倒立型蛍光顕微鏡で各細胞における各ペプチドの取り込みを視覚的に評価した。なお、検鏡の前にペプチドを添加した培養上清を除去し1×PBS(-)で3回洗浄後、トリプシン処理し接着細胞を剥離してただちに新しい96穴プレートに移入して新しい培養液に再懸濁後、検鏡を行った。結果を図17に示す。図17において、「L」は、FAM-PCPP11を添加した細胞であり、「d」は、FAM-dを添加した細胞であり、「LL」は、FAM-LLを添加した細胞であり、「LL2」は、FAM-LL2を添加した細胞であり、「dd」は、FAM-ddを添加した細胞である。
【0170】
図17から、FAM-LL及びFAM-LL2では、その他のペプチドと比較して、いずれの膵癌細胞においても強い蛍光が検出され、FAM-LLでは、特に強い蛍光が検出された。
【0171】
[試験例6]スキルス膵癌モデルマウスの各種組織でのFAM-LLの選択的吸収性の評価試験
スキルス癌としての膵癌モデルマウスにFAM-LLを投与し、マウスの各種組織でのFAM-LLの選択的吸収性を確認した。豊富な癌間質を形成するスキルス癌としてのスキルス膵癌モデルマウスは、参考文献1(Saito K et al., “Stromal mesenchymal stem cells facilitate pancreatic cancer progression by regulating specific secretory molecules through mutual cellular interaction.”, Journal of Cancer, Vol. 9, No. 16, p2916-2929, 2018.)に記載の方法に従い、作製した。具体的には、6週齢のNOD / SCIDマウス(CLEA Japan Inc、Japan)を無病原体条件下で飼育した。BxPC3細胞(2×10 cells)、及びBxPC3細胞(1×10 cells)とヒト間葉系幹細胞(hMSC)(1×10 cells)との混合細胞をマウスの皮下にそれぞれ注射した。細胞注射から6週間飼育することで、ヒト膵癌細胞のみからなる腫瘍と、ヒト膵癌患者組織を模倣する豊富な癌間質の発達した腫瘍とを有するスキルス膵癌モデルマウスを得た。
【0172】
得られたスキルス膵癌モデルマウスにFAM-LL(200μg)を尾静脈から注射した。次いで、投与から30分後のペプチドの体内動態を、ペプチド投与マウス新鮮解剖検体で組織解析した。結果を図18A図18Fに示す。図18Aは、スキルス膵癌モデルマウスの腫瘍の明視野像(左及び真ん中)、並びに蛍光像(右)である。図18Bは、スキルス膵癌モデルマウスから摘出された各組織及び腫瘍組織の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。図18Cは、スキルス膵癌モデルマウスから摘出された各種腫瘍組織の明視野像(左)及び暗視野像(右)である。上段は各種腫瘍組織の表面の撮像であり、下段は各種腫瘍組織の切片の撮像である。図18Dは、ヒトPDAC細胞とhMSCとから形成された腫瘍組織のヘマトキシリン-エオジン(HE)染色像(左)及び蛍光像(右)である。図18Eは、ヒトPDAC細胞とhMSCとから形成された腫瘍組織のHE染色像である。図18Fは、ヒトPDAC細胞とhMSCとから形成された腫瘍組織の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
【0173】
図18A図18Cから、FAM-LLは、腫瘍組織(特に、ヒト膵癌細胞とhMSCとから形成された腫瘍組織)に強い吸収が見られた。また、図18D図18Fから、ヒトPDAC細胞とhMSCとから形成された腫瘍組織では、核の高密度に集積した癌細胞自身により構成された癌胞巣部分と、この癌胞巣を取り巻いて周囲に発達する線維芽細胞群の増殖帯とから構成された、ヒト膵癌患者組織を模倣する豊富な癌間質の発達した腫瘍を形成していることが確認された。さらに、FAM-LLは、腫瘍組織内の癌胞巣部分に強い吸収が見られた。
【0174】
[試験例7]スキルス膵癌モデルマウスの各種組織でのFAM-NmLLの選択的吸収性の評価試験
スキルス癌としての膵癌モデルマウスにFAM-NmLLを投与し、マウスの各種組織でのFAM-NmLLの選択的吸収性を確認した。豊富な癌間質を形成するスキルス癌としてのスキルス膵癌モデルマウスは、上記参考文献1に記載の方法に従い、作製した。具体的には、6週齢のNOD / SCIDマウス(CLEA Japan Inc、Japan)、K-Rasに変異を有するPdx1-Cre/KRASG12D(KC)マウス、又は膵癌特異的にK-Ras及びp53に変異を有するPdx1-Cre/KRASG12D;p53R172H(KPC)マウスを無病原体条件下で飼育した。BxPC3細胞(1×10 cells)とhMSC(1×10 cells)との混合細胞をNOD / SCIDマウスの皮下に、MIA-Paca2細胞(1×10 cells)とhMSC(1×10 cells)との混合細胞、若しくはAsPC1細胞(1×10 cells)とhMSC(1×10 cells)との混合細胞をKPCマウスの皮下に、又はヒトPDAC由来の細胞株であるCapan-2細胞(1×10 cells)とhMSC(1×10 cells)との混合細胞をKCマウスの皮下にそれぞれ注射した。細胞注射から6週間飼育することで、ヒト膵癌患者組織を模倣する豊富な癌間質の発達した腫瘍を有するスキルス膵癌モデルマウスを得た。
【0175】
得られたスキルス膵癌モデルマウスにFAM-NmLL(200μg)を尾静脈から注射した。次いで、投与から30分後のペプチドの体内動態を、ペプチド投与マウス新鮮解剖検体で組織解析した。BxPC3細胞及びhMSCの混合細胞を用いたスキルス膵癌モデルマウスでの結果を図19A図19Fに示す。図19Cにおいて、「peritoneal diss.」はperitoneal disseminated tumorの略であり、腹膜播種性腫瘍である。図19Fにおいて、「mesenteric LN meta」はmesenteric lymph nodes metastatic tumorの略であり、腸間膜リンパ節に転移した腫瘍である。以降の図においても、同様の略称を使用する。MIA-Paca2細胞及びhMSCの混合細胞を用いたスキルス膵癌モデルマウスでの結果を図20A図20Cに示す。AsPC1細胞及びhMSCの混合細胞を用いたスキルス膵癌モデルマウスでの結果を図21に示す。Capan-2細胞及びhMSCの混合細胞を用いたスキルス膵癌モデルマウスでの結果を図22A図22Bに示す。
【0176】
図19A図22Bから、FAM-NmLLは、いずれのモデルマウスにおいても腫瘍組織(主病巣及び転移巣)に強い吸収が見られた。また、FAM-NmLLは、いずれのモデルマウスにおいても腫瘍組織内の癌胞巣部分に強い吸収が見られた。
【0177】
[試験例8]各ペプチドの膵癌細胞及びその他癌細胞での集積性の確認試験
以下の表13に示す各細胞での各ペプチドの集積性の確認試験を行った。また、ペプチドとしては、下記表14に示すものを用いた。
【0178】
【表13】
【0179】
【表14】
【0180】
表13に示した各細胞に、各ペプチドをそれぞれ培地中に終濃度2μMとなるように添加した、それらの細胞を37℃で2時間培養した、続いて、培地中のペプチドを取り除くために、ペプチド不含の培地で3回洗浄した。次いで、倒立型蛍光顕微鏡で各細胞における各ペプチドの取り込みを視覚的に評価した。なお、検鏡の前にペプチドを添加した培養上清を除去し1×PBS(-)で3回洗浄後、トリプシン処理し接着細胞を剥離してただちに新しい96穴プレートに移入して新しい培養液に再懸濁後、検鏡を行った。結果を図23に示す。図23において、「pep(-)」はペプチドを投与していないコントロールの細胞であり、「single PCPP11」は、FLC(フルオレセイン)-PCPP11を添加した細胞である。また、「mal」はマレイミド基であり、システイン残基のチオール基(-SH)とFLCに導入されたマレイミド基とを反応させて共有結合を形成させることでペプチドとFLCとを結合させた。
【0181】
図23から、FLC-NmLL、NmL-Cys(-FLC)-L、NmL-Cys(-FLC)LL、L(-R)L-Cys(-FLC)-L、L(-R)-Cys(-FLC)-L-Cys(-FLC)-L、L(-R)L-Lys(-FLC)-Lは、FLC-PCPP11と比較して、いずれの膵癌細胞においても強い蛍光が検出された。一方、PDAC由来の細胞株と同じ腺癌系でも発生母地が異なるH2110細胞(肺腺癌細胞)ではほとんど蛍光が検出されなかった。また、NmL-Cys(-FLC)LL、L(-R)L-Cys(-FLC)-L、L(-R)-Cys(-FLC)-L-Cys(-FLC)-L、L(-R)L-Lys(-FLC)-Lでは、いずれの膵癌細胞においても特に強い蛍光が検出された。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本実施形態のペプチドは、消化器系の癌細胞又は癌組織への高度の集積性、及び、生体内での優れた分解耐性を有する。本実施形態のペプチドによれば、目的物質を消化器系の癌細胞又は癌組織へ簡便且つ効率よく送達することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図15C
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図18D
図18E
図18F
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
図19F
図20A
図20B
図20C
図21
図22A
図22B
図23
【配列表】
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