(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸の調製方法及びヒアルロン酸の検出方法、並びにこれらのキット
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20231023BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
G01N1/28 J
G01N33/50 Q
G01N33/50 T
(21)【出願番号】P 2020046769
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷井 勇介
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】上原 和也
(72)【発明者】
【氏名】伊木 明美
(72)【発明者】
【氏名】森 綾香
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-198179(JP,A)
【文献】特開2014-097000(JP,A)
【文献】国際公開第02/101389(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108303307(CN,A)
【文献】NORIKO MOTOHASHI、ITSUHIKO MORI,“Molecular weight determination of hyaluronic acid and its separation from mouse skin extract by high-performance gel permeation chromatography using a precision differential refractometer”,Journal of Chromatography A,NL,Elsevier Science Publishers B. V.,1984年,Vol.299,pp.508-512,https://doi.org/10.1016/S0021-9673(01)97875-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から採取された皮膚表上脂質からヒアルロン酸を分離することを含む、被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の調製方法。
【請求項2】
前記被験体の皮膚表上脂質を採取することをさらに含む、請求項1記載の調製方法。
【請求項3】
前記被験体のヒアルロン酸が、表皮、皮脂腺、毛包及び汗腺からなる群より選択される少なくとも一部由来のヒアルロン酸である、請求項1または2に記載の調製方法。
【請求項4】
被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の検出方法であって、
前記被験体の皮膚表上脂質を採取する採取工程と、
採取した皮膚表上脂質を界面活性剤で処理する処理工程と、
界面活性剤で処理したヒアルロン酸を検出する検出工程と、
からなる、被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の検出方法。
【請求項5】
前記界面活性剤がアニオン性、両イオン性または非イオン性のいずれか一つである、請求項4に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸の調製方法及びキットに関する。また、ヒアルロン酸の検出方法及びキットに関する。より詳しくは、皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の調製方法及びヒアルロン酸の検出方法、並びにこれらのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、眼の硝子体、鶏のトサカ、ヘソの緒、皮膚、関節液等、動物の結合組織に広く存在している。体内で最も多くヒアルロン酸が含まれているのは皮膚であり、細胞外マトリックスとして重要な役割を果たしている。皮膚のヒアルロン酸は、加齢とともに減少することも知られており、肌荒れ、皮膚の弾力・ハリの低下、シワ、タルミなどの皮膚老化現象の一因になっていると考えられている。
【0003】
そこで、減少したヒアルロン酸を補充するために、様々な方法が提案されている。例えば、ヒアルロン酸を直接摂取する方法や、ヒアルロン酸の産生を促す飲食物を摂取する方法などが挙げられる。これらの方法は、いずれも培養細胞を対象とした実験では効果が確認されているものの、人体に対しては効果が直接的に示されたわけではない。その理由として、皮膚からヒアルロン酸を検出しようとした場合、非侵襲的、かつ、直接的にヒアルロン酸を検出する方法が確立されていないためである。そのため、人体における効果の確認方法としては、インピーダンスなどを用いて皮膚水分量を測定し、間接的にヒアルロン酸の増減を推定する方法が一般的である(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、皮膚の水分量は必ずしもヒアルロン酸量の増減によって決まるものではなく、様々な因子との相互関係によって決まるものである。そのため、インピーダンスなどでは本当にヒアルロン酸量が変化しているのか不明であり、正確なデータを求める場合には侵襲的な方法に頼らざるを得ないという問題がいまだ残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、非侵襲的かつ直接的にヒアルロン酸を検出・測定できる方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
今回、出願人らは、非侵襲的かつ直接的にヒアルロン酸を検出できる方法がないか鋭意研究をおこなった。そして、従来ヒアルロン酸が含まれていないと考えられていた皮脂からヒアルロン酸が検出できることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記課題解決のため、本発明は、被験体から採取された皮膚表上脂質からヒアルロン酸を分離することを含む、被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の調製方法を提供する。また、本発明は、被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の検出方法であって、前記被験体の皮膚表上脂質を採取する採取工程と、採取した皮膚表上脂質を界面活性剤で処理する処理工程と、界面活性剤で処理したヒアルロン酸を検出する検出工程と、からなる、被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の検出方法を提供する。さらに、被験体の皮膚表上脂質の採取用具を含む、被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の調製用キット及び検出キットを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非侵襲的かつ直接的にヒアルロン酸を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】被験者から採取した皮脂に含まれるヒアルロン酸量を示すグラフである。
【
図2】抽出溶媒の違いによる皮脂からのヒアルロン酸抽出量の違いを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ヒアルロン酸の調製方法)
一態様において、本発明は、被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の調製方法を提供する。本発明による被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の調製方法は、被験体から採取された皮膚表上脂質からヒアルロン酸を分離することを含む。
【0012】
本発明の方法における被験体は、皮膚上に皮脂を有する生物であればよい。被験体の例としては、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物が挙げられる。
【0013】
本発明でいう『非侵襲』とは、生体を傷つけたり痛みを与えたりしない、すなわち、身体に負担を与えないという意味である。
【0014】
本発明でいう『皮膚表上脂質』とは、皮膚上の表上に存在する脂溶性画分のことであり、本明細書中では主に皮脂を指す。皮脂は皮脂腺の皮膚細胞から分泌されるエマルション様の液体であり、皮膚表面に薄い膜状に広がっている。皮脂の成分の多くはトリグリセリド、ワックスエステル、スクアレン、コレステロールなどから構成されることが知られている。
【0015】
本発明でいう『皮膚』とは、表皮、真皮、毛包、汗腺、皮脂腺およびその他の腺などの組織を含む領域を意味する。
【0016】
被験体から採取された皮脂は、該被験体の皮膚細胞で産生されたヒアルロン酸を含み、好ましくは該被験体の表皮、皮脂腺、毛包および汗腺のいずれかで産生されたヒアルロン酸を含む。
【0017】
本発明の方法は、被験体の皮脂を採取することをさらに含んでいてもよい。皮脂が採取される皮膚の部位としては、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚などが挙げられる。また、アトピー、ニキビ、炎症、腫瘍等の疾患を有する皮膚、創傷を有する皮膚であってもよい。
【0018】
被験体の皮膚からの皮脂の採取には、皮膚からの皮脂の回収または除去に用いられているあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述する皮脂吸収性素材、皮脂接着性素材、または皮膚から皮脂をこすり落とす器具を使用することができる。皮脂吸収性素材又は皮脂接着性素材としては、皮脂に親和性を有する素材であれば特に限定されず、例えば、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へ皮脂を吸収させる方法、ガラス板、テープ等へ皮脂を接着させる方法、スパーテル、スクレイパー等により皮脂をこすり落として回収する方法、などが挙げられる。皮脂の吸着性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませた皮脂吸収性素材を用いてもよい。
【0019】
(界面活性剤)
採取した皮脂からのヒアルロン酸を分離するためには、界面活性剤で処理することが必須となる。ヒアルロン酸の抽出に用いることができる界面活性としては、アニオン性、両性イオン性および非イオン性界面活性剤からなる群より選択することができる。
【0020】
アニオン界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、炭素数10~22の石鹸、炭素数14~24のアルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数10~22の高級アルコール硫酸エステル塩、アルキル基の炭素数10~22でありポリオキシエチレン基のオキシエチレン単位の繰り返し数が1~10のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、炭素数10~22のα-スルホ脂肪酸エステル、炭素数8~18のα-オレフィンスルホン酸塩、炭素数10~22のアルカンスルホン酸塩、炭素数10~22のモノアルキルリン酸エステル塩、デオキシコール酸ナトリウム等のコール酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等が挙げられる。
【0021】
両性イオン性界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、ミリスチルスルホベタイン等が挙げられる。
【0022】
非イオン性界面活性剤としては特に限定はなく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、オクチルフェノールエトキシレート(商品名:Triton X-100)等が挙げられる。
【0023】
(調整されたヒアルロン酸の用途)
本発明の方法により調製された被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸は、ヒアルロン酸を用いる各種解析または診断に使用することができる。本発明により調製された皮脂中のヒアルロン酸を用いて行うことができる解析や診断の例としては、被験体の皮膚状態の解析、例えば、皮膚の健康状態の評価もしくは将来予測、皮膚疾患の診断もしくは予後診断、皮膚外用剤の効能評価、予後診断もしくは皮膚の微細変化の評価、などが挙げられる。
【0024】
(ヒアルロン酸の検出方法)
本発明の方法により調整された被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の測定方法は、従来から用いられている方法であればいかなる方法でもよく、特に限定されない。一例としては、イムノクロマト法、バインディングプロテインアッセイ法が挙げられる。バインディングプロテインアッセイ法としては、固相法、競合法、凝集法または比濁法を用いることができる。
【0025】
本発明による測定方法について、サンドイッチバインディングプロテインアッセイを例にとって以下に説明する。サンドイッチバインディングプロテインアッセイ法によれば、反応固相に界面活性剤を含む緩衝液を添加し、該固相に固着されたヒアルロン酸結合性蛋白に検体ヒアルロン酸を含む試料を添加して該固着されたヒアルロン酸結合性蛋白と該検体ヒアルロン酸を結合せしめ、さらにヒアルロン酸結合性蛋白と標識物質とをそれぞれ添加するか、あるいは予め標識物質で標識されたヒアルロン酸結合性蛋白を添加して、該固相に固着されたヒアルロン酸結合性蛋白と該検体ヒアルロン酸と該標識されたヒアルロン酸結合性蛋白とのサンドイッチ状結合体を形成させ、該サンドイッチ状結合体中の標識物質により該検体ヒアルロン酸を定量する。
【0026】
具体的には、先ず、反応プレートの固相上の表面にヒアルロン酸結合性蛋白を固着する。この際、該固相上にはさらにヒアルロン酸結合性蛋白または他の分子種が固着しうる表面部分が存在し、測定すべき試料を添加の際に試料中に含まれるその他の血中成分などが固着する恐れがある。このため、試料を添加する前にブロック体を添加してヒアルロン酸結合性蛋白が固着していない部分を被覆しておくことが好ましい。このようなブロック体としては、例えば、牛等から採取できるγ-グロブリン、血清アルブミン、血清、あるいはTween20等の界面活性剤が挙げられる。
【0027】
次いで、上記ヒアルロン酸結合性蛋白が固着した固相に、界面活性剤で抽出されたヒアルロン酸を含む試料を添加する。ヒアルロン酸測定において、サンプルに含まれるヒアルロン酸は、そのほとんどが生体中で組織中のプロテオグリカンを形成しており、血清中でタンパク質や糖質等と結合していることが知られている。そのため、バインディングプロテインアッセイを行う際には、その結合を解離しなければ正確なヒアルロン酸を測定することができない。本発明の測定法においては、界面活性剤を基剤として添加することでヒアルロン酸に結合している蛋白質、糖類等を解離することができる。このようにして、固相に固着したヒアルロン酸結合性蛋白に高分子ヒアルロン酸を結合した後、固相表面を洗浄するのが好ましい。
【0028】
次に、該サンドイッチ状の結合体の有する標識物質を測定してヒアルロン酸を定量する。この際、固相表面上の標識物質の濃度を測定することでヒアルロン酸のみが定量できる。標識物質の濃度の測定方法としては、標識物質により異なるが、例えば、標識物質に化学発光物質を使用する場合には該物質による反応後の溶液の発光強度を測定すればよい。この場合、予め使用する標識物質およびヒアルロン酸について、既知濃度の試料を用意し、信号強度と該既知濃度の関係について検量線を作成しておくことが好ましい。
【0029】
上述したサンドイッチバインディングプロテインアッセイ法において使用する固相としては、プレート、チューブ、ビーズ、メンブレン、ゲル、ラテックス等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではなく、ヒアルロン酸結合性蛋白が固着しうる固相ならばいずれも使用可能である。また、上記サンドイッチバインディングプロテインアッセイ法において使用するヒアルロン酸結合性蛋白とは、プロテオグリカン、リンクプロティン、ヒアルロネクチン等が挙げられる。
【0030】
(ヒアルロン酸の調製用キット)
さらなる一態様において、本発明は、被験体の皮脂の採取用具を含む、被験体の皮膚細胞に由来するヒアルロン酸の調製用キットを提供する。皮脂の採取用具としては、例えば、皮脂吸収性もしくは接着性素材、皮膚から皮脂をこすり落とす器具、などが挙げられる。該皮脂吸収性素材は、好ましくはポリプロピレン等の材料から製造された、可撓性のシート状素材である。該皮脂吸収性素材の好ましい例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等が挙げられる。該皮脂吸収性素材は、水溶性溶媒や水分を含まない乾燥状態であることが好ましい。該皮脂接着性素材は、好ましくはシート状もしくは板状であり、必要に応じて、その表面に皮脂を接着させるためのpoly-L-lysine等の接着剤が塗布されていてもよい。該皮脂接着性素材の好ましい例としては、ガラス板、テープ等が挙げられる。該皮脂をこすり落とす器具の好ましい例としては、スパーテル、スクレイパー等が挙げられる。
【0031】
本発明によるヒアルロン酸の調製用キットは、上記採取用具で採取した皮脂からヒアルロン酸を分離するための試薬をさらに含んでいることが好ましい。例えば、測定方法がサンドイッチバインディングプロテインアッセイである場合には、基本的に、ヒアルロン酸結合性蛋白が固着された固相体と、界面活性剤を含む緩衝液と、添加用ヒアルロン酸結合性蛋白と、検体ヒアルロン酸定量用標識物質とによって構成され、これら4つの成分はそれぞれ別体の容器に収容しておき、使用時に処方に従って使えるキットとして保存しておくことができる。上記キットにヒアルロン酸結合性蛋白が固着していない部分を被覆するブロック体や、通常容易に入手可能な固相表面の洗浄液等をさらに追加することも可能である。また、上記添加用ヒアルロン酸結合性蛋白は予め上記標識物質で標識したものでもよい。さらに、上記ヒアルロン酸結合性蛋白を固着した固相の表面の該ヒアルロン酸結合性蛋白が固着していない部分をブロック体により被覆しておくこともできる。このブロック体としては、γ-グロブリン、血清アルブミン、血清、Tween20からなる群より選択した1種にすることができる。上記固相体としては、プレート、チューブ、ビーズ、メンブレン、ゲル、ラテックスからなる群より選択することができ、上記標識物質は、アイソトープ、蛍光色素、アビジン、ビオチン、化学発光物質、酵素から選択することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)皮脂を試料としたヒアルロン酸の調製
採取条件をそろえるため、まず本採取の1時間前に一度あぶら取りフィルムで被験者5名の顔面皮脂除去を行った。1時間経過後、再度あぶら取りフィルムを用いて各被験者の顔面から皮脂の採取を行った。次に、顔面皮脂の付着したあぶら取りフィルムを適当な大きさに裁断し、コーニングチューブに入れた。さらに、界面活性剤を含む緩衝液(RIPA buffer)をあぶら取りフィルムが浸漬する程度まで加えた。そして、コーニングチューブを強く攪拌振盪し、ヒアルロン酸の抽出を行った。なお、コントロールとして未使用のあぶら取りフィルムからも同様の調製作業を行った。また、採取した脂質量は、採取前後のあぶら取りフィルム重量から算出した。
【0033】
(2)ヒアルロン酸の測定
続いて、Hyaluronan Duoset ELISA(R&D Systems,Inc.)を用いて、ヒアルロン酸の測定を行った。添付のプロトコルに従い、先ほど調製したヒアルロン酸抽出液に含まれるヒアルロン酸の定量を行った。結果を
図1に示す。
【0034】
図1に示すように、いずれの被験者からもヒアルロン酸が検出された。一方、未使用のあぶら取りフィルムからは皮脂が検出されなかった。このことから、皮脂にヒアルロン酸が含まれることが示唆された。また、検出されたヒアルロン酸量は被検者間で最大4倍の差が認められた。被験者間のバラつき原因についてははっきりしないが、個人差が寄与しているのではないかと考えられる。
【0035】
次に、ヒアルロン酸の抽出が可能な溶媒について検討を行った。試験は、先ほどの試験でヒアルロン酸検出量の多かった被験者Eの皮脂を用いて行った。RIPA bufferに代えて、水、有機溶媒(エタノール、アセトン、ヘキサン、ヘキサン-メタノール、アセトン-ジエチルエーテル、クロロホルム-エタノール)、界面活性剤(SDS、Triton X-100、デオキシコール酸ナトリウム、ミリスチルスルホベタイン)を用いたこと以外は、先ほどと同様である。なお、Bligh-Dyer法についても併せて検討を行った。結果を
図2に示す。
【0036】
図2から明らかなように、水、有機溶媒からではヒアルロン酸は検出できなかった。一方、界面活性剤を用いた場合には、いずれの界面活性剤においてもヒアルロン酸の抽出が可能であった。また、用いた界面活性剤のうち、SDSとデオキシコール酸ナトリウムはRIPA Bufferと同等の抽出が、Triton X-100とミリスチルスルホベタインはRIPA Bufferよりもさらに多くのヒアルロン酸の抽出が可能であった。なお、水溶性画分を採取可能なBligh-Dyer法でも水で抽出を行った場合と同程度の検出しかできなかったことから、界面活性剤のみを用いたほうが、抽出効率が高まることが示唆された。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、従来ヒアルロン酸が含有されていないと思われていた皮脂からヒアルロン酸を簡便な方法で検出できることが明らかとなった。これにより、非侵襲的かつ直接的にヒアルロン酸を検出することができため、経時的な皮膚の変化等を観測することができる。