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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】感知センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020056260
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021156698
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓行
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-300095(JP,A)
【文献】特開2011-203007(JP,A)
【文献】特開2019-174269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて、当該圧電振動子の周囲のガス雰囲気に含まれると共に当該圧電振動子に付着する被感知物質を感知するための感知センサにおいて、
前記圧電振動子を発振させる発振回路と、
前記ガス雰囲気の温度及び湿度を検出するガス用検出部と、
前記ガス用検出部により検出される温度及び湿度と、前記圧電振動子の温度に対応する温度との対応関係のデータが記憶されるメモリと、
前記圧電振動子の温度を検出するために、前記ガス用の検出部とは別個に前記圧電振動子に設けられる振動子用の温度検出部と、
前記対応関係のデータと、前記ガス用検出部により検出される温度及び湿度と、前記振動子用の温度検出部によって検出される温度と、に基づいて前記圧電振動子の温度を変更する温度変更部と、
前記圧電振動子、前記ガス用の検出部、及び前記振動子用の温度検出部を囲むケースと、
前記圧電振動子に各々設けられる、第1の励振電極を備える第1の振動領域及び第2の励振電極を備える第2の振動領域と、
前記第2の励振電極への被感知物質の付着を抑制するために当該第2の励振電極を覆い、且つ前記振動子用の温度検出部を覆うカバーと、
を備えることを特徴とする感知センサ。
【請求項2】
前記温度変更部は、前記圧電振動子の温度を前記ガス雰囲気の温度よりも低い温度に冷却可能に構成されることを特徴とする請求項記載の感知センサ。
【請求項3】
前記温度変更部は、前記ケース内に設けられるペルチェ素子を備えることを特徴とする請求項記載の感知センサ。
【請求項4】
前記発振回路の出力周波数についてのデータを無線で送信する無線送信部が設けられる請求項1ないしのいずれか一つに記載の感知センサ。
【請求項5】
前記ガス雰囲気は空気雰囲気であり、
前記メモリにおける圧電振動子の温度に対応する温度は、空気の露点温度である請求項1ないしのいずれか一つに記載の感知センサ。
【請求項6】
前記ケース内に当該ケース外の前記ガス雰囲気を導入するためのポンプ設けられる請求項1ないしのいずれか一つに記載の感知センサ。
【請求項7】
前記発振回路は、前記第1の振動領域、前記第2の振動領域を夫々振動させる第1の発振回路と、第2の発振回路と、を含請求項1ないしのいずれか一つに記載の感知センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子を備えた感知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガス中に含まれる物質を感知するためにQCM(Quartz crystal microbalance)が利用される場合が有る。このQCMによる感知は、ガス中に含まれる物質が水晶振動子の電極へ付着することによる振動周波数の変化に基づいて行われ、このQCMを利用する感知センサとしては水晶振動子を含むと共にその周波数信号を取り出せるように構成される。
【0003】
特許文献1には、当該感知センサを含むガス計測装置について示されている。この特許文献1のガス計測装置については、2つの電極に挟まれた水晶片(水晶振動子)に特定のガスを吸着する薄膜が形成される。当該水晶振動子は密閉空間に設置され、出力される振動周波数が、時間と共に記憶手段に記憶される。このガス計測装置には、密閉空間内の温度、湿度を夫々計測する温度センサ、湿度センサが設けられており、温度及び湿度の時間変化についても記憶手段に記憶されることが示されている。
【0004】
また、QCMの一つとして、水晶振動子の温度制御を行うTQCM(Thermoelectric QCM)が知られている。このTQCMを利用する感知センサとしては、ペルチェ素子などの熱電素子が内蔵されるように構成される場合が有り、当該熱電素子により水晶振動子の冷却及び/または加熱が行われる。
【0005】
ところでガス中に含まれる分子レベルの大きさの異物が化学汚染物質となり、当該ガスを含む環境下で用いられる機器に不具合を発生させたり、当該環境で製造される製品の質を劣化させたりするなどの不具合を生じさせるおそれが有る。例えば半導体や液晶パネルの製造を行うためのクリーンルーム内において、そのような不具合が生じることが考えられ、具体例を挙げると、ゲート酸化膜の耐圧性能の劣化や、基板に形成されるレジスト膜の斑、基板の面内における撥水性のばらつきや、露光機のレンズ及びミラーの曇りによる露光異常などが起きることが考えられる。このような背景から、上記の異物の感知を行うにあたり、その感度を高くすることが求められている。なお異物は、例えばガスを加熱しても揮発せずに残渣として残る不揮発性残渣(NVR:Non-Volatile Residue)と呼ばれるものである。
【0006】
水晶振動子の温度が低いほど当該水晶振動子の表面へのNVRの付着性が高くなるので、既述のTQCMを行うように感知センサを構成し、NVRに対する感度を高くするために、当該水晶振動子の温度を極力低くすることが考えられる。しかし上記のガスとしては感知対象外の物質を含む場合が有る。例えば当該ガスとしては空気であり、空気中の水分は感知対象外であるとする。そして、NVRの感知を行う環境の温度及び湿度は変化し得る。例えば上記のクリーンルームにてNVRの感知を行うとする。クリーンルームにおける空気の温度及び湿度について管理されてはいるが、局所的及び/または一時的に高くなる場合が有る。例えばクリーンルームへの搬入物の影響により、そのように温度及び湿度が高くなることが考えられる。またクリーンルームの外気の湿度が高くなり、その外気が室内に取り入れられることで、クリーンルームの空気の湿度が高くなることが考えられる。
【0007】
従って、クリーンルームの設定温度及び設定湿度を考慮し、TQCMによって表面に結露が発生しないとされる一定の設定温度になるように水晶振動子の温度が調整されていても、当該結露が発生してしまうおそれがある。結露が起きることで水晶振動子の電極の表面が汚染され、NVRの感知が行えなくなってしまう。上記した特許文献1の装置は、このような問題を解決できるものではない。なお、上記の結露が発生するケースについては、発明の実施の形態において具体例を用いて詳しく説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-106894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電振動子の電極における結露を防止しつつ、当該圧電振動子の温度を低く設定して被感知物質の感知を高い感度で行うことができる感知センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の感知センサは圧電振動子の発振周波数の変化に基づいて、当該圧電振動子の周囲のガス雰囲気に含まれると共に当該圧電振動子に付着する被感知物質を感知するための感知センサにおいて、
前記圧電振動子を発振させる発振回路と、
前記ガス雰囲気の温度及び湿度を検出するガス用検出部と、
前記ガス用検出部により検出される温度及び湿度と、前記圧電振動子の温度に対応する温度との対応関係のデータが記憶されるメモリと、
前記圧電振動子の温度を検出するために、前記ガス用の検出部とは別個に前記圧電振動子に設けられる振動子用の温度検出部と、
前記対応関係のデータと、前記ガス用検出部により検出される温度及び湿度と、前記振動子用の温度検出部によって検出される温度と、に基づいて前記圧電振動子の温度を変更する温度変更部と、
前記圧電振動子、前記ガス用の検出部、及び前記振動子用の温度検出部を囲むケースと、
前記圧電振動子に各々設けられる、第1の励振電極を備える第1の振動領域及び第2の励振電極を備える第2の振動領域と、
前記第2の励振電極への被感知物質の付着を抑制するために当該第2の励振電極を覆い、且つ前記振動子用の温度検出部を覆うカバーと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の感知センサによれば、ガス用検出部により検出される圧電振動子の周囲のガス雰囲気の温度及び湿度と、圧電振動子の温度に対応する温度との対応関係のデータが記憶されるメモリが設けられ、当該データと上記のガス雰囲気の温度及び湿度とに基づいて、圧電振動子の温度が変更される。従って、圧電振動子の電極への結露を防止しつつ、当該圧電振動子の温度を低く設定して当該電極への被感知物質の付着を促進し、当該被感知物質の感知を高い感度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る感知センサのブロック図である。
図2】前記感知センサを構成するメモリに含まれるテーブルの概略図である。
図3】前記感知センサによる感知のフローを示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態である感知センサ1について、図1のブロック図を参照しながら説明する。感知センサ1は、例えば半導体製品や液晶パネルの製造を行うクリーンルーム11A内に設置される。そして、感知センサ1は、クリーンルーム11Aおける空気中のNVRの感知を、TQCMによって行うように構成されている。従って、NVRが被感知物質であり、当該NVRは空気に含まれる水(水蒸気)以外の不特定物質である。なお図1では、感知センサ1の各部で送受信される信号を点線の矢印で示している。
【0014】
感知センサ1は、セル2、第1の発振回路25A、第2の発振回路25B、コントローラ4、ACアダプタ45、アンテナ46及び筐体11を備えている。セル2はケースであり、その内部に圧電振動子である水晶振動子3、ペルチェ素子23、白金センサ21、温湿度センサ22及び支持体36が設けられている。NVRの付着を促進するために水晶振動子3の温度は比較的低い温度に設定される。背景技術の項目で述べたように、クリーンルーム11Aの空気の温度及び/または湿度が上昇する場合が有る。この温度及び/または湿度の上昇によって空気の露点温度と水晶振動子3の温度とが近くなると水晶振動子3の温度が変更され、水晶振動子3の電極の表面おける結露が防止されるように、感知センサ1は構成されている。
【0015】
以下、感知センサ1の構成について詳しく述べる。筐体11は互いに対向する側壁を備えている。対向する側壁のうちの一方には、空気の導入口を形成するインレット12が設けられ、対向する側壁のうちの他方には、筐体11外から空気を排出する排出口を形成するアウトレット13が設けられている。
【0016】
筐体11内に上記のセル2が設けられている。また、セル2の入口とインレット12とを接続するガス流路14と、セル2の出口とアウトレット13とを接続するガス流路15と、が設けられている。ガス流路15には下流側に向けて、流量センサ16、ポンプ17が順に介設されている。ポンプ17の動作により、筐体11外の空気がインレット12から引き込まれてセル2内を通過し、アウトレット13から放出される。流量センサ16はガス流路15を流通する空気の流量に応じた検出信号をコントローラ4に送信する。その検出信号に基づいて、ポンプ17へ上記の制御信号が送信され、セル2内に所望の流量で空気が供給されるようにポンプ17の動作が制御される。
【0017】
続いて水晶振動子3について説明する。水晶振動子3は水晶片30を備えている。水晶片30の上面側には励振電極31、32が離間して設けられ、水晶片30の下面側には励振電極33、34が離間して設けられる。励振電極(第1の励振電極とする)31、33は対をなし、水晶片20を挟んで互いに重なっている。励振電極32、34(第2の励振電極とする)は対をなし、水晶片30を挟んで互いに重なっている。水晶片30において、第1の励振電極31、33が形成される領域を第1の振動領域30Aとする。水晶片30において、第2の励振電極32、34が形成される領域を第2の振動領域30Bとする。
【0018】
支持体36は厚板状に構成されており、その上面に形成された凹部35の開口縁部に水晶振動子3の周縁部が支持されている。従って、水晶振動子3は凹部35を塞ぎ、第1の励振電極33、第2の励振電極34は当該凹部35内に設けられている。また、支持体36の上面側には、水晶振動子3の表面を覆うカバー37が設けられている。カバー37には第1の励振電極31に面する開口部38が形成されている。従って、第1の励振電極31は開口部38を介してセル2に流入した空気に接触するが、第2の励振電極32と当該空気との接触はカバー37によって抑制される。
【0019】
水晶振動子3の上面の縁部で、例えばカバー37内には白金センサ21が設けられている。この白金センサ21は水晶振動子3の温度を検出するための温度センサであり、当該水晶振動子3の温度についての検出信号を、支持体36及び後述する放熱器24に設けられる図示しない導電路を介してコントローラ4に送信する。この振動子用の温度検出部である白金センサ21の検出信号に基づいて、水晶振動子3の温度が制御される。
【0020】
そして支持体36の外側には温湿度センサ22が、セル2内に取り込まれた空気の温度及び湿度を検出するために設けられている。ガス用検出部である温湿度センサ22は、放熱器24に設けられる図示しない導電路を介して、当該温度及び湿度についての検出信号をコントローラ4に送信する。
【0021】
支持体36の下面には温度変更部であるペルチェ素子23が設けられており、当該ペルチェ素子23はセル2の底部をなす放熱器24上に設けられている。ペルチェ素子23は、上記の支持体36を介して水晶振動子3の温度を、セル2内に供給される空気の設定温度よりも低い温度に調整することができる。この温度調整によってペルチェ素子23に発生する熱は放熱器24に伝導され、当該放熱器24からセル2の外部へ放散される。つまり、セル2内がペルチェ素子23の発熱の影響を受けないように構成されている。放熱器24としては、例えば熱伝導率が比較的高い放熱板により構成されるが、任意の構成とすることができる。例えば、放熱効率を高めるために、セル2の外部に向けて突出したフィンが設けられていてもよい。
【0022】
ペルチェ素子23についてさらに説明すると、当該ペルチェ素子23には図示しない電力供給部から電力が供給され、供給される電力に応じて支持体36に接触する接触面の温度が低下する。この電力供給は、コントローラ4から出力される制御信号によって制御され、コントローラ4は上記の白金センサ21から出力される検出信号に基づいて当該制御信号を出力する。このようにペルチェ素子23の温度が制御されることで、水晶振動子3の温度が任意の値の設定温度となるように調整することができ、また、後述のように露点温度に応じた温度となるように当該水晶振動子3の温度を変更することができる。
【0023】
セル2の外側に、第1の発振回路25A及び第2の発振回路25Bが設けられている。第1の発振回路25A、第2の発振回路25Bは、支持体36及び放熱器24に形成される図示しない導電路を介して、第1の励振電極31及び第1の励振電極33、第2の励振電極32及び第2の励振電極34に夫々接続されている。従って、第1の発振回路25Aは水晶振動子3の第1の振動領域30Aを発振させ、第2の発振回路25Bは水晶振動子3の第2の振動領域30Bを発振させる。第1の発振回路25A及び第2の発振回路25Bはコントローラ4に接続されており、当該コントローラ4に周波数信号を各々出力する。第1の発振回路25Aから出力される周波数をf1、第2の発振回路25Bから出力される周波数をf2とする。
【0024】
続いてコントローラ4について説明する。コントローラ4は、CPU41と、電源回路42と、通信インターフェイス43と、メモリ44と、を備えている。CPU41によって、既述した各検出信号の受信と、各検出信号に基づいた制御信号の出力と、後述するデータ送信と、が行われ、後述するフローの各ステップが実施される。電源回路42は、筐体11の外部に設けられるACアダプタ45に接続されている。ACアダプタ45は図示しない電源に接続され、電源回路42を介して感知センサ1の各回路に電力が供給される。通信インターフェイス43は、取得したデータを例えばクリーンルーム11Aの外部に設けられる測定機器50へ送信するために設けられている。この送信は例えば無線で行われ、通信インターフェイス43には、当該無線送信を行うためのアンテナ46が接続されており、当該通信インターフェイス43及びアンテナ46により無線送信部が構成されている。アンテナ46から無線送信されるデータは、例えば周波数f1、f2及び白金センサ21による検出温度(水晶振動子3の温度)についてのデータである。
【0025】
続いて図2を参照しながら、メモリ44について説明する。メモリ44には空気の温度と、空気の湿度(相対湿度)と、露点温度との関係を示すテーブルが記憶されている。この図2に示す例では、温度については整数値で1℃刻み、湿度については5の倍数の整数値且つ5%刻みで夫々記憶されると共に、それらの各温度及び各湿度に対応する露点温度が記憶されている。
【0026】
メモリ44の役割について説明するために、水晶振動子3の温度、空気の温度、空気の湿度及び露点温度の関係について具体的に説明しておく。クリーンルーム11Aにおいて空気の温度が25±1℃、空気の湿度(相対湿度)が50±5%に夫々設定されていたとする。図2よりこの温度及び湿度の範囲では、温度が26℃且つ湿度55%であるときの空気の露点温度が16.3℃と、最も高い。つまり、水晶振動子3の温度が16.3℃以下になるときに結露が生じる。即ち、温度及び湿度が設定範囲内であるときには、水晶振動子3の温度について16.3℃を超える温度であれば、当該結露は生じない。
【0027】
そこで、NVRの第1の励振電極31への付着を促進するために、水晶振動子3の温度を極力低い温度、例えば18℃に設定していたとする。このとき空気の湿度は上記の設定範囲である50±5%に収まっていたとする。図2でこの湿度の設定範囲内の露点温度を見ると、湿度が55%であるときに空気の温度が28℃である場合、露点温度が18.1℃、即ち水晶振動子3の温度を超えた値となる。つまり、空気の温度が上記の設定範囲から外れて、28℃以上となった場合には水晶振動子3の表面に結露が生じてしまう。
【0028】
同様に水晶振動子3の温度を18℃に設定し、空気の温度が設定範囲である25±1℃に収まっていたとする。図2でこの温度の設定範囲内の露点温度を見ると、温度が25℃であるときに湿度が65%である場合、露点温度が水晶振動子3の設定温度と同じ18.0℃となる。つまり、空気の湿度が設定範囲から外れて、65%以上となった場合には、水晶振動子3の表面に結露が生じてしまう。なお、空気の温度及び湿度のうちの一方が設定範囲に収まっている場合における、温度及び湿度のうちの他方の結露が起きる範囲を例示したが、露点温度は温度及び湿度の両方の影響を受けるので、温度及び湿度の両方が設定範囲から外れた場合には、例示した範囲とは異なる温度範囲または湿度範囲で結露が起きることになる。
【0029】
感知センサ1においては、水晶振動子3における結露を防ぐために、上記したように空気の温度及び湿度のうちの少なくとも一方が設定範囲から外れたときに水晶振動子3の温度が変更されるが、この温度変更はメモリ44に記憶されるテーブルのデータに基づいて行われる。詳しく述べると、温湿度センサ22による検出温度及び検出湿度をクリーンルーム11Aの温度及び湿度として、メモリ44からこの温度及び湿度に対応する露点温度が読み出される。そして、読み出された露点温度に対応する閾値と、白金センサ21による検出温度(水晶振動子3の温度)とが比較され、検出温度の方が小さければ、結露を避けるために水晶振動子3の設定温度に関わらず、当該閾値となるように水晶振動子3の温度が調整される。この閾値は、例えば露点温度+予め設定された許容幅であり、許容幅は例えば3℃である。つまり、露点温度に対して少なくとも3℃差が担保されるように水晶振動子3の温度が制御される。
【0030】
そして、空気の温度及び湿度が設定範囲内に収まると、水晶振動子3の温度が設定温度となるように制御される。従って、水晶振動子3が設定温度から外れた温度となるのは一時的である。なお、上記のように露点温度に応じて水晶振動子3の温度が決められるため、
露点温度は水晶振動子3の温度に対応する温度であり、上記のメモリ44のテーブルは、空気の温度及び湿度と、水晶振動子3の温度に対応する温度との対応関係に相当する。
【0031】
なお上記のように検出温度及び検出湿度に基づいてメモリ44から露点温度が読み出されるが、既述のとおりメモリ44に記憶されるテーブルは、温度については1℃刻み、湿度については5%刻みのデータである。そのため検出温度がメモリ44における温度と一致しない場合には、例えば検出温度よりも高い温度且つ検出温度に直近の温度に対応する露点温度が読み出される。従って、検出された温度が例えば26.5℃であるときには27℃に対応する露点温度が読み出される。そして、検出湿度がメモリ44における湿度と一致しない場合には、例えば検出湿度よりも高い湿度且つ検出湿度に直近の湿度に対応する露点温度が読み出される。従って、検出された湿度が例えば56%であるときには、60%に対応する露点温度が読み出される。なお温度及び/または湿度について、より細かい刻みのテーブルをメモリ44に記憶しておいてもよい。なお、テーブルには露点温度の代わりに水晶振動子3の温度が記憶されていてもよい。また、温度及び湿度についてのテーブルを記憶する代わりに、温度及び湿度をパラメータとする関数がメモリ44に記憶され、検出温度と、検出湿度と当該関数とから水晶振動子3の温度が算出されるようにしてもよい。
【0032】
続いて図3のフローを参照しながら、感知センサ1の動作について説明する。先ず、感知を行うための水晶振動子3の温度設定(=白金センサ21の温度設定)が行われる(ステップS1)。この設定温度は、空気の温度及び湿度が各々上記した設定範囲内であるときには、結露が発生しない温度である。
【0033】
この温度設定後に感知センサ1を動作させ、ポンプ17により、セル2内へのクリーンルーム11Aの空気の供給と、セル2からの空気の排出とが行われる。その一方で、ペルチェ素子23により、水晶振動子3が設定温度になるように温度調整される。白金センサ21から温度の検出信号がコントローラ4に出力されてモニターされる(ステップS2)。さらに温湿度センサ22から温度及び湿度の検出信号がコントローラ4に出力されてモニターされる(ステップS3)。
【0034】
コントローラ4は随時、温湿度センサ22から出力される検出信号より、空気の温度及び湿度の設定範囲に収まっているか否かを判定し、収まっていると判定される場合には、ステップS1で設定した設定温度になるように水晶振動子3の温度が制御される。そして、温度及び湿度の少なくとも一方が設定範囲から外れたとすると、コントローラ4は温湿度センサ22によって検出された温度及び湿度に対応する露点温度をメモリ44から読み出す。そして、コントローラ4は、ステップS2で取得された白金センサ21による検出温度(水晶振動子3の温度)>閾値(露点温度+許容幅)になっているか否か判定する(ステップS4)。
【0035】
上記のステップS4で、検出温度>閾値となっていないと判定された場合には、検出温度(即ち、水晶振動子3の温度)が閾値となるようにペルチェ素子23を昇温させる(ステップS5)。つまり、上記したように露点温度に対し3℃差が担保されるように、水晶振動子3の温度が上昇する。その後は、ステップS2以降の各ステップSが実行される。
【0036】
ステップS4で、検出温度>閾値となっていると判定された場合は、ステップS2で取得された白金センサ21による検出温度が、ステップS1で設定された設定温度以下であるか否かが判定される(ステップS6)。ステップS6において、検出温度が設定温度以下では無いと判定された場合には、ペルチェ素子23によって水晶振動子3が降温される(ステップS7)。つまり、水晶振動子3の温度が設定温度よりも高いので、当該水晶振動子3の温度を設定温度に合わせ込むためにペルチェ素子23の温度が低下し、水晶振動子3が冷却される。
【0037】
ステップS6において、検出温度が設定温度以下であると判定された場合には、ペルチェ素子23によって水晶振動子3が昇温されるか温度が現状のまま維持される(ステップS8)。つまり、水晶振動子3の温度が設定温度と同じか設定温度よりも低いので、設定温度よりも低い場合には、設定温度に合わせ込むためにペルチェ素子23の温度が上昇し、水晶振動子3が加熱される。検出温度と設定温度とが等しい場合には、ペルチェ素子23の温度が現状のまま維持される。このように空気の温度及び/または湿度が設定範囲から外れても、水晶振動子3の温度と露点とが近づかない限り、水晶振動子3の温度は設定温度になるように制御される。ステップS7、S8の実行後は、ステップS2以降のステップが実施される。
【0038】
上記のように水晶振動子3の温度制御が行われる一方で、アンテナ46からは周波数f1、f2及び白金センサ21による検出温度(水晶振動子3の温度)が、測定機器50に無線送信され続ける。セル2内を通過する空気中のNVRが、水晶振動子3の第1の励振電極31の表面に付着し、付着したNVRの質量の合計に応じて周波数f1が低下する。一方、第2の励振電極32にはカバー37によってNVRの付着が抑制されるので、周波数f2の低下は抑制される。
【0039】
感知センサ1のユーザーは、上記のように無線送信される周波数f1と周波数f2との差分値から、NVRの情報を取得することができる。具体的には例えばクリーンルーム11A内におけるNVRの存在量、即ち汚染状況を推定することができる。また、無線送信される水晶振動子3の温度から、水晶振動子3に結露が起きていないことを確認することができる。
【0040】
このような感知センサ1によれば、水晶振動子3の設定温度を比較的低くし、第1の励振電極31へのNVRの付着を促進して、感度高く当該NVRを感知することができる一方で、水晶振動子3の第1の励振電極31及び第2の励振電極32への結露を防ぐことができる。また、感知センサ1によれば上記のように周波数f1、f2の経時変化が取得されるので、クリーンルーム11Aの汚染状況の推移を把握することができる。そして、この周波数f1、f2のデータに加え、例えば室内へ搬入されたもの及びその搬入時間などの他の情報を用いることで、汚染物の発生源の特定などを行うことができる。
【0041】
ところで、NVRによる汚染状況を把握するには、NVRを付着させるためのサンプルをクリーンルーム11Aに設置し、室内の空気に曝した後、サンプルを室外へと搬送し、赤外線分光分析、ガスクロマトグラフ質量分析などの各種の分析を行うことが考えられる。しかし、サンプルの搬送は手間であるし、分析の種類によっては分析機器を用いるためにサンプルの洗浄、加熱などの前処理を行う必要が有る。つまり、感知センサ1によればそのようなサンプルの室外への搬送、前処理を行う必要が無いので、NVRについての情報を容易に取得することができる利点が有る。
【0042】
感知センサ1について、クリーンルーム11AでのNVRの感知に用いる場合を例に挙げて説明したが、このような場所での異物の感知に用いることに限られない。例えば室内がエアコンにより温度制御された住宅に設置し、被感知物質としてハウスダストの感知を行うために感知センサ1を利用してもよい。また、空気を含む環境で感知センサ1を使用することには限られない。空気の代わりに水蒸気を含む窒素ガスなどが供給される環境において感知センサ1を使用し、水蒸気が液化しないように感知を行ってもよい。
【0043】
ところで感知センサ1について、当該感知センサ1の外部に無線によって周波数f1、f2が送信される構成としているが、有線により送信される構成であってもよい。また、感知を行う環境から外れた場所で予め周波数f1、f2を測定しておき、その後、感知センサ1を、感知を行うための環境に設置する。そして、しばらく時間が経過した後、感知センサ1を当該環境から回収し、周波数f1、f2の測定を再度行い、先の測定時の周波数f1、f2に対する変化を見てもよい。つまり、周波数f1、f2を感知センサ1の外部に送信する構成としなくてもよい。ただし、既述したように周波数f1、f2の経時変化を把握することの利点が有るので、周波数f1、f2を外部に送信できる構成とすることが好ましい。また、感知精度をより高くするために周波数f1、f2が取得できる構成としているが、第2の振動領域30Bが設けられず、周波数f1のみが取得される構成であってもよい。
【0044】
また、予めペルチェ素子23への供給電力と水晶振動子3との対応関係を取得しておき、その対応関係に従って水晶振動子3の温度が所望の温度になるように調整されてもよい。つまり白金センサ21により水晶振動子3の温度を取得することで、水晶振動子3の温度が所望の温度に制御されるようにしているが、その水晶振動子3の温度取得を行わずに水晶振動子3の温度が制御される構成としてもよい。ただし、より確実に水晶振動子3への結露を防止するために、白金センサ21を用いて水晶振動子3の温度を取得し、その取得した温度に基づいた水晶振動子3の温度制御が行われる既述の構成とすることが好ましい。
【0045】
さらに、水晶振動子3の周囲の空気の温度よりも低い温度となるように当該水晶振動子3の表面を温度調整し、NVRの第1の励振電極31への付着を促進できるような機器で当該温度調整を行えばよく、例えばチラーによって水晶振動子3の温度調整を行ってもよい。つまりペルチェ素子23により温度調整を行うことには限られない。ただし、感知センサの構成を簡素なものとして温度調整を行うためには、ペルチェ素子23を用いることが好ましい。
【0046】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更、組み合わせが行われてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 感知センサ
21 白金センサ
22 温湿度センサ
23 ペルチェ素子
25A 第1の発振回路
3 水晶振動子
44 メモリ
図1
図2
図3