(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】部分放電検出システム、学習システム、部分放電検出方法、コンピュータプログラム及び電気機器
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20231023BHJP
【FI】
G01R31/12 A
(21)【出願番号】P 2018135020
(22)【出願日】2018-07-18
【審査請求日】2021-07-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】伴野 幸造
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊也
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-213958(JP,A)
【文献】特開平07-260868(JP,A)
【文献】特開平06-160460(JP,A)
【文献】特開平10-170598(JP,A)
【文献】特開平07-027815(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024248(WO,A1)
【文献】特開2017-229002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の放電によって生じる現象に応じて信号を生成するセンサと、
前記電気機器の運転開始から所定期間の間に生成された信号に対して機械学習を行うことによって、部分放電信号を含まない前記電気機器近傍のノイズを表すように学習した学習モデルと、前記所定期間の経過後に生成された信号とを比較することで、前記電気機器の部分放電の発生の有無を判定する部分放電判定部と、
前記判定の結果、前記電気機器に部分放電が発生していると判定された場合、前記信号から前記学習モデルが表すノイズを除去するノイズ除去部と、
ノイズを除去された前記信号に基づいて、前記部分放電の種類を特定する放電種類特定部と、
を備える、部分放電検出システム。
【請求項2】
前記特定された部分放電の種類が予め定められた部分放電である場合、ノイズを除去された前記信号の波形に基づいて、前記電気機器の性能の低下の状態を特定する状態特定部をさらに備える、
請求項1に記載の部分放電検出システム。
【請求項3】
前記判定の結果、前記電気機器に部分放電が発生していると判定された場合、部分放電が発生していることを報知する警報処理を行う警報部をさらに備える
請求項1又は2のいずれか一項に記載の部分放電検出システム。
【請求項4】
電気機器の放電によって生じる現象に応じて信号を生成する生成ステップと、
前記電気機器の運転開始から所定期間の間に生成された信号に対して機械学習を行うことによって、部分放電信号を含まない前記電気機器近傍のノイズを表すように学習した学習モデルと、前記所定期間の経過後に生成された信号とを比較することで、前記電気機器の部分放電の発生の有無を判定する部分放電判定ステップと、
前記判定の結果、前記電気機器に部分放電が発生していると判定された場合、前記信号から前記学習モデルが表すノイズを除去するノイズ除去ステップと、
ノイズを除去された前記信号に基づいて、前記部分放電の種類を特定する放電種類特定ステップと、
を有する、部分放電検出方法。
【請求項5】
電気機器の放電によって生じる現象に応じて信号を生成する生成ステップと、
前記電気機器の運転開始から所定期間の間に生成された信号に対して機械学習を行うことによって、部分放電信号を含まない前記電気機器近傍のノイズを表すように学習した学習モデルと、前記所定期間の経過後に生成された信号とを比較することで、前記電気機器の部分放電の発生の有無を判定する部分放電判定ステップと、
前記判定の結果、前記電気機器に部分放電が発生していると判定された場合、前記信号から前記学習モデルが表すノイズを除去するノイズ除去ステップと、
ノイズを除去された前記信号に基づいて、前記部分放電の種類を特定する放電種類特定ステップと、
をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項6】
電気機器の放電によって生じる現象に応じて信号を生成するセンサと、
前記電気機器の運転開始から所定期間の間に生成された信号に対して機械学習を行うことによって、部分放電信号を含まない前記電気機器近傍のノイズを表すように学習した学習モデルと、前記所定期間の経過後に生成された信号とを比較することで、前記電気機器の部分放電の発生の有無を判定する部分放電判定部と、
前記判定の結果、前記電気機器に部分放電が発生していると判定された場合、前記信号から前記学習モデルが表すノイズを除去するノイズ除去部と、
ノイズを除去された前記信号に基づいて、前記部分放電の種類を特定する放電種類特定部と、
を備える、電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電検出システム、学習システム、部分放電検出方法、コンピュータプログラム及び電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器は、経年変化によって電気機器表面又は電気機器内部の絶縁体の絶縁性能が劣化する。絶縁性能が劣化すると、劣化箇所で部分放電が発生する。さらに絶縁性能の劣化が進行した場合、絶縁破壊が起きる。絶縁破壊によって、地絡事故等の重大事故が発生する。このため、電気機器の維持・保守において、部分放電を検出することが行われている。部分放電検出装置は、部分放電の信号を捉え、信号の大きさ又は発生頻度等から絶縁性能の劣化状況を推定することで部分放電を検出する。
【0003】
従来の部分放電検出装置は、実験室等で測定された周波数特性データ及び位相特性データをニューラルネットワーク等によって機械学習することで、部分放電の検出を行う。部分放電装置は、電気機器が設けられた現地で電気信号を取得することで部分放電の検出を行う。現地で測定された電気信号には現地特有のノイズが含まれる。このため、実験室で発生させた部分放電を学習させたニューラルネットワークでは、現地で測定された電気信号から部分放電を正確に検出できない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、より精度良く電気機器の部分放電を検出することができる部分放電検出システム、学習システム、部分放電検出方法、コンピュータプログラム及び電気機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の部分放電検出システムは、センサと、部分放電判定部とを持つ。センサは、電気機器の放電によって生じる現象に応じて信号を生成する。部分放電判定部は、前記電気機器の運転開始から所定期間の間に生成された信号に対して機械学習を行うことによって、部分放電信号を含まない前記電気機器近傍のノイズを表すように学習した学習モデルと、前記所定期間の経過後に生成された信号とを比較することで、前記電気機器の部分放電の発生の有無を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態の部分放電検出システムの設けられた配電盤の斜視図。
【
図2】第1の実施形態の部分放電検出システムの機能構成を表す機能ブロック図。
【
図3】第1の実施形態の部分放電検出の処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】第1の実施形態の学習モデルの生成の流れを示すフローチャート。
【
図5】第1の実施形態の部分放電の判定の流れを示すフローチャート。
【
図6】第2の実施形態の部分放電検出システムの設けられた配電盤の斜視図。
【
図7】第2の実施形態の部分放電判定装置の機能構成を表す機能ブロック図。
【
図8】第2の実施形態の情報処理装置の機能構成を表す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の部分放電検出システム、学習システム、部分放電検出方法、コンピュータプログラム及び電気機器を、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の部分放電検出システム100の設けられた配電盤10の斜視図である。部分放電検出システム100は、1つ以上のセンサ101、信号線102及び部分放電判定装置103から構成される。第1の実施形態の部分放電検出装置100は、単一の装置で構成される。部分放電検出システム100は、電気機器が収容された配電盤10の近傍に設けられる。部分放電検出システム100は、センサ101によって受信された電磁波・音波・過渡接地電流・電磁波由来の壁面の電流等に基づいて電気機器から発生した部分放電を検出する。配電盤10には、センサ101が設けられる。配電盤10の内部には、電気機器が収納される。電気機器は、遮断機、断路器、変流器又は変圧器等の機器(いずれも不図示)によって構成される。電気機器は、外部から電源ケーブルを介して、高電圧及び大電流を通電する。電気機器は、異常時には通電を遮断する機能を有する。なお、配電盤10の下部には、接地極が接続される。電気機器は、電力用変圧器、ガス絶縁開閉器、発電機、電動機又はリアクトル等のように、部分放電を発生する可能性がある機器であればどのような機器であってもよい。
【0010】
図2は、第1の実施形態の部分放電検出システム100の機能構成を表す機能ブロック図である。部分放電検出システム100は、
図1で説明した通り部分放電検出システム100は、複数のセンサ101、信号線102及び部分放電判定装置103から構成される。
【0011】
センサ101は、金属製の電極を含んで構成される。センサ101は、電気機器の運転によって生じる現象に応じて電気信号を生成する。電気機器の運転によって生じる現象は、例えば、電流、電磁波、振動、音波又は振動等である。電気信号は、運転によって生じる現象から得られる物理量を表す。センサ101は、電気機器に外壁面に設けられる。センサ101は、信号線102を介して部分放電判定装置103に接続されている。センサ101は、生成された電気信号を部分放電判定装置103に出力する。センサ101は、CT(Current Transformer)センサ、TEV(Transient Earth Voltage)センサ、AE(Acoustic Emission)センサ、アンテナ等の電気機器の運転に由来する電流、電磁波、音波又は振動を測定できるセンサであればどのようなセンサであってもよい。センサ101は、上述のセンサのうち、1種類のセンサが用いられてもよいが、複数種類を組み合わせて用いられてもよい。
【0012】
信号線102は、センサ101によって生成された電気信号を部分放電判定装置103に入力する。
図2の信号線102は、複数のセンサ101から出力される電気信号を一本の信号線102で入力するが、これに限定されない。例えば、信号線102は、センサ101毎に設けられてもよい。
【0013】
部分放電判定装置103は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン又はタブレットコンピュータ等の情報処理装置である。部分放電判定装置103は、センサ101から出力された電気信号に基づいて、部分放電の発生の有無を判定する。部分放電判定装置103は、部分放電判定プログラムを実行することによって通信部104、入力部105、表示部106、信号記憶部107、学習モデル記憶部108、放電モデル記憶部109、劣化モデル記憶部110及び制御部111を備える装置として機能する。
【0014】
通信部104は、ネットワークインタフェースである。通信部104はネットワーク(不図示)を介して、外部の通信装置と通信する。通信部104は、例えば無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)(登録商標)等の通信方式で通信してもよい。外部の通信装置は、例えばパーソナルコンピュータ、サーバ等の情報処理装置であってもよいし、クラウドコンピューティングシステムであってもよい。
【0015】
入力部105は、タッチパネル、マウス及びキーボード等の入力装置を用いて構成される。入力部105は、入力装置を部分放電検出システム100に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、入力部105は、入力装置において入力された入力信号から入力データ(例えば、部分放電検出システム100に対する指示を示す指示情報)を生成し、部分放電検出システム100に入力する。
【0016】
表示部106は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の出力装置である。表示部106は、出力装置を部分放電検出システム100に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部106は、映像データから映像信号を生成し自身に接続されている映像出力装置に映像信号を出力する。
【0017】
信号記憶部107は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。信号記憶部107は、信号データを記憶する。信号データは、電気信号が取得された日時と電気信号が表す物理量とを少なくとも含む。なお、部分放電検出システム100が複数のセンサ101を備える場合、信号データはセンサ101の識別情報を保持してもよい。識別情報は、センサ101を特定できる情報であればどのような情報であってもよい。
【0018】
学習モデル記憶部108は、学習モデルを記憶する。学習モデルは、後述の学習部115によって生成される。学習モデルは、電気機器の運転開始から所定期間までに生成された電気信号に対して機械学習を行うことによって生成される。学習モデルは、電気信号から得られた学習データ対してディープラーニング又は機械学習を行う事によって生成される。本実施形態における学習モデルは、電気機器近傍のノイズを含む電気信号を学習したモデルである。ノイズは、電気信号に含まれる電気機器の運転によって発生する部分放電以外の電気信号である。学習データについては後述する。
【0019】
放電モデル記憶部109は、放電モデルを記憶する。放電モデルは、予め放電モデル記憶部109に記録される。放電モデルは、電気機器から発生する部分放電の波形が学習されたモデルである。放電モデルは、絶縁物内部放電、ボイド放電、沿面放電又はコロナ放電等の部分放電の波形毎に学習されたモデルである。放電モデルは、ニューラルネットワーク又はディープラーニング等の機械学習によって生成される。なお、放電モデルは、ニューラルネットワーク又はディープラーニング以外の機械学習の手法によって生成されてもよい。
【0020】
劣化モデル記憶部110は、劣化モデルを記憶する。劣化モデルは、予め劣化モデル記憶部110に記録される。劣化モデルは、絶縁物内部放電が発生した場合に、電気機器の劣化状態を特定できるモデルである。劣化モデルは、電気機器の劣化度に応じた電気信号の特性(例えば、部分放電に応じて発生する波形、電圧、電流、振動又は音等)毎に学習されたモデルである。劣化モデルは、電気機器の欠陥の種類に応じて予め記録される。欠陥とは、例えば、ボイド、部品の老朽化又は部品の破損等である。劣化状態は、電気機器の使用に伴う性能の低下の状態を表す。劣化状態は、電気機器の余寿命を年数で表してもよいし、電気機器のN年後毎の故障率を表してもよい(Nは自然数)。劣化状態は、電気機器の特定の部位毎に余寿命又は故障率が表されてもよい。または、劣化度のようにn段階で判定されてもよい。劣化モデルは、ニューラルネットワーク又はディープラーニング等の機械学習によって生成される。なお、劣化モデルは、ニューラルネットワーク又はディープラーニング以外の機械学習の手法によって生成されてもよい。
【0021】
制御部111は、部分放電判定装置103の各部の動作を制御する。制御部111は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びRAM(Random Access Memory)を備えた装置により実行される。制御部111は、部分放電判定プログラムを実行することによって、電気信号取得部112、信号データ生成部113、学習データ生成部114、学習部115、部分放電判定部116、ノイズ除去部117、放電種類特定部118、劣化特定部119及び警報部120として機能する。
【0022】
電気信号取得部112は、センサ101によって入力された電気信号を取得する。電気信号取得部112は、電気信号が取得された日時と電気信号が表す受信強度とを対応付ける。なお、部分放電検出システム100がセンサ101を複数備える場合、電気信号取得部112は、電気信号が取得された日時と電気信号が表す受信強度とセンサ101の識別情報とを対応付ける。
【0023】
信号データ生成部113は、取得された電気信号に基づいて信号データを生成する。信号データ生成部113は、生成された信号データを信号記憶部107に記録する。
学習データ生成部114は、生成された信号データに基づいて学習データを生成する。学習データは、学習モデルの生成に適したデータである。学習データは、例えば電気信号の波形を表したデータであってもよいし、電気信号をΦQNパターンで表したデータあってもよい。なお、学習データ生成部114は学習期間に生成された信号データに基づいて学習データを生成してもよい。学習期間は、学習モデルの生成に用いられる信号データが取得される期間である。学習期間は、例えば予め指定されてもよい。学習期間は、例えば電気機器の出荷試験後の運転開始から所定の期間までであってもよい。学習期間は、例えば電気機器の出荷試験後の運転開始から最初の部分放電が検出されるまでの期間までであってもよい。学習期間は、信号データに部分放電を表す電気信号が含まれない期間であればどのような期間であってもよい。
【0024】
学習部115は、学習データに基づいて学習モデルを生成する。学習部115は、学習データに対して、ニューラルネットワーク又はディープラーニング等の機械学習を用いることで学習モデルを生成する。学習部115は、学習期間に取得された信号データに基づいて生成された学習データを用いて学習モデルを生成する。学習データは、電気機器近傍のノイズのデータを表す。学習データは、部分放電を表す電気信号を含まない信号データに基づいて生成される。したがって、学習部115は、学習データに基づいて、電気機器近傍の独自のノイズを学習した学習モデルを生成する。学習部115は、生成された学習モデルを学習モデル記憶部108に記録する。なお、学習部115は、機械学習の手法として、ニューラルネットワーク又はディープラーニング以外の手法を用いて学習モデルを生成してもよい。学習部115は、所定のタイミングで学習モデルを生成しなおしてもよい。所定のタイミングとは、予め指定されたタイミングであってもよいし、一年毎のように定期的なタイミングであってもよい。このように構成されることで、部分放電検出システム100は、電気機器の設けられた周辺の環境が変化した場合であっても、古い学習モデルを使い続けることなく、部分放電の判定を行うことが可能になる。
【0025】
部分放電判定部116は、取得された電気信号に基づいて電気機器の部分放電の有無を判定する。具体的には、部分放電判定部116は、電気信号から得られる波形と学習モデル記憶部108に記録された学習モデルとに基づいて、電気信号から得られる波形に学習モデルで学習されていない形状のパルス信号又は波形が含まれる場合、部分放電“あり”と判定する。部分放電判定部116は、電気信号から得られる波形と学習モデル記憶部108に記録された学習モデルとに基づいて、電気信号から得られる波形に学習モデルで学習されていない形状のパルス信号又は波形が含まれていない場合、部分放電“なし”と判定する。
【0026】
ノイズ除去部117は、部分放電判定部116によって部分放電“あり”と判定された場合、電気信号に含まれるノイズを除去する。具体的には、ノイズ除去部117は、電気信号に含まれる波形のうち、学習モデルにて学習された波形をノイズとして特定する。ノイズ除去部117は、特定された電気信号の波形を表す信号強度を所定の値にする。所定の値とは、例えば電気信号がPD信号とノイズとが重畳された信号である場合、ノイズ除去部117は、ノイズ成分を0とし、PD信号をそのままの値とするものであってもよい。
【0027】
放電種類特定部118は、部分放電判定部116によって部分放電“あり”と判定された場合、部分放電の種類を特定する。具体的には、放電種類特定部118は、放電モデル記憶部109に記録される放電モデルと電気信号の波形とに基づいて、部分放電の種類を特定する。放電種類特定部118は、放電モデルによって学習されている波形と電気信号の波形とを比較する。放電種類特定部118は、比較の結果、放電モデルによって学習されている波形のうち、電気信号の波形と最も近い波形に対応付けられた部分放電の種類を、電気機器に発生している部分放電として特定してもよい。ユーザは、部分放電の種類が特定された場合、電気機器の欠陥の種類を判定することができる。なお、電気機器の欠陥の種類は、表示部106に表示されてもよい。ユーザは、部分放電検出システム100を用いて電気機器の部分放電の有無を判定するサービスマン等であってもよい。
【0028】
劣化特定部119は、放電種類特定部118によって、部分放電の種類として“絶縁物内部放電”と特定された場合、電気機器の劣化状態を診断する。具体的には、劣化特定部119は、劣化モデル記憶部110に記録される劣化モデルと電気信号の特性とに基づいて、電気機器の劣化状態を特定する。劣化特定部119は、劣化モデルによって学習されている特性と電気信号の特性とを比較する。放電種類特定部118は、比較の結果、劣化モデルによって学習されている特性のうち、電気信号の特性と最も近い特性に対応付けられた劣化状態を、電気機器の劣化状態として特定してもよい。なお、電気機器の劣化状態は、表示部106に表示されてもよい。劣化特定部119は、状態特定部の一態様である。
【0029】
警報部120は、部分放電判定部116によって部分放電“あり”と判定された場合、部分放電が発生していることを報知する警報処理を行う。警報処理は、警告音を発報してもよいし、予め指定された宛先に対してメール又はSMS(Short Message Service)等の電文を送信してもよい。警報処理は予め指定された処理であればどのような処理であってもよい。警報部120は、特定された部分放電の種類又は劣化状態に応じて、異なる警報処理を行ってもよい。例えば、警報部120は、送信される電文に特定された部分放電の種類を含めてもよい。例えば、警報部120は、特定された劣化状態に応じて、電文の送信先を決定してもよい。このように警報部120が警報処理を行うことで、ユーザ又は電気機器のメーカに部分放電の発生を知らせることが可能となる。
【0030】
図3は、第1の実施形態の部分放電検出システム100の処理の流れを示すフローチャートである。部分放電検出システム100は、例えば、電気機器の運転が開始された場合に、
図3の流れに沿って部分放電を検出する。部分放電検出システム100は、学習モデルを生成する(ステップS101)。例えば、部分放電検出システム100は、学習期間に電気機器から取得された電気信号に基づいて、学習モデルを生成する。部分放電検出システム100は、学習機関の経過後に電気機器に部分放電が発生しているか否か監視する(ステップS102)。例えば、部分放電検出システム100は、電気機器から取得された電気信号に部分放電を表す信号が含まれているか否かを判定することで、電気機器に部分放電が発生しているか否かを監視する。なお、ステップS102は、所定のタイミングで定期的に行われる。
【0031】
図4は、第1の実施形態の学習モデルの生成の流れを示すフローチャートである。学習モデルは、予め指定された学習期間内に生成された学習データに基づいて生成される。電気信号取得部112は、センサ101から受け付けた電気信号を取得する(ステップS201)。信号データ生成部113は、取得された電気信号に基づいて信号データを生成する。信号データ生成部113は、生成された信号データを信号記憶部107に記録する(ステップS202)。学習データ生成部114は、学習期間内に生成された信号データに基づいて学習データを生成する(ステップS203)。学習部115は、学習データに基づいて学習モデルを生成する(ステップS204)。学習部115は、生成された学習モデルを学習モデル記憶部108に記録する。
【0032】
図5は、第1の実施形態の部分放電の判定の流れを示すフローチャートである。部分放電の判定は、学習期間の後に、所定のタイミングで行われる。本フローチャートでは、部分放電の判定は電気信号から得られる波形と学習モデルとを比較することで行われる。
【0033】
電気信号取得部112は、センサ101から受け付けた電気信号を取得する(ステップS301)。信号データ生成部113は、取得された電気信号に基づいて信号データを生成する。信号データ生成部113は、生成された信号データを信号記憶部107に記録する(ステップS302)。
【0034】
部分放電判定部116は、電気信号から得られる波形と学習モデルで学習済みの波形とを比較して、電気信号から得られる波形が学習モデルに含まれるか否か判定する(ステップS303)。電気信号から得られる波形が学習モデルに含まれる場合(ステップS303:YES)、部分放電判定部116は、部分放電“なし”と判定する。部分放電“なし”と判定された場合、処理は終了する。電気信号から得られる波形が学習モデルに含まれない場合(ステップS303:YES)、部分放電判定部116は、部分放電“あり”と判定する。
【0035】
ノイズ除去部117は、電気信号に含まれる波形のうち、学習モデルにて学習された波形をノイズとして特定する。ノイズ除去部117は、特定された電気信号の波形を表す信号強度の値を0にする(ステップS304)。放電種類特定部118は、放電モデルと電気信号の波形とに基づいて、部分放電の種類を特定する(ステップS305)。
【0036】
劣化特定部119は、特定された部分放電の種類が“絶縁物内部放電”であるか否かを判定する(ステップS306)。特定された部分放電の種類が“絶縁物内部放電”でない場合(ステップS306:NO)、処理はステップS308に遷移する。特定された部分放電の種類が“絶縁物内部放電”である場合(ステップS306:YES)、劣化特定部119は、劣化モデルと電気信号の特性とに基づいて、電気機器の劣化状態を特定する(ステップS307)。警報部120は、部分放電が発生していることを報知する警報処理を行う(ステップS308)。なお、警報部120は、特定された部分放電の種類又は劣化状態に応じて、異なる警報処理を行ってもよい。
【0037】
このように構成された部分放電検出システム100では、センサ101は、電気機器の運転が開始されると、電気信号を生成する。運転開始直後の電気機器は、部分放電が発生していないため、電気信号は部分放電を表す信号を含まない。このため、学習部115は、部分放電を表す電気信号を含まない信号データに基づいて生成された学習データを用いて学習モデルを生成する。このため、生成された学習モデルは、電気機器が設けられた場所独自のノイズを学習した学習モデルである。したがって、部分放電判定部116は、電気信号から得られる波形に学習モデルで学習されていない形状のパルス信号又は波形が含まれる場合、部分放電“あり”と判定することで、より精度よく部分放電を検出することが可能になる。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態における部分放電検出装置について説明する。
図6は、第2の実施形態の部分放電検出システム100aの設けられた配電盤10の斜視図である。部分放電検出システム100aは、1つ以上のセンサ101、信号線102、部分放電判定装置103a及び情報処理装置200から構成される。部分放電判定装置103aは、電気機器が収容された配電盤10に隣接して設けられる。部分放電判定装置103aは、ネットワーク300を介して情報処理装置200と互いに通信可能に接続される。ネットワーク300は、どのようなネットワークで構築されてもよい。例えば、ネットワーク300は、インターネットで構成されてもよい。
【0039】
図7は、第2の実施形態の部分放電判定装置103aの機能構成を表す機能ブロック図である。
部分放電判定装置103aは、パーソナルコンピュータ、スマートフォン又はタブレットコンピュータ等の情報処理装置である。部分放電判定装置103aは、センサ101から出力された電気信号に基づいて、部分放電の発生の有無を判定する。部分放電判定装置103は、部分放電判定プログラムを実行することによって通信部104、入力部105、表示部106及び制御部111aを備える装置として機能する。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0040】
制御部111aは、部分放電判定装置103aの各部の動作を制御する。制御部111aは、例えばCPU等のプロセッサ及びRAMを備えた装置により実行される。制御部111aは、部分放電判定プログラムを実行することによって、電気信号取得部112及び信号データ生成部113aとして機能する。
【0041】
信号データ生成部113aは、取得された電気信号に基づいて信号データを生成する。信号データ生成部113aは、生成された信号データをネットワーク300を介して情報処理装置200に送信する。
【0042】
図8は、第2の実施形態の情報処理装置200の機能構成を表す機能ブロック図である。情報処理装置200は、パーソナルコンピュータ又はサーバ等の情報処理装置である。情報処理装置200は、部分放電判定プログラムを実行することによって通信部201、入力部202、表示部203、信号記憶部204、学習モデル記憶部205、放電モデル記憶部206、劣化モデル記憶部207及び制御部208を備える装置として機能する。
【0043】
通信部201は、ネットワークインタフェースである。通信部201はネットワーク300を介して、部分放電判定装置103aと通信する。通信部201は、例えば無線LAN、有線LAN、Bluetooth又はLTE等の通信方式で通信してもよい。
【0044】
入力部202は、タッチパネル、マウス及びキーボード等の入力装置を用いて構成される。入力部202は、入力装置を情報処理装置200に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、入力部202は、入力装置において入力された入力信号から入力データ(例えば、情報処理装置200に対する指示を示す指示情報)を生成し、部分放電検出システム100aに入力する。
【0045】
表示部203は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の出力装置である。表示部203は、出力装置を情報処理装置200に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部203は、映像データから映像信号を生成し自身に接続されている映像出力装置に映像信号を出力する。
【0046】
信号記憶部204、学習モデル記憶部205、放電モデル記憶部206及び劣化モデル記憶部207は、第1の実施形態における信号記憶部107、学習モデル記憶部108、放電モデル記憶部109及び劣化モデル記憶部110と同じであるため説明を省略する。
【0047】
制御部208は、情報処理装置200の各部の動作を制御する。制御部208は、例えばCPU等のプロセッサ及びRAMを備えた装置により実行される。制御部208は、部分放電判定プログラムを実行することによって、信号データ取得部209、学習データ生成部210、学習部211、部分放電判定部212、ノイズ除去部213、放電種類特定部214、劣化特定部215及び警報部216として機能する。
【0048】
信号データ取得部209は、部分放電判定装置103aによって送信された信号データを取得する。信号データ取得部209は、取得された信号データを信号記憶部204に記録する。
【0049】
学習データ生成部210、学習部211、部分放電判定部212、ノイズ除去部213、放電種類特定部214、劣化特定部215及び警報部216は、第1の実施形態における学習データ生成部114、学習部115、部分放電判定部116、ノイズ除去部117、放電種類特定部118、劣化特定部119及び警報部120と同じであるため説明を省略する。
【0050】
このように構成された部分放電検出システム100aでは、部分放電判定装置103aは、電気信号を取得する。部分放電判定装置103aの信号データ生成部113は、電気信号に基づいて信号データを生成し、情報処理装置200に送信する。情報処理装置200は、取得された信号データに基づいて、学習モデルの生成及び部分放電の発生の判定等を行う。したがって、現地では、電気機器から取得される電気信号に関する情報を取得し、取得された情報を異なる場所で管理することが可能となる。
【0051】
上述の実施形態では、部分放電判定部によって部分放電“あり”と判定された場合に、ノイズ除去部は電気信号に含まれるノイズを除去する。しかし、ノイズ除去部は、部分放電判定部の判定結果に関わらず、すべての電気信号からノイズを除去するように構成されてもよい。この場合、電気信号には未知の信号が残るため、ユーザは、ノイズが除去された波形を確認することで、継続して学習を行う必要があるか否かを判断することができる。例えば、ユーザは、部分放電が発生していないにもかかわらず、電気信号のノイズが十分に除去されていないと判断した場合、学習部にさらに多くの学習データに基づいて学習モデルを生成させてもよい。
【0052】
部分放電検出システム100は、複数の装置として構成されてもよい。部分放電検出システム100は、クラウドコンピューティングシステムによって構成されてもよい。
【0053】
上記各実施形態では、電気信号取得部112、信号データ生成部113、学習データ生成部114、学習部115、部分放電判定部116、ノイズ除去部117、放電種類特定部118、劣化特定部119及び警報部120はソフトウェア機能部であるものとしたが、LSI等のハードウェア機能部であってもよい。
【0054】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、学習部115及び部分放電判定部116を持つことにより、より精度良く電気機器の部分放電を検出することができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
10…配電盤、100…部分放電検出システム、101…センサ、102…信号線、103…部分放電判定装置、104…通信部、105…入力部、106…表示部、107…信号記憶部、108…学習モデル記憶部、109…放電モデル記憶部、110…劣化モデル記憶部、111……制御部、112…電気信号取得部、113…信号データ生成部、114…学習データ生成部、115…学習部、116…部分放電判定部、117…ノイズ除去部、118…放電種類特定部、119…劣化特定部、120…警報部、100a…部分放電検出システム、103a…部分放電判定装置、113a…信号データ生成部、200…情報処理装置、201…通信部、202…入力部、203…表示部、204…信号記憶部、205…学習モデル記憶部、206…放電モデル記憶部、207…劣化モデル記憶部、208……制御部、209…信号データ取得部、210…学習データ生成部、211…学習部、212…部分放電判定部、213…ノイズ除去部、214…放電種類特定部、215…劣化特定部、216…警報部、300…ネットワーク