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特許7370603マイナス強度の眼鏡用の前駆体レンズ、眼鏡用レンズ及びマイナス強度の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】マイナス強度の眼鏡用の前駆体レンズ、眼鏡用レンズ及びマイナス強度の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 13/00 20060101AFI20231023BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20231023BHJP
   B23B 5/00 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
G02C13/00
G02C7/02
B23B5/00 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020570305
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2019004560
(87)【国際公開番号】W WO2020161878
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 仁志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝明
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-089940(JP,A)
【文献】特開2016-057324(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102083587(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110722408(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 13/00
G02C 7/02
B23B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持されたレンズ基材を周方向に回転させるとともに、前記レンズ基材の裏面側に加工ツールを配置し、同加工ツールを前記レンズ基材方向に同レンズ基材に対して相対的に進出させることで前記加工ツールを前記レンズ基材の裏面に当接させて回転に伴って当該当接位置において同心円状に所定のサグ量での加工を実行させるとともに、前記加工ツールを前記レンズ基材の回転中心方向に対して接近あるいは離間するように前記レンズ基材に対して相対的に移動させることで前記レンズ基材の裏面を三次元的な面形状に加工したマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズであって、
レンズ裏面側に横方向が縦方向よりも長い玉型形状が設定され、その裏面に対して、
装用者に関して処方されたマイナス度数のレンズとしての光学性能を発揮できる凹面形状(以下、第1の形状)が設定され、
レンズ中心又は中心付近からレンズ周縁への半径方向の断面形状において最も厚くなる位置をつないだ線(以下、稜線とする)が、前記玉型形状の耳側と鼻側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブ形状となり、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状(以下、第2の形状)が、前記第1の形状に合成され、
前記玉型形状の耳側を通る前記稜線と鼻側を通る前記稜線のそれぞれのカーブの平均的な曲率を比較した際に耳側の前記稜線のカーブの曲率よりも鼻側の前記稜線のカーブの曲率が小さいことを特徴とするマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項2】
前記稜線が前記玉型形状の鼻側における前記玉型形状の内側又は外側の位置でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブ形状であって、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状(以下、第3の形状)が、前記第1の形状に合成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項3】
耳側の前記玉型形状の上下幅の中央付近の前記稜線のカーブの曲率よりも鼻側の前記玉型形状の上下幅の中央付近の前記稜線のカーブの曲率は小さいことを特徴とする請求項2に記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項4】
前記第2の形状の前記稜線と前記第3の形状の前記稜線は接続されていないことを特徴とする請求項2又は3に記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項5】
前記第2の形状の前記稜線と前記第3の形状の前記稜線はリング状に接続され、前記稜線は前記玉型形状の上下方向では前記玉型形状の外側に配置されるようにしたことを特徴とする請求項2又は3に記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項6】
耳側の前記稜線のカーブの曲率が前記玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きいことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項7】
前記第2の形状において耳側に配置された前記稜線と鼻側に配置された前記稜線は接続されていないことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項8】
前記第2の形状の前記稜線はリング状に構成され、前記稜線は前記玉型形状の上下方向では前記玉型形状の外側に配置されることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項9】
前記レンズ基材の幾何中心を中心とする座標を想定し、前記座標において耳側の水平方向を0度とした際に、前記稜線は上又は下に方向に30~60度の角度領域で前記玉型形状の輪郭の線と交差することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項10】
前記稜線のカーブ形状を中心点又は中心点付近の基準となる点から稜線上の各点までの線分の長さの2階差分の2乗和を最小にする条件で最適化するようにしたことを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズ。
【請求項11】
前記稜線のカーブは外に向かって凹とならない形状であることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズを前記玉型形状に加工して得られる眼鏡用レンズ。
【請求項12】
前記第2の形状において前記稜線は前記玉型形状の外側でも前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状とされていることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズを前記玉型形状に加工して得られる眼鏡用レンズ。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズを前記玉型形状に加工して得られる眼鏡用レンズ。
【請求項14】
支持されたレンズ基材を周方向に回転させるとともに、前記レンズ基材の裏面側に加工ツールを配置し、同加工ツールを前記レンズ基材方向に同レンズ基材に対して相対的に進出させることで前記加工ツールを前記レンズ基材の裏面に当接させて回転に伴って当該当接位置において同心円状に所定のサグ量での加工を実行させるとともに、前記加工ツールを前記レンズ基材の回転中心方向に対して接近あるいは離間するように前記レンズ基材に対して相対的に移動させることで前記レンズ基材の裏面を三次元的な面形状に加工したマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法であって、
レンズ裏面側に横方向が縦方向よりも長い玉型形状を設定し、
前記レンズ基材の裏面に、
装用者に関して処方されたマイナス度数のレンズとしての光学性能を発揮できる凹面形状(以下、第1の形状)と、
レンズ中心又は中心付近からレンズ周縁への半径方向の断面形状において最も厚くなる位置をつないだ線(以下、稜線とする)が、前記玉型形状の耳側と鼻側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブ形状となり、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状(以下、第2の形状)とを合成し、その際に前記玉型形状の耳側を通る前記稜線と鼻側を通る前記稜線のそれぞれのカーブの平均的な曲率を比較した際に耳側の前記稜線のカーブの曲率よりも鼻側の前記稜線のカーブの曲率が小さくなるようにしたことを特徴とするマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法。
【請求項15】
前記稜線が前記玉型形状の鼻側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならず、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるようなカーブ形状(以下、第3の形状)を、前記第1の形状に合成するようにしたことを特徴とする請求項14に記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法。
【請求項16】
耳側の前記玉型形状の上下幅の中央付近の前記稜線のカーブの曲率よりも鼻側の前記玉型形状の上下幅の中央付近の前記稜線のカーブの曲率が小さくなるようにしたことを特徴とする請求項15に記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法。
【請求項17】
耳側の前記稜線のカーブの曲率が前記玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなるように加工することを特徴とする請求項14~16のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法。
【請求項18】
前記稜線のカーブ形状を中心点又は中心点付近の基準となる点から稜線上の各点までの線分の長さの2階差分の2乗和を最小にする条件で最適化するようにしたことを特徴とする請求項14~17のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイナス強度の眼鏡用の前駆体レンズ、眼鏡用レンズ及びマイナス強度の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からマイナス強度の眼鏡用レンズにおいてはレンズ裏面のレンズ使用領域(レンズ有効領域)の外側に面取り加工を施している。面取り加工はレンズの不要な部分の除去であり突起していると欠損しやすいという物理的な理由もあるが、主としてレンズ自体の美観と、特に厚いレンズを使用している眼鏡使用者において自分と対面している第三者にいかにも厚いレンズを使用しているという印象を与えないようにすることを主眼に行われている。そのようなマイナス強度の眼鏡用の前駆体レンズの面取り加工の従来技術として、例えば、特許文献1や特許文献2を挙げる。特許文献1の図2にはレンズ使用領域の外側に面取り加工して面取り部12及びカット部13を形成するようにしている。また、特許文献2ではその図7に示すように前駆体レンズ(材料ブロック14)の状態からNC(Numerical Control)装置にて切削あるいは研削にて丸レンズ11を作製し、更に何度かに分けて面取り加工して丸レンズ11を作製するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-239882号公報 図2
【文献】特開2009-208175号公報 図7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1のような面取り加工は、レンズ使用領域の外側のすべてに面取り加工をするという発想である。しかし、玉型形状が横長となるマイナスレンズではレンズフレーム内の眼に近い部分、例えば眼のすぐ上部やすぐ下部のフレーム位置から面取り加工が開始されることになってしまうため、第三者から見られた際の見え方に違和感を感じてしまう可能性がある。また、特許文献2のような面取り加工では、何度かに分けて面取り加工しなければならず、また何度かに分けての面取り加工によって面と面との接合部に稜線ができてしまうため、やはり第三者から見られた際の見え方に違和感を感じてしまう可能性がある。また、何度かに分けて面取りする必要があるため加工工程も増えてしまう。
玉型形状が横長となるマイナスレンズではその特徴から耳側と鼻側は幾何中心から距離があるため大きく面取り加工を行うことがよい。その場合に耳側ではレンズが厚いとその厚みを他者から見られやすく美観上好ましくないという特徴がある。一方、鼻側ではレンズの厚みは見られないもののレンズを通した顔の歪みが他者から見られるという特徴がある。そのため、それらを意識した面取り加工が望ましい。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、第三者から見られた際の見え方に違和感が少なく、加工工程も少ないマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズとその前駆体レンズを加工した眼鏡用レンズ及びマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための第1の手段として、支持されたレンズ基材を周方向に回転させるとともに、前記レンズ基材の裏面側に加工ツールを配置し、同加工ツールを前記レンズ基材方向に同レンズ基材に対して相対的に進出させることで前記加工ツールを前記レンズ基材の裏面に当接させて回転に伴って当該当接位置において同心円状に所定のサグ量での加工を実行させるとともに、前記加工ツールを前記レンズ基材の回転中心方向に対して接近あるいは離間するように前記レンズ基材に対して相対的に移動させることで前記レンズ基材の裏面を三次元的な面形状に加工したマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズであって、レンズ裏面側に横方向が縦方向よりも長い玉型形状が設定され、その裏面に対して、装用者に関して処方されたマイナス度数のレンズとしての光学性能を発揮できる凹面形状(以下、第1の形状)が設定され、レンズ中心又は中心付近からレンズ周縁に向かう断面形状において最も厚くなる位置をつないだ線(以下、稜線とする)が、前記玉型形状の耳側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブ形状となり、前記稜線のカーブの曲率が前記玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなり、前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状(以下、第2の形状)が、前記第1の形状に合成されているようにした。
このように玉型形状の上下幅の中央付近で最も稜線のカーブの曲率が大きな前駆体レンズでは、カーブが玉型形状の中央付近から上下に離れるにつれてカーブはなだらかになって稜線が玉型形状のレンズ使用領域の内側には向かわずに玉型形状の外方向に向かうこととなる。つまり、横に長い玉型形状が設定された前駆体レンズにおいて、レンズ中心から離間した耳側寄りの位置においてレンズ使用領域の外側に広範囲に面取り加工を施すことができるため、第三者から見られた際の見え方として違和感が少なくなる。
【0006】
「レンズ基材」は、ガラスや樹脂素材からなる透明なブロック体であり、一般に表裏いずれかを加工面として加工ツールで切削あるいは研削して前駆体レンズを作製する。
「前駆体レンズ」は、業界用語として「丸レンズ」とも呼ばれるユーザーの度数が設定されている円形又は楕円形の外周のレンズであり、ユーザーが選択したレンズフレーム形状と対応する玉型形状に加工される前のレンズである。
「加工ツール」は、例えばNC旋盤装置、CAD・CAM装置等がよい。これらの装置において加工データを入力してプログラムによってコンピュータを制御することで加工することがよい。
レンズ基材を加工して前駆体レンズを作製する際にはレンズ基材の回転中心方向に対して接近あるいは離間するように加工ツールをレンズ基材に対して相対的に移動させる。その動きは同心円状となる。同心円状の軌跡は全体としては有端状のらせん状の一周分の軌跡であり、ほぼ円形である。一方、第1の形状と第2の形状の境界線は必ずしもそのような加工ツールの同心円状と一致するものではないため、加工ツールは境界線と交差する際に大きく前後に移動することとなる。
「玉型形状」は、レンズフレームに嵌め込まれるレンズの形状の業界用語であり、フレームに応じて加工する形状である。ここではレンズ裏面に将来の必要なレンズ位置として設定される形状データとなる。
「レンズ使用領域」は、玉型形状の内部領域であって玉型形状外縁に寄った斜め方向からの光線が眼に届かないためレンズとして機能しない領域を除外した部分をいう。この領域は玉型形状外縁にあるもののレンズの度数と玉型形状によって一定ではなく幅がある。例えば、レンズフレーム内の眼に近い部分では、0.5mm又はそれより小さい距離となる。一方、強い度数で、レンズフレーム内の眼に遠い部分(たとえば耳側の端)では、3mmほどになる場合もある。
「光学性能を発揮できる凹面形状(第1の形状)」とは、本発明ではマイナス度数のレンズとして、ユーザー固有の度数を発揮させられる形状である。乱視度数が入っていたり老視用の累進屈折面が形成されていてもよい。眼鏡用レンズは基本形状はメニスカスレンズであることが多いので、その場合には表面は凸面となり裏面は凹面となる。表面を平面に構成するようにしてもよい。その場合にも裏面は凹面となる。
「第2の形状」において、稜線は耳側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブである。つまり、稜線は凸状の湾曲線や直線からなるカーブから構成される。本発明では直線は曲率0のカーブと理解される。また、稜線は少なくとも玉型形状内の耳側において連続的である必要があるが、レンズ基材の全域で必要なわけではない。例えば、玉型形状の上下位置では稜線が途切れるように第1の形状に合成されていてもよい。
また、カーブの曲率は玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなるような構成である。これは耳側の玉型形状内において稜線が玉型形状の上下幅の中央付近を頂点とした曲率が変化するカーブで構成されることを意味する。そのため、例えば「最も大きくなる」という概念のない等曲率のみ(例えば円弧の一部)で構成されるような形状は含まない。玉型形状の上下幅の中央付近とはアイポイントが上下幅の中央付近に存在する場合にはアイポイントを含む領域であることがよい。
【0007】
カーブの曲率が玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなる場合としては、自由曲線でもよいが、シンプルな例としては例えば図18(a)~(d)に示すような楕円の一部、放物線の一部、双曲線の一部のような形状でもよい。図18(a)は楕円の長径の端が玉型形状の上下幅の中央付近に配置される例である。カーブの曲率が最も大きい位置を境として上下で鏡像対象な形状である。同(b)は(a)の楕円の長径の端位置から下方側のカーブの曲率を小さくした場合(つまり上下の延出部分の曲率が異なる場合)である。(a)とは異なり鏡像対象ではない形状である。(c)は玉型形状の上下幅の中央付近を極値とする双曲線のカーブの例である。(d)は玉型形状の上下幅の中央付近を極値とする放物線(二次曲線)のカーブの例である。(c)(d)ともに極値を境として上下で鏡像対象な形状であるが、非対称としてもよい。また、このようなカーブ形状を組み合わせるようにしてもよい。これらはいずれも玉型形状の上下寄りで玉型形状の上下縁に沿って延出される形状となる。
また、稜線は仮想的な玉型形状の輪郭線と交差し、レンズ裏面に凸状に隆起する。そして、稜線の断面形状として少なくとも玉型形状内においては稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなる。このように稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くすることで非使用領域を薄くすることができる。玉型内部に含まれない部分においても稜線を明瞭にしてもよく、逆に頂点を極めてなだらかにして(丸みを大きく緩やかにつけて)稜線をはっきりさせないようにすることもできる。
稜線は立体的にレンズ裏面に凸状に隆起するが、この場合には少なくともレンズの使用領域から非使用領域に出た部分において丸みをつけることがよい。レンズが最も厚くなる部分が丸いほうが、特定の部位が目立たないため外観が美しく感じられる。左右の左右眼の度数に違いがある場合には稜線位置がわかりにくいので左右の稜線の位置が違うとの苦情がなくなる。
但し、主観的には稜線に角(カド)があるほうが格好良く感じるということも考えられる。また、稜線に丸みをつけると稜線と玉型端部との位置関係がわかりにくくなるが、角張っていると玉型加工後に耳側および鼻側の玉型の端との間隔(位置関係)が明瞭となるメリットがある。
【0008】
また、カーブの曲率を玉型形状内の耳側の上下幅の中央付近において最も大きくなるように加工することは、レンズの加工上意味がある。わかりやすく説明するために、逆にカーブの曲率を玉型形状内の耳側の上下幅の中央付近において最も小さくなる場合を比較として説明する。
図20に示すように、カーブの曲率を玉型形状内の耳側の上下幅の中央付近において最も小さくした稜線101を考える。稜線101は玉型形状内において耳側の上下位置で玉型形状に沿って曲げて(曲率を大きくして)、玉型形状内で面取りする領域を確保するようにしている。このような稜線のカーブであると、玉型と稜線の交差する角度が浅くなる。すると、わずかな加工位置ズレにより玉型のエッジの形が、予定された形状から大きく変わってしまうこととなる。また、レンズを加工する加工ツールは円を描いて移動するため、このような形状では加工ツールの軌道と稜線101の交差する角度が深い(交差角度が直角に近くなる)部分ができる。そのような場合、加工ツールが稜線101の外側と稜線101の内側の境界を深い角度で移動することになり、より短い時間で急激にレンズ面に対して接離する方向となる加工ツールの進退方向の座標が変化することになる。つまり加工ツールの加工における加速度が大きくなることから、加工ツールを駆動するモータへの負荷が増大することとなってしまい、よくない。
尚、これら用語の定義は以下の手段においても同様である。
【0009】
また、第2の手段として、前記稜線が前記玉型形状の鼻側における前記玉型形状の内側又は外側の位置でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブ形状であって、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状(以下、第3の形状)が、前記第1の形状に合成されているようにした。
これによって、横に長い玉型形状が設定された前駆体レンズにおいて、レンズ中心から離間した鼻側寄りの位置においても面取り加工を施すことができる。このように、鼻側寄りの位置において面取りすることでレンズが厚くなって鼻に当たるような不具合が解消できる。「玉型形状の鼻側における前記玉型形状の内側又は外側の位置」とあるため、このカーブ形状は玉型形状の内側になく外側にある場合も含む。
また、第3の手段として、耳側の前記玉型形状の上下幅の中央付近の前記稜線のカーブの曲率よりも鼻側の前記玉型形状の上下幅の中央付近の前記稜線のカーブの曲率を小さくした。
耳側ではなるべく広範囲に面取り加工することが第三者からレンズを見られた際の美観の観点から好ましい。しかし、鼻側は第三者からレンズを見られるということはなく、面取り加工をするとその面取りした面を通して第三者から見られた際に顔が変形して目視されかねない。そのため、耳側よりも上下幅の中央付近の稜線のカーブの曲率を小さくすることで耳側ほど広範囲に面取り加工しないようにするというものである。鼻側の稜線のカーブの曲率は稜線全域での最小値をとることがよい。
【0010】
また、第4の手段として、前記第2の形状の前記稜線と前記第3の形状の前記稜線が接続されていないようにした。
第2の形状の稜線と第3の形状の稜線、つまり、耳側の稜線と鼻側の稜線は接続されておらず各々独立してカーブ形状を構成するようになっている。この場合には加工は面倒であるものの、一方の稜線が他方の稜線のカーブ形状に拘束されないため、それぞれの稜線の形状に裕度ができるため、耳側と鼻側の様々な面取り加工に対応可能となる。
また、第5の手段として、前記第2の形状の前記稜線と前記第3の形状の前記稜線はリング状に接続され、前記稜線は前記玉型形状の上下方向では前記玉型形状の外側に配置されるようにした。
ここで稜線の形状がリング状ではないとすると、加工ツールの軌道がレンズ前駆体に対して面を描いて一周する間に、進退方向(レンズ面に対して接離する方向)の向きを変える回数が増えることとなって、加工ツールの進退方向に駆動するモータへの負荷が増大するため加工しにくくなる。これによって、稜線の形状がリング状ではない場合と比較してレンズ面の加工がしやすくなる。
「上下」とは、眼鏡装用者がその玉型のフレームを用いた眼鏡を装用して、自然な姿勢(顔は正面を向いて、頭頂部が上を向いた状態)における上下をいう。
【0011】
また第6の手段として、支持されたレンズ基材を周方向に回転させるとともに、前記レンズ基材の裏面側に加工ツールを配置し、同加工ツールを前記レンズ基材方向に同レンズ基材に対して相対的に進出させることで前記加工ツールを前記レンズ基材の裏面に当接させて回転に伴って当該当接位置において同心円状に所定のサグ量での加工を実行させるとともに、前記加工ツールを前記レンズ基材の回転中心方向に対して接近あるいは離間するように前記レンズ基材に対して相対的に移動させることで前記レンズ基材の裏面を三次元的な面形状に加工したマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズであって、レンズ裏面側に横方向が縦方向よりも長い玉型形状が設定され、その裏面に対して、装用者に関して処方されたマイナス度数のレンズとしての光学性能を発揮できる凹面形状(以下、第1の形状)が設定され、稜線が、前記玉型形状の耳側と鼻側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブ形状となり、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状(以下、第2の形状)が、前記第1の形状に合成され、前記玉型形状の耳側を通る前記稜線と鼻側を通る前記稜線のそれぞれのカーブの平均的な曲率を比較した際に耳側の前記稜線のカーブの曲率よりも鼻側の前記稜線のカーブの曲率が小さくなるようにした。
これによって、横に長い玉型形状が設定された前駆体レンズにおいて、特にレンズ中心から離間した耳側寄りと鼻側寄りの位置においてそれぞれ面取り加工を施すことができる。耳側ではなるべく広範囲に面取り加工することが第三者からレンズを見られた際の美観の観点から好ましい。しかし、鼻側では第三者からレンズを見られるということはなく、むしろ面取り加工をするとその面取りした面を通して第三者から見られた際に顔が変形して目視されかねない。そのため、このように構成することで、耳側を広範囲に面取りすると同時に、鼻側はそれほど面取りを大きくしないようにすることができる。
図19に基づいて耳側寄りと鼻側寄りの稜線のカーブの曲率と面取り領域との関係について説明する。図19ではわかりやすく説明するために一例として稜線の形状を等曲率の円弧状とした。
玉型形状内において耳側寄り稜線のカーブの曲率が大きいと玉型形状の上下寄りで幾何中心側に徐々に湾曲して耳側寄りの上下位置の稜線の外側の面積が増えることとなる。そのため、面取り加工が可能な領域が増えることとなる。一方、玉型形状内において鼻側寄り稜線のカーブの曲率は小さいため稜線の外側の領域は小さくなることとなる。
【0012】
また、第7の手段として、耳側の前記稜線のカーブの曲率が前記玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなるようにした。
耳側の稜線のカーブの曲率が玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなるような形状が、横に長い玉型形状が設定された前駆体レンズにおいて、耳側寄りの位置においてレンズ使用領域の外側に広範囲に面取り加工を施すことができるため、第三者から見られた際の見え方として違和感が少なくなるからである。
また、第8の手段として、前記第2の形状において耳側に配置された前記稜線と鼻側に配置された前記稜線は接続されていないようにした。
これによって、上記第4の手段と同様に一方の稜線が他方の稜線のカーブ形状に拘束されないため、それぞれの稜線の形状に裕度ができるため、耳側と鼻側の様々な面取り加工に対応可能となる。
また、第9の手段として、前記第2の形状の前記稜線はリング状に構成され、前記稜線は前記玉型形状の上下方向では前記玉型形状の外側に配置されるようにした。
これによって、上記第5の手段と同様に稜線の形状がリング状ではない場合と比較してレンズ面の加工がしやすくなる。
【0013】
また、第10の手段として、前記レンズ基材の幾何中心を中心とする座標を想定し、前記座標において耳側の水平方向を0度とした際に、前記稜線は上又は下に方向に30~60度の角度領域で前記玉型形状の輪郭の線と交差するようにした。
稜線が玉型形状の輪郭の線と交差する位置が、あまり玉型形状の耳側寄りすぎては広範囲に面取り加工ができなくなる。一方、あまり玉型形状の内側すぎる位置で交差させると稜線の形状に無理が生じたり稜線がレンズ使用領域内に侵入するようになってくる。そのために、稜線の通る妥当な交差位置を角度として限定したものである。
また、第11の手段として、前記稜線のカーブ形状を中心点又は中心点付近の基準となる点から稜線上の各点までの線分の長さの2階差分の2乗和を最小にする条件で最適化するようにした。
これによって稜線のカーブ形状を多くの通過点を設定しなくとも滑らかなカーブ形状に構成することが可能となる。
また、第12の手段として、前記稜線のカーブは外に向かって凹とならない形状であるようにした。
これは玉型形状だけではなく、稜線のカーブ形状が玉型形状の外側でも凸か直線であること意味する。これによって面取り加工がしやすく、また不自然さのないデザイン的に優れた前駆体レンズを提供することができる。
また、第13の手段として、前記第2の形状において前記稜線は前記玉型形状の外側でも前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状とされているようにした。
これによってレンズ周縁の不要な部分がカットされた軽量で厚みのない前駆体レンズが、前駆体レンズの状態ですでに提供できることとなる。この際に厚さが薄くなりすぎて表裏に貫通した透孔が形成されないように加工することがよい。
【0014】
また、第14の手段として、第1~第13の手段のいずれかに記載のマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズを前記玉型形状に加工して眼鏡用レンズを得るようにした。
これによって任意のデザインの横長の玉型形状に合致したマイナス度数の眼鏡用のレンズを得ることができる。マイナス度数の眼鏡用のレンズは、例えばシングルヴィジョンであっても、小玉の付属した遠近両用レンズや累進屈折力レンズであってもよい。
【0015】
また、第15の手段として、支持されたレンズ基材を周方向に回転させるとともに、前記レンズ基材の裏面側に加工ツールを配置し、同加工ツールを前記レンズ基材方向に同レンズ基材に対して相対的に進出させることで前記加工ツールを前記レンズ基材の裏面に当接させて回転に伴って当該当接位置において同心円状に所定のサグ量での加工を実行させるとともに、前記加工ツールを前記レンズ基材の回転中心方向に対して接近あるいは離間するように前記レンズ基材に対して相対的に移動させることで前記レンズ基材の裏面を三次元的な面形状に加工したマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法であって、レンズ裏面側に横方向が縦方向よりも長い玉型形状を設定し、前記レンズ基材の裏面に、装用者に関して処方されたマイナス度数のレンズとしての光学性能を発揮できる凹面形状(以下、第1の形状)と、稜線が、前記玉型形状の耳側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブ形状となり、前記稜線のカーブの曲率が前記玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなり、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状(以下、第2の形状)とを合成した面を加工するようにした。
この手段は第1の手段を方法的観点から特定した内容である。
このように玉型形状の上下幅の中央付近で最も稜線のカーブの曲率が大きな前駆体レンズを加工すると、カーブが玉型形状の中央付近から上下に離れるにつれてカーブはなだらかになって稜線が玉型形状のレンズ使用領域の内側には向かわずに玉型形状の外方向に向かうこととなる。つまり、横に長い玉型形状が設定された前駆体レンズを加工する際に、レンズ中心から離間した耳側寄りの位置においてレンズ使用領域の外側に広範囲に面取り加工を施すことができるため、第三者から見られた際の見え方として違和感が少なくなる。
【0016】
また、第16の手段として、前記稜線が前記玉型形状の鼻側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならず、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるようなカーブ形状(以下、第3の形状)を、前記第1の形状に合成するようにした。
このように加工すると、横に長い玉型形状が設定された前駆体レンズにおいて、レンズ中心から離間した鼻側寄りの位置においても面取り加工を施すことができる。このように、鼻側寄りの位置において面取りすることでレンズが厚くなって鼻に当たるような不具合が解消できる。
また、第17の手段として、耳側の前記玉型形状の上下幅の中央付近の前記稜線のカーブの曲率よりも鼻側の前記玉型形状の上下幅の中央付近の前記稜線のカーブの曲率が小さくなるようにした。
耳側ではなるべく広範囲に面取り加工することが第三者からレンズを見られた際の美観の観点から好ましい。鼻側は第三者からレンズのフチの厚さを見られるということはないが、面取り加工をすることでレンズが鼻に当たることを想定した場合の安全性が向上する。しかし、あまり大きく面取りすると、その面取りした面を通して第三者から見られた際に顔が変形して目視されかねない。そのため、このように耳側よりも上下幅の中央付近の稜線のカーブの曲率を小さく加工することで耳側ほど広範囲に面取り加工しないようにするというものである。鼻側の稜線のカーブの曲率は稜線全域での最小値をとることがよい。
【0017】
また第18の手段として、支持されたレンズ基材を周方向に回転させるとともに、前記レンズ基材の裏面側に加工ツールを配置し、同加工ツールを前記レンズ基材方向に同レンズ基材に対して相対的に進出させることで前記加工ツールを前記レンズ基材の裏面に当接させて回転に伴って当該当接位置において同心円状に所定のサグ量での加工を実行させるとともに、前記加工ツールを前記レンズ基材の回転中心方向に対して接近あるいは離間するように前記レンズ基材に対して相対的に移動させることで前記レンズ基材の裏面を三次元的な面形状に加工したマイナス度数の眼鏡用の前駆体レンズの加工方法であって、レンズ裏面側に横方向が縦方向よりも長い玉型形状を設定し、前記レンズ基材の裏面に、装用者に関して処方されたマイナス度数のレンズとしての光学性能を発揮できる凹面形状(以下、第1の形状)と、稜線が、前記玉型形状の耳側と鼻側の内側でかつレンズ使用領域よりも外側において外に向かって凹とならないカーブ形状となり、前記玉型形状の内側で前記稜線からレンズ周縁に向かって徐々に厚さが薄くなるような形状(以下、第2の形状)とを合成し、その際に前記玉型形状の耳側を通る前記稜線と鼻側を通る前記稜線のそれぞれのカーブの平均的な曲率を比較した際に耳側の前記稜線のカーブの曲率よりも鼻側の前記稜線のカーブの曲率が小さくなるようにした。
この手段は第6の手段を方法的観点から特定した内容である。
横に長い玉型形状が設定された前駆体レンズにおいては、耳側ではなるべく広範囲に面取り加工することが第三者からレンズを見られた際の美観の観点から好ましい。しかし、鼻側では第三者からレンズを見られるということはなく、むしろ面取り加工をするとその面取りした面を通して第三者から見られた際に顔が変形して目視されかねない。このように加工することで耳側を広範囲に面取りすると同時に、鼻側はそれほど面取りを大きくしないようにすることができる。
【0018】
また第19の手段として、耳側の前記稜線のカーブの曲率が前記玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなるように加工するようにした。
耳側の稜線のカーブの曲率が玉型形状の上下幅の中央付近において最も大きくなるような形状が図19による説明のように玉型形状の耳側に広範囲に面取り加工する際に有利だからである。
また第20の手段として、前記稜線のカーブ形状を中心点又は中心点付近の基準となる点から稜線上の各点までの線分の長さの2階差分の2乗和を最小にする条件で最適化するようにした。
これによって稜線のカーブ形状を多くの通過点を設定しなくとも滑らかなカーブ形状に構成することが可能となる。
上述した第1~第20の手段の各発明は、任意に組み合わせることができる。第1~第20の手段の各発明の任意の構成要素を抽出し、他の構成要素と組み合わせてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、横に長い玉型形状が設定された前駆体レンズにおいて、レンズ中心から離間した耳側寄りの位置において、特にレンズ使用領域の外側に広範囲に面取り加工を施すことができるため、第三者から見られた際の見え方として違和感が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1の丸レンズの裏面側に設定される玉型形状と稜線の配置状態を説明する説明図。
図2図1の丸レンズの稜線の全周の曲率分布を説明するグラフ。
図3】本発明の実施例2の丸レンズの裏面側に設定される玉型形状と稜線の配置状態を説明する説明図。
図4図3の丸レンズの稜線の全周の曲率分布を説明するグラフ。
図5】比較例の丸レンズの裏面側に設定される玉型形状と稜線の配置状態を説明する説明図。
図6図5の丸レンズの稜線の全周の曲率分布を説明するグラフ。
図7図3のA-A線方向における境界線付近から外方の部分拡大断面図。
図8】玉型形状と稜線が好ましい場合の丸レンズを説明する説明図。
図9】玉型形状と稜線が好ましくない場合の丸レンズを説明する説明図。
図10】(a)は面取りをしていないノーマルな丸レンズ、(b)は比較例としての面取りした丸レンズ、(c)は実施例2の丸レンズにおけるそれぞれ玉型形状内の玉型形状縁寄りの厚みの違いを数値として示した説明図。
図11】(a)は面取りをしていないノーマルな丸レンズ、(b)は比較例としての面取りした丸レンズ、(c)は実施例2の丸レンズにおけるそれぞれ耳側から見た側面図。
図12】実施の形態において使用されるNC旋盤装置の概略説明図。
図13】バイトと材料ブロックとの位置関係を説明する説明図。
図14】材料ブロックを中央位置で直径方向に破断した一部破断側面図。
図15】丸レンズの裏面に形成される稜線とその前後の加工を説明する説明図。
図16】スプライン補間を説明する説明図。
図17】稜線の曲率の計算を説明するための説明図。
図18】(a)~(d)は本発明の稜線のカーブ形状を説明する説明図。
図19】耳側寄りと鼻側寄りの稜線のカーブの曲率の違いを説明するための丸レンズの裏面側に設定される玉型形状と稜線の配置状態の説明図。
図20】本発明との違いを説明するための丸レンズの裏面側に設定される玉型形状と稜線の配置状態において、稜線のカーブの曲率を玉型形状内の耳側の上下幅の中央付近において最も小さくした説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施例を図面に基づいて説明する。
(実施の形態)
図1は実施例1の前駆体レンズとしての丸レンズ11であり、図3は実施例2の前駆体レンズとしての丸レンズ12である。図5は比較例の前駆体レンズとしての丸レンズ13である。丸レンズ11~13は、図14に示すような、いわゆる「(セミ)セミフィニッシュトブランク」と呼ばれる十分な厚みを有する円筒状のレンズ基材である材料ブロック14を後述するNC(Numerical Control)旋盤装置41にて裏面側を切削加工あるいは研削加工して得られたものである。
本実施の形態における材料ブロック14は、一例として素材屈折率1.70で半径70mmの円筒体であって、表面は所定の曲率で凸状に形成され、裏面は所定の曲率で凹状に形成されている。表面は丸レンズ11に加工された際にそのまま同じ曲率の表面とされる。本実施の形態では丸レンズ11~13は材料ブロック14の形状データをNC旋盤装置41に入力するとともに、ユーザー固有のレンズ度数を形成するための第1の加工データと、第1の加工データで加工されるレンズ周囲の不要な部分をカットするための第2の加工データを合成した合成加工データに基づいて材料ブロック14の裏面側を切削して作製される。尚、最終的にはスムージング加工及びポリッシング加工が施されて滑らかな加工面の丸レンズ11~13が完成する。第1の加工データによって加工される面形状が第1の形状であり、第2の加工データにより加工される面形状が第2の形状又は第3の形状とされる。
【0022】
図7に基づいて実施例2の丸レンズ12を例にとってその裏面の三次元的形状(立体的形状)について説明する。尚、実施例1の丸レンズ11、比較例の丸レンズ13も基本的な三次元的形状は同様であるので丸レンズ12と共通する構成部位については同じ番号を付し、詳しい説明は省略する。比較例の丸レンズ13は稜線21としているが、稜線の設計手法は実施例と同様である。
レンズ中心から稜線18までの距離は稜線18の形状がいびつであるため、丸レンズ12の裏面全周に渡って丸レンズ12中心から縁方向(つまり半径方向)への断面形状は異なる。図7では、一例として図3のA-A線方向における稜線18付近から外方の部分拡大断面図に基づいて形状の説明をする。図7に示すように、丸レンズ12の裏面には中心方向から順にレンズ使用領域16、境界線17、稜線18、玉型形状の縁19の順に並ぶ。これらは実際にレンズ面に実際の線分として現れるものではない。尚、図7では表面側のカーブをキャンセルして直線(平面)として図示している。
【0023】
丸レンズ12の三次元的形状をより詳しく説明する。
図7に示すように、レンズ使用領域16は第1の形状のみから構成される。第1の形状は第2の形状(又は第3の形状)を合成しないと想定した場合には、レンズ使用領域16から仮想線Bのようなカーブでレンズ外方に形状が延出されるようになるため、レンズ縁が極めて厚くなってしまう。レンズ使用領域16から外側は第2の形状又は第3の形状が合成された面となるため、この仮想線Bのようにレンズ縁が厚くなることはない。
レンズ使用領域16から外側、つまり境界線17から外側は稜線18をピークとして外方に向かってなだらかな曲面が形成される。レンズ使用領域16は丸レンズ12を玉型形状の外形となるように切削加工して、フレーム入れした際に実質上レンズとして機能しうる領域である。玉型形状はフレームに包囲されるため、そのフレームに近接した領域で斜め外方向からの光はフレームによって遮られて眼に入らない。そのため、玉型形状の縁19から玉型の上方向と下方向では0.3~0.5mm程度、また耳側と鼻側では3~5mm程度の領域は玉型形状の縁19内であってもレンズ使用領域16ではない領域となる。尚、耳側と鼻側の厚みは幅がありレンズのマイナス度数が非常に強くて、かつ玉型が大きい場合は10mmまたはそれ以上になることもある。鼻側と耳側に寄った位置で玉型形状の縁19と交差する境界線17は、玉型形状の縁19の内側でこのレンズ使用領域16にかからない部分を通過している。
図3等に示すように、レンズ裏面からの平面視において、稜線18はいびつなリング状に構成される。実施例2の丸レンズ12の玉型形状は鼻側と耳側が角張った横長形状とされている。稜線18は玉型形状(実際は玉型形状の縁19)の耳側と鼻側に寄った位置において玉型形状内を通過して玉型形状の縁19と交差する。稜線18と玉型形状の縁19との関係は後述する。
【0024】
さて、第1の形状のレンズ使用領域15とその外側の領域(レンズ非使用領域)との境界位置(以下、a位置)に境界線17は存在する。この部分は第1の形状と第2の形状が連続的に接続される部分であり、両者は滑らかに接続され段差はない。そのため実際の外観上は境界線17の位置はわからない。境界線17から外側には稜線18を基準に断面が上に凸となるなだらかなカーブで構成された領域R1がまず形成されている。本実施の形態では領域R1は2mm前後の幅とされる。
領域R1の外側には断面が1次関数の直線で構成された領域R2が形成されている。本実施の形態ではこの斜面は45度の半分として22.5度とした。その角度での1次関数(傾斜面において、厚さを補う前の仮のレンズ厚さ)は、
g(t)=0.4142・t
とされる。ここで、t=0となる位置はg(t)の関数で表される傾斜面の厚さが0になる位置であり、g(t)の原点とする。その位置をd位置とする。tはレンズの中心に向かって正の値を取る距離(mm)として定義される。
【0025】
領域R2はb位置で領域R1と滑らかに接続されている。本実施の形態では領域R2は2mm前後の幅とされる。領域R2の外側には領域R3が形成されている。領域R2と領域R3は滑らかに接続され接続位置(この位置をc位置とする)がこの断面方向では玉型形状の縁19とされる。領域R3は3次関数の下に凸となる(薄くなる)なだらかなカーブで構成されておりe位置で最小値をとり、それは丸レンズ12の最も薄い(低い)位置となる。3次関数は傾斜面に付加する厚さとして、次のように置くことができる。
f(t)=at+bt+ct+d
f(t)の具体的な係数の算出手法は後述する。尚、d位置からe位置までの距離は本実施の形態では5mmとする。
領域R3は一旦薄くなった後に再び厚くなりf位置で領域R4と接続される。本実施の形態では領域R3は7mm前後の幅とされる。領域R4は水平方向に延びる直線で構成されており丸レンズ12の外周縁g位置に至る領域である。f位置での領域R3と領域Rの接続は不連続である。領域R4の幅は稜線18の位置によって変化する。
【0026】
次に、図8図10に基づいて稜線18の形状について詳しく説明する。
図8は玉型形状に対する稜線の位置関係を説明する本発明において「好ましい稜線」を説明する図である。実施例2の丸レンズ12に対応する。また、図9は「好ましい稜線」との比較のための「好ましくない稜線」の丸レンズの図である。比較例の丸レンズ13に対応する。
図8に示すように、稜線18は曲率が一定ではないカーブによってリング状に構成されている。稜線18は常に外に凸となるカーブ(つまり、プラスのカーブ)から構成され、凹となる(つまりマイナスカーブ)部分はない。稜線18はレンズ使用領域16の外側にであって玉型形状内を耳側寄りと鼻側寄りで玉型形状の縁19と交差する。稜線18は耳側の玉型形状内の上下幅の中央付近(アイポイント高さ付近)において外に凸となるカーブで最も曲率が大きくなっている。その曲率は同じ高さの玉型形状のカーブよりも大きい。そして、稜線18は玉型形状の上下方向に向かうにつれて曲率は徐々に小さくなっていき、玉型形状のカーブよりも小さな曲率となることから玉型形状と交差して玉型形状の外に向かう。稜線18は上下それぞれ45度程度の角度で玉型形状の縁19と交差する。玉型形状の縁19とは直交するような深い角度ではなく玉型形状の縁19に沿った比較的浅い角度で交差することとなる。このようなカーブ形状であるため図8の丸レンズでは耳側で大きく面取りがされることとなる。また、稜線18の角度がこのように玉型形状の上下縁寄りで浅くなると後述する加工の際のバイト40による同心円状の動きと大きく交差することがないので、バイト40の進退動作に無理がかかりにくくなる。
また、稜線18は鼻側の玉型形状内ではほぼ上下幅にわたって等曲率の外に凸となるカーブで構成されている。この玉型形状内の鼻側寄りを通過する稜線18のカーブの曲率は稜線18全体として最も小さく、玉型形状をほぼ上下方向に交差する。稜線18は上下それぞれ15度程度の角度で玉型形状の縁19と交差する。玉型形状の上下方向で稜線18の曲率が変わらないことから交差角度はより耳側で交差する場合よりも深い角度で交差する。このようなカーブ形状であるため図8の丸レンズでは鼻側であまり面取りがされないこととなる。
【0027】
一方、図9の好ましくない稜線21は全体として等曲率の真円形状とされている。耳側寄りと鼻側寄りは等曲率の稜線21が通過する。
ここで、図8図9を比較すると、図9では図8と異なり玉型形状内の耳側寄りで稜線20のカーブは常に等曲率であるため、稜線21は玉型形状内の上下方向で稜線20の外側領域が図8のように広くなることがない。つまり、「好ましい稜線」である図8の場合よりも面取りがされないこととなる。そして、図9における稜線21が玉型形状の縁19と交差する位置を見た場合に、図8の丸レンズでは面取りされているためは相対的に薄くなっている。
これに対し、図9では稜線21のカーブは鼻側寄りでは図8の稜線18の鼻側寄りよりも曲率が大きくなっているため、逆に「好ましい稜線」である図8の場合よりも大きく面取りがされていることとなる。
図10(a)~(c)は丸レンズにおける玉型形状内の玉型形状縁寄りの厚みの違いを数値として示した図である。図10(a)はまったく面取り加工をしないレンズ(つまり第1の加工データによって加工された第1の形状のみを有するノーマルレンズ)を比較のために挙げた図である。図10(b)は「好ましい稜線」で作製した実施例2の丸レンズであり、図10(c)は「好ましくない稜線」で作製した比較例の丸レンズである。また、図11(a)~(c)は図10(a)~(c)に対応するそれぞれの丸レンズの耳側からの側面図である。各図の破線は丸レンズを幾何中心で断面とした際の裏面側カーブ形状である。図11(b)に示すように、本発明の実施例2の丸レンズでは図11(c)の比較例の丸レンズに比べて玉型形状内の耳側寄りでは広範囲に面取りされて薄くなっており、一方、鼻側では面取りされているものの極端に広範囲に面取りはしていないことがわかる。
【0028】
上記のような実施の形態によって作製された具体的な丸レンズについて玉型形状と稜線の関係について説明する。
(1)実施例1
図1に示す実施例1の丸レンズ11は天地幅の大きい玉型形状の例である。実施例1ではアイポイントEPは丸レンズ11の幾何中心と一致する。玉型形状の縁19と交差する稜線18はリング状に設定されている。図2に基づいて稜線18の曲率をより正確に分析する。図2は稜線18の周形状を設計するために基準とした24点の位置での曲率を折れ線グラフとしたものであり、鼻側の幾何中心を通る水平線よりわずかに下位置にある点を「0」として反時計回り方向に24点の位置をプロットしたものである。これによれば稜線18耳側寄り内側12点目の付近が最も曲率が大きく(極大)、鼻側寄り内側の0点や24点付近が最も曲率が小さい(極小)。また、玉型形状内において鼻側寄りの稜線18の平均的な曲率は耳側寄りの稜線18の平均的な曲率よりも小さい。
この実施例1では、旋盤装置21の回転中心から稜線までの距離が、鼻側と耳側でほば同じであり、上下に対称的なので、加工の面で有利である。その一方、鼻側において玉型と丸レンズのフチの距離(玉型加工時のとりしろ)が大きいので、本来必要な大きさよりも大きなレンズを作製することとなり、使用する材料コストと加工コストの面では不利である。
【0029】
(2)実施例2
図3に示す実施例2の丸レンズ12は天地幅の小さい玉型形状の例である。実施例1ではアイポイントEPは丸レンズ12の幾何中心から鼻側2.0mm、上側2.0mmの位置に設定されている。実施例1と同様玉型形状の縁19と交差する稜線18はリング状に設定されている。図4に基づいて稜線18の曲率をより正確に分析する。図4図2と同様に24点の位置をプロットしたものである。これによれば稜線18耳側寄り内側12点目の付近が最も曲率が大きく(極大)、玉型形状の外となる上側の9点目付近と下側の16点付近が最も曲率が小さい(極小)。鼻側寄り内側の0点や24点付近も耳側寄りに比べると曲率は小さい。また、玉型形状内において鼻側寄りの稜線18の平均的な曲率は耳側寄りの稜線18の平均的な曲率よりも小さい。
実施例2では、旋盤の回転中心から稜線までの距離が、実施例1よりも不均一なので、加工の面でやや不利である。その一方、作製するレンズの径は最適となっている。
(3)比較例
図5に示す実施例3の丸レンズ13は実施例2とおなじ玉型形状であって、稜線18を真円とした例である。図6に基づいて稜線18の曲率をより正確に分析する。図6図2と同様に24点の位置をプロットしたものである。この例では稜線18を真円にしたため曲率の変化はなく一定である。旋盤加工をしやすいが、美観において実施例1~2に劣ることとなる。また、玉型形状内において耳側の上下部分においては縁が厚くなってしまう。また、玉型形状内の鼻側(つまり鼻側の縁部分)は耳側ほど薄くする必要はないのであるがこの例では鼻側を薄くしすぎである。
【0030】
次に、材料ブロック14から丸レンズ11~13を作製する際の加工方法について説明する。
本実施の形態では加工装置として図12に示すNC旋盤装置41を使用して材料ブロック14を加工する。NC旋盤装置41の主軸32はテーブル33の面板34に回転可能に取り付けられている。主軸32はZ軸に平行に延出されている。主軸32は主軸回転モータ35によって回転させられる。主軸32の先端にはチャック部36が形成されている。材料ブロック14の凸面側には連結部を備えたパッド38が前もって貼着されており、材料ブロック14はパッド38の連結部を介してチャック部36に固定される。材料ブロック14は主軸32先端に固定された状態でその光学中心Oは主軸32の回転中心と一致する。主軸32と対向する位置には刃物台37が配設されている。刃物台37は複数の刃物台駆動モータ39によってX軸Z軸方向の2方向に対して移動可能とされている。X軸は刃物台37の主軸32に対する左右方向の直交方向、Z軸は刃物台37の主軸32に対する接離方向である。刃物台37のチャック部36には加工ツールとしてのバイト40が着脱可能に取り付けられている。各モータ35,39はサーボモータから構成されており、それぞれアンプ32を介してコントローラ43に接続されている。尚、図12は簡略化した図であり、本発明と直接関係のない構成については省略されている。
【0031】
コントローラ43はCPUからなるNC旋盤装置41の制御部分であって、ROM44及びRAM45が接続されている。ROM44にはNC旋盤装置41のシステムプログラム、NC加工プログラム、OS(Operation System)等の各種プログラムが記憶されている。また、コントローラ43にはキーボードやマウス等から構成される入力操作部やモニターが接続されている。
RAM45には製品データ、バイトデータ、加工条件データ、機械データ等が記憶されている。
製品データとは材料ブロック14の形状データ及び作製される丸レンズ11~13の第1の加工データと第2の加工データの両方を含む。バイトデータとは本実施例ではバイト40は粗加工の場合と仕上げ加工の場合とでそれぞれ異なる種類を使用するため、それらの加工毎で取り替えるバイト40の種類やサイズについての諸元データである。加工条件データとは一回転毎のバイト40の送り量や送り速度等のデータである。機械データは主軸32と刃物台37の位置関係や刃物台37におけるチャック部36の位置関係等のNC旋盤装置41の機械要素の諸元データである。コントローラ43はNC加工プログラムを実行させ、前記各モータ35,38を制御する。
【0032】
図13に示すように、回転する材料ブロック14に対してNC旋盤装置41のバイト40は材料ブロック14の外方から中心方向(x軸方向)に移動しながら合成された第1の加工データと第2の加工データに基づいて材料ブロック14に対してz軸方向に接離するように(つまり前後に移動して)切削加工動作を実行する。材料ブロック14中心に達したバイト40は一旦材料ブロック14から一旦離間し、材料ブロック14外側の初期位置に復帰して再び次の切削加工動作を行う。バイト40は例えば毎秒5~10回転程度で材料ブロック14を0.1~0.5mm程度の切削量で切削していく。これらの値はNC旋盤装置41の機種や設定、あるいは加工のいずれの段階(例えば粗加工か、仕上げ加工か等)か、によって適宜変更される値である。
切削加工動作においては当初はNC旋盤装置41に設定された加工データと材料ブロック14の形状は一致しないため接触したりしなかったりするが、切削が進むに連れて加工データに従った形状で材料ブロック14の裏面全体をバイト40はなめるように切削していく。
【0033】
ここで、材料ブロック14はバイト40によって同心円状(実際はらせんの一部)に加工されていくが、上記のように境界線13はこの円周上にあるわけではないため、バイト40は加工の途中でその軌跡が境界線13と何度も交差することになる。軌跡が稜線18と交差する位置ではバイト40は稜線18を乗り越えてその内外に進出することとなるが、稜線18から外方の領域R1~R3は急激にレンズ厚さが薄くなる領域であるためバイト40は急激な動作を強いられることとなる。逆方向も同様である。特に境界線13との交差角度が直交方向に近いほどバイト40は急激な速度で進出することとため、進退動作の加速度も大きくなる。図7に示すように本実施の形態ではレンズ厚さが最も薄くなる位置がレンズ基材の最も外周位置よりも内側に設定されている。そのため、加工ツールはストローク量を大きくすることができ、ツールの加速度を抑えることができるため、加工ツールに無理が生じず故障しにくくなる。
【0034】
次に本実施の形態における第2の形状(又は第3の形状)のデータの作成手法について説明する。第2の形状(又は第3の形状)は第1の形状に付加される形状データであり、材料ブロック14を形状データに基づいてNC旋盤装置41によって切削することで求める裏面形状が成形される。
(1)稜線18とその前後の丸め
上記のように領域R1は稜線18を基準に断面が上に凸となるなだらかなカーブで構成されている。これは第1の形状と第2の形状の境界に尖ったカドができてしまうと、研磨加工やハードコート加工等に支障が出てしまうからである。そのため稜線18のようになだらかに補正する必要がある。この領域は次のように作成する。
図15はレンズ中心とレンズ縁とを結ぶ線状での断面位置の第1の形状とg(t)=0.4142との交叉点を示している。この交叉点をp1とする。ここで補完直線Lを引いて交叉点p1からの垂線と交叉する点をp2とする。
ここでp2から稜線18頂点の接線方向にそれぞれ0.5mm離れた位置からの稜線18を含む滑らかな付加形状Δωを与えることを考える。
例えば、付加形状のカーブを3次関数 j(x)=ax+bx+cx+d
と置く。また、ここでhの高さはj(x)の出発点高さから、点p2までの高さであり、2hは点p1までの高さとする。
ここでxは領域R1が第1の形状と接続する端の位置において0とする。
まず、領域R1が第1の形状と接続する端の位置では段差のない接続とするため、j(0)=0でなければならず、従ってd=0である。
また、この式を一階微分した導関数は、
j'(x)=3ax+2bx+c
となるが、x=0における増加量はx方向0.5あたりにつき高さ方向2hなので、2h/0.5=4hとなる。したがって、
j'(0)=c=4h
p12位置での一階微分値が連続でなければならないので、
j'(0.5)=0.75a+b+4h=0
また、j(0.5)=0.125a+0.25b+2h=h であるから、0.5a+b+4h=0
これを解いて、a=0、b=-4h となる。
従って、j(x)=-4hx+4hx となる。
hの値は任意に変更した値とすることで稜線の丸みを調整することが可能となる。
【0035】
(2)稜線18の周形状
本実施の形態では稜線18の周形状は次のように設計される。但し、この設計手法は一例であって他の手法で設計するようにしてもよい。
a.稜線18の中心座標を設定する。例えば、実施例2ではx=0.2mm、y=2.0mmとした。
b.図3の稜線18上の黒塗り四角形で示すように幾何中心から稜線18までの距離を、等角度間隔(15度間隔)で24点設定する。鼻側でアイポイント位置の高さを0番とし耳側でアイポイント位置の高さを12番とする。24点はちょうど15度間隔で設定できるので、ここでは24点としたがもっと増やしてもよい。この例では、回転中心から玉型の鼻側と耳側のフチまで距離が等しいので、初期値をすべて23mmとした。こうすることで、耳側の最大エッジ幅が鼻側より0.4mm大きくなり、エッジ幅を好ましいバランスにすることができる。
c.幾何中心から稜線18までの距離を変位させる。具体的には、0番と12番を23.00mmとし、上側6番と下側18番を20.10mmとする。次に3番23.52mm、9番19.17mm、15番19.70mm、21番23.56mmとする。これらの値は、最終的な形状を想定しながら玉型に合わせて主観的に設定したものであるが、注文データに含まれる玉型形状に合わせて自動的に計算することもでき、その場合には任意の方法で設定することができる。
d.これまでに設定した8個の距離を固定して、残りの16点の距離を稜線18の形状が滑らかになるように最適化する。そのために、24個の距離の2階差分の2乗和が最小になるように、個々の距離の値を少しずつ繰り返し順番に変動させる。
この際に、距離の2階差分の2乗を算出する方法として、次のように実行する。
1.24個ある距離に関して、隣り合う値の差分を算出する。周上なので24個の値を求めることになる。
2.24個の差分に関して、さらに隣り合う値の差分を算出する。
3.こうして求めた24個の2階差分を、それぞれ2乗して足し合わせる。
このように最適化することで滑らかな稜線18とするために非常に多くの稜線18上の座標を設定する必要がなく、少ない基準点でも滑らかな稜線18の設計をすることが可能となる。
尚、ここで固定点を8個としたのは、一つの例であって、8個以外の数とすることは可能である。
【0036】
(3)スプライン補間
NC旋盤装置41によって丸レンズを加工する際には面上のいたるところの座標値を求める必要がある。それは稜線18も同様であり稜線18上の座標値を求める必要がある。そのため上記の24点を使用してスプライン補間計算をし、その補間計算した座標を稜線18上の座標値とする。図16に基づいて説明する。
一般に周知な手法として、XY平面上の24点の座標を(xi、yi)i=0~23とする。x0~x23の24点に関して、媒介変数t(0~1)を介したパラメトリック周期スプライン補間を行うことができる。
また、より簡単な別の方法として稜線18上の4点の座標をもとに2点間の座標を補間する方法を示す。図16の4点p1~p4に関して、以下の操作を行う。これを24点に応用することは容易である。但し、それぞれの点にはそれぞれのXY座標の値が対応しているものとする。

S2←p2
E2←p2+(p3-p1)/4
S3←p3+(p2-p4)/4
E3←p3
補間する点=
(1-t)((1-t)S2+t・E2)+t((1-t)S3+t・E3)
その結果、tの値0~1にp2~p3の座標が対応する。
ここで、改めてx座標とy座標をそれぞれ変数として、=で結んだ数式として以下に示す。
S2x=p2x
S2y=p2y
E2x=p2x+(p3x-p1x)/4
E2y=p2y+(p3y-p1y)/4
S3x=p3x+(p2x-p4x)/4
S3y=p3y+(p2y-p4y)/4
E3x=p3x
E3y=p3y
補間する点のx座標=
(1-t)((1-t)S2x+t・E2x)+t((1-t)S3x+t・E3x)
補間する点のy座標=
(1-t)((1-t)S2y+t・E2y)+t((1-t)S3y+t・E3y)
図16において、3つの線分は点線と実線に区切られている。これら点線の長さと実線の長さの比は、3つの線分においてすべてt:1-tとなっている。
t=0のとき補間点はP2(S2)となり、t=1補間点はP3(E3)となる。
【0037】
(4)曲率の計算
稜線18の座標だけでは稜線18の任意の位置の曲率はわからない。曲率を算出するために例えば次のようにする。
まず、稜線を定義するための24点座標をもとに、曲率を近似的に計算する方法を示す。そのためには、ある3点の座標p1~p3をこの順に通る円の曲率半径(mm)を求め、その逆数をp2における曲率(mm-1)とすればよい。
図17において、示す角度θは、p1→p2ベクトルとp2→p3ベクトルから算出する。具体的には、2つのベクトルの内積(X成分どうしの積とY成分どうしの積の和)を2つのベクトルの大きさ(それぞれのX成分の2乗とY成分の2乗を加えた値の平方根)で割って、cosθの値を得る。後は、以下の式に従って計算を行う。
cosθ=cos(θ/2)-sin(θ/2)
1-cosθ=2・sin(θ/2)
sin(θ/2)=1/2-(1/2)cosθ
sinθ/2=√(1/2-(1/2)cosθ)
曲率半径R=2辺の長さの平均値の半分/(sinθ/2)
【0038】
(5)境界の外側の形状
図7に示すように、傾斜面の厚さが0になる位置を、関数f(t)に関してt=0の「原点」とする。tはレンズ中心に向かって正の値をとる距離(mm)として定義する。領域R3から領域R3に接続する位置(d位置、厚さ3mm位置)を厚さ付加の「開始点」とする。丸めを施す前の境界の厚さが3mmより薄ければ、境界を厚さ付加の「開始点」とする。開始点ではt=xとする。xの値は具体的に算出することができるが、表記を簡単にするため以下の式ではxとして表す。
そして。領域R3の開始点より外側では、3次関数f(t)に従ってレンズ厚さを付加する。開始点t=xでは、厚さを付加する量と、その変化量を0とする。すなわち、滑らかに厚さの付加を開始する。原点からさらに5mm外側(マイナス方向とする)で最も薄い点で厚さ0.5mmになるようにする。最も薄くなる位置よりも外側では再びレンズは厚くするが、その厚さは1mmまでに抑える。1mmより厚くしても良いが、そうすると外周フチ厚が位置によって厚くなったり薄くなったりする。ここでは全周の厚さが一定のほうが扱いやすいと考えて、そのようにした。
具体的な3次関数は、上記のように、f(t)=at+bt+ct+dとする。実現するレンズ厚さは、g(t)+f(t)となる。
ただしt=-6よりも外側で値が1mmを超える場合は、レンズ厚さを1mmとした。
【0039】
厚さを決定する計算を実行する際には、レンズ厚みを薄くしすぎてレンズに表面に連通してしまうようなことがないようにする。そのために例えば次のように最もレンズ厚みが薄くなる位置のレンズ厚みを値を設定する。
f(t)=at+bt+ct
f'(t)=3at+2bt+c

g(t)=0.4142・t
g'(t)=0.4142

t=xの点において、f(t)=0なので、
f(x)=0
ax+bx+cx+d=0 …(1)

t=xの点において、f'(t)=0なので、
f'(x)=0
3ax+2bx+c=0 …(2)

原点から5mm外側(t=-5)が最も薄い点となるようにする。
f'(-5)+g'(-5)=0
75a-10b+c+0.4142=0 …(3)

本実施の形態では厚み確保のために、その位置で例えば厚さ0.5mmになるようにする。
f(-5)+g(-5)=0.5
-125a+25b-5c+d-5・0.4142=0.5 …(4)
xの値は既知なので、以上(1)~(4)を連立方程式として解き、a・b・c・dの値を求めるようにする。
原点から5mm外側(t=-5)が最も薄く、その位置で厚さ0.5mmになるようにするので、レンズの厚さが0.5mmより薄くなることはない。
稜線18より外側の任意の点において、その点とレンズの中心を結ぶ断面方向を想定して上記のように計算を行うことによって、その点の厚さを決定することができる。
【0040】
このように構成される丸レンズ11~13は、第1の形状と第2の形状の境界線13を横長の玉型形状の上下方向では玉型形状の縁19から大きく離間させるようにし、一方で玉型形状の左右方向では境界線13を玉型形状の縁19の内側の使用領域ではない位置を通過させるようにしている。そのため、ユーザーがこのような玉型形状でカットしたレンズが装着された眼鏡を装用した際に、第三者から観察される反射像や透過像が歪みにくくなり、第三者から見られた際の違和感が少なくなる。
また、丸レンズ11~13の最も外周寄りには均等な厚みの部分を残すようにしているため、丸レンズ11~13が持ちやすくなっている。
【0041】
上記実施例は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。例えば次のように実施するようにしてもよい。
・上記実施の形態の材料ブロック14や丸レンズ11、12の形状は一例である。例えば、丸レンズ11に設定される玉型形状の形状は横長であれば上記以外の形状であってもよく、丸レンズ11、12上での配置位置は変更可能である。また、玉型形状の縁19と使用領域ではない位置で交差するのであれば境界線13の形状や設定位置も上記以外であってもよい。上記ではいびつな自由曲線からなるリング状であったが、より定型的なカーブとなる楕円の一部、放物線の一部、双曲線の一部のような形状でそれら曲線の極値を耳側に配置するように稜線18を設計してもよい。
・丸レンズ11の第1の形状としてはSV(シングルビジョン)のS度数、C度数のみがレンズ度数として設定されものでもよく、加入度が設定された累進屈折力レンズであってもよい。
・実施例1や実施例2では鼻側寄りの玉型形状内の稜線18の平均的な曲率は耳側寄りの玉型形状内の稜線18の平均的な曲率よりも小さい。それは手段6や手段18に対応する発想である。そのような平均的曲率の関係があれば耳側寄りの玉型形状内の稜線18の曲率は例えば図19のように同じ曲率であってもよい。
・スプライン補完として24点の座標を基準としたが、これ以上あるいはこれ以下の点
を基準としてもよい。
・上記実施例では45度付近で稜線18と玉型は交差するようにしていたが、60度くらいまで玉型の内方に進出させるようにしてもよい。その際に稜線18はレンズ使用領域を侵さないことがよい。
・手段1や手段15のような発明では玉型形状の鼻側寄り内側には面取りしない、つまり稜線18を鼻側で玉型形状内に通さないような設計も可能である。
・稜線18の形態としてリング状でなくともよい。玉型形状内において耳側寄りを通過する第1の稜線と、玉型形状内において鼻側寄りを通過する第2の稜線と、いうように別々で構成するようにしてもよい。
・稜線18の曲率の計算は上記は一例を示したものであり、他の手法であってもよい。
例えば、別の方法として、3点p1~p3から等距離にある点(xc、yc)を想定し、その点から3点までの距離がすべて等しいという条件からxcとycに関する連立方程式を作り、それを解くようにすることでもよい。
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成に限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
【符号の説明】
【0042】
11、12…前駆体レンズとしての丸レンズ、14…レンズ基材としての材料ブロック、16…レンズ使用領域、18…稜線、19…玉型形状の縁。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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