(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法及び研磨助剤
(51)【国際特許分類】
C08B 15/10 20060101AFI20231023BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231023BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20231023BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231023BHJP
C08B 11/08 20060101ALN20231023BHJP
【FI】
C08B15/10
B24B37/00 H
C09K3/14 550C
C09K3/14 550Z
H01L21/304 622D
C08B11/08
(21)【出願番号】P 2017236286
(22)【出願日】2017-12-08
【審査請求日】2020-10-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】595138155
【氏名又は名称】ダイセルミライズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】柴田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】土井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 更
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0353810(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0013871(US,A1)
【文献】特開2003-171402(JP,A)
【文献】特表2006-527785(JP,A)
【文献】特開2014-36206(JP,A)
【文献】特開2014-80461(JP,A)
【文献】特開2006-335836(JP,A)
【文献】特開2003-12535(JP,A)
【文献】特開2003-171401(JP,A)
【文献】特開2016-153480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B,C09K,H01L
CAPLUS STN,REGISTRY STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒の存在下でヒドロキシエチルセルロースとアルデヒド類とを反応させて疎水化ヒドロキシエチルセルロース及び前記溶媒を含む組成物を得る疎水化工程、下記条件(1)及び(2)の双方を充足する条件で前記組成物から前記溶媒を除去して疎水化ヒドロキシエチルセルロースを得る乾燥工程を含む疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法。
条件(1):疎水化ヒドロキシエチルセルロースの最高到達温度αが65℃未満である
条件(2):
下記測定方法によって疎水化ヒドロキシエチルセルロースの温度と加熱時間とから算出される熱量パラメータβが2500℃・min以下である
(熱量パラメータβの測定方法)
未乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースを入れたステンスレスバットを棚式乾燥機に入れ、乾燥を開始する。乾燥の際の疎水化ヒドロキシエチルセルロースの品温T(℃)を縦軸、時間t(min)を横軸としてグラフを作成し、疎水化ヒドロキシエチルセルロースの品温Tが40℃以上となっている区間の面積を算出し、その面積(℃・min)を熱量パラメータβとする。
【請求項2】
疎水化工程で得られた疎水化ヒドロキシエチルセルロースを加水分解することなく乾燥工程に供する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アルデヒド類の割合が、ヒドロキシエチルセルロース100重量部に対して1重量部以下である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
アルデヒド類がジアルデヒドである請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
アルデヒド類がグリオキサールである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
疎水化工程の前工程として、固有粘度2~6dl/gを有するセルロースをアルセル化し、生成したアルカリセルロースとエチレンオキサイドとを反応させ、得られたヒドロキシエチルセルロースを含む反応混合物を中和するヒドロキシエチルセルロース生成工程をさらに含む請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥粒と組み合わせてシリコンウェハなどの半導体基板を研磨する研磨助剤などに有効に利用できる疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法及び研磨助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半合成高分子化合物であるヒドロキシエチルセルロース(HEC)は、水溶性であり、分散性、増粘性などの特性に優れる。このようなヒドロキシエチルセルロースは、分散剤、増粘剤、乳化重合安定剤、保護コロイド、塗料、化粧品、保水剤、医薬製剤などの種々の用途に利用されている。特に、前記特性が有効な用途として、シリコンウェハなどに代表される半導体基板などの研磨工程において、研磨対象物表面の保護や濡れ性を向上させる目的で、研磨助剤として、砥粒及び水に加えて利用されている。
【0003】
特開2003-12535号公報(特許文献1)には、(A)アルカリセルロースとエチレンオキシドとを反応させて得られたヒドロキシエチルセルロースを、難水溶性有機溶媒、メタノールおよび水からなる混合溶媒Iを用いて洗浄する第1洗浄工程と、(B)前記混合溶媒I及び酸からなる混合溶媒IIで洗浄する第2洗浄工程を含むヒドロキシエチルセルロースの製造方法が記載されている。この文献の実施例には、難水溶性有機溶媒としてメチルイソブチルケトンを用いた混合溶媒I、難水溶性有機溶媒としてメチルイソブチルケトンを用い、酸として酢酸を用いた混合溶媒IIで洗浄し、さらに前記混合溶媒Iで洗浄して濾別した後、得られた残渣を、減圧下、70℃で一昼夜乾燥し、ヒドロキシエチルセルロースの乾燥品を得たことが記載されている。
【0004】
特開2003-171401号公報(特許文献2)には、アリカリ比率が14~18重量%、水分比率が20~55重量%であるアルカリセルロースと、アルキレンオキサイドとを反応させてヒドロキシアルキルセルロースを製造することが記載されている。この文献の実施例では、スラリー液から濾別したヒドロキシエチルセルロースを所定の混合溶媒で洗浄した後、減圧下、70℃で一昼夜乾燥してヒドロキシエチルセルロースを得たことが記載されている。
【0005】
特開平11-92707号公報(特許文献3)には、酵素加水分解に抵抗性の分子量減少多糖誘導体(ヒドロキシエチルセルロース(HEC)など)、及び水媒体ペイント成分を含む、生物学的安定性の水媒体ペイントが記載されている。この文献には、高分子量HECの製造及び酵素処理に関し、t-ブチルアルコール、水、および水酸化ナトリウムの混合物を含有する反応器に、Buckeye HVEセルロース(Spartanburg,SCのBuckeye Corp.から市販)を加え、混合物を室温で攪拌し、エチレンオキシドを加えて反応させ、反応混合物を冷却した後に、硝酸および追加エチレンオキシドを加えて反応させた後、硝酸で中和し、濾別した残留物を80:20アセトン/水混合物で洗浄し、精製物をアセトンで脱水した後、脱水精製物を、50℃で0.5時間で、流動床乾燥器で乾燥し、ヒドロキシエチルモル置換(MS)が4.3であり、1%溶液粘度が3350cpsのHECを得たことが記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1~3には、HECを研磨助剤として利用することは記載されていない。さらに、近年のシリコンウェハの研磨では、研磨表面に対して高い表面品質が要求されており、水に対する不溶物が多いためか、これらのHECでは、研磨後の表面に微小な欠陥[例えば、LPD(light point defects)]が生じる。
【0007】
特開2011-61089号公報(特許文献4)には、研磨材と、高分子量のヒドロキシエチルセルロースを加水分解して調製されたヒドロキシエチルセルロースと、塩基性化合物とを含む研磨液組成物が記載されている。この文献には、ヒドロキシエチルセルロース(HEC、Mw=150万、平均モル置換度2.4)を、イソプロパノール(IPA)/水=85/15(重量比)混合溶媒中、塩酸で加水分解し、生成した混合物に上記組成の混合溶媒を加え、ろ別した沈殿物をIPA/水=95/5(重量比)混合溶媒で洗浄し、50℃の雰囲気下で減圧乾燥して、加水分解ヒドロキシセルロース(GPC法による重量平均分子量(Mw)107万、平均モル置換度2.4)を得たことが記載されている。
【0008】
しかし、この文献に記載の加水分解ヒドロキシエチルセルロースでも、研磨精度を向上するのは困難であり、表面欠陥を十分に抑制できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-12535号公報(特許請求の範囲、実施例)
【文献】特開2003-171401号公報(特許請求の範囲、実施例)
【文献】特開平11-92707号公報(特許請求の範囲、実施例)
【文献】特開2011-61089号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、砥粒と組み合わせて研磨精度を向上できる研磨助剤として有用な疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法及びこの製造方法で得られた疎水化ヒドロキシエチルセルロースからなる研磨助剤を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、砥粒と組み合わせてシリコンウェハなどの半導体基板を研磨しても半導体基板の表面に欠陥が発生するのを抑制できる研磨助剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、溶媒の存在下でヒドロキシエチルセルロースとアルデヒド類とを反応させて得られる疎水化ヒドロキシエチルセルロース及び前記溶媒を含む組成物から、特定の熱履歴で乾燥することにより得られる疎水化ヒドロキシエチルセルロースを、砥粒と組み合わせて被研磨体を研磨すると、研磨精度を向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法は、溶媒の存在下でヒドロキシエチルセルロースとアルデヒド類とを反応させて疎水化ヒドロキシエチルセルロース及び前記溶媒を含む組成物を得る疎水化工程、下記条件(1)及び(2)から選択される少なくとも1つの条件で前記組成物から前記溶媒を除去して疎水化ヒドロキシエチルセルロースを得る乾燥工程を含む。
【0014】
条件(1):疎水化ヒドロキシエチルセルロースの最高到達温度αが65℃未満である
条件(2):疎水化ヒドロキシエチルセルロースの温度と加熱時間とから算出される熱量パラメータβが2500℃・min以下である。
【0015】
前記疎水化HECの製造方法は、疎水化工程で得られた疎水化HECを加水分解することなく、乾燥工程に供してもよい。前記アルデヒド類の割合は、HEC100重量部に対して1重量部以下であってもよい。前記アルデヒド類はジアルデヒド(特にグリオキサール)であってもよい。前記疎水化HECの製造方法は、疎水化工程の前工程として、固有粘度2~6dl/gを有するセルロースをアルセル化し、生成したアルカリセルロースとエチレンオキサイドとを反応させ、得られたHECを含む反応混合物を中和するHEC生成工程をさらに含んでいてもよい。
【0016】
本発明には、砥粒と組み合わせて被研磨体を研磨するための研磨助剤であって、アルデヒド類で疎水化され、かつ前記アルデヒド類を0.3重量%以下の割合で含む疎水化HECからなる研磨助剤も含まれる。前記疎水化HEC中の水に対する不溶物の割合が1000重量ppm以下であってもよい。前記疎水化HECの重量平均分子量は3×104~100×104程度であってもよい。前記疎水化HECの平均置換度は0.5~2.5程度であってもよい。前記疎水化HECの水分含量は10重量%以下であってもよい。前記疎水化HECの1重量%水溶液における25℃での粘度が2000cps以下であってもよい。
【0017】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「疎水化HEC」とは、アルデヒド類で処理(又は架橋)されたHECを意味し、アルデヒド類で緩く又は弱く架橋されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、溶媒の存在下でHECとアルデヒド類とを反応させて得られる疎水化HECを含む組成物を特定の熱履歴で乾燥することにより得られる乾燥疎水化用HECを、研磨砥粒と組み合わせて被研磨体を研磨するため、研磨精度を向上できる。特に、研磨砥粒と組み合わせてシリコンウェハなどの半導体基板を研磨しても半導体基板の表面に欠陥が発生するのを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法]
本発明の疎水化HECの製造方法は、溶媒の存在下でHECとアルデヒド類とを反応させて疎水化HECを含む液状組成物を得る疎水化工程、特定の条件で前記液状組成物を乾燥させて疎水化HECを得る乾燥工程を含んでいればよいが、疎水化工程の前工程として、HEC生成工程をさらに含んでいてもよい。
【0020】
(HEC生成工程)
HEC生成工程では、セルロースをアルセル化し、生成したアルカリセルロースとエチレンオキサイドとを反応させ、得られたヒドロキシエチルセルロースを含む反応混合物を中和してもよい。
【0021】
セルロースとしては、材質がβ-1,4-グルカン構造を有する多糖類で形成されていればよい。セルロースの形状は、粉粒状、繊維状などであってもよく、通常、繊維状である。繊維状セルロースとしては、例えば、高等植物由来のセルロース繊維(例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(例えば、コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など)、動物由来のセルロース繊維(例えば、ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース繊維(例えば、ナタデココに含まれるセルロースなど)などが挙げられる。これらのセルロースは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
セルロースの固有粘度(Intrinsic viscosity)は、例えば2~6dl/g、好ましくは2.5~5.5dl/g(例えば3~5dl/g)、さらに好ましくは3.2~4.5dl/g(特に3.3~4.3dl/g)程度である。固有粘度が小さすぎると、水に対する溶解性が強すぎるの虞があり、逆に大きすぎると、水に対する溶解性が弱すぎる虞がある。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、固有粘度は、JIS P8215:1998 A法に準拠して測定できる。
【0023】
アルセル化では、慣用のスラリー法(高液倍率法)やニーダー法(低液倍率法)などの種々の方法を用いて、前記セルロースとアルカリとを反応させてアルカリセルロースを生成する。アルカリとしては、例えば、アルカリ金属(リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウムなど)の水酸化物、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)の水酸化物、アンモニアなどが挙げられる。これらのアルカリのうち、アルカリ金属水酸化物(特に水酸化ナトリウム)が汎用される。
【0024】
アルカリ(水酸化ナトリウムなど)の割合は、セルロース100重量部に対して、例えば10~100重量部、好ましくは15~70重量部、さらに好ましくは20~50重量部程度である。
【0025】
アルセル化は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、水性溶媒が好ましく、例えば、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、環状エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、水、アルコール類が汎用され、t-ブチルアルコールなどのアルコール類を主溶媒として含むのが好ましい。
【0026】
セルロース濃度は、例えば1~20重量%、好ましくは2~15重量%、さらに好ましくは3~10重量%程度である。
【0027】
アルセル化は、例えば10~50℃(特に15~40℃)程度の温度で、攪拌しながら、反応させてもよい。反応時間は5分~2時間(特に1時間~2時間)程度である。
【0028】
エチレンオキサイド(酸化エチレン)の割合は、生成したアルカリセルロースの原料であるセルロース100重量部に対して、例えば10~300重量部、好ましくは30~200重量部、さらに好ましくは50~150重量部(特に50~100重量部)程度である。
【0029】
アルカリセルロースとエチレンオキサイドとの混合温度は、反応を均一に進行できる点から、5~30℃(特に10~25℃)程度であり、混合時間は、5分~2時間(特に5分~1時間)程度である。
【0030】
アルカリセルロースとエチレンオキサイドとの反応温度は、例えば35~90℃、好ましくは40~90℃、さらに好ましくは50~85℃(特に50~80℃)程度である。反応時間は、例えば1~15時間、好ましくは1.5~10時間、さらに好ましくは2~5時間程度である。
【0031】
得られたヒドロキシエチルセルロースを含む反応混合物(通常、液状組成物)を中和するための酸としては、プロトン酸、例えば、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸など)、有機酸(例えば、カルボン酸、スルホン酸など)などが挙げられる。これらの酸のうち、硝酸などの無機酸が汎用される。酸の割合は、混合物のpHが弱酸性、例えば3.5~6.5、好ましくは4~6、さらに好ましくは4.3~5.5(特に4.5~5)程度に調整できる割合であればよい。
【0032】
(疎水化工程)
疎水化工程(架橋工程)では、溶媒の存在下でHECとアルデヒド類とを反応させて疎水化HECを得る。疎水化工程では、HECの親水性基(通常、ヒドロキシル基)とアルデヒド類とを反応させることにより、HECを疎水化し、かつ架橋することができ、HECの水性溶媒(特に水)に対する溶解性を低減できる。そのため、疎水化HECを研磨助剤などに利用しても、水溶液中で疎水化HECが凝集してダマ(ママコ)を形成するのを抑制できる。これに対して、疎水化されてないHECでは、粉末状で水に添加すると、水に対する溶解性が高すぎるため、水との接触面が直ちに溶解することによりゲル状の層を形成してダマとなり、取り扱い性が低下し易い。
【0033】
アルデヒド類としては、例えば、モノアルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グリセリンアルデヒドなど)、ポリアルデヒド[グリオキサール(シュウ酸アルデヒド又はエタンジアール)、マロンアルデヒド(プロパンジアール)、スクシンアルデヒド(ブタンジアール)、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒド、オクタンジアルデヒド、フタルアルデヒドなどのジアルデヒド;トリホルミルメタン、トリホルミルエタンなどのトリアルデヒドなど]などが挙げられる。これらのアルデヒド類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのアルデヒド類のうち、ジアルデヒドが好ましく、グリオキサールが特に好ましい。
【0034】
アルデヒド類(特にグリオキサールなどのジアルデヒド)の割合は、HEC100重量部に対して、例えば5重量部以下(特に1重量部以下)であってもよく、例えば0.05~1重量部、好ましくは0.1~0.8重量部、さらに好ましくは0.3~0.8重量部(特に0.5~0.7重量部)程度である。アルデヒド類の割合が少なすぎると、親水性が高すぎる虞があり、多すぎると、架橋が進行し過ぎて水系での使用が困難となる虞がある。
【0035】
溶媒としては、前記HEC生成工程のアルセル化工程の溶媒として例示された溶媒を利用でき、好ましい態様も同様である。溶媒は、HEC生成工程で使用した溶媒であってもよく、新たに添加して溶媒であってもよい。HEC濃度は、例えば1~20重量%、好ましくは2~15重量%、さらに好ましくは3~10重量%程度である。
【0036】
疎水化反応は、例えば10~50℃(特に15~40℃)程度の温度で、攪拌しながら、反応させてもよい。反応時間は10分~3時間(特に30分~2時間)程度である。
【0037】
(乾燥工程)
乾燥工程では、得られた疎水化HEC及び溶媒を含む組成物(通常、液状組成物)から、特定の熱履歴(熱負荷)で溶媒を除去することにより、乾燥工程においてアルデヒド類による架橋構造が変化するのを抑制できる。アルデヒド類による架橋構造が変化すると、疎水化HECでの水に対する溶解性が低下しすぎて、研磨助剤として利用した場合に被研磨体の表面に欠陥が発生し易くなる。特定の熱履歴で溶媒を除去することにより、疎水化HECが適度な水溶解性を発現するメカニズムの詳細は不明であるが、疎水化工程によってアルデヒド類がアセタール結合などにより架橋された疎水化HECは、水に混合した当初は、適度な疎水性を示し、疎水化HECが凝集するのを抑制するとともに、溶解性が向上するのに対し、熱負荷が大きすぎると、架橋構造が変化し、不溶物となるためであると推定できる。
【0038】
本発明では、疎水化工程で得られた疎水化HECは、加水分解することなく、乾燥工程に供される。
【0039】
乾燥工程では、生産性の点から、通常、加熱により前記組成物から溶媒を除去する。さらに、前記組成物が液状組成物である場合、加熱処理の前に、生産性の点から、通常、液状組成物から一部の溶媒を脱液処理し、疎水化HEC及び残部の溶媒を含む組成物(固体状又はゲル状組成物)を調製した後、得られた組成物が加熱処理に供される。
【0040】
脱液処理では、濾過などの慣用の方法で液状組成物から、一部の溶媒を除去してもよい。さらに、脱液処理では、疎水化HECを精製するための洗浄処理と組み合わせてもよい。例えば、脱液処理に供した固体状組成物を、水性溶媒中に添加して攪拌した後、攪拌後の液状組成物から濾過などの慣用の方法で一部の溶媒をさらに除去する洗浄処理に供してもよい。さらに、洗浄処理は、複数回繰り返してもよい。
【0041】
洗浄処理で用いる水性溶媒としては、前記HEC生成工程のアルセル化工程の溶媒として例示された溶媒を利用できる。前記溶媒のうち、水やケトン類などが汎用され、アセトンななどのケトン類を主溶媒として含む溶媒が好ましい。
【0042】
脱液処理(及び洗浄処理)された組成物中の水分の割合(水分含量)は、例えば20~80重量%、好ましくは30~70重量%、さらに好ましくは40~60重量%程度である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、脱液された組成物中の水分含量は、ハロゲン水分計などを用いて測定できる。
【0043】
加熱処理の方法としては、乾燥器を用いた慣用の方法を利用できる。乾燥器としては、例えば、材料静置型乾燥器(例えば、回分式箱型乾燥器など)、材料移送型乾燥器(トンネル乾燥器、通気バソド乾燥器、ノズルジェット乾燥器、通気竪型乾燥器など)、材料攪拌型乾燥器(例えば、円筒及び溝型攪拌乾燥器、捏和乾燥器、円盤乾燥器、回転乾燥器、水蒸気管付き回転乾燥器、通気回転乾燥器などの流動層乾燥器、円錐型乾燥器、振動輸送乾燥器など)、熟風移送型乾燥器(例えば、噴霧乾燥器、気流乾燥器など)、円筒乾燥器(例えば、ドラム乾燥器、多円筒乾燥器など)、赤外線乾燥器、凍結乾燥器、高周波乾燥器などが挙げられる。乾燥機内の製品の付着が少ない材料移送型乾燥器が好ましい。
【0044】
加熱温度は、後述する熱履歴(最高到達温度α及び熱量パラメータβ)を充足する限り、特に限定されず、35℃以上(例えば35~150℃)であってもよく、例えば40~120℃、好ましくは45~100℃、さらに好ましくは50~90℃程度である。加熱時間は、加熱温度に応じて、1分~10時間程度の範囲から適宜選択でき、例えば2分~8時間、好ましくは3分~5時間程度であり、架橋の調整と生産性とを両立できる点から、10分~4時間(特に1~3時間)程度であってもよい。
【0045】
加熱処理は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれで処理してもよいが、熱負荷を低減しつつ溶媒を除去できる点から、常圧下又は減圧下で処理するのが好ましい。
【0046】
本発明では、乾燥工程において、下記条件(1)及び(2)から選択される少なくとも1つの条件で前記液状組成物から前記溶媒を除去する。すなわち、本発明では、疎水化HECの熱履歴として、最高到達温度α及び熱量パラメータβを下記の範囲に調整することにより、アルデヒド類による適度な架橋を実現できる。
【0047】
条件(1):疎水化HECの最高到達温度αが65℃未満である
条件(2):疎水化HECの温度と加熱時間とから算出される熱量パラメータβが2500℃・min以下である。
【0048】
条件(1)では、疎水化HECの最高到達温度αが65℃未満であればよいが、架橋の程度を調整し易く、かつ生産性にも優れる点から、例えば20℃以上65℃未満、好ましくは25~63℃(例えば35~60℃)、さらに好ましくは40~55℃(特に45~50℃)程度である。
【0049】
本明細書及び特許請求の範囲において、最高到達温度αとは、乾燥工程において、疎水化HECの表面温度(以下「品温」と称する)が最も高くなった時点の温度を意味する。疎水化HECの品温は、例えば、温度計や熱電対などの温度センサを用いて、疎水化HEC集合体の内部の温度を測定することにより求めることができる。
【0050】
条件(2)では、疎水化HECの熱量パラメータβが2500℃・min以下であればよいが、架橋の程度を調整し易く、かつ生産性にも優れる点から、例えば30~2500℃・min、好ましくは50~2000℃・min、さらに好ましくは75~1500℃・min(特に300~1000℃・min)程度であってもよく、さらに最高到達温度αが低めの値である場合、熱量パラメータβを高めに調整すると、架橋の程度と生産性とを高度に両立でき、例えば1500~2500℃・min(特に2000~2500℃・min)程度であってもよい。
【0051】
本明細書及び特許請求の範囲において、熱量パラメータβとは、温度と時間との積として算出されるパラメータであり、前記時間は、疎水化HECの品温が40℃以上に到達した以降の時間であり、前記温度は、疎水化HECの品温である。典型的には、熱量パラメータβは、次式:
β=∫a~b{f(t)}dt
により算出され得る。上記式中、f(t)は、乾燥工程における疎水化HECの品温T(℃)を縦軸とし、時間t(min)を横軸としたときのグラフにおいて、疎水化HECの品温Tの推移を示す関数である。a~bは積分区間であり、ここでは疎水化HECの品温Tが40℃以上となっているときの区間である。すなわち、疎水化HECの品温Tが40℃以上となっているときの区間a≦t≦bにおいて、T=f(t)及びT=0の関数に囲まれた部分の面積を熱量パラメータβとして算出する。
【0052】
なお、本発明では、前記条件(1)及び(2)のいずれかを充足すればよく、条件(1)を充足する場合は、熱量パラメータβは、例えば2500℃・minを超えて6000℃・min、好ましくは2800~5000℃・min、さらに好ましくは3000~4500℃・min程度であってもよく、逆に、条件(2)を充足する場合は、最高到達温度αは、例えば65~150℃、好ましくは70~120℃、さらに好ましくは80~120℃程度であってもよいが、架橋の制御と生産性とを高度に両立できる点から、条件(1)及び(2)の双方を充足するのが特に好ましい。
【0053】
乾燥工程では、加熱処理された疎水化HEC中の水分の割合(水分含量)が20重量%未満(例えば10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下)となるように調整すればよい。また、疎水化HECは、必要に応じて、分級、粉砕等の処理に供してもよい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、疎水化HEC中の水分含量は、乾燥減量法を用いて測定できる。
【0054】
[疎水化ヒドロキシエチルセルロース又は研磨助剤]
前記方法で得られた疎水化HECは、疎水化HEC中の水分の割合(水分含量)は20重量%未満(例えば10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下)であればよく、例えば0.01~18重量%、好ましくは0.1~15重量%、さらに好ましくは0.3~10重量%(特に0.5~5重量%)程度である。
【0055】
前記疎水化HECは、アルデヒド類で疎水化されており、疎水化HEC中のアルデヒド類(特にグリオキサールなどのジアルデヒド)の割合は0.3重量%以下であってもよく、例えば0.03~0.25重量%、好ましくは0.05~0.2重量%、さらに好ましくは0.08~0.15重量%(特に0.1~0.13重量%)程度である。アルデヒド類の割合が少なすぎると、架橋の程度が小さすぎて、水中でダマになる虞があり、逆に多すぎると、架橋の程度が大きすぎて、水に対する溶解性が低下する虞がある。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、アルデヒド類の割合は、ヒドラジンで誘導体化した化合物を分光光度計で吸光度測定することにより評価できる。
【0056】
前記疎水化HECは、エチレンオキサイドの平均モル置換度(MS)が1.5~7程度の範囲から選択でき、例えば1.55~6、好ましくは1.6~5、さらに好ましくは1.7~3(特に1.8~2.5)程度である。MSが小さすぎると、水に対する溶解性が低下する虞があり、逆に多すぎると、水に対する溶解性が大きくなりすぎて、水中でダマになる虞がある。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、MSは、核磁気共鳴装置(NMR)を用いてで測定できる。
【0057】
前記疎水化HECの平均モル置換度(DS)は、例えば0.5~2.5、好ましくは1~2、さらに好ましくは1.1~1.6(特に1.2~1.4)程度である。DSが小さすぎると、水に対する溶解性が大きくなりすぎて、水中でダマになる虞があり、逆に多すぎると、水に対する溶解性が低下する虞がある。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、DSは、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定できる。
【0058】
前記疎水化HECの重量平均分子量(Mw)は、例えば3×104~200×104、好ましくは5×104~70×104、さらに好ましくは10×104~50×104(特に20×104~30×104)程度である。前記疎水化HECのMwの上限値を小さくすることで研磨用組成物中の分散性が向上する。Mwの下限値を大きくすることで親水性が高まり、研磨面の濡れ性が向上できる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、ポリエチレンオキサイド換算(水系)で測定できる。
【0059】
前記疎水化HECの1重量%水溶液における粘度(25℃)は、例えば2000cps以下であり、例えば1~1000cps、好ましくは3~500cps(例えば5~300cps)、さらに好ましくは10~100cps(特に20~60cps)程度である。粘度が大きすぎると、水に対する溶解性が低下する虞がある。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、粘度は、B型粘度計を用いて測定できる。
【0060】
[研磨助剤及び研磨方法]
前記疎水化HECは、適度に架橋されており、水中でダマにならずに溶解するため、水中で砥粒と組み合わせて被研磨体を研磨するための研磨助剤として利用してもよい。
【0061】
砥粒としては、慣用の砥粒を利用でき、有機粒子であってもよく、無機粒子であってもよいが、無機粒子が汎用される。無機粒子としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩などが挙げられる。これらのうち、シリコンウェハなどの半導体基板では、シリカ粒子が汎用される。砥粒の平均粒径は5nm以上であってもよく、例えば5~100nm、好ましくは10~80nm、さらに好ましくは20~50nm程度である。
【0062】
砥粒及び砥粒助剤を用いた研磨では、通常、砥粒、砥粒助剤及び水を含む研磨用組成物を研磨液として被研磨体を研磨する。砥粒の割合は、組成物中0.01~10重量%(特に0.1~1重量%)程度である。砥粒助剤の割合は、組成物中0.0001~1重量%(特に0.01~0.1重量%)程度である。
【0063】
研磨用組成物は、砥粒、砥粒助剤及び水に加えて、慣用の研磨助剤又は添加剤、例えば、塩基性化合物、水溶性高分子、界面活性剤、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤などを含んでいてもよい。
【0064】
研磨用組成物は、種々の材質及び形状を有する被研磨体の研磨に利用できる。研磨体の材質としては、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属又はこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料などが挙げられる。これらのうち、シリコンが汎用される。
【0065】
研磨方法は、慣用の方法を利用でき、例えば、研磨液の存在下で、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプなどの研磨パッドを用いて研磨してもよい。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
未乾燥疎水化HECの合成例
滴下ロート、冷却コンデンサー、攪拌装置を備えた加熱兼冷却用ジャケット付き5Lセパラブルフラスコに、第三ブチルアルコール3.3L、水0.02L、水酸化ナトリウム67gを加えて混合し、この混合液に、固有粘度(Intrinsic viscosity)370ml/g(3.7dl/g)の木材パルプ244gを加え、攪拌下、20℃で60分間に亘りアルセル化反応を行った。なお、この反応の間、フラスコ内の液温を所定の範囲に維持するため、ジャケットに適宜冷水又は温水を供給した(以下同じ)。
【0068】
なお、前記パルプの固有粘度は、JIS P8215:1998 A法に準拠して測定した。
【0069】
アルセル化反応の後、攪拌下、フラスコ内液温を20~25℃に保ちつつ、酸化エチレン0.23Lを滴下ロートより15分かけて滴下し、滴下終了後に昇温し、フラスコ内温70~75℃で3時間加熱攪拌を継続した。その後、攪拌下にフラスコ内液温を25℃まで冷却した後、反応スラリーを67.5%硝酸でpH4.7に中和した。
【0070】
中和後、反応混合液にグリオキサール2.5mLを添加し、フラスコ内液温を20~25℃に保ちつつ、50分間攪拌した後、反応スラリーを濾布で包み脱液した。
【0071】
脱液した疎水化HECを5Lポリプロピレン手付きビーカー(サイズ内径19cm×27cm)にいれ、水/アセトン混合液(濃度:アセトン約90%溶液、液量:約3.0L)を加え、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆した攪拌棒(直径8mm×長さ400mm)で回転数350rpm、20分攪拌し、上記と同様にして脱液した。この洗浄・脱液作業を合計2回繰り返し、未乾燥HECを得た。ハロゲン水分計(メトラー・トレド社製「HG53」)で測定したところ、未乾燥疎水化HECの揮発分は約50重量%であった。
【0072】
実施例1(乾燥疎水化HECの製造)
合成例で得られた未乾燥疎水化HECを以下のようにして乾燥した。なお、乾燥時間は、乾燥後のHECの水分含量が5重量%以下となるように調整した(以下同じ)。
【0073】
未乾燥疎水化HEC100gをステンレスバット(横30cm×幅23cm×高さ5.5cm)に入れ、棚式乾燥機(Espec社製「品番:SPH-301S」)内で、常圧下、加熱温度(乾燥機内温度)を50℃に保ち170分間加熱した。その後、棚式乾燥機の加熱を止め、そのまま放置し、常温まで冷却した。次いで、乾燥したHECを小型粉砕機(大阪ケミカル(株)製、「フォースミルFM-1」)で粉砕し、水分含量3.0重量%の乾燥疎水化HECを得た。
【0074】
得られた乾燥疎水化HECについて、重量平均分子量(Mw)、エチレンオキサイドの平均モル置換度(MS)、平均モル置換度(DS)、グリオキサール含量、1重量%水溶液粘度を以下のようにして測定した。
【0075】
(重量平均分子量)
以下の測定条件で、GPC法によって疎水化HECのMwを測定した結果、27.5×104であった。
【0076】
分析装置:(株)島津製作所製「20A」
カラム:東ソー(株)製「TSKgel GMPWxl×2」
カラム温度:35℃
溶離液:0.1M-NaClaq.
流量:0.6mL/min
検出:(株)島津製作所製「RID-20A(35℃) Porlarity(+)」
注入量:50μL
サンプル濃度:0.1重量%(3mg/3ml超純水にて一晩溶解、17mgNaCl添加後0.2μmフィルターろ過。n=2作成、n=1測定)
標準試料:Easi Vial PEG。
【0077】
(エチレンオキサイドの平均モル置換度及び平均モル置換度)
以下の測定条件で、NMRによって疎水化HECのMS及びDSを測定した結果、MSは2.25であり、DSは1.32であった。
【0078】
装置:AVANCE600
プローブ:10mmBBO
パルスプログラム:zgig45(45°パルス、NOE無し)
温度:室温
積算回数:2500回
待ち時間:20s
溶媒:D2O。
【0079】
(グリオキサール含量)
以下の方法で、疎水化HECのグリオキサール含量を測定した結果、0.11重量%であった。
【0080】
1)疎水化HECの溶解
100mLメスフラスコに疎水化HEC 0.2gを入れ、0.1N塩酸を加え100mLにメスアップした。
【0081】
2)グリオキサールの定量
1)で得られた溶液に2,4-ジニトロフェニルヒドラジンを反応させて誘導体化し、分光光度計で吸光度測定することにより定量した。具体的には下記参考文献に準じて行った。但し、2,4-ジニトロフェニルヒドラジンの溶媒のジメチルスルホキシド水溶液及びアルカリ溶液(水酸化カリウムのエタノール水溶液)をジエタノールアミンのピリジン溶液に代えた。
【0082】
(参考文献)
Susumu Honda, Kazuaki Kakehi, Hidetaka Yuki, Kiyoshi Takiura, Analytica Chimica Acta Volume 74, Issue 1, January 1975, Pages 67-73
Periodate oxidation analysis of carbohydrates : Part I. Spectrophotometric determination of glyoxal in dialdehyde fragments formed from glycosides with 2,4-dinitrophenylhydrazine。
【0083】
(1重量%水溶液粘度)
疎水化HECの1重量%水溶液粘度を、ブルックフィールド型粘度計を用い、30回転、25℃で測定した結果、40cpsであった。
【0084】
なお、最高到達温度α及び熱量パラメータβは、以下の方法で測定した。
【0085】
(最高到達温度αの測定方法)
未乾燥疎水化HEC350gをステンレスバット(横30cm×幅23cm×高さ5.5cm)に入れ、3-5cm程度の層にする。未乾燥疎水化HECをいれたステンスレスバットを棚式乾燥機(Espec社製「品番:SPH-301S」)にいれて乾燥を開始する。乾燥中のHEC品温はHEC層中に熱電対を差し込み常時測定できるようにした。HECの水分が5%以下になるまで乾燥し、その間の品温の最高温度を最高到達温度αとした。
【0086】
(熱量パラメータβの測定方法)
上記の未乾燥疎水化HECの乾燥の際の疎水化HECの品温T(℃)を縦軸、時間t(min)を横軸としてグラフを作成し、疎水化HECの品温Tが40℃以上となっている区間の面積を算出し、その面積(℃・min)を熱量パラメーターβとした。
【0087】
実施例2~6及び比較例1~2
加熱温度及び時間を表1に示す加熱温度及び時間に変更する以外は実施例1と同様にして乾燥疎水化HECを得た。
【0088】
実施例及び比較例で得られた乾燥疎水化HECを研磨助剤として、以下の方法でシリコンウェハを研磨し、シリコンウェハ表面の欠陥を計測した結果を表1に示す。
【0089】
<予備研磨工程>
砥粒0.95重量%および塩基性化合物0.065重量%を含み、残部が水からなる予備研磨用組成物を調製した。砥粒としては、平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカを使用した。塩基性化合物としては水酸化カリウムを使用した。
【0090】
この予備研磨用組成物をそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、研磨対象物としてのシリコンウェハを下記の予備研磨条件で研磨した。シリコンウェハとしては、ラッピング及びエッチングを終えた直径300mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:1Ω・cm以上100Ω・cm未満、COPフリー)を使用した。
【0091】
(予備研磨条件)
研磨装置:(株)岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:12kPa
定盤回転数:50rpm
キャリア回転数:50rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製、製品名「FP55」
研磨液供給レート:1リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:6分。
【0092】
<研磨用組成物の調製と仕上げ研磨>
実施例及び比較例で得られた乾燥疎水化HECと、砥粒と、塩基性化合物と、水とを混合して研磨用組成物を調製した。砥粒としては、平均一次粒子径35nmのシリカ粒子を使用した。塩基性化合物としてはアンモニアを使用した。研磨用組成物中の砥粒の含有量は9重量%、乾燥疎水化HECの含有量は0.86重量%、アンモニアの含有量は0.09重量%とした。各例の研磨用組成物において、使用した乾燥疎水化HECの乾燥温度(乾燥炉の設定温度)、最高到達温度α、乾燥時間、熱量パラメータβ及び含水率を表1に示す。乾燥疎水化HECの品温及び最高到達温度αは、温度計を用いて前述の方法により測定したものである。熱量パラメータβは、乾燥工程における疎水化セルロース誘導体の温度と時間とから前述の方法に準じて求めたものである。また、含水率は乾燥減量法を用いて測定された値である。具体的には、疎水化セルロース1.0gを105℃にて1時間乾燥し、乾燥後の重量減少から算出した。
【0093】
この研磨用組成物を20倍に水で希釈したものを研磨液として使用して、上記予備研磨工程を終えたシリコンウェーハを、下記の仕上げ研磨条件で研磨した。
【0094】
(仕上げ研磨条件)
研磨装置:(株)岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:50rpm
キャリア回転数:50rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製の研磨パッド、商品名「POLYPAS27NX」
研磨液供給レート:2リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:8分。
【0095】
研磨後のシリコンウェハを研磨装置から取り外し、NH4OH(29%):H2O2(31%):脱イオン水(DIW)=1:3:30(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、周波数950kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を2つ用意し、それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して60℃に保持し、研磨後のシリコンウェハを第1の洗浄槽に6分、その後超純水と超音波によるリンス槽を経て、第2の洗浄槽に6分、それぞれ前記超音波発振器を作動させた状態で浸漬し、イソプロピルアルコール(IPA)雰囲気中に引き上げて乾燥させた。
【0096】
<評価>
上記の各例により得られたシリコンウェハについて、以下の評価を行った。
【0097】
(欠陥数測定)
シリコンウェハの表面(研磨面)に存在する欠陥の個数を、ウェーハ検査装置(ケーエルエー・テンコール社製、商品名「Surfscan SP2XP」)を用いて37nm以上の欠陥を計測した。計測された欠陥の個数を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1に示されるように、実施例1~6で得られた疎水化HECで研磨したシリコンウェハは、比較例1~2で得られた疎水化HECで研磨したシリコンウェハよりも、表面の欠陥数が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の方法で得られた疎水化ヒドロキシエチルセルロースは、例えば、分散剤、増粘剤、乳化重合安定剤、保護コロイド、塗料、化粧品、保水剤、医薬製剤などの種々の用途に利用できる。特に、水性組成物の形態で不溶物の含有量が少ないため、微細加工が必要な用途、例えば、半導体基板(例えば、シリコンウェハ、シリコンカーバイドなどで形成された基板)の研磨助剤として有用である。