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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】密封構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
F16J15/10 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019170448
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021046917
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 健一
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-506135(JP,A)
【文献】特開2015-028322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付孔を有する部材と、
前記取付孔に取り付けられる取付部材と、
前記取付部材の外周面に形成される環状溝に装着されることで、前記取付孔と前記取付部材との間の環状隙間を封止する環状かつ樹脂製のガスケットと、
を備える密封構造であって、
前記ガスケットは、内周面と外周面が円柱面により構成され、両端が中心軸線に垂直な平面により構成され、かつ、外周面と両端は、端部に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面により繋がるように構成されると共に、
前記環状溝は、溝底面が幅方向の中央から幅方向両端に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面により構成され、両側面が中心軸線に垂直な平面により構成され、かつ、溝底面と両側面は湾曲面により繋がるように構成されていることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
前記取付部材の中心軸線を含む面で該取付部材を切断した場合の前記湾曲面の形状は、円弧または楕円弧形状であることを特徴とする請求項1に記載の密封構造。
【請求項3】
前記ガスケットの内径をD11,前記ガスケットにおける外周面側に設けられた傾斜面における最も径の小さな部位の外径をD12,前記ガスケットの外径をD13とし、
前記溝底面のうち最も径の小さな部位の外径をD21,前記溝底面のうち最も径の大きな部位の外径をD22,前記取付部材における前記環状溝の両側の部位の外径をD23とし、
前記取付孔の内径をD30とすると、
D21<D11<D22<D12<D23<D30<D13
を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の密封構造。
【請求項4】
前記環状溝における溝底面は、幅方向の中央から幅方向両端に向かうにつれて縮径する一対のテーパ面により構成されることを特徴とする請求項1,2または3に記載の密封構造。
【請求項5】
前記ガスケットの両端が前記環状溝の両側面に密着することを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットを備える密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エンジンのシリンダーヘッドに対してインジェクターが取り付けられる部位においては、シリンダーヘッドに形成された取付孔とインジェクターとの間の環状隙間から高圧の燃焼ガスが漏れてしまうことを防止するために燃焼ガスシールが設けられている。この燃焼ガスシールとして、金属製のシールを用いる場合に比べて、部品点数が少なく、振動による騒音を抑制することのできる樹脂製のガスケットを採用した技術が知られている。
【0003】
図5を参照して従来例に係るガスケットを備える密封構造について説明する。図5は従来例に係る密封構造の模式的断面図である。なお、図5では、ガスケットについては、外力が作用していない状態における断面の外形のみを点線にて示している。
【0004】
図示のように、従来例に係る密封構造においては、取付孔310を有する部材300と、取付孔310に取り付けられる取付部材250と、取付孔310と取付部材250との間の環状隙間を封止する環状かつ樹脂製のガスケット500とを備えている。ガスケット500は、取付部材250の外周面に形成される環状溝260に装着される。図5においては、取付部材250と、取付孔310と、ガスケット500との寸法関係を分かりやすくするために、それぞれの中心軸線を一致させた場合におけるガスケット500の断面の外形を点線にて示している。なお、密封構造が、上記の燃焼ガスシールとして適用された場合には、取付部材250がインジェクターに相当し、部材300がシリンダーヘッドに相当する。
【0005】
図示の技術においては、取付部材250の中心軸線を含む面で取付部材250を切断した場合の環状溝260の形状が、W字形状となるように構成されている。このような構成により、ガスケット500が環状溝260に装着された状態では、楔効果によって、ガスケット500による取付孔310の内周面に対する面圧を高くすることができ、密封性を高めることができる。
【0006】
この従来技術の場合には、使用初期の段階では、ガスケット500の幅方向(図中、左右方向)の中央付近の面圧が局所的に高く、優れた密封性が発揮される。しかしながら、ガスケット500には、長期に亘って使用されることで、徐々に形が変形するクリープ現象が生じる。図5中の矢印は、クリープが進む方向を示している。これにより、ガスケット500による取付孔310の内周面に対する面圧は、幅方向の両側の方が徐々に高くなり、面圧ピークは徐々に低下する。このように、経時的に、面圧ピークの位置が変化し、かつ面圧ピークが減少するため、密封性が不安定になってしまうことが懸念される。
【0007】
クリープ現象による密封性の低下を抑制するためには、環状溝260に対するガスケット500の充填率を高めればよい。上記の従来構造においては、ガスケット500の外径を大きくするほど、充填率を高めることができる。しかしながら、ガスケット500の外径を大きくすると組立性が低下してしまう。つまり、環状溝260にガスケット500を装着させた状態で、取付部材250を取付孔310に取り付ける必要があるが、ガスケット500の外径が大きいと、取付孔310の開口部の部分にガスケット500が引っ掛かってしまう。そのため、従来構造においては、ガスケット500の外径を大きくするのには限度があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2004-506135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、密封性の安定化を図ることのできる密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0011】
すなわち、本発明の密封構造は、
取付孔を有する部材と、
前記取付孔に取り付けられる取付部材と、
前記取付部材の外周面に形成される環状溝に装着されることで、前記取付孔と前記取付部材との間の環状隙間を封止する環状かつ樹脂製のガスケットと、
を備える密封構造であって、
前記ガスケットは、内周面と外周面が円柱面により構成され、両端が中心軸線に垂直な平面により構成され、かつ、外周面と両端は、端部に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面により繋がるように構成されると共に、
前記環状溝は、溝底面が幅方向の中央から幅方向両端に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面により構成され、両側面が中心軸線に垂直な平面により構成され、かつ、溝底面と両側面は湾曲面により繋がるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、環状溝の溝底面は、幅方向の中央から幅方向両端に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面により構成されているため、ガスケットが環状溝に装着された状態においては、楔効果によって、ガスケットによる取付孔の内周面への面圧を高めることができる。また、ガスケットの両端と、環状溝の両側面は、いずれも中心軸線に垂直な平面により構成されている。そのため、経時的にガスケットのクリープが進行しても、環状溝の両側面により、ガスケットの両端が押さえつけられるため、ガスケットによる取付孔の内周面への面圧の低下を抑制することができる。また、環状溝においては、溝底面と両側面は湾曲面により繋がるように構成されているため、ガスケットは無理なく変形するので、環状溝に対するガスケットの充填率を高めることができ、ガスケットによる取付孔の内周面への面圧を安定させることができる。更に、ガスケットにおいては、外周面と両端は、端部に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面により繋がるように構成されるため、ガスケットの外径を大きく設定しても、取付部材の取付孔への組立性の低下を抑制することができる。従って、ガスケットの外径を大きくすることで、環状溝に対するガスケットの充填率を高めることができる。
【0013】
前記取付部材の中心軸線を含む面で該取付部材を切断した場合の前記湾曲面の形状は、円弧または楕円弧形状であるとよい。
【0014】
前記ガスケットの内径をD11,前記ガスケットにおける外周面側に設けられた傾斜面における最も径の小さな部位の外径をD12,前記ガスケットの外径をD13とし、
前記溝底面のうち最も径の小さな部位の外径をD21,前記溝底面のうち最も径の大きな部位の外径をD22,前記取付部材における前記環状溝の両側の部位の外径をD23とし、
前記取付孔の内径をD30とすると、
D21<D11<D22<D12<D23<D30<D13
を満たすとよい。
【0015】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、密封性の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の実施例に係るガスケットの平面図である。
図2図2は本発明の実施例に係るガスケットの一部破断断面図である。
図3図3は本発明の実施例に係る取付部材の一部を示す側面図である。
図4図4は本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
図5図5は従来例に係る密封構造の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
(実施例)
図1図4を参照して、本発明の実施例に係る密封構造について説明する。図1は本発明の実施例に係るガスケットの平面図である。図2は本発明の実施例に係るガスケットの一部破断断面図である。なお、図2においては、図中、上側に、ガスケットの中心軸線を含む面でガスケットを切断した断面図を示している。図3は本発明の実施例に係る取付部材の一部を示す側面図である。なお、図3においては、取付部材と、取付孔と、ガスケットとの寸法関係を分かりやすくするために、それぞれの中心軸線を一致させた状態において、取付孔の位置と、ガスケットの断面の外形を点線で示している。ガスケットについては、外力が作用していない状態におけるガスケットの断面の外形を示している。図4は本発明の実施例に係る密封構造の模式的断面図である。
【0020】
<密封構造>
本実施例に係る密封構造全体の構成について、特に、図3及び図4を参照して説明する。本実施例に係る密封構造は、取付孔310を有する部材300と、取付孔310に取り付けられる取付部材200と、取付孔310と取付部材200との間の環状隙間を封止するガスケット100とを備える。なお、ガスケット100は、取付部材200の外周面に形成される環状溝210に装着される。密封構造の一例として、部材300がシリンダーヘッドで、取付部材200がインジェクターで、ガスケット100が燃焼ガスシールの場合を例に挙げることができる。
【0021】
<ガスケット>
特に、図1及び図2を参照して、本実施例に係るガスケット100について説明する。ガスケット100は、環状かつ樹脂製(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製)の部材により構成される。このガスケット100は、内周面110と外周面120が円柱面により構成され、両端131,132が中心軸線に垂直な平面により構成されている。また、ガスケット100は、外周面120と両端131,132は、端部に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面141,142により繋がるように構成されている。なお、本実施例においては、一対の傾斜面141,142は、テーパ面により構成されている。ただし、これらの傾斜面は、中心軸線を含む面でガスケットを切断した断面図において、湾曲線となるような傾斜面とすることもできる。
【0022】
<取付部材における環状溝>
特に、図3及び図4を参照して、取付部材200における環状溝210について説明する。本実施例に係る環状溝210の溝底面は、幅方向の中央から幅方向両端に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面211,212により構成されている。なお、本実施例においては、一対の傾斜面211,212は、テーパ面により構成されている。ただし、これらの傾斜面は、中心軸線を含む面で取付部材200を切断した断面図において、湾曲線となるような傾斜面とすることもできる。
【0023】
また、環状溝210の両側面221,222は、中心軸線に垂直な平面により構成されている。そして、溝底面(一対の傾斜面211,212)と両側面221,222は湾曲面231,232により繋がるように構成されている。なお、取付部材200の中心軸線を含む面で取付部材200を切断した場合の湾曲面231,232の形状は、円弧形状となっている。ただし、当該形状は、円弧形状ではなく、楕円弧形状にすることもできる。
【0024】
<各部の寸法関係>
特に、図3を参照して、ガスケット100と、取付部材200の環状溝210と、取付孔310との寸法関係について説明する。
【0025】
ガスケット100の内径をD11,ガスケット100における外周面側に設けられた傾斜面141,142における最も径の小さな部位の外径をD12,ガスケット100の外径をD13とする。そして、環状溝210の溝底面(一対の傾斜面211,212)のうち最も径の小さな部位の外径をD21,溝底面のうち最も径の大きな部位の外径をD22,取付部材200における環状溝210の両側の部位の外径をD23とする。また、取付孔310の内径をD30とする。
【0026】
すると、D21<D11<D22<D12<D23<D30<D13を満たすように、各部の寸法は設定されている。
【0027】
また、ガスケット100の幅をH10,環状溝210の溝幅をH20とすると、H20>H10を満たすように、それぞれの寸法は設定されている。なお、H10とH20については、ガスケット100が環状溝210に装着されて、取付部材200が取付孔310に取り付けられると、ガスケット100の両端131,132が環状溝210の両側面221,222に密着するように設定されている。
【0028】
<本実施例に係る密封構造の優れた点>
本実施例に係る密封構造によれば、取付部材200の環状溝210の溝底面は、幅方向の中央から幅方向両端に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面211,212により構成されている。そのため、ガスケット100が環状溝210に装着された状態においては、楔効果によって、ガスケット100による取付孔310の内周面への面圧を高めることができる。
【0029】
また、ガスケット100の両端131,132と、環状溝210の両側面221,222は、いずれも中心軸線に垂直な平面により構成されている。そのため、経時的にガスケット100のクリープが進行しても、環状溝210の両側面221,222により、ガスケット100の両端131,132が押さえつけられるため、ガスケット100による取付孔310の内周面への面圧の低下を抑制することができる。なお、図4中の矢印は、ガスケット100におけるクリープの進行方向を示している。
【0030】
また、環状溝210においては、溝底面(211,212)と両側面221,222は
湾曲面231,232により繋がるように構成されている。そのため、ガスケット100は無理なく変形するので、環状溝210に対するガスケット100の充填率を高めることができ、ガスケット100による取付孔310の内周面への面圧を安定させることができる。
【0031】
更に、ガスケット100においては、外周面120と両端131,132は、端部に向かうにつれて縮径する一対の傾斜面141,142により繋がるように構成されるため、ガスケット100の外径を大きく設定しても、取付部材200の取付孔310への組立性の低下を抑制することができる。すなわち、D12<D30を満たすようにすれば、D30<D13であっても、取付部材200を取付孔310に取り付ける際に、ガスケット100が取付孔310の開口部の周囲に引っ掛かってしまうことを抑制することができる。従って、ガスケット100の外径D13を大きくすることが可能となり、環状溝210に対するガスケット100の充填率を高めることができる。
【0032】
以上のように、本実施例に係る密封構造によれば、密封性の安定化を図ることができる。
【符号の説明】
【0033】
100 ガスケット
110 内周面
120 外周面
131,132 両端
141,142 傾斜面
200 取付部材
210 環状溝
211,212 傾斜面
221,222 両側面
231,232 湾曲面
300 部材
310 取付孔
図1
図2
図3
図4
図5