(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】車両の路面描画装置。
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/00 20060101AFI20231023BHJP
B60Q 1/50 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
B60Q1/00 G
B60Q1/50 Z
(21)【出願番号】P 2019189352
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2018202065
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕之
【審査官】的場 眞夢
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-007895(JP,A)
【文献】特開平03-144799(JP,A)
【文献】特開平10-320700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/00
B60Q 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、制御部の制御に基づいて車両の進行方向の路面に路面表示を光で描画する路面描画部を有する車両の路面描画装置において、
車両の走行車線の曲線形態を検出する車線形態検出部
と、車両の速度を検出する車速検出部を有し、
前紀制御部
は、車速に基づく制動距離と制動距離に基づく車両の停止可能位置を算出し、検出された走行車線の曲線形態に倣っ
て車両近傍から車両の停止可能位置まで伸びる形状の
衝突警告表示を走行車線内の路面に描画するように
前記路面描画部を制御することを特徴とする、車両の路面描画装置。
【請求項2】
車両の走行車線または走行車線近傍の路上障害物を検出する障害物検出部を有し、
前記制御部は、路上障害物の検出時にのみ衝突警告表示を路面に描画するように前記路面描画部を制御することを特徴とする、請求項1に記載の車両の路面描画装置。
【請求項3】
前記制御部が、障害物検出部による路上障害物の検出に基づいて路上障害物の位置を算出し、車両から路上障害物まで伸びる第2の衝突警告表示を路面に描画するように
前記路面描画部を制御することを特徴とする、請求項
2に記載の車両の路面描画装置。
【請求項4】
車両の制動距離の変化を検出する制動距離変化検出部を有し、
前記制御部は、検出された制動距離の変化に基づいて、車速から算出される制動距離と停止可能位置を補正し、車両から補正後の停止可能位置までの伸びる衝突警告表示を路面に描画するように
前記路面描画部を制御することを特徴とする、請求項1から
3のうちいずれかに記載の車両の路面描画装置。
【請求項5】
前記制動距離変化検出部は、路面の湿潤化を車両の制動距離の変化として検出する湿潤路面検出部であり、
前記制御部は、降雨の検出に基づき、車速から算出される制動距離をより長く補正することを特徴とする、請求項
4に記載の車両の路面描画装置。
【請求項6】
前記制動距離変化検出部は、車両の走行車線の勾配を車両の制動距離の変化として検出する道路勾配検出部であり、
前記制御部は、走行車線の登り勾配の検出に基づいて車速から算出される制動距離をより短く補正し、または走行車線の下り勾配の検出に基づいて車速から算出される制動距離をより長く補正することを特徴とする、請求項
4に記載の車両の路面描画装置。
【請求項7】
車両の走行中の道路が暗くなったことを検出する道路の明暗検出部を有し、
前記制御部は、道路が暗くなったことの検出に基づいて衝突警告表示を路面に描画するように前記路面描画部を制御することを特徴とする、請求項1から
6のうちいずれかに記載の車両の路面描画装置。
【請求項8】
前記路面描画部は、レーザー光によって路面に衝突警告表示を描画することを特徴とする、請求項1から
7のうちいずれかに記載の車両の路面描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
路上障害物との衝突を警告するための表示を路面に描画する車両の路面描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車速に応じた制動距離を算出し、車両から車両の制動距離分前方の停止可能位置まで伸びる路面表示を車両前方の走行車線の路面に描画し、停止可能位置の手前に存在する前走車や歩行者等の路上障害物に対する衝突の危険性をドライバーに認識させる車両の路面描画装置が
図5と
図8に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車両の路面描画装置は、車両の前方路面に直線状の路面表示を描画するため、曲線道路にマークを描画すると、走行車線からはみ出すことによってドライバーに走行車線の危険性を認識させることが出来ない点で問題がある。
【0005】
本願発明は、上記問題に鑑みて、曲線道路のような多様な形状を有する道路を走行中の車両のドライバーに走行車線の危険性を認識させる車両の路面描画装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
車両に搭載され、制御部の制御に基づいて車両の進行方向の路面に路面表示を光で描画する路面描画部を有する車両の路面描画装置において、
車両の走行車線の曲線形態を検出する車線形態検出部を有し、
前紀制御部が、検出された走行車線の曲線形態に倣った形状の路面表示を走行車線内の路面に描画するように路面描画部を制御するようにした。
【0007】
(作用)路面表示が、走行車線の内側で曲線形態を有する走行車線に沿って表示される。
【0008】
また、車両の路面描画装置において、車両の速度を検出する車速検出部を有し、前記警告表示は、車両の停止位置を示す衝突警告表示であり、前記制御部は、車速に基づく制動距離と制動距離に基づく車両の停止可能位置を算出し、走行車線の曲線形態に倣って車両近傍から車両の停止可能位置まで伸びる前記衝突警告表示を路面に描画するように路面描画部を制御することが望ましい。
【0009】
(作用)衝突警告表示が、走行車線の内側で曲線形態を有する走行車線に沿って車両近傍から曲線道路上における車両の停止可能位置まで描画される。
【0010】
また、車両の路面描画装置において、車両の走行車線または走行車線近傍の路上障害物を検出する障害物検出部を有し、前記制御部は、路上障害物の検出時にのみ衝突警告表示を路面に描画するように路面描画部を制御することが望ましい。
【0011】
(作用)衝突警告表示が、路上障害物の検出時にのみ路面に描画され、路上障害物の非検出時に路面に描画されない。
【0012】
また、車両の路面描画装置において、前記制御部が、障害物検出部による路上障害物の検出に基づいて路上障害物の位置を算出し、車両から路上障害物まで伸びる第2の衝突警告表示を路面に描画するように路面描画部を制御することが望ましい。
【0013】
(作用)車両近辺の路上障害物を検出した際に第2の衝突警告表示が、車両から検出された路上障害物まで伸びるように描画される。
【0014】
また、車両の路面描画装置において、車両の制動距離の変化を検出する制動距離変化検出部を有し、前記制御部は、検出された制動距離の変化に基づいて、車速から算出される制動距離と停止可能位置を補正し、車両から補正後の停止可能位置までの伸びる衝突警告表示を路面に描画するように路面描画部を制御することが望ましい。
【0015】
(作用)検出された車両の停止可能位置の変化に基づき、車両から停止可能位置まで伸びるように走行車線内に描画された衝突警告表示の車線に沿った方向の長さが変化する。
【0016】
また、車両の路面描画装置において、前記制動距離変化検出部は、降雨や降雪、路面凍結等に基づく水分によって路面が滑りやすくなる路面の湿潤化を車両の制動距離の変化として検出する湿潤路面検出部であり、前記制御部は、降雨の検出に基づき、車速から算出される制動距離をより長く補正することが望ましい。
【0017】
(作用)降雨や降雪、路面凍結等に基づく路面の湿潤化によって生じる制動距離の増加に基づき、車両から停止可能位置まで伸びるように走行車線内に描画された衝突警告表示の車線に沿った方向の長さが長くなる。
【0018】
また、車両の路面描画装置において、前記制動距離変化検出部は、車両の走行車線の勾配を車両の制動距離の変化として検出する道路勾配検出部であり、前記制御部は、走行車線の登り勾配の検出に基づいて車速から算出される制動距離をより短く補正し、または走行車線の下り勾配の検出に基づいて車速から算出される制動距離をより長く補正することが望ましい。
【0019】
(作用)車両の走行車線が上り勾配であって制動距離の減少が生じた場合において、車両から停止可能位置まで伸びるように走行車線内に描画された衝突警告表示の車線に沿った方向の長さがより短くなり、車両の走行車線が下り勾配であって制動距離の増加が生じた場合において、衝突警告表示の車線に沿った方向の長さがより長くなる。
【0020】
また、車両の路面描画装置において、車両の走行中の道路が暗くなったことを検出する道路の明暗検出部を有し、前記制御部は、道路が暗くなったことの検出に基づいて衝突警告表示を路面に描画するように路面描画部を制御することを特徴とすることが望ましい。
【0021】
(作用)衝突警告表示が、道路が暗くなった際にのみ路面に描画され、道路が明るい場合において路面に描画されない。
【0022】
また、車両の路面描画装置において、前記路面描画部は、レーザー光によって路面に衝突警告表示を描画することが望ましい。
【0023】
(作用)車両周辺が明るい昼間走行時などにおいて、衝突警告を含む路面表示が、レーザー光によって明確に描画される。
【発明の効果】
【0024】
車両の路面描画装置によれば、路面表示が曲線形状の走行車線からはみ出すことなく走行車線上に描画されることでドライバーに走行車線上の危険性を認識させることが出来る。
【0025】
車両の路面描画装置によれば、曲線形状を有する走行車線上における車両の停止可能位置まで衝突警告表示が描画されることにより、走行車線に描画された衝突警告表示上に存在する前走車や歩行者等の路上障害物について、曲線道路に対するハンドル操作に集中する車両のドライバーに対し、車両のドライバーに衝突の危険性があるものと認識させることが出来る。
【0026】
車両の路面描画装置によれば、曲線道路に対するハンドル操作に集中する車両のドライバーに対し、衝突警告表示の点灯そのものによって路上障害物の検出を認識させることにより、路上障害物に対するより正確な注意喚起をドライバーに対して行うことが出来る。
【0027】
車両の路面描画装置によれば、曲線道路に対するハンドル操作に集中する車両のドライバーに車両と検出された路上障害物との位置関係を認識させることにより、路上障害物に対するより正確な注意喚起をドライバーに対して行うことが出来る。
【0028】
車両の路面描画装置によれば、路面状況の変化等に伴う車両の停止可能位置の変化に基づいて、衝突警告表示の先端部によって表される車両停止可能位置も前後に変化するため、停止可能位置の変化を車両のドライバーに正確に認識させることで、路上障害物に対するより正確な注意喚起をドライバーに対して行うことが出来る。
【0029】
車両の路面描画装置によれば、降雨や降雪等に基づく路面の湿潤化による制動距離の増加に基づいて、衝突警告表示の先端部によって表される車両停止可能位置も車両からより遠くなるため、停止距離の増加を車両のドライバーに正確に認識させることで、路上障害物に対するより正確な注意喚起をドライバーに対して行うことが出来る。
【0030】
車両の路面描画装置によれば、登り勾配を走行する際の車両の制動距離の減少に基づいて、衝突警告表示の先端部によって表される車両停止可能位置が車両かにより近くなり、下り勾配を走行する際の車両の制動距離の増加に基づいて、衝突警告表示の先端部によって表される車両停止可能位置が車両からより遠くなるため、曲線道路に対するハンドル操作に集中するドライバーに車両の停止距離の増減を正確に認識させることで、路上障害物に対するより正確な注意喚起をドライバーに対して行うことが出来る。
【0031】
車両の路面描画装置によれば、曲線道路に対するハンドル操作に集中すべき車両のドライバーに対し、視野が狭くなる夜間走行時やトンネル走行時等の車両周辺が暗くなったときに衝突警告を含む路面表示を路面に描画して、路上障害物に対するより正確な注意喚起をドライバーに対して行うことが出来る。
【0032】
車両の路面描画装置によれば、車両周辺が明るく、光が見にくい状況であっても衝突警告を含む路面表示をレーザー光によって路面に明確に描画して、路上障害物に対するより正確な注意喚起をドライバーに対して行うことが出来る(。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本願発明の実施形態に係る車両の路面描画装置のブロック図。
【
図1A】
図1の路面描画装置の変形例を含む路面描画システムを示すブロック図。
【
図3】路面描画装置を含む車両用灯具に関する
図2のI-I断面図。
【
図4】路面描画部の光偏向装置に関する図であり、(a)図は、
図3のII-II断面図であり、(b)図は、(a)図のIII-III断面図である。
【
図5】曲線道路の走行車線内に車両から衝突警告表示を描画する第1実施例の説明図。
【
図6】湿潤路面状態における曲線道路の走行車線内に車両から衝突警告表示を描画する第2実施例の説明図。
【
図7】勾配のある道路の路面に車両から衝突警告表示を描画する第3実施例の説明図であって、(a)図は、登り勾配の路面を示す図であり、(b)図は、勾配0の路面を示す図であり、(c)図は、下り勾配の路面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の好適な実施形態を
図1から
図4に基づいて説明する。各図においては、路面描画装置を含む車両用灯具の各部や路面描画装置の搭載車両のドライバーから見た道路の方向を(上方:下方:左方:右方:前方:後方=Up:Lo:Le:Ri:Fr:Re)として説明する。
【0035】
図2に示す車両Cの左右一対の車両用前照灯1には、車両前方の路面に光を照射して所定形態の図形や文字等の路面表示を描画する、
図1に示す路面描画装置3を含む路面描画用灯具2がそれぞれ搭載されている。左右一対の路面描画用灯具2は、重複光による合成路面表示、照射範囲を分担した分割表示の組み合わせからなる合成路面表示または分離された照射光による独立路面表示を路面に描画する。尚、路面描画装置3は、左右の車両用前照灯1のうち一方を省略しても良く、車体外部の中央等のいずれかの場所に搭載しても良い。
【0036】
図1に示す路面描画装置3は、CPUなどの演算制御装置によって構成される制御部5,路面描画部6,撮影部7、カーナビゲーションシステム8,道路情報通信システム9、車速センサー10,レーダーセンサー11、レインセンサー12,路面センサー13、ワイパーセンサー14,傾斜角センサー15、前照灯センサー16a及び照度センサー16bのうちいずれかまたは全部を含んでもよい。
また、
図1Aは、
図1に示す車両の路面描画装置3の変形例である3’を含む車両の路面描画システム33を示すものである。
図1Aの車両の路面描画システム33は、自動運転装置の搭載車両等に利用されるシステムであり、
図1の路面描画装置3のうち、車両(図示せず)に搭載された制御部5及び路面描画部6(図示せず)を含む路面描画装置3’と、
図1の路面描画装置3のうち、制御部5及び路面描画部6を除いた撮影部7、カーナビゲーションシステム8,道路情報通信システム9、車速センサー10,レーダーセンサー11、レインセンサー12,路面センサー13、ワイパーセンサー14,傾斜角センサー15、前照灯センサー16a及び照度センサー16bによって構成される。
図1Aの撮影部7、カーナビゲーションシステム8,道路情報通信システム9、車速センサー10,レーダーセンサー11、レインセンサー12,路面センサー13、ワイパーセンサー14,傾斜角センサー15、前照灯センサー16a及び照度センサー16bは、車両外に設置されて(後述する道路監視カメラ7bを除いては車両内に設置されても良い)、車両に搭載された路面描画装置3’の制御部5にそれぞれ接続される。
図1Aに示す路面描画システム33によれば、路面描画に用いる制御部5及び路面描画部6を含む路面描画装置3’のみを車両(図示せず)に搭載し、その他の構成、即ち撮影部7から照度センサー16bのいずれかまたは全部を車両外に設置されることにより、予め車両に搭載されている既存の車速センサー等のセンサー類やカーナビゲーションシステム等に対して、路面描画装置3’を除いた足りない構成を追加(後付け)することによるシステム構築が可能になる。また、路面描画システム33によれば、路面描画装置3’以外の構成を車両外に設置し、路面描画装置3’を搭載する複数の車両を1つの路面描画システム33で制御することで、路面描画装置の簡素化を図ることが出来る。
【0037】
図1及び
図1Aの制御部5は、撮影部7、カーナビゲーションシステム8,道路情報通信システム9、車速センサー10,レーダーセンサー11、レインセンサー12,路面センサー13、ワイパーセンサー14,傾斜角センサー15、前照灯センサー16a及び照度センサー16bによる検出結果に基づいて路面描画部6を制御し、車両Cの走行車線の路面に衝突警告表示27などの所定形態の路面表示を描画させる。
【0038】
図1、
図1A及び
図3によって路面描画部6を説明する。路面描画部6は、光源18と光偏向装置19を有し、路面描画ユニット17の一部を構成する。路面描画ユニット17は、ユニット本体17aに光源18、光偏向装置19、リフレクタ等の反射光学部材20、平凸レンズ等の投影光学部材21及び光吸収部材22を設けることで構成される。また、路面描画ユニット17は、車両前方に開口部を有するランプボディ2aと、開口部を閉塞する透明または半透明の前面カバー2bの内側に形成される灯室S内に配置されて路面描画用灯具2を構成する。路面描画ユニット17は、
図3に示すようにランプボディ2aの内側に水平回動可能に保持され、モーター23などによって中心軸線L1周りに揺動するように構成される。路面描画ユニット17は、
図1及び
図1Aの制御部5に制御されて左右に傾動し、路面への路面描画表示の照射方向を車両C前方または斜め前方(リヤコンビネーションランプ4の路面描画ユニット17においては、後方または斜め前方)のいずれか切り換える。
【0039】
光源18は、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、EL(Electro Luminescence)素子などの半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電等(ディスチャージランプ)等を用いることができ、照度が高く白昼においても路面上に視認性の高い表示を描画出来る点でLD素子を用いることが特に望ましい。光源18は、例えば、前方への光は白色、黄色等を発生照射するようにし、後方には、赤色等の色の光を照射するようにする。
【0040】
反射光学部材20は、光源18の光を光偏向装置19に反射する。光偏向装置19は、投影光学部材21の光軸上に配置され、反射光学部材20による反射光を選択的に投影光学部材21へ再反射して、路面描画用灯具2の外に出射する。車両用前照灯1の路面描画用灯具2を出射した光は、路面描画ユニット17の水平揺動に基づいて車両Cの前方から斜め前方の範囲に後述する形態の路面表示を描画する。
【0041】
図1、
図1A、
図3、
図4に示す本実施形態における光偏向装置19には、マイクロミラーデバイスの1つであるDMD(Digital Mirror Device)が用いられている。
図4(a)に示すように、光偏向装置19は、表面に反射面24aを有する複数の微小なミラー素子24がマトリックス状に配置されたマイクロミラーアレイ25を備える。光偏向装置19は、ミラー素子24の反射面24aの光出射側に配置された透明なカバー材26を有する。
【0042】
マイクロミラーアレイ25の各ミラー素子24は、光源18から出射された光を所望の配光パターンとして利用されるように投影光学部材21へ向けて発射するON状態(
図4(b)に示す実線位置)と、光源18から出射された光を有効に利用しないように光吸収部材22に反射するOFF状態(
図4(b)に示す破線位置)とに切り替え可能に構成されており、具体的には、各ミラー素子24は、回動軸を中心に、ON状態とOFF状態とを回動切り替え可能に構成されている。各ミラー素子24は、出射した光の一部を投影光学部材21に出射し、それ以外の光を有効に利用されないように光吸収部材22に反射する。マイクロミラーアレイ25は、マトリックス状に配置された多数のミラー素子24のオン/オフ状態を独立に制御することで、所望の投影画像による配光パターン等を得ることができる。
【0043】
また、
図4各図に示すマイクロミラーアレイ25は、各ミラー素子24のオン/オフの切り替えを高速で行った際のONの時間比率調整により、光の明暗の段階表現を行い、白色光の反射光をモノクロで表現する。また、各ミラー素子24の反射光を所望の色に表現する場合には、光源18に赤色、緑色、青色等の三色以上の光源ユニットを用いて、時分割で光偏向装置19へ照射すると共に、1秒間に数千回の割合でミラー素子オン/オフを切り替えて、人間の目の錯覚(残像効果)を起こすことによって反射光を見た人間に混合光として認識させる。その結果、微小なミラー素子24は、所定の明暗を有する多彩な色を表現し、光偏向装置19は、独立して制御される多数のミラー素子24によって所定の明るさと色を有しつつマトリックス状に出射する光点の集合によって所望の形態のマーク、即ち衝突警告表示等を路面に描画することができる。
【0044】
尚、光偏向装置19には、DMDの代わりに、高速で二次元方向に揺動可能な反射鏡によって光源からの光を反射し、反射光を二次元方向に高速で走査して所望の形態のマークを路面に描画する走査機構を採用してもよく、回転型スキャナ、ガルバノスキャナ、レゾナントスキャナ、光MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スキャナまたはポリゴンミラー等を幅広く採用出来る。
【0045】
図1及び
図1Aに示す車両の路面描画装置3の撮影部7は、
図1に示すように車載カメラ7a、道路監視カメラ7b及び画像処理装置7cによって構成され、車両Cの周辺を撮影した画像から車両Cが走行する走行車線の形態を検出する車線形態検出部として機能し、または、走行車線上や走行車線近傍の路上障害物の有無と車両Cからの位置を検出する障害物検出部として機能する。
【0046】
車載カメラ7aは、
図2に示されるように車両Cの前方周辺を撮影出来るように左右の車両用前照灯1のいずれかに内蔵(本実施形態では右用に内蔵)され、または車体の天井の上面、ボンネット、ドアミラー等や車両Cの周辺を撮影出来る位置に搭載されて、搭載された車両Cの周辺を撮影する。道路監視カメラ7bは、道路に設置されて接近した車両Cの周辺を撮影する。画像処理装置7cは、車両Cに搭載され、車載カメラ7aによる撮影画像または通信回線を介して送信される道路監視カメラ7bによる撮影画像を画像解析することによって車両Cの走行車線の形態及び路上障害物の有無と位置を検出し、検出結果を制御部5に出力する。
【0047】
撮影部7によって検出される走行車線の形態には、直線道路、曲線道路、曲がり角、交差点、T字路等があり、路上障害物には、車両Cの走行車線上や走行車線近辺の通行人、対向車線や交差道路を走る他の車両、及び、走行車線上の落下物等がある。
【0048】
カーナビゲーションシステム8及び道路情報通信システム9は、自己が保有し、または通信回線を介して送信される道路の形態、降雨、降雪、路面凍結等に関する道路情報と、GNSS(Global Navigation Satellite Systemの略)やGPS(登録商標:Global Positioning Systemの略)等の衛星測位システムによって得られる自車の位置情報から、車両Cが走行する走行車線の形態を検出する車線形態検出部、自車の位置情報の変化から車両Cの車速を検出する車速検出部、降雨、降雪、路面凍結等の道路情報から車両Cが走行する道路の湿潤の有無を検出する湿潤路面検出部、道路情報から車両Cが走行する道路の勾配を検出する道路勾配検出部として機能し、検出結果を制御部5に出力する。
【0049】
図1及び
図1Aの車速センサー10は、車両Cの速度を検出して制御部5に出力する速度検出部として機能する。
【0050】
図1及び
図1Aのレーダーセンサー11は、マイクロ波レーダーセンサーやミリ波レーダーセンサー等であり、車両Cが走行する道路の走行車線上や走行車線近傍の路上障害物の有無と車両Cからの位置を検出する障害物検出部として機能し、検出結果を制御部5に出力する。
【0051】
図1及び
図1Aのレインセンサー12は、車両Cに搭載されて、フロントガラスや車体に接触する雨滴や雪の存在を検出する雨滴センサー等であって、車体Cにおける雨滴や雪の検出を走行車線の路面に湿潤があるものとして制御部5に出力する湿潤路面検出部として機能する。
【0052】
図1及び
図1Aの路面センサー13は、車両Cに搭載されて、路面に照射した赤外線レーザー波等の反射を解析して降雨などによる路面上の水、雪、凍結による氷を検出するセンサーであって、路面上の水、雪、氷の検出を走行車線の路面に湿潤があるものとして制御部5に出力する湿潤路面検出部として機能する。
【0053】
図1及び
図1Aのワイパーセンサー14は、車両Cのワイパーのオンとオフとの切り替えを検出するセンサーであって、手動または自動によるワイパーのオフからオンへの切替検出を走行車線の路面に湿潤があるものとして制御部5に出力する湿潤路面検出部として機能する。
【0054】
図1及び
図1Aの傾斜角センサー15は、搭載された車両Cの傾斜を検出するセンサーであって、道路上における水平方向からの車両Cの傾斜角によって走行中の道路の上り勾配や下り勾配を検出する道路勾配検出部として機能する。本実施形態においては、一例として、車両Cが水平状態にあるときの角度を基準角0°とし、車両Cの前端が運転席よりも上に位置する登り方向に傾斜した際の傾斜角をプラス角とし、車両Cの前端が運転席よりも下に位置する下り方向に傾斜した際の傾斜角をマイナス角とした場合、傾斜角センサー15は、車両Cに関するプラス角の検出を走行中の道路の登り勾配として検出し、マイナス角の検出を走行中の道路の下り勾配として検出し、制御部5に出力する。
【0055】
図1及び
図1Aの前照灯センサー16aは、車両Cに搭載されて、車両用前照灯1の点灯及び消灯の切り替えを検出するセンサーであって、手動または自動による車両Cの車両用前照灯1の消灯から点灯への切替を検出した際に走行中の道路が暗くなったものとして制御部5に出力する明暗検出部として機能する。また、照度センサー16bは、車両Cに搭載されて、車両Cまたはその周辺道路等に照射された光の明るさを検出するセンサーであって、照射光が一定の明るさを下回った際に走行中の道路が暗くなったものとして制御部5に出力する明暗検出部として機能する。
【0056】
本実施形態における路面描画部6を含む路面描画用灯具2は、一例として
図2に示すように車両Cの前方の路面に帯状に伸びる衝突警告表示27を描画する。衝突警告表示27は、撮影部7,カーナビゲーションシステム8,または道路情報通信システム9のいずれかによって構成される車線形態検出部によって検出される車両Cが走行中の走行車線の形態に基づき、車両Cが走行中の曲線形態等を有する走行車線の内側に走行車線に沿って車両Cから曲線道路上における停止可能位置まで描画される。また、上述した湿潤路面検出部及び道路勾配検出部は、車両の制動距離の変化を検出する制動距離変化検出部として機能する。
【0057】
次に
図5により、曲線道路28を走行中の車両Cにおける衝突警告表示に関する第1実施例を説明する。まず、曲線道路28の走行車線28a上を走行中の車両Cにおいて、
図1及び
図1Aに示す路面描画装置3の撮影部7の車載カメラ7aや道路監視カメラ7bが、曲線道路28の全体,曲線道路28の近傍の歩行者29,走行車線28aに交差する交差道路31へ対向車線28b上から右折しようとする対向車30を撮影し、撮影画像を画像処理装置7cによって画像処理して制御部5へ出力する。または、カーナビゲーションシステム8や道路情報通信システム9は、車両Cの位置情報と走行中の道路情報を制御部5に出力する。
【0058】
図1及び
図1Aに示す路面描画装置3の制御部5は、撮影部7の撮影データを画像解析して車両Cの前方の走行車線28aの左側のレーンマーク28cと右側の中央分離帯28dに関する位置、曲率、長さなどを算出して車両Cの前方の走行車線28aの形態と位置を取得する。または、制御部5は、カーナビゲーションシステム8や道路情報通信システム9から受けた車両Cの位置情報と走行中の道路情報から走行車線28aの形態及び位置情報を取得する。
【0059】
一方、制御部5は、車速センサー10、カーナビゲーションシステム8または撮影部7による周辺画像の解析から得られる走行中の車両Cの速度情報に基づいて車両Cの制動距離を算出し、当該制動距離に基づいて車両Cの前方の停止可能位置を算出する。
【0060】
図1及び
図1Aの制御部5は、取得した走行車線28aの形態及び位置情報と、算出した車両Cの停止可能位置に基づき、
図5に示すように走行車線28aのレーンマーク28cと中央分離帯28dの内側の路面に曲線かつ帯状の衝突警告表示27を描画するように路面描画部6を制御する。曲線かつ帯状の衝突警告表示27は、レーンマーク28cに倣った曲線状の左縁部27aと、中央分離帯28dに倣った曲線状の右縁部27bと、車両Cが停止するようにブレーキをかけられた際の停止可能位置を示す先端の前縁部27cと、車両Cの前方における近傍位置を示す後縁部27dを有し、走行車線28aからはみ出ないように描画される。また曲線かつ帯状の衝突警告表示27は、車両Cの前方における近傍位置を示す後縁部27dから停止可能位置を示す前縁部27cまで走行車線28aの中央部分に沿った長さL1を有するように描画される。
【0061】
また、
図1及び
図1Aの制御部5は、車速検出部によって検出される走行中の車両Cの車速の変化に基づいて制動距離と停止可能位置を再算出し、衝突警告表示27の前縁部27cの位置を前後に変化させる。例えば、長さL1の衝突警告表示27を描画する車両Cが増速した場合、車両Cの制動距離が伸びて停止可能位置が車両Cから遠ざかるため、制御部5は、停止可能位置の変化に基づいて衝突警告表示27の後縁部27dからの長さをL1からL3に引き延ばし、前縁部27cを27c2の位置まで前進させる。一方、長さL1の衝突警告表示27を描画する車両Cが減速した場合、車両Cの制動距離が短くなって停止可能位置が車両Cに近づくため、制御部5は、停止可能位置の変化に基づいて衝突警告表示27の後縁部27dからの長さをL1からL2に短くし、前縁部27cを27c1の位置まで後退させる。
【0062】
車両Cのドライバーは、衝突警告表示27を視認することにより、現在の車速において停止可能位置を示す前縁部27cより手前の位置で歩行者等が走行車線28a上に侵入すると、減速しても間に合わずに衝突してしまうことを警告される。従って、車両Cのドライバーは、
図5の交差道路31に衝突警告表示27の前縁部27cがかからないように減速を促されることにより、交差道路近傍で道を横切ろうとする歩行者29や右折待ちをする対向車30に対する衝突のおそれを回避出来る。
【0063】
尚、
図1及び
図1Aの制御部5は、撮影部7による画像解析やレーダーセンサー11によって走行車線28a近傍の歩行者29、対向車30等の路上障害物を検出したことに基づいて、路面描画部6に衝突警告表示27を描画させるように制御することも出来る。このようにすることで、車両Cのドライバーは、路上障害物の検出時にのみ衝突警告表示27が発せられることで、路上障害物が現実に近づいていることを認識してより慎重な運転を促される。
【0064】
更に、
図1及び
図1Aの制御部5は、撮影部7やレーダーセンサー11を介して歩行者29や対向車30等の路上障害物の存在と位置を検出した場合、
図5に示すように車両Cの近傍から検出した歩行者29、対向車30、その他の図示しない路上障害物の近傍までそれぞれ伸びる第2の衝突警告表示32a、32bを路面に描画することが望ましい。このようにすることで、車両Cのドライバーは、歩行者や路上障害物の具体的な位置を予め認識することが出来るため、停止可能位置を示す衝突警告表示27の前縁部27cを検出された歩行者や対向車の位置から遠ざけるように減速を促され、これらとの衝突のおそれを回避出来る。
【0065】
尚、
図6は、降雨等による水、雪、路面凍結による氷等によって走行中の曲線道路が湿潤化した曲線道路28を走行中の車両Cにおける衝突警告表示に関する第2実施例を示す。
図1のレインセンサー12、路面センサー13、ワイパーセンサー14、車両Cの現在位置における雨雲レーダー情報を取得するカーナビゲーションシステム8や道路情報通信システム9によって車両Cの現在位置における曲線道路28の走行車線28aの湿潤化が検出された場合、制御部5は、車両Cの制動可能距離が長くなることに基づいて、停止可能位置を再算出し、衝突警告表示27の後縁部27dからの長さをL1からL1‘まで引き延ばし、停止可能位置を示す前縁部27cを27c3の位置まで前進させるように路面描画部6を制御し、車両Cのドライバーに晴天時よりも速い減速を促すことによって路上障害物との衝突のおそれを回避させる。
【0066】
また、
図7の各図は、登り勾配や下り勾配を有する曲線道路を走行中の車両Cにおける衝突警告表示に関する第3実施例を示す。
図7の各図においては、上下の勾配を説明する便宜上、側面から見た図としているために、車両Cが直線道路を走行しているように記載しているが、実際は曲線道路を走行している。
【0067】
図1及び
図1Aの制御部5は、傾斜角センサー15によって検出される車両Cの傾斜角が0°を示し、またはカーナビゲーションシステム8、道路情報通信システム9によって取得される車両Cの現在位置における曲線道路28が平坦であることを示した場合、車速検出部によって算出される車両の停止可能位置に基づいて、
図7(b)に示すように車両の近傍を示す後縁部27dからの車両の停止位置を示す前縁部27cまでの長さがL1となる衝突警告表示27を曲線道路28の走行車線28aの内側に表示する。
【0068】
一方で、
図1及び
図1Aの制御部5は、傾斜角センサー15によって検出される車両Cの傾斜角がプラス角を示し、またはカーナビゲーションシステム8、道路情報通信システム9によって取得される車両Cの現在位置における曲線道路28の道路情報が登り勾配であることを示した場合、制動距離がより短くなることに基づいて車両の停止可能位置を再算出し、
図7(a)に示すように衝突警告表示27の後縁部27dからの長さをL1からLa1に短くし、前縁部27cを27c4の位置まで後退させる。
【0069】
また、制御部5は、傾斜角センサー15によって検出される車両Cの傾斜角がマイナス角を示し、またはカーナビゲーションシステム8、道路情報通信システム9によって取得される車両Cの現在位置における曲線道路28の道路情報が下り勾配であることを示した場合、制動距離がより長くなることに基づいて車両の停止可能位置を再算出し、
図7(c)に示すように衝突警告表示27の後縁部27dからの長さをL1からLabまで長くし、前縁部27cを27c5の位置まで前進させる。このようにすることで、車両Cのドライバーは、勾配に基づいて変化する曲線道路28における停止可能位置を正確に理解することにより、特に下り勾配の道路を走行中に水平な道路や上り勾配の道路を走行しているときよりも速い減速を促すことによって路上障害物との衝突のおそれを回避させる。
【符号の説明】
【0070】
3、3’ 路面描画装置
5 制御部
6 路面描画部
7 撮影部
7a 車載カメラ(車線形態検出部及び障害物検出部)
7b 道路監視カメラ
7c 画像処理装置
8 カーナビゲーションシステム(車線形態検出部等)
9 道路情報通信システム(車線形態検出部等)
10 車速センサー(車速検出部)
11 レーダーセンサー(障害物検出部)
12 レインセンサー(湿潤路面検出部)
13 路面センサー(湿潤路面検出部)
14 ワイパーセンサー(湿潤路面検出部)
15 傾斜角センサー(道路勾配検出部)
16a 前照灯センサー(明暗検出部)
16b 照度センサー(明暗検出部)
27 衝突警告表示
27c 停止可能地位を示す前縁部
28a 曲線道路の走行車線
29 歩行者(路上障害物)
30 対向車(路上障害物)
32a、32b 第2の衝突警告表示。
C 路面描画装置の搭載車両