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  • 特許-硬化性組成物及びその硬化膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】硬化性組成物及びその硬化膜
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/14 20060101AFI20231023BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20231023BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20231023BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231023BHJP
   C08G 18/67 20060101ALN20231023BHJP
   C08G 18/80 20060101ALN20231023BHJP
   C08G 18/08 20060101ALN20231023BHJP
   C09D 175/04 20060101ALN20231023BHJP
   C09D 4/02 20060101ALN20231023BHJP
【FI】
B29C51/14
B32B27/40
C08J5/00 CFF
C08J5/18
C08G18/67 005
C08G18/80
C08G18/08 038
C09D175/04
C09D4/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019217650
(22)【出願日】2019-11-30
(65)【公開番号】P2021085032
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】小野 真司
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/021283(WO,A1)
【文献】特開平4-33816(JP,A)
【文献】特開2004-131587(JP,A)
【文献】特開2017-193694(JP,A)
【文献】特開2015-067698(JP,A)
【文献】特開2007-155749(JP,A)
【文献】特開昭57-000139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/14
B32B 27/40
C08J 5/00
C08J 5/18
C08G 18/67
C08G 18/80
C08G 18/08
C09D 175/04
C09D 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部が硬化膜で被覆されている物品を製造する方法であって、
(1)(A)(メタ)アクリロイル基を有するポリオール、(B)ブロックイソシアネート化合物及び(C)ラジカル重合開始剤を含み、前記(A)成分は(メタ)アクリロイル当量350~600g/mol及び水酸基価80~250mgKOH/gであり、前記(B)成分のイソシアネート基と(A)成分の水酸基とのモル比が1:0.5~1.5である硬化性組成物の塗膜を基材表面の少なくとも一部に形成する工程、
(2)前記組成物を光重合させることによって硬化膜前駆体及び基材を含む積層体を得る工程、
(3)前記積層体を成形しながら前記硬化膜前駆体を熱重合させることによって硬化膜を有する成形体を得る工程、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項2】
成形する方法が、真空成形、圧空成形又はプレス成形である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
熱重合を120~180℃の範囲内で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
基材がプラスチックスである、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な硬化性組成物及びその硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装材及び外装材、電子機器、家電製品等のハウジング等に用いられる成形品は、その表面に耐薬品性及び耐擦傷性を備えていることが望ましい。このため、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の各種プラスチック成形品においては、耐薬品性及び耐擦傷性を付与するために、従来では成形体表面に保護層を形成するためにコーティング処理等が施されている。ここで、本発明において、耐薬品性とは、特に、化粧品が成形品に付着することにより成形品表面が白化する現象を抑制できる性能であり、耐化粧品性ともいう。
【0003】
ところが、成形体表面にコーティング処理を施す方法では、例えば形状が複雑な成形体ではコーティングが難しい部位があるほか、コーティングが十分に行えない箇所が生じるおそれがある。このため、最近では、成形前の材料(例えばシート状材料)に予め保護層を形成した後、これを成形する方法が提案されている。このような方法をとることによって、成形体の隅々まで保護層が形成された成形体を得ることができる。
【0004】
このような方法としては、例えば、フリル基を含む化合物(A)と、重合性化合物(B)と、重合開始剤(C)とを含んでなる加飾シート用組成物を基材に塗布する第一の工程と、活性エネルギー線を照射することにより硬化する第二の工程と、成形加工する第三の工程、とを含む成形加工品の製造方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-193694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの従来の方法では、なお改善の余地がある。すなわち、基材表面に保護層としての硬化膜が形成されたシート状物を金型に密着させることにより、所定の形状の成形体を製造する場合、成形不良が生じるおそれがある。
【0007】
例えば、図1に示すように、基材10a及び硬化膜10bを積層してなるシート状物10に金型20を矢印方向に密着させて容器形状に成形する際(図1A)に、シート状物10全体が延伸されることになる(図1B)が、延伸の度合いに違いが生じる。図1のような場合では、図1Bに示すようにA領域が最も延伸される領域(最延伸領域)となる。この場合、従来の保護層付きシート状物では、特に最延伸領域が延伸に耐えられず、保護層表面等にクラックが発生する場合がある。保護層表面にクラックが生じると、耐薬品性、耐擦傷性等に影響を及ぼすおそれが生じ、保護層としての役割が十分に果たせなくなるおそれがある。
【0008】
従って、本発明の主な目的は、良好な耐薬品性及び耐擦傷性を有しつつも、より優れた成形性を有する硬化膜を与えることができる硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成からなる組成物を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の硬化性組成物及びその硬化膜に係る。
1. (A)(メタ)アクリロイル基を有するポリオール、(B)ブロックイソシアネート化合物及び(C)ラジカル重合開始剤を含むことを特徴とする硬化性組成物。
2. 前記ポリオールの(メタ)アクリル当量が200g/mol以上である、請求項1に記載の組成物。
3. 前記ポリオールの水酸基価が80mgKOH/g以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
4. 請求項1~3のいずれかに記載の組成物を光重合反応及び熱重合反応により重合させてなる硬化膜。
5. 物品表面の少なくとも一部が請求項4に記載の硬化膜で被覆されている物品。
6. 表面の少なくとも一部が硬化膜で被覆されている物品を製造する方法であって、
(1)請求項1~3のいずれかに記載の硬化性組成物の塗膜を基材表面の少なくとも一部に形成する工程、
(2)前記組成物を光重合させることによって硬化膜前駆体及び基材を含む積層体を得る工程、
(3)前記積層体を成形しながら前記硬化膜前駆体を熱重合させることによって硬化膜を有する成形体を得る工程、
を含むことを特徴とする耐擦傷性物品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な耐薬品性及び耐擦傷性を有しつつも、より優れた成形性を有する硬化膜を与えることができる硬化性組成物を提供することができる。特に、本発明の硬化膜は、それを含むシート状物の形態で金型と密着させることにより成形する場合、硬化膜の最延伸領域においてもクラックの発生が効果的に抑制されているので、品質の高い成形体(耐薬品性・耐擦傷性物品)を提供することができる。
【0012】
このような特徴を有する本発明の硬化性樹脂組成物及びその硬化膜は、例えば自動車の内装材及び外装材、携帯電話、タッチパネル、コンパクトディスク、オーディオ機器等のように、製品の表面に耐薬品性及び耐擦傷性が要求される物品に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シート状物を金型に密着させて成形する状態を示す図である。図1Aは、シート状物と金型とを密着させる前の状態を示す。図1Bは、シート状物と金型とを密着させてシート状物を成形する状態を示す。
【符号の説明】
【0014】
10a 基材
10b 硬化膜
10 シート状物(積層シート)
20 金型
A 最延伸領域
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.硬化性組成物
本発明の硬化性組成物(本発明組成物)は、(A)(メタ)アクリロイル基を有するポリオール、(B)ブロックポリイソシアネート化合物及び(C)ラジカル重合開始剤を含むことを特徴とする。
【0016】
なお、本明細書においては、特にことわりのない限り、アクリレート又はメタクリレートを「(メタ)アクリレート」と総称し、アクリル酸又はメタクリル酸を「(メタ)アクリル酸」と総称する。アクリロイル基又はメタクリロイル基を「(メタ)アクリロイル基」と総称する。
【0017】
(メタ)アクリロイル基を有するポリオール(A成分)としては、特にアクリル主鎖の少なくとも側鎖に(メタ)アクリロイル基及び水酸基が結合しているポリマー(いわゆる反応性アクリルポリマー)を好適に用いることができる。本発明において、A成分は、主として、紫外線による硬化に寄与する成分である。
【0018】
前記のアクリル主鎖は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体からなる構造を採用することができる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0019】
A成分に含まれる(メタ)アクリロイル基の含有量は、特に限定されないが、紫外線による硬化性をより発揮させるという見地より、その(メタ)アクリル当量が通常は200g/mol以上であることが好ましく、特に230~600g/molであることがより好ましい。
【0020】
A成分に含まれる水酸基の含有量は、特に限定されないが、熱による硬化性をより発揮させるという見地より、その水酸基価が通常は80mgKOH/g以上であることが好ましく、特に100~250mgKOH/gであることがより好ましい。
【0021】
さらに、B成分のイソシアネート量との関係において、イソシアネート基と水酸基とのモル比がイソシアネート基:水酸基=1:0.5~1.5程度(特に1:0.8~1.2)とすることが耐擦傷性および耐薬品性の見地より好ましい。
【0022】
A成分の重量平均分子量は、限定的ではないが、通常は15000以上とすれば良く、特に20000~30000であることが好ましい。
【0023】
A成分自体は、公知又は市販のものを使用することもできる。市販品としては、例えば製品名「SMP-250AP」、「SMP-360AP」、「SMP-550AP」(いずれも共栄化学株式会社製)等が挙げられる。
【0024】
本発明組成物中におけるA成分の含有量は、限定的ではないが、通常は5~50重量%程度とし、特に10~30重量%とすることが好ましい。
【0025】
ブロックイソシアネート化合物(B成分)は、イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でマスキングすることによって反応が抑制された状態にあり、加熱によりブロック剤が解離する性質を有する化合物である。本発明では、B成分は、主として、成形時の熱による硬化に寄与するものである。
【0026】
ブロック剤でマスキングされる前にイソシアネート化合物は、イソシアネート基(-NCO)を有する化合物を挙げることができる。例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート;水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式系ポリイソシアネートのほか、イソシアネートの3量体又は多量体(アダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体、アロファネート体)が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0027】
イソシアネート基をマスキングするブロック剤としては、特に限定されず、例えばアルコール類(エタノール、2-メチル-2-プロパノール等)、フェノール類(フェノール、m-クレゾール等)、メルカプタン類(ベンゼンチオール、1-ドデカンチオール等)、オキシム類(メチルエチルケトンオキシム等)、ラクタム類(ε-カプロラクタム等)、アミン類(N-メチルアニリン、エチルカルバメート等)等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0028】
B成分自体は、公知又は市販のものを使用することもできる。市販品としては、例えば製品名「タケネートB-842N」、「タケネートB-890」(いずれも三井化学株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
本発明組成物中におけるB成分の含有量は、限定的ではないが、通常は10~40重量%程度とし、特に15~30重量%とすることが好ましい。これにより、本発明の効果をより確実に発揮させることができる。
【0030】
ラジカル重合開始剤(C成分)は、光の照射によりラジカル活性種を発生する光ラジカル重合開始剤であればいずれも使用することができる。例えば、アセチルベンゼン、ジメトキシベンジル、ジベンゾイル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、クロロチオキサトン、エチルアントラキノン等を挙げることができる。
【0031】
このようなラジカル重合開始剤としては市販品を用いることもできる。例えば、イルガキュアシリーズ(BASFジャパン製)等の市販品を用いることができる。より具体的にはイルガキュア184(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、イルガキュア907(2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)、イルガキュアTPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド)、ルシリンTPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)等を挙げることができる。
【0032】
本発明組成物中におけるC成分の含有量は、限定的ではないが、通常は0.1~5重量%程度とし、特に0.3~3重量%とすることが好ましい。
【0033】
本発明組成物中には、本発明の効果を妨げない範囲内において他の成分が含まれていても良い。例えば、溶媒、触媒(酸、塩基、金属、金属化合物等)、pH調整剤、レベリング剤、染料、顔料、可塑剤、充填材、フィラー、分散剤、防腐剤、つや消し剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防汚剤、アンチブロッキング剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0034】
本発明組成物は、これらの各成分を混合することによって調製することができる。混合に際しては、その混合順序等は特に制限されない。また、混合は、例えばミキサー、ニーダー等の公知の装置を用いて実施することができる。
【0035】
特に、本発明組成物を塗工液の形態で使用する場合は、溶媒を配合することが好ましい。溶媒としては、本発明組成物に含まれる成分の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチエルエーテル等のアルコール系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。特に、本発明では、溶解性等の見地より、ケトン系溶媒を用いることが好ましい。
【0036】
なお、塗工液においては、本発明組成物を構成する成分の一部又は全部が溶媒に溶解していても良いし、溶解せずに分散していても良い。特に、本発明では、各成分が溶媒に溶解した溶液であることが望ましい。
【0037】
溶媒を用いる場合、その使用量は限定的ではなく、例えば固形分含有量が1~95重量%の範囲内において、用いる成分等の種類、所望の粘度等に応じて適宜設定すれば良い。例えば、塗工液をペースト状とする場合は、固形分含有量を多めに設定すれば良い。
【0038】
2.硬化膜
本発明は、本発明組成物を光重合反応及び熱重合反応により重合させてなる硬化膜(本発明硬化膜)も包含する。
【0039】
光重合反応及び熱重合反応の順は、特に限定されず、光重合反応の後に熱重合反応を行う工程、熱重合反応の後に光重合反応を行う工程のいずれであっても良い。特に、成形体を作製する場合は、製造効率等の見地より、光重合反応の後、加熱下で熱重合反応させながら成形できる(成形時に生じる熱も利用できる)ことから、重合反応及び熱重合反応の順で重合させることが好ましい。
【0040】
本発明組成物は、前述のとおり、紫外線照射により反応(硬化)する成分としてA成分、熱により反応(硬化)する成分としてA成分及びB成分が含まれている。これらの各成分を順に反応させることによって、耐薬品性、耐擦傷性及び成形性を兼ね備えた硬化膜を提供することができる。
【0041】
本発明硬化膜の厚みは、特に限定されず、例えば硬化膜の用途、使用形態等に応じて適宜設定することができる。従って、例えば1~100μm程度とすることもできるが、これに限定されない。
【0042】
本発明硬化膜は、通常は透明性を有することができるが、半透明又は不透明のいずれであっても良い。本発明の硬化膜が透明性を有する場合は、そのヘーズ値は通常は0.1~1%程度である。
【0043】
本発明硬化膜は、耐擦傷性に優れている。耐擦傷性としては、例えば基材に硬化膜を被覆した物品として使用する場合、他の物品と接触した際の傷つきやすさは、基材のみの場合と比べて軽減することができる。
【0044】
さらに、本発明硬化膜は、耐薬品性、成形性等にも優れている。耐薬品性としては、例えば自動車の内装材の硬化膜等として使用する場合、手指に塗られている化粧料が硬化膜に付着することにより、硬化膜が変質することがあるが、本発明の硬化膜はそのような成分が付着しても変質しにくいという特性をもっている。
【0045】
また、本発明硬化膜における成形性は、前記で述べたとおり、表面に硬化膜が積層されたシート状物を真空成形等により金型を用いて成形する場合、硬化膜の最延伸領域でもクラックの発生が効果的に抑制されているため、欠陥の少ない成形体を製造することができる。
【0046】
硬化膜の製造方法は、特に制限されず、例えば1)フィルム状の本発明組成物を光重合させることによって硬化膜前駆体を得る工程、2)前記の硬化膜前駆体を熱重合させることによって硬化膜を得る工程を含む方法によって実施することができる。
【0047】
フィルム状の本発明組成物は、例えば本発明組成物の塗工液を基材に塗布及び乾燥する方法によって作製することができる。この場合、フィルム状の本発明組成物は基材ごと次工程に供することができるほか、基材として剥離紙等を用いることによりフィルム状の本発明組成物から基材を剥がした上で次工程に供することもできる。ここで、上記の塗工液としては、前記1.で説明したものと同様のものを使用することができる。
【0048】
塗工液の塗布方法は、限定的でなく、例えば塗工液の塗布方法も限定的ではなく、例えばドクターブレード法、バーコート法、ディッピング法、エアスプレー法、ローラーブラシ法、ローラーコーター法等の公知のコーティング方法により適宜行うことができる。また、塗布量は、例えば所望の硬化膜の厚みとなるような量とすれば良く、通常は得られる硬化膜の厚みが前記で示した範囲内で適宜設定することができる。
【0049】
塗布後の乾燥は、例えば自然乾燥又は加熱乾燥のいずれも採用することができる。加熱乾燥する場合は、基材に悪影響を及ぼさず、かつ、B成分のブロック剤が解離せず、熱重合が起こらない温度範囲内とすれば良く、例えば70~120℃程度で加熱することができる。
【0050】
フィルム状の本発明組成物に対し、紫外線を照射することにより光重合反応を起こさせる。紫外線を照射する場合、その光源は特に限定されず、例えば高圧水銀ランプ、鉄ドープのメタルハライドランプ、ガリウムランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザ、LED等が挙げられる。従って、これらを備えた公知又は市販の装置を用いて硬化させることができる。
【0051】
紫外線を照射する場合は、例えば100~400nm程度の波長領域であって、照度100~1500mW/cm程度、積算光量100~5000mJ/cm程度で紫外線を照射することができるが、これに限定されない。
【0052】
なお、紫外線照射する場合の温度条件は、通常は100℃以下の範囲内とすれば良い。従って、例えば室温付近(10~40℃程度)でも好適に実施することができる。
このように、光重合反応させることによって、主としてA成分中の(メタ)アクリロイル基どうしによる架橋が進行する結果、硬化膜前駆体を得ることができる。
【0053】
次いで、硬化膜前駆体をさらに熱重合させることによって、最終的に本発明の硬化膜を得ることができる。
【0054】
熱重合させる場合、硬化膜前駆体を加熱すれば良い。加熱する際の温度は、B成分中のブロック剤が解離する温度以上、かつ、硬化膜の融点未満の温度の範囲内で設定することができる。従って、例えば120~180℃の範囲内で設定することもできるが、これに限定されない。また、基材ごと熱重合させる場合は、上記の温度条件に加え、さらに基材の融点未満の温度範囲内に設定することが好ましい。
【0055】
なお、熱重合させるに際し、実質的に同時に成形加工を施すこともできる。これにより、熱重合反応と成形(熱成形)とを実質的に1工程で実施することができる。
【0056】
3.物品
本発明は、物品表面の少なくとも一部が本発明硬化膜で被覆されている物品(被覆物品)を包含する。
【0057】
物品を構成する基材(硬化膜の下地となる材料)は、硬化膜との密着性(接着性)等を有するものであれば限定されず、例えばプラスチックス、ゴム、金属、セラミックス、ガラス等のいずれにも適用できる。本発明では、特にプラスチックスに好適である。
【0058】
上記のプラスチックスとしては、例えばアクリル系(ポリメタクリル酸メチル等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、セルロース系(セロハン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等)、塩化ビニル系(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)等のほか、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。
【0059】
物品の種類(用途)は、特に限定されず、表面の保護(ハードコートによる被覆)が必要とされる物品であればいずれにも適用することができる。例えば、自動車の内装材(インパネ、センタークラスター、センターコンソール等)及び外装材(バンパー、ドアミラー等)のほか、電子機器(携帯電話、パソコン等)、家電製品、医療機器、光学機器等が挙げられる。
【0060】
被覆物品は、例えば予め作製された硬化膜を物品表面に貼着することにより作製する方法もあるが、特に次の方法によって作製されることが好ましい。すなわち、表面の少なくとも一部が硬化膜で被覆されている物品を製造する方法であって、(1)本発明組成物の塗膜を基材表面の少なくとも一部に形成する工程(塗膜形成工程)、(2)前記組成物を光重合させることによって硬化膜前駆体及び基材を含む積層体を得る工程(光重合工程)、(3)前記積層体を成形しながら前記硬化膜前駆体を熱重合させることによって硬化膜を有する成形体を得る工程(成形工程)を含むことを特徴とする物品の製造方法を好適に採用することができる。このようにして、基材表面に本発明の硬化膜を被覆することにより、耐薬品性及び耐擦傷性に優れた被覆物品を製造することができる。
【0061】
(1)塗膜形成工程
塗膜形成工程では、本発明組成物の塗膜を基材表面の少なくとも一部に形成する。
【0062】
塗膜の形成方法は、特に限定されず、例えば本発明組成物の塗工液を基材表面に塗布及び乾燥することによって実施することができる。上記の塗工液としては、前記1.で述べたものと同様のものを使用することができる。また、塗布方法等も、前記1.で述べたものと同様のものを使用することができる。
【0063】
基材は、成形の対象となり得る材料であれば良く、その材質、形態等は特に限定されない。基材としては、前記3.で挙げたものが使用できるが、その中でも成形に適したプラスチックスが好ましい。また、形態としては、後記の成形工程に供することができる形態であれば限定されない。例えば、シート状の基材(シート状樹脂組成物)を好適に用いることができる。
【0064】
(2)光重合工程
光重合工程では、本発明組成物を光重合させることによって硬化膜前駆体及び基材を含む積層体を得る。
【0065】
光重合工程では、特に本発明組成物の塗膜に紫外線を照射することによって光重合反応させる。その結果、塗膜中に本発明組成物が反応して硬化膜前駆体となる。
【0066】
紫外線照射の条件等は、前記2.で説明した内容に従えば良い。温度条件も、前記2.で説明した内容に従えば良い。
【0067】
(3)成形工程
成形工程では、積層体を成形しながら前記硬化膜前駆体を熱重合させることによって硬化膜を有する成形体を得る。
【0068】
成形方法は、特に限定されないが、通常は前記積層体がシート状物であることから、シート状物の成形・加工に適した方法を好適に採用することができる。すなわち、シート状の積層体を金型に密着させることによって成形する方法を採用することが好ましい。具体的には、真空成形、圧空成形、プレス成形等を例示することができる。シート状の積層体を金型に密着させることによって作製される成形体において、従来の成形体では少なくとも最延伸領域又はその周辺でクラックが発生する傾向にあるのに対し、本発明の物品では特定の硬化膜が形成されているのでそのようなクラックの発生がより効果的に抑制ないしは防止されている。
【0069】
成形する際の温度条件は、硬化膜前駆体が熱重合反応するのに十分な条件とすれば良い。より具体的には、前記2.で説明した条件とすれば良い。このようにして得られた成形体が本発明の被覆物品として得ることができる。
【実施例
【0070】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0071】
実施例1~4及び比較例1~4
表1に示す各成分(単位はg)を均一に混合することによって塗工液を調製した。なお、表1中のブロックイソシアネート化合物及び(メタ)アクリロイル基を有するポリオールの配合量は、それら成分を溶解させる溶剤の量も含んでいる。例えば、実施例1のタケネートB-890の配合量「2.78」は、1.67gのブロックイソシアネート化合物と1.11gの溶剤との合計量であり、SMP-360APの配合量「2.00g」は1.00gの(メタ)アクリロイル基を有するポリオールと1.00gの溶剤との合計量である。
【0072】
【表1】
【0073】
なお、表1中の略号の意味は、以下の通りである。
(1)タケネートB-842N:製品名「タケネートB-842N」(三井化学社製、ブロックイソシアネート、再生イソシアネート9.7wt%、イソシアネート当量433g/mol、固形分濃度70%(酢酸ブチル、石油ナフサ混合溶媒)、ブロック剤:メチルエチルケトンオキシム)
(2)タケネートB-890:製品名「タケネートB-890」(三井化学社製、ブロックイソシアネート、再生イソシアネート7.1wt%、イソシアネート当量592g/mol、固形分濃度60%(イソブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、混合溶媒)、ブロック剤:メチルエチルケトンオキシム)
(3)SMP-250AP:製品名「SMP-250AP」(共栄社化学社製、アクリル当量240~260g/mol、水酸基価225mgKOH/g、分子量20000~30000、固形分濃度50%(プロピレングリコールモノメチルエーテル溶媒))
(4)SMP-360AP:製品名「SMP-360AP」(共栄社化学社製、アクリル当量350~370g/mol、水酸基価158mgKOH/g、分子量20000~30000、固形分濃度50%(プロピレングリコールモノメチルエーテル溶媒))
(5)SMP-550AP:製品名「SMP-250AP」(共栄社化学社製、アクリル当量540~560g/mol、水酸基価103mgKOH/g、分子量20000~30000、固形分濃度50%(プロピレングリコールモノメチルエーテル溶媒))
(6)オレスターQ155:製品名「オレスターQ155」(三井化学社製、アクリロイル基非含有、水酸基価78mgKOH/g、固形分濃度50%(酢酸ブチル溶媒))
(7)IC-184:製品名「Irgacure 184」(BASFジャパン社製、光重合開始剤)
(8)MEK:メチルエチルケトン(有機溶剤)
【0074】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた塗工液を用いて硬化膜を作製した。具体的には、基材としてポリカーボネート(PC)/ポリメチルメタクリレート(PMMA)複合フィルム(製品名「ユーピロン・フィルムDF02U」(PMMA/PCフィルム、厚み300μm、三菱ガス化学株式会社製)を用い、PMMA側に塗工液をバーコーターにより塗布した後、80℃で1分間乾燥した。次いで、塗膜に対して紫外線を照射した。紫外線照射の条件は、紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製、空冷水銀ランプ、「アイキュアーライトH06-L41」を用いて主波長365nm(他の波長254nm,303nm,313nm)、照度800mW/cm、積算光量500mJ/cmとした。このようにして「PC/PMMA/厚み3μmの硬化膜前駆体」からなる積層フィルムを得た。
次いで、得られた積層フィルムを真空成形によって成形を行った。図1に示すように、積層フィルム10を金型20上に配置し、加熱雰囲気下で真空引きすることにより積層フィルム10を金型20に密着させることによって容器状の成形体を作製した。加熱温度は、約160℃とした。前記金型としては、各積層フィルムに対して金型A(30mm×30mm×4mm)と金型B(30mm×30mm×3mm)の2種を用いた。これにより、金型Aによる成形体A、金型Bによる成形体Bの2つの成形体をそれぞれ作製した。
このようにして得られた各積層フィルム又は各硬化膜(成形体)について、以下の物性をそれぞれ測定した。その結果も併せて表1に示す。なお、前記の基材単体(紫外線照射も熱処理も施されていないもの)を用いて同様に測定した結果も「参考例1」として表1に併せて示す。
【0075】
(1)成形前のベタつき
積層フィルムの塗膜表面の性状を手指で触り、そのベタつき具合を調べた。硬化が不十分で塗膜がベタついている場合を「×」とし、ベタつきが全くない場合を「○」とした。
【0076】
(2)成形性
得られた成形体(各成形体A,B)を目視にて観察し、クラックの有無を調べた。成形体A及びBのいずれにもクラックが認められない場合を「○」とし、成形体A及びBのどちらか(特に成形体A)にクラックが認められる場合を「△」とし、成形体A及びBのいずれにもクラックが認められる場合を「×」とした。
【0077】
(3)成形後の耐擦傷性
成形体の硬化膜の面をスチールウール(番手:#0000)で250g/cmの荷重をかけて10往復擦り、傷の入り具合を評価した。評価は、擦傷前後のヘーズの変化量を求めて行った。ヘーズは、ヘーズ計(製品名日本電色工業株式会社製NDH5000)を用いて測定し、下記式に基づいて変化量(%)を算定した。
変化量(%)=Hb-Ha
(ただし、Haは擦傷前のヘーズ値(=0.4)、Hbは擦傷後のヘーズ値を示す。)
【0078】
(4)成形後の耐薬品性
成形体の硬化膜表面に市販の日焼け止めクリーム(製品名「ニュートロジーナ」ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)0.15gを1cmの面積に均質に塗り、80℃で1時間放置した後、硬化膜表面の日焼け止めクリームを乾いた布で拭き取った後の硬化膜表面が透明から白化している程度を目視にて確認した。変化が認められないもの(硬化膜が透明のままであるもの)を「○」とし、一部に白化が認められるものを「△」とし、全体にわたって白化が認められたものを「×」とした。
【0079】
表1の結果からも明らかなように、実施例1~5は、A成分とB成分が併用されているため、成形後に優れた耐擦傷性及び耐薬品性が発現しているとともに、良好な成形性も発現されていることがわかる。特に、実施例1~4は、成形体A,Bともにクラックが発生しておらず、成形時の高い応力にも耐える高い成形性を有していることがわかる。
【0080】
比較例1~2は、ブロックイソシアネートを添加していない組成であり、UV硬化のみで完成する塗膜となっている。そのため、耐擦傷性及び耐薬品性は高いものの、成形性が低くなっていることがわかる。
【0081】
比較例3は、実施例1においてA成分の代わりに(メタ)アクリロイル基非含有のポリオールを添加した組成であり、熱硬化のみで完成する塗膜となっている。そのため、成形性は高いものの、3次元架橋が少ないため、耐擦傷性及び耐薬品性が低くなっていることがわかる。
図1