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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】熱分解油の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 1/10 20060101AFI20231023BHJP
   C10G 25/00 20060101ALI20231023BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20231023BHJP
   B01J 23/02 20060101ALI20231023BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C10G1/10
C10G25/00
C08J11/12
B01J23/02 M
B01D15/00 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019091822
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2019203124
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2018095899
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月17日、第48回石油・石油化学討論会予稿集 (刊行物等) 平成30年11月22日、日本エネルギー学会西部支部第3回学性・若手研究発表会
(73)【特許権者】
【識別番号】313009877
【氏名又は名称】環境エネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189865
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 正寛
(72)【発明者】
【氏名】朝見 賢二
(72)【発明者】
【氏名】谷 春樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 弥生
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-162881(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0024360(KR,A)
【文献】山脇隆,使用済家電混合プラスチック石油化学原料化プロセスの開発,第23回廃棄物資源循環学会研究発表会要旨集,一般社団法人廃棄物資源循環学会,2012年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00
B09B 3/00
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素を含有するプラスチックを不活性ガス雰囲気中で熱分解することにより熱分解油を得る熱分解油の製造方法であって、
前記プラスチックの熱分解は、廃FCC触媒を用いずに、アルカリ土類金属化合物を用いることで、熱分解時に前記プラスチックに含有された窒素を選択的にアンモニアに変換する熱分解油の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属化合物が、カルシウム化合物、バリウム化合物またはストロンチウム化合物である請求項1に記載の熱分解油の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属化合物は、前記プラスチック100gに対し4g以上存在させる請求項1又は請求項2に記載の熱分解油の製造方法。
【請求項4】
前記窒素を含有するプラスチックは、ABS樹脂である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の熱分解油の製造方法。
【請求項5】
前記熱分解の後、吸着剤による吸着処理を施すことにより脱窒素処理を行う請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の熱分解油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解油の製造方法、詳しくは、窒素を含有するプラスチックから低窒素熱分解油を得る熱分解油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチックは日常生活のあらゆる分野に浸透しているとともに、高度技術を支えるのに不可欠な素材の一つであるが、生産量の増加とともにその廃棄物の処理対策が問題視されている。プラスチック生産量の大部分を占める熱可塑性プラスチックは、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)等であり、これらの混合プラスチック廃棄物の廃棄物対策として、マテリアルリサイクル、サーマルリサイクルの開発と単純焼却、埋め立てなどの諸政策が検討されている。
【0003】
特に近年、地球環境問題の高まりにより、廃棄物の適正処分、エネルギーの有効利用、リサイクルといった問題が強く叫ばれていることを背景に、廃プラスチックを再利用する様々な方法が研究開発されている。
特に、再利用方法のなかでも、プラスチック廃材を熱分解し、ガス、オイル等を回収する熱分解油化技術が注目され、その装置及び方法が数多く提案されている。例えば、特許文献1には、スチレン系樹脂を乾留熱分解して燃料用の油を取得し、エネルギーとして再利用する熱分解油化が開示されている。特許文献1に記載の技術は、周期率表の第2a族アルカリ土類金属、第1b族銅族金属、第1a族アルカリ金属から選ばれる金属化合物を熱分解触媒として存在させた熱分解槽にてスチレン系樹脂を熱分解するものである。
また、非特許文献1には、廃FCC触媒を用いた接触分解油化が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-283745号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】山脇隆、外2名、「使用済家電混合プラスチック石油化学原料化プロセスの開発」、第23回廃棄物資源循環学会研究発表会要旨集、一般社団法人廃棄物資源循環学会、2012年、セッションID:B6-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラスチック廃材にはプラスチックの種類により、分子構造中に窒素が存在するものがある。分子骨格中に窒素が存在するプラスチックは、熱分解により液状化することができたとしても、熱分解油中に窒素を多く含有する。窒素を多く含有する熱分解油は、燃焼により窒素酸化物が発生し、大気汚染、温室効果、オゾン層の破壊等の環境問題を引き起こす。このため、熱分解油中の窒素の含有量を極力低減させる必要がある。
しかしながら、引用文献1に記載の技術によれば、スチレン系樹脂を分解油の原料としており、スチレン系樹脂の構造中に窒素が含まれていない。このため、窒素を含有しない廃プラスチックを油化する技術には有用であるものの、様々な種類が存在するプラスチック廃材には不適な技術である。
また、非特許文献1に記載の技術では、廃FCC触媒を用いているが、廃FCC触媒を用いた場合でも、分解油中には多量の窒素分が残留しており、燃焼による環境問題を解消することができない。
【0007】
そこで、発明者は、熱分解触媒・添加剤に着目し、廃FCC触媒を用いず、アルカリ土類金属化合物、特にカルシウム化合物、バリウム化合物、ストロンチウム化合物を用いることにより、熱分解油中の窒素含有量を抑えることができることを知見し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、窒素を含有するプラスチックから低窒素熱分解油を得る熱分解油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、窒素を含有するプラスチックを不活性ガス雰囲気中で熱分解することにより熱分解油を得る熱分解油の製造方法であって、前記プラスチックの熱分解は、廃FCC触媒を用いずに、アルカリ土類金属化合物を用いることで、熱分解時に前記プラスチックに含有された窒素を選択的にアンモニアに変換する熱分解油の製造方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記アルカリ土類金属化合物が、カルシウム化合物、バリウム化合物またはストロンチウム化合物である請求項1に記載の熱分解油の製造方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記アルカリ土類金属化合物は、前記プラスチック100gに対し4g以上存在させる請求項1又は請求項2に記載の熱分解油の製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記窒素を含有するプラスチックは、ABS樹脂である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の熱分解油の製造方法である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記熱分解の後、吸着剤による吸着処理を施すことにより脱窒素処理を行う請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の熱分解油の製造方法である。
【0014】
窒素を含むプラスチック(たとえば、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂))をアルカリ土類金属化合物の存在下にて加熱し、熱分解油を得た場合、熱分解油の収率の低下と、アンモニアと残渣の収率が増加する。このことから、アルカリ土類金属化合物の有する塩基性に起因して、プラスチックからの水素原子の引き抜きやアンモニアの発生が促進され、分解油中の窒素が除去されると考えられる。特に、ABS樹脂の場合、アルカリ土類金属化合物の存在下にて加熱し、熱分解油を得た場合、熱分解油の収率の低下と、アンモニアと残渣の収率が増加する。
本発明によれば、アルカリ土類金属化合物を用いることで、窒素を含有するプラスチックから分解油を製造した場合に、高い脱窒素効果が得られる。このため、窒素分が原因となる環境問題の抑制に寄与することができる。
【0015】
ここで、アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属(ベリリウム・マグネシウム・カルシウム・ストロンチウム・バリウム・ラジウム)の炭酸塩、酸化物等が挙げられるが、アルカリ土類金属の酸化物の方が好ましい。なお、酸化ベリリウムは毒性があるという問題があるため、好ましくは、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウムである。特に好ましいのは、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウムである。
なお、アルカリ土類金属化合物には、たとえば、ドロマイトやハイドロタルサイト等のアルカリ土類金属同士の複合物やアルカリ土類金属を含む複合物が含まれる。
【0016】
アルカリ土類金属化合物は、処理するプラスチック100gに対し4g以上存在させることが好ましい。処理するプラスチック100gに対しアルカリ土類金属化合物の存在量が4gに満たない場合、十分な脱窒素効果が得られない。より好ましくは、処理するプラスチック100gに対し、アルカリ土類金属化合物の存在量が8g以上である。ただし、処理するプラスチックの種類、成分割合、処理温度等により、液状化した際の粘性が異なるため、アルカリ土類金属化合物の存在量の最大値は適宜調整される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルカリ土類金属化合物を用いることで、窒素を含有するプラスチックから分解油を製造した場合に、高い脱窒素効果が得られる。このため、窒素分が原因となる環境問題の抑制に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る熱分解油の製造装置の概略図を示す。
図2】(a)アルカリ土類金属化合物無添加の場合とアルカリ土類金属化合物をそれぞれ2g添加した場合における原料のABS樹脂から生成された生成物組成を示すグラフである。(b)アルカリ土類金属化合物無添加の場合とアルカリ土類金属化合物をそれぞれ2g添加した場合での窒素移行率を示すグラフである。
図3】アルカリ土類金属化合物を2g添加した場合の分解油のクロマトグラムである。
図4】(a)酸化バリウムを16g添加して得られた熱分解油に市販の吸着剤を1g添加し脱窒素処理を行う前の窒素濃度を示すグラフである。(b)酸化バリウムを16g添加して得られた熱分解油に市販の吸着剤を1g添加し常温にて脱窒素処理を行った後の窒素濃度を示すグラフである。
図5】(a)酸化バリウムを16g添加して得られた熱分解油に市販の吸着剤を1g添加し脱窒素処理を行う前の窒素濃度を示すグラフである。(b)酸化バリウムを16g添加して得られた熱分解油に市販の吸着剤を1g添加し80℃にて脱窒素処理を行った後の窒素濃度を示すグラフである。
図6】(a)酸化カルシウムを0~4g添加した場合の生成物収率を示すグラフである。(b)酸化カルシウムを0~4g添加した場合の窒素移行率を示すグラフである。
図7】(a)酸化バリウムを0~16g添加した場合の生成物収率を示すグラフである。(b)酸化バリウムを0~16g添加した場合の窒素移行率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0020】
(熱分解油の製造装置)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る熱分解油の製造装置10は大きく、オートクレーブ型反応装置11と、冷却装置12から構成される。
【0021】
オートクレーブ型反応装置11は、セミバッチ式で略立方体形状に構成された空間領域からなる内部空間に形成されている。内部空間には、原料とアルカリ土類金属化合物とが投入され、図示しない加熱装置にて原料とアルカリ土類金属化合物とが加熱される。
また、オートクレーブ型反応装置11には攪拌機11aが設けられている。攪拌機11aは、オートクレーブ型反応装置11の外部にモータが設けられ、モータから撹拌棒がオートクレーブ型反応装置11の内部空間まで伸び、モータにより撹拌棒が回転することにより原料とアルカリ土類金属化合物とを撹拌するものである。
そして、原料とアルカリ土類金属化合物とがヘリウム雰囲気下にて加熱されるために、オートクレーブ型反応装置11の上部にはヘリウムガスを供給するためのヘリウムガス供給口11bが設けられている。また、原料が熱により分解されて発生したガス状態の生成物とヘリウムガスとを、内部空間から冷却装置12に供給する連通管11cが、オートクレーブ型反応装置11の上部に設けられている。
【0022】
冷却装置12は、冷却器12aと氷冷トラップ12bと水トラップ12cとから構成されている。オートクレーブ型反応装置11から排出される生成物とヘリウムガスとが、連通管11cを通じて冷却器12aに供給される。冷却器12aにより冷却された生成物の一部が液状化する。この液状化した生成物は冷却器12aの下部から排出され、回収器13に回収される。
冷却器12aにて液状化しなかった生成物は、冷却器12aの上部から排出され、氷冷トラップ12bに供給される。氷冷トラップ12bにて、液状化した生成物は、氷冷トラップ12bから取り出され、回収器13に回収される。
氷冷トラップ12bにおいても液状化しなかった生成物は、水トラップ12cに供給される。水トラップ12cでは、氷冷トラップ12bにおいても液状化しなかったガス状の生成物を水中に供給する。水中ではアンモニアガスを回収するとともに、サンプルバッグ14を用いてガス状の生成物を捕集する。
【0023】
(熱分解油の製造条件、生成物分析)
オートクレーブ型反応装置11の内部空間に、原料としてABS樹脂(旭化成ケミカルズ株式会社製、スタイラックABS)50gとアルカリ土類金属化合物0~8gを投入し、撹拌しながら430℃まで昇温し、4時間加熱した。ヘリウムガスの流量は、100mL/minとした。
アルカリ土類金属化合物として、関東化学株式会社製の酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムを用いた。
そして、回収器13に回収された分解油の分析および水トラップ12cにおいて回収したアンモニア、シアン化水素、炭素数1~5程度の炭化水素ガスの定量分析を行った。
【0024】
分解油の分析は、油中窒素分の定量分析、炭素数分布の分析、生成物の構造解析を行った。油中窒素分の定量分析は有機元素分析(ヤナコ製、MT-6 CHN Corder)にて行った。炭素数分布の分析はGC-FID(Agilent Technologies社製7890A GC system)を用いた。
生成物の構造解析は、GC-MS(島津製作所株式会社製、GCMS-QP2010 Ultra)を用いた。
このとき、気化室温度は80℃、キャリアガス(ヘリウム)流量は10mL/min、カラム初期温度は35℃、昇温速度は10℃/min、カラム最終温度は280℃、最終温度キープ時間は15min、スプリット比は2.8:1、使用カラムはGL Sciences InertCap1(30m×0.25mm×1.5μm)である。
【0025】
アンモニアの定量分析は検知管(株式会社GASTEC製気体検知管No.3HM)およびイオンクロマトグラフィ(Thermo Fisher scientific製、Dionex ICS-2100)にて行った。
このとき、溶離液は20mmol/Lメタンスルホン酸、流量は1.0mL/min、検出器は電気伝導度検出器(サプレッサー使用)、測定時間は16.0min、セルカラム温度は35℃、使用カラムはCS12Aである。
シアン化水素の定量分析は、検知管(株式会社GASTEC製気体検知管No.12L)を用いた。
炭化水素ガスの定量分析は、GC-FID(島津製作所株式会社製、GC14B)にて行った。
【0026】
(アルカリ土類金属化合物の種類による油化への影響)
図2(a)にアルカリ土類金属化合物無添加の場合とアルカリ土類金属化合物として、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムをそれぞれ2g添加した場合における原料のABS樹脂から生成された生成物組成を示す。図2(a)より、全体的にアルカリ土類金属化合物を加えることで、無添加時と比較して分解油の収率の減少が見られた。また、それに伴いアンモニアと反応後の反応器内の残留物である残渣の割合がそれぞれ増加した。特に、酸化マグネシウム添加時では無添加時とほとんど変わらず、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウムでは分解油の収率減少と、アンモニアと残渣の収率増加が顕著に見られた。また、図2において鮮明に表れていないが、添加物を加えたいずれの場合でもシアン化水素の排出量を大きく低減し、酸化カルシウム添加時では排出が見られなかった。
【0027】
図2(b)にアルカリ土類金属化合物無添加の場合とアルカリ土類金属化合物として、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムをそれぞれ2g添加した場合での窒素移行率、つまり、原料のABS樹脂中の窒素がそれぞれの生成物に移行した割合を示す。図2(b)より、全体的に、熱分解触媒を加えることで、分解油への窒素移行率が低減され、アンモニア、残渣への窒素移行率が増加した。生成物収率の場合と同様に、酸化マグネシウムでは無添加時とほとんど変化がなかったのに対し、酸化カルシウム、酸化バリウム添加時では分解油への窒素移行を大きく低減し、アンモニアと残渣への窒素移行率が増加した。また、酸化ストロンチウム添加時では酸化カルシウム、酸化バリウム以上に分解油への窒素移行を大きく低減し、アンモニアと残渣への窒素移行率が増加した。
【0028】
図3にアルカリ土類金属化合物を2g添加した場合の分解油のクロマトグラムを示す。図3より、無触媒では、主な油中の生成物はトルエン、エチルベンゼンなどをはじめとした単環の芳香族化合物であり、窒素化合物としては4-フェニルブチロニトリルが確認された。また、触媒存在下の条件においても、生成物の種類に大きな変化は見られなかった。
【0029】
表1にアルカリ土類金属化合物無添加の場合と酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウムをそれぞれについて、分解油への窒素移行率を最も低減させた場合の分解油についての窒素の有機元素分析値(N[%])、分解油重量、分解油収率、分解油への窒素移行率を示す。表1より、酸化カルシウム、酸化バリウムを加えることで、分解油の有機元素分析値が低減していることが確認された。有機元素分析値としては酸化バリウムを添加したときに最も低い値を示した。
【0030】
【表1】
【0031】
アルカリ土類金属化合物として酸化バリウムを16g添加して熱分解油を用い、市販の吸着剤による脱窒素処理を行った。吸着処理は、分解油1mlに対して吸着剤1gを混合し、室温(図4)または80℃(図5)で24時間静置した。得られた処理油のろ過前後の窒素濃度を図4図5に示す。最も脱窒素効果が大きかった吸着剤はミズカライフ(登録商標)であり、処理温度やろ過の有無の影響はあまり大きくなかった。
【0032】
(アルカリ土類金属化合物の添加量が反応に及ぼす影響)
図6(a)に酸化カルシウムを0~4g添加した場合の生成物収率を示す。図6(a)より、酸化カルシウムを添加することにより分解油収率の減少など、生成物収率の変化が見られたが、酸化カルシウム添加量を2gから4gに増加させた場合では、生成物収率にほとんど変化が見られなかった。また、酸化カルシウムを添加した場合には、添加量が少量であっても、シアン化水素の排出は見られなかった。
また、図6(b)に酸化カルシウムを0~4g添加した場合の窒素移行率を示す。図6(b)より、残渣への窒素移行率の減少など、移行率の変化は見られたものの、生成物収率と同様に、分解油への窒素移行率にはほとんど変化が見られなかった。
【0033】
図7(a)に酸化バリウムを0~16g添加した場合の生成物収率を示す。図7(a)より、添加量を2gから増加させると、それに伴い分解油収率の減少が見られた。また、このときアンモニアと残渣の収率が増加したが、炭化水素ガスとシアン化水素の収率に変化は見られなかった。8g添加時で全体の収率の若干の減少が見られたが、全体の収率は92.1%と、添加量を増加させた時に起こる全体の収率の低下はほとんど見られなかった。
図7(b)に酸化バリウムを0~16g添加した場合の窒素移行率を示す。図7(b)より、添加量を2gから増加させると、分解油への窒素移行率は大きく低減していき、8g添加時では分解油への窒素移行率は26.4%と、無添加時の分解油への窒素移行率の70.5%と比較しても大きく低減がされた。さらに、16g添加時では分解油への窒素移行率は16.7%と、無添加時の分解油への窒素移行率の70.5%と比較しても大きく低減がされた。また、この時減少した分の窒素分はアンモニアと残渣に移行しており、アンモニアと残渣への窒素移行率が大きく増加した。
【0034】
これらの結果から示すとおり、ABS樹脂のように窒素を含むプラスチックをアルカリ土類金属化合物の存在下にて加熱し、熱分解油を得た場合、熱分解油の収率の低下と、アンモニアと残渣の収率が増加することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7