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特許7370698時計ムーブメントを小型時計ケースに固定するシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】時計ムーブメントを小型時計ケースに固定するシステム
(51)【国際特許分類】
   G04B 37/05 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
G04B37/05 H
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018212662
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2019113532
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】17201348.4
(32)【優先日】2017-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュノド, ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】レイズナー, ジェイムズ
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-162332(JP,A)
【文献】実開昭55-73877(JP,U)
【文献】実開昭53-70254(JP,U)
【文献】特開2002-174687(JP,A)
【文献】特表2013-543983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 37/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメント(2)を小型時計ケース(30)要素(3)に固定するシステム(10)であって、前記システムは、
第1に前記時計ムーブメントと第2に前記小型時計ケース要素と接触することが意図される、少なくとも1つのクランプ(1)と、
前記時計ムーブメントが前記小型時計ケース要素に対して固定または変位されるときに、前記少なくとも1つのクランプと前記時計ムーブメントとの間の接触境界から前記少なくとも1つのクランプと前記小型時計ケースとの間の接触境界までの間の距離である、前記少なくとも1つのクランプの曲げ長さを変更する構成と、
を含
前記変更する構成は、前記時計ムーブメントが前記小型時計ケース要素に固定され、前記時計ムーブメントが、前記時計ムーブメントの第1表面(2b)が前記小型時計ケース要素の第2表面(3b)に当接する静止位置にある状態において、前記クランプと前記クランプを曲げることで前記クランプが接触することができる前記時計ムーブメントの点との間の第1間隙(e1)を含み、前記第1間隙の値はLc1より小さく、及びまたは前記第1間隙の値はLc1/60より大きく、ここでLc1はクランプが重みをかけることがきる前記時計ムーブメントの第3表面(2a’)の平面への投影の長さであり、Lc1はLf/10とLfの間であり、ここでLfは前記少なくとも1つのクランプの曲げ長さである、システム。
【請求項2】
前記変更する構成は、前記時計ムーブメントが前記小型時計ケース要素に固定される、または前記小型時計ケース要素に対して、前記時計ムーブメントの第1表面(2b)が前記小型時計ケース要素の第2表面(3b)に当接する静止位置から変位される際に、前記少なくとも1つのクランプの曲げ長さが変更されるように配置される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記時計ムーブメントへの前記少なくとも1つのクランプの第1屈曲端部(12)の支持力または接触位置及びまたは前記小型時計ケース要素への前記少なくとも1つのクランプの第2屈曲端部(13)の支持力または接触位置は、前記時計ムーブメントが前記小型時計ケース要素に固定される、または前記小型時計ケース要素に対して、前記時計ムーブメントの第1表面(2b)が前記小型時計ケース要素の第2表面(3b)に当接する静止位置から変位される際に、変更される、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
記変更する構成は、前記時計ムーブメントが前記小型時計ケース要素に固定され、前記時計ムーブメントが、前記時計ムーブメントの第1表面(2b)が前記小型時計ケース要素の第2表面(3b)に当接する静止位置にある状態において、前記クランプと前記クランプを曲げることで前記クランプが接触することができる前記小型時計ケース要素の点との間の第2間隙(e2)を含み、前記第2間隙の値はLc2より小さく、及びまたは前記第2間隙の値はLc2/60より大きく、ここでLc2はクランプが重みをかけることができる前記小型時計ケース要素の第5表面(3a’)の平面への投影の長さであり、Lc2はLf/10とLfの間であり、ここでLfは前記静止位置にある状態で測定される、
請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記変更する構成は、
前記時計ムーブメントが、前記時計ムーブメントの第1表面(2b)が前記小型時計ケース要素の第2表面(3b)に当接する静止位置にあるときに、前記クランプが重みをかける第4表面(2a)と第1非ゼロ角度(α)を形成する第3表面(2a’)、及びまたは
前記時計ムーブメントが、前記時計ムーブメントの第1表面(2b)が前記小型時計ケース要素の第2表面(3b)に当接する静止位置にあるときに、前記クランプが重みをかける第6表面(3a)と第2非ゼロ角度(β)を形成する第5表面(3a’)、
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1非ゼロ角度は45°より小さく及びまたは1°より大きい、及び前記第2非ゼロ角度は45°より小さく及びまたは1°より大きい、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1表面(2b)は平坦である、及びまたは前記第2表面(3b)は平坦である、及びまたは前記第3表面(2a’)は平坦である、及びまたは前記第4表面(2a)は平坦である、及びまたは前記第5表面(3a’)は平坦である、及びまたは前記第6表面(3a)は平坦である、
請求項5または6に記載のシステム。
【請求項8】
前記第3表面(2a’)は曲線的であり、及びまたは前記第5表面(3a’)は曲線的である、
請求項5または6に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのクランプは前記少なくとも1つのクランプの長手方向に垂直な方向の断面を含み、その断面二次モーメントは、前記長手方向に平行な方向に延びる縦軸(11)に沿って、前記断面の最大応力のプロファイルが前記少なくとも1つのクランプの長さの少なくとも一部にわたり、一定または実質的に一定となるように、変化する、
請求項1から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記少なくとも1つのクランプは、超弾性合金製及びまたは形状記憶合金製であり、または前記少なくとも1つのクランプはニッケル合金製である、
請求項1から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つのクランプは、前記時計ムーブメントまたは前記小型時計ケース要素に固定する要素(14)を含む、
請求項1から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のシステムを含む、時計ユニット(200)。
【請求項13】
前記小型時計ケース要素は胴である、
請求項12に記載の時計ユニット(200)。
【請求項14】
前記第3表面は前記時計ムーブメント上に形成され、及びまたは前記第5表面は前記小型時計ケース要素上に形成される、
請求項12または13に記載の時計ユニット(200)。
【請求項15】
前記小型時計ケース要素はケーシングリングを含む、及びまたは前記第5表面(3a’)はケーシングリング上に少なくとも部分的に形成される、または前記時計ムーブメントはケーシングリングを含む、及びまたは前記第3表面(2a’)はケーシングリング上に少なくとも部分的に形成される、
請求項12または13に記載の時計ユニット(200)。
【請求項16】
請求項12から15のいずれか一項に記載の時計ユニット、または請求項1から11のいずれか一項に記載のシステムを含む、時計(400)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ムーブメントを小型時計ケース要素に固定するシステムに関する。本発明はまた、当該システムを含む時計ユニットに関する。本発明は更に、当該システムまたは当該ユニットを含む時計に関する。本発明は最後に、当該システムまたは当該ユニットまたは当該時計の作用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、時計ムーブメントを小型時計ケース内へ、特に胴内へ取り付けまたは固定するために、2つまたは3つのケーシングクランプが用いられる。
【0003】
ムーブメントをケース内へ取り付ける際、各ケーシングクランプは、胴の内周に形成された切欠に挿入され、その後固定手段を介してムーブメントに固定される。
【0004】
当該切欠は、クランプが、ケースの胴に対してムーブメントを押圧可能にする、所定の基準を満たすような、適切な予圧力を発揮可能なように成形される。基準の1つは、例えば、クランプの塑性変形の危険性のない、衝撃の所定の強さに対する、ムーブメントと、所定の形状と素材のクランプの、移動範囲の最小化である。
【0005】
図1及び2は、このようなクランプケーシング装置の構造を図示する。少なくとも1つのクランプ1*が、それぞれムーブメント2*とケース30*の胴3*と関連する平坦且つ平行な表面2a*、3a*に対して押圧される。クランプ1*は、このため、ムーブメントを取り付ける際に、クランプの弾性的復元力がムーブメント2*の表面2b*を胴3*の表面3b*に対して保持するように、弾性変形する。クランプは、この場合、ねじ4*によりムーブメント上に保持される。
【0006】
しかしながら、当該解決策は問題を引き起こしかねない。実際、組立中の及びまたは衝撃の影響下での、クランプの塑性変形の危険性がある。これは、ムーブメントと胴との間の接触を失う、またはクランプが外れる危険性につながりかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許出願公開第2458456号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の欠点を克服し、先行技術から既知の装置を改善可能にする、小型時計ケース内へ時計ムーブメントを固定するシステムを提供することである。具体的には、本発明は、信頼性と構造安定性が先行技術から既知のシステムに対して改善された、固定システムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、時計ムーブメントを固定するシステムは、以下の定義で規定される。
【0010】
1. 時計ムーブメントを小型時計ケース要素に固定するシステムであって、前記システムは、
第1に前記ムーブメントと第2に前記小型時計ケース要素と接触することが意図される、少なくとも1つのクランプ、特に少なくとも2つのクランプ、好ましくは3つのクランプまたは4つのクランプと、
前記ムーブメントが前記小型時計ケース要素に対して固定及びまたは変位されるときに、前記少なくとも1つのクランプの前記剛性を変更する、特に前記少なくとも1つのクランプの前記曲げ剛性を変更する装置と、
を含む、システム。
【0011】
2. 前記少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置は、前記ムーブメントが前記小型時計ケース要素に固定される、または前記小型時計ケース要素に対して、前記ムーブメントの第1表面が前記ケース要素の第2表面に当接する静止位置から変位される際に、前記少なくとも1つのクランプの前記曲げ長さが変更されるように、特に前記少なくとも1つのクランプの前記曲げ長さが減少されるように配置される、定義1に記載のシステム。
【0012】
3. 前記支持力または前記少なくとも1つのクランプの第1屈曲端部の前記ムーブメントへの接触及びまたは支持力または前記少なくとも1つのクランプの第2屈曲端部の前記ケース要素への接触は、前記ムーブメントが前記小型時計ケース要素に固定される、または前記小型時計ケース要素に対して、前記ムーブメントの第1表面が前記ケース要素の第2表面に当接する静止位置から変位される際に、変更される、定義1または2に記載のシステム。
【0013】
4. 前記少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置は、前記ムーブメントが前記ケース要素に固定され、前記ムーブメントが、前記ムーブメントの第1表面が前記ケース要素の第2表面に当接する静止位置にある状態において、前記クランプと前記クランプを曲げることで前記クランプが接触することができる前記ムーブメントの点との間の第1間隙を含み、前記第1間隙の値はLc1より小さく、またはLc1/3より小さく、またはLc1/4より小さく、及びまたは前記第1間隙の値はLc1/60より大きく、またはLc1/30より大きく、ここでLc1はクランプが重みをかけることができる前記ムーブメントの第3表面の前記平面への投影の長さであり、Lc1はLf/10とLfの間であり、ここでLfは曲げクランプ長さであり、及びまたは少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置は、前記ムーブメントが前記ケース要素に固定され、前記ムーブメントが、前記ムーブメントの第1表面が前記ケース要素の第2表面に当接する静止位置にある状態において、前記クランプと前記クランプを曲げることで前記クランプが接触することができる前記ケース要素の点との間の第2間隙を含み、前記第2間隙の値はLc2より小さく、またはLc2/3より小さく、またはLc2/4より小さく、及びまたは前記第2間隙の値はLc2/60より大きく、またはLc2/30より大きく、ここでLc2はクランプが重みをかけることができる前記ムーブメントの第5表面の前記平面への投影の長さであり、Lc2はLf/10とLfの間であり、ここでLfは前記静止状態で測定される、定義1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【0014】
5. 前記少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置は、
前記ムーブメントが、前記ムーブメントの第1表面が前記ケース要素の第2表面に当接する静止位置にあるときに、前記クランプが重みをかける第4表面と第1非ゼロ角度を形成する第3表面、及びまたは
前記ムーブメントが、前記ムーブメントの第1表面が前記ケース要素の第2表面に当接する静止位置にあるときに、前記クランプが重みをかける第6表面と第2非ゼロ角度を形成する第5表面、
を含む、定義1から4のいずれか一つに記載のシステム。
【0015】
6. 前記第1角度は45°より小さい、または20°より小さい、または15°より小さい、または10°より小さい、及びまたは1°より大きい、または2°より大きい、及びまたは前記第2角度は45°より小さい、または20°より小さい、または15°より小さい、または10°より小さい、及びまたは1°より大きい、または2°より大きい、定義5に記載のシステム。
【0016】
7. 前記第1表面は平坦である、及びまたは前記第2表面は平坦である、及びまたは前記第3表面は平坦である、及びまたは前記第4表面は平坦である、及びまたは前記第5表面は平坦である、及びまたは前記第6表面は平坦である、定義5または6に記載のシステム。
【0017】
8. 前記第3表面は曲線的、特に前記第3表面は円筒部分である、及びまたは前記第5表面は曲線的、特に前記第5表面は円筒部分である、定義5または6に記載のシステム。
【0018】
9. 前記少なくとも1つのクランプは断面を含み、その前記断面二次モーメントは、縦軸に沿って、特に前記幅及びまたは前記厚みの変化により及びまたは前記断面の最大応力のプロファイルが前記少なくとも1つのクランプの長さの少なくとも一部にわたり、特にクランプの長さの少なくとも半分にわたり、一定または実質的に一定となるように、変化する、定義1から8のいずれか一つに記載のシステム。
【0019】
10. 前記少なくとも1つのクランプは、超弾性合金製及びまたは形状記憶合金製、特にニチノールといったニッケル-チタニウム合金製であり、または前記少なくとも1つのクランプはニッケル合金製である、定義1から9のいずれか一つに記載のシステム。
【0020】
11. 前記少なくとも1つのクランプは、前記ムーブメントまたは前記ケース要素に固定する要素、特にねじ通過穴を含む、定義1から10のいずれか一つに記載のシステム。
【0021】
本発明の第1の態様によれば、時計ユニットは、以下の定義で規定される。
【0022】
12. 定義1から11のいずれか一つに記載のシステムを含む、時計ユニット、特に時計ムーブメント及びまたは小型時計ケース要素または小型時計ケース。
【0023】
13. 前記小型時計ケース要素は胴である、定義12に記載の時計ユニット。
【0024】
14. 前記第3表面は前記ムーブメント上に形成され、及びまたは前記第4表面は前記ケース要素上に形成される、定義12または13に記載の時計ユニット。
【0025】
15. 前記ケース要素はケーシングリングを含む、及びまたは前記第4表面はケーシングリング上に少なくとも部分的に形成される、及びまたは前記ムーブメントはケーシングリングを含む、及びまたは前記第3表面はケーシングリング上に少なくとも部分的に形成される、定義12または13に記載の時計ユニット。
【0026】
本発明の第1の態様によれば、時計は以下の定義で規定される。
【0027】
16. 定義12から15のいずれか一つに記載のユニット、及びまたは定義1から11のいずれか一つに記載のシステムを含む、時計、特に腕時計。
【0028】
本発明の第2の態様によれば、時計ムーブメントを固定するシステムは、以下の定義で規定される。
【0029】
17. 時計ムーブメントを小型時計ケース要素に固定するシステムであって、前記システムは、第1に前記ムーブメントと第2に前記小型時計ケース要素と接触することが意図される、少なくとも1つのクランプ、特に少なくとも2つのクランプ、好ましくは3つのクランプまたは4つのクランプを含み、前記少なくとも1つのクランプは、超弾性合金製及びまたは形状記憶合金製、特にニチノールといったニッケル-チタニウム合金製である、システム。
【0030】
18. 前記少なくとも1つのクランプは、断面を含み、その前記断面二次モーメントは、縦軸に沿って、特に前記幅及びまたは前記厚みの変化により及びまたは前記断面の最大応力のプロファイルが前記少なくとも1つのクランプの長さの少なくとも一部にわたり、特にクランプの長さの少なくとも半分にわたり、一定または実質的に一定となるように変化する、定義17に記載のシステム。
【0031】
19. 前記少なくとも1つのクランプは、前記ムーブメントまたは前記小型時計ケース要素に固定する要素、特にねじ通過穴を含む、定義17または18に記載のシステム。
【0032】
20. 前記少なくとも1つのクランプの前記厚みは、0.5mm以上である、定義17から19のいずれか一つに記載のシステム。
【0033】
21. 前記少なくとも1つのクランプの前記曲げ長さは、1.35mm以下である、定義17から20のいずれか一つに記載のシステム。
【0034】
本発明の第2態様によれば、時計ユニットは、以下の定義で規定される。
【0035】
22. 定義17から21のいずれか一つに記載のシステムを含む、時計ユニット、特に時計ムーブメントまたは小型時計ケース要素。
【0036】
本発明の第2態様によれば、時計は、以下の定義で規定される。
【0037】
23. 定義22に記載のユニット、及びまたは定義17から21のいずれか一つに記載の時計、特に腕時計。
【0038】
論理的にまたは技術的に互換性のない場合を除き、第1及び第2態様の特徴を組み合わせることができる。
【0039】
添付の図面は、例として、本発明にかかる時計の2つの実施態様を示す。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、従来技術から既知の組立品の断面図である。
図2図2は、従来技術から既知の組立品の断面図である。
図3図3は、時計の第1実施形態の2つの状態を示す図である。
図4図4は、時計の第1実施形態の2つの状態を示す図である。
図5図5は、時計の第2実施形態の2つの状態を示す図である。
図6図6は、時計の第2実施形態の2つの状態を示す図である。
図7図7は、本発明にかかる固定システムに使用可能な第1クランプ形状の詳細斜視図である。
図8図8は、各種実施形態で同一形状を有するクランプの挙動を図示する総括表である。
図9図9は、ムーブメントがケースに対して変位した際の、図8の固定システムの挙動を示すグラフである。
図10図10は、本発明にかかる固定システムに使用可能な、第2クランプ形状の詳細斜視図である。
図11図11は、本発明にかかる固定システムに使用可能な、第3クランプ形状の縦断面図である。
図12図12は、クランプとの係合が意図されるムーブメント表面の形状の例の詳細図である。
図13図13は、クランプとの係合が意図されるムーブメント表面の形状の例の詳細図である。
図14図14は、静止位置での時計の第3実施形態の図である。
図15図15は、クランプの各種タイプについての、ケースに対するムーブメントの変位に応じた、ムーブメントに対する復元の作用力を示すグラフである。
図16図16は、クランプの各種タイプについての、ケースに対するムーブメントの変位に応じた、ムーブメントに対する復元の作用力を示すグラフである。
図17図17は、クランプの各種タイプについての、ケースに対するムーブメントの変位に応じた、ムーブメントの復元力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
時計400の第1実施形態を、図3、4を参照して以下に説明する。時計は、例えば、小型時計であり、具体的には腕時計である。時計は、胴3を含む、小型時計ハウジングまたは小型時計ケース30を含む。小型時計ケース30は、時計ムーブメント2を収容する。ムーブメントは、機械式ムーブメントでも電子式ムーブメントでもよい。
【0042】
時計ムーブメント2及びまたは小型時計ケースの要素3及びまたは小型時計ケース30は、時計ムーブメント2を小型時計ケース30の要素3へ固定するシステム10を含むまたはシステムに貢献する、時計ユニット200の一部を形成または組成することができる。小型時計ケース要素は、例えば、胴または拡大リングであってもよい。
【0043】
時計ムーブメント2を小型時計ケース要素3へ固定するシステム10は、
- 第1にムーブメントと、第2に小型時計ケース要素と、接触することが意図される、少なくとも1つのクランプ1、特に少なくとも2つのクランプ、好ましくは3つのクランプまたは4つのクランプと、
- ムーブメントをケース要素に固定する際に、及びまたはムーブメントが小型時計ケース要素に対して変位する際に、少なくとも1つのクランプの剛性を変更するための、特に少なくとも1つのクランプの曲げ剛性を変更するための装置2a’と
を含む。
【0044】
システムは、弾性ケーシングクランプを使用するという特徴を有し、当該クランプの剛性は、そこに付与される負荷に応じて、特に衝撃時にまたはムーブメントをケースへ取り付ける際の小型時計ケースに対する時計ムーブメントの変位に応じて、変化可能である。他の態様によれば、システムは、特に硬く、製造及びまたは組立公差の変化に非常に無反応な、ケーシングを実施するという特徴を有する。当該実施形態は、長続きする固定システムを提案するという利点を有し、これは特に小型時計の衝撃の場合に、組立に寄与するクランプの塑性変形の危険性、及びまたは当該クランプの固定手段の時期尚早な取り外しの可能性を、特に防止する。
【0045】
クランプの剛性は、負荷または所定の試みにより生じる曲げの強さにより特徴づけられる。クランプの有効長を変更することにより及びまたは負荷をかけた際に支持点または表面を変更することにより、クランプの剛性を調節することができる。剛性を変更するための装置は、この可能性を活用する。
【0046】
少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置は、好ましくは、ムーブメントが小型時計ケース要素に固定されるとき、またはケース要素の第2表面3bへムーブメントの第1表面2bが当接する静止位置から小型時計ケース要素に対して変位されるときに、少なくとも1つのクランプの曲げ長さが変更されるように、特に少なくとも1つのクランプの曲げ長さが減少するよう、配置される。第1表面2bは、例えばムーブメントの文字盤である。第2表面3bは、例えば、ケースに、例えば胴に形成された支え面である。
【0047】
ムーブメントがケース内に取り付けられた状態で、少なくとも1つのクランプ1は、ムーブメントの表面2Aに対して押圧される。少なくとも1つのクランプは、ケースの表面3Aに、特にケースの表面3Aの端部へ重みをかける。表面3Aは、例えば、ケース要素に、特に胴内に設けられた切欠31または窪み31の支持領域である。このため、クランプ1は、ムーブメントを取り付ける際に、クランプの弾性的復元力がムーブメント2の表面2bをケース3の表面3bに対して保持するよう、弾性変形される。クランプは、この場合、ねじ4によりムーブメント上に保持される。ねじ4は、例えば、ムーブメント内に設けられる雌ねじ内へねじ込まれる。ねじは、クランプ1に作られる穴14を通過する。ねじの頭は、クランプ1の表面に重みをかける。第1及び第2表面2b及び3bは、例えば平坦である。両表面は、好ましくは、ムーブメントの軸A1に垂直である。軸A1は、ムーブメントの平面に、特にムーブメントのフレームの平面に垂直、及びまたは軸A1は、ムーブメントが小型時計ケース要素3に挿入される方向に平行である。
【0048】
クランプの曲げ有効長Lfは、クランプの全長Lの限定的部分に対応する。曲げ有効長Lfは、第1屈曲端部12を形成する第1区域と、第2屈曲端部13を形成する第2区域の間で延長する。第1端部12は、ムーブメントとクランプとの間の接触境界に位置する。第2端部13は、ケースとクランプとの間の接触境界に位置する。長さLaは、ムーブメントを圧迫するクランプの長さである。当該長さは、非連続であってもよい。長さは、クランプ1がムーブメントを圧迫する端部境界の間で延長する。
【0049】
第1実施形態において、ムーブメントの支え面2Aは、ムーブメントのフレームと角度αを形成する少なくとも1つの表面部分2a’を含む。当該部分2a’は、ねじ4がクランプをムーブメントのフレームに対して押圧する部分2aに隣接する。部分2aは、例えば、平坦である。このため、表面部分2a’は、ムーブメントが、ムーブメントの第1表面2bがケース要素の第2表面3bに当接する静止位置にあるときにクランプが重みをかける部分2aと、非ゼロの角度αを形成する。
【0050】
ムーブメント2をケース30内に取り付ける際に、クランプ1は、ねじ4の作用下で、表面3Aの全部または一部との接触により弾性変形される。クランプは、クランプの弾性変形前のケースとクランプとの間の物の干渉に対応する、干渉の軸方向距離にわたり、弾性変形される。ムーブメントがケース内に収められると、クランプは表面2Aに対して押圧され、ねじ4を介して予張力状態に保持される。各種構成において、クランプの曲げ長さLfは、特に表面2Aの形状により定義される。図3に図示する特定の構造内において、Lf≒La/1.5であり、クランプが部分2a’との接触に戻るまで、特に所定の閾値よりも大きい強さの衝撃中に、維持する第1剛性をクランプに与える。図4に示すように、当該閾値に到達すると、ムーブメントは、ケースに対して距離d分、軸方向に変位される。この結果、クランプは、部分2a’と接触する。当該接触は、クランプの支持点を変更し、これは特に、具体的には復元力の増加によるムーブメントの最小限の軸方向変位により、クランプの塑性変形を防止する一方でクランプの復元力を増加することを可能にする。部分2a’の形状は、クランプに対して、クランプの弾性的復元力の開放まで、すなわち部分2a’とクランプが接触する間維持する、少なくとも第2剛性を与える。更に、部分2a’は、応力をクランプのより大きな表面にわたり分配することを可能にし、このためクランプが製造された素材の弾性限界を超える可能性のある、過剰な応力の集中を防止することを可能にする。
【0051】
図3の構成から図4の構成に変更する際に、クランプの曲げ長さLfは変化可能であり、特に長さはLa/4(図4)とLa/1.5(図3)の間であってよい。具体的には、この場合の長さLfは、図3の構成と図4の構成の間で、いきなりLa/1.5からLa/4へ変化可能である。クランプの装着の態様はまた、埋め込み梁に類似の構成から四点曲げ梁に類似の構成への変更により、いきなり変化することができる。
【0052】
角度αは、優先的に、厳密に45°よりも小さい、または20°よりも小さい、または15°よりも小さい、または10°よりも小さい。この角度αは、優先的に、1°よりも大きい、特に2°よりも大きい。このため、部分2a’は、表面2Aの製造から生じる単純な斜面とは区別されるべきである。更に、部分2a’は、表面2Aの全部または一部を占めてもよい。
【0053】
もちろん、組立時に、すなわちムーブメントをケース内に取り付ける際にまたは固定する際に、すなわちムーブメントとケースとを分離する距離dがゼロのとき、クランプを部分2a’に対して押圧することができる。当該構成の利点は、ムーブメントの組立時に、クランプの残留変形を生じる可能性のある応力よりも応力を発生させることなく、クランプの生成する復元力を増加することである。
【0054】
このため、支持力またはムーブメントに対するクランプの第1屈曲端部12の接触は、ムーブメントが小型時計ケース要素に固定される際に、またはムーブメントの第1表面2bがケース要素の第2表面3bに当接する静止位置から小型時計ケース要素に対して変位される際に、変更される。
【0055】
当該第1実施形態において、少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置は、部分2a’を含む。部分2a’は、例えば、平面である。
【0056】
時計400の第2実施形態を、図5及び6を参照して以下に説明する。第2実施形態によれば、時計は、少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置のみによって、第1実施形態の時計と区別可能である。
【0057】
第2実施形態において、ケースの支え面3Aは、ムーブメントのフレームとまたはムーブメントの軸A1に垂直な平面と角度βを形成する、少なくとも1つの表面部分3a’を含む。部分3a’は、ムーブメントの静止位置において、またはムーブメントをケース内に固定する際に、クランプが静止する部分3aに隣接する。部分3aは、例えば平面であり、例えばムーブメントの軸A1に垂直である。このため、表面3A部分3a’は、表面3A部分3aに対して、角度βを形成する。
【0058】
ケース30内にムーブメント2を取り付ける際、クランプ1は、ねじ4の作用の下、表面3Aの全部または一部との接触により、弾性変形される。クランプは、クランプの弾性変形前のケースとクランプとの間の物の干渉に対応する、干渉の軸方向距離にわたり、弾性変形される。ムーブメントがケース内に収められると、クランプは表面2Aに対して押圧され、ねじ4経由で予張力状態に保持される。各種構成において、クランプの曲げ長さLfは、特に表面3Aの形状により定義される。図5に図示する特定の構造内において、Lf≒La/2.5であり、クランプが部分3a’との接触に戻るまで、特に所定の閾値よりも大きい強さの衝撃中に、維持する第1剛性をクランプに与える。図6に示すように、当該閾値に到達すると、ムーブメントは、ケースに対して距離d分、軸方向に変位される。この結果、クランプは、部分3a’と接触する。当該接触は、クランプの支持点を変更し、これは特に、具体的には復元力の増加によるムーブメントの最小限の軸方向変位により、クランプの塑性変形を防止する一方でクランプの復元力を増加することを可能にする。部分3a’の形状は、クランプに対して、クランプの弾性的復元力の開放まで、すなわち部分3a’とクランプが接触する間維持する、少なくとも第2剛性を与える。
【0059】
図5の構成から図6の構成に移行する際に、クランプの曲げ長さLfは変化可能であり、特に長さはLa/4(図6)とLa/2.5(図5)の間であってよい。具体的には、この場合の長さLfは、図5の構成と図6の構成の間で、La/2.5からLa/4へ変化可能である。
【0060】
角度βは、優先的に、厳密に45°よりも小さい、または20°よりも小さい、または15°よりも小さい、または10°よりも小さい。この角度βは、優先的に、1°よりも大きい、特に2°よりも大きい。このため、部分3a’は、表面3Aの製造から生じる単純な斜面とは区別されるべきである。更に、部分3a’は、表面3Aの全部または一部を占めてもよい。
【0061】
もちろん、ムーブメントをケース内に取り付ける際に、すなわちムーブメントとケースとを分離する距離dがゼロのとき、クランプを部分3a’に対して押圧することができる。当該構成の利点は、クランプの残留変形につながる可能性のある応力を発生させることなく、ムーブメントの組立時にクランプの生成する復元力を増加することである。
【0062】
このため、支持力またはケース要素に対するクランプの第2屈曲端部13の接触は、ムーブメントが小型時計ケース要素に固定される際に、またはムーブメントの第1表面2bがケース要素の第2表面3bに当接する静止位置から小型時計ケース要素に対して変位される際に、変更される。
【0063】
第2実施形態において、少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置は、部分3a’を含む。部分3a’は、例えば、平面である。
【0064】
時計400の第3実施形態を、以下に説明する。当該実施形態は、図14に示す。第3実施形態は、第1実施形態と第2実施形態とを混合したものである。このため、第3実施形態において、少なくとも1つのクランプの剛性を変更する装置は、ムーブメントの傾斜部分を含み、当該部分は(特に図3及び4に示す第1実施形態の部分2a’のように)少なくとも1つのクランプと、少なくとも1つのクランプを係合することが意図される(特に図5及び6に示す第2実施形態の部分3a’のように)ケース要素上の傾斜部分とを、係合することを意図する。
【0065】
このため、支持力またはムーブメントに対するクランプの第1屈曲端部12の接触と、支持力またはケース要素に対するクランプの第2屈曲端部13の接触は、ムーブメントが小型時計ケース要素に固定される際に、またはムーブメントの第1表面2bがケース要素の第2表面3bに当接する静止位置から小型時計ケース要素に対して変位される際に、変更される。
【0066】
各種実施形態において、クランプの剛性を変更する装置は、有利には、各クランプに設けられる。好ましくは、同じ時計において、クランプの剛性を変更する装置は、各クランプにおいて同一である。
【0067】
各クランプは、図7に示すように、平行六面体形状または実質的に平行六面体形状を有してもよい。
【0068】
例えば、1つのクランプは、梁であってもよい。クランプのいくつかまたは全部が梁であってもよい。
【0069】
例えば、1つのクランプは、その縦方向に、縦方向に垂直な横断方向に従って測定したより大きな横断寸法(幅)L’よりも、少なくとも1.2倍、または少なくとも1.5倍、または少なくとも1.8倍、または少なくとも2倍長い、長さLを有してもよい。長さと幅は、図7、10、及び11に示す。クランプのいくつかまたは全ては、このような形状を有することができる。
【0070】
有利には、クランプまたは各クランプは、断面Sを含み、当該断面の断面二次モーメントは、クランプの縦軸11に沿って変化する。
【0071】
図10に示す第1代替例において、クランプの幅L’は、縦軸11に沿って変化する。この変化は、固定要素14とクランプの端部15との間で、具体的には固定要素14とクランプの端部15との間に延長する部分の半分以上にわたり、存在する。幅L’は、好ましくは、端部15に近づくにつれて減少する。
【0072】
図11に示す第2代替例において、クランプの厚みeは、縦軸11に沿って変化する。この変化は、固定要素14とクランプの端部15との間で、具体的には固定要素14とクランプの端部15との間に延長する部分の半分以上にわたり、存在する。厚みeは、好ましくは、端部15に近づくにつれて減少する。
【0073】
クランプの幅及びまたは厚み及びまたは形状の変化は、断面の最大応力のプロファイルが少なくともクランプの長さの一部にわたり、特に固定要素14とクランプの端部15との間で、特に固定要素14とクランプの端部15との間で延長する部分の半分以上にわたり、一定または実質的に一定となるように、断面が変化するようなものであってもよい。換言すれば、クランプは、特に、曲げに対して等しい抵抗のプロファイルを、または「等応力」を有してもよい。より一般的には、クランプの断面は、内部の応力を最適に分配するよう、そして最小化するよう、変化してもよい。
【0074】
上述の全ての実施形態において、部分2a’はムーブメント上に形成され、部分3a’はケース要素上に形成されるように説明されてきた。
【0075】
上述の全ての実施形態において、ムーブメントは、胴内に直接取り付けられるように提供された。しかしながら、代替的に、ムーブメントは、胴に追加されるべき、具体的には背面またはベゼルといった他のケース要素に取り付けられてもよい。
【0076】
もちろん、時計ユニット200はまた、ケーシングリングまたは拡大リングを含んでもよく、当該ケーシングまたは拡大リングは、接続された固定手段によりムーブメントまたは胴に堅固に連結されてもよい。この状況の場合、部分2a’は、少なくとも部分的にケーシングリング上に形成されてもよく、部分3a’は少なくとも部分的にケーシングリング上に形成されてもよい。
【0077】
上述の全ての実施形態において、ケーシングクランプは、ムーブメント上に固定されているとして説明されてきた。代替的に、クランプの固定手段は、ケーシングリングに搭載されてもよい。更に代替的にクランプの固定手段は、ケース要素上に、特に胴上に、搭載されてもよい。
【0078】
上述の全ての実施形態において、部分2a’と3a’は、平面部分として説明されてきた。
【0079】
しかしながら、代替的に、部分2a’及びまたは部分3a’は、凸状または曲線的でもよく、特に部分2a’に関して図12に示すように、円筒部分の形状を有してもよい。
【0080】
さらに代替的に、部分2a’及びまたは部分3a’は、非連続でもよく、特に部分2a’に関して図13に示すように、段で形成されてもよい。
【0081】
より一般的には、また好ましくは、ムーブメントがムーブメントの第1表面2bがケース要素の第2表面3bに当接する静止状態で、ムーブメントがケース要素に固定された状態で、クランプと、クランプの曲げによりクランプが接触可能なムーブメントの点との間に間隙e1(図3)が存在可能である。間隙e1の値は、Lc1より小さい、またはLc1/3より小さい、またはLc1/4より小さく、及びまたは間隙e1の値は、Lc1/60より大きい、またはLc1/30より大きく、ここでLc1は部分2a’のムーブメントのフレームの平面への投影の長さである。更に、長さLc1は、Lf/10からLfの間であり、ここでLfは静止状態で測定される。
【0082】
より一般的には、また好ましくは、ムーブメントがムーブメントの第1表面2bがケース要素の第2表面3bに当接する静止状態で、ムーブメントがケース要素に固定された状態で、クランプと、クランプの曲げによりクランプが接触可能なケース要素の点との間に間隙e2(図14)が存在可能である。間隙e2の値は、Lc2より小さい、またはLc2/3より小さい、またはLc2/4より小さく、及びまたは間隙e2の値は、Lc2/60より大きい、またはLc2/30より大きく、ここでLc2は部分3a’のケース要素の平面への投影の長さである。更に、長さLc2は、Lf/10からLfの間であり、ここでLfは静止状態で測定される。
【0083】
クランプの代替策がどれであれ、各クランプは、ムーブメントまたはケース要素に固定する要素14を有する。例えば、当該要素は、ねじ4の通過用の通過穴14である。
【0084】
クランプの代替策がどれであれ、クランプは、鋼製または超弾性合金製及びまたは形状記憶合金製、特にニチノールといったニッケル-チタニウム合金製またはニッケル合金製であってもよい。
【0085】
クランプの代替策がどれであれ、クランプ1は平坦であってもなくてもよい。このため、クランプは、湾曲形状を有してもよい。クランプ1は、任意で、対称形状を有してもよい。
【0086】
図8は、各種組立構成A、B、C、Dについて、一定断面の同一形状(L=3.3mm、L’=2.05mm、Lf=1.0mm、e=0.35mm)を有し、同一素材(Durnico鋼)製のクランプの挙動を報告する集計表を示す。
【0087】
構成Aは、図1及び2に示す、従来技術のケーシング構成に対応する。
【0088】
構成Bは、図3及び4に示す、第1実施形態のケーシング構成に対応する。
【0089】
構成Cは、図5及び6に示す、第2実施形態のケーシング構成に対応する。
【0090】
構成Dは、図14に示す、第3実施形態のケーシング構成に対応する。
【0091】
クランプの所定の弾性変形を定義する、同じケース-クランプ干渉Iについて、ピースに対する所定の強度の衝撃の結果としてクランプが生成する弾性的復元力Fは、構成に応じて大幅に異なる。これは、それぞれのケースに対する、大幅に異なるムーブメントの軸方向変位dをもたらし、このため構成に応じて、クランプの残留変形Defが程度の差はあっても発生可能である。
【0092】
図8の表は、特に、構成B、C、Dが、クランプの残留変形を最小限にしつつ、特に堅固な組立を提案することを可能にする一方、構成Aのクランプは、特に衝撃の際中に生じる過度な軸方向変位dを理由として大きく塑性変形する事実を強調する。上記を前提として、Def>Iの構造において、このケースのクランプの塑性変形はムーブメントを胴から解放する、すなわち、ムーブメントと胴との間の接触を失わせる。このため、衝撃後、ムーブメントは、もはやケース内に満足な態様で取り付けられていない。有利には、構成Dは、ケースに対するムーブメントの変位を最大限に制限し、クランプの残留変形を最大限に制限することができる。
【0093】
図9は、その軸方向変位または変形d’に応じた構成A、B、C、Dのそれぞれのクランプの剛性特性を図示し、ここでd’=d+Iである。構成Aに寄与するクランプの剛性特性を示す曲線とは異なり、構成B、C、Dに寄与するクランプの剛性特性を示す曲線は、それぞれ、変曲点を有する。これは、特にムーブメントを組み立てる際の第1クランプ剛性(d’≦I+d)と、特にケースからムーブメントがdより大きい距離d分解放される(クランプ軸方向変位d’>I+dにつながる)所定の強度を有する衝撃中に第2クランプ剛性をもたらし、距離dは実施形態の形状に特有であり、ムーブメントまたはケース要素との新たなクランプ接触をもたらすムーブメント変位に対応可能なものである。より一般的には、クランプは、例えば、ケース要素内にムーブメントを取り付ける際に、第1剛性及び第2剛性を有してもよく、またはムーブメントが組み立てられ、所定の強度の衝撃の後に第2剛性を有してもよい。
【0094】
図9は、ムーブメントの組立中かムーブメントの組立後の小型時計ケースの衝撃中かにかかわらず、有効長の変更または引っ張られた際の支持点または表面の変更による構成B、C、Dのクランプの剛性の調節を強調する。
【0095】
上述のように、クランプは、鋼、特にDurnico鋼から製造することができる。ニチノールといった形状記憶合金は、その超弾性特性のため有利に選択可能である。当該合金製のクランプは、実際に、プレストレスの所定の閾値を超えて、Durnico鋼製のクランプに比べて著しく変化が少ない力を生じる利点を有する。これは、ケーシングの際に曝される、または衝撃中に曝される負荷に応じた変形率に従った、素材の相の変化による。このため、当該特性は、ムーブメントとケースの製造及びまたは組立許容差により生じる組立構成の変化により生じる力の変動を最大限克服するために特に有利であり、このため特に頑強な組立装置を提案可能である。
【0096】
更に、当該超弾性合金製のクランプは、先行技術から既知のクランプケーシング装置から既知のクランプに比べて、非常に大きな弾性的復元力を生成可能である。このため、当該素材の選択は、ケーシング剛性を増加させる目的で特に有利であり、その利点は、出願人による研究で強調され、特許文献1に開示されるとおりであり、すなわち、例えば硬い表面への衝撃の際にムーブメントが曝される加速を著しく減少させる。
【0097】
本発明はまた、本発明の対象である固定システムの作用方法、特に上述の実施形態の作用方法に関する。当該作用方法及びまたは上述の各種実施形態において、固定システムは、ムーブメントが固定される及びまたはムーブメントが小型時計ケース要素に対して変位される際に、少なくとも1つのクランプの剛性を変更する、特に少なくとも1つのクランプの曲げ剛性を変更するステップを含む作用を有する。
【0098】
特に、ムーブメントが固定される及びまたはムーブメントが小型時計ケース要素に対して、ムーブメントの第1表面2bが小型時計ケース要素の第2表面3bに当接する静止位置から変位される際に、少なくとも1つのクランプの曲げ長さが変更される、特に少なくとも1つのクランプの曲げ長さが減少される。
【0099】
このため、本発明の第2態様において、時計400、特に腕時計、またはユニット200は、時計ムーブメント2を小型時計ケース30要素3へ固定するためのシステム10を含み、システムは、第1にムーブメントと第2に小型時計ケース要素と接触することが意図される少なくとも1つのクランプ1、特に少なくとも2つのクランプ、好ましくは3つのクランプまたは4つのクランプを含み、少なくとも1つのクランプは超弾性合金及びまたは形状記憶合金製、特にニチノールといったニッケル-チタニウム合金製である。
【0100】
ニチノールは超弾性且つ形状記憶合金である。実際、クランプの使用に対応する温度範囲(例えば-10℃から40℃)において、ニチノールはオーステナイト相にあり、このため超弾性である。
【0101】
ニチノールは、ニッケルとチタニウムの合金であり、両元素はおおよそ同じパーセンテージで存在する、すなわち約55重量%または60重量%のニッケルと約45重量%または40重量%のチタニウムで存在し、場合によってはクロミウム、コバルト、またはニオビウムといった合金化元素がより少ない比率で存在する。AuCd、CuAlBe、CuAlNi、またはCuZnAlといった他の形状記憶合金は単結晶または多結晶の形態で存在する。
【0102】
更に、合金は、その超弾性性質を獲得するために、特定の熱処理の対象となってもよい。
【0103】
例えば、60NiTi合金は、名目上、60重量%のニッケルと40重量%のチタニウムで作り上げられる。55NiTi合金は、名目上、55重量%のニッケルと45重量%のチタニウムで作り上げられる。ニチノール#1合金は、54.5重量%から57重量%のニッケルと、43.0重量%から45.5重量%の間のチタニウムと、最大0.25重量%の特にクロミウム、コバルト、銅、鉄、またはニオビウムといった他の元素で作り上げられる。
【0104】
図15から17にその結果を示す、研究の基礎をなすニチノール合金は、特に約56重量%のニッケルと約44重量%のチタニウムと、Cr、Cu、Feといった合金化元素とで作り上げられる。
【0105】
例えば、CuAl12Be(0.45-0.68)合金は、名目上、12重量%のアルミニウムと0.45重量%から0.68重量%のベリリウムと、残りが銅からなる。
【0106】
例えば、CuAl13Ni4合金は、名目上、83重量%の銅、13重量%のアルミニウム、及び4重量%のニッケルからなる。
【0107】
上述の全ての素材は、クランプ製造に適している。
【0108】
例えば、図15は、ムーブメントが構成Aに従ってケースに入れられた後に、「干渉I」予張力状態に応じて、その弾性域内で2つのクランプが生じる復元力の変化を示すグラフを示し、クランプはそれぞれ、Durnico鋼製(曲線6)、ニチノール製(曲線5a、5b)である。この場合、「等応力」形状は、図10に示すものと同様で、Lf=1.35mmでより大きい寸法の幅L’が2.05mmである。しかしながら、厚みは異なり、Durnico鋼クランプはe=0.37mmで、ニチノールクランプはe=0.7mmである。
【0109】
グラフは、単一の限定された部分のみを有する曲線6とは異なり、実質的に異なる傾斜の2つの異なる部分5a、5bを含む、曲線5a、5bを示す。組立構成において、ニチノールクランプは、曲線の部分5bの特徴に応じて機能するよう、予応力がかけられる。このため、変化が与えられた干渉について、ニチノールクランプが生じる力の変化は、Durnico鋼クランプが生成可能な変化に比べて、最小化される。
【0110】
ケーシングを最大限硬化させ、ケーシング相において合金に超弾性性質を含めるために、ニチノールクランプの形状を、従来技術から既知のクランプに関して変更することも可能である。例えば、ニチノールクランプの厚みeを、Durnico鋼製のクランプの厚みに比べて増加させる、及びまたは負荷に応じて任意で一定である曲げ長さLfを最小化することも可能である。
【0111】
好ましくは、ニチノールクランプにおいて、e≧0.5mmである。
【0112】
好ましくは、ニチノールクランプにおいて、Lf≦1.35mmである。
【0113】
例えば、図16は、ムーブメントが構成Aに従ってケースに入れられた後に、「干渉I」予張力状態に応じて、その弾性域内で2つのクランプのそれぞれが生成する復元力の変化を示すグラフであり、クランプはそれぞれDurnico鋼(曲線6)及びニチノール(曲線5a、5b)製である。この場合、「等応力」形状は、図10に示すものと同様で、Lf=1.35mmで、より大きい寸法の幅L’が2.05mmである。しかしながら、厚みは異なり、Durnico鋼クランプはe=0.37mmで、ニチノールクランプはe=1.75mmである。
【0114】
この場合、ニチノールクランプの残留変形の危険性なくして、Durnico鋼クランプが生成するものと比べて大幅に増加する弾性的復元力が観測される。
【0115】
クランプの厚みの増加を制限するために、同時に、クランプの長さLfを減少させることができる。例えば、図17は、ムーブメントが構成Aに従ってケースに入れられた後に、「干渉I」予張力状態に応じて、その弾性域内で2つのクランプのそれぞれが生成する復元力の変化を示すグラフであり、クランプはそれぞれDurnico鋼(曲線6)及びニチノール(曲線5a、5b)製である。この場合、「等応力」形状は、図10に示すものと同様でより大きい寸法の幅L’が2.05mmである。しかしながら、厚みは異なり、Durnico鋼クランプはe=0.37mmで、ニチノールクランプはe=0.5mmである。長さLfもまた異なり、Durnico鋼クランプはLf=1.35mmであり、ニチノールクランプはLf=0.72mmである。
【0116】
ニチノールクランプの残留変形の危険性なくして、Durnico鋼クランプが生成する弾性的復元力に比較して大幅に増加した弾性的復元力が観測される。更に、変化が与えられた干渉について、ニチノールクランプが生じる力の変化は、Durnico鋼クランプが生成可能な変化に比べて、最小化される。このため、本発明の第2態様によれば、システムは、特に堅固で、製造及びまたは組立許容差の変化に大いに鈍感なケーシングを実施する特徴を有する。
【0117】
従来技術から既知で図1及び2に示す実施形態において、クランプの曲げ有効長Lf*は、クランプの全長L*の限定的部分に対応する。長さLf*は、特に、ムーブメントに対するクランプの支持長さLa*よりも十分に少なく、特にLf*≒La*/4である。長さLf*は、ケース内へムーブメントを取り付ける際に不十分であることが判明することもあり、これはクランプが潜在的に生成する弾性的復元力を減少しかねない、クランプの残留変形を起こす危険性がある。当該シナリオは、特に、それぞれムーブメント2*とケース3*に関連する、表面2b*と3b*との間の接触の喪失につながりかねない。当該シナリオはまた、ねじ4*の頭部による試みを減少しかねず、これは当該ねじ4*の時期尚早なねじのゆるみの危険性につながりかねない。
【0118】
反対に、上記考察に鑑み長さLf*を増加すると、当該長さLf*は、ケース内へムーブメントを取り付けた後に、特に衝撃への耐性のための所定の閾値に関して及びまたはムーブメントの変位の所定範囲に関して、過剰であることが判明することもあり、これはクランプが潜在的に生成する弾性的復元力を減少しかねない、クランプの残留変形を起こす危険性がある。
【0119】
このため、クランプを製造するために選択可能な、先行技術から既知の素材により、ムーブメントとケースとの接点で得られる体積は、衝撃閾値所定値からクランプの残留塑性変形の危険性を完全に回避するためには十分ではない。
【0120】
本明細書に説明した解決策により、こうした問題を解決することができ、固定システムは、クランプに使用した素材及びまたはクランプが基礎とする形状に起因して、より頑強であり、及びまたはより信頼性を有することができる。実際、特に本明細書に説明する解決策により、ケーシング弾性クランプの剛性は、それに付与される負荷に応じて、特にケーシング中に及びまたは衝撃中に、特に小型時計ケースに対する時計ムーブメントの変位に応じて、変化可能である。
【0121】
本明細書において、「超弾性合金」は、好ましくは、2%を超える弾性限界、または5%を超える弾性限界、または8%を超える弾性限界の変形を有する合金を意味する。
【0122】
本明細書において、元素の重量パーセンテージは、「重量%」と示す。
【符号の説明】
【0123】
1 クランプ
2 ムーブメント
2b 第1表面
3 ケース要素
3b 第2表面
4 ねじ
12 第1屈曲端部
13 第2屈曲端部
30 小型時計ケース
200 時計ユニット
400 時計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17