(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】混練物の移送装置
(51)【国際特許分類】
B25J 15/00 20060101AFI20231023BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20231023BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
B25J15/00 C
B29C43/34
B25J15/08 Z
(21)【出願番号】P 2019117352
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 建次
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-192543(JP,A)
【文献】特開2005-333827(JP,A)
【文献】特開2018-144287(JP,A)
【文献】特開2018-69476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
B29C 43/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む混練物を、成形装置の成形型に移送する移送装置であって、
複数本のニードルを有し、前記ニードルを突き刺すことによって
前記混練物を把持する
第1および第2の把持部
が設けられたハンド部と、
前記ハンド部を移動させるアーム部と
、
前記ハンド部および前記アーム部を制御する制御部とを備え、
前記ハンド部は、
前記アーム部に連結されたフレーム部と、
前記フレーム部に取り付けられ、前記
第1および第2の把持部のそれぞれを独立して作動する
第1および第2の駆動装置とをさらに含
み、
前記第1および第2の把持部が把持した混練物を前記成形型に載置する際に、前記制御部は、前記第1の把持部を第1の水平方向位置に位置させた状態で前記第1の駆動装置を駆動した後に、前記第2の把持部の位置を調整し、前記第2の把持部を第2の水平方向位置に位置させた状態で前記第2の駆動装置を駆動する、
混練物の移送装置。
【請求項2】
前記
第1および第2の駆動装置
の各々は、前記フレーム部にブラケットを介して固定された固定部材と、前記
第1の把持部または前記第2の把持部が固定され、前記固定部材に対して進退可能に設けられた可動部材とを含み、
前記
第1および第2の把持部
の各々は、前記可動部材が前進することによって作業位置に位置している場合に、前記ニードルによる把持動作を行う、請求項1に記載の
混練物の移送装置。
【請求項3】
前記
第1および第2の把持部
の各々において、前記複数本のニードルは、第一方向に沿って延びる第一群のニードルと、前記第一方向に交差する第二方向に沿って延びる第二群のニードルとで構成されており、
前記
第1および第2の把持部
の各々は、前記可動部材に取り付けられ、前記第一群のニードルおよび第二群のニードルを同時に進退させるためのニードル駆動手段を含む、請求項2に記載の
混練物の移送装置。
【請求項4】
前記可動部材の進退方向と、前記ニードル駆動手段の進退部材の進退方向は、同じ方向である、請求項3に記載の
混練物の移送装置。
【請求項5】
前記ニードル駆動手段は、上下方向に往復運動するピストンを有しており、
前記
第1および第2の把持部
の各々は、前記ピストンの往復運動に伴って、前記第一群のニードルの前記第一方向に沿う進退および前記第二群のニードルの前記第二方向に沿う進退を案内するためのガイド部材をさらに含む、請求項3または4に記載の
混練物の移送装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記ハンド部が
混練物の受け取り位置に位置する場合に、前記
第1および第2の駆動装置を同じタイミングで駆動し、前記ハンド部が
混練物の受け渡し位置に位置する場合に、前記
第1および第2の駆動装置を異なるタイミングで駆動する、請求項1~4のいずれかに記載の
混練物の移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の移送装置に関し、特に、材料に突き刺すための複数本のニードルを有する把持部(ニードルグリッパ)を備えた移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-144287号公報(特許文献1)には、繊維と熱可塑性樹脂との混練物を製造する混練装置と、混練物を裁断して裁断混練物を生成する裁断装置と、裁断装置の下流側に配置され、裁断混練物を所定の取出し位置(受け取り位置)まで搬送するコンベア(搬送装置)と、コンベアにより取出し位置まで搬送された裁断混練物を拾い上げて成形型に移送する移送装置と、移送装置により移送された裁断混練物を成形型で加圧成形して繊維強化樹脂成形体を製造する成形装置とを備えた繊維強化樹脂成形体の製造装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の製造装置は、コンベアにより送られてきた混練物を、成形型に投入するパターンに位置決めする位置決め手段を含んでおり、位置決め手段によってX方向およびY方向に位置決めされた複数個(たとえば2個)の混練物が、移送装置としてのロボットハンドによって一度に拾い上げられる構成となっている。
【0004】
可塑状態の混練物を把持して成形型に移送する方法としては、特許文献1の移送装置のように混練物を掬い上げる方法や、混練物にニードル(針状の物)を突き刺して保持する方法などが知られている(国際公開第2017/104857号公報(特許文献2)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-144287号公報
【文献】国際公開第2017/104857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の移送装置は、複数材料を共通の拾い上げ部により拾い上げる構成であるため、受け取り位置において事前に位置決めされた複数材料を受け取って成形型に移送することが可能であるが、装置の構造上、材料の受け渡しが水平方向に限定され易い。そのため、最終製品である成形体の形状が複雑な形状である場合、あるいは、成形型(載置台)の形状自体が単調な水平面ではない場合に、特許文献1の技術を適用することが困難となる可能性がある。
【0007】
また、特許文献2のように、材料を垂直方向に放出可能なニードルグリッパ方式の移送装置が存在するものの、このような移送装置においても、次工程の成形型において複雑な形状の成形体を製造可能とする技術が望まれていた。つまり、自由度の高い配置パターンで成形型上に複数材料を配置できる技術が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、自由度の高い配置パターンで次工程の載置台(典型的には成形型)上に複数材料を配置することのできる移送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面に従う材料の移送装置は、複数個の把持部が設けられたハンド部と、ハンド部を移動させるアーム部とを備える。各把持部は、複数本のニードルを有し、ニードルを突き刺すことによって材料を把持する。ハンド部は、アーム部に連結されたフレーム部と、フレーム部に取り付けられ、複数の把持部のそれぞれを独立して作動する複数の駆動装置とをさらに含む。
【0010】
好ましくは、各駆動装置は、フレーム部にブラケットを介して固定された固定部材と、把持部が固定され、固定部材に対して進退可能に設けられた可動部材とを含む。把持部は、可動部材が前進することによって作業位置に位置している場合に、ニードルによる把持動作を行うことが望ましい。
【0011】
好ましくは、各把持部において、複数本のニードルは、第一方向に沿って延びる第一群のニードルと、第一方向に交差する第二方向に沿って延びる第二群のニードルとで構成されている。各把持部は、可動部材に取り付けられ、第一群のニードルおよび第二群のニードルを同時に進退させるためのニードル駆動手段を含むことが望ましい。
【0012】
好ましくは、可動部材の進退方向と、ニードル駆動手段の進退部材の進退方向は、同じ方向である。
【0013】
好ましくは、ニードル駆動手段は、上下方向に往復運動するピストンを有している。各把持部は、ピストンの往復運動に伴って、第一群のニードルの第一方向に沿う進退および第二群のニードルの第二方向に沿う進退を案内するためのガイド部材をさらに含むことが望ましい。
【0014】
材料の移送装置は、複数の駆動装置を制御する制御部をさらに備える。制御部は、ハンド部が材料の受け取り位置に位置する場合に、複数の駆動装置を同じタイミングで駆動し、ハンド部が材料の受け渡し位置に位置する場合に、複数の駆動装置を異なるタイミングで駆動することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自由度の高い配置パターンで、受け渡し位置(次工程の載置台上)に、複数材料を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る移送装置のハンド部の移動経路を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における受け取り台の位置調整方法を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態において成形型(載置台)上に載置される複数の混練物の配置パターン例を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態におけるハンド部の構成を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施の形態におけるハンド部の正面図である。
【
図7】(a),(b)は、それぞれ、本発明の実施の形態におけるハンド部の側面図および底面図である。
【
図8】本発明の実施の形態におけるニードルグリッパ(把持部)の構成を示す正面図である。
【
図9】本発明の実施の形態におけるガイド部材を説明するための図である。
【
図10】本発明の実施の形態において、ハンド部によって混練物を把持する際の移送装置の動作を模式的に示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態において、ハンド部によって混練物を放出する際の移送装置の動作を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0018】
本実施の形態に係る移送装置は、所定の受け取り位置に並べられた複数の材料を把持して、受け渡し位置の載置台まで移送する装置である。本実施の形態においては、繊維強化樹脂成形体の成形前材料としての混練物を移送する移送装置について説明する。
【0019】
<繊維強化樹脂成形体の製造装置の概略構成>
図1を参照して、はじめに、本発明の実施の形態に係る移送装置4を含む繊維強化樹脂成形体の製造装置1の概略構成について説明する。
図1に示すように、繊維強化樹脂成形体の製造装置1は、混練装置2と、中間製品製造装置3と、移送装置4と、成形装置5とを備えている。
【0020】
混練装置2は、繊維と熱可塑性樹脂との混練物を製造し、混練物を吐出する。中間製品製造装置3は、混練装置2から吐出された混練物を裁断して、中間製品としての裁断混練物を生成(製造)する。中間製品製造装置3は、裁断前後の混練物を搬送するコンベア140を有している。移送装置4は、中間製品製造装置3において生成された裁断混練物を把持して、成形装置5に移送する。成形装置5は、移送装置4によって移送された裁断混練物を成形して、繊維強化樹脂成形体を製造する。コンベア140および移送装置4は、混練装置2から成形装置5へと混練物を搬送する搬送手段を構成する。
【0021】
(混練装置)
混練装置2は、LFT-D法により、熱可塑性樹脂に繊維が混入されてなる成形体材料としての混練物を製造する装置である。つまり、熱可塑性樹脂と複数本の連続した繊維の束とを導入し、繊維を裁断しながら開繊させ、樹脂と繊維とを混練して混練物を生成する。熱可塑性樹脂は特に限定されないが、ポリアミド樹脂であることが好ましい。繊維は、炭素繊維、ガラス繊維などであることが好ましい。炭素繊維を用いた場合には、製造装置1において熱可塑性CFRP(炭素繊維強化プラスチック:Carbon Fiber Reinforced Plastics)成形体が製造される。
【0022】
混練装置2は、たとえば、第1混練機10と、第2混練機20と、繊維供給部30とを含んでいる。第1混練機10は、熱可塑性樹脂と繊維とを混練する。第2混練機20は、第1混練機10に導入される熱可塑性樹脂を、第1混練機10内での繊維との混練に先立って、混練・溶融する。繊維供給部30は、第1混練機10に繊維を供給する。
【0023】
第1混練機10は、混練軸11と、シリンダー12と、駆動部13aと、減速機13bと、堰体14と、ダイ15とを含んでいる。
【0024】
混練軸11は、スクリュー11aと、回転軸11bとを有している。第1混練機10は、1本の混練軸11を有する単軸混練機であってもよく、複数本(たとえば2本)の混練軸11を含む多軸混練機であってもよい。スクリュー11aは、回転することによって熱可塑性樹脂と繊維とを混練する。このスクリュー11aは、回転軸11bに組み込まれている。スクリュー11aは、混練軸11において上流側の端部と下流側の端部に配置されていれば特に限定されず、それらの間にはパドルが組み込まれていてもよく、スクリュー11aのみが回転軸11bの全長に亘って組み込まれていてもよい。
【0025】
混練軸11を内部に収容するようにシリンダー12が設けられている。シリンダー12と混練軸11との隙間は、熱可塑性樹脂及び/または繊維が通過する流路となる。シリンダー12は、第2混練機20から供給される熱可塑性樹脂を第1混練機10内に導入するための樹脂供給口12aと、繊維供給部30から供給される複数本の連続した繊維を第1混練機10内に導入するための繊維供給口12bとを有している。本実施の形態では、繊維供給部30から導入される連続した繊維がそのまま第1混練機10内へ送られる。
【0026】
混練軸11の一方(上流側)の軸端には、減速機13bを経由して駆動部13aが接続されている。減速機13bは、電動機の回転速度を減速させるとともに、電動機発生トルク以上の高トルクを混練軸11にかける。第1混練機10が多軸混練機である場合、減速機13bは、複数本の混練軸11を所定の回転速度で同期させて回転させる。混練軸11の他方(下流側)の軸端側には、堰体14が接続されている。堰体14は、ブレーカープレートと中間軸受とを兼用でき、流路と交差する方向に延びるように配置されているので、熱可塑性樹脂と繊維との混練物に背圧を与える。
【0027】
堰体14は、混練物の流路となる開口部を有している。本実施の形態の堰体14は、複数の混練軸11のスクリュー11aのそれぞれの回転方向に沿う円弧状の開口部を複数有している。開口部は、混練軸11ごとに対応して設けられている。この堰体14においてスクリュー11aと反対側には、ダイ15が設けられている。ダイ15は、混練物を排出する吐出口15aを有している。この吐出口15aから、混練物K1が中間製品製造装置3に押し出される。
【0028】
第2混練機20は、上述した第1混練機10のシリンダー12の樹脂供給口12aに導入される熱可塑性樹脂を予め溶融し、スクリュー21aを有する混練軸21と、シリンダー22と、駆動部23aと、減速機23bと、ホッパー24とを含んでいる。第2混練機20は、1本の混練軸21を有する単軸混練機であってもよく、複数本の混練軸21を含む多軸混練機であってもよい。混練軸21は、スクリュー21aのみが回転軸21bに組み込まれていてもよく、中間部にはスクリューに代えてパドルが組み込まれていてもよい。シリンダー22は、溶融された熱可塑性樹脂を第1混練機10に供給する吐出口22aを有している。駆動部23a及び減速機23bは、混練軸21を所定の回転速度で回転させる。ホッパー24は、混練軸21とシリンダー22との間で混練される熱可塑性樹脂の原料25を受ける。
【0029】
繊維供給部30は、上述した第1混練機10のシリンダー12の繊維供給口12bに導入される繊維原料32を供給する。繊維供給部30は、複数本の連続する繊維の束が巻回された繊維原料32を載置する載置部31を含んでいる。載置部31は、繊維原料32から繊維の束の先端を取り出し、第1混練機10のシリンダー12の繊維供給口12bに導入するための第1及び第2案内部31a、31bを有している。
【0030】
(中間製品製造装置)
中間製品製造装置3は、混練物を前方に向けて押し出す混練装置2の吐出口15aに隣接して配置されている。中間製品製造装置3は、混練装置2の吐出口15aから押し出された連続する混練物K1を裁断することによって、成形装置5の成形型50に投入するための非連続的な裁断混練物K2、すなわち中間製品を製造する。
【0031】
中間製品製造装置3は、裁断装置110と、複数のコンベア140とを備えている。各コンベア140は、輪状にしたベルト部材(回転部材)を台車(非回転部材)の上で回転させ、その上に混練物を載置して移動させるベルトコンベアにより構成されている。
【0032】
裁断装置110は、混練物K1を裁断して、裁断混練物K2を生成する。裁断装置110は、混練物K1を裁断する裁断刃111と、裁断刃111を下方で支持するための受け台(図示せず)とを有している。
【0033】
複数のコンベア140は、裁断装置110の上流側に位置する第1コンベアと、裁断装置110の下流側に位置する第2コンベアとを含む。第1コンベアは、混練装置2の吐出口15aから吐出される混練物を下方から受けて、裁断装置110へと送る。第2コンベアは、裁断装置110で裁断された裁断混練物K2を、移送装置4側へ送る。
【0034】
図1に模式的に示されるように、中間製品製造装置3は、成形前材料である混練物K1および裁断混練物K2を可塑状態に維持する(硬化を防止する)ために、加熱機構9を備えていることが望ましい。本実施の形態では、少なくともコンベア140に加熱機構9が搭載されている。加熱機構9は、裁断混練物K2を非接触状態で加温する加温手段(たとえば赤外線ヒータなど)を含んでもよいし、裁断混練物K2に接触した状態で加温する加温手段を含んでもよい。
【0035】
(移送装置)
移送装置4は、中間製品製造装置3の下流側に位置し、中間製品製造装置3で製造された中間製品としての裁断混練物K2を把持して、成形装置5の成形型50に移送する。具体的には、移送装置4は、中間製品製造装置3のコンベア140によって送られてきた裁断混練物K2を、受け取り位置に位置する載置台(以下「受け取り台」という)150において把持し、受け渡し位置に位置する成形型50に載置(挿入)する。
【0036】
移送装置4は、いわゆるロボットハンドであり、裁断混練物K2を把持するハンド部41と、ハンド部41を移動させるアーム部42とを含む。アーム部42は、たとえば
図2に示すように、平面視において(上方から見て)、支点46を中心としてハンド部41を円弧状に移動させる。この円弧上に、コンベア140の下流側に配置された受け取り台150、および、成形型50が位置している。すなわち、ハンド部41の移動経路上に、受け取り台150および成形型50が位置している。
【0037】
アーム部42は、平面視において、ハンド部41を、受け取り台150に重なる受け取り位置から、成形型50に重なる受け渡し位置へと移動させ、再び受け取り位置に移動させる。ハンド部41は、アーム部42の先端に設けられた軸部43に連結されている。なお、ハンド部41が描く軌跡は円弧や円に限定されない。
【0038】
図2に示されるように、移送装置4は、ハンド部41およびアーム部42を制御する制御部90を備えている。制御部90は、アーム部42を駆動制御してハンド部41を(たとえば円弧状に)移動させるとともに、ハンド部41を駆動制御してハンド部41に裁断混練物K2を把持させたり放出させたりする。
【0039】
(成形装置)
成形装置5は、移送装置4の下流側に位置し、裁断混練物K2を加圧成形して、最終製品としての繊維強化樹脂成形体を製造する。成形装置5は、裁断混練物K2が載置される下型52と、下型52に対面して配置される上型51とを有する成形型50を含む。上型51は、プレート53により支持され、下型52は、ホルダ54により支持される。
【0040】
成形装置5は、上型51と下型52との空洞部分であるキャビティに裁断混練物K2が配置され、上型51と下型52とが閉じられることにより、裁断混練物K2を加圧成形する。成形装置5は、複数の裁断混練物K2を加圧成形して最終製品を製造する。つまり、成形型50(の下型52)上には、複数の裁断混練物K2が載置される。そのため、移送装置4は、ハンド部41によって複数個(たとえば2個)の裁断混練物K2を一度に把持し、把持した複数の裁断混練物K2を成形型50まで移送する。
【0041】
<移送装置および混練物移送方法の概要>
本実施の形態に係る移送装置4のハンド部41は、受け取り台150上の複数個の裁断混練物K2をそれぞれ把持するための複数のニードルグリッパを備えている。ニードルグリッパは、複数本のニードルを有する把持部である。ニードルグリッパは、移送対象の裁断混練物K2の個数に対応して設けられる。
【0042】
本実施の形態では、
図2に示されるように、受け取り台150は、少なくとも、コンベア140の搬送方向に直交(交差)する方向(以下、直交方向という)に沿って移動可能に設けられている。図面上、搬送方向が矢印A1で示され、直交方向が矢印A2で示されている。
【0043】
受け取り台150の位置調整については
図3を参照して説明する。
図3(a),(b)を参照して、受け取り台150に、コンベア140に搬送されてきた一つ目の裁断混練物K2が載置されると、受け取り台150が直交方向に沿って動かされる。これにより、
図3(c)に示されるように、二つ目の裁断混練物K2が、一つ目の裁断混練物K2と重ならないように受け取り台150に載置される。2つの裁断混練物K2は、受け取り台150上において、互いに間隔をあけて配置されている。
【0044】
なお、受け取り台150は、たとえば、油圧シリンダ等の駆動手段によって直交方向に動かされる。受け取り台150は、ガイドレール上を移動可能に設けられていてもよい。また、コンベア140から受け取り台150に裁断混練物K2をスムーズに載置するために、受け取り台150は搬送方向に沿っても位置調整可能であってもよい。
【0045】
本実施の形態に係る移送装置4のハンド部41は、受け取り台150上に載置された2個の裁断混練物K2を、2個のニードルグリッパによりそのままの配置パターンでそれぞれ把持し、成形型50に移送する。そして、成形型50に裁断混練物K2を載置する際には、ニードルグリッパを1つずつ作動して、最終製品の形状に応じた配置パターンで成形型50に載置(挿入)する。
【0046】
つまり、移送装置4のハンド部41は、
図4(a)に示されるように、受け取り時と同じ配置パターンで2個の裁断混練物K2を載置するだけでなく、
図4(b)~(d)に示されるように、2個の裁断混練物K2を受け取り時と異なる配置パターンで載置することができる。
図4(b)は、2個の裁断混練物K2を隙間なく並べた配置パターンを示す。
図4(c)は、2個の裁断混練物K2を、受け取り時とは異なる方向で、互いに隙間をあけて並べた配置パターンを示す。
図4(d)は、2個の裁断混練物K2を上下に重ねた配置パターンを示す。
【0047】
<ハンド部の構成>
図5~
図7を参照して、本実施の形態に係る移送装置4のハンド部41の具体的な構成例について説明する。
図5は、ハンド部41の構成を示す斜視図である。
図6は、ハンド部41の正面図である。
図7(a)は、ハンド部41の側面図であり、
図6のVIIa方向から見た図である。
図7(b)は、ハンド部41の下面図であり、
図6のVIIb方向から見た図である。なお、ここでは、移送装置4により移送される材料を「混練物K」という。また、以下の説明においてハンド部41を正面から見た場合の横方向(図中、矢印A3で示す)を「左右方向」といい、ハンド部41を正面から見た場合の奥行き方向(図中、矢印A4で示す)を「前後方向」という。
【0048】
ハンド部41は、2個(複数)のニードルグリッパ70a,70bと、アーム部42の先端に設けられた軸部43に連結されたフレーム部62と、フレーム部62に取り付けられ、ニードルグリッパ70a,70bのそれぞれを独立して作動する複数の駆動装置64a,64bとを含む。
【0049】
ニードルグリッパ70a,70bは、左右方向に並べられ、互いに離れて配置されている。フレーム部62は、左右方向に長さを有しており、フレーム部62の長手方向中央部分が、軸部43を介してアーム部42の先端に連結されている。
【0050】
相対的に左側に位置するニードルグリッパ70aが駆動装置64aにより駆動され、相対的に右側に位置するニードルグリッパ70bが駆動装置64bにより駆動される。各駆動装置64a,64bは、ブラケット63を介してフレーム部62に取り付けられている。ブラケット63は、フレーム部62から前方に突出するように設けられている。
【0051】
以下の説明において、駆動装置64a,64bを区別する必要がない場合には、これらを駆動装置64と総称する。また、ニードルグリッパ70a,70bを区別する必要がない場合には、これらをニードルグリッパ70と総称する。
【0052】
(駆動装置について)
各駆動装置64は、フレーム部62にブラケット63を介して固定された固定部材65と、固定部材65に対して進退可能に設けられた可動部材66とを含む。可動部材66は、制御部90からの指令に基づいて、上下方向(鉛直方向)に往復運動する。
【0053】
駆動装置64は、たとえばエアシリンダにより構成される。この場合、
図7(a)に示されるように、固定部材65は、上下方向に延びる円筒状のシリンダチューブ641と、その両端を覆うヘッドカバー642およびロッドカバー643と、これらカバー642,643を締め付ける4本のタイロッド645とを含む。可動部材66は、シリンダチューブ641の内部に嵌め入れられたピストン644と、ピストン644に取り付けられたピストンロッド646とを含む。ヘッドカバー642およびロッドカバー643にはシリンダチューブ641の内部に空気を給排するポートが設けられ、ピストン644の前後に交互に空気を供給することで、ピストン644の往復運動が行われる。
【0054】
可動部材66の下端部に、ニードルグリッパ70が固定されている。具体的には、ピストンロッド646の下端に一体的に設けられたボルト軸647に、可動部材66に付属するナット648とともに、ニードルグリッパ70のベース部79に連結された円筒ナット649が固定されている。これにより、可動部材66(ピストンロッド646)の往復運動に伴って、ニードルグリッパ70の全体が上下動する。
【0055】
ニードルグリッパ70は、可動部材66が最も前進した状態、すなわちピストンロッド646が最も引き出された状態において、ニードル71,72による把持動作が可能となる。可動部材66が最も後退しているときのニードルグリッパ70の位置を「退避位置」、可動部材66が最も前進しているときのニードルグリッパ70の位置を「作業位置」という。なお、
図7(a)には、退避位置のニードルグリッパ70が実線で示され、作業位置のニードルグリッパ70(70b)が想像線で示されている。
【0056】
(ニードルグリッパについて)
ニードルグリッパ70の構成については、
図8をさらに参照して説明する。
図8は、ニードルグリッパ70の構成を示す正面図である。ニードルグリッパ70は、第一方向(図中、矢印A5で示す方向)に沿って延びる第一群のニードル71と、第一方向に交差する第二方向(図中、矢印A6で示す方向)に沿って延びる第二群のニードル72とを有し、第一群のニードル71と第二群のニードル72とで混練物Kを挟み込む構成である。
【0057】
ニードル71は、右斜め下に向かって延び、ニードル72は、左斜め下に向かって延びている。ニードル71,72の鉛直方向に対する傾斜角度は、同じ角度であり、たとえば40~50度の範囲で定められる。なお、ニードル71,72は、先端が尖った針状部材であり、耐熱性を有する。
【0058】
第一群のニードル71は保持部材73によって保持され、第二群のニードル72は保持部材74によって保持されている。保持部材73,74は、ニードル71,72それぞれに直交する板状部材により構成され、互いに向き合うように斜めに配置されている。つまり、保持部材73は、第一方向に直交して配置され、保持部材74は第二方向に直交して配置される。ニードル71の後端が保持部材73に取り付けられ、ニードル72の後端が保持部材74に取り付けられている。
【0059】
ニードル71,72は、各群において、正面から見て複数列(たとえば3列)に整列されている。つまり、ニードル71,72は、各群において、行列状または千鳥状に配置されている。保持部材73,74は、ニードルグリッパ70の前後方向に長く、各群において、左右方向のニードル71,72の本数(3本)よりも前後方向のニードル71,72の本数の方が多い。
【0060】
本実施の形態では、全てのニードル71,72の先端高さは同一高さである。そのため、ニードルグリッパ70の左右方向中央側の列のニードル71,72は外側の列のニードル71,72よりも長く形成されている。
【0061】
ニードルグリッパ70は、駆動装置64の可動部材66に取り付けられ、第一群のニードル71および第二群のニードル72を同時に進退させるためのニードル駆動手段75を含んでいる。ニードル駆動手段75は、駆動装置64と1対1で設けられている。ニードルグリッパ70は、ニードル駆動手段75を中心として左右対称となるよう構成されている。保持部材73は相対的に左側に位置し、保持部材74は相対的に右側に位置している。
【0062】
ニードル駆動手段75は、ニードルグリッパ70が作業位置に位置する場合に駆動制御される。つまり、ニードルグリッパ70が作業位置に位置する場合にのみ、ニードル71,72の進退が行われる。なお、ニードル71,72が最も後退した位置を「初期位置」という。また、ニードル71,72が最も前進した位置において混練物Kを把持するため、ニードル71,72が最も前進した位置を「把持位置」という。
【0063】
図8には、初期位置のときのニードル71,72の先端高さのラインが想像線L1で示され、把持位置のときのニードル71,72の先端高さのラインが想像線L2で示されている。初期位置において、ニードル71,72の重なりは最も少なく、把持位置において、ニードル71,72の重なりは最も多い。初期位置において両者は重なっていなくてもよい。
【0064】
このように、移送装置4は、駆動装置64によるニードルグリッパ70の作動(下降または上昇)と、ニードル駆動手段75によるニードル71,72の昇降とを2段階で行う。
【0065】
ニードル駆動手段75は、上述のベース部79に対してニードル71,72を進退させる。ニードル駆動手段75は、典型的には、ベース部79に直接または間接的に固定されたシリンダ部751と、シリンダ部751内を往復運動するピストン752とを有している。ピストン752は進退部材として機能する。本実施の形態では、往復運動を安定化させるためにピストン752を複数(2つ)設けているが、ピストン752の個数は1つであってもよい。
【0066】
ピストン752は、制御部90からの指令に基づいて往復運動し、その往復運動によってニードル71,72を進退させる。ピストン752は、駆動装置64の可動部材66と同様に、鉛直方向に沿って往復運動する。このように、ピストン752の進退方向は、ニードル71,72自体の進退方向(第一方向、第二方向)とは異なり、駆動装置64の可動部材66の進退方向と同じ方向である。
【0067】
そのため、ピストン752と、ニードル71,72を保持する保持部材73,74とは、ガイド部材76を介して連結されている。つまり、ニードルグリッパ70は、ピストン752の往復運動に伴って、第一群のニードル71の第一方向に沿う進退および第二群のニードル72の第二方向に沿う進退を案内するためのガイド部材76をさらに含んでいる。
【0068】
(ガイド部材について)
ガイド部材76は、ピストン752の下端に連結されて左右方向に延びるガイド板761と、ガイド板761に設けられた一対のガイド孔762と、保持部材73,74に固定され、一対のガイド孔762に係合する係合ピン77とを有している。
【0069】
ガイド板761は、上下方向に沿って配置され、ガイド孔762は、ガイド板761を板厚方向に貫通している。ガイド孔762は上下方向に短く、左右方向に長い。係合ピン77は、斜めに配置された保持部材73,74の上端部(つまり左右方向における中央寄りの端部)に固定されている。
【0070】
図9(a),(b)には、係合ピン77の取り付け例が示されている。
図9(a)は、
図8のIXa-IXa線に沿う部分断面図であり、保持部材74の上面図が示されている。
図9(b)は、
図8のIXb-IXb線に沿う断面図である。
【0071】
図9(a),(b)に示されるように、係合ピン77は、たとえば、保持部材74の上面に、ブラケット771を介して固定されている。係合ピン77は、保持部材74から中央部側にはみ出した位置で前方(または後方)に向かって突出するように、ブラケット771に取り付けられている。なお、係合ピン77の取り付け方法は特に限定されず、係合ピン77がガイド孔762内を左右方向に移動可能に設けられていればよい。
【0072】
再び
図8を参照して、ベース部79の左右方向両端部791,792には、保持部材73,74をそれぞれ貫通して延びる一対の固定軸78が連結固定されている。保持部材73,74には、固定軸78を挿通するための貫通孔が設けられている。左側の固定軸78は保持部材73を板厚方向に真直ぐ貫通し、第一方向に沿って延在する。右側の固定軸78は保持部材74を板厚方向に真直ぐ貫通し、第二方向に沿って延在する。
【0073】
各ニードルグリッパ70に上述のようなガイド部材76が設けられているため、ピストン752の往復運動の方向がニードル71,72の進退方向と異なっていても、ニードル71,72をスムーズに進退させることができる。このことについて具体的に説明する。
【0074】
初期状態において(ピストン752が最も後退しているとき)、一対の係合ピン77は一対のガイド孔762の左右方向両端部(外側端部)に位置する。
図8には、このときの状態が想像線で部分的に示されている。初期状態において、保持部材73の係合ピン77と保持部材74の係合ピン77とは最も離れた位置に位置する。このときのニードル71,72の位置は初期位置である。
【0075】
ニードル71,72を初期位置から把持位置へ変位させる場合、制御部90によってニードル駆動手段75が駆動されて、ピストン752がシリンダ部751から鉛直下方に引き出される。ピストン752の下降に連動してガイド板761が下降する。そうすると、ガイド板761のガイド孔762に係合している保持部材73,74それぞれの係合ピン77が、左右方向中央部に向かって、ガイド孔762の長手方向に沿って移動する。つまり、保持部材73の係合ピン77と保持部材74の係合ピン77とが互いに近付く方向に移動する。これにより、ニードル71,72は、保持部材73,74とともに、固定軸78の長手方向に沿って、斜め下方に移動(変位)する。
【0076】
このように、ニードルグリッパ70がガイド部材76を備えることにより、一つのニードル駆動手段75の駆動によって、第一群のニードル71および第二群のニードル72の変位を確実に同期させることができる。したがって、混練物Kの把持動作を適切に行うことができる。なお、ニードル71,72を作業位置から初期位置に戻す場合には、ガイド部材76の各部は上記とは逆方向に動作する。
【0077】
(加温手段について)
図6、
図7(b)、および
図8に示されるように、各ニードルグリッパ70は、ニードル71,72を加温する加温手段81を備えていることが望ましい。これにより、移送装置4による混練物Kの移送途中に混錬物Kの温度が低下することを防止することができる。つまり、混練物Kが硬化することを防止できる。
【0078】
加温手段81は、各ニードルグリッパ70の底部に設けられた複数のヒータ82により構成される。ヒータ82は、典型的には、パイプ状に形成された赤外線ヒータである。
【0079】
複数本のヒータ82は、ニードルグリッパ70の前後方向に沿って、互いに平行に延びている。ヒータ82は、ベース部79に間接的または直接的に連結された一対のヒータ保持部材83,84によって両端が保持されている。一方のヒータ保持部材83は、ヒータ82の一端(前方側の端部)を保持し、他方のヒータ保持部材84は、ヒータ82の他端(後方側の端部)を保持する。ヒータ保持部材83,84はたとえば板状に形成され、前後方向に互いに対面して配置される。なお、ヒータ82は、一例として、加熱により形状が変えられる部材により構成されており、両端を折り曲げた状態で硬化させることによって形成されている。
【0080】
ヒータ保持部材83,84は、ベース部79に連結されているため、ヒータ保持部材83,84およびヒータ82は、ニードル駆動手段75のシリンダ部751(固定部材)と同様に、ニードル71,72の進退動作に追従しない。ヒータ82は、ニードル71,72の進退時に通過する位置に、ニードル71,72の進退経路を回避して設けられている。つまり、上下方向においてニードル71,72が通過する範囲内であって、ニードル71,72に干渉しない位置に設けられている。
【0081】
図8を参照して、ヒータ82は、各群において左右方向に隣り合うニードル71(72)間に少なくとも1つ設けられている。各群においてニードル71,72は複数列に整列して並べられているため、各列間(隣り合う列間)に少なくとも1本(たとえば2本)のヒータ82が配列されている。これにより、すべてのニードル71,72を万遍なく加温することができる。
【0082】
なお、図示されるように、第一群において最も内側(左右方向中央寄り)に位置するニードル71とその隣に位置するニードル71との間に配置されるヒータ82は、第二群において最も内側(左右方向中央寄り)に位置するニードル72とその隣に位置するニードル72との間に配置されるヒータを兼ねていてもよい。
【0083】
本実施の形態においては、全てのヒータ82が同一高さに配置されている。つまり、全てのヒータ82は、ニードル71,72の進退時に通過する(同一)平面上に配置されている。なお、ヒータ82の高さは全て同一でなくてもよい。ヒータ82が配置される高さは、典型的には、把持位置に位置するニードル71,72の後端高さ(
図8において想像線L3で示す)よりも下方であり、かつ、把持位置に位置するニードル71,72により把持される混練物Kの上面高さ(
図8において想像線L4で示す)よりも上方である。
【0084】
具体的には、ヒータ82は、初期位置におけるニードル71,72の先端部付近に設けられていることが望ましい。本実施の形態においては、初期位置におけるニードル71,72の先端高さ(
図8において想像線L1で示す)よりも若干上に設けられている。このように、ヒータ82は、初期位置におけるニードル71,72の先端部の高さ範囲内に位置していることが望ましい。
【0085】
これにより、ニードルグリッパ70が混練物Kを把持していない状態(つまり、ニードル71,72が初期位置に位置する状態)において、ニードル71,72の先端部をヒータ82によって両側方から加温することができる。したがって、混練物Kを把持するときに、ニードル71,72を混練物Kに突き刺すことに起因して、混練物Kの温度が低下する(混練物Kが冷える)ことを抑制または防止することができる。
【0086】
また、直線状に延びるヒータ82が、上述のように、左右方向において隣り合うニードル間に少なくとも一つ設けられているため、混練物Kを把持している状態においては、混練物Kを上方から加温することができる。したがって、混練物Kの移送途中に混練物Kの温度が低下することを抑制または防止することができる。その結果、混練物Kの硬化による成形不良を防止できる。
【0087】
移送装置4は、混錬物Kの温度ムラを抑制するために、複数のヒータ82の温度を個別に調整する温度調整手段(図示せず)をさらに備えていてもよい。混練物Kの表面は硬化する傾向にあることから、多数の気泡を有する混練物Kの内部において炭素繊維が空気(酸素)と反応して発熱すると、硬化した表面が断熱材となり、混練物Kの内部は外周部よりも高温状態となる。そのため、たとえば、混練物Kの中央部を突き刺すニードル71,72を、混練物Kの端部を突き刺すニードル71,72の温度よりも低くしておくことで、混練物Kの温度ムラを抑制することが可能である。
【0088】
この場合、温度調整手段は、たとえば、混練物Kの左右方向中央部を突き刺すニードル71,72を加温するヒータ82の温度を、混練物Kの左右方向端部を突き刺すニードル71,72を加温するヒータ82の温度よりも低く設定する。あるいは、ヒータ82を格子状に配置して、混練物Kの前後方向中央部を突き刺すニードル71,72を加温するヒータ82の温度を、混練物Kの前後方向端部を突き刺すニードル71,72を加温するヒータ82の温度よりも低く設定してもよい。
【0089】
(ストッパについて)
図6、
図7(b)、および
図8に示されるように、各ニードルグリッパ70は、把持状態の混練物Kの放出をスムーズに行うためのストッパ85を備えていることも望ましい。ストッパ85は、ニードルグリッパ70の左右方向に沿って直線状に延びている。ストッパ85は複数本設けられ、互いに平行に延びている。そのため、ニードルグリッパ70を底面から見た場合、複数本のストッパ85と複数本のヒータ82とが格子状に配置されている。
【0090】
ストッパ85は、ベース部79に間接的または直接的に連結された一対のストッパ保持部材86,87によって両端が保持されている。そのため、ストッパ保持部材86,87およびストッパ85は、ニードル駆動手段75のシリンダ部751(固定部材)と同様に、ニードル71,72の進退動作に追従しない。ストッパ85もまた、上下方向においてニードル71,72が通過する範囲内であって、ニードル71,72に干渉しない位置に設けられている。
【0091】
ストッパ85は、把持位置に位置するニードル71,72が混練物Kを突き刺している状態において、混練物Kの上面高さ(
図8において想像線L4で示す)よりも上方に配置される。また、初期位置に位置するニードル71,72の先端位置のライン(
図8において想像線L1で示す)よりも若干下方に配置される。
【0092】
これにより、ニードル71,72を把持位置から初期位置に戻す際に、混練物Kの上面がストッパ85に当たるため、混練物Kをニードル71,72からスムーズに放出できる。また、混練物Kがヒータ82に接触することを防止することもできる。
【0093】
<移送装置の動作>
図10および
図11をさらに参照して、移送装置4の動作について説明する。
図10(a)~(d)は、ハンド部41によって混練物Kを把持する際の移送装置4の動作を模式的に示す図である。
図11(a)~(c)は、ハンド部41によって混練物Kを放出する際の移送装置4の動作を模式的に示す図である。移送装置4は、制御部90に制御されることによって、受け取り台150での混練物Kの把持、受け取り台150から成形型50への混練物Kの移送、および、成形型50での混練物Kの放出を、この順序で繰り返し実行する。
【0094】
はじめに、制御部90は、アーム部42を制御して、
図2に示すような移動経路に沿って、たとえば待機位置から受け取り台150(受け取り位置)に、ハンド部41を移動させる。
図10(a)に示されるように、ハンド部41が受け取り位置に到達した時点においては、駆動装置64a,64bの可動部材66は最も後退しており(上端に位置し)、ニードルグリッパ70a,70bは双方とも退避位置に位置している。ニードルグリッパ70a,70bが退避位置に位置する場合、ニードル駆動手段75のピストン752は最も後退しており(上端に位置し)、ニードル71,72は、初期位置に位置する。
【0095】
ニードルグリッパ70a,70bがそれぞれ、受け取り台150上に載置された2個の混練物Kの上方に位置するように位置決めされると、制御部90は、
図10(b)に示されるように、駆動装置64a,64bの可動部材66を前進させる(下降させる)。つまり、ピストンロッド646をシリンダチューブ641から下方に引き出す制御を行う。これにより、ニードルグリッパ70a,70bは、初期位置から作業位置へと変位(下降)する。
【0096】
続いて制御部90は、
図10(c)に示されるように、作業位置へと変位した各ニードルグリッパ70a,70bのニードル駆動手段75を同時に制御して、シリンダ部751からピストン752を下方に引き出す。そうすると、各ニードルグリッパ70a,70bにおいて、ニードル71,72がガイド部材76に案内されながら斜め下方に向かって移動する。具体的には、保持部材73,74に固定された一対の係合ピン77が、ガイド板761のガイド孔762内を、外側から内側へ向かって(左右方向両端から中央側へ向かって)移動することにより、保持部材73,74が互いに近付きながら下方に押し下げられる。
【0097】
これにより、ニードルグリッパ70a,70bの各々において、ニードル71,72が初期位置から把持位置に変位するため、受け取り台150上の2個の混練物Kが、ニードルグリッパ70a,70bのニードル71,72によって同時に突き刺される。つまり、2個の混練物Kが同時に把持される。なお、ニードル71,72が把持位置に位置するとき、係合ピン77がガイド孔762の内側の壁面に当接している。
【0098】
受け取り台150上の2個の混練物Kがニードルグリッパ70a,70bによって把持されると、制御部90は、駆動装置64a,64bの可動部材66を後退(上昇)させる制御を行う。これにより、
図10(d)に示されるように、ニードルグリッパ70a,70bは、混練物Kを把持した状態で、作業位置から退避位置へと戻される(上昇する)。このようにして、混練物Kが2個同時に受け取り台150から持ち上げられる。
【0099】
その後、制御部90は、アーム部42を制御して、
図2に示すような移動経路に沿って、ハンド部41を受け取り台150から成形型50まで移動させる。これにより、2個の混練物Kが受け取り台150から成形型50まで移送される。混練物Kの移送途中、ニードル71,72は把持位置のままである。
【0100】
ハンド部41が成形型50(受け渡し位置)に到達すると、制御部90は、一方のニードルグリッパ70aに把持された混練物Kを成形型50に載置してから、他方のニードルグリッパ70bに把持された混練物Kを成形型50に載置する。
【0101】
具体的には、制御部90は、
図11(a)に示されるように、ニードルグリッパ70aが成形型50の上方に位置している状態で駆動装置64aを駆動制御して、ニードルグリッパ70aだけを退避位置から作業位置へと降下させる。このときのニードルグリッパ70aの水平方向位置は、最終製品の形状に従って予め定められる。これにより、ニードルグリッパ70aに把持された混練物Kが成形型50の所定領域に載置される。
【0102】
その後、
図10(c)に示した動作とは逆に、制御部90は、作業位置に位置するニードルグリッパ70aのニードル駆動手段75を制御して、ピストン752を上方に引き戻す。そうすると、
図11(b)に示されるように、ニードルグリッパ70aのニードル71,72がガイド部材76に案内されながら斜め上方に向かって移動する。具体的には、保持部材73,74に固定された一対の係合ピン77が、ガイド板761のガイド孔762内を、内側から外側へ向かって(左右方向中央から両端へ向かって)移動することにより、保持部材73,74が互いに遠ざかりながら上方に引き上げられる。
【0103】
これにより、ニードルグリッパ70aのニードル71,72が把持位置から初期位置へと変位するため、成形型50に載置された混練物Kから引き抜かれる。このようにして、ニードルグリッパ70aによって一つ目の混練物Kが成形型50に放出(挿入)される。
【0104】
続いて、制御部90は、
図11(c)に示されるように、駆動装置64aを駆動制御してニードルグリッパ70aを作業位置から退避位置に戻すとともに、他方の駆動装置64bを駆動制御して、ニードルグリッパ70bを退避位置から作業位置へと降下させる。このときのニードルグリッパ70bの水平方向位置も、最終製品の形状に従って予め定められる。そのため、制御部90は、ニードルグリッパ70bの水平方向位置が予め定められた位置となるように、ハンド部41全体の水平方向位置を調整する。
【0105】
ニードルグリッパ70bに把持された混練物Kが成形型50の所定領域に載置されると、制御部90は、
図11(b)に示した動作と同様に、作業位置に位置するニードルグリッパ70bのニードル駆動手段75を制御してピストン752を上方に引き戻す。これにより、ニードルグリッパ70bのニードル71,72がガイド部材76に案内されながら斜め上方に向かって移動するので、ニードルグリッパ70bのニードル71,72が把持位置から初期位置へと変位する。このようにして、ニードルグリッパ70bによって二つ目の混練物Kが成形型50に放出(挿入)される。
【0106】
なお、
図11(c)では、一例として、
図4(b)で示した配置パターンに従って、2つの混練物Kが隙間なく並べられた状態が示されている。
【0107】
以上説明したように、本実施の形態に係る移送装置4は、2個のニードルグリッパ70a,70bを独立して退避位置から作業位置に変位させる駆動装置64a,64bを備えており、駆動装置64a,64bは、受け渡し位置において、異なるタイミングでニードルグリッパ70a,70bを作動する。したがって、ニードルグリッパ70a,70bによって把持されていた2個の混練物Kを、自由度の高い配置パターンで成形型50上に配置することができる。つまり、複数の成形前材料の配置の自由度を向上させることができる。したがって、成形装置5において複雑な形状の最終製品を形成することが可能となる。
【0108】
また、2個のニードルグリッパ70a,70bが独立して昇降可能であるため、成形装置5の構成部品との干渉を防止できる。
【0109】
また、本実施の形態では、駆動装置64a,64bは、受け取り位置では同じタイミングでニードルグリッパ70a,70bを作動する。そのため、効率的に複数の混練物Kの把持動作を行うことができる。つまり、混練物Kの受け取りから受け渡しに要する時間を短縮することができる。なお、受け取り位置においても、駆動装置64a,64bは異なるタイミングでニードルグリッパ70a,70bを作動してもよい。この場合、受け取り台150の位置調整を不要にすることも可能である。
【0110】
(変形例)
本実施の形態では、複数の駆動装置64によって、複数のニードルグリッパ70を個別に上下動できる構成について説明したが、各駆動装置64は、上下動だけでなく左右方向または前後方向にニードルグリッパ70の位置を調整できてもよい。あるいは、水平方向においてニードルグリッパ70を回転できてもよい。
【0111】
また、本実施の形態では、ニードルグリッパ70および駆動装置64が2対設けられる例について説明したが、3対以上設けられていてもよい。
【0112】
また、本実施の形態では、移送装置4が、把持した混練物Kを成形型50に移送する例について説明したが、把持した混練物Kの移送先は成形型50に限定されない。つまり、材料の受け渡し位置に位置する載置台は成形型50に限定されない。
【0113】
また、本実施の形態では、移送装置4が移送する材料を混練物として説明したが、移送対象の材料は、ニードル71,72によって突き刺して把持できるものであれば、混練物に限定されない。つまり、移送装置4の構成および動作は、繊維強化樹脂成形体の製造装置1以外にも適用可能である。
【0114】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0115】
1 繊維強化樹脂成形体の製造装置、4 移送装置、41 ハンド部、42 アーム部、50 成形型、62 フレーム部、63 ブラケット、64,64a,64b 駆動装置、65 固定部材、66 可動部材、70,70a,70b ニードルグリッパ、71,72 ニードル、73,74 保持部材、75 ニードル駆動手段、76 ガイド部材、77 係合ピン、78 固定軸、79 ベース部、81 加温手段、82 ヒータ、85 ストッパ、90 制御部、150 受け取り台。